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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159280
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】計画装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20241031BHJP
【FI】
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075156
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 剛史
(72)【発明者】
【氏名】山根 史之
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC06
5L050CC06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】資源のサプライチェーン全体の計画を最適化可能とする計画装置を提供する。
【解決手段】エネルギーシステムにおいて、計画装置は、電力調達源たる電力系統40、卸電力取引市場52及び相対電力54からの電力情報、水素製造装置における製造情報、貯蔵装置における貯蔵情報、供給装置からの供給情報及び輸送装置から配送情報を受信する取得受信部と、前記各情報に基づいて全体計画の最適化の演算条件を設定する設定部と、全体計画をなす問題について所定の条件に基づいて二以上の問題群に分割する問題分割部と、異なる特性をもつ二以上の計算機資源を分割した問題群それぞれに対してその特性に応じて割り当て、受信した問題群毎の演算結果を結合して全体計画を生成するリソース割当部と、計算機資源を割り当てた問題群及び演算条件を計算機資源に対して送信し該計算機資源から演算結果を受信する問題送受信部と、を具備する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力調達源、燃料物質製造装置、燃料物質貯蔵装置、燃料物質供給装置及び燃料物質配送装置と接続され、
前記電力調達源から電力供給を受けて前記燃料物質製造装置が燃料物質を製造する製造計画、前記燃料物質貯蔵装置が前記燃料物質を貯蔵する貯蔵計画、前記燃料物質供給装置が前記燃料物質を供給する供給計画、及び前記燃料物質配送装置が前記燃料物質を配送する配送計画を含む全体計画を最適化する計画装置であって、
前記電力調達源からの電力供給量を含む電力情報、前記燃料物質製造装置における製造量を含む製造情報、前記燃料物質貯蔵装置における貯蔵量を含む貯蔵情報、前記燃料物質供給装置からの供給量を含む供給情報、及び前記燃料物質配送装置から配送量を含む配送情報を受信する情報受信部と、
前記電力情報、前記製造情報、前記貯蔵情報、前記供給情報及び前記配送情報に基づいて、前記全体計画の最適化の演算条件を設定する設定部と、
前記全体計画をなす前記製造計画、前記貯蔵計画、前記供給計画及び前記配送計画に関する問題について、所定の条件に基づいて二以上の問題群に分割する問題分割部と、
異なる特性をもつ二以上の計算機資源を、前記分割した問題群それぞれに対してその特性に応じて割り当てるリソース割当部と、
前記計算機資源を割り当てた問題群及び前記演算条件を前記計算機資源に対して送信し、該計算機資源から演算結果を受信する問題送受信部と、
前記受信した問題群ごとの演算結果を結合して前記全体計画を生成する結合部と、
を具備する計画装置。
【請求項2】
前記問題分割部が分割する問題は、前記燃料物質の製造コスト、前記燃料物質の供給コスト、前記燃料物質の製造時における環境負荷度、及び前記燃料物質の供給時における環境負荷度の少なくとも二以上の問題を分割することを特徴とする請求項1記載の計画装置。
【請求項3】
前記全体計画について、前記電力調達源からデマンドレスポンスによる電力調達の余地を探索するデマンドレスポンス供出可能量探索部をさらに備えた請求項1記載の計画装置。
【請求項4】
過去に生成した前記全体計画を記憶する記憶部と、
生成した前記全体計画と前記過去に生成した前記全体計画とに基づいて次回の前記全体計画の立案の要否を判定する計画演算部とをさらに備えた請求項1記載の計画装置。
【請求項5】
過去に生成した前記全体計画及びその実績に基づく学習結果を記憶する記憶部をさらに備え、
前記設定部は、前記学習結果に基づいて、計画長、貯蔵装置の時刻毎の仮定残量上限値、貯蔵装置の時刻毎の仮定残量下限値、補機装置の時刻毎の仮定固定値のいずれか一以上を含む演算条件を設定することを特徴とする請求項1記載の計画装置。
【請求項6】
前記リソース割当部は、前記計算機資源を前記分割した問題群それぞれに割り当てた後、割り当てた前記計算機資源に適合した形式に前記問題群を修正することを特徴とする請求項1記載の計画装置。
【請求項7】
前記問題送信部が送信する前記計算機資源を割り当てた問題群及び前記演算条件を暗号化する暗号化部をさらに具備する請求項1記載の計画装置。
【請求項8】
前記問題分割部は、前記全体計画のうち、前記燃料物質製造装置が製造した燃料物質を前記燃料物質貯蔵装置及び前記燃料物質供給装置により供給する計画、及び前記燃料物質配送装置により燃料物質を配送する計画について、問題分割、問題縮小、問題の一部省略、計画長短縮及び計画長分割のいずれか一以上を行うことを特徴とする請求項1記載の計画装置。
【請求項9】
前記問題分割部が分割する問題は、卸電力取引市場からの最大買電可能電力予測、卸電力取引市場への最大売電可能電力予測、卸電力取引市場からの平均買電単価予測、卸電力取引市場への平均売電単価予測、燃料物質需要家の燃料物質需要予測値の少なくとも一つを確率分布または信頼区間に係る問題を含むことを特徴とする請求項1記載の計画装置。
【請求項10】
前記問題分割部が分割する問題は、さらに、再エネ発電予測、燃料物質需要家への輸送装置が供給装置に戻り充填待ち状態になるまでの予測時間の少なくとも一つを確率分布または信頼区間に係る問題を含むことを特徴とする請求項1記載の計画装置。
【請求項11】
前記問題分割部が分割する問題は、さらに、蓄電池残量の時刻毎の下限の仮定値と上限の仮定値に係る問題を含むことを特徴とする請求項1記載の計画装置。
【請求項12】
前記電力情報、前記製造情報、前記貯蔵情報に関する問題について、前記電力調達源からデマンドレスポンスによる電力調達の余地を探索するデマンドレスポンス供出可能量探索部をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の計画装置。
【請求項13】
前記燃料物質の需要者たる需要装置における所要電力または熱、前記燃料物質の消費量、前記輸送装置が拠点の供給装置に到着する時刻、輸送装置が拠点の供給装置から受ける水素供給量の少なくとも一つを含む予測情報を生成する予測部をさらに備え、
前記設定部は、さらに前記予測情報に基づいて前記全体計画を立案する演算条件を設定することを特徴とする請求項1記載の計画装置。
【請求項14】
前記全体計画、前記電力情報、前記製造情報、前記貯蔵情報、前記供給情報、前記配送情報、前記予測情報、前記問題分割部による分割結果、前記リソース割当部による割り当て結果のうち少なくとも一以上を表示装置に表示可能な画面表示情報を生成する表示情報生成部をさらに備えたことを特徴とする請求項1~13のいずれか1項に記載の計画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、資源サプライチェーン全体の計画立案を行う計画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
新たなクリーンエネルギーとして、水素エネルギーが注目されつつある。電力と水を入力として、水素製造装置によって燃料物質としての水素が生成される。水素を入力として、水素発電装置によって電力と熱が生成される。すなわち、水素製造装置、水素貯蔵装置、水素発電装置(これらを以下、水素システムと呼ぶ)によって、電力を水素に変換し再び電力に変換することができる。これらの装置群を電力網に接続することで、他の発電設備からの供給過多の場合は電力網から電力を吸い取り(この場合電力需要となる)、需要過多の場合は電力網に電力を与える(この場合電力供給となる)ことが可能となり、電力網の安定化に寄与することができる。
【0003】
また、自然エネルギー由来の再生エネルギー発電設備(以下、再エネ発電設備と称する。)にも注目が集まっている。世界各国で国内電源の再エネ発電設備の割合を大幅に高める動きが出てきており、気象条件に応じて大きく変動する再エネ発電を安定化させる手段として、水素システムへの期待が高まっている。
【0004】
一方、水素の利活用による脱炭素化のためには、利用時のみでなく製造時や貯蔵・輸送時なども含め、一貫した取り組みが必要となる。そのため、水素サプライチェーン全体を一気通貫した計画を策定することが好ましいが、予測、最適化、学習など計算すべき問題規模が莫大となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/196889号
【特許文献2】特表2015-517144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、資源としての水素の利活用による脱炭素化を進めるために資源のサプライチェーン全体の計画を策定するには、必要とする計算量が膨大となる問題がある。実施形態の計画装置は、かかる課題を解決するためになされたもので、資源のサプライチェーン全体の計画を最適化可能とする計画装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の計画装置は、電力調達源、燃料物質製造装置、燃料物質貯蔵装置、燃料物質供給装置及び燃料物質配送装置と接続され、電力調達源から電力供給を受けて燃料物質製造装置が燃料物質を製造する製造計画、燃料物質貯蔵装置が燃料物質を貯蔵する貯蔵計画、燃料物質供給装置が燃料物質を供給する供給計画、及び燃料物質配送装置が燃料物質を配送する配送計画を含む全体計画を最適化する計画装置である。電力調達源からの電力供給量を含む電力情報、燃料物質製造装置における製造量を含む製造情報、燃料物質貯蔵装置における貯蔵量を含む貯蔵情報、燃料物質供給装置からの供給量を含む供給情報、及び燃料物質配送装置から配送量を含む配送情報を受信する情報受信部と、電力情報、製造情報、貯蔵情報、供給情報及び配送情報に基づいて、全体計画の最適化の演算条件を設定する設定部と、全体計画をなす製造計画、貯蔵計画、供給計画及び配送計画に関する問題について、所定の条件に基づいて二以上の問題群に分割する問題分割部と、異なる特性をもつ二以上の計算機資源を、分割した問題群それぞれに対してその特性に応じて割り当てるリソース割当部と、計算機資源を割り当てた問題群及び演算条件を計算機資源に対して送信し、該計算機資源から演算結果を受信する問題送受信部と、受信した問題群ごとの演算結果を結合して全体計画を生成する結合部と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の計画装置が計画を立案するエネルギーシステムの構成例を示すブロック図である。
図2】第1実施形態の計画装置の構成を示すブロック図である。
図3】第1実施形態の計画装置の計画立案における変数を示すブロック図である。
図4】第1実施形態の計画装置の全体動作を示すフローチャートである。
図5】第1実施形態の計画装置の分割動作を示すフローチャートである。
図6A】第1実施形態の計画装置の分割動作の例を示す概念図である。
図6B】第1実施形態の計画装置の分割動作の例を示す概念図である。
図7】第1実施形態の計画装置の分割動作の例を示す概念図である。
図8】第1実施形態の計画装置の割当動作の例を示す概念図である。
図9】第2実施形態の計画装置の動作例を示すフローチャートである。
図10】第3実施形態の計画装置の動作例を示すフローチャートである。
図11】第4実施形態の計画装置の動作例を示すフローチャートである。
図12】第5実施形態の計画装置の動作例を示すフローチャートである。
図13】第6実施形態の計画装置の動作例を示すフローチャートである。
図14】第7実施形態の計画装置の動作例を示す概念図である。
図15】第8実施形態の計画装置の構成を示すブロック図である。
図16】第8実施形態の計画装置の動作例を示すフローチャートである。
図17】第9実施形態の計画装置の画面表示情報の例を示す図である。
図18】第9実施形態の計画装置の画面表示情報の例を示す図である。
図19】第9実施形態の計画装置の画面表示情報の例を示す図である。
図20】第9実施形態の計画装置の画面表示情報の例を示す図である。
図21】第9実施形態の計画装置の画面表示情報の例を示す図である。
図22】第9実施形態の計画装置の画面表示情報の例を示す図である。
図23】第9実施形態の計画装置の画面表示情報の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
燃料物質としての水素の利活用による脱炭素化のためには、利用時のみでなく製造時や貯蔵・輸送時なども含め、一貫した取り組みが必要となる。水素など資源のサプライチェーン全体を一気通貫した計画を策定することが好ましいが、計算すべき問題の規模が莫大となってしまう。そこで、実施形態の計画装置では、計画立案の演算に最適な分散処理を実現する。
【0010】
(エネルギーシステムの構成)
図1に示すように、実施形態のエネルギーシステム1は、水素製造装置20、貯蔵装置22、圧縮装置24、供給装置26、再生エネルギー発電装置(再エネ発電装置)44、蓄団地装置46を具備する水素製造システム50と、これらと相互接続された計画装置10を有する。エネルギーシステム1は、供給装置26から供給される水素を輸送する輸送装置28、輸送装置28から水素の供給を受ける需要装置30を配下に有してもよく、計画装置10とさらに相互接続されてもよい。計画装置10は、さらに卸電力取引市場52、相対電力54、予測サービス60と接続されてもよい。この実施形態では、管理対象たる燃料物質(資源)が水素である例に説明するが、これには限定されない。
【0011】
また、計画装置10は、1以上の計算機資源70が接続されている。水素などの資源のサプライチェーン全体についての計画立案は、計算すべき問題が多岐多様にわたり膨大な数となる。そのため、単一の計算機資源で賄うことは現実的ではなく、問題の最適化演算を複数の計算機資源に分散することが好ましい。実施形態の計画装置10は、演算すべき問題を分割し、複数の計算機資源70に演算させることができる。
【0012】
計算機資源70は、ノイマン型コンピュータや、FPGA(Field-Programmable Gate Array:現場で書き換え可能な回路アレイ)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit:特定用途向け集積回路)、GPU(Graphics Processing Unit:画像処理特化演算装置)またはこれらの組み合わせなどによる従来型計算機、量子計算機(光量子などを含むゲート型、アニーリング型など)などにより実現することができる。ここで、従来型計算機において、量子現象を考慮した手法(シミュレーテッド分岐アルゴリズム)などを採用してもよい。演算を分散する計算機資源70は、ハードウェア資源としてのコンピュータに限定されず、ソフトウェア資源としての演算ツールなどを含んでもよい。計算機資源70は、計画装置10から物理的に異なる場所に配置されてもよいし、コンピュータシステムとして計画装置10と一体をなしてもよい。
【0013】
計算機資源70は、計画装置10が送信した問題について最適化演算し、演算結果を返す機能を有している。計算機資源70は、計画装置10に返す演算結果を暗号化する機能を有してもよい。
【0014】
計画装置10は、水素製造装置20、貯蔵装置22、圧縮装置24、供給装置26、電力系統40、再エネ発電装置44及び蓄電池装置46から取得したパラメータなどに基づいて、水素製造装置20への電力供給量や、電力の供給元及び供給量などの最適化を図る水素供給計画などを作成する。計画装置10は、さらに、輸送装置28、需要装置30、卸電力取引市場52、相対電力54からパラメータを取得して水素供給計画などを作成してもよい。計画装置10による計画策定は、計算機資源70と協働して行われる。
【0015】
水素製造装置20(製造装置)は、電力を用いて燃料物質としての水素を製造する要素である。水素製造装置20は、電力系統40、再エネ発電装置44及び蓄電池装置46のいずれか一以上から供給された電力を利用して水素を製造する。水素製造装置20は、供給を受けた単位時間平均電力や製造した単位時間水素量などの情報を計画装置10に提供する。水素製造装置20は、計画装置10が作成した計画に基づいて水素を製造する。
【0016】
なお、燃料物質は水素に限定されない。例えば、アンモニア、メタン、メタノール、ナフサ、ガソリン、灯油、ジェット燃料(SAF)、軽油、重油、エタノール、エチレン、LPG、一酸化炭素などでも構わない。これらの燃料物質は、水素製造後や水素貯蔵後や水素輸送後に水素から変換したものでも良いし、水素製造装置の代わりに電力から直接これらの燃料物質を製造する装置を用いて製造した燃料物質でもよい。また、輸入された燃料物質や他の手段で製造された燃料物質との混合も対象とする。
【0017】
貯蔵装置22は、水素を貯蔵する要素である。貯蔵装置22は、水素製造装置20が製造した水素を貯蔵する。貯蔵装置22は、貯蔵水素量や圧縮装置24への供給量などの情報を計画装置10に提供する。
【0018】
圧縮装置24は、電力を用いて貯蔵装置22に貯蔵された水素を圧縮する要素である。圧縮装置24は、水素を圧縮して気体水素から圧縮水素へ変換することができる。
【0019】
供給装置26は、圧縮装置24が圧縮した水素を輸送装置28に供給(充填)する要素である。供給装置26は、例えば、輸送装置28を介して水素ユーザたる需要装置30へ水素を供給する水素ステーションなどが例示される。また、燃料物質の供給とは、バッファタンクへの供給、トレーラーやカードルへの供給、燃料需要家(例えば燃料供給ステーション)や燃料電池自動車や燃料電池や混焼タービン(例えば水素混焼タービン)や専焼タービン(例えば水素専焼タービン)への供給を含んでもよい。
【0020】
輸送装置28は、供給装置26から供給される水素を需要装置30まで輸送して供給する要素である。輸送装置28は、例えば、タンクローリーなどの輸送用車両や貨物船舶、鉄道、パイプラインなどである。輸送装置28は、輸送装置28における貯蔵水素量や輸送量などの情報を計画装置10に提供する。
【0021】
需要装置30は、水素を利用する要素である。需要装置30は、例えば水素を一定期間貯蔵する貯蔵装置、輸送装置28から受け取った水素を他の要素に供給する供給装置、同じく受け取った水素を用いて発電する発電装置、同じく受け取った水素を用いて温水や蒸気を製造する温水・蒸気製造装置などを含んでいる。需要装置30としての供給装置は、FCVやFCフォークリフトなどに充填する水素ステーションなどが例示される。需要装置30としての発電装置は、FCや水素ガスタービンなどが例示される。需要装置30としての温水・蒸気製造装置は、水素ボイラなどが例示される。
【0022】
電力系統40は、卸電力市場や電力相対契約先などの卸電力取引市場52や相対電力54などから電力を調達する要素である。電力系統40は、エネルギーシステム1の各要素に電力を供給する。
【0023】
また、電力系統40は、電力事業者による複数の装置を有する電力系統であっても構わない。電力系統40は、一般に電力を販売するが、他の電力事業者などから電力を購入する立場を持っていてもよい。電力系統40は、供給する電力の単位時間平均電力などの情報を計画装置10に提供する。
【0024】
再生エネルギー発電装置(再エネ発電装置)44は、例えば風力発電や太陽光発電などのように電力系統40よりも環境負荷を低く抑えて水素製造装置20や圧縮装置24などに電力を供給する要素である。再エネ発電装置40は、水素製造装置20や圧縮装置24などに対して販売する電力を供給するが、電力系統40に対して販売する電力を供給可能に構成してもよい。しかし、再エネ発電装置44は、一般に購入電力を受け入れることはない。再エネ発電装置44は、供給した単位時間平均電力などの情報を計画装置10に提供する。
【0025】
蓄電池装置46は、水素製造装置20や圧縮装置24に供給される電力を補助する要素である。蓄電池装置46は、電力系統40や再エネ発電装置70から電力の供給を受けて充電することができる。蓄電池装置46は、電力系統40に対して電力を販売する立場を持ってもよい。蓄電池装置46は、単位時間平均電力などの情報を計画装置10に提供する。蓄電池装置46は、補助装置であるから必須ではなく、省略してもよい。
【0026】
(計画装置の構成)
図2を参照して、実施形態の計画装置10の構成を説明する。計画装置10は、CPUやメモリなどからなるコンピュータにより実現することができる。図2に示すように、実施形態の計画装置10は、取得受信部110、設定部120、DR供出可能量探索部130、問題送受信部140、計画演算部150、問題分離部160、リソース割当部170、ユーザインタフェース180、表示情報生成部185及び記憶部190を備えている。
【0027】
取得受信部110は、水素製造装置20、貯蔵装置22、圧縮装置24、供給装置26、輸送装置28、及び需要装置30から情報を受信可能なインタフェースである。取得受信部110は、例えば、水素製造装置20から貯蔵装置22へ送られる単位時間水素量(製造情報)、貯蔵装置22の貯蔵水素量(貯蔵情報)、貯蔵装置22から圧縮装置24へ送られる単位時間水素量、圧縮装置24から供給装置26へ送られる単位時間水素量、供給装置26から輸送装置28へ送られる単位時間水素量などの情報(供給情報)、配送装置としての輸送装置28から需要装置30へ送られる単位時間水素量などの情報(配送情報)などを取得する。
【0028】
取得受信部110は、電力系統40、再エネ発電装置44及び蓄電池装置46から情報を受信してもよい。取得受信部110は、例えば、電力系統40との間の単位時間平均電力、再エネ発電装置44から供給される単位時間平均電力、蓄電池装置46との間の単位時間平均電力、水素製造装置20やその補機への単位時間平均電力、圧縮装置24への単位時間平均電力などの情報(電力情報)を取得することができる。
【0029】
取得受信部110は、さらに、卸電力取引市場52や相対電力54から約定情報などの情報を受信してもよい。また、取得受信部110は、予測サービス60から情報を取得するように構成してもよい。
【0030】
設定部120は、電力情報、製造情報、貯蔵情報、供給情報及び配送情報などに基づいて、資源のサプライチェーン全体の計画の最適化に用いるパラメータや演算条件を設定する演算ブロックである。設定部120は、例えばユーザインタフェース180や取得受信部110を介して受信した情報を計画演算のパラメータとして設定することができる。設定されたパラメータは、記憶部190に記憶される。
【0031】
DR供出可能量探索部130は、電力調達源たる電力系統40、卸電力取引市場52及び相対電力54からの電力調達についてデマンドレスポンスによる調達の余地を探索する演算ブロックである。DR供出可能量探索部130は無くても良い。
【0032】
問題送受信部140は、計画立案の結果得られたパラメータをエネルギーシステム1の各要素に送信可能なインタフェースである。また、問題送受信部140は、計画立案に際して分割した処理などを計算機資源70などに処理させるため、所定の演算式やパラメータなどを当該他の計算機資源に送信することができる。
【0033】
計画演算部150は、水素供給(利用)に係る計画を作成する演算装置である。計画演算部150は、水素製造装置20、貯蔵装置22、圧縮装置24、供給装置26,輸送装置28、需要装置30、電力系統40、再エネ発電装置44、蓄電池装置46などから送られる情報を利用して、数理最適化などの手法により水素利用に関する計画を作成する。最適化の方法としては、非線形計画法やメタヒューリスティックな方法(遺伝的アルゴリズムなど)が例示される。計画演算部150は、電力調達元それぞれの調達実績値及び電力需要先それぞれの消費又は貯蔵実績値に基づいて、電力調達元と電力需要先との相互の電力流通量を推定してもよい。また、計画演算部150は、電力流通量の推定結果に基づいて、環境負荷度の初期値を設定してもよい。
【0034】
計画演算部150が生成し最適化する資源サプライチェーン全体の計画は、例えば、電力調達源から電力供給を受けて水素製造装置20が水素を製造する製造計画、水素製造装置20が製造した水素を貯蔵装置22が貯蔵する貯蔵計画、圧縮装置24や供給装置26により水素を供給する供給計画、及び輸送装置28により水素を配送する配送計画を含む全体計画が例示される。すなわち、資源サプライチェーン全体の計画(問題)は、燃料物質たる水素の製造コスト、燃料物質たる水素の供給コスト、燃料物質たる水素の製造時における環境負荷度、及び燃料物質たる水素の供給時における環境負荷度の少なくとも二以上の問題を含み得る。
【0035】
問題分割部160は、計画演算部150が演算すべき問題を所定の条件に従って分割処理する演算ブロックである。すなわち、問題分割部160は、例えば全体計画をなす製造計画、貯蔵計画、供給計画及び配送計画などの計画単位や時系列単位などに例示される条件に従い、全体の計画を二以上の問題群に分割する。問題分割部160が分割した問題は、問題送受信部140を通じて計算機資源70に送信して最適化演算させ、問題送受信部140を通じて当該計算機資源70から演算結果を受信することにより、計画演算部150の演算の一部を分散処理させる。
【0036】
リソース割当部170は、問題分割部160が分割した問題それぞれに対し、その特性に応じた計算機資源を割り当てる演算ブロックである。リソース割当部170は、例えば、(1)計算のスループット、(2)通信可能なデータ量、(3)計算可能な問題の難易度、(4)データ通信スループット、(5)計算機の従量料金、(6)計算に向いている問題の形式、の観点から分割した問題に適した計算機資源を割り当てる。リソース割当部170は、計画装置10に接続された計算機資源70の中から割り当てを行ってもよいし、計画演算部150及び計算機資源70の中から割り当てを行ってもよい。
【0037】
ユーザインタフェース180は、計画装置10に対し情報を入力し、又は計画装置10が作成した情報を図示しないディスプレイ装置などによりユーザに提供するインタフェースである。ユーザインタフェース180は、例えばキーボード、ディスプレイ装置、マウス、タッチパネルなどが例示される。ユーザインタフェース180は、計画演算部150の演算結果についてディスプレイ装置などを通じてユーザに提供することができる。
【0038】
表示情報生成部185は、計画演算部150の演算結果についてディスプレイ装置としてのユーザインタフェース180に表示させるための画像データ(画面表示情報)を生成する演算ブロックである。表示情報生成部185は、例えば記憶部190に記憶されたテンプレートに計画演算部150の演算結果を適用して画像データを生成することができる。表示情報生成部185が生成する画面表示情報としては、全体計画、電力情報、製造情報、貯蔵情報、供給情報、配送情報、予測情報、問題分割部160による分割結果、リソース割当部170による割り当て結果などが例示される。
【0039】
記憶部190は、取得受信部110が取得した情報を記憶し、計画演算部150の演算結果を記憶する。記憶部190は、一般的な記憶媒体の形態でもよいし、データベースの構造を有してもよい。記憶部190は、例えば不揮発性メモリやハードディスク、メモリディスクなどにより実現される。
【0040】
(計画立案の問題とパラメータ)
図3を参照して、実施形態の計画装置10が計画立案する際に演算する問題について説明する。図3は、エネルギーシステム1の各要素の問題における独立変数などの例を示している。計画装置10の設定部120は、各要素の入出力の組み合わせ毎に個別の独立変数を設定する。設定部120がこれらの独立変数を使って各装置の入出力変数を定義し、この変数を使って数理最適化を行うことで、発電個所と電力消費個所の電力経路履歴を取得したり、水素利用に係る電力供給の最適化などを実現したりすることが可能になる。すなわち、計画の立案が可能になる。以下、図3に例示される独立変数などについて説明する。
【0041】
系統電力や再エネや蓄電池に関する独立変数や従属変数を以下に示す。
market_SELL(t):時刻tでの、卸電力取引市場52へ売る電力の単位時間平均電力[kW]
market_PCHS(t):時刻tでの、卸電力取引市場52から受ける電力の単位時間平均電力[kW]
020_SELL(t):時刻tでの、相対電力54へ売る電力の単位時間平均電力[kW]

020_PCHS(t):時刻tでの、相対電力54から受ける電力の単位時間平均電力[kW]
GR_PCHS(t):時刻tでの、電力系統40から受ける電力の単位時間平均電力[kW]
GR_SELL(t):時刻tでの、電力系統40へ売る電力の単位時間平均電力[kW]
PV(t):時刻tでの、再エネ発電装置44から供給する電力の単位時間平均電力[kW]
BAT_DG(t):時刻tでの、蓄電池装置46から供給する電力の単位時間平均電力[kW]
BAT_CG(t):時刻tでの、蓄電池装置46へ充電する電力の単位時間平均電力[kW]
BAT_SOC(t):時刻tでの、蓄電池装置46のSOC(State of Charge:残容量)[kWh](SOCは一般的には%の単位だがここではkWhとする)
【0042】
水素製造装置20に関する独立変数や従属変数を以下に示す。
EC(t):時刻tでの、水素製造装置20へ供給する電力の単位時間平均電力[kW]
EC_AUX(t):時刻tでの、水素製造装置20の補機へ供給する電力の単位時間平均電力[kW]
EC_OUT(t):時刻tでの、水素製造装置20から貯蔵装置22へ送られる水素の単位時間水素量[Nm
【0043】
貯蔵装置22に関する独立変数や従属変数を以下に示す。
BUF_TNK(t):時刻tでの、貯蔵装置22での水素の貯蔵水素量[Nm
BUF_TNK_OUT(t):時刻tでの、貯蔵装置22から排出される水素の単位時間水素量[Nm
【0044】
圧縮装置24に関する独立変数や従属変数を以下に示す。
CMP_AUX(t):時刻tでの、圧縮装置24に供給する電力の単位時間平均電力[kW]
CMP_OUT(t):時刻tでの、圧縮装置24から排出される水素の単位時間水素量[Nm
【0045】
輸送装置28に関する独立変数や従属変数を以下に示す。
SHIP(m,t):時刻tでの、輸送装置24mへ供給(充填)される水素の単位時間水素量[Nm
SHIP_TO_DEP(d,m,t):時刻tで、輸送装置24mによって需要装置30dへ輸送をする場合に1、そうでない場合に0となる変数
【0046】
取得受信部110は、需要装置30から以下の情報を取得する。なお、予測値は、予測サービス60から取得してもよい。これらの情報の確率分布または信頼区間は、資源サプライチェーン全体の計画をなす問題となる。
DEM(d,t):時刻tでの、需要装置dの需要予測値[Nm
ηRET_TIME(d,t):時刻tで輸送装置mが需要装置dへの供給又は充填終了してから供給装置へ帰着し、供給装置からの充填待ち状態になるまでの予測時間[分]
ηH2(d,t):時刻tでの、需要装置dへの水素の販売単価予測値[円/Nm
【0047】
取得受信部110は、卸電力取引市場52および相対電力54から以下の情報を取得する。なお、予測値は、予測サービス60から取得してもよい。
ηMAX_MARKET_PCHS(t):時刻tでの、卸電力取引市場からの単位時間平均電力あたりの最大買電可能電力予測値[kW]
ηMAX_MARKET_SELL(t):時刻tでの、卸電力取引市場への単位時間平均電力あたりの最大売電可能電力予測値[kW]
ηMARKET_PCHS_UNIT_PRICE(t):時刻tでの、卸電力取引市場からの単位時間平均電力あたりの買電単価予測値[円/kW]
ηMARKET_SELL_UNIT_PRICE(t):時刻tでの、卸電力取引市場への単位時間平均電力あたりの売電単価予測値[円/kW]
【0048】
(あらかじめ設定する情報)
設定部120は、記憶部19に以下のパラメータの設定を行う。これらのパラメータは、ユーザインタフェース180を介して記憶部19に記憶させてもよい。
T:計画する最大時刻(計画単位時間の最大数)
UNIT:計画単位時間[分] (60分以下を想定)
I:計画対象とするDR商品の最大数
PV(t):時刻tでの、発電可能な単位時間あたりの平均電力予測値[kW]
max_past:ベースラインを計算する過去最大の時刻数
M:輸送装置の最大数
BAT_SOC_UPPER_ASMP(t):時刻tで問題分割をする場合の、蓄電池装置46のSOC許容上限[kWh]
BAT_SOC_LOWER_ASMP(t):時刻tで問題分割をする場合の、蓄電池装置46のSOC許容下限[kWh]
BUF_TNK_UPPER_ASMP(t):時刻tで問題分割をする場合の、貯蔵装置22での水素の貯蔵水素量許容上限[Nm
BUF_TNK_LOWER_ASMP(t):時刻tで問題分割をする場合の、貯蔵装置22での水素の貯蔵水素量許容下限[Nm
【0049】
(電力に関する制約式の例)
計画演算部150が評価関数に対する最適化を実施するにあたって、設定部120は、取得受信部110が再エネ発電装置44、蓄電池装置46、水素製造装置20それぞれから取得した情報に基づき、以下に例示される制約式を設定する。設定式は記憶部19に記憶される。
【0050】
【数1】
数式1は、各要素の電力の関係式である。
【0051】
【数2】
数式2は、再エネ発電装置44の発電量がその予測値以下となることを意味する。再エネ発電装置44は、発電量を絞ることが想定されるからである。なお、平均電力予測値SPV(t)は、再エネ発電装置の発電量の予測誤差を加味して、再エネ発電装置の予測の確率分布を考慮してもよい。
【0052】
【数3】
数式3は、水素製造装置20の補機の電力消費の関係を示す。すなわち、補機の電力消費は、水素製造装置20が水素を製造するために用いる電力の関数で表される。ここで、関数fec_auxは、
ec_aux:水電解装置の補機電力を計算する関数
として定義される。
【0053】
【数4】
数式4は、圧縮装置24の電力消費の関係を示す。圧縮装置24は、起動直後に大きな電力を要する場合があることから時刻も影響する。そのため、時刻tが引数になっている。ここで関数fcmp_auxは、
cmp_aux:圧縮装置の補機電力を計算する関数
として定義される。
【0054】
(水素に関する制約式の例)
計画演算部15が評価関数に対する最適化を実施するにあたって、計画演算部15は、水素情報取得部14が取得した情報に基づき、以下の制約式を設定する。設定式は記憶部19に記憶される。以下の数式において、t=1,…,T、m=1,…,Mである。
【0055】
【数5】
数式5は貯蔵装置22における水素の貯蔵量の時間的変化の関係を示す。
【0056】
【数6】
数式Xは蓄電池装置46における電力量の貯蔵量の時間的変化の関係を示す。
【0057】
【数7】
数式XはxBUF_TNK_UPPER_ASMP(t)とxBUF_TNK_LOWER_ASMP(t)が設定されている場合にのみ有効とする。貯蔵装置22での水素の貯蔵水素量が上下限の間に入るための制約を示す。
【0058】
【数8】
数式XはxBAT_SOC_UPPER_ASMP(t)とxBAT_SOC_LOWER_ASMP(t)が設定されている場合にのみ有効とする。蓄電池装置46でのSOCが上下限の間に入るための制約を示す。
【0059】
【数9】
数式9は、供給装置26から輸送装置28に供給される水素量の関係を表している。
【0060】
(計画演算部による計画立案の評価関数)
計画演算部150は、上記例示した制約式を利用して評価関数に対する最適化を実施し、最適解を算出する。評価関数は、コストや温室効果ガス排出量やこれらの重み付き和などでも構わない。この場合、最適化により、評価関数を最小化することになる。最適化の方法としては、混合整数線形計画法やメタヒューリスティックな方法(遺伝的アルゴリズムなど)などが例示される。
【0061】
(計画装置の全体動作)
図4を参照して、計画装置10の全体動作を説明する。取得受信部110は、エネルギーシステム1の各要素、予測サービス60から取得した各種予測値、記憶部190に記憶された過去における各要素のパラメータを取得し、計画立案の準備として記憶部190に記憶する(S200)。
【0062】
設定部120は、記憶部190に記憶された各要素のパラメータ、各種予測値、過去における各要素のパラメータを用いて、計画立案時の条件を設定する(S210)。計画立案時の条件は、初期条件、終了条件、目標などを含むことができる。
【0063】
計画演算部150及び計算機資源70は、設定部120が設定した条件に基づいた制約式を用いて所定の評価関数に対する最適化を実施し、最適解を算出する。算出結果は記憶部190に記憶される(S220)。このとき、表示情報生成部185が記憶部190に記憶された算出結果を用いて画像データを生成し、ユーザインタフェース180を通じてユーザに提供してもよい。なお、DR供出可能量探索部130が、デマンドレスポンスに供出可能であるか否か探索処理を実行してもよい(S230)。
【0064】
この段階で、所定の終了時刻を経過している場合(S240のYes)、処理を終了する。所定の終了時刻を経過していない場合(S240のNo)、所定の計画立案時刻に達していなければ(S250のNo)、そのまま待機する(S240,S250)。所定の計画立案時刻に達した場合(S250のYes)、取得受信部110による情報取得処理から処理を繰り返す(S200~S230)。
【0065】
(計画立案の動作)
続いて、図5を参照して、図4のステップS220における実施形態の計画立案動作について説明する。ここでは、資源サプライチェーン全体の要素を二つの問題群に分割するものとして説明する。
【0066】
資源のサプライチェーン全体の計画を分散(分割)して最適化する場合、資源のサプライチェーンを構成する要素を分割する方法と、計画対象の時間範囲を時系列で分割する方法が考えられる。要素を分割する方法は、資源サプライチェーン全体のうち特定の要素を境に問題を分割する。時系列で分割する方法は、資源サプライチェーン全体の要素の全問題について特定の時刻を境にそれより前半と後半とに分割する。分割数は任意である。
【0067】
分割する方法の選択は、例えば輸送装置28の需要予測値DSHIPを基準とする方法が例示される。予測値DSHIPが存在する場合、予測誤差が大きいと効率的な計画を計算できなくなる。そこで、予測値DSHIPの予測誤差が所定の閾値未満であるか否かを基準として、予測誤差が閾値未満であれば要素を分割し、予測誤差が閾値以上であれば時系列で分割することが好ましい。
【0068】
分割方法の選択は、予測誤差の大小には限定されない。過去の分割・演算結果・問題内容を機械学習によって学習しておき、その学習結果を利用し、どちらの分割方法を選択した方がよいかを求めてもよい。
【0069】
問題分割部160は、記憶部190にあらかじめ記憶された輸送装置28の需要予測値DSHIPを取得し、予測誤差と所定の閾値とを比較する(S300)。需要予測値DSHIPの予測誤差が所定の閾値未満である場合(S301のYes)、問題分割部160は、資源サプライチェーン全体の要素のうち分割する要素(分割する境界線)を決定する(S302)。すなわち、問題分割部160は、要素分割を選択する。
【0070】
資源のサプライチェーン全体の計画を分散(分割)して最適化する場合、分割された問題群の境界部分の取り扱いが問題となる。すなわち、分割後のそれぞれの問題を独立に最適化する必要がある。また、分割した問題群それぞれにおいて最適化した場合に、その境界線がつながる必要がある。
【0071】
問題分割の境界線は、値が急激に大きく変化し得る設備は好ましくない。すなわち、時間軸に対して連続的に値が変化する設備が好ましく、例えば貯蔵装置22や蓄電池装置46が例示される。以下の説明では、貯蔵装置22を問題分割の境界線として定義する。
【0072】
次に、問題分割部160は、分割要素の入力側の要素からさかのぼり、接続される要素の変数を抽出し、問題1とする。すなわち、貯蔵装置22から水素製造装置20、再エネ発電装置44、蓄電池装置46、のように要素を遡って各要素の変数を抽出し、これらの変数を含む問題を問題1と決定する(S303)。
【0073】
続いて、問題分割部160は、分割要素の出力側の要素からくだり、接続される要素の変数を抽出し、問題2とする。すなわち、貯蔵装置22から圧縮装置24、供給装置26、のように要素を下って各要素の変数を抽出し、これらの変数を含む問題を問題2と決定する(S304)。
【0074】
次に、問題分割部160は、問題1および問題2それぞれに対して、分割要素の変数を追加する(S305)。すなわち、問題1および問題2それぞれをなす変数に、貯蔵装置22に対応する変数(xBUF_TNK_OUT(t))を追加する。これにより、問題1および問題2それぞれに、貯蔵装置22の共通する変数が組み込まれる。
【0075】
さらに、問題分割部160は、問題1に対して、分割要素から予測値DSHIPまでの変数(XBUF_TNK_OUT、XCMP_OUT、XSHIP)と固定値DSHIPを追加する(S306)。
【0076】
問題分割部160は、問題1と問題2を交差する変数について、値を仮定して固定化する(S307)。すなわち、問題1と問題2の境界にあたる貯蔵装置22の変数の値を所定の値に固定する。
【0077】
ところで、分割した問題において境界線をある値に完全に一致させようとすると、最適化計算の際に矛盾が生じて解を得られない場合がある。これを避けるためには、問題を分割する境界線において許容される幅を設けることが効果的である。
【0078】
例えば、予測値DSHIPに基づいて、貯蔵装置22の目標上下限を設けてもよい。予測値DSHIPが大きい時は、貯蔵装置22の貯蔵量を使い切っていることが多いと予想されるから、貯蔵量の上下限を低い値に設定することができる。なお、予測値DSHIPが存在しない場合は、貯蔵装置22からの出力XBUF_TNK_OUTを予測値の仮定値として仮定してもよい。
【0079】
境界線として好適な水素貯蔵装置22や蓄電池装置46に対するパラメータの許容幅として、水素貯蔵装置22における貯蔵量の時刻毎の上限XBUF_TNK_UPPER_ASMP(t)及び下限XBUF_TNK_LOWER_ASMP(t)、蓄電池装置46における残量の時刻毎の上限XBAT_SOC_UPPER_ASMP(t)及び下限XBAT_SOC_LOWER_ASMP(t)などを定義した問題を設定し得る。問題分割部160は、問題1および問題2にこれらの許容幅を盛り込んでもよい。
【0080】
需要予測値DSHIPの予測誤差が所定の閾値以上である場合(S301のNo)、問題分割部160は、資源サプライチェーンの全体動作のうち分割する時刻を決定する(S308)。すなわち、問題分割部160は時刻分割を選択する。分割時刻の決定は、人間が設定してもよいし、過去の分割時刻・演算結果・問題内容を機械学習によって学習しておき、その学習結果に基づいて分割時刻を選択してもよい。
【0081】
次に、分割時刻より前の時刻における資源サプライチェーン全体の変数を抽出し、問題1と決定する(S309)。
【0082】
続いて、分割時刻より後の時刻における資源サプライチェーン全体の変数を抽出し、問題2とする(S310)。
【0083】
次いで、リソース割当部170は、問題分割部160が分割した問題1および問題2それぞれについて、演算する計算機資源を割り当てる(S311)。割り当てられる計算機資源は、計画演算部150および計算機資源70から選択される。
【0084】
分割した問題それぞれに対する割り当てを行うと、問題送受信部140は、割り当てた計画演算部150および計算機資源70に対して演算すべき問題を送信する(S320)。問題送受信部140は、演算すべき問題を送信する際、必要なパラメータを併せて送信してもよい。
【0085】
演算すべき問題を受信した計画演算部150および計算機資源70は、所定の制約式を利用して評価関数に対する最適化を実施し、最適解を算出する(ステップS325)。計画演算部150および計算機資源70は、算出結果をリソース割当部170に送信する。
【0086】
問題送受信部140は、計画演算部150および計算機資源70から算出結果を受信する(ステップS330)。
【0087】
リソース割当部170は、計画演算部150および計算機資源70それぞれから受信した問題1および問題2の算出結果をマージ(結合)して計画立案全体の最適解を算出し、記憶部190に出力する(ステップS340)。
【0088】
算出した最適解にエラーがある場合(ステップS350のNo)、問題分割から処理を繰り返す(ステップS300~ステップS340)。算出結果に問題がない場合、表示情報生成部185は記憶部190に記憶された最適解をユーザインタフェース180に出力する。
【0089】
このように、実施形態の計画装置10は、計画立案の演算を分割して、複数の計算機資源に分配した上で並列的に最適解を算出し、得られた最適解をマージして計画立案全体の最適解を算出する。したがって、資源サプライチェーン全体の問題の最適解を効率的に得ることができる。
【0090】
(問題分割の手法)
続いて、図6A図6B図7を参照して、実施形態の計画装置における問題分割の手法を説明する。
【0091】
図6Aは、資源サプライチェーン全体の要素を複数の問題に分割する概念図、図6Bは、資源サプライチェーン全体の要素を複数の問題に分割する場合の各変数時系列変化を示している。図6Aおよび図6Bは、図5のステップS302~S306による問題分割に対応する。図6Aに示すように、問題分割部160は、エネルギーシステム1のうち貯蔵装置22をバッファとして、水素製造に関係する水素製造装置20、貯蔵装置22、電力系統40、再エネ発電装置44、蓄電池装置46、卸電力取引市場52および相対電力54における独立変数などを含む問題1と、製造した水素の配送に関係する貯蔵装置22、圧縮装置24、供給装置26、輸送装置28a~28mおよび需要装置30a~30dにおける独立変数などの問題2とに分割する。このとき、圧縮装置24に供給する電力の単位時間平均電力(xCMP_AUX(t))を仮に所定の値に固定したうえで、問題1と問題2とをそれぞれ分割して最適化演算する。また、図6Bに示すように、問題分割部160は、予測値DSHIPに基づいて、貯蔵装置22の上下限値(XBUF_TNK_UPPER_ASMP(t)、XBUF_TNK_LOWER_ASMP(t))を設定することができる。
【0092】
図7に示す例は、資源サプライチェーンの流れを時系列的に複数の問題に分割するものであり、図5のステップS307~S309による問題分割に対応する。問題分割部160は、図3に示す資源サプライチェーンの計画対象について、ある時刻t1より前の問題1と、時刻t1より後の問題2とに分割する。このとき全ての要素(変数)を省略せずまとめて計算対象とする。
【0093】
問題分割を行う具体的な方法は、最適化(整数計画問題、混合整数計画問題、非線形計画問題、メタヒューリスティックなど)、学習(教師あり学習、強化学習のような教師無し学習、ディープラーニングなど)などを用いてもよい。または、パラメータのみ学習を利用し、実際の問題分割は最適化を利用するように、学習と最適化とを組み合わせてもよい。
【0094】
(リソース割当の手法)
図8を参照して、計算機資源としてのリソースの割当について説明する。図8は、リソース割当部170がリソースを割り当てる基準の一例を示している。
【0095】
図8に示す例では、(1)計算のスループット、(2)通信可能なデータ量、(3)計算可能な問題の難易度、(4)データ通信スループット、(5)計算機の従量料金、(6)計算に向いている問題の形式、をリソース割り当ての基準としている。すなわち、リソースを割り当てる問題について、計算のスループットが高速・中速・低速のいずれであるか、通信可能なデータ量が高速・中速・低速のいずれであるか、さらに計算可能な問題の難易度が完全・困難のいずれであるかを指標として、割り当てるリソースの種類が絞り込まれる(図中「A」)。
【0096】
さらに、図中Aの指標においても、データ通信スループットが高速・中速・低速のいずれであるか、計算機の従量料金が高額・中額・低額のいずれであるか、さらに問題の形式が「2次混合整数線形計画」、「2次混合整数非線形計画」、「1次混合整数線形計画」、「1次混合整数非線形計画」、「非線形最小二乗問題」のいずれであるかを指標として、割り当てるリソースの種類がさらに絞り込まれる(図中「B」)。さらに絞り込むための指標を設けてもよい(図中「C」)。
【0097】
実施形態のリソース割当部170は、図8に示すような6つの指標がなすマトリクスのどこに該当するかを判定し、指標の組み合わせに最適なリソースを割り当てる。割り当てるリソースは、計画演算部150や計算機資源70などから選択できる。
【0098】
リソース割当を行う具体的な方法は、最適化(整数計画問題、混合整数計画問題、非線形計画問題、メタヒューリスティックなど)でも、学習(教師あり学習、強化学習のような教師無し学習、ディープラーニングなど)を使ってもよい。すなわち、最適化の手法によりリソースの適否を判定してもよいし、学習により得られた最適なリソースを採用するように構成してもよい。同様に、パラメータのみ学習を利用し、実際のリソース割当は最適化を利用するように組み合わせてもよい。
【0099】
リソース割り当てに用いる指標は、図8に例示するものには限定されない。例えば、監視制御の場所から実際の計算機資源の場所までの通信遅延を評価に入れてもよい。また、ツールを用いたシミュレーションを行う場合において、ツールのリソースに与える計算負荷を考慮してリソースの適否を判定し、割り当ててもよい。例えば、3D-CAEのように高負荷な処理は、量子コンピュータのように処理能力の高いリソースを割り当てるなどが考えられる。
【0100】
また、リソースの割り当てにおいて、古典コンピュータにて識別器の訓練を行い、その結果を量子コンピュータに送るようなリソース割当を行ってもよい。ここで、リソースが量子コンピュータの場合、準備状態だけでなく、実処理であるユニタリ変換はもちろん、測定時間を考慮してもよい。また、量子コンピュータへデータを転送する場合に状態準備の処理時間も考慮してよい。
【0101】
配送計画に関しては、結果が0か1の2値のいずれかである変数のみの問題に帰着することから、量子コンピュータへのリソース割当の重みを強くしてもよい。また、計算機資源としての分散コンピュータ間でデータのやり取りを行ってもよい。例えば、古典コンピュータから量子コンピュータへデータを転送する場合において、状態準備の方法を指定可能としてもよい。
【0102】
リソースが量子コンピュータの場合、量子コンピュータから確率的な結果が返されることがある。その場合、図5におけるステップS320の問題送信、ステップS325の計画演算処理、ステップS330の結果受信の手順を、複数回を繰り返すことがあり得る。そこで、当該手順の繰り返し回数の上限を設定したり、予め繰り返し回数を見積っておき、その見積もり値を考慮してもリソース割り当てを行ってもよい。
【0103】
なお、分散対象とするリソースへのユーザ認証を設定可能としてもよい。
【0104】
この実施形態の計画装置によれば、資源のサプライチェーン全体の最適化を図る計画立案の要素を加味した処理の分割を行うので、規模の大きい計画立案を実現することができる。特に、資源の製造と配送とを分割した問題として分割するので、最適化の演算を円滑に実行することができる。
【0105】
また、実施形態の計画装置によれば、分割した問題の処理に要する速度、帯域、演算の性質などに応じてリソースの割り当てを行うので、全体の計画立案に関する演算を最適化することができる。
【0106】
(第2実施形態)
図9を参照して、第2実施形態の計画装置について説明する。図9は、第2実施形態に係る動作例を示している。この実施形態は、第1実施形態の計画装置に学習結果を加味したものである。以下の説明において、共通する要素や動作について共通の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0107】
取得受信部110は、エネルギーシステム1の各要素、予測サービス60から取得した各種予測値、記憶部190に記憶された過去における各要素のパラメータを取得し、計画立案の準備として記憶部190に記憶する(S200)。
【0108】
ここで、計画装置10の計画立案処理が初回ではない場合(ステップS202のNo)、リソース割当部170は、記憶部190に記憶された前回の立案計画の算出結果と取得受信部110が新たに取得した各要素、各種予測値、各要素のパラメータとを用いて学習演算を実行する(ステップS204)。学習結果は記憶部190に記憶される。
【0109】
計画装置10の計画立案処理が初回の場合(ステップS202のYes)や初回ではなく計画演算部150が学習演算を実行した場合(ステップS204)、設定部120は、記憶部190に記憶された各要素のパラメータ、各種予測値、過去における各要素のパラメータを用いて、計画立案時の条件を設定する(S210)。計画立案時の条件は、初期条件、終了条件、目標などを含むことができる。
【0110】
計画演算部150及び計算機資源70は、設定部120が設定した条件に基づいた制約式を用いて所定の評価関数に対する最適化を実施し、最適解を算出する。算出結果は記憶部190に記憶される(S220)。このとき、表示情報生成部185が記憶部190に記憶された算出結果を用いて画像データを生成し、ユーザインタフェース180を通じてユーザに提供してもよい。なお、DR供出可能量探索部130が、デマンドレスポンスに供出可能であるか否か探索処理を実行してもよい(S230)。
【0111】
この段階で、所定の終了時刻を経過している場合(S240のYes)、処理を終了する。所定の終了時刻を経過していない場合(S240のNo)、問題分割部140は、算出結果と記憶部190に記憶された学習結果とに基づいて、新たな計画立案の要否を判定する(ステップS245)。例えば、学習した前回以前(過去)の計画立案結果と今回の計画立案結果との差異がない場合は、所定の計画立案時刻であっても計画立案を省略することができる。
【0112】
判定の結果、計画立案を省略する場合(S255のNo)、そのまま待機する(S240,S255)。計画立案を実行する場合(S255のYes)、取得受信部110による情報取得処理から処理を繰り返す(S200~S230)。
【0113】
この実施形態によれば、計画立案結果を学習するので、独立変数などに変化が少ないような場合に演算処理を省略し、計算機資源を節約することができる。
【0114】
(第3実施形態)
図10を参照して、第3実施形態の計画装置について説明する。図10は、第3実施形態に係る動作例を示している。この実施形態は、第1実施形態の計画装置に学習結果を加味して学習結果を計画演算に用いるものである。以下の説明において、共通する要素や動作について共通の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0115】
取得受信部110は、エネルギーシステム1の各要素、予測サービス60から取得した各種予測値、記憶部190に記憶された過去における各要素のパラメータを取得し、計画立案の準備として記憶部190に記憶する(S200)。
【0116】
ここで、計画装置10の計画立案処理が初回ではない場合(ステップS202のNo)、リソース割当部170は、記憶部190に記憶された前回の立案計画の算出結果と取得受信部110が新たに取得した各要素、各種予測値、各要素のパラメータとを用いて学習演算を実行する(ステップS204)。学習結果は記憶部190に記憶される。
【0117】
計画装置10の計画立案処理が初回の場合(ステップS202のYes)や初回ではなく計画演算部150が学習演算を実行した場合(ステップS204)、設定部120は、記憶部190に記憶された各要素のパラメータ、各種予測値、過去における各要素のパラメータ、及びこれらの学習結果を用いて、計画立案時の条件を設定する(S212)。計画立案時の条件は、初期条件、終了条件、目標などを含むことができる。
【0118】
計画演算部150及び計算機資源70は、設定部120が設定した条件に基づいた制約式を用いて所定の評価関数に対する最適化を実施し、最適解を算出する。算出結果は記憶部190に記憶される(S220)。このとき、表示情報生成部185が記憶部190に記憶された算出結果を用いて画像データを生成し、ユーザインタフェース180を通じてユーザに提供してもよい。なお、DR供出可能量探索部130が、デマンドレスポンスに供出可能であるか否か探索処理を実行してもよい(S230)。
【0119】
この段階で、所定の終了時刻を経過している場合(S240のYes)、処理を終了する。所定の終了時刻を経過していない場合(S240のNo)、所定の計画立案時刻に達していなければ(S250のNo)、そのまま待機する(S240,S250)。所定の計画立案時刻に達した場合(S250のYes)、取得受信部110による情報取得処理から処理を繰り返す(S200~S230)。
【0120】
この実施形態によれば、計画立案結果を学習し、取得した予測値、実績値、過去データに加えて学習結果を用いて計画立案するので、独立変数などに変化が少ないような場合に演算処理を高速化することができる。また、学習結果を用いるので、より精度の高い計画立案を実現することができる。
【0121】
(第4実施形態)
続いて、図11を参照して、第4実施形態の計画立案動作について説明する。この実施形態の計画立案動作は、リソース割当を実施後、割り当てたリソースに適した問題形式に問題を修正する動作を追加したものである。以下の説明において、第1~第3の実施形態と共通する動作については共通の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0122】
設定部120が計画立案時の条件を設定すると、問題分割部160は、図3に示す独立変数などの各問題を分割する。問題分割部160は、予測値DSHIPの有無や予測誤差の閾値との差などに基づいて分割方法を選択し、要素または時系列で複数の問題に分割する(S300~S310)。
【0123】
次いで、リソース割当部170は、問題分割部160が分割した問題1および問題2それぞれについて、演算する計算機資源を割り当てる(S311)。割り当てられる計算機資源は、計画演算部150および計算機資源70から選択される。
【0124】
分割された問題それぞれにリソースが割り当てられると、リソース割当部170は、割り当てたリソースの特性に応じて割り当てた問題の形式を修正する(ステップS312)。例えば、リソース割当結果として計算機資源として量子コンピュータが選択された場合、量子コンピュータの演算特性に適した問題形式に修正することが望ましい。リソース割当部170は、予め記憶部190に記憶した問題修正アルゴリズムに基づいて、割り当てたリソースに応じて分割した問題を修正する。
【0125】
分割した問題それぞれに対する割り当てを行い、問題の修正を実行されると、問題送受信部140は、割り当てた計画演算部150および計算機資源70に対して演算すべき問題を送信する(S320)。問題送受信部140は、演算すべき問題を送信する際、必要なパラメータを併せて送信してもよい。
【0126】
演算すべき問題を受信した計画演算部150および計算機資源70は、所定の制約式を利用して評価関数に対する最適化を実施し、最適解を算出する(ステップS325)。計画演算部150および計算機資源70は、算出結果をリソース割当部170に送信する。
【0127】
問題送受信部140は、計画演算部150および計算機資源70から算出結果を受信する(ステップS330)。
【0128】
リソース割当部170は、計画演算部150および計算機資源70それぞれから受信した算出結果をマージして計画立案全体の最適解を算出し、記憶部190に出力する(ステップS340)。
【0129】
算出した最適解にエラーがある場合(ステップS350のNo)、問題分割から処理を繰り返す(ステップS300~ステップS340)。算出結果に問題がない場合、表示情報生成部185は記憶部190に記憶された最適解をユーザインタフェース180に出力する。
【0130】
このように、実施形態の計画装置10は、計画立案の演算を分割して、複数の計算機資源に分配した上で並列的に最適解を算出し、得られた最適解をマージして計画立案全体の最適解を算出する。したがって、資源サプライチェーン全体の問題の最適解を効率的に得ることができる。
【0131】
また、この実施形態では、割り当てたリソースに応じて問題を修正するので、より効率的な計画立案を実現することができる。
【0132】
(第5実施形態)
続いて、図12を参照して、第5実施形態の計画立案動作について説明する。この実施形態の計画立案動作は、リソース割当を実施した問題を計算機資源に送信する前段に暗号化処理動作を追加したものである。以下の説明において、第1~第4の実施形態と共通する動作については共通の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
設定部120が計画立案時の条件を設定すると、問題分割部160は、図3に示す独立変数などの各問題を分割する。問題分割部160は、予測値DSHIPの有無や予測誤差の閾値との差などに基づいて分割方法を選択し、要素または時系列で複数の問題に分割する(S300~S310)。
【0133】
次いで、リソース割当部170は、問題分割部160が分割した問題それぞれについて、演算する計算機資源を割り当てる(S311)。割り当てられる計算機資源は、計画演算部150および計算機資源70から選択される。
【0134】
分割した問題それぞれに対する割り当てを行うと、リソース割当部170は、分割した問題を所定のアルゴリズムにより暗号化する(ステップS314)。暗号化の方式は、割り当てた計算機資源70それぞれが復号可能なものとする。分割した問題に加えて、必要なパラメータや演算条件をも暗号化してもよい。
【0135】
問題送受信部140は、計画演算部150および計算機資源70に対して暗号化された演算すべき問題を送信する(S320)。問題送受信部140は、演算すべき問題を送信する際、暗号化された必要なパラメータや演算条件を併せて送信してもよい。
【0136】
演算すべき問題を受信した計画演算部150および計算機資源70は、所定の制約式を利用して評価関数に対する最適化を実施し、最適解を算出する(ステップS325)。計画演算部150および計算機資源70は、算出結果を問題送受信部140に送信する。このとき、計画演算部150および計算機資源70は、算出した最適解に所定の暗号化を施してもよい。
【0137】
問題送受信部140は、計画演算部150および計算機資源70から算出結果を受信する(ステップS330)。リソース割当部170は、受信した算出結果が暗号化されていたら、併せて復号化する。
【0138】
リソース割当部170は、計画演算部150および計算機資源70それぞれから受信した算出結果をマージして計画立案全体の最適解を算出し、記憶部190に出力する(ステップS340)。
【0139】
算出した最適解にエラーがある場合(ステップS350のNo)、問題分割から処理を繰り返す(ステップS300~ステップS340)。算出結果に問題がない場合、表示情報生成部185は記憶部190に記憶された最適解をユーザインタフェース180に出力する。
【0140】
このように、実施形態の計画装置10は、計画立案の演算を分割して、複数の計算機資源に分配した上で並列的に最適解を算出し、得られた最適解をマージして計画立案全体の最適解を算出する。したがって、資源サプライチェーン全体の問題の最適解を効率的に得ることができる。また、この実施形態の計画装置10は、計算機資源に送信する問題を暗号化するので、計算機資源70への問題の送信が例えばインターネットなどを介して行われる場合に、セキュリティを確保することができる。
【0141】
(第6実施形態)
続いて、図13を参照して、第6実施形態の計画装置の全体動作を説明する。図13に示す計画装置の動作例は、基本計画立案において、DR供出可能量の探索を併せて実行するものである。以下の説明において、第1実施形態における全体動作と共通するステップについては共通の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0142】
取得受信部110は、エネルギーシステム1の各要素、予測サービス60から取得した各種予測値、記憶部190に記憶された過去における各要素のパラメータを取得し、計画立案の準備として記憶部190に記憶する(S200)。
【0143】
設定部120は、記憶部190に記憶された各要素のパラメータ、各種予測値、過去における各要素のパラメータを用いて、計画立案時の条件を設定する(S210)。計画立案時の条件は、初期条件、終了条件、目標などを含むことができる。
【0144】
計画演算部150及び計算機資源70は、デマンドレスポンスに供出可能であるか否かの探索処理を実行すると共に、設定部120が設定した条件に基づいた制約式を用いて所定の評価関数に対する最適化を実施し、最適解を算出する。算出結果は記憶部190に記憶される(S222)。このとき、表示情報生成部185が記憶部190に記憶された算出結果を用いて画像データを生成し、ユーザインタフェース180を通じてユーザに提供してもよい。
【0145】
この段階で、所定の終了時刻を経過している場合(S240のYes)、処理を終了する。所定の終了時刻を経過していない場合(S240のNo)、所定の計画立案時刻に達していなければ(S250のNo)、そのまま待機する(S240,S250)。所定の計画立案時刻に達した場合(S250のYes)、取得受信部110による情報取得処理から処理を繰り返す(S200~S230)。
【0146】
この実施形態の計画装置によれば、デマンドレスポンスに供出可能であるか否かの探索処理を、最適解の算出と併せ行うので、デマンドレスポンスによる電力供給を受ける場合に適切な最適解を得ることができる。
【0147】
(第7実施形態)
続いて、図14を参照して、計画立案における問題の分割の適用例を説明する。図14は、第7実施形態の計画装置が計画立案対象とする輸送装置及び需要装置を示す図であり、複数の輸送装置及び複数の需要装置に対して複数の輸送装置営業所が存在する例である。
【0148】
図14に示すように、大規模で複雑な供給・配送問題の最適解を演算する場合、その計算量が膨大となる。ここで、輸送装置営業所とは、例えば、乗務員の事務所(勤務開始、終了場所)であったり、トレーラーヘッド(トラック)の置き場所であったりをイメージしている。
【0149】
このような大規模で複雑な問題における最適解を演算するため、問題分割部160は、問題分割、問題縮小、問題の一部省略、計画長短縮、計画長分割のいずれか一以上を行う。すなわち、計算量を分割したり省略したりすることで、大規模で複雑な問題の準最適解を、最適な組み合わせ結果とみなすことが可能になり、資源のサプライチェーン全体の計算負荷を抑えることが可能になる。
【0150】
(第8実施形態)
次に、図15及び図16を参照して、第8実施形態の計画装置について説明する。第8実施形態の計画装置は、予測部175をさらに備えたものである。以下の説明において、第1実施形態と共通する要素及び動作については共通の符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0151】
図15に示すように、この実施形態の計画装置11は、予測部175を備えている。予測部175は、計画演算部150の計画立案に必要な独立変数などのうち、取得受信部110が取得できないものを予測する演算ブロックである。予測部175が予測するデータ(予測情報)としては、燃料物質たる水素の需要者たる需要装置における所要電力または熱、燃料物質たる水素の消費量、輸送装置が拠点の供給装置に到着する時刻、輸送装置が拠点の供給装置から受ける水素供給量、の少なくとも一つが例示される。
【0152】
続いて、図16を参照して、計画装置11の全体動作を説明する。取得受信部110は、エネルギーシステム1の各要素、予測サービス60から取得した各種予測値、記憶部190に記憶された過去における各要素のパラメータを取得し、計画立案の準備として記憶部190に記憶する(S200)。
【0153】
予測部175は、取得受信部110が取得したパラメータなどを用いて、計画演算部150や計算機資源70が計画立案するために必要なデータを予測演算する(S206)。
【0154】
設定部120は、記憶部190に記憶された各要素のパラメータ、各種予測値、過去における各要素のパラメータ、予測部175が予測したデータを用いて、計画立案時の条件を設定する(S210)。計画立案時の条件は、初期条件、終了条件、目標などを含むことができる。
【0155】
計画演算部150及び計算機資源70は、設定部120が設定した条件に基づいた制約式を用いて所定の評価関数に対する最適化を実施し、最適解を算出する。算出結果は記憶部190に記憶される(S220)。このとき、表示情報生成部185が記憶部190に記憶された算出結果を用いて画像データを生成し、ユーザインタフェース180を通じてユーザに提供してもよい。なお、DR供出可能量探索部130が、デマンドレスポンスに供出可能であるか否か探索処理を実行してもよい(S230)。
【0156】
この段階で、所定の終了時刻を経過している場合(S240のYes)、処理を終了する。所定の終了時刻を経過していない場合(S240のNo)、所定の計画立案時刻に達していなければ(S250のNo)、そのまま待機する(S240,S250)。所定の計画立案時刻に達した場合(S250のYes)、取得受信部110による情報取得処理から処理を繰り返す(S200~S230)。
【0157】
この実施形態の計画装置によれば、計画立案に必要なデータを予測して不足する情報を補完することができる。
【0158】
(第9実施形態)
図17図23を参照して、第9実施形態の計画装置が生成する画面表示情報について説明する。実施形態の計画装置10,11の表示情報生成部185は、計画演算部150や計算機資源70が計算した最適解について、ディスプレイ装置としてのユーザインタフェース180に表示可能な画面表示情報を生成する。画面表示情報は、例えば記憶部190に記憶された雛形としてのテンプレートに最適解を示すデータを当てはめることで生成される。
【0159】
表示情報生成部185は、問題分割部160による問題の分割や、リソース割当部170によるリソース割当の状態を示す画面表示情報を生成してもよい。図17図19は、リソース割当部170によるリソース割当の状態を示す画面表示情報の一例を示している。
【0160】
図17に示す画面表示情報は、リソース毎の状態表示画面を表示する情報の例である。情報表示画面は、計算機資源としてのリソースA~Gと、リソース毎の平均スループット実績、信頼性、不具合発生の有無、割り当てられた問題の種類、割り当てる根拠のパラメータなどとが対応付けている。状態表示画面において、割り当てられなかったリソースは縦方向の平行線で示されている。平行線による表示は、例えば灰色などの色表示で表されてもよい。
【0161】
状態表示画面の平均スループット実績は、リソース毎にスループットの遅延量を示している。図17に示す例では、該当リソースに対して、スループットの期待値に対して大きく遅延している場合を反時計方向に傾斜した平行線、遅延し続けている場合を反時計方向及び時計方向に傾斜した互いに交わる平行線、期待通りの場合を時計方向に傾斜した平行線にて示されている。平行線による表示は、例えば赤色、黄色、水色などの色表示で表されてもよい。
【0162】
信頼性は、リソース毎の信頼性を示しており、実績でも予測でもこれらの混合でも良い。図17に示す例では、期待通りの信頼性の場合に時計方向に傾斜した平行線、信頼性が期待値を下回っている場合に反時計方向に傾斜した平行線にて示されている。平行線による表示は、例えば水色、赤色などの色表示で表されてもよい。
【0163】
不具合発生の有無は、リソース毎の不具合の発生の有無を示している。図17に示す例では、不具合の発生がない場合に時計方向に傾斜した平行線、不具合が発生している場合に反時計方向に傾斜した平行線にて示されている。平行線による表示は、例えば水色、赤色などの色表示で表されてもよい。
【0164】
割り当て問題は、分割されリソース毎に割り当てられた問題の種類を示している。図17に示す例では、リソースAに一次混合整数による製造計画問題、リソースBに一次混合整数による配送計画問題、リソースDに一次混合整数による配送計画問題、リソースFに発電予測問題が割り当てられている。リソースC,E,Gには割り当てがない。
【0165】
マウスやタッチパネルなどの入力デバイスとしてのユーザインタフェース180を通じて割当問題の表示ボタンが選択されると、当該リソースに割り当てた問題を示す表示画面情報が状態表示画面として表示される。図18は、リソースに割り当てた問題を示す表示画面情報の一例を示している。
【0166】
図18に示す例では、評価式minE、制約式p(t),q(t)、変数説明ボタン、不具合分析ボタンなどが表示されている。ユーザインタフェース180を通じて変数説明ボタンが選択されると、問題の中で使われている変数の説明が表示される。図19は、変数の説明の一例を示す図である。図19に示す例では、変数Eが製造に要する電力を示し単位が30分平均kWであること、変数p(t)が卸電力取引市場から購入した電力を示し単位が30分平均kWであること、変数q(t)がオンサイト再エネ発電装置の発電電力予測値を示し単位が30分平均kWであることが示されている。
【0167】
ユーザインタフェース180を通じて不具合発生している問題の不具合分析ボタンが選択されると、不具合が本発明の計画装置か、もしくは、何かしらのリソースにて分析が実施され、その結果、不具合と推定される箇所が提示される。図20は、不具合分析結果の一例を示す図である。図20に示す例では、制約式p(t),q(t)に矛盾が生じていることが示されている。
【0168】
画面表示情報は、リソース毎の状態表示画面を示す表示画面情報は、ユーザインタフェース180を通じて平均スループット実績、信頼性、割当根拠パラメータの各項目を選択すると、サブタイトルが表示されるように構成されている。図21は、平均スループット実績が選択されサブタイトルとして計算のスループットとデータ通信のスループットが表示されている様子を示している。図22は、信頼性が選択されサブタイトルとして平均復旧時間(MTTR)、平均故障間隔(MTBF)、稼働率、故障率曲線が表示されている様子を示している。図23は、割当根拠パラメータが選択されサブタイトルとして計算のスループット、通信可能なデータ量、計算可能な問題の難易度、データ通信スループット、計算機の従量料金が表示されている様子を示している。
【0169】
このように、この実施形態の計算装置によれば、リソース割当部170によるリソース割当の状態をユーザに提示することができるので、ユーザがユーザインタフェース180を通じてリソース割当を手動で適正化することができる。
【0170】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0171】
1…エネルギーシステム、10,11…計画装置、110…取得受信部、120…設定部、130…DR供出可能量探索部、140…送信部、150…計画演算部、160…問題分割部、170…リソース割当部、180…ユーザインタフェース、185…表示情報生成部、190…記憶部、20…水素製造装置、22…貯蔵装置、24…圧縮装置、26…供給装置、28…輸送装置、30…需要装置、40…電力系統、44…再生エネルギー発電装置(再エネ発電装置)、46…蓄電池装置、52…卸電力取引市場、54…相対電力、60…予測サービス、70…計算機資源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23