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特開2024-159013球状粉末発泡性ケイ酸化合物の調製方法とそれによる消火剤
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  • 特開-球状粉末発泡性ケイ酸化合物の調製方法とそれによる消火剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159013
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】球状粉末発泡性ケイ酸化合物の調製方法とそれによる消火剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 23/54 20220101AFI20241031BHJP
   A62D 1/02 20060101ALI20241031BHJP
   C09K 23/52 20220101ALI20241031BHJP
【FI】
C09K23/54
A62D1/02
C09K23/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074729
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩盛 弘一郎
(72)【発明者】
【氏名】臼杵 未来
(72)【発明者】
【氏名】松根 英樹
【テーマコード(参考)】
2E191
4D077
【Fターム(参考)】
2E191AA01
2E191AA02
2E191AB51
4D077AA10
4D077AC02
4D077BA15
4D077DB01Y
4D077DB01Z
4D077DC02X
4D077DC33Y
(57)【要約】
【課題】本発明は、新たに、球状粉末発泡性ケイ酸化合物の調製方法、及びその球状粉末発泡ケイ酸化合物を含む消火剤を提供する事を目的とする。
【解決手段】球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法であって、
(1)発泡性ケイ酸化合物の水溶液を、有機溶剤に分散して、W/Oエマルションを調製する工程、及び
(2)次の(2-1)及び/又は(2-2):
(2-1)工程(1)で調製したW/Oエマルションに、脱水溶剤を添加し、当該W/Oエマルション、及び脱水溶剤を含む混合物を濾過し、濾過後の残渣を乾燥して、球状粉末発泡性ケイ酸化合物を得る工程、
(2-2)工程(1)で調製したW/Oエマルションを、減圧下で撹拌し、水を蒸発させて、球状粉末発泡性ケイ酸化合物を得る工程、
を含む、球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法。
【請求項2】
前記発泡性ケイ酸化合物は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、及びケイ酸リチウムから成る群より選択される少なくとも1種のアルカリ金属ケイ酸化合物にケイ酸アルミニウムを溶解させたものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記発泡性ケイ酸化合物の水溶液中の発泡性ケイ酸化合物の濃度は、10質量%~70質量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶剤は、ヘキサン、オクタン、ノナン、灯油、キシレン、トルエン、クロロホルム、及びベンゼンからなる群より選択される少なくとも1つの有機溶剤である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記脱水溶剤は、エタノール、メタノール、2-プロパノール、t-ブチルアルコール、及び酢酸エチルからなる群より選択される少なくとも1つの有機溶剤である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記撹拌は、水相を有機相に適切な粒径と成る様に分散させ、水相の分散状態を維持する事である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
平均粒子径が8μm~200μmの球状粉末発泡性ケイ酸化合物を製造する、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状粉末発泡性ケイ酸化合物の調製方法とそれによる消火剤に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、本発明者等に依る技術であり、二酸化ケイ素のモル数を一酸化二ナトリウムのモル数で除した値が2.0~3.8で示されるケイ酸ソーダと、前記ケイ酸ソーダの二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、5~80重量部のケイ酸アルミニウムと、0.5~300重量部の金属炭酸塩と、0~10重量部の金属水酸化物と、0~150重量部のシリカゲルとを含み、含水率が20~75%である、伝熱抑制素材として使用するための感温性無機組成物を開示する。この技術は、加熱に依り多孔体に成った後、更に加熱してもその多孔性が維持又は向上する感温性無機組成物である。
【0003】
特許文献2は、本発明者等に依る技術であり、アルカリ金属ケイ酸化合物と、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0.1~26重量部のケイ酸アルミニウムと、水とを含有する感温性無機組成消火剤、及び感温性無機組成延焼抑止剤、並びに、アルカリ金属ケイ酸化合物と、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0.1~26重量部のケイ酸アルミニウムと、30℃の水に対する飽和濃度以下の金属炭酸塩と、水とを含有する感温性無機組成消火剤、及び感温性無機組成延焼抑止剤を開示する。この技術は、火災時に燃焼する物質に特定の組成から成る感温性無機組成物を供給する事で、消火剤中の水による気化熱の冷却効果を発揮する。
【0004】
特許文献3は、本発明者等に依る技術であり、アルカリ金属ケイ酸化合物と、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0~26重量部のケイ酸アルミニウムと、水とを含有する、金属火災用感温性無機組成消火剤、及び金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤、並びに、アルカリ金属ケイ酸化合物と、前記アルカリ金属ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0~26重量部のケイ酸アルミニウムと、20℃の水に対する飽和濃度以下のホウ酸塩と、水とを含有する、金属火災用感温性無機組成消火剤、及び金属火災用感温性無機組成延焼抑止剤を開示する。この技術は、マグネシウム等の金属類の火災で、既に燃焼している物質に対する消火剤、また延焼の可能性がある未燃の物質に対する延焼抑止剤として有効に機能し、金属火災用感温性無機組成物は、固体膜又は固体泡を形成する感温性の固体状又は液体状の有用な無機組成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5854422号
【特許文献2】特許第6516268号
【特許文献3】特許第7144828号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新たに、球状粉末発泡性ケイ酸化合物の調製方法、及びその球状粉末発泡性ケイ酸化合物を含む消火剤を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の発明を包含する。
【0008】
本発明は、水ガラスを主成分とした発泡性ケイ酸化合物の種々の水分濃度の水溶液と有機溶媒とで、W/Oエマルションを形成し、脱水溶媒の添加、又は、液中乾燥する事に依り、球状の発泡性ケイ酸化合物を調製する事が出る。
【0009】
項1.
球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法であって、
(1)発泡性ケイ酸化合物の水溶液を、有機溶剤に分散して、W/Oエマルションを調製する工程、及び
(2)次の(2-1)及び/又は(2-2):
(2-1)工程(1)で調製したW/Oエマルションに、脱水溶剤を添加し、当該W/Oエマルション、及び脱水溶剤を含む混合物を濾過し、濾過後の残渣を乾燥して、球状粉末発泡性ケイ酸化合物を得る工程、
(2-2)工程(1)で調製したW/Oエマルションを、減圧下で撹拌し、水を蒸発させて(液中乾燥する事に依り)、球状粉末発泡性ケイ酸化合物を得る工程、
を含む、球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法。
【0010】
項2.
前記発泡性ケイ酸化合物は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、及びケイ酸リチウムから成る群より選択される少なくとも1種のアルカリ金属ケイ酸化合物にケイ酸アルミニウムを溶解させたものである、前記項1に記載の製造方法。
【0011】
項3.
前記発泡性ケイ酸化合物の水溶液中の発泡性ケイ酸化合物の濃度は、10質量%~70質量%である、前記項1に記載の製造方法。
【0012】
項4.
前記有機溶剤は、ヘキサン、オクタン、ノナン、灯油、キシレン、トルエン、クロロホルム、及びベンゼンからなる群より選択される少なくとも1つの有機溶剤である、前記項1に記載の製造方法。
【0013】
項5.
前記脱水溶剤は、エタノール、メタノール、2-プロパノール、t-ブチルアルコール、及び酢酸エチルからなる群より選択される少なくとも1つの有機溶剤である、前記項1に記載の製造方法。
【0014】
項6.
前記撹拌は、水相を有機相に適切な粒径と成る様に分散させ、水相の分散状態を維持する事である、前記項1に記載の製造方法。
【0015】
水相の粒径は、撹拌に限らず他の適した方法を選択する事で制御出来る。
【0016】
項7.
平均粒子径が8μm~200μm(好ましくは、10μm~200μm)の球状粉末発泡性ケイ酸化合物を製造する、前記項1に記載の製造方法。
【0017】
球状粉末発泡性ケイ酸化合物の平均粒子径は、光学顕微鏡に依り測定する。
【0018】
本発明の製造方法に依り得られる球状粉末発泡性ケイ酸化合物は、200℃程度の低温から発泡し、発泡に伴い粒子の付着が起こり、900℃の高温でも発泡状態を維持する事が出来る。本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物は、一般火災を始め、金属火災の消火剤として有用である。
【0019】
本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物を、従来、粉末消火器に用いられている粉末消火剤と混合して用いる事に依り、燃焼物に付着し発泡被覆して窒息及び遮熱効果を発揮する事が出来る。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、新たに、球状粉末発泡性ケイ酸化合物の調製方法、及びその球状粉末発泡ケイ酸化合物を含む消火剤を提供する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物の調製方法の一態様を表す図である。球状粉末発泡ケイ酸化合物の調製方法は、発泡性ケイ酸化合物(消火剤)の水溶液(水相)を有機溶剤(有機相)に分散して、W/Oエマルションを調製し、エタノール等の脱水溶剤を添加して、ろ過処理、及び乾燥処理を行う事に依り、球状のケイ酸化合物を調製する事が出来る。
図2図2は、本発明の粉末消火剤の発泡前後の形態変化(光学顕微鏡像)である。左:(1)発泡前の粉末消火剤の光学顕微鏡像。右:(2)発泡後の粉末消火剤の光学顕微鏡像。
図3図3は、本発明の粉末消火剤の発泡前後の形態変化(走査型電子顕微鏡像)である。左:(1)発泡前の粉末消火剤のSEM像。右:(2)発泡後の粉末消火剤のSEM像。
図4図4は、本発明の粉末消火剤の発泡前後の形態変化(走査型電子顕微鏡像)である。左:(1)発泡前の粉末消火剤の断面SEM像。右:(2)発泡後の粉末消火剤の断面SEM像。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明を表す実施の形態は、発明の趣旨がより良く理解出来る説明であり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。
【0024】
本明細書において、「含む」及び「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみから成る(consist essentially of)」、及び「のみから成る(consist of)」の何れも包含する概念である。
【0025】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、「A以上、B以下」を意味する。
【0026】
本明細書において、一般に、部、%等の表示を使用する。
【0027】
本明細書において、特に断りがない限り、質量部又は質量%(wt%)を表す。
【0028】
[1]球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法
本発明者等は、既に、発泡性ケイ酸化合物を利用した消火剤を開発している(先行技術の特許文献1~3)。この技術は、ケイ酸化合物を乾燥させて、固体状の消火剤を提供することが出来る。この消火剤は、ケイ酸化合物の被覆と発泡により、金属消火剤を含む幅広い火災の消火剤としてへ適用する事が出来る。
【0029】
一方、この固体状の消火剤を、破砕し、微細な粉末状の消火剤を製造する事、また、粉末消火剤の粒径及び形状を制御する事については、更に改良が必要で有った。
【0030】
粉末消火剤は、より広く、利用が求められる。
【0031】
本発明は、水ガラスを主成分とした発泡性ケイ酸化合物の種々の水分濃度の水溶液と有機溶媒とで、W/Oエマルションを形成し、脱水溶媒の添加、又は、液中乾燥する事に依り、球状の発泡性ケイ酸化合物(消火剤)を調製する事が出る。
【0032】
本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法は、
(1)発泡性ケイ酸化合物の水溶液を、有機溶剤に分散して、W/Oエマルションを調製する工程、及び
(2)次の(2-1)及び/又は(2-2):
(2-1)工程(1)で調製したW/Oエマルションに、脱水溶剤を添加し、当該W/Oエマルション、及び脱水溶剤を含む混合物を濾過し、濾過後の残渣を乾燥して、球状粉末発泡性ケイ酸化合物を得る工程、
(2-2)工程(1)で調製したW/Oエマルションを、減圧下で撹拌し、水を蒸発させて(液中乾燥する事に依り)、球状粉末発泡性ケイ酸化合物を得る工程、
を含む。
【0033】
球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法では、発泡性ケイ酸化合物は、好ましくは、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、及びケイ酸リチウムから成る群より選択される少なくとも1種のアルカリ金属ケイ酸化合物にケイ酸アルミニウムを溶解させたものである。
【0034】
球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法では、発泡性ケイ酸化合物の水溶液中の発泡性ケイ酸化合物の濃度は、好ましくは、10質量%~70質量%である。
【0035】
球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法では、有機溶剤は、好ましくは、ヘキサン、オクタン、ノナン、灯油、キシレン、トルエン、クロロホルム、及びベンゼンからなる群より選択される少なくとも1つの有機溶剤である。
【0036】
球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法では、脱水溶剤は、好ましくは、エタノール、メタノール、2-プロパノール、t-ブチルアルコール及び酢酸エチルからなる群より選択される少なくとも1つの有機溶剤である。
【0037】
球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法では、撹拌は、好ましくは、水相を有機相に適切な粒径と成る様に分散させ、水相の分散状態を維持する事である。
【0038】
本発明は、好ましくは、平均粒子径が10μm~200μmの球状粉末発泡性ケイ酸化合物を製造する。
【0039】
本発明の製造方法に依り得られる球状粉末発泡性ケイ酸化合物(消火剤)は、200℃程度の低温から発泡し、発泡に伴い粒子の付着が起こり、900℃の高温でも発泡状態を維持する事が出来る。本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物は、一般火災を始め、金属火災の消火剤として有用である。
【0040】
本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物を、従来、粉末消火器に用いられている粉末消火剤と混合して用いる事に依り、燃焼物に付着し発泡被覆して窒息及び遮熱効果を発揮する事が出来る。
【0041】
本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法では、W/Oエマルションの撹拌条件を調整したり、及びケイ酸化合物の含水率を調整したりする事に依り、球状粉末発泡性ケイ酸化合物の粒子径を調整する事が可能である。
【0042】
本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法では、W/Oエマルションに脱水溶剤を添加する代わりに、W/Oエマルションを、減圧下で撹拌して水を蒸発させる液中乾燥法に依り、調製する事も可能である。球状粉末発泡性ケイ酸化合物の調製過程で、表面に高分子を被覆させる事も可能で有り、消火機能を有する複合材料の成分として、有用である。
【0043】
(1)発泡性ケイ酸化合物の水溶液を、有機溶剤に分散して、W/Oエマルションを調製する工程
発泡性ケイ酸化合物
発泡性ケイ酸化合物は、アルカリ金属ケイ酸化合物にケイ酸アルミニウムを溶解させたものである。発泡性ケイ酸化合物は、好ましくは、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、及びケイ酸リチウムから成る群より選択される少なくとも1種のアルカリ金属ケイ酸化合物(水ガラス)にケイ酸アルミニウムを溶解させたものである。アルカリ金属ケイ酸化合物は、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム及びケイ酸リチウムを示す。
【0044】
ケイ酸カリウムは、K2O・nSiO2(n=1.8~3.7)の組成式(mH2Oは省略)を有し、係数nは各組成式に付帯する括弧内に記載した値である化合物を表す。
【0045】
ケイ酸ナトリウムは、Na2O・nSiO2(n=2.0~3.8)の組成式(mH2Oは省略)を有し、係数nは各組成式に付帯する括弧内に記載した値である化合物を表す。
【0046】
ケイ酸リチウムは、Li2O・nSiO2(n=3~8)の組成式(mH2Oは省略)を有し、係数nは各組成式に付帯する括弧内に記載した値である化合物を表す。
【0047】
アルカリ金属ケイ酸化合物は、前記アルカリ金属ケイ酸化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらのアルカリ金属ケイ酸化合物を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0048】
発泡性ケイ酸化合物の濃度
W/Oエマルションの発泡性ケイ酸化合物の水溶液(内水相)中の発泡性ケイ酸化合物の含水率を調整する事に依り、得られる球状粉末発泡性ケイ酸化合物の平均粒子径を調節する事が出来る。
【0049】
発泡性ケイ酸化合物の水溶液中の発泡性ケイ酸化合物の濃度は、好ましくは、10質量%~70質量%である。発泡性ケイ酸化合物の水溶液中の発泡性ケイ酸化合物の濃度(固形分濃度)は、調製する液体消火剤の粘度を考慮して、最大で、70質量%程度であり、上限の好ましい範囲は、ケイ酸濃度が45質量%程度である。水溶液中の発泡性ケイ酸化合物は、液体消火剤の粘度を調整する事に依り、良好に分散する。
【0050】
有機溶剤
有機溶剤(有機相)は、好ましくは、水に不溶な溶剤であり、且つ、エタノールに可溶な溶剤を用いる。
【0051】
有機溶剤は、好ましくは、ヘキサン、オクタン、ノナン、灯油、キシレン、トルエン、クロロホルム、及びベンゼンからなる群より選択される少なくとも1つの有機溶剤であり、より好ましくは、ヘキサン、オクタン、ノナン、灯油、キシレン、及びトルエンからなる群より選択される少なくとも1つの有機溶剤である。この様な有機溶剤を用いる事に依り、良好に、粉末消火剤を調製する事が可能である。
【0052】
W/Oエマルションを調製する際に、有機溶剤には、有機相の界面活性剤を添加しても良い。有機相の界面活性剤として、好ましくは、縮合リシノレイン酸ヘキサグリセリン(太陽化学(株)サンソフト818SX等)等を用いる。例えば、有機溶剤(ヘキサン等)20gに対して、界面活性剤(縮合リシノレイン酸ヘキサグリセリン等)0.2gを使用する。
【0053】
分散処理
W/Oエマルション(Water in Oil emulsion、組成は、有機相中に、内水相を、界面活性剤(乳化剤)を用いて、微粒子として分散させたもの)の分散条件を調整する事に依り、得られる球状粉末発泡性ケイ酸化合物の平均粒子径を調節する事が出来る。
【0054】
分散処理は、好ましくは、マグネチックスターラー、ディゾルバー、及びホモジナイザー等の比較的温和な撹拌装置を使用する。例えば、有機溶剤(20g、界面活性剤0.2g)に、発泡性ケイ酸化合物の水溶液(4g)を、分散して(ホモジナイザー、5000rpm、10分程度)、W/Oエマルションを調製する。
【0055】
(2)次の(2-1)及び/又は(2-2)
本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法は、工程(1)の後、次の(2-1)及び/又は(2-2)を経て、球状粉末発泡性ケイ酸化合物を製造する。
【0056】
(2-1)工程(1)で調製したW/Oエマルションに、脱水溶剤を添加し、当該W/Oエマルション、及び脱水溶剤を含む混合物を濾過し、濾過後の残渣を乾燥して、球状粉末発泡性ケイ酸化合物を得る工程
脱水溶剤
脱水溶剤は、好ましくは、エタノール、メタノール、2-プロパノール、t-ブチルアルコール、及び酢酸エチルからなる群より選択される少なくとも1つの有機溶剤である。この様な脱水溶剤を用いる事に依り、良好に、脱水する事が可能である。
【0057】
球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法では、脱水溶剤は、水ガラスに多価アルコール、酢酸エステルを加えると、アルカリ存在下で、酸の生成によりゲル化する。球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法では、これら多価アルコール、酢酸エステル等を添加する事でも、粉末消火剤を調製する事が可能である。
【0058】
工程(1)で調製したW/Oエマルションに、脱水溶剤(エタノール等)を添加し、撹拌する。この様に、脱水溶剤(エタノール等)を添加する事に依り、良好に、発泡性ケイ酸化合物の凝集を、抑制させる事が出来る。
【0059】
(2-2)工程(1)で調製したW/Oエマルションを、減圧下で撹拌し、水を蒸発させて(液中乾燥する事に依り)、球状粉末発泡性ケイ酸化合物を得る工程
液中乾燥(W/O/Wエマルションを出発状態としたマイクロカプセル)
水/油/水型(W/O/W)エマルションを出発状態として、水溶性物質(発泡性ケイ酸化合物)を内水相に内包させ、液中乾燥法に依り、球状粉末発泡性ケイ酸化合物のマイクロカプセルを調製する。
【0060】
初めに、内水相(発泡性ケイ酸化合物を含む水溶液)と油相(有機溶剤)からW/Oエマルションを調製し(工程(1))、このW/Oエマルションを外水相に分散させて、W/O/Wエマルションを調製する。W/O/Wエマルションの状態で、温度を上げて、反応器を減圧及び/又は加熱する事で、油相(有機溶剤)の有機溶媒を蒸発させて、内水相に溶解していた発泡性ケイ酸化合物を析出させる。
【0061】
W/Oエマルションの発泡性ケイ酸化合物の水溶液(内水相)中の発泡性ケイ酸化合物(内包された芯物質)の含水率(内水相の溶質濃度)を調整する事に依り、得られる球状粉末発泡性ケイ酸化合物の平均粒子径を調節する事が出来る。親水性の芯物質を効果的に内包及び保持するには、内水相の溶質濃度により浸透圧差による水の移動を制御し、内水相の安定性を高く保つ事が必要である。
【0062】
乾燥は、好ましくは、自然乾燥、若しくは発泡温度より低い温度で加熱乾燥する事である。
【0063】
このW/Oエマルション、及び、脱水溶剤(エタノール等)を含む混合物を濾過し、濾過後の残渣を乾燥して、球状粉末発泡性ケイ酸化合物を得る。
【0064】
撹拌処理
W/Oエマルションの撹拌条件を調整する事に依り、得られる球状粉末発泡性ケイ酸化合物の平均粒子径を調節する事が出来る。
【0065】
撹拌処理は、好ましくは、マグネチックスターラー、ディゾルバー、及びホモジナイザー等の比較的温和な撹拌装置を使用する。
【0066】
球状粉末発泡性ケイ酸化合物の平均粒子径
本発明の製造方法は、好ましくは、平均粒子径が8μm~200μmの球状粉末発泡性ケイ酸化合物を製造する。球状粉末発泡性ケイ酸化合物の平均粒子径は、好ましくは、10μm~200μmであり、より好ましくは、20μm~180μmであり、更に好ましくは、20μm~100μmである。調製した粉末消火剤の粒子径は、特に好ましくは、最小平均粒径は15μm程度であり、最大平均粒径は27μm程度である。
【0067】
球状粉末発泡性ケイ酸化合物の平均粒子径は、光学顕微鏡に依り測定する。
【0068】
本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法では、発泡性ケイ酸化合物の水溶液を有機溶剤に分散して、W/Oエマルションを調製し、エタノール等の脱水溶剤を添加して、濾過し、次いで、乾燥するという簡便な操作に依り、良好に、球状のケイ酸化合物を調製する事が出来る(図1の調製フロー)。
【0069】
本発明の製造方法に依り調製する球状粉末発泡性ケイ酸化合物は、発泡性を保持しており、発泡に伴い粒子同志が付着して燃焼物の表面を被覆する事が出来る(図2及び3の球状の消火剤と発泡した状態)。本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物は、消火剤として有用であり、球状である事から、粉末の流動性が良く、粉末消火剤の一成分として消火器へ利用する事も可能である。
【0070】
本発明の製造方法に依り、球状粉末発泡性ケイ酸化合物を提供する事が出来、粉末発泡性ケイ酸化合物そのもの自身を粉末消火剤として利用する事が出来ると共に、既存の粉末消火器の成分消火剤の一つとしても提供する事が出来る。
【0071】
[2]球状粉末発性泡ケイ酸化合物を含む消火剤
本発明の消火剤は、本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法で得られる球状粉末発性泡ケイ酸化合物を含む。
【0072】
消火剤は、球状粉末発性泡ケイ酸化合物(アルカリ金属ケイ酸化合物)と、好ましくは、この球状粉末発性泡ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0~26重量部のケイ酸アルミニウムと、水とを含有する。消火剤は、必要に応じて、飽和濃度以下のホウ酸塩を含有しても良い。
【0073】
消火剤は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等の球状粉末発性泡ケイ酸化合物を1種単独で使用し、又は2種以上を混合(ブレンド)して使用し、必要に応じてケイ酸アルミニウムを含み、また必要に応じて四ホウ酸二ナトリウム10水和物(ホウ砂)等のホウ酸塩を含み、液体から固体状まで、任意の形態に調節する事が出来る。
【0074】
消火剤を燃焼物に対して供給すると、水の気化熱に依り、燃焼物を冷却すると共に、消火途上の被該環境中の熱に依り、燃焼物の表面にシロキサン分子構造を持つ固体膜又は固体泡、或はそれらの混成体が生成される。
【0075】
消火剤で加熱生成した被覆物自体の耐熱性は、100℃以上、約850℃未満の温度領域にて安定した状態を保つ事が出来る。消火剤を用いると、水の蒸発する温度以上で、燃焼物の表面を安定して被覆し、窒息効果を保つ事が出来る。消火剤を用いると、燃焼部分の被覆は、付着部分からの火炎の発生を阻止する事で火炎の分散化に寄与するため、火勢を削ぐ効果(延焼抑止効果)も発現する。
【0076】
消火剤は、熱分解時に有害と成る有機化合物(界面活性剤やキレート剤、金属脂肪酸等)を含まなくても良く、一酸化炭素ガスを発生しない材料である。消火剤の主成分であるケイ酸化合物が火災の熱に因って溶融しても、発生したヒュームは、非晶質SiO2である。このヒュームは、人の皮膚に触れると皮膚表面の水分を吸着し、乾いた感覚と成るが、単に水で洗い流すだけで良い。
【0077】
消火剤は、ケイ酸化合物を含む延焼抑止剤としても働き、火災時の熱分解に因る人的有害性を抑制する環境を作り出す事が出来る。消火剤は、潮解作用が発現する様、任意に調製する事が出来、消火後に温度が下がると、被覆物を形成する骨格物質の潮解が始まり、骨格成分の飽和水蒸気圧と大気中の水蒸気圧が等しく成るまで吸水する事が出来る。
【0078】
消火剤は、潮解現象が発現した当初、骨格成分が露出した状態であり、その後、骨格成分が液体に覆われてしまい、骨格成分が潮解に依り溶解するまで進行する。消火剤は、この現象に依り、火事等の熱で形成した被覆物は、外気温に戻る事で液状化する事が出来る。
【0079】
消火剤を用いると、可燃性の延焼予測物に対して、予め燃焼する前に、連続的に、又は断続的に、塗布(供給)する事で、延焼予測物の表面に被覆前駆体、又は被覆物を形成し、火災からの熱を低減し、延焼を抑止する事が出来る。
【0080】
消火剤は、通常、球状粉末発性泡ケイ酸化合物の溶液に、ケイ酸アルミニウムを混合し、必要に応じてホウ酸塩を含み、目的に応じた任意含水率に調製して製造する事が出来る。
【0081】
(1)金属火災
消火剤は、好ましくは、マグネシウム等の金属類の火災に使用する。金属火災の対象金属は、マグネシウムに加えて、鉄、亜鉛等である。金属火災の消火では、消火剤中に金属炭酸塩が含有すると、爆発の恐れがある。よって、消火剤は、通常、金属炭酸塩を含まない事が好ましい。
【0082】
消火剤は、金属類の火災に使用する際に、液体の形態で使用出来る事から、金属類(マグネシウム等)の火災と木材火災との2つが共存した火災にも使用する事が出来る。
【0083】
(2)球状粉末発性泡ケイ酸化合物
本発明の消火剤は、本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造方法で得られる球状粉末発性泡ケイ酸化合物を含む。
【0084】
球状粉末発性泡ケイ酸化合物(アルカリ金属ケイ酸化合物)は、強アルカリ性を示す。球状粉末発性泡ケイ酸化合物を水で希釈する事で、消火剤のpHを調節する事が出来る。また、球状粉末発性泡ケイ酸化合物を、ホウ酸塩の飽和溶液で希釈する事で、pHを調節する事ができ、或はその希釈物に水を加えてpH調製する事も出来る。
【0085】
消火剤のpHは、通常、好ましくは、pH12.5未満に調製する。消火剤、好ましくは、pH13程度~pH11程度の範囲内で調節する。球状粉末発性泡ケイ酸化合物の原料そのままのpHを維持し、消火剤を調製する事も出来る。
【0086】
球状粉末発性泡ケイ酸化合物は、1種のケイ酸化合物を使用しても良く、2種以上の複数のケイ酸化合物を混合して使用しても良い。
【0087】
例えば、ケイ酸ナトリウムの濃度が共存ケイ酸化合物の濃度よりも高ければ、燃焼物に対する付着性が強く成り、液の広がりは若干悪くなる。
【0088】
例えば、ケイ酸カリウムの濃度が共存ケイ酸化合物の濃度より高ければ、燃焼物に対する付着性はやや弱くなるが、液の広がりは良くなる。
【0089】
例えば、ケイ酸リチウムの濃度が共存ケイ酸化合物の濃度より高ければ、燃焼物に対する付着性は弱くなり、液の広がりが良くなる。
【0090】
本発明の球状粉末発性泡ケイ酸化合物を用いて、ケイ酸化合物の特性を考慮し、消火剤や延焼抑止剤の目的や用途によって基本特性を設計する。
【0091】
(3)ケイ酸アルミニウム
本発明の消火剤は、好ましくは、球状粉末発性泡ケイ酸化合物(アルカリ金属ケイ酸化合物)の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、0~26重量部のケイ酸アルミニウムを含む。
【0092】
消火剤は、ケイ酸アルミニウムを含む事で、火災等の熱に因って形成される固体膜及び固体泡の高温骨格維持性、更に噴霧した際の消炎性を制御する事出来る。
【0093】
本発明において「0~X重量部を含む」とは、組成物中に対象成分を最大でX重量部含んでも良いし、0重量部の場合、含まなくても良い事を意味する。ケイ酸アルミニウムを「0~26重量部」含むとは、本発明の消火剤が、例えばケイ酸ソーダの二酸化ケイ素の固形分100重量部に対し、含まなくても良いし、ケイ酸アルミニウムを最大で26重量部含んでも良い事を意味する。
【0094】
ケイ酸アルミニウムの添加量は、球状粉末発性泡ケイ酸化合物の二酸化ケイ素の固形分100重量部に対して0~26重量部の範囲であり、目的や用途に応じて、ケイ酸アルミニウムの使用を省く事が出来る。ケイ酸アルミニウムの添加量は、前記ケイ酸化合物の固形分100重量部に対し、好ましくは、26重量部以下であり、コスト的観点から、より好ましくは、0.1重量部から5.5重量部の範囲である。ケイ酸アルミニウムの添加量が増加する事で、消火剤の消火効果や延焼抑止効果が高くなる。
【0095】
(4)水
本発明の消火剤は、好ましくは、水を含み、水は、その目的を損なわない範囲で含まれる。消火剤の含水率は、通常、好ましくは、7重量%~95重量%程度である。
【0096】
消火剤は、固体(含水量:小)、ペースト(含水量:中)、液体(含水量:大)の全ての形態で使用する事が出来る。消火剤は、水を含み、その含水率を制御する事で、各形態を調製する事が出来る。
【0097】
(5)ホウ酸塩
本発明の消火剤は、必要に応じて、好ましくは、飽和濃度以下のホウ酸塩を含有する。
【0098】
消火剤では、ホウ酸塩は、四ホウ酸二ナトリウム10水和物(ホウ砂、Na2B4O7・10H2O)、四ホウ酸二ナトリウム5水和物(Na2B4O7・5H2O)、五ホウ酸ナトリウム10水和物(Na2O・5B2O3・10H2O)、八ホウ酸二ナトリウム4水和物(Na2B8O13・4H2O)、メタホウ酸ナトリウム2水和物(NaBO2・2H2O)、メタホウ酸ナトリウム4水和物(NaBO2・4H2O)、四ホウ酸二カリウム4水和物(K2B4O7・4H2O)、及び五ホウ酸カリウム4水和物(KB5O8・4H2O)からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である事が好ましい。
【0099】
四ホウ酸二ナトリウム10水和物は、ホウ砂とも言い、この水への溶解度(20℃)は60g/L程度であり、これはケイ酸化合物溶液にも容易に溶解する。四ホウ酸二ナトリウム5水和物の水への溶解度(20℃)は38g/L程度であり、これはケイ酸化合物溶液にも容易に溶解する。
【0100】
五ホウ酸ナトリウム10水和物の水への溶解度(20℃)は12g/L程度であり、八ホウ酸二ナトリウム4水和物の水への溶解度(20℃)は10g/L程度であり、メタホウ酸ナトリウム2水和物の水への溶解度(60℃)は39g/L程度であり、メタホウ酸ナトリウム4水和物の水への溶解度(20℃)は20g/L程度であり、四ホウ酸二カリウム4水和物の水への溶解度(35℃)は29g/L程度であり、これら化合物もケイ酸化合物溶液にも容易に溶解する。五ホウ酸カリウム4水和物もケイ酸化合物溶液にも容易に溶解する。
【0101】
消火剤に、ホウ酸塩を加える事で、消火剤の粘度を調節する事、燃焼物に対する濡れ性を調節する事、また製品のpHを調節する事が出来る。消火剤において、ホウ酸塩の添加量は、上記ホウ酸塩の溶解量(水溶液への溶解度)が上限である。通常、ホウ酸塩を水に溶解した時のpHが12.5未満と成る様に、その添加量の上限濃度で調製する事が、作業の効率の点で好ましい。また、ホウ酸塩を含む本発明の消火剤の含水率を制御する事により、消火時に生成する固体膜又は固体泡或いは混成体の形状を制御する事が出来る。
【0102】
ホウ酸塩は、前記ホウ酸塩から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらのホウ酸塩を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0103】
(6)粉体
本発明の消火剤は、乾燥し、破砕する事で、粉体化する事が出来る。消火剤を粉体化しても、水分は残り、水はその目的を損なわない範囲で含まれる。
【0104】
消火剤は、平均粒子径が、好ましくは、8μm~200μm(より好ましくは、10μm~200μmの粉体)の粉体である事が好ましい。粉体とは、固体微粒子の極めて多数の集合体で、各粒子の間に適当な相互作用力が働いている状態である。
【0105】
粉体の集合体としての評価は、ランダムサンプリング、多段サンプリング、層別サンプリング、集落サンプリングや系統サンプリング等、目的や事業所にあったサンプリング法を選べば良い。選択した方法で採取した粉体を、篩を用いた体積基準(体積分布)や実体観察に因る個数基準(個数分布)等で表す事が出来る。粉体を、例えば、篩の目の大きさに依って、粉体の大きさを分け、体積基準(体積分布)で粒度分布を表す事が、実情に即している。
【0106】
消火剤は、金属火災の火源に、投与する事が出来れば、大きさに制限は無く、平均粒子径は、好ましくは、8μm~200μmの粉体であり、より好ましくは、10μm~200μmの粉体であり、更に好ましくは、20μm~180μmの粉体である。消火剤は、消火器に充填するサイズの粉体である事が好ましい。
【0107】
(7)粘度
本発明の消火剤は、好ましくは、水を含む態様であり、粘度を有する。消火剤の25℃における粘度は、取扱い容易性の観点から、好ましくは、1mPa・s~50mPa・s程度であり、より好ましくは、1mPa・s~30mPa・s程度であり、更に好ましくは、1mPa・s~25mPa・s程度である。
【0108】
粘度は、測定温度を25℃で一定にして、音叉型振動式粘度計(A&D製のSV-10型)に依り、測定する。消火剤を室温で静置し、その後、25℃における粘度を音叉型振動式粘度計により測定し、安定した値を粘度とする。
【実施例0109】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明においては、本発明の合目的であって、本発明の効果を特に害さない限りにおいては、改変或いは部分的な変更及び付加は任意であって、いずれも本発明の範囲である。
【0110】
[1]球状粉末発泡性ケイ酸化合物の製造
図1:球状粉末発泡性ケイ酸化合物の調製方法
(1)発泡性ケイ酸化合物の水溶液(4.0g、発泡性ケイ酸化合物の濃度(液体消火剤中の固形分濃度):41.7質量%)を、有機溶剤(ヘキサン20g、有機相の界面活性剤として縮合リシノレイン酸ヘキサグリセリン、太陽化学(株)サンソフト818SX:0.2g)に分散して(ホモジナイザー5000rpm、10分)、W/Oエマルション(Water in Oil emulsion)を調製した。
【0111】
(2)次いで、工程(1)で調製したW/Oエマルションに、エタノール(脱水溶剤)を添加し(添加量:10mL、撹拌5分)した。この様に、エタノールは、1度に添加した方が、良好に、発泡性ケイ酸化合物の凝集を、抑制させる事が出来た。
【0112】
次いで、このW/Oエマルション、及びエタノールを含む混合物を濾過し、濾過後の残渣を乾燥して、球状粉末発泡性ケイ酸化合物を得た。
【0113】
[2]球状粉末発性泡ケイ酸化合物を含む消火剤
図2~4の球状の消火剤と発泡した状態
得られた球状粉末発泡性ケイ酸化合物は、発泡性を保持していた。
【0114】
得られた球状粉末発泡性ケイ酸化合物の平均粒子径を、光学顕微鏡に依り測定した処、10μm~200μmの球状粉末発泡性ケイ酸化合物であった。
【0115】
図2:実施例で調製した粉末消火剤の発泡前後の形態変化
(光学顕微鏡像)
左:(1)発泡前の粉末消火剤の光学顕微鏡像。発泡前、平均粒径:32.6μm、含水率:27.0%、かさ密度:0.833g/mL。発泡前の消火剤は、球形であり、表面は滑らかであり、半透明で内部が透けて見えた。
【0116】
右:(2)発泡後の粉末消火剤の光学顕微鏡像。発泡後、粒径:270μm~330μm。発泡後の消火剤は、表面に凹凸があり、内部が透けない粒径が10倍近く大きく成っており、体積変化からも発泡している事が確認出来た。
【0117】
図3:実施例で調製した粉末消火剤の発泡前後の形態変化
(走査型電子顕微鏡像)
左:(1)発泡前の粉末消火剤のSEM像。SEM像からも、発泡前の消火剤の表面は、滑らかで、ほとんど凹凸が無い事が分かった。
【0118】
右:(2)発泡後の粉末消火剤のSEM像。発泡後の消火剤の表面は、発泡に因り生じた気泡に依り、表面が凸凹していた。
【0119】
図4:実施例で調製した粉末消火剤の発泡前後の形態変化
(走査型電子顕微鏡像)
左:(1)発泡前の粉末消火剤の断面SEM像。発泡前の消火剤断面には、小さな空孔が複数観察されたが、詰まっている印象であった。
【0120】
右:(2)発泡後の粉末消火剤の断面SEM像。発泡後は、大きな空孔が複数観察され、内部がスポンジ状に成っている事が確認出来た。
【0121】
この球状粉末発泡性ケイ酸化合物は、発泡に伴い粒子同志が付着して燃焼物の表面を被覆する事が出来、消火剤として有用である。この球状粉末発泡性ケイ酸化合物は、球状であり、粉末の流動性が良く、粉末消火剤の一成分として消火器へ利用する事も可能である。
【0122】
[3]産業上の利用可能性
本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物(消火剤)は、消火剤を利用する全ての産業分野に適用する事が出来る。本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物(消火剤)を、発火、及び延焼の危険性が有る場所、及び材料へ、予め塗布する事に依り、断熱、及び遮熱効果を発揮し、発火防止、及び延焼防止の効果を発揮する。
【0123】
本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物(消火剤)は、発泡性ケイ酸化合物の消火剤の利用を更に広げる事が出来、複合材料の添加剤として応用する事が出来る。本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物(消火剤)は、加熱に依り、複合材料の内部から発泡し、消火機能を発現する事が出来る。本発明の球状粉末発泡性ケイ酸化合物(消火剤)は、粒径を小さくする事に依り、複合材料調製時にスプレーする事も可能であり、微細な球状消火剤を提供する事が出来る。
図1
図2
図3
図4