(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159088
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】冷却構造
(51)【国際特許分類】
B23K 11/30 20060101AFI20241031BHJP
B23K 11/36 20060101ALI20241031BHJP
B23K 11/11 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
B23K11/30
B23K11/36 310
B23K11/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074853
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】森田 智也
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165BB22
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で電極チップを効果的に冷却できる冷却構造を提供する。
【解決手段】溶接機の電極チップに電流を供給する管状のシャンクと、前記シャンクの内部に配置された冷媒管とを備え、前記冷媒管は、前記冷媒管の外周面と前記シャンクの内周面との隙間に冷媒を供給する開口部と、前記開口部から離れた位置で局所的に内径が大きくなった膨出部とを備え、前記膨出部は、前記膨出部以外の部分に比べて変形性に優れる、冷却構造。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接機の電極チップに電流を供給する管状のシャンクと、
前記シャンクの内部に配置された冷媒管とを備え、
前記冷媒管は、
前記冷媒管の外周面と前記シャンクの内周面との隙間に冷媒を供給する開口部と、
前記開口部から離れた位置で局所的に内径が大きくなった膨出部とを備え、
前記膨出部は、前記膨出部以外の部分に比べて変形性に優れる、
冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接機の電極チップを冷却する冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および特許文献2は、スポット溶接機における電極チップを冷却する冷却構造を開示する。冷却構造は、電極チップを支持する管状のシャンクと、シャンクの内部に配置される冷媒管とを備える。冷媒管の端部からシャンク内に供給された冷却水は、冷媒管の外周面とシャンクの内周面との隙間を通ってシャンク外に排出される。冷却水は電極チップを冷却する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2-133179号公報
【特許文献2】実開平3-70873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶接機は通常、溶接対象を挟み込む二つの電極チップと、二つの電極チップに電力を供給するトランスとを備える。二つの電極チップは、通電によって高温になる。これら電極チップのそれぞれに冷却構造が配置されている。このような構成において、例えば電極チップの温度が高くなり過ぎると、電極チップが損傷したり、溶接された箇所の品質が低下したりする恐れがある。従って、冷却構造において、電極チップの温度に応じて冷媒の流量を調整する構成が望まれている。しかし、電極チップの温度を測定する温度センサを配置して、温度センサの測定結果に基づいて冷媒の流量を調整すると、冷却構造が複雑化し、冷却構造のコストが増加する。
【0005】
本発明の目的の一つは、簡単な構成で電極チップを効果的に冷却できる冷却構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る冷却構造は、
溶接機の電極チップに電流を供給する管状のシャンクと、
前記シャンクの内部に配置された冷媒管とを備え、
前記冷媒管は、
前記冷媒管の外周面と前記シャンクの内周面との隙間に冷媒を供給する開口部と、
前記開口部から離れた位置で局所的に内径が大きくなった膨出部とを備え、
前記膨出部は、前記膨出部以外の部分に比べて変形性に優れる。
【発明の効果】
【0007】
上記冷却構造では、シャンクを介して電極チップに電流が供給される。電極チップに供給される電流値が大きくなるほど、電極チップの温度が上昇し易い。上記冷却構造では、シャンクに沿った方向に電流が流れると、シャンクの中心軸を周回する磁場が発生する。その結果、フレミングの左手の法則に従って、シャンクの中心軸に向かう求心力が発生する。この求心力はシャンクの内部に配置される冷媒管にも作用する。上記冷却構造における冷媒管は、変形し易い膨出部を有しており、この膨出部は、上記中心軸に向かう求心力によって縮径する。その際、膨出部に貯留された冷媒が開口部から吐き出され、電極チップが冷却される。このように、上記冷却機構では、変形し易い膨出部によって電極チップを効果的に冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態1に記載される溶接機の概略構成図である。
【
図2】
図2は、
図1の溶接機の使用状態を説明する説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に記載される冷却構造の概略説明図である。
【
図4】
図4は、
図3に示される冷却構造の膨出部の一例を示す概略構成図である。
【
図5】
図5は、溶接時における電極への電流値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の冷却構造の実施形態の一例を図面に基づいて説明する。図中の同一符号は同一又は相当部分を示す。各図面が示す部材の大きさは、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法を表すものではない。なお、本発明は以下の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0010】
<実施形態1>
図1に示される溶接機1は、スポット溶接を行う溶接機1である。この溶接機1は、二つの電極2,3とトランス4と供給管6と排出管7とを備える。電極2,3の先端には電極チップ20,30が配置されている。電極チップ20,30は、溶接機1の使用時に高温となる高温部10である。トランス4は、電極チップ20,30に電力を供給する。トランス4も溶接機1の使用時に高温になる高温部10である。
図1では供給管6と排出管7は太線矢印で示されている。供給管6は各高温部10に冷媒を供給する。供給管6は、主管60と、主管60から分岐する複数の分岐管61,62,63とを備える。分岐管61と分岐管62と分岐管63はそれぞれ、トランス4と電極2と電極3につながっている。排出管7は、各高温部10を冷却した冷媒を排出する。排出管7は、複数の分岐管71,72,73と、集合管70とを備える。分岐管71と分岐管72と分岐管73はそれぞれ、トランス4と電極2と電極3につながっている。各分岐管71,72,73の冷媒は集合管70に流れ込み、集合管70を通って溶接機1の外部に排出される。主管60と集合管70は図示しない冷却装置につながれている。集合管70から排出された冷媒は、冷却装置によって冷やされ、再び主管60から高温部10に向けて供給される。つまり、冷媒は、溶接機1と冷却装置との間を循環している。
【0011】
図2に示されるように、溶接機1によって溶接対象100を溶接する場合、例えば電極2と電極3との間に溶接対象100を挟み込む。本例の溶接対象100は2枚の板材によって構成されている。溶接対象100を挟む電極2と電極3とに直流電流を印加することで、電極2の電極チップ20と電極3の電極チップ30(
図1参照)とで挟まれる箇所が部分的に溶融し、2枚の板材が溶接される。本例では、下向きの細線矢印で示されるように、電極2から電極3に向かって電流が流される。本例とは異なり、電流の向きは電極3から電極2に向かう方向でも良い。また、電極2と電極3とに流される電流は交流電流でも良い。
【0012】
溶接機1による溶接時、電極チップ20,30は上述した冷媒によって冷却されている。しかし、電極2,3に流される電流値が大きくなると、電極チップ20,30が高温になり過ぎる場合がある。その場合、溶接対象100が損傷したり、電極チップ20,30が損傷したりする恐れがある。本例では、電極チップ20,30が高温となり過ぎないように、電極チップ20,30を効果的に冷却する冷却構造5(
図3)が電極2,3に適用されている。
【0013】
本例の冷却構造5では、電極チップ20,30の冷却のために、
図2に示される電極2,3の軸線に向かう求心力Fが利用されている。この求心力Fは、電極2,3に流れる電流に起因する力である。既に述べたように、電極2,3には、電極2,3の軸線に沿った方向に電流が流れる。その結果、電極2,3の軸線を周回する磁場Bが発生すると共に、フレミングの左手の法則によって軸線に直交しかつ軸線に向かう方向に求心力Fが発生する。電極2,3に流れる電流値が大きくなるほど、求心力Fは大きくなる。この求心力Fの方向は、電極2,3を流れる電流の向きが反対になっても変化しない。すなわち、電極2,3の軸線に沿った方向に電流が流れれば、電極2,3の軸線に直交しかつ軸線に向かう求心力Fが発生する。本例の冷却構造5は、この求心力Fを利用して冷媒の流量を可変としている。以下、本例の冷却構造5を説明する。
【0014】
図3は、冷却構造5を備える電極2の部分断面図である。
図3の左図は、電極2に電流が流れていないか、または電流値がそれほど大きくないときにおける冷却構造5による冷却状態を示す。
図3の右図は、電極2に流れる電流値が大きくなったときの冷却構造5による冷却状態を示す。
【0015】
冷却構造5は、管状のシャンク8と、管状の冷媒管9とを備える。本例のシャンク8は、電極チップ20を支持する。シャンク8は、電極チップ20によって封止される第一端81を備える。つまり、電極チップ20の一部が、シャンク8の第一端81を封止する封止部82として機能する。本例のシャンク8は直管であるが、曲管であっても良い。
【0016】
シャンク8は導電性の材料によって構成されている。導電性の材料は例えば金属である。本例のシャンク8は、銅とクロムの合金によって構成されている。ここで、シャンク8の第一端81に支持される電極チップ20も導電性の材料、たとえば銅とクロムの合金によって構成されている。
【0017】
冷媒管9は、シャンク8の内部に配置される。冷媒管9は、封止部82に向き合う開口部91を備える。冷媒管9は、
図1の分岐管62につながっている。太破線の矢印で示されるように分岐管62から冷媒管9に供給された冷媒は、開口部91から封止部82に向かって吐出される。冷媒は、封止部82を含む電極チップ20を冷却する。開口部91から供給された冷媒は、太線矢印で示されるように、冷媒管9の外周面90とシャンク8の内周面80との隙間50を通って、電極2外に排出される。隙間50は、
図1の分岐管72につながっている。
【0018】
冷媒管9における少なくとも開口部91から離れた部分には、局所的に内径が大きくなった膨出部94が形成されている。本例では、膨出部94以外の部分を本体部93と呼ぶ。膨出部94は複数であっても良い。この場合、冷媒管9の長さに沿った方向に複数の膨出部94が分散して配置される。
【0019】
膨出部94は、膨出部94以外の本体部93に比べて変形性に優れる。この膨出部94は、
図2に示される求心力Fの大きさに応じて変形可能なように構成されている。
図3の左図に示されるように、シャンク8に流される電流がそれほど大きくない場合、冷媒管9の内部を流れる冷媒の圧力によって膨出部94は膨らんだ状態になっている。
図1の供給管6における冷媒の流量が変化しない限り、冷媒管9の開口部91から吐出される冷媒の流量はほぼ一定である。この状態から、電極2に流れる電流値の増加に伴って求心力Fが強くなると、膨出部94の外径と内径が小さくなるように膨出部94が縮径する。膨出部94が縮径すると、膨出部94の内部の冷媒が絞り出されるように開口部91に送り出される。そのため、開口部91から吐出される冷媒の流量が瞬間的に増加し、電極チップ20を冷却する冷却性能が瞬間的に上昇する。スポット溶接の場合、電極2,3への通電はごく短時間であるため、冷媒の流量の増加が瞬間的なものであっても、電極チップ20,30の冷却性能を向上させることができる。そのため、電極チップ20の温度が高くなり過ぎることが効果的に抑制される。電流値が小さくなる、あるいは電極2,3への通電が停止すると、冷媒の圧力によって膨出部94が本体部93よりも膨らむ。
【0020】
変形性に優れる膨出部94は例えば、本体部93を構成する材料よりも弾性変形能が大きい材料によって構成されている。例えば、本体部93がナイロン、膨出部94がゴムによって構成されていても良い。膨出部94は導電性材料の薄膜、例えば金属膜によって構成されていても良い。この場合、求心力F(
図2)によって膨出部94は縮径するが、本体部93はほとんど変形しない。
【0021】
膨出部94は、本体部93と同じ材料によって構成されていても良い。その場合、膨出部94の厚さは、本体部93の厚さよりも薄くする。本体部93よりも薄い膨出部94は、本体部93に比べて変形し易い。膨出部94を構成する材料は、導電性の材料でも良いし、導電性を有さない材料でも良い。
【0022】
膨出部94の別の構成を
図4に基づいて説明する。
図4に示される膨出部94は、柔軟性を有する管状部95と、編目構造を有する筒状の骨格部96とを備える。管状部95は例えばソフトビニル系樹脂などの柔軟性を有する樹脂製のシートによって構成されている。骨格部96は例えば金属などの導電性部材によって構成されている。本例の骨格部96の形状はステント形状である。骨格部96の形状は金網形状でも良い。骨格部96は、管状部95の外周に接着していても良いし、管状部95の内周に接着していても良いし、管状部95の内部に埋め込まれていても良い。
【0023】
導電性を有する骨格部96は、フレミングの左手の法則に従う求心力Fの影響を受け易い。従って、骨格部96を有する膨出部94は、求心力Fによって縮径し易い。特に、ステント形状を有する骨格部96は、求心力Fによって縮径し易く、求心力Fが小さくなったときに拡径し易い。骨格部96は、その形状によって変形のし易さを調整し易い。骨格部96を有する膨出部94では、骨格部96の各骨格の太さを調整することで、膨出部94の変形能を調整することができる。
【0024】
本例の冷却構造5では、冷媒の温度を測定する温度センサも、温度センサの測定結果に基づいて電極2における冷媒の流量を局所的に増減する機構も必要としない。また、本例の冷却構造5の構成によれば、既存の冷却構造の冷媒管を、本例の冷媒管9に置換することで、本例の冷却構造5と同様の効果を得られる可能性がある。
【0025】
管状部95が金属製のシートで構成され、骨格部96が樹脂によって構成されていても良い。この場合、管状部95が求心力Fによって縮径する。
【0026】
≪その他≫
溶接機1の電極2,3への通電は段階的に行っても良い。溶接時に電極2,3に流れる電流値を階段状に大きくすることで、溶接対象100と電極チップ20への急激な通電に伴う損傷が抑制される。
【0027】
図5は、溶接時に電極2,3に通電する電流値Iを階段状に増加させたときの電流値Iの変化を示すグラフである。横軸は時間t、縦軸は電流値Iである。この例では、電流値Iを3段階に分けて増加させている。この場合、電流値Iが最も高くなる瞬間に冷媒の流量が増加するように構成されていることが好ましい。具体的には、1段階目の電流値Iと2段階目の電流値Iによって発生する求心力Fでは膨出部94が変形せず、3段階目の電流値Iによって発生する求心力Fによって膨出部94が縮径するように、膨出部94を構成する。例えば、
図4に示す骨格部96を有する膨出部94では、骨格部96の各骨格の太さを調節することで、電流値Iが3段階目に達したときに膨出部94が縮径するようにすることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 溶接機
10 高温部
2,3 電極
20,30 電極チップ
4 トランス
5 冷却構造
50 隙間
6 供給管
60 主管、61,62,63 分岐管
7 排出管
70 集合管、71,72,73 分岐管
8 シャンク
80 内周面、81 第一端、82 封止部
9 冷媒管
90 外周面、91 開口部
93 本体部、94 膨出部、95 管状部、96 骨格部
100 溶接対象
B 磁場
F 求心力