IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特開-モータ制御装置 図1
  • 特開-モータ制御装置 図2
  • 特開-モータ制御装置 図3
  • 特開-モータ制御装置 図4
  • 特開-モータ制御装置 図5
  • 特開-モータ制御装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159085
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/18 20160101AFI20241031BHJP
【FI】
H02P6/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074846
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】片桐 康太
(72)【発明者】
【氏名】大石 陵平
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 淳哉
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560BB04
5H560BB07
5H560BB12
5H560DA14
5H560DB14
5H560DC12
5H560DC13
5H560EB01
5H560TT08
5H560TT11
5H560TT15
5H560TT20
5H560UA05
5H560XA02
5H560XA13
(57)【要約】
【課題】モータの始動性能を向上させる。
【解決手段】モータ制御装置1は、モータ2を始動する時に、固定相電流が予め設定された電流狙い値に一致するように、印加電圧を制御する電流制御を実行してモータ2に通電する。モータ制御装置1は、電流制御を実行しているときに、固定相電流が電流狙い値の付近で安定していることを示す電流安定条件が成立しているか否かを判断し、電流安定条件が成立しているときの印加電圧に基づいて、固定相電流を電流狙い値に一致させる印加電圧の値を電圧学習値として設定する。モータ制御装置1は、電圧学習値に対応する印加電圧を継続してモータ2に印加する電圧オープン制御を実行してモータ2に通電する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ(2)を始動する時に、前記モータに流れるモータ電流が予め設定された電流狙い値に一致するように、前記モータに印加する印加電圧を制御する電流制御を実行して前記モータに通電するように構成された電流制御部(S10)と、
前記電流制御部が前記電流制御を実行しているときに、前記モータ電流が前記電流狙い値の付近で安定していることを示す電流安定条件が成立しているか否かを判断し、前記電流安定条件が成立しているときの前記印加電圧に基づいて、前記モータ電流を前記電流狙い値に一致させる前記印加電圧の値を電圧学習値として設定するように構成された学習部(S20~S30)と、
前記電圧学習値に対応する前記印加電圧を継続して前記モータに印加する電圧オープン制御を実行して前記モータに通電するように構成された電圧オープン制御部(S40)と
を備えるモータ制御装置(1)。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記学習部は、前記電流制御が実行されているときにおける前記印加電圧の値に対してフィルタ処理を行い、前記フィルタ処理が行われた後の前記印加電圧の値に基づいて前記電圧学習値を設定するモータ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ制御装置であって、
前記フィルタ処理で用いられるフィルタは、前記フィルタに入力した信号の周波数が高くなるほど、前記信号の減衰量が大きくなる特性を有する減衰領域を備えるように構成されるモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1項に記載のモータ制御装置であって、
前記電流制御部および前記電圧オープン制御部は、前記モータが所定の回転方向へ回転するように予め設定された通電相パターンで通電相を順次移行させながら前記モータに通電するように構成されるモータ制御装置。
【請求項5】
請求項1~請求項3の何れか1項に記載のモータ制御装置であって、
前記電流安定条件は、前記モータ電流が、前記電流狙い値を含むように設定された安定判定電流範囲内である状態が、予め設定された安定判定時間継続することであるモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、センサレスモータを制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
センサレスモータにおける位置決めでロータを所定の位置に早く収束させるためには、モータに流す電流を電流狙い値に一致させるように印加電圧を制御する電流制御よりも、一定の電圧を印加する電圧オープン制御の方が適していることが知られている。しかし、モータの抵抗値ばらつき等によりモータ電流値が電流狙い値から外れる可能性があり、電圧オープン制御は電流値ロバスト性が低いため、モータ起動の効率悪化およびモータ起動失敗などにつながる懸念があった。
【0003】
特許文献1には、上記の課題を解決するために、電圧オープン制御で一定の電圧をモータに印加したときのモータ電流を検出し、検出したモータ電流値が安定した後に、その電流値を始動前電流値として、モータの始動時における駆動信号のデューティを補正することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-112659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者の詳細な検討の結果、以下の課題が見出された。特許文献1に記載の技術は、電圧オープン制御で検出したモータ電流値が電流狙い値より大きい場合は印加電圧を小さくし、モータ電流値が電流狙い値より小さい場合は印加電圧を大きくして、モータに通電する技術である。しかし、環境温度等に起因する物性値ばらつき、デットタイム、リプルといったモデル化困難な物理現象などに適応して電流狙い値付近の電流を出すために適切な電圧を設定することは非常に難しいため、モータ電流値と電流狙い値との偏差が残り、モータ起動失敗につながる懸念がある。
【0006】
本開示は、モータの始動性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、電流制御部(S10)と、学習部(S20~S30)と、電圧オープン制御部(S40)とを備えるモータ制御装置(1)である。
電流制御部は、モータ(2)を始動する時に、モータに流れるモータ電流が予め設定された電流狙い値に一致するように、モータに印加する印加電圧を制御する電流制御を実行してモータに通電するように構成される。
【0008】
学習部は、電流制御部が電流制御を実行しているときに、モータ電流が電流狙い値の付近で安定していることを示す電流安定条件が成立しているか否かを判断し、電流安定条件が成立しているときの印加電圧に基づいて、モータ電流を電流狙い値に一致させる印加電圧の値を電圧学習値として設定するように構成される。
【0009】
電圧オープン制御部は、電圧学習値に対応する印加電圧を継続してモータに印加する電圧オープン制御を実行してモータに通電するように構成される。
このように構成された本開示のモータ制御装置は、モータを始動する時においてモータの物性値のばらつき等に関わらず電流狙い値付近のモータ電流を流すことができるため、モータの始動性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】モータ制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
図2】モータ制御処理を示すフローチャートである。
図3】電流制御および電圧オープン制御を示す図である。
図4】フィルタ処理の有無による制御の相違を示す図である。
図5】電圧リプルの振幅の周波数特性を示す図である。
図6】ローパスフィルタおよび帯域阻害フィルタの特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態のモータ制御装置1は、車両に搭載され、図1に示すように、モータ2を制御する。モータ2は、センサレス三相ブラシレスモータである。
モータ制御装置1は、インバータ回路11と、駆動部12と、制御部13と、電圧検出部14と、電流検出部15とを備え、例えば図1に示す構成となる。
【0012】
インバータ回路11は、図示しないバッテリから電力供給を受けて、モータ2の各相U,V,Wの端子TU,TV,TW間(すなわち、U-V間、V-W間、W-U間)にバッテリ電圧VBを印加することでステータコイル21,22,23への通電を行い、モータ2を回転させる回路である。
【0013】
モータ2の各相U,V,Wのステータコイル21,22,23は、例えば、Y結線されている。そして、この結線部とは反対側の3つの端子TU,TV,TWに、インバータ回路11が接続されている。なお、モータ2のステータコイル21,22,23は、例えば、Δ結線されていてもよい。インバータ回路11は、例えば、6つのスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6で形成される3相フルブリッジ回路を備える。
【0014】
スイッチング素子Q1,Q2,Q3は、いわゆるハイサイドスイッチとして、バッテリの正極側とモータ2の各相U,V,Wの端子TU,TV,TWとの間に配置されている。スイッチング素子Q4,Q5,Q6は、いわゆるローサイドスイッチとして、バッテリの負極側とモータ2の各相U,V,Wの端子TU,TV,TWとの間に配置されている。
【0015】
このため、インバータ回路11において、相が互いに異なる一つのハイサイドスイッチと一つのローサイドスイッチとをオン状態にすることで、モータ2の何れかの端子TU,TV,TW間にバッテリ電圧VBが印加される。
【0016】
そして、オンさせるスイッチング素子を切り替えることで、バッテリ電圧VBを印加する端子およびバッテリ電圧VBの印加方向を切り替えることができ、スイッチング素子のオン時間を制御することで、モータ2に流れる電流を制御することができる。
【0017】
駆動部12は、制御部13から出力された制御信号に従いインバータ回路11内のスイッチング素子Q1~Q6をオン状態またはオフ状態にすることで、モータ2の各相U,V,Wのステータコイル21,22,23に電流を流し、モータ2を回転させる。
【0018】
制御部13は、CPU13a、ROM13bおよびRAM13c等を備えたマイクロコンピュータを中心に構成された電子制御装置である。マイクロコンピュータの各種機能は、CPU13aが非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、ROM13bが、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムの実行により、プログラムに対応する方法が実行される。なお、CPU13aが実行する機能の一部または全部を、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。また、制御部13を構成するマイクロコンピュータの数は1つでも複数でもよい。
【0019】
制御部13は、モータ2を回転させるために、相が互いに異なる一つのハイサイドスイッチと一つのローサイドスイッチとをオン状態にする。本実施形態では、制御部13は、パルス幅変調制御(以下、PWM制御)を行うことによりモータ2を回転させる。PWMは、Pulse Width Modulationの略である。具体的には、制御部13は、例えば、オン状態にする2つのスイッチング素子のうち、一方のスイッチング素子をオン状態に維持し、他方のスイッチング素子をデューティに従って周期的にオン状態とオフ状態との間で切り替える。
【0020】
電圧検出部14は、モータ2の各相U,V,Wの端子TU,TV,TWそれぞれの電圧Vu,Vv,Vwを検出する。
電流検出部15は、各相U,V,Wのそれぞれのステータコイル21,22,23に流れた電流Iu,Iv,Iwを検出する。
【0021】
制御部13は、モータ2を回転させるために、モータ2の回転位置に同期して、オン状態にするスイッチング素子を切り替える。モータ2の回転位置に同期して駆動部12を制御するために、制御部13は、モータ2の回転位置を検出する。具体的には、制御部13は、電圧検出部14から取得した電圧Vu,Vv,Vwに基づいて、モータ2の回転位置を検出する。制御部13は、検出した回転位置に基づいて制御信号を生成して駆動部12へ出力する。これにより、制御部13は、モータ2の回転位置に同期してモータ2を制御することができる。
【0022】
制御部13は、周知のベクトル制御によりモータ2の駆動を制御する。制御部13は、ROM13bに格納されたプログラムをCPU13aが実行することにより実現される機能ブロックとして、電流指令値生成部、三相/二相変換部、電流制御部および二相/三相変換部を備える。
【0023】
電流指令値生成部は、モータ2を駆動するのに必要な指令値として、d-q軸座標系でのd軸電流指令値およびq軸電流指令値を生成し、電流制御部へ出力する。d-q軸座標系は、モータ2のロータの永久磁石の磁束方向をd軸とし、d軸に直交しロータにトルクを発生させる方向をq軸とする周知の回転座標系である。
【0024】
三相/二相変換部は、電圧検出部14から取得した電圧Vu,Vv,Vwと、電流検出部15から取得した電流Iu,Iv,Iwとに基づき、三相電流をd軸電流およびq軸電流に変換する。d軸電流は、モータ2に流れる電流のうち、回転磁界を発生させる成分である。q軸電流は、モータ2に流れる電流のうち、モータ2にトルクを発生させる成分である。
【0025】
電流制御部は、三相/二相変換部にて変換されたd軸電流およびq軸電流と、電流指令値生成部にて生成されたd軸電流指令値およびq軸電流指令値との偏差に基づき、d軸電圧指令値およびq軸電圧指令値を算出し、二相/三相変換部へ出力する。d軸電圧指令値は、d軸電流をd軸電流指令値に制御するのに要する電圧指令値である。q軸電圧指令値は、q軸電流をq軸電流指令値に制御するのに要する電圧指令値である。
【0026】
二相/三相変換部は、電流制御部にて算出されたd軸電圧指令値およびq軸電圧指令値を座標変換することで三相電圧指令値を生成し、駆動部12へ出力する。
駆動部12は、三相電圧指令値に従い、モータ2の各相U,V,Wの端子TU,TV,TWに出力する実電圧をPWM制御する。この結果、駆動部12から、インバータ回路11を構成するスイッチング素子Q1~Q6へ、各相U,V,Wの電圧をPWM制御するための制御信号が出力されて、スイッチング素子Q1~Q6のオン状態とオフ状態とが切り替えられ、モータ2の各相U,V,Wに供給される電力が制御される。
【0027】
次に、制御部13が実行するモータ制御処理の手順を説明する。モータ制御処理は、モータ制御装置1の外部から、モータ2の駆動を指示するモータ駆動指令がモータ制御装置1に入力されると開始される処理である。
【0028】
モータ制御処理が実行されると、制御部13のCPU13aは、図2に示すように、S10にて、電流制御による固定相通電を実行する。
固定相通電は、オン状態にする1つのハイサイドスイッチおよび1つのローサイドスイッチを固定した通電である。本実施形態の固定相通電は、例えば、U相のハイサイドスイッチとW相のローサイドスイッチとをオン状態にして、モータ2に電流を流す。
【0029】
電流制御は、PI制御などのフィードバック制御を用いて、固定相通電においてモータ2に流れる固定相電流Iaが電流狙い値Nに一致するように、固定相通電においてモータ2に印加する印加電圧Vaを制御する。
【0030】
CPU13aは、S20にて、予め設定された電流安定条件が成立したか否かを判断する。本実施形態の電流安定条件は、固定相電流Iaが、電流狙い値Nの近傍であることを示す予め設定された安定判定電流範囲内である状態が、予め設定された安定判定時間Ta継続することである。安定判定電流範囲は、(N-ΔI1)から(N+ΔI2)までの範囲である。ΔI1およびΔI2は互いに同じ値であってもよいし異なる値であってもよい。
【0031】
ここで、電流安定条件が成立していない場合には、CPU13aは、S10に移行する。一方、電流安定条件が成立した場合には、CPU13aは、S30にて、電流安定条件が成立した時点における印加電圧Vaを、電圧学習値として設定する。
【0032】
CPU13aは、S40にて、電圧オープン制御による固定相通電を予め設定されたオープン制御時間が経過するまで実行する。電圧オープン制御は、S30で設定した電圧学習値に対応する一定の電圧を印加電圧Vaとしてモータ2に印加する制御である。
【0033】
CPU13aは、S50にて、他制制御を実行する。他制制御は、モータ2が所定の回転方向へ回転するように、予め設定された通電相パターン、PWMデューティおよび通電時間でモータ2に通電する制御である。
【0034】
その後、モータ2の回転速度が大きくなり、モータ2のロータの位置が検出可能になると、CPU13aは、S60にて、自制制御を実行する。自制制御は、電圧Vu,Vv,Vwに基づいてロータ位置を検出し、検出したロータ位置に基づいて通電相を切り替えることによりモータ2に通電する制御である。
【0035】
そしてCPU13aは、モータ制御装置1の外部から、モータ2の停止を指示するモータ停止指令がモータ制御装置1に入力されると、モータ制御処理を終了する。
次に、上記の電流制御および電圧オープン制御の詳細を説明する。
【0036】
図3に示すように、モータ制御装置1は、時刻t0で電流制御を開始し、印加電圧Vaを増加させる。これにより、固定相電流Iaが時刻t1で電流狙い値Nに到達する。そしてモータ制御装置1は、固定相電流Iaが安定判定電流範囲内である状態が安定判定時間Ta継続した時刻t2に、電流制御から電圧オープン制御へ移行する。モータ制御装置1は、時刻t2における印加電圧Vaを電圧学習値として設定し、電圧学習値に対応する一定の電圧を印加電圧Vaとしてモータ2に印加する。
【0037】
温度などに起因する抵抗値ばらつきなどの影響により、電流制御における印加電圧Vaが線L1,L2,L3に示すように変動する。このため、線L1,L2,L3に示すように印加電圧Vaが変化するときの電圧学習値はそれぞれ、電圧値LV1,LV2,LV3になる。
【0038】
図4のグラフG2に示すように、電流制御時の印加電圧Vaは、モータ2の回転速度の成分が重畳し、電圧リプルを含む。このため、リプルの影響が大きい時点の印加電圧Vaを電圧学習値として設定すると、図4のグラフG1に示すように、電圧オープン制御において固定相電流Iaが電流狙い値Nから外れてしまう可能性がある。
【0039】
このため、制御部13は、モータ制御処理のS10において、電流制御時の印加電圧Vaに対してフィルタ処理を行い、フィルタ処理後の印加電圧Vaを算出し、更に、フィルタ処理後の印加電圧Vaを用いてS20の電流安定条件が成立しているか否かを判断する。なお、制御部13は、制御部13が決定した印加電圧Vaの値に対してフィルタ処理を行う。
【0040】
これにより、図4のグラフG4における破線L4で示すように、制御部13は、フィルタ処理により電圧リプルが除去された印加電圧Vaを用いて電圧学習値を設定することができる。このため、図4のグラフG3に示すように、電圧オープン制御において固定相電流Iaが電流狙い値Nの近傍の値となる。なお、図4のグラフG4における実線L5で示すように、電流制御時のモータ2には、電圧リプルを含む印加電圧Vaが印加される。
【0041】
図5に示すように、電圧リプルの振幅は、図5のグラフにおける周波数に相当するモータ回転速度が大きくなるほど大きくなる。
このため、制御部13は、上記のフィルタ処理のフィルタとして、図6に示すローパスフィルタまたは帯域阻止フィルタを用いるのが望ましい。
【0042】
図6に示すローパスフィルタは、周波数F1未満の周波数を有する信号を通過させ、周波数F1以上の周波数を有する信号を減衰させるフィルタである。図6に示すローパスフィルタは、周波数F1未満ではゲインがほぼ0dBであり、周波数F1以上では周波数が大きくなるほどゲインが小さくなる特性を有する。周波数F1は、電流制御時に発生する電圧リプルの周波数より小さくなるように設定される。
【0043】
図6に示す帯域阻止フィルタは、周波数F2未満では周波数が大きくなるほどゲインが小さくなり、周波数F2以上では周波数が大きくなるほどゲインが大きくなる特性を有する。周波数F2は、電流制御時に発生する電圧リプルの周波数より大きくなるように設定される。
【0044】
このように構成されたモータ制御装置1は、モータ2を始動する時に、固定相電流Iaが予め設定された電流狙い値Nに一致するように、印加電圧Vaを制御する電流制御を実行してモータ2に通電する。
【0045】
モータ制御装置1は、電流制御を実行しているときに、固定相電流Iaが電流狙い値Nの付近で安定していることを示す電流安定条件が成立しているか否かを判断し、電流安定条件が成立しているときの印加電圧Vaに基づいて、固定相電流Iaを電流狙い値Nに一致させる印加電圧Vaの値を電圧学習値として設定する。
【0046】
モータ制御装置1は、電圧学習値に対応する印加電圧Vaを継続してモータ2に印加する電圧オープン制御を実行してモータ2に通電する。
このようなモータ制御装置1は、モータ2を始動する時においてモータ2の物性値のばらつき等に関わらず電流狙い値N付近の固定相電流Iaを流すことができるため、モータ2の始動性能を向上させることができる。
【0047】
またモータ制御装置1は、モータ2を始動する時に電流制御を実行するため、モータ2への通電開始直後に電流オーバーシュートが発生するのを抑制し、起動騒音の発生を抑制することができる。
【0048】
またモータ制御装置1は、電流制御の終了後に、モータ2への通電を停止することなく、モータ2への通電を継続した状態で電圧オープン制御へ移行する。このため、モータ制御装置1は、モータ2を始動するための時間を短縮することができるとともに、起動音を1回のみとすることができる。
【0049】
モータ制御装置1は、電流制御が実行されているときにおける印加電圧Vaの値に対してフィルタ処理を行い、フィルタ処理が行われた後の印加電圧Vaの値に基づいて電圧学習値を設定する。これにより、モータ制御装置1は、電流制御時における印加電圧Vaの電圧リプルを低減することができ、電圧オープン制御において電流狙い値N付近の固定相電流Iaを流すことができなくなる事態の発生を抑制することができるため、モータ2の始動性能を更に向上させることができる。
【0050】
フィルタ処理で用いられるフィルタ(本実施形態では、ローパスフィルタまたは帯域阻止フィルタ)は、フィルタに入力した信号の周波数が高くなるほど、信号の減衰量が大きくなる特性を有する減衰領域を備えるように構成される。本実施形態のローパスフィルタの減衰領域は、周波数F1以上の領域である。本実施形態の帯域阻止フィルタの減衰領域は、周波数F2未満の領域である。これにより、モータ制御装置1は、モータ回転速度が大きくなるほど振幅が大きくなる電圧リプルの特性に対応したフィルタ処理を行うことができる。
【0051】
以上説明した実施形態において、S10は電流制御部としての処理に相当し、S20~S30は学習部としての処理に相当し、S40は電圧オープン制御部としての処理に相当し、固定相電流Iaはモータ電流に相当する。
【0052】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
[変形例1]
上記実施形態では、電流制御および電圧オープン制御において固定相通電を実行する形態を示したが、電流制御および電圧オープン制御において、S50の他制制御のように、モータ2が所定の回転方向へ回転するように予め設定された通電相パターンで通電相を順次移行させながらモータ2に通電するようにしてもよい。これにより、モータ制御装置1は、モータ2を始動する時において通電相を回してモータ2の位置決めをすることができ、死点回避の確率を向上させることができる。
【0053】
[変形例2]
上記実施形態では、制御部13が、モータ制御処理のS10においてフィルタ処理を行う形態を示した。しかし、電圧リプルの影響が小さい場合には、フィルタ処理を実行しないようにしてもよい。
【0054】
本開示に記載の制御部13およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部13およびその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部13およびその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。制御部13に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0055】
上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加または置換してもよい。
【0056】
上述したモータ制御装置1の他、当該モータ制御装置1を構成要素とするシステム、当該モータ制御装置1としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実体的記録媒体、モータ制御方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
[本明細書が開示する技術思想]
[項目1]
モータ(2)を始動する時に、前記モータに流れるモータ電流が予め設定された電流狙い値に一致するように、前記モータに印加する印加電圧を制御する電流制御を実行して前記モータに通電するように構成された電流制御部(S10)と、
前記電流制御部が前記電流制御を実行しているときに、前記モータ電流が前記電流狙い値の付近で安定していることを示す電流安定条件が成立しているか否かを判断し、前記電流安定条件が成立しているときの前記印加電圧に基づいて、前記モータ電流を前記電流狙い値に一致させる前記印加電圧の値を電圧学習値として設定するように構成された学習部(S20~S30)と、
前記電圧学習値に対応する前記印加電圧を継続して前記モータに印加する電圧オープン制御を実行して前記モータに通電するように構成された電圧オープン制御部(S40)と
を備えるモータ制御装置(1)。
【0057】
[項目2]
項目1に記載のモータ制御装置であって、
前記学習部は、前記電流制御が実行されているときにおける前記印加電圧の値に対してフィルタ処理を行い、前記フィルタ処理が行われた後の前記印加電圧の値に基づいて前記電圧学習値を設定するモータ制御装置。
【0058】
[項目3]
項目2に記載のモータ制御装置であって、
前記フィルタ処理で用いられるフィルタは、前記フィルタに入力した信号の周波数が高くなるほど、前記信号の減衰量が大きくなる特性を有する減衰領域を備えるように構成されるモータ制御装置。
【0059】
[項目4]
項目1~項目3の何れか1項に記載のモータ制御装置であって、
前記電流制御部および前記電圧オープン制御部は、前記モータが所定の回転方向へ回転するように予め設定された通電相パターンで通電相を順次移行させながら前記モータに通電するように構成されるモータ制御装置。
【0060】
[項目5]
項目1~項目4の何れか1項に記載のモータ制御装置であって、
前記電流安定条件は、前記モータ電流が、前記電流狙い値を含むように設定された安定判定電流範囲内である状態が、予め設定された安定判定時間継続することであるモータ制御装置。
【符号の説明】
【0061】
1…モータ制御装置、2…モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6