(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159197
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】コークス炉のタール洗浄装置、タール洗浄装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10B 43/08 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
C10B43/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075037
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】502369746
【氏名又は名称】住友重機械プロセス機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】二井 大祐
(72)【発明者】
【氏名】浅野 紘大
(72)【発明者】
【氏名】▲曹▼ 昊映
(57)【要約】
【課題】ノズルユニットのノズルがロータから抜けにくいタール洗浄装置を提供することを目的としている。
【解決手段】タール洗浄装置100は、コークス炉に付着するタールを洗浄する洗浄装置であって、回転しながら高圧水を噴射するロータ2を有するノズルユニット1を備える。ロータ2は、筒状のロータ本体部3と、当該ロータ本体部3に設けられた収容部32に収容されるノズル4と、を有する。ノズル4の外周面43に、下流側が上流側よりも小形になる外周段差44が設けられ、収容部32に、外周段差44と係合する係合部322が形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉に付着するタールを洗浄する洗浄装置であって、回転しながら高圧水を噴射するロータを有するノズルユニットを備え、
前記ロータは、筒状のロータ本体部と、当該ロータ本体部に設けられた収容部に収容されるノズルと、を有し、
前記ノズルの外周面に、下流側が上流側よりも小形になる外周段差が設けられ、
前記収容部に、前記外周段差と係合する係合部が形成されているタール洗浄装置。
【請求項2】
前記ノズルの外周面には、前記外周段差の下流側に外周小径部が設けられ、前記外周段差の上流側に前記外周小径部よりも大径の外周大径部が設けられる、請求項1に記載のタール洗浄装置。
【請求項3】
前記収容部は、前記外周小径部を環囲する内周面を有し、
前記係合部は、前記内周面を内側に張り出すように塑性変形させた部分を含む、請求項2に記載のタール洗浄装置。
【請求項4】
前記収容部は、隙間を介して前記外周小径部を環囲する内周面を有し、
前記係合部は、前記隙間に張り出すように前記内周面を塑性変形させた部分を含む、請求項2に記載のタール洗浄装置。
【請求項5】
前記係合部は、前記収容部の内周面に形成された内周段差であり、
前記内周面には、前記内周段差の下流側に内周小径部が設けられ、前記内周段差の上流側に前記内周小径部よりも大径の内周大径部が設けられる、請求項2に記載のタール洗浄装置。
【請求項6】
前記ロータ本体部は、前記収容部の上流側に連続して前記内周大径部よりも大径の筒状部を有し、
前記筒状部には、前記筒状部に嵌合し、前記ノズルの上流側への移動を制限する制限部材が設けられる、請求項5に記載のタール洗浄装置。
【請求項7】
前記ロータ本体部はステンレス鋼で形成され、前記ノズルは前記ロータ本体部よりも高硬度材料で形成される、請求項1に記載のタール洗浄装置。
【請求項8】
筒状のロータ本体部と、外周面に下流側が上流側よりも小形になる外周段差を形成されており、当該ロータ本体部に設けられた収容部に収容されるノズルとを有し、高圧水を噴射するノズルユニットを備えるタール洗浄装置の製造方法であって、
前記収容部に前記ノズルを収容するステップと、
前記収容部を塑性変形させて前記外周段差と係合する係合部を形成するステップと、
を含むタール洗浄装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉のタール洗浄装置およびタール洗浄装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉の炉蓋等を洗浄する技術が知られている。本出願人は、特許文献1において、高圧水を噴射するノズルユニットを備えた炉蓋洗浄装置を開示している。この装置は、ケーシングと、ノズルリテーナと、ロータとを有するノズルユニットを備えている。ロータは、筒状のロータ本体部とロータ本体部の下流端を縮径する管状ノズルとを備えている。ノズルユニットは、ケーシングに注入された高圧水を、ロータおよびノズルリテーナの中空部を通じて吐出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の炉蓋洗浄装置では、ノズルユニットのノズルは、ロータ本体部の下流側からロータ本体部内に挿入されている。その上で、ノズルは、圧入、接着等によってロータ本体部に固定されている。この構造では、ロータの高速回転によって、ノズルがロータ本体部から抜けてしまうおそれがある。ノズルが抜けると、ロータが正常に回転せずノズルユニットの機能が損なわれる。
【0005】
これらから、特許文献1に記載の炉蓋洗浄装置には、ノズルユニットのノズルがロータ本体部から抜けにくくするという観点から改善の余地がある。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、ノズルユニットのノズルがロータから抜けにくいコークス炉のタール洗浄装置を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のタール洗浄装置は、コークス炉に付着するタールを洗浄する洗浄装置であって、回転しながら高圧水を噴射するロータを有するノズルユニットを備える。ロータは、筒状のロータ本体部と、当該ロータ本体部に設けられた収容部に収容されるノズルと、を有する。ノズルの外周面に、下流側が上流側よりも小形になる外周段差が設けられ、収容部に、外周段差と係合する係合部が形成されている。
【0008】
本発明の別の態様は、タール洗浄装置の製造方法である。この方法は、筒状のロータ本体部と、外周面に下流側が上流側よりも小形になる外周段差を形成されており、当該ロータ本体部に設けられた収容部に収容されるノズルとを有し、高圧水を噴射するノズルユニットを備えるタール洗浄装置の製造方法であって、収容部にノズルを収容するステップと、収容部を塑性変形させて外周段差と係合する係合部を形成するステップと、を含む。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ノズルユニットのノズルがロータから抜けにくいタール洗浄装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るタール洗浄装置の一例を概略的に示す図である。
【
図2】実施形態に係るタール洗浄装置を示す側断面図である。
【
図3】
図2のタール洗浄装置のロータの第1の例を示す側断面図である。
【
図4】
図3のロータの製造プロセスの一例を示すフローチャートである。
【0012】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0014】
[実施形態]
以下、
図1~
図5を参照して、本発明の実施形態に係るタール洗浄装置100の構成を説明する。タール洗浄装置100は、コークス炉及びその付帯設備に付着するタール、コークス、カーボン、石炭等を洗浄する装置である。
図1は、タール洗浄装置100を炉蓋洗浄装置90に適用した一例を概略的に示す図である。
図2は、タール洗浄装置100のノズルユニット1を示す側断面図である。
【0015】
説明の便宜上、図示のように、水平なある方向をX軸方向と、X軸に直交する水平な方向をY軸方向と、両者に直交する鉛直方向をZ軸方向とするXYZ直交座表系を定める。X軸方向を左右方向と、Y軸方向を前後方向と、Z軸方向を上下方向ということがある。このような方向の表記はタール洗浄装置100の姿勢を制限するものではなく、タール洗浄装置100は、任意の姿勢で使用されうる。また、「小径」、「大径」とは、複数の周面の直径の相対的な大小関係を意味する。
【0016】
炉蓋洗浄装置90は、図示しないコークス炉の炭化室の開口を開閉する炉蓋80に付着した粉塵やタールなどの付着物を除去するための洗浄装置である。粉塵やタールなどが堆積すると、炉蓋80を閉じた際の、気密性が低下して、外部へのガス漏れや外気の流入などを生じるおそれがある。したがって、炉蓋80は適時に洗浄されることが望ましい。
【0017】
図1に示すように、炉蓋80は、煉瓦などで形成される断熱部82と、炉開口の周囲を覆う蓋本体84と、蓋本体84に接触し、炉開口の外周をシールするナイフエッジ86とを有する。蓋本体84は、左右及び上下に延在する壁状の部分である。断熱部82は、蓋本体84の左右中央領域から前後方向に突出する。付着物は、主に、蓋本体84、ナイフエッジ86および断熱部82に堆積する。
【0018】
タール洗浄装置100は、ノズルユニット1として炉蓋洗浄装置90に設けられ、炉蓋80の被洗浄領域に高圧水を噴射するノズルユニットとして機能する。なお、ノズルユニット1は、高圧水噴射回転ガンと称されることがある。各部材において、高圧水の流れの上流側を「上流」、「上流側」といい、下流側を「下流」、「下流側」という。ノズルユニット1には、高圧水配管66を通じて、高圧水ポンプ(不図示)によって水タンク(不図示)内の水を加圧した高圧水が供給される。
【0019】
炉蓋洗浄装置90は、断熱部82の両側面に沿って上下に移動する高圧水噴射部を有するノズルユニット1と、ノズルユニット1を支持する支持機構70と、含む側面クリーナを有する。支持機構70は、左右一対のノズルユニット1を支持する。ノズルユニット1は、支持機構70によって、断熱部82の側面に沿って上下に移動する。ノズルユニット1は、移動しながら、その移動範囲の付着物を除去する。炉蓋洗浄装置90は、側面クリーナに加えて、断熱部82の上下面それぞれに沿って左右に移動する高圧水噴射部を有するノズルユニット1を含む上面クリーナおよび/または下面クリーナを含んでもよい。
【0020】
図2に示すように、ノズルユニット1は、ロータ2と、ケーシング12と、配管連結部16と、ノズルリテーナ14とを有する。
【0021】
ケーシング12は、筒状のチャンバ11を囲む中空筒状の部材であり、中心軸線Laに沿って延びる。ケーシング12は、チャンバ11にロータ2を収容する。ロータ2は、ケーシング12内に回転自在に収容される中空パイプ状の部材である。配管連結部16は、ケーシング12の上流側に連設され、高圧水配管66が連結される部分である。ノズルリテーナ14は、チャンバ11の下流側に設けられる環状部材である。ノズルリテーナ14は、上流側から下流側に貫通する中心孔141と、上流側に設けられる凹部142とを有する。凹部142は、ロータ2の下流側を収容するすり鉢形状を有する。
【0022】
ノズルユニット1は、高圧水が配管連結部16からチャンバ11に注入される。ロータ2は、チャンバ11内で回転しながら高圧水を噴射する。ロータ2から噴射された高圧水はノズルリテーナ14の中心孔を通って外部に放出される。ロータ2が回転することによって、噴射される高圧水も着水点が回転する。
【0023】
配管連結部16は、上流側に単一の流入部161と下流側に2つの流出部162とを有し、全体として略円筒状の部材である。2つの流出部162は、流出部162からチャンバ11内に流入した高圧水が回転して渦を形成するように構成されている。具体的には、2つの流出部162は、中心軸線から径方向にオフセットした位置であって、互いに周方向に180°離れた位置に配置される。2つの流出部162は、径方向外向きから周方向にやや傾いた方向に高圧水を噴出する。この結果、チャンバ11内に流入した高圧水は回転する。
【0024】
ロータ2は、ロータ2の回転軸Lbが傾いた状態でケーシング12の内壁に回転可能に支持されている。ケーシング12の中心軸線Laに対する回転軸Lbの傾斜角θは約10°~20°(例えば、15°)である。また、ロータ2の下流端は、ノズルリテーナ14の凹部142に回転自在に支持される。このため、ロータ2は、高圧水の回転に連れて回転軸が傾いて自転する歳差運動をする。この結果、ロータ2から噴出された高速水は、着水点が円を描くように回転する。
【0025】
(第1の例)
図3を参照してロータ2の第1の例を説明する。
図3はロータ2の第1の例を示す側断面図である。以下、ロータ2の回転軸Lbに平行な方向を軸方向といい、回転軸Lbに直交する方向を径方向という。第1の例では、ロータ2は、ロータ本体部3、ノズル4、入口部材27、及び外被部28を有する。
【0026】
ノズル4は、軸方向に延びる中心孔45を有する略円筒状の通路部材である。ノズル4は、中心孔45の上流端から流入した高圧水を下流端から噴射するノズルである。ノズル4は、ロータ本体部3に設けられた収容部32に収容される。ノズル4の外周面43に、下流側が上流側よりも小形になる外周段差44が設けられる。特に、外周段差44の下流側に外周小径部41が設けられ、外周段差44の上流側に外周小径部41よりも大径の外周大径部42が設けられる。
【0027】
ロータ本体部3およびノズル4は、様々な金属材料で形成できる。実施形態では、ロータ本体部3は、アルミニウムよりも電食の影響が小さいステンレス鋼(例えば、JIS名SUS304)で形成され、且つ、ノズル4はロータ本体部3よりも高硬度材料で形成される。ノズル4は、ロックウェル硬さ(HRC)40以上の材料であると好ましい。ノズル4は、例えば、タングステン、焼入れされたSUS400系などの材料で形成される。この材料の組合せにより、ロータ2の耐腐食性を向上しつつ、耐摩耗性を確保しロータ2の長寿命化を図れる。
【0028】
ロータ本体部3は、上流側から下流側へ延びる中空部を有する中空筒状の部材である。実施形態のロータ本体部3は、下流側に設けられた収容部32と、収容部32の上流側に連続する筒状部33とを有する。筒状部33の上流側の内周面334に雌ねじ部が設けられる。筒状部33は、円筒状の内周面331と、円筒状の外周面332を有する略円筒形状を有する。
【0029】
収容部32は、ノズル4を収容するための円筒空間を囲む部分である。収容部32と筒状部33の境界に内側段差34が設けられる。内側段差34よりも上流側の筒状部33の内径は、内側段差34よりも下流側の収容部32の内径よりも小さい。内側段差34には、ノズル4の上流側端が当接し、内側段差34は、ノズル4の上流側への移動を制限する位置決め部として機能する。
【0030】
収容部32には、ノズル4の外周段差44と係合する係合部322が形成されている。収容部32は、ノズル4の外周小径部41を、隙間を介して環囲する内周面321を有する。係合部322は、外周段差44と係合することでノズル4の下流側への移動を制限する抜け止め部として機能する。実施例の係合部322は、隙間に張り出すように内周面321を塑性変形させた部分を含む。例えば、係合部322は、収容部32の外周面324に径方向内向きの荷重を加えて塑性変形させる加工(例えば、カシメ加工)により形成できる。塑性変形させる加工前において、収容部32のノズル4の間の隙間は、0.1mm~1.5mmであってもよい。
【0031】
入口部材27は、上流型に複数(例えば、5つ)の入口孔271を有し、下流側に出口孔272を有する通路部材である。一例として、入口部材27は、ロータ本体部3と同様にステンレス鋼で形成される。入口部材27の外周面274は、筒状部33の内周面334に固定される。例えば、外周面274には、固定のための雄ねじ部が設けられ、筒状部33の内周面334には、雌ねじ部が設けられ、外周面274の雄ねじ部が筒状部33の内周面334の雌ねじ部にねじ込まれることにより、ロータ本体部3に固定されてもよい。入口部材27は、複数の入口孔271で受け入れた高速水を、出口孔272を通じて筒状部33に供給する。雄ねじ部および雌ねじ部は細目ねじであってもよいし、並目ねじであってもよい。入口部材27の外周面は、筒状部33の内周面334に径方向内向きの荷重を加えて塑性変形させる加工(例えば、カシメ加工)、接着剤またはそれらを併用することにより、筒状部33の内周面334に固定されてもよい。
【0032】
外被部28は、ロータ本体部3の外周面を覆う中空円筒状の部材である。外被部28は、ロータ2が回転するときに相手部材との摩擦を小さくするとともに、摩擦による磨耗を低減する部材である。一例として、外被部28は、自己潤滑性を有するポリアミド樹脂などで形成される。実施形態の外被部28は、ロータ本体部3の軸方向中央付近から上流側端までを覆う。
【0033】
図3、
図4を参照して、ロータ2の製造方法を説明する。
図4は、ロータ2の製造プロセスS110の一例を示すフローチャートである。
(1)ノズル4の外周面43に外周段差44を形成する(ステップS111)。このステップでは、切削加工により、外周面43の外周段差44の下流側に外周小径部41を形成し、外周面43の外周段差44の上流側に外周小径部41よりも大径の外周大径部42を形成する。
【0034】
(2)切削加工により、ロータ本体部3を形成する(ステップS112)。この段階では、ロータ本体部3の収容部32の係合部322は形成されていない。
【0035】
(3)ロータ本体部3の収容部32にノズル4を収容する(ステップS113)。このステップでは、下流側からノズル4を収容部32に挿入する。この段階では、ノズル4の外周小径部41と内周面321との間に隙間が存在する。
【0036】
(4)収容部32を塑性変形させて外周段差44と係合する係合部322を形成する(ステップS114)。このステップにおいて、収容部32の外周面324に径方向内向きの荷重を加えて内周面321を内向きに塑性変形させて係合部322を形成する。つまり、係合部322は、外周小径部41と内周面321の間の隙間に張り出すように形成される。
【0037】
(5)ロータ本体部3に外被部28を被せる(ステップS115)。このステップでは、外被部28を上流側からロータ本体部3に被せる。
【0038】
(6)ロータ本体部3に入口部材27を装着する(ステップS116)。このステップでは、筒状部33の内周面334に入口部材27の外周面274を固定する。この結果、入口部材27の外周張出部276が外被部28の上流側端に接触し、外被部28の上流側への移動を制限する。筒状部33の内周面334と入口部材27の外周面274とは、カシメ加工によって固定されてもよい。
【0039】
製造プロセスS110の各ステップは一例であって各種の変形が可能である。製造プロセスS110で製造されたロータ2を用いてノズルユニット1が製造され。また、製造されたノズルユニット1を用いてタール洗浄装置100が製造される。
【0040】
(第2の例)
図5を参照してロータ2の第2の例を説明する。
図5はロータ2の第2の例を示す側断面図である。第2の例では、ロータ2は、ロータ本体部3、ノズル4、制限部材5、入口部材27、及び外被部28を有する。第2の例は、ロータ本体部3の形状が異なり、制限部材5を有する点で第1の例と相違する。第2の例の説明では、第1の例と重複する説明を適宜省略し、第1の例と相違する構成について重点的に説明する。
【0041】
ロータ本体部3の係合部322は、第1の例では、ノズル4の収容後に塑性変形で形成されるが、第2の例では、ロータ本体部3が切削加工により形成される際に形成される内周段差327を係合部322として用いる。収容部32の内周面321には、内周段差327(係合部322)の下流側に内周小径部325が形成され、内周段差327(係合部322)の上流側に内周小径部325よりも大径の内周大径部326が形成されている。
【0042】
また、第1の例では、ロータ本体部3の筒状部33の内周面331は、収容部32の内周面321よりも小径であるが、第2の例では、筒状部33の内周面331は、内周大径部326よりも大径である。
【0043】
このため、第2の例では、ノズル4は、ロータ本体部3の上流側から収容部32に挿入される。また、ノズル4の上流側への移動を規制するために、筒状部33の内周面331に嵌合する制限部材5が設けられている。
【0044】
制限部材5は、内周面51と外周面52を有する中空円筒状の部材である。一例として、制限部材5は、ロータ本体部3と同様にステンレス鋼で形成される。内周面51の下流端に、径方向内側に張り出す内側張出部54が設けられる。内側張出部54の内径は、ノズル4の上流端の外径(外周大径部42の外径)よりも小さい。外周面52は、内周面331に径方向に接し、制限部材5の下流端55は、ノズル4に軸方向に接し、制限部材5の上流端57は、入口部材27に軸方向に接する。この構成により、制限部材5は、ノズル4の上流側への移動を規制し、入口部材27は、制限部材5の上流側への移動を規制する。
【0045】
第2の例のロータ2は、ロータ本体部3に、ノズル4、制限部材5、及び外被部28をこの順で、上流方向から挿入した後、内周面334の雌ねじ部に入口部材27の外周面274の雄ねじ部をねじ込むことによって製造される。この結果、入口部材27が、制限部材5及び外被部28の上流側への移動を制限し、制限部材5が、ノズル4の上流側への移動を制限する。また、ロータ本体部3の内周段差327(係合部322)が、ノズル4の外周段差44に係合することによって、ノズル4の下流側への移動を制限する。このように製造された第2の例のロータ2は、ノズルユニット1に組み込まれ、当該ノズルユニット1を用いてタール洗浄装置100が製造される。
【0046】
実施形態のタール洗浄装置100の特徴を説明する。実施形態のタール洗浄装置100は、コークス炉に付着するタールを洗浄する洗浄装置であって、回転しながら高圧水を噴射するロータ2を有するノズルユニット1を備える。ロータ2は、筒状のロータ本体部3と、当該ロータ本体部3に設けられた収容部32に収容されるノズル4と、を有する。ノズル4の外周面43に、下流側が上流側よりも小形になる外周段差44が設けられ、収容部32に、外周段差44と係合する係合部322が形成されている。
【0047】
この構成によれば、係合部322が外周段差44と係合するので、ロータ2が回転しても、ノズルユニット1のノズル4がロータ本体部3から抜けにくくなる。このため、ノズル4が抜けてノズルユニット1の機能が損なわれる可能性を低減できる。
【0048】
一例として、ノズル4の外周面43には、外周段差44の下流側に外周小径部41が設けられ、外周段差44の上流側に外周小径部41よりも大径の外周大径部42が設けられる。この場合、外周段差44が周方向に広い範囲に形成されるので、係合部322と外周段差44との係合量が大きくなり、ノズル4がロータ本体部3から一層抜けにくくなる。
【0049】
一例として、収容部32は、外周小径部41を環囲する内周面321を有し、係合部322は、内周面321を内側に張り出すように塑性変形させた部分を含む。この場合、カシメなどの塑性加工により係合部322を形成できるので、ロータ2の組立性が向上する。
【0050】
一例として、収容部32は、隙間を介して外周小径部41を環囲する内周面321を有し、係合部322は、隙間に張り出すように内周面321を塑性変形させた部分を含む。この場合、係合部322が隙間に突出するため、塑性変形量が大きくなり、係合部322と外周段差44との係合量が大きくなり、ノズル4がさらに抜けにくくなる。
【0051】
一例として、係合部322は、収容部32の内周面321に形成された内周段差327であり、内周面321には、内周段差327の下流側に内周小径部325が設けられ、内周段差327の上流側に内周小径部325よりも大径の内周大径部326が設けられる。この場合、係合部322が周方向に広い範囲に形成されるので、係合部322と外周段差44との係合量が大きくなり、ノズル4がさらに抜けにくくなる。また、塑性変形を用いないので、塑性加工によるノズル4の影響を殆ど受けない。
【0052】
一例として、ロータ本体部3は、収容部32の上流側に連続して内周大径部326よりも大径の筒状部33を有し、筒状部33には、筒状部33に嵌合し、ノズル4の上流側への移動を制限する制限部材5が設けられる。この場合、簡易な構成でノズル4の上流側への抜けを抑制できる。
【0053】
一例として、ロータ本体部3はステンレス鋼で形成され、ノズル4はロータ本体部3よりも高硬度材料で形成される。この場合、ロータ本体部3の電食を低減しつつ、ノズル4の耐摩耗性を向上できる。
【0054】
以上、本発明のいくつかの実施形態の例について詳細に説明した。前述した各実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。各実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の各実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0055】
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0056】
(変形例)
上述の説明では、第1の例において、塑性変形による係合部322によってノズル4が固定される例を示したが、これに限定されない。例えば、塑性変形による係合部322の近傍に接着材が塗布されてもよい。
【0057】
上述の説明では、外被部28がポリアミド樹脂で形成される例を示したが、これに限定されない。外被部は、ポリアセタール樹脂、ポリブチレン樹脂、ポリイミド樹脂等の公知の多様な樹脂により形成できる。
【0058】
上述の説明では、タール洗浄装置100が炉蓋を洗浄する装置である例を示したが、タール洗浄装置は、これに限定されない。タール洗浄装置は、コークス炉の付帯設備であるタールパンクリーナや小蓋に付着するタール等の洗浄にも適用することができる。
【0059】
上述の各変形例は実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0060】
上述した実施形態の構成要素と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0061】
100 タール洗浄装置、 1 ノズルユニット、 2 ロータ、 3 ロータ本体部、 4 ノズル、 5 制限部材、 12 ケーシング、 27 入口部材、 28 外被部、 32 収容部、 33 筒状部、 34 内側段差、 41 外周小径部、 42 外周大径部、 43 外周面、 44 外周段差、 322 係合部、 327 内周段差。