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特開2024-159289検査装置、検査方法及び検査プログラム
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  • 特開-検査装置、検査方法及び検査プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159289
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】検査装置、検査方法及び検査プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/82 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G01N27/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075174
(22)【出願日】2023-04-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年4月6日、Intermag2023(2023米国電気電子学会国際磁気会議)予稿集
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大兼 幹彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 淳
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AA14
2G053AB01
2G053BA03
2G053BA12
2G053BA26
2G053BB19
2G053CA06
(57)【要約】
【課題】磁性体からなる検査対象物の状態を簡便且つ高精度に検査する。
【解決手段】磁性体からなる検査対象物30を検査する検査装置1は、磁気センサ20、算出部11及び評価部12を備える。磁気センサ20は、磁性体からなる検査対象物30の振動により生ずる磁場変化を検出する。算出部11は、磁気センサ20で検出された磁場変化を解析し、検査対象物30の固有振動数を算出する。評価部12は、算出部11で算出された固有振動数に基づいて検査対象物30の状態を推定して評価する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体からなる検査対象物を検査する検査装置であって、
前記磁性体からなる検査対象物の振動により生ずる磁場変化を検出する磁気センサと、
検出された前記磁場変化を解析し、前記検査対象物の固有振動数を算出する算出部と、
算出された前記固有振動数に基づいて前記検査対象物の状態を推定して評価する評価部と、
を備えることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
磁性体からなる検査対象物を検査する検査装置であって、
前記磁性体からなる検査対象物の振動により生ずる磁場変化を取得して解析し、前記検査対象物の固有振動数を算出する算出部と、
算出された前記固有振動数に基づいて前記検査対象物の状態を推定して評価する評価部と、
を備えることを特徴とする検査装置。
【請求項3】
推定された前記検査対象物の状態の評価結果を出力装置に出力する出力部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記磁場変化は、トンネル磁気抵抗効果を利用して取得される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の検査装置。
【請求項5】
前記検査対象物の検査を繰り返し実施するものであって、
前記評価部は、今回算出された前記固有振動数と前回以前に算出された前記固有振動数とを比較して、前記検査対象物の状態を推定して評価する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の検査装置。
【請求項6】
前記評価部は、算出された前記固有振動数を機械学習させることで構築されたモデルを用いて、前記検査対象物の状態を推定して評価する
ことを特徴とする請求項5に記載の検査装置。
【請求項7】
磁性体からなる検査対象物を検査する検査方法であって、
前記磁性体からなる検査対象物の振動により生ずる磁場変化を取得する取得ステップと、
取得された前記磁場変化を解析し、前記検査対象物の固有振動数を算出する算出ステップと、
算出された前記固有振動数に基づいて前記検査対象物の状態を推定して評価する評価ステップと、
を備えることを特徴とする検査方法。
【請求項8】
推定された前記検査対象物の状態の評価結果を出力装置に出力する出力ステップをさらに備える
ことを特徴とする請求項7に記載の検査方法。
【請求項9】
前記取得ステップは、トンネル磁気抵抗効果を利用して前記磁場変化を検出する
ことを特徴とする請求項7に記載の検査方法。
【請求項10】
前記検査対象物の検査を繰り返し実施するものであって、
前記評価ステップは、今回算出された前記固有振動数と前回以前に算出された前記固有振動数とを比較して、前記検査対象物の状態を推定して評価する
ことを特徴とする請求項7に記載の検査方法。
【請求項11】
前記評価ステップは、算出された前記固有振動数を機械学習させることで構築されたモデルを用いて、前記検査対象物の状態を推定して評価する
ことを特徴とする請求項10に記載の検査方法。
【請求項12】
磁性体からなる検査対象物を検査する検査プログラムであって、
前記磁性体からなる検査対象物の振動により生ずる磁場変化を取得して解析し、前記検査対象物の固有振動数を算出し、
算出された前記固有振動数に基づいて前記検査対象物の状態を推定して評価する
処理をコンピュータに実行させる、検査プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体からなる検査対象物を検査するための検査装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
構造物などの検査対象物を検査する方法(例えば、欠陥を検出する手法)として、打音検査法が知られている。打音検査法は、構造物の表面を打撃した時に誘起される固有振動(音)により構造物の内部の状態を把握する手法である。打音試験法は簡便な非破壊検査手法であるが、例えば検査対象物が鉄筋コンクリート構造物である場合、打撃後に検出される音響信号には、コンクリートの音だけでなく内部の鉄筋の音及び反射音に加え、検査対象物から遠い環境音まで含まれる。このように、打音試験法はノイズに弱く、空間分解能が低いため、検査対象物を検査するのに必要な情報を取得するのが困難である。
【0003】
別の非破壊検査手法として、磁性体からなる検査対象物に特化した漏洩磁束探傷法が知られている。漏洩磁束探傷法は、検査対象の強磁性体に磁界をかけ、強磁性体である被検体の表面や表層に欠陥から漏洩する磁束を検出して検査(例えば、欠陥の存在を検出)する。磁束は磁性体からのみ漏洩し、磁場は距離に反比例して減衰するという特性があることから、漏洩磁束探傷法は、打音試験法に比べて、ノイズに強く、空間分解能が高い。
【0004】
ただし、漏洩磁束探傷法では、欠陥が小さい場合はその欠陥から漏洩する磁束も小さくなるため、検査対象物の磁束信号が他の磁束信号に埋もれてしまうことがある。そこで、例えば、特許文献1には、磁気センサの出力信号波形を近似するフィッティングカーブをフィッティング処理によって演算し、出力信号波形とフィッティングカーブとの差分を取ることで、浮遊磁場由来のノイズを除去し、小さな漏洩磁束信号を高精度に抽出する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-196863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
漏洩磁束探傷法は有効な検査手法であるが、消磁状態の検査対象物に永久磁石で着磁をする必要があるため、検査を実施するためには時間もコストもかかる。さらに、永久磁石を内蔵する磁石ユニットのサイズは大きいため、磁性体からなる検査対象物の種類及び検査場所が限定されてしまうという課題もある。
【0007】
ノイズに強く、空間分解能が高く、手軽且つ安価に使用でき、さらには、広い分野に適用できる非破壊検査技術を確立することで、検査対象物の状態(例えば、劣化の有無やその度合い)を早期且つ高精度に検出することが可能となり、検査対象物の安全性及び信頼性の飛躍的な向上が期待できる。このため、磁性体からなる検査対象物の状態を簡便且つ高精度に検査できる手法が望まれている。
【0008】
本件は、このような課題に鑑み案出されたもので、磁性体からなる検査対象物の状態を簡便且つ高精度に検査する検査装置、検査方法及び検査プログラムを提供することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)ここで開示する検査装置は、磁性体からなる検査対象物を検査する検査装置であって、前記磁性体からなる検査対象物の振動により生ずる磁場変化を検出する磁気センサと、検出された前記磁場変化を解析し、前記検査対象物の固有振動数を算出する算出部と、算出された前記固有振動数に基づいて前記検査対象物の状態を推定して評価する評価部と、を備える。
【0010】
(2)ここで開示する検査装置は、磁性体からなる検査対象物を検査する検査装置であって、前記磁性体からなる検査対象物の振動により生ずる磁場変化を取得して解析し、前記検査対象物の固有振動数を算出する算出部と、算出された前記固有振動数に基づいて前記検査対象物の状態を推定して評価する評価部と、を備える。
【0011】
(3)上記の(1)又は(2)において、推定された前記検査対象物の状態の評価結果を出力装置に出力する出力部をさらに備えることが好ましい。
(4)上記の(1)~(3)のいずれかにおいて、前記磁場変化は、トンネル磁気抵抗効果を利用して取得されることが好ましい。
【0012】
(5)上記の(1)~(4)のいずれかにおいて、前記検査装置は、前記検査対象物の検査を繰り返し実施するものであって、前記評価部は、今回算出された前記固有振動数と前回以前に算出された前記固有振動数とを比較して、前記検査対象物の状態を推定して評価することが好ましい。
(6)上記の(5)において、前記評価部は、算出された前記固有振動数を機械学習させることで構築されたモデルを用いて、前記検査対象物の状態を推定して評価することが好ましい。
【0013】
(7)ここで開示する検査方法は、磁性体からなる検査対象物を検査する検査方法であって、前記磁性体からなる検査対象物の振動により生ずる磁場変化を取得する取得ステップと、取得された前記磁場変化を解析し、前記検査対象物の固有振動数を算出する算出ステップと、算出された前記固有振動数に基づいて前記検査対象物の状態を推定して評価する評価ステップと、を備える。
【0014】
(8)上記の(7)において、推定された前記検査対象物の状態の評価結果を出力装置に出力する出力ステップをさらに備えることが好ましい。
(9)上記の(7)又は(8)において、前記取得ステップは、トンネル磁気抵抗効果を利用して前記磁場変化を検出することが好ましい。
【0015】
(10)上記の(7)~(9)のいずれかにおいて、前記検査方法は、前記検査対象物の検査を繰り返し実施するものであって、前記評価ステップは、今回算出された前記固有振動数と前回以前に算出された前記固有振動数とを比較して、前記検査対象物の状態を推定して評価することが好ましい。
(11)上記の(10)において、前記評価ステップは、算出された前記固有振動数を機械学習させることで構築されたモデルを用いて、前記検査対象物の状態を推定して評価することが好ましい。
【0016】
(12)ここで開示する検査プログラムは、磁性体からなる検査対象物を検査する検査プログラムであって、前記磁性体からなる検査対象物の振動により生ずる磁場変化を取得して解析し、前記検査対象物の固有振動数を算出し、算出された前記固有振動数に基づいて前記検査対象物の状態を推定して評価する処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0017】
開示の検査装置、方法及びプログラムによれば、検査対象物の振動による磁場変化から算出される検査対象物の固有振動数に基づいて検査対象物の状態を推定して評価するため、磁性体からなる検査対象物の状態を簡便且つ高精度に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る検査装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る検査装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】実施形態に係る検査方法の手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照して、実施形態としての検査装置及び検査方法並びに検査プログラムについて説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0020】
[1.概要]
本実施形態に係る検査対象物の検査装置、方法及びプログラムは、磁性体からなる検査対象物の振動により生じる磁場変化を解析し、検査対象物の固有振動数に基づいて検査対象物の状態を推定して評価するものである。具体的には、磁性体からなる検査対象物が外力の印加により微小振動すると、検査対象物周辺の静磁場が僅かに揺動するため、検査対象物の固有振動に対応するこの僅かな磁場変化を利用して検査対象物の状態を推定して評価する。
【0021】
この評価には、定性的な評価と定量的な評価とが含まれてよい。また、ここで評価される状態としては、例えば、検査対象物の劣化の有無やその度合い、検査対象物(構造物)の所定方向の推定寸法やその変化などが挙げられる。ここでいう所定方向とは検査対象物が振動する際の変位の方向である。例えば、検査対象物が板材であれば、所定方向は板厚方向となり、厚さの推定寸法や厚さの変化を評価できる。このように、磁性体に起因する情報のみから検査対象物の状態を把握する手法を「打磁試験法」と称する。「打磁試験法」は、従来の打音試験法や漏洩磁束探傷法の問題点を解決する手法である。以下、「打磁試験法」を実現するための検査装置1、検査方法及び検査プログラムについて説明する。
【0022】
[2.検査装置]
図1は、実施形態に係る検査装置1の構成を示すブロック図である。本実施形態に係る検査装置1は、磁場変化を検出する磁気センサ20及び検出(取得)された磁場変化から検査対象物の状態を推定して評価する制御装置10で構成される。磁気センサ20は制御装置10と有線又は無線によって接続される。制御装置10は、磁気センサ20に内蔵(搭載)あるいは一体化されてもよく、あるいは、磁気センサ20とは別体で設けられてもよい。制御装置10が磁気センサ20とは別体で設けられる場合は、磁気センサ20と制御装置10とは無線又は有線によって接続され、磁気センサ20を遠隔操作してもよい。
【0023】
検査装置1で検査可能な検査対象物30は、磁性体からなる物体であり、例えば、磁性体のみから構成された構造物(鉄製の配管やボディ,鉄道車両のレールなど)や磁性体を含んで構成される構造物(鉄筋コンクリート製の建築物や橋梁など)が挙げられる。また、本実施形態の検査装置1では、検査対象物30の検査が1回以上行なわれ、好ましくは繰り返し実施される。磁気センサ20による検出と制御装置10による処理とが繰り返し実施される場合、検査の頻度は定期的(例えば毎月,数か月ごと,毎年)であってもよいし、不定期に行なわれてもよい。
【0024】
[2-1.磁気センサ]
磁気センサ20は、磁性体からなる検査対象物30の振動により生ずる磁場変化を検出する。磁場変化は、外力が印加された検査対象物30の振動により生じる。外力には、例えば、ピエゾ素子を用いた打撃,水圧,風圧及び周辺物の振動等が含まれる。検査対象物30に外力が印加されると、検査対象物30の固有振動により、検査対象物30の周辺の静磁場が揺動し、磁気センサ20との距離は時々刻々と僅かに変化する。検査対象物30の近傍に配置された磁気センサ20は、検査対象物30と磁気センサ20との間の磁場変化を検出する。
【0025】
検査対象物30の振動(固有振動)は、低周波帯とされる数万Hz以下、より具体的には数十Hz~数万Hzで生じる。また検査対象物30の周辺の静磁場、例えば地磁気などの環境磁場は10nT以下と非常に小さい。したがって、検査対象物30の振動(固有振動)により生ずる、検査対象物30の周辺の静磁場の変化を検出する磁気センサ20は、低周波帯及び低磁場を検出可能なセンサが好ましい。磁気センサ20は、具体的な条件として、20kHz以下の周波数、好ましくは0.2Hz以上かつ20kHz以下の範囲の周波数を検出でき、10-9T/Hz0.5以下の検出磁場分解能、好ましくは約10-13T/Hz0.5以上かつ10-9T/Hz0.5以下の検出磁場分解能を有することが望ましい。
【0026】
磁気センサ20には、例えば、トンネル磁気抵抗効果を利用して磁場変化を検出するTMR(Tunnel Magneto Resistance)センサが用いられる。TMRセンサは、強磁性層の間に薄膜の絶縁層を挟み込む構造をもち、膜面に対して垂直に電圧を印加するとトンネル効果によって絶縁層に電流が流れ、その際の電気抵抗が外部磁場に応じて大きく変化するトンネル磁気抵抗(TMR)効果を利用した磁気センサである。TMRセンサは、温度変化による影響を受けにくく、磁気感度が非常に高く、抵抗値が高いことを特徴とする。TMRセンサは、上記の数値範囲の条件を満たす磁気センサであり、上記の低周波帯且つ低磁場を検出可能とする。
【0027】
TMRセンサは、磁場変化を検出するトンネル磁気抵抗素子と、検出した磁場変化の情報を記憶するメモリとを含む複合的な回路を備える(不図示)。TMRセンサについては多数の出願がなされており、例えば、WO2017/115839号公報、特開2022-94518号公報等に詳細な記載がある。
【0028】
トンネル磁気抵抗素子は、マグネトロンスパッタリングを用いて、Si,SiO基板の上に各層を成膜することで製造される。TMRセンサの高感度は、トンネル磁気抵抗素子の強磁性層及び絶縁層の材料の組み合わせに大きく左右される。微小な磁場変化を検出可能なトンネル磁気抵抗素子は、例えば、基板Si,SiO/下部電極層/Co70.5Fe4.5Si1510(層厚140nm)/Ru(層厚0.4nm)/Co40Fe4020(層厚3nm)/MgO/Co40Fe4020(層厚3nm)/Ru(層厚0.9nm)/Co75Fe25(層厚2nm)/Ir22Mn78(層厚10nm)/Ta(層厚5nm)/Pt(層厚5nm)/Ru(層厚5nm)から成る膜構造が挙げられる。上記膜構造は、下部の強磁性層が、第一下磁性層Co70.5Fe4.5Si1510(層厚140nm)と、上下の強磁性層の静磁結合を可能にする挿入層Ru(層厚0.4nm)と、第一上磁性層Co40Fe4020(層厚3nm)とで構成され、上磁性層の上には、挿入結合層Ru(層厚0.4nm)を挟んで、第二下磁性層Co40Fe4020(層厚3nm)と、絶縁層MgOと、第二上磁性層Co40Fe4020(層厚3nm)とが成膜されている。下記ウェブサイトに掲載された論文にはより詳細な記載がある(https://www.nature.com/articles/s41598-022-10155-6)。当該膜構成を備えるTMRセンサは、室温で微小な脳磁波形を計測することが可能であるとともに、検査対象物30の厚さの変化を約0.3mmの分解能で検出可能であることが実験により確認できている。
【0029】
磁気センサ20は、外部の磁場変化をトンネル磁気抵抗効果による絶縁層の電気抵抗として検出する。つまり、磁気センサ20は、検査対象物30の固有振動数に対応する磁場変化を電圧-時間信号(磁気信号)として検出する。磁気センサ20と検査対象物30との間の距離は特に限定されないが、磁場は距離に反比例して減衰するため、至近距離が好ましく、より好ましくは2cm±1cmの距離である。また、磁気センサ20を検査対象物30に沿って移動させる場合は、磁気センサ20と検査対象物30との距離は一定であることが好ましい。
【0030】
磁気センサ20は、検出した磁気信号を内蔵メモリに記憶する。あるいは、磁気センサ20は、検出した磁気信号を無線又は有線で、検査中又は検査後に制御装置10に送信してもよい。
【0031】
[2-2.制御装置]
<機能構成>
図1に示す本実施形態に係る制御装置10の機能を説明する。制御装置10は、磁気センサ20が検出した磁場変化を取得して解析することで検査対象物30の固有振動数を算出し、算出された固有振動数に基づいて検査対象物30の状態を推定して評価する。
【0032】
制御装置10には、当該処理を実施するための機能要素として、少なくとも、検査対象物30の固有振動数を算出する算出部11と、検査対象物30の状態を推定して評価する評価部12とが設けられる。本実施形態の制御装置10にはさらに、機械学習によってモデルを生成する生成部13と、評価結果を出力装置40に出力する出力部14と、種々のデータを記憶する記憶部15とが設けられる。なお、これらの各要素は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0033】
算出部11は、磁気センサ20で検出された磁場変化を取得して解析し、検査対象物30の固有振動数を算出する。上述の通り、磁場変化は、磁気センサ20により磁気信号(電圧-時間信号)として取得されるため、算出部11は、取得された磁気信号をフーリエ解析する。つまり、検査対象物30の周辺の静磁場の変動を由来とする磁気信号(電圧-周波数信号)をフーリエ解析することで、検査対象物30の固有振動周波数(固有振動数)を算出することができる。
【0034】
評価部12は、算出部11で算出された固有振動数に基づいて検査対象物30の状態を推定して評価する。評価部12は、今回算出された固有振動数と前回以前に算出された固有振動数とを比較して、検査対象物30の状態を推定して評価する。すなわち、今回がn回目(nは1以上の整数)の評価処理である場合、今回算出された固有振動数を前回(n-1)以前に算出された固有振動数と比較する。例えば、今回が1回目の評価処理である場合、今回算出された固有振動数を前回(0回目に)算出された固有振動数(すなわち初期値)と比較する。なお、この場合の比較対象(初期値)は、新品時の検査対象物30の固有振動数である。新品時の固有振動数は予め算出可能であり、記憶部15に格納されていてもよい。
【0035】
また、例えば、今回が10回目の評価処理である場合、今回算出された固有振動数を前回以前(0~9回目)に算出された固有振動数と比較する。なお、この場合の比較対象は、前回(9回目)の固有振動数であってもよいし、初期値であってもよいし、前回以前の固有振動数のいずれかであってもよい。あるいは、これまでの(0~9回目の)固有振動数の平均値や中央値であってもよいし、前回(9回目)から所定回数(例えば2回)前までの固有振動数(すなわち、7回目と8回目と9回目の固有振動数)の平均値や中央値であってもよい。これまでに算出された固有振動数は、全てが記憶部15に格納されていてもよいし、評価部12における比較方法に応じて、その一部が記憶部15に格納(更新)されていてもよい。
【0036】
評価部12は、比較の結果、今回算出された固有振動数と前回以前に算出された固有振動数とが異なる場合には、検査対象物30の状態に変化があると推定する。評価の基準(比較対象)は、上記のように、新品時の固有振動数であってもよいし、前回以前の固有振動数のいずれかであってもよいし、初期値(新品時の固有振動数)を含む一定範囲内の固有振動数(良品の固有振動数)等を閾値に設定してもよい。
【0037】
固有振動数は、検査対象物30の厚さの変化を表す。磁性体からなる検査対象物30の厚さは、表面の腐食や浸食によって減肉又は増肉する。厚さが減肉すると固有振動数のピーク値(電圧)は小さくなり、周波数は低くなる。反対に、厚さが増肉すると固有振動数のピーク値(電圧)は大きくなり、周波数は高くなる。このため、算出された固有振動数が評価の基準となる固有振動数よりも低い場合は、検査対象物30の厚さが減っていると推定でき、算出された固有振動数が評価の基準となる固有振動数よりも高い場合は、検査対象物30の厚さが増えていると推定できる。これに対して、算出された固有振動数が評価の基準となる固有振動数と同一である場合は、検査対象物30の厚さに変化が無いと推定できる。評価部12は、推定した検査対象物30の厚さの変化を定性的に評価する。例えば、評価部12は、検査対象物30を「減肉」、「増肉」、「変化なし」と評価し、あるいは、「劣化あり」又は「劣化なし」と評価してよい。このように、評価部12は、算出された固有振動数を評価の基準となる固有振動数と比較することで、検査対象物30の厚さの変化を定性的に評価することができる。
【0038】
上記の定性的な評価に加えて、又は、替えて、評価部12は、推定した検査対象物30の厚さの変化を定量的に評価してもよい。例えば、評価部12は、検査対象物30を「推定2mmの減肉」、「推定2mmの増肉」、「推定0mmの変化」と評価してもよく、あるいは、「推定板厚10mm」と評価してもよい。
【0039】
さらに、固有振動の波形のピーク形状は、検査対象物30の欠陥のサイズを表す。検査対象物30に小さな孔(穴,亀裂)が形成されている場合は、波形のピークがブロードになる。反対に、検査対象物30に大きな孔(穴,亀裂)が形成されている場合は、波形のピークがシャープになる。このため、算出された固有振動の波形のピークが評価の基準となる固有振動の波形のピークと比べてブロードである場合は、検査対象物30に小さな孔があると推定でき、波形のピークが評価の基準となる固有振動の波形のピークに比べてシャープであるほど、検査対象物30により大きな孔があると推定できる。これに対して、算出された固有振動の波形のピーク形状が評価の基準となる固有振動の波形のピーク形状と同一である場合は、検査対象物30に孔は形成されていないと推定できる。評価部12は、推定した検査対象物30の欠陥のサイズを定性的に評価する。例えば、評価部12は、検査対象物30を「小孔あり」、「大孔あり」、「変化なし」と評価し、あるいは、「劣化あり」又は「劣化なし」と評価してよい。このように、算出された固有振動の波形のピーク形状を評価の基準となる固有振動の波形のピーク形状と比較することで、検査対象物30の状態を定性的に評価することができる。
【0040】
上記の定性的な評価に加えて、又は、替えて、評価部12は、推定した検査対象物30の欠陥のサイズを定量的に評価してもよい。例えば、評価部12は、検査対象物30を「推定1mmの小孔あり」、「推定3mmの大孔あり」と評価してもよい。
【0041】
評価部12は、算出された固有振動数を機械学習することで構築されたモデルを用いて、検査対象物30の状態を推定して評価してもよい。モデルは、生成部13において構築される。生成部13は、モデルに対して機械学習による訓練を行ない、訓練済みのモデルを生成する。生成部13は、例えば、正解ラベルが付与された教師データを用いて、又は、教師データを用いずに、モデルを訓練してもよい。
【0042】
機械学習モデルは、周知のモデルであり、例えば、ディープラーニングのモデル(ディープニューラルネットワーク)であってもよい。ニューラルネットワークは、ハードウェア回路であってもよいし、後述するプロセッサ10a等(図2参照)によりコンピュータプログラム上で仮想的に構築される階層間を接続するソフトウェアによる仮想的なネットワークであってもよい。
【0043】
本実施形態では、生成部13は、検査対象物30の新品時の固有振動数(初期値)を教師データとし、検査対象物30の前回以前に算出された固有振動数を機械学習させ、検査対象物30の今回算出された固有振動数を入力とし、検査対象物30の状態の評価結果を出力とするモデルを生成する。機械学習の条件(エポック数,バッチサイズ)は、適宜設定してよい。生成部13は、新品時の固有振動数を含む一定範囲内の固有振動数(良品の固有振動数)を教師データとし、モデルに機械学習をさせ、閾値を設定して固有振動数に基づいて推定された検査対象物30の状態の評価を行なってもよい。
【0044】
出力部14は、評価部12による評価結果を出力装置40に出力する。出力装置40は、制御装置10とは別体で設けられてもよく、あるいは、制御装置10に内蔵(搭載)あるいは一体化されてもよい。出力装置40としては、例えば、モニタ,プロジェクタ,プリンタ等が挙げられる。例えば、モニタを設け、磁気センサ20が検出した磁気信号を出力する、又は、制御装置10の評価部12による評価結果を出力するように構成してもよい。評価結果の提供方法は、例えば、制御装置10に接続されたモニタの画面に視覚的に提示してもよく、あるいは、ブザー音などにより聴覚的に報知してもよい。
【0045】
記憶部15は、磁気センサ20から取得した磁気信号,算出部11で算出された固有振動数,教師データ,評価部12による評価結果,評価のための閾値,機械学習の条件,生成部13で生成されたモデル等の情報を記憶する。さらに、記憶部15には、磁気センサ20と検査対象物30との間の距離,検査回数,検査対象物30の情報(長さ,重量,形状,材質など),検査対象物30の使用年数等のデータが記憶されてよい。
【0046】
<ハードウェア構成>
図2は、制御装置10の機能を実現するコンピュータのハードウェア(HW)構成例を示すブロック図である。以下、「コンピュータ10」ともいう。本実施形態の検査装置1は、検査用のコンピュータ用プログラム10g(検査プログラム)を実行可能な汎用のコンピュータ10によって実現される。図2に示すように、コンピュータ10は、例示的に、プロセッサ10a,メモリ10b,記憶部10c,IF部10d,IO部10e及び読取部10fを備える。これらは、コンピュータ10の内部に設けられたバス(制御バス,データバス等)を介して互いに通信可能に接続される。
【0047】
プロセッサ10aは、種々の制御や演算を行なう演算処理装置の一例である。プロセッサ10aは、コンピュータ10内の各ブロックとバスで相互に通信可能に接続されてよい。プロセッサ10aとしては、例えば、Central Processing Unit(CPU)及びGraphics Processing Unit(GPU)等の集積回路(IC;Integrated Circuit)が挙げられる。
【0048】
メモリ10b及び記憶部10cは、種々のデータやプログラム等の情報を格納するHWの一例である。記憶部10cは、制御装置10の各種機能の全部若しくは一部を実現するプログラム10gを格納してよい。プログラム10gは、メモリ10bで展開されてよい。メモリ10b及び記憶部10cは、図1に示す記憶部15の一例である。
【0049】
IF部10dは、ネットワークとの間の接続及び通信の制御等を行なう通信IFの一例である。例えば、IF部10dは、イーサネット(登録商標),インフィニバンド(InfiniBand),ミリネット(Myrinet),或いは、FC(Fibre Channel)などの光通信等に準拠したアダプタを含んでよい。当該アダプタは、無線及び有線の一方又は双方の通信方式に対応してよい。プログラム10gは、例えば、当該通信IFを介して、ネットワークからコンピュータ10にダウンロードされ、記憶部10cに格納されてもよい。
【0050】
IO部10eは、機器やシステムなどに、外部からのデータや信号を入力したり外部にデータや信号を出力したりする回路やソフトウェアである。IO部10eは、図1に示す出力部14の一例である。なお、IO部10eは、入力装置及び出力装置40の一方又は双方を含んでよい。なお、入力装置としては、例えば、キーボード,マウス,タッチパネル等が挙げられ、出力装置40は上記の通りである。
【0051】
読取部10fは、記録媒体10hに記録されたデータやプログラムの情報を読み出すリーダ(アダプタ,ドライブ装置,カードリーダ等)の一例である。読取部10fは、記録媒体10hを接続可能又は挿入可能な接続端子又は装置を含んでよい。なお、記録媒体10hにはプログラム10gが格納されてもよく、読取部10fが記録媒体10hからプログラム10gを読み出して記憶部10cに格納してもよい。
【0052】
本実施形態のプロセッサ10aは、記憶部10cに格納されたプログラム10g(検査プログラム)をメモリ10bに展開して実行することで、図1に例示する制御装置10の機能(算出部11,評価部12,生成部13)を実現する。検査プログラム10gは、磁気センサ20で検出された磁場変化を取得する処理を実現するように構成されていてもよい。また、プロセッサ10aは、ハードウェア回路で、又はプロセッサ10aによるコンピュータプログラム上の仮想的なネットワークで、或いは汎用のソフトウェアで、機械学習モデルを構築してもよい。
【0053】
記憶部10cには、さらに、磁気センサ20を制御するためのプログラム(制御プログラム)が格納されていてもよい。コンピュータ10は、制御プログラムをメモリ10bに展開して実行することで、IF部10dを介して、磁気センサ20のIF部(不図示)と相互に通信可能に接続され、磁気センサ20を遠隔制御してもよい。磁気センサ20を制御するプログラムの全体又は一部は、上述の検査プログラム10gに含まれていてもよい。
【0054】
プロセッサ10aは、コンピュータ10としての機能及び機械学習モデルの構築を実現するために必要なデータ(以下、「必要なデータ」ともいう。)を、IF部10dでの受信、IO部10eの入力装置からの入力、及び、読取部10fでの読み出しに基づいて、あるいは記憶部10cに記憶されたデータを読み込むことで取得する。
【0055】
上記の必要なデータは、予めメモリ10b及び記憶部10cに格納されていてもよく、IO部10eの入力装置を介して入力されてもよい。必要なデータには、磁気センサ20から取得した磁気信号,算出部11で算出された固有振動数,教師データ,評価部12による評価結果,評価のための閾値,機械学習の条件,生成部13で生成されたモデル等が含まれる。さらに、必要なデータには、磁気センサ20と検査対象物30との間の距離,検査回数,検査対象物30の情報,検査対象物30の使用年数等のデータが含まれてよい。
【0056】
磁気センサ20を制御するために必要な信号は、IO部10eの入力装置を介して入力されてもよい。この信号には、検出開始(スタート)や検出終了(エンド)といった磁気センサ20の動作のトリガとなる信号が含まれる。
【0057】
上述したコンピュータ10(制御装置10)のHW構成は例示である。従って、制御装置10内でのHWの増減(例えば任意のブロックの追加や削除)、分割、任意の組み合わせでの統合、又は、バスの追加若しくは削除等は適宜行なわれてもよい。
【0058】
[3.検査方法]
図3は、実施形態に係る検査方法の手順の例示するフローチャート例であり、上述した検査装置1の処理の内容を示す。本実施形態に係る検査方法は、上述した検査対象物30の検査(評価)を制御装置10に実行させる方法である。当該方法は、検査プログラム10gがコンピュータ10に以下の処理を実行させることで実現可能である。本フローチャートは、少なくとも1回以上実行されるものであり、好ましくは、定期的に又は不定期で繰り返し実行される。図3では、定期的に(所定の演算周期で)繰り返し実行されるフローチャートを例示している。なお、本フローチャートとは別に、磁気センサ20の制御が実施される。本フローチャートは、磁気センサ20が磁場変化を検出し始めたタイミングで開始される。
【0059】
ステップS1は、磁性体からなる検査対象物30の振動により生ずる磁場変化を取得するステップ(取得ステップ)であり、上述した磁気センサ20により実現されてよい。磁気センサ20は、磁場変化を磁気信号(電圧-時間信号)として取得(検出)する。取得ステップは、磁気センサ20が磁場変化を検出する処理そのものであってもよいし、磁気センサ20で検出された磁場変化が制御装置10に入力される処理であってもよい。ステップS2は、取得された磁場変化を解析し、検査対象物30の固有振動数を算出するステップ(算出ステップ)であり、上述した算出部11により実現される。算出部11は、取得した磁気信号をフーリエ解析し、検査対象物30の固有振動数(電圧-周波数信号)を算出する。
【0060】
ステップS3は、算出された固有振動数に基づいて状態を推定して評価するステップ(評価ステップ)であり、上述した評価部12により実現される。評価部12は、今回算出された固有振動数と前回以前に算出された固有振動数とを比較することで検査対象物30の状態を推定して評価する。さらに、評価部12は、算出された固有振動数を機械学習することで構築されたモデルを用いて、検査対象物30の状態を推定して評価する。評価の基準(閾値)として、新品時の固有振動数又は良品の単一又は複数の固有振動数のいずれかが設定されてよい。
【0061】
評価部12は、算出された固有振動数に基づいて、検査対象物30に変化ありと評価した場合は、ステップS3からYesルートに進み、出力部14は出力装置40に評価結果を出力する(ステップS4;出力ステップ)。この場合は、評価結果を記憶部10cに記録したのち、このフローを終了する。なお、ステップS4の出力後、ステップS4からリターンして、ステップS1~S3を繰り返し実行してもよい。
【0062】
評価部12は、算出された固有振動数に基づいて、検査対象物30に変化なしと評価した場合は、ステップS3からNoルートに進み、出力装置40へ評価結果を出力することなく、ステップS3からリターンして、ステップS1~S2を繰り返し実行する。なお、検査対象物30に変化なしと評価した場合にも、出力部14は出力装置40に評価結果を出力するように構成されてもよい。
【0063】
[4.作用、効果]
(1)上述の検査装置1、検査方法及び検査プログラムでは、磁性体からなる検査対象物30の振動による磁場変化を取得して解析し、算出した固有振動数に基づいて検査対象物30の状態を推定して評価する。これにより、磁気センサ20の近傍にある検査対象物30の状態を表す情報のみを容易に取得できるため、打音試験法に比べて、ノイズに強く、空間分解能が高い。また、これにより、検査対象物30に着磁が不要であるため、漏洩磁束探傷法に比べて、時間及びコストを低減でき、磁性体からなる検査対象物30の種類及び検査場所が限定されない。このように、本実施形態の検査装置1及び検査方法(打磁試験法)並びに検査プログラムは、従来の非破壊検査手法に比べて、簡便且つ高精度であるため、検査対象物30の使用開始時から複数回検査することができる。したがって、例えば、検査対象物30の劣化の早期検出(予知)を実現でき、磁性体からなる検査対象物の状態を簡便且つ高精度に検査できる。
【0064】
(2)上述の技術では、推定された検査対象物30の状態の評価結果を出力する出力部14をさらに備える。これにより、検査者は検査対象物30の状態を容易に把握できる。
(3)上述の技術では、さらに、トンネル磁気抵抗効果を利用して磁場変化を取得(検出)する。これにより、消磁状態の検査対象物30の微小な固有振動数を検出できる。TMRセンサは、コイルの電磁誘導を利用するホールセンサに比べて、検出磁場分解能が高い。また、TMRセンサは、超伝導における磁束の量子化を利用するSQUID(Superconducting QUantum Interference Device)センサとは異なり、室温で動作可能で、且つ、センサ以外の付属品が不要である。このため、より安価且つコンパクトな装置構成を実現できる。
【0065】
(4)上述の技術では、さらに、検査対象物30の検査を繰り返し実施し、今回算出された固有振動数と前回以前に算出された固有振動数とを比較して、検査対象物30の状態を推定して評価する。これにより、例えば、検査対象物30の劣化の傾向や進行度を早期に把握できるため、早い段階で劣化に対応することができることから、検査対象物30の長寿命化を実現でき、コストを低減できる。
【0066】
(5)上述の技術では、さらに、算出された固有振動数を機械学習させることで構築されたモデルを用いて、検査対象物30の状態を推定して評価する。このように、機械学習を利用することで、検査対象物30の状態をより簡便に評価できる。
【0067】
上述の技術では、さらに、取得された磁場変化をフーリエ解析することで検査対象物30の固有振動数を算出する。このように、複雑な計算が不要であるため、計算コストを低減できる。
【0068】
[5.その他]
上述した磁気センサ20及び制御装置10の構成は一例であって、上述したものに限られない。磁気センサ20は、低周波帯及び低磁場を検知可能なセンサであればTMRセンサに限られない。上記実施形態では、磁気センサ20は、検出した磁気信号をメモリに記憶し、制御装置10は検査後の磁気信号を取得している前提で説明しているが、磁気センサ20は、検査中にリアルタイムで検出した磁気信号を制御装置10に送信してもよい。この場合、制御装置10における固有振動数の算出及び検査対象物30の状態の推定及び評価もリアルタイムで行なわれてよい。
【0069】
評価部12がモデルを用いて検査を行なう場合であっても、モデルの機械学習は教師なしで行なってもよい。教師なしで学習することにより、人が検知できない劣化を検出できる可能性があり、検査対象物30の状態をより高精度に評価できる。
【0070】
上記実施形態では、検査対象物30が板材である場合を例に説明したが、検査対象物30は板材に限られない。例えば、検査対象物30が配管である場合には、所定方向は配管の径方向となり、配管の厚さの推定寸法や厚さの変化を評価できる。
【符号の説明】
【0071】
1 検査装置
10 制御装置(コンピュータ)
10a プロセッサ
10b メモリ
10c 記憶部
10d IF部
10e IO部
10f 読取部
10g プログラム(検査プログラム)
10h 記録媒体
11 算出部
12 評価部
13 生成部
14 記憶部
15 出力部
20 磁気センサ
30 検査対象物
40 出力装置
図1
図2
図3