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特開2024-159129容器詰飲料及び容器詰飲料の呈味改善方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159129
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】容器詰飲料及び容器詰飲料の呈味改善方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/38 20210101AFI20241031BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20241031BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A23L2/38 L
A23L2/00 B
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074920
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】脇田 崚資
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】吉野 勇太
【テーマコード(参考)】
4B117
【Fターム(参考)】
4B117LC03
4B117LE10
4B117LG13
4B117LG17
4B117LG30
4B117LK01
4B117LK06
4B117LK12
4B117LK16
4B117LP01
4B117LP14
4B117LP17
(57)【要約】
【課題】糖類、電解質及び焙煎した穀物由来の成分を含有し、かつpHが中性である容器詰飲料に関して、糖類による甘みと、電解質による塩味を抑制することができる容器詰飲料を提供する。
【解決手段】焙煎した穀物に由来する抽出成分を含有する飲料であって、糖類、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ポリフェノール類及び有機酸類を含有し、糖類の含有量が10000~27000mg/Lであり、pHが5.11~7.00である容器詰飲料であり、ポリフェノール類の含有量(mg/L)に対する、ナトリウムとカリウムの合計含有量(mg/L)の比率((Na+K)/ポリフェノール類)が1.6~250.0であり、有機酸類含有量(mg/L)に対する、糖類の含有量(mg/L)の比率(糖類/有機酸類)が67.0~1800.0であることを特徴とする容器詰飲料である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎した穀物に由来する抽出成分を含有する飲料であって、糖類、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ポリフェノール類及び有機酸類を含有し、糖類の含有量が10000~27000mg/Lであり、pHが5.11~7.00である容器詰飲料であり、
ポリフェノール類の含有量(mg/L)に対する、ナトリウムとカリウムの合計含有量(mg/L)の比率((Na+K)/ポリフェノール類)が1.6~250.0であり、
有機酸類含有量(mg/L)に対する、糖類の含有量(mg/L)の比率(糖類/有機酸類)が67.0~1800.0であることを特徴とする容器詰飲料。
【請求項2】
前記ポリフェノール類として、焙煎穀物の抽出成分由来のポリフェノール類と、緑茶抽出成分由来のカテキン類を含有する、請求項1に記載の容器詰飲料。
【請求項3】
有機酸類の含有量が15.0~400.0mg/Lである、請求項1又は2に記載の容器詰飲料。
【請求項4】
カリウムの含有量に対するナトリウムの含有量の比(Na/K)が0.8~3.4である、請求項1又は2に記載の容器詰飲料。
【請求項5】
シュウ酸含有量が100mg/L以下であり、且つ、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の合計含有量が0.1~60.0mg/Lである、請求項1又は2に記載の容器詰飲料。
【請求項6】
糖類、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ポリフェノール類及び有機酸類を含有し、糖類の含有量が10000~27000mg/Lであり、pHが5.11~7.00である容器詰飲料の呈味改善方法であって、
ポリフェノール類の含有量(mg/L)に対する、ナトリウムとカリウムの合計含有量(mg/L)の比率((Na+K)/ポリフェノール類)を1.6~250.0に調整し、且つ、
有機酸類含有量(mg/L)に対する、糖類の含有量(mg/L)の比率(糖類/有機酸類)を67.0~1800.0に調整することを特徴とする容器詰飲料の呈味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖類、電解質及び焙煎した穀物由来の成分を含有する容器詰飲料であって、脱水状態の改善や予防を目的とするために補給する容器詰飲料、例えば経口補水液、ミネラル補給飲料、熱中症対策飲料などとして提供することが可能な容器詰飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
止渇性飲料の代表例として、麦茶飲料などのように、焙煎した穀物を熱水で抽出して得た焙煎穀物抽出液を容器に充填した容器詰焙煎穀物飲料を挙げることができる(特許文献1~3参照)。
【0003】
止渇に加えて、脱水状態の改善や予防を図るためには、水分のほか、糖類及び電解質を体内に補給する必要がある。そのため、脱水状態の改善または脱水症状の予防を目的とするために補給する飲料には、電解質成分、糖類及び有機酸を含有した容器詰飲料が用いられている。
ちなみに、「経口補水液」として表示するためには、100ml当たり、ナトリウム92~138mg、カリウム59~98mg、塩素106~230mg、ブドウ糖1.35~2.50g含有していることが必要である。
【0004】
脱水状態の改善または脱水症状の予防のために市販されている容器詰飲料として、糖を多く含む飲料の飲み易さを改善するため、或いは、飲料を容器に充填する際の滅菌工程の条件などのために、飲料のpHを酸性領域に調整したものが知られている(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5086459号公報
【特許文献2】特許第7088697号公報
【特許文献3】特許第5180361号公報
【特許文献4】特開2006-304775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、脱水状態の改善または脱水症状の予防を図ることができる容器詰飲料として、酸性域に調整されたものが市販されている。しかし、酸性領域では、麦茶成分など、焙煎穀物由来の抽出成分の風味を感じ難いことが分かってきた。そのため、焙煎穀物由来の抽出成分の風味を感じるためには、中性領域にする必要がある。
ところが、糖類及び電解質を含有する飲料のpHを中性域にした場合、酸性域にした場合に比べると、塩味、甘味をより一層強く感じるため、塩味及び甘味を抑える必要があることが分かってきた。
【0007】
そこで本発明の目的は、糖類、電解質及び焙煎した穀物由来の成分を含有し、かつpHが中性である容器詰飲料に関して、糖類による甘みと、電解質による塩味を抑制することができる、容器詰飲料及び容器詰飲料の呈味改善方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が提案する容器詰飲料及び容器詰飲料の呈味改善方法は、上記課題を解決するために、次の態様の構成を有する。
【0009】
[1]本発明の第1の態様は、焙煎した穀物に由来する抽出成分を含有する飲料であって、糖類、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ポリフェノール類及び有機酸類を含有し、糖類の含有量が10000~27000mg/Lであり、pHが5.11~7.00である容器詰飲料であり、
ポリフェノール類の含有量(mg/L)に対する、ナトリウムとカリウムの合計含有量(mg/L)の比率((Na+K)/ポリフェノール類)が1.6~250.0であり、
有機酸類含有量(mg/L)に対する、糖類の含有量(mg/L)の比率(糖類/有機酸類)が67.0~1800.0であることを特徴とする容器詰飲料である。
【0010】
[2]本発明の第2の態様は、前記第1の態様において、前記ポリフェノール類として、焙煎穀物の抽出成分由来のポリフェノール類と、緑茶抽出成分由来のカテキン類を含有する、容器詰飲料である。
[3]本発明の第3の態様は、前記第1又は第2の態様において、有機酸類の含有量が15.0~400.0mg/Lである、容器詰飲料である。
[4]本発明の第4の態様は、前記第1~3のいずれか1つの態様において、カリウムの含有量に対するナトリウムの含有量の比(Na/K)が0.8~3.4である、容器詰飲料である。
[5]本発明の第5の態様は、前記第1~4のいずれか1つの態様において、シュウ酸含有量が100mg/L以下であり、且つ、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の合計含有量が0.1~60.0mg/Lである、容器詰飲料である。
【0011】
[6]本発明の第6の態様は、糖類、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ポリフェノール類及び有機酸類を含有し、糖類の含有量が10000~27000mg/Lであり、pHが5.11~7.00である容器詰飲料の呈味改善方法であって、
ポリフェノール類の含有量(mg/L)に対する、ナトリウムとカリウムの合計含有量(mg/L)の比率((Na+K)/ポリフェノール類)を1.6~250.0に調整し、且つ、
有機酸類含有量(mg/L)に対する、糖類の含有量(mg/L)の比率(糖類/有機酸類)を67.0~1800.0に調整することを特徴とする容器詰飲料の呈味改善方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明が提案する容器詰飲料及び容器詰飲料の呈味改善方法によれば、糖類、電解質及び焙煎した穀物由来の成分を含有し、かつpHが中性である容器詰飲料に関し、糖類による甘みと、電解質による塩味を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。ただし、本発明が、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<<本発明容器詰飲料>>
本発明の実施形態の一例に係る容器詰飲料(「本発明容器詰飲料」と称する)は、 焙煎した穀物に由来する抽出成分を含有する飲料であって、少なくとも、糖類、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ポリフェノール類及び有機酸類を含有する容器詰の飲料である。
【0015】
本発明では、「焙煎した穀物に由来する抽出成分を含有する飲料」を「焙煎穀物飲料」とも称する。
また、焙煎穀物飲料の「後味」とは、電解質のミネラル由来の独特の口内に残るミネラル味、具体的にはヌメりやえぐみを示す。ここで「ヌメり」とは、例えば炭酸水素ナトリウム水溶液を舐めたときに、舌に感じるべた付くような違和感をさす。「えぐみ」とは、例えば塩化カリウムを舐めたときに、舌に感じるまとわりつくような苦味様の感覚をさす。「キレ」とは、それらのミネラル味による舌に残る味覚の余韻の長さを示す。
【0016】
本発明容器詰飲料は、水系の清涼飲料であって、水中に、糖類、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ポリフェノール類及び有機酸類を含有する容器詰飲料であるのが好ましい。
本発明容器詰飲料はまた、焙煎した穀物を溶媒で抽出して得られる抽出液中に、糖類、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ポリフェノール類及び有機酸類を含有する容器詰飲料であるのが好ましい。
この際、上記水又は溶媒としては、例えば純水、水道水、蒸留水、脱塩水、アルカリイオン水、海洋深層水、イオン交換水、脱酸素水、天然水、水素水などを挙げることができる。
【0017】
<焙煎した穀物に由来する抽出成分>
本発明容器詰飲料は、焙煎した穀物に由来する抽出成分を含有する。
焙煎した穀物に由来する抽出成分とは、焙煎した穀物を水等の溶媒で抽出して得られる成分である。
【0018】
ここで、「穀物」とは、植物から得られる澱粉質を主体とする種子をいい、そのまま可食なもの、及び、可食ではなく且つ抽出物として飲用が可能なものを含む。具体的には、禾穀類、菽穀類である麦類、米類、豆類等を例示することができる。これらのうちの1種の穀物であっても、また、これらのうちに2種類以上の穀物であってもよい。但し、本発明の効果が奏される限りにおいて特に限定されるものではない。
前記「2種類以上の穀物」は、各々が所定条件を満たすものであれば、植物の品種として2種類以上であってよい。原料調達等の入手容易性に鑑みると、2種類以上の穀物は同種であって異なる条件を満たすものであることが好ましい。
本発明において「麦類」とは、例えば小麦、大麦、ライムギ、エンバク、はと麦、はだか麦、からす麦などのイネ科穀物を含むものである。
「大麦」とは、例えばハインドマーシュ、メトカルフ、スコープ、コマンダー、ほうしゅん、ミカモゴールデン、レガシー、シュンライ、ファイバースノウ、カシマムギなどを含むものである。
また、「焙煎」とは、原料となる穀物を加熱により焙じて煎る加工処理をいう。
【0019】
焙煎した穀物に由来する抽出成分は、穀物の種類によって含まる成分は異なるが、ポリフェノール類、タンパク質、デンプン、糖類、ピラジン系化合物、フェノール化合物などを含有している点は共通する特徴である。特に穀物が大麦の場合には、上記の他に、βグルカン、アラビノキシランを含有する。
【0020】
本発明容器詰飲料において、焙煎した穀物に由来する抽出成分、言い換えれば焙煎した穀物に由来する可溶性固形分の含有量は、500~4000mg/Lであるのが好ましく、中でも1000mg/L以上或いは3700mg/L以下、その中でも1500mg/L以上或いは3400mg/L以下であるのがさらに好ましい。
【0021】
焙煎した穀物に由来する抽出成分の代表例として、当該穀物が大麦の場合、本発明容器詰飲料におけるデンプン量は、100~700mg/Lであるのが好ましく、中でも150mg/L以上或いは680mg/L以下、その中でも180mg/L以上或いは650mg/L以下、その中でも200mg/L以上或いは630mg/L以下、その中でも250mg/L以上或いは600mg/L以下であるのがさらに好ましい。
同じく焙煎した穀物に由来する抽出成分の代表例として、当該穀物が大麦の場合、本発明容器詰飲料におけるβグルカン量は、2.0~13.5mg/Lであるのが好ましく、中でも3.0mg/L以上或いは13.0mg/L以下、その中でも3.5mg/L以上或いは12.8mg/L以下、その中でも3.8mg/L以上或いは12.5mg/L以下、その中でも4.0mg/L以上或いは12.3mg/L以下であるのがさらに好ましい。
【0022】
<糖類濃度>
本発明容器詰飲料は、糖類の含有量が10000~27000mg/Lであるのが好ましい。
【0023】
糖類を十分に補給させる観点から、本発明容器詰飲料における糖類の含有量は10000mg/L以上27000mg/L以下であるのが好ましく、中でも10200mg/L以上或いは26900mg/L以下、その中でも10300mg/L以上或いは26800mg/L以下、その中でも10500mg/L以上或いは25000mg/L以下であるのがさらに好ましい。
【0024】
本発明容器詰飲料における糖類含有量は、後述する本発明製造方法の成分調整工程における糖類の添加量によって調整することができる。
【0025】
なお、本発明において「糖類」とは、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース、スクロース、マルトース及びセロビオースであり、「糖類の含有量」はこれら糖類の合計含有量の意味である。
飲料中の糖類含有量の測定方法については、下記実施例の項目において詳述する。
【0026】
<pH>
本発明容器詰飲料は、焙煎穀物に由来する風味を高めるため、pH中性領域に調整するのが好ましい。かかる観点から、本発明容器詰飲料のpHは5.11~7.00であるのが好ましく、中でも5.50以上或いは6.90以下、その中でも5.90以上或いは6.80以下、その中でも6.00以上或いは6.75以下であるのがさらに好ましい。
【0027】
pHは、当業者に公知の手法を用いて測定することができ、例えば市販のpHメーターにて測定する方法を挙げることができる。
本発明容器詰飲料におけるpHの調整は、後述する本発明製造方法の成分調整工程におけるpH調整剤の添加によって調整することができる。
【0028】
<電解質/ポリフェノール類>
本発明容器詰飲料は、主に電解質に由来する塩味を抑制する観点から、ポリフェノール類の含有量(mg/L)に対する、ナトリウムとカリウムの合計含有量(mg/L)の比率((Na+K)/ポリフェノール類)が1.6~250.0であるのが好ましい。
ここでの「ポリフェノール類」とは後述するとおりであり、その含有量も後述するとおりである。
【0029】
本発明容器詰飲料において、当該比率((Na+K)/ポリフェノール類)は、ミネラル由来の渋味を抑制する観点から、1.6以上であるのが好ましく、中でも3.0以上、その中でも5.0以上、その中でも13.0以上であるのがさらに好ましい。
他方、ポリフェノール由来の塩味を抑制する観点から、当該比率((Na+K)/ポリフェノール類)は250.0以下であるのが好ましく、中でも200.0以下、その中でも100.0以下、その中でも50.0以下であるのがさらに好ましい。
【0030】
本発明容器詰飲料における比率((Na+K)/ポリフェノール類)は、後述する本発明製造方法の成分調整工程における電解質及びポリフェノール類の添加量やポリフェノール類を含有する植物の種類や抽出条件、水または溶媒によって調整することができる。
【0031】
<糖類/有機酸類>
本発明容器詰飲料は、主に糖類に由来する甘味を抑制する観点から、有機酸類含有量(mg/L)に対する、糖類の含有量(mg/L)の比率(糖類/有機酸類)が67.0~1800.0であるのが好ましい。
ここでの「糖類」及びその含有量は前述したとおりである。また、「有機酸類」及びその含有量は後述するとおりである。
【0032】
本発明容器詰飲料において、当該比率(糖類/有機酸類)は、甘味を効果的にマスキングしつつも有機酸由来の苦味や酸味を抑制する観点からの観点から、67.0以上であるのが好ましく、中でも100.0以上、その中でも150.0以上、その中でも200.0以上であるのがさらに好ましい。
他方、甘味を効果的にマスキングする観点から、当該比率(糖類/有機酸類)は1800.0以下であるのが好ましく、中でも1500.0以下、その中でも1000.0以下、その中でも600.0以下であるのがさらに好ましい。
なお、ここでの「ポリフェノール類」「有機酸類」の定義及び測定方法は後述のとおりである。
【0033】
本発明容器詰飲料における当該比率(糖類/有機酸類)は、有機酸類を含有する植物の種類や焙煎穀物の焙煎条件及び抽出条件のほか、後述する本発明製造方法の成分調整工程における糖類乃至有機酸類の添加によって調整することができる。
【0034】
<電解質>
電解質とは、溶媒中に溶解した際に、陽イオンと陰イオンに電離する物質のことであり、具体的には、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、塩化物イオン(Cl)、リン酸イオン(PO 3-)、および炭酸水素イオン(HCO )などのイオンに電離する物質を挙げることができる。本発明は、これら電解質の中でも、中性領域における性状の安定性の観点から、ナトリウム(Na)及びカリウム(K)の含有量に着目した。
【0035】
本発明容器詰飲料は、ナトリウム(Na)の含有量が700~1730mg/Lであるのが好ましい。
飲用時にナトリウムを十分に補給させる観点から、本発明容器詰飲料におけるNaの含有量は700mg/L以上であるのが好ましく、中でも750mg/L以上、その中でも800mg/L以上、その中でも850mg/L以上であるのがさらに好ましい。
他方、ナトリウム由来の味を抑制する観点から、本発明容器詰飲料におけるNaの含有量は1730mg/L以下であるのが好ましく、中でも1350mg/L以下、その中でも1200mg/L以下、その中でも1000mg/L以下であるのがさらに好ましい。
【0036】
本発明容器詰飲料は、カリウム(K)の含有量が350~1130mg/Lであるのが好ましい。
飲用時にカリウムを十分に補給させる観点から、本発明容器詰飲料におけるKの含有量は350mg/L以上であるのが好ましく、中でも400mg/L以上、その中でも600mg/L以上、その中でも700mg/L以上であるのがさらに好ましい。
他方、カリウム由来の味を抑制する観点から、本発明容器詰飲料におけるKの含有量は1130mg/L以下であるのが好ましく、中でも1100mg/L以下、その中でも950mg/L以下、その中でも800mg/L以下であるのがさらに好ましい。
飲料中のNa、Kの測定方法については、下記実施例の項目において詳述した。
【0037】
本発明容器詰飲料は、カリウムの含有量に対するナトリウムの含有量の比(Na/K)が0.8~3.4であるのが好ましい。
当該比(Na/K)が0.8以上であれば、後味に苦味を感じにくくキレがあるから好ましく、かかる観点から、比(Na/K)は0.9以上であるのがさらに好ましく、1.0以上であるのがより好ましい。
他方、比(Na/K)が3.4以下であれば、後味にヌメりが少なくキレがあるから好ましく、かかる観点から、比(Na/K)は3.0以下であるのがさらに好ましく、2.8以下であるのがより好ましい。
【0038】
本発明容器詰飲料における電解質量は、焙煎穀物や植物の抽出条件、抽出溶媒の種類のほか、成分調整工程における電解質の添加によって調整することができる。
【0039】
<ポリフェノール類>
本発明容器詰飲料は、ポリフェノール類の含有量が11.5~900.0mg/Lであるのが好ましい。
効果的な塩味の抑制の観点から、本発明容器詰飲料におけるポリフェノール類の含有量は11.5mg/L以上であるのが好ましく、中でも20.0mg/L以上、その中でも50.0mg/L以上、その中でも80.0mg/L以上であるのがさらに好ましい。
他方、後味に残る渋みの抑制の観点から、本発明容器詰飲料におけるポリフェノール類の含有量は900.0mg/L以下であるのが好ましく、中でも500.0mg/L以下、その中でも300.0mg/L以下、その中でも200.0mg/L以下であるのがさらに好ましい。
【0040】
本発明において「ポリフェノール類」とは、植物に由来する物質(フィトケミカル:phytochemical)の1種であり、1分子中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物の総称である。
ポリフェノールには、大別して分子量が1,000以下の単量体ポリフェノールと、単量体ポリフェノールが2つ以上結合した重合ポリフェノールが存在する。重合ポリフェノールは一般にタンニンとも称される。代表的な単量体ポリフェノールとしては、フラボノイド類(フラボノイド類には、フラボン、フラバノール、アントシアニジン、イソフラボノイド、ネオフラボノイド等を基本骨格とする化合物が含まれる)、クロロゲン酸、没食子酸、エラグ酸などがある。一方、重合ポリフェノールは単量体ポリフェノールが2個以上結合した化合物であり、ポリフェノール同士が炭素-炭素結合により重合した縮合型タンニンと、糖等由来の水酸基とのエステル結合により重合した加水分解型タンニンとに大別され、それぞれ代表的なポリフェノールとして縮合型タンニンとしてはプロアントシアニジン類、加水分解型タンニンとしてはガロタンニン、エラグタンニンが挙げられる。
前記「ポリフェノール類の含有量」とは、これらポリフェノール類の合計含有量の意味であり、飲料中のポリフェノール類含有量の測定方法については、下記実施例の項目において詳述する。
【0041】
本発明容器詰飲料は、焙煎穀物の抽出成分由来のポリフェノール類のほかに、緑茶抽出成分由来のポリフェノール類としてカテキン類を含むことが好ましい。
カテキン類の含有量としては、香りの余韻を感じさせる観点から、0.5mg/L以上であることが好ましく、中でも1.0mg/L以上、その中でも5.0mg/L以上、更にその中でも10.0mg/L以上であることが特に好ましい。他方、苦渋味の抑制の観点から、675.0mg/L以下であることが好ましく、中でも600.0mg/L以下、その中でも300.0mg/L以下、更にその中でも120.0mg/L以下であることが特に好ましい。
【0042】
焙煎穀物の抽出成分由来のポリフェノール類としては、プロシアニジン類、フラボン類、カルコン類、具体的には、γ‐オリザノール、フェルラ酸、アントシアニン、ルチン、イソフラボン、大麦の場合は、プロアントシアニジンT1、プロアントシアニジンB3、プロシニアジンB3などを挙げることができる。
【0043】
緑茶抽出成分由来のポリフェノール類としては、カテキン類、すなわち、カテキン(C)、ガロカテキン(GC)、カテキンガレート(Cg)、ガロカテキンガレート(GCg)、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECg)及びエピガロカテキンガレート(EGCg)挙げることができる。
【0044】
ポリフェノール類の含有量に対する、カテキン類の含有量の比率(カテキン類/ポリフェノール)は0.05以上1.0未満であることがより好ましく、中でも0.07以上或いは0.9以下、その中でも0.1以上或いは0.8以下であることが特に好ましい。
【0045】
本発明容器詰飲料におけるポリフェノール類の含有量は、焙煎穀物の抽出条件のほか、後述する本発明製造方法の成分調整工程におけるポリフェノール類の添加、例えば焙煎穀物の抽出成分由来のポリフェノール類の添加や、緑茶抽出成分由来のカテキン類の添加などによって調整することができる。
【0046】
<有機酸類>
本発明容器詰飲料は、焙煎した穀物に由来する香りを経時的に保持する観点から、有機酸類の含有量が15.0mg/L以上であるのが好ましく、中でも18.0mg/L以上、その中でも25.0mg/L以上、その中でも30.0mg/L以上であるのがさらに好ましい。
他方、焙煎した穀物に由来する香りを感じやすくする観点から、有機酸類の含有量は400.0mg/L以下であるのが好ましく、中でも300.0mg/L以下、その中でも200.0mg/L以下、その中でも100.0mg/L以下であるのがさらに好ましい。
【0047】
本発明において「有機酸類」とは、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸及び酢酸を意味し、「有機酸類の含有量」とはこれらの合計含有量である。なお、酸化防止剤と使用されるアスコルビン酸は本発明の有機酸には含まない。
上述したように、焙煎穀物を抽出して得られる抽出液における有機酸類の含有量は、焙煎穀物の焙煎強度の影響が大きいため、原料として用いる焙煎穀物の焙煎強度若しくはその指標としてのL値(明度)により、また抽出条件で飲料中の有機酸類含有量は調整可能である。
【0048】
本発明容器詰飲料における有機酸類量は、焙煎穀物の種類や焙煎条件、抽出条件のほか、成分調整工程における有機酸類の添加によって調整することができる。
【0049】
<可溶性固形分>
本発明容器詰飲料の可用性固形分の含有量は、濃度感の感じ方の観点から、飲用濃度換算で14000~35000mg/Lであることが好ましく、中でも17000mg/L以上或いは34000mg/L以下、その中でも20000mg/L以上或いは33000mg/L以下であることがさらに好ましい。
【0050】
<シュウ酸含有量>
本発明容器詰飲料は、沈殿物の発生を抑制する観点から、シュウ酸含有量が100mg/L以下であるのが好ましく、中でも90mg/L以下、その中でも60mg/L以下、さらにその中でも40mg/L以下であるのがさらに好ましい。
他方、適度な苦味を付与し味を引きしめる観点から、シュウ酸の含有量は3mg/L以上であるのが好ましく、中でも5mg/L以上、その中でも7mg/L以上、その中でも9mg/L以上であるのがさらに好ましい。
【0051】
抽出液乃至飲料のpHが中性域であると、シュウ酸はミネラル、特に2価イオンミネラル、中でもカルシウムやマグネシウムと反応して沈殿しやすくなり、製造時のライントラブルや商品の外観を損ねてしまう。他方、酸性域である場合には、イオン化して沈殿しにくいためトラブルは少ない。
【0052】
前記シュウ酸は、植物に由来する成分であるため、本発明容器詰飲料におけるシュウ酸含有量を上記範囲に調整するには、例えば抽出条件を制御することや植物原料を洗浄することにより調整することができる。例えば抽出温度を低くして抽出時間を短くすればシュウ酸含有量低めることができる。また、植物原料を適度に洗浄すればシュウ酸含有量を低減できる。但し、この方法に限定するものではない。
【0053】
<カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)含有量>
本発明容器詰飲料は、沈殿物の制御の観点から、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の合計含有量が0.1~60.0mg/Lであるのが好ましい。
カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の合計含有量が0.1mg/L以上であれば、ミネラルのバランス補給による健康効果を期待することができ、夏場の熱中症対策や冬場のヒートショック対策にもより効果的である。他方、60.0mg/L以下であれば、より沈殿の発生を抑えることができるから、好ましい。
かかる観点から、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の合計含有量は0.1mg/L以上であるのが好ましく、中でも2.0mg/L以上、その中でも10.0mg/L以上であるのがさらに好ましい。他方、60.0mg/L以下であるのが好ましく、中でも50.0mg/L以下、その中でも30.0mg/L以下であるのがさらに好ましい。
【0054】
本発明容器詰飲料におけるカルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の合計含有量は、例えば抽出条件の制御や抽出液乃至希釈水のミネラル成分の含有量を調整したり、後述する本発明製造方法の成分調整工程において、所定のミネラル成分を添加したりすることによって調整することができる。但し、これに限定するものではない。
【0055】
<その他の含有成分>
本発明容器詰飲料は、必要に応じて、アスコルビン酸やアスコルビン酸ナトリウム等の酸化防止剤、乳化剤、保存料、甘味料、着色料、増粘安定剤、調味料、強化剤、pH調整剤等を適宜含有してもよい。
但し、穀物系の原料の特徴を生かす観点から、香料は含有しないことが好ましい。
【0056】
<<容器詰飲料の製造方法>>
本発明の実施形態の一例に係る容器詰飲料の製造方法(「本発明製造方法」とも称する)として、焙煎した穀物を溶媒で抽出し(「抽出工程」)、得られた抽出液に、少なくとも糖類、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ポリフェノール、有機酸類及びpH調整剤を添加し(「成分調整工程」)、容器に充填する(「充填工程」)ことを特徴とする、容器詰飲料の製造方法について説明する。
【0057】
<焙煎した穀物>
焙煎した穀物は、原料穀物を焙煎して得ることができる。
【0058】
原料とすることができる穀物は、前述のとおりである。
【0059】
原料穀物の焙煎方法としては、当業者に公知の手法を用いることができる。例えば熱風焙煎、砂炒焙煎を含む媒体焙煎、遠赤外線焙煎、開放釜焙煎、回転ドラム式焙煎マイクロ波を用いた焙煎、過熱水蒸気を用いた焙煎などの方法を例示することができる。
【0060】
原料穀物の焙煎条件としては、飲料の香りに特徴を持たす香ばしさの観点から、穀物の到達品温が170~240℃になるように1~30分間上記の焙煎方法にて焙煎するのが好ましい。
【0061】
なお、本発明の効果が損なわれない限りにおいて、媒体焙煎後に色づけ、香味付けのために再度、焙煎穀物を焙煎してもよく、焙煎方法は熱風焙煎、媒体焙煎等の当業者に公知の方法を挙げることができる。
【0062】
焙煎前の処理として、原料穀物を水或いは蒸気と接触させ、原料穀物の含有水分量を適宜調整した状態とする膨化前処理を行うようにしてもよい。但し、膨化前処理しなくてもよい。
膨化前処理を行って水分量を調整した原料穀物を高温で焙煎することにより、膨化して割れるようになり、抽出効率を向上させたり、溶出成分を調整したりすることができる。
膨化前処理の方法としては、上述の通り、原料穀物を水と接触させる方法を挙げることができる。例えば、穀物を水に浸漬したり、直接水を散布したり、蒸気噴霧により水と接触させる方法等を例示することができる。但し、これらの方法に限定するものではない。
【0063】
焙煎穀物の品質劣化を防ぐ観点から、焙煎した穀物は、焙煎後に冷却することが好ましい。冷却方法は特に限定されるものではない。例えば放冷、送風冷却、吸引冷却、水冷却などを例示することができる。
【0064】
焙煎穀物のL値(明度)は、有機酸類の含有量の観点から、27~55であるのが好ましく、中でも30以上或いは52以下、その中でも32以上或いは50以下であるのがさらに好ましい。
焙煎穀物を抽出して得られる抽出液における有機酸類の含有量は、焙煎穀物の焙煎強度の影響が大きいため、かかる観点からも、所定範囲のL値(明度)の焙煎穀物を用いて抽出するのが好ましい。
なお、L値は、当業者に公知の手法を用いて測定することができ、例えば色差計(日本電色SE-2000、日本電色工業社製)により測定することができる。
【0065】
焙煎穀物のL値(明度)を調整するには、焙煎条件を調整すればよい。例えば、焙煎温度を上げたり、焙煎時間を延ばしたりすることでL値を下げることができる。但し、かかる方法に限定するものではない。
【0066】
<抽出工程>
焙煎穀物の抽出方法としては、浸漬抽出、ドリップ抽出、シャワーリングによる抽出など、公知の方法を採用すればよい。
【0067】
抽出温度は、焙煎穀物由来の香味を適度に感じさせる観点から、25℃以上であるのが好ましく、中でも50℃以上、その中でも80℃以上であるのがさらに好ましい。
抽出時間は、焙煎穀物由来の成分を溶出させる観点から、10分以上であるのが好ましく、中でも20分以上、その中でも30分以上であるのがさらに好ましい。他方、容器詰飲料の性状の安定性の観点から、100分以下であるのが好ましく、中でも90分以下、その中でも80分以下であるのがさらに好ましい。
なお、上記抽出温度は抽出溶媒の温度の意味である。また、抽出時間は、焙煎穀物が抽出溶媒に接触している時間である。
【0068】
抽出溶媒としては、例えば純水、水道水、蒸留水、脱塩水、アルカリイオン水、海洋深層水、イオン交換水、脱酸素水、天然水、水素水などを用いることができる。
【0069】
(急冷・ろ過)
上記のように抽出して得られた抽出液は、ただちに急冷し、その後ろ過するのが好ましい。
急冷することにより、濁り原因物質の沈殿乃至懸濁を一層促進させることができ、最終製品としての穀物茶飲料の懸濁及び沈殿の発生をより一層確実に防止できるばかりか、製造時間の短縮を図ることもできる。
【0070】
急冷方法は、特に限定されない。冷却効率等を鑑みれば、例えばプレート式熱交換機などを用いて約5~30℃程度に急冷するのがよい。
また、上記ろ過の方法としては、遠心分離ろ過と形状選別ろ過とを組合せて行うのが好ましく、特に遠心分離ろ過を行うことが効果的である。
【0071】
<成分調整工程>
焙煎穀物を抽出して得られた抽出液に、少なくとも、糖類、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ポリフェノール類、有機酸類、pH調整剤及びその他必要に応じた添加剤を適宜添加して成分の調整を行うのが好ましい。
【0072】
(糖類)
本成分調整工程では、容器詰飲料の飲料における糖類の含有量が10000~27000mg/Lとなるように調整するのが好ましい。すなわち、そのように糖類を添加するのが好ましい。
ここで、「糖類」とは前述のとおりであり、糖類の含有量はこれら糖類の合計含有量の意味である。
添加する糖類としては、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、セロビオースなどを挙げることができる。
【0073】
飲用時に糖類を十分に補給させる観点から、飲料における糖類の含有量が10000mg/L以上27000mg/L以下となるように調整するのが好ましく、中でも10200mg/L以上或いは26900mg/L以下、その中でも10300mg/L以上或いは26800mg/L以下、その中でも10500mg/L以上或いは25000mg/L以下となるように調整するのがさらに好ましい。
【0074】
本成分調整工程で添加する糖類含有物質としては、例えばグルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、セロビオースなどを挙げることができる。
【0075】
(電解質)
電解質とは、前述したように、溶媒中に溶解した際に、陽イオンと陰イオンに電離する物質のことであり、具体的には、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、塩化物イオン(Cl)、リン酸イオン(PO 3-)、および炭酸水素イオン(HCO )などのイオンに電離する物質を挙げることができる。本発明は、これら電解質の中でも、中性領域における性状の安定性の観点から、ナトリウム(Na)及びカリウム(K)の含有量に着目した。
【0076】
本成分調整工程では、容器詰飲料の飲料におけるナトリウム(Na)の含有量が700~1730mg/Lとなるように調整するのが好ましい。すなわち、必要に応じてNa化合物を添加するのが好ましい。
飲用時にナトリウムを十分に補給させる観点から、飲料におけるNaの含有量が700mg/L以上となるように調整するのが好ましく、中でも750mg/L以上、その中でも800mg/L以上、その中でも850mg/L以上となるように調整するのがさらに好ましい。
他方、ナトリウム由来の味を抑制する観点から、飲料におけるNaの含有量が1730mg/L以下となるように調整するのが好ましく、中でも1700mg/L以下、その中でも1350mg/L以下、その中でも1200mg/L以下、その中でも1000mg/L以下となるように調整するのがさらに好ましい。
飲料中のNa、Kの測定方法については、下記実施例の項目において詳述した。
【0077】
また、本成分調整工程では、容器詰飲料の飲料におけるカリウム(K)の含有量が350~1130mg/Lとなるように調整するのが好ましい。すなわち、必要に応じてK化合物を添加するのが好ましい。
飲用時にカリウムを十分に補給させる観点から、飲料におけるKの含有量が350mg/L以上となるように調整するのが好ましく、中でも400mg/L以上、その中でも600mg/L以上、その中でも700mg/L以上となるように調整するのがさらに好ましい。
他方、カリウム由来の味を抑制する観点から、飲料におけるKの含有量が1130mg/L以下となるように調整するのが好ましく、中でも1100mg/L以下、その中でも950mg/L以下、その中でも800mg/L以下となるように調整するのがさらに好ましい。
【0078】
本成分調整工程では、容器詰飲料の飲料におけるカリウムの含有量に対するナトリウムの含有量の比(Na/K)を0.8~3.4に調整するのが好ましい。
容器詰飲料の飲料における比(Na/K)が0.8以上であれば、後味に苦味を感じにくくキレがあるから好ましく、かかる観点から、比(Na/K)は0.9以上であるのがさらに好ましく、1.0以上であるのがより好ましい。
他方、比(Na/K)が3.4以下であれば、後味にヌメりが少なくキレがあるから好ましく、かかる観点から、比(Na/K)は3.0以下であるのがさらに好ましく、2.8以下であるのがより好ましい。
【0079】
本成分調整工程で添加するNa化合物、K化合物としては、NaCl、KCl、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、アスコルビン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0080】
(ポリフェノール類)
本成分調整工程では、電解質由来の塩味抑制の観点から、電解質含有量との関係を考慮して、ポリフェノール類含有量を調整するのが好ましい。
すなわち、本成分調整工程では、容器詰飲料の飲料における、ポリフェノール類の含有量(mg/L)に対する、ナトリウムとカリウムの合計含有量(mg/L)の比率((Na+K)/ポリフェノール類)が1.6~250.0となるように調整するのが好ましい。
ミネラル添加由来の塩味の抑制の観点から、飲料における比率((Na+K)/ポリフェノール類)は、1.6以上となるように調整するのが好ましく、中でも3.0以上、その中でも5.0以上、その中でも13.0以上となるように調整するのがさらに好ましい。
他方、ポリフェノール由来の渋味を抑制する観点から、飲料における比率((Na+K)/ポリフェノール類)は、250.0以下となるように調整するのが好ましく、中でも200.0以下、その中でも100.0以下、その中でも50.0以下となるように調整するのがさらに好ましい。
【0081】
また、効果的な塩味の抑制の観点から、容器詰飲料の飲料における、ポリフェノール類の含有量(mg/L)が11.5mg/L以上となるように調整するのが好ましく、中でも20.0mg/L以上、その中でも50.0mg/L以上、その中でも80.0mg/L以上となるように調整するのがさらに好ましい。
他方、後味に残る渋みの抑制の観点から、容器詰飲料の飲料における、ポリフェノール類の含有量(mg/L)が900.0mg/L以下となるように調整するのが好ましく、中でも500.0mg/L以下、その中でも300.0mg/L以下、その中でも200.0mg/L以下となるように調整するのがさらに好ましい。
【0082】
本成分調整工程では、焙煎穀物の抽出成分由来のポリフェノール類を含む組成物として、例えば大麦、米、蕎麦、黒豆、ハトムギ、ライ麦、燕麦、小麦、大豆、トウモロコシなどを添加することができる。
【0083】
本成分調整工程では、ポリフェノール類として、緑茶抽出成分由来のポリフェノール類を添加することもできる。
緑茶抽出成分由来のポリフェノール類としては、カテキン類、すなわち、カテキン(C)、ガロカテキン(GC)、カテキンガレート(Cg)、ガロカテキンガレート(GCg)、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECg)及びエピガロカテキンガレート(EGCg)を挙げることができる。
【0084】
この際、カテキン類を含む組成物を添加することができる。
当該カテキン類を含む組成物として、例えば、緑茶の抽出物やその精製物などを添加することができる。具体的な一例としては、緑茶を熱水抽出処理して得た抽出物を、水と低・高濃度アルコールを使って吸着カラムにて分離し乾燥させ、茶ポリフェノール濃度を約85~99.5%に調製してなる緑茶抽出物を例示することができる。例えば、「テアフラン90S(商品名;伊藤園社製)」などは好ましい例である。このテアフラン90Sは、カテキン類の総量に対するエステル型カテキン類の量が50~90質量%であり、EGCGの量がカテキン総量の40~90質量%であり、カフェイン含有量が同じくカテキン総量に対して0~2質量%である。
【0085】
緑茶抽出成分由来のポリフェノール類としてのカテキン類は、低い温度帯では、一般に塩味は強く感じやすい。よって冷たい飲用温度帯での電解質由来の塩味抑制の観点から、カテキン類の含有量(mg/L)に対する、ナトリウムとカリウムの合計含有量(mg/L)の比率((Na+K)/カテキン類)が2.0~4000.0となるように調整するのが好ましい。
冷たい飲用温度帯での塩味の効果的な抑制の観点から、飲料における比率((Na+K)/カテキン類)が、2.0以上となるようにカテキン類を添加するのが好ましく、中でも2.2以上、その中でも10.0以上、その中でも20.0以上となるようにカテキン類を添加するのがさらに好ましい。
他方、冷たい飲用温度帯での渋味の効果的な抑制の観点から、飲料における比率((Na+K)/カテキン類)が、4000.0以下となるようにカテキン類を添加するのが好ましく、中でも1000.0以下、その中でも80.0以下、その中でも30.0以下となるようにカテキン類を添加するのがさらに好ましい。
【0086】
(有機酸類)
本成分調整工程では、糖類由来の甘味抑制の観点から、糖類含有量との関係を考慮して、有機酸類含有量を調整するのが好ましく、必要に応じて、有機酸類を添加するのが好ましい。
すなわち、本成分調整工程では、容器詰飲料の飲料における、有機酸類含有量(mg/L)に対する、糖類の含有量(mg/L)の比率(糖類/有機酸類)が67.0~1800.0となるように調整するのが好ましい。
甘味を効果的にマスキングしつつも有機酸由来の苦味や酸味を抑制する観点から、飲料における比率(糖類/有機酸類)は、67.0以上となるように調整するのが好ましく、中でも100.0以上、その中でも150.0以上、その中でも200.0以上となるように調整するのがさらに好ましい。
他方、甘味を効果的にマスキングする観点から、飲料における比率(糖類/有機酸類)は、1800.0以下となるように調整するのが好ましく、中でも1500.0以下、その中でも1000.0以下、その中でも600.0以下となるように調整するのがさらに好ましい。
【0087】
また、焙煎した穀物に由来する香りを経時的に保持する観点から、飲料における有機酸類の含有量が15.0mg/L以上となるように調整するのが好ましく、中でも18.0mg/L以上、その中でも25.0mg/L以上、その中でも30.0mg/L以上となるように調整するのがさらに好ましい。
他方、焙煎した穀物に由来する香りを感じやすくする観点から、飲料における有機酸類の含有量が400.0mg/L以下となるように調整するのが好ましく、中でも300.0mg/L以下、その中でも200.0mg/L以下、その中でも100.0mg/L以下となるように調整するのがさらに好ましい。
【0088】
ここで、前記「有機酸類」とは、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸及び酢酸を意味し、「有機酸類の含有量」とはこれらの合計含有量である。なお、酸化防止剤と使用されるアスコルビン酸は本発明の有機酸には含まない。
上述したように、焙煎穀物を抽出して得られる抽出液における有機酸類の含有量は、焙煎穀物の焙煎強度の影響が大きいため、原料として用いる焙煎穀物の焙煎強度若しくはその指標としてのL値(明度)により、また抽出条件で飲料中の有機酸類含有量は調整可能である。
また、有機酸類を添加する必要がある際は、有機酸類単体を添加してもよいし、有機酸類を含有する物質として、例えば有機酸塩、具体的にはリン酸Na、リン酸K、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウムなどを添加することもできる。
【0089】
(pH)
本発明容器詰飲料は、焙煎穀物に由来する風味を高めるため、pH中性領域に調整するのが好ましい。かかる観点から、本工程は、抽出液のpHを5.11~7.00に調整するのが好ましく、中でも5.50以上或いは6.90以下、その中でも5.90以上或いは6.80以下、その中でも6.00以上或いは6.75以下に調整するのがさらに好ましい。
なお、pHは、当業者に公知の手法を用いて測定することができ、例えば市販のpHメーターにて測定する方法を挙げることができる。
【0090】
抽出液のpHを上記範囲に調整するため、必要に応じてpH調整剤を適宜組み合わせて添加するのが好ましい。
この際、添加剤としては、例えば重炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、アスコルビン酸(ビタミンC)、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸、及びグルコン酸等の有機酸を挙げることができる。
【0091】
(可溶性固形分)
本発明容器詰飲料の可溶性固形分の含有量は、濃度感の感じ方の観点から、飲用濃度換算で14000~35000mg/Lであることが好ましく、中でも17000mg/L以上或いは34000mg/L以下、その中でも20000mg/L以上或いは33000mg/L以下であることがさらに好ましい。
よって、本工程において、必要に応じて、水などを加えて可溶性固形分の含有量を調整するのが好ましい。この際、加える水等としては、例えば純水、水道水、蒸留水、脱塩水、アルカリイオン水、海洋深層水、イオン交換水、脱酸素水、天然水、水素水などを用いることができる。
なお、可溶性固形分の含有量は、当業者に公知の手法を用いて測定することができ、例えば、市販の光学屈折率計を用いてBrixとして測定することができる。
【0092】
(シュウ酸含有量)
本成分調整工程では、必要に応じて、シュウ酸含有量を100mg/L以下に調整するのが好ましい。
沈殿物の発生抑制の観点から、シュウ酸含有量が100mg/L以下に調整するのが好ましく、中でも90mg/L以下、その中でも60mg/L以下、さらにその中でも40mg/L以下に調整するのがさらに好ましい。
他方、適度な苦味を付与し味を引きしめる観点から、シュウ酸の含有量を3mg/L以上に調整するのが好ましく、中でも5mg/L以上、その中でも7mg/L以上、その中でも9mg/L以上に調整するのがさらに好ましい。
【0093】
抽出液乃至飲料のpHが中性域であると、シュウ酸はミネラル、特に2価イオンミネラル、中でもカルシウムやマグネシウムと反応して沈殿しやすくなり、製造時のライントラブルや商品の外観を損ねてしまうが、酸性域である場合には、イオン化して沈殿しにくいためトラブルは少ない。
【0094】
前記シュウ酸は、植物に由来する成分であるため、本発明容器詰飲料において、シュウ酸含有量を上記範囲に調整するには、例えば抽出条件を制御することにより調整することができる。例えば抽出温度を低くして抽出時間を短くすればシュウ酸含有量を低めることができる。また、植物原料を適度に洗浄すればシュウ酸含有量を低減できる。但し、この方法に限定するものではない。
必要に応じて、シュウ酸を含有する物質として、例えばシュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウムなどを添加するようにしてもよい。
【0095】
(カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)含有量)
本成分調整工程では、必要に応じて、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の合計含有量を0.1~60.0mg/Lに調整するのが好ましい。
カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の合計含有量が0.1mg/L以上であれば、ミネラルのバランス補給による健康効果を期待することができ、夏場の熱中症対策や冬場のヒートショック対策にも効果的であり、他方、60.0mg/100mL以下であれば、より沈殿の発生を抑えることができるから、好ましい。
かかる観点から、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の合計含有量は0.1mg/L以上であるのが好ましく、中でも2.0mg/L以上、その中でも10.0mg/L以上であるのがさらに好ましい。
他方、60.0mg/100mL以下であるのが好ましく、中でも50.0mgL以下、その中でも30.0mg/L以下であるのがさらに好ましい。
【0096】
本発明容器詰飲料乃至抽出液におけるカルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の合計含有量は、例えば抽出液乃至希釈水のミネラル成分の含有量を調整したり、所定のミネラル成分を添加したりすることによって調整することができる。但し、これに限定するものではない。
【0097】
(その他の添加剤)
本成分調整工程では、必要に応じて、アスコルビン酸やアスコルビン酸ナトリウム等の酸化防止剤、乳化剤、保存料、甘味料、着色料、増粘安定剤、調味料、強化剤、pH調整剤等の添加剤を単独又は組み合わせて配合して、調合液を得るようにしてもよい。
但し、穀物系の原料の特徴を生かす観点から、香料を添加しないことが好ましい。
また、所定の固形分濃度に調整するために、水を添加してもよい。
【0098】
<充填工程>
上記のように抽出して得られた穀物抽出液は、そのまま或いは、必要に応じて希釈し、必要に応じて通常飲料で用いる各種成分を添加し、常法によって殺菌乃至容器詰めするのが好ましい。
【0099】
充填容器としては、金属製の缶、紙製パック、プラスチックボトル、瓶、レトルトパウチなどを挙げることができる。
【0100】
殺菌及び充填に関しては、具体的には、例えば缶詰飲料であれば、容器充填後に加熱殺菌例えばレトルト殺菌を行えばよいし、PETボトル詰飲料であればUHT殺菌後に容器充填を行うようにすればよい。
【0101】
なお、殺菌及び充填時の加熱によって変化する成分もあるが、少なくとも、糖類、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ポリフェノール類、有機酸類、シュウ酸、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)の含有量はほぼ変化しない。
【0102】
<<容器詰飲料の呈味改善方法>>
本発明の実施形態の一例に係る容器詰飲料の呈味改善方法(「本発明呈味改善方法」とも称する)は、糖類、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ポリフェノール類及び有機酸類を含有し、糖類の含有量が10000~27000mg/Lであり、pHが5.11~7.00である容器詰飲料の呈味改善方法であって、
ポリフェノール類の含有量(mg/L)に対する、ナトリウムとカリウムの合計含有量(mg/L)の比率((Na+K)/ポリフェノール類)を1.6~250.0に調整し、且つ、
有機酸類含有量(mg/L)に対する、糖類の含有量(mg/L)の比率(糖類/有機酸類)を67.0~1800.0に調整することを特徴とする。
【0103】
本発明呈味改善方法によれば、ポリフェノール類の含有量(mg/L)に対する、ナトリウムとカリウムの合計含有量(mg/L)の比率((Na+K)/ポリフェノール類)を上記範囲に調整することで、電解質に由来する塩味を抑制することができ、さらには、有機酸類含有量(mg/L)に対する、糖類の含有量(mg/L)の比率(糖類/有機酸類)を上記範囲に調整することで、多量に存在する糖類に由来する甘味を抑制することができるから、飲料をより一層飲みやすくなり呈味を改善することができる。
【0104】
<<語句の説明など>>
本発明において、「α~β」(α,βは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「α以上β以下」の意と共に、「好ましくはαより大きい」或いは「好ましくはβより小さい」の意も包含するものである。
また、「α以上」又は「α≦」(αは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはαより大きい」の意を包含し、「β以下」又は「≦β」(βは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはβより小さい」の意も包含するものである。
また、「乃至」とは、「及び/又は」の意味である。
【実施例0105】
以下、本発明の実施例の一例について説明する。但し、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0106】
<実施例1>
大麦(品種シュンライ)を、到達品温が220℃になるように20分間バッチ式焙煎機にて熱風焙煎を行い、焙煎麦を得た。
この焙煎麦は、シュウ酸を70mg/100g、デンプンを100mg/100g含んでおり、焙煎L値が30であった。
【0107】
上記焙煎麦62gを、ステンレス製ドリップ抽出容器(内径150mm×高さ150mm、容積約3120cm)に高さが均一になるように投入し、焙煎穀物抽出液(表中の「麦茶」)を得た。
なお、該抽出容器には、内容液を排出可能なコックと、内容液を濾過する80メッシュの金網が備えられている。この容器内に、98℃のイオン交換水1240mLを注ぎ、40分間保持後、コックを開き、内容液を排出し、この排出液を10℃に冷却し、更に遠心分離器(機械名:Westfalia OSD2)にて10000rpm・9L/minの条件で通液して、焙煎穀物抽出液(麦茶、Bx.1.176%)を得た。
【0108】
次に、この焙煎穀物抽出液(麦茶)に対して、糖類としてのぶどう糖を9980mg/L、スクロースを480mg/L、塩化ナトリウム(NaCl)を1955mg/L、塩化カリウム(KCl)を870mg/L、カテキン類含有組成物としてのテアフラン(C:0質量%、GC:0質量%、Cg:1質量%、GCg:4質量%、EC:0質量%、EGC:2質量%、ECg:27質量%、EGCg:66質量%)を107mg/L、その他、炭酸カリウムを234mg/Lそれぞれ添加し、さらに、pH調整剤としてビタミンC及び重曹を加えてpHを6.5に調整した後、4L(表の調合量)にメスアップし、Bx.0.3%の焙煎穀物飲料を得た。
そして、この焙煎穀物飲料をUHTにて殺菌処理を行った後、ペットボトル製容器に充填して容器詰焙煎穀物飲料(サンプル)を得た。
【0109】
<実施例2~8及び比較例1~6>
実施例1において、表1に示すように焙煎条件、抽出条件、配合を調製し、実施例1と同様にして容器詰焙煎穀物飲料(サンプル)を得た。
なお、表1の「配合量」は、焙煎穀物抽出液(麦茶)(100質量%)に対する配合量(質量%)を示す。また、「成分値」は下記測定方法による分析値であり、括弧以外の値の単位は「mg/L」である。
なお、比較例1は、糖類濃度が9000mg/Lであり、糖類濃度の10000mg/Lの下限を下回るサンプルのため総合評価は「-」とした。
【0110】
[各成分含有量の測定方法]
上記容器詰焙煎穀物飲料(サンプル)について、以下の方法で分析・測定し、各成分値及び各物性値を算出した。
なお、容器詰焙煎穀物飲料(サンプル)は、ポリフェノール類、タンパク質、デンプン、糖類、ピラジン系化合物、フェノール化合物の他に、βグルカン、アラビノキシランを含有していることが確認された。
【0111】
(デンプン)
各実施例及び比較例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)0.1gに80%エタノール5ml加えて80℃、5分間加熱し、80%エタノール5ml加えて激しく振り混ぜ、遠心分離(8000rpm10分間20℃)を行って上澄み液を取り除いた。
得られた沈殿物に80%エタノール10mlを加えて激しく振り混ぜ、洗浄し、遠心分離(8000rpm10分間)を行って上澄み液を取り除き、この操作を3回繰り返した後、アミラーゼ3mlを加えて、沸騰水浴中で5分間ごとに振り混ぜながら30分間加熱した。放冷後、アミログルコシダーゼ0.1mlを加えて50℃水浴中で30分間加熱し、放冷後100mlに定容した。
検体の一部を取り出して遠心分離(3000rpm10分間20℃)を行い、上澄み液0.1mlを15ml容チューブに入れ、GOPOD試薬3ml加えて50℃水浴中で20分間静置した後、510nmの吸光度を測定し、次式により総デンプン量を求めた。
総デンプン量=510nm吸光度×0.9×F×(100ml÷サンプル量)
(F=100÷1.0mg/mlグルコース吸光度)
【0112】
(βグルカン)
各実施例及び比較例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)中のβグルカン量は、βグルカン定量用キット(例えば、Megazyme社製「分析用キット」など)を用いて測定した。
試料溶液5mLに2.5gの硫酸アンモニウムを加え、泡立たないように注意深く混和し、4℃で20時間静置する。この溶液を遠心分離(1000g、10分)し、上澄を除去する。残渣に1.0mLの50%エタノールを加えて激しく攪拌し、さらに10mLの50%エタノールを加えて混合し、これを遠心分離(1000g、5分)し、上澄を除去した。得られた残渣に対し再度同様の操作を繰り返し行った後、20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)4.8mLに溶解し、リケナーゼ(10U)を0.2mL加えて40℃で5分静置した。これを遠心分離(1000g、10分)し、得られた上澄を0.1mLずつ3本の試験管に移した。うち1本の試験管には50mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.0)0.1mLを加えた(ブランク用サンプル)。残りの2本にはβ-グルコシダーゼ・50mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH4.0)溶液(0.2U)0.1mLを加えた(反応用サンプル)。それぞれ40℃、15分間静置し、これにグルコース定量用試薬(GOPOD Reagent)をそれぞれ3.0mLずつ加えた後、40℃,20分静置した。これらの溶液について、510nmにおける吸光度Aを測定し、次式により吸光度差ΔAを求めた。
ΔA=A(反応用サンプル)-A(ブランク)…式
さらに吸光度差ΔAより、次式により試料溶液に含まれるβグルカン量を算出した。
βグルカン量(mg/L)=ΔA×F×9…式
但し、F=100/A(グルコース標準液)
ここで、グルコース標準液は、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(0.1mL)、1.0mg/mLグルコース水溶液(0.1mL)、グルコース定量用試薬GOPOD(3.0mL)を混合することにより得た。サンプルは2本以上測定し、その平均値を以てβグルカン量とした。
【0113】
(糖類)
各実施例及び比較例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)中の糖類は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)装置を用いた検量線法によりグルコース、フルクトース、スクロース、マルトース及びセロビオースを測定し、その合計量を糖類含有量として算出した。表には糖類含有量(「糖類」)のほか、グルコース含有量(「ぶどう糖」)を示した。
【0114】
<サンプル調整方法>
サンプルを適量測りとり、蒸留水に懸濁後、フィルターろ過して分析に供した。
<HPLC測定条件>
カラム:和光純薬工業社製 Wakosil 5NH
(内径4.6mm×長さ25mm)
カラム温度:30℃
移動相:アセトニトリル-水(75:25)
流速:1.0mL/分
検出器:屈折率検出器
【0115】
(電解質)
各実施例及び比較例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)中のナトリウム(Na)及びカリウム(K)量は、サンプルを塩酸抽出法によって試験溶液を調製し、原子吸光光度法により測定した。
【0116】
(ポリフェノール類)
各実施例及び比較例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)中のポリフェノール類含有量は、フォーリンチオカルト法(没食子酸換算)によりそのポリフェノール量を測定した。また、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)装置を用いた検量線法によってそのビタミンC量を測定した。そして、前記ポリフェノール量から、当該ビタミンC相当量を差し引くことで、サンプル中のポリフェノール類含有量を算出し、表には「ポリフェノール類」として記載してある。
<HPLC測定条件>
移動相:(A)1%メタリン酸 (B)50%アセトニトリル
カラム:ODSカラム 3.0mm×100mm
流速:0.43ml/min
カラム温度:40℃
測定波長:243nm
注入量:5μL
【0117】
【0118】
(カテキン類)
各実施例及び比較例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)中のカテキン類含有量は、Allianceシステム(Waters社製)を用いて高速液体クロマトグラフィ(HPLC)装置を用いて、下記条件下の検量線法により、カテキン(C)、ガロカテキン(GC)、カテキンガレート(Cg)、ガロカテキンガレート(GCg)、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECg)及びエピガロカテキンガレート(EGCg)をそれぞれ定量し、その合計量をカテキン類含有量とした。表には「カテキン類」として記載してある。
<HPLC測定条件>
カラム:J’sphere ODS-H80,φ3.0×250mmまたは相当
移動相:(A)水 (B)アセトニトリル (C)1%リン酸
カラム温度:40℃
流速:0.43mL/min
検出:UV230nm
注入量:10μL
サンプルクーラー:5℃
分析時間:74分
【0119】
【0120】
(有機酸類)
各実施例及び比較例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)を、高速液体クロマトグラム(HPLC)を用いて検量線法によって各有機酸の含有量を測定し、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸及び酢酸の合計含有量を算出した。表には、これらの合計含有量を「有機酸類」として示すと共に、リン酸とリンゴ酸の合計含有量を「リン酸+リンゴ酸」として示した。
【0121】
<HPLC測定条件>
移動相:4.6mM過塩素酸水溶液
反応液:0.2mMブロモチモールブルー(BTB)-15mMリン酸水素二ナトリウム
カラム:Shodex RSpak KC-811 8mm×300mm 2本連結
ガードカラム:Shodex RSpak KC-G 6Φ×50mm
流速:移動相0.5ml/min 反応液0.5ml/min
カラム温度:50℃
測定波長:455nm
注入量:20μL
【0122】
(シュウ酸)
各実施例及び比較例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)を、高速液体クロマトグラム(HPLC)を用いて検量線法によってシュウ酸含有量を測定した。
【0123】
<HPLC測定条件>
移動相:7.7mM過塩素酸水溶液
反応液:0.2mMブロモチモールブルー(BTB)-15mMリン酸水素二ナトリウム
カラム:Shodex RSpak KC-811 8mm×300mm 2本連結
ガードカラム:Shodex RSpakKC-G 6Φ×50mm
流速:移動相0.5ml/min 反応液0.7ml/min
カラム温度:80℃
測定波長:455nm
注入量:20μL
【0124】
(カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg))
各実施例及び比較例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)中のカルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)含有量は、サンプルを乾式灰化法によって試験溶液を調製し、誘導結合プラズマ発光分析法により測定した。
【0125】
(塩化物イオン(Cl))
各実施例及び比較例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)中の塩化物イオン(Cl)含有量は、サンプルを蒸留水にて適当な濃度に希釈し、イオンクロマトグラフ法により測定した。表には「Cl」として記載してある。
<測定条件>
溶離液:4.5mmol/L NaCO1.4mmol/L NaHCO
カラム:Thermo SCIENTIFIC IonPac AS22A(内径4mm×250mm)
ガードカラム:Thermo SCIENTIFIC IonPac AG12A
流速:1.0ml/min
サプレッサー:Thermo SCIENTIFIC AERS500 4mm(リサイクルモード/電流値26mA)
検出器:電気伝導度検出器
注入量:25μL
【0126】
<官能評価試験>
各実施例及び比較例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)について、茶飲料の製造に従事する5人のパネラーを選出し、以下の方法に基づいて官能評価を実施し、合議の結果、最も多かった評価を採用した。また、総合評価についても合議による結果を採用した。
【0127】
(塩味評価)
コントロールとして、市販(株式会社ファミリーマート社製 麦茶600ml)の焙煎穀物飲料に、塩化ナトリウム(NaCl)を1960mg/L、塩化カリウム(KCl)を870mg/L、ぶどう糖を19480mg/Lを添加したもの(コントロール1)を作製した。
事前にパネラーに常温に調整したコントロール1を常温下にて、100mlのプラストカップで20mlを飲用してもらい、パネラー間でコントロールの香味についてディスカッションを行ってもらうことで、コントロール1における「塩味」の共通認識を持つようにした。
そして、実施例及び比較例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)20mLを常温で飲み、各基準に基づき評価した。
【0128】
4点:コントロール1に対してかなり塩味が抑制され、且つポリフェノール由来の渋味も感じない。
3点:コントロール1に対して塩味が抑制された、又は塩味は抑制されているもののポリフェノール由来の渋味をわずかに感じる。
2点:コントロール1に対してわずかに塩味が抑制された、又は塩味は抑制されているもののポリフェノール由来の渋味を感じる。
1点:コントロール1と同等の塩味を感じる、又は塩味は抑制されているもののポリフェノール由来の渋味を強く感じる。
【0129】
(甘味評価)
コントロールとして、市販(大塚製薬(株)製 OS-1)の経口補水液にアルギニンを加えてpH6.2に調整した(コントロール2)。
常温に調整したコントロール2を事前にパネラーに常温下にて、100mlのプラストカップで20mlを飲用してもらい、パネラー間でコントロールの香味についてディスカッションを行ってもらうことで、コントロールにおける「甘味」「有機酸由来の酸味」の共通認識を持つようにした。
そして、実施例及び比較例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)20mLを常温で飲み、各基準に基づき評価した。
【0130】
4点:コントロール2に対してかなり甘味が抑制され、且つ有機酸由来の酸味も感じない。
3点:コントロール2に対して甘味が抑制された、又は甘味は抑制されているものの有機酸由来の酸味をわずかに感じる。
2点:コントロール2に対してわずかに甘味が抑制された、又は甘味は抑制されているものの有機酸由来の酸味を感じる。
1点:コントロール2と同等の甘味を感じる、又は甘味は抑制されているものの有機酸由来の酸味を強く感じる。
【0131】
(総合評価)
○:合計点が7点以上かつ各評価点が3点以上であり、容器詰飲料として非常に良好である。
△:合計点が7点以上かつ各評価点が3点未満、若しくは、合計点が4点~6点かつ各評価点が2点以上であり、容器詰飲料として適している。
×:合計点が4点~6点かつ各評価点が2点未満、若しくは、合計点が3点以下であるか又は各評価点のいずれかが1点であり、容器詰飲料として適していない。
【0132】
【表1】
【0133】
(考察)
上記実施例の結果より、糖類、電解質及び焙煎した穀物由来の成分を含有し、かつpHが中性である容器詰飲料に関して、有機酸は糖類による甘み、ポリフェノールは電解質による塩味を抑制できることが分かった。よって、ポリフェノール類と電解質との比率を調整することで、電解質による塩味を調整でき、また、有機酸と糖類の比率を調整することで、糖類による甘味を調整することができることが分かった。
【0134】
<実施例9~13>
実施例2(実施例11)において、塩化ナトリウム(NaCl)及び塩化カリウム(KCl)の添加量を変更して、Na含有量及びK含有量を、表2に示すように変更した以外、実施例1と同様にして容器詰焙煎穀物飲料(サンプル)を得た。
【0135】
<官能評価試験>
各実施例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)について、茶飲料の製造に従事する5人のパネラーを選出し、常温に調整した実施例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)を常温下にて、100mlのプラストカップで20mlを飲用してもらい、以下の方法に基づいて官能評価を実施し、合議の結果、最も多かった評価を採用した。
パネラー間で「塩化ナトリウム特有のヌメりの有無」及び「塩化カリウム特有のえぐみの有無」と後味が残る時間についてディスカッションを行った。
【0136】
◎:飲んだ直後にヌメりまたはえぐみを感じない。かつ5秒後に後味が残らない。
〇:飲んだ直後にヌメりまたはえぐみを感じない。かつ5秒後に後味が残る。
△:飲んだ直後にヌメりまたはえぐみを感じる。かつ5秒後に後味が残る。
【0137】
【表2】
【0138】
(考察)
カリウムの含有量に対するナトリウムの含有量の比を調整することで、塩味・苦味の後味と、ヌメり・えぐみを調整できることが分かった。
【0139】
<実施例14~18>
実施例2(実施例16)において、麦茶の使用量を変更して、シュウ酸含有量、及びCa+Mg含有量を、表3に示すように変更し、実施例1と同様にして容器詰焙煎穀物飲料(サンプル)を得た。また、Ca+Mg含有量については、抽出時、調合時の溶媒を表3のように変更し、調製した。
【0140】
<沈殿評価試験>
各実施例で得た焙煎穀物飲料(サンプル)について、ボトルを45°傾けて5℃で2週間の静置の後、ボトルを傾けたまま真下から観察し、各基準に基づき評価した。
◎:沈殿物が観察されない。
〇:底面に1mm以上の沈殿物は観察されないが、1mm未満の沈殿物が観察された。
△:底面に1mm以上の沈殿物が観察された。
【0141】
【表3】
【0142】
(考察)
シュウ酸含有量、及びCa+Mg含有量を調整することで、沈殿物の生成を抑制できることが分かった。