(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159184
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】切拡げ掘削面の支保構造の設計方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/00 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
E21D9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075019
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】市田 雄行
(72)【発明者】
【氏名】大塚 勇
(57)【要約】
【課題】三次元掘削解析を実施せずに比較的簡便に、さらには、いなし効果を定量的に評価しながら切拡げ掘削面の支保構造を設計できる、切拡げ掘削面の支保構造の設計方法を提供する。
【解決手段】トンネルの弾塑性理論に基づく円孔理論解を用いて、先進導坑の掘削に伴う地山の応力解放と先行変位を考慮した、切拡げ掘削面の支保構造の設計方法であり、導坑掘削面地山特性曲線作成工程、導坑掘削面支保特性曲線作成工程、導坑掘削面地山特性曲線と導坑掘削面支保特性曲線の交点を求める第1釣合点特定工程、切拡げ掘削面地山特性曲線作成工程、第1釣合点における切拡げ掘削面での地山応力を、切拡げ掘削面における切拡げ掘削面初期応力として設定する、切拡げ掘削面初期応力設定工程、切拡げ掘削面支保特性曲線作成工程、切拡げ掘削面地山特性曲線と切拡げ掘削面支保特性曲線の交点を求める第2釣合点特定工程、切拡げ掘削面支保構造照査工程を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの弾塑性理論に基づく円孔理論解を用いて、先進導坑の掘削に伴う地山の応力解放と先行変位を考慮した、切拡げ掘削面の支保構造の設計方法であって、
前記先進導坑の掘削を想定した導坑掘削面地山特性曲線を作成する、導坑掘削面地山特性曲線作成工程と、
前記先進導坑の導坑掘削面に応じた導坑掘削面支保構造に関する導坑掘削面支保特性曲線を作成する、導坑掘削面支保特性曲線作成工程と、
前記導坑掘削面地山特性曲線と前記導坑掘削面支保特性曲線の交点である第1釣合点を求める、第1釣合点特定工程と、
前記先進導坑の周囲の切拡げ掘削を想定した切拡げ掘削面地山特性曲線を作成する、切拡げ掘削面地山特性曲線作成工程と、
前記第1釣合点における前記切拡げ掘削面での地山応力を、前記切拡げ掘削面における切拡げ掘削面初期応力として設定する、切拡げ掘削面初期応力設定工程と、
前記切拡げ掘削面に応じた切拡げ掘削面支保構造に関する切拡げ掘削面支保特性曲線を作成する、切拡げ掘削面支保特性曲線作成工程と、
前記切拡げ掘削面地山特性曲線と前記切拡げ掘削面支保特性曲線の交点である第2釣合点を求める、第2釣合点特定工程と、
前記第2釣合点における切拡げ掘削面支保構造の応力及び/又は変位と、支保耐力及び/又は地山の許容変位量とを対比し、該応力及び/又は変位が該支保耐力及び/又は地山の許容変位量以下となるように切拡げ掘削面支保構造を設計する、切拡げ掘削面支保構造照査工程とを有することを特徴とする、切拡げ掘削面の支保構造の設計方法。
【請求項2】
地山の応力解放率にて前記切拡げ掘削面初期応力を補正して補正後切拡げ掘削面初期応力を求める、切拡げ掘削面初期応力補正工程をさらに有し、
前記切拡げ掘削面支保特性曲線作成工程では、前記補正後切拡げ掘削面初期応力に対応する変位を前記切拡げ掘削面支保特性曲線の開始点とすることを特徴とする、請求項1に記載の切拡げ掘削面の支保構造の設計方法。
【請求項3】
前記第1釣合点における導坑掘削面支保構造の応力及び/又は変位と、支保耐力及び/又は地山の許容変位量とを対比し、該応力及び/又は変位が該支保耐力及び/又は地山の許容変位量以下となるように導坑掘削面支保構造を設計する、導坑掘削面支保構造照査工程をさらに有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の切拡げ掘削面の支保構造の設計方法。
【請求項4】
地山の応力解放率にて地山の初期応力を補正して補正後導坑掘削面初期応力を求める、導坑掘削面初期応力補正工程をさらに有し、
前記導坑掘削面支保特性曲線作成工程では、前記補正後導坑掘削面初期応力に対応する変位を前記導坑掘削面支保特性曲線の開始点とすることを特徴とする、請求項3に記載の切拡げ掘削面の支保構造の設計方法。
【請求項5】
前記切拡げ掘削面支保構造照査工程において、前記応力及び/又は変位が前記支保耐力及び/又は地山の許容変位量以下とならない場合であって、前記切拡げ掘削面支保構造の支保仕様の変更のみで対応可能な場合に、該支保仕様の変更を行う、切拡げ掘削面支保構造仕様変更工程をさらに有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の切拡げ掘削面の支保構造の設計方法。
【請求項6】
前記切拡げ掘削面支保構造照査工程において、前記応力及び/又は変位が前記支保耐力及び/又は地山の許容変位量以下とならない場合であって、前記切拡げ掘削面支保構造の支保仕様の変更のみで対応不可能な場合に、前記導坑掘削面支保構造の支保仕様の変更を行う、導坑掘削面支保構造仕様変更工程をさらに有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の切拡げ掘削面の支保構造の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切拡げ掘削面の支保構造の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの施工方法のうち、中央導坑先進工法は、小断面の導坑を先進させた後に正規の断面にて切拡げ掘削を行う工法である。中央導坑先進工法では、導坑掘削による応力解放に伴い、地山の初期応力が減少した応力場を切拡げることから、導坑を先進させない一般的な掘削方法に比べて、切拡げ掘削時のトンネル変位や支保応力が低減される効果(一般に、いなし効果と称される)が期待される。
中央導坑先進工法では、上記するいなし効果に加えて、切拡げ掘削時における切羽の安定性が向上し、導坑貫通後の換気効果が期待でき、導坑を先進させた際に地質確認を行うことができ、必要に応じて水抜きを行うこともできる。また、発破工法の場合は、芯抜きが不要であることから騒音振動対策に繋がる。
【0003】
上記する中央導坑先進工法に関し、例えば、特許文献1には、本坑の設計断面内において、本坑の切羽掘削に先行して先進導坑を形成した後、先進導坑内に吹付け機を設置しておき、本坑の発破掘削の後、ズリ出し作業に併行して先進導坑内に位置する吹付け機により、新たに露出したトンネル壁面に対する吹付け作業を行う、先進導坑を利用したトンネル掘削方法が記載されている。
【0004】
ところで、導坑と切拡げ断面の支保構造設計においては、導坑掘削と切拡げ掘削といった三次元的かつ複雑な掘削過程を模擬した三次元掘削解析を用いる場合がある。ただし、三次元解析を実施する場合は、モデルの作成と解析の実行、解析結果の整理等に多くの労力と時間が必要になる。また、上記するいなし効果を定量的に評価して、支保構造設計に反映した設計手法は現状確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、三次元掘削解析を実施せずに比較的簡便に、さらには、いなし効果を定量的に評価しながら切拡げ掘削面の支保構造を設計することのできる、切拡げ掘削面の支保構造の設計方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による切拡げ掘削面の支保構造の設計方法の一態様は、
トンネルの弾塑性理論に基づく円孔理論解を用いて、先進導坑の掘削に伴う地山の応力解放と先行変位を考慮した、切拡げ掘削面の支保構造の設計方法であって、
前記先進導坑の掘削を想定した導坑掘削面地山特性曲線を作成する、導坑掘削面地山特性曲線作成工程と、
前記先進導坑の導坑掘削面に応じた導坑掘削面支保構造に関する導坑掘削面支保特性曲線を作成する、導坑掘削面支保特性曲線作成工程と、
前記導坑掘削面地山特性曲線と前記導坑掘削面支保特性曲線の交点である第1釣合点を求める、第1釣合点特定工程と、
前記先進導坑の周囲の切拡げ掘削を想定した切拡げ掘削面地山特性曲線を作成する、切拡げ掘削面地山特性曲線作成工程と、
前記第1釣合点における前記切拡げ掘削面での地山応力を、前記切拡げ掘削面における切拡げ掘削面初期応力として設定する、切拡げ掘削面初期応力設定工程と、
前記切拡げ掘削面に応じた切拡げ掘削面支保構造に関する切拡げ掘削面支保特性曲線を作成する、切拡げ掘削面支保特性曲線作成工程と、
前記切拡げ掘削面地山特性曲線と前記切拡げ掘削面支保特性曲線の交点である第2釣合点を求める、第2釣合点特定工程と、
前記第2釣合点における切拡げ掘削面支保構造の応力及び/又は変位と、支保耐力及び/又は地山の許容変位量とを対比し、該応力及び/又は変位が該支保耐力及び/又は地山の許容変位量以下となるように切拡げ掘削面支保構造を設計する、切拡げ掘削面支保構造照査工程とを有することを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、導坑掘削面地山特性曲線と導坑掘削面支保特性曲線の交点である第1釣合点における切拡げ掘削面での地山応力を、切拡げ掘削面における切拡げ掘削面初期応力として設定した後、切拡げ掘削面地山特性曲線と切拡げ掘削面支保特性曲線の交点である第2釣合点における切拡げ掘削面支保構造の応力及び/又は変位と、支保耐力及び/又は地山の許容変位量とを対比して切拡げ掘削面支保構造を設計することにより、導坑掘削後の周辺地山の地山応力と先行変位を定量的に求め、これらの応力と変位の状態を踏まえることでいなし効果を定量的に評価しながら、三次元掘削解析を実施せずとも、弾塑性理論に基づいて比較的簡便に切拡げ掘削面の支保構造を設計することができる。
ここで、「比較的簡便に設計できる」とは、例えばエクセル等の表計算ベースで設計できることを意味している。また、「応力及び/又は変位と支保耐力及び/又は地山の許容変位量とを対比する」とは、応力と支保耐力のみを対比する方法、変位と地山の許容変位量を対比する方法、及び双方を対比する方法を含む意味である。
【0009】
また、本発明による切拡げ掘削面の支保構造の設計方法の他の態様は、
地山の応力解放率にて前記切拡げ掘削面初期応力を補正して補正後切拡げ掘削面初期応力を求める、切拡げ掘削面初期応力補正工程をさらに有し、
前記切拡げ掘削面支保特性曲線作成工程では、前記補正後切拡げ掘削面初期応力に対応する変位を前記切拡げ掘削面支保特性曲線の開始点とすることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、地山の応力解放率にて切拡げ掘削面初期応力を補正し、補正後切拡げ掘削面初期応力に対応する変位を切拡げ掘削面支保特性曲線の開始点とすることにより、切拡げ掘削に伴う応力解放と先行変位を反映した、より一層精度の高い切拡げ掘削面の支保構造の設計を実現できる。
【0011】
また、本発明による切拡げ掘削面の支保構造の設計方法の他の態様は、
前記第1釣合点における導坑掘削面支保構造の応力及び/又は変位と、支保耐力及び/又は地山の許容変位量とを対比し、該応力及び/又は変位が該支保耐力及び/又は地山の許容変位量以下となるように導坑掘削面支保構造を設計する、導坑掘削面支保構造照査工程をさらに有することを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、切拡げ掘削面支保構造の設計に先行して設置される、導坑掘削面支保構造を設計することにより、導坑掘削面支保構造と切拡げ掘削面支保構造の双方を三次元掘削解析を実施することなく、比較的簡便に設計することができる。
【0013】
また、本発明による切拡げ掘削面の支保構造の設計方法の他の態様は、
地山の応力解放率にて地山の初期応力を補正して補正後導坑掘削面初期応力を求める、導坑掘削面初期応力補正工程をさらに有し、
前記導坑掘削面支保特性曲線作成工程では、前記補正後導坑掘削面初期応力に対応する変位を前記導坑掘削面支保特性曲線の開始点とすることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、導坑掘削面支保特性曲線の作成に際して、地山の応力解放率にて地山の初期応力を補正し、補正後導坑掘削面初期応力に対応する変位を導坑掘削面支保特性曲線の開始点とすることにより、導坑掘削に伴う応力解放と先行変位を反映した、より一層精度の高い切拡げ掘削面の支保構造の設計を実現できる。
【0015】
また、本発明による切拡げ掘削面の支保構造の設計方法の他の態様は、
前記切拡げ掘削面支保構造照査工程において、前記応力及び/又は変位が前記支保耐力及び/又は地山の許容変位量以下とならない場合であって、前記切拡げ掘削面支保構造の支保仕様の変更のみで対応可能な場合に、該支保仕様の変更を行う、切拡げ掘削面支保構造仕様変更工程をさらに有することを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、切拡げ掘削面支保構造の応力及び/又は変位が支保耐力及び/又は地山の許容変位量以下とならない場合であって、切拡げ掘削面支保構造の支保仕様の変更のみで対応可能な場合に当該支保仕様の変更を行うことにより、比較的短時間で所望耐力を備えた切拡げ掘削面支保構造に設計変更することができる。
【0017】
また、本発明による切拡げ掘削面の支保構造の設計方法の他の態様は、
前記切拡げ掘削面支保構造照査工程において、前記応力及び/又は変位が前記支保耐力及び/又は地山の許容変位量以下とならない場合であって、前記切拡げ掘削面支保構造の支保仕様の変更のみで対応不可能な場合に、前記導坑掘削面支保構造の支保仕様の変更を行う、導坑掘削面支保構造仕様変更工程をさらに有することを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、切拡げ掘削面支保構造の応力及び/又は変位が支保耐力及び/又は地山の許容変位量以下とならない場合であって、切拡げ掘削面支保構造の支保仕様の変更のみで対応不可能な場合に導坑掘削面支保構造の支保仕様の変更を行うことにより、比較的短時間で所望耐力を備えた切拡げ掘削面支保構造に設計変更することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の切拡げ掘削面の支保構造の設計方法によれば、三次元掘削解析を実施せずに比較的簡便に、さらには、いなし効果を定量的に評価しながら切拡げ掘削面の支保構造を設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】中央導坑先進工法の概要を説明する断面図である。
【
図2】実施形態に係る切拡げ掘削面の支保構造の設計方法の一例のフローチャートである。
【
図3】弾塑性理論に基づくトンネル周辺地山の応力モデル図である。
【
図4】導坑掘削面支保構造の設計に際して使用する、導坑掘削面地山特性曲線と導坑掘削面支保特性曲線を含む、地山応力-変位グラフを、導坑周辺地山の応力モデル図とともに示した図である。
【
図5】導坑周辺の地山応力と変位の状態を説明する、地山応力-変位グラフを、トンネル周辺地山の応力モデル図とともに示した図である。
【
図6】切拡げ掘削面における地山応力と変位の状態を説明する、地山応力-変位グラフである。
【
図7】切拡げ掘削面支保構造の設計に際して使用する、切拡げ掘削面地山特性曲線と切拡げ掘削面支保特性曲線を含む、地山応力-変位グラフである。
【
図8】導坑を先進させない場合の、切拡げ掘削面地山特性曲線と切拡げ掘削面支保特性曲線を含む、地山応力-変位グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施形態に係る切拡げ掘削面の支保構造の設計方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0022】
[実施形態に係る切拡げ掘削面の支保構造の設計方法]
図1乃至
図8を参照して、実施形態に係る切拡げ掘削面の支保構造の設計方法の一例について説明する。ここで、
図1は、中央導坑先進工法の概要を説明する断面図であり、
図2は、実施形態に係る切拡げ掘削面の支保構造の設計方法の一例のフローチャートであり、
図3は、弾塑性理論に基づくトンネル周辺地山の応力モデル図である。
【0023】
実施形態に係る切拡げ掘削面の支保構造の設計方法が適用されるトンネルは、
図1に示すように、地山Gにおいて、小断面の導坑10を先進させた後に正規の断面にて切拡げ掘削を行うことにより、本坑20を施工する、中央導坑先進工法にて施工が行われる山岳トンネルである。先進導坑10を施工した際の導坑掘削面12には、吹付けコンクリートや鋼製支保工等が施工される。また、先進導坑10の周囲を切拡げ掘削することにより本坑20を施工した際の切拡げ掘削面22にも、吹付けコンクリートや鋼製支保工、さらには必要に応じてロックボルト等が施工される。
【0024】
中央導坑先進工法では、導坑掘削による応力解放に伴い、地山の初期応力が減少した応力場を切拡げることから、導坑を先進させない場合に比べて切拡げ掘削時のトンネル変位や支保応力が低減される効果(所謂、いなし効果)が期待される。そこで、トンネルの弾塑性論を用いて導坑掘削後の地山応力と先行変位を定量的に求め、上記する応力と変位の状態を踏まえた、切拡げ掘削面における支保構造の設計方法とする。
【0025】
ここで、本設計方法は、以下の(1)乃至(4)の仮定に基づいている。
(1)等方等圧の初期応力状態を仮定する。
(2)地山の降伏はMohr-Coulombの降伏条件に従う。
(3)導坑および切拡げ断面は円形とする。
(4)導坑が十分な距離先進した後に切拡げ掘削を開始し、互いに切羽の影響は受けないものとする。
【0026】
図2に示すように、本設計方法では、導坑の支保構造設計(導坑支保の設計、フェーズ1)に続いて、切拡げ断面(切拡げ掘削面)の支保構造の設計(切拡げ支保の設計、フェーズ2)を有し、フェーズ1とフェーズ2の間には、導坑掘削完了時における切拡げ面位置での地山応力と変位の算定(特定)を行う(従って、大きくは3つのフェーズを有する)。
【0027】
まず、フェーズ1の導坑支保の設計では、導坑掘削面支保特性曲線の作成(導坑掘削面地山特性曲線作成工程、ステップS50)、導坑断面寸法、支保仕様の仮定(ステップS52)、導坑掘削面支保特性曲線の作成(導坑掘削面支保特性曲線作成工程、ステップS54)、応力と変位の釣合点(導坑掘削面地山特性曲線と導坑掘削面支保特性曲線の交点である第1釣合点)の特定(第1釣合点特定工程、ステップS56)を順次実行する。
【0028】
導坑の支保構造設計では、特性曲線法を適用する。また、トンネル掘削により変化する地山応力と変位は、トンネルの弾塑性論に基づき、以下の数1における式(1)乃至式(9)を用いて算出できる。尚、これらの式は、「Kastner,H(金原弘 訳):トンネルの力学,pp.37-64,1974.2」に記載されており、以降、これらの式を「理論式」という場合がある。
【0029】
【0030】
例えば、各式中のトンネル中心からの距離rに導坑半径を代入し、かつ支保内圧Piを変数として地山応力Prと変位Urを逐次求めれば、いわゆる「地山特性曲線」を描くことができる。
【0031】
また、支保工として代表的である、吹付けコンクリートと鋼製支保工を適用した際の支保工圧は、以下の数2の式(10)により算定する。
【0032】
【0033】
支保部材に生じる応力(支保内圧Pi)と変位の関係は、支保内圧Pi=K×変位等で表せ、これは支保特性曲線と称することができる。尚、ここでいう「変位」は、支保工設置後の変位のことであり、上記する変位Urとは異なるものである。
【0034】
図4は、導坑掘削面支保構造の設計に際して使用する、導坑掘削面地山特性曲線と導坑掘削面支保特性曲線を含む、地山応力-変位グラフを、導坑周辺地山の応力モデル図とともに示した図である。
【0035】
図4に示すように、導坑掘削面地山特性曲線L1と導坑掘削面支保特性曲線M1との交点T1(第1釣合点)を求めれば、この交点T1が導坑掘削完了時における導坑掘削面での地山応力(=支保内圧P
ip)及び変位U
rpとなる。
【0036】
ただし、切羽進行に伴い、切羽到達前(支保工設置前)までに地山応力は初期応力P0の一部が解放されていることを考慮し、導坑掘削面支保特性曲線の開始点U1は初期応力P0をα%解放した時点とする(地山の応力解放率にて地山の初期応力を補正して補正後導坑掘削面初期応力を求める、導坑掘削面初期応力補正工程)。
【0037】
ここで、αは一般に応力解放率(または先行変位率)と呼ばれ、40乃至60%程度とされている。
【0038】
第1釣合点T1を求めるにあたり、変位U
rpは地山に許容する変位量以下、及び/又は、支保内圧P
ipは支保耐力P
sp以下となるような、導坑半径もしくは支保部材仕様を選定し、導坑の支保構造を設計する(
図2におけるステップS58、導坑掘削面支保構造照査工程)。尚、導坑掘削面支保構造照査工程において、望ましくは、「変位Urpは地山に許容する変位量以下、及び、支保内圧P
ipは支保耐力P
sp以下」という2つの条件を充足する導坑の支保構造とする。
【0039】
図2に戻り、フェーズ1にて導坑支保の設計を行った後、フェーズ2に移行し、切拡げ掘削面の応力と変位の算出を行う(ステップS60)。
【0040】
ここでは、導坑掘削完了時の状況を対象として、導坑周辺地山の地山応力と変位、すなわち、将来的に切拡げ掘削面となる位置での地山応力と変位の算定方法について、
図5を参照して説明する。ここで、
図5は、導坑周辺の地山応力と変位の状態を説明する、地山応力-変位グラフを、トンネル周辺地山の応力モデル図とともに示した図である。
【0041】
導坑掘削面の地山応力は支保内圧P
ipと等しいことから、上記の各理論式のP
iにP
ipを代入し、rに切拡げ掘削面の半径を代入することにより、
図5における切拡げ掘削面における地山応力P
rmと変位U
rmを求める。
【0042】
切拡げ掘削面における地山応力Prmは、初期応力P0から導坑掘削に伴いPrmへ移行するため、この差分(P0-Prm)だけ導坑掘削により地山応力が解放されたこととなる。また、この応力解放に伴い、切拡げ掘削面ではUrmだけ変位していることから、これは導坑掘削に伴う先行変位として考えることができる。
【0043】
この方法により、導坑掘削後の周辺地山の地山応力と先行変位を定量的に算出することができる。
【0044】
フェーズ2の切拡げ支保の設計では、上記する切拡げ掘削面の応力と変位の算出を行った後、切拡げ掘削面地山特性曲線の作成(切拡げ掘削面地山特性曲線作成工程、ステップS62)、切拡げ支保仕様の仮定(ステップS64)、切拡げ掘削面支保特性曲線の作成(切拡げ掘削面支保特性曲線作成工程、ステップS66)、応力と変位の釣合点(切拡げ掘削面地山特性曲線と切拡げ掘削面支保特性曲線の交点である第2釣合点)の特定(第2釣合点特定工程、ステップS68)を順次実行する。
【0045】
ここで、
図6は、切拡げ掘削面における地山応力と変位の状態を説明する、地山応力-変位グラフである。また、
図7は、切拡げ掘削面支保構造の設計に際して使用する、切拡げ掘削面地山特性曲線と切拡げ掘削面支保特性曲線を含む、地山応力-変位グラフである。
【0046】
切拡げ断面の掘削を対象として、切拡げ掘削完了時における地山応力と変位を、
図6に示すように、導坑掘削面地山特性曲線L1と導坑掘削面支保特性曲線M1の交点T1(第1釣合点)により求める。尚、これは、
図4と同様である。
【0047】
この際、理論式より求めた地山応力P
rmと変位U
rmは、
図6に示す切拡げ掘削面を対象として求めた切拡げ掘削面地山特性曲線L2上に、点T2として理論上プロットすることができる。尚、別途実施した導坑掘削と切拡げ掘削を模擬した三次元掘削解析においても、導坑掘削完了時点の切拡げ掘削面位置に相当する地山要素の応力と変位が、理論解より得られる地山特性曲線上に一致することが、本発明者等により確認されている。
【0048】
切拡げ掘削面を対象とした地山特性曲線と支保特性曲線の交点を算出するにあたり、上記の考えに基づき、
図7に示すように、導坑掘削完了時における地山応力P
rm及び変位U
rmを切拡げ掘削の開始点とする(切拡げ掘削面初期応力設定工程)。
【0049】
そして、ここでも、地山応力Prmをα%解放した時点の点T3を切拡げ掘削面地山特性曲線L2上にプロットする(地山の応力解放率にて切拡げ掘削面初期応力を補正して補正後切拡げ掘削面初期応力を求める、切拡げ掘削面初期応力補正工程)。
。
【0050】
次いで、この点T3に対応する変位U2を開始点として、切拡げ掘削面支保特性曲線M2を描き、切拡げ掘削面地山特性曲線L2と切拡げ掘削面支保特性曲線M2の交点T4(第2釣合点)を求める。
【0051】
第2釣合点T4を求めるにあたり、変位U'
rmは地山に許容する変位量以下、及び/又は、支保内圧P
imは支保耐力P
sm以下となるような、切拡げ支保仕様を選定し、切拡げ掘削面の支保構造を設計する(
図2におけるステップS70、切拡げ掘削面支保構造照査工程)。尚、切拡げ掘削面支保構造照査工程において、望ましくは、「変位U'
rmは地山に許容する変位量以下、及び、支保内圧P
imは支保耐力P
sm以下」という2つの条件を充足する切拡げ掘削面の支保構造とする。
【0052】
ただし、切拡げ掘削面の支保構造があまりにも過大となる、もしくは、支保内圧P
imが支保耐力P
smを超過する場合には、
図2における、切拡げ支保仕様の変更のみで対応可能な否かを照査し(ステップS72)、対応可能と判断される場合は、切拡げ掘削面の支保仕様の変更を行う(切拡げ掘削面支保構造仕様変更工程)。
【0053】
一方、切拡げ支保仕様の変更のみで対応不可能と判断される場合は、導坑半径もしくは導坑支保構造の見直しを行い、導坑掘削完了時における切拡げ掘削面における地山応力Prmを減少させることにより、切拡げ掘削完了時の支保内圧Pimが支保耐力Psm以下となるように、一連の設計手順を繰り返す(導坑掘削面支保構造仕様変更工程)。言い換えれば、導坑自身の支保構造が成立する範囲内で、導坑半径を大きくする、もしくは、導坑支保構造を柔な仕様に変更することにより、導坑掘削に伴う初期応力の先行解放量が大きくなるよう調整する。
【0054】
図示する切拡げ掘削面の支保構造の設計方法によれば、三次元掘削解析を実施せずに比較的簡便に、さらには、いなし効果を定量的に評価しながら切拡げ掘削面の支保構造を設計することができる。
【0055】
ここで、
図7と比較するべく、導坑を先進させない場合の、切拡げ掘削面地山特性曲線と切拡げ掘削面支保特性曲線を含む、地山応力-変位グラフを
図8に示す。
【0056】
中央導坑による地山応力の先行解放の効果を考慮した
図7と比べ、
図8では上記効果を得られないことから、地山応力P
rmでなく、P
oをα%解放した時点の点T5に対応する変位U3を開始点として、切拡げ掘削面支保特性曲線M2を描き、切拡げ掘削面地山特性曲線L2と切拡げ掘削面支保特性曲線M2の交点T6(第2釣合点)を求めた結果、支保内圧P
imは支保耐力P
smを超過し得ることになる。
【0057】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0058】
10:先進導坑(導坑)
12:導坑掘削面
20:本坑
22:切拡げ掘削面
G:地山