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特開2024-159073データ作成方法、データ作成プログラム、及びデータ作成装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159073
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】データ作成方法、データ作成プログラム、及びデータ作成装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/01 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G02F1/01 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074832
(22)【出願日】2023-04-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載日 令和5年1月18日 ウェブサイトのアドレス(URL) https://confit.atlas.jp/guide/event/lsj43/proceedings/list 開催日 令和5年1月20日 集会名、開催場所 一般社団法人レーザー学会学術講演会第43回年次大会 (ウインクあいち 愛知県名古屋市中村区名駅4丁目4-38)
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 向陽
(72)【発明者】
【氏名】井上 卓
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA05
2K102BA21
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD09
2K102BD10
2K102DB08
2K102DD02
2K102EA21
2K102EB08
2K102EB10
2K102EB14
2K102EB20
(57)【要約】
【課題】所望の時間強度波形及び波長成分を有する光を精度良く実現するためのSLMの変調パターンを得る。
【解決手段】このデータ作成方法は、空間光変調器を制御するデータを作成する方法である。このデータ作成方法は、第1ステップST1と、第2ステップST2と、第3ステップST3と、を含む。第1ステップST1では、複数の初期位相スペクトル関数を準備する。第2ステップST2では、複数の初期位相スペクトル関数それぞれを用いて、空間光変調器を制御し得る複数の予備データそれぞれを生成する。第3ステップST3では、複数の予備データの中から少なくとも一つの予備データを選択して、SLMを制御するデータとする。
【選択図】図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間光変調器を制御するデータを作成する方法であって、
複数の初期位相スペクトル関数を準備する第1ステップと、
前記複数の初期位相スペクトル関数それぞれを用いて、前記空間光変調器を制御し得る複数の予備データそれぞれを生成する第2ステップと、
前記複数の予備データの中から少なくとも一つの予備データを選択して前記空間光変調器を制御する前記データとする第3ステップと、
を含み、
前記第2ステップは、
強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第1波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の第2波形関数に変換する第1変換ステップと、
時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含み、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムに対応する時間領域の第3波形関数を、前記第2波形関数から求める第2変換ステップと、
前記第3波形関数を、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第4波形関数に変換する第3変換ステップと、を含み、
前記第2ステップでは、前記第1波形関数を前記第4波形関数に置き換えながら前記複数の予備データのそれぞれに関して前記第1変換ステップ、前記第2変換ステップ、および前記第3変換ステップを繰り返し行い、繰り返し動作の最初における前記第1変換ステップにおいて前記複数の初期位相スペクトル関数それぞれを前記第1波形関数の前記位相スペクトル関数とし、繰り返し動作後に得られる前記第4波形関数の前記位相スペクトル関数に基づいて前記複数の予備データそれぞれを生成する、データ作成方法。
【請求項2】
前記ターゲット強度スペクトログラムは、中心波長が互いに異なる複数の光パルスを含む光パルス列に関する強度スペクトログラムである、請求項1に記載のデータ作成方法。
【請求項3】
前記ターゲット強度スペクトログラムにおける前記複数の光パルス間の中心波長差を、目標とする前記複数の光パルス間の中心波長差よりも大きく設定する、請求項2に記載のデータ作成方法。
【請求項4】
前記ターゲット強度スペクトログラムにおける前記複数の光パルス間の中心波長差を、目標とする前記複数の光パルス間の中心波長差の1.1倍よりも大きく設定する、請求項2に記載のデータ作成方法。
【請求項5】
前記ターゲット強度スペクトログラムにおける前記複数の光パルス間の中心波長差を、前記空間光変調器への入力光の波長帯域を(前記光パルス列のパルス本数-1)で除算した値よりも小さく設定する、請求項2~4のいずれか1項に記載のデータ作成方法。
【請求項6】
前記第2変換ステップは、
前記第2波形関数を、強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムに変換するステップと、
前記強度スペクトログラムを前記ターゲット強度スペクトログラムに置き換えるとともに、前記位相スペクトログラムを拘束するステップと、
置き換え後の前記強度スペクトログラム及び拘束された前記位相スペクトログラムを、前記第3波形関数に変換するステップと、
を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のデータ作成方法。
【請求項7】
前記第2変換ステップは、
前記第2波形関数に対し、前記ターゲット強度スペクトログラムに対応する目標波形に基づく前記時間強度波形関数の置き換えを行うステップと、
前記ターゲット強度スペクトログラムに前記第2波形関数のスペクトログラムが近づくように前記第2波形関数を修正するステップと、
修正後の前記第2波形関数から前記第3波形関数を生成するステップと、
を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のデータ作成方法。
【請求項8】
空間光変調器を制御するデータを作成するためのプログラムであって、
複数の初期位相スペクトル関数を準備する第1ステップと、
前記複数の初期位相スペクトル関数それぞれを用いて、前記空間光変調器を制御し得る複数の予備データそれぞれを生成する第2ステップと、
前記複数の予備データの中から少なくとも一つの予備データを選択して前記空間光変調器を制御する前記データとする第3ステップと、
をコンピュータに実行させ、
前記第2ステップは、
強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第1波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の第2波形関数に変換する第1変換ステップと、
時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含み、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムに対応する時間領域の第3波形関数を、前記第2波形関数から求める第2変換ステップと、
前記第3波形関数を、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第4波形関数に変換する第3変換ステップと、を含み、
前記第2ステップでは、前記第1波形関数を前記第4波形関数に置き換えながら前記複数の予備データのそれぞれに関して前記第1変換ステップ、前記第2変換ステップ、および前記第3変換ステップを繰り返し行い、繰り返し動作の最初における前記第1変換ステップにおいて前記複数の初期位相スペクトル関数それぞれを前記第1波形関数の前記位相スペクトル関数とし、繰り返し動作後に得られる前記第4波形関数の前記位相スペクトル関数に基づいて前記複数の予備データそれぞれを生成する、データ作成プログラム。
【請求項9】
空間光変調器を制御するデータを作成する装置であって、
複数の初期位相スペクトル関数を記憶する記憶部と、
前記複数の初期位相スペクトル関数それぞれを用いて、前記空間光変調器を制御し得る複数の予備データそれぞれを生成する予備データ生成部と、
前記複数の予備データの中から少なくとも一つの予備データを選択して前記空間光変調器を制御する前記データとするデータ選択部と、
を備え、
前記予備データ生成部は、
強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第1波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の第2波形関数に変換する第1変換部と、
時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含み、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムに対応する時間領域の第3波形関数を、前記第2波形関数から求める第2変換部と、
前記第3波形関数を、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第4波形関数に変換する第3変換部と、を有し、
前記予備データ生成部は、前記第1波形関数を前記第4波形関数に置き換えながら前記複数の予備データのそれぞれに関して前記第1変換部、前記第2変換部、および前記第3変換部の動作を繰り返し行い、繰り返し動作の最初における前記第1変換部において前記複数の初期位相スペクトル関数それぞれを前記第1波形関数の前記位相スペクトル関数とし、繰り返し動作後に得られる前記第4波形関数の前記位相スペクトル関数に基づいて前記複数の予備データそれぞれを生成する、データ作成装置。
【請求項10】
前記ターゲット強度スペクトログラムは、中心波長が互いに異なる複数の光パルスを含む光パルス列に関する強度スペクトログラムである、請求項9に記載のデータ作成装置。
【請求項11】
前記ターゲット強度スペクトログラムにおける前記複数の光パルス間の中心波長差が、目標とする前記複数の光パルス間の中心波長差よりも大きく設定される、請求項10に記載のデータ作成装置。
【請求項12】
前記ターゲット強度スペクトログラムにおける前記複数の光パルス間の中心波長差が、目標とする前記複数の光パルス間の中心波長差の1.1倍よりも大きく設定される、請求項10に記載のデータ作成装置。
【請求項13】
前記ターゲット強度スペクトログラムにおける前記複数の光パルス間の中心波長差が、前記空間光変調器への入力光の波長帯域を(前記光パルス列のパルス本数-1)で除算した値よりも小さく設定される、請求項10~12のいずれか1項に記載のデータ作成装置。
【請求項14】
前記第2変換部は、
前記第2波形関数を、強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムに変換する部分と、
前記強度スペクトログラムを前記ターゲット強度スペクトログラムに置き換えるとともに、前記位相スペクトログラムを拘束する部分と、
置き換え後の前記強度スペクトログラム及び拘束された前記位相スペクトログラムを、前記第3波形関数に変換する部分と、
を含む、請求項9~12のいずれか1項に記載のデータ作成装置。
【請求項15】
前記第2変換部は、
前記第2波形関数に対し、前記ターゲット強度スペクトログラムに対応する目標波形に基づく前記時間強度波形関数の置き換えを行う部分と、
前記ターゲット強度スペクトログラムに前記第2波形関数のスペクトログラムが近づくように前記第2波形関数を修正する部分と、
修正後の前記第2波形関数から前記第3波形関数を生成する部分と、
を含む、請求項9~12のいずれか1項に記載のデータ作成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、データ作成方法、データ作成プログラム、及びデータ作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び非特許文献1には、空間光変調器(Spatial Light Modulator:SLM)を用いてスペクトル位相及び/又はスペクトル強度を変調することにより、光パルスを成形する技術が開示されている。非特許文献1では、所望の光パルス波形を得るためのスペクトル位相及びスペクトル強度を、反復フーリエ法を用いて算出している。特許文献1では、時間強度波形を構成する光の波長成分(周波数成分)を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-036486号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. Hacker, G. Stobrawa, T. Feurer, “Iterative Fourier transformalgorithm for phase-only pulse shaping”, Optics Express, Vol. 9, No. 4, pp.191-199,13 August 2001
【非特許文献2】Olivier Ripoll, Ville Kettunen, Hans Peter Herzig, “Review ofiterative Fouriertransform algorithms for beam shaping applications”, OpticalEngineering, Vol. 43, No. 11, pp.2549-2556, November 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば超短パルス光といった種々の光の時間波形を制御するための技術として、光パルスのスペクトル位相及びスペクトル強度をSLMによって変調するものがある。このような技術では、光の時間強度波形を所望の波形に近づけるためのスペクトル位相及びスペクトル強度を算出し、そのスペクトル位相及びスペクトル強度を光に与えるための変調パターンをSLMに呈示させる。また、時間強度波形の形状の制御に加えて、時間強度波形を構成する光の波長成分(周波数成分)を制御することもできる(例えば特許文献1を参照)。複数の光パルスを含む出力光を生成する場合、複数の光パルス毎に波長を異ならせることによって、分散計測装置、レーザ加工装置、超高速撮像カメラ、テラヘルツ波発生装置など様々な装置への応用が可能となる。このような技術において、所望の時間強度波形及び波長成分を有する光を精度良く実現するための変調パターンを得ることは重要である。
【0006】
本開示は、所望の時間強度波形及び波長成分を有する光を精度良く実現するためのSLMの変調パターンを得ることができるデータ作成方法、データ作成プログラム、及びデータ作成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]一形態のデータ作成方法は、SLMを制御するデータを作成する方法である。このデータ作成方法は、第1ステップと、第2ステップと、第3ステップと、を含む。第1ステップでは、複数の初期位相スペクトル関数を準備する。第2ステップでは、複数の初期位相スペクトル関数それぞれを用いて、空間光変調器を制御し得る複数の予備データそれぞれを生成する。第3ステップでは、複数の予備データの中から少なくとも一つの予備データを選択して、SLMを制御する上記データとする。第2ステップは、第1変換ステップと、第2変換ステップと、第3変換ステップと、を含む。第1変換ステップでは、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第1波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の第2波形関数に変換する。第2変換ステップでは、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含み、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムに対応する時間領域の第3波形関数を、第2波形関数から求める。第3変換ステップでは、第3波形関数を、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第4波形関数に変換する。第2ステップでは、第1波形関数を第4波形関数に置き換えながら、複数の予備データのそれぞれに関して第1変換ステップ、第2変換ステップ、および第3変換ステップを繰り返し行う。その際、繰り返し動作の最初における第1変換ステップにおいて、複数の初期位相スペクトル関数それぞれを、第1波形関数の位相スペクトル関数とする。また、繰り返し動作後に得られる第4波形関数の位相スペクトル関数に基づいて、複数の予備データそれぞれを生成する。
【0008】
[2]一形態のデータ作成プログラムは、SLMを制御するデータを作成するためのプログラムである。このデータ作成プログラムは、第1ステップと、第2ステップと、第3ステップと、をコンピュータに実行させる。第1ステップでは、複数の初期位相スペクトル関数を準備する。第2ステップでは、複数の初期位相スペクトル関数それぞれを用いて、空間光変調器を制御し得る複数の予備データそれぞれを生成する。第3ステップでは、複数の予備データの中から少なくとも一つの予備データを選択して、SLMを制御する上記データとする。第2ステップは、第1変換ステップと、第2変換ステップと、第3変換ステップと、を含む。第1変換ステップでは、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第1波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の第2波形関数に変換する。第2変換ステップでは、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含み、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムに対応する時間領域の第3波形関数を、第2波形関数から求める。第3変換ステップでは、第3波形関数を、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第4波形関数に変換する。第2ステップでは、第1波形関数を第4波形関数に置き換えながら、複数の予備データのそれぞれに関して第1変換ステップ、第2変換ステップ、および第3変換ステップを繰り返し行う。その際、繰り返し動作の最初における第1変換ステップにおいて、複数の初期位相スペクトル関数それぞれを、第1波形関数の位相スペクトル関数とする。また、繰り返し動作後に得られる第4波形関数の位相スペクトル関数に基づいて、複数の予備データそれぞれを生成する。
【0009】
[3]一形態のデータ作成装置は、SLMを制御するデータを作成する装置である。データ作成装置は、記憶部と、予備データ生成部と、データ選択部と、を備える。記憶部は、複数の初期位相スペクトル関数を記憶する。予備データ生成部は、複数の初期位相スペクトル関数それぞれを用いて、空間光変調器を制御し得る複数の予備データそれぞれを生成する。データ選択部は、複数の予備データの中から少なくとも一つの予備データを選択して空間光変調器を制御するデータとする。予備データ生成部は、第1変換部と、第2変換部と、第3変換部と、を有する。第1変換部は、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第1波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の第2波形関数に変換する。第2変換部は、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含み、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムに対応する時間領域の第3波形関数を、第2波形関数から求める。第3変換部は、第3波形関数を、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第4波形関数に変換する。予備データ生成部は、第1波形関数を第4波形関数に置き換えながら複数の予備データのそれぞれに関して第1変換部、第2変換部、および第3変換部の動作を繰り返し行う。その際、予備データ生成部は、繰り返し動作の最初における第1変換部において、複数の初期位相スペクトル関数それぞれを、第1波形関数の位相スペクトル関数とする。予備データ生成部は、繰り返し動作後に得られる第4波形関数の位相スペクトル関数に基づいて、複数の予備データそれぞれを生成する。
【0010】
一般的に、SLMに呈示する変調パターンを算出するためには、まず一つの初期位相スペクトル関数を用意し、繰り返し計算によって、位相スペクトル関数を、目的とする時間強度波形及び波長成分を実現可能な値に徐々に近づける。しかしながら、最終的に得られるスペクトル位相及びスペクトル強度は、初期位相スペクトル関数によって異なる。その結果、その位相スペクトル関数に基づく変調パターンをSLMに呈示させたとき、得られる光の時間強度波形及び波長成分も、初期位相スペクトル関数によって異なる。そこで、上記[1]~[3]のデータ作成方法、データ作成プログラム、及びデータ作成装置では、予め複数の初期値(初期位相スペクトル関数)を準備する。そして、第1変換ステップないし第3変換ステップ、または第1変換部ないし第3変換部において、初期位相スペクトル関数ごとに繰り返し計算を行い、得られた複数の予備データの中から、SLMを制御するデータとして少なくとも一つの予備データを選択する。これにより、所望の時間強度波形及び波長成分を有する光を精度良く実現するための変調パターンを含むデータを得ることができる。
【0011】
[4]上記[1]~[3]のデータ作成方法、データ作成プログラム、又はデータ作成装置において、ターゲット強度スペクトログラムは、中心波長が互いに異なる複数の光パルスを含む光パルス列に関する強度スペクトログラムであってもよい。その場合、中心波長が互いに異なる複数の光パルスを含む光パルス列の時間強度波形及び波長成分の精度を高めることができる。
【0012】
[5]上記[4]のデータ作成方法、データ作成プログラム、又はデータ作成装置において、ターゲット強度スペクトログラムにおける複数の光パルス間の中心波長差を、目標とする複数の光パルス間の中心波長差よりも大きく設定してもよい。或いは、[6]上記[4]のデータ作成方法、データ作成プログラム、又はデータ作成装置において、ターゲット強度スペクトログラムにおける複数の光パルス間の中心波長差を、目標とする複数の光パルス間の中心波長差の1.1倍よりも大きく設定してもよい。本発明者の知見によれば、繰り返し計算によって得られるデータにより得られる複数の光パルス間の中心波長差は、ターゲット強度スペクトログラムの基となった複数の光パルス間の中心波長差よりも小さくなる傾向がある。従って、ターゲット強度スペクトログラムにおける複数の光パルス間の中心波長差を上記のように設定することにより、複数の光パルス間の中心波長差をより精度良く実現することができる。
【0013】
[7]上記[4]~[6]のうちいずれかのデータ作成方法、データ作成プログラム、又はデータ作成装置において、ターゲット強度スペクトログラムにおける複数の光パルス間の中心波長差を、SLMへの入力光の波長帯域を(光パルス列のパルス本数-1)で除算した値よりも小さく設定してもよい。ターゲット強度スペクトログラムにおける複数の光パルス間の中心波長差をこのように設定することにより、複数の光パルス間の中心波長差をより精度良く実現することができる。
【0014】
[8]上記[1]、[2]、及び[4]~[7]のうちいずれかのデータ作成方法又はデータ作成プログラムにおいて、第2変換ステップは、第2波形関数を、強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムに変換するステップと、強度スペクトログラムをターゲット強度スペクトログラムに置き換えるとともに、位相スペクトログラムを拘束するステップと、置き換え後の強度スペクトログラム及び拘束された位相スペクトログラムを、第3波形関数に変換するステップと、を含んでもよい。同様に、上記[3]~[7]のうちいずれかのデータ作成装置において、第2変換部は、第2波形関数を、強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムに変換する部分と、強度スペクトログラムをターゲット強度スペクトログラムに置き換えるとともに、位相スペクトログラムを拘束する部分と、置き換え後の強度スペクトログラム及び拘束された位相スペクトログラムを、第3波形関数に変換する部分と、を含んでもよい。例えばこれらのデータ作成方法、データ作成プログラム、又はデータ作成装置によって、所望の時間強度波形及び波長成分を有する光を精度良く実現するための複数の予備データを得ることができる。
【0015】
[9]上記[1]、[2]、及び[4]~[7]のうちいずれかのデータ作成方法又はデータ作成プログラムにおいて、第2変換ステップは、第2波形関数に対し、ターゲット強度スペクトログラムに対応する目標波形に基づく時間強度波形関数の置き換えを行うステップと、ターゲット強度スペクトログラムに第2波形関数のスペクトログラムが近づくように第2波形関数を修正するステップと、修正後の第2波形関数から第3波形関数を生成するステップと、を含んでもよい。同様に、上記[3]~[7]のうちいずれかのデータ作成装置において、第2変換部は、第2波形関数に対し、ターゲット強度スペクトログラムに対応する目標波形に基づく時間強度波形関数の置き換えを行う部分と、ターゲット強度スペクトログラムに第2波形関数のスペクトログラムが近づくように第2波形関数を修正する部分と、修正後の第2波形関数から第3波形関数を生成する部分と、を含んでもよい。例えばこれらのデータ作成方法、データ作成プログラム、又はデータ作成装置によって、所望の時間強度波形及び波長成分を有する光を精度良く実現するための複数の予備データを得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によるデータ作成方法、データ作成プログラム、及びデータ作成装置によれば、所望の時間強度波形及び波長成分を有する光を精度良く実現するためのSLMの変調パターンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る光制御装置の構成を概略的に示す図である。
図2図2は、光波形制御部の構成例を示す図である。
図3図3は、空間光変調器の変調面を示す図である。
図4図4(a)は、単パルス状の入力光のスペクトル波形を示す。図4(b)は、該入力光の時間強度波形を示す。
図5図5(a)は、空間光変調器において矩形波状のスペクトル位相変調を与えたときの出力光のスペクトル波形を示す。図5(b)は、該出力光の時間強度波形を示す。
図6図6(a),(b),(c)は、帯域制御バーストパルスの例を示す図である。
図7図7(a),(b),(c)は、帯域制御されていないバーストパルスの例を示す図である。
図8図8は、データ作成装置のハードウェアの構成例を概略的に示す図である。
図9図9は、予備データ生成部の内部構成を示すブロック図である。
図10図10は、予備データ生成部における位相スペクトル関数の計算手順を示すブロック図である。
図11図11は、予備データ生成部における位相スペクトル関数の計算手順を数式により示す図である。
図12図12(a)は、初期スペクトル関数の一例として、初期強度スペクトル関数及び初期位相スペクトル関数を模式的に示すグラフである。図12(b)は、第1波形関数からフーリエ変換された、1周目における第2波形関数の時間強度波形関数及び時間位相波形関数を模式的に示すグラフである。
図13図13(a)は、図12(b)に示される第2波形関数から変換された強度スペクトログラムを示す図である。図13(b)は、図12(b)に示される第2波形関数から変換された位相スペクトログラムを示す図である。図13(c)は、ターゲット強度スペクトログラムの一例を示す図である。図13(d)は、拘束された位相スペクトログラムを示す図である。
図14図14(a)は、図13(c)及び図13(d)に示される強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムから逆STFTされた、1周目における第3波形関数の時間強度波形関数及び時間位相波形関数を模式的に示すグラフである。図14(b)は、図14(a)に示される第3波形関数から逆フーリエ変換された、1周目における第4波形関数の強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を模式的に示すグラフである。
図15図15(a)は、図14(b)ののちの3周目(n=3)における、第1波形関数の強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を模式的に示すグラフである。図15(b)は、図15(a)に示される第1波形関数からフーリエ変換された、3周目における第2波形関数の時間強度波形関数及び時間位相波形関数を模式的に示すグラフである。
図16図16(a)及び(b)それぞれは、図15(b)に示される第2波形関数から変換された、3周目における強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムそれぞれを示す図である。図16(c)は、3周目における強度スペクトログラムを示す図である。図16(d)は、3周目における拘束された位相スペクトログラムを示す図である。
図17図17(a)は、図16(c)及び図16(d)に示される強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムから逆STFTされた、3周目における第3波形関数の時間強度波形関数及び時間位相波形関数を模式的に示すグラフである。図17(b)は、図17(a)に示される第3波形関数から逆フーリエ変換された、3周目における第4波形関数の強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を模式的に示すグラフである。
図18図18は、一実施形態に係るデータ作成方法を示すフローチャートである。
図19図19は、スペクトログラム設定部の機能的構成を示すブロック図である。
図20図20(a)は、ターゲット波形関数の一例として、図6に示された一つの光パルスについてのターゲット波形関数の強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を示すグラフである。図20(b)は、時間領域の波形関数の一例として、図20(a)に示されるターゲット波形関数から生成された時間強度波形関数及び時間位相波形関数を示すグラフである。
図21図21(a)は、強度スペクトログラムの一例として、図20(b)に示される波形関数から生成された強度スペクトログラムを示す図である。図21(b)は、一例として、3つの光パルスについての強度スペクトログラムを互いに重畳して得られる強度スペクトログラムを示す図である。
図22図22は、強度スペクトログラムを作成するための方法を示すフローチャートである。
図23図23は、ターゲット強度スペクトログラムを用いて得られたデータを空間光変調器に呈示することにより実際に得られる光の、複数のパルス間の中心波長差と、複数のパルスのピーク強度のばらつきとの関係を、複数の初期位相スペクトル関数それぞれについてプロットしたグラフである。
図24図24は、ターゲット強度スペクトログラムを用いて得られたデータを空間光変調器に呈示することにより実際に得られる光の、複数のパルス間の中心波長差と、複数のパルスのピーク強度のばらつきとの関係を、複数の初期位相スペクトル関数それぞれについてプロットしたグラフである。
図25図25は、ターゲット強度スペクトログラムを用いて得られたデータを空間光変調器に呈示することにより実際に得られる光の、複数のパルス間の中心波長差と、複数のパルスのピーク強度のばらつきとの関係を、複数の初期位相スペクトル関数それぞれについてプロットしたグラフである。
図26図26は、一変形例に係るターゲット設定部及び予備データ生成部の内部構成を示すブロック図である。
図27図27は、予備データ生成部における位相スペクトル関数の計算手順を示す図である。
図28図28は、ターゲット設定部におけるターゲットスペクトログラムの生成手順の一例を示す図である。
図29図29は、強度スペクトル関数を算出する手順の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1は、本開示の一実施形態に係る光制御装置1の構成を概略的に示す図である。本実施形態の光制御装置1は、入力光Laから、該入力光Laとは異なる任意の時間強度波形を有する出力光Lbを生成する。図1に示されるように、光制御装置1は、光源2、光波形制御部3、及びデータ作成装置20を備える。
【0020】
光源2は、光波形制御部3に入力される入力光Laを出力する。入力光Laは、例えば連続光である。或いは、光源2は例えば固体レーザ光源等のレーザ光源であり、入力光La(初期の光パルス)は、例えばコヒーレントな単一の光パルスである。光源2は、例えばフェムト秒レーザであり、一実施例ではLD直接励起型Yb:YAGパルスレーザである。光パルスの時間波形は例えばガウス関数状である。光パルスの半値全幅(FWHM)は、例えば10fs~10000fsの範囲内であり、一例では100fsである。入力光Laは、或る程度の帯域幅を有し、連続する複数の波長成分を含む。一実施例では、入力光Laの帯域幅は10nmであり、入力光Laの中心波長は800nmである。
【0021】
光波形制御部3は、空間光変調器(SLM)14を有しており、データ作成装置20からの制御信号SCをSLM14に受ける。光波形制御部3は、光源2からの入力光Laを、任意の時間強度波形を有する出力光Lbに変換する。制御信号SCは、SLM14を制御するためのデータ、すなわち複素振幅分布の強度あるいは位相分布の強度を含むデータに基づいて生成される。データは、例えば、計算機合成ホログラム(Computer-Generated Holograms(CGH))である。
【0022】
図2は、光波形制御部3の構成例を示す図である。光波形制御部3は、回折格子12、レンズ13、SLM14、レンズ15、及び回折格子16を有する。回折格子12は本実施形態における分光素子であり、光源2と光学的に結合されている。SLM14はレンズ13を介して回折格子12と光学的に結合されている。回折格子12は、入力光Laに含まれる複数の波長成分を、波長毎に空間的に分離する。なお、分光素子として、回折格子12に代えてプリズム等の他の光学部品を用いてもよい。
【0023】
入力光Laは、回折格子12に対して斜めに入射し、複数の波長成分に分光される。この複数の波長成分を含む光L1は、レンズ13によって波長成分毎に集光され、SLM14の変調面に結像される。レンズ13は、光透過部材からなる凸レンズであってもよく、凹状の光反射面を有する凹面鏡であってもよい。
【0024】
SLM14は、入力光Laを出力光Lbに変換するために、回折格子12から出力された複数の波長成分の位相を相互にずらす。そのために、SLM14は、データ作成装置20から制御信号SCを受けて、光L1の位相変調と強度変調とを同時に行う。なお、SLM14は、位相変調のみ、または強度変調のみを行ってもよい。SLM14は、例えば位相変調型である。一実施例では、SLM14はLCOS(Liquid crystal on silicon)型である。なお、図には透過型のSLM14が示されているが、SLM14は反射型であってもよい。また、空間光変調器14は、位相変調型の空間光変調器に限らず、DMD(Digital Micro Mirror Device)などの強度変調型の空間光変調器、或いは位相-強度変調型の空間光変調器であってもよい。
【0025】
図3は、SLM14の変調面17を示す図である。図3に示すように、変調面17には、複数の変調領域17aが或る方向AAに沿って並んでおり、各変調領域17aは方向AAと交差する方向ABに延びている。方向AAは、回折格子12による分光方向である。この変調面17はフーリエ変換面として働き、複数の変調領域17aのそれぞれには、分光後の対応する各波長成分が入射する。SLM14は、各変調領域17aにおいて、入射した各波長成分の位相及び強度を他の波長成分から独立して変調する。なお、本実施形態のSLM14は位相変調型であるため、強度変調は、変調面17に呈示される位相パターン(位相画像)によって実現される。
【0026】
SLM14によって変調された変調光L2の各波長成分は、レンズ15によって回折格子16上の一点に集められる。レンズ15及び回折格子16は、変調光L2を集光する光学系として機能する。レンズ15は、光透過部材からなる凸レンズであってもよく、凹状の光反射面を有する凹面鏡であってもよい。また、回折格子16は合波光学系として機能し、変調後の各波長成分を合波する。すなわち、これらのレンズ15及び回折格子16により、変調光L2の複数の波長成分は互いに集光・合波されて、出力光Lbとなる。SLM14が反射型である場合、レンズ13及び15は共通のレンズによって構成されてもよく、回折格子12及び16は共通の回折格子によって構成されてもよい。
【0027】
レンズ15よりも前の領域(スペクトル領域)と、回折格子16よりも後ろの領域(時間領域)とは、互いにフーリエ変換の関係にあり、スペクトル領域における位相変調は、時間領域における時間強度波形に影響する。従って、出力光Lbは、SLM14の変調パターンに応じた、入力光Laとは異なる所望の時間強度波形を有することとなる。ここで、図4(a)は、一例として、単パルス状の入力光Laのスペクトル波形(スペクトル位相G11及びスペクトル強度G12)を示し、図4(b)は、該入力光Laの時間強度波形を示す。また、図5(a)は、一例として、SLM14において矩形波状のスペクトル位相変調を与えたときの出力光Lbのスペクトル波形(スペクトル位相G21及びスペクトル強度G22)を示し、図5(b)は、該出力光Lbの時間強度波形を示す。図4(a)及び図5(a)において、横軸は波長(nm)を示し、左の縦軸は強度スペクトルの強度値(任意単位)を示し、右の縦軸はスペクトル位相の位相値(rad)を示す。また、図4(b)及び図5(b)において、横軸は時間(フェムト秒)を表し、縦軸は光強度(任意単位)を表す。この例では、矩形波状の位相スペクトル波形を出力光Lbに与えることにより、入力光Laのシングルパルスが、出力光Lbとして高次光を伴うダブルパルスに変換されている。なお、図5に示されるスペクトル及び波形は一つの例であって、様々なスペクトル位相及びスペクトル強度の組み合わせにより、出力光Lbの時間強度波形を様々な形状に整形することができる。
【0028】
出力光Lbが複数の光パルスを含む光パルス列である場合、光パルス列は、入力光Laを構成するスペクトルを複数の波長帯域に分け、それぞれの波長帯域を用いて生成したシングルパルス群であってもよい。この場合、複数の波長帯域の境界では、互いに重なり合う部分があってもよい。このような光パルス列は「帯域制御バーストパルス」と称される。
【0029】
図6は、帯域制御バーストパルスの例を示す図である。この例では、3つの光パルスPb1~Pb3からなる光パルス列Pbが示されている。図6(a)は、スペクトログラムであって、横軸に時間、縦軸に波長を示しており、光強度を色の濃淡で表している。図6(b)は、光パルス列Pbの時間波形を表している。各光パルスPb1~Pb3の時間波形は例えばガウス関数状である。
【0030】
図6(a)及び図6(b)に示すように、3つの光パルスPb1~Pb3のピーク同士は時間的に互いに離れており、3つの光パルスPb1~Pb3の伝搬タイミングは互いにずれている。言い換えると、一の光パルスPb1に対して別の光パルスPb2が時間遅れを有しており、該別の光パルスPb2に対して更に別の光パルスPb3が時間遅れを有している。但し、隣り合う光パルスPb1,Pb2(又はPb2,Pb3)の裾部分同士が互いに重なっていてもよい。隣り合う光パルスPb1,Pb2(又はPb2,Pb3)の時間間隔(ピーク間隔)は、例えば10fs~10000fsの範囲内であり、一例では2000fsである。また、各光パルスPb~PbのFWHMは、例えば10fs~5000fsの範囲内であり、一例では300fsである。
【0031】
図6(c)は、3つの光パルスPb1~Pb3を合成したスペクトルを表している。図6(c)に示すように3つの光パルスPb1~Pb3を合成したスペクトルは単一のピークを有するが、図6(a)を参照すると3つの光パルスPb1~Pb3の中心波長は互いにずれている。図6(c)に示す単一のピークを有するスペクトルは、ほぼ入力光Laのスペクトルと同じである。
【0032】
隣り合う光パルスPb1,Pb2(又はPb2,Pb3)のピーク波長間隔は、入力光Laのスペクトル帯域幅によって定まり、概ね半値全幅の2倍の範囲内である。一例では、入力光Laのスペクトル帯域幅が10nmの場合、ピーク波長間隔は5nmである。具体例として、入力光Laの中心波長が800nmである場合、3つの光パルスPb1~Pb3のピーク波長はそれぞれ795nm、800nm、及び805nmであることができる。
【0033】
図7は、帯域制御されていないバーストパルスの例を示す図である。この例では、3つの光パルスPd1~Pd3からなる光パルス列Pdが示されている。図7(a)は、図6(a)と同様に、スペクトログラムであって、横軸に時間、縦軸に波長を示しており、光強度を色の濃淡で表している。図7(b)は、光パルス列Pdの時間波形を表している。図7(c)は、3つの光パルスPd1~Pd3を合成したスペクトルを表している。
【0034】
図7(a)~(c)に示すように、3つの光パルスPd1~Pd3のピーク同士は時間的に互いに離れているが、3つの光パルスPd1~Pd3の中心波長は互いに一致している。本実施形態の光波形制御部3は、このような光パルス列Pdに限らず、図6に示されたような、各光パルスPb1~Pb3の中心波長が互いに異なる光パルス列Pbを生成することができる。
【0035】
再び図1を参照する。データ作成装置20は、SLM14と通信可能に接続されており、出力光Lbの時間強度波形を所望の波形に近づけるための位相変調パターンに関するデータを作成し、該データを含む制御信号SCをSLM14に提供する。本実施形態のデータ作成装置20は、所望の波形を得る為のスペクトル位相及びスペクトル強度を出力光Lbに与える位相変調用の位相パターンをSLM14に呈示させる。そのために、データ作成装置20は、記憶部21と、スペクトログラム設定部22と、予備データ生成部23と、データ選択部24とを有する。
【0036】
なお、データ作成装置20は、制御信号SCをSLM14に提供する装置とは別に設けられてもよい。その場合、データ作成装置20は、制御信号SCをSLM14に提供する装置に、位相変調パターンに関するデータを提供する。データ作成装置20は、例えば、パーソナルコンピュータ;スマートフォン、タブレット端末などのスマートデバイス;あるいはクラウドサーバなどのプロセッサを有するコンピュータであってよい。
【0037】
図8は、データ作成装置20のハードウェアの構成例を概略的に示す図である。図8に示すように、データ作成装置20は、物理的には、プロセッサ(CPU)61、ROM62及びRAM63等の主記憶装置、キーボード、マウス及びタッチスクリーン等の入力デバイス64、ディスプレイ(タッチスクリーン含む)等の出力デバイス65、他の装置との間でデータの送受信を行うためのネットワークカード等の通信モジュール66、ハードディスク等の補助記憶装置67などを含む、通常のコンピュータとして構成され得る。
【0038】
コンピュータのプロセッサ61は、データ作成プログラムによって、上記のデータ作成装置20の各機能を実現することができる。故に、データ作成プログラムは、コンピュータのプロセッサ61を、データ作成装置20におけるスペクトログラム設定部22、予備データ生成部23、及びデータ選択部24として動作させる。データ作成プログラムは、コンピュータの内部または外部の記憶装置(記憶媒体)に記憶される。記憶装置は、非一時的記録媒体であってもよい。記録媒体としては、フレキシブルディスク、CD、DVD等の記録媒体、ROM等の記録媒体、半導体メモリ、クラウドサーバ等が例示される。ROM62または補助記憶装置67は、記憶部21を構成する。
【0039】
記憶部21は、出力光Lbの時間強度波形を所望の波形に近づけるための位相変調パターンに関するデータを作成する際に用いられる、複数の初期位相スペクトル関数を記憶する。初期位相スペクトル関数については、後に詳述する。
【0040】
スペクトログラム設定部22は、ターゲット強度スペクトログラムを作成する。ターゲット強度スペクトログラムに関するデータは、予備データ生成部23に与えられる。予備データ生成部23は、記憶部21に記憶された複数の初期位相スペクトル関数それぞれを用いて、与えられたターゲット強度スペクトログラムの実現に適した複数の位相スペクトル関数を算出する。そして、予備データ生成部23は、複数の位相スペクトル関数それぞれに基づいて、光波形制御部3において出力光Lbに与えるための複数の位相変調パターン(例えば、計算機合成ホログラム)それぞれを算出し、複数の位相変調パターンそれぞれに関する、SLM14を制御し得る複数の予備データそれぞれを生成する。
【0041】
データ選択部24は、予備データ生成部23により生成された複数の予備データの中から少なくとも一つの予備データを選択して、その予備データを、SLM14を制御するデータに決定する。そして、決定されたデータを含む制御信号SCが、SLM14に提供される。SLM14は、制御信号SCに基づいて制御される。データ選択部24では、操作者の操作によってデータが選択されてもよいし、所定のルールに従って自動的にデータが選択されてもよい。
【0042】
図9は、予備データ生成部23の内部構成を示すブロック図である。図9に示されるように、予備データ生成部23は、フーリエ変換部25(第1変換部)、関数変換部26(第2変換部)、逆フーリエ変換部27(第3変換部)、及びデータ生成部28を有する。関数変換部26は、スペクトログラム変換部261、スペクトログラム置換部262、スペクトログラム逆変換部263を含む。予備データ生成部23は、以下に説明する算出方法を用いて、変調パターンの基になる位相スペクトル関数を算出する。図10は、予備データ生成部23における位相スペクトル関数の計算手順を示すブロック図である。図11は、予備データ生成部23における位相スペクトル関数の計算手順を数式により示す図である。
【0043】
まず、初期スペクトル関数A1、すなわち周波数ωの関数である初期強度スペクトル関数A0(ω)及び初期位相スペクトル関数Φ0(ω)を用意する。一例では、初期強度スペクトル関数A0(ω)は入力光Laの強度スペクトルを表すが、これに限られない。また、初期位相スペクトル関数Φ0(ω)は、記憶部21に記憶された複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)の中から順に選択される。複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)は、例えば乱数を用いて自動的に生成され得る。初期位相スペクトル関数Φ0(ω)の個数は、例えば100個以上である。データ作成装置20は、そのような複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)を生成する部分、すなわち初期位相スペクトル関数生成部を更に備えてもよい。また、予め多数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)を記憶部21に記憶させておき、操作者がその中から一部の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)を選択してもよい。その場合、記憶部21に記憶される初期位相スペクトル関数Φ0(ω)は、入力光Laのパラメータ(中心波長、帯域幅、スペクトル形状、スペクトル位相など)、目標とする光パルス列Pbのパラメータ(パルス本数、パルスの時間間隔、各パルスの中心波長、各パルスの帯域幅、各パルスのピーク強度比など)といった種々の条件ごとにグループ分けして記録されてもよい。その場合、操作者が望む光パルス列Pbに適した初期位相スペクトル関数Φ0(ω)のグループを選択し得る。
【0044】
図12(a)は、初期スペクトル関数A1の一例として、初期強度スペクトル関数A0(ω)及び初期位相スペクトル関数Φ0(ω)を模式的に示すグラフである。図12(a)において、グラフG31は初期強度スペクトル関数A0(ω)を表し、グラフG32は初期位相スペクトル関数Φ0(ω)を表す。横軸は波長を示し、縦軸は強度スペクトル関数の強度値または位相スペクトル関数の位相値を示す。
【0045】
第1波形関数A2は、下記の数式(1)によって示される。但し、nは繰り返し番号(n=1,2,・・・,N)であり、iは虚数である。第1周目(n=1)においては、初期スペクトル関数A1を、第1波形関数A2とする。すなわち、繰り返し第1周目の第1波形関数A2のΦ1(ω)=Φ0(ω)とする。
【数1】

予備データ生成部23のフーリエ変換部25は、第1波形関数A2に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印B1、第1変換ステップ)。これにより、下記の数式(2)によって示される、時間強度波形関数an(t)及び時間位相波形関数φn(t)を含む、時間領域の第2波形関数A3が得られる。
【数2】

図12(b)は、図12(a)に示される第1波形関数A2からフーリエ変換された、1周目における第2波形関数A3の時間強度波形関数a1(t)及び時間位相波形関数φ1(t)を模式的に示すグラフである。図12(b)において、グラフG41は時間強度波形関数a1(t)を表し、グラフG42は時間位相波形関数φ1(t)を表す。横軸は時間を示し、縦軸は時間強度波形関数の強度値または時間位相波形関数の位相値を示す。
【0046】
続いて、関数変換部26は、予め作成された強度スペクトログラムA43(ターゲット強度スペクトログラム)に対応する、時間強度波形関数a'n(t)及び時間位相波形関数φ'n(t)を含む時間領域の第3波形関数A5を、第2波形関数A3から求める(第2変換ステップ)。以下、具体的な関数変換部26の動作を説明する。
【0047】
関数変換部26のスペクトログラム変換部261は、第2波形関数A3に対して短時間フーリエ変換(Short-Time Fourier Transform;STFT)を行う(図中の矢印B2)。これにより、下記の数式(3)によって示される強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42が得られる。
【数3】

図13(a)及び図13(b)それぞれは、図12(b)に示される第2波形関数A3から変換された強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42それぞれを示す図である。なお、図13(a)及び図13(b)において横軸は時間を示し、縦軸は波長を示す。また、スペクトログラムの値は、図の明暗によって示されており、明るいほどスペクトログラムの値が大きい。この例では、強度スペクトログラムA41において単一の光パルスPb0が現れている。
【0048】
なお、第2波形関数A3を強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42に変換するためのスペクトログラム変換部261における処理は、STFTに限られず、他の処理であってもよい。時間波形をスペクトログラムに変換する処理は、STFTを含めて時間-周波数変換と呼ばれる。時間-周波数変換では、時間波形のような複合信号に対して、周波数フィルタ処理または数値演算処理(窓関数をずらしながら乗算して、各々の時間に対してスペクトルを導出する処理)を施し、時間、周波数、信号成分の強さ(強度スペクトル)からなる3次元情報を生成する。本実施形態では、その変換結果(時間、周波数、強度スペクトル)を「スペクトログラム」と定義する。時間-周波数変換としては、STFTのほか、ウェーブレット変換(ハールウェーブレット変換、ガボールウェーブレット変換、メキシカンハットウェーブレット変換、モルレーウェーブレット変換)などがある。
【0049】
続いて、関数変換部26のスペクトログラム置換部262は、強度スペクトログラムA41を予め作成された強度スペクトログラムA43(ターゲット強度スペクトログラム)に置き換えるとともに、位相スペクトログラムA42を拘束する(図中の矢印B3)。強度スペクトログラムA43は、スペクトログラム設定部22(図1を参照)から提供される。位相スペクトログラムA42を拘束するとは、位相スペクトログラムA42を変化させない(そのまま残す)ことを意味する。これにより、上記の数式(3)は、下記の数式(4)に置き換えられる。TSG(ω,t)はターゲット強度スペクトログラム関数である。
【数4】

図13(c)は、強度スペクトログラムA43の一例を示す図である。図13(d)は、拘束された位相スペクトログラムA42を示す図である。図13(c)及び図13(d)において、横軸は時間を示し、縦軸は波長を示す。スペクトログラムの値は、図の明暗によって示されており、明るいほどスペクトログラムの値が大きい。この例では、強度スペクトログラムA43に、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる3つの光パルスPb1,Pb2,Pb3を含む光パルス列Pbが含まれている。拘束された位相スペクトログラムA42は、図13(b)と全く同一である。
【0050】
続いて、関数変換部26のスペクトログラム逆変換部263は、強度スペクトログラムA43及び位相スペクトログラムA42に対して逆STFTを行う(図中の矢印B4)。なお、ここでもスペクトログラム変換部261と同様に、STFT以外の時間-周波数変換を用いてもよい。これにより、下記の数式(5)によって示される、時間強度波形関数a'n(t)及び時間位相波形関数φ'n(t)を含む時間領域の第3波形関数A5が得られる。但し、1周目ではn=1である。
【数5】

図14(a)は、図13(c)及び図13(d)に示される強度スペクトログラムA43及び位相スペクトログラムA42から逆STFTされた、1周目における第3波形関数A5の時間強度波形関数a'1(t)及び時間位相波形関数φ'1(t)を模式的に示すグラフである。図14(a)において、グラフG51は時間強度波形関数a'1(t)を表し、グラフG52は時間位相波形関数φ'1(t)を表す。横軸は時間を示し、縦軸は時間強度波形関数の強度値または時間位相波形関数の位相値を示す。
【0051】
続いて、逆フーリエ変換部27は、第3波形関数A5に対して時間領域から周波数領域への逆フーリエ変換を行う(図中の矢印B5、第3変換ステップ)。これにより、下記の数式(6)によって示される、強度スペクトル関数A'n(ω)及び位相スペクトル関数Φ'n(ω)を含む周波数領域の第4波形関数A6が得られる。但し、1周目ではn=1である。
【数6】

図14(b)は、図14(a)に示される第3波形関数A5から逆フーリエ変換された、1周目における第4波形関数A6の強度スペクトル関数A'1(ω)及び位相スペクトル関数Φ'1(ω)を模式的に示すグラフである。図14(b)において、グラフG61は強度スペクトル関数A'1(ω)を表し、グラフG62は位相スペクトル関数Φ'1(ω)を表す。横軸は波長を示し、縦軸は強度スペクトル関数の強度値または位相スペクトル関数の位相値を示す。
【0052】
その後、予備データ生成部23は、第1波形関数A2の強度スペクトル関数A0(ω)を拘束しつつ、第1波形関数A2の位相スペクトル関数Φ1(ω)を第4波形関数の位相スペクトル関数Φ'1(ω)に置き換える(すなわち第1波形関数A2のΦ2(ω)=Φ'1(ω)とする。図中の矢印B6を参照)。そして、上述したフーリエ変換部25、スペクトログラム変換部261、スペクトログラム置換部262、スペクトログラム逆変換部263、及び逆フーリエ変換部27の動作を、強度スペクトログラムA41とターゲット強度スペクトログラムA43との一致度合いを示す評価値が収束するまでN回にわたって繰り返す。このように、予備データ生成部23では、第1波形関数A2の強度スペクトル関数A0(ω)を拘束しつつ、(n+1)周目の第1波形関数A2の位相スペクトル関数Φn+1(ω)をn周目の第4波形関数の位相スペクトル関数Φ'n(ω)に置き換えながら、フーリエ変換部25、スペクトログラム変換部261、スペクトログラム置換部262、スペクトログラム逆変換部263、及び逆フーリエ変換部27がこの順で繰り返し動作する。
【0053】
図15(a)は、図14(b)ののちの3周目(n=3)における、第1波形関数A2の強度スペクトル関数A0(ω)(グラフG71)及び位相スペクトル関数Φ3(ω)(グラフG72)を模式的に示すグラフである。位相スペクトル関数Φ3(ω)の波形が1周目から変化していることがわかる。図15(b)は、図15(a)に示される第1波形関数A2からフーリエ変換された、3周目における第2波形関数A3の時間強度波形関数a3(t)(グラフG81)及び時間位相波形関数φ3(t)(グラフG82)を模式的に示すグラフである。図16(a)及び(b)それぞれは、図15(b)に示される第2波形関数A3から変換された、3周目における強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42それぞれを示す図である。互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる3つの光パルスPb1~Pb3が生成され始めていることがわかる。図16(c)は、3周目における強度スペクトログラムA43を示す図であって、これは図13(c)に示される1週目の強度スペクトログラムA43と同一である。図16(d)は、3周目における拘束された位相スペクトログラムA42を示す図であって、これは図16(b)の位相スペクトログラムA42と同一である。図17(a)は、図16(c)及び図16(d)に示される強度スペクトログラムA43及び位相スペクトログラムA42から逆STFTされた、3周目における第3波形関数A5の時間強度波形関数a'3(t)(グラフG91)及び時間位相波形関数φ'3(t)(グラフG92)を模式的に示すグラフである。図17(b)は、図17(a)に示される第3波形関数A5から逆フーリエ変換された、3周目における第4波形関数A6の強度スペクトル関数A'3(ω)(グラフG101)及び位相スペクトル関数Φ'3(ω)(グラフG102)を模式的に示すグラフである。
【0054】
上記のような繰り返し動作によって、強度スペクトログラムA41が強度スペクトログラムA43に次第に近づくように、位相スペクトル関数Φ'n(ω)が修正される。最終的に、第4波形関数A6に含まれる位相スペクトル関数Φ'n(ω)が、所望のスペクトル位相解Φresult(ω)となる。このスペクトル位相解Φresult(ω)が、データ生成部28に提供される。
【0055】
データ生成部28は、予備データ生成部23において算出されたスペクトル位相解Φresult(ω)に基づくスペクトル位相及び/又はスペクトル強度を出力光Lbに与えるための位相変調パターン(例えば、計算機合成ホログラム)に関する予備データを算出する。
【0056】
予備データ生成部23は、上記のような繰り返し計算および予備データの算出を、記憶部21に記憶されている複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)のそれぞれについて行う。予備データ生成部23は、繰り返し計算および予備データの算出を、一つの初期位相スペクトル関数Φ0(ω)ずつ順次行ってもよいし、複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)について並行して行ってもよい。
【0057】
算出された複数の予備データは、それらによって生成される光パルス列Pbのパラメータ(中心波長差、ピーク強度のばらつきなど)ごとにグループ分けして記録されてもよい。その場合、データ選択部24において、操作者が望む光パルス列Pbに適したデータを選択し易くなる。
【0058】
図18は、本実施形態に係るデータ作成方法を示すフローチャートである。このデータ作成方法は、SLM14を制御するデータを作成する方法であって、上述したデータ作成装置20を用いて好適に実現される。また、本実施形態に係るデータ作成プログラムは、このデータ作成方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0059】
図18に示されるように、まず、複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)を準備する(第1ステップST1)。前述したように、複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)は、乱数を用いて生成されてもよい。準備された複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)は、記憶部21に記憶される。
【0060】
次に、予備データ生成部23が、複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)のそれぞれを用いて、SLM14を制御し得る複数の予備データそれぞれを、予備データ生成部23により生成する(第2ステップST2)。この第2ステップST2は、第1変換ステップST21と、第2変換ステップST22と、第3変換ステップST23と、データ生成ステップST24とを含む。第1変換ステップST21では、フーリエ変換部25が、強度スペクトル関数A0(ω)及び位相スペクトル関数Φn(ω)を含む周波数領域の第1波形関数A2を、時間強度波形関数an(t)及び時間位相波形関数φn(t)を含む時間領域の第2波形関数A3に変換する。第2変換ステップST22では、関数変換部26が、時間強度波形関数a'n(t)及び時間位相波形関数φ'n(t)を含み、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムA43に対応する時間領域の第3波形関数A5を、第2波形関数A3から求める。第2変換ステップST22の詳細は、前述した関数変換部26の動作のとおりである。第3変換ステップST23では、逆フーリエ変換部27が、第3波形関数A5を、強度スペクトル関数A'n(ω)及び位相スペクトル関数Φ'n(ω)を含む周波数領域の第4波形関数A6に変換する。第2ステップST2では、第1波形関数A2を第4波形関数A6に置き換えながら、第1変換ステップST21、第2変換ステップST22、および第3変換ステップST23を繰り返し行う。また、この繰り返し動作の最初における第1変換ステップST21においては、複数の初期位相スペクトル関数A0(ω)のうち一つを、第1波形関数A2の位相スペクトル関数とする。そして、データ生成ステップST24では、データ生成部28が、繰り返し動作後に得られる第4波形関数A6の位相スペクトル関数Φ'n(ω)に基づいて、予備データを生成する。第2ステップST2では、複数の初期位相スペクトル関数A0(ω)の全てについて、上記の繰り返し計算を行い、データ生成ステップST24において予備データを生成する(ステップST25)。こうして、複数の初期位相スペクトル関数A0(ω)にそれぞれ対応する複数の予備データが得られる。
【0061】
その後、データ選択部24が、複数の予備データの中から少なくとも一つの予備データを選択して、SLM14を制御するデータとする(第3ステップST3)。
【0062】
以上に説明した本実施形態のデータ作成装置20、データ作成方法、及びデータ作成プログラムによって得られる効果について説明する。一般的に、SLM14に呈示する変調パターンを算出するためには、まず一つの初期位相スペクトル関数Φ0(ω)を用意し、繰り返し計算によって、位相スペクトル関数Φn(ω)を、目的とする時間強度波形及び波長成分を実現可能な値に徐々に近づける。しかしながら、最終的に得られる位相スペクトル関数Φresult(ω)は、初期位相スペクトル関数Φ0(ω)によって異なる。その結果、その位相スペクトル関数Φresult(ω)に基づく変調パターンをSLM14に呈示させたとき、得られる光の時間強度波形及び波長成分も、初期位相スペクトル関数Φ0(ω)によって異なる。そこで、本実施形態では、予め複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)を準備する。そして、第1変換ステップST21ないし第3変換ステップST23において、初期位相スペクトル関数Φ0(ω)ごとに繰り返し計算を行い、得られた複数の予備データの中から、SLM14を制御するデータとして少なくとも一つの予備データを選択する。これにより、所望の時間強度波形及び波長成分を有する光を精度良く実現するための変調パターンを含むデータを得ることができる。
【0063】
本実施形態のように、ターゲット強度スペクトログラムA43は、中心波長が互いに異なる複数の光パルスPb1~Pb3を含む光パルス列Pbに関する強度スペクトログラムであってもよい。その場合、中心波長が互いに異なる複数の光パルスPb1~Pb3を含む光パルス列Pbの時間強度波形及び波長成分の精度を高めることができる。
【0064】
本実施形態のように、第2変換ステップST22は、第2波形関数A3を、強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42に変換するステップと、強度スペクトログラムA41をターゲット強度スペクトログラムA43に置き換えるとともに、位相スペクトログラムA42を拘束するステップと、置き換え後の強度スペクトログラムA43及び拘束された位相スペクトログラムA42を、第3波形関数A5に変換するステップと、を含んでもよい。同様に、関数変換部26は、第2波形関数A3を、強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42に変換する部分、すなわちスペクトログラム変換部261と、強度スペクトログラムA41をターゲット強度スペクトログラムA43に置き換えるとともに、位相スペクトログラムA42を拘束する部分、すなわちスペクトログラム置換部262と、置き換え後の強度スペクトログラムA43及び拘束された位相スペクトログラムA42を、第3波形関数A5に変換する部分、すなわちスペクトログラム逆変換部263と、を含んでもよい。例えばこのような構成により、所望の時間強度波形及び波長成分を有する光を精度良く実現するための複数の予備データを得ることができる。
【0065】
[ターゲット強度スペクトログラムの作成]
続いて、スペクトログラム設定部22におけるターゲット強度スペクトログラムA43の作成手順について説明する。図19は、スペクトログラム設定部22の機能的構成を示すブロック図である。スペクトログラム設定部22は、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の光パルス(例えば上述した光パルスPb1~Pb3)を含む光パルス列Pbに関するターゲット強度スペクトログラムA43を作成する。図19に示されるように、スペクトログラム設定部22は、波形関数設定部101と、フーリエ変換部102と、スペクトログラム変換部103と、ターゲット生成部104と、を備える。
【0066】
波形関数設定部101は、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域のターゲット波形関数を、光パルス毎に設定する。例えば、波形関数設定部101は、光パルスPb1についてターゲット波形関数を設定し、光パルスPb2について別のターゲット波形関数を設定し、光パルスPb3について更に別のターゲット波形関数を設定する。ターゲット波形関数のパラメータとしては、例えば下記のものが挙げられる。
a)各光パルスの強度スペクトル関数の形状(例えばガウシアン)
b)各光パルスの強度スペクトル関数のスペクトルエネルギー量
c)各光パルスの強度スペクトル関数の帯域幅(半値全幅)λs
d)各光パルスの強度スペクトル関数の中心波長
e)各光パルスの位相スペクトル関数
なお、各光パルスのスペクトル位相が周波数に対して線形である場合、その線形関数の傾きは、各光パルスの時間シフト量に相当する。図20(a)は、ターゲット波形関数の一例として、図6に示された光パルスPb2についてのターゲット波形関数の強度スペクトル関数G131及び位相スペクトル関数G132を示すグラフである。図20(a)において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は強度スペクトル関数G131の強度値(任意単位)及び位相スペクトル関数G132の位相値(rad)を示す。この例は、時間的に等間隔である3つの光パルスPb1~Pb3のうち中央に位置する光パルスPb2についてのターゲット波形関数であるので、位相スペクトル関数G132の傾き(すなわち時間シフト量)はゼロとされている。
【0067】
フーリエ変換部102は、複数の光パルスそれぞれのターゲット波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の波形関数に変換する。図20(b)は、時間領域の波形関数の一例として、図20(a)に示されるターゲット波形関数から生成された時間強度波形関数G141及び時間位相波形関数G142を示すグラフである。図20(b)において、横軸は時間(fs)を示し、縦軸は時間強度波形関数G141の強度値(任意単位)及び時間位相波形関数G142の位相値(rad)を示す。
【0068】
スペクトログラム変換部103は、複数の光パルスそれぞれの時間領域の波形関数から強度スペクトログラムを生成する。図21(a)は、強度スペクトログラムの一例として、図20(b)に示される波形関数から生成された強度スペクトログラムを示す図である。なお、強度スペクトログラムの作成方法及びスペクトログラムの定義は、前述した予備データ生成部23のスペクトログラム変換部261における説明と同様である。また、スペクトログラム変換部103においても、STFTに限らず、他の時間-周波数変換(例えばウェーブレット変換)を用いてよい。
【0069】
ターゲット生成部104は、複数の光パルスそれぞれの強度スペクトログラムを互いに重畳して強度スペクトログラムA43を生成する。図21(b)は、一例として、3つの光パルスPb1~Pb3についての強度スペクトログラムを互いに重畳して得られる強度スペクトログラムA43を示す図である。なお、ターゲット生成部104は、複数の光パルスそれぞれの強度スペクトログラムを重畳したものに対して、補正のための係数を乗算してもよい。補正のための係数は、例えば、作成したターゲット強度スペクトログラムA43のスペクトル強度分布を、入力光Laの光パルスのスペクトル強度分布に近づけるための係数である。
【0070】
図22は、強度スペクトログラムA43を作成するための方法を示すフローチャートである。本実施形態のターゲット強度スペクトログラム作成プログラムは、下記の各ステップをコンピュータに実行させる。
【0071】
まず、波形関数設定ステップS1では、複数の光パルスのうち一の光パルスについて、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域のターゲット波形関数を設定する。フーリエ変換ステップS2では、上記一の光パルスのターゲット波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の波形関数に変換する。スペクトログラム変換ステップS3では、フーリエ変換ステップS2において生成された時間領域の波形関数から強度スペクトログラムを生成する。ターゲット生成ステップS4では、スペクトログラム変換ステップS3において生成された強度スペクトログラムをターゲット強度スペクトログラムに重畳する。以上の波形関数設定ステップS1、フーリエ変換ステップS2、スペクトログラム変換ステップS3、及びターゲット生成ステップS4を、光パルスの本数と同じ繰り返し数にわたって繰り返す(ステップS5)。これにより、強度スペクトログラムA43が作成される。なお、この例に限らず、例えば波形関数設定ステップS1、フーリエ変換ステップS2、及びスペクトログラム変換ステップS3のそれぞれにおいて複数の光パルスについての処理をまとめて行ったのち、生成された複数の強度スペクトログラムをターゲット生成ステップS4において重畳してもよい。
【0072】
以上に説明したスペクトログラム設定部22によれば、光パルス列Pbに含まれる複数のパルス毎に中心波長を異ならせるためのターゲット強度スペクトログラムA43を好適に作成することができる。
【0073】
図23図25は、ターゲット強度スペクトログラムA43を用いて得られたデータをSLM14に呈示することにより実際に得られる光の、複数のパルス間の中心波長差と、複数のパルスのピーク強度のばらつきとの関係を、複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)それぞれについてプロットしたグラフである。図23図25において、縦軸は複数のパルス間の中心波長差の平均値(nm)を表し、横軸は複数のパルスのピーク強度の標準偏差(任意単位)を表す。図23は、ターゲット強度スペクトログラムA43を作成する際に、複数のパルス間の中心波長差を2nmに設定した場合を示す。図24及び図25は、ターゲット強度スペクトログラムA43を作成する際に、複数のパルス間の中心波長差を、それぞれ2.5nm及び3nmに設定した場合を示す。なお、複数のパルス間の中心波長差の設定値は、図中において星印により示されている。
【0074】
図23図25を参照すると、初期位相スペクトル関数Φ0(ω)に依存して、複数のパルス間の中心波長差およびピーク強度のばらつきが変化することがわかる。そして、中心波長差が或る値になるときにピーク強度のばらつきが最小となり、その値から中心波長差が離れるほど、ピーク強度のばらつきが大きくなることがわかる。
【0075】
加えて、図23図25を参照すると、ピーク強度のばらつきが最小となるときの複数のパルス間の中心波長差の値が、ターゲット強度スペクトログラムA43を作成する際に設定された中心波長差の値よりも有意に小さいことがわかる。例えば、図23に示されるように、ターゲット強度スペクトログラムA43を作成する際に設定された中心波長差が2nmである場合、ピーク強度のばらつきが最小となるときの複数のパルス間の中心波長差の値は1.7nmとなっており、設定された中心波長差(2nm)よりも15%小さい。また、図24に示されるように、ターゲット強度スペクトログラムA43を作成する際に設定された中心波長差が2.5nmである場合、ピーク強度のばらつきが最小となるときの複数のパルス間の中心波長差の値は2.1nmとなっており、設定された中心波長差(2.5nm)よりも16%小さい。また、図25に示されるように、ターゲット強度スペクトログラムA43を作成する際に設定された中心波長差が3nmである場合、ピーク強度のばらつきが最小となるときの複数のパルス間の中心波長差の値は2.3nmとなっており、設定された中心波長差(3nm)よりも23%小さい。
【0076】
このことから、スペクトログラム設定部22がターゲット強度スペクトログラムA43を作成する際には、ターゲット強度スペクトログラムA43における複数の光パルス間の中心波長差を、目標とする複数の光パルス間の中心波長差よりも大きく(例えば、目標とする複数の光パルス間の中心波長差の1.1倍よりも大きく)設定すればよいことがわかる。目標とする複数の光パルス間の中心波長差は、例えば、図8に示された入力デバイス64を通じて操作者により入力される。ターゲット強度スペクトログラムA43における複数の光パルス間の中心波長差をこのように設定することにより、光パルス列Pbにおける複数の光パルス間の中心波長差をより精度良く実現することができる。
【0077】
なお、このようにターゲット強度スペクトログラムA43における複数の光パルス間の中心波長差を目標とする中心波長差よりも大きくする場合、その中心波長差は、SLM14への入力光Laの波長帯域を(光パルス列Pbのパルス本数-1)で除算した値よりも小さいことが好ましい。例えば、光パルス列Pbのパルス本数が3である場合、ターゲット強度スペクトログラムA43における複数の光パルス間の中心波長差は、入力光Laの波長帯域の1/2よりも小さいことが好ましい。ターゲット強度スペクトログラムA43における複数の光パルス間の中心波長差をこのように設定することにより、光パルス列Pbにおける複数の光パルス間の中心波長差をより精度良く実現することができる。一例では、入力光Laのスペクトルの波長帯域幅が10nmであり、光パルス列Pbのパルス本数が3である場合、中心波長差の設定値は5nmが上限となる。
【0078】
[変形例]
続いて、スペクトログラム設定部22及び予備データ生成部23の変形例について説明する。図26は、一変形例に係るターゲット設定部35及び予備データ生成部30の内部構成を示すブロック図である。図26に示されるように、予備データ生成部30は、フーリエ変換部31(第1変換部)、関数変換部32(第2変換部)、逆フーリエ変換部33(第3変換部)、及びデータ生成部34を有する。関数変換部32は、関数置換部321及び波形関数修正部322を含む。また、ターゲット設定部35は、フーリエ変換部351及びスペクトログラム修正部352を有する。これらの各構成要素の機能については、後に詳述する。
【0079】
図27は、予備データ生成部30における位相スペクトル関数の計算手順を示す図である。まず、周波数ωの関数である初期強度スペクトル関数A0(ω)及び初期位相スペクトル関数Φ0(ω)を用意する(図中の処理番号(1))。一例では、初期強度スペクトル関数A0(ω)は入力光Laの強度スペクトルを表すが、これに限られない。また、初期位相スペクトル関数Φ0(ω)は、上記実施形態と同様に、記憶部21に記憶された複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)の中から順に選択される。
【0080】
次に、初期強度スペクトル関数A0(ω)及び初期位相スペクトル関数Φ0(ω)を含む周波数領域の第1波形関数(7)を用意する(処理番号(2-a))。但し、iは虚数である。
【数7】
【0081】
続いて、フーリエ変換部31は、上記関数(7)に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印C1)。これにより、時間強度波形関数a0(t)及び時間位相波形関数φ0(t)を含む時間領域の第2波形関数(8)が得られる(フーリエ変換ステップ、図中の処理番号(3))。
【数8】
【0082】
続いて、関数変換部32の関数置換部321は、次の数式(9)に示されるように、時間強度波形関数b0(t)に、目標とする時間波形を表す時間強度波形関数Target0(t)を代入する(処理番号(4-a))。
【数9】
【0083】
続いて、関数変換部32の関数置換部321は、次の数式(10)に示されるように、時間強度波形関数a0(t)を時間強度波形関数b0(t)で置き換える。すなわち、上記関数(8)に含まれる時間強度波形関数a0(t)を、目標とする時間波形に基づく時間強度波形関数Target0(t)に置き換える(関数置換ステップ、図中の処理番号(5))。
【数10】
【0084】
続いて、関数変換部32の波形関数修正部322は、置き換え後の第2波形関数(10)のスペクトログラムが、所望の波長帯域に従って予め生成されたターゲットスペクトログラムに近づくように、第2波形関数を修正する。まず、置き換え後の第2波形関数(10)に対して時間-周波数変換を施すことにより、第2波形関数(10)をスペクトログラムSG0,k(ω,t)に変換する(図中の処理番号(5-a))。添え字kは、第k回目の変換処理を表す。
【0085】
また、所望の波長帯域に従って予め生成されたターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)をターゲット設定部35から読み出す。このターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)は、目標とする時間波形(時間強度波形とそれを構成する周波数成分)と概ね同値であり、処理番号(5-b)のターゲットスペクトログラム関数において生成される。
【0086】
次に、関数変換部32の波形関数修正部322は、スペクトログラムSG0,k(ω,t)とターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)とのパターンマッチングを行い、類似度(どの程度一致しているか)を調べる。本実施形態では、類似度を表す指標として、評価値を算出する。そして、続く処理番号(5-c)では、得られた評価値が、所定の終了条件を満たすか否かの判定を行う。条件を満たせば処理番号(6)へ進み、満たさなければ処理番号(5-d)へ進む。処理番号(5-d)では、第2波形関数に含まれる時間位相波形関数φ0(t)を任意の時間位相波形関数φ0,k(t)に変更する。時間位相波形関数を変更した後の第2波形関数は、STFTなどの時間-周波数変換により再びスペクトログラムに変換される。以降、上述した処理番号(5-a)~(5-c)が繰り返し行われる。こうして、スペクトログラムSG0,k(ω,t)がターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)に次第に近づくように、第2波形関数が修正される(波形関数修正ステップ)。
【0087】
その後、逆フーリエ変換部33は、修正後の第2波形関数に対して逆フーリエ変換を行い(図中の矢印C2)、周波数領域の第3波形関数(11)を生成する(逆フーリエ変換ステップ、図中の処理番号(6))。
【数11】

この第3波形関数(11)に含まれる位相スペクトル関数Φ0,k(ω)が、最終的に得られる所望の位相スペクトル関数ΦTWC-TFD(ω)となる。この位相スペクトル関数ΦTWC-TFD(ω)が、データ生成部34に提供される。
【0088】
データ生成部34は、位相スペクトル関数ΦTWC-TFD(ω)により示されるスペクトル位相を入力光Laに与えるための位相変調パターン(例えば、計算機合成ホログラム)を算出する(データ生成ステップ)。
【0089】
ここで、図28は、ターゲット設定部35におけるターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)の生成手順の一例を示す図である。ターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)は、目標とする時間波形(時間強度波形とそれを構成する周波数成分(波長帯域成分))を示すので、ターゲットスペクトログラムの作成は、周波数成分(波長帯域成分)を制御するために極めて重要な工程である。図28に示されるように、ターゲット設定部35は、まずスペクトル波形(初期の強度スペクトル関数A0(ω)及び初期の位相スペクトル関数Φ0(ω))、並びに所望の時間強度波形関数Target0(t)を入力する。また、所望の周波数(波長)帯域情報を含む時間関数p0(t)を入力する(処理番号(1))。
【0090】
次に、ターゲット設定部35は、例えば一般的な反復フーリエ変換法、或いは非特許文献1または2に記載された方法を用いて、時間強度波形関数Target0(t)を実現するための位相スペクトル関数ΦIFTA(ω)を算出する(処理番号(2))。
【0091】
続いて、ターゲット設定部35は、先に得られた位相スペクトル関数ΦIFTA(ω)を利用した反復フーリエ変換法により、時間強度波形関数Target0(t)を実現するための強度スペクトル関数AIFTA(ω)を算出する(処理番号(3))。ここで、図29は、強度スペクトル関数AIFTA(ω)を算出する手順の一例を示す図である。
【0092】
まず、初期の強度スペクトル関数Ak=0(ω)及び位相スペクトル関数Ψ0(ω)を用意する(図中の処理番号(1))。次に、強度スペクトル関数Ak(ω)及び位相スペクトル関数Ψ0(ω)を含む周波数領域の波形関数(12)を用意する(図中の処理番号(2))。
【数12】

添え字kは、第k回目のフーリエ変換処理後を表す。最初(第1回目)のフーリエ変換処理の前においては、強度スペクトル関数Ak(ω)として上記の初期強度スペクトル関数Ak=0(ω)が用いられる。iは虚数である。
【0093】
続いて、上記関数(12)に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印C3)。これにより、時間強度波形関数bk(t)を含む周波数領域の波形関数(13)が得られる(図中の処理番号(3))。
【数13】
【0094】
続いて、上記関数(13)に含まれる時間強度波形関数bk(t)を、所望の波形に基づく時間強度波形関数Target0(t)に置き換える(図中の処理番号(4)、(5))。
【数14】

【数15】
【0095】
続いて、上記関数(15)に対して時間領域から周波数領域への逆フーリエ変換を行う(図中の矢印C4)。これにより、強度スペクトル関数Ck(ω)及び位相スペクトル関数Ψk(ω)を含む周波数領域の波形関数(16)が得られる(図中の処理番号(6))。
【数16】

続いて、上記関数(16)に含まれる位相スペクトル関数Ψk(ω)を拘束するため、初期の位相スペクトル関数Ψ0(ω)に置き換える(図中の処理番号(7-a))。
【数17】
【0096】
また、逆フーリエ変換後の周波数領域における強度スペクトル関数Ck(ω)に対し、入力光Laの強度スペクトルに基づくフィルタ処理を行う。具体的には、強度スペクトル関数Ck(ω)により表される強度スペクトルのうち、入力光Laの強度スペクトルに基づいて定められる波長毎のカットオフ強度を超える部分をカットする。一例では、波長毎のカットオフ強度は、入力光Laの強度スペクトル(例えば初期の強度スペクトル関数Ak=0(ω))と一致するように設定される。その場合、次の数式(18)に示されるように、強度スペクトル関数Ck(ω)が強度スペクトル関数Ak=0(ω)よりも大きい周波数では、強度スペクトル関数Ak(ω)の値として強度スペクトル関数Ak=0(ω)の値が取り入れられる。また、強度スペクトル関数Ck(ω)が強度スペクトル関数Ak=0(ω)以下である周波数では、強度スペクトル関数Ak(ω)の値として強度スペクトル関数Ck(ω)の値が取り入れられる(図中の処理番号(7-b))。
【数18】

上記関数(16)に含まれる強度スペクトル関数Ck(ω)を、上記数式(18)によるフィルタ処理後の強度スペクトル関数Ak(ω)に置き換える。
【0097】
以降、上記の処理(1)~(7-b)を繰り返し行うことにより、波形関数中の強度スペクトル関数Ak(ω)が表す強度スペクトル形状を、所望の時間強度波形に対応する強度スペクトル形状に近づけることができる。最終的に、強度スペクトル関数AIFTA(ω)が得られる。
【0098】
再び図28を参照する。以上に説明した処理番号(2)、(3)における位相スペクトル関数ΦIFTA(ω)及び強度スペクトル関数AIFTA(ω)の算出によって、これらの関数を含む周波数領域の第3波形関数(19)が得られる(図中の処理番号(4))。
【数19】

ターゲット設定部35のフーリエ変換部351は、上の波形関数(19)をフーリエ変換する。これにより、時間領域の第4波形関数(20)が得られる(図中の処理番号(5))。
【数20】
【0099】
ターゲット設定部35のスペクトログラム修正部352は、時間-周波数変換により第4波形関数(20)をスペクトログラムSGIFTA(ω,t)に変換する(処理番号(6))。そして、処理番号(7)では、所望の周波数(波長)帯域情報を含む時間関数p0(t)を基にスペクトログラムSGIFTA(ω,t)を修正することにより、ターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)を生成する。例えば、2次元データにより構成されるスペクトログラムSGIFTA(ω,t)に現れる特徴的パターンを部分的に切り出し、時間関数p0(t)を基に当該部分の周波数成分の操作を行う。以下、その具体例について詳細に説明する。
【0100】
例えば、所望の時間強度波形関数Target0(t)として時間間隔が2ピコ秒であるトリプルパルスを設定した場合について考える。このとき、スペクトログラムSGIFTA(ω,t)は、図7(a)に示されるような結果となる。仮に光パルス列Pbの時間強度波形のみを制御したい(単にトリプルパルスを得たい)場合には、スペクトログラムSGIFTA(ω,t)に含まれるパルスPb1,Pb2,Pb3の波長帯域を操作する必要はない。しかし、各パルスの波長帯域を制御したい場合には、これらのパルスPb1,Pb2,Pb3の操作が必要となる。すなわち、図6(a)に示されるように、波長軸(縦軸)に沿った方向に各パルスPb1,Pb2,Pb3を互いに独立して移動させる。このような各パルスの波長帯域の変更は、時間関数p0(t)を基に行われる。
【0101】
例えば、パルスPb2のピーク波長を800nmで据え置き、パルスPb1及びPb3のピーク波長がそれぞれ-2nm、+2nmだけ平行移動するように時間関数p0(t)を記述するとき、スペクトログラムSGIFTA(ω,t)は、図6(a)に示されるターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)に変化する。例えばスペクトログラムにこのような処理を施すことによって、時間強度波形の形状を変えずに、各パルスの波長帯域が任意に制御されたターゲットスペクトログラムを作成することができる。
【0102】
本開示によるデータ作成装置、データ作成方法、及びデータ作成プログラムは、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の光パルスを含む光パルス列を生成する場合について主に説明したが、互いに時間差を有し中心波長が互いに等しい複数の光パルスを含む光パルス列を生成する場合であっても本開示によるデータ作成装置、データ作成方法、及びデータ作成プログラムは有効である。また、単一の光パルスの時間波形を成形する場合など、光パルス列以外の光の波形制御においても本開示によるデータ作成装置、データ作成方法、及びデータ作成プログラムは有効である。
【符号の説明】
【0103】
1…光制御装置,2…光源,3…光波形制御部,12…回折格子,13…レンズ,14…空間光変調器(SLM),15…レンズ,16…回折格子,17…変調面,17a…変調領域,20…データ作成装置,21…記憶部,22…スペクトログラム設定部,23,30…予備データ生成部,24…データ選択部,25,31…フーリエ変換部(第1変換部),26,32…関数変換部(第2変換部),27,33…逆フーリエ変換部(第3変換部),28,34…データ生成部,35…ターゲット設定部,61…プロセッサ,62…ROM,63…RAM,64…入力デバイス,65…出力デバイス,66…通信モジュール,67…補助記憶装置,101…波形関数設定部,102…フーリエ変換部,103,261…スペクトログラム変換部,104…ターゲット生成部,262…スペクトログラム置換部,263…スペクトログラム逆変換部,321…関数置換部,322…波形関数修正部,351…フーリエ変換部,352…スペクトログラム修正部,A1…初期スペクトル関数,A2…第1波形関数,A3…第2波形関数,A5…第3波形関数,A6…第4波形関数,A41…強度スペクトログラム,A42…位相スペクトログラム,A43…強度スペクトログラム(ターゲット強度スペクトログラム),AA,AB…方向,L1…光,L2…変調光,La…入力光,Lb…出力光,Pb,Pd…光パルス列,Pb…光パルス,Pb~Pb,Pd~Pd…光パルス。
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