IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イーグル工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-メカニカルシール 図1
  • 特開-メカニカルシール 図2
  • 特開-メカニカルシール 図3
  • 特開-メカニカルシール 図4
  • 特開-メカニカルシール 図5
  • 特開-メカニカルシール 図6
  • 特開-メカニカルシール 図7
  • 特開-メカニカルシール 図8
  • 特開-メカニカルシール 図9
  • 特開-メカニカルシール 図10
  • 特開-メカニカルシール 図11
  • 特開-メカニカルシール 図12
  • 特開-メカニカルシール 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159113
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/36 20060101AFI20241031BHJP
   F16J 15/38 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
F16J15/36
F16J15/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074894
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】小南 拓海
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA01
3J041BA02
3J041BA10
(57)【要約】
【課題】鳴きや振動の発生を抑制可能なメカニカルシールを提供する。
【解決手段】ハウジング3側に取り付けられる静止密封環20と、静止密封環20と相対摺動し、ハウジング3に挿通される回転軸2に取り付けられる回転密封環10と、を備えるメカニカルシール1であって、一方の密封環10と、一方の密封環10を保持するケース30と、一方の密封環10とケース30との間に配置される弾性を有する二次シール40は、アッシ5を構成しており、アッシ5を構成する複数の部材は樹脂G1を介して固定されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング側に取り付けられる静止密封環と、前記静止密封環と相対摺動し、前記ハウジングに挿通される回転軸に取り付けられる回転密封環と、を備えるメカニカルシールであって、
少なくとも前記密封環の一方側は、前記一方の密封環と、前記一方の密封環を保持するケースと、前記一方の密封環と前記ケースとの間に配置される弾性を有する二次シールと、を有するアッシを構成しており、
前記アッシを構成する複数の部材は樹脂を介して固定されているメカニカルシール。
【請求項2】
前記一方の密封環と前記ケースは、樹脂を介して固定されている請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記樹脂は、前記ケースにおける内周面と前記一方の密封環における外周面との径方向での間に介在されている請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記ケースと、前記一方の密封環と、前記二次シールとは、前記樹脂を介して固定されている請求項3に記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記二次シールは、ゴムベローズである請求項4に記載のメカニカルシール。
【請求項6】
前記ケースは、軸方向先端側に前記一方の密封環を軸方向にかしめるかしめ部を有し、
前記樹脂は、前記かしめ部と前記ケースにおける内周面と前記一方の密封環における外周面との間に介在されている請求項3に記載のメカニカルシール。
【請求項7】
前記一方の密封環と前記ケースの一方は、径方向に凹んだ凹部と径方向に突出した凸部の一方を有し、前記一方の密封環と前記ケースの他方は、前記凹部と前記凸部の他方を有し、前記凸部は前記凹部に遊嵌されており、
前記樹脂は、前記凹部と前記凸部との間に配置されている請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項8】
前記一方の密封環は、前記回転密封環である請求項1ないし7のいずれかに記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシール、例えば回転軸を軸封するメカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシールは、流体機器のハウジングと該ハウジングを貫通するように配置される回転軸との間に装着されて使用されるものである。詳しくは、メカニカルシールは、ハウジングに取付けられる静止密封環の摺動面と、回転軸に取付けられ回転する回転密封環の摺動面とを周方向に摺接させて、被密封流体の漏れを防ぐ機能を有している。
【0003】
例えば、特許文献1に示されるようなメカニカルシールは、静止密封環と、回転密封環と、ケースと、ゴムベローズと、から主に構成されている。ケースは回転密封環に外嵌されたゴムベローズにおける外径側円筒部に外嵌されている。また、ケースには内径方向に突出する凸部が形成されている。この凸部は、回転密封環における外周面に形成されている凹部に遊嵌されている。ゴムベローズにおける内径側円筒部は、回転軸に外装されて回転密封環と回転軸との間を密封している。ゴムベローズはいわゆる二次シールである。
【0004】
このような特許文献1のメカニカルシールでは、回転軸の回転力がベローズに伝達され、ベローズからケースと回転密封環に伝達される。これにより、回転密封環は、回転軸と共に回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実願昭62-9940号(実開昭63-119971号)のマイクロフィルム(第2,3頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような特許文献1のメカニカルシールにおいては、ケースにおける凸部が回転密封環における凹部に遊嵌される構成であるため、製造が容易であり、さらに凹部に凸部を圧入するなどして回転密封環が破損することが防止されている。
【0007】
ところで、特許文献1のメカニカルシールにおいては、回転軸の回転時において、静止密封環と回転密封環との密接摺動により生じる摩擦力がゴムベローズに作用する。これにより、同メカニカルシールでは、ゴムベローズが捩り変形と復帰を繰り返すことがある。このとき、回転密封環が静止密封環に対して静止と移動を繰り返すいわゆるスティックスリップ現象が発生し、いわゆる鳴きや振動が発生する虞があった。
【0008】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、鳴きや振動の発生を抑制可能なメカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明のメカニカルシールは、
ハウジング側に取り付けられる静止密封環と、前記静止密封環と相対摺動し、前記ハウジングに挿通される回転軸に取り付けられる回転密封環と、を備えるメカニカルシールであって、
少なくとも前記密封環の一方側は、前記一方の密封環と、前記一方の密封環を保持するケースと、前記一方の密封環と前記ケースとの間に配置される弾性を有する二次シールと、を有するアッシを構成しており、
前記アッシを構成する複数の部材は樹脂を介して固定されている。
これによれば、アッシを構成する部材同士の相対移動が規制される。これにより、メカニカルシールは、二次シールの捩り変形が軽減され、鳴きや振動の発生が抑制される。
【0010】
前記一方の密封環と前記ケースは、樹脂を介して固定されていてもよい。
これによれば、メカニカルシールは、ケースと一方の密封環との相対移動が規制される。これにより、メカニカルシールは、二次シールの捩り変形がより効果的に軽減され、鳴きや振動の発生が抑制される。
【0011】
前記樹脂は、前記ケースにおける内周面と前記一方の密封環における外周面との径方向での間に介在されていてもよい。
これによれば、メカニカルシールは、簡便な構成でケースと一方の密封環とを固定することができる。また、周方向に連続して樹脂を介在させることで、一方の密封環がケースに対して周方向に相対的移動することをより抑制することができる。
【0012】
前記ケースと、前記一方の密封環と、前記二次シールとは、前記樹脂を介して固定されていてもよい。
これによれば、ケースと、一方の密封環と、二次シールは一体となる。これにより、メカニカルシールは、二次シールの捩り変形がより軽減される。また、樹脂の漏れが二次シールにより抑制される。
【0013】
前記二次シールは、ゴムベローズであってもよい。
これによれば、メカニカルシールは、捩り変形が生じやすいゴムベローズが樹脂により一方の密封環やケースと一体化されるため、鳴きを効率的に抑制することができる。
【0014】
前記ケースは、軸方向先端側に前記一方の密封環を軸方向にかしめるかしめ部を有し、
前記樹脂は、前記かしめ部と前記ケースにおける内周面と前記一方の密封環における外周面との間に介在されていてもよい。
これによれば、一方の密封環とケースの固定に必要な樹脂の量を少なくすることができる。また樹脂ばかりでなく、かしめ部によっても二次シールが保持される。
【0015】
前記一方の密封環と前記ケースの一方は、径方向に凹んだ凹部と径方向に突出した凸部の一方を有し、前記一方の密封環と前記ケースの他方は、前記凹部と前記凸部の他方を有し、前記凸部は前記凹部に遊嵌されており、
前記樹脂は、前記凹部と前記凸部との間に配置されていてもよい。
これによれば、メカニカルシールは、少ない樹脂で一方の密封環とケースの相対移動が確実に抑制される。
【0016】
前記一方の密封環は、前記回転密封環であってもよい。
これによれば、メカニカルシールは、二次シールの捩り変形が生じやすい回転密封環側に樹脂を塗布しているため、鳴きを効率的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る実施例1におけるメカニカルシールを示す断面図である。
図2】実施例1における回転密封環側の構造を軸方向から見た図である。
図3図2におけるA-A断面図である。
図4】実施例2における回転密封環側の構造においてケース先端をかしめる前の状態を軸方向から見た図である。
図5図4におけるB-B断面図である。
図6】実施例2における回転密封環側の構造においてケース先端をかしめた後の状態を軸方向から見た図である。
図7図6におけるC-C断面図である。
図8】実施例2における回転密封環側の構造の変形例について説明するための図である。
図9】実施例3における回転密封環側の構造を軸方向から見た図である。
図10図8におけるD-D断面図である。
図11】実施例3における回転密封環側の構造の変形例について説明するための図である。
図12】実施例3における回転密封環側の構造の別の変形例について説明するための図である。
図13】実施例4におけるメカニカルシールを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るメカニカルシールを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0019】
実施例1に係るメカニカルシールにつき、図1から図3を参照して説明する。以下、図1の紙面左側を左側、紙面右側を右側として説明する。
【0020】
図1に示されるように、本実施例のメカニカルシール1は、流体機器における回転軸2とハウジング3との間をシールするためのものである。
【0021】
メカニカルシール1は、アッシとしての回転側要素5と、静止側要素6から主に構成されている。
【0022】
回転側要素5は、回転密封環10と、ケース30と、二次シールとしてのゴムベローズ40と、付勢部材としてのコイルスプリング50と、ドライブリング60と、カラー70から主に構成されている。
【0023】
回転密封環10は、ケース30とゴムベローズ40を介して回転軸2に取り付けられている。また、回転密封環10は、コイルスプリング50から軸方向の付勢力を受けている。これにより、回転密封環10は、回転軸2と共に回転可能かつ回転軸2に対して軸方向に相対移動可能となっている。すなわち、メカニカルシール1は回転型のメカニカルシールである。
【0024】
静止側要素6は、静止密封環20と、カップガスケット4から主に構成されている。静止密封環20は、カップガスケット4を介在させてハウジング3に取り付けられている。これにより、静止密封環20は、非回転かつ軸方向に移動不能となっている。以降、回転密封環10側の構造について詳しく説明する。
【0025】
回転密封環10は、外径側右端に環状の切欠部12が形成されている。切欠部12は、回転密封環10における外周面10aより内径側に向かって凹設され、かつ回転密封環10における右端面より軸方向左側に向かって凹設されており、外径側かつ軸方向右側に開放されている。また、切欠部12を画成しており径方向に延びる延出面12aは、回転密封環10における外周面10aに略直交している。
【0026】
ケース30は、周壁31と、環状壁32と、4つの延出片33を備えている。なお、本実施例では1つの延出片33のみ図示している。また、図1では、回転軸2の軸心を中心とした12時方向の断面と7時半方向の断面を図示している。
【0027】
周壁31は、軸方向に延びる円筒状に形成されている。
【0028】
環状壁32は、周壁31における軸方向右端に略直交して内径方向に延びている円板状に形成されている。
【0029】
各延出片33は、環状壁32における内径端に略直交して軸方向右側に延びている。また、4つの延出片33は等配されている。なお、延出片33は、4等配に限られず、その数や配置は適宜変更されてもよい。
【0030】
ゴムベローズ40は、外径側円筒部41と、頚部42と、内径側円筒部43を備えている。
【0031】
外径側円筒部41は、軸方向に延びる円筒状に形成されている。外径側円筒部41における軸方向左端部は回転密封環10における切欠部12に嵌合されている。また、外径側円筒部41における軸方向右端部はケース30における周壁31、環状壁32、およびこれらがなす内角に圧接されている。これにより、外径側円筒部41は、回転密封環10とケース30との間を密封している。
【0032】
加えて、外径側円筒部41は、回転密封環10とケース30における周壁31によって径方向に挟圧されている。言い換えると、外径側円筒部41および周壁31は、回転密封環10を保持しており、外径側円筒部41および周壁31に対して回転密封環10が相対的に回転することを規制している。
【0033】
また、外径側円筒部41は、切欠部12に嵌合されている軸方向左端部の外径側が、ケース30における周壁31に圧接されている部分の左端から軸方向左側かつ内径側に向かって傾斜するテーパ面41aとなっている。
【0034】
頚部42は、外径側円筒部41における軸方向右側の内径端より内径側かつ軸方向左側に向かって傾斜して延びたのち、軸方向右側に向かって湾曲して内径側円筒部43における軸方向左端に連続している。また、頚部42は、回転密封環10が回転軸2に対して軸方向に移動することに伴って撓み変形量が変化する。また、頚部42は環状である。
【0035】
内径側円筒部43は、軸方向に延びる円筒状に形成されている。内径側円筒部43は、ドライブリング60によって回転軸2に密封状に圧接固定されている。これにより、回転軸2の回転時に、ゴムベローズ40は回転軸2と共に回転可能となっている。
【0036】
これらにより、ゴムベローズ40は、回転軸2と回転密封環10の間の密封状態を保ちつつ、回転軸2に対して回転密封環10が軸方向に移動することを許容することができる。
【0037】
コイルスプリング50は、回転軸2に外挿されて、ケース30における環状壁32と、回転軸2に外挿されて固定されているカラー70との間に圧縮された状態で配置されている。すなわち、本実施例のメカニカルシール1は、いわゆるシングルスプリング型である。なお、メカニカルシールは、周方向に複数のコイルスプリングが配置される、いわゆるマルチスプリング型であってもよい。また、付勢部材は、コイルスプリング以外の種類のバネであってもよく、適宜変更されてもよい。
【0038】
ドライブリング60は、その外径側に等配されている4つの貫通溝61を有する円筒状に形成されている。なお、本実施例では1つの貫通溝61のみ図示している。
【0039】
各貫通溝61は、ドライブリング60における外周面より内径側に凹設されており、外径側に向かって開放されている。また、各貫通溝61は、ドライブリング60における外径側を軸方向に貫通しており、軸方向両側に開放されている。
【0040】
各貫通溝61には、ケース30における延出片33が軸方向に移動可能に挿通されている。さらに、回転軸2の回転時に、貫通溝61における側面に延出片33が当接することで、ケース30とドライブリング60は一体に回転可能となっている。
【0041】
図1図3に示されるように、回転密封環10とケース30との間には、周方向に亘って環状の隙間S1が形成されている。この隙間S1にはその全周かつ軸方向に亘ってグレーを塗布して示すように樹脂としての接着剤G1が充填されている。
【0042】
本実施例における接着剤G1はエポキシ樹脂系の接着剤である。なお、接着剤は、他の種類の接着剤であってもよく、硬化後、その硬度が高い接着剤であることが好ましい。さらになお、本発明における樹脂とは、硬化している状態のみならず、硬化する前の状態についても含まれる。
【0043】
隙間S1は回転密封環10における外周面10a、切欠部12の延出面12a、ケース30における周壁31の内周面31a、ゴムベローズ40における外径側円筒部41のテーパ面41aによって画成されている。回転密封環10、ケース30およびゴムベローズ40の3点は、硬化した接着剤G1によって一体となっている。
【0044】
なお、接着剤G1は、切欠部12における延出面12aと外径側円筒部41における左端面との間、周壁31における内周面31aと外径側円筒部41における外周面との間などに進入してこれらを接着していてもよい。すなわち、接着剤G1が接着する箇所は適宜変更されてもよい。
【0045】
そのため、メカニカルシール1は、簡便な構成でケース30と回転密封環10とを固定することができる。
【0046】
また、接着剤G1は、径方向寸法、すなわち厚みが周方向に亘って略一定となっている。これにより、接着剤G1は、回転密封環10における外周面10aと周壁31における内周面31aとの離間距離を略一定に保つスペーサとして機能している。そのため、回転密封環10は、周壁31に対して径方向に相対移動すること、周壁31の軸心に対して傾動することが防止されている。このことから、外径側円筒部41は、回転密封環10を安定して保持し続けることができる。
【0047】
このように、本発明における「樹脂を介して固定」とは、単に樹脂としての接着剤が塗布された対象物同士が接着されることに限られず、対象物間に充填されてこれらが接着されることを含むものである。
【0048】
このことから、本実施例のメカニカルシール1は、例えば特許文献1のように、周壁31における軸方向左端部を内径側にかしめて環状壁32と共に外径側円筒部41を挟持する工程を省略することができる。そのため、接着剤充填後にかしめることによる接着剤の飛び出しや剥離が生じず、接着箇所が不均一になることを防止できる。すなわち、本実施例のメカニカルシール1は製造が簡便である。
【0049】
また、回転密封環10と、ケース30における周壁31は、ゴムベローズ40における外径側円筒部41ばかりでなく、硬化した接着剤G1によっても相対的な移動が規制された状態にある。
【0050】
これにより、回転密封環10と、ケース30における周壁31は、回転軸2の回転により、回転密封環10における摺動面11が静止密封環20における摺動面21と密接摺動することで摩擦力が生じても周方向に相対的移動することが規制されている。
【0051】
これにより、本実施例のメカニカルシール1は、例えば特許文献1のようにケースに対して回転密封環が周方向に相対移動可能な隙間がある構成と比較して、ゴムベローズ40が捩り変形しにくくなっている。そのため、本実施例のメカニカルシール1は、鳴きや振動の発生が抑制される。
【0052】
また、接着剤G1は隙間S1において周方向に連続して介在されている。そのため、回転密封環10がケース30に対して周方向に相対的移動することをより抑制することができる。
【0053】
また、ゴムベローズ40の捩り変形が軽減されている本実施例のメカニカルシール1は、例えば特許文献1と比較して捩り変形と復帰を繰り返すような余地が低減されている。このことから、本実施例のメカニカルシール1はいわゆるスティックスリップ現象の発生が抑止されている。
【0054】
また、一体となっている回転密封環10と、ケース30における周壁31と、ゴムベローズ40における外径側円筒部41と、硬化した接着剤G1は、一つの剛体と見なすことができる。これにより、メカニカルシール1は、ゴムベローズ40の捩り変形がより軽減される。
【0055】
また、ケース30における周壁31の内周面31aと、ゴムベローズ40における外径側円筒部41のテーパ面41aとの間に接着剤G1は充填されている。すなわち、本実施例のメカニカルシール1は、周壁31と外径側円筒部41が径方向に対向する間に接着剤G1を充填することができる。
【0056】
これにより、外径側円筒部41において内周面31aに圧接されている部分に接着剤を塗布するなどして、内周面31aに接着するような構成と比較して、本実施例のメカニカルシール1は、ケース30における周壁31とゴムベローズ40における外径側円筒部41を確実に接着できるばかりでなく、隙間が生じることを防ぐことができる。また、接着剤G1の漏れがゴムベローズ40により抑制される。
【0057】
加えて、本実施例のメカニカルシール1は周方向に長い隙間特に略環状の隙間S1全周に亘って接着剤G1が充填されていることから、周壁31と外径側円筒部41が接着剤G1から剥がれにくくなっている。
【0058】
さらに、二次シールがゴムベローズ40であるため、スティックスリップ現象の抑制に加え、接着剤G1が摺動面11,21よりも内径側の空間に漏れることを抑制することができる。
【0059】
また、回転密封環10における切欠部12の延出面12aと、ゴムベローズ40における外径側円筒部41のテーパ面41aとの間に接着剤G1は充填されている。すなわち、本実施例のメカニカルシール1は、切欠部12と外径側円筒部41が軸方向に対向する間に接着剤G1を充填することができる。
【0060】
これにより、外径側円筒部41において延出面12aに圧接されている部分に接着剤を塗布するなどして、延出面12aに接着するような構成と比較して、本実施例のメカニカルシール1は、回転密封環10と、ゴムベローズ40における外径側円筒部41を確実に接着できるばかりでなく、隙間が生じることを防ぐことができる。
【0061】
さらに、メカニカルシール1は、ケース30における延出片33がドライブリング60における貫通溝61内に挿入されている、いわゆるクラッチ構造にある。
【0062】
そのため、メカニカルシール1では、回転軸2が回転するにあたって、回転軸2に直接圧接されているゴムベローズ40における内径側円筒部43が回転する。ほぼ同時に、内径側円筒部43を回転軸2に圧接させているドライブリング60が回転する。これに伴って、ケース30における延出片33が回転する。
【0063】
また、上述したように、回転密封環10と、ケース30における周壁31は、相対的な移動が規制された状態にあるため、回転密封環10はケース30と共に回転する。
【0064】
これらにより、回転軸2の回転に対して、ゴムベローズ40は、外径側円筒部41と内径側円筒部43とがほぼ遅滞なく回転軸2に従動される。
【0065】
そのため、メカニカルシール1は、鳴きや振動の発生がより確実に抑制される。
【0066】
以上のように、本実施例のメカニカルシール1は、カップガスケット、パッキンなどと比較して捩り変形が生じやすいゴムベローズ40を二次シールとして用いているものの、このゴムベローズ40が接着剤G1により回転密封環10やケース30と一体化されるため、鳴きを効率的に抑制することができる。さらに、接着剤により固定されていないカップガスケットやパッキンなどの二次シールを用いた場合と比較して、鳴きを抑制することができる。
【0067】
また、メカニカルシール1は、ゴムベローズ40が回転密封環10に固定されているため、ゴムベローズ40に捩り変形がより発生しやすい条件であるが、回転密封環10、ケース30及びゴムベローズ40が接着剤G1で固定されて捩り変形が抑制されているため、鳴きを効率的に抑制することができる。さらに、接着剤で固定されていない静止側要素6の構成要素と同等に鳴きを抑制することができる。
【0068】
なお、接着剤G1は、隙間S1においてゴムベローズ40におけるテーパ面41aまで充填されている構成として説明したが、これに限られず、例えば回転密封環10における外周面10aとケース30における内周面31aとの間にのみ充填されていてもよく、接着箇所は適宜変更されてもよい。
【0069】
また、接着剤G1は、隙間S1において周方向に亘って充填されている構成として説明したが、これに限られず、1か所以上に充填されていればよく、周方向に不連続であってもよいものの、スペーサとしての機能や接着力を考慮すると等配されていることが好ましい。
【0070】
また、本実施例のメカニカルシール1は、回転密封環10、ケース30およびゴムベローズ40を接着剤G1により固定する構成として説明したが、これに限られず、回転密封環10とゴムベローズ40が樹脂を介して固定されていてもよく、ケース30とドライブリング60が樹脂を介して固定されていてもよい。このように、ゴムベローズ40の捩じり変形を軽減可能な構成が得られるのであれば、固定される部材やその数は適宜変更されてもよい。
【実施例0071】
次に、実施例2に係るメカニカルシールにつき、図4から図8を参照して説明する。なお、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0072】
図4に示されるように、本実施例2のメカニカルシールは、回転密封環110における外径側に凹部としての4つの貫通溝113が等配されている。各貫通溝113は、回転密封環110における外周面110aより内径側に向かって突出するように湾曲する断面U字状に凹設されており、外径側に向かって開放されている。また、各貫通溝113は、回転密封環110における外径側を軸方向に貫通しており、軸方向両側に向かって開放されている。
【0073】
ケース130における周壁131には、内径側に向かって突出するように湾曲する断面U字状の4つの凸部134が等配されている。また、凸部134は貫通溝113に遊嵌されている。
【0074】
図4図5に示されるように、ケース130における周壁131の内径側には、段差135が形成されている。段差135は、周壁131における凸部134よりもやや軸方向左側から同左端までの厚み、すなわち先端の厚みが薄くなっていることで構成されている。
【0075】
隙間S2は、回転密封環110と、ケース130における周壁131と、ゴムベローズ40における外径側円筒部41によって画成されている。
【0076】
接着剤G2は、段差135に沿って周方向に亘って充填されている。接着剤G2は充填されるにあたって段差135によって、周方向かつ内径側へと誘導される。そのため、本実施例のメカニカルシールは、接着剤G2の充填が容易である。
【0077】
この接着剤G2により、回転密封環110における外周面110aと周壁131における内周面131aは接着されている。すなわち、接着剤G2は隙間S2の一部にのみ充填されている。このことから、前記実施例1と比較して、本実施例のメカニカルシールは、回転密封環110とケース130の固定に必要な接着剤G2の量を少なくすることができる。
【0078】
なお、本実施例では、各外周面110aとケース130における周壁131との間のみ、接着剤G2が充填される構成であったが、回転密封環110における外周面110aと各貫通溝113との間にも接着剤を充填し、接着剤が途切れることなく環状に充填される構成であってもよい。また、接着剤は、周壁131と各貫通溝113との間に充填されていなくてもよい。
【0079】
図6図7に示されるように、接着剤G2が充填されたのち、ケース130における周壁131は、その先端が内側に向かってかしめられてかしめ部としての張出壁136が形成される。また、張出壁136と回転密封環110との間には、シートパッキン80が介在される。すなわち、本実施例のアッシとしての回転側要素105にはシートパッキン80が含まれている。
【0080】
シートパッキン80により、張出壁136を形成するにあたって、張出壁136が回転密封環110に過度に接触することで回転密封環110が破損することが防止されている。
【0081】
このように、本実施例のメカニカルシールは、接着剤G2ばかりでなく、張出壁136によってもゴムベローズ40における外径側円筒部41がケース130における周壁131と環状壁32に圧接された状態が保持される。
【0082】
また、回転密封環110と張出壁136の間はシートパッキン80によって密封される。そのため、経年変化などにより接着剤G2が粉状に変化したとしても、ケース130外に漏出することが防止されている。
【0083】
なお、図8に示される本実施例におけるメカニカルシールの変形例のように、張出壁136を有するケース130における周壁131と、回転密封環110と、ゴムベローズ40とによって画成される隙間S3内全体に接着剤G3が充填されて、ゴムベローズ40における外径側円筒部41も一体に固定されてもよい。
【0084】
また、シートパッキン80は、ケース130における周壁131の先端がかしめられる以前に、同先端や回転密封環110に接着剤で固定されていてもよい。このような構成であれば、シートパッキン80を保持した状態でケース130における周壁131の先端をかしめることができる。そのため、メカニカルシールは、ケース130における周壁131の先端をかしめる作業が容易となる。
【0085】
また、図4図5に示されるように、メカニカルシールは、接着剤G2が充填されたのち、ケース130にける周壁131の先端がかしめられずに使用されてもよい。
【0086】
また、本実施例の凹部は貫通溝113である構成として説明したが、これに限られず、有端状の溝であってもよく、窪みであってもよく、適宜変更されてもよい。
【0087】
また、凹部は回転密封環に形成され、凸部はケースに形成されている構成として説明したが、これに限られず、凹部がケースに形成され、凸部が回転密封環に形成されていてもよい。
【実施例0088】
次に、実施例3に係るメカニカルシールにつき、図9から図12を参照して説明する。なお、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0089】
図9図10に示されるように、本実施例のメカニカルシールは、回転密封環110における貫通溝213の回転方向上流側に位置する内面が、ケース230における凸部234に当接されている。また、接着剤G4は、貫通溝213において回転方向下流側に位置する内面と凸部234の間に充填されている。
【0090】
これにより、回転密封環110と、ケース230における周壁231と、ゴムベローズ40における外径側円筒部41によって画成される隙間S4全体に接着剤が充填される構成と比較して、本実施例のメカニカルシールは、少ない接着剤G4で回転密封環110とケース230の相対移動が確実に抑制される。
【0091】
また、貫通溝113において回転方向下流側に接着剤G4が充填されて、ケース230における凸部234が回転密封環110における貫通溝113と一体になっていることにより、凸部234は変形にしにくくなっている。これにより、凸部234は貫通溝113から抜け出すことが防止されている。
【0092】
さらに、ケース230における周壁231には、径方向両端に位置する一部が内径側にかしめられて2つの張出片236が形成されている。
【0093】
これにより、本実施例のメカニカルシールは、前記実施例2のメカニカルシールと比較してより簡便な構成で、ゴムベローズ40における外径側円筒部41がケース230における周壁231と環状壁32に圧接された状態を保持することができる。
【0094】
なお、図11に示されるように、張出片236を有するケース230における周壁231と、回転密封環110と、ゴムベローズ40とによって画成される隙間S4内全体に接着剤G5が充填されて、ゴムベローズ40における外径側円筒部41も一体に固定されてもよい。
【0095】
また、図12に示されるように、接着剤G6は、貫通溝213において回転方向下流側に位置する内周面と凸部234の間における一部に充填されていてもよい。このような構成であれば、より必要な接着剤の量を少なくすることができる。
【0096】
また、直接の図示は省略するが、回転密封環110における貫通溝113の回転方向下流側に位置する内面が、ケース230における凸部234に当接されており、貫通溝113において回転方向上流側に位置する内周面と凸部234の間に接着剤G4が充填されていてもよい。
【実施例0097】
次に、実施例4に係るメカニカルシールにつき、図13を参照して説明する。なお、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0098】
図13に示されるように、本実施例のメカニカルシール301において、アッシとしての回転側要素5は、回転密封環10と、ケース30と、二次シールとしてのゴムベローズ40と、付勢部材としてのコイルスプリング50と、ドライブリング60と、カラー70と、架設材90から主に構成されている。架設材90は円板状であり、接着剤G7によって回転密封環10と、ケース30における周壁31に架設された状態で接着固定されている。
【0099】
このように、本発明における「樹脂を介して固定」とは、対象物同士を直接樹脂で固定せず、各対象物に樹脂で他の部材が固定されることを含むものである。
【0100】
なお、架設材は、一つの円板に限られず、複数に分割されたものを組み合わせて円板状に構成されていてもよい。また、架設材は、回転密封環とケースに架設されていればよく、円板状でなくともよく、その数、配置は適宜変更されてもよい。
【0101】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0102】
例えば、前記実施例1~4では、メカニカルシールは、付勢部材が回転密封環を静止密封環に向かって押圧する回転型である構成として説明したが、これに限られず、付勢部材が静止密封環を回転密封環に向かって押圧する静止型であってもよい。すなわち、アッシは静止密封環側であってもよい。
【0103】
また、前記実施例1~4では、一方の密封環は回転密封環である構成として説明したが、これに限られず、静止密封環であってもよい。
【0104】
また、前記実施例1~4では、二次シールは、ゴムベローズである構成として説明したが、これに限られず、カップガスケット、パッキンなどであってもよく、適宜変更されてもよい。
【0105】
また、前記実施例1~4では、回転密封環、ケースおよびゴムベローズのうち少なくとも2点を樹脂である接着剤で一体化する構成として説明したが、これに限らず、アッシを構成するその他の部材を樹脂で一体化する構成であってもよい。例えば、ドライブリングとケースとを樹脂である接着剤で一体化する構成でもよい。
【符号の説明】
【0106】
1 メカニカルシール
2 回転軸
3 ハウジング
5 回転側要素(アッシ)
10 回転密封環
10a 外周面
11 摺動面
20 静止密封環
21 摺動面
30 ケース
31a 内周面
40 ゴムベローズ(二次シール)
50 コイルスプリング(付勢部材)
60 ドライブリング
105 回転側要素(アッシ)
110 回転密封環
110a 外周面
113 貫通溝(凹部)
130 ケース
131a 内周面
134 凸部
136 張出壁(かしめ部)
80 シートパッキン
230 ケース
234 凸部
301 メカニカルシール
305 回転側要素(アッシ)
90 架設材
G1~G7 接着剤(樹脂)
S1~S4 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13