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特開2024-159011正極材料、その製造方法及び亜鉛負極二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159011
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】正極材料、その製造方法及び亜鉛負極二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/583 20100101AFI20241031BHJP
   H01M 10/26 20060101ALI20241031BHJP
   C01B 32/23 20170101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M4/583
H01M10/26
C01B32/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074723
(22)【出願日】2023-04-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「電気自動車用革新型蓄電池開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 吉晃
(72)【発明者】
【氏名】稲本 純一
(72)【発明者】
【氏名】稲本(稲生) 朱音
【テーマコード(参考)】
4G146
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AC01A
4G146AC01B
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD23
4G146BA02
4G146BC02
4G146BC27
4G146BC32A
4G146BC32B
4G146BC33A
4G146BC33B
4G146CB12
4G146CB21
4G146CB32
4G146CB34
4G146CB37
5H028AA06
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA11
5H050CA15
5H050CB13
5H050GA02
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】高エネルギー密度で安定して充放電可能な高容量及び高サイクル特性の亜鉛負極二次電池用の正極材料、その製造方法及び当該正極材料を用いた亜鉛負極二次電池をもたらす。
【解決手段】亜鉛負極二次電池用の正極材料は、正極活物質として層状構造を有する炭素材料を含み、前記炭素材料の層間距離は、黒鉛の層間距離である0.335nmよりも大きく、かつ0.66nm未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛負極二次電池用の正極材料であって、
正極活物質として、層状構造を有する炭素材料を含み、
前記炭素材料の層間距離は、黒鉛の層間距離である0.335nmよりも大きく、かつ0.66nm未満である、正極材料。
【請求項2】
前記炭素材料の層間距離は、0.345nm以上0.50nm以下である、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記炭素材料は、炭素原子と、該炭素原子と共有結合により結合した酸素原子とを構成元素とする、請求項1に記載の正極材料。
【請求項4】
前記炭素材料に含まれる前記酸素原子の含有量は、38原子%未満である、請求項3に記載の正極材料。
【請求項5】
前記炭素材料に含まれる前記酸素原子の含有量は、2原子%以上30原子%以下である、請求項4に記載の正極材料。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか1項に記載された正極材料の製造方法であって、
黒鉛粉末を酸化後に200℃以上800℃以下の温度で熱処理を施して前記炭素材料を得る、正極材料の製造方法。
【請求項7】
正極と、負極と、電解液とを備え、
前記正極は、請求項1~5のいずれか1項に記載の正極材料を含む、亜鉛負極二次電池。
【請求項8】
前記電解液は、水系電解液である、請求項7に記載の亜鉛負極二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、亜鉛負極二次電池用の正極材料、その製造方法及び当該正極材料を用いた亜鉛負極二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
資源が豊富で入手しやすい亜鉛(理論容量820mAh/g)を負極に用いる亜鉛負極二次電池は、低コストで比較的エネルギー密度が高く、且つ安全性にも優れている。亜鉛負極二次電池では、充電時の負極における亜鉛のデンドライト生成を抑制することが課題の1つである。当該デンドライト生成を抑制しつつ充放電を進行させるための電解液として、例えば濃塩化亜鉛水溶液、濃アルカリ水溶液等の水系電解液や、亜鉛ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(Zn(TFSI))のアセトニトリル溶液等の有機系電解液を用いることが検討されている(特許文献1、2、非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-173005号公報
【特許文献2】特表2016-513354号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y. Zeng et al., Advanced Materials, 29, 1700274 (2017)
【非特許文献2】N. Zhang et al., ACS Appl. Mater. Interfaces, 11, 32978-32986 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水系電解液を用いる場合、正極活物質としては、例えばNi(OH)、MnO、AgO等が用いられるが、容量があまり大きくないことや、サイクル特性に難があることなどの問題があった。
【0006】
また、特許文献1では正極材料に活性炭を採用しているが、容量やサイクル特性については確認されていない。さらに、特許文献2では正極材料にナノカーボン材料を採用しているが、報告された1000mAh/gを超える容量はLiCを上回るC4.4Znの組成に相当する。当該結果ではエネルギー密度が高すぎるため、実際には集電体の反応等の他の要因による影響が考えられ、信頼性に欠ける。また、特許文献2では、サイクル特性については具体的な結果が示されていない。
【0007】
有機系電解液を用いる非特許文献2では、正極材料として黒鉛を用いており、サイクル安定性は確認されているが、依然として容量は小さいのが現状である。
【0008】
そこで、本開示では、高エネルギー密度で安定して充放電可能な高容量及び高サイクル特性の亜鉛負極二次電池用の正極材料、その製造方法及び当該正極材料を用いた亜鉛負極二次電池をもたらすことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、ここに開示する正極材料の一態様は、亜鉛負極二次電池用の正極材料であって、正極活物質として、層状構造を有する炭素材料を含み、前記炭素材料の層間距離は、黒鉛の層間距離である0.335nmよりも大きく、かつ0.66nm未満である。
【0010】
例えば特許文献1では、正極活物質として活性炭、電解液として濃塩化亜鉛水溶液を採用している。この電池系では、溶液中で、2ZnCl→ZnCl +Zn2+等の反応により錯形成が進行し、ZnCl 等のイオンが生成する。そうして、当該イオンが活性炭の表面に吸着されることで、蓄電が進行すると考えられる。もっとも、活性炭では、イオンは表面吸着により貯蔵されるだけであるから、大きな容量は見込めない。
【0011】
これに対し、本構成の正極材料では、イオンが、表面吸着に加えて層間挿入により炭素材料の層間に貯蔵されて蓄電が進行する。
【0012】
特に、炭素材料の層間距離が大きすぎると、イオンが層間に留まらず、充電反応の進行が難しくなる可能性がある。また、炭素材料の層間距離が小さすぎると、イオンの層間への挿入が困難となり、この場合も、充電反応の進行が難しくなる可能性がある。
【0013】
この点、本構成の炭素材料は、その層間距離が、黒鉛の層間距離である0.335nm(J. Inamoto, et al, J. Electrochem. Soc., 2021, 168, 010528)よりも大きく、かつ0.66nm未満であることにより、イオンの挿入及び脱離がスムーズに進行する。そうして、高エネルギー密度で安定して充放電可能な高容量及び高サイクル特性の亜鉛負極二次電池をもたらすことができる。
【0014】
前記炭素材料の層間距離は、0.345nm以上0.50nm以下であることが好ましい。
【0015】
炭素材料の層間距離が上記範囲を満たすことにより、イオンの挿入及び脱離がよりスムーズに進行し、高容量及び高サイクル特性の亜鉛負極二次電池を得る上でさらに有利になる。
【0016】
前記炭素材料は、炭素原子と、該炭素原子と共有結合により結合した酸素原子とを構成元素とすることが好ましい。
【0017】
炭素材料は、酸化されにくいために、通常イオンの挿入には高い電圧が必要である。
【0018】
これに対し、本構成の炭素材料は、一部酸化された炭素材料であるため、例えば炭素原子のみからなる黒鉛等に比べて、イオンの挿入電位が低下する。また、本構成の炭素材料は、共有結合性の酸素原子を含むから、黒鉛等に比べて層間距離が大きくなる。そうして、イオンの挿入及び脱離が容易になるため、炭素材料の充放電反応が進行しやすくなる。
【0019】
前記炭素材料に含まれる前記酸素原子の含有量は、38原子%未満であることが好ましい。
【0020】
酸素原子の含有量が38原子%以上では、炭素材料の層間距離が大きくなりすぎ、イオンの貯蔵が難しく、充電反応が進行しない可能性がある。酸素原子の含有量が上記範囲であることにより、高容量且つ高サイクル特性の亜鉛負極二次電池を得ることができる。
【0021】
前記炭素材料に含まれる前記酸素原子の含有量は、2原子%以上30原子%以下であることがより好ましい。
【0022】
酸素原子の含有量が2原子%未満では、イオンの挿入電位が高く、層間距離が小さいため、充電反応の進行が難しくなる可能性がある。酸素原子の含有量が上記範囲であることにより、高容量及び高サイクル特性の亜鉛負極二次電池を得る上でさらに有利になる。
【0023】
ここに開示する正極材料の製造方法の一態様は、上述の正極材料の製造方法であって、黒鉛粉末を酸化後に200℃以上800℃以下の温度で熱処理を施して前記炭素材料を得る。
【0024】
黒鉛粉末を酸化すると酸化黒鉛が得られる。酸化黒鉛に熱処理を施すと、酸化黒鉛中の一部の酸素原子が除去され、層にナノメートルオーダーの孔が形成される。このようにして得られた層状化合物は、その炭素原子の一部は酸化されているとともに、層が孔を有していることにより、黒鉛に比べてイオンの挿入電位が低下し、イオンの挿入が容易となる。そうして、炭素材料の充電反応が進行しやすくなる。
【0025】
ここに開示する亜鉛負極二次電池の一態様は、正極と、負極と、該正極と該負極との間に配置された電解液とを備え、前記正極は、上述の正極材料を含む。
【0026】
本構成によれば、従来の亜鉛負極二次電池よりも、高容量及び高サイクル特性の亜鉛負極二次電池をもたらすことができる。
【0027】
前記電解液は、水系電解液であることが好ましい。
【0028】
本構成によれば、亜鉛のデンドライト生成を効果的に抑制して、高容量及び高サイクル特性の亜鉛負極二次電池をもたらすことができる。
【発明の効果】
【0029】
以上述べたように、本開示の正極材料では、イオンが、表面吸着に加えて層間挿入により炭素材料の層間に貯蔵されて蓄電が進行する。そうして、高エネルギー密度で安定して充放電可能な高容量及び高サイクル特性の亜鉛負極二次電池をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】一実施形態に係る亜鉛負極二次電池の構成を示す図。
図2】グラフェンライクグラファイトの分子構造の一例を示す図。
図3】実験例1の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
図4】実験例2の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
図5】実験例3の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
図6】実験例4の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
図7】実験例5の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
図8】実験例6の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
図9】実験例8の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
図10】参考例1の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
図11】参考例2の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
図12】参考例3の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
図13】参考例4の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
図14】参考例5の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
図15】実験例及び参考例に用いた炭素材料の層間距離と酸素含有量との関係を示すグラフ。
図16】試験例の電池セルの充電曲線を示すグラフ。
図17】充電前(P0)及び図15の点P1~P4におけるGLG300のX線回折測定の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0032】
<亜鉛負極二次電池>
図1に示すように、本開示に係る亜鉛負極二次電池100(以下、単に「電池100」ともいう。)は、正極110と、負極120と、正極110及び負極120の両者に接触するように両者間に配置された電解液130と、を備える。正極110は、正極活物質層111(正極材料)と、正極活物質層111の集電を行う正極集電体112と、を有する。負極120は、負極活物質層121(負極材料)と、負極活物質層121の集電を行う負極集電体122と、を有する。
【0033】
正極集電体112及び負極集電体122(本明細書において、両者をまとめて「集電体」と称することがある。)の構成材料は、導電性材料であれば特に限定されない。集電体としては、具体的には例えば、アルミニウム(Al)や、公知の二次電池において用いられるその他の金属集電体、導電性樹脂層を有する樹脂集電体等を使用できる。集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状、多孔質状が挙げられる。
【0034】
また、図1には図示しないが、電池100は、正極110、負極120、電解液130を収納する電池ケース、正極110と負極120との間に配置されたセパレータ等を有してもよい。電池ケースの材料、形状等の構成は、特に限定されず、二次電池において一般的に採用される公知の構成とすることができる。セパレータとしては、特に限定されず、例えば多孔質の樹脂フィルム、セラミックス等の公知の構成を採用できる。
【0035】
本開示における電池100の形状としては、特に限定されるものではなく、例えばコイン型、ラミネート型、円筒型及び角型等の公知の形状を採用できる。
【0036】
本開示における電池100は、繰り返し充放電可能な二次電池であり、例えば車載用電池、定置用電池、医療用電池、民生用電池等として有用である。
【0037】
[負極活物質層]
負極活物質層121は、負極活物質を含む。負極活物質は、亜鉛及び亜鉛合金の少なくとも一方を含む。負極活物質は、例えば亜鉛粉末及び亜鉛合金粉末の少なくとも一方とすることができる。また、負極活物質層121と負極集電体122とを兼ねて、箔状、メッシュ状、多孔質状の純金属亜鉛又は亜鉛合金を、負極120として使用してもよい。
【0038】
負極活物質層121は、必要に応じて、導電助剤及びバインダの少なくとも一方をさらに含有してもよい。導電助剤は、電子伝導性を有する材料であれば特に限定されず、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、グラフェン等の亜鉛負極二次電池において一般的に公知の材料とすることができる。バインダは、特に限定されず、亜鉛負極二次電池において一般的に公知の材料とすることができ、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系バインダとすることができる。
【0039】
負極活物質層121における、負極活物質及び導電助剤の含有量は、特に限定されるものではなく、亜鉛負極二次電池において一般的に公知の量とすることができる。具体的には例えば、負極活物質の含有量は10質量%以上90質量%以下、導電助剤の含有量は20質量%以下とすることができる。
【0040】
負極活物質層121の形成方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法により製造できる。
【0041】
[電解液]
電解液130は、正極活物質層111と負極活物質層121との間において両者に接触するように配置されている。電解液130は、電解質と溶媒とを含み、水系電解液であってもよいし、有機系電解液であってもよい。
【0042】
電解質としては、特に限定されるものではなく、亜鉛負極二次電池に一般的に使用される公知の材料を採用できる。電解質は、具体的には例えば、塩化亜鉛、臭化亜鉛等のハロゲン化亜鉛、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ剤、亜鉛ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(Zn(TFSI))等の塩が挙げられる。
【0043】
溶媒としては、水及び有機溶媒のいずれも使用できる。有機溶媒としては、アセトニトリル等の亜鉛負極二次電池に一般的に使用される公知の材料を採用できる。
【0044】
なお、電解液130は、水系電解液であることが好ましく、濃ハロゲン化亜鉛水溶液及び濃アルカリ水溶液の少なくとも一方であることがより好ましい。これにより、充電時における負極での亜鉛のデンドライト生成を効果的に抑制できる。なお、濃ハロゲン化亜鉛水溶液の場合、その濃度は、例えば物質量比でZnCl:HOが2:8~2:3とすることができる。濃アルカリ水溶液の場合、その濃度は、例えば6mol/dm~10mol/dmとすることができる。
【0045】
電解液130は、液状であってもよいし、例えばゲル状等の他の形態であってもよい。
【0046】
[正極活物質層]
正極活物質層111は、正極活物質として、層状構造を有する炭素材料を含む。層状構造を有する炭素材料は、後述するように所定の層間距離を有する。炭素材料は、イオンのホスト材料として機能する。
【0047】
特許文献1のイオンの吸着反応を主として利用する高比表面積の活性炭の利用が報告されているのみである。活性炭を用いた例では、イオンは表面吸着により貯蔵されるだけであり、大きな容量は見込めない。
【0048】
この点、層状構造を有する炭素材料は、その隣り合う炭素層間へは様々なイオンが挿入されることが知られており、高容量に資する可能性がある。しかしながら、亜鉛を負極とし、特に水系電解液を用いる電池系では、炭素材料へのイオンの挿入反応よりも低い電位で電解液の分解反応が進行する。このため、このような電池系では正極活物質として層状構造を有する炭素材料を利用する報告例が実質的にない。
【0049】
これに対し、本構成の正極材料では、電解液の分解反応が進行する電位よりも低い電位で、イオンが、表面吸着及び層間挿入により炭素材料の表面の及び層間に貯蔵されて蓄電が進行する。そうして、高エネルギー密度で安定して充放電可能な高容量及び高サイクル特性の亜鉛負極二次電池をもたらすことができる。
【0050】
炭素材料は、具体的には例えば、後述するグラフェンライクグラファイト(本明細書において、「GLG」ともいう。)、GLGを含む炭素材料、低温~中温で熱処理したソフトカーボン、ハードカーボン、ケッチェンブラック、カーボンブラック等であり、好ましくはGLG又はGLGを含む炭素材料である。
【0051】
なお、GLGを含む炭素材料とは、具体的には例えば、GLGと他の炭素材料との混合物や、外側の層はGLGからなり且つ内側の層は黒鉛からなる層状化合物等が挙げられる。
【0052】
図2にGLGの分子構造の一例を示す。図2に示すように、符号20で示すGLGは、炭素原子21と、該炭素原子21と共有結合により結合した酸素原子22と、を構成元素とするとともに、層に形成されたナノメートルオーダーの孔23を有する層状化合物である。GLGは、酸化黒鉛(GO)に熱処理を施すことにより調製できる。黒鉛の酸化により黒鉛の一部の炭素原子が酸素原子に置換され、熱処理により、一部の酸素原子が除去されて孔23が形成されると考えられる。
【0053】
炭素材料は、酸化されにくいために、通常イオンの挿入には高い電圧が必要である。これに対し、GLGは、黒鉛類似の層状構造を有するが、一部酸化された炭素材料であるために、例えば炭素原子のみからなる黒鉛等の炭素材料に比べて、イオンの挿入電位が低下する。そうして、イオンの挿入が容易になるから、炭素材料の充電反応が進行しやすくなる。
【0054】
炭素材料の層間距離は、黒鉛の層間距離よりも大きい。上述のごとく、黒鉛の層間距離は、一般的に、0.335nmであることが知られている。層間距離が黒鉛よりも大きいことにより、イオンの挿入及び脱離が容易となり、高容量及び高サイクル特性の亜鉛負極二次電池を得る上で有利になる。例えばGLGは、酸化黒鉛由来の共有結合性の酸素原子を含むため、黒鉛等に比べて層間距離が大きくなる傾向があり、カチオン、アニオンともに挿入されやすくなっている。従って、黒鉛よりも大きい層間距離を有するという観点からも、正極活物質としてGLG又はGLGを含む炭素材料を用いることは望ましい。
【0055】
具体的に、炭素材料の層間距離は、0.335nm超0.66nm未満であり、0.345nm以上0.50nm以下であることが好ましく、0.37nm以上0.45nm以下であることがより好ましい。
【0056】
炭素材料の層間距離が大きすぎると、イオンが層間に留まらず、充電反応が進行しがたくなる可能性がある。また、炭素材料の層間距離が小さすぎると、イオンの層間への挿入が困難となり、充電反応が進行しがたくなる可能性がある。炭素材料の層間距離が上記範囲を満たすことにより、イオンの挿入及び脱離が容易となり、高容量及び高サイクル特性の亜鉛負極二次電池を得る上で有利になる。
【0057】
なお、GLGに含まれる酸素原子の含有量は、0原子%超38原子%未満であることが好ましく、2原子%以上30原子%以下であることがより好ましく、6原子%以上15原子%以下であることがさらに好ましく、8原子%以上13原子%以下であることが特に好ましい。
【0058】
GLGでは、酸素原子の含有量が過大になると、GLGの層間距離が大きくなりすぎ、イオンの貯蔵が難しく充電反応が進行しない可能性がある。また、GLGでは、酸素原子の含有量が不足すると、層間距離が小さくなるとともに、イオンの挿入電位が高くなるため、充放電反応が進行しがたくなる可能性がある。酸素原子の含有量が上記範囲であることにより、炭素材料として高容量及び高サイクル特性の亜鉛負極二次電池を得る上でさらに有利になる。
【0059】
正極活物質層111は、必要に応じて、導電助剤及びバインダの少なくとも一方をさらに含有してもよい。導電助剤、バインダ等としては、負極活物質層121と同様の材料を採用できる。正極活物質層111に導電助剤、バインダ等が配合される場合、これらの含有量は、負極活物質層121と同様とすることができる。
【0060】
[充放電特性]
電解液の分解反応を抑制して充電反応を進行させる観点から、初期(1サイクル目)の充電電位は、電解液が亜鉛塩水溶液の場合はZn2+/Znに対する電位で1.95V以下であることが好ましく、1.8V以下であることがより好ましく、1.7V以下であることが特に好ましい。電解液が水酸化カリウム水溶液の場合はHg/HgOに対する電位で0.3V以下であることが好ましく、0V以下であることがより好ましい。
【0061】
初期充電容量は、好ましくは5mAh/g以上、より好ましくは30mAh/g以上、特に好ましくは100mAh/g以上である。
【0062】
初期放電容量は、限定されるものではないが、好ましくは10mAh/g以上、より好ましくは20mAh/g以上である。
【0063】
5サイクル目の充電容量は、好ましくは5mAh/g以上、より好ましくは30mAh/g以上、特に好ましくは100mAh/g以上である。
【0064】
5サイクル目の放電容量は、好ましくは4mAh/g以上、より好ましくは30mAh/g以上、特に好ましくは100mAh/g以上である。
【0065】
なお、容量が理論容量を超えて極端に大きい場合、炭素材料へのイオンの挿入脱離以外の反応、具体的には電解液の分解反応や炭素材料の分解反応等の他の反応が進行している可能性がある。このような反応は、電池の劣化をもたらし、サイクル安定性の低下に繋がる。容量に関し、上限値は限定されるものではないが、このような他の反応の進行を抑制する観点から、例えば1000mAh/g未満であることが好ましい。
【0066】
初期クーロン効率は、好ましくは5%以上、より好ましくは15%以上、特に好ましくは20%以上である。
【0067】
また、5サイクル目のクーロン効率は、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは60%以上である。
【0068】
なお、クーロン効率は100%を超える場合もあるが、クーロン効率が極端に大きい場合、上述のような電解液の分解反応や炭素材料の分解反応等の他の反応が進行している可能性がある。クーロン効率に関し、上限値は限定されるものではないが、このような他の反応の進行を抑制する観点から、例えば110%以下とすることができる。
【0069】
<亜鉛負極二次電池の製造方法>
亜鉛負極二次電池の製造方法は、後述するGLGの製造方法以外の工程に関しては、上記の正極110、負極120及び電解液130を使用する限り、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。
【0070】
なお、活物質層、すなわち正極活物質層111及び負極活物質層121が、導電助剤、バインダ等の他の成分を含む場合には、これらを混合して集電体上に層形成することにより活物質層が得られる。成分の混合方法は、特に限定されるものではなく、例えば乳鉢等を用いた手動による混合、ミキサ等の公知の方法を採用できる。層形成の方法も特に限定されるものではなく、亜鉛負極二次電池において通常採用される湿式法又は乾式法による層形成方法を採用できる。
【0071】
[GLGの製造方法]
GLGは、例えば黒鉛粉末を酸化して得られた酸化黒鉛に熱処理を施すことにより得られる。
【0072】
まず、黒鉛粉末を酸化すると酸化黒鉛(GO)が得られる。黒鉛の酸化方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。公知の方法としては、例えば、発煙硝酸とKClOを用いるBrodie法、HSO、NaNO、KMnOを用いるHummers法、HSO、HNO、KClOを用いるStaudenmeier法等が挙げられる。なお、黒鉛の酸化方法は、GLGの酸素含有量及び層間距離に影響がある。
【0073】
次に、酸化黒鉛に対し、熱処理を施す。これにより、酸化黒鉛中の一部の酸素原子が除去され、層にナノメートルオーダーの孔が形成される。酸化黒鉛の熱処理温度も、GLGの酸素含有量及び層間距離に影響がある。熱処理温度は、200℃以上800℃以下、より好ましくは220℃以上450℃以下、特に好ましくは250℃以上400℃以下である。
【0074】
酸化黒鉛の熱処理時間は、限定する意図ではないが、例えば2時間以上、好ましくは3時間以上10時間以下、より好ましくは4時間以上8時間以下とすることができる。
【0075】
酸化黒鉛の熱処理は、さらなる酸化を抑制する観点から、真空下もしくは不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0076】
<実験例及び参考例>
次に、具体的に実施した実験例及び参考例について説明する。
【0077】
表1に、実験例1~12及び参考例1~6の炭素材料及び電解液の構成、並びに充放電測定結果を示している。
【0078】
【表1】
【0079】
[GLGの調製]
黒鉛粉末(伊藤黒鉛工業株式会社製Z-5F、平均粒径5μm)10gを500mLビーカーに入れ、200mLの発煙硝酸を加えて60℃に加熱した。その後、撹拌しながら80gの塩素酸カリウムをゆっくりと加え、3時間保持した。その後、反応溶液を2Lの水に移し、吸引ろ過し、純水でpHが5以上になるまで洗浄して酸化黒鉛(GO)を得た(Brodie法)。
【0080】
得られたGOを60℃で一晩乾燥した。このGO粉末をアルミナ容器に入れ、真空下、1℃/分で所定の熱処理温度T(℃)まで昇温した後、5時間保持することにより、GLGを得た。なお、本明細書において、熱処理温度T(℃)で処理することにより得られたGLGを「GLGT」と表記することがある(例えば熱処理温度300℃で得られたGLGは「GLG300」と表記することがある)。
【0081】
GLGの同定及び層間距離の測定は、X線回折法(Bruker製 D2 Phaser、CuKα)を用いて行った。
【0082】
また、GLG中に含まれる酸素の含有量は、元素分析(ThermoFischer Scientific製 Flash Smart)により決定した。
【0083】
[電解液の調製]
塩化亜鉛水溶液は、塩化亜鉛(富士フィルム和光純薬株式会社製、99.9%)を、物質量比でZnCl:HO=3:7となるように水に溶解して作製した。アルカリ水溶液は、水酸化カリウム(ナカライテスク製、99%)を濃度が8mol/dmとなるように水に溶解して作製した。塩化亜鉛・臭化亜鉛水溶液は、塩化亜鉛の代わりに、塩化亜鉛と臭化亜鉛(富士フィルム和光純薬株式会社製、99.9%)とを物質量比1:0.09で混合したものを用いて、塩化亜鉛水溶液と同様の方法により作製した。
【0084】
[電池の製造]
GLG、アセチレンブラック(AB、株式会社デンカ製)、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF、クレハ製)を、質量比で18:1:1となるように乳鉢で混合し、チタンメッシュに118MPaで15 分間プレスして圧着させることにより作用極(正極)を作製した。電解液に塩化亜鉛水溶液を用いる場合は、対極(負極)と参照極に亜鉛金属を用いた。電解液にアルカリ水溶液を用いる場合は、対極にはABとPVdFとを質量比8:2で乳鉢混合してなる混合物をニッケルメッシュに118MPaで15分間プレスして圧着したものを用いるとともに、参照極には内部液に1mol/dmのKOH水溶液を用いた水銀/酸化水銀電極を用いた。これらの電極をセル(自作)に装着し、塩化亜鉛水溶液またはアルカリ水溶液を充填して三極式セルを構築した。
【0085】
[充放電測定]
ポテンショスタット/ガルバノスタット(北斗電工製)を用い、充放電測定を行った。塩化亜鉛水溶液の場合は電流密度を20mAh/g、カットオフ電圧を下限0.5V、上限を2.4Vとした。また、アルカリ水溶液の場合は電流密度を100mAh/g、カットオフ電圧を下限-1.2V、上限を0.4Vとした。測定温度は30℃とした。
【0086】
[X線回折測定]
GLGの同定及び層間距離の測定は、X線回折法(Bruker製 D2 Phaser、CuKα)を用いて行った。
【0087】
[元素分析測定]
GLG中に含まれる酸素の含有量は、元素分析(ThermoFischer Scientific製 Flash Smart)により決定した。なお、表1中、GLG250、GLG400、GLG500及びGLG800の酸素含有量の値は、X線回折測定及び元素分析測定によりこれまでに得られているGO及び各種GLGの層間距離と酸素含有量との関係から推定した推定値である。
【0088】
[実験例1~6]
表1に示すように、正極活物質の炭素材料として熱処理温度Tをそれぞれ250℃、300℃、400℃、500℃、700℃及び800℃として調製したGLG、電解液として塩化亜鉛水溶液を用いて実験例1~6の電池を製造し、充放電測定を行った。電池の充放電曲線を図3図8に示す。
【0089】
[実験例7~11]
表1に示すように、正極活物質の炭素材料として熱処理温度Tをそれぞれ250℃、300℃、400℃、500℃及び700℃として調製したGLG、電解液として水酸化カリウム水溶液を用いて実験例7~11の電池を製造し、充放電測定を行った。実験例8の電池の充放電曲線を図9に示す。
【0090】
[実験例12]
正極活物質の炭素材料として熱処理温度Tを300℃として調製したGLG、電解液として塩化亜鉛・臭化亜鉛水溶液を用いて電池を製造し、充放電測定を行った。
【0091】
[参考例1、2]
炭素材料として市販のアセチレンブラック(株式会社デンカ製)、電解液としてそれぞれ塩化亜鉛水溶液及び水酸化カリウム水溶液を用いて参考例1、2の電池を製造し、充放電測定を行った。参考例1、2の充放電曲線を図10及び図11に示す。
【0092】
[参考例3、4]
炭素材料としてGLGの原料である上述の黒鉛粉末、電解液としてそれぞれ塩化亜鉛水溶液及び水酸化カリウム水溶液を用いて参考例3、4の電池を製造し、充放電測定を行った。参考例3、4の充放電曲線を図12及び図13に示す。
【0093】
[参考例5、6]
炭素材料として上述の酸化黒鉛(GO)粉末、電解液としてそれぞれ塩化亜鉛水溶液及び水酸化カリウム水溶液を用いて参考例5、6の電池を製造し、充放電測定を行った。参考例5の充放電曲線を図14に示す。
【0094】
<充放電特性>
図3図9及び表1に示すように、実験例1~12の電池セルでは、容量が大きくサイクル特性に優れた充放電挙動を示すことが判った。特に、実験例1~3のGLG250、GLG300、GLG400を正極活物質とし、塩化亜鉛水溶液を電解液とした系では、5サイクル目の容量が100mAh/g以上、5サイクル目のクーロン効率が90%以上となり、高容量、高サイクル特性、高クーロン効率の亜鉛負極二次電池として動作することが示された。
【0095】
具体的には、図4に示す実験例2の電池セル(GLG300、塩化亜鉛水溶液)では、1サイクル目の充電において、1.45V付近から電位が上昇し始め、1.6V付近からは緩やかに上昇し、初期充電容量は430mAh/gに達した。放電時にはおよそ1.3Vから電位が緩やかに低下し、初期放電容量は180mAh/g得られた。2サイクル目の充電では反応開始電位が0.53Vまで低下し、その容量は181mAh/gであった。2サイクル目の放電反応は1サイクル目とほぼ同じ1.3Vから開始した。放電容量は130mAh/g得られ、クーロン効率は72%であった。5サイクル目においては、放電電位は1.2Vまで低下したが、クーロン効率は上昇し、87%にまで達した。
【0096】
また、図9に示す実験例8の電池セル(GLG300、水酸化カリウム水溶液)では、塩化亜鉛水溶液を用いた実験例2の電池セルと比較すると容量は小さいが、同様の充放電挙動を示すことが判った。
【0097】
一方、参考例1のアセチレンブラックを正極活物質、塩化亜鉛水溶液を電解液とした系では、図10に示すように、充電では2.0Vまで急激に電位が上昇したが、その後は2.05V付近を維持したまま電位上昇しなかった。これは、電解液の分解反応が進行したと考えられる。容量が865mAh/gまで達したところで充電を止め、放電をスタートさせたが、得られた放電容量は25mAh/gと小さかった。また、2サイクル目以降は充電も放電もできなかった。
【0098】
また、参考例2のアセチレンブラックを正極活物質、水酸化カリウム水溶液を電解液とした系では、図11に示すように、1サイクル目の充電ではほとんど容量は得られなかった。放電は0.1Vから電位が急激に下降し、-0.38Vで電位平坦領域が現れた後、再び下降した。得られた放電容量は2.25mAh/gと非常に小さかった。2サイクル目以降は充電放電ともにできなかった。
【0099】
さらに、参考例3の黒鉛を正極活物質、塩化亜鉛水溶液を電解液とした系では、図12に示すように、初期充電電位が1.92Vと高く、電解液の分解反応が進行したと考えられる。初期容量が2816mAh/gまで達したところで充電を止め、放電をスタートさせたが、得られた放電容量は42.6mAh/gと小さかった。
【0100】
参考例4の黒鉛を正極活物質、水酸化カリウム水溶液を電解液とした系においても、図13に示すように、初期の充電では電解液の分解反応が進行したと考えられる。初期容量が2327mAh/gまで達したところで充電を止め、放電をスタートさせたが、得られた放電容量は14.5mAh/gと小さかった。
【0101】
また、参考例5の酸化黒鉛を正極活物質、塩化亜鉛水溶液を電解液とした系では、図14に示すように、1サイクル目の充電はできなかった。1サイクル目の放電を行うと、おそらくGOの分解反応が進行し、大きな容量が見られた。その後の充電反応では電解液の分解反応が進行した。また、3サイクル目以降は充電も放電もできなくなった。
【0102】
<炭素材料の層間距離と酸素含有量との関係について>
図15は、黒鉛(G)、酸化黒鉛(GO)、GLG250、GLG300、GLG400、GLG500、GLG700、GLG800の層間距離と酸素含有量との関係を示すグラフである。
【0103】
図15に示すように、炭素材料の層間距離と酸素含有量との間には、概ね比例的な相関関係が存在する。
【0104】
<試験例>
試験例の電池セルを作製して充電を行い、X線回折測定を用いて、充電時におけるGLGの構造変化を検証した。
【0105】
試験例の電池セルの作製方法は以下の通りである。まずGLGの原料であるGOを希アンモニア水中で剥離分散させ、この分散液を基材上にキャストし乾燥することでシート状に成型した。その後、シート状のGOを、GLG300を得たときと同じ条件で熱処理することでGLG300のシート電極を得た。当該シート電極を作用極とし、実験例2と同様の方法で電池セルを作製した。
【0106】
図16は、試験例の電池セルの充電曲線を示している。図16の点P1~P4において、GLG300のシート電極を電池セルから取り出し、水で洗浄して乾燥後、X線回折測定に供した。図17は、充電前(P0)及び図16の点P1~P4におけるGLG300のシート電極のX線回折測定の結果を示すグラフである。
【0107】
ここに、黒鉛層間化合物のステージ構造は、Carbon用語辞典によれば、「挿入化学種(インターカレート)がその濃度に応じてc軸方向に規則的に分布する構造でありステージ数nで表現され」、「nはインターカレート層によって挟まれる炭素層の数を表したもの」と定義されている。
【0108】
すなわち、「ステージ1型の黒鉛層間化合物」とは、黒鉛のすべての層間にインターカレート層が含まれる黒鉛層間化合物を意味する。また、「ステージ2型の黒鉛層間化合物」では1層おきに、インターカレート層が含まれる。
【0109】
図16図17に示すように、充電が開始すると、GLG300のXRDパターン(図17中のP0)に現れていた002ピークの強度が減少し、ステージ2型の構造に由来する003ピーク及び004ピークが出現した(点P1)。そして、点P2から点P4へ充電が進むにつれて、ステージ1型の構造に由来する002ピーク及び003ピークが出現した。当該結果は、充電が進むにつれて、GLG300の層間にイオンが挿入されて、イオンのインターカレート層が形成されることを示している。そして、GLG300の層間にイオンが貯蔵され、ステージ2型を経てステージ1型に構造変化していると考えられる。
【0110】
なお、図17の結果から、GLG300の隣り合う炭素層間の層間距離は0.410nmであり、ステージ1型の構造の隣り合う炭素層間の層間距離は0.975nmと算出できる。すなわち、充電反応により、GLG300の炭素層の層間に約0.565nmの径のイオン、すなわちZnC 等のイオンが挿入されていることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本開示は、高エネルギー密度で安定して充放電可能な高容量及び高サイクル特性の亜鉛負極二次電池用の正極材料、その製造方法及び当該正極材料を用いた亜鉛負極二次電池をもたらすことができるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0112】
100 亜鉛負極二次電池
110 正極
111 正極活物質(正極材料)
112 正極集電体
120 負極
121 負極活物質(負極材料)
122 負極集電体
130 電解液
20 グラフェンライクグラファイト(層状化合物)
21 炭素原子
22 酸素原子
23 孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17