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  • 特開-電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159049
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20241031BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074786
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】西村 英晃
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL11
5H029AM12
5H029BJ12
5H029EJ12
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】硫化物固体電解質を含む電池におけるイオン伝導度の低下を抑制する。
【解決手段】本開示の電池は、電極体とフッ素系液体材料とを有し、前記電極体が、硫化物固体電解質を含む層を有し、前記フッ素系液体材料が、少なくとも、前記層の端部に存在することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池であって、電極体とフッ素系液体材料とを有し、
前記電極体が、硫化物固体電解質を含む層を有し、
前記フッ素系液体材料が、少なくとも、前記層の端部に存在する、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は電池を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、硫化物固体電解質及びそれを用いた電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-016423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
硫化物固体電解質を含む電池の内部に水が侵入した場合、硫化物固体電解質と水とが反応し、硫化物固体電解質が劣化し、イオン伝導度が低下し易い。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の態様を開示する。
<態様1>
電池であって、電極体とフッ素系液体材料とを有し、
前記電極体が、硫化物固体電解質を含む層を有し、
前記フッ素系液体材料が、少なくとも、前記層の端部に存在する、
電池。
【発明の効果】
【0006】
本開示の電池は、イオン伝導度が低下し難い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】電池の構成の一例を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1に示されるように、一実施形態に係る電池100は、電極体10とフッ素系液体材料20とを有する。電極体10は、硫化物固体電解質を含む層10a~10cを有する。フッ素系液体材料20は、少なくとも、層10a~10cの端部に存在する。
【0009】
1.電極体
図1に示されるように、電極体10は、硫化物固体電解質を含む層10a~10cを有する。具体的には、硫化物固体電解質を含む層として、正極活物質層10a、電解質層10b及び負極活物質層10cを備える。また、図1に示されるように、電極体10は、正極活物質層10aと接触する正極集電体10dを備えていてもよく、負極活物質層10cと接触する負極集電体10eを備えていてもよい。尚、図1においては、好ましい形態として、正極活物質層10a、電解質層10b及び負極活物質層10cのすべてが硫化物固体電解質を含む形態を例示したが、本開示の電池はこの形態に限定されるものではない。層10a~10cのうちの1つの層のみ、或いは、2つの層のみが、硫化物固体電解質を含む層であってもよい。
【0010】
1.1 正極活物質層
正極活物質層10aは、少なくとも正極活物質を含む。また、正極活物質層10aは、硫化物固体電解質を含み得る。また、正極活物質層10aは、任意に、その他の電解質、導電助剤、バインダー及び各種の添加剤等を含んでいてもよい。正極活物質層10aにおける各成分の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定され得る。例えば、正極活物質層10aの固形分全体を100質量%として、正極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上又は70質量%以上であってもよく、100質量%未満、95質量%以下又は90質量%以下であってもよい。また、正極活物質層10aの固形分全体を100質量%として、硫化物固体電解質の含有量が0質量%超、5質量%以上又は10質量%以上であってもよく、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下又は30質量%以下であってもよい。正極活物質層10aの形状は、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。正極活物質層10aの厚みは、例えば、0.1μm以上、1μm以上又は10μm以上であってもよく、2mm以下、1mm以下又は500μm以下であってもよい。
【0011】
正極活物質、導電助剤及びバインダーについては、公知の電池用正極活物質(Li含有酸化物等)、電池用導電助剤(炭素材料又は金属材料等)及び電池用バインダー(PVdF系バインダー等)をいずれも採用可能である。正極活物質層10aに含まれ得るその他の電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0012】
硫化物固体電解質は、例えば、特許文献1(特開2013-016423号公報)に記載されたものであってもよい。一実施形態において、硫化物固体電解質は、ガラス系硫化物固体電解質(硫化物ガラス)であってもよく、ガラスセラミックス系硫化物固体電解質であってもよく、結晶系硫化物固体電解質であってもよい。硫化物固体電解質が結晶相を有する場合、結晶相としては、例えば、Thio-LISICON型結晶相、LGPS型結晶相、アルジロダイト型結晶相が挙げられる。硫化物固体電解質は、例えば、Li元素、X元素(Xは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、及び、S元素を含有するものであってもよい。特に、構成元素として、Li、P及びSを含むものの性能が高い。また、硫化物固体電解質は、O元素およびハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有していてもよい。特に、構成元素として、Li、P、S及びハロゲン元素を含むものの性能が高い。硫化物固体電解質の組成は、特に限定されないが、例えば、xLiS・(100-x)P(70≦x≦80)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)(xLiS・(1-x)P)(0.7≦x≦0.8、0≦y≦30、0≦z≦30)等が挙げられる。或いは、硫化物固体電解質は、一般式:Li4-xGe1-x(0<x<1)で表される組成を有していてもよい。上記一般式において、Geの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Pの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Liの一部は、Na、K、Mg、Ca及びZnの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Sの一部は、ハロゲン(F、Cl、Br及びIの少なくとも一つ)で置換されていてもよい。或いは、硫化物固体電解質は、Li7-aPS6-a(Xは、Cl、Br及びIの少なくとも一種であり、aは、0以上、2以下の数である)で表される組成を有していてもよい。aは、0であってもよく、0より大きくてもよい。後者の場合、aは、0.1以上であってもよく、0.5以上であってもよく、1以上であってもよい。また、aは、1.8以下であってもよく、1.5以下であってもよい。硫化物固体電解質の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、粒子状であってもよい。硫化物固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0013】
1.2 電解質層
電解質層10bは、正極活物質層10aと負極活物質層10cとの間に配置される。電解質層10bは、少なくとも電解質を含む。例えば、電解質層10bは、硫化物固体電解質を含み得る。また、電解質層10bは、任意に、その他の電解質、バインダー及び各種の添加剤等を含んでいてもよい。電解質層10bにおける各成分の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。電解質層10bの形状は、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。電解質層10bの厚みは、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。電解質やバインダーについては、公知のものが採用され得る。
【0014】
1.3 負極活物質層
負極活物質層10cは、少なくとも負極活物質を含む。また、負極活物質層10cは、硫化物固体電解質を含み得る。また、負極活物質層10cは、任意に、その他の電解質、導電助剤、バインダー及び各種の添加剤等を含んでいてもよい。負極活物質層10cにおける各成分の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、負極活物質層10cの固形分全体を100質量%として、負極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上又は70質量%以上であってもよく、100質量%未満、95質量%以下又は90質量%以下であってもよい。また、負極活物質層10cの固形分全体を100質量%として、硫化物固体電解質の含有量が0質量%超、5質量%以上又は10質量%以上であってもよく、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下又は30質量%以下であってもよい。負極活物質層10cの形状は、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。負極活物質層10cの厚みは、例えば、0.1μm以上、1μm以上又は10μm以上であってもよく、2mm以下、1mm以下又は500μm以下であってもよい。
【0015】
負極活物質は、シリコン系活物質や炭素系活物質や酸化物系活物質等の公知の活物質から適当なものが採用されればよい。電解質、導電助剤及びバインダーについても、公知のものが採用され得る。
【0016】
2.フッ素系液体材料
図1に示されるように、フッ素系液体材料20は、上記の層10a~10cの端部に存在する。「端部」とは、図1に示されるように、電極体10の側面(各層の積層方向に沿った面)に相当する部分をいう。本発明者の知見によると、上記の層10a~10cの端部は、水分侵入の入り口となり得る。層10a~10cの端部から層内へと水が侵入すると、層内の硫化物固体電解質が水と反応し、硫化物固体電解質が劣化し、イオン伝導度が低下し易い。これに対し、層10a~10cの端部にフッ素系液体材料20が存在することで、フッ素系液体材料20がバリアとして働き、端部から層内への水の侵入が抑制され易い。また、フッ素系液体材料20は、他の電池材料に対する反応性が低い。そのため、層10a~10cの端部にフッ素系液体材料が存在していたとしても、活物質や硫化物固体電解質等が安定して存在し得る。
【0017】
フッ素系液体材料は、例えば、炭素鎖にフッ素が結合した、有機系のフッ素化合物であってもよい。フッ素系液体材料の具体例としては、例えば、パーフルオロポリエーテルが挙げられる。パーフルオロポリエーテルは、例えば、下記式(1)で示されるものであってよい。フッ素系液体材料としてのパーフルオロポリエーテルは、エーテル結合を有することから、各種電池材料の表面に対する親和性が高いものと考えられ、例えば、層10a~10cの端部に適切かつ安定して存在するものと考えられる。これにより、層内への水分の侵入がより一層抑制されるものと考えられる。また、パーフルオロポリエーテルは、上述の通り、他の電池材料に対する反応性が低い。
【0018】
-Rf-R-O-Rf-E(1)
[式(1)中、Rf及びRfは、それぞれ独立して、1個又はそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1-16の2価のアルキレン基であり、
及びEは、それぞれ独立して、フッ素基、水素基、水酸基、アルデヒド基、カルボン酸基、C1-10のアルキルエステル基、1個以上の置換基を有してもよいアミド基、1個以上の置換基を有してもよいアミノ基、からなる群より選ばれる1価の基であり、
は、2価のフルオロポリエーテル基である。]
【0019】
一の態様において、上記1個又はそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1-16の2価のアルキレン基における「C1-16の2価のアルキレン基」は、好ましくは、直鎖又は分枝鎖のC1-6アルキルアルキレン基、特にC1-3アルキレン基であってもよく、より好ましくは、直鎖のC1-6アルキレン基、特にC1-3アルキレン基であってもよい。一の態様において、上記1個又はそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1-16の2価のアルキレン基における「C1-16の2価のアルキレン」は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖又は分枝鎖のC1-6フルオロアルキレン基、特にC1-3フルオロアルキレン基であり、具体的には、-CFCH-、及び、-CFCFCH-であってもよく、また、より好ましくは直鎖のC1-6パーフルオロアルキレン基、特にC1-3パーフルオロアルキレン基であり、具体的には、-CF-、-CFCF-、及び、-CFCFCF-からなる群から選択される基であってもよい。また、上記E及びEは、それぞれ独立して、好ましくは、フッ素基である。一の態様において、E-Rf及びE-Rfは、それぞれ独立して、-CF、-CFCF、及び、-CFCFCFからなる群から選択される基であってもよい。また、上記式(1)において、Rは、好ましくは、式(2):
-(OC12-(OC10-(OC-(OCFa -(OC-(OCF- (2)
[式(2)中:RFaは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、
a、b、c、d、e及びfは、それぞれ独立して、0~200の整数であり、
a、b、c、d、e及びfの和は1以上であり、
a、b、c、d、e又はfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり、
ただし、すべてのRFaが水素原子又は塩素原子である場合、a、b、c、e及びfの少なくとも1つは、1以上である。]
で表される基である。RFaは、好ましくは、フッ素原子である。a、b、c、d、e及びfは、好ましくは、それぞれ独立して、0~100の整数であってもよい。a、b、c、d、e及びfの和は、好ましくは5以上であり、好ましくは200以下である。これら繰り返し単位は、直鎖状であっても、分枝鎖状であってもよい。Rにおいて、fに対するdの比(以下、「d/f比」という)は、0.5~4であってもよい。R部分の数平均分子量は、特に限定されるものではないが、例えば500~30,000である。尚、本願において、Rの数平均分子量は、19F-NMRにより測定される値である。
【0020】
3.その他の事項
電池100の正極集電体10dや負極集電体10eは、各々、電池の集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。電池100は、上記の各構成が外装体の内部に収容されたものであってもよい。外装体は、電池の外装体として公知のものをいずれも採用可能である。電池100は、このほか必要な端子等の自明な構成を備え得る。電池100の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。電池100を構成する各層は、湿式成形や乾式成形等によって製造されればよい。各層を積層及びプレスするなどして電極体10を形成後、その側面(層10a~10cの端部)にフッ素系液体材料20を塗布すること等を経て、電池100を製造可能である。
【実施例0021】
1.評価試料の作製
比較例:硫化物固体電解質(LiS-P系ガラスセラミックス、以下、「SE」)粉末を準備した。
実施例:SE粉末に対して、当該SE粉末の8質量%分のパーフルオロポリエーテル(以下、「PFPE」)を添加し、30分間乳鉢で混合し、PFPEで被覆されたSE粉末を得た。
【0022】
上記比較例及び実施例に係る試料をそれぞれシャーレ上においた。当該シャーレを露点-30度に制御されたグローブボックス中に30分間放置し、その後回収した。
【0023】
2.セルの作製
φ11.28mmの貫通孔を持つセラミック製の円筒内で、比較例又は実施例に係る試料を秤量後、SUSピンで挟みプレスした。圧紛体の厚みを測定後、治具で拘束することで、伝導度測定用のセルを作製した。比較例及び実施例の各々の暴露前後の試料について、セルを作製した。
【0024】
3.セルの評価
各々のセルを25℃に設定した恒温槽に3h放置後、電気化学測定装置(VMP3、Biologic社)でインピーダンス測定を実施した。実軸との交点を抵抗として算出し、セル作製時に測定した膜厚及びセラミック円筒内の面積を用いることで伝導度を算出し、結果を比較した。下記表1に、比較例及び実施例の各々の試料について、暴露前の伝導度を100とした場合の暴露後の伝導度維持率を示す。表1に示されるように、PEPFで被覆されたSEは、PFPEで被覆されていないSEと比べて、暴露後の伝導度維持率が高く、暴露によるSEと水分との反応が抑制されていることが分かる。この結果から、PFPEは水分を遮断するためのバリア層として機能し得ることが分かる。例えば、図1に示されるように、電極体の側面(各層の端部)にPFPEを塗布することで、当該層の端部から層の内部への水の侵入を低減でき、層の内部に存在する硫化物固体電解質の劣化等が抑制され、高いイオン伝導度が維持されるものと考えられる。塗布方法は、特に限定されず、例えば、スプレー塗布等の簡易的な方法が採用され得る。
【0025】
【表1】
【符号の説明】
【0026】
100:電池、10:電極体、10a:正極活物質層、10b:電解質層、10c:負極活物質層、10d:正極集電体、10e:負極集電体、20:フッ素系液体材料
図1