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2024-159136船舶推進システム、船舶の推進制御方法、及び船舶の推進制御プログラム
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  • -船舶推進システム、船舶の推進制御方法、及び船舶の推進制御プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159136
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】船舶推進システム、船舶の推進制御方法、及び船舶の推進制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B63H 3/10 20060101AFI20241031BHJP
   B63H 21/20 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
B63H3/10
B63H21/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074929
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山中 佑介
(72)【発明者】
【氏名】小濱 博之
(72)【発明者】
【氏名】伊地智 康文
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 誠也
(72)【発明者】
【氏名】廣島 成哉
(57)【要約】
【課題】船舶の加速完了までの時間を短縮する。
【解決手段】船舶推進システム100は、駆動力を発生する主機3と、主機3の駆動力によって回転する可変ピッチプロペラ4と、可変ピッチプロペラ4の回転速度及び翼角を制御する制御装置6とを備えている。制御装置6は、速力を増加させる増速制御を実行する。増速制御は、可変ピッチプロペラ4の回転速度及び翼角を目標速力に応じて増加させる通常増速制御と、通常増速制御に比べて可変ピッチプロペラ4の回転速度を可変ピッチプロペラ4の翼角よりも優先して増加させる優先増速制御とを含む。優先増速制御は、所定の第1終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加を押し上げるブースト制御、及び、所定の第2終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラの翼角の増加を制限するリミット制御の少なくとも一方を含む。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力を発生する主機と、
前記主機の駆動力によって回転する可変ピッチプロペラと、
前記可変ピッチプロペラの回転速度及び翼角を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、速力を増加させる増速制御を実行し、
前記増速制御は、前記可変ピッチプロペラの回転速度及び翼角を目標速力に応じて増加させる通常増速制御と、前記通常増速制御に比べて前記可変ピッチプロペラの回転速度を前記可変ピッチプロペラの翼角よりも優先して増加させる優先増速制御とを含み、
前記優先増速制御は、所定の第1終了条件が満たされるまで前記可変ピッチプロペラの回転速度の増加を押し上げるブースト制御、及び、所定の第2終了条件が満たされるまで前記可変ピッチプロペラの翼角の増加を制限するリミット制御の少なくとも一方を含む船舶推進システム。
【請求項2】
請求項1に記載の船舶推進システムにおいて、
前記制御装置は、
前記増速制御において前記可変ピッチプロペラの回転速度を増加させる際に前記可変ピッチプロペラの回転速度の目標値に基づいて前記主機の回転速度を制御し、
前記優先増速制御において少なくとも前記ブースト制御を実行し、
前記ブースト制御において、前記通常増速制御に比べて、前記主機の回転速度の制御量を増加させる船舶推進システム。
【請求項3】
請求項2に記載の船舶推進システムにおいて、
前記制御装置は、
前記増速制御において前記可変ピッチプロペラの回転速度を増加させる際に前記可変ピッチプロペラの回転速度の目標値と実値との偏差に応じて前記主機の回転速度を制御し、
前記ブースト制御において前記目標値及び前記偏差の少なくとも一方を増加させる船舶推進システム。
【請求項4】
請求項3に記載の船舶推進システムにおいて、
前記制御装置は、前記ブースト制御において前記目標値及び前記偏差の少なくとも一方を増加させる際の増加量を前記偏差に応じて変化させる船舶推進システム。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1つに記載の船舶推進システムにおいて、
前記第1終了条件は、前記可変ピッチプロペラの回転速度の目標値と実値との偏差が所定の閾値以下となること、又は、前記優先増速制御の開始から所定期間経過することである船舶推進システム。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか1つに記載の船舶推進システムにおいて、
前記制御装置は、
前記増速制御において前記可変ピッチプロペラの翼角を増加させる際に前記翼角を前記翼角の目標値まで経時的に変化させ、
前記優先増速制御を実行する場合に少なくとも前記リミット制御を実行し、
前記リミット制御において、前記通常増速制御に比べて、前記翼角の変化率を低減させる船舶推進システム。
【請求項7】
請求項1乃至4の何れか1つに記載の船舶推進システムにおいて、
前記制御装置は、前記優先増速制御において少なくとも前記リミット制御を実行し、
前記リミット制御における前記翼角の増加の制限は、前記翼角の増加の一時停止である船舶推進システム。
【請求項8】
請求項1乃至4の何れか1つに記載の船舶推進システムにおいて、
前記第2終了条件は、前記主機の回転速度の実値が速力の目標値に応じて定められる所定回転速度よりも大きくなること、又は、前記優先増速制御の開始から所定期間経過することである船舶推進システム。
【請求項9】
駆動力を発生する主機と前記主機からの駆動力によって回転する可変ピッチプロペラとを備えた船舶の推進制御方法において、
前記可変ピッチプロペラの回転速度及び翼角を目標速力に応じて増加させることによって速力を増加させる通常増速制御を実行することと、
前記通常増速制御に比べて前記可変ピッチプロペラの回転速度を前記可変ピッチプロペラの翼角よりも優先して増加させることによって速力を増加させる優先増速制御を実行することとを含み、
前記優先増速制御は、所定の第1終了条件が満たされるまで前記可変ピッチプロペラの回転速度の増加を押し上げるブースト制御、及び、所定の第2終了条件が満たされるまで前記可変ピッチプロペラの翼角の増加を制限するリミット制御の少なくとも一方を含む船舶の推進制御方法。
【請求項10】
駆動力を発生する主機と前記主機からの駆動力によって回転する可変ピッチプロペラとを備えた船舶の制御をコンピュータに実行させるための船舶の推進制御プログラムにおいて、
前記可変ピッチプロペラの回転速度及び翼角を目標速力に応じて増加させることによって速力を増加させる通常増速制御と、
前記通常増速制御に比べて前記可変ピッチプロペラの回転速度を前記可変ピッチプロペラの翼角よりも優先して増加させることによって速力を増加させる優先増速制御とをコンピュータに実行させ、
前記優先増速制御は、所定の第1終了条件が満たされるまで前記可変ピッチプロペラの回転速度の増加を押し上げるブースト制御、及び、所定の第2終了条件が満たされるまで前記可変ピッチプロペラの翼角の増加を制限するリミット制御の少なくとも一方を含む船舶の推進制御プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、船舶推進システム、船舶の推進制御方法、及び、船舶の推進制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、可変ピッチプロペラを備えた船舶が開示されている。可変ピッチプロペラは、翼角を自在に変更させることができる。翼角を変更することにより、推進出力を変更することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3133448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、船舶を増速させる場合には、可変ピッチプロペラの回転速度及び翼角の両方を経時的に増加させる。しかし、可変ピッチプロペラの回転速度及び翼角の両方を経時的に増加させても速力が所望通りに増加せず、加速完了までに時間を要する場合がある。
【0005】
ここに開示された技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加速完了までの時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示された船舶推進システムは、駆動力を発生する主機と、主機の駆動力によって回転する可変ピッチプロペラと、可変ピッチプロペラの回転速度及び翼角を制御する制御装置とを備え、制御装置は、速力を増加させる増速制御を実行し、増速制御は、可変ピッチプロペラの回転速度及び翼角を目標速力に応じて増加させる通常増速制御と、通常増速制御に比べて可変ピッチプロペラの回転速度を可変ピッチプロペラの翼角よりも優先して増加させる優先増速制御とを含み、優先増速制御は、所定の第1終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラの回転速度の増加を押し上げるブースト制御、及び、所定の第2終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラの翼角の増加を制限するリミット制御の少なくとも一方を含む。
【0007】
ここに開示された船舶の推進制御方法は、駆動力を発生する主機と主機からの駆動力によって回転する可変ピッチプロペラとを備えた船舶の推進制御方法であって、可変ピッチプロペラの回転速度及び翼角を目標速力に応じて増加させることによって速力を増加させる通常増速制御を実行することと、通常増速制御に比べて可変ピッチプロペラの回転速度を可変ピッチプロペラの翼角よりも優先して増加させることによって速力を増加させる優先増速制御を実行することとを含み、優先増速制御は、所定の第1終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラの回転速度の増加を押し上げるブースト制御、及び、所定の第2終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラの翼角の増加を制限するリミット制御の少なくとも一方を含む。
【0008】
ここに開示された船舶の推進制御プログラムは、駆動力を発生する主機と主機からの駆動力によって回転する可変ピッチプロペラとを備えた船舶の制御をコンピュータに実行させるための船舶の推進制御プログラムであって、可変ピッチプロペラの回転速度及び翼角を目標速力に応じて増加させることによって速力を増加させる通常増速制御と、通常増速制御に比べて可変ピッチプロペラの回転速度を可変ピッチプロペラの翼角よりも優先して増加させることによって速力を増加させる優先増速制御とをコンピュータに実行させ、優先増速制御は、所定の第1終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラの回転速度の増加を押し上げるブースト制御、及び、所定の第2終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラの翼角の増加を制限するリミット制御の少なくとも一方を含む。
【発明の効果】
【0009】
前記船舶推進システムによれば、加速完了までの時間を短縮できる。
【0010】
前記推進制御方法によれば、加速完了までの時間を短縮できる。
【0011】
前記推進制御プログラムによれば、加速完了までの時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、船舶推進システムの概略構成を示す模式図である。
図2図2は、制御装置のハードウェア構成を示す概略的なブロック図である。
図3図3は、船舶推進システムの制御系の一例を示すブロック線図である。
図4図4は、制限曲線の一例を示す概念図である。
図5図5は、増速制御のフローチャートである。
図6図6は、優先増速制御のサブルーチンのフローチャートである。
図7図7は、運転マップにおいて、通常増速制御による推進出力の推移と優先増速制御による推進出力の推移との比較を示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、船舶推進システム100の概略構成を示す図である。
【0014】
船舶推進システム100は、船舶を推進するためのシステムである。船舶推進システム100は、駆動力を発生する主機3と、主機3の駆動力によって回転する可変ピッチプロペラ4と、可変ピッチプロペラ4の回転速度及び翼角とを制御する制御装置6とを備えている。船舶推進システム100は、主機3の駆動力によって発電を行う電動発電機5をさらに備えていてもよい。尚、主機3の回転速度と可変ピッチプロペラ4の回転速度とは相関があるため、「主機3の回転速度」を可変ピッチプロペラ4の回転速度として読み替えてもよい。
【0015】
主機3は、例えば、ディーゼルエンジンである。主機3には、燃料供給器31が設けられている。燃料供給器31は、主機3に供給する燃料の単位時間当たりの供給量を変更することで、主機3の回転速度(詳しくは、主機3の出力軸30の回転速度)を変更する。
【0016】
主機3の出力軸30は、減速装置20を介して可変ピッチプロペラ4に接続されている。減速装置20は、主機3の駆動力を減速して可変ピッチプロペラ4に伝達する。
【0017】
可変ピッチプロペラ4は、船舶に推進出力を与える推進器である。可変ピッチプロペラ4は、主機3から減速装置20を介して伝えられた駆動力によって回転し、推進出力を発生させる。可変ピッチプロペラ4の回転速度は、主機3の回転速度に応じて変化する。
【0018】
可変ピッチプロペラ4は、可変ピッチプロペラ4の翼角(即ち、ピッチ角)を変更する翼角変更装置41を有している。翼角変更装置41は、例えば、可変ピッチプロペラ4の翼角を変更するための駆動力を発生させる油圧式又は電動式のアクチュエータを含んでいる。
【0019】
電動発電機5は、電動動作及び発電動作を択一的に行う。電動発電機5は、減速装置20を介して主機3に接続されている。さらに、電動発電機5は、減速装置20を介して可変ピッチプロペラ4に接続されている。
【0020】
電動発電機5は、いわゆる軸発電機である。即ち、電動発電機5は、発電動作をする場合には、主機3によって駆動され発電を行い得る。電動発電機5は、発電した電力を電力変換装置13へ供給する。電動発電機5は、電力変換装置13を介して船内母線11に電気的に接続されている。尚、電動発電機5の発電量は、電力変換装置13により制御される。
【0021】
さらに、電動発電機5は、回生ブレーキとしても機能して発電を行う。詳しくは、可変ピッチプロペラ4の回転力は、減速装置20を介して電動発電機5に伝達し得る。可変ピッチプロペラ4の回転力が減速装置20を介して電動発電機5に伝わることによって、電動発電機5は駆動されて発電する。
【0022】
一方、電動発電機5は、電動動作をする場合には、可変ピッチプロペラ4を回転させる駆動力を発生させる。電動発電機5の駆動力は、減速装置20を介して可変ピッチプロペラ4に伝わる。船舶推進システム100は、電動発電機5とは別の発電機である主発電機10をさらに備えてもよい。電動発電機5は、主発電機10からの電力によって電動機として動作する。例えば、主発電機10は船内母線11を介して電動発電機5に電気的に接続される。
【0023】
つまり、可変ピッチプロペラ4は、主機3及び電動発電機5の一方又は双方からの駆動力によって回転し、推進出力を発生させる。可変ピッチプロペラ4の回転速度は、駆動源となる主機3及び電動発電機5の一方又は双方の出力に応じて変化する。
【0024】
船舶推進システム100は、操船装置12をさらに備えてもよい。操船装置12は、例えば、船体に設置される。操船装置12は、ユーザからの操船の指令を受け付ける。操船装置12が受け付ける指令は、例えば速力の変更等である。例えば、操船装置12は、速力に応じた速力スイッチを含んでいる。ユーザが所望の速力(以下、「目標速力」とも称する。)の速力スイッチを押下すると、操船装置12が目標速力に対応する速力指令を制御装置6へ出力する。
【0025】
船舶推進システム100は、主機3の回転速度を検出する回転速度センサ32をさらに備えている。
【0026】
回転速度センサ32は、例えば、主機3に設置され、主機3の出力軸30の回転速度を検出する。尚、本開示において、「主機3の回転速度を検出する」ことには、主機3の回転速度を直接検出することは勿論、主機3の回転速度と相関性を有する、可変ピッチプロペラ4の回転速度を検出することを含む。
【0027】
制御装置6は、船舶推進システム100の全体を制御する。特に、制御装置6は、可変ピッチプロペラ4の回転速度と翼角とを調節し、船舶の速力を制御する。
【0028】
図2は、制御装置6のハードウェア構成を示す概略的なブロック図である。制御装置6には、操船装置12によって受け付けられた操船の指令、及び、回転速度センサ32によって検出された回転速度が入力される。操船の指令は、例えば速力指令などである。制御装置6は、燃料供給器31、翼角変更装置41、電動発電機5及び電力変換装置13のそれぞれに指令を出力する。制御装置6は、制御器60、メモリ61及び記憶器62を有している。
【0029】
制御器60は、制御装置6の全体を制御する。制御器60は、各種の演算処理を行う。制御器60は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサである。制御器60は、MCU(Micro Controller Unit)、MPU(Micro Processor Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、PLC(Programmable Logic Controller)、システムLSI(large scale integrated circuit)等であってもよい。
【0030】
記憶器62は、制御器60で実行されるプログラム及び各種データを記憶する。記憶器62は、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disc Drive)又はSSD(Solid State Drive)等である。例えば、記憶器62は、推進制御プログラムを記憶している。メモリ61は、データ等を一時的に記憶する。メモリ61は、例えば、揮発性メモリである。
【0031】
制御装置6は、操船装置12からの速力指令に応じて燃料供給器31及び翼角変更装置41を操作して、速力を制御する。このとき、制御装置6は、回転速度センサ32の検出結果を考慮する。さらに、制御装置6は、電動発電機5及び電力変換装置13を操作することによって、船舶の電力供給を制御する。
【0032】
速力の制御に関し、速力指令の目標速力が実速力よりも大きい場合には、制御装置6は、船舶の速力を増加させる増速制御を実行する。一方、速力指令の目標速力が実速力よりも小さい場合には、制御装置6は、船舶の速力を減少させる減速制御を実行する。
【0033】
以下、増速制御について詳しく説明する。増速制御は、通常増速制御と優先増速制御とを含む。具体的には、制御装置6は、増速制御を実行する場合に、通常増速制御と優先増速制御とを切り替えて実行する。通常増速制御及び優先増速制御はいずれも、可変ピッチプロペラ4の回転速度及び翼角の両方を増加させることによって速力を増加させる。通常増速制御は、可変ピッチプロペラ4の回転速度及び翼角を目標速力に応じて適宜増加させる制御である。優先増速制御は、通常増速制御に比べて、可変ピッチプロペラ4の回転速度を可変ピッチプロペラ4の翼角よりも優先して増加させる増速制御である。
【0034】
通常増速制御では、可変ピッチプロペラ4の回転速度及び翼角のそれぞれが目標速力に応じて所定の態様で増加させられる。これにより、主機3の出力が上昇する。一方、優先増速制御では、通常増速制御と比較して可変ピッチプロペラ4の回転速度が翼角の増加よりも優先されるため、主機3の負荷の上昇に比べて可変ピッチプロペラ4の回転速度が優先的に上昇する。つまり、優先増速制御では、主機3の出力上昇を抑制しつつ可変ピッチプロペラ4の回転速度を増加させることができる。
【0035】
より詳しくは、優先増速制御は、所定の第1終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加を押し上げるブースト制御、及び、所定の第2終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラ4の翼角の増加を制限するリミット制御の少なくとも一方を含む。ブースト制御では、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加を押し上げることによって可変ピッチプロペラ4の回転速度を可変ピッチプロペラ4の翼角よりも優先して増加させる。リミット制御では、可変ピッチプロペラ4の翼角の増加を制限することによって、可変ピッチプロペラ4の回転速度を可変ピッチプロペラ4の翼角よりも優先して増加させる。ブースト制御は、第1終了条件が満たされるまで実行される。リミット制御は、第2終了条件が満たされるまで実行される。すなわち、制御装置6は、増速制御の序盤に可変ピッチプロペラ4の回転速度を優先的に増加させる。
【0036】
第1終了条件及び第2終了条件の両方が満たされると、優先増速制御から通常増速制御に切り替わる。つまり通常増速制御では、ブースト制御及びリミット制御の何れも実行されない。
【0037】
詳しくは、制御装置6は、増速制御において可変ピッチプロペラ4の回転速度を増加させる際に可変ピッチプロペラ4の回転速度の目標値に基づいて主機3の回転速度を制御する。具体的には、制御装置6は、可変ピッチプロペラ4の回転速度が速力指令に応じて決められる目標値となるように主機3の回転速度を調節する。制御装置6は、ブースト制御において、ブースト制御を実行しない場合に比べて、即ち通常増速制御に比べて、主機3の回転速度の制御量を増加させる。
【0038】
より詳しくは、制御装置6は、増速制御において可変ピッチプロペラ4の回転速度を増加させる際に可変ピッチプロペラ4の回転速度の目標値(以下、単に「目標回転速度」と称する。)と実値との偏差(以下、単に「回転速度偏差」と称する。)に応じて主機3の回転速度を制御する。すなわち、制御装置6は、通常増速制御及び優先増速制御の両方において、回転速度偏差に応じて主機3の回転速度を制御する。具体的には、制御装置6は、回転速度偏差が小さくなるように主機3の回転速度を調節する。要するに、制御装置6は、回転速度偏差に基づいたフィードバック制御を実行する。ブースト制御においては、制御装置6は、目標回転速度及び回転速度偏差の少なくとも一方を通常増速制御に比べて増加させる。制御装置6は、ブースト制御において、目標回転速度及び回転速度偏差の少なくとも一方を通常増速制御よりも増加させることにより、主機3の回転速度の増加量を通常増速制御よりも大きくする。目標回転速度及び回転速度偏差は、前述の制御量の一例である。
【0039】
さらに、制御装置6は、ブースト制御において目標回転速度及び回転速度偏差の少なくとも一方を増加させる際の増加量(以下、この増加量を「ブースト量」とも称する。)を回転速度偏差に応じて変化させる。例えば、制御装置6は、回転速度偏差が大きくなるに従って、目標回転速度及び回転速度偏差の少なくとも一方の増加量を大きくする。この増加量が大きくなると、この増加量が小さい場合と比較して、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加量が大きくなる。
【0040】
翼角に関しては、制御装置6は、増速制御において可変ピッチプロペラ4の翼角を増加させる際に翼角を翼角の目標値(以下、単に「目標翼角」と称する。)まで経時的に変化させる。詳しくは、制御装置6は、目標翼角まで漸次的に翼角を変化させる。制御装置6は、増速制御を実行する場合に少なくともリミット制御を実行する。制御装置6は、リミット制御において、通常増速制御に比べて、翼角の変化率を低減させることによって翼角の増加を制限する。翼角の変化率は、所定時間当たりの翼角の変化量である。
【0041】
例えば、リミット制御における翼角の増加の制限は、翼角の増加の一時停止である。すなわち、制御装置6は、リミット制御では翼角を増加させずに固定する。言い換えると、制御装置6は、リミット制御において翼角の変化率をゼロにする。
【0042】
続いて、船舶推進システム100の制御系の一例について詳細に説明する。図3は、船舶推進システム100の制御系の一例を示すブロック線図である。制御器60は、機能ブロックとして、ブースト制御器71と、リミット制御器72と、フィードバック制御器73と、判定器74と、受付器75と、第1換算器81と、第2換算器82と、取得器84と、第1加算器85と、第2加算器86と、減算器87と、第1変化率リミッタ88と、第2変化率リミッタ89とを有する。制御器60は、記憶器62から制御プログラムをメモリに読み出して展開することによって、各種機能を実現する。
【0043】
受付器75は、操船装置12から速力指令を受け付ける。例えば操船装置12の速力スイッチがユーザによって押下されると、受付器75は速力指令を受け付ける。受付器75は、判定器74と取得器84とに速力指令を出力する。
【0044】
判定器74は、速力指令が増速指令か否かを判定する。例えば、判定器74は、速力指令に対応する目標速力が実速力よりも大きい場合に増速指令であると判定し、目標速力が実速力よりも小さい場合に増速指令ではないと判定する。判定器74は、判定結果をブースト制御器71とリミット制御器72とに出力する。
【0045】
取得器84は、速力指令に基づいて可変ピッチプロペラ4の目標回転速度及び目標翼角を取得する。例えば、取得器84は、速力指令に対する目標回転速度及び目標翼角の相関データに基づいて目標回転速度及び目標翼角を取得する。相関データは、例えばメモリ61又は記憶器62に格納されている。取得器84は、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度を第1加算器85へ出力する。取得器84は、可変ピッチプロペラ4の目標翼角を第2変化率リミッタ89へ出力する。
【0046】
第1加算器85は、取得器84からの目標回転速度にブースト制御器71からのブースト量を加算して、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度を最終的に決定する。ブースト制御器71からのブースト量の入力が無い場合には、第1加算器85は、取得器84からの目標回転速度を最終的な目標回転速度として決定する。第1加算器85は、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度を第1換算器81及び減算器87のそれぞれへ出力する。
【0047】
第1換算器81は、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度を主機3の目標回転速度に換算する。具体的には、第1換算器81は、減速装置20の減速比に基づいて、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度から主機3の目標回転速度を求める。第1換算器81は、主機3の目標回転速度を第2加算器86へ出力する。
【0048】
第2加算器86は、第1換算器81からの目標回転速度にフィードバック制御器73からの調節量を加算して、主機3の目標回転速度を最終的に決定する。第2加算器86は、主機3の目標回転速度を第1変化率リミッタ88へ出力する。
【0049】
第1変化率リミッタ88は、例えば、主機3の回転速度の変化率を制限する。第1変化率リミッタ88は、主機3の回転速度の変化率が上限値を超えないように、主機3の目標回転速度を制限する。これにより、主機3の過トルク及び主機3の機械的な損傷などが防止される。第1変化率リミッタ88は、制限後の目標回転速度に応じた速度指令を主機3に出力する。尚、変化率が上限値を超えない場合には、第1変化率リミッタ88は、主機3の目標回転速度を制限しない。
【0050】
主機3は、速度指令に基づいて回転速度を変更する。具体的には、燃料供給器31が速度指令に応じて調節され、主機3の回転速度が制御される。主機3の回転速度の変更に伴い、可変ピッチプロペラ4の回転速度も変更される。このとき、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度と実回転速度との偏差に応じて、可変ピッチプロペラ4の回転速度がフィーバック制御される。
【0051】
詳しくは、第2換算器82は、回転速度センサ32によって検出された主機3の実回転速度を可変ピッチプロペラ4の実回転速度に換算する。具体的には、第2換算器82は、減速装置20の減速比に基づいて、主機3の実回転速度から可変ピッチプロペラ4の実回転速度を求める。第2換算器82は、可変ピッチプロペラ4の実回転速度を減算器87へ出力する。
【0052】
減算器87には、第1加算器85から可変ピッチプロペラ4の目標回転速度と、第2換算器82から可変ピッチプロペラ4の実回転速度とが入力される。減算器87は、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度から実回転速度を減算して、回転速度偏差を算出する。減算器87は、回転速度偏差をフィードバック制御器73に出力する。回転速度偏差は、ブースト量の算出などにも用いられる。そのため、減算器87は、回転速度偏差をブースト制御器71にも出力する。
【0053】
フィードバック制御器73は、例えば、PID(Proportional-Integral-Differential)制御、PI(Proportional-Integral)制御又はP(Proportional)制御を実行する。具体的には、フィードバック制御器73は、定められた制御パラメータに従って、回転速度偏差に基づいて主機3の目標回転速度の調節量を算出する。調節量は、回転速度偏差の絶対値が小さくなるように決定される。フィードバック制御器73は、調節量を第2加算器86に出力する。
【0054】
前述の如く、第2加算器86は、第1換算器81からの目標回転速度にフィードバック制御器73からの調節量を加算して、主機3の目標回転速度を最終的に決定する。このように、速力指令から求められた主機3の目標回転速度に可変ピッチプロペラ4の回転速度偏差に基づく調節量が追加され、主機3の目標回転速度が調節される。
【0055】
このような可変ピッチプロペラ4の回転速度の制御と並行して、可変ピッチプロペラ4の翼角が制御される。取得器84からの可変ピッチプロペラ4の目標翼角は、第2変化率リミッタ89を経由して、翼角変更装置41へ入力される。
【0056】
第2変化率リミッタ89は、翼角の増加を制限する。例えば、第2変化率リミッタ89は、翼角の変化率の上限値を設定している。上限値は、メモリ61又は記憶器62に格納されている。第2変化率リミッタ89は、目標翼角と実翼角とを比較して翼角の変化率が上限値以下となるように、目標翼角を制限する。つまり、第2変化率リミッタ89は、翼角の変化速度を抑制する。第2変化率リミッタ89は、制限された目標翼角に応じた翼角指令を翼角変更装置41に出力する。
【0057】
上限値には、通常増速制御のための第1上限値と、優先増速制御のための第2上限値とが含まれる。第2上限値は、第1上限値よりも小さい。通常増速制御においては、第2変化率リミッタ89は、第1上限値を設定する。優先増速制御においては、第2変化率リミッタ89は、第2上限値を設定する。
【0058】
翼角変更装置41は、翼角指令に基づいて翼角を変更する。
【0059】
このように、通常増速制御では、可変ピッチプロペラ4の回転速度及び翼角が所定の制御態様で、即ち、所定の制御規則に従って制御される。具体的には、可変ピッチプロペラ4の回転速度については、目標回転速度と実回転速度との回転速度偏差に応じてフィードバック制御される。可変ピッチプロペラ4の翼角については、翼角の変化率が上限値を超えないように維持されつつ、翼角が目標翼角まで増大させられる。
【0060】
一方、優先増速制御においては、ブースト制御器71及びリミット制御器72の少なくとも一方が作動する。
【0061】
ブースト制御器71は、判定器74からの判定結果が増速指令の場合に、第1終了条件が満たされるまでブースト量を出力する。ブースト量は、優先増速制御において、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加を押し上げる際の押し上げ量である。可変ピッチプロペラ4の回転速度と主機3の回転速度とは相関があるので、この例では、ブースト制御器71は、主機3の回転速度の増加を押し上げることによって、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加を押し上げる。ブースト制御器71は、例えば減算器87からの回転速度偏差に基づいてブースト量を算出する。例えば、ブースト制御器71は、回転速度偏差が大きい程ブースト量を大きくする。つまり、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度が実値よりも大きいほど、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加がより大きく押し上げられる。ブースト制御器71は、ブースト量を第1加算器85に出力する。
【0062】
第1終了条件は、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加を押し上げる必要性がないことを判定するための条件である。例えば、第1終了条件は、回転速度偏差が所定の閾値以下となること、又は、優先増速制御の開始から所定期間経過することである。
【0063】
第1加算器85は、ブースト制御器71によって算出されたブースト量を可変ピッチプロペラ4の目標回転速度に加算して、ブーストされた目標回転速度を算出する。ブーストされた目標回転速度は、通常増速制御の目標回転速度よりも大きくなる。第1加算器85は、ブーストされた目標回転速度を第1換算器81及び減算器87に出力する。
【0064】
第1換算器81は、ブーストされた目標回転速度を主機3の目標回転速度に変換する。変換された主機3の目標回転速度は、通常増速制御の主機3の目標回転速度よりも大きくなる。第1換算器81は、主機3の目標回転速度を第2加算器86へ出力する。減算器87は、ブーストされた可変ピッチプロペラ4の目標回転速度から実回転速度を減算して、回転速度偏差を算出する。算出された目標回転速度は、通常増速制御の回転速度偏差よりも大きくなる。減算器87は、回転速度偏差をブースト制御器71及びフィードバック制御器73へ出力する。
【0065】
フィードバック制御器73は、定められた制御パラメータに従って、回転速度偏差に基づいて主機3の目標回転速度の調節量を算出する。フィードバック制御器73は、調節量を第2加算器86へ出力する。第2加算器86は、第1換算器81からの目標回転速度にフィードバック制御器73からの調節量を加算して、主機3の目標回転速度を最終的に決定する。最終的な主機3の目標回転速度は、通常増速制御の最終的な主機3の目標回転速度よりも大きくなる。第2加算器86は、最終的な主機3の目標回転速度を第1変化率リミッタ88へ出力する。以下、通常増速制御と同様に、主機3は、第1変化率リミッタ88から出力された速度指令に基づいて回転速度を変更する。
【0066】
リミット制御器72は、判定器74からの判定結果が増速指令の場合に、第2終了条件が満たされるまで制限指令を出力する。制限指令は、優先増速制御において、可変ピッチプロペラ4の翼角の増加を制限する指令である。リミット制御器72は、制限指令を第2変化率リミッタ89へ出力する。
【0067】
第2終了条件は、可変ピッチプロペラ4の翼角の増加を制限する必要性がないことを判定するための条件である。例えば、第2終了条件は、主機3の回転速度の実値(以下、「実回転速度」と称する。)が目標速力に応じて定められる所定回転速度(以下、「下限回転速度」と称する。)よりも大きくなること、又は、優先増速制御の開始から所定期間経過することである。下限回転速度は、例えば図4に示すように、目標速力と下限回転速度との相関関係である制限曲線に基づいて求められる。図4は、制限曲線の一例を示す概念図である。制限曲線に関するデータは、例えばメモリ61又は記憶器62に格納されている。
【0068】
第2変化率リミッタ89は、前述の如く、翼角の変化率の上限値を設定している。第2変化率リミッタ89は、制限指令を受け取っていない場合には、第1上限値を設定している。第2変化率リミッタ89は、制限指令を受け取ると、第2上限値を設定する。第2上限値は、第1上限値よりも小さいので、翼角の変化率をより抑制する。これにより、通常増速制御に比べて、翼角の増加がゆっくりになる。例えば、第2上限値は、ゼロである。つまり、第2変化率リミッタ89は、目標翼角を実翼角に置き換える。これにより、可変ピッチプロペラ4の翼角は、実翼角のまま維持される。
【0069】
このように、優先増速制御では、ブースト制御及びリミット制御の少なくとも一方が実行される。ブースト制御では、主機3の目標回転速度にブースト量が加算された状態で増速制御が実行される。また、リミット制御では、翼角の変化率の上限値が低減されることによって、翼角の増加速度がより制限された状態で増速制御が実行される。結果として、ブースト制御及びリミット制御の何れの場合でも、通常増速制御に比べて、可変ピッチプロペラ4の回転速度が可変ピッチプロペラ4の翼角よりも優先して増加する。
【0070】
続いて、制御装置6による増速制御について説明する。図5は、増速制御のフローチャートである。
【0071】
まず、ステップS101において、制御器60(詳しくは、受付器75)は、速力指令を受け付ける。
【0072】
続いて、ステップS102において、制御器60(詳しくは、判定器74)は、増速指令か否かを判定する。増速指令の場合、制御器60は、ステップS103に進む。増速指令でない場合、制御器60は、増速制御を実行しない。この場合、制御器60は、減速制御を実行する。
【0073】
ステップS103において、制御器60(詳しくは、ブースト制御器71及びリミット制御器72)は、終了条件が満たされているか否かを判定する。終了条件は、第1終了条件及び第2終了条件である。つまり、ステップS103では、第1終了条件及び第2終了条件の両方が満たされているか否かが判定される。第1終了条件は、ブースト制御を終了するための条件である。第2終了条件は、リミット制御を終了するための条件である。
【0074】
終了条件が満たされている、即ち、第1終了条件及び第2終了条件の両方が満たされている場合、制御器60は、ステップS104において通常増速制御を実行する。
【0075】
具体的には、通常増速制御においては、ブースト制御器71がブースト量を出力せず、リミット制御器72が制限指令を出力しない。通常増速制御では、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度が取得器84等によって速力指令から求められる。このとき、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度にはブースト量が加算されない。第1換算器81等は、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度に基づいて主機3の目標回転速度を求める。このとき、主機3の目標回転速度には、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度と実回転速度との回転速度偏差に応じた調節量が加算される。主機3の目標回転速度は、第1変化率リミッタ88によって回転速度の変化率が制限された上で、速度指令として主機3へ入力される。燃料供給器31が速度指令に応じて調節され、主機3の回転速度、ひいては可変ピッチプロペラ4の回転速度が制御される。一方、可変ピッチプロペラ4の目標翼角が取得器84等によって速力指令から求められる。目標翼角は、第2変化率リミッタ89によって翼角の変化率が制限された上で、翼角指令として翼角変更装置41へ入力される。このとき、第2変化率リミッタ89は、翼角の変化率の上限値を第1上限値に設定する。翼角変更装置41は、翼角指令に基づいて翼角を変更する。このように、通常増速制御では、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度及び実回転速度に応じて、可変ピッチプロペラ4の回転速度がフィードバック制御されると共に、可変ピッチプロペラ4の翼角が目標翼角に応じて漸次的に増加させられる。
【0076】
一方、終了条件が満たされていない、即ち、第1終了条件及び第2終了条件の少なくとも一方が満たされていない場合、制御器60は、ステップS105において優先増速制御を実行する。優先増速制御では、通常増速制御に比べて、可変ピッチプロペラ4の回転速度が翼角よりも優先して増加させられる。
【0077】
制御器60は、優先増速制御の実行後にステップS103に戻り、再び終了条件が満たされているか否かを判定する。終了条件が満たされまでステップS103及びステップS105が繰り返され、終了条件が満たされた場合にステップS104に進む。即ち、制御器60は、終了条件が満たされるまで優先増速制御を継続し、終了条件が満たされると優先増速制御から通常増速制御に切り替える。
【0078】
続いて、優先増速制御について詳細に説明する。図6は、優先増速制御のサブルーチンのフローチャートである。
【0079】
まず、ステップS201において、制御器60(詳しくは、ブースト制御器71)は、第1終了条件が満たされているか否かを判定する。例えば、第1終了条件は、回転速度偏差が所定の閾値以下となること、又は、優先増速制御の開始から所定期間経過することである。つまり、前者の場合、主機3の実回転速度が目標回転速度に近づくと、ブースト制御が終了される。この場合、主機3の実回転速度が目標回転速度に実際に近づいたか否かを正確に判断してブースト制御を終了することができる。後者の場合、ブースト制御が実行されてからしばらくすると、主機3の実回転速度が目標回転速度に近づいたとみなされ、ブースト制御が終了される。この場合、制御装置6による制御を単純化できる。
【0080】
ステップS201において第1終了条件が満たされている場合、制御器60は、ステップS203においてリミット制御を実行する。つまり、優先増速制御が実行される場合には、ステップS103において終了条件が満たされていないと判定されている。そのため、第1終了条件が満たされている場合には、必然的に第2終了条件が満たされていない。このとき、制御器60は、リミット制御だけ実行し、ブースト制御を実行しない。つまり、ブースト制御器71は、ブースト量を第1加算器85へ出力せず、リミット制御器72は、制限指令を第2変化率リミッタ89へ出力する。このため、可変ピッチプロペラ4の回転速度については、制御器60は、通常増速制御の場合と同様のフィードバック制御を実行する。一方、可変ピッチプロペラ4の翼角については、第2変化率リミッタ89は、翼角の変化率の上限値を第2上限値に設定する。第2上限値は、通常増速制御の第1上限値よりも小さいので、翼角の増加が通常増速制御に比べてゆっくりになる。
【0081】
ステップS201において第1終了条件が満たされていない場合、制御器60(詳しくは、リミット制御器72)は、ステップS202において第2終了条件が満たされているか否かを判定する。第2終了条件は、例えば、主機3の実回転速度が下限回転速度よりも大きくなること、又は、優先増速制御の開始から所定期間経過することである。つまり、前者の場合、主機3の実回転速度が下限回転速度を超えると、リミット制御が終了される。この場合、主機3の実回転速度が或る程度大きくなったか否かを正確に判断してリミット制御を終了することができる。後者の場合、リミット制御が実行されてからしばらくすると、主機3の実回転速度が下限回転速度を超えたとみなされ、リミット制御が終了される。この場合、制御装置6による制御を単純化できる。
【0082】
ステップS202において第2終了条件が満たされている場合、制御器60は、ステップS204においてブースト制御を実行する。つまり、第1終了条件が満たされておらず、第2終了条件が満たされているため、制御器60は、ブースト制御だけ実行し、リミット制御を実行しない。ブースト制御器71は、ブースト量を第1加算器85へ出力し、リミット制御器72は、制限指令を第2変化率リミッタ89へ出力しない。このため、可変ピッチプロペラ4の翼角については、制御器60は、通常増速制御の場合と同様に第1上限値で翼角の変化率を制限しつつ翼角を増加させる。
【0083】
一方、可変ピッチプロペラ4の回転速度については、第1加算器85は、取得器84からの可変ピッチプロペラ4の目標回転速度にブースト量を加算し、加算後の目標回転速度を第1換算器81及び減算器87へ出力する。第1換算器81によって換算される主機3の目標回転速度は、ブースト量に応じて大きくなる。さらに、減算器87によって求められる可変ピッチプロペラ4の回転速度偏差も、ブースト量に応じて大きくなり、フィードバック制御器73によって求められる調節量も、ブースト量に応じて大きくなる。その結果、第2加算器86から出力される主機3の目標回転速度も大きくなる。最終的な主機3の目標回転速度が通常増速制御よりも大きくなるので、主機3の回転速度の増加、即ち、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加が促進される。
【0084】
ステップS202において第2終了条件が満たされていない場合、制御器60は、ステップS205においてブースト制御及びリミット制御を実行する。つまり、第1終了条件及び第2終了条件の両方が満たされていないため、制御器60は、ブースト制御及びリミット制御の両方を実行する。つまり、ブースト制御器71は、ブースト量を第1加算器85へ出力し、リミット制御器72は、制限指令を第2変化率リミッタ89へ出力する。可変ピッチプロペラ4の回転速度について、制御器60は、ステップS204と同様の処理を実行する。可変ピッチプロペラ4の翼角について、制御器60は、ステップS203と同様の処理を実行する。
【0085】
このように、優先増速制御では、第1終了条件及び第2終了条件の充足の状況に応じて3パターンの制御が実行される。すなわち、第1終了条件が満たされ、第2終了条件が満たされていない場合、リミット制御のみが実行される。第1終了条件が満たされておらず、第2終了条件が満たされている場合、ブースト制御のみが実行される。第1終了条件及び第2終了条件の両方が満たされていない場合、ブースト制御及びリミット制御の両方が実行される。
【0086】
リミット制御のみが実行される場合、可変ピッチプロペラ4の回転速度は通常増速制御の場合と同様に増加する一方、可変ピッチプロペラ4の翼角の増加が抑制される。ブースト制御のみが実行される場合、可変ピッチプロペラ4の翼角は通常増速制御の場合と同様に増加する一方、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加が押し上げられる。ブースト制御及びリミット制御の両方が実行される場合、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加が押し上げられるのに加え、可変ピッチプロペラ4の翼角の増加が抑制される。すなわち、何れのパターンにおいても、優先増速制御では、通常増速制御に比べて可変ピッチプロペラ4の回転速度が可変ピッチプロペラ4の翼角よりも優先して増加する。
【0087】
制御器60は、このような優先増速制御を実行した後、図5の増速制御のメインのフローチャート、具体的には、ステップS103へ戻る。
【0088】
このように制御装置6は、通常増速制御に比べて、可変ピッチプロペラ4の回転速度を可変ピッチプロペラ4の翼角よりも優先して増加させる優先増速制御を実行する。優先増速制御は、第1終了条件が満たされるまでのブースト制御、及び、第2終了条件が満たされるまでのリミット制御の少なくとも一方を含む。すなわち、増速制御の序盤に可変ピッチプロペラ4の回転速度が優先的に増加する。これにより、増速制御開始から目標の速力になるまでの時間、即ち、船舶の加速完了までの時間を短縮できる。
【0089】
加速完了までの時間の短縮について図7を参照して詳しく説明する。図7は、運転マップにおいて、通常増速制御による運転点の推移と優先増速制御による運転点の推移とを示した概念図である。図7において、P1は増速制御の開始時の運転点を示す。P2は、増速制御の終了時の運転点、即ち目標の速力に達した運転点を示す。C1は、主機3の各回転速度における主機3の出力の上限に相当する曲線である。C2は、通常増速制御による運転点の推移を示す。C3は、優先増速制御による運転点の推移を示す。尚、C3は、ブースト制御及びリミット制御の両方を実行する場合を示している。
【0090】
通常増速制御では、速力を増加させるために、可変ピッチプロペラ4の回転速度及び翼角を増加させると、C2に示すように、主機3の出力が上限に達する場合がある。回転速度の増加に加えて翼角も増加するので、推進出力が急激に増大しやすい。主機3の出力が上限に達した場合、燃料供給器31からの供給燃料を増加させても、主機3の回転速度が所望の通りには増加せず、結果として、速力が所望の通りに上昇しない。そのため、加速に時間を要してしまう。
【0091】
一方、優先増速制御では、C3に示すように、増速制御の開始時の運転点P1から可変ピッチプロペラ4の回転速度、即ち、主機3の回転速度が優先的に増加する。これにより、主機3の出力の増加が遅くなる。その後、可変ピッチプロペラ4の回転速度がある程度増加した段階で優先増速制御から通常増速制御に切り替わる。図からわかるように、回転速度が高いほど、主機3の出力上限までのマージンが大きくなる。これにより、主機3の出力が上限に達することなく、運転点が点P2に推移する。その結果、運転点が点P1から点P2へ円滑に推移するため、船舶の加速完了までの時間を短縮できる。
【0092】
このような優先増速制御においては、例えば、制御装置6は、ブースト制御において、通常増速制御に比べて、主機3の回転速度の制御量を増加させる。これにより、ブースト制御においては、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加が促進される。
【0093】
具体的には、制御装置6は、ブースト制御において目標回転速度及び回転速度偏差の少なくとも一方を増加させる。これにより、主機3の回転速度の制御量の増加を実現できる。尚、目標回転速度及び回転速度偏差の両方を増加させる場合、目標回転速度及び回転速度偏差の何れか一方のみを増加させる場合と比較して、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加をより促進できる。
【0094】
制御装置6は、ブースト制御において目標回転速度及び回転速度偏差の少なくとも一方を増加させる際の増加量、即ちブースト量を回転速度偏差に応じて変化させる。回転速度偏差は、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度と実回転速度との乖離の大きさを表す。ブースト量は、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加を優先する度合いを表す。ブースト量が大きいと、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加がより優先される。つまり、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加を優先する度合いが、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度と実回転速度との乖離の大きさに応じて決定される。例えば、可変ピッチプロペラ4の目標回転速度と実回転速度との乖離が大きいほど、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加を優先する度合いが大きくされる。可変ピッチプロペラ4の目標回転速度と実回転速度との乖離が大きい場合には、可変ピッチプロペラ4の実回転速度が小さく、主機3の出力上限までのマージンが小さい可能性がある。そのような場合には、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加がより優先され、主機3の出力上限までのマージンが大きい運転領域まで運転点を早期に推移させることができる。これにより、運転点を所望の運転点までより円滑に推移させることができ、船舶の加速完了までの時間をより一層短縮できる。
【0095】
制御装置6は、第1終了条件が満たされるまでブースト制御を実行する。第1終了条件は、例えば回転速度偏差が所定の閾値以下となることである。この場合、回転速度偏差に応じて柔軟にブースト制御を終了することができる。第1終了条件は、例えば優先増速制御の開始から所定期間経過することである。この場合、制御装置6による制御を単純化できる。
【0096】
制御装置6は、リミット制御において、リミット制御を実行しない場合に比べて、翼角の変化率を低減させる。これにより、リミット制御においては、翼角の変化率を通常よりも低減させることができる。具体的には、リミット制御における翼角の増加の制限は、翼角の増加の一時停止である。これにより、翼角を固定して可変ピッチプロペラの回転速度を増加させるため、可変ピッチプロペラ4の回転速度をより一層優先的に増加させることができる。
【0097】
制御装置6は、第2終了条件が満たされるまでリミット制御を実行する。第2終了条件は、例えば主機3の実回転速度が速力の目標値に応じて定められる所定回転速度よりも大きくなることである。この場合、主機3の回転速度に応じて柔軟にリミット制御を終了することができる。第2終了条件は、例えば優先増速制御の開始から所定期間経過することである。この場合、制御装置6による制御を単純化できる。
【0098】
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0099】
例えば、主機3は、ディーゼルセンジンに限定されず、ガスタービンエンジン、蒸気タービン、ガソリンエンジン、ガスエンジン等であってもよい。船舶推進システム100は、主機3、可変ピッチプロペラ4及び電動発電機5を含む推進機構を2つ以上備えてもよい。
【0100】
電動発電機5は、電動機としての機能を有さない発電機であってもよい。船舶推進システム100は、電動発電機5を備えなくてもよい。主発電機10で発生した電力は、例えば、電動発電機5に加えて、船内母線11を介して電動発電機5以外の他の船内機器に供給されてもよい。
【0101】
船舶推進システム100が備える、主機3、減速装置20、可変ピッチプロペラ4、電動発電機5、回転速度センサ32等の個数は、限定されない。
【0102】
制御装置6は、ブースト制御及びリミット制御のうち何れか一方を実行してもよいし、両方を実行してもよい。ブースト制御及びリミット制御のうち何れか一方を実行する場合、制御装置6による制御を単純化できる。ブースト制御及びリミット制御の両方を実行する場合、通常増速制御と比べて可変ピッチプロペラ4の回転速度がより一層優先的に増加する。ブースト量及びリミット量の各算出方法は限定されない。第1終了条件と第2終了条件は、同じであっても異なっていてもよい。第1終了条件及び第2終了条件の各終了条件は限定されない。例えば第1終了条件及び第2終了条件の各終了条件において、実回転速度の絶対値が基準として含まれていてもよい。具体的には、図7に示す運転マップにおいて、実回転速度の絶対値が十分に大きく、主機3の出力上限C1までのマージンが十分に大きい場合、通常増速制御を実行しても出力上限C1に達する可能性は低い。そのため、例えば、実回転速度の絶対値が所定の閾値以上の場合、ブースト制御及びリミット制御を実行しないようにしてもよい。この場合、増速制御の開示時において既に実回転速度の絶対値が所定の閾値以上の場合、ブースト制御及びリミット制御が実行されない。
【0103】
船舶推進システム100の制御系は、図3に示した構成に限定されない。ブースト制御及びリミット制御のうち少なくとも一方を実行できるのであれば、他の構成であってもよい。例えば、第1加算器85は、第2加算器86と第1変化率リミッタ88との間に配置されていても。すなわち、第1加算器85は、フィードバック制御により調節された目標回転速度にブースト量を加算してもよい。
【0104】
リミット制御器72は、リミット量を第2変化率リミッタ89へ出力してもよい。リミット量は、優先増速制御において、可変ピッチプロペラ4の翼角の増加を制限するために用いる値である。例えば、リミット量は、可変ピッチプロペラ4の翼角の変化率の上限値である。あるいは、リミット量は、可変ピッチプロペラ4の目標翼角の低減係数であってもよい。つまり、目標翼角は、低減係数が乗じられることによって低減されてもよい。リミット量は、固定値であっても、変動値であってもよい。リミット量が固定値の場合、リミット量は、メモリ61又は記憶器62に格納されている。リミット量が変動値の場合、リミット制御器72は、リミット量を算出する。例えば、リミット制御器72は、減算器87からの回転速度偏差に基づいてリミット量、例えば、前述の上限値を算出してもよい。リミット量は、回転速度偏差が大きいほど小さくなってもよい。つまり、回転速度偏差が大きいほど、翼角の変化が遅くなってもよい。
【0105】
第2変化率リミッタ89は、リミット制御器72からリミット量が入力された場合には、変化率の上限値をリミット量に設定してもよい。リミット量が例えば翼角の変化率の低減量の場合、第2変化率リミッタ89は、設定されている翼角の変化率からリミット量を減算してもよい。
【0106】
フローチャートは、一例に過ぎない。フローチャートにおけるステップを適宜、変更、置き換え、付加、省略等を行ってもよい。また、フローチャートにおけるステップの順番を変更したり、直列的な処理を並列的に処理したりしてもよい。例えば図5に示したフローチャートにおいて、ステップS105の優先増速制御の実行後にステップS103に戻らずに増速制御を終了してもよい。すなわち、制御装置6は、優先増速制御を実行する場合に、目標速力に達するまで優先増速制御を実行してもよい。
【0107】
本明細書中に記載されている構成要素により実現される機能は、当該記載された機能を実現するようにプログラムされた、汎用プロセッサ、特定用途プロセッサ、集積回路、ASICs(Application Specific Integrated Circuits)、CPU(a Central Processing Unit)、従来型の回路、及び/又はそれらの組合せを含む、回路(circuitry)又は演算回路(processing circuitry)において実装されてもよい。プロセッサは、トランジスタ及びその他の回路を含み、回路又は演算回路とみなされる。プロセッサは、メモリに格納されたプログラムを実行する、プログラマブルプロセッサ(programmed processor)であってもよい。
【0108】
本明細書において、回路(circuitry)、ユニット、手段は、記載された機能を実現するようにプログラムされたハードウェア、又は実行するハードウェアである。当該ハードウェアは、本明細書に開示されているあらゆるハードウェア、又は、当該記載された機能を実現するようにプログラムされた、又は、実行するものとして知られているあらゆるハードウェアであってもよい。
【0109】
当該ハードウェアが回路(circuitry)のタイプであるとみなされるプロセッサである場合、当該回路、手段、又はユニットは、ハードウェアと、当該ハードウェア及び又はプロセッサを構成する為に用いられるソフトウェアの組合せである。
【0110】
本開示の技術をまとめると、以下のようになる。
【0111】
[1] 船舶推進システム100は、主機3の駆動力によって回転する可変ピッチプロペラ4と、可変ピッチプロペラ4の回転速度及び翼角を制御する制御装置6とを備え、制御装置6は、速力を増加させる増速制御を実行し、増速制御は、可変ピッチプロペラ4の回転速度及び翼角を目標速力に応じて増加させる通常増速制御と、通常増速制御に比べて可変ピッチプロペラ4の回転速度を可変ピッチプロペラ4の翼角よりも優先して増加させる優先増速制御とを含み、優先増速制御は、所定の第1終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加を押し上げるブースト制御、及び、所定の第2終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラ4の翼角の増加を制限するリミット制御の少なくとも一方を含む。
【0112】
換言すると、船舶の推進制御方法は、駆動力を発生する主機3と主機3からの駆動力によって回転する可変ピッチプロペラ4とを備えた船舶の推進制御方法において、可変ピッチプロペラ4の回転速度及び翼角を目標速力に応じて増加させることによって速力を増加させる通常増速制御を実行することと、通常増速制御に比べて可変ピッチプロペラ4の回転速度を可変ピッチプロペラ4の翼角よりも優先して増加させることによって速力を増加させる優先増速制御を実行することとを含み、優先増速制御は、所定の第1終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加を押し上げるブースト制御、及び、所定の第2終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラ4の翼角の増加を制限するリミット制御の少なくとも一方を含む。
【0113】
さらに換言すると、船舶の推進制御プログラムは、駆動力を発生する主機3と主機3からの駆動力によって回転する可変ピッチプロペラ4とを備えた船舶の制御をコンピュータに実行させるための船舶の推進制御プログラムにおいて、可変ピッチプロペラ4の回転速度及び翼角を目標速力に応じて増加させることによって速力を増加させる通常増速制御と、通常増速制御に比べて可変ピッチプロペラ4の回転速度を可変ピッチプロペラ4の翼角よりも優先して増加させることによって速力を増加させる優先増速制御とをコンピュータに実行させ、優先増速制御は、所定の第1終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加を押し上げるブースト制御、及び、所定の第2終了条件が満たされるまで可変ピッチプロペラ4の翼角の増加を制限するリミット制御の少なくとも一方を含む。
【0114】
これらの構成によれば、増速制御を実行する場合に、可変ピッチプロペラ4の回転速度を可変ピッチプロペラ4の翼角よりも優先して増加させる優先増速制御を実行するため、増速制御開示から目標速力になるまでの時間が短縮し、船舶の加速完了までの時間を短縮できる。
【0115】
[2] [1]に記載の船舶推進システム100において、制御装置6は、増速制御において可変ピッチプロペラ4の回転速度を増加させる際に可変ピッチプロペラ4の回転速度の目標値に基づいて主機3の回転速度を制御し、増速制御を実行する場合に少なくともブースト制御を実行し、ブースト制御において、ブースト制御を実行しない場合に比べて、主機3の回転速度の制御量を増加させる。
【0116】
この構成によれば、ブースト制御においては、主機3の回転速度の制御量を通常よりも増加させることができる。
【0117】
[3] [1]又は[2]に記載の船舶推進システム100において、制御装置6は、増速制御において可変ピッチプロペラ4の回転速度を増加させる際に可変ピッチプロペラ4の回転速度の目標値(即ち、目標回転速度)と実値との偏差(即ち、回転速度偏差)に応じて主機3の回転速度を制御し、ブースト制御において目標値及び偏差の少なくとも一方を増加させる。
【0118】
この構成によれば、目標回転速度及び回転速度偏差の何れか一方のみを増加させる場合、ブースト制御を単純化できる。目標回転速度及び回転速度偏差の両方を増加させる場合、目標回転速度及び回転速度偏差の何れか一方のみを増加させる場合と比較して、可変ピッチプロペラ4の回転速度の増加をより促進できる。
【0119】
[4] [1]乃至[3]の何れか1つに記載の船舶推進システム100において、制御装置6は、ブースト制御において目標値及び偏差の少なくとも一方を増加させる際の増加量を偏差に応じて変化させる。
【0120】
この構成によれば、目標回転速度及び回転速度偏差の少なくとも一方を増加させる際の増加量が回転速度偏差に応じて適切な値となるため、船舶の加速完了までの時間をより一層短縮できる。
【0121】
[5] [1]乃至[4]の何れか1つに記載の船舶推進システム100において、第1終了条件は、可変ピッチプロペラ4の回転速度の目標値と実値との偏差が所定の閾値以下となること、又は、増速制御の開始から所定期間経過することである。
【0122】
この構成によれば、第1終了条件の基準として回転速度偏差を採用した場合、回転速度偏差に応じて柔軟にブースト制御を終了することができる。また、第1終了条件の基準として所定期間を採用した場合、制御装置6による制御を単純化できる。
【0123】
[6] [1]乃至[5]の何れか1つに記載の船舶推進システム100において、制御装置6は、増速制御において可変ピッチプロペラ4の翼角を増加させる際に翼角を翼角の目標値まで経時的に変化させ、増速制御を実行する場合に少なくともリミット制御を実行し、リミット制御において、リミット制御を実行しない場合に比べて、翼角の変化率を低減させる。
【0124】
この構成によれば、リミット制御においては、翼角の変化率を通常増速制御よりも低減させることができる。
【0125】
[7] [1]乃至[6]の何れか1つに記載の船舶推進システム100において、制御装置6は、増速制御を実行する場合に少なくともリミット制御を実行し、リミット制御における翼角の増加の制限は、翼角の増加の一時停止である。
【0126】
この構成によれば、翼角を固定して可変ピッチプロペラ4の回転速度を増加させるため、可変ピッチプロペラ4の回転速度をより一層優先的に増加させることができる。
【0127】
[8] [1]乃至[7]の何れか1つに記載の船舶推進システム100において、第2終了条件は、主機3の回転速度の実値が速力の目標値に応じて定められる所定回転速度よりも大きくなること、又は、増速制御の開始から所定期間経過することである。
【0128】
この構成によれば、第2終了条件の基準として主機3の回転速度を採用した場合、主機3の回転速度に応じて柔軟にリミット制御を終了することができる。また、第2終了条件の基準として所定期間を採用した場合、制御装置6による制御を単純化できる。
【符号の説明】
【0129】
100 船舶推進システム
3 主機
4 可変ピッチプロペラ
6 制御装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7