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  • 特開-水素分離フィルター 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159103
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】水素分離フィルター
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20241031BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20241031BHJP
   C01B 3/56 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D69/12
C01B3/56 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074869
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 智司
(72)【発明者】
【氏名】小暮 智也
【テーマコード(参考)】
4D006
4G140
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA06
4D006MB04
4D006MC02X
4D006NA31
4D006PA01
4D006PB66
4G140FA06
4G140FB06
4G140FB09
4G140FC01
4G140FE01
(57)【要約】
【課題】高い水素選択性を有する水素分離膜を提供する。
【解決手段】水素分離フィルターは、第1の金属の箔と、前記箔上に形成された第2の金属からなる格子拡張層と、前記格子拡張層上に形成された、第3の金属からなる水素解離層と、を含む。前記第1の金属は、Pd、V、Ta、Nb、及びこれらの合金からなる群から選択される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属の箔と、
前記箔上に形成された第2の金属からなる格子拡張層と、
前記格子拡張層上に形成された、第3の金属からなる水素解離層と、
を含み、
前記第1の金属が、Pd、V、Ta、Nb、及びこれらの合金からなる群から選択され、
前記第2の金属がAg、Au、Al、Pt、及びこれらの合金からなる群から選択され、且つ前記第3の金属がPdであるか、又は
前記第2の金属がNb、W、Mo、及びこれらの合金からなる群から選択され、且つ前記第3の金属がVであるか、又は
前記第2の金属がNb、W、Mo、V、及びこれらの合金からなる群から選択され、且つ前記第3の金属がTaであるか、又は
前記第2の金属がMg、Y、Zr、Cd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Hf、Sc、及びこれらの合金からなる群から選択され、且つ前記第3の金属がTiであるか、又は
前記第2の金属がEu、Li、Na、K、Rb、Cs、Ba、及びこれらの合金からなる群から選択され、且つ前記第3の金属がNbである、水素分離フィルター。
【請求項2】
前記第1の金属がVである、請求項1に記載の水素分離フィルター。
【請求項3】
前記第3の金属がPdである、請求項1に記載の水素分離フィルター。
【請求項4】
前記第2の金属がAgである、請求項1に記載の水素分離フィルター。
【請求項5】
前記第3の金属と同じ組成及び結晶構造を有するバルク金属の格子定数a3bと、前記水素解離層における前記第3の金属の格子定数aであって、前記格子拡張層と前記水素解離層の間の界面に対して垂直な結晶面の面間隔から求めた格子定数aが、下記式(1)を満たす、請求項1に記載の水素分離フィルター。
3b<a (1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分離フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
水素の精製方法として、金属膜を用いた膜分離法が知られている。特許文献1には、純パラジウム板の両面にパラジウム銀膜をスパッタにより形成して得られた水素分離膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-109146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
より高い水素選択性を有する水素分離膜が望まれている。本開示はより高い水素選択性を有する水素分離膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の態様は以下のものを含む。
[態様1]
第1の金属の箔と、
前記箔上に形成された第2の金属からなる格子拡張層と、
前記格子拡張層上に形成された、第3の金属からなる水素解離層と、
を含み、
前記第1の金属が、Pd、V、Ta、Nb、及びこれらの合金からなる群から選択され、
前記第2の金属がAg、Au、Al、Pt、及びこれらの合金からなる群から選択され、且つ前記第3の金属がPdであるか、又は
前記第2の金属がNb、W、Mo、及びこれらの合金からなる群から選択され、且つ前記第3の金属がVであるか、又は
前記第2の金属がNb、W、Mo、V、及びこれらの合金からなる群から選択され、且つ前記第3の金属がTaであるか、又は
前記第2の金属がMg、Y、Zr、Cd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Hf、Sc、及びこれらの合金からなる群から選択され、且つ前記第3の金属がTiであるか、又は
前記第2の金属がEu、Li、Na、K、Rb、Cs、Ba、及びこれらの合金からなる群から選択され、且つ前記第3の金属がNbである、水素分離フィルター。
[態様2]
前記第1の金属がVである、態様1に記載の水素分離フィルター。
[態様3]
前記第3の金属がPdである、態様1又は2に記載の水素分離フィルター。
[態様4]
前記第2の金属がAgである、態様1~3のいずれか一つに記載の水素分離フィルター。
[態様5]
前記第3の金属と同じ組成及び結晶構造を有するバルク金属の格子定数a3bと、前記水素解離層における前記第3の金属の格子定数aであって、前記格子拡張層と前記水素解離層の間の界面に対して垂直な結晶面の面間隔から求めた格子定数aが、下記式(1)を満たす、態様1~4のいずれか一つに記載の水素分離フィルター。
3b<a (1)
【発明の効果】
【0006】
本開示の水素分離膜は高い水素選択性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係る水素分離フィルターの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、適宜図面を参照して実施形態を説明する。以下の説明で参照する図面において、同一の部材又は同様の機能を有する部材には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する場合がある。説明の都合上、図面中の各部材の寸法比率及び形状が誇張され、実際の寸法比率及び形状とは異なる場合がある。また、本願において記号「~」を用いて表される数値範囲は、記号「~」の前後に記載される数値のそれぞれを下限値及び上限値として含む。本願において開示された数値範囲の上限値及び下限値は、単独で又は任意に組み合わせて用いることができる。
【0009】
本願において、「~を含む」及び「~を含有する」は追加の成分を含み得ることを意味し、「~からなる」及び「~から本質的になる」を包含する。「~から本質的になる」は、実質的に悪影響を及ぼさない追加の成分を含み得ることを意味する。「~からなる」は、記載される材料のみを含むことを意味するが、不可避の不純物を含むことを除外しない。
【0010】
本願において「垂直」とは正確な垂直だけではなく実質的な垂直も含み、「平行」とは正確な平行だけではなく実質的な平行も含む。また、本願において「~上に」は、文脈上特に明記されていない限り、「直接的に~上に」及び「間接的に~上に」の両方を包含する。
【0011】
図1に示される実施形態に係る水素分離フィルター1は、箔20と、箔20上に形成された格子拡張層40と、格子拡張層40上に形成された水素解離層60と、を含む。
【0012】
図1に示す水素分離フィルター1は以下のようにして水素を選択的に分離する。水素解離層60の表面64において、水素分子が解離吸着して水素原子が生成する。水素原子は、水素解離層60、格子拡張層40、及び箔20内を拡散する。箔20の表面22において水素原子が再結合して水素分子となり、水素分離フィルター1を離れる。このようにして、水素分離フィルター1は水素を選択的に分離する。
【0013】
箔20は第1の金属の箔である。第1の金属は水素がその中を拡散可能な金属である。具体的には、第1の金属はPd、V、Ta、Nb、及びこれらの合金からなる群から選択される。特に、第1の金属はVであってよい。Vは安価で且つ水素拡散係数が大きい。
【0014】
格子拡張層40は第2の金属からなる。水素解離層60は第3の金属からなる。
【0015】
第3の金属は、Pd、V、Ta、Ti、及びNbからなる群から選択される。特に、第3の金属はPdであってよい。Pdは特に高い水素解離性能を有する。
【0016】
第2の金属は、第3の金属と同じ結晶構造を有する。また、格子拡張層40中の第2の金属は、水素解離層60中の第3の金属と同じ結晶配向を有してよい。
【0017】
第2の金属と同じ組成及び同じ結晶構造を有するバルク金属(以下、適宜「第2バルク金属」という)は、格子定数a2bを有する。第3の金属と同じ組成及び同じ結晶構造を有するバルク金属(以下、適宜「第3バルク金属」という)は、格子定数a3bを有する。格子定数a2b及び格子定数a3bは、下記式(2)を満たしてよい。
1.03a3b≦a2b≦1.15a3b (2)
【0018】
なお、第2の金属と第3の金属が立方晶以外の結晶構造を有する場合は、第2バルク金属と第3バルク金属の同じ結晶軸の格子定数が式(2)を満たしてよい。ここで、バルク金属とは、完全に緩和した状態の、自立した、すなわち他の部材により支持されていない金属を意味する。第2の金属及び第3の金属が、同じ結晶構造を有するとともに式(2)を満たす組成を有することにより、水素解離層60中の第3の金属の格子定数aを、第3バルク金属の格子定数a3bよりも大きくすることができる。
【0019】
例えば、第3の金属が面心立方格子(fcc)構造を有するPdである場合、第2の金属はfcc構造を有するAg、Al、Au、Pt、及びこれらの合金からなる群から選択されてよく、特に、第2の金属は、比較的安価で且つ化学的に安定である、Agであってよい。第3の金属が体心立方格子(bcc)構造を有するVである場合、第2の金属はbcc構造を有するNb、W、Mo、及びこれらの合金からなる群から選択されてよい。第3の金属がbcc構造を有するTaである場合、第2の金属はbcc構造を有するNb、W、Mo、V、及びこれらの合金からなる群から選択されてよい。第3の金属が六方最密充填(hcp)構造を有するTiである場合、第2の金属はhcp構造を有するMg、Y、Zr、Cd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Hf、Sc、及びこれらの合金からなる群から選択されてよい。第3の金属がbcc構造を有するNbである場合、第2の金属はbcc構造を有するEu、Li、Na、K、Rb、Cs、Ba、及びこれらの合金からなる群から選択されてよい。緩和状態のこれらの金属の格子定数を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
水素解離層60中の第3の金属の格子定数aは、下記式(1)を満たしてよい。
3b<a (1)
【0022】
第3の金属の格子定数aは、下記式(3)を満たしてよい。
1.01a3b≦a≦1.05a3b (3)
【0023】
第3の金属の格子定数aは、下記式(4)を満たしてよい。
1.02a3b≦a≦1.03a3b (4)
【0024】
ここで、第3の金属の格子定数aは、格子拡張層40と水素解離層60の間の界面62に対して垂直な結晶面の面間隔から求められる。詳細には、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、第3の金属の電子線回折パターンを得、電子線回折パターンに基づき格子拡張層40と水素解離層60の間の界面62に対して垂直な結晶面の面間隔を求め、面間隔の値を用いて第3の金属の格子定数aを求める。上記式(1)は、水素解離層60中の第3の金属の結晶格子が、完全に緩和した状態と比べて、少なくとも界面62と平行な方向に拡張していることを示している。水素解離層60中の第3の金属の結晶格子は、界面62と垂直な方向にも拡張していてもよい。水素解離層60において結晶格子が拡張されていることにより、水素解離層60の水素拡散係数が大きくなる。その結果、水素分離フィルター1が高い水素選択性を有することができる。例えば、第3の金属がPdの場合、Pd結晶格子が拡張されることにより水素の拡散経路が八面体サイトから四面体サイトに変わり、それにより原子核の量子効果により水素が拡散しやすくなる。
【0025】
本実施形態に係る水素分離フィルター1の製造方法の一例を説明する。まず、箔20の表面をイオンエッチングにより清浄化する。次に、箔20上にスパッタ法により第2の金属を堆積させて格子拡張層40を形成する。次に、格子拡張層40上に第3の金属を堆積して水素解離層60を形成する。こうして、本実施形態に係る水素分離フィルター1が得られる。
【0026】
本発明は、上記の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができる。
【実施例0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
(1)水素分離フィルターの作製
実施例1
厚さ0.1mmのバナジウム箔(V箔)を、純Agターゲット及び純Pdターゲットを備えるスパッタ装置の成膜室内に置いた。V箔の表面をArイオンエッチングにより清浄化した。スパッタ法によりV箔上にAg層を形成した。次にスパッタ法によりAg層上にPd層を形成した。こうして水素分離フィルター(以下、単に「フィルター」という)を作製した。
【0029】
比較例1
厚さ0.1mmのV箔を、AgPd合金ターゲットを備えるスパッタ装置の成膜室内に置いた。V箔の表面をArイオンエッチングにより清浄化した。スパッタ法によりV箔上にAgPd合金層を形成した。こうしてフィルターを作製した。
【0030】
(2)格子定数の測定
TEMを用いて、実施例1のフィルターのPd層の電子線回折パターンを得た。電子線回折パターンに基づき、Pd層とAg層の間の界面に対して垂直な結晶面の面間隔を求めた。この面間隔の値を用いてPd層の格子定数を算出した。格子定数apdは完全に緩和したPdの格子定数apdb(0.38898nm)の約1.026倍であった。
【0031】
(3)水素分離性能評価
JIS K7126:2006(プラスチック及びシート-ガス透過度試験方法-第1部:差圧法)に準拠して、ガスクロマトグラフ法により実施例1及び比較例1のフィルターの水素ガス透過度及び窒素ガス透過度(単位:mol・m-2・s-1・Pa-1)を測定した。実施例1のフィルターの水素ガス透過度と窒素ガス透過度の比(すなわち、水素ガス透過度/窒素ガス透過度。以下、単に「透過度比」という)は、比較例1のフィルターの透過度比の12倍であった。実施例1のフィルターは、比較例1のフィルターと比べて著しく高い選択性で水素を分離することができることが示された。
【符号の説明】
【0032】
1:水素分離フィルター、20:箔、40:格子拡張層、60:水素解離層、62:格子拡張層と水素解離層の間の界面、64:水素解離層の表面

図1