(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159026
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20241031BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241031BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241031BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074749
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】関口 正史
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AM12
5H029BJ12
5H029DJ09
5H029HJ00
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050DA13
5H050EA11
5H050EA13
5H050FA02
5H050HA00
(57)【要約】
【課題】 長期充放電サイクル特性の低下を抑制することができる全固体電池を提供する。
【解決手段】 固体電解質層と、固体電解質層の第1主面上に設けられ、電極活物質および固体電解質を含む第1内部電極層と、第1主面上において第1内部電極層の周囲に設けられた第1余白部と、固体電解質層の第2主面上に設けられ、電極活物質および固体電解質を含む第2内部電極層と、第2主面上において第2内部電極層の周囲に設けられた第2余白部と、を備え、第1余白部および第2余白部のビッカース硬度Hvが3GPa以上であり、第1内部電極層のビッカース硬度Hvに対する第1余白部のビッカース硬度Hvの比が1よりも大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、
前記固体電解質層の第1主面上に設けられ、電極活物質および固体電解質を含む第1内部電極層と、
前記第1主面上において前記第1内部電極層の周囲に設けられた第1余白部と、
前記固体電解質層の第2主面上に設けられ、電極活物質および固体電解質を含む第2内部電極層と、
前記第2主面上において前記第2内部電極層の周囲に設けられた第2余白部と、を備え、
前記第1余白部および前記第2余白部のビッカース硬度Hvが3GPa以上であり、前記第1内部電極層のビッカース硬度Hvに対する前記第1余白部のビッカース硬度Hvの比が1よりも大きく、前記第2内部電極層のビッカース硬度Hvに対する前記第2余白部のビッカース硬度Hvの比が1よりも大きく、
前記ビッカース硬度Hvは、荷重3gf(=0.029N)下において対象箇所に圧子を15秒間押し込んだ後の圧痕の対角線の長さを読み取ることで算出される硬度である、全固体電池。
【請求項2】
前記固体電解質層、前記第1内部電極層、前記固体電解質層、および前記第2内部電極層が交互に複数回積層され、略直方体形状を有し、前記略直方体形状の第1端面に前記第1内部電極層が引き出され、前記略直方体形状の前記第1端面と対向する第2端面に前記第2内部電極層が引き出された積層チップが備わり、
前記第2余白部は、前記第1端面近傍において前記第1内部電極層同士が前記第2内部電極層を介さずに対向する領域に設けられ、
前記第1余白部は、前記第2端面近傍において前記第2内部電極層同士が前記第1内部電極層を介さずに対向する領域に設けられている、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記固体電解質層、前記第1内部電極層、前記固体電解質層、および前記第2内部電極層が交互に複数回積層され、略直方体形状を有し、前記略直方体形状の第1端面に前記第1内部電極層が引き出され、前記略直方体形状の前記第1端面と対向する第2端面に前記第2内部電極層が引き出された積層チップが備わり、
前記第1余白部は、前記積層チップにおいて、積層方向の上面、下面、前記第1端面、および前記第2端面以外の2側面から前記第1内部電極層に至るまでの領域に設けられ、
前記第2余白部は、前記積層チップにおいて、前記2側面から前記第2内部電極層に至るまでの領域に設けられている、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記固体電解質層、前記第1余白部、および前記第2余白部は、NASICON型の結晶構造を含むリン酸塩系固体電解質を含む、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記第1余白部および前記第2余白部の前記リン酸塩系固体電解質は、ガラスである、請求項4に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記第1余白部および前記第2余白部は、Li-B-O系化合物、Li-Si-O系化合物、Li-C-O系化合物、Li-S-O系化合物、およびLi-P-O系化合物少なくともいずれかを含む、請求項1に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン二次電池は、民生機器、産業機械、自動車など様々な分野にて利用されている。しかしながら、既存のリチウムイオン二次電池は、電解液を含んでいるため、電解液の漏液・発煙・発火等のおそれがある。そのため、特に、大気中で安定な固体電解質を採用した全固体リチウムイオン二次電池の開発が盛んに行われている。代表的な固体電解質として、NASICON型の結晶構造を含むリン酸塩系固体電解質を適用した全固体電池が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-108258号公報
【特許文献2】特開2021-140899号公報
【特許文献3】特開2022-63272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全固体電池のサイクル特性の劣化要因の一つに、充放電に伴う活物質の体積膨張収縮によって電極層内部のイオン伝導パスおよび電子伝導パスの接続が切れ易いことが考えられる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、長期充放電サイクル特性の低下を抑制することができる全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る全固体電池は、固体電解質層と、前記固体電解質層の第1主面上に設けられ、電極活物質および固体電解質を含む第1内部電極層と、前記第1主面上において前記第1内部電極層の周囲に設けられた第1余白部と、前記固体電解質層の第2主面上に設けられ、電極活物質および固体電解質を含む第2内部電極層と、前記第2主面上において前記第2内部電極層の周囲に設けられた第2余白部と、を備え、前記第1余白部および前記第2余白部のビッカース硬度Hvが3GPa以上であり、前記第1内部電極層のビッカース硬度Hvに対する前記第1余白部のビッカース硬度Hvの比が1よりも大きく、前記第2内部電極層のビッカース硬度Hvに対する前記第2余白部のビッカース硬度Hvの比が1よりも大きく、前記ビッカース硬度Hvは、荷重3gf(=0.029N)下において対象箇所に圧子を15秒間押し込んだ後の圧痕の対角線の長さを読み取ることで算出される硬度である。
【0007】
上記全固体電池において、前記固体電解質層、前記第1内部電極層、前記固体電解質層、および前記第2内部電極層が交互に複数回積層され、略直方体形状を有し、前記略直方体形状の第1端面に前記第1内部電極層が引き出され、前記略直方体形状の前記第1端面と対向する第2端面に前記第2内部電極層が引き出された積層チップが備わり、前記第2余白部は、前記第1端面近傍において前記第1内部電極層同士が前記第2内部電極層を介さずに対向する領域に設けられ、前記第1余白部は、前記第2端面近傍において前記第2内部電極層同士が前記第1内部電極層を介さずに対向する領域に設けられていてもよい。
【0008】
上記全固体電池において、前記固体電解質層、前記第1内部電極層、前記固体電解質層、および前記第2内部電極層が交互に複数回積層され、略直方体形状を有し、前記略直方体形状の第1端面に前記第1内部電極層が引き出され、前記略直方体形状の前記第1端面と対向する第2端面に前記第2内部電極層が引き出された積層チップが備わり、前記第1余白部は、前記積層チップにおいて、積層方向の上面、下面、前記第1端面、および前記第2端面以外の2側面から前記第1内部電極層に至るまでの領域に設けられ、前記第2余白部は、前記積層チップにおいて、前記2側面から前記第2内部電極層に至るまでの領域に設けられていてもよい。
【0009】
上記全固体電池において、前記固体電解質層、前記第1余白部、および前記第2余白部は、NASICON型の結晶構造を含むリン酸塩系固体電解質を含んでいてもよい。
【0010】
上記全固体電池において、前記第1余白部および前記第2余白部の前記リン酸塩系固体電解質は、ガラスであってもよい。
【0011】
上記全固体電池において、前記第1余白部および前記第2余白部は、Li-B-O系化合物、Li-Si-O系化合物、Li-C-O系化合物、Li-S-O系化合物、およびLi-P-O系化合物少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長期充放電サイクル特性の低下を抑制することができる全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】全固体電池の基本構造を示す模式的断面図である。
【
図2】複数の電池単位が積層された積層型の全固体電池の部分断面斜視図である。
【
図5】(a)はサイドマージンの断面の拡大図であり、(b)は第1エンドマージンの断面の拡大図である。
【
図6】全固体電池の製造方法のフローを例示する図である。
【
図7】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
【
図9】第2実施形態に係る全固体電池のYZ断面図である。
【
図10】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、全固体電池100の基本構造を示す模式的断面図である。
図1で例示するように、全固体電池100は、第1内部電極層10と第2内部電極層20とによって、固体電解質層30が挟持された構造を有する。第1内部電極層10は、固体電解質層30の第1主面上に形成されている。第2内部電極層20は、固体電解質層30の第2主面上に形成されている。例えば、第1内部電極層10、第2内部電極層20、および固体電解質層30は、粉末材料を焼結させることによって得られる焼結体である。
【0016】
全固体電池100を二次電池として用いる場合には、第1内部電極層10および第2内部電極層20の一方を正極として用い、他方を負極として用いる。本実施形態においては、一例として、第1内部電極層10を正極層として用い、第2内部電極層20を負極層として用いるものとする。
【0017】
固体電解質層30は、NASICON型の結晶構造を有し、イオン伝導性を有する酸化物系固体電解質を主成分とする。固体電解質層30の固体電解質は、例えばリチウムイオン伝導性を有する酸化物系固体電解質である。当該固体電解質は、例えば、リン酸塩系固体電解質である。NASICON型の結晶構造を有するリン酸塩系固体電解質は、高い導電率を有するとともに、大気中で安定しているという性質を有している。リン酸塩系固体電解質は、例えば、リチウムを含んだリン酸塩である。当該リン酸塩は、特に限定されるものではないが、例えば、Tiとの複合リン酸リチウム塩(例えば、LiTi2(PO4)3)などが挙げられる。または、TiをGe,Sn,Hf,Zrなどといった4価の遷移金属に一部あるいは全部置換することもできる。また、Li含有量を増加させるために、Al,Ga,In,Y,Laなどの3価の遷移金属に一部置換してもよい。より具体的には、例えば、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3や、Li1+xAlxZr2-x(PO4)3、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3などが挙げられる。例えば、第1内部電極層10および第2内部電極層20に含有されるオリビン型結晶構造をもつリン酸塩が含む遷移金属と同じ遷移金属を予め添加させたLi-Al-Ge-PO4系(LAGP系)材料が好ましい。例えば、第1内部電極層10および第2内部電極層20にCoおよびLiを含むリン酸塩が含有される場合には、Coを予め添加したLi-Al-Ge-PO4系材料が固体電解質層30に含まれることが好ましい。この場合、電極活物質が含む遷移金属の電解質への溶出を抑制する効果が得られる。第1内部電極層10および第2内部電極層20にCo以外の遷移元素およびLiを含むリン酸塩が含有される場合には、当該遷移金属を予め添加したLi-Al-Ge-PO4系材料が固体電解質層30に含まれることが好ましい。
【0018】
正極として用いられる第1内部電極層10は、オリビン型結晶構造をもつ物質を電極活物質として含有する。第2内部電極層20も、当該電極活物質を含有していることが好ましい。このような電極活物質として、遷移金属とリチウムとを含むリン酸塩が挙げられる。オリビン型結晶構造は、天然のカンラン石(olivine)が有する結晶であり、X線回折において判別することができる。
【0019】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質の典型例として、Coを含むLiCoPO4などを用いることができる。この化学式において遷移金属のCoが置き換わったリン酸塩などを用いることもできる。ここで、価数に応じてLiやPO4の比率は変動し得る。なお、遷移金属として、Co,Mn,Fe,Niなどを用いることが好ましい。
【0020】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質は、正極として作用する第1内部電極層10においては、正極活物質として作用する。例えば、第1内部電極層10にのみオリビン型結晶構造をもつ電極活物質が含まれる場合には、当該電極活物質が正極活物質として作用する。第2内部電極層20にもオリビン型結晶構造をもつ電極活物質が含まれる場合に、負極として作用する第2内部電極層20においては、その作用メカニズムは完全には判明してはいないものの、負極活物質との部分的な固溶状態の形成に基づくと推察される、放電容量の増大、ならびに、放電に伴う動作電位の上昇という効果が発揮される。
【0021】
第1内部電極層10および第2内部電極層20の両方ともオリビン型結晶構造をもつ電極活物質を含有する場合に、それぞれの電極活物質には、好ましくは、互いに同一であっても異なっていてもよい遷移金属が含まれる。「互いに同一であっても異なっていてもよい」ということは、第1内部電極層10および第2内部電極層20が含有する電極活物質が同種の遷移金属を含んでいてもよいし、互いに異なる種類の遷移金属が含まれていてもよい、ということである。第1内部電極層10および第2内部電極層20には一種だけの遷移金属が含まれていてもよいし、二種以上の遷移金属が含まれていてもよい。好ましくは、第1内部電極層10および第2内部電極層20には同種の遷移金属が含まれる。より好ましくは、両電極が含有する電極活物質は化学組成が同一である。第1内部電極層10および第2内部電極層20に同種の遷移金属が含まれていたり、同組成の電極活物質が含まれていたりすることにより、両内部電極層の組成の類似性が高まるので、全固体電池100の端子の取り付けを正負逆にしてしまった場合であっても、用途によっては誤作動せずに実使用に耐えられるという効果を有する。
【0022】
第2内部電極層20は、負極活物質を含んでいる。一方の電極だけに負極活物質を含有させることによって、当該一方の電極は負極として作用し、他方の電極が正極として作用することが明確になる。なお、両方の電極に負極活物質として公知である物質を含有させてもよい。電極の負極活物質については、二次電池における従来技術を適宜参照することができ、例えば、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、リチウムチタン複合リン酸塩、カーボン、リン酸バナジウムリチウムなどの化合物が挙げられる。
【0023】
第1内部電極層10および第2内部電極層20の作製においては、これら電極活物質に加えて、イオン電導性を有する固体電解質や、導電性材料(導電助剤)などが添加されている。これらの部材については、バインダと可塑剤を水あるいは有機溶剤に均一分散させることで内部電極用ペーストを得ることができる。導電助剤として、カーボン材料などが含まれていてもよい。導電助剤として、金属が含まれていてもよい。導電助剤の金属としては、Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金などが挙げられる。第1内部電極層10および第2内部電極層20に含まれる固体電解質は、例えば、固体電解質層30の主成分固体電解質と同じとすることができる。
【0024】
図2は、複数の電池単位が積層された積層型の全固体電池100aの部分断面斜視図である。
図3は、
図2のA-A線断面図である。
図4は、
図2のB-B線断面図である。全固体電池100aは、略直方体形状を有する積層チップ60を備える。積層チップ60において、積層方向端の上面および下面以外の4面のうちの第1端面に接するように第1外部電極40aが設けられ、第1端面に対向する第2端面に接するように第2外部電極40bが設けられている。
【0025】
なお、
図2~
図4において、X軸方向は、積層チップ60の第1端面と第2端面とが対向する方向であり、第1外部電極40aと第2外部電極40bとが対向する対向方向である。Y軸方向は、第1内部電極層10および第2内部電極層20の幅方向であり、積層チップ60の4側面のうち2端面以外の2側面が対向する対向方向である。Z軸方向は、積層方向であり、積層チップ60の上面と下面とが対向する方向である。X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とは、互いに直交している。
【0026】
以下の説明において、全固体電池100と同一の組成範囲および同一の厚み範囲を有するものについては、同一符号を付すことで詳細な説明を省略する。
【0027】
全固体電池100aにおいては、複数の第1内部電極層10と複数の第2内部電極層20とが、固体電解質層30を介して交互に積層されている。複数の第1内部電極層10のX軸方向の端縁は、積層チップ60の第1端面に引き出され、第2端面には引き出されていない。複数の第2内部電極層20のX軸方向の端縁は、積層チップ60の第2端面に引き出され、第1端面には引き出されていない。それにより、第1内部電極層10および第2内部電極層20は、第1外部電極40aと第2外部電極40bとに、交互に導通している。なお、固体電解質層30は、第1外部電極40aから第2外部電極40bにかけて延在している。このように、全固体電池100aは、複数の電池単位が積層された構造を有している。
【0028】
第1内部電極層10、固体電解質層30および第2内部電極層20の積層部分の上端面に、カバー層50が積層されている。当該カバー層50は、最上層の内部電極層(第1内部電極層10および第2内部電極層20のいずれか一方)に接するとともに、固体電解質層30の一部に接している。当該積層体の下端面にも、カバー層50が積層されている。当該カバー層50は、最下層の内部電極層(第1内部電極層10および第2内部電極層20のいずれか一方)に接するとともに、固体電解質層30の一部に接している。例えば、カバー層50は、粉末材料を焼結させることによって得られる焼結体である。
【0029】
図3で例示するように、第1外部電極40aに接続された第1内部電極層10と第2外部電極40bに接続された第2内部電極層20とが対向する領域は、電池容量を生じる領域である。そこで、当該領域を、電池容量領域70と称する。すなわち、電池容量領域70は、異なる外部電極に接続された2つの隣接する内部電極層が対向する領域である。
【0030】
第1外部電極40aに接続された第1内部電極層10同士が、第2外部電極40bに接続された第2内部電極層20を介さずに対向する領域を、第1エンドマージン80aと称する。また、第2外部電極40bに接続された第1内部電極層10同士が、第1外部電極40aに接続された第1内部電極層10を介さずに対向する領域を、第2エンドマージン80bと称する。すなわち、エンドマージンは、同じ外部電極に接続された内部電極層が異なる外部電極に接続された内部電極層を介さずに対向する領域である。第1エンドマージン80aおよび第2エンドマージン80bは、電池容量を生じない領域である。
【0031】
図4で例示するように、積層チップ60において、積層チップ60の2側面から第1内部電極層10および第2内部電極層20に至るまでの領域をサイドマージン90と称する。すなわち、サイドマージン90は、上記積層体において積層された複数の第1内部電極層10および第2内部電極層20が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。
【0032】
図5(a)は、サイドマージン90の断面の拡大図である。サイドマージン90は、固体電解質層30と余白部とが、電池容量領域70における第1内部電極層10と第2内部電極層20との積層方向において交互に積層された構造を有する。第1内部電極層10と同じ層内では、第1余白部95aが設けられている。第2内部電極層20と同じ層内では、第2余白部95bが設けられている。この構成によれば、電池容量領域70とサイドマージン90との段差が抑制される。
【0033】
図5(b)は、第1エンドマージン80aの断面の拡大図である。サイドマージン90との比較において、第1エンドマージン80aでは、積層される複数の内部電極層のうち、1つおきに第1エンドマージン80aの端面まで内部電極層が延在する。すなわち、第1エンドマージン80aでは、第1内部電極層10が端面まで延在し、第2内部電極層20が端面まで延在していない。第2内部電極層20と同じ層内では、第2余白部95bが設けられている。また、第1内部電極層0が第1エンドマージン80aの端面まで延在する層では、第1余白部95aが積層されていない。この構成によれば、電池容量領域70と第1エンドマージン80aとの段差が抑制される。なお、第2エンドマージン80bでは、第2内部電極層20が端面まで延在し、第1内部電極層10が端面まで延在していない。第2エンドマージン80bでは、第1内部電極層10と同じ層内では、第1余白部95aが設けられている。
【0034】
固体電解質を含む全固体電池においては、所望の電気特性や機械的強度特性などを得るために、熱処理による焼結工程が行われる。また、全固体電池の長寿命化を図る観点から、特に内部電極層内の電極活物質、固体電解質、および導電助剤が相互に多くの接点を持つように可能な限り高密度に充填した上で、焼結工程を経てより効果的に相互の接点を形成することが望ましい。全固体電池のサイクル特性の劣化要因の一つに、充放電に伴う電極活物質の体積膨張収縮によって内部電極層内のイオン伝導パスおよび電子伝導パスの接続が切れ易いことが考えられる。
【0035】
例えば、外装側から内部に配置される素体を抑えつける方向の外力を用いる技術が公開されている。しかしながら、固体電解質を用いる全固体電池においては、一括焼成によって補強されることがより好ましい。また、内部電極層と固体電解質層とが交互に積層される直方体形状の全固体電池においては、特に内部電極層の厚みがX軸方向の寸法およびY軸方向の寸法に対して十分に薄い設計となるため、内部電極層の体積変化の影響はX軸方向およびY軸方向に顕著に現れやすく、長期充放電サイクル特性の低下に繋がりやすい。
【0036】
そこで、本実施形態に係る全固体電池100aは、長期充放電サイクル特性の低下を抑制することができる構成を有している。本実施形態においては、内部電極層に隣接するマージン部が強固な構成を有し、当該マージン部からの押さえつけによって補強することによって、長期充放電サイクル特性の低下を抑制する。
【0037】
具体的には、第1余白部95aおよび第2余白部95bのビッカース硬度Hvが3GPa以上であり、第1内部電極層10のビッカース硬度Hvに対する第1余白部95aのビッカース硬度Hvの比(第1余白部95aのビッカース硬度/第1内部電極層10のビッカース硬度)が1よりも大きく、第2内部電極層20のビッカース硬度Hvに対する第2余白部95bのビッカース硬度Hvの比(第2余白部95bのビッカース硬度/第2内部電極層20のビッカース硬度)が1よりも大きくなっている。なお、ここでのビッカース硬度Hvは、荷重3gf(=0.029N)下において対象箇所に圧子を15秒間押し込んだ後の圧痕の対角線の長さを読み取ることで算出することができる。
【0038】
このような構成により、第1余白部95aおよび第2余白部95bが強固になり、第1内部電極層10および第2内部電極層20への押さえつけによって第1内部電極層10および第2内部電極層20が補強され、長期充放電サイクル特性の低下を抑制することができる。
【0039】
第1余白部95aに十分な強度を持たせる観点から、第1余白部95aのビッカース硬度Hvは、5GPa以上であることが好ましく、7GPa以上であることがより好ましい。第2余白部95bに十分な強度を持たせる観点から、第2余白部95bのビッカース硬度Hvは、5GPa以上であることが好ましく、7GPa以上であることがより好ましい。
【0040】
第1内部電極層10に対する第1余白部95aの強度を十分に大きくする観点から、第1内部電極層10のビッカース硬度Hvに対する第1余白部95aのビッカース硬度Hvの比は、2以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。第2内部電極層20に対する第2余白部95bの強度を十分に大きくする観点から、第2内部電極層20のビッカース硬度Hvに対する第2余白部95bのビッカース硬度Hvの比は、2以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。
【0041】
第1余白部95aおよび第2余白部95bの強度は、第1余白部95aおよび第2余白部95bに用いる材料によって調整することができる。例えば、第1余白部95aおよび第2余白部95bの材料として、アルミナ、ジルコニア、石英ガラス、シリケートガラス(ソーダ石灰ガラス、アルミノシリケートガラス、ほうケイ酸ガラスなど)、NASICON型リン酸塩系の結晶材、NASICON型リン酸塩系のガラスセラミックスなどの無機材料を用いることができる。表1に、各材料のおおよそのビッカース硬度Hvを記載する。これらの材料を組み合わせて用いてもよい。
【表1】
【0042】
なお、焼結状態によってビッカース硬度が変動し得るため、第1余白部95aおよび第2余白部95bに焼結助剤を添加することによってビッカース硬度Hvを向上させてもよい。例えば、焼結助剤として、Li-B-O系化合物、Li-Si-O系化合物、Li-C-O系化合物、Li-S-O系化合物,Li-P-O系化合物などのガラス成分のどれか1つあるいは複数などのガラス成分を用いてもよい。
【0043】
なお、焼結時の第1余白部95aと第1内部電極層10との界面接合の形成しやすさ、焼結時の第2余白部95bと第2内部電極層20との界面接合の形成しやすさを考慮すると、第1余白部95aおよび第2余白部95bの材料は、第1内部電極層10および第2内部電極層20の固体電解質材料と同系統の材料であることが好ましい。例えば、固体電解質層30、第1余白部95a、および第2余白部95bは、NASICON型の結晶構造を含むリン酸塩系固体電解質を主成分とすることが好ましい。例えば、第1余白部95aおよび第2余白部95bの材料として、Li-Al-Ge-PO4系材料、Li-Al-Ti-PO4系材料、Li-Al-Zr-PO4系材料などを用いることが好ましい。
【0044】
なお、
図3のXZ断面において、各エンドマージンにおける第1余白部95aおよび第2余白部95bのX軸方向の長さは、0.2mm以上10mm以下であることが好ましく、0.5mm以上6mm以下であることがより好ましく、1mm以上5mm以下であることがさらに好ましい。
【0045】
なお、
図4のYZ断面において、各サイドマージン90における第1余白部95aおよび第2余白部95bのY軸方向の長さは、0.2mm以上10mm以下であることが好ましく、0.5mm以上6mm以下であることがより好ましく、1mm以上5mm以下であることがさらに好ましい。
【0046】
続いて、
図2で例示した全固体電池100aの製造方法について説明する。
図6は、全固体電池100aの製造方法のフローを例示する図である。
【0047】
(固体電解質層用の原料粉末作製工程)
まず、上述の固体電解質層30を構成する固体電解質層用の原料粉末を作製する。例えば、原料、添加物などを混合し、固相合成法などを用いることで、酸化物系固体電解質の原料粉末を作製することができる。得られた原料粉末を乾式粉砕することで、所望の平均粒径に調整することができる。例えば、5mmφのZrO2ボールを用いた遊星ボールミルで、所望の平均粒径に調整する。
【0048】
(カバー層用の原料粉末作製工程)
上述のカバー層50を構成するセラミックスの原料粉末を作製する。例えば、原料、添加物などを混合し、固相合成法などを用いることで、カバー層用の原料粉末を作製することができる。得られた原料粉末を乾式粉砕することで、所望の平均粒径に調整することができる。例えば、5mmφのZrO2ボールを用いた遊星ボールミルで、所望の平均粒径に調整する。
【0049】
(余白部用の原料粉末作製工程)
上述の第1余白部95aおよび第2余白部95bを構成する原料粉末を作製する。例えば、原料、添加物などを混合し、固相合成法などを用いることで、余白部用の原料粉末を作製することができる。得られた原料粉末を乾式粉砕することで、所望の平均粒径に調整することができる。例えば、5mmφのZrO2ボールを用いた遊星ボールミルで、所望の平均粒径に調整する。
【0050】
(電極層用ペースト作製工程)
次に、上述の第1内部電極層10および第2内部電極層20の作製用の内部電極用ペーストを個別に作製する。例えば、導電助剤、電極活物質、固体電解質材料、焼結助剤、バインダ、可塑剤などを水あるいは有機溶剤に均一分散させることで内部電極用ペーストを得ることができる。固体電解質材料として、上述した固体電解質ペーストを用いてもよい。導電助剤として、カーボン材料などを用いる。導電助剤として、金属を用いてもよい。導電助剤の金属としては、Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金などが挙げられる。Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金や各種カーボン材料などをさらに用いてもよい。
【0051】
内部電極用ペーストの焼結助剤として、例えば、Li-B-O系化合物、Li-Si-O系化合物、Li-C-O系化合物、Li-S-O系化合物,Li-P-O系化合物などのガラス成分のどれか1つあるいは複数などのガラス成分が含まれている。
【0052】
(外部電極用ペースト作製工程)
次に、上述の第1外部電極40aおよび第2外部電極40bの作製用の外部電極用ペーストを作製する。例えば、導電性材料、ガラスフリット、バインダ、可塑剤などを水あるいは有機溶剤に均一分散させることで外部電極用ペーストを得ることができる。
【0053】
(固体電解質グリーンシート作製工程)
固体電解質層用の原料粉末を、結着材、分散剤、可塑剤などとともに、水性溶媒あるいは有機溶媒に均一に分散させて、湿式粉砕を行うことで、所望の平均粒径を有する固体電解質スラリを得る。このとき、ビーズミル、湿式ジェットミル、各種混練機、高圧ホモジナイザーなどを用いることができ、粒度分布の調整と分散とを同時に行うことができる観点からビーズミルを用いることが好ましい。得られた固体電解質スラリにバインダを添加して固体電解質ペーストを得る。得られた固体電解質ペーストを塗工することで、固体電解質グリーンシート51を作製することができる。塗工方法は、特に限定されるものではなく、スロットダイ方式、リバースコート方式、グラビアコート方式、バーコート方式、ドクターブレード方式などを用いることができる。湿式粉砕後の粒度分布は、例えば、レーザ回折散乱法を用いたレーザ回折測定装置を用いて測定することができる。
【0054】
(積層工程)
図7(a)で例示するように、固体電解質グリーンシート51の一面に、内部電極用ペースト52を印刷する。固体電解質グリーンシート51上で内部電極用ペースト52が印刷されていない周辺領域には、余白部用ペースト53を印刷する。余白部用ペースト53は、固体電解質グリーンシート作製工程と同様の手法で余白部用の原料粉末を塗工することで形成することができる。
図7(b)で例示するように、印刷後の複数の固体電解質グリーンシート51を、交互にずらして積層する。
図8で例示するように、積層方向の上下から、カバーシート54を圧着することで、積層体を得る。この場合、当該積層体において、一方の端面に第1内部電極層10用の内部電極用ペースト52が露出し、他方の端面に第2内部電極層20用の内部電極用ペースト52が露出するように、略直方体形状のグリーンチップを得る。カバーシート54は、固体電解質グリーンシート作製工程と同様の手法でカバー層用の原料粉末を塗工することで形成することができる。カバーシート54は、固体電解質グリーンシート51よりも厚く形成しておく。塗工時に厚くしてもよく、塗工したシートを複数枚重ねることで厚くしてもよい。
【0055】
(焼成工程)
次に、得られたグリーンチップを焼成することによって積層チップ60を得る。焼成の条件は酸化性雰囲気下あるいは非酸化性雰囲気下で、最高温度を好ましくは400℃~1000℃、より好ましくは500℃~900℃などとすることが特に限定なく挙げられる。最高温度に達するまでにバインダを十分に除去するために酸化性雰囲気において最高温度より低い温度で保持する工程を設けてもよい。プロセスコストを低減するためにはできるだけ低温で焼成することが望ましい。焼成後に、再酸化処理を施してもよい。その後、積層チップ60の2端面に外部電極用ペーストを塗布形成・硬化することで第1外部電極40aおよび第2外部電極40bを形成する。
【0056】
(第2実施形態)
第1実施形態では、サイドマージン90が固体電解質層と余白部との積層構造を有していたが、それに限られない。第2実施形態では、サイドマージン90の全体が余白部になっている例について説明する。
【0057】
図9は、第2実施形態に係る全固体電池のYZ断面図である。
図9の断面は、
図2のB-B線断面に対応する。本実施形態においては、サイドマージン90は、積層チップ60の上面から下面にかけて設けられている。本実施形態においては、固体電解質層30はサイドマージン90の内部までは延在しておらず、サイドマージン90の全体が余白部になっている。サイドマージン90は、第1実施形態で説明した第1余白部95aまたは第2余白部95bと同じ構成を有している。したがって、本実施形態においては、サイドマージン90の全体のビッカース硬度Hvが3Ga以上であって、第1内部電極層10のビッカース硬度Hvに対するサイドマージン90のビッカース硬度Hvの比が1よりも大きく、第2内部電極層20のビッカース硬度Hvに対するサイドマージン90のビッカース硬度Hvの比が1よりも大きくなっている。本実施形態においては、サイドマージン90において、第1内部電極層10と同じ層内で隣接する領域が第1余白部としての役割を担い、第2内部電極層20と同じ層内で隣接する領域が第2余白部としての役割を担う。
【0058】
本実施形態のサイドマージン90は、第1実施形態説明した積層工程の代わりに
図10(a)および
図10(b)で例示する積層工程を実施することによって得ることができる。具体的には、
図10(a)で例示するように、固体電解質グリーンシート51と、当該固体電解質グリーンシート51と同じ幅の内部電極用ペースト52とを交互に積層することで、積層部分を得る。次に、積層部分のY軸方向の両端に、第1実施形態で説明した余白部用ペースト53で形成したサイドマージンシート55を貼り付ける。このようにすることで、略直方体形状のグリーンチップを得ることができる。得られたグリーンチップを焼成することによって積層チップ60を得ることができる。
【実施例0059】
(実施例1)
上記実施形態に従って積層型の全固体電池を作製した。第1固体電解質グリーンシート上に、第1内部電極層(正極層)用の第1内部電極用ペーストをスクリーン印刷法により塗布形成した。第1固体電解質グリーンシート上において、第1内部電極用ペーストの周囲に、第1余白部用の余白部用ペーストを印刷した。第2固体電解質グリーンシート上に、第2内部電極層(負極層)用の第2内部電極用ペーストをスクリーン印刷法により塗布形成した。第2固体電解質グリーンシート上において、第2内部電極用ペーストの周囲に、第2余白部用の余白部用ペーストを印刷した。正極層用の第1内部電極用ペーストと、負極層用の第2内部電極用ペーストとが同じ厚みになるようにした。複数の第1固体電解質グリーンシートと、複数の第2固体電解質グリーンシートとを、正極層と負極層とが交互に左右に引き出されるように積層した。所定のサイズにカットし、積層型全固体電池のグリーンチップを得た。グリーンチップを脱脂・焼成することで焼結し、外部電極用ペーストを塗布形成・硬化することで外部電極形成し、積層型全固体電池を得た。
【0060】
実施例1においては、第1内部電極層の正極活物質としてLiCoPO4を用い、第2内部電極層の負極活物質としてTiNb2O7を用い、第1内部電極層および第2内部電極層の固体電解質としてガラスLAGPを用い、第1内部電極層および第2内部電極層の導電助剤としてカーボンブラックを用い、固体電解質層の固体電解質としてガラスLAGPを用いた。第1余白部および第2余白部として、ガラスLAGP(Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12)を用いた。
【0061】
(実施例2)
実施例2では、第1余白部および第2余白部として、ガラスLAGP(Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12)とアルミナを用いた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0062】
(実施例3)
実施例3では、第1余白部および第2余白部として、ガラスLAGP(Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12)とジルコニアを用いた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0063】
(実施例4)
実施例4では、第1余白部および第2余白部として、ガラスLAGP(Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12)と結晶LZP(LiZr2P3O12)を用いた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0064】
(実施例5)
実施例5では、第1余白部および第2余白部として、結晶LAGP(Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12)と焼結助剤(Li3PO4)を用いた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0065】
(比較例1)
比較例1では、第1余白部および第2余白部として、結晶LAGP(Li1.5Al0.5Ge1.5P3O12)と焼結助剤(Li3BO4)を用いた。第1内部電極層および第2内部電極層において焼結助剤、ガラスLAGPなどの混合比を調整して硬さを調整した。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0066】
(比較例2)
比較例2では、第1余白部および第2余白部として、結晶LAZP(Li1.3Al0.3Zr1.7P3O12)と焼結助剤(Li3BO4)を用いた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0067】
(比較例3)
比較例3では、第1余白部および第2余白部として、結晶LAZP(Li1.3Al0.3Zr1.7P3O12)を用いた。第1内部電極層および第2内部電極層において焼結助剤、ガラスLAGPなどの混合比を調整して硬さを調整した。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0068】
(ビッカース硬度)
実施例1~5および比較例1~3のそれぞれの全固体電池について、クロスセクションポリッシャ(CP)による断面出し加工を行った後、JIS R 1610により、第1余白部および第2余白部のビッカース硬度Hv(マージン部)を測定し、第1内部電極層および第2内部電極層のビッカース硬度Hc(電極層)を測定した。また、ビッカース硬度Hv(電極層)に対するビッカース硬度Hv(マージン部)の比を測定した。ビッカース試験機には、株式会社マツザワ製、MMT-X3を使用し、荷重3gf(=0.029N)下にて、対象箇所に圧子を15秒間押し込んだ後、圧痕の対角線の長さを読み取り、ビッカース硬度(Hv)を算出した。結果を表2に示す。
【表2】
【0069】
ビッカース硬度Hv(マージン部)は、実施例1では10.77GPaであり、実施例2では8.69GPaであり、実施例3では6.12GPaであり、実施例4では5.40GPaであり、実施例5では3.17GPaであり、比較例1では3.13GPaであり、比較例2では2.24GPaであり、比較例3では1.17GPaであった。
【0070】
ビッカース硬度Hv(電極層)は、実施例1では1.94GPaであり、実施例2では1.80GPaであり、実施例3では1.76GPaであり、実施例4では1.89GPaであり、実施例5では1.88GPaであり、比較例1では3.48GPaであり、比較例2では1.80GPaであり、比較例3では3.25GPaであった。
【0071】
ビッカース硬度Hv(マージン部)/ビッカース硬度(電極層)は、実施例1では5.55であり、実施例2では4.83であり、実施例3では3.48であり、実施例4では2.86であり、実施例5では1.69であり、比較例1では0.90であり、比較例2では1.24であり、比較例3では0.36であった。
【0072】
(長期充放電サイクル特性)
実施例1~5および比較例1~3のそれぞれの全固体電池について、100サイクル後の容量維持率を測定した。充放電試験は室温にて行い、10μA/cm2の電流密度で3.4Vとなるまで充電後、10minの休止を挟み、同じ電流密度で0Vとなるまでを放電して100サイクル繰り返し測定を行った。100サイクル後の放電容量を初回放電容量で除した値を容量維持率として定義し、100サイクル後の容量維持率が80%以上であれば非常に良好「◎」と判断し、70%以上80%未満であれば良好「〇」と判断し、50%以上70%未満であればやや良好「△」、50%未満であれば不良「×」とし判断した。
【0073】
実施例1~5のいずれにおいても、長期充放電サイクル特性は非常に良好「◎」、良好「〇」、またはやや良好「△」と判断された。これは、ビッカース硬度Hv(マージン部)が3GPa以上であって、ビッカース硬度Hv(マージン部)/ビッカース硬度Hv(電極層)が1を上回り、内部電極層に隣接するマージン部が強固な構成を有し、当該マージン部からの押さえつけによって補強されたからであると考えられる。これに対して比較例1~3のいずれにおいても、長期充放電サイクル特性は不良「×」と判断された。比較例1,3については、ビッカース硬度Hv(マージン部)/ビッカース硬度Hv(電極層)が1を上回らなかったからであると考えられる。比較例2については、ビッカース硬度Hv(マージン部)が3GPa未満であったからであると考えられる。
【0074】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。