(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159258
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】情報処理装置、データセット、情報処理装置の動作方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16C 20/30 20190101AFI20241031BHJP
G06F 16/903 20190101ALI20241031BHJP
A61Q 1/00 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
G16C20/30
G06F16/903
A61Q1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075126
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139491
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 隆慶
(72)【発明者】
【氏名】小竹山 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】笹木 亮
(72)【発明者】
【氏名】宮田 千秋
【テーマコード(参考)】
4C083
5B175
【Fターム(参考)】
4C083CC01
4C083CC05
4C083CC13
4C083CC14
4C083CC31
5B175DA10
5B175FA01
5B175HB03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】化粧料の処方探索を簡便且つ高精度に行う情報処理装置データセット、情報処理装置の動作方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】ネットワーク11を介して互いに情報通信可能に接続されるサーバ装置10と端末装置12とを有する情報処理システム1において、端末装置12は、複数の原料の含有量をそれぞれ含む複数の処方の情報と、各処方に対応する化粧料の特性の情報とを格納する記憶部と、前記複数の処方のうち、当該複数の処方のいずれとも異なる第1の処方との、前記複数の原料の含有量を成分とするベクトル空間における距離が所定の距離を示す第2の処方を選択し、及び当該第2の処方及び当該第2の処方に対応する前記化粧料の特性の情報を出力する制御部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の原料の含有量をそれぞれ含む複数の処方の情報と、各処方に対応する化粧料の特性の情報とを格納する記憶部と、
前記複数の処方のうち、当該複数の処方のいずれとも異なる第1の処方との、前記複数の原料の含有量を成分とするベクトル空間における距離が所定の距離を示す第2の処方を選択し、及び当該第2の処方及び当該第2の処方に対応する前記化粧料の特性の情報を出力する制御部と、
を有する情報処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記複数の処方はそれぞれ前記複数の原料のそれぞれの、当該処方に対応する前記化粧料の前記特性に関与する程度に基づき決定される分類の情報を含み、
前記第2の処方は、前記第1の処方にて所定の含有量を有する原料と共通の分類の原料が前記所定の含有量を有する、
情報処理装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記複数の処方はそれぞれ対応する化粧料の生成条件の情報を更に含み、
前記第2の処方は、前記第1の処方に対応して指定される生成条件と共通の生成条件を有する、
情報処理装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記複数の原料それぞれの分類は前記特性の種類に応じて異なり、
前記制御部は、前記特性の種類が指定されると、指定された種類の特性に応じた分類の情報に基づいて、前記第2の処方を選択する、
情報処理装置。
【請求項5】
請求項2において、
前記分類の情報は、前記制御部が各処方の情報を出力して当該分類の情報の入力をユーザに促し、入力される情報を取得することで、前記記憶部に格納される、
情報処理装置。
【請求項6】
情報処理装置に格納されるデータセットであって、
複数の原料の含有量をそれぞれ含む複数の処方の情報と、
各処方に対応する化粧料の特性の情報と、
各処方における前記複数の原料のそれぞれの、当該処方に対応する前記化粧料の前記特性に関与する程度に基づき決定される分類の情報とを含み、
前記情報処理装置に、
前記複数の処方のうち、当該複数の処方のいずれとも異なる第1の処方との、前記複数の原料の含有量を成分とするベクトル空間における距離が所定の距離を示し、当該第1の処方にて所定の含有量を有する原料と共通の分類の原料が前記所定の含有量を有する第2の処方を選択する工程と、
前記第2の処方の情報と、当該第2の処方に対応する前記化粧料の特性の情報とを出力する工程と、
を実行させるための、データセット。
【請求項7】
情報処理装置の動作方法であって、
複数の原料の含有量をそれぞれ含む複数の処方の情報と、各処方に対応する化粧料の特性の情報とを格納する工程と、
前記複数の処方のうち、当該複数の処方のいずれとも異なる第1の処方との、前記複数の原料の含有量を成分とするベクトル空間における距離が所定の距離を示す第2の処方を選択し、及び当該第2の処方及び当該第2の処方に対応する前記化粧料の特性の情報を出力する工程と、を含む、
情報処理装置の動作方法。
【請求項8】
複数の原料の含有量をそれぞれ含む複数の処方の情報と、各処方に対応する化粧料の特性の情報とを格納する情報処理装置に実行されることで、当該情報処理装置が、
前記複数の処方のうち、当該複数の処方のいずれとも異なる第1の処方との、前記複数の原料の含有量を成分とするベクトル空間における距離が所定の距離を示す第2の処方を選択し、及び当該第2の処方及び当該第2の処方に対応する前記化粧料の特性の情報を出力する工程を実行する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理装置データセット、情報処理装置の動作方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料等の多成分組成物の開発においては、異なる処方により生成された複数の試作品の特性値を測定することで、所望の品質が担保される特性値が得られるような処方の探索と特定が行われる。多成分組成物の処方は多岐に亘るので、所望の特性値が得られるような処方の探索には多大な工程が必要とされる。かかる工程を支援する技術の例として、特許文献1には、製品仕様と製品特性の因果関係を推論してユーザに提示する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
処方と組成物の特性値との因果関係を機械学習するためには膨大な教師データが必要とされる。しかし、かかる教師データを収集し整備するためには多大な時間とコストとが必要となる。また、仮に教師データを準備できたとしても、過学習がなされると因果関係が適切に推論されないおそれがある。よって、簡便にして高精度な処方探索の方法が求められる。
【0005】
上記に鑑み、以下では、多成分組成物の処方探索を簡便かつ高精度に行うための、情報処理装置等を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本開示における情報処理装置は、複数の原料の含有量をそれぞれ含む複数の処方の情報と、各処方に対応する化粧料の特性の情報とを格納する記憶部と、前記複数の処方のうち、当該複数の処方のいずれとも異なる第1の処方との、前記複数の原料の含有量を成分とするベクトル空間における距離が所定の距離を示す第2の処方を選択し、及び当該第2の処方及び当該第2の処方に対応する前記化粧料の特性の情報を出力する制御部と、を有する。
【0007】
本開示における別の態様は、情報処理装置に格納されるデータセットであって、当該データセットは、複数の原料の含有量をそれぞれ含む複数の処方の情報と、各処方に対応する化粧料の特性の情報と、各処方における前記複数の原料のそれぞれの、当該処方に対応する前記化粧料の前記特性に関与する程度に基づき決定される分類の情報とを含み、前記情報処理装置に、前記複数の処方のうち、当該複数の処方のいずれとも異なる第1の処方との、前記複数の原料の含有量を成分とするベクトル空間における距離が所定の距離を示し、当該第1の処方にて所定の含有量を有する原料と共通の分類の原料が前記所定の含有量を有する第2の処方を選択する工程と、前記第2の処方の情報と、当該第2の処方に対応する前記化粧料の特性の情報とを出力する工程と、を実行させる。
【0008】
本開示における更に別の態様は、情報処理装置の動作方法であって、当該動作方法は、複数の原料の含有量をそれぞれ含む複数の処方の情報と、各処方に対応する化粧料の特性の情報とを格納する工程と、前記複数の処方のうち、当該複数の処方のいずれとも異なる第1の処方との、前記複数の原料の含有量を成分とするベクトル空間における距離が所定の距離を示す第2の処方を選択し、及び当該第2の処方及び当該第2の処方に対応する前記化粧料の特性の情報を出力する工程と、を含む。
【0009】
本開示における更に別の態様は、プログラムであって、当該プログラムが、複数の原料の含有量をそれぞれ含む複数の処方の情報と、各処方に対応する化粧料の特性の情報とを格納する情報処理装置に実行されることで、当該情報処理装置が、前記複数の処方のうち、当該複数の処方のいずれとも異なる第1の処方との、前記複数の原料の含有量を成分とするベクトル空間における距離が所定の距離を示す第2の処方を選択し、及び当該第2の処方及び当該第2の処方に対応する前記化粧料の特性の情報を出力する工程を実行する。
【発明の効果】
【0010】
本開示における情報処理装置の動作方法等によれば、多成分組成物の処方探索を簡便かつ高精度に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】参照処方及び対象処方について説明する図である。
【
図3】情報処理システムの動作手順例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
[システム概要]
図1は、一実施形態における情報処理システムの構成例を示す図である。情報処理システム1は、ネットワーク11を介して互いに情報通信可能に接続されるサーバ装置10と端末装置12とを有する。サーバ装置10は、一以上のサーバコンピュータである。サーバ装置10は単一のコンピュータであってもよいし、本実施形態における動作を連係して実行しクラウドサービスを提供する複数のコンピュータであってもよい。端末装置12は、一以上のパーソナルコンピュータ、タブレット端末装置等の情報処理装置である。端末装置12はスマートフォン等を含んでもよい。ネットワーク11は、例えば、LAN(Local Area Network)、インターネット、アドホックネットワーク、MAN(Metropolitan Area Network)、移動体通信網もしくは他のネットワーク又はこれらいずれかの組合せである。
【0014】
情報処理システム1は、多成分組成物の開発において所望の特性値が得られるような処方の探索を支援する。多成分組成物は、複数の原料から生成される組成物であって、種々の原料を任意の分量で混合することで生成される。以下では、多成分組成物として化粧料、例えばメイクアップ化粧料のうちアイシャドウを例とする。アイシャドウは、製品としてある程度の剛性が必要とされる。ここでは、剛性を示す特性値としては荷重値が用いられる。情報処理システム1は、化粧料、つまりアイシャドウの製品の開発において、化粧料の荷重値が所望の値を示すような処方、つまり混合する複数の原料と分量の組合せの探索を支援する。
【0015】
サーバ装置10は、記憶部102と制御部103とを有し、本実施形態の「情報処理装置」に対応する。記憶部102には、複数の原料の含有量をそれぞれ含む複数の処方(以下、参照処方という)の情報と、各参照処方に対応する化粧料の特性の情報、すなわち特性値とが格納される。制御部103は。複数の参照処方のうち、複数の参照処方のいずれとも異なる処方(以下、対象処方という)との、複数の原料の含有量を成分とするベクトル空間における距離が所定の距離を示す処方(以下、類似処方という)を選択し、類似処方情報及び類似処方に対応する化粧料の特性値を出力する。オペレータは、対象処方に期待する特性値が類似処方の特性値に近似するか否かを確認することができる。近似が確認できたら、対象処方を微調整することにより、所望の特性値を担保し得る処方(以下、目標処方という)を探索することが可能となる。よって、対象処方をランダムに変更しながら特性値を逐一計測して目標処方を探索する場合と比較したとき、処方探索の工程を短縮してより早期に目標処方を特定することが可能となる。さらに、機械学習のための教師データを準備する必要もない。よって、化粧料の処方探索を簡便かつ高精度に行うことが可能となる。
【0016】
次いで、サーバ装置10及び端末装置12の構成について説明する。
【0017】
サーバ装置10は、通信部101、記憶部102、及び制御部103を有する。これらの構成は、サーバ装置10が二以上のコンピュータで構成される場合には、二以上のコンピュータに適宜に配置される。
【0018】
通信部101は、一以上の通信用インタフェースを含む。通信用インタフェースは、例えば、LANインタフェースである。通信部101は、サーバ装置10の動作に用いられる情報を受信し、またサーバ装置10の動作によって得られる情報を送信する。サーバ装置10は、通信部101によりネットワーク11に接続され、ネットワーク11経由で端末装置12と情報通信を行う。
【0019】
記憶部102は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する一以上の半導体メモリ、一以上の磁気メモリ、一以上の光メモリ、又はこれらのうち少なくとも2種類の組み合わせを含む。半導体メモリは、例えば、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)である。RAMは、例えば、SRAM(Static RAM)又はDRAM(Dynamic RAM)である。ROMは、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)である。記憶部102は、制御部103の動作に用いられる情報と、制御部103の動作によって得られた情報とを格納する。
【0020】
制御部103は、一以上のプロセッサ、一以上の専用回路、又はこれらの組み合わせを含む。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)などの汎用プロセッサ、又は、GPU(Graphics Processing Unit)等の特定の処理に特化した専用プロセッサを含む。専用回路は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を含む。
【0021】
サーバ装置10の機能は、制御部103に含まれるプロセッサが制御プログラムを実行することにより実現される。制御プログラムは、プロセッサを制御部103として機能させるためのプログラムである。また、サーバ装置10の一部又は全ての機能が、制御部103に含まれる専用回路により実現されてもよい。また、制御プログラムは、制御部103に読取り可能な非一過性の記録・記憶媒体に格納され、制御部103が媒体から読み取ってもよい。
【0022】
端末装置12は、通信部121、記憶部122、制御部123、入力部125及び出力部126を有する。
【0023】
通信部121は、有線又は無線LAN規格に対応する通信モジュール、LTE、4G、5G等の移動体通信規格に対応するモジュール等を有する。端末装置12は、通信部121により、近傍のルータ装置又は移動体通信の基地局を介してネットワーク11に接続され、ネットワーク11経由でサーバ装置10と情報通信を行う。
【0024】
記憶部122は一以上の半導体メモリ、一以上の磁気メモリ、一以上の光メモリ、又はこれらのうち少なくとも2種類の組み合わせを含む。半導体メモリは、例えば、RAM又はROMである。RAMは、例えば、SRAM又はDRAMである。ROMは、例えば、EEPROMである。記憶部122は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する。記憶部122は、制御部123の動作に用いられる情報と、制御部123の動作によって得られた情報とを格納する。
【0025】
制御部123は、例えば、CPU、MPU(Micro Processing Unit)等の一以上の汎用プロセッサ、又は特定の処理に特化したGPU等の一以上の専用プロセッサを有する。あるいは、制御部123は、一以上の、FPGA、ASIC等の専用回路を有してもよい。制御部123は、制御・処理プログラムに従って動作したり、あるいは、回路として実装された動作手順に従って動作したりすることで、端末装置12の動作を統括的に制御する。そして、制御部123は、通信部121を介してサーバ装置10等と各種情報を送受し、本実施形態にかかる動作を実行する。
【0026】
端末装置12の機能は、制御部123に含まれるプロセッサが制御プログラムを実行することにより実現される。制御プログラムは、プロセッサを制御部123として機能させるためのプログラムである。また、端末装置12の一部又は全ての機能が、制御部123に含まれる専用回路により実現されてもよい。また、制御プログラムは、制御部123に読取り可能な非一過性の記録・記憶媒体に格納され、制御部123が媒体から読み取ってもよい。
【0027】
入力部125は、一以上の入力用インタフェースを含む。入力用インタフェースは、例えば、物理キー、静電容量キー、ポインティングデバイス、およびディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーンを含む。入力部125は、制御部123の動作に用いられる情報を入力する操作を受け付け、入力される情報を制御部123に送る。
【0028】
出力部126は、一以上の出力用インタフェースを含む。出力用インタフェースは、例えば、ディスプレイ、及びスピーカを含む。ディスプレイは、例えば、LCD又は有機ELディスプレイである。出力部126は、制御部123の動作によって得られる情報を出力する。
【0029】
サーバ装置10及び端末装置12において、それぞれ制御部103及び123が通信部101及び121を介して互いに情報を送受し、それぞれの機能を実現するための情報処理を実行する。また、サーバ装置10及び端末装置12では、それぞれ制御部103及び123が処理するための又は処理・生成した情報が適宜記憶部102及び122に格納される。また、端末装置12では、入力部125がオペレータの操作を受付て操作に応じた情報を制御部123へ送り、出力部126が制御部123から送られる情報を表示等によりオペレータに向け出力する。
【0030】
次いで、参照処方及び対象処方について説明する。
【0031】
[参照処方及び対象処方]
図2は、参照処方及び対象処方の例を示す図である。テーブル20、21は参照処方の例を示し、テーブル22は対象処方の例を示す。
【0032】
テーブル20には、複数の原料Mn(nは自然数)の分量の組合せである参照処方Ri(iは自然数)が示される。原料Mnの数は、例えば、100~数百である。参照処方Ri毎の各原料Mnに対応する数値は含有量(質量パーセント)を示し、数値「0」はその原料Mnが含有されないことを示す。また、原料Mnは、「パール・ラメ」、「顔料」、「体質粉体」及び「その他」といった4つの分類に分けられる。かかる分類は、化粧料の特性値、すなわち荷重値に対する各原料の関与の程度が同程度であることを基準として予め括られる分類である。例えば、オペレータが、所望の物性値毎に仮の分類を設定し、仮の分類毎に原料が物性値に対し同程度の関与を有することを検証して、その分類を確定させる。分類の数は任意に設定可能である。分類は、例えばテーブル21に示すように、さらに細分化されてもよい。また、各参照処方Riには、それぞれの場合に得られる化粧料の特性値としての「荷重値」が対応付けられる。このような参照処方Riと荷重値は、予め各参照処方Riにより試作品が生成され、各試作品の荷重値が測定されることにより得られる。
【0033】
テーブル21には、分類「パール・ラメ」、「顔料」及び「体質粉体」それぞれの、判定基準に応じた小分類の例が示される。小分類は、全成分、粒径、色、粘度等のレベルに応じた任意の分類である。例えば、分類「パール・ラメ」は、判定基準「全成分」、「色」及び「粒径」に応じて5段階に細分化される。すなわち、分類「パール・ラメ」は、「全成分」における母体と被覆がそれぞれ同一か否か、「色」が同一か干渉又は着色かに応じ、「粒径」が同程度あることを条件として、レベル1~レベル5に細分化される。また、例えば、分類「顔料」は判定基準「全成分」及び「色」に応じて2段階に細分化される。すなわち、分類「顔料」は「全成分」及び「色」が同一か否かに応じて、レベル1~レベル2に細分化される。さらに、例えば、分類「体質粉体」は判定基準「全成分」、「粒径」及び「形状」に応じて2段階に細分化される。すなわち、分類「体質粉体」は「全成分」が同一か否かに応じて、「粒径」と「形状」がそれぞれ同程度及び同一であることを条件に、レベル1~レベル2に細分化される。ここにおいて、原料の分類の組合せは、例えば、分類「パール・ラメ」の5段階、分類「顔料」の2段階、分類「体質粉体」の2段階を組み合わせることで、20通りの組合せが得られる。これに、無分類の原料の場合を追加すると、21通りの分類の組合せが可能となる。
【0034】
テーブル22には、参照処方と共通複数の原料Mn(nは自然数)の分量の組合せであって、参照処方Riには含まれない対象処方Rtが示される。対象処方Rtの各原料Mnに対応する数値は含有量(質量パーセント)を示し、数値「0」はその原料Mnが含有されないことを示す。
【0035】
次いで、上記のような参照処方から対象処方の類似処方を探索する手順を説明する。
【0036】
[情報処理システム1の動作例]
図3は、情報処理システム1の動作手順例を説明するためのフローチャート図である。
図3の動作手順は、類似処方を探索するための動作手順である。
【0037】
ステップS30において、サーバ装置10の制御部103は、対象処方の情報を取得する。例えば、オペレータが端末装置12に対象処方の情報を入力すると、端末装置12が対象処方の情報をサーバ装置10へ送る。端末装置12は、例えば、サーバ装置10から参照処方の情報を取得し、参照処方に含まれる原料名のリストを表示してオペレータに選択を促す。オペレータが原料を任意に選択するとともに、各原料の分量を設定する操作を実行すると、選択された原料と分量の情報を端末装置12がサーバ装置10へ送る。あるいは、オペレータが対象処方の原料と各原料の分量を予め任意に設計し、設計された対象処方を端末装置12からサーバ装置10へ送って、これをサーバ装置10が取得してもよい。
【0038】
ステップS31において、サーバ装置10の制御部103は、類似処方を導出する。制御部103は、複数の参照処方のうち、対象処方との、複数の原料の含有量を成分とするベクトル空間における距離が所定の距離を示す類似処方を選択する。制御部103は、テーブル20に示す参照処方Riのそれぞれについて、原料Mnそれぞれの含有量を成分とするベクトル空間における対象処方Rtとの距離を導出する。かかる距離は、例えば、コサイン類似度、ユークリッド距離等である。ここでは、コサイン類似度が用いられる。参照処方Riと対象処方Rtのコサイン類似度Cosθは、以下の式1により導出される。
【0039】
コサイン類似度は、0より大きく1以下の値をとり、値が大きいほどベクトル空間上での距離が近いことを示す。コサイン類似度はベクトル間の角度を算出するものであるため、ベクトル同士の大きさ(絶対値)の違いを考慮する必要がなく処方の類似度を評価できるという点で好適である。制御部103は、上記の式1により得られるコサイン類似度を大きい方から任意の数(例えば5個)選択することで、選択されたコサイン類似度に対応する類似処方を選択する。このとき制御部103は、対象処方にて任意の基準含有量(例えば、測定時の分解能において0~0.1質量パーセントの含有量)を有する原料と共通の分類の原料が基準含有量を有することを条件として、コサイン類似度が大きい方から所定数の類似処方を選択してもよい。そうすることで、対象処方により生成される化粧料の荷重値の、類似処方に対応する荷重値からの乖離を、抑制することが可能となる。
【0040】
ステップS32において、制御部103は、類似処方の情報を出力する。例えば、サーバ装置10は、類似処方の情報を端末装置12へ送り、端末装置12が類似処方の情報をオペレータに向けて表示する。オペレータは、所望の特性値が得られる可能性の高い、すなわち特性値に対する影響が大きい原料候補の探索が可能となる。
【0041】
図4は、類似処方の表示の例を示す図である。テーブル40は、対象処方に類似する上位5個の対象処方のリストを示す。テーブル40は、類似処方の類似度合いの「順位」、類似処方により生成される化粧料の「製品番号」及び「製品名」、類似処方の「処方識別番号」、類似処方により生成される化粧料の「荷重値」とその評価を示す「荷重ランク」、及びコサイン類似度の値を示す「類似度」という項目を含む。類似の順位が1位~5位までの類似処方における各項目の値が示される。ここでは、「順位」が2位の類似処方の「荷重値」45Nが不十分であり「荷重値ランク」がNGと判定されたことが示される。それ以外の類似処方は、「荷重値」が十分としてOKと判定されたことが示される。かかる表示によりオペレータは、対象処方に期待する特性値が類似処方の特性値に近似するか否かを確認することができる。近似が確認できたら、対象処方を微調整することにより、目標処方を探索することが可能となる。さらに、サーバ装置10は、類似処方の荷重値の平均、中央値等を導出してオペレータへ向けて出力してもよい。そうすることで、オペレータは、最適処方を探索する際により多くの情報を参考とすることができる。
【0042】
制御部103は、最適処方を探索する参照処方の範囲を任意の指標により限定することが可能である。かかる指標は、例えば、対象処方の測定した物性値と各参照処方の物性値との差分の平均である。制御部103は、対象処方の測定した物性値が入力されると、各参照処方との差分の平均を算出する。そして、差分が平均以下であるような参照処方を対象としてステップS31及びS32を実行する。このように、参照処方の範囲を類似する蓋然性が高い範囲にある程度限定することで、より効率よく最適処方を探索することが可能となる。
【0043】
[変形例1]
一の変形例では、参照処方及び対象処方が、原料の情報に加え、対応する化粧料の生成条件の情報を更に含む。生成条件は、例えば、化粧料の製造工程、化粧料を充填する容器の種類、充填方法、充填量、プレスの圧力、原料を混合する機器の種類等である。より具体的には、例えば、前記容器の種類としては、容器の材質、容器の形状、容器の大きさ(ラテラル方向)、容器の深さ等、充填方法としては、乾式プレス充填、スラリー充填等が挙げられる。サーバ装置10の制御部103は、参照情報が対象処方と同じ生成条件を有することを条件として、コサイン類似度が大きい方から所定数の類似処方を選択してもよい。原料の選択と含有量のみならず生成条件により化粧料の荷重値が左右される可能性を考慮したとき、生成条件が同じ類似処方を選択することで、対象処方により生成される化粧料の荷重値の、類似処方に対応する荷重値からの乖離を、さらに抑制することが可能となる。
【0044】
[参照処方の設定]
参照処方は、予めオペレータが各参照処方に基づき生成した化粧料の荷重値を測定し、参照処方に測定値を対応付けて端末装置12からサーバ装置10へ送ることで、記憶部102に格納される。このとき、オペレータが端末装置12を用いて参照処方に分類の情報を付加してもよい。オペレータは、参照処方に含まれる原料毎に、化粧料の荷重値に関与する程度に応じて、分類分けの情報を付与する。あるいは、参照処方の情報をサーバ装置10に設定した後に端末装置12で参照処方の情報を取得して参照処方の原料のリストを表示し、オペレータが原料のリストに分類の情報を付与してもよい。
【0045】
制御部103は、導出された最適処方を新たな参照処方として追加することで、参照処方の情報を更新することが可能である。そうした場合、新しく追加される参照処方ほど、最適処方探索時点でより多くの既存の参照処方が対象とされる。よって、ベクトル空間における類似処方のばらつきがより小さくなる。そこで、制御部103は、最適処方を探索する参照処方の範囲を物性値の平均により限定する際、平均を算出する対象を、直近の参照処方に限定する。例えば、1001番目の最適処方を探索する際に、既存の1000個の参照処方のうち、新しい方から900個の参照処方を対象とする。そうすることで、参照処方が類似する蓋然性がさらに高い範囲を対象として、より効率よく最適処方を探索することが可能となる。
【0046】
[変形例2]
別の変形例は、化粧料の種類に応じ異なる参照処方を用いて処方探索を行う場合に関する。
図5は、
図2で示したテーブル20のマスタテーブルの例を示す。このマスタテーブル50には、化粧料の種類、特性値、参照処方テーブルIDが対応付けて格納される。化粧料により製品の品質に関連して追求すべき特性値が異なる。例えば、アイシャドウ、リップスティック等のメイクアップ化粧料は、剛性を担保するための荷重値が評価の対象とされる。一方、例えば乳液、クリーム等の基礎化粧料は粘度が評価の対象とされる。サーバ装置10は、かかるマスタテーブル50を記憶部102に格納しておき、端末装置12によりオペレータに提示する。例えば、オペレータが開発すべき化粧料の種類を選択することで、サーバ装置10にて、選択された化粧料に応じた参照処方のテーブルが参照される。例えば、オペレータがアイシャドウを選択することで、サーバ装置10は参照処方のテーブル20を参照して、
図3のステップを実行する。あるいは、乳液又はクリームが選択された場合には、乳液又はクリームに対応して予めサーバ装置10に格納された参照処方のテーブルが参照される。かかる参照処方においては、乳液又はクリームを生成するための原料とその含有量の組合せと、それぞれの場合に得られる粘度とが対応付けて格納される。また、各原料は、粘度に関与する程度に応じて予め、例えば、「高分子」、「界面活性剤」、「高級アルコール」といった分類項目に分類される。このようにすることで、開発すべき化粧料の種類に応じて、簡便かつ高精度な最適処方探索が可能となる。
【0047】
本実施形態は、上述の例の他、種々の化粧料に適用可能である。化粧料は、例えば、マスカラ、リップグロス、アイライナー、ファンデーション、フェイスカラー、コンシーラー、化粧下地、メイクキープミスト等のメイクアップ化粧料、化粧水、美容液、パック、オールインワンジェル、ボディミルク、洗顔料、オイルクレンジング、クレンジングクリーム、クレンジングリキッド、日焼け止め、制汗剤等の基礎化粧料、シャンプー、リンス、コンディショナー、ヘアトリートメント、スタイリングウォーター、ヘアワックス、染毛剤、育毛剤等の頭髪用化粧料等であってもよい。また、各化粧料の生成に用いられる原料は、例えば粉体、水性成分、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、シリコーン油、炭化水素油、エーテル油、エステル油、天然動植物油剤および半合成油剤、エモリエント剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ゲル化剤及び増粘剤、褪色防止剤、酸化防止剤、消泡剤、美容成分(美白剤、細胞賦活剤、抗炎症剤、血行促進剤、皮膚収斂剤、抗脂漏剤等)、防腐剤、抗菌剤、香料、ビタミン類、アミノ酸類、核酸、ホルモン等である。さらに、本実施形態は、化粧料以外の多成分組成物、例えば皮膚外用剤、医薬品、食品、塗料、洗剤等にも適用可能である。
【0048】
上述のようなサーバ装置10の動作により、化粧料の開発において、簡便かつ高精度な処方探索が可能となる。
【0049】
上述において、サーバ装置10の動作を規定する処理・制御プログラムは、クラウドサーバ等に格納されていて、ネットワーク11経由でサーバ装置10にダウンロードされてもよいし、コンピュータに読取り可能な非一過性の記録・記憶媒体に格納され、サーバ装置10が媒体から読み取ってもよい。
【0050】
上述した動作手順は、一の情報処理装置により実行される場合も、各工程の一部又は全部が複数の情報処理装置により実行される場合も、本実施形態の範囲に含まれる。また、複数の情報処理装置が用いられる場合、互いに通信可能に接続されていてもよいし接続されていなくてもよい。複数の情報処理装置が互いに通信可能に接続されていない場合、一の情報処理装置による情報処理の結果は、例えば記憶媒体に格納されて他の情報処理装置により読み出されることで、他の情報処理装置に共有されてもよい。
【0051】
上述において、実施形態を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段、ステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0052】
10:サーバ装置
11:ネットワーク
12:端末装置
101、121:通信部
102、122:記憶部
103、123:制御部
125:入力部
126:出力部