(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015908
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体溶液及びポリイミド成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20240130BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20240130BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240130BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240130BHJP
F16H 7/02 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C08L79/08 A
C08K5/20
C08K3/04
C08G73/10
F16H7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118288
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶原 賢志
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀明
【テーマコード(参考)】
3J049
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
3J049AA01
3J049BF05
3J049CA10
4J002CM041
4J002DA017
4J002DA027
4J002DA037
4J002EP016
4J002FA047
4J002FD017
4J002FD206
4J002GM01
4J002GQ00
4J002GQ01
4J043PA02
4J043QB15
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA05
4J043RA35
4J043SA06
4J043SB01
4J043TA14
4J043TA22
4J043TA71
4J043TB01
4J043UA121
4J043UA132
4J043UB402
4J043VA022
4J043VA041
4J043VA062
4J043XA04
4J043XA16
4J043YA06
4J043ZB11
4J043ZB47
4J043ZB48
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液を提供すること。
【解決手段】ポリイミド前駆体と、β―アルコキシプロピオンアミド溶剤と、アミド基含有3級アミン化合物と、炭素材料と、を含有するポリイミド前駆体溶液である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド前駆体と、
β―アルコキシプロピオンアミド溶剤と、
アミド基含有3級アミン化合物と、
炭素材料と、
を含有するポリイミド前駆体溶液。
【請求項2】
前記β―アルコキシプロピオンアミド溶剤は、下記一般式(A)で表される化合物である、請求項1に記載のポリイミド前駆体溶液。
【化1】
(前記一般式(A)中、R
1は、炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、R
2及びR
3は、各々独立に、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記一般式(A)で表される化合物は、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド及び3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミドの少なくとも一方である、請求項2に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項4】
前記アミド基含有3級アミン化合物は、下記一般式(B)で表される化合物を含有する、請求項1に記載のポリイミド前駆体溶液。
【化2】
(前記一般式(B)中、R
1及びR
2は、各々独立に、アルデヒド基又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R
3及びR
4は、各々独立に、水素原子、又は、炭素数1以上5以下のアルキル基を有する1価の有機基を表す。)
【請求項5】
前記一般式(B)で表される化合物は、3-ジメチルアミノ-N,N-ジメチルプロピオンアミド及びN-[2-(ジメチルアミノ)エチル]-N-メチルホルムアミドの少なくとも一方である、請求項4に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項6】
前記アミド基含有3級アミン化合物は、ポリイミド前駆体溶液の総量に対する含有量が10ppm以上2000ppm以下である、請求項1に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項7】
前記アミド基含有3級アミン化合物は、前記炭素材料に対する含有量が0.01質量%以上2質量%以下である、請求項1に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項8】
前記炭素材料は、カーボンブラック、グラフェン及びカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項9】
前記炭素材料は、粒状中空集合体又はグラフェンメソスポンジの構造を有する、請求項8に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項10】
前記炭素材料は、前記ポリイミド前駆体に対する含有量が5体積%以上20体積%以下である、請求項1に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項11】
前記炭素材料は、前記アミド基含有3級アミン化合物に対する含有量が2質量%以上1000質量%以下である、請求項1に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項12】
前記β―アルコキシプロピオンアミド溶剤は、下記一般式(A)で表される化合物を含有し、
前記アミド基含有3級アミン化合物は、下記一般式(B)で表される化合物を含有する、請求項1に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項13】
請求項1に記載のポリイミド前駆体溶液の加熱硬化物で構成されたポリイミド成形体。
【請求項14】
前記ポリイミド成形体が無端ベルトである、請求項13に記載のポリイミド成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体溶液及びポリイミド成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「テトラカルボン酸二無水物に由来する成分およびジアミン化合物に由来する成分のうち、少なくとも一方の成分を2種類以上含有するポリイミド樹脂を含み、かつ、ウレア系溶媒、アルコキシ基含有アミド系溶媒、及びエステル基含有アミド系溶媒からなる溶媒群Aより選択された少なくとも1種の溶媒の含有量が50ppm以上2000ppm以下であるポリイミド樹脂層を有する無端ベルト。」が開示されている。
【0003】
特許文献2には、「β-アルコキシプロピオンアミド(b)およびアミド基含有3級アミン化合物(c)を少なくとも含有する溶剤中で酸成分とアミン成分とを反応させる工程を含む、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリアミドイミド、それらいずれかの前駆体及び又はそれらの2種以上から選択される共重合体を含むアルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法であり、該β-アルコキシプロピオンアミド(b)およびアミド基含有3級アミン化合物(c)を少なくとも含有する溶剤中、β-アルコキシプロピオンアミド(b)に対してアミド基含有3級アミン化合物(c)を10~1800ppm含む、アルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-172974号公報
【特許文献2】特許公報6900844号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のポリイミド前駆体及びβ-アルコキシプロピオンアミド溶剤のみを含有するポリイミド前駆体溶液を用いて成形されたポリイミド成形体は、熱伝導性及び引張破断強度が低い傾向にあった。
そこで本開示では、ポリイミド前駆体及びβ―アルコキシプロピオンアミド溶剤のみを含有するポリイミド前駆体溶液である場合に比べて、これを用いてポリイミド成形体としたときに、熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段には、下記の態様が含まれる。
<1> ポリイミド前駆体と、
β―アルコキシプロピオンアミド溶剤と、
アミド基含有3級アミン化合物と、
炭素材料と、
を含有するポリイミド前駆体溶液。
<2> 前記β―アルコキシプロピオンアミド溶剤は、下記一般式(A)で表される化合物である、前記<1>に記載のポリイミド前駆体溶液。
【化1】
(前記一般式(A)中、R
1は、炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、R
2及びR
3は、各々独立に、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基を表す。)
<3> 前記一般式(A)で表される化合物は、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド及び3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミドの少なくとも一方である、前記<2>に記載のポリイミド前駆体溶液。
<4> 前記アミド基含有3級アミン化合物は、下記一般式(B)で表される化合物を含有する、前記<1>に記載のポリイミド前駆体溶液。
【化2】
(前記一般式(B)中、R
1及びR
2は、各々独立に、アルデヒド基又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R
3及びR
4は、各々独立に、水素原子、又は、炭素数1以上5以下のアルキル基を有する1価の有機基を表す。)
<5> 前記一般式(B)で表される化合物は、3-ジメチルアミノ-N,N-ジメチルプロピオンアミド及びN-[2-(ジメチルアミノ)エチル]-N-メチルホルムアミドの少なくとも一方である、前記<4>に記載のポリイミド前駆体溶液。
<6> 前記アミド基含有3級アミン化合物は、ポリイミド前駆体溶液の総量に対する含有量が10ppm以上2000ppm以下である、前記<1>に記載のポリイミド前駆体溶液。
<7> 前記アミド基含有3級アミン化合物は、前記炭素材料に対する含有量が0.01質量%以上2質量%以下である、前記<1>に記載のポリイミド前駆体溶液。
<8> 前記炭素材料は、カーボンブラック、グラフェン及びカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種を含む、前記<1>に記載のポリイミド前駆体溶液。
<9> 前記炭素材料は、粒状中空集合体又はグラフェンメソスポンジの構造を有する、前記<8>に記載のポリイミド前駆体溶液。
<10> 前記炭素材料は、前記ポリイミド前駆体に対する含有量が5体積%以上20体積%以下である、前記<1>に記載のポリイミド前駆体溶液。
<11> 前記炭素材料は、前記アミド基含有3級アミン化合物に対する含有量が2質量%以上1000質量%以下である、前記<1>に記載のポリイミド前駆体溶液。
<12> 前記β―アルコキシプロピオンアミド溶剤は、下記一般式(A)で表される化合物を含有し、
前記アミド基含有3級アミン化合物は、下記一般式(B)で表される化合物を含有する、前記<1>に記載のポリイミド前駆体溶液。
<13> 前記<1>に記載のポリイミド前駆体溶液の加熱硬化物で構成されたポリイミド成形体。
<14> 前記ポリイミド成形体が無端ベルトである、前記<13>に記載のポリイミド成形体。
【発明の効果】
【0007】
<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、又は<12>に係る発明によれば、ポリイミド前駆体及びβ―アルコキシプロピオンアミド溶剤のみを含有するポリイミド前駆体溶液である場合に比べて、熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<6>に係る発明によれば、前記アミド基含有3級アミン化合物が、ポリイミド前駆体溶液の総量に対する含有量が10ppm未満又は2000ppm超えである場合に比べて、熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<7>に係る発明によれば、前記アミド基含有3級アミン化合物が、前記炭素材料に対する含有量が0.01質量%未満又は2質量%超えである場合に比べて、熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<8>に係る発明によれば、前記炭素材料がグラファイトである場合に比べて、熱伝導性に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<9>に係る発明によれば、前記炭素材料がカーボンブラックである場合に比べて、熱伝導性に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<10>に係る発明によれば、前記炭素材料が、前記ポリイミド前駆体に対する含有量が5体積%未満又は20体積%超えである場合に比べて、熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<11>に係る発明によれば、前記炭素材料は、前記アミド基含有3級アミン化合物に対する含有量が2質量%未満又は1000質量%超えである場合に比べて、熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<13>に係る発明によれば、ポリイミド前駆体及びβ―アルコキシプロピオンアミド溶剤のみを含有するポリイミド前駆体溶液である場合に比べて、ポリイミド成形体としたときに、熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れたポリイミド成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0009】
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0010】
本明細書において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
【0011】
本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0012】
本実施形態において、「膜」は、一般的に「膜」と呼ばれているものだけでなく、一般的に「フィルム」及び「シート」と呼ばれているものをも包含する概念である。
【0013】
<ポリイミド前駆体溶液>
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液は、ポリイミド前駆体と、β-アルコキシプロピオンアミド溶剤と、アミド基含有3級アミン化合物と、炭素材料と、を含有するポリイミド前駆体溶液である。
【0014】
ポリイミド成形体は、画像形成装置に搭載される定着部材のベルト等に用いられる。
ポリイミド成形体は、ポリイミド前駆体を含むポリイミド前駆体溶液を、被塗布物上に塗布して形成した塗膜に加熱処理を施すことで得られる。
【0015】
近年、環境低負荷を指向したモノづくりの観点から、ポリイミド前駆体溶液における溶剤として、β-アルコキシプロピオンアミド溶剤が用いられている。β-アルコキシプロピオンアミド溶剤には、その製造上の都合などから、アミド基含有3級アミン化合物が含まれていることが多い。従来のこのβ-アルコキシプロピオンアミド溶剤とアミド基含有3級アミン化合物とを含むポリイミド前駆体溶液では、ポリイミド成形体としたときに、熱伝導性及び引張破断強度の両方が低下する傾向にあった。この要因としては必ずしも明らかではないが以下のように推察される。
【0016】
アミド基含有3級アミン化合物は、ポリイミド前駆体のイミド化を促進する作用を有する。そのため、成膜の際に比較的早い段階でイミド化が進行し、高次構造にムラのあるポリイミド成形体が得られやすい。その結果、ポリイミド成形体の熱伝導性が局所的に低下する部分が生じる傾向にある。また、高次構造にムラがあり局所的にもろい部分において引張破断強度が低下する傾向にある。
【0017】
これに対し、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液は、上記構成を有することにより、これを用いてポリイミド成形体としたときにも、熱伝導性と引張破断強度の両方に優れる。この作用機序は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。
【0018】
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液は、ポリイミド前駆体と、β-アルコキシプロピオンアミド溶剤と、アミド基含有3級アミン化合物とに加えて、炭素材料を更に含有する。本発明者らの鋭意検討の結果、炭素材料が、非プロトン性極性溶剤であるβ-アルコキシプロピオンアミド溶剤の存在下、アミド基含有3級アミン化合物と混在すると、炭素材料がアミド基含有3級アミン化合物に対して親和性が高くなる傾向にあることがわかった。そのため、成膜の際にも、炭素材料がアミド基含有3級アミン化合物と相互作用することによりイミド化が適度に促進される傾向にある。また、ポリイミド成形体としたときも、そのポリイミドの高次構造の空隙に炭素材料が介在することで、局所的にもろい部分が生じることが抑制される。その結果、ポリイミド成形体としたときも、熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れると考えられる。
【0019】
(β-アルコキシプロピオンアミド溶剤)
β-アルコキシプロピオンアミド溶剤とは、β位にアルコキシ基を有するプロピオンアミド化合物(つまり、*-CH2-CH2-C(=O)-N-RE1,RE2、*は連結部位、RE1及びRE2は各々独立に、水素原子又は1価の有機基を表す。)を指す。
β-アルコキシプロピオンアミド溶剤は、ポリイミド前駆体の溶解性が高いことから、ポリイミド前駆体溶液中に含まれるポリイミド前駆体の濃度等を好適に調整し得る。
β-アルコキシプロピオンアミド溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。
【0020】
β-アルコキシプロピオンアミド溶剤は、下記一般式(A)で表される化合物であることが好ましい。
【化3】
【0021】
(前記一般式(A)中、R1は、炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、R2及びR3は、各々独立に、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基を表す。)
【0022】
β-アルコキシプロピオンアミド溶剤が上記一般式(A)で表される化合物であると、β-アルコキシプロピオンアミド溶剤は、ポリイミド前駆体の溶解性により優れる。
【0023】
前記一般式(A)中、R1で表される炭素数1以上6以下のアルキル基としては、炭素数1以上6以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。
炭素数1以上6以下の直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基が挙げられる。
炭素数1以上6以下の分岐状アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基が挙げられる。
【0024】
前記一般式(A)中、R1は、各々独立に、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、炭素数1以上6以下の直鎖状のアルキル基を表すことが好ましく、炭素数1以上5以下の直鎖状のアルキル基を表すことがより好ましく、炭素数1以上4以下の直鎖状のアルキル基を表すことが更に好ましい。前記一般式(A)中、R1が上記基であると、ポリイミド前駆体の溶解性により優れる。
【0025】
前記一般式(A)中、R2~R3で表される炭素数1以上6以下のアルキル基としては、炭素数1以上6以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。
炭素数1以上6以下の直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
炭素数1以上6以下の分岐状アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0026】
前記一般式(A)中、R2~R3は、各々独立に、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、炭素数1以上6以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表すことが好ましく、炭素数1以上3以下の直鎖状のアルキル基を表すことがより好ましく、炭素数1以上2以下の直鎖状のアルキル基を表すことが更に好ましい。前記一般式(A)中、R2~R3が、各々独立に、上記基であると、ポリイミド前駆体の溶解性により優れる。
【0027】
前記一般式(A)で表される化合物は、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド及び3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミドの少なくとも一方であることが好ましい。前記一般式(A)で表される化合物が上記2種の化合物の少なくとも一方であると、ポリイミド前駆体の溶解性により優れる。
【0028】
以下、一般式(A)で表される化合物の例示を示すが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0029】
・3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・3-メトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド
・3-メトキシ-N,N-ジ-n-プロピルプロピオンアミド
・3-メトキシ-N,N-ジ-n-ブチルプロピオンアミド
・3-メトキシ-N,N-ジ-n-ブチルプロピオンアミド
・3-エトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド
・3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・3-エトキシ-N,N-ジ-n-プロピルプロピオンアミド
・3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・3-n-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド
・3-n-ブトキシ-N,N-ジ-n-プロピルプロピオンアミド
・3-n-ブトキシ-N,N-ジ-n-ブチルプロピオンアミド
・3-n-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・3-n-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド
・3-n-プロポキシ-N,N-モノメチルモノエチルプロピオンアミド
・3-n-プロポキシ-N,N-ジ-n-プロピルプロピオンアミド
・3-n-プロポキシ-N,N-ジ-n-ブチルプロピオンアミド
・3-n-ヘキシルオキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・3-n-ヘキシルオキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド
・3-tert-ブトキシ-N,N-ジ-n-プロピルプロピオンアミド
・3-tert-ブトキシ-N,N-ジ-n-ブチルプロピオンアミド
・3-tert-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・3-tert-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド
・3-iso-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・3-iso-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド
・3-iso-プロポキシ-N,N-ジ-n-プロピルプロピオンアミド
・3-iso-プロポキシ-N,N-ジ-n-ブチルプロピオンアミド
・3-オクタキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
【0030】
(その他の溶剤)
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液は、本実施形態の効果が阻害されない範囲で、前記β-アルコキシプロピオンアミド溶剤以外のその他の溶剤を更に含んでいてもよい。
【0031】
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液は、本実施形態の効果が阻害されない範囲で、前記β-アルコキシプロピオンアミド溶剤以外のその他の溶剤(以下、「その他の溶剤」とも称す。)を更に含んでいてもよい。ただし、β-アルコキシプロピオンアミド溶剤が全溶剤に占める割合は90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。特に、その他の溶剤が後述するNMP等の非プロトン性極性溶剤である場合、生体への安全性等の観点から、上記範囲内であることが好ましい。
【0032】
その他の溶剤としては、例えば、水(例えば、蒸留水、イオン交換水、限外濾過水、純水等)、水溶性有機溶剤、非プロトン性極性溶剤が挙げられる。その他の溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。
【0033】
前記水溶性とは、25℃において、対象物質が水に対して1質量%以上溶解することを指す。
【0034】
水溶性有機溶剤としては、水溶性エーテル系溶剤、水溶性ケトン系溶剤、水溶性アルコール系溶剤等が挙げられる。
【0035】
水溶性エーテル系溶剤は、一分子中にエーテル結合を持つ水溶性の溶剤である。水溶性エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、トリオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、水溶性エーテル系溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が好ましい。
【0036】
水溶性ケトン系溶剤は、一分子中にケトン基を持つ水溶性の溶剤である。水溶性ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。これらの中でも、水溶性ケトン系溶剤としては、アセトンが好ましい。
【0037】
水溶性アルコール系溶剤は、一分子中にアルコール性水酸基を持つ水溶性の溶剤である。水溶性アルコール系溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールのモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールのモノアルキルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールのモノアルキルエーテル、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、グリセリン、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール等が挙げられる。これらの中でも、水溶性アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールのモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールのモノアルキルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールのモノアルキルエーテルが好ましい。
【0038】
非プロトン性極性溶剤としては、沸点150℃以上300℃以下で、双極子モーメントが3.0D以上5.0D以下の溶剤が挙げられる。非プロトン性極性溶剤として具体的には、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチレンホスホルアミド(HMPA)、N-メチルカプロラクタム、N-アセチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。
【0039】
上記の中でも、その他の溶剤としては、ポリイミド前駆体の溶解性等の観点から、非プロトン性極性溶剤を含むことが好ましい。
【0040】
その他の溶剤が水溶性溶剤である場合、前記水溶性溶剤は、例えば、ポリイミド前駆体溶液の製造工程で準備される樹脂粒子分散液中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合する際に用いた樹脂粒子分散液中の水溶性溶剤をそのまま利用してもよい。
【0041】
その他の溶剤が水溶性溶剤である場合、水溶性溶剤は、例えば、ポリイミド前駆体溶液がその他の粒子として無機粒子を更に含む場合、前記製造工程で準備される無機粒子分散液中の水溶性溶剤をそのまま利用してもよい。
【0042】
(アミド基含有3級アミン化合物)
アミド基含有3級アミン化合物とは、アミド基と3級アミン骨格とを1分子中に有する化合物を指す。アミド基含有3級アミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。
【0043】
アミド基含有3級アミン化合物1分子中に含まれるアミド基の数は、特に制限されないが、1つ以上2つ以下であることが好ましく、1つであることがより好ましい。
アミド基含有3級アミン化合物1分子中に含まれる3級アミン骨格の数は、特に制限されないが、1つ以上2つ以下であることが好ましく、1つであることがより好ましい。
【0044】
アミド基含有3級アミン化合物1分子中に含まれるアミド基の種類は、特に制限されず、1種の基を単独で用いても、2種以上の基を組み合わせて用いてもよい。
アミド基含有3級アミン化合物1分子中に含まれる3級アミン骨格の種類は、特に制限されず、1種の骨格を単独で用いても、2種以上の骨格を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
アミド基含有3級アミン化合物は、下記一般式(B)で表される化合物を含有することが好ましい。
【化4】
(前記一般式(B)中、R
1及びR
2は、各々独立に、アルデヒド基又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R
3及びR
4は、各々独立に、水素原子、又は、炭素数1以上5以下のアルキル基を有する1価の有機基を表す。)
【0046】
アミド基含有3級アミン化合物が、上記一般式(B)で表される化合物を含有すると、成膜の際に、炭素材料との親和性がより高まることから、ポリイミド成形体としたときに、熱伝導性と引張破断強度の両方により優れる。
【0047】
前記一般式(B)中、R1~R2で表される炭素数1以上5以下のアルキル基としては、炭素数1以上5以下の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。
炭素数1以上5以下の直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基が挙げられる。
炭素数1以上5以下の分岐状アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基が挙げられる。
【0048】
前記一般式(B)中、R1~R2は、各々独立に、アルデヒド基又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、アルデヒド基又は炭素数1以上5以下の直鎖状のアルキル基を表すことが好ましく、アルデヒド基又は炭素数1以上3以下の直鎖状のアルキル基を表すことがより好ましく、アルデヒド基又は炭素数1以上2以下のアルキル基を表すことが更に好ましい。前記一般式(B)中、R1~R2が上記基であると、成膜の際に、炭素材料との親和性がより高まることから、ポリイミド成形体としたときに、熱伝導性と引張破断強度の両方により優れる。
【0049】
前記一般式(B)中、R3~R4で表される炭素数1以上5以下のアルキル基としては、R1~R2で表される炭素数1以上5以下のアルキル基と同様の基が挙げられる。
【0050】
前記一般式(B)中、R3~R4は、各々独立に、水素原子、又は、炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、炭素数1以上5以下の直鎖状のアルキル基を表すことが好ましく、炭素数1以上3以下の直鎖状のアルキル基を表すことがより好ましく、炭素数1以上2以下のアルキル基を表すことが更に好ましい。前記一般式(B)中、R3~R4が上記基であると、成膜の際に、炭素材料との親和性がより高まることから、ポリイミド成形体としたときに、熱伝導性と引張破断強度の両方により優れる。
【0051】
一般式(B)で表される化合物は、3-ジメチルアミノ-N,N-ジメチルプロピオンアミド及びN-[2-(ジメチルアミノ)エチル]-N-メチルホルムアミドの少なくとも一方であることが好ましい。前記一般式(B)で表される化合物が上記化合物であると、成膜の際に、炭素材料との親和性がより高まることから、ポリイミド成形体としたときに、熱伝導性と引張破断強度の両方により優れる。
【0052】
以下、一般式(B)で表される化合物の例示を示すが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0053】
・3-ジメチルアミノ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・3-ジエチルアミノ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・3-ジプロピルアミノ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・3-ジブチルアミノ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・3-ジペンチルアミノ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・3-メチルエチルアミノ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・3-エチルプロピルアミノ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・3-ジメチルアミノ-N,N-ジエチルプロピオンアミド
・3-ジメチルアミノ-N,N-ジプロピルプロピオンアミド
・3-ジメチルアミノ-N,N-ジブチルプロピオンアミド
・3-ジメチルアミノ-N,N-ジペンチルプロピオンアミド
・3-ジメチルアミノ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド
・N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]-N-メチルホルムアミド
【0054】
アミド基含有3級アミン化合物は、ポリイミド前駆体溶液の総量に対する含有量が10ppm以上2000ppm以下であることが好ましく、20ppm以上1800ppm以下であることがより好ましく、50ppm以上1500ppm以下であることが更に好ましい。
アミド基含有3級アミン化合物の含有量が、ポリイミド前駆体溶液の総量に対して10ppm以上であると、成膜の際に、炭素材料との親和性がより高まり、かつ、イミド化が効率的に促進され易くなることから、ポリイミド成形体としたときに、熱伝導性と引張破断強度の両方により優れる。
アミド基含有3級アミン化合物の含有量が、ポリイミド前駆体溶液の総量に対して2000ppm以下であると、成膜の際に、イミド化が過度に促進し、高次構造にムラのあるポリイミド成形体となることが抑制され易く、引張破断強度により優れる。
【0055】
アミド基含有3級アミン化合物は、前記炭素材料に対する含有量が0.001質量%以上2.50質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上2.00質量%以下であることがより好ましく、0.015質量%以上1.50質量%以下であることが更に好ましい。
アミド基含有3級アミン化合物の含有量が、特に、炭素材料に対して0.01質量%以上であると、成膜の際に、炭素材料との親和性がより高まり、かつ、イミド化が効率的に促進され易くなることから、ポリイミド成形体としたときに、熱伝導性と引張破断強度の両方により優れる。
アミド基含有3級アミン化合物の含有量が、炭素材料に対して2.00質量%未満であると、成膜の際に、イミド化が過度に促進し、高次構造にムラのあるポリイミド成形体となることが抑制され易く、かつ、前記高次構造の隙間に炭素材料がより効率的に充填されやすいため、引張破断強度により優れる。
【0056】
(炭素材料)
炭素材料としては、例えば、ケッチェンブラック、オイルファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック;熱分解カーボン;グラファイト;単層又は多層のグラフェン;短尺又は長尺のカーボンナノチューブ;単層又は多層のカーボンナノチューブ;フラーレン及びその誘導体;PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;などが挙げられる。炭素材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。
【0057】
上記の中でも、炭素材料は、カーボンブラック、グラフェン及びカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、グラフェン及びカーボンナノチューブの少なくとも一方を含むことがより好ましい。
炭素材料が上記群より選択される少なくとも1種であると、成膜の際に、アミド基含有3級アミン化合物と炭素材料との親和性がより高まり易くなることから、ポリイミド成形体としたときに、熱伝導性と引張破断強度の両方により優れる。
【0058】
炭素材料は、粒状中空集合体又はグラフェンメソスポンジの構造を有することが好ましい。
炭素材料が上記粒状中空集合体又はグラフェンメソスポンジの構造を有すると、成膜の際に、アミド基含有3級アミン化合物と炭素材料との親和性がより高まり易くなることから、ポリイミド成形体としたときに、熱伝導性と引張破断強度の両方により優れる。また、ポリイミドの高次構造の空隙に前記炭素材料が充填されることでポリイミド成形体に弾性が付与され易い。
【0059】
・グラフェンメソスポンジ
グラフェンメソスポンジは、メソ孔を有する多孔質炭素材料である。なお、国際純正及び応用化学連合(IUPAC)では、直径2nm以下の細孔をミクロ孔、直径2nm以上50nm以下の細孔をメソ孔、直径50nm以上の細孔をマクロ孔と定義している。そして、メソ孔を有する材料を総称してメソポーラス材料と称している。
【0060】
グラフェンメソスポンジは、例えば、メソ孔の形状に沿って三次元的に連続したグラフェンのシートから構成され、前記グラフェンのシートの積層数が数層以下である多孔質の炭素材料であり、好ましくは、欠陥のない単層のグラフェンのみから構成される多孔質の炭素材料である。
【0061】
グラフェンメソスポンジの基本骨格は、グラフェンである。グラフェンメソスポンジは、1枚のグラフェンのサイズが大きく、グラフェンが積層する積層数が少ない。そのため、グラフェンメソスポンジは、熱伝導性と共に高い弾性を有する、また、高い導電性も有する。
【0062】
・粒状中空集合体
炭素材料の粒状中空集合体とは、炭素材料同士が互いに組み合わさってなる粒状集合体であって、粒状中空集合体の中には、炭素材料と、炭素材料間の空隙部(即ち、中空状態を形成する空隙部)と、が存在する。炭素材料としては、炭素繊維、グラフェン、フラーレン等が挙げられる。炭素材料が炭素繊維であれば、炭素材料の粒状中空集合体としては、複数の繊維状炭素が互いに絡み合ってなる粒状中空集合体であることが好ましい。また、炭素繊維がグラフェンであれば、sp2結合で結合した炭素原子が平面的に並んだ1層からなるシート状構造体(即ち、グラフェン)が、複数組み合わさってなる粒状中空集合体であることが好ましい。
【0063】
粒状中空集合体は、例えば、球状であってもよいし、楕円球状であってもよいし、不定形状であってもよい。
【0064】
炭素材料の粒状中空集合体としては、複数の繊維状炭素が互いに絡み合ってなる粒状中空集合体、又は、グラフェンが複数組み合わさってなる粒状中空集合体であることが好ましく、入手容易性の観点、高い熱伝導性能が得られるという観点からは、複数の繊維状炭素が互いに絡み合ってなる粒状中空集合体(以下、「繊維集合体」ともいう。)であることがより好ましい。なお、繊維集合体に含まれる繊維状炭素の数は、複数(即ち、2本以上)であればよく、特に限定はされない。繊維集合体に含まれる繊維状炭素は、入手容易性、熱伝導性等の観点から、カーボンナノチューブであることが好ましい。
【0065】
炭素材料は、ポリイミド前駆体に対する含有量(炭素材料/ポリイミド前駆体)が5体積%以上20体積%以下であることが好ましく、7体積%以上18体積%以下であることがより好ましく、10体積%以上16体積%以下であることが更に好ましい。
特に、炭素材料がグラフェンメソスポンジである場合、炭素材料は、ポリイミド前駆体溶液の総量に対する含有量が、熱伝導性、導電性及び柔軟性向上の観点から、8体積%以上18体積%以下であることが好ましく、10体積%以上15体積%以下であることがより好ましい。
【0066】
炭素材料の含有量が、ポリイミド前駆体に対して5体積%以上であると、ポリイミド成形体内に炭素材料が一定量以上存在するため、熱伝導性にムラが生じることが抑制されやすい。また、ポリイミド成形体の高次構造の隙間に炭素材料がより効率的に充填されやすいため、引張破断強度により優れる。
炭素材料の含有量が、ポリイミド前駆体に対して20体積%以下であると、成膜の際に、ポリイミド成形体の硬度が高くなり過ぎてもろくなることが抑制されるため、引張破断強度により優れる。
【0067】
炭素材料は、前記アミド基含有3級アミン化合物に対する含有量(炭素材料/アミド基含有3級アミン化合物)が2質量%以上1000質量%以下であることが好ましく、5質量%以上500質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上100質量%以下であることが更に好ましい。
【0068】
炭素材料の含有量が、アミド基含有3級アミン化合物に対して2質量%50倍以上であると、成膜の際に、アミド基含有3級アミン化合物との親和性がより高まり易くなることから、ポリイミド成形体としたときに、熱伝導性と引張破断強度の両方により優れる。
炭素材料の含有量が、アミド基含有3級アミン化合物に対して1000質量%50倍以下であると、成膜の際に、イミド化が過度に促進し、高次構造にムラのあるポリイミド成形体となることが抑制され易く、かつ、前記高次構造の隙間に炭素材料がより効率的に充填されやすいため、引張破断強度により優れる。
【0069】
(ポリイミド前駆体)
ポリイミド前駆体は、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体である。ポリイミド前駆体は、例えば、一般式(I)で表される繰り返し単位を有する樹脂(ポリイミド前駆体)であってもよい。
【0070】
【0071】
(一般式(I)中、Aは4価の有機基を示し、Bは2価の有機基を示す。)
ここで、一般式(I)中、Aが表す4価の有機基としては、原料となるテトラカルボン酸二無水物より4つのカルボキシル基を除いたその残基である。
【0072】
一方、Bが表す2価の有機基としては、原料となるジアミン化合物から2つのアミノ基を除いたその残基である。
【0073】
つまり、一般式(I)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体である。
【0074】
テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系テトラカルボン酸二無水物、脂肪族系テトラカルボン酸二無水物が挙げられるが、芳香族系テトラカルボン酸二無水物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Aが表す4価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリテート無水物)、m-フェニレンビス(トリメリテート無水物)、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、4,4’-ジフェニルエーテルビス(トリメリテート無水物)、4,4’-ジフェニルメタンビス(トリメリテート無水物)、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンビス(トリメリテート無水物)、p-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、等が挙げられる。
【0075】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテ
トラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボナン-2-酢酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸二無水物;1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン等の芳香環を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0076】
これらの中でも、テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物がよく、具体的には、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物、2,3,3’,4’- ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物、がよく、更に、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物がよく、特に、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がよい。
【0077】
なお、テトラカルボン酸二無水物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。
【0078】
また、2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族テトラカルボン酸二無水物、又は脂肪族テトラカルボン酸を各々併用しても、芳香族テトラカルボン酸二無水物と脂肪族テトラカルボン酸二無水物とを組み合わせてもよい。
【0079】
一方、ジアミン化合物は、分子構造中に2つのアミノ基を有するジアミン化合物である。ジアミン化合物としては、芳香族ジアミン化合物、脂肪族ジアミン化合物が挙げられるが、芳香族ジアミン化合物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Bが表す2価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
【0080】
ジアミン化合物としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,5-ジアミノナフタレン、3,3-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、5-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、6-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,5-ジアミノ-3’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,5-ジアミノ-4’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,7-ジアミノフルオレン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)、2,2’,5,5’-テトラクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジクロロ-4,4’-ジアミノ-5,5’-ジメトキシビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミ
ノフェノキシ)-ビフェニル、1,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-(p-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(m-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチル)フェノキシ]-オクタフルオロビフェニル等の芳香族ジアミン;ジアミノテトラフェニルチオフェン等の芳香環に結合された2個のアミノ基と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;1,1-メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4-ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]-ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族ジアミン及び脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0081】
これらの中でも、ジアミン化合物としては、芳香族ジアミン化合物がよく、具体的には、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンがよく、特に、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミンがよい。
【0082】
なお、ジアミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。また、2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族ジアミン化合物、又は脂肪族ジアミン化合物を各々併用しても、芳香族ジアミン化合物と脂肪族ジアミン化合物とを組み合わせてもよい。
【0083】
また、得られるポリイミドの取扱い性や機械物性を調節するため、テトラカルボン酸二無水物および/またはジアミン化合物を2種以上用いて共重合することが好ましい場合もある。
【0084】
共重合の組み合わせとしては、例えば、化学構造中に芳香環を1つ有するテトラカルボン酸二無水物および/またはジアミン化合物と、化学構造中に芳香環を2つ以上有するテトラカルボン酸二無水物および/またはジアミン化合物との共重合や、芳香族テトラカルボン酸二無水物および/またはジアミン化合物と、アルキレン基、アルキレンオキシ基、及びシロキサン基などの柔軟な連結基を有するカルボン酸二無水物および/またはジアミン化合物との共重合などが挙げられる。
【0085】
ポリイミド前駆体の数平均分子量は、好ましくは5000以上300000以下であり、より好ましくは10000以上150000以下である。
【0086】
ポリイミド前駆体の数平均分子量を上記範囲とすると、ポリイミド前駆体の溶媒に対する溶解性の低下が抑制され、製膜性が確保され易くなる。
【0087】
ポリイミド前駆体の数平均分子量は、下記測定条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法で測定される。
・カラム:東ソーTSKgelα-M(7.8mm I.D×30cm)
・溶離液:DMF(ジメチルホルムアミド)/30mMLiBr/60mMリン酸
・流速:0.6mL/min
・注入量:60μL
・検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0088】
ポリイミド前駆体の含有量(つまり、濃度)は、全ポリイミド前駆体溶液に対して、0.1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上20質量%以下である。
【0089】
(その他の添加剤)
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液には、ポリイミド前駆体、β-アルコキシプロピオンアミド溶剤、アミド基含有3級アミン化合物、炭素材料以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、イミド化反応促進のための触媒や、製膜品質向上のためのレベリング材などが挙げられる。
【0090】
イミド化反応促進のための触媒には、酸無水物など脱水剤、フェノール誘導体、スルホン酸誘導体、安息香酸誘導体などの酸触媒などを使用してもよい。
【0091】
また、ポリイミド前駆体溶液には、体積平均粒径が0.001μm以上0.2μm以下である無機粒子以外の材料として、使用目的に応じて、例えば、導電性付与のために添加される導電材料(導電性(例えば、体積抵抗率107Ω・cm未満)もしくは半導電性(例えば、体積抵抗率107Ω・cm以上1013Ω・cm以下))を含有していてもよい。
【0092】
導電材料としては、例えば、カーボンブラック(例えばpH5.0以下の酸性カーボンブラック);金属(例えばアルミニウムやニッケル等);金属酸化物(例えば酸化イットリウム、酸化錫等);イオン導電性物質(例えばチタン酸カリウム、LiCl等);等が挙げられる。これら導電材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0093】
(ポリイミド成形体)
本実施形態に係るポリイミド成形体は、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液の加熱硬化物で構成された成形体である。つまり、ポリイミド成形体は、ポリイミド前駆体溶液を加熱処理された硬化物で構成されている。具体的には、本実施形態に係るポリイミド成形体は、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液の塗膜を加熱処理により、乾燥およびイミド化された成形体である。
本実施形態によれば、熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れるポリイミド成形体が得られる
【0094】
ポリイミド成形体の膜厚は、用途に応じて決定すればよい。膜厚の下限は、例えば、5m以上が挙げられる。なお、ポリイミド成形体の膜厚を5μm以上300μm以下の範囲にすると、面内均一性、膜厚均一性、物性の膜厚方向に対する均一性などが良好な成形体が得られ易くなる。
【0095】
なお、ポリイミド成形体としてのポリイミドフィルムは、フレキシブル電子基板フィルム、銅張積層フィルム、ラミネートフィルム、電気絶縁フィルム、燃料電池用多孔質フィルム、分離フィルム等が例示される。
また、ポリイミド成形体としてのポリイミド被膜は、絶縁被膜、耐熱性皮膜、ICパッケージ、接着膜、液晶配向膜、レジスト膜、平坦化膜、マイクロレンズアレイ膜、電線被覆膜、光ファイバー被覆膜等が例示される。
その他のポリイミド成形体としては、ベルト部材が挙げられる。ベルト部材としては、駆動ベルト(例えば、駆動ベルトの無端ベルト)、電子写真方式の画像形成装置用のベルト(例えば、中間転写ベルト、転写ベルト、定着ベルト、搬送ベルト等の無端ベルト)等が例示される。
【0096】
・ポリイミド成形体の製造方法
本実施形態に係るポリイミド成形体の製造方法は、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液を用いて成形する手法であれば特に制限されないが、例えば、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液を基材上に塗布して塗膜を形成した後、加熱処理して、ポリイミド成形体を得る方法が挙げられる。なお、ポリイミド前駆体溶液を用いて製造するポリイミド成形体は特に限定されない。
【0097】
以下、本実施形態に係るポリイミド成形体の製造方法の一例として、無端ベルトを製造する方法について詳細に説明する。
【0098】
無端ベルトの製造方法は、例えば、ポリイミド前駆体溶液を円筒状の基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、基材上に形成した塗膜を乾燥し、乾燥膜を形成する工程と、乾燥膜をイミド化処理(加熱処理)し、ポリイミド前駆体のイミド化を行って、ポリイミド樹脂層を形成する工程と、基材からポリイミド樹脂層を取り外し、無端ベルトとする工程と、を含む。具体的には、例えば、次の通りである。
【0099】
まず、ポリイミド前駆体溶液を円筒状の基材の内面又は外面に塗布して、塗膜を形成する。円筒状の基材としては、例えば、円筒状の金属製基材が好適に用いられる。金属製の代わりに、樹脂製、ガラス製、セラミック製など、他の素材の基材を用いてもよい。また、基材の表面に、ガラスコート、セラミックコート等を設けてもよく、シリコーン系、フッ素系等の剥離剤を塗布してもよい。
【0100】
ここで、ポリイミド前駆体溶液を精度よく塗布するには、塗布する前にポリイミド前駆体溶液を脱泡する工程を実施することがよい。ポリイミド前駆体溶液を脱泡することで、塗布時の泡かみ及び塗膜の欠陥発生が抑制される。
ポリイミド前駆体溶液を脱泡する方法としては、減圧状態にする方法、遠心分離する方法などが挙げられるが、減圧状態とする脱泡が簡便で脱泡能が大きいため適している。
【0101】
次に、ポリイミド前駆体溶液の塗膜が形成された円筒状の基材を、加熱又は真空環境に置いて、塗布膜を乾燥し、乾燥膜を形成する。含有溶媒の30質量%以上、好ましくは50質量%以上を揮発させる。
【0102】
次に、乾燥膜に対して、イミド化処理(加熱処理)を行う。これにより、ポリイミド樹脂層が形成される。
イミド化処理の加熱条件としては、例えば150℃以上400℃以下(好ましくは200℃以上300℃以下)で、20分間以上60分間以下加熱することで、イミド化反応が起こり、ポリイミド樹脂層が形成される。加熱反応の際、加熱の最終温度に達する前に、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱することがよい。イミド化の温度は、例えば原料として用いたテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類によって異なり、イミド化が不充分であると機械的特性及び電気的特性に劣るため、イミド化が完結する温度に設定する。
その後、円筒状の基材から、ポリイミド樹脂層を取り外し、無端ベルトを得る。
【実施例0103】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例により限定されるものではない。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。なお、特に断りがない限り「部」は「質量部」を意味する。
【0104】
<実施例1>
(ポリイミド前駆体溶液1の作製)
攪拌棒、温度計を取り付けたフラスコに、β-アルコキシプロピオンアミド溶剤である3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド:82部を充填した。ここに、ジアミン化合物であるp-フェニレンジアミン(以下、「PDA」とも称す。):10部と、テトラカルボン酸二無水物である3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、「BPDA」とも称す。):10部を添加し、反応温度50℃に保持しながら、15時間攪拌しながら反応させた。その後、アミド基含有3級アミン化合物である3-ジメチルアミノ-N,N-ジメチルプロピオンアミド:0.1部と、炭素材料であるカーボンブラック:5部とを、更に添加し、ポリイミド前駆体溶液1を得た。
【0105】
得られたポリイミド前駆体溶液は、ポリイミド前駆体の割合が、ポリイミド前駆体溶液全体に対して13質量部であった。また、ポリイミド前駆体溶液に含まれるポリイミド前駆体の重量平均分子量は40000であった。
【0106】
<実施例2~20、比較例1~3>
β-アルコキシプロピオンアミド溶剤、アミド基含有3級アミン化合物、炭素材料の種類及び量、その他の溶剤の種類及び量を表1に示す仕様とした以外は、実施例1と同様の手法とし、各例のポリイミド前駆体溶液を得た。
【0107】
表1中の各材料の欄に記載された略称の、化合物名等の情報は下記の通りである。
・MdMPA :3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・BdMPA :3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・OdMPA :3-オクタキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・EdMPA :3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
【0108】
・2MAEFA :N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]-N-メチルホルムアミド
・3dMAdPA:3-ジメチルアミノ-N,N-ジメチルプロピオンアミド
・CB :カーボンブラック(デンカブラック、電気化学工業(株)製、平均二次粒子径=200μm)
・短尺CNT :短尺カーボンナノチューブ(高圧ガス工業(株)製、平均長さ=3.0μm、平均直径=10nm)
・長尺CNT :長尺カーボンナノチューブ(高圧ガス工業(株)製、平均長さ=5.0μm、平均直径=10nm)
・粒状中空集合体(繊維状炭素であるカーボンナノチューブが複数互いに絡み合ってなり、かつ、球状を有する粒状中空集合体:綿球状CNT):下記の製造法によって作成した。
・グラフェンメソスポンジ:下記の製造法によって作成した。
【0109】
(綿球状CNTの製造)
鋳型材CaCO3(白石工業株式会社)による粒子径20μmの鋳型内に、CVD装置(石川産業株式会社)でカーボンナノチューブを生成、堆積させた後に、塩酸にて洗浄することで鋳型を除去して、綿球状のカーボンナノチューブを得た。
【0110】
(グラフェンメソスポンジの製造)
(1)CVD(Chemical Vapor Depositio)法による炭素被覆したアルミナナノ粒子の調製
アルミナナノ粒子(大明化学工業社製TM300、結晶相:γ-アルミナ、平均粒径:7nm、比表面積:220m2/g)と、スペーサーとしての石英砂(仙台和光純薬社製)とを、重量比3:10(アルミナナノ粒子:石英砂)で混合した。この際、石英砂は、1M塩酸に12時間浸け、マッフル炉で、空気中で800℃2時間加熱し、180μm間隔のふるいにかけたものを使用した。上記で調製したアルミナナノ粒子と石英砂との混合物を反応管(内径57mm)に入れ、メタンを炭素源とするCVD(以下、「メタンCVD」)を行った。
【0111】
メタンCVDは、N2ガスの流量を400ml/分に調節した条件下で、アルミナナノ粒子を10℃/分の昇温速度で室温から900℃まで加熱し、900℃で30分間保持した。その後、キャリアガスとしてN2ガスを使用し、キャリアガスとメタンとの合計量に対して20体積%のメタンを反応管に導入し、900℃で4時間、化学気相成長(CVD)処理を行った。この際、メタンガスの流量を80ml/分、N2ガスの流量を320ml/分に調節した。その後、メタンガスの導入を停止し、N2ガスの流量を400ml/分に調節した条件下で、900℃で30分間保持した後、冷却して、炭素被覆したアルミナナノ粒子を得た。
【0112】
(2)鋳型の溶解除去
上記(1)で得られた炭素被覆したアルミナナノ粒子から、アルミナナノ粒子(つまり鋳型)の除去を行った。
炭素被覆したアルミナナノ粒子からの鋳型除去には、フッ化水素(HF)を用いた。テフロン(登録商標)製のビーカーに、炭素被覆したアルミナナノ粒子と、濃度46質量%
のHF水溶液を入れ、テフロン(登録商標)製の撹拌子で攪拌しながら、室温にて6時間保持した。その後、自然冷却した。サンプルは濾過によって回収し、150℃、6時間の真空加熱乾燥で乾燥させ、多孔質炭素材料を得た。
【0113】
(3)多孔質炭素材料の熱処理
上記(2)で得られた多孔質炭素材料を砕き、破片を数個集めて黒鉛製の容器に入れ、高温炉にセットした。高温部をオイルポンプで10Paまで減圧し、微量のArを流しながら熱処理を行って、多孔質炭素材料を得た。
なお、熱処理条件としては、はじめに室温から1800℃まで120分間かけて昇温した。そして、1800℃で60分間熱処理して、その後、室温まで自然冷却した。このようにして得られた多孔質炭素材料は、1800℃と高温での熱処理によって上記CMSの水素終端エッジが融合され、より連続性の高い三次元グラフェン骨格が形成されたグラフェンメソスポンジであった。
【0114】
表1中、アミド基含有3級アミン化合物の項目における[含有量(対ポリイミド前駆体溶液)]とは、ポリイミド前駆体溶液の総量に対するアミド基含有3級アミン化合物の含有量を指す。
表1中、アミド基含有3級アミン化合物の項目における[含有量(対炭素材料)]とは、炭素材料に対するアミド基含有3級アミン化合物の含有量を指す。
表1中、炭素材料の項目における[含有量(対ポリイミド前駆体)]とは、ポリイミド前駆体に対する炭素材料の含有量を指す。
表1中、炭素材料の項目における[含有量(対3級アミン化合物)]とは、アミド基含有3級アミン化合物に対する炭素材料の含有量を指す。
表1中、各項目における「-」は、各材料を含まないことを示す。
【0115】
<熱伝導性の評価>
各例で得られたポリイミド前駆体溶液を、厚さ1.0mmのガラス基板上に、アプリケーターを用いて10cm×10cmの面積で塗布し、80℃のオーブンで30分乾燥することで皮膜を得た。なお、アプリケーターのギャップを、乾燥後の皮膜における膜厚の平均値が30μmになるように調整した。皮膜が形成されたガラス基板を、250℃に加熱したオーブンの中で30分静置することで皮膜を焼成した後、イオン交換水に浸漬してガラス基板から剥離し、乾燥することで、ポリイミド成形体を得た。
得られたポリイミド成形体について、熱伝導率を、ai-phase(株式会社アイフェイズ製)を用いた温度波分析法により、荷重50gの条件で測定し、熱伝導性を下記の評価基準で評価した。結果を表に示す。
-評価基準-
A+:1.3W/m・K以上
A :0.8以上1.3W/m・K未満
B :0.5以上0.8W/m・K未満
C :0.5W/m・K未満
【0116】
<引張破断強度の評価>
各例のポリイミド前駆体溶液を用いて、前記熱伝導性の評価と同様の手法でポリイミド成形体を得た。得られたポリイミド成形体を、引張試験機(東洋製機製作所社製のストログラフ)にて、短冊状の試験片(幅15mm、長さ50mm)を200mm/分の速度で引っ張り、前記試験片が破断した時点での引張強度(MPa)を、引張破断強度として求めた。なお、測定は、任意に切り出した第1の方向(例えばMD方向)と第1の方向に直交する第2の方向(例えばTD方向)とにおいて行い、強度が低い方の値を、引張破断強度とする。
-評価基準-
A+:230MPa以上
A :200以上230MPa未満
B :170以上200MPa未満
C :170MPa未満
【0117】
【0118】
表1に示された結果から、実施例のポリイミド前駆体溶液を用いて作製されたポリイミド成形体は、比較例のポリイミド前駆体溶液を用いて作製されたポリイミド成形体に比べて、熱伝導性と引張破断強度の両方に優れることがわかった。
【0119】
(((1))) ポリイミド前駆体と、
β―アルコキシプロピオンアミド溶剤と、
アミド基含有3級アミン化合物と、
炭素材料と、
を含有するポリイミド前駆体溶液。
(((2))) 前記β―アルコキシプロピオンアミド溶剤は、下記一般式(A)で表される化合物である、前記(((1)))に記載のポリイミド前駆体溶液。
【化6】
(前記一般式(A)中、R
1は、炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、R
2及びR
3は、各々独立に、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基を表す。)
(((3))) 前記一般式(A)で表される化合物は、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド及び3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミドの少なくとも一方である、前記(((2)))に記載のポリイミド前駆体溶液。
(((4))) 前記アミド基含有3級アミン化合物は、下記一般式(B)で表される化合物を含有する、前記(((1)))~(((3)))のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体溶液。
【化7】
(前記一般式(B)中、R
1及びR
2は、各々独立に、アルデヒド基又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R
3及びR
4は、各々独立に、水素原子、又は、炭素数1以上5以下のアルキル基を有する1価の有機基を表す。)
(((5))) 前記一般式(B)で表される化合物は、3-ジメチルアミノ-N,N-ジメチルプロピオンアミド及びN-[2-(ジメチルアミノ)エチル]-N-メチルホルムアミドの少なくとも一方である、前記(((4)))に記載のポリイミド前駆体溶液。
(((6))) 前記アミド基含有3級アミン化合物は、ポリイミド前駆体溶液の総量に対する含有量が10ppm以上2000ppm以下である、前記(((1)))~(((5)))のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体溶液。
(((7))) 前記アミド基含有3級アミン化合物は、前記炭素材料に対する含有量が0.01質量%以上2質量%以下である、前記(((1)))~(((6)))のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体溶液。
(((8))) 前記炭素材料は、カーボンブラック、グラフェン及びカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種を含む、前記(((1)))~(((7)))のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体溶液。
(((9))) 前記炭素材料は、粒状中空集合体又はグラフェンメソスポンジの構造を有する、前記(((8)))に記載のポリイミド前駆体溶液。
(((10))) 前記炭素材料は、前記ポリイミド前駆体に対する含有量が5体積%以上20体積%以下である、前記(((1)))~(((9)))のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体溶液。
(((11))) 前記炭素材料は、前記アミド基含有3級アミン化合物に対する含有量が2質量%以上1000質量%以下である、前記(((1)))~(((10)))のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体溶液。
(((12))) 前記β―アルコキシプロピオンアミド溶剤は、下記一般式(A)で表される化合物を含有し、
前記アミド基含有3級アミン化合物は、下記一般式(B)で表される化合物を含有する、前記(((1)))~(((11)))のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体溶液。
(((13))) 前記(((1)))~(((12)))のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体溶液の加熱硬化物で構成されたポリイミド成形体。
(((14))) 前記ポリイミド成形体が無端ベルトである、前記(((13)))に記載のポリイミド成形体。
【0120】
(((1)))、(((2)))、(((3)))、(((4)))、(((5)))、又は(((12)))に係る発明によれば、ポリイミド前駆体及びβ―アルコキシプロピオンアミド溶剤のみを含有するポリイミド前駆体溶液である場合に比べて、熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
(((6)))に係る発明によれば、前記アミド基含有3級アミン化合物が、ポリイミド前駆体溶液の総量に対する含有量が10ppm未満又は2000ppm超えである場合に比べて、熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
(((7)))に係る発明によれば、前記アミド基含有3級アミン化合物が、前記炭素材料に対する含有量が0.01質量%未満又は2質量%超えである場合に比べて、熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
(((8)))に係る発明によれば、前記炭素材料がグラファイトである場合に比べて、熱伝導性に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
(((9)))に係る発明によれば、前記炭素材料がカーボンブラックである場合に比べて、熱伝導性に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
(((10)))に係る発明によれば、前記炭素材料が、前記ポリイミド前駆体に対する含有量が5体積%未満又は20体積%超えである場合に比べて、熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
(((11)))に係る発明によれば、前記炭素材料は、前記アミド基含有3級アミン化合物に対する含有量が2質量%未満又は1000質量%超えである場合に比べて、熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れたポリイミド成形体が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
(((13)))に係る発明によれば、ポリイミド前駆体及びβ―アルコキシプロピオンアミド溶剤のみを含有するポリイミド前駆体溶液である場合に比べて、ポリイミド成形体としたときに、熱伝導性及び引張破断強度の両方に優れたポリイミド成形体が提供される。