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特開2024-159051負極合材、負極合材の製造方法及び二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159051
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】負極合材、負極合材の製造方法及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20241031BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241031BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241031BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M4/1395
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074789
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】西村 英晃
(72)【発明者】
【氏名】野本 和誠
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB11
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA01
5H050EA23
5H050EA24
5H050GA10
(57)【要約】
【課題】二次電池のサイクル特性を向上させることが可能な負極合材を開示する。
【解決手段】本開示の負極合材は、活物質二次粒子と、硫化物固体電解質とを含み、前記活物質二次粒子が、複数のシリコン粒子と、前記シリコン粒子同士を結着するポリマーとを含み、前記ポリマーが、0.37≦ε/εなる特性(ここで、εは、成形体Aの曲げ歪みであり、成形体Aは、前記ポリマー及び前記硫化物固体電解質からなり、前記ポリマーを20体積%含み、かつ、90%の充填率を有する成形体であり、εは、成形体Bの曲げ歪みであり、成形体Bは、前記硫化物固体電解質からなり、かつ、90%の充填率を有する成形体である)を有することを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極合材であって、活物質二次粒子と、硫化物固体電解質とを含み、
前記活物質二次粒子は、複数のシリコン粒子と、前記シリコン粒子同士を結着するポリマーとを含み、
前記ポリマーは、以下の特性
特性:0.37≦ε/ε
ε:成形体Aの曲げ歪み
成形体A:前記ポリマー及び前記硫化物固体電解質からなり、前記ポリマーを20体積%含み、かつ、90%の充填率を有する成形体
ε:成形体Bの曲げ歪み
成形体B:前記硫化物固体電解質からなり、かつ、90%の充填率を有する成形体
を有する、
負極合材。
【請求項2】
請求項1に記載の負極合材であって、
前記ポリマーが、フッ素系ポリマーである、
負極合材。
【請求項3】
請求項1に記載の負極合材であって、
前記ポリマーが、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーである、
負極合材。
【請求項4】
負極合材の製造方法であって、
少なくとも、複数のシリコン粒子と、ポリマーとを混合して、活物質二次粒子を得ること、及び、
少なくとも、前記活物質二次粒子と、硫化物固体電解質とを混合して、負極合材を得ること、を含み、
前記ポリマーとして、以下の特性
特性:0.37≦ε/ε
ε:成形体Aの曲げ歪み
成形体A:前記ポリマー及び前記硫化物固体電解質からなり、前記ポリマーを20体積%含み、かつ、90%の充填率を有する成形体
ε:成形体Bの曲げ歪み
成形体B:前記硫化物固体電解質からなり、かつ、90%の充填率を有する成形体
を有するものを用いる、
製造方法。
【請求項5】
二次電池であって、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を有し、
前記負極活物質層が、請求項1~3のいずれか1項に記載の負極合材を有する、
二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は負極合材、負極合材の製造方法及び二次電池を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、全固体電池に用いられる負極層であって、活物質二次粒子及び硫化物固体電解質を有し、当該活物質二次粒子がSi元素又はSn元素を含む複数の粒子とバインダーとを含み、かつ、負極層の空隙率が15%以下であるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-121557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
負極活物質としてのSiを有する二次電池は、サイクル特性に関して、依然として改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
負極合材であって、活物質二次粒子と、硫化物固体電解質とを含み、
前記活物質二次粒子は、複数のシリコン粒子と、前記シリコン粒子同士を結着するポリマーとを含み、
前記ポリマーは、以下の特性
特性:0.37≦ε/ε
ε:成形体Aの曲げ歪み
成形体A:前記ポリマー及び前記硫化物固体電解質からなり、前記ポリマーを20体積%含み、かつ、90%の充填率を有する成形体
ε:成形体Bの曲げ歪み
成形体B:前記硫化物固体電解質からなり、かつ、90%の充填率を有する成形体
を有する、
負極合材。
<態様2>
態様1の負極合材であって、
前記ポリマーが、フッ素系ポリマーである、
負極合材。
<態様3>
態様1又は2の負極合材であって、
前記ポリマーが、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーである、
負極合材。
<態様4>
負極合材の製造方法であって、
少なくとも、複数のシリコン粒子と、ポリマーとを混合して、活物質二次粒子を得ること、及び、
少なくとも、前記活物質二次粒子と、硫化物固体電解質とを混合して、負極合材を得ること、を含み、
前記ポリマーとして、以下の特性
特性:0.37≦ε/ε
ε:成形体Aの曲げ歪み
成形体A:前記ポリマー及び前記硫化物固体電解質からなり、前記ポリマーを20体積%含み、かつ、90%の充填率を有する成形体
ε:成形体Bの曲げ歪み
成形体B:前記硫化物固体電解質からなり、かつ、90%の充填率を有する成形体
を有するものを用いる、
製造方法。
<態様5>
二次電池であって、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を有し、
前記負極活物質層が、態様1~3のいずれかの負極合材を有する、
二次電池。
【発明の効果】
【0006】
本開示の負極合材によれば、二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】負極合材に含まれる活物質二次粒子及び硫化物固体電解質の一例を概略的に示している。
図2】二次電池の構成の一例を概略的に示している。
図3】ε/εと容量維持率との関係を示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.負極合材
図1に一実施形態に係る負極合材1の構成を概略的に示す。図1に示されるように、負極合材1は、活物質二次粒子1aと、硫化物固体電解質1bとを含む。前記活物質二次粒子1aは、複数のシリコン粒子1axと、前記シリコン粒子1ax同士を結着するポリマー1ayとを含む。前記ポリマー1ayは、0.37≦ε/εなる特性を有する。ここで、前記εは、成形体Aの曲げ歪みであり、前記成形体Aは、前記ポリマー1ay及び前記硫化物固体電解質1bからなり、前記ポリマー1ayを20体積%含み、かつ、90%の充填率を有するものであり、前記εは、成形体Bの曲げ歪みであり、前記成形体Bは、前記硫化物固体電解質1bからなり、かつ、90%の充填率を有するものである。
【0009】
1.1 活物質二次粒子
活物質二次粒子1aは、複数のシリコン粒子1axと、前記シリコン粒子1ax同士を結着するポリマー1ayとを含む。ポリマー1ayは、0.37≦ε/εなる特性を有する。
【0010】
1.1.1 シリコン粒子
シリコン粒子1axの化学組成は特に限定されるものではない。シリコン粒子1axに含まれる全ての元素に占めるSi元素の割合は、例えば、50mol%以上100mol%以下、70mol%以上100mol%以下、又は、90mol%以上100mol%以下であってもよい。シリコン粒子1axは、Si元素以外に、その他の元素を含んでいてもよい。その他の元素は、Li元素、Sn元素、Fe元素、Co元素、Ni元素、Ti元素、Cr元素、Al元素、B元素及びP元素のうちの少なくとも1種であってもよい。Li-Si合金粒子からLiを除去することによってシリコン粒子1axを得る場合、シリコン粒子1axはSi元素とLi元素とを含み得る。また、シリコン粒子1axは、酸化物等の不純物を含んでいてもよい。シリコン粒子1axは、非晶質であっても結晶であってもよい。
【0011】
シリコン粒子1axは、多孔質であってもよい。シリコン粒子1axが多孔質であり空隙を有することで、当該空隙によってシリコンの膨張を吸収でき、二次電池の拘束圧の上昇を低減でき、二次電池のサイクル特性をさらに向上させることが可能と考えられる。シリコン粒子1axは、例えば、ナノポーラスシリコンを含む粒子であってもよい。ナノポーラスシリコンとは、ナノメートルオーダー(1000nm未満、好ましくは100nm以下)の細孔径を有する細孔が複数存在するシリコンをいう。シリコン粒子1axは、直径55nm以下の細孔を含む多孔質シリコン粒子であってもよい。直径55nm以下の細孔は、プレスによっても潰れ難い。すなわち、直径55nm以下の細孔を含む多孔質シリコン粒子は、プレス後においても多孔質状態が維持され易い。例えば、シリコン粒子1axの1gあたり、直径55nm以下の細孔が0.21cc/g以上0.30cc/g以下含まれていてもよい。下限は、0.22cc/g以上、又は、0.23cc/g以上であってもよく、上限は、0.28cc/g以下、又は、0.26cc/g以下であってもよい。シリコン粒子1axに含まれる直径55nm以下の細孔の量は、例えば、窒素ガス吸着法や、DFT法による細孔径分布から求めることができる。
【0012】
シリコン粒子1axの空隙率は特に限定されるものではない。シリコン粒子1axの空隙率は、例えば、0%以上80%以下であってもよい。下限は、1%以上、5%以上、10%以上、又は、20%以上であってもよく、上限は、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、又は、30%以下であってもよい。シリコン粒子1axの空隙率は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察等により求めることができる。サンプル数は多いことが好ましく、例えば100以上である。空隙率は、これらサンプルから求めた平均値とすることができる。
【0013】
シリコン粒子1axのサイズは特に限定されるものではない。シリコン粒子1axの粒子径Dは、例えば、10nm以上10μm以下であってもよい。下限は、30nm以上、50nm以上、100nm以上、又は、150nm以上であってもよく、上限は、5μm以下、3μm以下、2μm以下、又は、1μm以下であってもよい。尚、シリコン粒子1axの粒子径Dは、SEM等の電子顕微鏡による観察によって求めることができ、複数の粒子の各々の最大フェレ径の数平均値として求められる。サンプル数は、多いことが好ましく、例えば20以上であり、50以上であってもよく、100以上であってもよい。シリコン粒子1axの粒子径Dは、例えば、シリコン粒子の製造条件を変更したり、分級処理を行ったりすることで、適宜調整可能である。
【0014】
シリコン粒子1axの形状は特に限定されるものではない。例えば、シリコン粒子1axは、球状であってもよいし、非球状であってもよい。
【0015】
活物質二次粒子1aに含まれるシリコン粒子1axの数は、特に限定されるものではない。1つの活物質二次粒子1aに含まれるシリコン粒子1axの数は、2以上10000以下であってもよい。下限は、5以上、10以上、50以上、又は、100以上であってもよく、上限は、5000以下、1000以下、又は、500以下であってもよい。
【0016】
1.1.2 ポリマー
ポリマー1ayは、シリコン粒子1ax同士を結着する機能を有する。活物質二次粒子1aにおけるポリマーの存在位置は、特に限定されるものではない。ポリマー1ayは、活物質二次粒子1aの表層側に存在していてもよいし、中心側に存在していてもよいし、これらの双方に存在していてもよい。また、ポリマー1ayは、活物質二次粒子1aの表面に露出していてもよい。
【0017】
ポリマー1ayの種類は、後述の特性を有するものである限り、特に限定されるものではない。ポリマー1ayが後述の特性を有するものであるか否かは、ポリマー1ayを構成する単量体単位の種類やポリマー1ayの分子量による。本実施形態においては、公知のポリマーのうち、後述の特性を有するものを選択してポリマー1ayとして用いればよい。ポリマー1ayは、例えば、ブタジエンゴム(BR)系ポリマー、ブチレンゴム(IIR)系ポリマー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系ポリマー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系ポリマー、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリアクリル酸エステル系ポリマー等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。特に、ポリマー1ayが、フッ素系ポリマー、中でも、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系ポリマーである場合に、高い性能が発揮され易い。フッ素系ポリマーは、後述の硫化物固体電解質1bとの反応性が低い。そのため、ポリマー1ayと硫化物固体電解質1bとの反応によって硫化物固体電解質1bが劣化することを抑制することができる。また、イオン伝導性の観点等からも、フッ素系ポリマーが有利である。ポリマー1ayは、共重合体であってもよい。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系ポリマーは、VdFに由来する単位とともに、VdF以外の単量体に由来する単位を有していてもよい。ポリマー1ayは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0018】
ポリマー1ayは、以下の特性を有する。活物質二次粒子1aが、このような特性を有するポリマー1ayを含むことで、活物質二次粒子1aと硫化物固体電解質1bとのコンタクトがとり易くなり、活物質二次粒子1aと硫化物固体電解質1bとの結着力が向上し、さらには、ポリマー1ay自体も変形性能を有することから、活物質二次粒子1aと硫化物固体電解質1bとの剥離が生じ難くなるものと考えられる。すなわち、充放電に伴って負極合材1中の活物質二次粒子1a(特にシリコン粒子1ax)の体積が変化したとしても、活物質二次粒子1aと硫化物固体電解質1bとの剥離が生じ難く、イオン電導パス等が維持されるものと考えられる。結果として、二次電池とした場合のサイクル特性(容量維持率)が向上する。
【0019】
特性:0.37≦ε/ε
ε:成形体Aの曲げ歪み
成形体A:前記ポリマー及び前記硫化物固体電解質からなり、前記ポリマーを20体積%含み、かつ、90%の充填率を有する成形体
ε:成形体Bの曲げ歪み
成形体B:前記硫化物固体電解質からなり、かつ、90%の充填率を有する成形体
【0020】
ここで、本願においては、充填率(=真密度/かさ密度)の異なる3つの成形体を作製し、各々の成形体の曲げ歪みを測定し、測定された3つの曲げ歪みと充填率との関係から、近似曲線を用いて、充填率90%における曲げ歪みを特定し、これを「成形体Aの曲げ歪み」や「成形体Bの曲げ歪み」とみなす。具体的には以下の通りである。
【0021】
「成形体Aの曲げ歪み」は、以下の通りに特定されるものである。まず、ポリマー1ayを酪酸ブチルに溶解しポリマー溶液を作製する。硫化物固体電解質1bとポリマー1ayとを体積比で80:20となるようにポリマー溶液を秤量したうえで、固形分重量が28%となるように酪酸ブチルを添加し1.5cc程度の溶液を調整する。この溶液を振とう機で9分、超音波ホモジナイザーで1分30秒混合して、スラリーを得る。当該スラリーをガラスシャーレ上にキャストし、120℃のホットプレートで乾燥後、解砕し、ポリマー1ayと硫化物固体電解質1bとの混合粉末を得る。当該混合粉末をプレス成型することで曲げ試験用の成形体を得る。ここで、混合粉末の秤量値とプレス圧力とを調整することで、充填率の異なる成形体を3種類用意する。具体的には、充填率70%、かつ、長さ20mm、幅2mm、厚さ1mmの成形体と、充填率77%、かつ、長さ20mm、幅2mm、厚さ1mmの成形体と、充填率82%、かつ、長さ20mm、幅2mm、厚さ1mmの成形体との3つの成形体を用意する。各々の成形体について、以下に説明する3点曲げ試験を行い、各々の曲げ歪みを特定する。これら3つの曲げ歪みと充填率との関係をグラフにプロットし、線形近似にて近似曲線を引くことで、充填率90%における曲げ歪みを特定し、これを「成形体Aの曲げ歪み」とみなす。
【0022】
「成形体Bの曲げ歪み」は、以下の通りに特定されるものである。まず、硫化物固体電解質1bをプレス成型することで曲げ試験用の成形体を得る。ここで、硫化物固体電解質1bの秤量値とプレス圧力とを調整することで、充填率の異なる成形体を3種類用意する。具体的には、充填率60%、かつ、長さ20mm、幅2mm、厚さ1mmの成形体と、充填率73%、かつ、長さ20mm、幅2mm、厚さ1mmの成形体と、充填率78%、かつ、長さ20mm、幅2mm、厚さ1mmの成形体との3つの成形体を用意する。各々の成形体について、以下に説明する3点曲げ試験を行い、各々の曲げ歪みを特定する。これら3つの曲げ歪みと充填率との関係をグラフにプロットし、線形近似にて近似曲線を引くことで、充填率90%における曲げ歪みを特定し、これを「成形体Bの曲げ歪み」とみなす。
【0023】
「曲げ歪み」は、JIS K7171:2016に準じた3点曲げ試験によって測定される曲げ歪みをいう。具体的には、上述の手順で成形体(長さ20mm幅2mm厚さ1mm)を作製し、当該成形体を支点間距離が18.5mmなるように曲げ試験機にセットし、3点曲げ試験を行う。曲げ試験のスパンは、1mmとする。曲げ試験の試験速度は、0.05mm/minとする。
【0024】
上述の通り、ポリマー1ayは、0.37≦ε/εなる特性を有する。ε/εの上限は特に限定されず、例えば、1.00以下、0.95以下、0.90以下、0.85以下、0.80以下、0.75以下、0.70以下又は0.65以下であってもよい。
【0025】
1.1.3 その他の成分
活物質二次粒子1aは、上記のシリコン粒子1ax及びポリマー1ayとともに、その他の成分を含んでいてもよい。活物質二次粒子1aは、シリコン粒子1ax及びポリマー1ayを合計で、50質量%超100質量%以下、70質量%以上100質量%以下、90質量%以上100質量%以下、又は、95質量%以上100質量%以下含んでいてもよい。また、活物質二次粒子1aは、シリコン粒子1axを50質量%以上99質量%以下、70質量%以上99質量%以下、又は、90質量%以上99質量%以下含んでいてもよく、ポリマー1ayを1質量%以上50質量%以下、1質量%以上30質量%以下、又は、1質量%以上10質量%以下含んでいてもよい。
【0026】
1.1.4 活物質二次粒子のサイズ
活物質二次粒子1aは、複数のシリコン粒子1axがポリマー1ayを介して凝集したものといえる。活物質二次粒子1aの平均粒子径は、特に限定されるものではない。活物質二次粒子1aの平均粒子径は、100nm以上、1μm以上、2μm以上、又は、3μm以上であってもよく、100μm以下、50μm以下、20μm以下、15μm以下、又は、10μm以下であってもよい。活物質二次粒子1aの平均粒子径は、SEM等の電子顕微鏡による観察によって求めることができ、例えば、複数の二次粒子の最大フェレ径の平均値として求められる。サンプル数は、多いことが好ましく、例えば20以上であり、50以上であってもよく、100以上であってもよい。或いは、負極合材1から活物質二次粒子1aのみを取り出して測定された活物質二次粒子1aの平均粒子径(D50)が、100nm以上、1μm以上、2μm以上、又は、3μm以上であってもよく、100μm以下、50μm以下、20μm以下、15μm以下、又は、10μm以下であってもよい。尚、本願にいう平均粒子径D50とは、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(メジアン径)である。
【0027】
1.1.5 活物質二次粒子の製造方法
活物質二次粒子1aは、例えば、シリコン粒子1axとポリマー1ayと任意成分とを混合することによって製造され得る。混合方法に特に制限はなく、溶媒を用いた湿式混合であってもよいし、溶媒を用いない乾式混合であってもよい。混合手段も特に限定されず、各種の混合装置を用いて機械的に混合されてもよいし、手作業で混合されてもよい。
【0028】
1.2 硫化物固体電解質
硫化物固体電解質1bは、ガラス系硫化物固体電解質(硫化物ガラス)であってもよく、ガラスセラミックス系硫化物固体電解質であってもよく、結晶系硫化物固体電解質であってもよい。硫化物ガラスは、非晶質である。硫化物ガラスは、ガラス転移温度(Tg)を有するものであってもよい。また、硫化物固体電解質1bが結晶相を有する場合、結晶相としては、例えば、Thio-LISICON型結晶相、LGPS型結晶相、アルジロダイト型結晶相が挙げられる。硫化物固体電解質1bは、例えば、Li元素、X元素(Xは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、及び、S元素を含有するものであってもよい。また、硫化物固体電解質1bは、O元素およびハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有していてもよい。また、硫化物固体電解質1bは、S元素をアニオン元素の主成分として含有するものであってもよい。硫化物固体電解質1bは、例えば、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-GeS、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-P-LiI-LiBr、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-ZmSn(ただし、m、nは正の数。Zは、Ge、Zn、Gaのいずれか。)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(ただし、x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれか。)から選ばれる少なくとも1種であってもよい。硫化物固体電解質1bの組成は、特に限定されないが、例えば、xLiS・(100-x)P(70≦x≦80)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)(xLiS・(1-x)P)(0.7≦x≦0.8、0≦y≦30、0≦z≦30)等が挙げられる。或いは、硫化物固体電解質1bは、一般式:Li4-xGe1-x(0<x<1)で表される組成を有していてもよい。上記一般式において、Geの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Pの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Liの一部は、Na、K、Mg、Ca及びZnの少なくとも一つで置換されていてもよい。上記一般式において、Sの一部は、ハロゲン(F、Cl、Br及びIの少なくとも一つ)で置換されていてもよい。或いは、硫化物固体電解質1bは、Li7-aPS6-a(Xは、Cl、Br及びIの少なくとも一種であり、aは、0以上、2以下の数である)で表される組成を有していてもよい。aは、0であってもよく、0より大きくてもよい。後者の場合、aは、0.1以上であってもよく、0.5以上であってもよく、1以上であってもよい。また、aは、1.8以下であってもよく、1.5以下であってもよい。硫化物固体電解質1bは、例えば、粒子状であってもよい。硫化物固体電解質1bの平均粒子径(D50)は、例えば10nm以上10μm以下であってもよい。
【0029】
1.3 その他の成分
負極合材1は、少なくとも、上記の活物質二次粒子1a及び硫化物固体電解質1bを含む。また、負極合材1は、任意に、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、各種の固体成分や液体成分等が挙げられる。例えば、負極合材1は、上記の活物質二次粒子1a及び硫化物固体電解質1bとともに、その他の活物質を含んでいてもよい。負極合材1に含まれるすべての活物質に占める上記のシリコン粒子1axの割合は、50質量%超100質量%以下、70質量%以上100質量%以下、又は、90質量%以上100質量%以下であってもよい。負極合材1に含まれ得るその他の活物質は、例えば、グラファイト及びリチウム等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。また、負極合材1は、上記の活物質二次粒子1a及び硫化物固体電解質1bとともに、その他の電解質を含んでいてもよい。その他の電解質は、硫化物固体電解質1b以外の固体電解質であってもよい。負極合材1に含まれるすべての電解質に占める上記の硫化物固体電解質1bの割合は、50質量%超100質量%以下、70質量%以上100質量%以下、又は、90質量%以上100質量%以下であってもよい。負極合材1に含まれ得るその他の電解質は、例えば、酸化物固体電解質であってもよいし、イオン結合性の固体電解質(例えば、構成元素としてLi、Y及びハロゲン元素を含むもの)であってもよい。また、負極合材1は、上記の活物質二次粒子1a及び硫化物固体電解質1bとともに、導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤は電池の導電材として公知のものをいずれも採用できる。また、負極合材1は、上記の活物質二次粒子1a及び硫化物固体電解質1bとともに、バインダーを含んでいてもよい。バインダーも電池用のバインダーとして公知のものをいずれも採用できる。負極合材1に含まれ得るその他の成分の量は、特に限定されるものではなく、目的とする電池性能等に応じて適宜決定されればよい。
【0030】
2.負極合材の製造方法
本開示の技術は、負極合材の製造方法としての側面も有する。すなわち、一実施形態に係る負極合材1の製造方法は、(1)少なくとも、複数のシリコン粒子1axと、ポリマー1ayとを混合して、活物質二次粒子1aを得ること、及び、(2)少なくとも、前記活物質二次粒子1aと、硫化物固体電解質1bとを混合して、負極合材1を得ること、を含む。ここで、本実施形態においては、前記ポリマー1ayとして、上記の0.37≦ε/εなる特性を有するものを用いる。すなわち、本実施形態においては、活物質二次粒子1aを作製する前に、上記の特性を有するポリマー1ayと硫化物固体電解質1bとの組み合わせを選定する。例えば、活物質二次粒子1aと組み合わせられる硫化物固体電解質1bを用意し、上述の通りにして「成形体Bの曲げ歪みε」を特定する一方で、複数種類のポリマーを用意し、各々のポリマーについて、上述の通りにして「成形体Aの曲げ歪みε」を特定し、特定されたεと複数のεの各々とに基づいて、ε/εを計算し、計算されたε/εが0.37以上となる硫化物固体電解質1b及びポリマー1ayの組み合わせを選定し、選定された当該ポリマー1ayを用いて活物質二次粒子1aを作製し、選定された硫化物固体電解質1bと当該活物質二次粒子1aとを用いて負極合材1を作製する。
【0031】
3.二次電池
図2に一実施形態に係る二次電池100の構成を概略的に示す。図2に示されるように、二次電池100は、正極活物質層20、電解質層30及び負極活物質層40を有する。一実施形態に係る電池100においては、前記負極活物質層40が、上記の負極合材1を含む。サイクル特性に係る課題は、二次電池が固体電解質を含む場合に顕在化し易い。これに対し、二次電池100においては、前記負極活物質層40が硫化物固体電解質1bとともに所定の活物質二次粒子1aを含むことで、上述の通り、サイクル特性が改善され得る。二次電池100においては、負極活物質層40が硫化物固体電解質を含むことに加えて、前記正極活物質層20及び前記電解質層30のうちの一方又は両方が硫化物固体電解質を含んでいてもよい。また、二次電池100は、前記正極活物質層20、前記電解質層30及び前記負極活物質層40のすべてが硫化物固体電解質を含んでいてもよい。さらに、二次電池100は、固体電池であってもよい。固体電池とは、キャリアイオン伝導性を有する電解質が主に固体電解質によって構成されているものをいう。ただし、一部に液体成分が含まれていてもよい。或いは、二次電池100は、液体成分を実質的に含まない全固体電池であってもよい。二次電池100は、電池として一般的な構成を備えていてもよい。例えば、図2に示されるように、二次電池100は、正極活物質層20、電解質層30、負極活物質層40に加えて、正極活物質層20と接触する正極集電体10、及び、負極活物質層40と接触する負極集電体50を備えていてもよい。二次電池100において、負極活物質層40以外の構成については、従来と同様であり、例えば、特許文献1(特開2019-121557号公報)等に記載されたような構成を採り得る。二次電池100の製造方法についても、負極合材1を用いることを除いて、従来と同様であってよい。
【実施例0032】
以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
1.曲げ試験によるポリマーの特性評価
1.1 曲げ試験片の作製
1.1.1 PVdF系ポリマー1
PVdF系ポリマー1を酪酸ブチルに溶解させて、ポリマー溶液を得た。乾燥後の硫化物固体電解質とポリマーとの体積比が、80:20となるように、後述の微粒化後の硫化物電解質とポリマー溶液とを秤量し、さらに溶媒として酪酸ブチルを追加し、固形分重量が28%となるようにして、1.5cc程度の溶液を調整した。これを振とう機で9分、超音波分散装置で1分30秒混合することでスラリーを得た。当該スラリーをガラスシャーレ上にキャストし、120℃のホットプレートで乾燥後、乳鉢で解砕することで、PVdF系ポリマー1と硫化物固体電解質との混合粉末を得た。当該混合粉末を秤量し、治具内でプレス成型することで曲げ試験用の成形体(長さ20mm、幅2mm、厚さ1mm)を得た。ここで、混合粉末の秤量値を変化させ、また、プレス圧力を0.5~3.5tに変化させることで、充填率の異なる3つの成形体を得た。そのうちの1つの成形体は、その充填率が70%となるようにし、1つの成形体は、その充填率が77%となるようにし、1つの成形体は、その充填率が82%となるようにした。
【0034】
1.1.2 PVdF系ポリマー2~5
上記のPVdF系ポリマー1とは共重合成分量や分子量の異なるPVdF系ポリマー2~5を用意した。ポリマー2~5の各々について、上記と同様にして、充填率の異なる3つの成形体を得た。
【0035】
1.1.3 BR系ポリマー
BR系ポリマーを用い、上記と同様にして、充填率の異なる3つの成形体を得た。
【0036】
以下、上記のPVdF系ポリマー又はBR系ポリマーを含む成形体を「ポリマー成形体」という。
【0037】
1.1.4 硫化物固体電解質
LiS(フルウチ化学製)0.550gと、P(アルドリッチ製)0.887gと、LiI(日宝化学製)0.285gと、LiBr(高純度化学製)0.277gとを、メノウ乳鉢で5分間混合した。得られた混合物に、n-ヘプタン(脱水グレード、関東化学製)を4g加え、遊星型ボールミルを用いて40時間メカニカルミリングすることで硫化物固体電解質を得た。得られた硫化物固体電解質をさらに20時間メカニカルミリングし微粒化した。微粒化後粒子を秤量し、治具内でプレス成型することで曲げ試験用の成形体(長さ20mm、幅2mm、厚さ1mm)を得た。ここで、硫化物固体電解質の秤量値を変化させ、また、プレス圧力を50~400MPaに変化させることで、充填率の異なる3つの成形体を得た。1つの成形体は、その充填率が60%となるようにし、1つの成形体は、その充填率が73%となるようにし、1つの成形体は、その充填率が78%となるようにした。
【0038】
以下、上記の硫化物固体電解質からなる成形体を「固体電解質成形体」という。
【0039】
1.2 曲げ試験
各々のポリマーについて、上記の通りに、充填率の異なる3つのポリマー成形体を作製し、各々について、3点曲げ試験を行い、曲げ歪みを求めた。充填率を横軸に、曲げ歪みを縦軸にして測定値をプロットし、3点のプロットから線形近似にて近似曲線を引き、充填率90%における曲げ歪みε(90%曲げ歪みε)を特定した。一方で、上記の固体電解質成形体についても、同様にして充填率90%における曲げ歪みε(90%曲げ歪みε)を特定した。
【0040】
1.3 ε/εの算出
各々のポリマー成形体の90%曲げ歪みεと、固体電解質成形体の90%曲げ歪みεとの比ε/εを算出した。結果を下記表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
2.電池のサイクル特性評価
上記の各々のポリマーを用いて、活物質二次粒子を作製し、当該活物物質二次粒子を用いて負極合材を作製し、当該負極合材を用いて二次電池を作製し、当該二次電池のサイクル特性を評価した。
【0043】
2.1 比較例1
2.1.1 正極の作製
NCM系正極活物質、硫化物系固体電解質、気相成長法炭素繊維、PVdF系バインダー、及び、酪酸ブチルを超音波分散装置によって攪拌することで正極スラリーを作成した。ここでNCM系正極活物質:硫化物系固体電解質:気相成長法炭素繊維:PVdF系バインダーは、質量比で、100:16:2:0.75とした。この正極スラリーをブレード法によって、正極集電箔としてのAl箔上に塗工し、これをホットプレート上で100℃にて30分間乾燥させることで、Al箔の表面に正極活物質層を有する正極を得た。
【0044】
2.1.2 負極の作製
上記のPVDF系ポリマー1を酪酸ブチルに溶解させてポリマー溶液を得た。当該ポリマー溶液とSi粒子(粒径0.5μm、高純度化学社製)とを、Si粒子:ポリマーが、質量比で、100:8となるように秤量し、超音波分散装置および振とう機で攪拌することで負極スラリーを得た。当該負極スラリーをガラスシャーレ上にキャストし、ホットプレートで乾燥後、乳鉢で解砕することで、活物質二次粒子を得た。得られた活物質二次粒子は、複数のSi粒子と、当該Si粒子同士を結着するポリマーからなる二次粒子(凝集粒子)である。当該活物質二次粒子、硫化物系固体電解質、気相成長法炭素繊維、BR系バインダー、メシチレン、及び、ジブチルエーテルを、超音波分散装置及び撹拌機を用いて攪拌・混合することで負極合材が溶媒に分散されてなる負極スラリーを得た。ここで、Si粒子:ポリマー:硫化物系固体電解質:気相成長法炭素繊維:BR系バインダーは、質量比で、100:8:77.6:8.4:1.5とした。この負極スラリーをブレード法によって、負極集電箔としてのNi箔上に塗工し、これをホットプレート上で100℃にて30分間乾燥させることで、Ni箔の表面に負極活物質層を有する負極を得た。
【0045】
2.1.3 固体電解質層の作製
硫化物系固体電解質、PVdF系バインダー及び酪酸ブチルを超音波分散装置によって攪拌することで固体電解質スラリーを得た。ここで硫化物系固体電解質:PVdF系バインダーは、質量比で、99.6:0.4とした。この固体電解質スラリーをブレード法によってAl箔上に塗工し、これをホットプレート上で100℃にて30分間乾燥させることで、Al箔上に固体電解質層を形成した。
【0046】
2.1.4 正極積層体の作製
上記の正極活物質層と固体電解質層とを積層し、ロールプレス機で50kN/cmのプレス圧力及び160℃の温度でプレスした後、固体電解質層からAl箔を剥がし、1cmの大きさに打ち抜くことにより、Al箔/正極活物質層/固体電解質層の構成を備える正極積層体を得た。
【0047】
2.1.5 負極積層体の作製
上記の負極活物質層と固体電解質層とを積層し、ロールプレス機で50kN/cmのプレス圧力でプレスした後、固体電解質層のAl箔を剥がすことで、Ni箔/負極活物質層/固体電解質層の構成を備える第1積層体を得た。さらに、第1積層体の固体電解質層側に、追加の固体電解質層を積層し、平面1軸プレス機で100MPaのプレス圧力及び25℃の温度で仮プレスした後、固体電解質層からAl箔を剥がし、1.08cmの大きさに打ち抜くことにより、Ni箔/負極活物質層/固体電解質層/固体電解質層の構成を備える第2積層体を得た。当該第2積層体を負極積層体として用いた。
【0048】
2.1.6 電池積層体の作製
上記の正極積層体と負極積層体とを積層し、平面1軸プレス機で200MPaの圧力及び135℃の温度でプレスし、Ni箔/負極活物質層/固体電解質層/固体電解質層/固体電解質層/正極活物質層/Al箔の構成を有する電池積層体を得た。
【0049】
2.1.7 電池積層体の拘束及び初回充放電
上記の電池積層体を、2枚の拘束板の間に挟み、これらの2枚の拘束板を締結具によって、1MPaの拘束圧で締め付けて、これら2枚の拘束板の間の距離を固定した。この拘束済み電池積層体について、
(1)1/10C、4.55Vまでの定電流充電
(2)その後、4.55V、終止電流1/100Cまでの定電圧充電
(3)その後、1C、3Vまでの定電流放電
(4)その後、3V、終止電流1/100Cまでの定電圧放電
(5)その後、1/3C、4.35Vまでの定電流充電
を行った。さらに、その後、
(6)4.35V、終止電流1/100Cまでの定電圧充電
(7)その後、1/3C、3Vまでの定電流放電
(8)その後、3V、終止電流1/100Cまでの定電圧放電
を2回行った。
【0050】
2.1.8 耐久試験によるサイクル特性評価
上記の充放電後の電池積層体に対して、耐久試験を行い、容量維持率を算出することで、サイクル特性を評価した。具体的には、下記の条件で150サイクルの充放電を行い、1サイクル目の放電容量C1に対する150サイクル後の放電容量C2の比を求め、これを容量維持率とした。
充電:2C、4.17Vまでの定電流充電
放電:2C、3.14Vまでの定電流放電
容量維持率(%):[放電容量C2/放電容量C1]×100
【0051】
2.2 実施例1~5
活物質二次粒子を構成するポリマーとして、PVdF系ポリマー1に替えて、上記のPVdF系ポリマー2~5又はBR系ポリマーを用いたこと以外は、比較例1と同様にして電池を作製し、サイクル特性を評価した。
【0052】
2.3 評価結果
図3に、活物質二次粒子を構成するポリマーの特性ε/εと、容量維持率との関係を示す。図3に示されるように、活物質二次粒子を構成するポリマーが、0.37≦ε/εなる特性を有する場合、二次電池の容量維持率が向上し、優れたサイクル特性を有するものとなることが分かる。活物質二次粒子が、このような特性を有するポリマーを含むことで、活物質二次粒子と硫化物固体電解質とのコンタクトがとり易くなり、活物質二次粒子と硫化物固体電解質との結着力が向上し、さらには、ポリマー自体も変形性能を有することから、活物質二次粒子と硫化物固体電解質との剥離が生じ難くなるものと考えられる。すなわち、充放電に伴って負極合材中の活物質二次粒子(特にSi粒子)の体積が変化したとしても、活物質二次粒子と硫化物固体電解質との剥離が生じ難く、イオン電導パス等が維持されるものと考えられる。結果として、二次電池としてのサイクル特性(容量維持率)が向上したものと考えられる。以上の結果から、以下を満たす負極合材を用いて二次電池を構成することで、二次電池のサイクル特性が向上するものといえる。
(1)負極合材は、活物質二次粒子と、硫化物固体電解質とを含む。
(2)前記活物質二次粒子は、複数のシリコン粒子と、前記シリコン粒子同士を結着するポリマーとを含む。
(3)前記ポリマーは、0.37≦ε/εなる特性を有する。ここで、εは、成形体Aの曲げ歪みであり、成形体Aは、前記ポリマー及び前記硫化物固体電解質からなり、前記ポリマーを20体積%含み、かつ、90%の充填率を有する成形体であり、εは、成形体Bの曲げ歪みであり、成形体Bは、前記硫化物固体電解質からなり、かつ、90%の充填率を有する成形体である。
【符号の説明】
【0053】
1 負極合材
1a 活物質二次粒子
1ax シリコン粒子
1ay ポリマー
1b 硫化物固体電解質
100 二次電池
10 正極集電体
20 正極活物質層
30 電解質層
40 負極活物質層
50 負極集電体
図1
図2
図3