IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TOTO株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-成形体 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159192
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20241031BHJP
   A47K 1/00 20060101ALI20241031BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241031BHJP
   A47B 96/18 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08J5/00 CER
C08J5/00 CEZ
A47K1/00 N
B32B27/00 B
A47B96/18 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075031
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】田邊 直人
(72)【発明者】
【氏名】勝山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】森井 勇次
(72)【発明者】
【氏名】瓜生 勝嗣
(72)【発明者】
【氏名】篠原 賢次
(72)【発明者】
【氏名】井上 あかね
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
4F071AA24
4F071AA31
4F071AA42
4F071AA82
4F071AA86
4F071AF30Y
4F071AF44Y
4F071AH03
4F071BC01
4F071BC03
4F071BC12
4F071BC16
4F100AK53A
4F100AT00A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100CA13A
4F100GB90
4F100HB31A
4F100JA08A
4F100JJ01A
4F100JN01A
4F100YY00A
(57)【要約】      (修正有)
【課題】使用時にその表面が高温環境に晒された場合であっても、柄部の変色を抑制することが可能であり、使用時又は使用後の柄部の外観品質を当初の柄部の外観品質と同等に維持することが可能な成形体の提供。
【解決手段】基材2を備える成形体1であって、前記基材は、その裏面側に、染料を含む柄部23を備え、前記基材の厚みL(m)と、前記基材の温度伝導率α(m/sec)と、前記柄部に変色が生じる温度T(℃)との間に、下記式(1):

で表される関係が成立する、成形体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を備える成形体であって、
前記基材は、その裏面側に、染料を含む柄部を備え、
前記基材の厚みL(m)と、前記基材の温度伝導率α(m/sec)と、前記柄部に変色が生じる温度T(℃)との間に、下記式(1):
【数1】
で表される関係が成立する、成形体。
【請求項2】
前記基材は、透明または半透明である、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
水まわり部材またはその一部を構成する素材として使用される、請求項1または2に記載の成形体。
【請求項4】
前記水まわり部材は、キッチンカウンターまたは洗面カウンターであり、前記基材の表面は、当該キッチンカウンターまたは洗面カウンターの表面として使用される、請求項3に記載の成形体。
【請求項5】
前記基材の中間点ガラス転移温度(Tmg)は、60℃以上240℃以下である、請求項4に記載の成形体。
【請求項6】
前記基材の中間点ガラス転移温度(Tmg)は、100℃以上180℃以下である、請求項5に記載の成形体。
【請求項7】
前記基材の厚みが10mmであるときの全光線透過率が90%以上である、請求項4に記載の成形体。
【請求項8】
前記基材の裏面に裏面層をさらに備える、請求項1または2に記載の成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体に関する。詳細には、裏面側に柄部を備える成形体であって、使用時にその表面が高温環境に晒された場合であっても、柄部の変色を抑制することが可能な成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、キッチンや洗面所のカウンター、浴室の浴槽などの水まわり部材として、樹脂成形体やガラス成形体が使用されている。これらの水まわり部材にデザイン性を付与するため、例えば樹脂成形体やガラス成形体の裏面側を加飾することが行われている。このような加飾の方法として、昇華転写法が知られている。
【0003】
例えば、特開2000-1096号公報(特許文献1)には、熱により昇華する加飾材料を所定パターン模様で印刷した昇華転写シートを水回り樹脂成形体の加飾対象面に当て、熱プレスにより加飾材料を昇華及び加飾対象面内部に染み込ませることにより、昇華転写シートのパターン模様を加飾対象面に転写することを特徴とする加飾方法が開示されている。
【0004】
また、特開2000-233598号公報(特許文献2)には、合成樹脂製の透明な基部の裏面側内部まで着色した着色部分を有する加飾成形体が開示され、当該着色部分は、基部の裏面に昇華性インクで印刷された転写シートを合わせ、この状態で転写加熱して昇華性染料を基部内部に浸透させることにより得られることが開示されている。
【0005】
他方、特開2006-321057(特許文献3)には、昇華性の染色剤を含有したインクを樹脂層に昇華転写し、浸透させて、柄を形成したラミネート鋼板をウレタン発泡に付して断熱パネル(冷蔵庫用ドア外装パネルなど)を作製する場合において、ウレタン発泡熱により昇華性染色剤が再昇華され、それにより引き起こされる柄の変色を、柄が形成される樹脂層のガラス転移温度をウレタン発泡熱以上にすることで防ぐことが開示されている(例えば、段落0072を参照)。また、特許文献3によれば、上記にように作製された冷蔵庫用ドア外装パネルの柄を形成する昇華性染色剤は、パネルの使用時において、生活環境範囲内での熱では再昇華しないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-1096号公報
【特許文献2】特開2000-233598号公報
【特許文献3】特開2006-321057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3によれば、冷蔵庫用ドア外装パネルの製造時において、昇華性インクにより形成された柄のウレタン発泡熱による変色、および冷蔵庫が使用される際にドア外装パネルが晒され得る熱環境下における柄の変色を防ぐことができるとされているが、冷蔵庫用ドア外装パネルがその使用時において高熱環境下に置かれることは通常あり得ないため、引用文献3においては、成形体がその使用時に高熱環境下に置かれることはそもそも考慮されていないと理解される。
一方、本発明者らは、裏面側に昇華性インクにより形成された柄部を備える成形体が高熱環境下で使用される場合を考慮し、その場合一旦形成された柄部(以下、「当初の柄部」という)が高熱による変色を起こし、柄部の意匠が経時的に損なわれるとの新規な課題を見出した。例えば、当該成形体を水まわり部材またはその一部を構成する素材として使用する場合、キッチンカウンターの上にはコンロで加熱された鍋等が置かれ、また洗面カウンターの上には高熱を発するドライヤーやコテ等が置かれ得るため、当該成形体にあっては、その使用時において、高温環境に晒され、当初の柄部が高熱による変色を起こすことがある。そして、使用時における柄部の高熱による変色を防ぐためには、成形体固有の材料特性である、物体内における熱の広がりやすさの度合いを示す温度伝導率と、成形体の厚みとが重要な要素であることを見出した。本発明は斯かる知見に基づくものである。
【0008】
したがって、本発明は、使用時にその表面が高温環境に晒された場合であっても、柄部の変色を抑制することが可能であり、使用時又は使用後の柄部の外観品質を当初の柄部の外観品質と同等に維持することが可能な成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による成形体は、
基材を備え、
前記基材は、その裏面側に、染料を含む柄部を備え、
前記基材の厚みL(m)と、前記基材の温度伝導率α(m/sec)と、前記柄部に変色が生じる温度T(℃)との間に、下記式(1):
【数1】
で表される関係が成立することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使用時にその表面が高温環境に晒された場合であっても、柄部の変色を抑制することが可能であり、使用時又は使用後の柄部の外観品質を当初の柄部の外観品質と同等に維持することが可能な成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)本発明による成形体の一例を示す断面模式図である。(b)本発明による成形体が備える基材の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
成形体
本発明による成形体について、図1を参照しつつ説明する。本発明による成形体1は、図1(a)に示すように、基材2を備える。本発明において、成形体1は、基材2からなるものであってよい。また、基材2は、単層体であってもよく、複数の層からなる積層体であってもよい。また、成形体1は、図1(a)に示すように、基材2の裏面22に裏面層3を備えていても良い。
【0013】
基材
基材2は、図1(b)に示すように、その裏面側に、染料を含む柄部23を備える。柄部23は、所望の柄を表現可能なものである。成形体1は、柄部23を備えることにより、様々な柄を表現することが可能となる。柄部23は、1種以上の染料を所定の位置に含むことにより、様々な柄を表現することが可能となる。
【0014】
本発明において、基材2の厚みをL(m)とし、基材2の温度伝導率をα(m/sec)とし、基材2が備える柄部23に変色が生じる温度をT(℃)としたとき、L、αおよびTの間に、下記式(1):
【数2】
で表される関係が成立することを特徴とする。この特徴を有することで、本発明による成形体1は、使用時にその表面が高温環境に晒された場合であっても、柄部の変色を抑制することが可能となり、使用時又は使用後の柄部の外観品質を当初の柄部の外観品質と同等に維持することが可能となる。
【0015】
本発明において、基材2は、転写紙に印刷した染料を含む昇華性インクを、基材2の裏面22に昇華転写させたとき、昇華性染料を裏面22から内部に所望の厚み24の範囲で浸透させることができるものであればよい。このような基材として、例えば、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、および昇華性インクが浸透する加工がなされたガラス成形体から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0016】
厚み
本発明において、基材2の厚みL(m)は、前記式(1)を満たすように、後述する基材2の温度伝導率α(m/sec)および柄部に変色が生じる温度T(℃)を考慮して決定される。基材2の厚みL(m)は、例えば1mm以上20mm以下であることが好ましく、5mm以上15mm以下であることがより好ましい。
基材2の厚みLは、公知の測定機器を用いて測定することができる。測定機器として、例えばノギスを用いることができる。ノギスとしては、例えば、株式会社ミツトヨ ABSデジマチックキャリパCD-AXを利用可能である。
【0017】
温度伝導率
本発明において、基材2の温度伝導率α(m/sec)は、前記式(1)を満たすように、先述した基材の厚みL(m)および後述する柄部に変色が生じる温度T(℃)を考慮して決定される。基材の温度伝導率は、基材の熱伝導率を、基材の密度および基材の比熱で除した値であり、温度拡散率、熱拡散率などとも呼ばれる。基材が単層の場合、基材の温度伝導率は、基材の熱伝導率を、基材の密度および基材の比熱で除した値とする。基材が複数(i個)の層からなる積層体の場合、基材の温度伝導率は、下記積層体の熱伝導率λを、下記積層体の密度および下記積層体の比熱で除した値とする。ここで、各層が面方向に積層されてなる積層体の場合、積層体の熱伝導率λは、λ=f×λ+f×λ+・・・f×λ(式中、fは各層の体積比率を表し、λは各層の熱伝導率を表す。)で算出することができる。一方、各層が積層方向(面方向と垂直な方向)に積層されてなる積層体の場合、積層体の熱伝導率λは、1/λ=f×1/λ+f×1/λ+・・・+f×1/λから算出することができる。積層体の比熱Cpは、Cp=Cp×f+Cp×f+・・・Cp×f(式中、Cpは各層の比熱を表す。)で算出することができる。積層体の密度dは、d=d×f+d×f+・・・d×f(式中、dは各層の密度を表す。)で算出することができる。
本発明において、基材2の温度伝導率α(m/sec)は、例えば0.7×10-7/sec以上15m/sec以下であることが好ましい。より好ましくは、1.1×10-7/sec以上6.6×10-7/sec以下である。
【0018】
<熱伝導率>
本発明において、基材の熱伝導率(W/m・K)は、ASTM D2326に基づいて、熱伝導率測定装置を用いて測定することができる。
【0019】
<密度>
本発明において、基材の密度(kg/m)は、JISZ8807:2012に基づいて、精密天秤を用いて測定することができる。
【0020】
<比熱>
本発明において、基材の比熱(J/kg・K)は、示差走査熱量計を使用し、熱流束示差走査熱量測定(入力補償DSC)試験法により求めることができる。
【0021】
柄部に変色が生じる温度
本発明において、柄部23に変色が生じる温度T(℃)は、前記式(1)を満たすように、先述した基材2の厚みL(m)および基材2の温度伝導率α(m/sec)を考慮して決定される。本発明において、柄部に変色が生じる温度は、下記「柄部が変色する温度評価試験」前後における基材の色差ΔE abが0.6を超える温度と定義する。
【0022】
<柄部が変色する温度評価試験>
試験は、以下の手順で行い、柄部が変色する温度を評価する。
(1)送風定温恒温器(ヤマト科学社)に基材の試験片を72時間、60℃、70℃、80℃、90℃、100℃の温度で保管する。
(2)分光測色計(CM-5、コニカミノルタ製、D65光源、2°視野による透過法)を用いて、(1)の条件で保管した試験片を測色する。
具体的には、試験実施前に試験片の測色値(L 、a 、b )を求める。また、試験実施後に試験片の測色値(L 、a 、b )を求める。これらの測色値から、試験前後における試験片の色差ΔEを、ΔE ab=[(L -L +(a -a )2+(b -b 1/2により求める。求めたΔE abが0.6を超える温度を、柄部に変色が生じる温度とする。
本発明において、柄部23に変色が生じる温度T(℃)は、例えば60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。
【0023】
断熱性(耐熱性)
本発明による成形体1は、既に説明したとおり、基材2が上記式(1)で表される条件を満たすことにより、使用時にその表面が高温環境に晒された場合であっても、柄部の熱による変色を良好に抑制することが可能となる。この作用効果は、基材2が良好な断熱性(耐熱性)を有することでより得やすくなる。本発明において、基材2の断熱性は、下記油鍋試験により測定される裏面到達温度を指標として表すことができる。
【0024】
<油鍋試験>
油鍋試験は、JIS K 6902:2007、8.2 B法、8.2.4 手順の記載に基づき、以下の手順で行い、形成体1の裏面到達温度を測定する。
(1)木製断熱板、(温度測定用の)熱電対、および基材の試験片(奥行120mm×横幅50mm)(柄部23を下にして)をこの順に重ねて密着させる。熱電対は、試験片と木製断熱板との間に、試験片の「奥行60mm×横幅25mm」の位置に重ねて密着させる。
(2)平底アルミニウム容器(外周直径130~160mm)に約500mLの植物油を入れ、油の温度が200℃になるように加熱機器で加熱する。
(3)試験片の上に加熱したアルミニウム容器を置き、熱電対で20分間、試験片の裏面温度を測定する。
(4)20分間における試験片の裏面温度の最大値を基材の裏面到達温度とする。
本発明において、基材2の裏面到達温度は、60℃以上108℃未満であることが好ましく、60℃以上100℃未満であることがより好ましい。
【0025】
透明性
本発明において、基材2は透明性を有するものであることが好ましい。本発明において、「透明性を有する」とは、成形体1を表面から(上から)見たときに、基材2の裏面側の柄部23の柄の色、形状、模様等が透けて見える状態またはそのような性質をいう。基材2が透明性を有することにより、可視光が基材2を透過できるため、裏面22側の柄部23の柄の色、形状、模様等が浮かび上がるように視認することが可能となる。すなわち、成形体1を表面から観察した際、表面側に透明な部分が存在し、かつ、裏面側に柄部23が存在することにより、成形体1は、柄部23の柄が浮かび上がるような意匠性を発揮することが可能となり、外観を良好に維持することができる。このような作用効果を奏する範囲内において、基材2は、半透明であってもよい。
【0026】
基材2は、透明または半透明であれば、着色されていても良い。着色された基材2を用いる場合、着色材料と、柄部23に含まれる染料との区別は光学顕微鏡などの観察により行うことが可能である。
【0027】
また、基材2の透明性は、定量的に表すこともでき、例えば全光線透過率をその指標とすることができる。例えば、基材の透明性は、基材の厚みが凡そ10mmであるときの、また基材の表面および裏面の各算術平均表面粗さRaが凡そ0.3μm以下であるときの、全光線透過率が90%以上であることが好ましい。
基材の全光線透過率は、例えば、JIS K 7375-2008に基づき測定することができる。測定装置として、例えば、ヘイズメーターを用いることができる。ヘイズメーターとしては、例えば、haze-gard i(BYK社製)を利用可能である。
【0028】
本発明において、基材2は、所定の厚みを有するシートまたは板であることが好ましい。基材2は、板であることがより好ましい。
【0029】
基材2が(メタ)アクリル樹脂を含む場合、基材2として、メタクリル酸メチル等のモノマーを重合させて作製した(メタ)アクリル樹脂や、市販の(メタ)アクリル樹脂板を使用可能である。例えば、株式会社クラレ製のパラグラス、コモグラス、クラレックス、三菱ケミカル株式会社製アクリライト(L,S,EX等)、株式会社カナセ製カナセライト、株式会社JSP製アクリエース、アクリサンデー株式会社製アクリル板などを好適に使用することができる。
【0030】
基材2が不飽和ポリエステル樹脂を含む場合、基材2として、例えば、市販の不飽和ポリエステル樹脂板や、DIC株式会社製サンドーマに代表される市販の不飽和ポリエステル樹脂前駆体を適切な硬化剤で硬化させて得られる不飽和ポリエステル樹脂板などを好適に使用することができる。
【0031】
基材2がポリエステル樹脂を含む場合、基材2として、例えば、市販のポリエステル樹脂板として、タキロンシーアイ株式会社製ぺテック、アクリサンデー株式会社製サンデーPETや、ポリカルボン酸とポリオールに代表されるポリエステル前駆体を重合させて得られるポリエステル樹脂板等を好適に使用することができる。
【0032】
基材2がポリスチレン樹脂を含む場合、基材2として、例えば、アクリサンデー株式会社製ポリスチレン板のような市販の樹脂板や、スチレンモノマー等を重合させて得られるポリスチレン樹脂板などを好適に使用することができる。
【0033】
基材2がポリカーボネート樹脂を含む場合、基材2として、例えば、市販のポリカーボネート樹脂として、出光興産株式会社製タフロン、帝人株式会社パンライトや、ビスフェノールAとホスゲンを重縮合反応させて得られるポリカーボネート樹脂板などを好適に使用することができる。
【0034】
基材2がエポキシ樹脂を含む場合、基材2として、市販のエポキシ樹脂板や、汎用のビスフェノールAジグリシジルエーテルの他、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールF等の二価フェノールとエピクロルヒドリンより得られるビスフェノール型エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、長鎖ポリオールのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリオレフィン型エポキシ樹脂などを、適切な硬化剤で硬化させて得られるエポキシ樹脂板等を好適に使用することができる。
【0035】
基材2がガラス成形体を含む場合、基材2として、ガラスに透明な樹脂をコーティングしたもの、ガラス層と樹脂層が多層にしたものを好適に使用することができる。
【0036】
本発明において、基材2の中間点ガラス転移温度(Tmg)は、60℃以上240℃以下であることが好ましい。Tmgが上記範囲内にある基材は耐熱性が高いため、成形体1の外観を良好に維持することができる。基材2のTgは、100℃以上180℃以下であることがより好ましい。基材の中間点ガラス転移温度(Tmg)は、示差走査熱量計を使用し、熱流束示差走査熱量測定(熱流束DSC)法などにより求めることができる。
【0037】
本発明において、基材の表面21の算術平均表面粗さ(Ra)は、0.2μm以下であることが好ましい。これにより、表面の傷による拡散透過による全光線透過率の低下を防ぐことができる。基材の表面21のRaは、JIS B0601-2013に記載された定義を意味し、JIS B0633-2001に基づき測定することができる。測定器として、例えば、表面粗さ計(東京精密社)を用いることができる。Raは、JIS B0633-2001に基づき、測定長さ、カットオフ波長の条件を調整し、測定することができる。
【0038】
染料
本発明において、柄部23は染料を含む。柄部23が含む染料は昇華性染料であることが好ましい。昇華性染料として、公知のものを使用することができ、例えば、昇華性分散染料が挙げられる。例えば、C.I.ディスパーズイエロー1、3、4、5、7、8、31、33、39、42、54、60、61、64、83、124;C.I.ディスパーズレッド1、4、5、7、11、12、13、15、17、31、32、33、34、35、36、52、54、55、56、58、60、72、73、76、80、84、88、91、92、93、99、111、113、135、204、205、206、207、224、225、227、239、240;C.I.ディスパーズブルー20、26、54、55、56、58、60、61、62、64、72、79、81、85、87、90、91、92、94、97、98、99、10.3、104、105、106、108、128、148、149、176、186、187、193、194、195、197、201、205、207、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227;C.1.ディスパーズブラック1、3、10、24等の分散染料を使用することができる。
【0039】
裏面層
本発明において、成形体1は、基材2以外に他の層をさらに備えていてもよい。例えば、成形体1は、図1(a)に示すように、基材2の裏面22に裏面層3をさらに備えていてもよい。すなわち、成形体1は、基材2と、基材2の裏面22に形成された裏面層3とを備えていてもよい。
【0040】
裏面層3は樹脂及び顔料を含むものであることが好ましい。樹脂及び顔料は、それぞれ公知のもの又は市販品を使用することができる。顔料としては、無機顔料、有機顔料、金属顔料および真珠光沢(パール)顔料から選択される1種以上を用いることが可能である。裏面層3に含まれる顔料は、白色顔料であることが好ましい。白色顔料は淡彩色であるため、柄部23の柄の視認性を高めることができる。すなわち、基材2の表面21から入射された可視光が、裏面層3で反射されるため、柄部23の柄の色、形状、模様等の視認性を高めることができる。また、白色顔料は隠ぺい性を発揮することができる。隠ぺい性とは、例えば成形体1をキッチンのカウンタートップ板として使用した場合において、カウンターの下地の影響を遮断することができることをいう。これにより、例えば下地の色により成形体1の柄部23の見た目が損なわれる等の不利益は生じ得ない。また、本発明においては、とりわけ、白色顔料を含む裏面層3の隠ぺい性により、基材の裏面22が透けて見えるとの現象が起こらないようにすることができる。
【0041】
成形体の用途
本発明による成形体は、水まわり部材またはその一部、好ましくは表面を構成する素材として使用されることが好ましい。本発明において、水まわり部材とは、バスルーム、トイレ空間、化粧室、洗面所、または台所などで用いられる部材を意味する。成形体は、具体的には、キッチンカウンター、洗面カウンター、浴槽、キッチンシンク、洗面ボウル、壁面材、扉やパネル面材などとして好適に使用することができる。
本発明において、水まわり部材は、キッチンカウンターまたは洗面カウンターであり、基材の表面は、当該キッチンカウンターまたは洗面カウンターの表面として使用されることがより好ましい。すなわち、本発明による成形体は、基材の表面が露出した状態で使用されることが好ましい。
【0042】
成形体の製造方法
本発明による成形体は、例えば以下の方法により製造することができる。すなわち、本発明による成形体は、
基材の裏面に、染料を含む昇華性インクが印刷された転写紙の印刷面をあわせる準備工程と、
前記転写紙を前記印刷面とは反対の面から熱プレスし、前記昇華性インクを前記基材の裏面からその内部に浸透させ(昇華転写させ)、柄部を形成する工程と
を含む方法により製造することができる。
【0043】
<準備>
・ 基材
基材を準備する。基材については、既に説明したとおりである。
・ 昇華性インク
染料を含む昇華性インクを準備する。染料については、既に説明したとおりである。昇華性インクは、染料の他、公知のインク用成分を含んでいてよい。例えば、溶媒、分散剤、界面活性剤、水などを含んでいてよい。
・ 転写紙
転写紙を準備する。転写紙として、公知の昇華転写用媒体を使用することができる。
【0044】
<転写紙への昇華性インクの印刷>
準備した昇華性インクを転写紙に印刷する。印刷方法は、インクジェット印刷方法が好ましい。
【0045】
<基材への昇華転写>
準備した基材の裏面に、染料を含む昇華性インクが印刷された転写紙の印刷面をあわせる。次に、転写紙を印刷面とは反対の面から熱プレスする。熱プレスにより、転写紙に印刷された昇華性インクが昇華転写される。すなわち、昇華性インクに含まれる染料は基材の裏面22から内部に浸透する。本発明において、熱プレスは、例えば、100~180℃の温度で、5~20分、圧力0.7MPaで行うことができる。その後、染料は基材内に定着し、柄部23が得られる。このようにして、成形体1を得ることができる。
【0046】
<裏面層の形成>
本発明において、基材2の裏面22に裏面層3を形成してもよい。裏面層3は、例えば以下のようにして形成することができる。好ましくは、基材の裏面全体を、適切な溶剤を用いて脱脂する。その後、顔料を含む樹脂組成物を基材の裏面に塗布する。樹脂組成物として、例えば公知の熱または光硬化型の樹脂成分を含む樹脂組成物を用いることができる。塗装は、公知の塗装方法、塗装装置を用いて行うことができる。塗布後、適切な温度で樹脂組成物を硬化させ、裏面層を形成することができる。
【実施例0047】
本発明を以下の例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0048】
準備
1.基材
下記3種類の基材のいずれかであって、かつその厚み(mm)を表1に記載のとおりとした計7種類の基材を準備した。
・エポキシ樹脂基材
中間点ガラス転移温度が122℃、熱伝導率が0.172W/m・K、密度が1176kg/m、比熱が1098J/(kg・K)であり、常温で無色透明の固体。その厚みが12mmのときの全光線透過率は、表面の算術平均表面粗さRaが0.022μm、裏面のRaが0.18μmのとき、91%であった。
・アクリル樹脂
中間点ガラス転移温度が118℃、熱伝導率が0.197W/m・K、密度が1185kg/m、比熱が1193J/(kg・K)であり、常温で無色透明の固体。その厚みが11mmのときの全光線透過率は、表面の算術平均表面粗さRaが0.0059μm、裏面のRaが0.0041μmのとき、93%であった。
・塩ビ樹脂
中間点ガラス転移温度が68℃、熱伝導率が0.181W/m・K、密度が1386kg/m、比熱が948J/(kg・K)であり、常温で無色透明の固体。その厚みが10mmのときの全光線透過率は、表面の算術平均表面粗さRaが0.0071μm、裏面のRaが0.0073μmのとき、80%であった。
【0049】
<厚みの測定>
各基材の厚みは、ノギス(株式会社ミツトヨ ABSデジマチックキャリパCD-AX)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0050】
<中間点ガラス転移温度の測定>
各基材の中間点ガラス転移温度(Tmg)は、示差走査熱量計(Rigaku社)を使用し、熱流束示差走査熱量測定(熱流束DSC)試験法により求めた。中間点ガラス転移温度の測定試料として、約10mgの各基材をアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(毎分40ml)気流中、加温速度:毎分10℃で220℃まで加熱したものを用いた。
【0051】
<熱伝導率>
各基材の熱伝導率(W/m・K)は、ASTM D2326に基づいて、熱伝導率測定装置(京都電子工業社)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0052】
<密度>
各基材の密度(kg/m)は、JISZ8807:2012に基づいて、精密天秤(ザルトリウス社)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0053】
<比熱>
各基材の比熱(J/kg・K)は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社)を使用し、熱流束示差走査熱量測定(入力補償DSC)試験法により求めた。比熱の測定試料として、約5~15mgの各基材をアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(毎分20ml)気流中、加温速度:毎分10℃で20℃から100℃まで加熱したものを用いた。基材の比熱は25℃の値を用いた。結果を表1に示す。
【0054】
<全光線透過率の測定>
各基材の全光線透過率は、JIS K 7375-2008に基づき、ヘイズメーター(ヘイズガードi、BYK製、D65光源)を用いて測定した。
【0055】
<算術平均表面粗さ(Ra)の測定>
各基材の表面、裏面の算術平均表面粗さ(Ra)は、JIS B0601-2013、JIS B0633-2001に基づき、表面粗さ計(東京精密社)を用いて測定した。測定条件として、JIS B0633-2001に基づき、測定長さ:4mm、測定速度:0.3mm、カットオフ波長:0.8mmを用いた。
【0056】
2.昇華性インク
シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4種類の昇華性インクを準備した。
【0057】
成形体の試験片の作製
<転写紙への昇華性インクの印刷>
インクジェット用昇華転写紙に、インクジェットプリンタで、6色の昇華性インク(シアンインク、ライトシアンインク、マゼンタインク、ライトマゼンタインク、イエローインク、ブラックインク)を印刷し、柄を得た。各インクの転写紙1mあたりの印刷量は、ライトシアンインク0.05cc、シアンインク0.30cc、ライトマゼンダインク0.27cc、マゼンダインク0.12cc、イエローインク0.05cc、ブラックインク0.01ccとした。換言すると、各インクの印刷量の割合は、ライトシアンインク6%、シアンインク38%、ライトマゼンダインク33%、マゼンダインク15%、イエローインク6%、ブラックインク2%とした。
【0058】
<基材への昇華転写>
各基材の裏面に、転写紙の柄を印刷した面をあわせ、転写紙を、その背面(柄を印刷した面とは反対の面)から熱プレスした。熱プレスは、温度:100~180℃で、時間:5~20分、圧力:0.7MPaで行った。このようにして、柄を昇華転写した実施例1~5、比較例1~2の成形体を作製した。
【0059】
評価
各成形体について、下記特性を評価した。
【0060】
<温度伝導率>
各成形体(すなわち、各基材)の温度伝導率は、上記した基材の熱伝導率を、基材の密度および基材の比熱で除して算出した。結果を表1に示す。
【0061】
<裏面到達温度>
各成形体(すなわち、各基材)の裏面到達温度を、下記油鍋試験を行って測定した。
油鍋試験は、JIS K 6902:2007、8.2 B法、8.2.4 手順の記載に基づき、以下の手順で行った。
油鍋試験
(1)木製断熱板、(温度測定用の)熱電対、および各基材の試験片(奥行120mm×横幅50mm、厚みは表1に記載のとおり)(柄部23を下にして)をこの順に重ねて密着させた。熱電対は、試験片と木製断熱板との間に、試験片の「奥行60mm×横幅25mm」の位置に重ねて密着させた。
(2)平底アルミニウム容器(外周直径130~160mm)に約500mLの植物油を入れ、油の温度が200℃になるように加熱機器で加熱した。
(3)試験片の上に加熱したアルミニウム容器を置き、熱電対で20分間、試験片の裏面温度を測定した。
(4)20分間における試験片の裏面温度の最大値を基材の裏面到達温度とした。
結果を表1に示す。
【0062】
<柄部に変色が生じる温度>
各成形体(すなわち、各基材)の柄に変色が生じる温度を、下記柄部が変色する温度評価試験を行って決定した。
柄部が変色する温度評価試験
(1)送風定温恒温器(ヤマト科学社)に各基材の試験片(50~100mm角、厚みは表1に記載のとおり)を72時間、60℃、70℃、80℃、90℃、100℃の温度で保管した。
(2)分光測色計(CM-5、コニカミノルタ製、D65光源、2°視野による透過法)を用いて、(1)の条件で保管した試験片を測色した。
具体的には、試験実施前に試験片の測色値(L 、a 、b )を求めた。また、試験実施後に試験片の測色値(L 、a 、b )を求めた。これらの測色値から、試験前後における試験片の色差ΔEを、ΔE ab=[(L -L +(a -a )2+(b -b 1/2により求めた。求めたΔE abが0.6を超える温度を、柄部に変色が生じる温度と決定した。
結果を表1に示す。
【0063】
<総合評価>
各成形体において、上述した基材の厚みLと、基材の温度伝導率αと、柄部に変色が生じる温度Tとの間に、下記式(1):
【数3】
で表される関係が成立したとき、合格(○)と判定し、成立しなかったとき、不合格(×)と判定した。判定結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【符号の説明】
【0065】
1:成形体
2:基材
21:基材の表面
22:基材の裏面
23:柄部
24:柄部の厚み
25:柄部の上面
L:基材の厚み
3:裏面層

図1