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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159122
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】圧粉体の密度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 9/08 20060101AFI20241031BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20241031BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G01N9/08
H01F41/02 G
B22F3/24 102Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074909
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 玲
【テーマコード(参考)】
4K018
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA11
4K018AA27
4K018BD01
4K018KA45
5E062CD04
5E062CE04
5E062CG01
5E062CG07
(57)【要約】
【課題】圧粉体の密度を簡潔に測定する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、圧粉体に撥水コーティング処理を施す工程と、撥水コーティングした圧粉体の密度を水中重量測定法により測定する工程とを含む、圧粉体の密度測定方法に関する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧粉体に撥水コーティング処理を施す工程と、撥水コーティングした圧粉体の密度を水中重量測定法により測定する工程とを含む、圧粉体の密度測定方法。
【請求項2】
圧粉体が、磁性材である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
撥水コーティング処理が、圧粉体を撥水コーティング剤に浸漬する浸漬工程、及び取り出した圧粉体を乾燥する乾燥工程を含む浸漬法により実施される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
撥水コーティング剤が、フッ素系溶剤及びフッ素樹脂を含むフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
浸漬工程の時間が、0.1秒~3.0秒であり、乾燥工程の温度が、30℃~50℃であり、乾燥工程の時間が、180秒~300秒であり、撥水コーティングした圧粉体におけるフッ素樹脂の量が、圧粉体の全重量に対して、0.02重量%~0.2重量%である、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉体の密度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性材料、例えばフェライトや希土類磁石などの金属粉末を圧粉成形した材料(以下、「圧粉体」ともいう)は、磁性材としてモーターをはじめとする種々の用途に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、希土類-鉄-窒素系磁石粉の表面上に予め全量に対して0.2重量%~1.6重量%の酸素を含有する酸化被膜を形成させた後、該酸化被膜を有する磁石粉を非酸化性雰囲気中で所定の形状に予備圧縮成形して相対密度が40%以上の予備成形体とし、次いで該予備成形体を非酸化性雰囲気中、350℃~500℃の温度で圧密化して相対密度が85%以上の磁石成形体を得ることを特徴とする希土類永久磁石の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-223263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような圧粉体を、例えば磁石材として使用する場合、圧粉体の物理特性における密度は、磁石材としての磁化や保磁力の大きさを決定付ける重要な因子であるため、圧粉体の製造における品質管理の一つの指標となっている。
【0006】
従来の圧粉体の密度は、例えばJIS Z 2501:2000の「焼結金属材料-密度、含油率及び開放気孔率試験方法」に基づいて測定される。圧粉体は、通常吸水性であるため、例えば特許文献1では、磁石の相対密度は、試料にパラフィンを処理することにより測定されている。
【0007】
しかしながら、従来の圧粉体の密度の測定方法、特に封孔処理材としてパラフィンを使用する測定方法では、以下のような問題点があった。(1)安全面について、パラフィンの溶解に必要な温度が約80℃と高いため、加熱溶解されたパラフィンとの接触災害の恐れがある。(2)品質面について、パラフィン中への浸漬、及び体積変化を防ぐためのパラフィン浸漬後の余分なパラフィンの拭き取り中に、パラフィンの取り残しや試料(ワーク)の剥離破損の恐れがあり、得られる密度測定結果の精度に誤差が生じやすい。(3)生産性について、パラフィンの溶解・浸漬からパラフィンの除去・乾燥までにかかる時間が約60分と長い。また、目的とする密度計算のために、パラフィンを処理した圧粉体の重量を考慮に入れる必要があり、密度計測器による自動計算ができない。
【0008】
したがって、本発明は、圧粉体の密度を簡潔に測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、圧粉体の密度測定時に圧粉体に対して撥水コーティング処理を施すことにより、(1)安全面について、コーティング処理に必要な温度を下げることができ、(2)品質面について、余分なコーティング剤の除去を乾燥のみに簡略化し、試料の剥離破損を防止することができ、(3)生産面について、試料の表面のみを撥水処理すればよいため、コーティング処理の時間を短縮することができ、さらに圧粉体に残るコーティング剤の残存量が小さいため、目的とする密度計算のためにコーティング剤の重量を考慮に入れる必要がなく、密度計測器による自動計算ができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)圧粉体に撥水コーティング処理を施す工程と、撥水コーティングした圧粉体の密度を水中重量測定法により測定する工程とを含む、圧粉体の密度測定方法。
(2)圧粉体が、磁性材である、(1)に記載の方法。
(3)撥水コーティング処理が、圧粉体を撥水コーティング剤に浸漬する浸漬工程、及び取り出した圧粉体を乾燥する乾燥工程を含む浸漬法により実施される、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)撥水コーティング剤が、フッ素系溶剤及びフッ素樹脂を含むフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤である、(3)に記載の方法。
(5)浸漬工程の時間が、0.1秒~3.0秒であり、乾燥工程の温度が、30℃~50℃であり、乾燥工程の時間が、180秒~300秒であり、撥水コーティングした圧粉体におけるフッ素樹脂の量が、圧粉体の全重量に対して、0.02重量%~0.2重量%である、(4)に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、圧粉体の密度を簡潔に測定する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】圧粉体(処理なし)、並びに比較例1及び実施例1の圧粉体の水中における浸漬時間に対する重量変化を示すグラフである。
図2】圧粉体におけるフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤中の浸漬時間とそれに伴う該コーティング剤の塗布量の関係を示すグラフである。
図3】圧粉体における乾燥前塗布量と乾燥後塗布量の関係を示すグラフである。
図4】圧粉体における乾燥時間と塗布量の関係を示すグラフである。
図5】圧粉体としてフェライト又は磁石を使用した場合における温風乾燥での乾燥時間と塗布量の関係を示すグラフである。
図6】比較例2のパラフィン処理した圧粉体及び実施例5の撥水コーティング処理した圧粉体の密度の測定結果(N=3)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。本発明の圧粉体の密度測定方法は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0014】
本発明は、圧粉体に撥水コーティング処理を施す工程と、撥水コーティングした圧粉体の密度を水中重量測定法により測定する工程とを含む、圧粉体の密度測定方法に関する。
【0015】
ここで、密度測定の対象となる圧粉体は、限定されない。圧粉体とは、金属粉末、例えば磁性材料を加圧成形した材料を意味する。圧粉体は、金属粉末、例えば磁性材料を加圧成形及び焼結した圧粉体であってもよい。圧粉体としては、例えば、吸水性である、磁石材、例えばフェライト、希土類磁石、例えばSmCo系希土類磁石、NdFeB系希土類磁石、及びSmFeN系希土類磁石などが挙げられる。
【0016】
本発明によれば、吸水性である圧粉体であっても、簡潔に密度を測定することができる。
【0017】
撥水コーティング処理は、限定されない。撥水コーティング処理としては、例えば圧粉体と撥水コーティング剤とを接触させる方法が挙げられる。
【0018】
撥水コーティング剤は、限定されない。撥水コーティング剤としては、撥水コーティング処理時に液体である撥水コーティング剤、例えばフッ素樹脂、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(PEA)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)などを、場合により揮発性の溶剤、例えばフッ素系溶剤、(例えば、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、ハイドロフルオロカーボン(HFC))や有機溶剤(トルエン、イソブタノール、ヘプタンなど)中に溶解したもの(フッ素樹脂含有溶剤型コーティング剤)が挙げられる。フッ素樹脂含有溶剤型コーティング剤は、該コーティング剤全重量に対して、通常0.2重量%~30重量%、好ましくは1重量%~3重量%のフッ素樹脂、及び通常70重量%~99.8重量%、好ましくは97重量%~99重量%の溶剤、例えばフッ素系溶剤を含む。撥水コーティング剤としては、フッ素樹脂を含む製品として、例えばエスエフコートSFE-DP02H、SNF-DP20H(AGCセイミケミカル株式会社製)、オプトエースWP-100シリーズ(ダイキン工業株式会社製)、フロロサーフFG-3030シリーズ、FG-3020シリーズ、FG-3650シリーズ(株式会社フロロテクノロジー製)、SURECO CC Series(AGC株式会社製)などが挙げられる。例えば、好適な撥水コーティング剤は、圧粉体を撥水コーティング剤により処理した後に、圧粉体の水中への浸漬時間に対する重量変化により吸水性を確認したときに、水中重量法による密度測定に必要な時間、通常5秒以下、好ましくは30秒以下吸水しない(重量変化しない)ものとして選定することができる。
【0019】
圧粉体と撥水コーティング剤とを接触させる方法としては、例えば圧粉体に対して、撥水コーティング剤を噴霧又は滴下し、場合により圧粉体上に均一になるよう塗布して、その後乾燥する方法、圧粉体を撥水コーティング剤に浸漬し、取り出した後乾燥する方法(浸漬法)などが挙げられる。撥水コーティング処理は、容易に実施できる点で、浸漬法が好ましい。
【0020】
浸漬法は、前記の通り、圧粉体を撥水コーティング剤に浸漬する工程(浸漬工程)、及び取り出した圧粉体を乾燥する工程(乾燥工程)を含む。
【0021】
浸漬工程の温度は、限定されない。浸漬工程の温度は、安全面の観点から、例えば室温、例えば5℃~35℃、好ましくは20℃~30℃である。
【0022】
浸漬工程の時間は、圧粉体表面が撥水コーティングされる限り限定されない。
【0023】
浸漬工程の時間は、例えば撥水コーティング剤がフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤である場合、対象物全体を浸漬させてから直ぐに対象物を撥水コーティング剤から取り出してもよく、したがって、浸漬工程の時間は、通常0.1秒以上、好ましくは0.5秒以上である。また、浸漬工程の時間は、長ければ長いほど、撥水コーティング剤、特にフッ素樹脂の塗布量が増加するため、例えば撥水コーティング剤がフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤である場合、通常3.0秒以下、好ましくは2.5秒以下、より好ましくは2.0秒以下である。
【0024】
浸漬工程の温度及び時間を前記範囲にすることにより、圧粉体に、安全に、適切な量の撥水コーティング剤の前駆体をコーティングすることができる。
【0025】
乾燥工程の温度は、撥水コーティング剤に含まれ得る溶剤、例えばフッ素系溶剤が揮発する温度であれば限定されない。乾燥工程の温度は、例えば室温(自然乾燥)~60℃(温風乾燥)、例えば5℃~60℃、好ましくは30℃~50℃である。
【0026】
乾燥工程の時間は、撥水コーティング剤に含まれ得る溶剤、例えばフッ素系溶剤が揮発する時間であれば限定されない。したがって、乾燥工程の時間は、撥水コーティング剤及び乾燥温度にも依存し得るが、例えば撥水コーティング剤がフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤である場合、約22℃の自然乾燥であれば、通常300秒以上であり、約40℃の温風乾燥であれば、通常180秒以上である。乾燥工程の時間の上限は、限定されず、撥水コーティング剤に含まれ得るフッ素系溶剤が揮発すれば、乾燥工程を完了することができる。乾燥工程の時間は、浸漬工程後の圧粉体の重量を乾燥工程の時間に対してプロットすることで、圧粉体の重量がほぼ変化しなくなった時点として、決定することもできる。
【0027】
乾燥工程の温度及び時間を前記範囲にすることにより、圧粉体に、安全に、適切な量の撥水コーティング剤をコーティングすることができる。
【0028】
撥水コーティング処理により圧粉体に処理される撥水コーティング剤の量及び膜厚は、圧粉体表面が撥水性を示す限り限定されないが、圧粉体の密度計算の際に影響のない量及び膜厚にすることが好ましい。
【0029】
撥水コーティング剤の量及び膜厚は、密度測定の対象となる圧粉体7.5gに対して、例えば撥水コーティング剤がフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤である場合、フッ素樹脂として、通常0.01g以下の量で、通常1μm以下の膜厚である。撥水コーティング剤の量及び膜厚の下限は、圧粉体表面が撥水性を示す限り限定されないが、密度測定の対象となる圧粉体7.5gに対して、例えば撥水コーティング剤がフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤である場合、フッ素樹脂として、通常0.002gの量で、通常0.2μmである。したがって、撥水コーティング剤の量は、圧粉体の全重量に対して、例えば撥水コーティング剤がフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤である場合、フッ素樹脂として、通常0.02重量%~0.2重量%、好ましくは0.10重量%~0.15重量%である。
【0030】
撥水コーティング剤の量及び膜厚を前記範囲にすることにより、圧粉体に撥水性を提供しつつ、密度計算の際に当該量を考慮しなくとも大きな影響を与えることがなく、密度を自動計算することができる。
【0031】
続いて、撥水コーティングした圧粉体の密度を、水中重量測定法により測定する。
【0032】
水中重量測定法は、当該技術分野において公知であり、限定されず、例えばJIS Z 2501:2000の「焼結金属材料-密度、含油率及び開放気孔率試験方法」に基づく方法である。
【0033】
水中重量測定法による密度計算は、例えば、撥水コーティング処理した圧粉体について、まず空中重量を測定し、その後水中重量を測定し、以下の式、
密度(g/cm)=空中重量/(空中重量-水中重量)
により求めることができる。
【0034】
本発明の圧粉体の密度測定方法は、圧粉体を製造する方法における圧粉体の品質管理に使用することができる。
【0035】
例えば、磁性材料を成形して圧粉体を製造する工程において、磁性粉末をプレス設備で加圧成形することで得られた圧粉体について、外観検査により欠けや割れなどがないことを目視検査した後、圧粉体に前記で説明した撥水コーティング処理を施し、その後空中重量測定(大気中での試料重量)及び水中重量(水中での試料重量)の測定を実施して密度を自動計算により算出する。続いて、得られた密度が設定された圧粉体の密度の範囲内に入るかどうかを判定し、適切な密度が得られている場合には製造条件を変更することなく圧粉体の製造を継続し、適切な密度の範囲から外れている場合には、適切な密度が得られるように製造条件の変更を指示する。
【0036】
本発明によれば、密度測定に必要な温度を室温程度にするとともに、密度測定までにかかる時間を従来の方法と比較して圧倒的に短縮する(従来約60分以上→本発明5分以下)ことができるため、圧粉体の製造において、製造条件、例えば焼結工程や圧縮工程に不具合が発生した場合でも、その不具合を安全、迅速、且つ精度よく捉えることができ、不良品の発生を抑え、生産性を向上させることができる。
【実施例0037】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0038】
1.吸水評価
1-1.試料調製
比較例1
圧粉体について以下の通りパラフィン処理を実施した。
(1)圧粉体(径φ17mm×全厚11.3mm、重量7.87g、フェライト粉Z10FG)を約80℃で40分間加熱することで溶解したパラフィン中に浸漬させた。
(2)(1)で浸漬した圧粉体を、パラフィンが圧粉体中に存在する空孔内部にまで浸透するように、パラフィン中に約20分間保持した。
(3)(2)で保持した圧粉体をパラフィン中から取り出し、圧粉体の周りに付着した余分なパラフィンを拭き取り、22℃で5分間乾燥し、パラフィン処理した圧粉体を得た。
【0039】
実施例1
圧粉体について以下の通り撥水コーティング処理を実施した。
(1)圧粉体(径φ17mm×全厚11.3mm、重量7.82g、フェライト粉Z10FG)を22℃のフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤(フロロサーフ(登録商標)FG-3650THシリーズ(固形分濃度2重量%))中に浸漬させた。
(2)(1)で浸漬した圧粉体を、その全体をフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤中に浸漬させてから1秒間保持した。
(3)(2)で保持した圧粉体をフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤中から取り出し、40℃の温風乾燥機で180秒間乾燥し、撥水コーティング処理した圧粉体を得た。
【0040】
1-2.評価
圧粉体(処理なし品、径φ17mm×全厚11.2mm、重量7.84g、フェライト粉Z10FG)、比較例1のパラフィン処理した圧粉体及び実施例1の撥水コーティング処理した圧粉体を、水中に浸漬させ、浸漬時間に対して重量(水中重量)の変化を評価した。図1に結果を示す。
【0041】
図1より、処理なしの圧粉体では、水中浸漬後直ぐに吸水が開始されたことが確認され、比較例1のパラフィン処理した圧粉体においても、時間の経過に伴い吸水量が増加することが確認された。一方で、実施例1の撥水コーティング処理した圧粉体では、観測した30秒間においては、時間の経過による重量増加は観測されなかった。したがって、実施例1の撥水コーティング処理した圧粉体は、水中重量法における重量測定中に重量変化を生じない、すなわち吸水しないことがわかった。
【0042】
2.浸漬時間及び塗布量の関係
2-1.試料調製
【0043】
実施例2
圧粉体について、以下の通り撥水コーティング処理を実施した。なお、本実験は、3回実施した(N=3)。
(1)重量を測定した圧粉体(径φ17mm×全厚11.3mm、重量7.85g、フェライト粉Z10FG)を22℃のフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤(フロロサーフ(登録商標)FG-3650THシリーズ(固形分濃度2重量%))中に浸漬させた。
(2)(1)で浸漬した圧粉体を、その全体をフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤中に浸漬させてから0.5秒間保持した。
(3)(2)で保持した圧粉体をフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤中から取り出し、取り出した圧粉体の重量を測定した。
【0044】
実施例3
実施例2において、(2)のフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤中の保持時間を0.5秒から1.0秒に変更した以外は、実施例2と同様にして実験を行った。
【0045】
実施例4
実施例2において、(2)のフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤中の保持時間を0.5秒から2.0秒に変更した以外は、実施例2と同様にして実験を行った。
【0046】
2-2.評価
図2に圧粉体におけるフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤中の浸漬時間とそれに伴うフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤の塗布量の関係を示す。なお、塗布量は、(3)において測定した重量から圧粉体自体の重量を差し引くことで算出した。図2により、フッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤に浸漬する時間を延ばすと、フッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤の塗布量が比例的に増加することがわかった。したがって、フッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤に浸漬する時間により、目的とするフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤の塗布量を達成できることがわかった。
【0047】
3.フッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤の塗布量及びフッ素樹脂の塗布量の関係
3-1.試料調製
22℃のフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤(フロロサーフ(登録商標)FG-3650THシリーズ(固形分濃度2重量%))単品での塗布量7条件(乾燥前重量)を測定後、40℃の温風乾燥機で30秒~300秒間乾燥させ、さらに再度重量(乾燥後重量)を測定し、処理済み圧粉体におけるフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤の塗布量(乾燥前塗布量)及びフッ素樹脂の塗布量(乾燥後塗布量)を算出した。
【0048】
3-2.評価
図3に圧粉体における乾燥前塗布量と乾燥後塗布量の関係を示す。図3より、乾燥前塗布量と乾燥後塗布量には比例関係があることがわかった。したがって、フッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤中への浸漬時間を調整して該コーティング剤の塗布量を調整することにより、該コーティング剤中のフッ素樹脂の塗布量を制御できることがわかった。
【0049】
4.浸漬法における乾燥工程の検討
4-1.測定
重量を測定した圧粉体(径φ17mm×全厚8.45mm、重量5.88g、フェライト粉Z10FG)を22℃のフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤(フロロサーフ(登録商標)FG-3650THシリーズ(固形分濃度2重量%))中に浸漬させることで、フッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤の塗布量が約0.3gである圧粉体を作製し、自然乾燥(22℃)又は温風乾燥(40℃)で乾燥させたときの、乾燥時間に対する該コーティング剤の塗布量の変化を測定した。塗布量は、乾燥後重量から圧粉体自体の重量を差し引くことで算出した。
【0050】
4-2.評価
図4に圧粉体における乾燥時間と塗布量の関係を示す。図4より、自然乾燥及び温風乾燥いずれも、時間の経過とともに塗布量が減少し、自然乾燥では約300秒、温風乾燥では約180秒後には塗布量が0.01g以下で一定になることがわかった。つまり、乾燥工程においては、自然乾燥及び温風乾燥のいずれも使用することができるが、時間の短縮化の観点から、温風乾燥を使用することが好ましいことがわかった。本実験では、5.88gの圧粉体に対して、フッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤(固形分濃度2重量%)への浸漬時間を0.5秒~2.0秒に調整して、フッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤の塗布量を0.25g~0.35gに調整した場合、自然乾燥では、約300秒、温風乾燥では約180秒で、0.01gのフッ素樹脂の塗布量を達成できることがわかった。
【0051】
図5に圧粉体としてフェライト(径φ17mm×全厚8.45mm、重量5.88g、フェライト粉Z10FG)又は磁石材(径φ17mm×全厚4.9mm、重量6.39g、SmFeN磁石粉 Z12)を使用した場合における温風乾燥での乾燥時間と塗布量の関係を示す。図5より、圧粉体としてフェライト又は磁石を使用した場合であっても、同様の乾燥時間で乾燥工程を完了できることがわかった。
【0052】
5.密度測定評価
5-1.試料調製
比較例2
圧粉体(磁石材)について、以下に示す手順に従うパラフィン処理による密度測定を3回実施した(N=3)。
(1)圧粉体(径φ17mm×全厚4.9mm、重量6.39g、SmFeN磁石粉 Z12)の重量を測定した。
(2)(1)で重量を測定した圧粉体を約80℃で40分間加熱することで溶解したパラフィン中に浸漬させた。
(3)(2)で浸漬した圧粉体を、パラフィンが圧粉体中に存在する空孔内部にまで浸透するように、パラフィン中に約20分間保持した。
(4)(3)で保持した圧粉体をパラフィン中から取り出し、圧粉体の周りに付着した余分なパラフィンを拭き取り、22℃で5分間乾燥した。
(5)(4)で乾燥したパラフィン処理した圧粉体の重量を測定した。
(6)(5)で重量を測定したパラフィン処理した圧粉体の水中重量を測定した。
(7)以下の式に基づいて、密度を算出した。
密度(g/cm)=(1)で測定した空中重量/((5)で測定した空中重量-(6)で測定した水中重量)
【0053】
実施例5
圧粉体(磁石材)について、以下に示す手順に従う撥水コーティング処理による密度測定を3回実施した(N=3)。
(1)圧粉体(径φ17mm×全厚4.65mm、重量5.80g、SmFeN磁石粉 Z12)の重量を測定した。
(2)(1)で重量を測定した圧粉体を22℃のフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤(フロロサーフ(登録商標)FG-3650THシリーズ(固形分濃度2重量%))中に浸漬させた。
(3)(2)で浸漬した圧粉体を、その全体をフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤中に浸漬させてから1.0秒間保持した。
(4)(3)で保持した圧粉体をフッ素樹脂含有フッ素系溶剤型コーティング剤中から取り出し、40℃の温風乾燥機で180秒間乾燥し、撥水コーティング処理した圧粉体を得た。
(5)(4)で乾燥した撥水コーティング処理した圧粉体の重量を測定した。
(6)(5)で重量を測定した撥水コーティング処理した圧粉体の水中重量を測定した。
(7)以下の式に基づいて、密度を算出した。
密度(g/cm)=(1)で測定した空中重量/((5)で測定した空中重量-(6)で測定した水中重量)
【0054】
5-2.評価
図6に比較例2のパラフィン処理した圧粉体及び実施例5の撥水コーティング処理した圧粉体の密度の測定結果(N=3)を示す。図6では、各実験例について、最大値、平均値及び最小値を示す。
【0055】
図6より、比較例2のパラフィン処理による密度測定では、得られた密度の結果が、使用した圧粉体の以下の計算により求めた密度:
重量(6.39g)/体積(3.14×1.7×1.7/4×0.49=1.11cm)=密度(5.75g/cm
に対して、誤差が大きく且つばらつきが大きくなることがわかった。一方で、実施例5の撥水コーティング処理による密度測定では、得られた密度の結果が、使用した圧粉体の以下の計算により求めた密度:
重量(5.80g)/体積(3.14×1.7×1.7/4×0.465=1.05cm)=密度(5.50g/cm
に対して、誤差が小さく且つばらつきがほとんどないことがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6