(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159079
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】光パルス列発生装置及び光パルス列発生方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G02F1/01 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074839
(22)【出願日】2023-04-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載日 令和5年1月18日 ウェブサイトのアドレス(URL) https://confit.atlas.jp/guide/event/lsj43/proceedings/list 開催日 令和5年1月20日 集会名、開催場所 一般社団法人レーザー学会学術講演会第43回年次大会 (ウインクあいち 愛知県名古屋市中村区名駅4丁目4-38)
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 向陽
(72)【発明者】
【氏名】井上 卓
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102BA05
2K102BA21
2K102BB01
2K102BB04
2K102BD09
2K102BD10
2K102DB08
2K102DD02
2K102EA21
2K102EB08
2K102EB10
2K102EB14
2K102EB20
(57)【要約】
【課題】使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を容易に得ることができる光パルス列発生装置を提供する。
【解決手段】光パルス列発生装置1は、記憶部24と、特徴設定部27とを備える。記憶部24は、複数の位相パターンを予め記憶する。複数の位相パターンは、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列Pbを第1光パルスPaから形成するための位相パターンである。複数の位相パターンは、第1光パルスPaに関する第1の特徴、及び光パルス列Pbに関する第2の特徴のうち一方又は両方がそれぞれ異なる。特徴設定部27は、使用者からの入力に応じて、第1の特徴及び第2の特徴を設定する。記憶部24は、複数の位相パターンを第1の特徴及び第2の特徴と関連付けた状態で記憶する。SLM14は、特徴設定部27により設定された第1の特徴及び第2の特徴と対応する位相パターンを表示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を第1光パルスから形成するための複数の位相パターンであって、前記第1光パルスに関する第1の特徴、及び前記光パルス列に関する第2の特徴のうち一方又は両方がそれぞれ異なる複数の位相パターンを予め記憶する記憶部と、
使用者からの入力に応じて、前記第1の特徴及び前記第2の特徴を設定する特徴設定部と、
前記第1光パルスを出力する光源と、
前記複数の位相パターンのうち一の位相パターンを表示する空間光変調器を有し、前記第1光パルスから前記光パルス列を形成するパルス形成部と、
を備え、
前記記憶部は、前記複数の位相パターンを前記第1の特徴及び前記第2の特徴と関連付けた状態で記憶し、
前記空間光変調器は、前記複数の位相パターンのうち、前記特徴設定部により設定された前記第1の特徴及び前記第2の特徴と対応する一の位相パターンを表示する、光パルス列発生装置。
【請求項2】
前記第1の特徴は、前記第1光パルスの中心波長、前記第1光パルスの帯域幅、前記第1光パルスのスペクトル形状、前記第1光パルスのスペクトル位相、及び前記光源の種類、からなる群から選択される少なくとも一つの特徴を含む、請求項1に記載の光パルス列発生装置。
【請求項3】
前記第2の特徴は、前記複数の第2光パルスのパルス本数、前記複数の第2光パルス間の時間間隔、前記複数の第2光パルス間の時間間隔のばらつき、前記複数の第2光パルスそれぞれの中心波長、前記複数の第2光パルスの中心波長差、前記複数の第2光パルスそれぞれの帯域幅、前記複数の第2光パルスそれぞれの帯域幅のばらつき、前記複数の第2光パルス間のピーク強度比、及び前記複数の第2光パルス間のピーク強度のばらつき、からなる群から選択される少なくとも一つの特徴を含む、請求項1に記載の光パルス列発生装置。
【請求項4】
前記記憶部は複数の位相パターン群を記憶しており、
前記複数の位相パターン群それぞれは、前記複数の位相パターンのうちの一部である二以上の位相パターンを含み、前記第2の特徴に関する二以上の指標値それぞれと一対一で対応しており、
前記特徴設定部は、前記二以上の指標値のうち使用者の入力により選択された一の指標値に対応する前記位相パターン群の各位相パターンにより得られる前記光パルス列の前記第2の特徴を使用者に提示する提示部を有し、
前記空間光変調器は、前記提示部において提示された前記第2の特徴のうち使用者が選択した一の前記第2の特徴に対応する前記位相パターンを表示する、請求項1~3のいずれか1項に記載の光パルス列発生装置。
【請求項5】
前記複数の位相パターンを生成する位相パターン生成部を更に備え、
前記位相パターン生成部は、
強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第1波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の第2波形関数に変換する第1変換部と、
時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含み、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムに対応する時間領域の第3波形関数を、前記第2波形関数から求める第2変換部と、
前記第3波形関数を、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第4波形関数に変換する第3変換部と、を有し、
前記位相パターン生成部は、前記第1波形関数を前記第4波形関数に置き換えながら前記複数の位相パターンのそれぞれに関して前記第1変換部、前記第2変換部、および前記第3変換部の動作を繰り返し行い、繰り返し動作後に得られる前記第4波形関数の前記位相スペクトル関数に基づいて前記複数の位相パターンそれぞれを生成する、請求項1~3のいずれか1項に記載の光パルス列発生装置。
【請求項6】
前記第2変換部は、
前記第2波形関数を、強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムに変換する部分と、
前記強度スペクトログラムを前記ターゲット強度スペクトログラムに置き換えるとともに、前記位相スペクトログラムを拘束する部分と、
置き換え後の前記強度スペクトログラム及び拘束された前記位相スペクトログラムを、前記第3波形関数に変換する部分と、
を含む、請求項5に記載の光パルス列発生装置。
【請求項7】
前記第2変換部は、
前記第2波形関数に対し、前記ターゲット強度スペクトログラムに対応する目標波形に基づく前記時間強度波形関数の置き換えを行う部分と、
前記ターゲット強度スペクトログラムに前記第2波形関数のスペクトログラムが近づくように前記第2波形関数を修正する部分と、
修正後の前記第2波形関数から前記第3波形関数を生成する部分と、
を含む、請求項5に記載の光パルス列発生装置。
【請求項8】
前記複数の位相パターンは、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第1波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の第2波形関数に変換する第1変換ステップと、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含み、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムに対応する時間領域の第3波形関数を、前記第2波形関数から求める第2変換ステップと、前記第3波形関数を、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第4波形関数に変換する第3変換ステップとを、前記第1波形関数を前記第4波形関数に置き換えながら繰り返し行い、繰り返し動作後に得られる前記第4波形関数の前記位相スペクトル関数に基づいて生成されたものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の光パルス列発生装置。
【請求項9】
互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を第1光パルスから形成するための複数の位相パターンであって、前記第1光パルスに関する第1の特徴及び前記光パルス列に関する第2の特徴の一方又は両方がそれぞれ異なる複数の位相パターンを予め準備する準備ステップと、
使用者からの入力に応じて、前記第1の特徴及び前記第2の特徴を設定する特徴設定ステップと、
前記第1光パルスを出力する光出力ステップと、
前記複数の位相パターンのうち一の位相パターンを表示する空間光変調器を用い、前記第1光パルスから前記光パルス列を形成するパルス形成ステップと、
を含み、
前記準備ステップでは、前記複数の位相パターンを前記第1の特徴及び前記第2の特徴と関連付けた状態で準備し、
前記パルス形成ステップでは、前記複数の位相パターンのうち、前記特徴設定ステップにより設定された前記第1の特徴及び前記第2の特徴と対応する一の位相パターンを前記空間光変調器に表示させる、光パルス列発生方法。
【請求項10】
前記第1の特徴は、前記第1光パルスの中心波長、前記第1光パルスの帯域幅、前記第1光パルスのスペクトル形状、前記第1光パルスのスペクトル位相、及び前記光出力ステップに用いられる光源の種類、からなる群から選択される少なくとも一つの特徴を含む、請求項9に記載の光パルス列発生方法。
【請求項11】
前記第2の特徴は、前記複数の第2光パルスのパルス本数、前記複数の第2光パルス間の時間間隔、前記複数の第2光パルス間の時間間隔のばらつき、前記複数の第2光パルスそれぞれの中心波長、前記複数の第2光パルスの中心波長差、前記複数の第2光パルスそれぞれの帯域幅、前記複数の第2光パルスそれぞれの帯域幅のばらつき、前記複数の第2光パルス間のピーク強度比、及び前記複数の第2光パルス間のピーク強度のばらつき、からなる群から選択される少なくとも一つの特徴を含む、請求項9に記載の光パルス列発生方法。
【請求項12】
前記準備ステップでは複数の位相パターン群を準備し、
前記複数の位相パターン群それぞれは、前記複数の位相パターンのうちの一部である二以上の位相パターンを含み、前記第2の特徴に関する二以上の指標値それぞれと一対一で対応しており、
前記特徴設定ステップは、前記二以上の指標値のうち使用者の入力により選択された一の指標値に対応する前記位相パターン群の各位相パターンにより得られる前記光パルス列の前記第2の特徴を使用者に提示する提示ステップを含み、
前記パルス形成ステップでは、前記提示ステップにおいて提示された前記第2の特徴のうち使用者が選択した一の前記第2の特徴に対応する前記位相パターンを前記空間光変調器に表示させる、請求項9~11のいずれか1項に記載の光パルス列発生方法。
【請求項13】
前記準備ステップは、
強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第1波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の第2波形関数に変換する第1変換ステップと、
時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含み、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムに対応する時間領域の第3波形関数を、前記第2波形関数から求める第2変換ステップと、
前記第3波形関数を、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第4波形関数に変換する第3変換ステップと、を有し、
前記準備ステップでは、前記第1波形関数を前記第4波形関数に置き換えながら前記複数の位相パターンのそれぞれに関して前記第1変換ステップ、前記第2変換ステップ、および前記第3変換ステップを繰り返し行い、繰り返し動作後に得られる前記第4波形関数の前記位相スペクトル関数に基づいて前記複数の位相パターンそれぞれを生成する、請求項9~11のいずれか1項に記載の光パルス列発生方法。
【請求項14】
前記第2変換ステップは、
前記第2波形関数を、強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムに変換するステップと、
前記強度スペクトログラムを前記ターゲット強度スペクトログラムに置き換えるとともに、前記位相スペクトログラムを拘束するステップと、
置き換え後の前記強度スペクトログラム及び拘束された前記位相スペクトログラムを、前記第3波形関数に変換するステップと、
を含む、請求項13に記載の光パルス列発生方法。
【請求項15】
前記第2変換ステップは、
前記第2波形関数に対し、前記ターゲット強度スペクトログラムに対応する目標波形に基づく前記時間強度波形関数の置き換えを行うステップと、
前記ターゲット強度スペクトログラムに前記第2波形関数のスペクトログラムが近づくように前記第2波形関数を修正するステップと、
修正後の前記第2波形関数から前記第3波形関数を生成するステップと、
を含む、請求項13に記載の光パルス列発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光パルス列発生装置及び光パルス列発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び非特許文献1には、空間光変調器(Spatial Light Modulator:SLM)を用いてスペクトル位相及び/又はスペクトル強度を変調することにより、光パルスを成形する技術が開示されている。非特許文献1では、所望の光パルス波形を得るためのスペクトル位相及びスペクトル強度を、反復フーリエ法を用いて算出している。特許文献1では、時間強度波形を構成する光の波長成分(周波数成分)を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. Hacker, G. Stobrawa, T. Feurer, “Iterative Fourier transformalgorithm for phase-only pulse shaping”, Optics Express, Vol. 9, No. 4, pp.191-199,13 August 2001
【非特許文献2】Olivier Ripoll, Ville Kettunen, Hans Peter Herzig, “Review ofiterative Fouriertransform algorithms for beam shaping applications”, OpticalEngineering, Vol. 43, No. 11, pp.2549-2556, November 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば超短パルス光といった種々の光の時間波形を制御するための技術として、光パルスのスペクトル位相及びスペクトル強度をSLMによって変調するものがある。このような技術では、光の時間強度波形を所望の波形に近づけるためのスペクトル位相及びスペクトル強度を算出し、そのスペクトル位相及びスペクトル強度を光に与えるための変調パターンをSLMに呈示させる。また、時間強度波形の形状の制御に加えて、時間強度波形を構成する光の波長成分(周波数成分)を制御することもできる(例えば特許文献1を参照)。複数の光パルスを含む光パルス列を生成する場合、光パルス毎に波長を異ならせることによって、分散計測装置、レーザ加工装置、超高速撮像カメラ、テラヘルツ波発生装置など様々な装置への応用が可能となる。このような技術において、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を容易に得られることは重要である。
【0006】
本開示は、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を容易に得ることができる光パルス列発生装置及び光パルス列発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]一形態の光パルス列発生装置は、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を第1光パルスから形成するための複数の位相パターンであって、第1光パルスに関する第1の特徴及び光パルス列に関する第2の特徴の一方又は両方がそれぞれ異なる複数の位相パターンを予め記憶する記憶部と、使用者からの入力に応じて、第1の特徴及び第2の特徴を設定する特徴設定部と、第1光パルスを出力する光源と、複数の位相パターンのうち一の位相パターンを表示する空間光変調器を有し、第1光パルスから光パルス列を形成するパルス形成部と、を備える。記憶部は、複数の位相パターンを第1の特徴及び第2の特徴と関連付けた状態で記憶する。空間光変調器は、複数の位相パターンのうち、特徴設定部により設定された第1の特徴及び第2の特徴と対応する一の位相パターンを表示する。
【0008】
上記[1]の光パルス列発生装置では、使用者が特徴設定部に対して入力操作を行うと、第1光パルスに関する第1の特徴、及び光パルス列に関する第2の特徴が設定される。そして、複数の位相パターンのうち、設定された第1の特徴及び第2の特徴と対応する一の位相パターンが空間光変調器に表示される。光源から第1光パルスが出力されると、該空間光変調器を有するパルス形成部によって、第1光パルスから光パルス列が形成される。この光パルス列発生装置によれば、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を使用者が容易に得ることができる。
【0009】
[2]上記[1]の光パルス列発生装置において、第1の特徴は、第1光パルスの中心波長、第1光パルスの帯域幅、第1光パルスのスペクトル形状、第1光パルスのスペクトル位相、及び光源の種類、からなる群から選択される少なくとも一つの特徴を含んでもよい。その場合、光源から出力される第1光パルスに適した位相パターンを複数の位相パターンの中から選択することができる。よって、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を、使用者が更に容易に得ることができる。
【0010】
[3]上記[1]または[2]の光パルス列発生装置において、第2の特徴は、複数の第2光パルスのパルス本数、複数の第2光パルス間の時間間隔、複数の第2光パルス間の時間間隔のばらつき、複数の第2光パルスそれぞれの中心波長、複数の第2光パルスの中心波長差、複数の第2光パルスそれぞれの帯域幅、複数の第2光パルスそれぞれの帯域幅のばらつき、複数の第2光パルス間のピーク強度比、及び複数の第2光パルス間のピーク強度のばらつき、からなる群から選択される少なくとも一つの特徴を含んでもよい。その場合、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列をより精度良く実現するための位相パターンを複数の位相パターンの中から選択することができる。よって、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を、使用者が更に容易に得ることができる。
【0011】
[4]上記[1]~[3]のいずれか一つの光パルス列発生装置において、記憶部は複数の位相パターン群を記憶しており、複数の位相パターン群それぞれは、複数の位相パターンのうちの一部である二以上の位相パターンを含み、第2の特徴に関する二以上の指標値それぞれと一対一で対応しており、特徴設定部は、二以上の指標値のうち使用者の入力により選択された一の指標値に対応する位相パターン群の各位相パターンにより得られる光パルス列の第2の特徴を使用者に提示する提示部を有し、空間光変調器は、提示部において提示された第2の特徴のうち使用者が選択した一の第2の特徴に対応する位相パターンを表示してもよい。その場合、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分と同じかそれらに近い時間強度波形及び波長成分を実現し得る二以上の位相パターンの中から、最適な位相パターンを使用者自身が選択することができる。従って、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を、使用者が更に容易に得ることができる。
【0012】
[5]上記[1]~[4]のいずれか一つの光パルス列発生装置は、複数の位相パターンを生成する位相パターン生成部を更に備えてもよい。位相パターン生成部は、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第1波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の第2波形関数に変換する第1変換部と、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含み、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムに対応する時間領域の第3波形関数を、第2波形関数から求める第2変換部と、第3波形関数を、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第4波形関数に変換する第3変換部と、を有してもよい。位相パターン生成部は、第1波形関数を第4波形関数に置き換えながら複数の位相パターンのそれぞれに関して第1変換部、第2変換部、および第3変換部の動作を繰り返し行い、繰り返し動作後に得られる第4波形関数の位相スペクトル関数に基づいて複数の位相パターンそれぞれを生成してもよい。
【0013】
上記[5]の光パルス列発生装置では、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムに対応する時間領域の第3波形関数を求めながら、周波数領域と時間領域との間で繰り返し計算を行う。本発明者の研究によれば、これにより、特許文献1に記載の技術と比較して、光パルス列の時間強度波形及び波長成分を所望のものに近づけるための位相パターンの算出に要する時間を短縮できる。更には、位相パターンの算出精度を高めることができる。
【0014】
[6]上記[5]の光パルス列発生装置において、第2変換部は、第2波形関数を、強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムに変換する部分と、強度スペクトログラムをターゲット強度スペクトログラムに置き換えるとともに、位相スペクトログラムを拘束する部分と、置き換え後の強度スペクトログラム及び拘束された位相スペクトログラムを、第3波形関数に変換する部分と、を含んでもよい。例えばこのような第2変換部によって、所望の時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を精度良く実現するための位相パターンを得ることができる。
【0015】
[7]上記[5]の光パルス列発生装置において、第2変換部は、第2波形関数に対し、ターゲット強度スペクトログラムに対応する目標波形に基づく時間強度波形関数の置き換えを行う部分と、ターゲット強度スペクトログラムに第2波形関数のスペクトログラムが近づくように第2波形関数を修正する部分と、修正後の第2波形関数から第3波形関数を生成する部分と、を含んでもよい。例えばこのような第2変換部によって、所望の時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を精度良く実現するための位相パターンを得ることができる。
【0016】
[8]上記[1]~[4]のいずれか一つの光パルス列発生装置において、複数の位相パターンは、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第1波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の第2波形関数に変換する第1変換ステップと、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含み、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムに対応する時間領域の第3波形関数を、第2波形関数から求める第2変換ステップと、第3波形関数を、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第4波形関数に変換する第3変換ステップとを、第1波形関数を第4波形関数に置き換えながら繰り返し行い、繰り返し動作後に得られる第4波形関数の位相スペクトル関数に基づいて生成されたものであってもよい。これにより、特許文献1に記載の技術と比較して、光パルス列の時間強度波形及び波長成分を所望のものに近づけるための位相パターンの算出に要する時間を短縮できる。更には、位相パターンの算出精度を高めることができる。
【0017】
[9]一形態の光パルス列発生方法は、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を第1光パルスから形成するための複数の位相パターンであって、第1光パルスに関する第1の特徴及び光パルス列に関する第2の特徴の一方又は両方がそれぞれ異なる複数の位相パターンを予め準備する準備ステップと、使用者からの入力に応じて、第1の特徴及び第2の特徴を設定する特徴設定ステップと、第1光パルスを出力する光出力ステップと、複数の位相パターンのうち一の位相パターンを表示する空間光変調器を用い、第1光パルスから光パルス列を形成するパルス形成ステップと、を含む。準備ステップでは、複数の位相パターンを第1の特徴及び第2の特徴と関連付けた状態で準備する。パルス形成ステップでは、複数の位相パターンのうち、特徴設定ステップにより設定された第1の特徴及び第2の特徴と対応する一の位相パターンを空間光変調器に表示させる。
【0018】
上記[9]の光パルス列発生方法では、使用者が特徴設定ステップにおいて入力操作を行うと、第1光パルスに関する第1の特徴、及び光パルス列に関する第2の特徴が設定される。そして、複数の位相パターンのうち、設定された第1の特徴及び第2の特徴と対応する一の位相パターンが空間光変調器に表示される。光出力ステップにより第1光パルスが出力されると、該空間光変調器を用いるパルス形成ステップによって、第1光パルスから光パルス列が形成される。この光パルス列発生方法によれば、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を使用者が容易に得ることができる。
【0019】
[10]上記[9]の光パルス列発生方法において、第1の特徴は、第1光パルスの中心波長、第1光パルスの帯域幅、第1光パルスのスペクトル形状、第1光パルスのスペクトル位相、及び光出力ステップに用いられる光源の種類、からなる群から選択される少なくとも一つの特徴を含んでもよい。その場合、光出力ステップにより出力される第1光パルスに適した位相パターンを複数の位相パターンの中から選択することができる。よって、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を、使用者が更に容易に得ることができる。
【0020】
[11]上記[9]または[10]の光パルス列発生方法において、第2の特徴は、複数の第2光パルスのパルス本数、複数の第2光パルス間の時間間隔、複数の第2光パルス間の時間間隔のばらつき、複数の第2光パルスそれぞれの中心波長、複数の第2光パルスの中心波長差、複数の第2光パルスそれぞれの帯域幅、複数の第2光パルスそれぞれの帯域幅のばらつき、複数の第2光パルス間のピーク強度比、及び複数の第2光パルス間のピーク強度のばらつき、からなる群から選択される少なくとも一つの特徴を含んでもよい。その場合、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列をより精度良く実現するための位相パターンを複数の位相パターンの中から選択することができる。よって、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を、使用者が更に容易に得ることができる。
【0021】
[12]上記[9]~[11]のいずれか一つの光パルス列発生方法において、準備ステップでは複数の位相パターン群を準備し、複数の位相パターン群それぞれは、複数の位相パターンのうちの一部である二以上の位相パターンを含み、第2の特徴に関する二以上の指標値それぞれと一対一で対応しており、特徴設定ステップは、二以上の指標値のうち使用者の入力により選択された一の指標値に対応する位相パターン群の各位相パターンにより得られる光パルス列の第2の特徴を使用者に提示する提示ステップを含み、パルス形成ステップでは、提示ステップにおいて提示された第2の特徴のうち使用者が選択した一の第2の特徴に対応する位相パターンを空間光変調器に表示させてもよい。その場合、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分と同じかそれらに近い時間強度波形及び波長成分を実現し得る二以上の位相パターンの中から、最適な位相パターンを使用者自身が選択することができる。従って、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を、使用者が更に容易に得ることができる。
【0022】
[13]上記[9]~[12]のいずれか一つの光パルス列発生方法において、準備ステップは、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第1波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の第2波形関数に変換する第1変換ステップと、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含み、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムに対応する時間領域の第3波形関数を、第2波形関数から求める第2変換ステップと、第3波形関数を、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域の第4波形関数に変換する第3変換ステップと、を有してもよい。準備ステップでは、第1波形関数を第4波形関数に置き換えながら複数の位相パターンのそれぞれに関して第1変換ステップ、第2変換ステップ、および第3変換ステップを繰り返し行い、繰り返し動作後に得られる第4波形関数の位相スペクトル関数に基づいて複数の位相パターンそれぞれを生成してもよい。
【0023】
上記[13]の光パルス列発生方法では、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムに対応する時間領域の第3波形関数を求めながら、周波数領域と時間領域との間で繰り返し計算を行う。本発明者の研究によれば、これにより、特許文献1に記載の技術と比較して、光パルス列の時間強度波形及び波長成分を所望のものに近づけるための位相パターンの算出に要する時間を短縮できる。更には、位相パターンの算出精度を高めることができる。
【0024】
[14]上記[13]の光パルス列発生方法において、第2変換ステップは、第2波形関数を、強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムに変換するステップと、強度スペクトログラムをターゲット強度スペクトログラムに置き換えるとともに、位相スペクトログラムを拘束するステップと、置き換え後の強度スペクトログラム及び拘束された位相スペクトログラムを、第3波形関数に変換するステップと、を含んでもよい。例えばこのような第2変換ステップによって、所望の時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を精度良く実現するための位相パターンを得ることができる。
【0025】
[15]上記[13]の光パルス列発生方法において、第2変換ステップは、第2波形関数に対し、ターゲット強度スペクトログラムに対応する目標波形に基づく時間強度波形関数の置き換えを行うステップと、ターゲット強度スペクトログラムに第2波形関数のスペクトログラムが近づくように第2波形関数を修正するステップと、修正後の第2波形関数から第3波形関数を生成するステップと、を含んでもよい。例えばこのような第2変換ステップによって、所望の時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を精度良く実現するための位相パターンを得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本開示による光パルス列発生装置及び光パルス列発生方法によれば、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る光制御装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】
図2は、光波形制御部の構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、空間光変調器の変調面を示す図である。
【
図4】
図4(a)は、単パルス状の入力光のスペクトル波形を示す。
図4(b)は、該入力光の時間強度波形を示す。
【
図5】
図5(a)は、空間光変調器において矩形波状のスペクトル位相変調を与えたときの出力光のスペクトル波形を示す。
図5(b)は、該出力光の時間強度波形を示す。
【
図6】
図6(a),(b),(c)は、帯域制御バーストパルスの例を示す図である。
【
図7】
図7(a),(b),(c)は、帯域制御されていないバーストパルスの例を示す図である。
【
図8】
図8は、データ作成装置のハードウェアの構成例を概略的に示す図である。
【
図9】
図9は、記憶部における記憶方式の例を概念的に示す図である。
【
図10】
図10は、予備データ生成部の内部構成を示すブロック図である。
【
図11】
図11は、予備データ生成部における位相スペクトル関数の計算手順を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、予備データ生成部における位相スペクトル関数の計算手順を数式により示す図である。
【
図13】
図13(a)は、初期スペクトル関数の一例として、初期強度スペクトル関数及び初期位相スペクトル関数を模式的に示すグラフである。
図13(b)は、第1波形関数からフーリエ変換された、1周目における第2波形関数の時間強度波形関数及び時間位相波形関数を模式的に示すグラフである。
【
図14】
図14(a)は、
図13(b)に示される第2波形関数から変換された強度スペクトログラムを示す図である。
図14(b)は、
図13(b)に示される第2波形関数から変換された位相スペクトログラムを示す図である。
図14(c)は、ターゲット強度スペクトログラムの一例を示す図である。
図14(d)は、拘束された位相スペクトログラムを示す図である。
【
図15】
図15(a)は、
図14(c)及び
図14(d)に示される強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムから逆STFTされた、1周目における第3波形関数の時間強度波形関数及び時間位相波形関数を模式的に示すグラフである。
図15(b)は、
図15(a)に示される第3波形関数から逆フーリエ変換された、1周目における第4波形関数の強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を模式的に示すグラフである。
【
図16】
図16(a)は、
図15(b)ののちの3周目(n=3)における、第1波形関数の強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を模式的に示すグラフである。
図16(b)は、
図16(a)に示される第1波形関数からフーリエ変換された、3周目における第2波形関数の時間強度波形関数及び時間位相波形関数を模式的に示すグラフである。
【
図17】
図17(a)及び(b)それぞれは、
図16(b)に示される第2波形関数から変換された、3周目における強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムそれぞれを示す図である。
図17(c)は、3周目における強度スペクトログラムを示す図である。
図17(d)は、3周目における拘束された位相スペクトログラムを示す図である。
【
図18】
図18(a)は、
図17(c)及び
図17(d)に示される強度スペクトログラム及び位相スペクトログラムから逆STFTされた、3周目における第3波形関数の時間強度波形関数及び時間位相波形関数を模式的に示すグラフである。
図18(b)は、
図18(a)に示される第3波形関数から逆フーリエ変換された、3周目における第4波形関数の強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を模式的に示すグラフである。
【
図19】
図19は、一実施形態に係るデータ作成方法を示すフローチャートである。
【
図20】
図20は、スペクトログラム設定部の機能的構成を示すブロック図である。
【
図21】
図21(a)は、ターゲット波形関数の一例として、
図6に示された一つの光パルスについてのターゲット波形関数の強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を示すグラフである。
図21(b)は、時間領域の波形関数の一例として、
図21(a)に示されるターゲット波形関数から生成された時間強度波形関数及び時間位相波形関数を示すグラフである。
【
図22】
図22(a)は、強度スペクトログラムの一例として、
図21(b)に示される波形関数から生成された強度スペクトログラムを示す図である。
図22(b)は、一例として、3つの光パルスについての強度スペクトログラムを互いに重畳して得られる強度スペクトログラムを示す図である。
【
図23】
図23は、強度スペクトログラムを作成するための方法を示すフローチャートである。
【
図24】
図24は、ターゲット強度スペクトログラムを用いて得られたデータを空間光変調器に呈示することにより実際に得られる光の、複数のパルス間の中心波長差と、複数のパルスのピーク強度のばらつきとの関係を、複数の初期位相スペクトル関数それぞれについてプロットしたグラフである。
【
図25】
図25は、ターゲット強度スペクトログラムを用いて得られたデータを空間光変調器に呈示することにより実際に得られる光の、複数のパルス間の中心波長差と、複数のパルスのピーク強度のばらつきとの関係を、複数の初期位相スペクトル関数それぞれについてプロットしたグラフである。
【
図26】
図26は、ターゲット強度スペクトログラムを用いて得られたデータを空間光変調器に呈示することにより実際に得られる光の、複数のパルス間の中心波長差と、複数のパルスのピーク強度のばらつきとの関係を、複数の初期位相スペクトル関数それぞれについてプロットしたグラフである。
【
図27】
図27は、一変形例に係るターゲット設定部及び予備データ生成部の内部構成を示すブロック図である。
【
図28】
図28は、予備データ生成部における位相スペクトル関数の計算手順を示す図である。
【
図29】
図29は、ターゲット設定部におけるターゲットスペクトログラムの生成手順の一例を示す図である。
【
図30】
図30は、強度スペクトル関数を算出する手順の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0029】
図1は、本開示の一実施形態に係る光パルス列発生装置1の構成を概略的に示す図である。本実施形態の光パルス列発生装置1は、単一の光パルスである第1光パルスPaから、複数の第2光パルスを含む光パルス列Pbを生成する。
図1に示されるように、光パルス列発生装置1は、光源2、パルス形成部3、及びデータ提供部20を備える。
【0030】
光源2は、パルス形成部3に入力される第1光パルスPaを出力する。光源2は例えば固体レーザ光源等のレーザ光源であり、第1光パルスPaは、例えばコヒーレントな光パルスである。光源2は、例えばフェムト秒レーザであり、一実施例ではLD直接励起型Yb:YAGパルスレーザである。第1光パルスPaの時間波形は例えばガウス関数状である。第1光パルスPaの半値全幅(FWHM)は、例えば10fs~10000fsの範囲内であり、一例では100fsである。第1光パルスPaは、或る程度の帯域幅を有し、連続する複数の波長成分を含む。一実施例では、第1光パルスPaの帯域幅は10nmであり、第1光パルスPaの中心波長は800nmである。
【0031】
パルス形成部3は、空間光変調器(SLM)14を有しており、データ提供部20からの制御信号SCをSLM14に受ける。パルス形成部3は、光源2からの第1光パルスPaを光パルス列Pbに変換する。制御信号SCは、SLM14を制御するための位相分布を含むデータに基づいて生成される。データは、例えば、計算機合成ホログラム(Computer-Generated Holograms(CGH))である。
【0032】
図2は、パルス形成部3の構成例を示す図である。パルス形成部3は、回折格子12、レンズ13、SLM14、レンズ15、及び回折格子16を有する。回折格子12は本実施形態における分光素子であり、光源2と光学的に結合されている。SLM14はレンズ13を介して回折格子12と光学的に結合されている。回折格子12は、第1光パルスPaに含まれる複数の波長成分を、波長毎に空間的に分離する。なお、分光素子として、回折格子12に代えてプリズム等の他の光学部品を用いてもよい。
【0033】
第1光パルスPaは、回折格子12に対して斜めに入射し、複数の波長成分に分光される。この複数の波長成分を含む光L1は、レンズ13によって波長成分毎に集光され、SLM14の変調面に結像される。レンズ13は、光透過部材からなる凸レンズであってもよく、凹状の光反射面を有する凹面鏡であってもよい。
【0034】
SLM14は、第1光パルスPaを光パルス列Pbに変換するために、回折格子12から出力された複数の波長成分の位相を相互にずらす。そのために、SLM14は、データ提供部20から制御信号SCを受けて、光L1の位相変調と強度変調とを同時に行う。なお、SLM14は、位相変調のみ、または強度変調のみを行ってもよい。SLM14は、例えば位相変調型である。一実施例では、SLM14はLCOS(Liquid crystal on silicon)型である。なお、図には透過型のSLM14が示されているが、SLM14は反射型であってもよい。また、空間光変調器14は、位相変調型の空間光変調器に限らず、DMD(Digital Micro Mirror Device)などの強度変調型の空間光変調器、或いは位相-強度変調型の空間光変調器であってもよい。
【0035】
図3は、SLM14の変調面17を示す図である。
図3に示すように、変調面17には、複数の変調領域17aが或る方向AAに沿って並んでおり、各変調領域17aは方向AAと交差する方向ABに延びている。方向AAは、回折格子12による分光方向である。この変調面17はフーリエ変換面として働き、複数の変調領域17aのそれぞれには、分光後の対応する各波長成分が入射する。SLM14は、各変調領域17aにおいて、入射した各波長成分の位相及び強度を他の波長成分から独立して変調する。なお、本実施形態のSLM14は位相変調型であるため、強度変調は、変調面17に呈示される位相パターン(位相画像)によって実現される。
【0036】
SLM14によって変調された変調光L2の各波長成分は、レンズ15によって回折格子16上の一点に集められる。レンズ15及び回折格子16は、変調光L2を集光する光学系として機能する。レンズ15は、光透過部材からなる凸レンズであってもよく、凹状の光反射面を有する凹面鏡であってもよい。また、回折格子16は合波光学系として機能し、変調後の各波長成分を合波する。すなわち、これらのレンズ15及び回折格子16により、変調光L2の複数の波長成分は互いに集光・合波されて、光パルス列Pbとなる。SLM14が反射型である場合、レンズ13及びレンズ15は共通のレンズによって構成されてもよく、回折格子12及び回折格子16は共通の回折格子によって構成されてもよい。
【0037】
レンズ15よりも前の領域(スペクトル領域)と、回折格子16よりも後ろの領域(時間領域)とは、互いにフーリエ変換の関係にあり、スペクトル領域における位相変調は、時間領域における時間強度波形に影響する。従って、光パルス列Pbは、SLM14の変調パターンに応じた、第1光パルスPaとは異なる時間強度波形を有することとなる。ここで、
図4(a)は、第1光パルスPaのスペクトル波形(スペクトル位相G11及びスペクトル強度G12)の一例を示し、
図4(b)は、
図4(a)のスペクトル波形を有する第1光パルスPaの時間強度波形を示す。また、
図5(a)は、SLM14において矩形波状のスペクトル位相変調を与えたときの光パルス列Pbのスペクトル波形(スペクトル位相G21及びスペクトル強度G22)の一例を示し、
図5(b)は、
図5(a)のスペクトル波形を有する光パルス列Pbの時間強度波形を示す。
図4(a)及び
図5(a)において、横軸は波長(nm)を示し、左の縦軸は強度スペクトルの強度値(任意単位)を示し、右の縦軸はスペクトル位相の位相値(rad)を示す。また、
図4(b)及び
図5(b)において、横軸は時間(フェムト秒)を表し、縦軸は光強度(任意単位)を表す。この例では、矩形波状の位相スペクトル波形を光パルス列Pbに与えることにより、第1光パルスPaのシングルパルスが、光パルス列Pbとして高次光を伴うダブルパルスに変換されている。なお、
図5に示されるスペクトル及び波形は一つの例であって、様々なスペクトル位相及びスペクトル強度の組み合わせにより、光パルス列Pbの時間強度波形を様々な形状に整形することができる。
【0038】
光パルス列Pbは、第1光パルスPaを構成するスペクトルを複数の波長帯域に分け、それぞれの波長帯域を用いて生成したシングルパルス群であってもよい。その場合、複数の波長帯域の境界では、互いに重なり合う部分があってもよい。このような光パルス列Pbは「帯域制御バーストパルス」と称される。
【0039】
図6は、帯域制御バーストパルスの例を示す図である。この例では、3つの第2光パルスPb
1~Pb
3からなる光パルス列Pbが示されている。
図6(a)は、強度スペクトログラムであって、横軸に時間、縦軸に波長を示しており、光強度を色の濃淡で表している。
図6(b)は、光パルス列Pbの時間波形を表している。各第2光パルスPb
1~Pb
3の時間波形は例えばガウス関数状である。
【0040】
図6(a)及び
図6(b)に示すように、3つの第2光パルスPb
1~Pb
3のピーク同士は時間的に互いに離れており、3つの第2光パルスPb
1~Pb
3の伝搬タイミングは互いにずれている。言い換えると、一の第2光パルスPb
1に対して別の光パルスPb
2が時間遅れを有しており、該別の光パルスPb
2に対して更に別の光パルスPb
3が時間遅れを有している。但し、隣り合う第2光パルスPb
1,Pb
2(又はPb
2,Pb
3)の裾部分同士が互いに重なっていてもよい。隣り合う第2光パルスPb
1,Pb
2(又はPb
2,Pb
3)の時間間隔(ピーク間隔)は、例えば10fs~10000fsの範囲内であり、一例では2000fsである。また、各第2光パルスPb
1~Pb
3のFWHMは、例えば10fs~5000fsの範囲内であり、一例では300fsである。
【0041】
図6(c)は、3つの第2光パルスPb
1~Pb
3を合成したスペクトルを表している。
図6(c)に示すように3つの第2光パルスPb
1~Pb
3を合成したスペクトルは単一のピークを有するが、
図6(a)を参照すると3つの第2光パルスPb
1~Pb
3の中心波長は互いにずれている。
図6(c)に示す単一のピークを有するスペクトルは、ほぼ第1光パルスPaのスペクトルと同じである。
【0042】
隣り合う第2光パルスPb1,Pb2(又はPb2,Pb3)のピーク波長間隔は、第1光パルスPaのスペクトル帯域幅によって定まり、概ね半値全幅の2倍の範囲内である。一例では、第1光パルスPaのスペクトル帯域幅が10nmの場合、ピーク波長間隔は5nmである。具体例として、第1光パルスPaの中心波長が800nmである場合、3つの第2光パルスPb1~Pb3のピーク波長はそれぞれ795nm、800nm、及び805nmであることができる。
【0043】
図7は、帯域制御されていないバーストパルスの例を示す図である。この例では、3つの光パルスPd
1~Pd
3からなる光パルス列Pdが示されている。
図7(a)は、
図6(a)と同様に、強度スペクトログラムであって、横軸に時間、縦軸に波長を示しており、光強度を色の濃淡で表している。
図7(b)は、光パルス列Pdの時間波形を表している。
図7(c)は、3つの光パルスPd
1~Pd
3を合成したスペクトルを表している。
【0044】
図7(a)~(c)に示すように、3つの光パルスPd
1~Pd
3のピーク同士は時間的に互いに離れているが、3つの光パルスPd
1~Pd
3の中心波長は互いに一致している。本実施形態のパルス形成部3は、このような光パルス列Pdを生成するものではなく、
図6に示されたような、各第2光パルスPb
1~Pb
3の中心波長が互いに異なる光パルス列Pbを生成するものである。
【0045】
再び
図1を参照する。データ提供部20は、SLM14と通信可能に接続されており、光パルス列Pbの時間強度波形及び波長成分を所望のものに近づけるための位相変調パターンを用意し、その位相変調パターンを含む制御信号SCをSLM14に提供する。本実施形態のデータ提供部20は、所望の時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列Pbを得る為のスペクトル位相及びスペクトル強度を光パルス列Pbに与える位相変調用の位相パターンをSLM14に呈示させる。そのために、データ提供部20は、スペクトログラム設定部22と、位相パターン生成部23と、記憶部24と、入力部26と、特徴設定部27と、を有する。特徴設定部27は、提示部28を含む。
【0046】
なお、スペクトログラム設定部22及び位相パターン生成部23は、データ提供部20とは別に設けられてもよい。その場合、スペクトログラム設定部22及び位相パターン生成部23は、データ提供部20に、位相変調パターンに関するデータを提供する。データ提供部20は、例えば、パーソナルコンピュータ;スマートフォン、タブレット端末などのスマートデバイス;あるいはクラウドサーバなどのプロセッサを有するコンピュータであってよい。
【0047】
図8は、データ提供部20のハードウェアの構成例を概略的に示す図である。
図8に示すように、データ提供部20は、物理的には、プロセッサ(CPU)61、ROM62及びRAM63等の主記憶装置、キーボード、マウス及びタッチスクリーン等の入力デバイス64、ディスプレイ(タッチスクリーン含む)等の出力デバイス65、他の装置との間でデータの送受信を行うためのネットワークカード等の通信モジュール66、ハードディスク等の補助記憶装置67などを含む、通常のコンピュータとして構成され得る。
【0048】
コンピュータのプロセッサ61は、データ提供プログラムによって、上記のデータ提供部20の一部の機能を実現することができる。故に、データ提供プログラムは、コンピュータのプロセッサ61を、データ提供部20におけるスペクトログラム設定部22、位相パターン生成部23、入力部26、及び特徴設定部27として動作させる。データ提供プログラムは、コンピュータの内部または外部の記憶装置(記憶媒体)に記憶される。記憶装置は、非一時的記録媒体であってもよい。記録媒体としては、フレキシブルディスク、CD、DVD等の記録媒体、ROM等の記録媒体、半導体メモリ、クラウドサーバ等が例示される。ROM62または補助記憶装置67は、記憶部24を構成する。入力デバイス64は、入力部26を構成する。出力デバイス65は、提示部28を構成する。
【0049】
記憶部24は、光パルス列Pbの時間強度波形及び波長成分を所望のものに近づけるための位相パターンを作成する際に用いられる、Q個(Qは2以上の整数)の初期位相スペクトル関数を記憶する。初期位相スペクトル関数については、後に詳述する。
【0050】
スペクトログラム設定部22は、R個(Rは2以上の整数)のターゲット強度スペクトログラムを作成する。ターゲット強度スペクトログラムは、位相パターンを算出する際に用いられる、目標とする光パルス列Pbを表す強度スペクトログラムである。ターゲット強度スペクトログラムは、例えば第1光パルスPaの帯域幅といった、第1光パルスPaに関する第1の特徴と、例えば光パルス列Pbのパルス本数といった、光パルス列Pbに関する第2の特徴とに応じて作成される。すなわち、対応する第1の特徴及び第2の特徴の一方又は両方が、ターゲット強度スペクトログラム毎に異なっている。第1光パルスPaに関する第1の特徴は、例えば、第1光パルスPaの中心波長、第1光パルスPaの帯域幅、第1光パルスPaのスペクトル形状、第1光パルスPaのスペクトル位相、及び光源2の種類、からなる群から選択される少なくとも一つの特徴を含む。光パルス列Pbに関する第2の特徴は、複数の第2光パルスPb
1~Pb
3のパルス本数(例えば
図6に示される例では3本)、複数の第2光パルスPb
1~Pb
3間の時間間隔、複数の第2光パルスPb
1~Pb
3間の時間間隔のばらつき、複数の第2光パルスPb
1~Pb
3それぞれの中心波長、複数の第2光パルスPb
1~Pb
3の中心波長差、複数の第2光パルスPb
1~Pb
3それぞれの帯域幅、複数の第2光パルスPb
1~Pb
3それぞれの帯域幅のばらつき、複数の第2光パルスPb
1~Pb
3間のピーク強度比、及び複数の第2光パルスPb
1~Pb
3間のピーク強度のばらつき、からなる群から選択される少なくとも一つの特徴を含む。
【0051】
第1光パルスPaの中心波長とは、第1光パルスPaの波長帯域における中心の波長である。多くの場合、第1光パルスPaの中心波長は、第1光パルスPaのスペクトルのピーク波長と一致する。第1光パルスPaの帯域幅とは、第1光パルスPaの波長帯域の幅(最大波長と最小波長との差)である。第2光パルスPb1~Pb3間の時間間隔とは、第2光パルスPb1~Pb3のピーク時間同士の間隔である。種々のばらつきは、例えば標準偏差によって数値的に表される。
【0052】
R個のターゲット強度スペクトログラムに関するR個のデータは、スペクトログラム設定部22から位相パターン生成部23に与えられる。位相パターン生成部23は、与えられたターゲット強度スペクトログラム毎に、記憶部24に記憶されたQ個の初期位相スペクトル関数それぞれを用いて、その実現に適したQ個の位相スペクトル関数を算出する。言い換えると、位相パターン生成部23は、一つのターゲット強度スペクトログラムにつきQ個の位相スペクトル関数を算出する。そして、位相パターン生成部23は、ターゲット強度スペクトログラム毎に、Q個の位相スペクトル関数それぞれに基づいてQ個の位相パターンそれぞれを算出する。位相パターン生成部23により生成された(R×Q)個の位相パターンは、記憶部24へ出力され、記憶部24によって記憶される。記憶部24は、(R×Q)個の位相パターンを、第1の特徴及び第2の特徴と関連付けた状態で記憶する。ここで、「関連付けた状態で記憶する」とは、第1の特徴及び第2の特徴が指定されたときに、その第1の特徴及び第2の特徴に対応する位相パターンが一意に特定される態様にて、複数の位相パターンを記憶することをいう。
【0053】
図9は、記憶部24における記憶方式の例を概念的に示す図である。
図9に示されるように、記憶部24は複数(図では3つ)の位相パターン群Fを記憶している。複数の位相パターン群Fそれぞれは、(R×Q)個の位相パターンPTのうちの一部である二以上の位相パターンPTを含む。全ての位相パターンPTは、光パルス列Pbの第2の特徴(図にはパルス間の中心波長差及びピーク強度のばらつきを例示しているが、これらに限られない)と関連付けられている。複数の位相パターン群Fそれぞれは、光パルス列Pbの或る第2の特徴に関する二以上の指標値(インデックス値)それぞれと一対一で対応している。
図9には、指標値の一例として3つの中心波長差Δλ
1~Δλ
3が示されている。すなわち、複数の位相パターン群Fそれぞれは、中心波長差Δλ
1~Δλ
3それぞれによって一意に特定される。指標値としての中心波長差Δλ
1~Δλ
3は、その指標値と対応付けられた位相パターン群Fに含まれる各位相パターンPTによって得られる光パルス列Pbの第2の特徴(ここではパルス間の中心波長差)の近傍の値を有する。なお、中心波長差に限らず、他の第2の特徴を指標値として用いてもよい。
【0054】
再び
図1を参照する。特徴設定部27は、入力部26への使用者からの入力に応じて、第1光パルスPaに関する第1の特徴、及び光パルス列Pbに関する第2の特徴を設定する。一例では、入力部26において使用者から一の指標値(例えば中心波長差Δλ
1~Δλ
3のいずれか)が選択される。特徴設定部27の提示部28は、使用者の入力により選択された一の指標値に対応する位相パターン群Fの各位相パターンPTにより得られる光パルス列Pbの第2の特徴(例えばパルス間の中心波長差及びピーク強度のばらつき)を、使用者に提示する。このとき、提示形式としては、
図9に示されるようなグラフの形式であってもよく、数値そのものが提示される形式であってもよい。使用者は、入力部26を操作することにより、提示された第2の特徴に関する複数の値の中から一の値を選択する。記憶部24は、特徴設定部27により設定された第1の特徴及び第2の特徴に対応する位相パターンを含む制御信号SCを、SLM14に提供する。SLM14は、制御信号SCに含まれる一の位相パターンを表示する。
【0055】
図10は、位相パターン生成部23の内部構成を示すブロック図である。
図10に示されるように、位相パターン生成部23は、フーリエ変換部31(第1変換部)、関数変換部32(第2変換部)、逆フーリエ変換部33(第3変換部)、及びデータ生成部34を有する。関数変換部32は、スペクトログラム変換部321、スペクトログラム置換部322、スペクトログラム逆変換部323を含む。位相パターン生成部23は、以下に説明する算出方法を用いて、位相パターンの基になる位相スペクトル関数を算出する。
図11は、位相パターン生成部23における位相スペクトル関数の計算手順を示すブロック図である。
図12は、位相パターン生成部23における位相スペクトル関数の計算手順を数式により示す図である。
【0056】
まず、初期スペクトル関数A1、すなわち周波数ωの関数である初期強度スペクトル関数A0(ω)及び初期位相スペクトル関数Φ0(ω)を用意する。一例では、初期強度スペクトル関数A0(ω)は第1光パルスPaの強度スペクトルを表すが、これに限られない。また、初期位相スペクトル関数Φ0(ω)は、記憶部24に記憶された複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)の中から順に選択される。複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)は、例えば乱数を用いて自動的に生成され得る。初期位相スペクトル関数Φ0(ω)の個数は、例えば100個以上である。データ提供部20は、そのような複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)を生成する部分、すなわち初期位相スペクトル関数生成部を更に備えてもよい。
【0057】
図13(a)は、初期スペクトル関数A1の一例として、初期強度スペクトル関数A
0(ω)及び初期位相スペクトル関数Φ
0(ω)を模式的に示すグラフである。
図13(a)において、グラフG31は初期強度スペクトル関数A
0(ω)を表し、グラフG32は初期位相スペクトル関数Φ
0(ω)を表す。横軸は波長を示し、縦軸は強度スペクトル関数の強度値または位相スペクトル関数の位相値を示す。
【0058】
第1波形関数A2は、下記の数式(1)によって示される。但し、nは繰り返し番号(n=1,2,・・・,N)であり、iは虚数である。第1周目(n=1)においては、初期スペクトル関数A1を、第1波形関数A2とする。すなわち、繰り返し第1周目の第1波形関数A2のΦ
1(ω)=Φ
0(ω)とする。
【数1】
位相パターン生成部23のフーリエ変換部31は、第1波形関数A2に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印B1、第1変換ステップ)。これにより、下記の数式(2)によって示される、時間強度波形関数a
n(t)及び時間位相波形関数φ
n(t)を含む、時間領域の第2波形関数A3が得られる。
【数2】
図13(b)は、
図13(a)に示される第1波形関数A2からフーリエ変換された、1周目における第2波形関数A3の時間強度波形関数a
1(t)及び時間位相波形関数φ
1(t)を模式的に示すグラフである。
図13(b)において、グラフG41は時間強度波形関数a
1(t)を表し、グラフG42は時間位相波形関数φ
1(t)を表す。横軸は時間を示し、縦軸は時間強度波形関数の強度値または時間位相波形関数の位相値を示す。
【0059】
続いて、関数変換部32は、予め作成された強度スペクトログラムA43(ターゲット強度スペクトログラム)に対応する、時間強度波形関数a'n(t)及び時間位相波形関数φ'n(t)を含む時間領域の第3波形関数A5を、第2波形関数A3から求める(第2変換ステップ)。以下、具体的な関数変換部32の動作を説明する。
【0060】
関数変換部32のスペクトログラム変換部321は、第2波形関数A3に対して短時間フーリエ変換(Short-Time Fourier Transform;STFT)を行う(図中の矢印B2)。これにより、下記の数式(3)によって示される強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42が得られる。
【数3】
図14(a)及び
図14(b)それぞれは、
図13(b)に示される第2波形関数A3から変換された強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42それぞれを示す図である。なお、
図14(a)及び
図14(b)において横軸は時間を示し、縦軸は波長を示す。また、スペクトログラムの値は、図の明暗によって示されており、明るいほどスペクトログラムの値が大きい。この例では、強度スペクトログラムA41において単一の光パルスPb
0が現れている。
【0061】
なお、第2波形関数A3を強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42に変換するためのスペクトログラム変換部321における処理は、STFTに限られず、他の処理であってもよい。時間波形をスペクトログラムに変換する処理は、STFTを含めて時間-周波数変換と呼ばれる。時間-周波数変換では、時間波形のような複合信号に対して、周波数フィルタ処理または数値演算処理(窓関数をずらしながら乗算して、各々の時間に対してスペクトルを導出する処理)を施し、時間、周波数、信号成分の強さ(強度スペクトル)からなる3次元情報を生成する。本実施形態では、その変換結果(時間、周波数、強度スペクトル)を「スペクトログラム」と定義する。時間-周波数変換としては、STFTのほか、ウェーブレット変換(ハールウェーブレット変換、ガボールウェーブレット変換、メキシカンハットウェーブレット変換、モルレーウェーブレット変換)などがある。
【0062】
続いて、関数変換部32のスペクトログラム置換部322は、強度スペクトログラムA41を予め作成された強度スペクトログラムA43(ターゲット強度スペクトログラム)に置き換えるとともに、位相スペクトログラムA42を拘束する(図中の矢印B3)。強度スペクトログラムA43は、スペクトログラム設定部22(
図1を参照)から提供される。位相スペクトログラムA42を拘束するとは、位相スペクトログラムA42を変化させない(そのまま残す)ことを意味する。これにより、上記の数式(3)は、下記の数式(4)に置き換えられる。TSG(ω,t)はターゲット強度スペクトログラム関数である。
【数4】
図14(c)は、強度スペクトログラムA43の一例を示す図である。
図14(d)は、拘束された位相スペクトログラムA42を示す図である。
図14(c)及び
図14(d)において、横軸は時間を示し、縦軸は波長を示す。スペクトログラムの値は、図の明暗によって示されており、明るいほどスペクトログラムの値が大きい。この例では、強度スペクトログラムA43に、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる3つの光パルスPb
1,Pb
2,Pb
3を含む光パルス列Pbが含まれている。拘束された位相スペクトログラムA42は、
図14(b)と全く同一である。
【0063】
続いて、関数変換部32のスペクトログラム逆変換部323は、強度スペクトログラムA43及び位相スペクトログラムA42に対して逆STFTを行う(図中の矢印B4)。なお、ここでもスペクトログラム変換部321と同様に、STFT以外の時間-周波数変換を用いてもよい。これにより、下記の数式(5)によって示される、時間強度波形関数a'
n(t)及び時間位相波形関数φ'
n(t)を含む時間領域の第3波形関数A5が得られる。但し、1周目ではn=1である。
【数5】
図15(a)は、
図14(c)及び
図14(d)に示される強度スペクトログラムA43及び位相スペクトログラムA42から逆STFTされた、1周目における第3波形関数A5の時間強度波形関数a'
1(t)及び時間位相波形関数φ'
1(t)を模式的に示すグラフである。
図15(a)において、グラフG51は時間強度波形関数a'
1(t)を表し、グラフG52は時間位相波形関数φ'
1(t)を表す。横軸は時間を示し、縦軸は時間強度波形関数の強度値または時間位相波形関数の位相値を示す。
【0064】
続いて、逆フーリエ変換部33は、第3波形関数A5に対して時間領域から周波数領域への逆フーリエ変換を行う(図中の矢印B5、第3変換ステップ)。これにより、下記の数式(6)によって示される、強度スペクトル関数A'
n(ω)及び位相スペクトル関数Φ'
n(ω)を含む周波数領域の第4波形関数A6が得られる。但し、1周目ではn=1である。
【数6】
図15(b)は、
図15(a)に示される第3波形関数A5から逆フーリエ変換された、1周目における第4波形関数A6の強度スペクトル関数A'
1(ω)及び位相スペクトル関数Φ'
1(ω)を模式的に示すグラフである。
図15(b)において、グラフG61は強度スペクトル関数A'
1(ω)を表し、グラフG62は位相スペクトル関数Φ'
1(ω)を表す。横軸は波長を示し、縦軸は強度スペクトル関数の強度値または位相スペクトル関数の位相値を示す。
【0065】
その後、位相パターン生成部23は、第1波形関数A2の強度スペクトル関数A0(ω)を拘束しつつ、第1波形関数A2の位相スペクトル関数Φ1(ω)を第4波形関数の位相スペクトル関数Φ'1(ω)に置き換える(すなわち第1波形関数A2のΦ2(ω)=Φ'1(ω)とする。図中の矢印B6を参照)。そして、上述したフーリエ変換部31、スペクトログラム変換部321、スペクトログラム置換部322、スペクトログラム逆変換部323、及び逆フーリエ変換部33の動作を、強度スペクトログラムA41とターゲット強度スペクトログラムA43との一致度合いを示す評価値が収束するまでN回にわたって繰り返す。このように、位相パターン生成部23では、第1波形関数A2の強度スペクトル関数A0(ω)を拘束しつつ、(n+1)周目の第1波形関数A2の位相スペクトル関数Φn+1(ω)をn周目の第4波形関数の位相スペクトル関数Φ'n(ω)に置き換えながら、フーリエ変換部31、スペクトログラム変換部321、スペクトログラム置換部322、スペクトログラム逆変換部323、及び逆フーリエ変換部33がこの順で繰り返し動作する。
【0066】
図16(a)は、
図15(b)ののちの3周目(n=3)における、第1波形関数A2の強度スペクトル関数A
0(ω)(グラフG71)及び位相スペクトル関数Φ
3(ω)(グラフG72)を模式的に示すグラフである。位相スペクトル関数Φ
3(ω)の波形が1周目から変化していることがわかる。
図16(b)は、
図16(a)に示される第1波形関数A2からフーリエ変換された、3周目における第2波形関数A3の時間強度波形関数a
3(t)(グラフG81)及び時間位相波形関数φ
3(t)(グラフG82)を模式的に示すグラフである。
図17(a)及び(b)それぞれは、
図16(b)に示される第2波形関数A3から変換された、3周目における強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42それぞれを示す図である。互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる3つの光パルスPb
1~Pb
3が生成され始めていることがわかる。
図17(c)は、3周目における強度スペクトログラムA43を示す図であって、これは
図14(c)に示される1週目の強度スペクトログラムA43と同一である。
図17(d)は、3周目における拘束された位相スペクトログラムA42を示す図であって、これは
図17(b)の位相スペクトログラムA42と同一である。
図18(a)は、
図17(c)及び
図17(d)に示される強度スペクトログラムA43及び位相スペクトログラムA42から逆STFTされた、3周目における第3波形関数A5の時間強度波形関数a'
3(t)(グラフG91)及び時間位相波形関数φ'
3(t)(グラフG92)を模式的に示すグラフである。
図18(b)は、
図18(a)に示される第3波形関数A5から逆フーリエ変換された、3周目における第4波形関数A6の強度スペクトル関数A'
3(ω)(グラフG101)及び位相スペクトル関数Φ'
3(ω)(グラフG102)を模式的に示すグラフである。
【0067】
上記のような繰り返し動作によって、強度スペクトログラムA41が強度スペクトログラムA43に次第に近づくように、位相スペクトル関数Φ'n(ω)が修正される。最終的に、第4波形関数A6に含まれる位相スペクトル関数Φ'n(ω)が、所望のスペクトル位相解Φresult(ω)となる。このスペクトル位相解Φresult(ω)が、データ生成部34に提供される。
【0068】
データ生成部34は、位相パターン生成部23において算出されたスペクトル位相解Φresult(ω)に基づくスペクトル位相及び/又はスペクトル強度を光パルス列Pbに与えるための位相パターン(例えば、計算機合成ホログラム)を算出する。
【0069】
位相パターン生成部23は、上記のような繰り返し計算および位相パターンの算出を、ターゲット強度スペクトログラムA43毎に、記憶部24に記憶されている複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)のそれぞれについて行う。位相パターン生成部23は、繰り返し計算および位相パターンの算出を、一つの初期位相スペクトル関数Φ0(ω)ずつ順次行ってもよいし、複数の初期位相スペクトル関数Φ0(ω)について並行して行ってもよい。
【0070】
図19は、本実施形態に係る光パルス列発生方法を示すフローチャートである。この光パルス列発生方法は、光パルス列Pbを生成する方法であって、上述した光パルス列発生装置1を用いて好適に実現される。
【0071】
図19に示されるように、まず、複数の位相パターンPTを準備する(準備ステップST1)。前述したように、複数の位相パターンPTそれぞれは、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルス(例えば
図6に示された第2光パルスPb
1~Pb
3)を含む光パルス列Pbを第1光パルスPaから形成するための位相パターンである。そして、複数の位相パターンPT間において、第1光パルスPaに関する第1の特徴、及び光パルス列Pbに関する第2の特徴の一方又は両方が互いに異なる。準備ステップST1では、複数の位相パターンPTを、第1の特徴及び第2の特徴と関連付けた状態で準備する。準備ステップST1では、
図9に示された複数の位相パターン群Fを準備してもよい。この準備ステップST1は、位相パターン生成部23によって実施され得る。準備された複数の位相パターンは、記憶部24に記憶される。
【0072】
具体的には、準備ステップST1は、第1変換ステップST11と、第2変換ステップST12と、第3変換ステップST13と、データ生成ステップST14とを含む。第1変換ステップST11では、フーリエ変換部31が、強度スペクトル関数A0(ω)及び位相スペクトル関数Φn(ω)を含む周波数領域の第1波形関数A2を、時間強度波形関数an(t)及び時間位相波形関数φn(t)を含む時間領域の第2波形関数A3に変換する。第2変換ステップST12では、関数変換部32が、時間強度波形関数a'n(t)及び時間位相波形関数φ'n(t)を含み、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムA43に対応する時間領域の第3波形関数A5を、第2波形関数A3から求める。第2変換ステップST12の詳細は、前述した関数変換部32の動作のとおりである。第3変換ステップST13では、逆フーリエ変換部33が、第3波形関数A5を、強度スペクトル関数A'n(ω)及び位相スペクトル関数Φ'n(ω)を含む周波数領域の第4波形関数A6に変換する。準備ステップST1では、第1波形関数A2を第4波形関数A6に置き換えながら、第1変換ステップST11、第2変換ステップST12、および第3変換ステップST13を繰り返し行う。また、この繰り返し動作の最初における第1変換ステップST11においては、複数の初期位相スペクトル関数A0(ω)のうち一つを、第1波形関数A2の位相スペクトル関数とする。そして、データ生成ステップST14では、データ生成部34が、繰り返し動作後に得られる第4波形関数A6の位相スペクトル関数Φ'n(ω)に基づいて、位相パターンのデータを生成する。準備ステップST1では、複数の初期位相スペクトル関数A0(ω)の全てについて、上記の繰り返し計算を行い、データ生成ステップST14において位相パターンのデータを生成する(ステップST15)。こうして、複数の初期位相スペクトル関数A0(ω)にそれぞれ対応する複数の位相パターンが得られる。また、準備ステップST1では、ターゲット強度スペクトログラムA43の全てについて、上記の繰り返し計算を行い、データ生成ステップST14において位相パターンのデータを生成する(ステップST16)。こうして、複数のターゲット強度スペクトログラムA43にそれぞれ対応する位相パターンの複数のセットが得られる。
【0073】
次に、使用者からの入力に応じて、第1光パルスPaに関する第1の特徴、及び光パルス列Pbに関する第2の特徴を設定する(特徴設定ステップST2)。具体的には、まず、使用者が、入力部26を通じて、二以上の指標値のうち一の指標値を選択する(ステップST21)。次に、使用者の入力により選択された一の指標値に対応する位相パターン群Fの各位相パターンPTにより得られる光パルス列Pbの第2の特徴を、提示部28によって使用者に提示する(提示ステップST22)。次に、使用者が、入力部26を通じて、提示部28に提示された第2の特徴に関する複数の値の中から一の値を選択する(ステップST23)。
【0074】
次に、光源2から第1光パルスPaを出力する(光出力ステップST3)。そして、複数の位相パターンPTのうち一の位相パターンPTを表示するSLM14を用い、第1光パルスPaから光パルス列Pbを形成する(パルス形成ステップST4)。パルス形成ステップST4では、複数の位相パターンPTのうち、特徴設定ステップST2により設定された第1の特徴及び第2の特徴と対応する一の位相パターンPTを、SLM14に表示させる。
【0075】
以上に説明した本実施形態の光パルス列発生装置1及び光パルス列発生方法によって得られる効果について説明する。本実施形態では、特徴設定ステップST2において使用者が特徴設定部27に対して入力操作を行うと、第1光パルスPaに関する第1の特徴、及び光パルス列Pbに関する第2の特徴が設定される。そして、複数の位相パターンPTのうち、設定された第1の特徴及び第2の特徴と対応する一の位相パターンPTがSLM14に表示される。光源2から第1光パルスPaが出力されると、SLM14を有するパルス形成部3によって、第1光パルスPaから光パルス列Pbが形成される。従って、本実施形態の光パルス列発生装置1及び光パルス列発生方法によれば、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列Pbを使用者が容易に得ることができる。
【0076】
前述したように、第1光パルスPaに関する第1の特徴は、第1光パルスPaの中心波長、第1光パルスPaの帯域幅、第1光パルスPaのスペクトル形状、第1光パルスPaのスペクトル位相、及び光源2の種類、からなる群から選択される少なくとも一つの特徴を含んでもよい。その場合、光源2から出力される第1光パルスPaに適した位相パターンPTを複数の位相パターンPTの中から選択することができる。よって、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列Pbを、使用者が更に容易に得ることができる。
【0077】
前述したように、光パルス列Pbに関する第2の特徴は、複数の第2光パルス(
図6の例では第2光パルスPb
1~Pb
3)のパルス本数、複数の第2光パルス間の時間間隔、複数の第2光パルス間の時間間隔のばらつき、複数の第2光パルスそれぞれの中心波長、複数の第2光パルスの中心波長差、複数の第2光パルスそれぞれの帯域幅、複数の第2光パルスそれぞれの帯域幅のばらつき、複数の第2光パルス間のピーク強度比、及び複数の第2光パルス間のピーク強度のばらつき、からなる群から選択される少なくとも一つの特徴を含んでもよい。その場合、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列Pbをより精度良く実現するための位相パターンPTを複数の位相パターンPTの中から選択することができる。よって、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列Pbを、使用者が更に容易に得ることができる。
【0078】
本実施形態のように、記憶部24は複数の位相パターン群Fを記憶しており、複数の位相パターン群Fそれぞれは、複数の位相パターンPTのうちの一部である二以上の位相パターンPTを含み、第2の特徴に関する二以上の指標値(
図9の例では中心波長差Δλ
1~Δλ
3)それぞれと一対一で対応しており、特徴設定部27は、二以上の指標値のうち使用者の入力により選択された一の指標値に対応する位相パターン群Fの各位相パターンPTにより得られる光パルス列Pbの第2の特徴を使用者に提示する提示部28を有し、SLM14は、提示部28において提示された第2の特徴のうち使用者が選択した一の第2の特徴に対応する位相パターンPTを表示してもよい。同様に、準備ステップST1では複数の位相パターン群Fを準備し、特徴設定ステップST2は、二以上の指標値のうち使用者の入力により選択された一の指標値に対応する位相パターン群Fの各位相パターンPTにより得られる光パルス列Pbの第2の特徴を使用者に提示する提示ステップST22を含み、パルス形成ステップST4では、提示ステップST22において提示された第2の特徴のうち使用者が選択した一の第2の特徴に対応する位相パターンPTをSLM14に表示させてもよい。その場合、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分と同じかそれらに近い時間強度波形及び波長成分を実現し得る二以上の位相パターンPTの中から、最適な位相パターンPTを使用者自身が選択することができる。従って、使用者が必要とする時間強度波形及び波長成分を有する光パルス列Pbを、使用者が更に容易に得ることができる。
【0079】
本実施形態の光パルス列発生装置1は、複数の位相パターンPTを生成する位相パターン生成部23を備える。位相パターン生成部23は、第1波形関数A2を第4波形関数A6に置き換えながら複数の位相パターンPTのそれぞれに関してフーリエ変換部31、関数変換部32、および逆フーリエ変換部33の動作を繰り返し行い、繰り返し動作後に得られる第4波形関数A6の位相スペクトル関数Φresult(ω)に基づいて複数の位相パターンPTそれぞれを生成する。そして、予め作成されたターゲット強度スペクトログラムA43に対応する時間領域の第3波形関数A5を関数変換部32において求めながら、周波数領域と時間領域との間で繰り返し計算を行う。これにより、特許文献1に記載の技術と比較して、光パルス列Pbの時間強度波形及び波長成分を所望のものに近づけるための位相パターンPTの算出に要する時間を短縮できる。更には、位相パターンPTの算出精度を高めることができる。
【0080】
本実施形態のように、第2変換ステップST12は、第2波形関数A3を、強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42に変換するステップと、強度スペクトログラムA41をターゲット強度スペクトログラムA43に置き換えるとともに、位相スペクトログラムA42を拘束するステップと、置き換え後の強度スペクトログラムA43及び拘束された位相スペクトログラムA42を、第3波形関数A5に変換するステップと、を含んでもよい。同様に、関数変換部32は、第2波形関数A3を、強度スペクトログラムA41及び位相スペクトログラムA42に変換する部分、すなわちスペクトログラム変換部321と、強度スペクトログラムA41をターゲット強度スペクトログラムA43に置き換えるとともに、位相スペクトログラムA42を拘束する部分、すなわちスペクトログラム置換部322と、置き換え後の強度スペクトログラムA43及び拘束された位相スペクトログラムA42を、第3波形関数A5に変換する部分、すなわちスペクトログラム逆変換部323と、を含んでもよい。例えばこのような構成により、所望の時間強度波形及び波長成分を有する光を精度良く実現するための位相パターンPTを得ることができる。
[ターゲット強度スペクトログラムの作成]
【0081】
続いて、スペクトログラム設定部22におけるターゲット強度スペクトログラムA43の作成手順について説明する。
図20は、スペクトログラム設定部22の機能的構成を示すブロック図である。スペクトログラム設定部22は、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の光パルス(例えば上述した光パルスPb
1~Pb
3)を含む光パルス列Pbに関するターゲット強度スペクトログラムA43を作成する。
図20に示されるように、スペクトログラム設定部22は、波形関数設定部101と、フーリエ変換部102と、スペクトログラム変換部103と、ターゲット生成部104と、を備える。
【0082】
波形関数設定部101は、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域のターゲット波形関数を、光パルス毎に設定する。例えば、波形関数設定部101は、光パルスPb
1についてターゲット波形関数を設定し、光パルスPb
2について別のターゲット波形関数を設定し、光パルスPb
3について更に別のターゲット波形関数を設定する。ターゲット波形関数のパラメータとしては、例えば下記のものが挙げられる。
a)各光パルスの強度スペクトル関数の形状(例えばガウシアン)
b)各光パルスの強度スペクトル関数のスペクトルエネルギー量
c)各光パルスの強度スペクトル関数の帯域幅(半値全幅)λs
d)各光パルスの強度スペクトル関数の中心波長
e)各光パルスの位相スペクトル関数
なお、各光パルスのスペクトル位相が周波数に対して線形である場合、その線形関数の傾きは、各光パルスの時間シフト量に相当する。
図21(a)は、ターゲット波形関数の一例として、
図6に示された光パルスPb
2についてのターゲット波形関数の強度スペクトル関数G131及び位相スペクトル関数G132を示すグラフである。
図21(a)において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は強度スペクトル関数G131の強度値(任意単位)及び位相スペクトル関数G132の位相値(rad)を示す。この例は、時間的に等間隔である3つの光パルスPb
1~Pb
3のうち中央に位置する光パルスPb
2についてのターゲット波形関数であるので、位相スペクトル関数G132の傾き(すなわち時間シフト量)はゼロとされている。
【0083】
フーリエ変換部102は、複数の光パルスそれぞれのターゲット波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の波形関数に変換する。
図21(b)は、時間領域の波形関数の一例として、
図21(a)に示されるターゲット波形関数から生成された時間強度波形関数G141及び時間位相波形関数G142を示すグラフである。
図21(b)において、横軸は時間(fs)を示し、縦軸は時間強度波形関数G141の強度値(任意単位)及び時間位相波形関数G142の位相値(rad)を示す。
【0084】
スペクトログラム変換部103は、複数の光パルスそれぞれの時間領域の波形関数から強度スペクトログラムを生成する。
図22(a)は、強度スペクトログラムの一例として、
図21(b)に示される波形関数から生成された強度スペクトログラムを示す図である。なお、強度スペクトログラムの作成方法及びスペクトログラムの定義は、前述した位相パターン生成部23のスペクトログラム変換部321における説明と同様である。また、スペクトログラム変換部103においても、STFTに限らず、他の時間-周波数変換(例えばウェーブレット変換)を用いてよい。
【0085】
ターゲット生成部104は、複数の光パルスそれぞれの強度スペクトログラムを互いに重畳して強度スペクトログラムA43を生成する。
図22(b)は、一例として、3つの光パルスPb
1~Pb
3についての強度スペクトログラムを互いに重畳して得られる強度スペクトログラムA43を示す図である。なお、ターゲット生成部104は、複数の光パルスそれぞれの強度スペクトログラムを重畳したものに対して、補正のための係数を乗算してもよい。補正のための係数は、例えば、作成したターゲット強度スペクトログラムA43のスペクトル強度分布を、第1光パルスPaの光パルスのスペクトル強度分布に近づけるための係数である。
【0086】
図23は、強度スペクトログラムA43を作成するための方法を示すフローチャートである。本実施形態のターゲット強度スペクトログラム作成プログラムは、下記の各ステップをコンピュータに実行させる。
【0087】
まず、波形関数設定ステップS1では、複数の光パルスのうち一の光パルスについて、強度スペクトル関数及び位相スペクトル関数を含む周波数領域のターゲット波形関数を設定する。フーリエ変換ステップS2では、上記一の光パルスのターゲット波形関数を、時間強度波形関数及び時間位相波形関数を含む時間領域の波形関数に変換する。スペクトログラム変換ステップS3では、フーリエ変換ステップS2において生成された時間領域の波形関数から強度スペクトログラムを生成する。ターゲット生成ステップS4では、スペクトログラム変換ステップS3において生成された強度スペクトログラムをターゲット強度スペクトログラムに重畳する。以上の波形関数設定ステップS1、フーリエ変換ステップS2、スペクトログラム変換ステップS3、及びターゲット生成ステップS4を、光パルスの本数と同じ繰り返し数にわたって繰り返す(ステップS5)。これにより、強度スペクトログラムA43が作成される。なお、この例に限らず、例えば波形関数設定ステップS1、フーリエ変換ステップS2、及びスペクトログラム変換ステップS3のそれぞれにおいて複数の光パルスについての処理をまとめて行ったのち、生成された複数の強度スペクトログラムをターゲット生成ステップS4において重畳してもよい。
【0088】
以上に説明したスペクトログラム設定部22によれば、光パルス列Pbに含まれる複数のパルス毎に中心波長を異ならせるためのターゲット強度スペクトログラムA43を好適に作成することができる。
【0089】
図24~
図26は、ターゲット強度スペクトログラムA43を用いて得られたデータをSLM14に呈示することにより実際に得られる光の、複数のパルス間の中心波長差と、複数のパルスのピーク強度のばらつきとの関係を、複数の初期位相スペクトル関数Φ
0(ω)それぞれについてプロットしたグラフである。
図24~
図26において、縦軸は複数のパルス間の中心波長差の平均値(nm)を表し、横軸は複数のパルスのピーク強度の標準偏差(任意単位)を表す。
図24は、ターゲット強度スペクトログラムA43を作成する際に、複数のパルス間の中心波長差を2nmに設定した場合を示す。
図25及び
図26は、ターゲット強度スペクトログラムA43を作成する際に、複数のパルス間の中心波長差を、それぞれ2.5nm及び3nmに設定した場合を示す。なお、複数のパルス間の中心波長差の設定値は、図中において星印により示されている。
【0090】
図24~
図26を参照すると、初期位相スペクトル関数Φ
0(ω)に依存して、複数のパルス間の中心波長差およびピーク強度のばらつきが変化することがわかる。そして、中心波長差が或る値になるときにピーク強度のばらつきが最小となり、その値から中心波長差が離れるほど、ピーク強度のばらつきが大きくなることがわかる。
【0091】
加えて、
図24~
図26を参照すると、ピーク強度のばらつきが最小となるときの複数のパルス間の中心波長差の値が、ターゲット強度スペクトログラムA43を作成する際に設定された中心波長差の値よりも有意に小さいことがわかる。例えば、
図24に示されるように、ターゲット強度スペクトログラムA43を作成する際に設定された中心波長差が2nmである場合、ピーク強度のばらつきが最小となるときの複数のパルス間の中心波長差の値は1.7nmとなっており、設定された中心波長差(2nm)よりも15%小さい。また、
図25に示されるように、ターゲット強度スペクトログラムA43を作成する際に設定された中心波長差が2.5nmである場合、ピーク強度のばらつきが最小となるときの複数のパルス間の中心波長差の値は2.1nmとなっており、設定された中心波長差(2.5nm)よりも16%小さい。また、
図26に示されるように、ターゲット強度スペクトログラムA43を作成する際に設定された中心波長差が3nmである場合、ピーク強度のばらつきが最小となるときの複数のパルス間の中心波長差の値は2.3nmとなっており、設定された中心波長差(3nm)よりも23%小さい。
【0092】
このことから、スペクトログラム設定部22がターゲット強度スペクトログラムA43を作成する際には、ターゲット強度スペクトログラムA43における複数の光パルス間の中心波長差を、目標とする複数の光パルス間の中心波長差よりも大きく(例えば、目標とする複数の光パルス間の中心波長差の1.1倍よりも大きく)設定すればよいことがわかる。目標とする複数の光パルス間の中心波長差は、例えば、
図8に示された入力デバイス64を通じて使用者により入力される。ターゲット強度スペクトログラムA43における複数の光パルス間の中心波長差をこのように設定することにより、光パルス列Pbにおける複数の光パルス間の中心波長差をより精度良く実現することができる。
【0093】
なお、このようにターゲット強度スペクトログラムA43における複数の光パルス間の中心波長差を目標とする中心波長差よりも大きくする場合、その中心波長差は、SLM14への第1光パルスPaの波長帯域を(光パルス列Pbのパルス本数-1)で除算した値よりも小さいことが好ましい。例えば、光パルス列Pbのパルス本数が3である場合、ターゲット強度スペクトログラムA43における複数の光パルス間の中心波長差は、第1光パルスPaの波長帯域の1/2よりも小さいことが好ましい。ターゲット強度スペクトログラムA43における複数の光パルス間の中心波長差をこのように設定することにより、光パルス列Pbにおける複数の光パルス間の中心波長差をより精度良く実現することができる。一例では、第1光パルスPaのスペクトルの波長帯域幅が10nmであり、光パルス列Pbのパルス本数が3である場合、中心波長差の設定値は5nmが上限となる。
また、
図24~
図26に示される各分布に対応する位相パターン群を、
図9に示される位相パターン群Fに設定してもよい。その場合、
図24に示される分布に対応する位相パターン群Fの指標値は、例えば中心位相差Δλ
1=1.7nmである(図中の丸印D
1)。また、
図25に示される分布に対応する位相パターン群Fの指標値は、例えば中心位相差Δλ
2=2.1nmである(図中の丸印D
2)。また、
図26に示される分布に対応する位相パターン群Fの指標値は、例えば中心位相差Δλ
3=2.3nmである(図中の丸印D
3)。
【0094】
[変形例]
続いて、スペクトログラム設定部22及び位相パターン生成部23の変形例について説明する。
図27は、一変形例に係るターゲット設定部45及び予備データ生成部40の内部構成を示すブロック図である。
図27に示されるように、予備データ生成部40は、フーリエ変換部41(第1変換部)、関数変換部42(第2変換部)、逆フーリエ変換部43(第3変換部)、及びデータ生成部44を有する。関数変換部42は、関数置換部421及び波形関数修正部422を含む。また、ターゲット設定部45は、フーリエ変換部451及びスペクトログラム修正部452を有する。これらの各構成要素の機能については、後に詳述する。
【0095】
図28は、予備データ生成部40における位相スペクトル関数の計算手順を示す図である。まず、周波数ωの関数である初期強度スペクトル関数A
0(ω)及び初期位相スペクトル関数Φ
0(ω)を用意する(図中の処理番号(1))。一例では、初期強度スペクトル関数A
0(ω)は第1光パルスPaの強度スペクトルを表すが、これに限られない。また、初期位相スペクトル関数Φ
0(ω)は、上記実施形態と同様に、記憶部24に記憶された複数の初期位相スペクトル関数Φ
0(ω)の中から順に選択される。
【0096】
次に、初期強度スペクトル関数A
0(ω)及び初期位相スペクトル関数Φ
0(ω)を含む周波数領域の第1波形関数(7)を用意する(処理番号(2-a))。但し、iは虚数である。
【数7】
【0097】
続いて、フーリエ変換部41は、上記関数(7)に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印C1)。これにより、時間強度波形関数a
0(t)及び時間位相波形関数φ
0(t)を含む時間領域の第2波形関数(8)が得られる(フーリエ変換ステップ、図中の処理番号(3))。
【数8】
【0098】
続いて、関数変換部42の関数置換部421は、次の数式(9)に示されるように、時間強度波形関数b
0(t)に、目標とする時間波形を表す時間強度波形関数Target
0(t)を代入する(処理番号(4-a))。
【数9】
【0099】
続いて、関数変換部42の関数置換部421は、次の数式(10)に示されるように、時間強度波形関数a
0(t)を時間強度波形関数b
0(t)で置き換える。すなわち、上記関数(8)に含まれる時間強度波形関数a
0(t)を、目標とする時間波形に基づく時間強度波形関数Target
0(t)に置き換える(関数置換ステップ、図中の処理番号(5))。
【数10】
【0100】
続いて、関数変換部42の波形関数修正部422は、置き換え後の第2波形関数(10)のスペクトログラムが、所望の波長帯域に従って予め生成されたターゲットスペクトログラムに近づくように、第2波形関数を修正する。まず、置き換え後の第2波形関数(10)に対して時間-周波数変換を施すことにより、第2波形関数(10)をスペクトログラムSG0,k(ω,t)に変換する(図中の処理番号(5-a))。添え字kは、第k回目の変換処理を表す。
【0101】
また、所望の波長帯域に従って予め生成されたターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)をターゲット設定部45から読み出す。このターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)は、目標とする時間波形(時間強度波形とそれを構成する周波数成分)と概ね同値であり、処理番号(5-b)のターゲットスペクトログラム関数において生成される。
【0102】
次に、関数変換部42の波形関数修正部422は、スペクトログラムSG0,k(ω,t)とターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)とのパターンマッチングを行い、類似度(どの程度一致しているか)を調べる。本実施形態では、類似度を表す指標として、評価値を算出する。そして、続く処理番号(5-c)では、得られた評価値が、所定の終了条件を満たすか否かの判定を行う。条件を満たせば処理番号(6)へ進み、満たさなければ処理番号(5-d)へ進む。処理番号(5-d)では、第2波形関数に含まれる時間位相波形関数φ0(t)を任意の時間位相波形関数φ0,k(t)に変更する。時間位相波形関数を変更した後の第2波形関数は、STFTなどの時間-周波数変換により再びスペクトログラムに変換される。以降、上述した処理番号(5-a)~(5-c)が繰り返し行われる。こうして、スペクトログラムSG0,k(ω,t)がターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)に次第に近づくように、第2波形関数が修正される(波形関数修正ステップ)。
【0103】
その後、逆フーリエ変換部43は、修正後の第2波形関数に対して逆フーリエ変換を行い(図中の矢印C2)、周波数領域の第3波形関数(11)を生成する(逆フーリエ変換ステップ、図中の処理番号(6))。
【数11】
この第3波形関数(11)に含まれる位相スペクトル関数Φ
0,k(ω)が、最終的に得られる所望の位相スペクトル関数Φ
TWC-TFD(ω)となる。この位相スペクトル関数Φ
TWC-TFD(ω)が、データ生成部44に提供される。
【0104】
データ生成部44は、位相スペクトル関数ΦTWC-TFD(ω)により示されるスペクトル位相を第1光パルスPaに与えるための位相変調パターン(例えば、計算機合成ホログラム)を算出する(データ生成ステップ)。
【0105】
ここで、
図29は、ターゲット設定部45におけるターゲットスペクトログラムTargetSG
0(ω,t)の生成手順の一例を示す図である。ターゲットスペクトログラムTargetSG
0(ω,t)は、目標とする時間波形(時間強度波形とそれを構成する周波数成分(波長帯域成分))を示すので、ターゲットスペクトログラムの作成は、周波数成分(波長帯域成分)を制御するために極めて重要な工程である。
図29に示されるように、ターゲット設定部45は、まずスペクトル波形(初期の強度スペクトル関数A
0(ω)及び初期の位相スペクトル関数Φ
0(ω))、並びに所望の時間強度波形関数Target
0(t)を入力する。また、所望の周波数(波長)帯域情報を含む時間関数p
0(t)を入力する(処理番号(1))。
【0106】
次に、ターゲット設定部45は、例えば一般的な反復フーリエ変換法、或いは非特許文献1または2に記載された方法を用いて、時間強度波形関数Target0(t)を実現するための位相スペクトル関数ΦIFTA(ω)を算出する(処理番号(2))。
【0107】
続いて、ターゲット設定部45は、先に得られた位相スペクトル関数Φ
IFTA(ω)を利用した反復フーリエ変換法により、時間強度波形関数Target
0(t)を実現するための強度スペクトル関数A
IFTA(ω)を算出する(処理番号(3))。ここで、
図30は、強度スペクトル関数A
IFTA(ω)を算出する手順の一例を示す図である。
【0108】
まず、初期の強度スペクトル関数A
k=0(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
0(ω)を用意する(図中の処理番号(1))。次に、強度スペクトル関数A
k(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
0(ω)を含む周波数領域の波形関数(12)を用意する(図中の処理番号(2))。
【数12】
添え字kは、第k回目のフーリエ変換処理後を表す。最初(第1回目)のフーリエ変換処理の前においては、強度スペクトル関数A
k(ω)として上記の初期強度スペクトル関数A
k=0(ω)が用いられる。iは虚数である。
【0109】
続いて、上記関数(12)に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印C3)。これにより、時間強度波形関数b
k(t)を含む周波数領域の波形関数(13)が得られる(図中の処理番号(3))。
【数13】
【0110】
続いて、上記関数(13)に含まれる時間強度波形関数b
k(t)を、所望の波形に基づく時間強度波形関数Target
0(t)に置き換える(図中の処理番号(4)、(5))。
【数14】
【数15】
【0111】
続いて、上記関数(15)に対して時間領域から周波数領域への逆フーリエ変換を行う(図中の矢印C4)。これにより、強度スペクトル関数C
k(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
k(ω)を含む周波数領域の波形関数(16)が得られる(図中の処理番号(6))。
【数16】
続いて、上記関数(16)に含まれる位相スペクトル関数Ψ
k(ω)を拘束するため、初期の位相スペクトル関数Ψ
0(ω)に置き換える(図中の処理番号(7-a))。
【数17】
【0112】
また、逆フーリエ変換後の周波数領域における強度スペクトル関数C
k(ω)に対し、第1光パルスPaの強度スペクトルに基づくフィルタ処理を行う。具体的には、強度スペクトル関数C
k(ω)により表される強度スペクトルのうち、第1光パルスPaの強度スペクトルに基づいて定められる波長毎のカットオフ強度を超える部分をカットする。一例では、波長毎のカットオフ強度は、第1光パルスPaの強度スペクトル(例えば初期の強度スペクトル関数A
k=0(ω))と一致するように設定される。その場合、次の数式(18)に示されるように、強度スペクトル関数C
k(ω)が強度スペクトル関数A
k=0(ω)よりも大きい周波数では、強度スペクトル関数A
k(ω)の値として強度スペクトル関数A
k=0(ω)の値が取り入れられる。また、強度スペクトル関数C
k(ω)が強度スペクトル関数A
k=0(ω)以下である周波数では、強度スペクトル関数A
k(ω)の値として強度スペクトル関数C
k(ω)の値が取り入れられる(図中の処理番号(7-b))。
【数18】
上記関数(16)に含まれる強度スペクトル関数C
k(ω)を、上記数式(18)によるフィルタ処理後の強度スペクトル関数A
k(ω)に置き換える。
【0113】
以降、上記の処理(1)~(7-b)を繰り返し行うことにより、波形関数中の強度スペクトル関数Ak(ω)が表す強度スペクトル形状を、所望の時間強度波形に対応する強度スペクトル形状に近づけることができる。最終的に、強度スペクトル関数AIFTA(ω)が得られる。
【0114】
再び
図29を参照する。以上に説明した処理番号(2)、(3)における位相スペクトル関数Φ
IFTA(ω)及び強度スペクトル関数A
IFTA(ω)の算出によって、これらの関数を含む周波数領域の第3波形関数(19)が得られる(図中の処理番号(4))。
【数19】
ターゲット設定部45のフーリエ変換部451は、上の波形関数(19)をフーリエ変換する。これにより、時間領域の第4波形関数(20)が得られる(図中の処理番号(5))。
【数20】
【0115】
ターゲット設定部45のスペクトログラム修正部452は、時間-周波数変換により第4波形関数(20)をスペクトログラムSGIFTA(ω,t)に変換する(処理番号(6))。そして、処理番号(7)では、所望の周波数(波長)帯域情報を含む時間関数p0(t)を基にスペクトログラムSGIFTA(ω,t)を修正することにより、ターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)を生成する。例えば、2次元データにより構成されるスペクトログラムSGIFTA(ω,t)に現れる特徴的パターンを部分的に切り出し、時間関数p0(t)を基に当該部分の周波数成分の操作を行う。以下、その具体例について詳細に説明する。
【0116】
例えば、所望の時間強度波形関数Target
0(t)として時間間隔が2ピコ秒であるトリプルパルスを設定した場合について考える。このとき、スペクトログラムSG
IFTA(ω,t)は、
図7(a)に示されるような結果となる。仮に光パルス列Pbの時間強度波形のみを制御したい(単にトリプルパルスを得たい)場合には、スペクトログラムSG
IFTA(ω,t)に含まれる光パルスPb
1,Pb
2,Pb
3の波長帯域を操作する必要はない。しかし、各パルスの波長帯域を制御したい場合には、これらの光パルスPb
1,Pb
2,Pb
3の操作が必要となる。すなわち、
図6(a)に示されるように、波長軸(縦軸)に沿った方向に各光パルスPb
1,Pb
2,Pb
3を互いに独立して移動させる。このような各パルスの波長帯域の変更は、時間関数p
0(t)を基に行われる。
【0117】
例えば、パルスPb
2のピーク波長を800nmで据え置き、パルスPb
1及びPb
3のピーク波長がそれぞれ-2nm、+2nmだけ平行移動するように時間関数p
0(t)を記述するとき、スペクトログラムSG
IFTA(ω,t)は、
図6(a)に示されるターゲットスペクトログラムTargetSG
0(ω,t)に変化する。例えばスペクトログラムにこのような処理を施すことによって、時間強度波形の形状を変えずに、各パルスの波長帯域が任意に制御されたターゲットスペクトログラムを作成することができる。
【0118】
本開示による光パルス列発生装置及び光パルス列発生方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、第1光パルスPaに関する第1の特徴は、上記実施形態に例示されたものに限られず、第1光パルスPaに関する他の様々な特徴を含むことができる。同様に、光パルス列Pbに関する第2の特徴は、上記実施形態に例示されたものに限られず、光パルス列Pbに関する他の様々な特徴を含むことができる。
【0119】
また、上記実施形態ではデータ提供部20がスペクトログラム設定部22及び位相パターン生成部23を備えているが、データ提供部20はスペクトログラム設定部22及び位相パターン生成部23を備えなくてもよい。その場合、データ提供部20とは別に用意されたスペクトログラム設定部22及び位相パターン生成部23によって作成された複数の位相パターンが、記憶部24に記憶されていてもよい。或いは、記憶部24に記憶されている複数の位相パターンが、上記実施形態の準備ステップST1によって作成されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0120】
1…光パルス列発生装置,2…光源,3…パルス形成部,12…回折格子,13…レンズ,14…空間光変調器(SLM),15…レンズ,16…回折格子,17…変調面,17a…変調領域,20…データ提供部,22…スペクトログラム設定部,23…位相パターン生成部,24…記憶部,26…入力部,27…特徴設定部,28…提示部,31…フーリエ変換部,32…関数変換部,33…逆フーリエ変換部,34…データ生成部,40…予備データ生成部,41…フーリエ変換部,42…関数変換部,43…逆フーリエ変換部,44…データ生成部,45…ターゲット設定部,61…プロセッサ(CPU),62…ROM,64…入力デバイス,65…出力デバイス,66…通信モジュール,67…補助記憶装置,101…波形関数設定部,102…フーリエ変換部,103…スペクトログラム変換部,104…ターゲット生成部,321…スペクトログラム変換部,322…スペクトログラム置換部,323…スペクトログラム逆変換部,421…関数置換部,422…波形関数修正部,451…フーリエ変換部,452…スペクトログラム修正部,A1…初期スペクトル関数,A2…第1波形関数,A3…第2波形関数,A5…第3波形関数,A6…第4波形関数,A41…強度スペクトログラム,A42…位相スペクトログラム,A43…強度スペクトログラム(ターゲット強度スペクトログラム),AA,AB…方向,F…位相パターン群,L1…光,L2…変調光,Pa…第1光パルス,Pb…光パルス列,Pb1~Pb3…第2光パルス,Pd…光パルス列,Pd1~Pd3…光パルス,PT…位相パターン,SC…制御信号。