(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159161
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】リン酸カルシウム
(51)【国際特許分類】
C01B 25/32 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
C01B25/32 B
C01B25/32 Q
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074979
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100148253
【弁理士】
【氏名又は名称】今枝 弘充
(72)【発明者】
【氏名】那須 萌加
(57)【要約】
【課題】配向性により優れたリン酸カルシウムを提供する。
【解決手段】リン酸カルシウムは、長手方向の長さL、厚み方向の長さT、及び幅方向の長さDをそれぞれ有する針状粒子10を含む。上記針状粒子10は、アスペクト比(L/T)が80以上150以下である。上記針状粒子10は、上記幅方向の長さDが0.5μm以上2.0μm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の長さL、厚み方向の長さT、及び幅方向の長さDをそれぞれ有する針状粒子を含むリン酸カルシウムであって、
前記針状粒子は、アスペクト比(L/T)が80以上150以下であり、前記幅方向の長さDが0.5μm以上2.0μm以下である、
リン酸カルシウム。
【請求項2】
前記針状粒子は、前記長手方向の一端に、平坦な端面を有する、請求項1に記載のリン酸カルシウム。
【請求項3】
前記針状粒子は、リン酸水溶液と、水酸化カルシウムの懸濁液とを、ジェット噴流で混合することによって生成された、請求項1に記載のリン酸カルシウム。
【請求項4】
前記針状粒子は、リン酸水溶液と、水酸化カルシウムの懸濁液とを、二重管混合部を用いて混合することによって生成され、
前記二重管混合部は、外管と、前記外管内に配置された内管とを備え、
前記外管に前記水酸化カルシウムの懸濁液が供給され、前記内管に前記リン酸水溶液が供給される、請求項1に記載のリン酸カルシウムの製造方法。
【請求項5】
嵩比容が5mL/g以上15mL/g以下である、請求項1に記載のリン酸カルシウム。
【請求項6】
リン酸水溶液と、水酸化カルシウムの懸濁液とを混合してスラリーを得る混合工程を含み、
前記混合工程は、前記リン酸水溶液と、前記懸濁液とを、ジェット噴流によって混合する、リン酸カルシウムの製造方法。
【請求項7】
前記混合工程は、二重管混合部を用い、
前記二重管混合部は、外管と、前記外管内に配置された内管とを備え、
前記外管に前記水酸化カルシウムの懸濁液が供給され、前記内管に前記リン酸水溶液が供給される、請求項6に記載のリン酸カルシウムの製造方法。
【請求項8】
さらに、前記スラリーを60℃以上100℃以下の温度で熟成する熟成工程を含み、
前記熟成工程は、熟成槽を用い、
前記熟成槽は、前記二重管混合部の下流に設けられ、前記二重管混合部から排出される前記スラリーを受容する、請求項7に記載のリン酸カルシウムの製造方法。
【請求項9】
前記リン酸カルシウムにおいて長手方向の長さL、厚み方向の長さT、及び幅方向の長さDをそれぞれ有する針状粒子を含み、
前記針状粒子は、アスペクト比(L/T)が80以上150以下であり、前記幅方向の長さDが0.5μm以上2.0μm以下である、請求項6に記載のリン酸カルシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸カルシウムに関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸カルシウムは、表面活性が低く、吸湿性が無く、生体親和性があり安全性も高いことから、構造材向けのフィラーとして適用する方法が検討されている(例えば、特許文献1)。構造材料向けフィラーは、樹脂の寸法安定性という観点から、微粒子状で高アスペクト比を持つ形状が望まれている。特許文献1は、平均アスペクト比が5以上である薄片状のリン酸水素カルシウムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィラーとしての用途において、リン酸カルシウムに対しては、配向性をより向上し得るような更なる改良が要望されていた。
本発明は、配向性により優れたリン酸カルシウムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様のリン酸カルシウムは以下の態様に関する。
【0006】
[態様1]
リン酸カルシウムは、長手方向の長さL、厚み方向の長さT、及び幅方向の長さDをそれぞれ有する針状粒子を含む。上記針状粒子は、アスペクト比(L/T)が80以上150以下である。上記針状粒子は、上記幅方向の長さDが0.5μm以上2.0μm以下である。
【0007】
[態様2]
上記針状粒子は、上記長手方向の一端に、平坦な端面を有する、態様1に記載のリン酸カルシウムである。
【0008】
[態様3]
上記針状粒子は、リン酸水溶液と、水酸化カルシウムの懸濁液とを、ジェット噴流で混合することによって生成された、態様1又は2に記載のリン酸カルシウムである。
【0009】
[態様4]
上記針状粒子は、リン酸水溶液と、水酸化カルシウムの懸濁液とを、二重管混合部を用いて混合することによって生成される、態様1から3のいずれか1つに記載のリン酸カルシウムの製造方法である。上記二重管混合部は、外管と、上記外管内に配置された内管とを備える。上記外管に上記水酸化カルシウムの懸濁液が供給される。上記内管に上記リン酸水溶液が供給される。
【0010】
[態様5]
嵩比容が5mL/g以上15mL/g以下である、態様1に記載のリン酸カルシウム。
【0011】
[態様6]
リン酸カルシウムの製造方法は、リン酸水溶液と、水酸化カルシウムの懸濁液とを混合してスラリーを得る混合工程を含む。上記混合工程は、上記リン酸水溶液と、上記懸濁液とを、ジェット噴流によって混合する。
【0012】
[態様7]
上記混合工程は、二重管混合部を用いる、態様6に記載のリン酸カルシウムの製造方法である。上記二重管混合部は、外管と、上記外管内に配置された内管とを備える。上記外管に上記水酸化カルシウムの懸濁液が供給される。上記内管に上記リン酸水溶液が供給される。
【0013】
[態様8]
リン酸カルシウムの製造方法は、上記スラリーを、60℃以上100℃以下の温度で熟成する熟成工程を含む。上記熟成工程は、熟成槽を用いる、態様7に記載のリン酸カルシウムの製造方法である。上記熟成槽は、上記二重管混合部の下流に設けられる。上記熟成槽は上記二重管混合部から排出される上記スラリーを受容する。
【0014】
[態様9]
上記リン酸カルシウムにおいて長手方向の長さL、厚み方向の長さT、及び幅方向の長さDをそれぞれ有する針状粒子を含む、態様6から8のいずれか1つに記載のリン酸カルシウムの製造方法である。上記針状粒子は、アスペクト比(L/T)が80以上150以下である。上記幅方向の長さDが0.5μm以上2.0μm以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によるリン酸カルシウムは、配向性により優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係るリン酸カルシウムのSEM観察写真(1)である。
【
図2】本実施形態に係るリン酸カルシウムのSEM観察写真(2)である。
【
図3】本実施形態に係るリン酸カルシウムの製造装置を示す模式図である。
【
図4】本実施形態に係る二重管混合部を示す模式図である。
【
図5】実施例及び参考例に係る試料のSEM観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[リン酸カルシウム]
以下、本発明の一実施形態に係るリン酸カルシウムについて図を参照して説明する。
図1は本実施形態に係るリン酸カルシウムのSEM観察写真(1)、
図2は本実施形態に係るリン酸カルシウムのSEM観察写真(2)である。
【0018】
図1及び
図2に示すように、リン酸カルシウムは、長手方向の長さL、厚み方向の長さT、及び幅方向の長さDをそれぞれ有する複数の針状粒子10を含む。針状粒子10は、リン酸カルシウム中に含まれる他の針状粒子10、及び針状粒子10以外の不定形の粒子と、互いに凝集している場合と、他の粒子と凝集せず単独で存在する場合とがある。
【0019】
リン酸カルシウムは、例えば、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム一水和物、リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト、炭酸アパタイト、ウィットロカイト、アモルファスリン酸カルシウム、リン酸四カルシウム、ピロリン酸カルシウムを含む。
【0020】
針状粒子10は、アスペクト比(L/T)が80以上150以下である。長手方向の長さLは、着目する針状粒子10の最も長い軸の長さとする。厚み方向の長さTは、着目する針状粒子10の長手方向の長さLに対応する、最も短い軸の長さとする。
【0021】
針状粒子10は、幅方向の長さDが0.5μm以上2.0μm以下である。幅方向の長さDは、着目する針状粒子10の長手方向と厚み方向とに直交する方向の長さである。すなわち、幅方向の長さDは、着目する針状粒子10の長手方向の軸と幅方向の軸とを含む面を正面とし、当該針状粒子10の長手方向の軸に沿う両辺の間の距離である。上記正面において、当該針状粒子10の長手方向の一端における幅方向の長さと、当該一端と反対側の他端における幅方向の長さとが同じである場合に限らない。針状粒子10は、長手方向の一端から他端に向かって、幅方向の長さが漸増または漸減してもよい。針状粒子10の幅方向の長さDは、長手方向の一端から他端における最大値とする。針状粒子10は、幅方向の長さDが0.7μm以上1.3μm以下であるのが好ましい。
【0022】
例えば、
図1に示すように、長手方向の長さLは、L
1~L
5のように特定する。また幅方向の長さDは、例えば、D
1~D
5のように特定する。さらに、厚み方向の長さTは、例えば、
図2に示すように、厚み方向を測定するのに適した針状粒子10を選択し、特定する。
【0023】
本実施形態に係る針状粒子10は、アスペクト比(L/T)が80以上150以下であることに加え、幅方向の長さDが0.5μm以上2.0μm以下であることによって、配向性に優れる。針状粒子10は、幅方向の長さDが0.7μm以上1.3μm以下であることによって、より配向性に優れる。
【0024】
針状粒子10は、着目する針状粒子10の長手方向の一端に平坦な端面12を有するのが好ましい。端面12とは、着目する針状粒子10の正面の長手方向の一端において、針状粒子10の幅方向に交差する両辺の間を結ぶ面である。端面12は、幅方向に平行である場合に限らず、傾斜していてもよい。針状粒子10は、長手方向の両端にそれぞれ平坦な端面を有してもよい。
【0025】
リン酸カルシウムは、嵩比容が5mL/g以上15mL/g以下であるのが好ましく、9mL/g以上12mL/g以下であるのがより好ましい。リン酸カルシウムは、アスペクト比(L/T)が80以上150以下、幅方向の長さDが0.5μm以上2.0μm以下の針状粒子10を含むことによって、嵩比容が大きい。本実施形態における嵩比容はゆるみ嵩比容である。固め嵩比容は、上記ゆるみ嵩比容の半分程度である。
【0026】
[リン酸カルシウムの製造装置]
上記リン酸カルシウムを製造するリン酸カルシウムの製造装置の一例について、
図3及び
図4を参照して説明する。
図3は本実施形態に係るリン酸カルシウムの製造装置を示す模式図、
図4は本実施形態に係る二重管混合部を示す模式図である。製造装置14は、二重管混合部16を備える。反応装置14は、さらに熟成部18を備えてもよい。
【0027】
二重管混合部16は、水酸化カルシウムの懸濁液と、リン酸水溶液とを迅速に混合する。二重管混合部16は、水酸化カルシウムの懸濁液と、リン酸水溶液とをジェット噴流によって混合するのが好ましい。二重管混合部16は、外管20と、内管22とを有する。内管22は、外管20内に配置されている。外管20と内管22とは、同軸上に配置されることが好ましい。
【0028】
外管20は、上流から下流へ延在する。外管20は、上流側の端部20Uが図示しないが外管側送液ポンプに接続されている。外管20は、外管側送液ポンプから送出された水酸化カルシウムの懸濁液が上流から下流へ流れる。外管20の下流側の端部20Dは、熟成部18に通じている。
【0029】
内管22は上流から下流へ延在する。内管22は、上流側の端部22Uが図示しないが内管側送液ポンプに接続されている。内管22は、内管側送液ポンプから送出されたリン酸水溶液が上流から下流へ流れる。
図4に示すように、内管22の下流側の端部22Dは、外管20の下流側の端部20Dより上流側で終端していてもよい。すなわち二重管混合部16は、内管22の下流側の端部22Dから外管20の下流側の端部20Dまで、所定の距離PLを有してもよい(
図4)。
【0030】
熟成部18は、熟成槽24と排出配管25とを有する。熟成槽24は、入口26と出口28とを有する。熟成槽24は、二重管混合部16から排出されたスラリーを、入口26から受け入れる。熟成槽24は、熟成槽24内のスラリーを、例えば60℃以上100℃以下の温度で2分以上1時間以下、好ましくは80℃以上100℃以下の温度で30分以上1時間以下の条件で保持し熟成する。排出配管25は出口28に接続されている。熟成部18は、出口28を通じて熟成後のスラリーを熟成槽24から排出配管25へ排出する。
【0031】
[リン酸カルシウムの製造方法]
リン酸カルシウムを製造する方法について上記製造装置14を用いる場合を例示して説明する。リン酸カルシウムは、混合工程によって製造することができる。リン酸カルシウムを製造する方法は、さらに熟成工程を備えてもよい。以下、順に説明する。混合工程は、リン酸水溶液と、水酸化カルシウムの懸濁液とを迅速に混合して、スラリーを得る。
【0032】
まず、二重管混合部16の外管20から所定の線速度Voutで水酸化カルシウムの懸濁液を送出する。線速度Voutは、水酸化カルシウムの懸濁液が管を流れる流量を管の断面積で除した値である。上記所定の線速度Voutで流れる水酸化カルシウムの懸濁液に接するように、二重管混合部16の内管22から所定の線速度Vinでリン酸水溶液を送出する。線速度Vinは、リン酸水溶液が管を流れる流量を管の断面積で除した値である。水酸化カルシウムの懸濁液に含まれる水酸化カルシウムの体積平均径(MV)は、例えば、6~10μmでもよい。線速度Vinと、線速度Voutとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0033】
リン酸水溶液と、水酸化カルシウムの懸濁液とは、上記所定の線速度で互いに接触し、ジェット噴流によって混合する。リン酸水溶液と水酸化カルシウムの懸濁液との混合は混合区間Z(
図4)を経て完了する。
【0034】
混合区間Zは、管から流出したリン酸水溶液と管から流出した水酸化カルシウムの懸濁液とが合流した後、定常流になるまでの区間である。この結果、混合区間Zおよび混合区間Zからさらに下流において、針状粒子10を含むスラリーが生成される。
【0035】
リン酸水溶液が管を流れる線速度Vinと、水酸化カルシウムの懸濁液が管を流れる線速度Voutとの比(Vin/Vout)は、10以上20以下であるのが好ましい。リン酸水溶液の線速度Vinと、水酸化カルシウムの懸濁液の線速度Voutとの線速度比が上記範囲内であることによって、水酸化カルシウムの懸濁液とリン酸水溶液とが迅速に混合し得る。
【0036】
本実施形態において、水酸化カルシウムの懸濁液と、リン酸水溶液とは、混合区間Zを経て定常流となることで、混合が完了する。すなわち、水酸化カルシウムの懸濁液と、リン酸水溶液とを迅速に混合するうえで、混合区間Zは短い方が好ましい。リン酸水溶液の線速度Vinと水酸化カルシウムの懸濁液の線速度Voutとの線速度比(Vin/Vout)が大きいほど、混合区間は短くなる。
【0037】
水酸化カルシウムの懸濁液と、リン酸水溶液とを混合するうえで、次に示す式1で表される散逸エネルギーεが大きい方が好ましい。
【0038】
【0039】
Qは流量、ΔPは着目する空間の圧力損失、Vは着目する空間の体積、ρは密度、τは滞留時間である。流体が流れる流路を狭くしたり、流量を増大させたりして、滞留時間を短くすることによって散逸エネルギーεを大きくすることができる。また、水酸化カルシウムの懸濁液と、リン酸水溶液とを混合した混合流体をジェット噴流とすると、ΔPが大きくなる。結果として散逸エネルギーεを大きくすることができる。
【0040】
熟成工程は、混合工程で得られたスラリーを、熟成部18において例えば60℃以上100℃以下の温度で2分から1時間、好ましくは80℃以上100℃以下の温度で30分から1時間保持し、スラリーを熟成する。熟成工程を経ることによって、スラリーが純度の高いリン酸カルシウムとなる。
【0041】
製造方法は、さらに洗浄工程及び乾燥工程を有してもよい。洗浄工程は、まず、熟成工程後のスラリーを、濾紙を用いて吸引ろ過し、ケーキを得る。次いで、得られたケーキをイオン交換水で洗浄する。洗浄工程を経ることによって、不純物を取り除き、より純度を高めることができる。乾燥工程は、ケーキを加熱することによって乾燥した針状粒子を得ることができる。
【0042】
[作用及び効果]
リン酸カルシウムは、アスペクト比(L/T)が80以上150以下、幅方向の長さDが0.5μm以上2.0μm以下である針状粒子10を含むことによって、板状、箔状、及び柵状の粒子に比べ配向性に優れる。リン酸カルシウムは、配向性に優れることによって、例えば、フィラーに好適に用いることができる。リン酸カルシウムは、例えば、塗料、樹脂及び医薬品やのフィラーに用いることができる。
【0043】
針状粒子10は、長手方向の一端に平坦な端面12を有するので、先端が尖った粒子と比較して、粒子の形状を維持しやすい。針状粒子10は、アスペクト比(L/T)が80以上150以下、幅方向の長さDが0.5μm以上2.0μm以下であるので、嵩比容が5mL/g以上15mL/g以下であるリン酸カルシウムが得られる。
【0044】
リン酸カルシウムは、リン酸水溶液と、水酸化カルシウムの懸濁液とを混合してスラリーを得る混合工程と、スラリーを、80℃以上の温度で熟成する熟成工程と、を含む製造方法によって製造することができる。混合工程は、リン酸水溶液と、懸濁液とを、ジェット噴流によって混合する。リン酸水溶液と、水酸化カルシウムの懸濁液とを迅速に、例えばジェット噴流によって混合することによって、針状粒子10を得ることができる。
【0045】
本実施形態の製造方法は、二重管混合部16を用いることによって、リン酸水溶液と、水酸化カルシウムの懸濁液とを混合したジェット噴流をより確実に生じさせることができる。
【0046】
二重管混合部16で得られたスラリーを、熟成槽24において受容し熟成することによって、連続的に処理できるので、より効率的にリン酸カルシウムを得ることができる。
【0047】
[測定方法]
(アスペクト比及び幅方向の長さ)
針状粒子の大きさは、リン酸カルシウムの針状粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。SEM観察の倍率は、例えば5000倍~2万倍とする。撮影した画像において、針状粒子を例えば5個、任意に選択し、長手方向の長さL、及び幅方向の長さDをそれぞれ測定する。また、厚み方向の長さTの測定に適した針状粒子を同数(この場合5個)任意に選択し、厚み方向の長さTを測定する。測定した長手方向の長さLの合計値と厚み方向の長さTの合計値とからアスペクト比(L/T)の平均値を算出する。当該平均値をリン酸カルシウムのアスペクト比(L/T)とする。また、幅方向の長さDの合計値から算出した平均値をリン酸カルシウムの幅方向の長さDとする。
【0048】
(嵩比容)
50mL容メスシリンダーにリン酸カルシウム5gを静かに入れ、平らに均しリン酸カルシウムの容積を読み取る。充填したリン酸カルシウムの質量を容積で除した値を算出し、算出した値をゆるみ嵩比容とする。
【0049】
[変形例]
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することができる。例えば、上記実施形態の場合、針状粒子は長手方向の一端に平坦な端面を有する場合について説明したが本発明はこれに限らない。針状粒子は、長手方向の一端または両端に凸部または凹部を含む端面を有してもよい。
【0050】
上記実施形態の針状粒子は、二重管混合部を用いて製造する場合について説明したが、本発明はこれに限らない。針状粒子は、水酸化カルシウムの懸濁液とリン酸水溶液とを迅速に、例えばジェット噴流によって混合することができれば、他の方法を用いて製造してもよい。
【実施例0051】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
[試料]
上記「リン酸カルシウムの製造方法」に従い、「リン酸カルシウムの製造装置」に示した二重管混合部を用いて試料を生成した。各資料の詳細について、以下説明する。
【0053】
(実施例1)
80℃に温度調整したリン酸4.9mol%水溶液と、80℃に温度調整した水酸化カルシウムの3.7mol%懸濁液とを、それぞれ用意した。外管の内径が8mm、内管の内径が1.8mm、
図4のPLの部分の長さが80mmである二重管混合部を用意した。
【0054】
次に、定容ポンプを用いて、外管にリン酸水溶液を、内管に水酸化カルシウムの懸濁液をそれぞれ供給した。反応時のリンとカルシウムの比率が1:1になるように二重管混合部に供給した。リン酸水溶液と水酸化カルシウムの懸濁液の供給速度は180ml/minとした。この条件で2分間反応を続け、スラリーを716mL得た。得られたスラリーを、濾紙を用いて吸引ろ過してケーキを得た。得られたケーキを975mLのイオン交換水で洗浄した。その後、105℃で一晩乾燥させ、実施例1のリン酸水素カルシウムを得た。
【0055】
(実施例2)
反応後に得られたスラリーを80℃で1時間熟成させた以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2のリン酸水素カルシウムを得た。
【0056】
(参考例1)
バッチ反応槽にイオン交換水100mLを入れ、80℃に温度を調整した。上記イオン交換水を300rpmで撹拌しながら、リン酸0.51mol/L水溶液と、塩化カルシウムの0.51mol/L含有液を混合し、水酸化ナトリウム0.67mol/L溶液を約1分かけて同時に注加し反応を開始した。注加完了後、実施例1と同様に、濾過、洗浄および乾燥をし、参考例1の試料を得た。
(参考例2)
注加完了後、得られたスラリーを80℃で1時間熟成させた以外は、参考例1と同様に行い、参考例2の試料を得た。
【0057】
[測定結果]
得られた針状粒子の各測定結果を表1に、SEM観察写真を
図5に、それぞれ示す。
【0058】
【表1】
表1及び
図5に示すように、実施例1は、それぞれアスペクト比(L/T)が80以上150以下であり、幅方向の長さDが1.4μm~1.6μm以下である針状粒子が得られることが確認できた。実施例2のアスペクト比(L/T)及び幅方向の長さDは、SEM観察写真から実施例1と同等であることを確認した。これに対し、参考例1及び参考例2は、SEM観察写真から明らかなように、幅方向の長さが大きい、薄板状の粒子であった。また、実施例1及び実施例2は、参考例1及び参考例2に比べ、嵩比容が大きいことが確認できた。