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特開2024-159134防錆用液状薬品、防錆鉄鋼製品の製造方法及び防錆鉄鋼製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159134
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】防錆用液状薬品、防錆鉄鋼製品の製造方法及び防錆鉄鋼製品
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/06 20060101AFI20241031BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20241031BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C23C24/06
C09D5/08
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074927
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】592152129
【氏名又は名称】株式会社アプトデイト
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金山 裕一
【テーマコード(参考)】
4J038
4K044
【Fターム(参考)】
4J038HA066
4J038KA05
4J038KA20
4J038MA06
4J038MA10
4J038MA15
4J038NA03
4J038PC02
4K044AA02
4K044BA10
4K044BB01
4K044BC02
4K044CA23
4K044CA27
(57)【要約】
【課題】鉄鋼部材に鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材を固定するための防錆用液状薬品を提供する。また、鉄鋼部材に微粒子状防錆材を容易に固定できる防錆鉄鋼製品の製造方法及び当該方法により製造される防錆鉄鋼製品を提供する。
【解決手段】鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材と、非水系溶媒とを含み、粘度が500cps~20000cpsの範囲内にある防錆用液状薬品20。また、鉄鋼部材10を準備する準備工程と、鉄鋼部材10の表面に上記防錆用液状薬品20を付着させる付着工程と、鉄鋼部材10の防錆用液状薬品20を付着させた面に圧力をかけて微粒子状防錆材を鉄鋼部材10の表面に固定する固定工程とを含む防錆鉄鋼製品の製造方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼部材の防錆に用いる防錆用液状薬品であって、
鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とした微粒子状防錆材と、非水系溶媒とを含み、粘度が500cps~20000cpsの範囲内にあることを特徴とする防錆用液状薬品。
【請求項2】
前記微粒子状防錆材は、アルミニウム、錫及び亜鉛のうちいずれか1種又はこれらの合金を主成分とするものであり、かつ、金属として0価であることを特徴とする請求項1に記載の防錆用液状薬品。
【請求項3】
前記非水系溶媒は、鎖式炭化水素及び環式炭化水素のうちいずれか1種又はこれらの混合物を主成分として含むものであることを特徴とする請求項1に記載の防錆用液状薬品。
【請求項4】
鉄鋼部材を準備する準備工程と、
前記鉄鋼部材の表面に、鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材と、非水系溶媒とを含み、粘度が500cps~20000cpsの範囲内にある防錆用液状薬品を付着させる付着工程と、
前記鉄鋼部材の前記防錆用液状薬品を付着させた面に圧力をかけて前記微粒子状防錆材を前記鉄鋼部材の表面に固定する固定工程とを含むことを特徴とする防錆鉄鋼製品の製造方法。
【請求項5】
前記固定工程においては、前記鉄鋼部材にプレス加工を施すことにより前記微粒子状防錆材を前記鉄鋼部材の表面に固定することを特徴とする請求項4に記載の防錆鉄鋼製品の製造方法。
【請求項6】
鉄鋼部材と、前記鉄鋼部材の表面に固定され、鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材とを備えることを特徴とする防錆鉄鋼製品。
【請求項7】
前記微粒子状防錆材は、厚さが0.0001mm~0.05mmの範囲内にあり、前記厚さに直交する方向の大きさが0.001mm~0.02mmの範囲内にあることを特徴とする請求項6に記載の防錆鉄鋼製品。
【請求項8】
前記微粒子状防錆材は、端部が前記鉄鋼部材の表面の凹凸に沿った不規則な形状を有していることを特徴とする請求項6に記載の防錆鉄鋼製品。
【請求項9】
工程内治具、チェーン部品、めっき加工用吊り治具、ハーネス固定治具又は金属ケースであることを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載の防錆鉄鋼製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆用液状薬品、防錆鉄鋼製品の製造方法及び防錆鉄鋼製品に関する。
【背景技術】
【0002】
めっきや電着塗装等でワークを保持し通電が行われるリードは、いわゆる工程内製品であることから、一般的で安価な鉄鋼材料(例えば、SPCC材等のSPC材)からなるものが使用されることが多い。しかし、このような鉄鋼材料は一般に金属無垢材であり、酸化しやすい。リードを電極部材として使用する場合には、表面が酸化してしまうと電気抵抗値が上昇する。また、酸化によって生じた錆が作業槽に落下してしまうと、作業中のロットに不具合が生じる可能性がある。
【0003】
鉄鋼製品の防錆に関して、公知の技術として犠牲電極技術がある。犠牲電極技術は物質間のイオン化傾向の差を利用する技術であり、鉄鋼製品と犠牲電極とを電気的に接続することで鉄鋼製品の錆の発生を抑制する(例えば、特許文献1参照。)。犠牲電極技術を用いるにあたっては、鉄鋼製品と犠牲電極とを離隔した状態とし、導電性の部材で鉄鋼製品と犠牲電極との電気的な接続を確保することもある(特許文献1参照。)。しかし、上述したリードのような鉄鋼製品に犠牲電極技術を適用するためには、鉄鋼製品と犠牲電極とを直接接触させることが好ましいと考えられる。この場合、例えば、鉄よりもイオン化傾向が大きいアルミニウム、錫、亜鉛等からなるピン状の部材を鉄鋼製品のベースとなる鉄鋼部材に打ち込むことが考えらえる。また、鉄鋼部材の製鉄工程においてアルミニウム等を添加することも考えられる。
【0004】
しかしながら、ピン状の部材を鉄鋼部材に打ち込む場合には、打ち込みが後工程となり相当の手間やコストがかかるという問題がある。また、鉄鋼部材の製鉄工程においてアルミニウム等を添加することは、製造コストや鉄鋼材料の組成の安定性等の観点から現実的ではないと考えられる。
【0005】
また、アルミニウム等の微粒子を鉄鋼部材の表面に配置することも考えられるが、微粒子化により比表面積が大きくなることから活性度が上がり、ささいなきっかけで発火する可能性がある。また、アルミニウム等の微粒子を鉄鋼部材の表面に分散させただけでは、鉄鋼部材の加工や運搬の途中で簡単に脱落してしまう。
【0006】
そこで、従来、樹脂を含む溶液中にアルミニウム、亜鉛等からなる微粒子を分散させた防錆塗料が知られている(例えば、特許文献2参照。)。従来の防錆塗料によれば、鉄鋼部材に塗布することにより、樹脂でアルミニウム、亜鉛等からなる微粒子を鉄鋼部材の表面に固定して防錆効果を得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第3145707号公報
【特許文献2】特開2005-41987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、塗料を用いる場合には、塗膜を形成することにより鉄鋼製品の防錆を図ることになるため、塗膜を形成できないような条件においては防錆効果を維持することが著しく困難となる。また、塗膜が形成できる場合であってもある程度の塗膜の厚みが必要となり、鉄鋼部材の表面にこのような塗膜を形成することは手間がかかり容易ではない。
【0009】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、鉄鋼部材に鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材を固定するための防錆用液状薬品を提供することを目的とする。また、本発明は、鉄鋼部材に鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材を容易に固定できる防錆鉄鋼製品の製造方法及び当該方法により製造される防錆鉄鋼製品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の防錆用液状薬品は、鉄鋼部材の防錆に用いる防錆用液状薬品であって、鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とした微粒子状防錆材と、非水系溶媒とを含み、粘度が500cps~20000cpsの範囲内にあることを特徴とする。
【0011】
本発明の防錆鉄鋼製品の製造方法は、鉄鋼部材を準備する準備工程と、前記鉄鋼部材の表面に、鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材と、非水系溶媒とを含み、粘度が500cps~20000cpsの範囲内にある防錆用液状薬品を付着させる付着工程と、前記鉄鋼部材の前記防錆用液状薬品を付着させた面に圧力をかけて前記微粒子状防錆材を前記鉄鋼部材の表面に固定する固定工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の防錆鉄鋼製品は、鉄鋼部材と、前記鉄鋼部材の表面に固定され、鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防錆用液状薬品は、鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とした微粒子状防錆材と、非水系溶媒とを含み、粘度が500cps~20000cpsの範囲内にあるため、本発明の防錆鉄鋼部材の製造方法に用いることで、鉄鋼部材に鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材を固定するための防錆用液状薬品となる。
【0014】
本発明の防錆鉄鋼製品の製造方法は、鉄鋼部材の表面に防錆用液状薬品を付着させる付着工程と、鉄鋼部材の防錆用液状薬品を付着させた面に圧力をかけて微粒子状防錆材を鉄鋼部材の表面に固定する固定工程とを含むため、鉄鋼部材に鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材を容易に固定できる防錆鉄鋼製品の製造方法となる。
【0015】
本発明の防錆鉄鋼製品は、鉄鋼部材と、鉄鋼部材の表面に固定され、鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材とを備えるため、錆の発生が抑制される防錆鉄鋼製品となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る防錆鉄鋼製品の製造方法のフローチャートである。
図2】実施形態に係る防錆鉄鋼製品の製造方法を説明するために示す模式図である。
図3】実施例1に係る防錆鉄鋼製品の走査型電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
図4】実施例1に係る防錆鉄鋼製品の走査型電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の防錆用液状薬品、防錆鉄鋼製品の製造方法及び防錆鉄鋼製品について、図に示す実施形態に基づいて説明する。各図面は模式図であり、必ずしも実際の構造や構成を厳密に反映したものではない。以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明に必須であるとは限らない。
【0018】
[実施形態]
1.防錆用液状薬品
実施形態に係る防錆用液状薬品は、鉄鋼部材の防錆に用いるものである。防錆用液状薬品の使用方法については、後述する防錆鉄鋼製品の製造方法の項目において説明する。防錆用懸濁液は、鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とした微粒子状防錆材と、非水系溶媒とを含む。また、防錆用懸濁液は、粘度が500cps~20000cpsの範囲内にある。
【0019】
なお、本明細書における「防錆」とは、いわゆる赤錆の発生を防止又は抑制することをいう。本明細書における「防錆」には、金属部材の表面に緻密に形成され、赤錆の発生を抑制する被膜(いわゆる黒錆)の発生を防止又は抑制することは含まれない。
【0020】
微粒子状防錆材は、アルミニウム、錫及び亜鉛のうちいずれか1種又はこれらの合金を主成分とするものであり、かつ、金属として0価であることが好ましい。なお、本明細書における「主成分」とは、総重量のうち半分以上を占める成分のことをいう。また、「これらの合金」には、アルミニウムを主成分とする合金、錫を主成分とする合金及び亜鉛を主成分とする合金が含まれる。上記合金は、アルミニウム、錫及び亜鉛以外の成分(例えば、ケイ素や鉄等)を含有していてもよい。
【0021】
また、微粒子状防錆材としては、例えば、フレーク状又は球状の粒子からなるものや微細なバリ状構造を有する棒状の粒子からなるものを用いることができる。微粒子状防錆材の大きさは特に限定されないが、鉄鋼部材に固定されたときに「厚さが0.0001mm~0.05mmの範囲内にあり、厚さに直交する方向の大きさが0.001mm~0.02mmの範囲内にある」ようになるものを用いることが好ましい。
【0022】
また、微粒子状防錆材は、非水系溶媒への懸濁に支障が無く、かつ、懸濁状態を保ったまま詰まることなく滴下できるサイズであることが好ましい。また、微粒子状防錆材は、鉄鋼部材に固定されたときに外観検査に支障が出ないサイズであることが好ましい。これらの観点から、微粒子状防錆材は、防錆用液状薬品の状態であるときに、最大粒径が0.05mm以下であることが好ましく、粒径が0.001mm~0.02mmの範囲内にあることが一層好ましい。
【0023】
非水系溶媒は、鎖式炭化水素及び環式炭化水素のうちいずれか1種又はこれらの混合物を主成分として含むものであることが好ましい。鎖式炭化水素としては、n-パラフィン等のパラフィン系炭化水素を好適に用いることができる。環式炭化水素としては、シクロヘキサンのようなアルカン系炭化水素やシクロヘキセンのようなアルケン系炭化水素を好適に用いることができる。
【0024】
また、非水系溶媒の成分としては、安定性や除去性等に大きな問題がない限りは上記以外のものも使用することができ、例えば、石油由来物(例えば、ミネラルスピリット等の工業ガソリン類、灯油等の燃料油類、ナフサ等)を使用することもできる。また、植物由来の油脂類やその精製物(例えば、テレピン油等)を使用することもできる。ただし、防錆用液状薬品における微粒子状防錆材の沈降を防ぐため、非水系溶媒の比重は微粒子状防錆材の比重に近いことが好ましい。
【0025】
なお、防錆用液状薬品は、上記した以外の成分(例えば、界面活性剤等)をさらに含んでいてもよい。
【0026】
2.防錆鉄鋼製品の製造方法
図1は、実施形態に係る防錆鉄鋼製品の製造方法のフローチャートである。
図2は、実施形態に係る防錆鉄鋼製品の製造方法を説明するために示す模式図である。図2(a)は準備工程S10に関する模式図であり、図2(b)は付着工程S20に関する模式図であり、図2(c)は固定工程S30に関する模式図であり、図2(d)は製造された防錆鉄鋼製品100の模式図である。なお、図2の各図においては鉄鋼部材10の厚さを無視して図示している。
【0027】
実施形態に係る防錆鉄鋼製品の製造方法は、準備工程S10と、付着工程S20と、固定工程S30とを含む(図1参照。)。以下、各工程について説明する。
【0028】
準備工程S10は、鉄鋼部材10を準備する工程である(図2(a)参照。)。鉄鋼部材10としては、コストが低く錆びやすい材料(例えば、SPC材)からなるものを好適に用いることができる。なお、図2(a)においては、鉄鋼部材10はフープ材様の形態を取っており、端部を引き出せるようになっている。
【0029】
付着工程S20は、鉄鋼部材10の表面に、鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材と、非水系溶媒とを含み、粘度が500cps~20000cpsの範囲内にある防錆用液状薬品20(つまり、実施形態に係る防錆用液状薬品)を付着させる工程である(図2(b)参照。)。鉄鋼部材10がフープ材様の形態を取っている場合には、図2(b)に示すように、鉄鋼部材10の端部を引き出しながら防錆用液状薬品20を滴下することで、鉄鋼部材10の表面に防錆用液状薬品20を連続的に付着させることができる。
【0030】
なお、防錆用液状薬品20を鉄鋼部材10の表面全体に付着させる必要はない。防錆鉄鋼製品100(後述)としたときに全体の防錆効果を得られるだけの微粒子状防錆材を使用すれば、鉄鋼部材10の少なくとも片面に付着させればよい。
【0031】
固定工程S30は、鉄鋼部材10の防錆用液状薬品20を付着させた面に圧力をかけて微粒子状防錆材を鉄鋼部材10の表面に固定する工程である(図2(c)参照。)。固定工程S30においては、鉄鋼部材10にプレス加工を施すことにより微粒子状防錆材を鉄鋼部材10の表面に固定することが好ましい。なお、固定工程S30におけるプレス加工は鉄鋼部材10の形状を加工するために行われるものであってよく、図2(c)においては、パンチ32とダイ34により打ち抜き加工を実施する様子を例示している。
【0032】
プレス加工等により防錆用液状薬品20を付着させた面に圧力をかけると、微粒子状防錆材を鉄鋼部材10の表面にある微小な凹凸に展着及び固定することができるため、微粒子状防錆材を鉄鋼部材10の表面に直接接触した状態で密着及び圧着することができる。なお、防錆用液状薬品20は適度な粘度を有するため、付着工程S20から固定工程S30までの間に容易に脱落することはない。
【0033】
上記の固定工程S30を実施することにより、防錆鉄鋼製品100を製造することができる(図2(d)参照。)。
【0034】
なお、実施形態に係る防錆鉄鋼製品の製造方法は、固定工程S30の後に他の工程をさらに含んでいてもよい。例えば、固定工程S30を実施した後に鉄鋼部材10の表面を加熱することで、鉄鋼部材10の表面の構造を安定化(黒錆化)させることができる。加熱の温度は、例えば280℃以上とすることができる。加熱の時間は、例えば、20秒程度とすることができる。加熱は、ヒートドライヤーやバーナー等を用いて実施することができる。
【0035】
3.防錆鉄鋼製品
実施形態に係る防錆鉄鋼製品100は、上記製造方法により製造されたものであり、鉄鋼部材10と、鉄鋼部材10の表面に固定され、鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材(図示せず。)とを備える(図2(d)参照。)。防錆鉄鋼製品100においては、図2(d)において符号102で示す面に微粒子状防錆材が固定されている。
【0036】
微粒子状防錆材は、厚さが0.0001mm~0.05mmの範囲内にあり、厚さに直交する方向の大きさが0.001mm~0.02mmの範囲内にあることが好ましい。また、微粒子状防錆材は、端部が鉄鋼部材10の表面の凹凸に沿った不規則な形状を有していることが好ましい。
【0037】
防錆鉄鋼製品100は、図2(d)においては四角形の平板であるように表示されているが、これは実施形態に係る防錆鉄鋼製品の製造方法をわかりやすく説明するための例示である。防錆鉄鋼製品100は、用途等に応じて任意の形状とすることができる。
【0038】
防錆鉄鋼製品100は、工程内治具(めっきや電着塗装等でワークを保持するのに用いられるリード等)、チェーン部品(動力伝達用チェーンのプレート等)、めっき加工用吊り治具、ハーネス固定治具(電線を固定するための治具)又は金属ケースであることが好ましい。もちろん、防錆鉄鋼製品100は上記した以外の製品であってもよい。防錆鉄鋼製品100は、SPC材のような比較的低コストの鉄鋼材料を用いて製造され、錆の発生を抑制する必要がある分野の製品であることが好ましい。また、防錆鉄鋼製品100は、他の製品を製造するための材料として用いられるものであってもよい。
【0039】
4.実施形態に係る防錆用液状薬品、防錆鉄鋼製品の製造方法及び防錆鉄鋼製品100の効果
実施形態に係る防錆用液状薬品は、鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とした微粒子状防錆材と、非水系溶媒とを含み、粘度が500cps~20000cpsの範囲内にあるため、本発明の防錆鉄鋼部材の製造方法に用いることで、鉄鋼部材に鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材を固定するための防錆用液状薬品となる。
【0040】
また、実施形態に係る防錆用液状薬品によれば、粘度が500cps以上であるため、微粒子状防錆材の沈降を抑制することが可能となる。さらに、実施形態に係る防錆用液状薬品によれば、粘度が20000cps以下であるため、鉄鋼部材10に付着させるときに鉄鋼部材10の表面で容易に広がりやすくすることが可能となる。
【0041】
また、実施形態に係る防錆用液状薬品によれば、微粒子状防錆材が、アルミニウム、錫及び亜鉛のうちいずれか1種又はこれらの合金を主成分とするものであり、かつ、金属として0価である場合には、後述する実施例で示すように、安定的に犠牲電極による防食効果を得ることが可能となる。
【0042】
また、実施形態に係る防錆用液状薬品によれば、非水系溶媒が、鎖式炭化水素及び環式炭化水素のうちいずれか1種又はこれらの混合物を主成分として含むものである場合には、防錆用液状薬品を安定した状態に保つことが可能となる。
【0043】
実施形態に係る防錆鉄鋼製品の製造方法は、鉄鋼部材10の表面に防錆用液状薬品20を付着させる付着工程S20と、鉄鋼部材10の防錆用液状薬品20を付着させた面に圧力をかけて微粒子状防錆材を鉄鋼部材10の表面に固定する固定工程S30とを含むため、鉄鋼部材10に鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材を容易に固定できる防錆鉄鋼製品の製造方法となる。
【0044】
また、実施形態に係る防錆鉄鋼製品の製造方法によれば、固定工程S30においては、鉄鋼部材10にプレス加工を施すことにより微粒子状防錆材を鉄鋼部材10の表面に固定する場合には、鉄鋼部材10を最終製品又はこれに近い形状に加工しつつ微粒子状防錆材を固定することが可能となる。
【0045】
実施形態に係る防錆鉄鋼製品100は、鉄鋼部材10と、鉄鋼部材10の表面に固定され、鉄よりもイオン化傾向が大きい金属を主成分とする微粒子状防錆材とを備えるため、錆の発生が抑制される防錆鉄鋼製品となる。
【0046】
また、実施形態に係る防錆鉄鋼製品100によれば、微粒子状防錆材が、厚さが0.0001mm~0.05mmの範囲内にあり、厚さに直交する方向の大きさが0.001mm~0.02mmの範囲内にある場合には、微粒子状防錆材が適切な大きさの範囲内にあるため、鉄鋼部材10への微粒子状防錆材の固定を安定させることが可能となる。
【0047】
また、実施形態に係る防錆鉄鋼製品100によれば、微粒子状防錆材が、端部が鉄鋼部材10の表面の凹凸に沿った不規則な形状を有している場合には、微粒子状防錆材の端部が鉄鋼部材10の表面の凹凸と噛み合い、鉄鋼部材10への微粒子状防錆材の固定を安定させることが可能となる。
【0048】
また、実施形態に係る防錆鉄鋼製品100は、工程内治具、チェーン部品、めっき加工用吊り治具、ハーネス固定治具又は金属ケースとして好適に用いることができる。
【0049】
[実施例1]
実施例1においては、本発明の防錆鉄鋼部材の製造方法により防錆鉄鋼製品を実際に製造し、電子顕微鏡による観察をおこなった。まず、実施例1に係る防錆鉄鋼製品の製造方法について説明する。
【0050】
1.準備工程
実施例1における準備工程においては、50mm角(厚さ2mm)の冷間鍛造鋼(SPCC材)からなる鉄鋼部材を準備した。
【0051】
2.付着工程
防錆用液状薬品として、和光純薬より入手したミネラルスピリッツ及びn-パラフィン(分子量:50パーセンタイルが150)を1:1で混ぜた非水系溶媒に、フレーク状のアルミニウムからなる微粒子状防錆材を5wt%投入して攪拌し、懸濁させたものを準備した。微粒子状防錆材の大きさは、最大径で0.002mm程度であった。
【0052】
次に、鉄鋼部材に上記防錆用液状薬品をスポイトで滴下した。滴下量は、鉄鋼部材に対して0.2wt%とした。
【0053】
3.固定工程
平板を模した金型を用意し、防錆用液状薬品を滴下した鉄鋼部材を、日油製20トンプレス機で1回プレスし、実施例1に係る防錆鉄鋼製品を製造した。
【0054】
上記のようにして製造した防錆鉄鋼製品を、簡易型の走査型電子顕微鏡TM3030Plus(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察した。加速電圧は15kVとした。
【0055】
図3,4は、実施例1に係る防錆鉄鋼製品の走査型電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
図3(a)は実施例1に係る防錆鉄鋼製品の電子顕微鏡画像であり、図3(b)は実施例1に係る防錆鉄鋼製品のEDXスペクトルを示すグラフである。
図4(a)は鉄に関する元素マッピング画像であり、図4(b)は炭素に関する元素マッピング画像であり、図4(c)はアルミニウムに関する元素マッピング画像である。なお、図4における各画像は、図4(a)の電子顕微鏡画像において破線Aで示す範囲内に対応する画像である。
【0056】
走査型電子顕微鏡による観察の結果を図3,4に示す。図3,4に示すように、実施例1に係る防錆鉄鋼製品の表面にはアルミニウムからなる微粒子状防錆部材が固定されていることが確認できた。
【0057】
[実施例2]
実施例2においては、本発明の防錆鉄鋼製品の製造方法により防錆鉄鋼製品を実際に製造し、錆の発生についての試験をおこなった。
【0058】
1.準備工程
実施例2における準備工程においては、幅20mm、長さ200mのSPCC材からなるフープ材様の鉄鋼部材を準備した。
【0059】
2.付着工程
防錆用液状薬品として、非水系溶媒にフレーク状のアルミニウムからなる微粒子状防錆材を0.05wt%懸濁させたものを準備した。非水系溶媒は、n-パラフィン(実施例1と同様のもの):約60%、灯油・ナフサ混合物(灯油:ナフサ=8~7:2~3):約30%、その他界面活性剤等(分散剤等として灯油等にもともと配合されていたもの):約10%からなるものを用いた。微粒子状防錆材の大きさは、0.001mm~0.005mmの範囲内であった。防錆用液状薬品の粘度は1000cpsとし、比重は2.9とした。
【0060】
次に、フィーディングスピードを500mm/分として鉄鋼部材を繰り出し、その上に上記の防錆用液状薬品を2ml/分のペースで滴下し、付着させた。
【0061】
3.固定工程
防錆用液状薬品を付着させた鉄鋼部材をプレス加工し、長さ300mmに切り出すとともに穴をあけ、いわゆる吊り治具に用いるための形状(細長い平板状の形状)に成形した。その後、ヒートガンを用いて表面温度を約280℃まで上昇させ、液分を蒸発させた。以上のようにして製造した防錆鉄鋼製品について、以下、「No.1の鉄鋼製品」と記載する。
【0062】
また、比較のために、微粒子状防錆材を用いない(付着工程において、非水系溶媒のみを滴下して付着させた)こと以外はNo.1の鉄鋼製品を製造した方法と同様の方法により、比較用の鉄鋼製品(以下、「No.2の鉄鋼製品」と記載する。)も製造した。さらに、付着工程を省略したこと以外はNo.1の鉄鋼製品を製造した方法と同様の方法により、別の比較用の鉄鋼製品(以下、「No.3の鉄鋼製品」と記載する。)も製造した。それぞれの鉄鋼製品は、10個ずつ製造した。
【0063】
次に、それぞれの鉄鋼製品をリン酸二水素アンモニウム電解液の雰囲気に3分間暴露し、赤錆の発生の様子を見た。環境の平均温度は32℃、湿度75%であった。
【0064】
その結果を以下の表1に示す。なお、表1における「付着工程の有無」の欄は微粒子状防錆材を用いたかどうかにかかわらず製造時に付着工程をおこなったか否かを示し、「Al添加有無」の欄は微粒子状防錆材を用いたか否かを示す。また、「結果」の欄の「10/10」という記載は10個の鉄鋼製品全てについて赤錆が発生しなかったことを示し、「0/10」という記載は10個の鉄鋼製品全てについて赤錆が発生したことを示す。
【表1】
【0065】
表1に示すように、本発明の防錆鉄鋼製品の製造方法により製造したNo.1の鉄鋼製品は、全て黒錆化し赤錆は発生しなかった。一方、No.2の鉄鋼製品及びNo.3の鉄鋼製品については、全て赤錆が発生していた。以上の結果から、本発明の防錆鉄鋼製品は錆の発生が抑制されることが確認できた。
【0066】
[実施例3]
実施例3においては、微粒子状防錆材の材料や滴下する防錆用液状薬品の量を変えて防錆鉄鋼製品を実際に製造し、錆の発生についての試験をおこなった。
【0067】
1.準備工程
実施例3における準備工程においては、50mm角(厚さ2mm)の冷間鍛造鋼(SPCC材)からなる鉄鋼部材を準備した。
【0068】
2.付着工程
防錆用液状薬品として、ミネラルスピリッツ及びn-パラフィン(実施例1と同様のもの)を1:1で混ぜた非水系溶媒に、フレーク状のアルミニウムからなる微粒子状防錆材、粉末状の亜鉛からなる微粒子状防錆材又は錫箔を非常に細かく裁断したものからなる微粒子状防錆材を5wt%投入して攪拌し、懸濁させたものを準備した。微粒子状防錆材の大きさは、それぞれ最大径で0.002mm程度であった。
【0069】
次に、鉄鋼部材に上記防錆用液状薬品をスポイトで滴下した。滴下量は3種類設定し、鉄鋼部材に対して0.05wt%、0.1wt%、0.2wt%とした。また、比較のために上記の非水系溶媒のみを滴下した鉄鋼部材も準備した。
【0070】
3.固定工程
平板を模した金型を用意し、防錆用液状薬品又は非水系溶媒を滴下した鉄鋼部材を、日油製20トンプレス機で1回プレスし、鉄鋼製品を製造した。
【0071】
上記のようにして製造した鉄鋼製品を、アルカリ洗浄室の雰囲気(密閉、アルカリ条件)に2週間暴露し、表面状態を観察した。雰囲気の湿度は65%以上、温度は約35℃であった。
【0072】
その結果を表2に示す。なお、表2における「滴下量」の欄の「0」の項目は、非水系溶媒のみを滴下した鉄鋼部材に関する結果を示す。
【表2】
【0073】
表2に示すように、アルミニウムを含む防錆用液状薬品を用いた場合には、全ての条件で赤錆化は発生しなかった。また、亜鉛又は錫を含む防錆用液状薬品を用いた場合でも、滴下量にもよるものの赤錆化の抑制効果があることが確認できた。
【0074】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0075】
(1)上記実施形態において記載した構成要素の形状等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0076】
(2)上記実施形態においては、準備工程S10で準備する鉄鋼部材10はフープ材様の形態を取っているが、本発明はこれに限定されるものではない。準備工程において準備する鉄鋼部材の形態及び形状は特に限定されない。
【0077】
(3)上記実施形態においては、固定工程S30におけるプレス加工は打ち抜き加工であったが、本発明はこれに限定されるものではない。プレス加工は曲げ加工や絞り加工等であってもよい。
【0078】
(4)上記実施形態においては、固定工程S30において、鉄鋼部材10の防錆用液状薬品20を付着させた面に圧力をかけて微粒子状防錆材を鉄鋼部材10の表面に固定するためにプレス加工を実施することを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。鉄鋼部材の防錆用液状薬品を付着させた面に十分な圧力をかけられるのであれば、プレス加工以外の方法(例えば、圧延加工等)を用いることもできる。
【符号の説明】
【0079】
10…鉄鋼部材、20…防錆用液状薬品、32…パンチ、34…ダイ、100…防錆鉄鋼製品
図1
図2
図3
図4