(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159159
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20241031BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20241031BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241031BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241031BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20241031BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20241031BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/0567
H01M10/052
H01M4/38 Z
H01M4/136
H01G11/30
H01G11/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074975
(22)【出願日】2023-04-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 航空機用先進システム実用化プロジェクト・次世代電動推進システム研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】原田 諒
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AB01
5E078BA30
5E078DA04
5H029AJ03
5H029AK05
5H029AK15
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029HJ07
5H050AA08
5H050BA16
5H050CA11
5H050CA19
5H050CB12
5H050HA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】クーロン効率の高い非水電解質蓄電素子を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、硫黄元素を含む正極と、金属リチウムを含む負極と、カーボネート類及びジオキソラン類を含有する非水溶媒を含む非水電解質とを備え、上記カーボネート類が不飽和環状カーボネートを含み、上記非水溶媒における上記ジオキソラン類の含有量が1体積%以上40体積%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄元素を含む正極と、
金属リチウムを含む負極と、
カーボネート類及びジオキソラン類を含有する非水溶媒を含む非水電解質と
を備え、
上記カーボネート類が不飽和環状カーボネートを含み、
上記非水溶媒における上記ジオキソラン類の含有量が1体積%以上40体積%以下である、非水電解質蓄電素子。
【請求項2】
上記非水溶媒における上記不飽和環状カーボネートの含有量が35体積%以上である、請求項1に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項3】
上記非水溶媒における上記カーボネート類の含有量が60体積%以上99体積%以下である、請求項1又は請求項2に記載の非水電解質蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でリチウムイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
非水電解質蓄電素子として、リチウム・硫黄電池(Li-S電池)等、正極活物質に硫黄元素が用いられた非水電解質蓄電素子が知られている(特許文献1参照)。硫黄元素及び金属リチウムは、理論容量が大きく、正極活物質に硫黄元素が用いられ、負極活物質に金属リチウムが用いられた非水電解質蓄電素子は高エネルギー密度を有する蓄電素子として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウム・硫黄電池等の非水電解質蓄電素子においては、更なる高エネルギー密度化等のために、クーロン効率が高いことが望まれる。
【0006】
本発明の目的は、クーロン効率の高い非水電解質蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、硫黄元素を含む正極と、金属リチウムを含む負極と、カーボネート類及びジオキソラン類を含有する非水溶媒を含む非水電解質とを備え、上記カーボネート類が不飽和環状カーボネートを含み、上記非水溶媒における上記ジオキソラン類の含有量が1体積%以上40体積%以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一側面によれば、クーロン効率の高い非水電解質蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
【
図2】
図2は、非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
初めに、本明細書によって開示される非水電解質蓄電素子の概要について説明する。
【0011】
(1)本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、硫黄元素を含む正極と、金属リチウムを含む負極と、カーボネート類及びジオキソラン類を含有する非水溶媒を含む非水電解質とを備え、上記カーボネート類が不飽和環状カーボネートを含み、上記非水溶媒における上記ジオキソラン類の含有量が1体積%以上40体積%以下である。
【0012】
上記(1)に記載の非水電解質蓄電素子は、クーロン効率が高い。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。一般的に、金属リチウムを含む負極を備える非水電解質蓄電素子においては、充電の際に負極表面で金属リチウムが樹枝状に析出することがある(以下、樹枝状の形態をした金属リチウムを「デンドライト」という。)。デンドライトは、表面積が大きいため、デンドライトが成長すると、非水電解質の分解反応が促進され、クーロン効率の低下を招くことがある。また、デンドライトが成長し、正極と接触することにより微短絡が生じ、クーロン効率の低下を招くこともある。硫黄元素を含む正極と金属リチウムを含む負極とを備える非水電解質蓄電素の場合、負極表面におけるデンドライトの成長は、正極から非水電解質に溶出する硫黄化合物が負極表面に析出することにより促進されると考えられる。このような非水電解質蓄電素子において、非水電解質が不飽和環状カーボネートを含有している場合、初期の充放電の際に硫黄元素と不飽和環状カーボネートとが反応し、正極表面に良好な被膜が形成される。正極表面に良好な被膜が形成されている場合、硫黄化合物の溶出が抑えられ、デンドライトの成長が抑制される結果、クーロン効率が高まる。また、非水電解質が不飽和環状カーボネートを含有することにより、負極表面に不飽和環状カーボネートに由来する被膜が形成される。さらに、非水電解質が所定量のジオキソラン類を含有することにより、負極表面にジオキソラン類に由来する被膜が形成される。これらの負極表面の被膜により、負極表面での非水電解質の分解反応がより抑制され、クーロン効率がより高まると推測される。
【0013】
非水溶媒を構成する各成分の含有量は、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)及びガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)により測定する。具体的には次のように行う。なお、LC-MS及びGC-MSの測定は、それぞれ同一の条件で連続して行うこととする。
1.非水電解質の採取
まず、非水電解質蓄電素子を解体して非水電解質を取り出す。取り出すことができない場合には、非水電解質蓄電素子に対し遠心分離を行うことにより非水電解質を取り出す。遠心分離を行っても取り出すことができない場合には、非水電解質蓄電素子に抽出溶媒としてアセトニトリルを注入し、アセトニトリルで希釈した非水電解質を取り出す。
2.LC-MS
採取した非水電解質の成分をLC-MSにより分析する。LC-MS分析は、以下の定性分析及び定量分析の順に行う。LC-MS分析の装置には、Waters製「Acquity H」及び「Xevo G2-5QTof」を用いる。溶離液には水を用いる。
(定性分析)
測定試料(非水電解質)をLC-MS分析に供する。得られた液体クロマトグラムのピークが分離できていない場合は、LC-MS分析に代えて、後述するGC-MS分析を行う。ピークが分離できている場合は、各ピークのMSスペクトルから測定試料に含まれる成分を予測する。予測した成分(以下、「予測成分」という。)の既知試料をLC-MS分析に供する。測定試料の各予測成分に対応するピークのリテンションタイム及びMSスペクトルと、各予測成分の既知試料のピークのリテンションタイム及びMSスペクトルとを対比し、一致するのであれば、上記予測が正しいものと推定する。
(定量分析)
定量分析は、検量線法により行う。まず、濃度が既知の予測成分の既知試料をLC-MS測定し、ピークの面積を求めて検量線を作成する。検量線は、決定係数(r2)が0.999以上1以下となるように作成する。検量線と測定試料の予測成分のピークの面積とから、測定試料中の予測成分の含有量を求める。以上の作業を、測定試料のLC-MS分析で検出されたすべてのピークについて行い、各予測成分の含有量を求める。
3.GC-MS
GC-MSによる分析は、以下の定性分析及び定量分析の順に行う。GC-MS分析の装置には、Agilent製の「5975C」を用いる。キャリアガスにはアルゴンを用いる。
(定性分析)
測定試料(非水電解質)をGC-MS分析に供する。得られたガスクロマトグラムの各ピークのMSスペクトルから試料に含まれる成分を予測する。予測成分の既知試料をGC-MS分析に供する。測定試料の予測に対応するピークのリテンションタイム及びMSスペクトルと、各予測成分の既知試料のピークのリテンションタイム及びMSスペクトルとを対比し、一致するのであれば、上記予測が正しいものと推定する。
(定量分析)
定量分析は、検量線法により行う。GC-MSによる定量分析は、上記したLC-MSによる定量分析と同様の手順で行い、各予測成分の含有量を求める。
4.各成分の含有量の算出
LC-MS又はGC-MSにより測定された各予測成分(すなわち各成分)の含有量の合計を非水溶媒の含有量として、非水溶媒における各成分の含有量を算出する。なお、非水溶媒における各成分の含有量(体積%)の算出にあたっては、LC-MS又はGC-MSにより測定された各成分の質量基準の含有量を20℃における体積に換算した値を用い、体積換算した各成分の含有量の合計を非水溶媒の含有量とする。また、抽出溶媒としてアセトニトリルを使用した場合には、アセトニトリルは除外して考える。
【0014】
(2)上記(1)に記載の非水電解質蓄電素子において、上記非水溶媒における上記不飽和環状カーボネートの含有量が35体積%以上であってもよい。
【0015】
上記(2)に非水電解質蓄電素子は、クーロン効率がより高い。
【0016】
(3)上記(1)又は(2)に記載の非水電解質蓄電素子において、上記非水溶媒における上記カーボネート類の含有量が60体積%以上99体積%以下であってもよい。
【0017】
上記(3)に非水電解質蓄電素子は、クーロン効率がより高い。
【0018】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子、蓄電装置、非水電解質蓄電素子の製造方法、及びその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0019】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、非水電解質と、上記電極体及び非水電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して積層された状態で巻回された巻回型である。非水電解質は、正極、負極及びセパレータに含まれた状態で存在する。非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0020】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0021】
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10-2Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H-4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0022】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。「平均厚さ」とは、任意の5ヶ所で測定される厚さの平均値をいう。
【0023】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0024】
正極活物質層は、硫黄元素を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ、分散剤、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。正極活物質層は、通常、硫黄元素及びその他の任意成分を含む正極合剤から形成されている。
【0025】
硫黄元素は、正極活物質として機能する成分である。正極又は正極活物質層に含まれる硫黄元素は、硫黄単体であってもよく、硫黄化合物であってもよい。硫黄化合物としては、硫化リチウム等の金属硫化物、有機ジスルフィド化合物、カーボンスルフィド化合物等の有機硫黄化合物などを挙げることができる。硫黄元素としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。硫黄元素は理論容量が大きく、また、低コストであるなどといった利点がある。
【0026】
硫黄元素は、導電剤(硫黄単体又は硫黄化合物よりも導電性の高い材料)等との複合体の形態であってもよい。この複合体は、担体としての導電剤等に硫黄元素が担持された形態のものを挙げることができ、具体的には、硫黄元素と多孔性炭素との複合体(硫黄-多孔性炭素複合体:SPC)等を挙げることができる。複合体は、硫黄単体と多孔性炭素との複合体であってもよい。SPCにおける硫黄元素の含有量(SPCの質量に対する硫黄元素の質量比)としては、50質量%以上90質量%以下が好ましく、60質量%以上80質量%以下がより好ましい。SPCにおける硫黄元素の含有量を上記範囲とすることで、大きい電気容量と良好な導電性との両立を図ること等ができる。
【0027】
正極活物質層中の硫黄元素の含有量(正極活物質層の質量に対する硫黄元素の質量比)としては、40質量%以上90質量%以下が好ましく、50質量%以上70質量%以下がより好ましい。SPCを用いる場合、正極活物質層中のSPCの含有量(正極活物質層の質量に対するSPCの質量比)としては、60質量%以上97質量%以下が好ましく、70質量%以上95質量%以下がより好ましい。硫黄元素又はSPCの含有量を上記範囲とすることで、大きい電気容量と良好な導電性との両立を図り、エネルギー密度を高めることなどができる。
【0028】
正極活物質層には、硫黄元素以外の他の正極活物質が含有されていてもよい。但し、全正極活物質中の硫黄元素の含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上がよりさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0029】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。なお、正極活物質層における導電剤には、硫黄元素との複合体を構成する導電剤は含まれない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。正極活物質層における導電剤としては、これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。また、カーボンブラック(好ましくはアセチレンブラック)とCNTとを併用することも好ましい。
【0030】
正極活物質層における導電剤(硫黄元素と導電剤との複合体中の導電剤を除く)の含有量は、0.5質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、10質量%以下又は5質量%以下であってもよい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0031】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0032】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、2質量%以上9質量%以下がより好ましく、7質量%以下又は5質量%以下であってもよい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質、複合体等を安定して保持することができる。
【0033】
分散剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。分散剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。正極活物質層における分散剤の含有量としては、0.05質量%以上5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上2質量%以下がより好ましい。多糖類高分子は、増粘剤として機能してもよく、バインダとして機能してもよい。
【0034】
増粘剤としては、例えば、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。正極活物質層における増粘剤の含有量としては、0.5質量%以上5質量%以下が好ましく、1質量%以上3質量%以下がより好ましい。ポリアクリル酸は、バインダとして機能してもよい。
【0035】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。正極活物質層におけるフィラーの含有量としては、例えば0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。本発明の一実施形態において、正極活物質層中にフィラーは含有されていなくてもよい。
【0036】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を、硫黄元素及び他の正極活物質、導電剤、バインダ、分散剤、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0037】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0038】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0039】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0040】
負極活物質層は、金属リチウムを含む。負極活物質層は、必要に応じて導電剤、バインダ、分散剤、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、分散剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。負極活物質層は、導電剤、バインダ、分散剤、増粘剤、フィラー等の任意成分を含んでいなくてもよい。負極活物質層は、金属リチウムの層であってもよい。
【0041】
金属リチウムは、負極活物質として機能する成分である。金属リチウムは、実質的にリチウム元素のみからなる純金属リチウムであってもよく、他の金属元素を含むリチウム合金であってもよい。リチウム合金としては、リチウム銀合金、リチウム亜鉛合金、リチウムカルシウム合金、リチウムアルミニウム合金、リチウムマグネシウム合金、リチウムインジウム合金等が挙げられる。リチウム合金は、リチウム元素以外の複数の金属元素を含有していてもよい。
【0042】
負極活物質層には、金属リチウム以外の他の負極活物質が含有されていてもよい。但し、負極活物質層は、金属リチウム(純金属リチウム又はリチウム合金)のみから実質的になる層であることが好ましい。負極活物質層におけるリチウム元素の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。負極活物質層におけるリチウム元素の含有量の上限は、100質量%であってもよい。
【0043】
負極活物質層は、無孔質の層(中実の層)であってもよく、多孔質の層であってもよいが、無孔質の層であることが好ましい。負極活物質層は、例えば、金属リチウム箔(純金属リチウム箔又はリチウム合金箔)からなる層であってもよい。負極活物質層は、少なくとも充電状態において金属リチウムを有していればよく、放電状態において金属リチウムを有していてもよく、有していなくてもよいが、放電状態においても存在している層であること、すなわち充電状態から放電状態の全ての状態において存在する層であることが好ましい。充電状態における負極活物質層の平均厚さは、5μm以上1,000μm以下が好ましく、10μm以上500μm以下がより好ましく、30μm以上300μm以下がさらに好ましい。
【0044】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0045】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、非水電解質蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0046】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0047】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0048】
(非水電解質)
非水電解質は、非水溶媒を含む。非水電解質としては、通常、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む非水電解液が好適に用いられる。本発明の一実施形態において、非水電解質蓄電素子は、非水電解液蓄電素子であってもよい。
【0049】
非水溶媒は、カーボネート類及びジオキソラン類を含有する。
【0050】
カーボネート類は、不飽和環状カーボネートを含む。非水溶媒に不飽和環状カーボネートが含まれることで、非水電解質蓄電素子のクーロン効率を高めることができる。不飽和環状カーボネートは、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を分子内に有する環状カーボネートである。炭素-炭素二重結合には、芳香環を構成するものも含まれる。環状カーボネートとは、カーボネート類のうち、カーボネート基(-O-C(=O)-O-)を含む環構造を有するものをいう。不飽和環状カーボネートは、炭素-炭素二重結合を分子内に有するものが好ましく、芳香環を構成しない炭素-炭素二重結合を分子内に有するものがより好ましい。不飽和環状カーボネートにおいて、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合は、環構造内に存在していてもよく、環構造外に存在していてもよいが、環構造内に存在していることが好ましい。不飽和環状カーボネートは、水素原子の一部又は全部がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。
【0051】
不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、フルオロメチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、プロピルビニレンカーボネート、ブチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ジプロピルビニレンカーボネート、ジフェニルビニレンカーボネート、トリフルオロメチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、スチレンカーボネート等が挙げられ、これらの中でもVCが好ましい。不飽和環状カーボネートは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0052】
非水溶媒における不飽和環状カーボネートの含有量の下限としては、35体積%が好ましく、40体積%がより好ましく、45体積%がさらに好ましい。不飽和環状カーボネートの含有量が上記下限以上であることで、正極表面及び負極表面に十分な量の被膜が形成され、クーロン効率をより高めること等ができる。非水溶媒における不飽和環状カーボネートの含有量の上限としては、65体積%が好ましく、60体積%がより好ましく、55体積%がさらに好ましく、50体積%がよりさらに好ましい。非水溶媒における不飽和環状カーボネートの含有量は、上記したいずれかの下限以上且つ上記したいずれかの上限以下であってもよい。
【0053】
カーボネート類における不飽和環状カーボネートの含有量の下限としては、20体積%が好ましく、30体積%、40体積%又は50体積%であってもよい。カーボネート類における不飽和環状カーボネートの含有量の上限としては、80体積%が好ましく、70体積%、60体積又は50体積%であってもよい。カーボネート類における不飽和環状カーボネートの含有量は、上記したいずれかの下限以上且つ上記したいずれかの上限以下(但し、下限は、上限未満)であってもよい。
【0054】
カーボネート類は、不飽和環状カーボネート以外の他のカーボネート類をさらに含んでいてもよい。他のカーボネート類としては、不飽和鎖状カーボネート及び飽和カーボネートが挙げられ、飽和カーボネートが好ましい。他のカーボネートは、水素原子の一部又は全部がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。他のカーボネート類は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0055】
不飽和鎖状カーボネートは、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を分子内に有する鎖状カーボネートである。鎖状カーボネートとは、カーボネート類のうち、カーボネート基を含む環構造を有しないものをいう。鎖状カーボネートは、カーボネート基を含まない環構造を有していてもよい。
【0056】
不飽和鎖状カーボネートとしては、メチルビニルカーボネート、ジビニルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジアリルカーボネート、ジベンジルカーボネート等が挙げられる。
【0057】
飽和カーボネートは、炭素-炭素二重結合及び炭素-炭素三重結合のいずれも分子内に有しないカーボネート類である。飽和カーボネートとしては、飽和環状カーボネート及び飽和鎖状カーボネートが挙げられる。
【0058】
飽和環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)等が挙げられる。
【0059】
飽和鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート(TFEMC)、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート(TFEC)等が挙げられる。
【0060】
飽和カーボネートとしては、ハロゲン化飽和カーボネートが好ましく、フッ素化飽和カーボネートが好ましい。フッ素化飽和カーボネートとしては、上記したFEC、DFEC等のフッ素化飽和環状カーボネート、及び上記したTFEMC、TFEC等のフッ素化飽和鎖状カーボネートが挙げられる。本発明の一実施形態において、非水溶媒は、フッ素化飽和環状カーボネートを含むものであってもよい。本発明の他の実施形態において、非水溶媒は、フッ素化飽和鎖状カーボネートを含むものであってもよい。
【0061】
非水溶媒における飽和カーボネートの含有量としては、10体積%以上65体積%以下が好ましく、20体積%以上55体積%以下がより好ましい。
【0062】
カーボネート類における飽和カーボネートの含有量としては、30体積%以上80体積%以下が好ましく、40体積%以上70体積%以下がより好ましい。
【0063】
非水溶媒におけるカーボネート類の含有量(不飽和環状カーボネート及び任意の他のカーボネート類の合計含有量)の下限としては、60体積%が好ましく、70体積%がより好ましく、75体積%、80体積%又は85体積%であってもよい。非水溶媒におけるカーボネート類の含有量が上記下限以上であることで、正極表面及び負極表面に十分な量の被膜が形成され、クーロン効率をより高めること等ができる。非水溶媒におけるカーボネート類の含有量の上限としては、99体積%が好ましく、95体積%がより好ましく、90体積%、85体積%又は80体積%であってもよい。カーボネート類の含有量は、上記したいずれかの下限以上且つ上記したいずれかの上限以下(但し、下限は、上限未満)であってもよい。
【0064】
ジオキソラン類としては、1,3-ジオキソラン、1,2-ジオキソラン、及びこれらの水素原子の一部又は全部が他の原子(例えば、ハロゲン原子等)又は基(例えば、炭化水素基、アミノ基等)に置換された化合物が挙げられる。ジオキソラン類としては、1,3-ジオキソランが好ましい。ジオキソラン類は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0065】
非水溶媒におけるジオキソラン類の含有量の下限としては、1体積%であり、2体積%が好ましく、3体積%がより好ましく、5体積%であってもよい。非水溶媒におけるジオキソラン類の含有量の上限としては、40体積%であり、30体積%が好ましく、20体積%であってもよい。ジオキソラン類の含有量が上記範囲内であることにより、非水電解質蓄電素子のクーロン効率を高めることができる。ジオキソラン類の含有量は、上記したいずれかの下限以上且つ上記したいずれかの上限以下であってもよい。
【0066】
非水溶媒は、カーボネート類及びジオキソラン類以外の他の非水溶媒をさらに含んでいてもよい。他の非水溶媒としては、ジオキソラン類以外のエーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。但し、非水溶媒におけるカーボネート類及びジオキソラン類の合計含有量は、80体積%以上100体積%以下が好ましく、90体積%以上100体積%以下がより好ましく、99体積%以上100体積%以下がさらに好ましく、100体積%がよりさらに好ましい。このように、非水溶媒が、主にカーボネート類及びジオキソラン類から構成されることにより、非水電解質蓄電素子のクーロン効率をより高めること等ができる。
【0067】
電解質塩としては、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。リチウム塩としては、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)等のイミド塩が好ましく、ハロゲン化炭化水素基を有するイミド塩がより好ましく、フッ素化炭化水素基を有するイミド塩がさらに好ましく、LiN(SO2CF3)2が特に好ましい。
【0068】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0069】
非水電解液は、非水溶媒と電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0070】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0071】
非水電解質には、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃から25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0072】
本実施形態の非水電解質蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0073】
図1に角型電池の一例としての非水電解質蓄電素子1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0074】
<蓄電装置>
本実施形態の非水電解質蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の非水電解質蓄電素子を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
【0075】
図2に、電気的に接続された二つ以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二つ以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二つ以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一つ以上の非水電解質蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0076】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本実施形態の非水電解質蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、非水電解質を準備することと、電極体及び非水電解質を容器に収容することと、を備える。電極体を準備することは、正極及び負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を積層又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。
【0077】
非水電解質を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、非水電解質に非水電解液を用いる場合、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。
【0078】
当該製造方法は、未放電非水電解質蓄電素子に対して、初期充放電を行うことを備えていてもよい。なお、初期充放電は、放電から開始される。初期充放電における充電及び放電の回数は特に限定されない。初期充放電を経ることで、非水電解質の一部が分解することによる良好な被膜が正極及び負極の表面に形成され、高いクーロン効率を有する非水電解質蓄電素子が得られる。
【0079】
<その他の実施形態>
尚、本発明の非水電解質蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0080】
上記実施形態では、非水電解質蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウム・硫黄電池)として用いられる場合について説明したが、非水電解質蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、キャパシタ等にも適用できる。
【0081】
上記実施形態では、正極及び負極がセパレータを介して積層された電極体について説明したが、電極体は、セパレータを備えなくてもよい。例えば、正極又は負極の活物質層上に導電性を有さない層が形成された状態で、正極及び負極が直接接してもよい。
【実施例0082】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
[実施例1]
(正極の作製)
硫黄単体とミクロ多孔性炭素とを質量比70:30で混合した。この混合物を、密封式の電気炉に入れた。1時間のアルゴンフローを行った後、昇温速度5℃/分で150℃まで昇温し、5時間保持した後、硫黄単体が固化する温度である80℃まで放冷し、その後、再び昇温速度5℃/分で300℃まで昇温し、2時間保持する熱処理を行い、複合体(硫黄-多孔性炭素複合体:SPC)を作製した。
水を分散媒とし、上記で得られた複合体、導電剤としてアセチレンブラック及びカーボンナノチューブ、分散剤としてCMC、増粘剤としてPAA、及びバインダとしてSBRを93:1.5:0.2:0.3:2.5:2.5の質量比で含有する正極合剤ペーストをアルミニウム製の正極基材に塗布し、乾燥して正極を作製した。
【0084】
(負極の準備)
負極として、純金属リチウム箔を用意した。
【0085】
(非水電解質の調製)
ビニレンカーボネート(VC)とフルオロエチレンカーボネート(FEC)と1,3-ジオキソラン(DOL)とを体積比45:45:10で混合した非水溶媒に、電解質塩としてLiN(SO2CF3)2を1.0mol/dm3の含有量で含有させ、非水電解質を調製した。
【0086】
(非水電解質蓄電素子の組み立て)
セパレータとして、ポリエチレン製微多孔膜を用意した。上記正極、負極、セパレータ及び非水電解質を用いて、実施例1の非水電解質蓄電素子を得た。
【0087】
[実施例2から5、比較例1から3]
非水電解質の調製に用いた非水溶媒の種類及び体積比を表1の記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様にして実施例2から5及び比較例1から3の各非水電解質蓄電素子を得た。なお、用いた非水溶媒は以下の通りである。
VC:ビニレンカーボネート
FEC:フルオロエチレンカーボネート
TFEMC:2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート
DOL:1,3-ジオキソラン
DOA:1,4―ジオキサン
【0088】
[評価]
(充放電サイクル試験)
得られた各非水電解質蓄電素子について、まず、1.0Vまで0.1Cの定電流放電を行った。
その後、3.0Vまで0.1Cの定電流充電を行った。次に、1.0Vまで0.1Cの定電流放電を行った。この充電及び放電の工程を1サイクルとして、この充放電サイクルを8サイクル繰り返した。なお、充電後及び放電後には10分間の休止を設けた。充電、放電及び休止ともに25℃の恒温槽内でおこなった。
サイクル毎のクーロン効率を求め、8サイクルのクーロン効率の平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0089】
【0090】
表1に示されるように、非水溶媒が不飽和環状カーボネートと共に所定量のジオキソラン類を含有する実施例1から5の各非水電解質蓄電素子においては、いずれもクーロン効率(平均値)が87%以上であり、クーロン効率が高かった。これに対し、非水溶媒がジオキソラン類を含有しない比較例1、非水溶媒がジオキソラン類に替えてDOAを含有する比較例2、及び非水溶媒におけるジオキソラン類の含有量が所定量よりも多い比較例3の各非水電解質蓄電素子においては、いずれもクーロン効率が低かった。