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特開2024-159043粒子状共重合体、水分散体、リチウムイオン二次電池用接着剤、リチウムイオン二次電池保護層用スラリー、リチウムイオン二次電池用保護層、リチウムイオン二次電池用セパレータ及びリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159043
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】粒子状共重合体、水分散体、リチウムイオン二次電池用接着剤、リチウムイオン二次電池保護層用スラリー、リチウムイオン二次電池用保護層、リチウムイオン二次電池用セパレータ及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/42 20210101AFI20241031BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20241031BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20241031BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M50/42
H01M50/489
H01M50/443 B
H01M50/449
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074775
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】福満 幸平
(72)【発明者】
【氏名】成嶋 大介
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE06
5H021EE15
5H021HH01
5H021HH03
5H021HH06
(57)【要約】
【課題】優れた耐熱収縮性を発現する粒子状共重合体等を提供する
【解決手段】
アセトアセチル基含有ビニル単量体M1に由来する単位U1と、
ラジカル重合性二重結合を1つ有し、かつ、前記M1とは異なる(メタ)アクリル酸エステル単量体M2に由来する単位U2と、
カルボキシル基含有単量体M3に由来する単位U3と、
前記M1、M2及びM3とは異なり、これらと共重合可能な単量体M4に由来する単位U4と、
を分子中に有する粒子状共重合体であって、
前記粒子状共重合体における前記単位U1の含有量C1が、前記粒子状共重合体100質量%に対して、6質量%以上である、粒子状共重合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトアセチル基含有ビニル単量体M1に由来する単位U1と、
ラジカル重合性二重結合を1つ有し、かつ、前記M1とは異なる(メタ)アクリル酸エステル単量体M2に由来する単位U2と、
カルボキシル基含有単量体M3に由来する単位U3と、
前記M1、M2及びM3とは異なり、これらと共重合可能な単量体M4に由来する単位U4と、
を分子中に有する粒子状共重合体であって、
前記粒子状共重合体における前記単位U1の含有量C1が、前記粒子状共重合体100質量%に対して、6質量%以上である、粒子状共重合体。
【請求項2】
前記含有量C1が、9質量%以上99質量%以下である、請求項1に記載の粒子状共重合体。
【請求項3】
前記単位U2が、エポキシ基含有ビニル単量体に由来する単位U2’を含み、
前記粒子状共重合体における単位U2’の含有量C2’が、前記粒子状共重合体100質量%に対して、2質量%以上20質量%以下である、請求項1に記載の粒子状共重合体。
【請求項4】
前記粒子状共重合体のガラス転移温度が、-40℃~30℃である、請求項1に記載の粒子状共重合体。
【請求項5】
前記粒子状共重合体の粒径が、40~600nmである、請求項1に記載の粒子状共重合体。
【請求項6】
前記M2が、エポキシ基含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル単量体及び加水分解性シリル基を有するビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含み、
前記M4が、ラジカル重合性二重結合を2個以上有する単量体及びアミド基含有ビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の粒子状共重合体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の粒子状共重合体を含む、水分散体。
【請求項8】
無機フィラーを更に含む、請求項7に記載の水分散体。
【請求項9】
電極とセパレータとを接着するためのリチウムイオン二次電池用接着剤であって、
請求項7に記載の水分散体を含む、リチウムイオン二次電池用接着剤。
【請求項10】
請求項8に記載の水分散体を含む、リチウムイオン二次電池保護層用スラリー。
【請求項11】
無機フィラーと、
請求項1~6のいずれか一項に記載の粒子状共重合体と、
を含む、リチウムイオン二次電池用保護層。
【請求項12】
請求項11に記載のリチウムイオン二次電池用保護層を含む、リチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項13】
請求項12に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータを含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状共重合体、水分散体、リチウムイオン二次電池用接着剤、リチウムイオン二次電池保護層用スラリー、リチウムイオン二次電池用保護層、リチウムイオン二次電池用セパレータ及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池に代表される蓄電デバイスの開発が、活発に行われている。通常、リチウムイオン二次電池には、セパレータが正負極間に設けられている。セパレータは、正負極間の直接的な接触を防ぎ、かつ微多孔中に保持した電解液を通し、イオンを透過させる機能を有する。リチウムイオン二次電池の電気特性及び安全性を確保しながらセパレータにさまざまな性質を付与するために、セパレータの基材表面に無機フィラー及び樹脂バインダーを含む保護層を配置したセパレータが提案されている。例えば、特許文献1には、ポリマー分子鎖の側鎖にアセトアセチル基を有する架橋ポリマー層を多孔質樹脂フィルムに担持させてなる電池用セパレータが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-087795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、電解液中に溶出した金属イオンを補足して、負極表面への析出を低減し、かくして、充放電を繰り返しても、容量の劣化が少ない非水リチウムイオン二次電池を与えるセパレータを得ることができるとされている。
一方、二次電池においてセパレータ基材が有する微多孔は、電池が発熱すると孔が収縮して、例えばリチウムイオン等の通過を阻害し、二次電池の暴走を抑制する。しかしながら、150℃以上等のさらに高温での暴走が起こると、セパレータが収縮を起こし、電極の短絡が起こるという問題がある。特に、近年は電池の高容量化が進んでおり、暴走時の発熱量が大きくなる傾向にあり、高温になった際のセパレータの収縮を防止すること(以下、かかる性能を「耐熱収縮性」ともいう。)が求められている。
本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の技術には、セパレータとして適用する場合の耐熱収縮性の観点から、未だ改善の余地があることが判明している。
【0005】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、優れた耐熱収縮性を発現する粒子状共重合体等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究した結果、所定の組成を有する粒子状共重合体により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
[1]
アセトアセチル基含有ビニル単量体M1に由来する単位U1と、
ラジカル重合性二重結合を1つ有し、かつ、前記M1とは異なる(メタ)アクリル酸エステル単量体M2に由来する単位U2と、
カルボキシル基含有単量体M3に由来する単位U3と、
前記M1、M2及びM3とは異なり、これらと共重合可能な単量体M4に由来する単位U4と、
を分子中に有する粒子状共重合体であって、
前記粒子状共重合体における前記単位U1の含有量C1が、前記粒子状共重合体100質量%に対して、6質量%以上である、粒子状共重合体。
[2]
前記含有量C1が、9質量%以上99質量%以下である、[1]に記載の粒子状共重合体。
[3]
前記単位U2が、エポキシ基含有ビニル単量体に由来する単位U2’を含み、
前記粒子状共重合体における単位U2’の含有量C2’が、前記粒子状共重合体100質量%に対して、2質量%以上20質量%以下である、[1]又は[2]に記載の粒子状共重合体。
[4]
前記粒子状共重合体のガラス転移温度が、-40℃~30℃である、[1]~[3]のいずれかに記載の粒子状共重合体。
[5]
前記粒子状共重合体の粒径が、40~600nmである、[1]~[4]のいずれかに記載の粒子状共重合体。
[6]
前記M2が、エポキシ基含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル単量体及び加水分解性シリル基を有するビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含み、
前記M4が、ラジカル重合性二重結合を2個以上有する単量体及びアミド基含有ビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の粒子状共重合体。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載の粒子状共重合体を含む、水分散体。
[8]
無機フィラーを更に含む、[7]に記載の水分散体。
[9]
電極とセパレータとを接着するためのリチウムイオン二次電池用接着剤であって、
[7]に記載の水分散体を含む、リチウムイオン二次電池用接着剤。
[10]
[8]に記載の水分散体を含む、リチウムイオン二次電池保護層用スラリー。
[11]
無機フィラーと、
[1]~[6]のいずれかに記載の粒子状共重合体と、
を含む、リチウムイオン二次電池用保護層。
[12]
[11]に記載のリチウムイオン二次電池用保護層を含む、リチウムイオン二次電池用セパレータ。
[13]
[12]に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータを含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた耐熱収縮性を発現する粒子状共重合体等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
本明細書において、「(メタ)アクリル」及び「(メタ)アクリレート」とは、「メタアクリル及びアクリル」並びに「メタアクリレート及びアクリレート」の双方を包含する意味で用いる。
【0011】
[粒子状共重合体]
本実施形態の粒子状共重合体は、アセトアセチル基含有ビニル単量体M1(以下、単に「M1」ともいう。)に由来する単位U1と、ラジカル重合性二重結合を1つ有し、かつ、前記M1とは異なる(メタ)アクリル酸エステル単量体M2(以下、単に「M2」ともいう。)に由来する単位U2と、カルボキシル基含有単量体M3(以下、単に「M3」ともいう。)に由来する単位U3と、前記M1、M2及びM3とは異なり、これらと共重合可能な単量体M4(以下、単に「M4」ともいう。)に由来する単位U4と、を分子中に有する粒子状共重合体であって、前記粒子状共重合体における前記単位U1の含有量C1が、前記粒子状共重合体100質量%に対して、6質量%以上である。本実施形態の粒子状共重合体は、このように構成されているため、優れた耐熱収縮性を発現することができる。
【0012】
(単位U1)
本実施形態の粒子状共重合体は、アセトアセチル基含有ビニル単量体M1に由来する単位U1を分子中に有する。なお、(メタ)アクリル酸エステル構造を有する単量体であっても、アセトアセチル基を含有するものであれば、(メタ)アクリル酸エステル単量体M2ではなくアセトアセチル基含有ビニル単量体M1に分類する。単位U1に含まれるアセトアセチル基は、優れた耐熱収縮性の発現に寄与する。
【0013】
本実施形態において、耐熱収縮性が発現する理由については、次のように推測されるが、本実施形態の作用機序を以下の内容に限定する趣旨ではない。
一般に、リチウムイオン二次電池用のセパレータは、微多孔を有するポリオレフィン膜等で構成されるセパレータ基材と、当該基材上に配される保護層とから構成されるものが広く用いられている。この保護層は、例えば、熱収縮を抑えること等の機能付与を目的に設けられる。
上記保護層の形成方法としては、例えば、無機フィラー、ラテックス、分散剤、増粘剤及び水等を含む組成物をポリオレフィン基材上に塗工する方法等が挙げられる。このとき、セパレータ基材と保護層とは剥離しないように密着性が高いことが求められる。
本発明者らは、密着性を高めることにより、保護層がセパレータ基材を強力に支持し、熱収縮を抑えられると考え、検討を行った。しかしながら、検討の結果、密着性を高めるべく単に接着力が高くなるよう調整した保護層では熱収縮を抑えられないことが明らかとなった。
ここで、本発明者らが更なる検討を行った結果、保護層の挙動を、温度変化に応じて制御することが重要であり、当該制御を行うことにより150℃といった高温においてもセパレータの熱収縮を抑制できることを見出した。すなわち、セパレータ基材の収縮応力が高まる付近の温度よりも低い温度(以下、「低温時」ともいう。)では、セパレータ基材と保護層との界面接着を強くし、且つ、セパレータ基材の収縮応力が高まる付近の温度以上の温度(以下、「高温時」ともいう。)では、セパレータ基材と保護層との融着も起こるようにすることにより、150℃といった高温においてもセパレータの熱収縮を抑制できると推測するに至った。そのような推測の下、本発明者らは、保護層の形成材料について種々検討を行い、アセトアセチル基を分子中に有する粒子状共重合体を適用することで、塗工層が低温時と高温時における所望の挙動を示し、150℃といった高温において、保護層に優れた耐熱収縮性を付与できることを見出した。
【0014】
上記観点から、本実施形態の粒子状共重合体における単位U1の含有量C1は、前記粒子状共重合体100質量%に対して、6質量%以上である。すなわち、含有量C1が6質量%以上であることにより、本実施形態の粒子状共重合体は、優れた耐熱収縮性を発現する。含有量C1が6質量%未満であると、十分な耐熱収縮性を確保し難くなる。
上記と同様の観点から、含有量C1は、好ましくは7質量%以上であり、より好ましくは9質量%以上であり、さらに好ましくは15質量%以上であり、よりさらに好ましくは19質量%以上である。含有量C1の上限としては、特に限定されないが、粒子状共重合体100質量%に対して、99質量%以下であってもよく、98質量%以下であってもよく、96質量%以下であってもよく、50質量%以下であってもよく、45質量%以下であってもよく、40質量%以下であってもよく、35質量%以下であってもよく、30質量%以下であってもよい。本実施形態において、含有量C1は、9質量%以上99質量%以下であることが好ましい。
含有量C1を上記した範囲に調整とする方法としては、例えば、後述する粒子状共重合体の製造方法において、乳化重合を実施する際に、アセトアセチル基含有ビニル単量体M1の配合比を単量体全量に対し所定量とする方法等が挙げられる。
含有量C1は、粒子状共重合体の製造の際の単量体の配合比から算出してもよく、IR(ATR法)等を用いて、各種スペクトルデータから算出してもよい。
【0015】
上述したように、本実施形態の粒子状共重合体によれば、150℃といった高温においてもセパレータの熱収縮を抑制することができる。本実施形態の粒子状共重合体によれば、セパレータにおける保護層の挙動を温度変化に応じて制御することができるものと推測される。上記挙動は、換言すると、低温時は保護層の柔軟性が高まり、且つ、高温時は保護層が固くなることを示唆する。低温時に保護層の柔軟性が高くなると、セパレータ基材と保護層との密着性が高くなり、熱収縮が抑制される傾向にある。また、高温時でも保護層が固く維持されると、保護層がセパレータ基材を支持し、150℃といった高温においてもセパレータの熱収縮が抑制される傾向にある。
本発明者らの検討の結果、本実施形態の粒子状共重合体中のアセトアセチル基は、当該粒子状共重合体と併存し得る無機フィラー中の金属イオンと配位結合をし得る、すなわち、錯体構造を形成し得ることから、粒子状共重合体と無機フィラーとの間の結着力が向上する傾向にあり、高温時も保護層が崩れることなく、保護層を硬く維持することによって、保護層がセパレータ基材を支持し、150℃といった高温においてもセパレータの熱収縮を抑制する。
上記のとおり、本実施形態の粒子状共重合体を無機フィラーと共に保護層として適用する場合、保護層が低温時と高温時において所望の挙動を示すという本実施形態の効果がより顕在化する傾向にあり、したがって150℃といった高温においても、保護層がセパレータの熱収縮をより抑制できる傾向にある。
【0016】
アセトアセチル基含有ビニル単量体M1としては、以下に限定されないが、例えば、アセト酢酸ビニル、アセト酢酸アリル等のアセト酢酸アルケニルエステル類;例えば、2-アセトアセトキシエチルアクリレート、2-アセトアセトキシエチルメタクリレート、2-アセトアセトキシプロピルアクリレート、2-アセトアセトキシプロピルメタクリレート、2-シアノアセトアセトキシエチルメタクリレート等のアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステル;例えば、2-アセトアセトキシエチルクロトネート、2-アセトアセトキシプロピルクロトネート等のアルキレングリコールのクロトン酸アセト酢酸ジエステル;例えば、N-(アセトアセトキシメチル)アクリルアミド、N-(アセトアセトキシメチル)メタクリルアミド、N-(アセトアセトキシエチル)アクリルアミド、N-(アセトアセトキシエチル)メタクリルアミド等のN-アルキロール(メタ)アクリルアミドのアセト酢酸エステル等を挙げることができる。アセトアセチル基含有ビニル単量体M1は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でもアセト酢酸アリル、2-アセトアセトキシエチルアクリレート、2-アセトアセトキシエチルメタクリレート、2-アセトアセトキシプロピルアクリレート、2-アセトアセトキシプロピルメタクリレートが好ましい。
【0017】
(単位U2)
本実施形態の粒子状共重合体は、ラジカル重合性二重結合を1つ有し、かつ、M1とは異なる(メタ)アクリル酸エステル単量体M2に由来する単位U2を分子中に有する。
本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリレートとも記載する。
M2としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、t-ブチルシクロヘキシルアクリレート等のアルキル基を有する(メタ)アクリレート;ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート等の芳香環を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
アルキル基を有する(メタ)アクリレートは、好ましくはアルキル基と(メタ)アクリロイルオキシ基とからなる(メタ)アクリレートである。
芳香環を有する(メタ)アクリレートは、好ましくは芳香環と(メタ)アクリロイルオキシ基とからなる(メタ)アクリレートである。
【0018】
(メタ)アクリル酸エステル単量体は、炭素数4以上のアルキル基と(メタ)アクリロイルオキシ基とからなる(メタ)アクリル酸エステル単量体がより好ましく、炭素数6以上のアルキル基と(メタ)アクリロイルオキシ基とからなる(メタ)アクリル酸エステル単量体がさらに好ましく、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、及びt-ブチルシクロヘキシルアクリレートからなる群より選ばれる1つ以上がよりさらに好ましく、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートからなる群より選ばれる1つ以上がさらにより好ましい。このような(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いることは、乳化重合時の重合安定性を向上させる観点や、電極との接着性を向上させる観点から好ましい。
【0019】
M2としては、エポキシ基含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル単量体及び加水分解性シリル基を有するビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0020】
エポキシ基含有ビニル単量体としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルアクリレート、及びメチルグリシジルメタクリレート等が挙げられる。エポキシ基含有ビニル単量体としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本実施形態において、単位U2が、エポキシ基含有ビニル単量体に由来する単位U2’を含む場合、粒子状共重合体における単位U2’の含有量C2’は、粒子状共重合体100質量%に対して、2質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0021】
水酸基含有ビニル単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタアクリレート等のヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジ-(エチレングリコール)マレエート、ジ-(エチレングリコール)イタコネート、2-ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2-ヒドロキシエチル)マレエート、及び2-ヒドロキシエチルメチルフマレートが挙げられる。水酸基含有ビニル単量体としては、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
加水分解性シリル基含有ビニル単量体としては、例えば、ビニルシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及びγ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。加水分解性シリル基含有ビニル単量体としては1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
(メタ)アクリル酸エステル単量体M2に由来する単位U2の含有量は、特に限定されないが、本実施形態の粒子状共重合体100質量%に対して、例えば、2質量%以上90質量%以下とすることができ、好ましくは10質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上90質量%以下である。粒子状共重合体全量に対する(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量が2質量%以上90質量%以下の範囲にあることにより、粒子状共重合体は、低温時に塗工層の柔軟性を高め(すなわち、セパレータと塗工層との剥離強度を強くし)、且つ、高温時に塗工層を固くするとの挙動をより実現しやすくなり、高温になったとしてもセパレータが収縮することをより抑制できる傾向にある。
【0024】
(単位U3)
本実施形態の粒子状共重合体は、カルボキシル基含有単量体M3に由来する単位U3を分子中に有する。
カルボキシル基含有単量体M3としては、例えば、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体が挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸エステル構造を有する単量体であっても、カルボキシル基を含有するものであれば、(メタ)アクリル酸エステル単量体M2ではなくカルボキシル基含有単量体M3に分類する。本明細書において、カルボキシル基含有単量体を不飽和カルボン酸ともいう。
カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸のハーフエステル、マレイン酸のハーフエステル及びフマール酸のハーフエステル等のモノカルボン酸単量体;イタコン酸、フマール酸及びマレイン酸等のジカルボン酸単量体等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて含まれる。
これらの中でも、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸であり、より好ましくはアクリル酸、メタクリル酸である。
【0025】
カルボキシル基含有単量体M3に由来する単位U3の含有量は、本実施形態の粒子状共重合体100質量%に対して、例えば、0.1質量%以上10質量%以下とすることができる。この場合において、さらに、エポキシ基含有ビニル単量体に由来する単位U2’の含有量C2’が、前記粒子状共重合体100質量%に対して、2質量%以上20質量%以下であることが好ましい。本実施形態において、単位U3の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であり、かつ、単位U2’の含有量C2’が2質量%以上20質量%以下である場合、セパレータ基材上の保護層(粒子状共重合体を含む保護層)内において、エポキシ基とカルボキシル基とが高温下で架橋反応を起こしやすく、保護層の粘性が高まり(すなわち、高温において保護層が固くなり)、また、セパレータ基材と保護層との融着がより起こりやすくなり、保護層がセパレータ基材を収縮させないよう固定する効果がより顕在化する傾向にある。
セパレータの熱収縮をより抑制する観点から、単位U3の含有量は、好ましくは0.5質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上3質量%以下である。
また、上記と同様の観点から、エポキシ基含有ビニル単量体に由来する単位U2’の含有量C2’と単位U3の含有量との合計量は、本実施形態の粒子状共重合体100質量%に対して、4質量%超であることが好ましく、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。上記合計量の上限は、20質量%以下であってもよく、好ましくは15質量%以下である。
更に、上記と同様の観点から、エポキシ基含有ビニル単量体に由来する単位U2’の含有量C2’と、単位U3の含有量との比が、含有量C2’/単位U3の含有量として、0.5以上10以下であることが好ましく、より好ましくは1.0以上10以下であり、さらに好ましくは1.5以上8.0以下であり、よりさらに好ましくは2超6未満である。
【0026】
(単位U4)
本実施形態の粒子状共重合体は、前記M1、M2及びM3とは異なり、これらと共重合可能な単量体M4に由来する単位U4を分子中に有する。M4は、前記M1、M2及びM3のいずれにも該当しない単量体であり、例えば、ラジカル重合性の二重結合を2個以上有する単量体、及びアミド基含有ビニル単量体等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの単量体をM4として用いること場合、例えば、本実施形態の粒子状共重合体をリチウムイオン二次電池用接着剤として、電極やセパレータの接着に適用したときに、適度な流動性を保ちつつ接着可能であるため、取り扱い性に優れる傾向にある。
【0027】
ラジカル重合性の二重結合を2個以上有する単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、及び、多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。ラジカル重合性の二重結合を2個以上有する単量体の中でも、少量でも耐電解液に対するより良好な耐性を示すことから、好ましくは多官能(メタ)アクリレートである。
多官能(メタ)アクリレートとしては、2官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート、4官能(メタ)アクリレートであってもよい。より具体的には、以下に限定されないが、エチレンジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及びペンタエリスリトールテトラメタクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
これらの中でも、少量でも耐電解液に対するより良好な耐性を示すことから、好ましくはトリメチロールプロパントリアクリレート及びトリメチロールプロパントリメタクリレートである。
【0028】
アミド基含有ビニル単量体としては、例えば、アクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルメタクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、及びN-ブトキシメチルメタクリルアミド等が挙げられる。その他、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、ジメチロールアクリルアミド、及びジメチロールメタクリルアミド等のメチロール基含有ビニル単量体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0029】
本実施形態において、前述した観点から、前記M2が、エポキシ基含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル単量体及び加水分解性シリル基を有するビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含み、前記M4が、ラジカル重合性二重結合を2個以上有する単量体及びアミド基含有ビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0030】
単位U4の含有量は、本実施形態の粒子状共重合体100質量%に対して、例えば、0.1質量%以上10質量%以下とすることができ、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上4質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以上2.5質量%以下である。
単位U4の含有量が0.2質量%以上2.5質量%以下の範囲である場合、セパレータ基材上に設けられた保護層(粒子状共重合体を含む保護層)がセパレータ基材の熱収縮をより抑制できる傾向にある。
【0031】
(ガラス転移温度)
本実施形態の粒子状共重合体におけるガラス転移温度は、好ましくは-40℃以上30℃以下であり、より好ましくは-30℃以上20℃以下であり、さらに好ましくは-25℃以上10℃以下である。
ガラス転移温度が上記範囲である場合、本実施形態の粒子状共重合体を含む組成物をセパレータ基材上に塗工する際に容易に塗工できる傾向にある。
ガラス転移温度は、例えば、粒子状共重合体を構成する、(メタ)アクリル酸エステル単量体M2及び/又はカルボキシル基含有単量体M3の使用量を制御すること等により-40℃以上60℃以下の範囲に調整することができる。
ガラス転移温度は、実施例に記載の方法に基づいて測定することができる。
【0032】
(粒径)
本実施形態の粒子状共重合体の粒径は、好ましくは40nm以上600nm以下であり、より好ましくは40nm以上500nm以下であり、さらに好ましくは50nm以上300nm以下である。
粒径が上記範囲である場合、本実施形態の粒子状共重合体を後述するようにリチウムイオン二次電池用接着剤等として適用し、セパレータを接着させる際に、適度な空隙を十分に残すことができ、電解液中のイオンを透過させるセパレータの機能を維持できる傾向にある。
粒径は、例えば、シードラテックス、界面活性剤を所望の割合で使用することにより調整できる。通常、シードラテックス、界面活性剤の使用量を大きくすることにより、粒径(D50)は小さくなる傾向にある。
粒径は、実施例に記載の方法に基づいて測定することができる。
【0033】
[粒子状共重合体の製造方法]
本実施形態の粒子状共重合体は、既知の重合方法により製造することができる。重合方法としては、例えば、溶液重合、乳化重合、塊状重合等の適宜の方法が用いられる。
【0034】
本実施形態の粒子状共重合体を分散体(例えば、後述する水分散体)として得るために、重合方法は、乳化重合法を用いることが好ましい。乳化重合の方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。乳化重合の方法としては、例えば、水性媒体中で、アセトアセチル基含有ビニル単量体M1、(メタ)アクリル酸エステル単量体M2、カルボキシル基含有単量体M3、前記M1、M2及びM3とは異なり、これらと共重合可能な単量体M4、ラジカル重合開始剤、並びに必要に応じて用いられる他の添加剤成分(例えば、分子量調整剤)を基本組成成分とする分散系において、単量体を重合することにより、粒子状の共重合体が得られる。
重合に際して、反応系内に供給する単量体の組成を全重合過程で一定にする方法や、供給する単量体の組成を重合過程で逐次又は連続的に変化させて生成する樹脂分散体の粒子の組成変化を与える方法等、必要に応じて様々な方法が利用できる。
共重合体を乳化重合により得る場合、例えば、得られる粒子状共重合体は、水と、その水中に分散した粒子状の共重合体とを含む水分散体(ラテックス)の形態であってもよい。
【0035】
ラジカル重合開始剤は、熱又は還元性物質によりラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものである。
ラジカル重合開始剤としては、無機系開始剤及び有機系開始剤のいずれも用いることができる。
ラジカル重合開始剤としては、水溶性又は油溶性の重合開始剤を用いることができる。水溶性の重合開始剤としては、例えば、ペルオキソ二硫酸塩、過酸化物、水溶性のアゾビス化合物、過酸化物-還元剤のレドックス系が挙げられる。
ペルオキソ二硫酸塩としては、例えば、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(NPS)、及びペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)等が挙げられる。
過酸化物としては、例えば、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシマレイン酸、コハク酸パーオキシド、及び過酸化ベンゾイル等が挙げられる。
水溶性のアゾビス化合物としては、例えば、2,2-アゾビス(N-ヒドロキシエチルイソブチルアミド)、2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩化水素、4,4-アゾビス(4-シアノペンタン酸)等が挙げられる。
過酸化物-還元剤のレドックス系としては、例えば、上記過酸化物にナトリウムスルホオキシレートホルムアルデヒド、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸、及びその塩、第一銅塩、並びに第一鉄塩等の還元剤の1種又は2種以上を組み合わせたものが挙げられる。
【0036】
ラジカル重合開始剤は、単量体総量100質量部に対して、好ましくは0.05~2質量部用いることができる。
【0037】
分子量調整剤としては、例えば、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、n-ヘキシメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸等のメルカプタン類、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン類等の他、ターピノーレン、α-メチルスチレンダイマー等、通常の乳化重合において使用可能なものをすべて使用できる。これらの中でも、n-ドデシルメルカプタンが好ましく使用される。
【0038】
分子量調整剤の使用量は、各部を重合する際に使用する単量体総量100質量部に対して5質量部以下であることが好ましい。
【0039】
[水分散体]
本実施形態の水分散体は、本実施形態の粒子状共重合体を含む。本実施形態の水分散体は、例えば、本実施形態の粒子状共重合体(ラテックス粒子)が水中で分散した分散液の形態を有するものが挙げられる。本実施形態の水分散体は、前述した粒子状共重合体の製造方法において、乳化重合を実施すること等により得ることができる。
【0040】
本実施形態の水分散体の固形分濃度は、特に限定されないが、本実施形態の粒子状共重合体の固形分濃度として、10質量%以上60質量%以下とすることができる。上記固形分濃度は、後述する実施例に記載の方法に基づいて測定することができる。
【0041】
本実施形態の水分散体のpHは、特に限定されないが、6以上10未満とすることができ、7以上9以下であることが好ましい。本実施形態の水分散体のpHが7以上9未満である場合、例えば、本実施形態の粒子状共重合体がエポキシ基含有ビニル単量体に由来する単位U2’を含んでいても、経時的に起こり得るエポキシ基の開環反応を抑え、分散液の長期安定性を保つことができる傾向にある。
本実施形態の水分散体のpHの調整には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びジメチルアミノエタノール等のアミン類を用いることが好ましく、アンモニア(水)又は水酸化ナトリウムによりpHを調整することがより好ましい。
本実施形態の水分散体のpHは、実施例に記載の方法に基づいて測定することができる。
【0042】
本実施形態の水分散体は、本実施形態の粒子状共重合体を、水中に分散した状態で含むことができるが、当該水分散体には、水及び共重合体以外に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の溶媒や、分散剤、滑剤、増粘剤、殺菌剤等が含まれていてもよい。また、本実施形態の水分散体は、無機フィラーを更に含むものであってもよい。無機フィラーとしては、特に限定されず、後述する無機フィラーを適宜採用することができる。
【0043】
[リチウムイオン二次電池用接着剤]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用接着剤は、電極とセパレータとを接着するためのリチウムイオン二次電池用接着剤であって、本実施形態の水分散体を含む。本実施形態のリチウムイオン二次電池用接着剤は、例えば、リチウムイオン二次電池におけるセパレータと、電極とを接着するために用いられる。より具体的には、本実施形態のリチウムイオン二次電池用接着剤は、例えば、リチウムイオン二次電池のセパレータや、電極上に接着層を形成する際に用いられる。すなわち、本実施形態のリチウムイオン二次電池用接着剤をセパレータ上に塗布し、接着層を形成することにより、リチウムイオン二次電池用接着層付きセパレータを製造することができる。リチウムイオン二次電池用接着層付きセパレータをリチウムイオン二次電池に適用する場合の、より詳細な電池構成については、例えば、特開2015-41603号公報等に記載されたものを参照できる。
【0044】
[リチウムイオン二次電池保護層用スラリー]
本実施形態のリチウムイオン二次電池保護層用スラリー(以下、「本実施形態のスラリー」ともいう。)は、本実施形態の水分散体を含む。本実施形態のスラリーは、更に、無機フィラーを含んでいてもよい。
【0045】
本実施形態のスラリーは、当該スラリーを、例えば、リチウムイオン二次電池用のセパレータ基材表面に塗布した後、乾燥して、セパレータ基材上に本実施形態の粒子状共重合体と必要に応じて無機フィラーとを含む保護層を形成するために用いられる分散液である。本実施形態のスラリーは、必要に応じて、導電助剤、増粘剤、非水系溶剤等を更に含有していてもよい。
【0046】
[リチウムイオン二次電池保護層]
本実施形態のリチウムイオン二次電池保護層(以下、「フィラー保護層」ともいう。)は、無機フィラーと、本実施形態の粒子状共重合体と、を含む。すなわち、本実施形態において、フィラー保護層は、本実施形態のスラリーであって、無機から得ることができる。
【0047】
(無機フィラー)
本実施形態のスラリーやフィラー保護層に含まれ得る無機フィラーとしては、特に限定されないが、200℃以上の融点を持ち、電気絶縁性が高く、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。
【0048】
無機フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。
【0049】
これらの中でも電気化学的安定性及びセパレータの耐熱特性を向上させる観点から、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))等の酸化アルミニウム化合物;及びカオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト等の、イオン交換能を持たないケイ酸アルミニウム化合物が好ましい。
【0050】
なお、アルミナには、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、θ-アルミナ等の多くの結晶形態が存在し、いずれも好適に使用することができる。これらの中でも、熱的及び化学的安定性の観点から、α-アルミナが好ましい。
【0051】
酸化アルミニウム化合物としては、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))が好ましい。水酸化酸化アルミニウムとしては、リチウムデンドライトの発生に起因する内部短絡を防止する観点から、ベーマイトがより好ましい。保護層を構成する無機フィラーとして、ベーマイトを主成分とする粒子を採用することにより、高い透過性を維持しながら、非常に軽量な保護層を実現できる上に、より薄い保護層においても保護膜の高温での熱収縮が抑制され、優れた耐熱性を発現する傾向にある。電気化学デバイスの特性に影響を与え得るイオン性の不純物を低減できる合成ベーマイトがさらに好ましい。
【0052】
イオン交換能を持たないケイ酸アルミニウム化合物としては、安価で入手も容易なため、主としてカオリン鉱物から構成されているカオリンがより好ましい。カオリンには、湿式カオリン及びこれを焼成処理して成る焼成カオリンが知られている。
本実施形態では、焼成カオリンがさらに好ましい。焼成カオリンは、焼成処理の際に、結晶水が放出されており、さらに不純物も除去されていることから、電気化学的安定性に優れる傾向にある。
【0053】
無機フィラーの平均粒径は、0.01μmを超えて4.0μm以下であることが好ましく、0.1μmを超えて3.5μm以下であることがより好ましく、0.2μmを超えて3.0μm以下であることがさらに好ましい。無機フィラーの平均粒径を上記範囲に調整することは、フィラー保護層の厚さが薄い場合(例えば、7μm以下)であっても高温における熱収縮を抑制する観点から好ましい。無機フィラーの粒径及びその分布を調整する方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の適宜の粉砕装置を用いて無機フィラーを粉砕して粒径を小さくする方法等を挙げることができる。
【0054】
無機フィラーの形状としては、例えば、板状、鱗片状、針状、柱状、球状、多面体状、塊状等が挙げられる。これらの形状を有する無機フィラーの複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
無機フィラーが、フィラー保護層中に占める割合は、無機フィラーの結着性、セパレータの透過性、及び耐熱性等の観点から適宜決定されることができる。フィラー保護層中の無機フィラーの割合は、好ましくは20質量%以上100質量%未満、より好ましくは50質量%以上99.99質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上99.9質量%以下、特に好ましくは90質量%以上99質量%以下である。
【0056】
フィラー保護層の厚さは、耐熱性及び絶縁性を向上させる観点から、0.5μm以上であることが好ましく、電池の高容量化と透過性を向上させる観点から5μm以下であることが好ましい。
【0057】
フィラー保護層の層密度は、0.5g/cm3以上3.0g/cm3以下であることが好ましく、0.7g/cm3以上2.0g/cm3以下であることがより好ましい。フィラー保護層の層密度が0.5g/cm3以上であることにより、高温での熱収縮率が良好となる傾向にある。フィラー保護層の層密度が3.0g/cm3以下であることにより、透気度が低下する傾向にある。
【0058】
フィラー保護層の形成方法としては、例えば、セパレータ基材の少なくとも片面に、無機フィラー及び本実施形態の水分散体を含む塗工液を塗工する方法を挙げることができる。この場合、塗工液は、分散安定性及び塗工性及び保管性の向上のために、水以外の溶剤、分散剤、増粘剤等を含んでいてもよい。なお、本実施形態において、塗工液を塗工後、乾燥させることにより水等を除去し、実質的に固形分のみでフィラー保護層が構成されていてもよい。すなわち、本実施形態の一態様において、リチウムイオン二次電池保護層は、本実施形態の粒子状共重合体と無機フィラーとが含まれていればよく、水は残存していてもしていなくてもよい。
【0059】
[リチウムイオン二次電池用セパレータ]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用セパレータ(以下、「本実施形態のセパレータ」ともいう。)は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用保護層を含む。本実施形態のセパレータは、セパレータ基材としての多孔性基材、及び当該多孔性基材の少なくとも片面の少なくとも一部に配置されたフィラー保護層を含むことができる。前述のとおりフィラー保護層は、無機フィラーと本実施形態の粒子状共重合体とを含む。本実施形態のセパレータは、セパレータ基材及びフィラー保護層のみから構成されていてもよく、これら以外に電極との接着層をさらに有していてもよい。
【0060】
本実施形態のセパレータにおいて、フィラー保護層は、ポリオレフィン多孔性基材等のセパレータ基材の片面又は両面に配置することができる。
【0061】
本実施形態のセパレータを構成する各部材、及び本実施形態のセパレータの製造方法の好ましい実施形態について、以下に詳細に説明する。
【0062】
(セパレータ基材)
セパレータ基材としては、例えば、多孔性の基材を採用することができる。多孔性の基材は、内部に空孔ないし空隙を有する基材であり、当該基材には、それ自体が、従来セパレータとして用いられていたものを使用することができる。これらの中でも、後述する塗工液の塗工性に優れ、セパレータの膜厚をより薄くして、電池等の蓄電デバイス内の活物質比率を高めて体積当たりの容量を増大させる観点から、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン製の多孔性基材(例えば、ポリオレフィン微多孔膜)が好ましい。なお、ここで「主成分として含む」とは、50質量%を超えて含むことを意味し、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、なおも更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上含み、100質量%であってもよい。
【0063】
例えば、ポリオレフィン微多孔膜等のセパレータ基材の表面に表面処理を施しておくことにより、その後に塗工液を塗工しやすくなると共に、ポリオレフィン微多孔膜と、フィラー保護層又は保護層との接着性が向上するため、表面処理を施すことが好ましい。表面処理の方法としては、例えば、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
【0064】
[フィラー保護層の形成方法]
フィラー保護層は、例えば、本実施形態の粒子状共重合体と無機フィラーとを含み、さらに必要に応じて水以外の溶剤及び分散剤等の追加成分を含む塗工液をセパレータ基材の少なくとも片面に塗工することにより、セパレータ基材上に配置することができる。
【0065】
塗工液をセパレータ基材に塗工する方法は、必要とする層厚及び塗工面積を実現できる限り特に限定されない。塗工方法としては、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗工法、インクジェット塗工法等が挙げられる。中でも、グラビアコーター法は、塗工形状の自由度が高いため好ましい。
【0066】
塗工後に塗工液から溶剤を除去する方法は、限定されず、セパレータ基材及びフィラー保護層への影響が少ない方法を採用することができる。例えば、セパレータ基材を固定しながら、セパレータ基材の融点以下の温度で乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法等が挙げられる。
【0067】
[保護層の配置方法]
本実施形態において、例えば、本実施形態の水分散体を塗工液(無機フィラーを含んでいても含んでいなくてもよい。)としてセパレータ基材に塗工することにより当該セパレータ基材上に保護層を配置することができる。上記塗工液は、水及び本実施形態の粒子状共重合体の他、水溶性有機媒体(例えば、メタノール又はエタノール)との混合溶媒等の貧溶媒を含むことが好ましい。
【0068】
セパレータ基材上に、本実施形態の水分散体を塗工液として塗工する方法についてはグラビアコーター塗工法やダイコーター塗工法が好ましい。
【0069】
塗工後に塗工液から溶媒等を除去して保護層を形成する方法については、特に限定されず、セパレータ基材及び保護層への影響が少ない方法を採用することができる。例えば、セパレータ基材を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、粒子状共重合体に対する貧溶媒に浸漬して当該粒子状共重合体を粒子状に凝固させると同時に溶媒を抽出する方法等が挙げられる。
【0070】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本実施形態のセパレータを含む。本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本実施形態のセパレータを含むこと以外の構成は、例えば、特開2018-92701号公報に記載されているように、従来知られているリチウムイオン二次電池と同様であってもよい。
【0071】
本実施形態の本実施形態のセパレータの150℃での熱収縮率は、特に限定されないが、MD、TD共に、好ましくは0%以上30%未満であり、より好ましくは0%以上20%以下であり、さらに好ましくは0%以上10%以下である。MD及びTDの両方向における150℃での熱収縮率が10%以下であることにより、電池の異常発熱時においてもセパレータの破膜を防ぐことができ、正負極間の接触を抑制でき、より良好な安全性能が得られる傾向にある。
【実施例0072】
以下、本実施形態を実施例及び比較例を用いて更に詳しく説明するが、本実施形態は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]
(粒子状共重合体の製造)
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、イオン交換水759質量部と、乳化剤として、「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液;以下、「KH1025」とも記載する。)0.6質量部と、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液;以下、「SR1025」とも記載する。)0.6質量部と、を投入した。
次いで、反応容器内部の温度を80℃に昇温し、80℃の温度を保ったまま、過硫酸アンモニウムの2%水溶液(以下、「APS」とも記載する。)を1.5質量部添加した。過硫酸アンモニウム水溶液を添加終了した5分後に、下記の乳化液を滴下槽から反応容器に150分かけて滴下した。
乳化液は、次のアセトアセチル基含有ビニル単量体M1、(メタ)アクリル酸エステル単量体M2、カルボキシル基含有単量体M3、前記M1、M2及びM3とは異なり、これらと共重合可能な単量体M4、乳化剤並びにイオン交換水の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて調製した。
すなわち、
アセトアセチル基含有ビニル単量体M1として、2-アセトアセトキシエチルメタクリレート(以下、「AAEM」とも記載する。)100質量部と、
(メタ)アクリル酸エステル単量体M2として、
メチルメタクリレート(以下、「MMA」とも記載する。)73質量部、
シクロヘキシルメタクリレート(以下、「CHMA」とも記載する。)34質量部、
ブチルメタクリレート(以下、「BMA」とも記載する。)1.5質量部、
ブチルアクリレート(以下、「BA」とも記載する。)296質量部、
2-エチルヘキシルアクリレート(以下、「2EHA」とも記載する。)313質量部、
グリシジルメタクリレート(以下、「GMA」とも記載する。)100質量部、
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、「HEMA」とも記載する。)58質量部、及び
3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン(ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー製;以下、「AcSi」とも記載する。)3質量部と、
カルボキシル基含有単量体M3として、
メタクリル酸(以下、「MAA」とも記載する。)10質量部、及び
アクリル酸(以下、「AA」とも記載する。)15質量部と、
前記M1、M2及びM3とは異なり、これらと共重合可能な単量体M4として、
アクリルアミド(以下、「AAm」とも記載する。)0.2質量部、及び
トリメチロールプロパントリアクリレート(ATMPT、新中村化学工業株式会社製商品名;以下、「A-TMPT」とも記載する。)20質量部と、
乳化剤として、
KH1025を7.5質量部、
SR1025を7.5質量部、
p-スチレンスルホン酸ナトリウム(以下、「NaSS」とも記載する。)0.5質量部、及び
過硫酸アンモニウムの2%水溶液0.5質量部と、
イオン交換水703質量部と、
の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて乳化液を調製した。
乳化液の滴下終了後、反応容器内部の温度を80℃に保ったまま120分間維持し、その後室温まで冷却した。
得られたエマルジョンを、水酸化アンモニウム水溶液(25%水溶液)を用いてpH8.0に調整し、粒子状共重合体の水分散体(固形分濃度40%)を得た。
得られた水分散体中の粒子状共重合体について、後述する方法により、pH、粘度、Tg、平均粒径及び電解液膨潤度を測定し、また、後述する引張試験による評価に供した。結果を表1に示す。
【0074】
(固形分濃度)
粒子状共重合体の水分散体をアルミ皿上に約1g精秤し、このとき量り取った水分散体の質量(g)をaとした。それを、130℃の熱風乾燥機で1時間乾燥し、乾燥後の乾燥皮膜(粒子状共重合体)の乾燥質量(g)をbとした。下記式により固形分濃度を算出した。
固形分濃度(質量%)=b/a×100
【0075】
(pH)
粒子状共重合体の水分散体(固形分濃度約40%)にpHメーター(ガラス電極式水素イオン濃度指示計 東亜ディーディーケー株式会社製)の電極を浸漬させ、表示された数値を読み取った。
【0076】
(粘度)
粘度は、B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpm、1分で測定した。
【0077】
(ガラス転移温度)
粒子状共重合体を含む水分散体(固形分濃度38~42質量%、pH8.0)を、アルミ皿に適量とり、130℃の熱風乾燥機で30分間乾燥した。
乾燥後の乾燥皮膜約17mgを測定用アルミ容器に詰め、DSC測定装置(島津製作所社製、型番:DSC6220)にて窒素雰囲気下におけるDSC曲線及びDDSC曲線を得た。なお測定は、下記のプログラムにより行った。
(1段目昇温プログラム)
70℃スタート、毎分15℃の割合で昇温した。110℃に到達後5分間維持した。
(2段目降温プログラム)
110℃から毎分30℃の割合で降温した。-50℃に到達後4分間維持した。
(3段目昇温プログラム)
-50℃から毎分15℃の割合で130℃まで昇温した。この3段目の昇温時にDSC及びDDSCのデータを取得した。
得られたDSC曲線におけるベースラインを高温側に延長した直線と、変曲点における接線との交点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0078】
(粒子状共重合体の平均粒径)
光散乱法による粒径測定装置(LEED&NORTHRUP社製、商品名「MICROTRAC UPA150」)を用い、粒子状共重合体を含む水分散体(固形分濃度約40%)の50%粒径(nm)を測定し、平均粒径とした。
【0079】
(電解液膨潤度)
粒子状共重合体の水分散体(固形分濃度38~42%、pH8.0)を、アルミ皿に3g採り、130℃の熱風乾燥機で60分間乾燥した。乾燥後の乾燥皮膜を0.5gになるように切り取り、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒10gと一緒に50mLのバイアル瓶に入れ、3時間振蕩させた後、サンプルを取り出し、上記混合溶媒にて洗浄し、質量(Wa)を測定した。その後、150℃のオーブン中に1時間静置したあと質量(Wb)を測定し、以下の式により粒子状共重合体の電解液に対する膨潤度を測定した。
なお、上記混合溶媒には電解質が含まれていないが、電解質の有無にかかわらず、粒子状共重合体の膨潤度に差が無いことを確認した。
粒子状共重合体の電解液に対する膨潤度(倍)=(Wa-Wb)/Wb
【0080】
(セパレータの作製)
無機フィラーとしての水酸化酸化アルミニウム粒子(平均粒径1.0μm)100質量部(水酸化酸化アルミニウム粒子の固形分濃度50%)、樹脂バインダーとしての水分散体(粒子状共重合体の固形分濃度40%)3.0質量部、及びイオン解離性無機分散剤としてポリリン酸アミン塩(ポリリン酸アミン塩の固形分濃度1%)0.5質量部を均一に分散させて保護層形成用分散液を調製した。保護層形成用分散液を、事前にコロナ処理したポリエチレン基材(多孔性基材;膜厚11μm)の表面にバーコーターを用いて塗布した。その後、60℃にて1分乾燥して水を除去し、ポリエチレン基材上に厚さ1.9μmの保護層を形成した、総膜厚12.9μmのセパレータを得た。
なお、「ポリリン酸」としてはトリポリリン酸を用いた。
【0081】
(熱収縮性)
上記したセパレータの作成とは別途、次のセパレータも作製した。
すなわち、水分散体の使用量を3.0質量部から3.25質量部に変更し、かつ保護層の厚さを1.9μmから2.1μmに変更した以外は、上記と同様にして、層膜厚13.3μmのセパレータを作成した。
上記したセパレータの作製とは別途、次のセパレータも作製した。すなわち、水分散体の使用量を3.0質量部から3.5質量部に変更し、かつ、保護層の厚さを1.9μmから2.2μmに変更したこと以外は、上記と同様にして、総膜厚13.2μmのセパレータを作製した。
さらに上記したセパレータの作製とは別途、次のセパレータも作製した。すなわち、水分散体の使用量を3.0質量部から4.0質量部に変更し、かつ、保護層の厚さを1.9μmから2.5μmに変更したこと以外は、上記と同様にして、総膜厚13.5μmのセパレータを作製した。
各セパレータを用いて熱収縮性を評価した。すなわち、セパレータを、MD方向に100mm、TD方向に100mmに切り取ってサンプルとし、当該サンプルを150℃のオーブン中に1時間静置した。このとき、温風が直接サンプルにあたらないよう、サンプルを2枚の紙に挟んだ。サンプルをオーブンから取り出し冷却した後、長さ(mm)を測定し、以下の式にて熱収縮率を算出した。測定はMD方向、TD方向で行い、数値の大きい方を熱収縮率とした。
熱収縮率(%)={(100-加熱後の長さ)/100}×100
得られた熱収縮率について、以下の評価基準に基づいて評価した結果を表1に示す。
S:保護層の厚さ2.1μm未満でも収縮率が10%未満
A:保護層の厚さ2.1μm以上2.2μm未満で収縮率が10%未満
B:保護層の厚さ2.2μm以上2.3μm以下で収縮率が10%未満
C:保護層の厚さ2.3μm超で収縮率が10%未満
【0082】
(剥離強度)
セパレータを、15mm×75mmのプレパラートに両面テープで貼り付けた。その後、12mm幅のメンディングテープを保護層の上から貼り付け、そのメンディングテープの一端を垂直方向に引っ張り速度100mm/分で引っ張って、剥がした時の応力を測定した。測定を3回行い、その平均値を求めてこれを剥離強度とした。
剥離強度の値が大きいほど、ポリエチレン基材と保護層との密着性に優れることを表しており、得られた剥離強度の値について、以下の評価基準に基づいて評価した結果を表1に示す。
S:350以上
A:250以上350未満
B:120以上250未満
C:120未満
【0083】
[実施例2~12、比較例1~5]
原料となる単量体の種類及び使用量並びに乳化剤の使用量を表1に示す配合としたこと以外は、実施例1と同様にして乳化重合を行い、水分散体を得た。得られた水分散体中の粒子状共重合体について、上記方法により、pH、粘度、Tg、平均粒径及び電解液膨潤度を測定した。結果を表1に示す。
また、実施例1と同様にしてポリエチレン基材と保護層とを含むセパレータを作製した。得られたセパレータについて、実施例1と同様にして熱収縮性と剥離強度を評価した。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
(引張試験1)
各例の粒子状共重合体(粒子状共重合体の固形分濃度40%)を、引張試験用(単独膜評価用)の分散液Aとした。ガラス板上に分散液Aを0.25mmのアプリケーターで塗工し、23℃・湿度50%に調節された室内で約5時間自然乾燥させた後、塗膜を幅10mm、長さ80mmの大きさで切り出し、得られた塗膜試験片の引張試験を東洋ボールドウィン(株)製 テンシロン UTM-III-500により、下記に示す条件にて行い、5%モジュラス、10%モジュラスの測定結果を得た。かかる測定を6回行い、得られた平均値を5%モジュラス及び10%モジュラスの値として表2に記載した。なお、上記の「ポリリン酸」としては、トリポリリン酸を用いた。
(テンシロン UTM-III-500の試験条件)
引張速度:50mm/min
試験条件:湿度23℃・湿度50%
【0086】
(引張試験2)
バインダーとしての各例の粒子状共重合体の水分散体(粒子状共重合体の固形分濃度40%)30質量部、無機フィラーとしての水酸化酸化アルミニウム粒子の水分散体(水酸化酸化アルミニウム粒子の固形分濃度50%)69.5質量部、およびイオン解離性無機分散剤としてのポリリン酸アミン塩(ポリリン酸アミン塩の固形分濃度1%)0.5質量部を均一に分散させて、引張試験用(複合膜評価用)の分散液Bを調製した。PP板上に厚さ0.23mmPTFEテープを2枚分貼り、四角の型枠を作製し、そこに分散液Bを流し込み、23℃・湿度50%に調節された室内で一晩乾燥させた。その後、引張試験用サンプルとしてダンベル状8号形でくり抜ぬき、得られた塗膜試験片の引張試験を東洋ボールドウィン(株)製 テンシロン UTM-III-500により、引張速度:3mm/min試験温度:23℃ 試験湿度:50%で行い、1%モジュラスの測定結果を取得し、同様に平均値として得られた数値を表2に記載した。
なお、上記の「ポリリン酸」としては、トリポリリン酸を用いた。
【0087】
【表2】