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特開2024-159228悪臭成分に変化することを抑制する方法および悪臭成分変化抑制用エアゾール剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159228
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】悪臭成分に変化することを抑制する方法および悪臭成分変化抑制用エアゾール剤
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20241031BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20241031BHJP
   C09K 3/30 20060101ALI20241031BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20241031BHJP
   C11D 17/04 20060101ALI20241031BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61L9/01 H
C11B9/00 C
C09K3/30 S
C11D7/26
C11D17/04
A61L9/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075079
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 篤志
【テーマコード(参考)】
4C180
4H003
4H059
【Fターム(参考)】
4C180AA05
4C180BB08
4C180BB13
4C180CB01
4C180EA30X
4C180EA40X
4C180EB02X
4C180EB04X
4C180EB05X
4C180EB06X
4C180EB07Y
4C180EB08X
4C180EB08Y
4C180EB12X
4C180EB14X
4C180EB15X
4C180EB17X
4C180EC01
4C180EC02
4C180GG07
4C180LL06
4H003BA20
4H003BA21
4H003EB04
4H003FA27
4H059BA12
4H059BB02
4H059DA09
4H059DA28
4H059EA25
4H059EA40
(57)【要約】
【課題】本発明は、加熱調理後に増大するニオイに対する消臭方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、一価の低級アルコールを含有するエアゾール剤を用いて、加熱調理で発生した成分が悪臭成分に変化することを抑制する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一価の低級アルコールを含有するエアゾール剤を用いて、加熱調理で発生した成分が悪臭成分に変化することを抑制する方法。
【請求項2】
前記エアゾール剤に含まれる原液の密度が20℃において0.78~0.99g/mlである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エアゾール剤の噴口からの距離30cmにおける噴霧粒子の体積積算分布での50%平均粒子径が5~120μmである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
一価の低級アルコールを含有するエアゾール剤であって、
前記エアゾール剤に含まれる原液の密度が20℃において0.78~0.99g/mlであり、
仰角45°に噴射した場合の前記エアゾール剤の噴射距離が100cm未満である、
加熱調理で発生した成分が悪臭成分に変化することを抑制するための、悪臭成分変化抑制用エアゾール剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪臭成分に変化することを抑制する方法および悪臭成分変化抑制用エアゾール剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者のニオイに対する感覚が鋭敏になっており、室内に漂うニオイの消臭に対する消費者の要望は高まってきている。かかるニオイの消臭方法としては、感覚的方法、化学的方法、生物的方法、物理的方法などが挙げられ、感覚的消臭としては、悪臭より強い香りで悪臭を覆い隠すマスキング作用を利用する方法が知られている。例えば、特許文献1には、香料を含む芳香剤組成物を室内空間で使用し、香りを拡散させることで、室内の消臭を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-006637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、マスキング作用を利用する方法では、悪臭を効果的に消臭することが困難な場合がある。例えば、焼肉等の加熱調理を行った後に発生する加熱調理臭に対しては、マスキング作用を利用する消臭方法により一時的にニオイを感じにくくさせることは出来るものの、翌日になると、前日よりもニオイが増大することがある。このようにマスキング作用を利用する方法では、加熱調理臭に対して十分な消臭効果を得ることができなかった。
また、これまで、加熱調理後に増大するニオイに対する消臭方法について有効な手段は見出されてはいない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を鑑み、鋭意検討した結果、加熱調理後に時間が経過することでニオイが増大するのは、加熱調理で発生した成分が悪臭成分に変化することが原因であることを知見した。そして、本発明者は、一価の低級アルコールを含有するエアゾール剤を用いることによって、加熱調理で発生した成分が悪臭成分に変化することを抑制でき、ひいては加熱調理後に増大するニオイの発生が抑えられ、消臭効果が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の(1)~(4)を特徴とする。
(1)一価の低級アルコールを含有するエアゾール剤を用いて、加熱調理で発生した成分が悪臭成分に変化することを抑制する方法。
(2)前記エアゾール剤に含まれる原液の密度が20℃において0.78~0.99g/mlである、上記(1)に記載の方法。
(3)前記エアゾール剤の噴口からの距離30cmにおける噴霧粒子の体積積算分布での50%平均粒子径が5~120μmである、上記(1)または(2)に記載の方法。
(4)一価の低級アルコールを含有するエアゾール剤であって、
前記エアゾール剤に含まれる原液の密度が20℃において0.78~0.99g/mlであり、
仰角45°に噴射した場合の前記エアゾール剤の噴射距離が100cm未満である、
加熱調理で発生した成分が悪臭成分に変化することを抑制するための、悪臭成分変化抑制用エアゾール剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、加熱調理で発生した成分が悪臭成分に変化することを抑制でき、ひいては加熱調理後に増大するニオイの発生が抑えられ、消臭効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、試験例1において、加熱調理で発生した成分のGC/MS分析結果を示す図である。図1(a)は加熱調理で発生した成分をガーゼに吸着後すぐに成分分析した場合の分析結果であり、図1(b)は加熱調理で発生した成分をガーゼに吸着後、24時間経過後に成分分析をした場合の分析結果である。
図2図2は、試験例2において、測定用サンプル中のオレイン酸の定量を行った結果を示すグラフである。
図3図3は、試験例4-1における噴射試験の方法を示す概略図である。図3(a)は噴射粒子の拡散場所を示す模式図であり、図3(b)は、エアゾール剤の噴射位置および噴射方向を示す模式図である。
図4図4は、試験例4-4における噴射試験の方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。
【0010】
本発明の一実施形態は、一価の低級アルコールを含有するエアゾール剤を用いて、加熱調理で発生した成分が悪臭成分に変化することを抑制する方法(以下、本方法ともいう)に関する。
本発明は、加熱調理後に時間が経過することでニオイが増大するのは、加熱調理で発生した成分が悪臭成分に変化することが原因であることを知見し、さらに、一価の低級アルコールを含有するエアゾール剤を用いることで、上記変化を抑制でき、ひいては、加熱調理後に増大するニオイの発生が抑えられ、消臭効果が得られることを見出したことに基づくものである。上記のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推測される。
加熱調理後に時間が経過することでニオイが増大するのは、加熱調理によって食材等から発生する脂肪酸等の成分が、時間が経過するにつれて、悪臭成分であるアルデヒド類に変化することが原因の一つであると考えられる。そして、一価の低級アルコールは、分子量が小さく単純な構造であるため、脂肪酸等の成分と素早く反応してエステル化することにより、上記成分がアルデヒド類に変化することを抑制する。そのため、加熱調理後に発生した成分に対して一価の低級アルコールを含有するエアゾール剤を適用することで、アルデヒド類に起因するニオイの発生を抑制でき、消臭効果が得られるものと考えられる。なお、本発明は、上記メカニズムに限定して解釈されるものではない。
【0011】
以下、本方法に用いるエアゾール剤について詳細に説明する。
【0012】
[エアゾール剤]
(一価の低級アルコール)
本方法に用いるエアゾール剤(以下、本エアゾール剤ともいう)は、一価の低級アルコールを含有する。本エアゾール剤は、通常、原液と噴射剤とを含むエアゾール組成物が耐圧容器に充填されてなり、一価の低級アルコールは、上記原液中に含まれる。
一価の低級アルコールは上述のとおり、加熱調理で発生する成分が悪臭成分に変化することを抑制する性質を有する。
本発明において一価の低級アルコールとは、炭素数が1~5である一価のアルコールであって、一価の低級アルコールの炭素数は、2~4が好ましく、2~3がより好ましい。一価の低級アルコールとしては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、イソプロパノール等が挙げられ、なかでも、本発明における消臭効果がより強く得られることから、エタノールが好ましい。
【0013】
原液中の一価の低級アルコールの含有量は、10質量%以上であることが好ましい。原液中の一価の低級アルコールの含有量が10質量%以上であることで、本発明における消臭効果がより強く得られる。また、原液中の一価の低級アルコールの含有量の上限は特に限定されないが、99質量%以下であることが好ましい。99質量%以下であることで、香料成分や消臭成分をさらに配合することができ、本発明における消臭効果が強く得られる。原液中の一価の低級アルコールの含有量は、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましく、40質量%以上が特に好ましく、50質量%以上が最も好ましく、また、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましく、85質量%以下が特に好ましい。
【0014】
(原液)
本エアゾール剤に含まれる原液の密度は、20℃において0.78~0.99g/mlであるのが好ましい。原液の密度が上記範囲であることで、本発明における消臭効果がより強く得られる。本エアゾール剤に含まれる原液の密度は、20℃において0.79g/ml以上がより好ましく、また、0.98g/ml以下がより好ましく、0.95g/ml以下がさらに好ましい。
【0015】
本エアゾール剤に含まれる原液は、香料成分または消臭成分を含んでいてもよい。原液が香料成分または消臭成分を含むことで、本発明における消臭効果がより強く得られる。
【0016】
香料成分は、香気を発する成分である。香料成分としては、例えば、ハッカ、ユーカリ、レモン、バーベナ、シトロネラ、カヤプテ、サルビア、タイム、クローブ、ローズマリー、ヒソップ、ジャスミン、カモミール、ネロリ、ヨモギ、ペリーラ、マジョラム、ローレル、ジュニパーベリー、ナツメグ、ジンジャー、オニオン、ガーリック、ラベンダー、ベルガモット、クラリーセージ、ペパーミント、バジル、ローズ、プチグレン、シナモン、メース、シトラール、シトロネラール、ボルネオール、リナロール、ゲラニオール、ヘキシルシンナミックアルデヒド、ネロール、ロジノール、オレンジ、アルテミシア、カンフル、メントール、シネオール、オイゲノール、ヒドロキシシトロネラール、サンダルウッド、コスタス、ラブダナム、アンバー、ムスク、α-ピネン、リモネン、サリチル酸メチル、ソウジュツ、ビャクジュツ、カノコソウ、ケイガイ、コウボク、センキュウ、トウヒ、トウキ、ショウキョク、シャクヤク、オウバク、オウゴン、サンシン、ケイヒ、ニンジン、ブクリョウ、ドクカツ、ショウブ、ガイヨウ、マツブサ、ビャクシ、ジュウヤク、ウイキョウ、チンピ、カミツレ、グレープフルーツ等の天然香料または合成香料や、亜硝酸アミル、トリメチルシクロヘキサノール、アリルサルファイド、ノニルアルコール、デシルアルコール、フェニルエチルアルコール、炭酸メチル、炭酸エチル、フェニル酢酸エステル、グアイアコール、インドール、クレゾール、チオフェノール、p-ジクロロベンゼン、p-メチルキノリン、イソキノリン、ピリジン、アブシンス油酢酸、酢酸リナリル、酢酸エステル等の「Perfume and Flavor Materials of Natural Origin」,Steffen Arctander,Allured Pub.Co.(1960)、「香りの百科」,日本香料協会編,朝倉書店(1989)、「Flower oils and Floral Compounds In Perfumery」,Danute Pajaujis Anonis,Allured Pub.Co.(1993)、「Perfume and Flavor Chemicals(aroma chemicals)」,Vols.I and II,Steffen Arctander,Allured Pub.Co.(1994)、「香料と調香の基礎知識」,中島基貴編著,産業図書(1995)、「合成香料 化学と商品知識」,印藤元一著,化学工業日報社(1996)、「香りの百科事典」,谷田貝光克編,丸善(2005)に記載の天然香料、合成香料が挙げられる。上記香料成分は1種又は2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0017】
消臭成分は、臭気を消すことができる成分である。消臭成分としては、例えば、緑茶エキス、柿タンニン、ラウリル酸メタクリレート、安息香酸メチル、フェニル酢酸メチル、ゲラニルクロトレート、ミリスチン酸アセトフェノン、酢酸ベンジル、プロピオン酸ベンジル、銀、亜鉛化合物、竹抽出エキスなどの植物抽出エキス、メチル化サイクロデキストリン等の成分が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
本エアゾール剤に含まれる原液は、原液の粘度を調整したり、生産適性を向上したりする等の目的で溶剤を含有してもよい。溶剤としては、例えば、グリコールエーテル類や、炭化水素系溶剤、芳香族系溶剤、エステル系溶剤等が挙げられ、これに限らず、エアゾール剤の溶剤として従来公知のものを適宜使用できる。また、水や界面活性剤を使用してもよい。
【0019】
原液には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含有させることができる。その他の成分としては、例えば、防腐剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、溶解助剤等が挙げられる。
【0020】
エアゾール組成物中の原液の含有量は、噴射剤との組み合わせ等に応じて適宜変更可能であり、特に限定されない。例えば、エアゾール組成物中の原液の含有量を1~80容量%にできる。エアゾール組成物中の原液の含有量が1容量%以上であると、本発明における消臭効果を十分に得ることができる。また、原液の含有量が80容量%以下であると、原液を噴霧粒子として噴射しやすくなり、例えば室内で使用した場合に、原液による家具、床、壁等の汚染を少なくできる。また、エアゾール組成物中の原液の含有量は、3容量%以上がより好ましく、10容量%以上がさらに好ましく、また、60容量%以下がより好ましく、55容量%以下がさらに好ましい。
【0021】
(噴射剤)
エアゾール組成物に含まれる噴射剤は、上記原液を噴射するための媒体であり、原液とともに耐圧容器に加圧充填される。
噴射剤としては、例えば、プロパン、プロピレン、n-ブタン、イソブタン等の液化石油ガス(LPG)やジメチルエーテル(DME)等の液化ガス、炭酸ガス、窒素ガス、圧縮空気等の圧縮ガス、HFC-152a、HFC-134a、HFO-1234yf、HFO-1234ze等のハロゲン化炭素ガス等の1種又は2種以上を用いることができる。使用する噴射剤は、原液との相溶性やエアゾールバルブ等の容器部材に合わせて適宜選択すればよい。
【0022】
エアゾール組成物中の噴射剤の含有量は、原液との組み合わせ等に応じて適宜変更可能であり、特に限定されないが、例えば、エアゾール組成物中の噴射剤の含有量を20~99容量%にできる。エアゾール組成物中の噴射剤の含有量が20容量%以上であると、原液を噴霧粒子として噴射することができるため、内容物がより拡散しやすくなり、本発明における消臭効果を十分に得ることができる。また、噴射剤の含有量が99容量%以下であると、本発明における消臭効果を十分に得ることができる。エアゾール組成物中の噴射剤の含有量は、40容量%以上がより好ましく、45容量%以上がさらに好ましく、また、97容量%以下がより好ましく、90容量%以下がさらに好ましい。
【0023】
エアゾール組成物中に含まれる原液と噴射剤の容量比は、原液:噴射剤で1:99~80:20であることが好ましく、3:97~60:40がより好ましく、10:90~55:45がさらに好ましい。このような容量比とすることで、本発明における消臭効果を十分に得ることができる。
【0024】
(剤型)
本エアゾール剤の一態様は、上記した原液と噴射剤とを含むエアゾール組成物が耐圧容器に充填され、かかる耐圧容器がエアゾールバルブによりその開口を閉止されることにより構成される。本エアゾール剤の一態様は、エアゾールバルブに取り付けられた噴射部材が使用者に操作されることにより、耐圧容器内のエアゾール組成物がエアゾールバルブを通って耐圧容器の外へ押し出され、その際にエアゾール組成物は粒子状とされて噴射される。
【0025】
本エアゾール剤の剤型は特に制限されず、例えば、一般的なエアゾール剤、全量噴射型エアゾール剤、定量噴射型エアゾール剤等が挙げられる。ここで、一般的なエアゾール剤とは、噴射ボタンが押し下げ操作されている間だけ内容物が噴射され、噴射ボタンの操作を解除すると内容物の噴射が停止する構成のものをいう。また、全量噴射型エアゾール剤とは、噴射ボタンを押し下げ操作すると、吐出管が押し下げられた状態で固定される結果、吐出管の下端部が開かれた状態で保持されるので、内容物の全量が噴射ノズルから噴射される構成のものをいう。また、定量噴射型エアゾール剤とは、噴射ボタンを押し下げ操作すると、一回に一定量の内容物が噴射される構成のものをいう。
【0026】
(耐圧容器)
耐圧容器は、0.60MPaの内圧に耐え得る耐圧容器が好ましく、その材質は、例えば、アルミニウムやブリキ等の金属、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂、耐圧ガラス等が挙げられる。また、耐圧容器は、材質が合成樹脂である場合、半透明や透明であってもよい。
【0027】
(エアゾールバルブ)
エアゾールバルブは、噴射部材が使用者に操作されることにより耐圧容器内と外部との連通および遮断を切り替えるための開閉部材と、開閉部材が取り付けられるハウジングと、ハウジングを耐圧容器の所定の位置に保持するためのマウント部材を備える。また、開閉部材は、噴射部材と連動して上下に摺動するステムを含む。ステムの摺動によりエアゾール組成物の連通(噴射状態)および遮断(非噴射状態)が切り替えられる。ハウジングには、耐圧容器からエアゾール組成物を取り込むためのハウジング孔が形成されている。ステムには、ハウジング内に取り込まれたエアゾール組成物を噴射部材に送るためのステム孔が形成されている。ハウジング孔からステム孔までの経路は、エアゾール組成物が通過する内部通路を構成する。
【0028】
ステムのステム孔の形状は、円形であってもよいし、多角形でもよい。ステム孔が円形である場合、ステム孔の大きさ(ステム径)は、直径0.1~4.5mmであることが好ましく、直径0.2~4.2mmがより好ましく、直径0.4~4.0mmがさらに好ましい。ステム孔の形状が多角形である場合、ステム孔の大きさは円形の場合と同等となる大きさであればよい。
ステムのアンダータップは、円形である場合、その大きさが直径0.1~3mmであることが好ましく、直径0.2~2.5mmがより好ましく、直径0.3~2.2mmがさらに好ましい。アンダータップの形状は円形でも多角形であってもよく、多角形の場合は、アンダータップの大きさは円形の場合と同等となる大きさであればよい。
ステムにはベーパータップがあっても無くてもよいが、ベーパータップを有する場合は、その大きさは、円形である場合、直径0.1~3mmであることが好ましく、直径0.2~2.5mmがより好ましく、直径0.3~2.2mmがさらに好ましい。ベーパータップの形状は円形でも多角形であってもよく、多角形の場合は、ベーパータップの大きさは円形の場合と同等となる大きさであればよい。
なお、ステム孔及びベーパータップは1個有していてもよいし、複数個有していてもよい。ステム孔及びベーパータップの大きさは、それらが複数ある場合は、少なくとも1個が前記大きさであることが好ましい。
【0029】
(噴射部材)
噴射部材(噴射ボタン)は、エアゾールバルブを介して耐圧容器に取り付けられる部材である。噴射ボタンには、エアゾールバルブのステム孔を介して耐圧容器から取り込まれるエアゾール組成物が通過する操作部内通路とエアゾール組成物が噴射される噴口が形成されている。
本エアゾール剤の一態様に用いられる噴射部材は、噴射ボタンに対する押圧が行われると、噴射ボタンがエアゾールバルブのステムを押し下げた状態で固定され、エアゾール組成物が、押し下げられたステム内を通って噴射ボタンの噴口から連続的に噴出する。
【0030】
噴射ボタンの噴口の形状は、円形であってもよいし、多角形であってもよい。噴口が円形である場合、その内径(噴口孔径)は、噴射量や噴射時間の設計に応じて適宜調整すればよいが、例えば、直径0.1~2mmであることが好ましく、直径0.3~1.5mmがより好ましく、直径0.6~1.2mmがさらに好ましい。噴口の形状が多角形である場合、噴口の大きさは円形の場合と同等となる大きさであればよい。また、これらと等しい面積を有する複数の噴口を有していても問題ない。
【0031】
(エアゾール内圧)
本エアゾール剤の25℃における内圧は、0.2~0.8MPaであることが好ましい。内圧が0.2MPa以上であると、使用空間中へのエアゾール組成物の拡散性を担保しつつ噴射できる。また内圧が0.8MPa以下であると、噴射時にエアゾール組成物が勢いよく出すぎて、天井や天井付近の壁等に付着してしまうのを防ぐことができ、室内に滞留する加熱調理後に発生した成分にエアゾール組成物を十分作用させることができる。本エアゾール剤の内圧は、0.25~0.6MPaであることがより好ましく、0.3~0.5MPaがさらに好ましい。
【0032】
(噴射圧)
本エアゾール剤の噴射圧は、噴口から5cm離れた位置における測定で、2~20gfであることが好ましく、5~15gfがより好ましい。噴射圧が上記範囲であることで、一般的な建屋内の空間で使用した際に天井付近までエアゾール組成物を飛散させることができる。
なお、上記噴射圧は、本エアゾール剤の噴口から水平方向に5cmの距離を置いたところにデジタルフォースゲージ(例えば、株式会社イマダ製、型番:DST-2N)に装着した直径60mmの円状の平板を設置し、25℃の室温条件下で、前記平板の中心に向かってエアゾール組成物を噴射した際の最大値を噴射荷重とし、平均を算出することにより測定できる。
【0033】
(噴射量)
本エアゾール剤は、エアゾール組成物の噴射量を0.01~30g/秒の範囲となるようにするのが好ましい。エアゾール組成物の噴射量が0.01g/秒以上であると、噴射の勢いが得られるので使用空間の全体にエアゾール組成物を飛散させることができ、30g/秒以下であると、エアゾール剤としての安全性を担保することができる。噴射量は、0.015~25g/秒がより好ましく、0.02~20g/秒がさらに好ましい。また、本エアゾール剤は、エアゾール組成物の1m当たりの噴射量を0.001~10g/秒の範囲となるようにするのが好ましい。エアゾール組成物の1m当たりの噴射量が0.001g/秒以上であると、噴射の勢いが得られるので使用空間の全体にエアゾール組成物を飛散させることができ、10g/秒以下であると、エアゾール剤としての安全性を担保することができる。噴射量は、0.005~9.5g/秒がより好ましく、0.01~9.0g/秒がさらに好ましい。
【0034】
本エアゾール剤は、一価の低級アルコールの噴射量を0.01~20g/秒の範囲となるようにするのが好ましい。一価の低級アルコールの噴射量が0.01g/秒以上であると、使用空間の全体に一価の低級アルコールを飛散させることができ、5g/秒以下であると、エアゾール剤としての安全性を担保できる。一価の低級アルコールの噴射量は、0.03~15g/秒がより好ましく、0.05~10g/秒がさらに好ましい。
【0035】
また、本エアゾール剤は、1m当たりの一価の低級アルコールの噴射量を0.0001~10g/秒の範囲となるようにするのが好ましい。一価の低級アルコールの1m当たりの噴射量が0.0001g/秒以上であると、使用空間の全体に低級アルコールを飛散させることができ、10g/秒以下であると、エアゾール剤としての安全性を担保することができる。一価の低級アルコールの噴射量は、0.0005~7g/秒がより好ましく、0.001~5g/秒がさらに好ましい。
【0036】
(噴射距離)
本エアゾール剤は、仰角45°に噴射した場合の噴射距離が100cm未満であることが好ましい。仰角とは、床面に対して水平から起き上がっている角度を意味する。加熱調理で発生した成分は、その後上昇し、室内の上方に滞留しうる。もっとも、室内の上方に滞留する上記成分に向かって本エアゾール剤を噴射する場合、噴射距離が大きすぎると、噴射されたエアゾール組成物が天井や天井付近の壁等に付着してしまう。一方、仰角45°に噴射した場合の噴射距離が100cm未満であることで、噴射されたエアゾール組成物を室内上方に滞留する上記成分に十分作用させることができる。上記仰角45°に噴射した場合の噴射距離は90cm以下であることがより好ましく、80cm以下であることがさらに好ましく、70cm以下であることが特に好ましく、また、例えば、30cm以上であり、50cm以上が好ましい。
ここで、仰角45°に噴射した場合の噴射距離とは以下の方法で測定される距離を意味する。
図4に示すように、壁に直径70mmのろ紙を張り、その中央に5mm四方の感水紙を張り付ける。感水紙から下方45°の位置に、噴口が感水紙と直線状に並ぶように本エアゾール剤を設置し、感水紙に向かって2秒間噴射する。100cmを最大として10cmごとに距離を変えて行い、感水紙全体が変色することが認められた距離を測定する。なお、測定は25℃条件下で行う。
【0037】
噴射量、噴射距離を調整する方法としては、例えば、噴射ボタンの噴口の大きさを調整する方法、エアゾール剤の噴射圧を調整する方法、エアゾールバルブのステム孔径を調整する方法、噴射剤の圧力を調整する方法、エアゾールの原液と噴射剤の容量比を調整する方法及びこれらの組み合せ等が挙げられる。
【0038】
(50%平均粒子径)
本エアゾール剤において、エアゾール剤の噴口からの距離30cmにおける噴霧粒子の体積積算分布での50%平均粒子径は、5~120μmが好ましい。上記50%平均粒子径が上記範囲であることで、噴霧された粒子は、空間に滞留できるほど小さくありながらも、気流で拡散しない程度に大きい、加熱調理臭の消臭に適したサイズとなる。
エアゾール剤の噴口からの距離30cmにおける噴霧粒子の体積積算分布での50%平均粒子径は7μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましく、15μm以上が特に好ましく、また、110μm以下がより好ましく、80μm以下がさらに好ましく、70μm以下が特に好ましい。
【0039】
上記50%平均粒子径は、25℃でエアゾール剤の噴口から水平方向に30cm離れた距離で測定した噴霧粒子の体積積算分布での50%平均粒子径(D50)であり、公知の粒度分布測定装置及び自動演算処理装置を用いて測定できる。具体的には、粒度分布測定装置としてレーザー回析式粒度測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製「LDSA-1400A」)を用い、レーザー光発光部より受光部に照射されるレーザービームと、エアゾール剤の噴口との距離が30cmとなるように、かつ、噴霧粒子がレーザービームを垂直に通過するようにエアゾール剤の位置を調整する。25℃で噴射中に測定を行い、噴霧粒子の粒度分布を自動演算処理装置により解析し、噴霧粒子の体積積算分布での50%平均粒子径(D50)を求めることができる。
【0040】
以上、本方法におけるエアゾール剤について説明したが、本発明の一態様は以下のエアゾール剤を提供するものである。すなわち、一価の低級アルコールを含有するエアゾール剤であって、前記エアゾール剤に含まれる原液の密度が20℃において0.78~0.99g/mlであり、仰角45°に噴射した場合のエアゾール剤の噴射距離が100cm未満である、加熱調理で発生した成分が悪臭成分に変化することを抑制するための、悪臭成分変化抑制用エアゾール剤を提供するものである。
【0041】
(使用方法)
本方法の一態様は、本エアゾール剤を室内の所望の空間に噴射することで、加熱調理で発生した成分が悪臭成分に変化することを抑制する方法である。
加熱調理で発生した成分は、発生後に上昇し、室内の上方に滞留しうる。そのため、本エアゾール剤は室内の上方に向けて噴射するのが好ましい。一方、室内上方に滞留する上記成分に十分作用させるべく、噴射されたエアゾール組成物が天井や天井付近の壁等に付着しないように噴射するのが好ましい。
【0042】
より具体的には、本エアゾール剤の噴射方向は、仰角30°~60°が好ましく、仰角35°~55°がより好ましく、仰角40°~50°がさらに好ましい。
また、本方法において、室内の天井から本エアゾール剤の噴口までの距離が40cm以上100cm未満となるようにした状態で、エアゾール組成物を噴射するのが好ましい。これにより、室内上方に滞留する上記成分にエアゾール組成物を十分作用させることができる。上記距離は90cm以下がより好ましく、80cm以下がさらに好ましく、70cm以下が特に好ましい。また、噴射されたエアゾール組成物が天井や天井付近の壁等に付着しないよう、50cm以上とするのが好ましい。
特に、室内の天井から本エアゾール剤の噴口までの距離が50~70cmとなるようにした状態で、仰角40~50°でエアゾール組成物を噴射するのが好ましい。
【0043】
本方法を適用する室内の容積としては、例えば12~165mであり、好ましくは15~140mであり、さらに好ましくは20~100mである。室内の容積が上記範囲であることで、本発明における消臭効果がより強く得られる。
また、本方法を適用する室内の面積としては、例えば6~55mであり、好ましくは7~50mであり、さらに好ましくは10~35mである。
【0044】
本方法は、加熱調理を行った後、2時間以内に行うことが好ましく、1時間以内に行うのがより好ましい。これにより、本発明における消臭効果がより強く得られる。より好ましくは30分以内であり、さらに好ましくは10分以内である。
【0045】
本方法において、加熱調理で発生した成分としては、例えば、牛肉、豚肉、鶏肉等の食肉、魚類等の食材を、焼く、揚げる、煮る等の加熱料理により発生する成分や、食用油を加熱して発生する成分が挙げられ、なかでも、200℃以上の鉄板で食肉を焼くことで発生した成分が挙げられる。具体的には、脂肪酸が挙げられ、なかでも、高級飽和脂肪酸、高級不飽脂肪酸、遊離不飽和脂肪酸等が挙げられ、さらに、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸等が挙げられる。
【0046】
本方法において、悪臭成分とは、加熱調理で発生した上記成分が時間の経過に伴い変化したものであって、ヒトが知覚できる臭気のうち不快な成分を意味する。例えば、上記脂肪酸が変化したアルデヒド類があげられる。アルデヒド類としては、例えば、ヘプタナール、オクタナール及びノナナール等の直鎖飽和アルデヒド、trans-2-ノネナール、trans-2-ウンデセナール、及びtrans,trans-2,4-デカジエナール等の直鎖不飽和アルデヒド等が挙げられる。
【0047】
本方法においては、一価の低級アルコールによって、加熱調理で発生した成分をエステル化することで、当該成分が悪臭成分に変化することを抑制するものであってよい。特に、加熱調理で発生した脂肪酸をエステル化することで、当該脂肪酸がアルデヒド類に変化することを抑制するものであってよい。
すなわち、本発明の一態様としては、一価の低級アルコールを含有するエアゾール剤を用いて、加熱調理で発生した脂肪酸がアルデヒド類に変化することを抑制する方法であってもよく、さらには、それにより加熱調理後に増大するニオイの発生を抑制する方法であってもよい。また、本発明の一態様としては、一価の低級アルコールを含有するエアゾール剤を用いて、加熱調理で発生した脂肪酸をエステル化することで、前記脂肪酸がアルデヒド類に変化することを抑制する方法であってもよく、さらには、それにより加熱調理後に増大するニオイの発生を抑制する方法であってもよい。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0049】
<試験例1.加熱調理後に生じるニオイの成分の分析>
本試験例では、加熱調理後に時間が経過することで増大するニオイの原因を確認した。
(サンプル調製)
市販の牛肉、玉ねぎ、キャベツをホットプレートで200℃、60分加熱調理し、ホットプレートから上方30cmの位置に配置した2枚のガーゼ(いずれも23.5cm×30cm)に、加熱調理で発生した成分を吸着させることで、2つのサンプルを調製した。
(成分分析)
上記で調製した2つのサンプルを回収し、一枚のガーゼはすぐにガスクロマトグラフィーによる成分分析を行い、他のもう一枚のガーゼは25℃で24時間経過後に成分分析を行った。
具体的には、ガーゼを容量20mLのバイアルに入れ、60℃で30分間加温した後に、SPMEファイバー(ファイバー部の素材:PDMS/DVB,Supelco社製)にて香気を捕集し、測定用サンプルとした。
(測定方法)
GC/MS(GC:7890B、MS:5977B、Agilent Technologies社製)により、測定用サンプル中の成分分析を行った。結果を図1に示す。
【0050】
加熱調理で発生した成分をガーゼに吸着後すぐに成分分析した場合(図1(a))と、24時間経過後に成分分析をした場合(図1(b))とを比較すると、24時間経過後に分析した場合は、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、trans-2-ノネナール、trans-2-ウンデセナールなどのアルデヒド類が、増加していることがわかった。これらアルデヒドは脂っぽさに寄与するニオイであり、24時間経過後の加熱調理臭の悪臭源であると考えられた。
【0051】
<試験例2.アルデヒド類に変化する成分の分析>
本試験例では、加熱調理で発生した成分の中で悪臭成分へと変化する成分を確認すべく、加熱調理後に減少する成分を分析した。試験例1におけるアルデヒド類(不飽和アルデヒド)の元となる成分は遊離不飽和脂肪酸であると考え、遊離不飽和脂肪酸の量を分析した。
(サンプル調製)
市販の牛肉、玉ねぎ、キャベツをホットプレートで200℃、60分加熱調理し、ホットプレートから上方30cmの位置に配置した3枚のガーゼ(いずれも23.5cm×30cm)に、加熱調理で発生した成分を吸着させることで、3つのサンプルを調製した。
(成分分析)
上記で調製した3つのサンプルを回収し、一枚のガーゼはすぐにガスクロマトグラフィー(GC/FID)による成分分析を行い、他の一枚のガーゼは25℃で24時間経過後に成分分析を行い、他の一枚のガーゼは25℃で8日間経過後に成分分析を行った。なお、Blankとしては、加熱調理で発生した成分を吸着させていないガーゼ(23.5cm×30cm)を用いた。
具体的には、まず、各サンプルにジエチルエーテル50mLを加え十分に振り混ぜた後に上清を回収した。この操作を3回繰り返し行い、サンプルから遊離脂肪酸を抽出した。回収した抽出液を減圧濃縮したのち、濃縮物を少量のアセトンにて定容し、これを10倍希釈したものを測定用サンプルとした。
(測定方法)
GC/FID(製品名GC-2010、島津製作所製)を用い、標準品を用いた絶対検量線法により、測定用サンプル中の遊離不飽和脂肪酸の定量を行った。結果を表1および図2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1および図2に示す結果から、オレイン酸が経時的に減少することが確認された。このことから、加熱調理後に発生した成分であるオレイン酸が、時間の経過によりアルデヒド類に変化したことが考えられた。なお、オレイン酸は、食肉、魚、食用油など多くの食品に含まれている成分である。
【0054】
<試験例3.脂肪酸のアルデヒド類への変化を抑制する方法の検証>
本試験例では、アルコールを用いて高級脂肪酸をエステル化することで、脂肪酸のアルデヒド類への変化を抑制できるかについて検証した。
(試験方法)
高級脂肪酸であるオレイン酸、リノール酸と、以下のアルコールまたはイソパラフィンを混合した。
<アルコール>
・エタノール
・1-オクタノール
・プロピレングリコール
・ジプロピレングリコール
・ヘキシレングリコール
<イソパラフィン>
・2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン
【0055】
各高級脂肪酸10mmolと、上記の各アルコールまたはイソパラフィン10mmolを秤量し、アセトンで10mlにメスアップした。転倒混和にて混合した後に、50℃で24時間静置した。反応液をアセトンで10倍希釈し、GC-MSにて分析した。
【0056】
分析結果を下記表2に示す。表2中、脂肪酸エステルが検出されたものを〇(グリコール類は、モノエステル、ジエステルのいずれかが検出されたものを〇)、検出されなかったものを×とした。
【0057】
【表2】
【0058】
表2の結果から、一価の低級アルコールであるエタノールを用いることで、オレイン酸およびリノール酸のエステル化が確認された。脂肪酸とアルコールの反応は、それぞれの分子量や分子構造などに影響されるため、分子量が小さく単純な構造である一価の低級アルコールのエタノールで素早く反応が起こったと考えられる。また、イソパラフィンである、分子中にヒドロキシ基を持たない2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタンでもエステル化は確認できず、このことからも、脂肪酸のエステル化は、エタノール等の一価の低級アルコールで起こるものだと考えられる。
【0059】
<試験例4.噴射試験>
(試験例4-1:噴射箇所の検証)
本試験例では、加熱調理臭の消臭において、室内のどの箇所にエアゾール剤を噴射すると消臭効果が高いかを検証した。
【0060】
(試験検体)
試験検体としては、以下の表3に示す試験検体1、2のエアゾール剤を使用した。
なお、表3中の合成香料はシトラス系香調の合成香料を、LPGは25℃での飽和蒸気圧が0.49MPaの液化石油ガスを用いた。
【0061】
【表3】
【0062】
(試験方法)
6畳空間(寸法:横幅382cm、奥行き286cm、高さ240cm、容積:26.2m)において、部屋の中央で牛カルビ肉200gを250℃の鉄板で焼き、10分後に、室内に各試験検体のエアゾール剤を噴射した。このとき、下記(1)~(3)のいずれかの方法で、3秒間噴射した。
(1)天井から60cm以内の空間全体に粒子が拡散するように噴射した(図3(a))。具体的には、部屋の中央で、噴口を、天井から60cmの高さで仰角45°を向くように試験検体を構え、その場で一周するようにして噴射した(図3(b))。
(2)天井から60cm~100cmの空間全体に粒子が拡散するように噴射した(図3(a))。具体的には、部屋の中央で、噴口を、天井から80cmの高さで水平となるように試験検体を構え、その場で一周するようにして噴射した(図3(b))。
(3)天井から100cmより下方の空間全体に粒子が拡散するように噴射した(図3(a))。具体的には、部屋の中央で、噴口を、天井から100cmの高さで俯角45°を向くように試験検体を構え、その場で一周するようにして噴射した(図3(b))。
部屋内の温度を25℃、換気回数を0.5回/hとした状態で一晩(12時間)静置したのちに、空間の焼肉のニオイについて、以下に記載の0~5の6段階で評価し、10人の平均値にて消臭効果を判断した(n=10)。なお、無処理も同時に用意し、悪臭強度が3.1であることを確認した。
【0063】
<悪臭強度の評価基準>
5:強烈なニオイ
4:強いニオイ
3:楽に感知できるニオイ
2:何のニオイかわかる弱いニオイ
1:やっと感知できるニオイ
0:無臭
【0064】
結果を下記表4に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
表4の結果から、全ての処理方法において、無処理と比較して、悪臭強度の低下がみられた。その中でも、エアゾール剤を噴射する位置が上部になればなるほど、高い消臭効果を得ることができた。調理時に発生する熱によって、脂肪酸が上昇し滞留するため、室内の高い場所にエアゾール剤を処理することが加熱調理臭の消臭には特に効果的であるといえる。また、原液中にエタノールのみを配合する試験検体1だけでも十分な消臭効果が得られたが、香料を配合するとさらに消臭効果が高くなることも分かった。
【0067】
(試験例4-2:原液密度の検証)
本試験例では、加熱調理臭の消臭において、エアゾール剤に含まれる原液の密度と消臭効果との関係について検証した。
【0068】
(試験検体)
試験検体としては、以下の表5に示す試験検体3~8を使用した。
なお、表5中の合成香料はシトラス系香調の合成香料を、LPGは25℃での飽和蒸気圧が0.49MPaの液化石油ガスを用いた。
【0069】
【表5】
【0070】
(密度の測定)
原液を20℃とし、100mLをメスシリンダーに入れ、浮きばかり式の密度計(相互理化学製作所社製)を静かに挿入した。密度計が静止したのを確認し、メモリから密度を読み取った。
【0071】
(試験方法)
6畳空間(寸法:横幅382cm、奥行き286cm、高さ240cm、容積:26.2m)において、部屋の中央で牛カルビ肉200gを250℃の鉄板で焼いた。10分後、部屋の中央で、噴口を、天井から60cmの高さで仰角45°を向くように各試験検体のエアゾール剤を構え、その場で一周するように、エタノール噴射量が約1gとなるよう試験検体ごとに噴射時間を変え、エアゾール剤を噴射した。部屋内の温度を25℃、換気回数を0.5回/hとした状態で一晩(12時間)静置したのちに、空間の焼肉のニオイについて、試験例4-1と同様の0~5の6段階の評価基準で評価し、10人の平均値にて消臭効果を判断した(n=10)。なお、無処理も同時に用意し、悪臭強度が3.1であることを確認した。
【0072】
結果を下記表6に示す。
【0073】
【表6】
【0074】
表6の結果から、いずれの試験検体でも無処理の場合と比較して、悪臭強度の低下が確認できたことから、消臭効果があったといえる。その中でも、原液密度が0.79~0.98g/mlの試験検体3~7は悪臭強度が2未満であり、加熱調理臭の消臭効果が特に高いといえる。
【0075】
(試験例4-3:粒子径の検証)
本試験例では、加熱調理臭の消臭において、エアゾール剤から噴射された粒子(噴霧粒子)の粒子径と消臭効果との関係について検証した。
【0076】
(試験検体)
試験検体としては、以下の表7に示す試験検体9~13を使用した。
なお、表7中の合成香料はシトラス系香調の合成香料を、LPGは25℃での飽和蒸気圧が0.49MPaの液化石油ガスを用いた。
【0077】
【表7】
【0078】
(50%平均粒子径の測定)
25℃条件下で、レーザー回析式粒度測定装置(LDSA-1400A マイクロトラック・ベル株式会社製)を用い、レーザー光発光部より受光部に照射されるレーザービームと、エアゾール剤の噴口との水平方向の距離が30cmとなるように、かつ、噴霧粒子がレーザービームを垂直に通過するようにエアゾールの位置を調整した。噴射中に測定を行い、噴霧粒子の粒度分布を自動演算処理装置により解析し、体積積分分布に基づく噴霧粒子の50%平均粒子径(D50)を求めた。
【0079】
(試験方法)
6畳空間(寸法:横幅382cm、奥行き286cm、高さ240cm、容積:26.2m)において、部屋の中央で牛カルビ肉200gを250℃の鉄板で焼き、10分後、部屋の中央で、噴口を、天井から60cmの高さで仰角45°を向くように各試験検体のエアゾール剤を構え、その場で一周するようにして3秒間エアゾール剤を噴射した。なお、試験検体13のみ、20秒間噴射した場合についても試験を実施した。部屋内の温度を25℃、換気回数を0.5回/hとした状態で一晩(12時間)静置したのちに、空間の焼肉のニオイについて、試験例4-1と同様の0~5の6段階の評価基準で評価し、10人の平均値にて消臭効果を判断した(n=10)。なお、無処理も同時に用意し、悪臭強度が3.0であることを確認した。
【0080】
結果を下記表8に示す。
【0081】
【表8】
【0082】
表8の結果から、50%平均粒子径が5~120μmの範囲にある全ての試験検体において、無処理と比較して悪臭強度の低下を確認できた。その中でも、50%平均粒子径が10~110μmの試験検体9~11は悪臭強度が2未満であり、非常に高い消臭効果が確認できた。試験検体13については、エタノール噴射量を多くし、試験検体10、11と同程度の0.6gとしたものでも試験を行ったが、試験検体10、11の方が消臭効果は高かった。50%平均粒子径が10~110μmの範囲であると、噴霧された粒子は、空間に滞留できるほど小さくありながらも、気流で拡散しない程度に大きい、加熱調理臭の消臭により適したサイズであるといえる。
【0083】
(試験例4-4:エアゾール剤の噴射距離と消臭効果との関係の検証)
本試験例では、加熱調理臭の消臭において、エアゾール剤から噴射された粒子(噴霧粒子)の噴射距離と消臭効果との関係について検証した。
【0084】
(試験検体)
試験検体としては、以下の表9に示す試験検体9~11、14、15を使用した。なお、試験検体9~11は、試験例4-3で使用したものと同一である。また、表9中の合成香料はシトラス系香調の合成香料を、LPGは25℃での飽和蒸気圧が0.49MPaの液化石油ガスを用いた。
【0085】
【表9】
【0086】
(噴射距離の測定)
図4に示すように、壁に直径70mmのろ紙を張り、その中央に、5mm四方の、水やアルコールに濡れて変色する感水紙(アズワン株式会社製)を張り付けた。感水紙から下方45°の位置に、噴口が感水紙と直線状に並ぶよう各試験検体のエアゾール剤を設置し、感水紙に向かって2秒間噴射した。100cmを最大として10cmごとに距離を変えて行い、感水紙全体が赤く変色することが認められた距離(噴射距離)を確認した。なお、測定は25℃条件下で行った。結果を表10に示す。
【0087】
(消臭試験)
上記で噴射距離を測定した各試験検体のエアゾール剤を用いて消臭試験を行った。
6畳空間(寸法:横幅382cm、奥行き286cm、高さ240cm、容積:26.2m)において、部屋の中央で牛カルビ肉200gを250℃の鉄板で焼いた。10分後、部屋の中央で、噴口を、天井から60cmの高さで仰角45°を向くように各試験検体のエアゾール剤を構え、その場で一周するようにして3秒間エアゾール剤を噴射した。部屋内の温度を25℃、換気回数を0.5回/hとした状態で一晩(12時間)静置したのちに、空間の焼肉のニオイについて、試験例4-1と同様の0~5の6段階の評価基準で評価し、10人の平均値にて消臭効果を判断した(n=10)。なお、無処理も同時に用意し、悪臭強度が3.0であることを確認した。結果を下記表10に示す。
【0088】
【表10】
【0089】
表10の結果から、全ての試験検体で、無処理と比較して悪臭強度の低下が確認された。その中でも、上記で測定した噴霧距離が50~70cmである試験検体9~11において、悪臭強度が2未満となり、非常に高い消臭効果を確認できた。天井に液が付着しないよう、しかし、悪臭源には届くように、エアゾール剤から噴射される粒子が届く距離を調整することで、加熱調理臭の消臭に適したエアゾール剤となることがわかった。
【0090】
(試験例4-5:ポンプスプレーとエアゾールスプレーにおける消臭効果の検証)
本試験例では、加熱調理臭の消臭において、ポンプスプレーとエアゾールスプレー(エアゾール剤)における消臭効果の違いについて検証した。
【0091】
(試験検体)
試験検体としては、以下の表11に示す試験検体5、16を使用した。なお、試験検体5は、試験例4-2で使用したものと同一である。また、表11中の合成香料はシトラス系香調の合成香料を用いた。
【0092】
【表11】
【0093】
(試験方法)
6畳空間(寸法:横幅382cm、奥行き286cm、高さ240cm、容積:26.2m)において、部屋の中央で牛カルビ肉200gを250℃の鉄板で焼いた。エアゾール剤の場合は、10分後、部屋の中央で、噴口を、天井から60cmの高さで仰角45°を向くように各試験検体のエアゾール剤を構え、その場で一周するようにして3秒間エアゾール剤を噴射した。ポンプスプレーの場合は、部屋の中央から4隅方向に向かって各1回ずつ噴射した。部屋内の温度を25℃、換気回数を0.5回/hとした状態で一晩(12時間)静置したのちに、空間の焼肉のニオイについて、試験例4-1と同様の0~5の6段階の評価基準で評価し、10人の平均値にて消臭効果を判断した(n=10)。なお、無処理も同時に用意し、悪臭強度が3.0であることを確認した。結果を表12に示す。
【0094】
【表12】
【0095】
表12の結果から、試験検体5、16のいずれでも無処理と比較して悪臭強度の低下が確認できた。その中でも、試験検体5の悪臭強度は1.0であり、非常に高い消臭効果があることがわかった。このことから、ポンプスプレーよりもエアゾール剤の方が加熱調理臭に対する消臭効果が高いことがわかった。エタノールの噴射量自体は、試験検体16よりも試験検体5の方が少ないが、エアゾール剤はポンプスプレーと比較して、噴射剤の配合により軽くなった粒子が、室内の上部で拡散しやすく、かつ、とどまりやすい性質を持つため、試験検体5の方がより高い消臭効果があったと考える。
図1
図2
図3
図4