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  • 特開-焙煎穀物の種子の新規用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159100
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】焙煎穀物の種子の新規用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/8998 20060101AFI20241031BHJP
   A61K 36/899 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 36/8994 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20241031BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241031BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K36/8998
A61K36/899
A61K36/48
A61K36/8994
A61P43/00 111
A61P19/06
A61P39/06
A61P29/00
A61P37/06
A61P11/00
A61P9/00
A61P7/06
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074866
(22)【出願日】2023-04-28
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 克郎
(74)【代理人】
【識別番号】230103089
【弁護士】
【氏名又は名称】遠山 友寛
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】細山 広和
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD49
4B018MD51
4B018MD58
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF04
4B117LC04
4B117LG11
4B117LG12
4B117LG13
4B117LG19
4B117LG24
4B117LP01
4B117LP04
4C088AB61
4C088AB73
4C088AB74
4C088AB75
4C088AB77
4C088AB78
4C088AC04
4C088BA08
4C088BA09
4C088BA23
4C088CA02
4C088CA04
4C088CA05
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA36
4C088ZA55
4C088ZA59
4C088ZB08
4C088ZB11
4C088ZB26
4C088ZC20
4C088ZC31
4C088ZC37
(57)【要約】
【課題】新規モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害剤の提供。
【解決手段】本発明は、焙煎穀物の種子に由来する成分を有効成分として含む、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎穀物の種子に由来する成分を有効成分として含む、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害剤。
【請求項2】
モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼが、キサンチンオキシダーゼ(XOD)及びキサンチンデヒドロゲナーゼ(XDH)から成る群から選択されるキサンチンオキシドレダクターゼ(XOR)である、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項3】
有効成分が、水又は親水性溶媒によって抽出される、請求項1又は2に記載の阻害剤。
【請求項4】
有効成分の分子量が、5,000以下、3,000以下又は1,000以下である、請求項1又は2に記載の阻害剤。
【請求項5】
有効成分の分子量が、100以上である、請求項1又は2に記載の阻害剤。
【請求項6】
穀物が、オオムギ、ライムギ、オーツムギ、ダイズ、ハトムギ、コーン及びコメから成る群から選択される1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載の阻害剤。
【請求項7】
オオムギが、六条大麦及び二条大麦から成る群から選択される1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載の阻害剤。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の阻害剤を有効成分として含む、尿酸生成抑制剤。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の阻害剤を有効成分として含む、活性酸素種生成抑制剤。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の阻害剤、請求項8に記載の尿酸生成抑制剤、あるいは請求項9に記載の活性酸素種生成抑制剤を含む、飲食品。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の阻害剤、請求項8に記載の尿酸生成抑制剤、あるいは請求項9に記載の活性酸素種生成抑制剤を含む、サプリメント。
【請求項12】
モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害が必要とされる疾患の治療又は予防のための、焙煎穀物の種子に由来する成分を有効成分として含む、医薬組成物。
【請求項13】
前記疾患が、高尿酸血症、炎症、自己免疫疾患、肺疾患、心血管疾患、鎌状赤血球症及び癌から成る群から選択される、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼを阻害する成分を含む画分を製造する方法であって、焙煎穀物の種子を水及び親水性溶媒から成る群から選択される1種又は2種以上の溶媒での抽出にかける工程を含む、方法。
【請求項15】
抽出された画分を分子量に従って分画する工程を更に含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く、焙煎穀物の種子の新規用途、例えばモリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害剤、尿酸生成抑制剤、活性酸素種生成抑制剤、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害が必要とされる疾患の治療又は予防のための医薬組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
モリブデン、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、鉄/硫黄(Fe/S)の酸化還元中心を有する酵素であるモリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの一つであるキサンチンオキシドレダクターゼは、プリン異化経路に属する酵素であり、種々の疾患に関与している。
【0003】
キサンチンオキシドレダクターゼファミリーに属するキサンチンオキシダーゼは、肝臓においてプリン体を代謝して尿酸を生成する。体の中で尿酸が過剰に産生されたり、あるいは排泄の低下のため、血中の尿酸値が上昇すると様々な疾患が引き起こされる。
【0004】
キサンチンオキシドレダクターゼが関与する疾患として、高尿酸血症が知られている。血清尿酸値が7.0mg/dLを超えることを特徴とする高尿酸血症は、痛風や尿路結石、腎障害などの著しいQOL低下を招く生活習慣病であり、近年、国内患者数が急増している。
【0005】
特開2000-290188号公報では、フィリピンやインドネシアなどの熱帯地方に生育する植物であるバナバの茶に由来するキサンチンオキシダーゼ阻害剤が開示されているが、高尿酸血症患者やその予備軍が増えている中で、手軽に尿酸値を下げられる、より身近な飲食品のニーズが高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-290188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、飲食品由来の新規なモリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害剤等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、オオムギ等の穀物を焙煎して得られる種子の抽出物がモリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの活性を阻害する成分を高含有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]
焙煎穀物の種子に由来する成分を有効成分として含む、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害剤。
[2]
モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼが、キサンチンオキシダーゼ(XOD)及びキサンチンデヒドロゲナーゼ(XDH)から成る群から選択されるキサンチンオキシドレダクターゼ(XOR)である、[1]に記載の阻害剤。
[3]
有効成分が、水又は親水性溶媒によって抽出される、[1]又は[2]に記載の阻害剤。
[4]
有効成分の分子量が、5,000以下、3,000以下又は1,000以下である、[1]又は[2]に記載の阻害剤。
[5]
有効成分の分子量が、100以上である、[1]又は[2]に記載の阻害剤。
[6]
穀物が、オオムギ、ライムギ、オーツムギ、ダイズ、ハトムギ、コーン及びコメから成る群から選択される1種又は2種以上である、[1]又は[2]に記載の阻害剤。
[7]
オオムギが、六条大麦及び二条大麦から成る群から選択される1種又は2種以上である、[1]又は[2]に記載の阻害剤。
[8]
[1]又は[2]に記載の阻害剤を有効成分として含む、尿酸生成抑制剤。
[9]
[1]又は[2]に記載の阻害剤を有効成分として含む、活性酸素種生成抑制剤。
[10]
[1]又は[2]に記載の阻害剤、[8]に記載の尿酸生成抑制剤、あるいは[9]に記載の活性酸素種生成抑制剤を含む、飲食品。
[11]
[1]又は[2]に記載の阻害剤、[8]に記載の尿酸生成抑制剤、あるいは[9]に記載の活性酸素種生成抑制剤を含む、サプリメント。
[12]
モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害が必要とされる疾患の治療又は予防のための、焙煎穀物の種子に由来する成分を有効成分として含む、医薬組成物。
[13]
前記疾患が、高尿酸血症、炎症、自己免疫疾患、肺疾患、心血管疾患、鎌状赤血球症及び癌から成る群から選択される、[12]に記載の医薬組成物。
[14]
モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼを阻害する成分を含む画分を製造する方法であって、焙煎穀物の種子を水及び親水性溶媒から成る群から選択される1種又は2種以上の溶媒での抽出にかける工程を含む、方法。
[15]
抽出された画分を分子量に従って分画する工程を更に含む、[14]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、麦茶の製造方法で採用される一般的な焙煎穀物と抽出方法によりモリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害剤等が得られる。阻害活性は使用する穀物やその他の要因により変動し得るが、オオムギを出発材料として使用する場合、L値が低くなるにつれ阻害活性の高い画分が得られる。活性成分は特定されておらず、限定することを意図するものではないが、実施例の結果から、分子量が1,000以下、そしてメタノールや熱水に溶解する物質であることが想定される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は実施例6の抽出液を分画した手順を図示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態又は実施態様について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
(モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害剤)
一実施形態において、焙煎穀物の種子に由来する成分を有効成分として含む、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害剤、が提供される。
【0014】
本明細書で使用する場合、「モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼ」とは、モリブデン、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、鉄/硫黄(Fe/S)の酸化還元中心を有する酵素を意味し、モリブデン含有鉄/硫黄フラボプロテイン、モリブデン含有水酸化酵素、モリブデン酵素と同義である。
【0015】
モリブデンを要求する酵素は、通常モリブドプテリンを補因子とするため、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼはモリブドプテリンを補因子とする酵素とも表現され得る。モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの例として、キサンチンオキシダーゼ、キサンチンデヒドロゲナーゼ、ジメチルスルホキシドレダクターゼ、亜硫酸オキシダーゼ、硝酸レダクターゼ、エチルベンゼンヒドロキシラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(フェレドキシン)、ヒ酸レダクターゼ(グルタレドキシン)、一酸化炭素デヒドロゲナーゼ、アルデヒドオキシダーゼ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
上記のモリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの例には各酵素のファミリーメンバー又はそれらのホモログが包含される。キサンチンオキシダーゼファミリーにはキサンチンオキシドレダクターゼ(XOR)が含まれる。本明細書で使用する場合、「ホモログ」とは、元のタンパク質及び/又は遺伝子と祖先が共通である、機能及び/又は配列が同様のタンパク質及び/又は遺伝子を意味する。本明細書におけるホモログは広く、オルソログ、パラログも含まれる。
【0017】
一実施形態において、キサンチンオキシドレダクターゼ(XOR)は、キサンチンオキシダーゼ(XOD)及びキサンチンデヒドロゲナーゼ(XDH)から成る群から選択される。キサンチンオキシダーゼファミリーのメンバーとして、キサンチンオキシダーゼが好ましい。
【0018】
本明細書で使用する場合、「モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害」とは、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの酵素活性がコントロールとの比較で低下乃至消失(失活)することを意味する。モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害活性は、キサンチンオキシダーゼ阻害活性を評価する公知の方法を用いて測定できる。例えば、キサンチンオキシダーゼはヒポキサンチンをキサンチン、尿酸へと酸化するため、これらの基質または生成物の量を指標としてキサンチンオキシダーゼ阻害活性を評価することができる。
【0019】
本明細書で使用する場合、「穀物」とは、種子を食用とする作物であって、水、有機溶媒等の溶媒による抽出に供されることで飲食品等の原料となる作物を意味する。穀物は、焙煎工程と、それに続く、水又は親水性溶媒を用いた抽出工程に供されることにより、分子量が5,000以下、4,000以下、3,000以下、2,000又は1,000以下、好ましくは3,000以下、より好ましくは1,000以下の成分であって、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害活性を有する成分を含む画分をもたらす作物が好ましい。そのような穀物の例として、イネ科、マメ科、タデ科、ヒユ科等に属する植物で食用に供されるもの、具体的には禾穀類、菽穀類である麦類、米類、豆類等や、擬穀類を例示することができる。麦類としてはオオムギ(大麦)、ライムギ、オーツムギ(エンバク、カラスムギ)、ハトムギ、コムギ(小麦)等が挙げられる。豆類としてはダイズ(黒大豆等)、ナタマメ等が挙げられる。その他の穀類としてはトウモロコシ(コーン)、コメ(玄米等)、タカキビ(コウリャン、ソルガム、モロコシ)、キビ、ヒエ、アワ、ソバ、アマランサス、キヌア等が挙げられる。
【0020】
同じ抽出方法でも、得られる画分におけるモリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害活性の程度や抽出効率は、穀類の種類や、抽出時の穀物の状態(粉砕されているか否か等)によって異なる。例えば、焙煎穀物の種子を水及び親水性溶媒から成る群から選択される1種又は2種以上の溶媒での抽出にかける工程により、活性の程度が高い画分を得る観点からは、穀類の中でも麦類、例えばオオムギ、ライムギ、オーツ麦等が原料として好ましい。ハトムギの場合、脱穀しないものが好ましい。ダイズは、胚芽大豆より黒大豆が好ましい。
【0021】
オオムギの品種は特に限定されず、その例として、ラトローブ、ハインドマーシュ、メトカルフ、スコープ、コマンダー、ほうしゅん、ミカモゴールデン等の二条大麦;四条大麦;レガシー、シュンライ、ファイバースノウ、カシマムギ、ミノリムギ、マサカドムギ、すずかぜ等の六条大麦;ダイシモチ等の裸大麦等が挙げられる。中でも、麦茶の原料に使用するオオムギ、例えば二条大麦と六条大麦が好ましい。
【0022】
本明細書における「焙煎穀物」とは、加熱により焙じて煎る加工処理を経た穀物を意味するが、焙煎度合いが浅すぎず、また、深すぎない穀物が好ましい。焙煎穀物は、ホール(丸粒)、引き割、粉砕のいずれの状態でもよいが、抽出効率を最重視する場合は粉砕されていることが好ましい。焙煎の程度は、ハンターLab表色系におけるL値を用いて評価できる。ハンターLab表色系において、色の数値はLabで示され、a値、b値は色相と彩度を表す。本明細書で使用する場合、L値は黒をL値0とし、また白をL値100とした場合の焙煎穀物の明度を色差計で測定したものである。
【0023】
国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本でもJIS(JIS Z 8781-4)において採用されているL*a*b*(エルスター・エースター・ビースター)表色系におけるL値を用いても焙煎の程度を評価することができるが、ハンターLab表色系との間に換算式は存在しないため、本明細書ではハンターLab表色系における値で焙煎の程度を表す。
【0024】
L値の測定は、未粉砕穀粒を粉砕せずに測定する粒L値、および粉砕した穀物を測定する粉砕L値などが一般的に用いられているが、特に断らない限り、本明細書中でのL値は粉砕L値を指す。粉砕L値を採用する理由として、穀粒の外表面と中心部のL値は必ずしも同値を示すとは限らないため、穀粒全体、特に焙煎により受けた変化の程度を知るためには、穀粒全てを粉末として均一にし、その表面色のL値を測定することが好ましい。このような観点から、焙煎の程度を評価するには粉砕L値を指標とする。粉砕方法については後述する。
【0025】
阻害剤の有効成分を得る観点からは、L値は、10~80の範囲内で調整される。L値は、低いほど阻害活性が向上する傾向があり、上限は75が好ましく、70がより好ましい。好ましいL値、特に下限は穀物の種類によって変動するが、オオムギの場合、10~50の範囲が好ましい。阻害率がより高い画分を得るためには、L値は好ましくは15~35の範囲内、より好ましくは15~25の範囲内、より更に好ましくは15~20の範囲内である。抽出効率の観点からは、L値は好ましくは15~45の範囲内、より好ましくは25~40の範囲内、より好ましくは20~35であることが特に好ましい。しかしながら、L値は阻害率のみならず他の要因、例えば最終製品の形態によっても変更される場合がある。例えば、飲料のような嗜好品の場合には香味も考慮する必要があるため、後述するとおり、L値の下限は20程度となる。
【0026】
L値は、加熱温度や加熱時間を変更することで適宜調節可能である。例えば、焙煎温度を上げたり、焙煎時間を延ばしたりすることでL値を下げることができ、逆もまた同様である。
【0027】
原料となる穀物の栽培方法や種子を採取するタイミングは特に限定されない。種子は外皮つきのものでも脱穀により外皮を取り除いたものでもよい。種子は部位毎に構成成分が異なるものの、脱穀処理をしていない全粒を以降の処理に使用することができる。
【0028】
有効成分は焙煎穀物の種子から抽出される。焙煎処理の例としては、媒体焙煎、熱風焙煎、砂炒焙煎、遠赤外線焙煎、開放釜焙煎、回転ドラム式焙煎等の焙煎処理が挙げられる。焙煎工程における加熱条件は、所望とする焙煎度に応じて当業者が適宜決定することができる。例えば媒体焙煎の場合は、特許4456178や、特開2020-068759に示される方法等が挙げられる。熱風焙煎の場合、例えば5kg程度の小型バッチロースターを用いた場合、排出時達温が約180~280℃、好ましくは190~230℃、より好ましくは200~220℃の範囲で適宜調整される。加熱条件は所望とする効果や穀物の種類によって変更され得る。例えば、熱風焙煎で先述の小型バッチロースターにて所望とする画分を得る場合、六条大麦は190~220℃が好ましく、二条大麦は210~215℃が好ましいが、これに限定されず、各条件については、加熱加工後に得られる種子の粉砕L値をもとに、適宜調整される。
【0029】
焙煎処理は異なる条件で1又は複数回行われる。種子は焙煎処理後、次の処理にかけられる前に冷却され得る。冷却方法は限定されず、その例として、放冷、送風冷却、水冷却等が挙げられる。
【0030】
種子は必要に応じて焙煎又は焙煎後に粉砕してもよい。粉砕工程においては、当業者は所望とする粒子の粒度や品質に応じてミル式粉砕機、ピンミル粉砕機、パウダー粉砕機等の公知の粉砕機を適宜選択できる。粉砕後の粒径を設定した場合には、粉砕後の穀物を所望とするメッシュサイズの篩にかけて未粉砕粒子を取り除くこともできる。粉砕の程度は、抽出効率や香味等から総合的に判断すればよい。
【0031】
客観的に焙煎の程度を確認するために、焙煎した種子は粉砕して均一にした後、その表面色のL値を、色差計を用いて測定する。粉砕方法は乾式であれば、ミル式粉砕機、ピンミル粉砕機、パウダー粉砕機等、特に制限はなく、焙煎種子が適切に均一に粉砕され、目視で粒が認識できる程度の未粉砕物が残留しなければよい。粉砕後に粒径の大きな未粉砕物が存在しないことを確認して、色差計で表面色を測定しL値を記録する。粉砕の程度は色差計で表面色を測定する際に測定値のぶれや支障がなければよく、その確認は目視でもよい。
【0032】
焙煎前の処理として、穀物を水又は蒸気と接触させ、穀物が水分を含有した状態とする膨化処理を行ってもよい。このように膨化処理を行えば、水分を含有した種子を高温で加熱することにより、膨化して割れるようになり、抽出効率をさらに向上させることができる。
【0033】
膨化処理の方法としては、上述の通り、原料を水と接触させる方法を挙げることができる。例えば、種子を水に浸漬したり、直接水を散布したり、蒸気噴霧により水と接触させる方法等を例示することができるが、膨化処理の方法はこれらに限定されない。
【0034】
また、種子の品質劣化を防ぐ観点から、種子は加熱後に冷却することが好ましい。冷却方法は特に限定されるものではない。例えば放冷、送風冷却、水冷却などを例示することができる。
【0035】
有効成分は、水や親水性溶媒を使用して原料から抽出される。水の例としては、例えば純水、水道水、蒸留水、脱塩水、アルカリイオン水、湖水、海洋深層水、イオン交換水、脱酸素水、天然水、水素水等が挙げられる。抽出時における効率や成分の安定性等の観点から、できる限り溶質あるいは不純物が少ない水が好ましく、純水、蒸留水、脱塩水が好ましい。親水性溶媒としてはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類が挙げられる。親水性溶媒としては、食品用途の場合はエタノールが好ましい。
【0036】
抽出時間は、使用する穀物や溶媒の種類、焙煎の程度、粉砕の有無・程度等の要因、更には所望とする有効成分の量によって異なるが、有効成分が適切に溶出できる温度であれば特に限定はされない。抽出に使用する水や親水性溶媒は抽出効率改善のために事前に加熱してもよい。その他の抽出条件も適宜変更され得る。例えば、抽出は1回又は複数回行ってもよく、複数回抽出する場合、その都度溶媒の種類を変更してもよい。溶媒は各工程毎に異なる種類の溶媒を使用することができるが、同じ種類の溶媒を使用してもよい。また、抽出効率や香味への影響を考慮して、成分の変質の影響のない範囲にpHを調整した水を用いてもよい。
【0037】
抽出温度は使用する穀物や溶媒の種類、焙煎の程度、粉砕の有無・程度等の要因、更には所望とする有効成分の量によって異なるが、有効成分が適切に溶出できる温度であれば特に限定はされない。例えば、穀物がオオムギやその他の麦類であり、また、抽出方法が水を用いた浸漬抽出の場合、麦茶の製造方法と同じ条件が使用され得る。そのような条件として、低温乃至高温で数分以上、例えば2~140℃で5分以上抽出することが挙げられるが、所望とする有効成分が抽出される限りこのような条件に限定されない。抽出効率の観点からは溶媒を室温以上に加熱して抽出するのが好ましい。更に、抽出を大気圧超の圧力のもと行うことで抽出効率を改善してもよい。オオムギやその他の麦類から有効成分の抽出を大気圧で行う場合、加熱条件は90℃以上で10~20分以上であることが好ましく、95℃以上で20~30分以上720分未満であることがより好ましい。抽出をより効率的に行うため抽出中に攪拌処理を行ってもよい。また、原料を粉砕して加えることで抽出効率が改善する。
【0038】
抽出方法は浸漬抽出以外にも、カラム式抽出、バッチ式抽出、ドリップ抽出、シャワーリングによる抽出等の公知の方法を使用することができる。
【0039】
抽出後の液体は、必要に応じて、例えば最終製品の形態に応じて濾過工程にかけてもよい。例えば、有効成分を精製や濃縮する場合、樹脂によるカラムクロマトグラフィーや、膜ろ過などを用いることが一般的であるが、この場合、各工程で通液するために支障となる固形物を除去するために濾過等により固形物が除去される。また、最終製品が飲料、特に容器詰め飲料の場合、固形物が存在すると外観が劣る等の弊害があるため、濾過により固形物を除去することが好ましい。濾過方法は特に限定されず、ネル濾過布、濾紙、濾過板、フィルター、カラム等を用いた公知の手段が使用され得る。濾過に代えて遠心分離などにより固形物を分離してもよい。
【0040】
上記工程は一般的な焙煎麦を用いた飲料、たとえば麦茶飲料の製造で行われる工程で代用してもよい。そのような飲料の製造方法の工程としては、例えば、大型抽出機を用いて焙煎済種子より温水で抽出した後の、異物除去、pH調整、殺菌等の工程が挙げられるが、有効成分が最終的に抽出される限り、製法については特に制限はない。
【0041】
上記工程で得た抽出液は、溶出成分を安定に保つため、適宜適した条件で使用時まで保管される。例えば、抽出液を篩やネルで濾過し不要な成分や残渣を除去した後に、濾過液を凍結するほか、適切な濃縮方法、たとえば減圧濃縮や凍結乾燥、スプレードライ等の方法で余分な水分を除去後に保管する等の方法がある。また、用途によっては、抽出液をそのまま、あるいは適宜希釈や濃縮等を行い、すぐに使用してもよい。
【0042】
本明細書で使用する場合、「分子量」は、限外濾過膜において、使用する膜の公称分画分子量を指し、例えば分子量Xの膜で通液した場合に、「X以下」とは濾過された成分、「X以上」とは残留した成分であることを意味する。
【0043】
有効成分を精製する場合、その分画の手段は公知の方法により行うことができ、例えば、液液分配や、担体、例えば分離用シリカゲルや樹脂、ゲルろ過材、セルロース、珪藻土、鉱物などを用いた分離のほか、透析や限外濾過膜により所望とする範囲内の分子量の有効成分を含む画分が得られる。液液分配は、一般的な分液漏斗による操作のほか、向流分配法を用いることもできる。担体を用いる方法としては、分離用シリカゲルの場合は、シリカゲルのほか、化学結合型シリカゲル、例えばオクタデシル基、オクチル基、アミノ基等で表面が修飾されたシリカゲルを用いて、順相系、逆相系等の溶媒で展開する等がある。また、樹脂を用いる方法としては、例えばダイヤイオンHP20、同HP2MGL、セパビーズSP70、同SP850、同SP207(いずれも三菱ケミカル製)等や、アンバーライトXAD―2、同XAD-2000(いずれもオルガノ製)等などの合成吸着材、あるいはダイヤイオンSKシリーズ、WKシリーズ、SAシリーズ、WAシリーズ(いずれも三菱ケミカル製)等のイオン交換樹脂等を適切な溶媒で展開する等がある。ゲルろ過材としては、例えばセファデックスシリーズ(サイティバ製)や、トヨパールHWシリーズ(東ソー製)等が挙げられる。珪藻土としては、分離用珪藻土やセライトなど、また鉱物としては白土(活性・酸性)やアルミナ等を用いることができる。透析に用いる膜の例としては、例えばダイアライシスメンブランシリーズ(富士フィルム和光純薬製)等、限外濾過膜の例としてはオメガメンブレンシリーズ(日本ポール製)やアミコンシリーズ(シグマアルドリッチ製)等が挙げられる。これらの分離手法は、単独でも、あるいは複数組み合わせてもよい。複数の場合は、有効成分が効率的に精製されるのであれば、組み合わせの種類、順序ともに適切に選択すればよく、また使用する担体・手法についても、これら列挙したもの以外を用いてもよく、制限はない。
【0044】
(尿酸生成抑制剤)
一実施形態において、焙煎穀物の種子に由来する、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害剤を有効成分として含む、尿酸生成抑制剤が提供される。
【0045】
モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害剤は、生体において、キサンチンやヒポキサンチン等のプリン体から尿酸への代謝を抑え、ひいては尿酸の生成を阻害し得るため、市販の尿酸生成抑制薬であるアロプリノール等と同様の機能を奏することが意図される。本明細書における尿酸生成抑制は、生体試料中、例えば血中又は尿中での尿酸濃度低減により評価できる。
【0046】
焙煎穀物の種子に由来する成分を尿酸生成抑制剤の有効成分として使用する場合、その他の公知の高尿酸血症・痛風等の治療・改善に用いられる医薬品等の有効成分、例えばアロプリノール、マグネシウム、クエン酸塩等と組み合わせて使用することもできる。
【0047】
(活性酸素種生成抑制剤)
一実施形態において、焙煎穀物の種子に由来する、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害剤を有効成分として含む、活性酸素種生成抑制剤が提供される。
【0048】
キサンチンオキシダーゼは、キサンチンやヒポキサンチン等のプリン体から尿酸への代謝に関与する過程で活性酸素種を生成させる。そのため、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害剤は活性酸素種生成抑制剤として機能し得る。本明細書で使用する場合、「活性酸素種」とは、酸素由来の反応性の高い酸素種の総称であり、その例として、スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカル等が挙げられる。本明細書における活性酸素種生成抑制は、生体試料中、例えば血中又は尿中での活性酸素濃度低減により評価できる。
【0049】
焙煎穀物の種子に由来する成分を活性酸素種生成抑制の有効成分として使用する場合、その他の公知の有効成分、例えばカタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)等の酵素やアスコルビン酸、グルタチオン等の内因性抗酸化物質等と組み合わせて使用することもできる。
【0050】
(飲食品組成物)
一実施形態において、尿酸生成抑制剤又は活性酸素種生成抑制を含む飲食品組成物が提供される。
【0051】
尿酸生成抑制剤又は活性酸素種生成抑制の有効成分はオオムギ等の穀物の種子に由来するため、飲食品組成物は麦茶のようなオオムギ等の穀物の種子を原料とする飲食品であってもよい。有効成分を含む画分を濃縮し、これをサプリメント等の尿酸生成又は活性酸素種生成の抑制を目的とする製品等に配合することもできる。
【0052】
飲食品組成物は、固形、半固形又は液体の形状とすることができる。飲食品としては、麦茶のような飲料の形態が好ましい。飲料は、焙煎穀物の種子に由来する成分を含有する限り、得られた成分が希釈又は濃縮されていてもよい。
【0053】
使用する焙煎穀物のL値は所望とする効果を奏する限り特に限定されないが、上述のとおり、阻害活性のみならず味も重要な要因となる飲料として使用に適したL値は下限が20以上となり、20~50の範囲内がL値として好ましい。L値が20未満だと焦げ臭くなり、また、50超だと、生の麦の香味が残ってしまい、また、焙煎が少ないためデンプン質が十分に変化しておらず、例えば容器詰め飲料等にする場合、長期保管をおこなうと、経時的にデンプン老化に伴うオリが大量に発生し、外観が劣る結果となるため好ましくない。
【0054】
尿酸生成抑制剤又は活性酸素種生成抑制剤の有効成分以外に他の成分を含有していてもよい。そのような他の成分としては、オオムギ等の穀物の種子に由来する有効成分以外の成分、例えばミネラル成分、ビタミン類、酸味料、酸化防止剤、甘味料、着色料等がある。固形の場合、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤等が適宜配合され得る。
【0055】
飲食品組成物は容器に充填され得る。尿酸生成抑制剤又は活性酸素種生成抑制剤の有効成分を容器に充填する際、必要に応じて、アスコルビン酸やアスコルビン酸ナトリウム等の酸化防止剤、香料、炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤、乳化剤、保存料、甘味料、着色料、増粘安定剤、調味料、強化剤等の添加剤を単独又は組み合わせて配合してもよい。
【0056】
飲食品組成物を充填する容器としては、例えばガラス瓶、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(PETボトル)、多層成形容器等のプラスチック容器、紙容器、金属容器等を挙げることができる。
【0057】
飲食品組成物は、錠剤やカプセル形態のようなサプリメントの形態であってもよい。本明細書で使用する場合、「サプリメント」は、あらゆる健康食品、例えば栄養補助食品、健康補助食品、機能性食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、特別用途食品等として使用されることが想定される。サプリメントの場合、焙煎による香味よりも阻害活性が重要になるため、L値の上限は20未満であってもよい。
【0058】
飲食品組成物は、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害に関連するあらゆる用途に使用することができる。例えば、飲食品組成物は、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害が必要とされる疾患の予防又は治療に使用され得る。そのような疾患は、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの酵素活性亢進、あるいは尿酸濃度増大又は活性酸素種増大に起因する疾患であればどのような疾患でもよい。モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害が必要とされる疾患は全身性又は局所性のいずれでもよい。
【0059】
一実施形態において、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害が必要とされる疾患は、高尿酸血症、炎症、自己免疫疾患、肺疾患、心血管疾患、脳血管疾患、腎疾患、鎌状赤血球症及び癌から成る群から選択される。
【0060】
高尿酸血症とは、血液中の尿酸の濃度が高い状態を指し、例えば、血液中の尿酸が7.0mg/dlを超えた場合に高尿酸血症と診断され得る。高尿酸血症は、尿酸産生過剰型、尿酸排泄低下型、産生過剰と排泄低下の混合型、腎外性排泄低下型の4つに分類され得る。
【0061】
痛風、腎機能障害、尿毒症、尿路結石、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞等のような高尿酸血症に起因する疾患もモリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害が必要とされる疾患に含まれ得る。
【0062】
炎症の例としては、関節リウマチ、変形性関節症等の関節の炎症;潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患;喘息、慢性閉塞性気道疾患等の炎症性肺疾患;角膜ジストロフィー、トラコーマ、オンコセルカ症、ぶどう膜炎、交感神経眼炎、眼内炎等の眼の炎症性疾患;歯周炎、歯肉炎等の歯肉の炎症性疾患;急性尿酸腎症、急性腎不全、糸球体腎炎、ネフローゼ等の腎臓の炎症性疾患;ニキビ、硬化性皮膚炎、乾癬、湿疹、光老化、シワ等の皮膚の炎症性疾患;脳脊髄炎、ウイルス性又は自己免疫性脳炎等の中枢神経系の炎症性疾患;心筋症等の心臓の炎症性疾患等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
自己免疫疾患の例としては、強皮症、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
肺疾患の例としては、上記のような炎症性肺疾患の具体例に加え、性肺障害、睡眠時無呼吸症候群(SAS)、肺高血圧等が挙げられる。
【0065】
心血管疾患の例としては、高血圧、心不全、心房細動、動脈硬化等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
脳血管疾患の例としては、脳梗塞、脳血管性痴呆等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
腎疾患の例としては、上記のような腎臓の炎症性疾患の具体例に加え、腎障害、腎結石、尿路結石が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
癌の例としては、尿酸値の上昇に伴って生じる癌、例えば呼吸器、消化器、乳腺、生殖器等に生じる癌等が挙げられる。
【0069】
モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害が必要とされる疾患は、活性酸素種の発現に起因する疾患や酵素を介した健康障害であってもよい。モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼの阻害により酸化ストレスの軽減、ひいては血管内皮機能の改善や虚血状態等の細胞障害時からの活性酸素産生の抑制が期待され得る。血管内皮機能の改善が必要な疾患として心血管疾患、例えば高血圧等が挙げられる。虚血状態等の細胞障害時からの活性酸素産生の抑制が必要とされる疾患として種々の炎症等が挙げられる。活性酸素種の発現に起因する疾患や酵素を介した健康障害は、炎症、自己免疫疾患、肺疾患、心血管疾患、鎌状赤血球症及び癌から成る群から選択され得る。
【0070】
(製造方法)
一実施形態において、モリブデン-鉄/硫黄-フラビンヒドロキシラーゼを阻害する成分を含む画分を製造する方法であって、焙煎穀物の種子を水及び親水性溶媒から成る群から選択される1種又は2種以上の溶媒での抽出にかける工程を含む、方法が提供される。
【0071】
抽出条件は上述のとおり穀類の種類や、抽出時の穀物の状態(粉砕されているか否か等)によって異なるが、当業者は所望とする阻害活性の程度に応じて適宜条件を決定することができる。
【0072】
得られた画分を更に分画・精製工程にかけることができる。精製・分画の手段は上述のとおり公知の方法により行うことができ、例えば、液液分配や、担体、例えば分離用シリカゲルや樹脂、ゲルろ過材、セルロース、珪藻土、鉱物などを用いた分離のほか、透析や限外濾過膜により実施できる。
【0073】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0074】
実施例1:キサンチンオキシダーゼ阻害活性の評価
公知の方法(T. Hatano et al., Chem. Pharm. Bull., 38, 1224 (1990)およびR. Tanaka et al., 痛風と核酸代謝, 37, 117 (2013).)を改変し、被験物質存在下、キサンチンにキサンチンオキシダーゼ(XOD)を作用させて生成する尿酸量または減少するキサンチン量を測定することで、酵素に対する阻害活性を評価した。詳細な手順は以下の通りである。
【0075】
(使用溶液の調製)
pH7.6 リン酸緩衝液(0.1M、以下「緩衝液」とする)500mLに7.6mgのキサンチン(富士フィルム和光純薬製)を溶解し、0.1mMキサンチン溶液を作成した(以下「キサンチン液」とする)。陽性対照として、6.8mgのアロプリノール(富士フィルム和光純薬製)を緩衝液50mLに溶解して対照原液とし、適宜希釈して用いた(以下「陽性対照液」とする)。キサンチンオキシダーゼ(XA4500 バターミルク由来 シグマ アルドリッチ製)8μLを緩衝液に溶解し、25mLに定容してキサンチンオキシダーゼ溶液を作成した(以下「酵素液」とする)。被験物質溶液(アッセイ液)は、最終濃度を考慮の上、緩衝液または緩衝液混合液(緩衝液:DMSO=1:1)に溶解して作成した。キサンチン液および陽性対照液は、作成後冷凍保存し、評価試験時に融解して適宜用いた。酵素液および被験物質溶液は、評価時に用時調製した。
【0076】
(反応)
表1に従い、各液を1.5mL容積のマイクロチューブに加え、恒温装置(アズワン製THEMO MAX TM-1)を用いて恒温水槽上で37℃50分反応させた。反応時間終了後、各マイクロチューブに1M塩酸25μLを加えて反応停止させた。
【表1】
(※)検体溶解に緩衝液混合液を用いた場合は、緩衝液混合液を用いた
【0077】
(分析)
反応後のマイクロチューブ内容液はすべてHPLC用フィルター(日本ポール製 エキクロディスク13CR 0.45μm/φ13mm)で不溶物を除去後、HPLC(Waters 2695 セパレーションモジュール)および紫外吸収検出器(Waters 2487 デュアル波長吸光度検出器)を用いた分析に供した。分析条件は次の通りである。
カラム:COSMOSIL 5C18-ARII(φ4.6mm×250mm、ナカライテスク製)
ガードカラム:COSMOSIL 5C18-ARII(φ4.6mm×10mm、ナカライテスク製)
移動相(A):30mM リン酸水溶液 (B) 60% アセトニトリル
グラジェントプログラム:0~14分(A:B=100:0 以下同じ)->15~21分(20:80)->22~30分(100:0)
流速:1mL/分
カラム温度:30℃
サンプル保持温度:15℃
検出:269nm(キサンチン)および295nm(尿酸)
【0078】
(阻害活性評価)
阻害活性は、以下の式で算出される阻害率により評価した。
【0079】
〔キサンチン減少量基準 阻害率(阻害率XAとする。以下同様)〕
キサンチン保持時間:約9.8分
阻害率XA(%)
=[1-(面積XA Blank-面積XA Test)/面積XA Blank]×100
ここでいう「面積XA」はクロマトグラムにおけるキサンチンのピーク面積を示す。
【0080】
〔尿酸生成量基準 阻害率(阻害率UAとする。以下同様)〕
尿酸保持時間:約7.6分
阻害率UA(%)
=[1-(面積UA検体Test-面積UA検体Blank)/(面積UA対照Test-面積UA対照Blank)]×100
ここでいう「面積UA」はクロマトグラムにおける尿酸のピーク面積を示す。
【0081】
なお評価の選択において、キサンチン、尿酸のいずれかを採用するかの判断基準については、基本的にはキサンチン減少量基準を採用する。ただし、HPLC分析において、検体自体に本来含まれる成分の保持時間等により、キサンチンのピーク定量からの分析が困難である場合は、尿酸生成量基準を採用した。
【0082】
実施例2:焙煎オオムギの作成
麦茶に含まれるキサンチンオキシダーゼ阻害活性成分を特定するべく、焙煎した六条大麦、二条大麦の抽出物を準備した。なお、粉砕L値は、各麦適量を小型超高速粉砕機(大阪ケミカル株式会社製 Wonder Blender、型番WB-1)を用いて5~15秒粉砕し、目視にて未粉砕物がないことを確認後、色差計(日本電色工業株式会社製 SE7720)にて表面色を測定して求めた。
【0083】
(実施例2-1)
媒体焙煎・六条大麦は、カナダ産レガシー種を特許4456178号公報に記載の方法に基づき媒体焙煎した。具体的には、オオムギに蒸気噴霧処理を施して含有水分量が約25重量%になるように調整し、この大麦を回転ドラム式媒体焙煎窯に投入し、焙煎温度255℃で90秒間の一次焙煎を行った。その後、0.17L/分の割合で水をシャワー状に噴霧し、瞬間的(約1秒)に温度を90℃下げ、麦の品温が165℃になるように急冷した。続いて、焙煎温度を280℃で90秒間の二次焙煎を行い、この焙煎した大麦を、冷却装置のコンベアに移し、麦の品温が80~140℃の温度域に47秒間滞留するように冷却ファン及びコンベアの速度を調整して緩慢冷却をし、焙煎麦を製造した。得られた焙煎麦の粉砕L値は31.01であった。
【0084】
(実施例2-2)
熱風焙煎大麦は、小型バッチロースター(東京産機工業製 TG-5型バッチロースター)に、カナダ産レガシー種(六条大麦)またはオーストラリア産ラトローブ種(二条大麦)の未焙煎穀粒を2kg投入して熱風焙煎して作成した。火力を適宜調整しながら、品温達温が各指定の温度になったところで焙煎機から排出し、冷却して各焙煎麦を得た。得られた焙煎麦の粉砕L値は表2及び表3に示す。
【0085】
(実施例2-3)
静置焙煎大麦は、未焙煎のカナダ産レガシー種(六条大麦)穀粒50乃至100gを、ホットプレート(アズワン製 セラミックホットプレート CHP-170AF)を用いて加熱することで作成した。具体的には、アルミホイルでアルミ皿(14cm×14cm)を作成し、これに上記麦を配置後、プレートに耐熱ガラス板を配してアルミ皿を加熱(A法)、またはプレートに直接アルミ皿を置いて(B法)加熱した。設定温度250度で5~20分おきに適宜攪拌しながら60分加熱後、さらに設定温度300度で120分、5~20分おきに適宜攪拌しながら静置焙煎することで調製した。得られた焙煎麦の粉砕L値は表2に示す。
【0086】
実施例3:焙煎大麦粗抽出物のXOD阻害活性
媒体焙煎・六条大麦(実施例2-1)100gに対し、95~100℃の熱水2,000gを加え、温度を98±2℃に保持して5分おきに攪拌しながら30分抽出し、得られた抽出液を篩(20メッシュ及び80メッシュ)及びネルで濾過した後、減圧及び凍結乾燥による濃縮を行い、抽出物を得た。抽出効率は45.5%(実施例3-1抽出物)であった。
【0087】
活性評価は、抽出物(実施例3-1抽出物)の終濃度が1w/v%となるようにアッセイ液を調製し、実施例1に示す手法を用いて、キサンチンオキシダーゼ阻害活性評価試験に供した。
【0088】
試験の結果、57.0%(阻害率XA)および54.9%(阻害率UA)でキサンチンオキシダーゼ阻害が認められたことから、焙煎大麦抽出物にキサンチンオキシダーゼに対する阻害活性が存在することが判明した。
【0089】
実施例4:焙煎温度とキサンチンオキシダーゼ阻害
大麦の焙煎がキサンチンオキシダーゼ阻害活性に及ぼす影響を確認した。
【0090】
(抽出)
六条大麦の媒体焙煎品(実施例2-1)、熱風焙煎品(実施例2-2)、および静置焙煎品(実施例2-3)を、ハンドミルを用いて30メッシュ上で95%が残る程度に粗く粉砕した。また、二条大麦の熱風焙煎品(実施例2-2)も同様に粉砕した。粉砕した各麦に、95~100℃の熱水を対麦量で20倍容量を加え、温度を97±2℃に保持して5分おきに攪拌しながら30分抽出した。抽出液をネル濾過、続いてろ紙濾過(アドバンテック東洋 定性濾紙 No.1)した後、減圧及び凍結乾燥による濃縮を行い、抽出物を得た。
【0091】
(活性評価)
実施例1に記載の手法に基づき阻害活性を評価した。各麦の抽出効率及び各抽出物の終濃度1w/v%における阻害率(阻害率XA(%))を以下の表に示す。
【表2】
【表3】
【0092】
表2及び3に示すように、未焙煎の大麦の阻害活性は弱く、熱風焙煎品において、焙煎温度の上昇に伴う阻害活性の増強が認められたことから、本阻害活性には焙煎工程が重要であることが示された。具体的に、粉砕L値が80以下、好ましくは50以下、さらに好ましくは40以下が良好であった。一方、少なくとも六条大麦の場合、焙煎の強い焙煎品においては、抽出効率が低下したことから、熱風・媒体・静置を問わず、粉砕L値は、抽出効率も考慮すると15.5以上、好ましくは20以上であることが好ましいことが示された。
【0093】
実施例5:抽出溶媒とキサンチンオキシダーゼ阻害
焙煎大麦からの抽出溶媒の違いがキサンチンオキシダーゼ阻害活性に及ぼす影響を確認した。
【0094】
(抽出)
六条大麦・媒体焙煎品(実施例2-1)100gを30メッシュの篩に95%残る程度の粗さにハンドミルで粉砕した。これにn-ヘキサン400mLを加え17時間、室温静置抽出を行い、抽出液と残渣を分離した。濾過液は減圧及び凍結乾燥による濃縮を行い、粘稠性のある液状抽出物を得た(実施例5-1 ヘキサン抽出物 抽出効率 0.874%)。次に、残渣に、メタノール400mLを加えて7時間、室温静置後、抽出液と残渣を分離した。メタノール抽出は2回行った(実施例5-2 メタノール抽出物 抽出効率 2.97%)。メタノールを分離後の残渣に、98±2℃の熱水2,000gを加え、湯温を保持しつつ5分おきに攪拌しながら30分間抽出した。抽出操作後、手網で残渣を除去して得た抽出液を熱時にネル及び濾紙(アドバンテック東洋 定性濾紙 No.1)を用いて濾過し、30℃程度まで冷却後に減圧、凍結乾燥による濃縮を行うことで六条大麦の水抽出物を得た(実施例5-3 熱水抽出物 抽出効率 56.5%)。
【0095】
(活性評価)
実施例5の各抽出物について、実施例1に記載の手法に基づき終濃度1w/v%における阻害活性を評価した。
【表4】
【0096】
表4に示す通り、ヘキサン抽出物は阻害活性が弱く、メタノール抽出物には非常に強い活性が認められ、熱水抽出物は中程度であった。一方、各抽出物の対原料抽出効率をみると、メタノール抽出物は強い阻害活性を示すものの、抽出物に占める割合は全体の2.97%で少量であった。熱水抽出物は中程度の阻害活性ではあるが、抽出物全体の56.5%を占めており、本抽出物の阻害活性で高い寄与率であることが推定されたため、以下熱水抽出物について分離を進めた。
【0097】
実施例6:分子量別画分とキサンチンオキシダーゼ阻害
焙煎大麦抽出物の分子量の違いがキサンチンオキシダーゼ阻害活性に及ぼす影響を確認した。
【0098】
(抽出)
六条大麦・媒体焙煎品(実施例2-1)100gを30メッシュの篩に95%残る程度の粗さにハンドミルで粉砕した。これにn-ヘキサン400mLを加えて15~25℃の環境下17時間静置した。これをろ紙濾過(アドバンテック東洋 定性濾紙 No.2)、続いてメンブランフィルタ(アドバンテック東洋 混合セルロース 0.45μm)で濾過し、残渣(ヘキサン残渣)と濾過液に分離した。ヘキサン残渣を全量回収後、メタノール400mLを加えて15~25℃の環境下6時間抽出(1回目)し、ろ紙濾過(アドバンテック東洋 定性濾紙 No.1)で抽出液と残渣に分離した。この残渣に再度メタノール400mLを加え、15~25℃の環境下15時間抽出し(2回目)、同様にろ紙濾過(アドバンテック東洋 定性濾紙 No.1)で抽出液と残渣(メタノール残渣)に分離した。メタノール残渣は全量回収し、15~25℃の環境下でドラフト内風乾後、98±2℃の熱水2,000gを加え、湯温を保持しつつ5分おきに攪拌しながら30分間抽出した。抽出後は全量を20メッシュ、80メッシュ、200メッシュ、500メッシュの順で篩を用いて固液分離し、得られた濾過液を5℃で1時間冷却後、遠心分離(5℃ 3000×g 15分)に付した。上澄をネルろ過、次いでセライト(セライトNo.545 富士フィルム和光純薬)で微細濾過し、抽出濾過液を得た(実施例6抽出液1772.8g Bx 3.305% 抽出効率 58.6%)。
【0099】
(分子量別分画:限外濾過膜による濾過)
実施例6抽出液を日本ポール(株)製の限外濾過フィルターユニットMinimateシステムに、公称分子量が大きい順に通液・濃縮して、限外濾過膜による分子量別分画を行った。なおMinimateシステムに用いるMinimate TFFカプセルの公称分画分子量は、10Kが10,000、5Kが5,000、3Kが3,000および1Kが1,000である。分画の手順を図1に示す。限外濾過による分画操作は、各膜において、濾過液、すなわちTFFカプセル濾過側出口(Vent or Filtrate)より排出される液の固形分濃度がBx0.1%未満になるまで行った。得られた各画分は、減圧、凍結乾燥による濃縮を行い、各固形物とした(実施例6 分画1~5)
【0100】
実施例1記載の手法に基づき、終濃度1w/v%における阻害活性を評価した。
【表5】
【0101】
表5より、分子量10,000以上(実施例6 分画1)、および同1,000~3,000(実施例6 分画4)は阻害活性が50%に満たず、分子量5,000~10,000(実施例6 分画2)、および同3,000~5,000(実施例6 分画3)は中程度の阻害活性を示す一方、低分子である分子量1,000以下の画分(実施例6 分画5)が強い阻害活性を示した。
【0102】
実施例7:各種穀類とキサンチンオキシダーゼ阻害
各種穀類の抽出物がキサンチンオキシダーゼ阻害活性に及ぼす影響を確認した。
【0103】
(抽出)
各穀類は市販品を用いた。各穀類に、95~100℃の熱水を対重量で20倍量加え、温度を97±2℃に保持して5分おきに攪拌しながら30分抽出した。抽出液をネル濾過、篩濾過(150メッシュ)して固液分離し、5℃に冷却後、遠心分離(1530×g、5℃、15分)により不溶物を沈殿させた後、上澄をネルおよびろ紙濾過(アドバンテック東洋 定性濾紙 No.1)し、減圧及び凍結乾燥による濃縮を行い、抽出物を得た。
【0104】
(活性評価)
実施例1に記載の手法に基づき阻害活性を評価した。各穀類の抽出操作における抽出効率(%)及び抽出物の終濃度1w/v%における阻害率(阻害率XA(%))を以下の表に示す。
【表6】
図1