(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159254
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】光通信ケーブル
(51)【国際特許分類】
G02B 6/26 20060101AFI20241031BHJP
H05K 7/00 20060101ALI20241031BHJP
G02B 6/36 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G02B6/26
H05K7/00 T
G02B6/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075119
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】岸 竜司
(72)【発明者】
【氏名】古根川 直人
(72)【発明者】
【氏名】梅山 諒也
(72)【発明者】
【氏名】寺地 誠喜
【テーマコード(参考)】
2H036
2H137
4E352
【Fターム(参考)】
2H036MA03
2H036NA02
2H036QA59
2H137AB05
2H137AB15
2H137BA06
2H137CC01
2H137DA07
2H137DA13
2H137FA02
2H137HA05
2H137HA07
4E352AA08
4E352BB05
4E352CC17
4E352CC33
4E352DD05
4E352DR02
4E352DR40
4E352EE03
4E352GG03
4E352GG04
(57)【要約】
【課題】高温及び/又は高湿下においても光コード内のプラスチック光ファイバのクラック発生が抑制された、高温性及び高湿性に優れる光通信ケーブルを提供する。
【解決手段】
光通信ケーブル13は、光コード5と、コネクタ6と、第1の筐体3と、第2の筐体4と、光コード5を固定するための樹脂7と、を備え、光コード5の、コネクタ6と接続する側の端部Rは、第1の端部領域r1と第2の端部領域r2を有しており、第1の端部領域r1におけるプラスチック光ファイバ9の先端部Eは、コネクタ6と接続されており、樹脂7は、光コード5の端部Rと、第2の筐体4とに接するように配置されており、プラスチック光ファイバ9の線膨張係数(t2)と、樹脂7の線膨張係数(t1)とが、下記の式(1)を満たすように設定されている。
t1≦t2+5 ・・・(1)
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光通信ケーブルであって、
プラスチック光ファイバと前記プラスチック光ファイバの周囲に設けられる被覆層とを有する光コードと、
前記光コードのプラスチック光ファイバに接続されるコネクタと、
前記コネクタの第1面側に配置される第1の筐体と、
前記コネクタの第2面側に配置される第2の筐体と、
前記第1の筐体と前記第2の筐体とが組み合わせて形成されるケース内に前記光コードを固定するための樹脂と、を備え、
前記光コードの、コネクタと接続する側の端部Rは、被覆層が形成されておらずプラスチック光ファイバが露出している第1の端部領域r1と、被覆層が形成されておりプラスチック光ファイバが露出していない第2の端部領域r2を有しており、
前記第1の端部領域r1におけるプラスチック光ファイバの先端部Eは、前記コネクタと接続されており、
前記樹脂は、前記光コードの端部Rと、第2の筐体とに接するように配置されており、
前記プラスチック光ファイバの線膨張係数(t2)と、前記樹脂の線膨張係数(t1)とが、下記の式(1)を満たすように設定されている、
光通信ケーブル。
t1≦t2+5 ・・・(1)
【請求項2】
請求項1に記載の光通信ケーブルであって、
前記プラスチック光ファイバの線膨張係数(t2)が、50ppm/℃以上80ppm/℃以下である、
光通信ケーブル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光通信ケーブルであって、
前記樹脂が、第1の筐体にも接するように配置されている、
光通信ケーブル。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光通信ケーブルであって、
前記樹脂が、エポキシ基を有する樹脂である、
光通信ケーブル。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の光通信ケーブルであって、
前記光コードの端部Rの長さは、4mm以上8mm以下である、
光通信ケーブル。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の光通信ケーブルであって、
前記光コードの端部Rにおける、前記第1の端部領域r1の長さは、1mm以上4mm以下である、
光通信ケーブル。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の光通信ケーブルであって、
前記樹脂が、前記コネクタの第1面にも接するように配置されており、
前記第2の筐体と前記コネクタとの間には、前記コネクタの位置を固定するための台座が設けられている、
光通信ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光通信ケーブルに関するものであり、より詳しくは、プラスチック光ファイバにクラックが生じることを抑制する、高温性及び高湿性に優れる光通信ケーブルに関する。
【0002】
近年、電子機器等に多量の情報を伝送することができる光通信ケーブルが広く用いられている。このような光通信ケーブルは、通常、プラスチック光ファイバ(以下「POF」と言うことがある)等を有する光コードを、光電気複合伝送モジュールの筐体(ケース)内に存在する光電気混載基板と接続し、その接続状態を保持するために光コードの端部と筐体(ケース)等を接着剤で固定している(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、光電気複合伝送モジュールの軽量化、薄型化が進んだ結果、このような光電気複合伝送モジュールを用いた光通信ケーブルにおいて、環境試験(高温・高湿)を実施したところ、筐体(ケース)近傍に配置されるPOFにクラックが発生するおそれがあることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本開示では、高温及び/又は高湿下においても光コード内のPOFのクラック発生が抑制された、高温性及び高湿性に優れる光通信ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、前記光コードのPOFのクラック発生は、高温及び/又は高湿にさらされた際に、光コードの端部と筐体(言い換えると、ケース)等を固定している接着剤が熱膨張し、この膨張した接着剤によって光コードのPOFに応力がかかることが原因であることに着目し、接着剤と光コードのPOFとの物性を検討することにより光コードに応力がかかり過ぎることを抑制できることを見出し、本開示を完成した。
【0007】
すなわち、本開示は、以下の態様を有する。
[1]
光通信ケーブルであって、
POFと前記POFの周囲に設けられる被覆層とを有する光コードと、
前記光コードのPOFに接続されるコネクタと、
前記コネクタの第1面側に配置される第1の筐体と、
前記コネクタの第2面側に配置される第2の筐体と、
前記第1の筐体と前記第2の筐体とが組み合わせて形成されるケース内に前記光コードを固定するための樹脂と、を備え、
前記光コードの、コネクタと接続する側の端部Rは、被覆層が形成されておらずPOFが露出している第1の端部領域r1と、被覆層が形成されておりPOFが露出していない第2の端部領域r2を有しており、
前記第1の端部領域r1におけるPOFの先端部Eは、前記コネクタと接続されており、
前記樹脂は、前記光コードの端部Rと、第2の筐体とに接するように配置されており、
前記POFの線膨張係数(t2)と、前記樹脂の線膨張係数(t1)とが、下記の式(1)を満たすように設定されている、
光通信ケーブル。
t1≦t2+5 ・・・(1)
[2]
[1]に記載の光通信ケーブルであって、
前記POFの線膨張係数(t2)が、50ppm/℃以上80ppm/℃以下である、
光通信ケーブル。
[3]
[1]又は[2]に記載の光通信ケーブルであって、
前記樹脂が、第1の筐体にも接するように配置されている、
光通信ケーブル。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の光通信ケーブルであって、
前記樹脂が、エポキシ基を有する樹脂である、
光通信ケーブル。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載の光通信ケーブルであって、
前記光コードの端部Rの長さは、4mm以上8mm以下である、
光通信ケーブル。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載の光通信ケーブルであって、
前記光コードの端部Rにおける、前記第1の端部領域r1の長さは、1mm以上4mm以下である、
光通信ケーブル。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載の光通信ケーブルであって、
前記樹脂が、前記コネクタの第1面にも接するように配置されており、
前記第2の筐体と前記コネクタとの間には、前記コネクタの位置を固定するための台座が設けられている、
光通信ケーブル。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、光コードのPOFの線膨張係数(t2)と、第2の筐体とに接するように配置された樹脂の線膨張係数(t1)とを、前記の式(1)を満たすように設定しているため、高温及び/又は高湿下における樹脂の膨張による影響を低減することができ、POFにクラックが発生することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一実施の形態である光通信ケーブル要部の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施の形態である光通信ケーブル要部の構成を示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施の形態である光通信ケーブル要部の内部構造を説明する部分断面図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す光通信ケーブルに用いられる光コードの内部構造を説明するI-I断面図である。
【
図5】
図5は、本開示の一実施の形態である光通信ケーブル要部の内部構造を説明する部分断面図である。
【
図6】
図6は、本開示の一実施の形態である光通信ケーブル要部の内部構造を説明する部分断面図である。
【
図7】
図7は、本開示の一実施の形態である光通信ケーブル要部の内部構造を説明する部分断面図である。
【
図8】
図8は、本開示の一実施の形態である光通信ケーブル要部の内部構造を説明する部分断面図である。
【
図9】
図9Aは、解析モデルの内部構成を説明する斜視図である。
図9Bは、解析モデルの内部構成を上方から見た平面図である。
図9Cは、解析モデルに用いた光コードの内部構造を説明する斜視図である。
【
図10】
図10A-1は、解析モデルの樹脂の配置状態を示す斜視図である。
図10A-2は、
図10A-1の解析モデルをコネクタ側からみた状態を示す図である。
図10A-3は、
図10A-1の解析モデルの構造を説明する模式断面図である。
図10B-1は、解析モデルの樹脂の配置状態を示す斜視図である。
図10B-2は、
図10B-1の解析モデルをコネクタ側からみた状態を示す図である。
図10B-3は、
図10B-1の解析モデルの構造を説明する模式断面図である。
【
図11】
図11A-1は、解析モデルの樹脂の配置状態を示す斜視図である。
図11A-2は、
図11A-1の解析モデルをコネクタ側からみた状態を示す図である。
図11A-3は、
図11A-1の解析モデルの構造を説明する模式断面図である。
図11B-1は、解析モデルの樹脂の配置状態を示す斜視図である。
図11B-2は、
図11B-1の解析モデルをコネクタ側からみた状態を示す図である。
図11B-3は、
図11B-1の解析モデルの構造を説明する模式断面図である。
【
図12】
図12Aは、実験例1のPOFの変形及び応力分布を示す図である。
図12Bは、実験例5のPOFの変形及び応力分布を示す図である。
図12Cは、実験例6のPOFの変形及び応力分布を示す図である。
【
図13】
図13は、実験例8の解析モデルの内部構成を一部省略して説明する斜視図である。
【
図14】各実験例及び参考例のPOFの長手方向応力を算出した結果を併せて示すグラフ図である。
【
図15】POFの下部応力をコネクタからの距離と線膨張係数との関係からシミュレーションした結果を示すグラフ図である。
【
図16】POFの下部応力をコネクタからの距離と線膨張係数との関係からシミュレーションした結果を示すグラフ図である。
【
図17】コネクタからの距離4.3mmにおける下部応力を樹脂の線膨張係数別に示したグラフ図である。
【
図18】
図18Aは、線膨張係数35の樹脂を用いた場合のPOFの変形及び応力分布を側面方向からみた図である。
図18Bは、線膨張係数35の樹脂を用いた場合のPOFの変形及び応力分布を上方からみた図である。
【
図19】
図19Aは、線膨張係数85の樹脂を用いた場合のPOFの変形及び応力分布を側面方向からみた図である。
図19Bは、線膨張係数85の樹脂を用いた場合のPOFの変形及び応力分布を上方からみた図である。
【
図20】
図20Aは、線膨張係数0の樹脂を用いた場合のPOFの変形及び応力分布を側面方向からみた図である。
図20Bは、線膨張係数65の樹脂を用いた場合のPOFの変形及び応力分布を側面方向からみた図である。
【
図21】POFの上部応力をコネクタからの距離と線膨張係数との関係からシミュレーションした結果を示すグラフ図である。
【
図22】コネクタからの距離4.3mmにおける上部応力を樹脂の線膨張係数別に示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示を実施するための形態の例に基づいて本開示を説明する。但し、本開示は、次に説明する実施の形態に限定されるものではない。
【0011】
本開示において、「J以上」(Jは任意の数字)又は「K以下」(Kは任意の数字)と表現した場合、「Jより大きいことが好ましい」又は「K未満であることが好ましい」旨の意も包含する。
また、本開示において、「J及び/又はK(J,Kは任意の構成)」とは、J及びKの少なくとも一方を意味するものであって、Jのみ、Kのみ、J及びK、の3通りを意味するものである。
【0012】
図1は、本開示の一実施の形態である光通信ケーブルの13の外観を示す斜視図である。そして、
図2は、この光通信ケーブル13の構成を示す分解斜視図である。
本開示の光通信ケーブル13は、ハイブリッドケーブル2から出力される光を電気に変換し、この電気を図示しない電気機器に入力し、及び、図示しない電気機器から出力される電気を光に変換し、この光をハイブリッドケーブル2に入力するものである。
なお、
図1及び
図2において、符号11はプラグである。前記プラグとしては、例えば、Type―CプラグやHDMI(登録商標)プラグが挙げられる。
【0013】
すなわち、本開示の光通信ケーブル13は、ハイブリッドケーブル2の光コード5とコネクタ6との接続部において、これらと第2の筐体4とが樹脂7を介して接着することにより、ハイブリッドケーブル2がケース19内に固定されるようになっている。
【0014】
このため、本開示の光通信ケーブル13は、
図3に示すように、POF9とPOF9の周囲に設けられる被覆層8とを有する光コード5と、光コード5のPOF9に接続されるコネクタ6と、コネクタ6の第1面6a側に配置される第1の筐体3と、コネクタ6の第2面6b側に配置される第2の筐体4と、第1の筐体3と第2の筐体4とが組み合わせて形成されるケース19(
図1参照)内に光コード5を固定するための樹脂7と、を備えている。
【0015】
そして、光コード5の、コネクタ6と接続する側の端部Rは、被覆層8が形成されておらずPOF9が露出している第1の端部領域r1と、被覆層8が形成されておりPOF9が露出していない第2の端部領域r2を有しており、第1の端部領域r1におけるPOF9の先端部Eは、コネクタ6と接続されており、樹脂7は、光コード5の端部Rと、第2の筐体4とに接するように配置されている。
これらの構成の詳細を以下に説明する。
【0016】
<光コード>
光コード5は、
図4にその長手方向に直交する断面を示すように、POF9と、POF9の周囲に配置される抗張力繊維10と、抗張力繊維10の外側に配置される被覆層8とを有している。
POF9は、通常、コアとクラッドとで異なる屈折率を有する樹脂からなるものであり、コアの材料として、例えば、透明性の高いメタクリル樹脂、石英等が挙げられ、クラッドの材料として、例えば、フッ素系樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
このように、POF9は、通常、コアとクラッドとで異なる樹脂からなるものであるが、その大部分をコアが占めている。
このため、本開示においては、コアの物性をPOF9の物性として採用する。
【0017】
POF9の径は、光接続および強度の点から、200μm以上400μm以下であることが好ましく、210μm以上390μm以下であることがより好ましく、220μm以上380μm以下であることがさらに好ましい。
【0018】
POF9の線膨張係数は、光強度の点から、0ppm/℃以上80ppm/℃以下であることが好ましく、0ppm/℃以上70ppm/℃以下であることがさらに好ましく、0ppm/℃以上60ppm/℃以下であることがより好ましい。
【0019】
POF9の周囲に配置される抗張力繊維10は、耐引張の点から、例えば、アラミド繊維、錦糸等が挙げられる。
また、抗張力繊維10の外側に配置される被覆層8は、硬度、耐熱性、難燃性の点から、例えば、アイオノマー樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)等からなるものが挙げられる。
【0020】
光コード5の端部Rの長さは、光通信ケーブルの強度の点から、4mm以上8mm以下であることが好ましく、4mm以上6mm以下であることがより好ましい。
また、端部Rにおいて、第1の端部領域r1の長さは、コネクタ6との接続性の点から、1mm以上4mm以下であることが好ましく、2mm以上4mm以下であることがより好ましい。
【0021】
そして、第1の端部領域r1におけるPOF9の先端部Eは、コネクタ6と光軸を合わせた状態で接続されている。
【0022】
<コネクタ>
POF9と接続されるコネクタ6は、通常、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を材料とし、光電混載基板とファイバの光接続を容易にする機能を有している。
【0023】
<第1の筐体及び第2の筐体>
コネクタ6の第1面6a側に配置される第1の筐体3は、対となる(コネクタ6の第2面6b側に配置される)第2の筐体4と組みわせて用いることにより、光コード5及びコネクタ6等を収容する略箱形状のケース19を構成することができる(
図1参照)。
【0024】
第1の筐体3及び第2の筐体4(以下「第1の筐体3等」とすることがある)は、放熱効果を考慮するとできるだけ熱伝導率の高いものからなることが好ましく、とりわけ熱伝導率が50W/mK以上であるものが好ましい。
高い熱伝導率と強度とを有し、放熱効果と内部(光電変換部5等)保護の両立が可能である点から、金属からなるものがより好ましい。具体的な金属材料としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、亜鉛、ニッケル、クロム、チタン、タンタル、白金、金、それらの合金(丹銅、ステンレス等)等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。また、表面保護や美観の点から、第1の筐体3等は、めっき等の表面処理が施されてもよい。
【0025】
第1の筐体3等の厚さは、放熱効果と軽量化のバランスを考慮して、0.1mm以上0.6mm以下であることが好ましく、0.2mm以上0.5mm以下であることがより好ましい。
【0026】
<樹脂>
第1の筐体3と第2の筐体4とが組み合わせて形成されるケース19内に光コード5を固定するための樹脂7は、
図3に示すように、光コードの端部Rと、第2の筐体4とに接するように配置されている。
【0027】
そして、本開示においては、樹脂7の線膨張係数(t1)とPOF9の線膨張係数(t2)とが式(1)を満たすよう設計されている。
t1≦t2+5 ・・・(1)
【0028】
すなわち、(t1)及び(t2)が前記式(1)を満たすことにより、高温及び/又は高湿下における樹脂の膨張による影響を低減させることができ、ケース19内に収容されたPOF9のクラック発生を抑制することができる。
【0029】
樹脂7の線膨張係数(t1)は、応力の点から、35ppm/℃以上70ppm/℃以下であることが好ましく、40ppm/℃以上68ppm/℃以下であることがさらに好ましく、45ppm/℃以上65ppm/℃以下であることがより好ましい。また、樹脂7の線膨張係数(t1)は、POF9と同じ線膨張係数であってもよい。
【0030】
樹脂7の熱伝導率(W/mK)は、密着性、耐熱性のバランスに優れる点から、0.1W/mK以上3W/mK以下であるものが好ましく、0.1W/mK以上1W/mK以下であるものがより好ましい。
【0031】
これらを考慮すると、樹脂7としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等が好ましく、とりわけPOF9との組み合わせに優れる点から、エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0032】
樹脂7は、ケース19内に光コード5を固定するために配置されるため、
図3に示すように配置される以外にも、例えば、
図5に示すように配置されていてもよい。
図5は、樹脂7が第1の筐体3にも接するように配置されている例を示している。このように配置すると、POF9の膨張をより抑えられる傾向がみられる。但し、高熱・高湿下において、樹脂7の膨張によって第1の筐体3及び第2の筐体4(ケース19)が破損するおそれがあるため、用いる樹脂を吟味する必要がある。
【0033】
また、樹脂7は、
図6に示すように配置されていてもよい。
図6は、光コード5の端部Rのうち、第1の端部領域r1の部分のみが樹脂7と接するように配置されている例を示している。このように配置すると、少ない樹脂量で光コード5を固定することができるため、軽量化に優れる傾向がみられる。
【0034】
そして、樹脂7は、
図7に示すように配置されていてもよい。
図7は、樹脂7がコネクタ6の第1面6a(第1の筐体3に対峙する面)にも接するように配置されている例を示している。このように配置すると、コネクタ6を位置決めした状態で確実に固定することができるため、耐久性に優れる傾向がみられる。
このとき、コネクタ6と第2の筐体4との間には、台座11を設けることが好ましい。台座11を設けると、コネクタ6をPOF9と接続しやすい位置で固定しやすくなる傾向がみられる。
【0035】
台座11は、POF9を第2の筐体4からの距離を離した状態で固定することができるものが好ましく、その材質を特に限定するものではない。しかし、第2の筐体4と同じ材質からなるものであると、ケース19内部における応力の計算が容易となるため好ましい。
また、台座11は、例えば、第2の筐体4と一体的に形成されるものであってもよいし、別に準備したものを第2の筐体4に接着固定して形成されるものであってもよい。設計に応じて形状を変えることが容易である点から、第2の筐体4とは別に準備したものを接着固定して形成することが好ましい。
【0036】
さらに、樹脂7は、
図8に示すように配置されていてもよい。
図8は、樹脂7として、2種類の異なる性質を有する樹脂を用いた例を示している。すなわち、光コード5の端部Rを被覆する樹脂7’と、それ以外の部分に配置される樹脂7とで性質の異なる樹脂を用いている。このように樹脂7として、性質の異なる複数の樹脂を用いると、光コード5の接続強度の点で優れる傾向がみられる。
このときの樹脂7の線膨張係数(t1)は、性質の異なる複数の樹脂のうち、最も樹脂量の多いものの線膨張係数を前記式(1)の樹脂の線膨張係数(t1)として用いるものとする。樹脂量が同等である場合には、線膨張係数の高いものの線膨張係数を前記式(1)の樹脂の線膨張係数(t1)として用いるものとする。
【0037】
本開示の光通信ケーブル13は、例えば、つぎのようにして製造することができる。
まず、ステンレスとポリイミド等とからなる光電気複合伝送モジュール1を準備するとともに、必要に応じて第2の筐体4内の所定位置に台座11を、接着剤層12を介して取り付け、光電気複合伝送モジュール1を収容する。そして、光電気複合伝送モジュール1に備えられたコネクタ6と、ハイブリッドケーブル2に内包される光コード5を接続し、光コード5の端部Rと、第2の筐体4とに接するように樹脂7を配置することで得ることができる。
なお、ハイブリッドケーブル2は、通常、光コード5以外にも、電力を供給するための銅線等の配線を有している。
【0038】
本開示の光通信ケーブル13によれば、高温及び/又は高湿下においても光コード5内のPOF9のクラック発生が抑制されるため、高温性及び高湿性に優れる。
【実施例0039】
光通信ケーブルにおける、光コード5とその光コード5を固定する樹脂7との応力関係を検討するため、
図9に示す解析モデルを作成した。
前記解析モデルは、上筐体20、下筐体21、コネクタ6、光コード5、台座11を備えており、光コード5は、POF9、抗張力繊維10、被覆層8を備えており、光コード5とコネクタ6とが接続され、光コード5を下筐体21に固定するために樹脂7が用いられるものである。なお、台座11は、下筐体21と同じ材料からなり、アクリル接着剤を用いて(接着剤層12を介して)下筐体21に取り付けられている。
また、前記解析モデルは、
図9A~
図9Cに示すように、矢印KZで示す箇所におけるZ拘束を行い、矢印KZXで示す箇所において被覆層8によるZX拘束を行い、矢印KYで示す箇所においてコネクタ6端部および樹脂7のコネクタ6と反対側の端部によるY拘束を行っている。
なお、
図9Cは、
図9A及び
図9Bで示す光コード5の端部の断面を示しており、この断面についてもZX拘束を行っている。但し、この断面においてY方向はフリーとなっている。
解析モデルの構成は下記の表1に示す材料で作製されている。
各材料の物性を下記の表1に併せて示す。
【0040】
【表1】
ここで、POFとは主にXylex樹脂を主な材料とするものである。また、線膨張係数(以下「CTE」と言うことがある)は、PVTテストシステム(東洋精機製作所製)によって計測されたものである。
【0041】
前記解析モデルを用いて、以下の試験項目及び方法に基づきPVT測定を行った。
[圧力-比容積-温度(PVT)試験]
予備乾燥 :100℃で10時間以上乾燥し、取出し後15分間以内に測定開始
試験装置 :PVTテストシステム(東洋精機製作所製)
測定モード:低圧温度変化モード
試料量 :1~1.5g
温度範囲 :開始温度250℃~終了温度50℃(測定間隔:5℃)
圧力 :50MPa、40MPa、30MPa、20MPa
【0042】
そして、解析には、アドバンスド非線形シミュレーションソリューション(HEXAGON社Marc)を用いた。また、応力値は、25℃から80℃に昇温させて際のPOF9に掛かる応力を以下のようにして算出した。
すなわち、力のつり合い式、変位とひずみの関係式、ひずみと応力の関係式(材料の構成式)の3つを用いて、有限要素法によって解いており、まず、力のつり合い式と変位とひずみの関係式から変位とひずみを求め、前記ひずみと応力の関係式(材料の構成式)から応力を算出した。
【0043】
[実験例1-4]
まず、樹脂7の配置の違いによるPOF9の変形量を検討するため、樹脂7としてシリコン樹脂を用い、その配置を下記のように変えた解析モデル(実験例1~4)を作製した。
実験例1:
図10Aの樹脂7に示す位置にシリコン樹脂を配置したもの(下方のみ)
実験例2:
図10Bの樹脂7に示す位置にシリコン樹脂を配置したもの(上下同量)
実験例3:
図11Aの樹脂7に示す位置にシリコン樹脂を配置したもの(上方多め)
実験例4:
図11Bの樹脂7に示す位置にシリコン樹脂を配置したもの(充填)
【0044】
その結果、実験例1~3では、POF9の変形量はほぼ同じであることがわかった。これは、いずれの実験例でも樹脂7と上筐体20との間に空隙が存在しており、高熱下において、前記空隙方向へ樹脂7が膨張して向かうためであると解される。
一方、実験例4では、樹脂7と上筐体20との間に空隙が存在していないため、樹脂7の膨張が特定の方向へ向かうことがなく、膨張を抑え込めたためと解される。
【0045】
前記の結果から、樹脂7と上筐体20との間に空隙が存在しないように樹脂7を配置することが、POF9のクラックを防止できる点からは有用であることが判明したが、一方で、樹脂7と上筐体20との間に空隙が存在しないように樹脂7を配置すると、高熱下で樹脂7が膨張するとその力によって上筐体20がダメージを受ける可能性がある。
このため、樹脂7と上筐体20との間に空隙が存在しないように樹脂7を配置する以外にも、POF9の変形を抑制できる方法がないか、さらに検討を行った。
【0046】
[実験例5、6]
つぎに、樹脂7の種類の違いによるPOF9の変形量を検討するため、実験例1と樹脂7の種類を変えた解析モデル(実験例5)と、さらに配置も変えた解析モデル(実験例6)を作製した。
実験例5:
図10Aの樹脂7に示す位置にエポキシ樹脂を配置したもの(下方のみ)
実験例6:
図11Bの樹脂7に示す位置にエポキシ樹脂を配置したもの(充填)
これらを実験例1-4と同様にしてPOF9の変形及び応力分布を算出し、その結果を、実験例1の結果とともに
図12A~Cに示す。
図12Aは実験例1の結果を示し、
図12Bは実験例5の結果を示し、
図12Cは実験例6の結果を示す。
【0047】
図12A~Cの結果から、実験例1(
図12A)では、樹脂7と接している箇所においてPOF9が大きく変形していたのに対し、実験例5(
図12B)では、樹脂7と接している箇所においてPOF9の変形が抑制されていた。なお、
図12A~C(特に
図12A)に示すように、コネクタ6の近傍(つまり、POF9のむき出し部分、
図12A~Cにおいて破線S1で囲んで示している)は、強度の違いはあるものの圧縮の状態であった。コネクタ6から離れた領域(
図12A~Cにおいて破線S2で囲んで示している)は、強度の違いがあるものの引張の状態であった。
また、実験例6(
図12C)では、樹脂7と接している箇所においてPOF9の変形が抑制されていたものの、POF9が圧縮応力を受けていた。
【0048】
[実験例7、8]
さらに、樹脂7の種類を変えた解析モデル(実験例7、8)を作製した。
実験例7:
図10Aの樹脂7に示す位置にアクリル樹脂を配置したもの(下方のみ)
実験例8:アクリル樹脂でPOF9を被覆した後、
図10Aの樹脂7に示す位置にエポキシ樹脂を配置したもの(アクリル+エポキシ)
図13に実験例8の樹脂7の配置の状態を示す。実験例8では、符号7aで示す部分(POF9近傍)にアクリル樹脂を配置し、符号7bで示す部分にエポキシ樹脂を配置している。なお、
図13では、樹脂7の配置を見やすくするために上筐体20の記載を省略している。
【0049】
実験例7、8に加えて、実験例1~6についてもPOF9の長手方向応力(以下「POF長手方向応力」と言うことがある)を算出し、それらの結果を
図14に併せて示す。
なお、
図14には、樹脂7を用いていない解析モデルを(参考例1)として併せて示している。また、POF9のクラックは14.22MPa近傍での応力を受けた場合に発生することが確認されている。
【0050】
図14に示された結果から、樹脂7の配置状態が同じであっても、樹脂7の種類が異なると、POF長手方向応力が異なることがわかる(実験例1、5、7、8参照)。
特に、樹脂7の膨張の影響を受け得ない参考例1と同等かそれ以下の応力しか受けない実験例5,8と、クラックの発生時の応力に近い応力を受ける実験例1、7を対比すると、線膨張係数の異なる樹脂7を用いていることがわかる。
【0051】
この知見を得て、樹脂7の線膨張係数とPOF9に対する応力との関係を検討した。すなわち、前記のアドバンスド非線形シミュレーションソリューション(HEXAGON社Marc)を用いて、線膨張係数の異なる樹脂7を用いた場合のPOF9の下面における長手方向応力とコネクタ6からの距離との関係を算出した。
図15に樹脂7の線膨張係数が35~85の場合の結果を示し、
図16に樹脂7の線膨張係数が0~40の場合の結果を示す。なお、
図15及び
図16には、シリコン樹脂(線膨張係数153)を用いた場合の結果を併せて示している。
【0052】
これらの結果を踏まえて、最も応力が大きくなるコネクタ6からの距離4.3mmにおけるPOF9下面のPOF長手方向応力を、線膨張係数別に
図17に併せて示す。
図17において、シリコン樹脂(線膨張係数153)を用いた際のPOF長手方向応力である12.6MPaを破線Qとして示している。この破線Qよりも低いPOF長手方向応力を有するものが、本開示の樹脂7として好適である。
【0053】
一方で、POF9がむき出しの部分(光コード端部の第1の端部領域)には、熱上昇に伴いPOF9が長手方向(Y方向)に膨張しようとする力が生じる。しかし、コネクタ6との接続によって固定されている部分の近傍ではPOF9の膨張が抑制されるため、圧縮応力が発生する。これは樹脂7の線膨張係数が低くなるほど顕著である。
すなわち、
図18A及び
図18Bには樹脂7の線膨張係数が35である場合のPOF9とコネクタ6にかかるPOF長手方向応力が示されている。そして、側面方向からみた
図18Aの、破線F1で囲う部分に示すように、POF9においてコネクタ6近傍での圧縮応力が発生する。このとき、上方からみた
図18Bには、破線F2で囲う部分に示すように、コネクタ6の変形はみられない。
【0054】
また、
図19には樹脂7の線膨張係数が85である場合のPOF9とコネクタ6にかかるPOF長手方向応力が示されている。樹脂7の線膨張係数が高くなると、側面方向からみた
図19Aの、破線G1で囲う部分に示すように、POF9が樹脂7の膨張によって上方へ押し上げられている。また、上面からみた
図19Bの、破線G2で囲う部分に示すように、樹脂7の熱膨張によってコネクタ6が押圧されて変形がみられる。
【0055】
さらに、樹脂7の線膨張係数を小さくした場合についても検討する。
図20Aには樹脂7の線膨張係数が0である場合のPOF9とコネクタ6にかかるPOF長手方向応力を側面方向からみた状態が示されている。
図20Aの破線H1で囲う部分において、POF9の上面の応力が増加する傾向がみられた。
この傾向は、樹脂7の線膨張係数が65である場合のPOF9とコネクタ6に係るPOF長手方向応力を側面方向からみた状態が示されている
図20Bと対比しても明らかである。
すなわち、
図20Bの破線H2で囲う箇所では、
図20Aの破線H1で囲う箇所のようなPOF9の上面でPOF長手方向応力が増加する傾向はみられない。
【0056】
この知見に基づいて、樹脂7の線膨張係数とPOF9の上面のPOF長手方向応力とのとの関係についても検討を行った。
すなわち、前記のアドバンスド非線形シミュレーションソリューション(HEXAGON社Marc)を用いて、樹脂7として線膨張係数を変えたものを用いた場合のPOF9上面におけるPOF長手方向応力とコネクタ6からの距離との関係を検討した。
【0057】
その結果を
図21に示す。これらの結果を踏まえて、最も応力が大きくなるコネクタ6からの距離4.3mmにおけるPOF9上面のPOF長手方向応力を、線膨張係数別に
図22に併せて示す。
図22において、シリコン樹脂(線膨張係数153)を用いた際のPOF長手方向応力である12.6MPaを破線Qとして示している。この破線Qよりも低いPOF長手方向応力を有するものが、本開示の樹脂7として好適であるが、いずれも破線QよりもPOF長手方向応力が低く、樹脂7の線膨張係数が低くても上面の応力においては問題ないことが理解できる。
【0058】
これらの実験例の結果から、樹脂7の配置状態にかかわらず、樹脂7の線膨張係数とPOF9の線膨張係数とが一定の条件を満たす場合に、高温、高湿下におけるPOF9のクラック発生が抑制されることがわかった。
【0059】
前記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、前記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。