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特開2024-159296電子機器、電子機器の制御方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159296
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】電子機器、電子機器の制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/66 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G01S13/66
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075189
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 伸
(72)【発明者】
【氏名】佐原 徹
(72)【発明者】
【氏名】本間 拓也
(72)【発明者】
【氏名】香島 裕
(72)【発明者】
【氏名】黒田 淳
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB18
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC13
5J070AD05
5J070AD09
5J070AE01
5J070AE09
5J070AF01
5J070AH12
5J070AH35
5J070BB04
5J070BB16
(57)【要約】
【課題】物体を検出する精度を向上し得る電子機器、電子機器の制御方法、及びプログラムを提供する。
【解決手段】電子機器は、送信波として送信される送信信号及び送信波が物体で反射した反射波として受信される受信信号に基づいて、物体を検出する。電子機器は、所定の速度以上と判定された物体までの電子機器からの距離を、その物体の電子機器に対する方向に関連付けた環境情報を生成する制御部を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信波として送信される送信信号及び前記送信波が物体で反射した反射波として受信される受信信号に基づいて、前記物体を検出する電子機器であって、
所定の速度以上と判定された物体までの前記電子機器からの距離を、当該物体の前記電子機器に対する方向に関連付けた環境情報を生成する制御部を備える、電子機器。
【請求項2】
前記制御部は、前記環境情報に基づいて、前記送信波を反射する他の物体の前記電子機器に対する方向を推定する、請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記制御部は、前記環境情報に基づいて推定される前記他の物体の前記電子機器に対する方向が、前記他の物体の前記電子機器に対する方向として検出される方向と所定の角度差以内である場合に、前記環境情報に基づいて前記他の物体の前記電子機器に対する方向を推定する、請求項2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記送信波を送信する複数の送信アンテナと、前記反射波を受信する複数の受信アンテナと、をさらに備え、
前記制御部は、前記他の物体の前記電子機器に対する方向に基づいて、前記送信波及び前記反射波の少なくとも一方のビームフォーミングを行う、請求項2に記載の電子機器。
【請求項5】
前記制御部は、前記環境情報を異なる時刻において複数回生成してメモリに蓄積する、請求項1に記載の電子機器。
【請求項6】
前記制御部は、前記メモリに蓄積された前記環境情報を平均化する、請求項5に記載の電子機器。
【請求項7】
前記制御部は、前記メモリに蓄積された前記環境情報のうち、前記電子機器から同一の距離にある物体の前記電子機器に対する方向を平均化する、請求項6に記載の電子機器。
【請求項8】
前記制御部は、前記メモリに蓄積される前記環境情報を移動平均に基づいて更新する、請求項5乃至7のいずれかに記載の電子機器。
【請求項9】
前記制御部は、前記物体を検出し得る最大の距離が所定の距離に満たない時間が所定時間継続する場合、所定の通知を発するように制御する、請求項1に記載の電子機器。
【請求項10】
電子機器の制御方法であって、
送信波として送信される送信信号及び前記送信波が物体で反射した反射波として受信される受信信号に基づいて、前記物体を検出するステップと、
所定以上の速度と判定された物体までの前記電子機器からの距離と、当該物体の前記電子機器に対する方向とが関連付けられた環境情報を生成するステップと、
を含む、制御方法。
【請求項11】
電子機器に、
送信波として送信される送信信号及び前記送信波が物体で反射した反射波として受信される受信信号に基づいて、前記物体を検出するステップと、
所定以上の速度と判定された物体までの前記電子機器からの距離と、当該物体の前記電子機器に対する方向とが関連付けられた環境情報を生成するステップと、
を実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子機器、電子機器の制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車に関連する産業などの分野において、自車両と所定の物体との間の距離などを測定する技術が重要視されている。特に、近年、ミリ波のような電波を送信し、障害物などの物体に反射した反射波を受信することで、物体との間の距離などを測定するレーダ(RADAR(Radio Detecting and Ranging))の技術が、種々研究されている(ミリ波レーダ)。このような距離などを測定する技術の重要性は、運転者の運転をアシストする技術、及び、運転の一部又は全部を自動化する自動運転に関連する技術の発展に伴い、今後ますます高まると予想される。
【0003】
また、送信された電波が所定の物体に反射した反射波を受信することで、当該物体の存在などを検出する技術について、種々の提案がされている。例えば特許文献1は、複数の受信アンテナによって受信された無線信号を利用して、人物のような動体が存在する方向等の推定を行う推定装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-132850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したミリ波レーダのような技術が用いられる各種用途において、物体を検出する精度の向上が望まれている。
【0006】
本開示の目的は、物体を検出する精度を向上し得る電子機器、電子機器の制御方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る電子機器は、
送信波として送信される送信信号及び前記送信波が物体で反射した反射波として受信される受信信号に基づいて、前記物体を検出する。
前記電子機器は、所定の速度以上と判定された物体までの前記電子機器からの距離を、当該物体の前記電子機器に対する方向に関連付けた環境情報を生成する制御部を備える。
【0008】
一実施形態に係る電子機器の制御方法は、
送信波として送信される送信信号及び前記送信波が物体で反射した反射波として受信される受信信号に基づいて、前記物体を検出するステップと、
所定以上の速度と判定された物体までの前記電子機器からの距離と、当該物体の前記電子機器に対する方向とが関連付けられた環境情報を生成するステップと、
を含む。
【0009】
一実施形態に係るプログラムは、
電子機器に、
送信波として送信される送信信号及び前記送信波が物体で反射した反射波として受信される受信信号に基づいて、前記物体を検出するステップと、
所定以上の速度と判定された物体までの前記電子機器からの距離と、当該物体の前記電子機器に対する方向とが関連付けられた環境情報を生成するステップと、
を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
一実施形態によれば、物体を検出する精度を向上し得る電子機器、電子機器の制御方法、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る電子機器の使用態様を説明する図である。
図2】一実施形態に係る電子機器の構成を概略的に示す機能ブロック図である。
図3】一実施形態に係る電子機器の構成の一部を示す機能ブロック図である。
図4】一実施形態に係る送信信号の構成を説明する図である。
図5】一実施形態に係る電子機器の動作を説明するフローチャートである。
図6】一実施形態に係る電子機器の動作を説明するフローチャートである。
図7】一実施形態に係る電子機器の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本開示において、「電子機器」とは、電力により駆動する機器としてよい。また、「ユーザ」とは、一実施形態に係る電子機器を使用する者(典型的には人間)としてよい。ユーザは、一実施形態に係る電子機器を用いることで、電子機器の周囲に存在する物体を検出することができる。また、ユーザは、一実施形態に係る電子機器を用いることで、電子機器の周囲に存在する物体の当該電子機器に対する方向を検出することができる。ここで、電子機器によって検出される物体には、ユーザが含まれてもよい。
【0014】
一実施形態に係る電子機器は、例えば静止している構造物(静止物)に取り付けられることで、当該静止物の周囲に存在する所定の物体を検出することができる。ここで、静止物とは、例えば交差点に設置された信号機又は路側機などの任意の機器としてもよいし、例えば屋内の床、壁、又は天井などの任意の箇所としてもよい。このために、一実施形態に係る電子機器は、静止物に設置した複数の送信アンテナから、静止物の周囲に送信波を送信することができる。また、一実施形態に係る電子機器は、静止物に設置した複数の受信アンテナから、送信波が反射された反射波を受信することができる。送信アンテナ及び受信アンテナの少なくとも一方は、例えば静止物に設置されたレーダセンサ等に備えられてもよい。
【0015】
以下、典型的な例として、一実施形態に係る電子機器が、静止している構造物に取り付けられる構成について説明する。ここで、一実施形態に係る電子機器が検出するのは、例えば、静止物に取り付けられた電子機器の周囲に存在する自動車などとしてよい。一実施形態に係る電子機器が検出するのは、自動車に限定されない。一実施形態に係る電子機器が検出するのは、自動運転される自動車、バス、トラック、オートバイ、自転車、船舶、航空機、トラクターなどの農作業装置、除雪車、清掃車、パトカー、救急車、消防車、ヘリコプター、及びドローンなど、種々の物体としてよい。一実施形態に係る電子機器は、静止物に取り付けられた電子機器の周囲の物体が移動し得るような状況において、電子機器と当該物体との間の距離などを測定することができる。また、一実施形態に係る電子機器は、電子機器及び物体の双方が静止していても、電子機器と物体との間の距離などを測定することができる。
【0016】
上述したミリ波レーダのような電子機器において、複数の送信アンテナから送信波を送信し、当該送信波が物体によって反射された反射波を複数の受信アンテナから受信することにより、当該物体を検出することができる。このような技術によれば、電子機器が検出する物体までの距離、当該物体の電子機器に対する相対速度、当該物体の電子機器に対する方向(角度)を検出することができる。しかしながら、2~4本程度の受信アンテナによって反射波を受信する場合、物体の電子機器に対する方向(角度)が良好に推定できないこともある。一実施形態に係る電子機器によれば、2~4本程度の受信アンテナによって反射波を受信する場合でも、物体の電子機器に対する方向(角度)を良好に推定し得る。以下、このような電子機器について説明する。
【0017】
一実施形態に係る電子機器について、以下、図面を参照して詳細に説明する。まず、一実施形態に係る電子機器による物体の検出の例を説明する。
【0018】
図1は、一実施形態に係る電子機器の使用態様の一例を説明する図である。図1は、一実施形態に係る送信アンテナ及び受信アンテナを備えるセンサの機能を備える電子機器の例を示している。
【0019】
図1に示すように、一実施形態に係る電子機器1は、後述する送信部20及び受信部30を備えてよい。後述のように、送信部20は送信アンテナを備えてよい。また、受信部30は受信アンテナを備えてよい。電子機器1、送信部20、及び受信部30の具体的な構成については後述する。また、電子機器1は、電子機器1に含まれる制御部10(図2)の少なくとも一部など、他の機能部の少なくともいずれかを、適宜含んでもよい。また、電子機器1は、電子機器1に含まれる制御部10(図2)の少なくとも一部など、他の機能部の少なくともいずれかを、電子機器1の外部に備えてもよい。図1において、電子機器1は、移動せずに静止していてよい。
【0020】
図1に示す例において、電子機器1は、送信アンテナを備える送信部20及び受信アンテナを備える受信部30を、1つ備えるように示してある。しかしながら、電子機器1は、例えば複数の送信部20及び/又は複数の受信部30を備えてもよい。また、後述のように、送信部20は複数の送信アンテナを備えてもよい。また、受信部30は複数の受信アンテナを備えてもよい。ここで、送信部20及び/又は受信部30が電子機器1に設置される位置は、図1に示す位置に限定されるものではなく、適宜、他の位置としてもよい。また、送信部20及び/又は受信部30の個数は、電子機器1による物体の検出範囲及び/又は検出精度など各種の条件(又は要求)に応じて、1つ以上の任意の数としてよい。
【0021】
電子機器1は、後述のように、送信アンテナから送信波として電磁波を送信する。例えば電子機器1の周囲に所定の物体(例えば図1に示す物体200)が存在する場合、電子機器1から送信された送信波の少なくとも一部は、当該物体によって反射されて反射波となる。そして、このような反射波を例えば電子機器1の受信アンテナによって受信することにより、電子機器1は、当該対象をターゲットとして検出することができる。
【0022】
送信アンテナを備える電子機器1は、典型的には、電波を送受信するレーダ(RADAR(Radio Detecting and Ranging))センサとしてよい。しかしながら、電子機器1は、レーダセンサに限定されない。一実施形態に係る電子機器1は、例えば光波によるLIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)の技術に基づくセンサとしてもよい。これらのようなセンサは、例えばパッチアンテナなどを含んで構成することができる。RADAR及びLIDARのような技術は既に知られているため、詳細な説明は、適宜、簡略化又は省略することがある。
【0023】
図1に示す電子機器1は、送信アンテナから送信された送信波の反射波を受信アンテナから受信する。このようにして、電子機器1は、電子機器1から所定の距離内に存在する所定の物体200をターゲットとして検出することができる。例えば、図1に示すように、電子機器1は、電子機器1と所定の物体200との間の距離Lを測定することができる。また、電子機器1は、電子機器1と所定の物体200との相対速度も測定することができる。さらに、電子機器1は、所定の物体200からの反射波が、電子機器1に到来する方向(到来角θ)も測定することができる。
【0024】
図1において、XY平面は、例えば地表にほぼ平行な平面としてよい。この場合、図1に示すZ軸の正方向は、鉛直上向きを示す。図1において、電子機器1は、XY平面と平行な平面上に配置されているものとしてよい。また、図1において、物体200は、例えば、XY平面にほぼ平行な地表に存在する状態としてよい。
【0025】
ここで、物体200とは、例えば電子機器1の周囲に存在する自動車、バイク、自転車、及び歩行者などとしてよい。また、物体200とは、例えば電子機器1の周囲に存在する動物など、人間以外の生物としてもよい。上述のように、物体200は、移動していてもよいし、停止又は静止していてもよい。本開示において、電子機器1が検出する物体は、任意の物体のような無生物の他に、人、犬、猫、及び馬、その他の動物などの生物も含む。本開示の電子機器1が検出する物体は、レーダ技術により検知される、人、物、及び動物などを含む物標を含む。
【0026】
図1において、電子機器1の大きさと、物体200の大きさとの比率は、必ずしも実際の比率を示すものではない。また、図1において、送信部20及び受信部30は、電子機器1の外部に設置した状態を示してある。しかしながら、一実施形態において、送信部20及び/又は受信部30は、電子機器1の各種の位置に設置してよい。例えば、一実施形態において、送信部20及び/又は受信部30は、電子機器1の内部に設置して、電子機器1の外観に現れないようにしてもよい。
【0027】
以下、典型的な例として、電子機器1の送信アンテナは、ミリ波(30GHz以上)又は準ミリ波(例えば20GHz~30GHz付近)などのような周波数帯の電波を送信するものとして説明する。例えば、電子機器1の送信アンテナは、77GHz~81GHzのように、4GHzの周波数帯域幅を有する電波を送信してもよい。
【0028】
このように、一実施形態に係る電子機器1は、複数の送信アンテナから、電子機器1の周囲に送信波を送信することができる。また、一実施形態に係る電子機器1は、複数の受信アンテナから、送信波が反射された反射波を受信することができる。送信アンテナ及び受信アンテナの少なくとも一方は、電子機器1に備えられるものとしてもよいし、例えばレーダセンサ等に備えられてもよい。一実施形態に係る電子機器1は、通常のレーダセンサと同様に、電子機器1の周囲の物体が移動し得るような状況において、電子機器1と当該物体との間の距離などを測定することができる。また、一実施形態に係る電子機器1は、電子機器及び物体の双方が静止していても、電子機器と物体との間の距離などを測定することができる。
【0029】
図2は、一実施形態に係る電子機器1の構成例を概略的に示す機能ブロック図である。また、図3は、図2に示す電子機器1の制御部10をより詳細に示す機能ブロック図である。以下、一実施形態に係る電子機器1の構成の一例について説明する。
【0030】
ミリ波方式のレーダによって距離などを測定する際、周波数変調連続波レーダ(本開示において、FMCWレーダ(Frequency Modulated Continuous Wave radar)と記す)が用いられることが多い。FMCWレーダは、送信する電波の周波数を掃引して送信信号が生成される。したがって、例えば79GHzの周波数帯の電波を用いるミリ波方式のFMCWレーダにおいて、使用する電波の周波数は、例えば77GHz~81GHzのように、4GHzの周波数帯域幅を持つものとなる。79GHzの周波数帯のレーダは、例えば24GHz、60GHz、76GHzの周波数帯などの他のミリ波/準ミリ波レーダよりも、使用可能な周波数帯域幅が広いという特徴がある。以下、例として、このような実施形態について説明する。本開示で利用されるFMCWレーダレーダ方式は、通常より短い周期でチャープ信号を送信するFCM方式(Fast-Chirp Modulation)を含むとしてもよい。信号生成部21が生成する信号は、FMCW方式の信号に限定されない。信号生成部21が生成する信号は、FMCW方式以外の各種の方式の信号としてもよい。任意の記憶部に記憶される送信信号列は、これら各種の方式によって異なるものとしてよい。例えば、上述のFMCW方式のレーダ信号の場合、時間サンプルごとに周波数が増加する信号及び減少する信号を使用してよい。上述の各種の方式は、公知の技術を適宜適用することができるため、より詳細な説明は省略する。
【0031】
図2に示すように、一実施形態に係る電子機器1は、制御部10を備えている。また、一実施形態に係る電子機器1は、送信部20、及び受信部30A~30Dなどの少なくともいずれかのような、他の機能部を適宜含んでもよい。図2に示すように、電子機器1は、受信部30A~30Dのように、複数の受信部を備えてよい。本開示において、受信部30Aと、受信部30Bと、受信部30Cと、受信部30Dとを区別しない場合、単に「受信部30」と記す。
【0032】
制御部10は、図3に示すように、距離FFT処理部11、速度FFT処理部12、判定部13、到来角推定部14、物体検出部15、物体追跡部16、及びメモリ17を備えてよい。制御部10に含まれるこれらの機能部については、さらに後述する。
【0033】
送信部20は、図2に示すように、信号生成部21、シンセサイザ22、位相制御部23A及び23B、増幅器24A及び24B、並びに、送信アンテナ25A及び25Bを備えてよい。本開示において、位相制御部23Aと、位相制御部23Bとを区別しない場合、単に「位相制御部23」と記す。また、本開示において、増幅器24Aと、増幅器24Bとを区別しない場合、単に「増幅器24」と記す。また、本開示において、送信アンテナ25Aと、送信アンテナ25Bとを区別しない場合、単に「送信アンテナ25」と記す。
【0034】
受信部30は、図2に示すように、それぞれ対応する受信アンテナ31A~31Dを備えてよい。本開示において、受信アンテナ31Aと、受信アンテナ31Bと、受信アンテナ31Cと、受信アンテナ31Dとを区別しない場合、単に「受信アンテナ31」と記す。また、複数の受信部30は、それぞれ、図2に示すように、LNA32、ミキサ33、IF部34、及びAD変換部35を備えてよい。受信部30A~30Dは、それぞれ同様の構成としてよい。図2においては、代表例として、受信部30Aのみの構成を概略的に示してある。
【0035】
上述の電子機器1は、例えば送信アンテナ25及び受信アンテナ31を備えるものとしてよい。また、電子機器1は、制御部10などの他の機能部の少なくともいずれかを適宜含んでもよい。
【0036】
一実施形態に係る電子機器1が備える制御部10は、電子機器1を構成する各機能部の制御をはじめとして、電子機器1全体の動作の制御を行うことができる。一実施形態において、制御部10は、反射波として受信部30が受信した受信信号に各種の信号処理を実行する機能を備えてよい。制御部10は、種々の機能を実行するための制御及び処理能力を提供するために、例えばCPU(Central Processing Unit)又はDSP(Digital Signal Processor)のような、少なくとも1つのプロセッサを含んでよい。制御部10は、まとめて1つのプロセッサで実現してもよいし、いくつかのプロセッサで実現してもよいし、それぞれ個別のプロセッサで実現してもよい。プロセッサは、単一の集積回路として実現されてよい。集積回路は、IC(Integrated Circuit)ともいう。プロセッサは、複数の通信可能に接続された集積回路及びディスクリート回路として実現されてよい。プロセッサは、他の種々の既知の技術に基づいて実現されてよい。一実施形態において、制御部10は、例えばCPU又はDSP及び当該CPU又はDSPで実行されるプログラムとして構成してよい。制御部10は、制御部10の動作に必要なメモリ(任意の記憶部)を適宜含んでもよい。
【0037】
ここで、任意の記憶部(制御部10の動作に必要なメモリ)は、制御部10において実行されるプログラム、及び、制御部10において実行された処理の結果などを記憶してよい。また、任意の記憶部は、制御部10のワークメモリとして機能してよい。任意の記憶部は、例えば半導体メモリ又は磁気ディスク等により構成することができるが、これらに限定されず、任意の記憶装置とすることができる。また、例えば、任意の記憶部は、本実施形態に係る電子機器1に挿入されたメモリカードのような記憶媒体としてもよい。また、任意の記憶部は、上述のように、制御部10として用いられるCPU又はDSPの内部メモリであってもよい。
【0038】
一実施形態において、任意の記憶部は、送信アンテナ25から送信する送信波T及び受信アンテナ31から受信する反射波Rによって物体を検出する範囲を設定するための各種パラメータを記憶してよい。
【0039】
一実施形態に係る電子機器1において、制御部10は、送信部20及び受信部30の少なくとも一方を制御することができる。この場合、制御部10は、任意の記憶部に記憶された各種情報に基づいて、送信部20及び受信部30の少なくとも一方を制御してよい。また、一実施形態に係る電子機器1において、制御部10は、信号生成部21に信号の生成を指示したり、信号生成部21が信号を生成するように制御したりしてもよい。また、一実施形態において、制御部10は、位相制御部23を制御することにより、送信アンテナ25から送信される送信波の位相を制御する機能を備えてよい。
【0040】
また、一実施形態において、制御部10は、受信アンテナ31から受信する反射波Rに各種の信号処理を行ってもよい。また、一実施形態において、制御部10は、送信アンテナ25から送信する送信波T及び/又は受信アンテナ31から受信する反射波Rについて、各種の信号処理を行ってもよい。さらに、一実施形態において、制御部10は、送信部20及び受信部30の少なくとも一方の機能の少なくとも一部を実装するものとしてもよい。
【0041】
信号生成部21は、制御部10の制御により、送信アンテナ25から送信波Tとして送信される信号(送信信号)を生成する。信号生成部21は、送信信号を生成する際に、例えば制御部10による制御に基づいて、送信信号の周波数を割り当ててよい。具体的には、信号生成部21は、例えば制御部10によって設定されたパラメータにしたがって、送信信号の周波数を割り当ててよい。例えば、信号生成部21は、制御部10又は任意の記憶部から周波数情報を受け取ることにより、例えば77~81GHzのような周波数帯域の所定の周波数の信号を生成する。信号生成部21は、例えば電圧制御発振器(VCO)のような機能部を含んで構成してよい。
【0042】
信号生成部21は、当該機能を有するハードウェアとして構成してもよいし、例えばマイコンなどで構成してもよいし、例えばCPU又はDSPのようなプロセッサ及び当該プロセッサで実行されるプログラムなどとして構成してもよい。以下説明する各機能部も、当該機能を有するハードウェアとして構成してもよいし、可能な場合には、例えばマイコンなどで構成してもよいし、例えばCPU又はDSPのようなプロセッサ及び当該プロセッサで実行されるプログラムなどとして構成してもよい。
【0043】
一実施形態に係る電子機器1において、信号生成部21は、例えばチャープ信号のような送信信号(送信チャープ信号)を生成してよい。特に、信号生成部21は、周波数が周期的に線形に変化する信号(線形チャープ信号)を生成してもよい。例えば、信号生成部21は、周波数が時間の経過に伴って77GHzから81GHzまで周期的に線形に増大するチャープ信号としてもよい。また、例えば、信号生成部21は、周波数が時間の経過に伴って77GHzから81GHzまで線形の増大(アップチャープ)及び減少(ダウンチャープ)を周期的に繰り返す信号を生成してもよい。信号生成部21が生成する信号は、例えば制御部10において予め設定されていてもよい。また、信号生成部21が生成する信号は、例えば任意の記憶部などに予め記憶されていてもよい。レーダのような技術分野で用いられるチャープ信号は既知であるため、より詳細な説明は、適宜、簡略化又は省略する。信号生成部21によって生成された信号は、シンセサイザ22に供給される。
【0044】
図4は、信号生成部21が生成するチャープ信号の例を説明する図である。
【0045】
図4において、横軸は経過する時間を表し、縦軸は周波数を表す。図4に示す例において、信号生成部21は、周波数が周期的に線形に変化する線形チャープ信号を生成する。図4においては、各チャープ信号を、c1,c2,…,c8のように示してある。図4に示すように、それぞれのチャープ信号において、時間の経過に伴って周波数が線形に増大する。
【0046】
図4に示す例において、c1,c2,…,c8のように8つのチャープ信号を含めて、1つのサブフレームとしている。すなわち、図4に示すサブフレーム1及びサブフレーム2などは、それぞれc1,c2,…,c8のように8つのチャープ信号を含んで構成されている。また、図4に示す例において、サブフレーム1~サブフレーム16のように16のサブフレームを含めて、1つのフレームとしている。すなわち、図4に示すフレーム1及びフレーム2などは、それぞれ16のサブフレームを含んで構成されている。また、図4に示すように、フレーム同士の間には、所定の長さのフレームインターバルを含めてもよい。図4に示す1つのフレームは、例えば30ミリ秒から50ミリ秒程度の長さとしてよい。
【0047】
図4において、フレーム2以降も同様の構成としてよい。また、図4において、フレーム3以降も同様の構成としてよい。一実施形態に係る電子機器1において、信号生成部21は、任意の数のフレームとして送信信号を生成してよい。また、図4においては、一部のチャープ信号は省略して示している。このように、信号生成部21が生成する送信信号の時間と周波数との関係は、例えば任意の記憶部などに記憶しておいてよい。
【0048】
このように、一実施形態に係る電子機器1は、複数のチャープ信号を含むサブフレームから構成される送信信号を送信してよい。また、一実施形態に係る電子機器1は、サブフレームを所定数含むフレームから構成される送信信号を送信してよい。
【0049】
以下、電子機器1は、図4に示すようなフレーム構造の送信信号を送信するものとして説明する。しかしながら、図4に示すようなフレーム構造は一例であり、例えば1つのサブフレームに含まれるチャープ信号は8つに限定されない。一実施形態において、信号生成部21は、任意の数(例えば任意の複数)のチャープ信号を含むサブフレームを生成してよい。また、図4に示すようなサブフレーム構造も一例であり、例えば1つのフレームに含まれるサブフレームは16に限定されない。一実施形態において、信号生成部21は、任意の数(例えば任意の複数)のサブフレームを含むフレームを生成してよい。信号生成部21は、異なる周波数の信号を生成してよい。信号生成部21は、周波数fがそれぞれ異なる帯域幅の複数の離散的な信号を生成してもよい。
【0050】
図2に戻り、シンセサイザ22は、信号生成部21が生成した信号の周波数を、所定の周波数帯の周波数まで上昇させる。シンセサイザ22は、送信アンテナ25から送信する送信波Tの周波数として選択された周波数まで、信号生成部21が生成した信号の周波数を上昇させてよい。送信アンテナ25から送信する送信波Tの周波数として選択される周波数は、例えば制御部10によって設定されてもよい。また、送信アンテナ25から送信する送信波Tの周波数として選択される周波数は、例えば任意の記憶部に記憶されていてもよい。シンセサイザ22によって周波数が上昇された信号は、位相制御部23及びミキサ33に供給される。位相制御部23が複数の場合、シンセサイザ22によって周波数が上昇された信号は、複数の位相制御部23のそれぞれに供給されてよい。また、受信部30が複数の場合、シンセサイザ22によって周波数が上昇された信号は、複数の受信部30におけるそれぞれのミキサ33に供給されてよい。
【0051】
位相制御部23は、シンセサイザ22から供給された送信信号の位相を制御する。具体的には、位相制御部23は、例えば制御部10による制御に基づいて、シンセサイザ22から供給された信号の位相を適宜早めたり遅らせたりすることにより、送信信号の位相を調整してよい。この場合、位相制御部23は、複数の送信アンテナ25から送信されるそれぞれの送信波Tの経路差に基づいて、それぞれの送信信号の位相を調整してもよい。位相制御部23がそれぞれの送信信号の位相を適宜調整することにより、複数の送信アンテナ25から送信される送信波Tは、所定の方向において強め合ってビームを形成する(ビームフォーミング)。この場合、ビームフォーミングの方向と、複数の送信アンテナ25がそれぞれ送信する送信信号の制御すべき位相量との相関関係は、例えば任意の記憶部に記憶しておいてよい。位相制御部23によって位相制御された送信信号は、増幅器24に供給される。
【0052】
増幅器24は、位相制御部23から供給された送信信号のパワー(電力)を、例えば制御部10による制御に基づいて増幅させる。電子機器1が複数の送信アンテナ25を備える場合、複数の増幅器24は、複数の位相制御部23のうちそれぞれ対応するものから供給された送信信号のパワー(電力)を、例えば制御部10による制御に基づいてそれぞれ増幅させてよい。送信信号のパワーを増幅させる技術自体は既に知られているため、より詳細な説明は省略する。増幅器24は、送信アンテナ25に接続される。
【0053】
送信アンテナ25は、増幅器24によって増幅された送信信号を、送信波Tとして出力(送信)する。電子機器1が複数の送信アンテナ25を備える場合、複数の送信アンテナ25は、複数の増幅器24のうちそれぞれ対応するものによって増幅された送信信号を、それぞれ送信波Tとして出力(送信)してよい。送信アンテナ25は、既知のレーダ技術に用いられる送信アンテナと同様に構成することができるため、より詳細な説明は省略する。
【0054】
このようにして、一実施形態に係る電子機器1は、送信アンテナ25を備え、送信アンテナ25から送信波Tとして送信信号(例えば送信チャープ信号)を送信することができる。ここで、電子機器1を構成する各機能部のうちの少なくとも1つは、1つの筐体に収められてもよい。また、この場合、当該1つの筐体は、容易に開けることができない構造としてもよい。例えば送信アンテナ25、受信アンテナ31、増幅器24が1つの筐体に収められ、かつ、この筐体が容易に開けられない構造となっているとよい。さらに、ここで、電子機器1が静止物に設置される場合、送信アンテナ25は、例えばレーダカバーのようなカバー部材を介して、静止物の外部に送信波Tを送信してもよい。この場合、レーダカバーは、例えば合成樹脂又はゴムのような、電磁波を通過させる物質で構成してよい。このレーダカバーは、例えば電子機器1のハウジングとしてもよい。レーダカバーのような部材で送信アンテナ25を覆うことにより、送信アンテナ25が外部との接触により破損したり不具合が発生したりするリスクを低減することができる。また、上記レーダカバー及びハウジングは、レドームとも呼ばれることがある。
【0055】
図2に示す電子機器1は、送信アンテナ25を2つ備える例を示している。しかしながら、一実施形態において、電子機器1は、任意の数の送信アンテナ25を備えてもよい。一方、一実施形態において、電子機器1は、送信アンテナ25から送信される送信波Tが所定方向にビームを形成するようにする場合、複数の送信アンテナ25を備えてよい。一実施形態において、電子機器1は、任意の複数の送信アンテナ25を備えてもよい。この場合、電子機器1は、複数の送信アンテナ25に対応させて、位相制御部23及び増幅器24もそれぞれ複数備えてよい。そして、複数の位相制御部23は、シンセサイザ22から供給されて複数の送信アンテナ25から送信される複数の送信波の位相を、それぞれ制御してよい。また、複数の増幅器24は、複数の送信アンテナ25から送信される複数の送信信号のパワーを、それぞれ増幅してよい。また、この場合、電子機器1は、複数の送信アンテナを含んで構成してよい。このように、図2に示す電子機器1は、複数の送信アンテナ25を備える場合、当該複数の送信アンテナ25から送信波Tを送信するのに必要な機能部も、それぞれ複数含んで構成してよい。
【0056】
受信アンテナ31は、反射波Rを受信する。反射波Rは、送信波Tが所定の物体200に反射したものとしてよい。受信アンテナ31は、例えば受信アンテナ31A~受信アンテナ31Dのように、複数のアンテナを含んで構成してよい。受信アンテナ31は、既知のレーダ技術に用いられる受信アンテナと同様に構成することができるため、より詳細な説明は省略する。受信アンテナ31は、LNA32に接続される。受信アンテナ31によって受信された反射波Rに基づく受信信号は、LNA32に供給される。
【0057】
一実施形態に係る電子機器1は、複数の受信アンテナ31から、例えばチャープ信号のような送信信号(送信チャープ信号)として送信された送信波Tが所定の物体200によって反射された反射波Rを受信することができる。このように、送信波Tとして送信チャープ信号を送信する場合、受信した反射波Rに基づく受信信号は、受信チャープ信号と記す。すなわち、電子機器1は、受信アンテナ31から反射波Rとして受信信号(例えば受信チャープ信号)を受信する。ここで、電子機器1が静止物に設置される場合、受信アンテナ31は、例えばレーダカバーのようなカバー部材を介して、静止物の外部から反射波Rを受信してもよい。この場合、レーダカバーは、例えば合成樹脂又はゴムのような、電磁波を通過させる物質で構成してよい。このレーダカバーは、例えば電子機器1のハウジングとしてもよい。レーダカバーのような部材で受信アンテナ31を覆うことにより、受信アンテナ31が外部との接触により破損又は不具合が発生するリスクを低減することができる。また、上記レーダカバー及びハウジングは、レドームとも呼ばれることがある。
【0058】
また、受信アンテナ31が送信アンテナ25の近くに設置される場合、これらをまとめて1つの電子機器1に含めて構成してもよい。すなわち、1つの電子機器1には、例えば少なくとも1つの送信アンテナ25及び少なくとも1つの受信アンテナ31を含めてもよい。例えば、1つの電子機器1は、複数の送信アンテナ25及び複数の受信アンテナ31を含んでもよい。このような場合、例えば1つのレーダカバーのようなカバー部材で、1つのレーダセンサを覆うようにしてもよい。
【0059】
LNA32は、受信アンテナ31によって受信された反射波Rに基づく受信信号を低ノイズで増幅する。LNA32は、低雑音増幅器(Low Noise Amplifier)としてよく、受信アンテナ31から供給された受信信号を低雑音で増幅する。LNA32によって増幅された受信信号は、ミキサ33に供給される。
【0060】
ミキサ33は、LNA32から供給されるRF周波数の受信信号を、シンセサイザ22から供給される送信信号に混合する(掛け合わせる)ことにより、ビート信号を生成する。ミキサ33によって混合されたビート信号は、IF部34に供給される。
【0061】
IF部34は、ミキサ33から供給されるビート信号に周波数変換を行うことにより、ビート信号の周波数を中間周波数(IF(Intermediate Frequency)周波数)まで低下させる。IF部34によって周波数を低下させたビート信号は、AD変換部35に供給される。
【0062】
AD変換部35は、IF部34から供給されたアナログのビート信号をデジタル化する。AD変換部35は、任意のアナログ-デジタル変換回路(Analog to Digital Converter(ADC))で構成してよい。AD変換部35によってデジタル化されたビート信号は、制御部10の距離FFT処理部11に供給される。受信部30が複数の場合、複数のAD変換部35によってデジタル化されたそれぞれのビート信号は、距離FFT処理部11に供給されてよい。
【0063】
図3に示す制御部10の距離FFT処理部11は、受信部30のAD変換部35から供給されたビート信号に基づいて、電子機器1と、物体200との間の距離を推定するための処理を行う。距離FFT処理部11は、例えば高速フーリエ変換を行う処理部を含んでよい。この場合、距離FFT処理部11は、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform(FFT))処理を行う任意の回路又はチップなどで構成してよい。また、距離FFT処理部11は、高速フーリエ変換以外のフーリエ変換を行うとしてもよい。
【0064】
距離FFT処理部11は、AD変換部35によってデジタル化されたビート信号に対してFFT処理を行う(本開示において、適宜「距離FFT処理」と記す)。例えば、距離FFT処理部11は、AD変換部35から供給された複素信号にFFT処理を行ってよい。AD変換部35によってデジタル化されたビート信号は、信号強度(電力)の時間変化として表すことができる。距離FFT処理部11は、このようなビート信号にFFT処理を行うことにより、各周波数に対応する信号強度(電力)として表すことができる。距離FFT処理部11において距離FFT処理を行うことにより、AD変換部35によってデジタル化されたビート信号に基づいて、距離に対応する複素信号を得ることができる。
【0065】
距離FFT処理部11は、距離FFT処理によって得られた結果においてピークが所定の閾値以上である場合、そのピークに対応する距離に、所定の物体200があると判断してもよい。例えば、一定誤警報確率(CFAR(Constant False Alarm Rate))による検出処理のように、外乱信号の平均電力又は振幅から閾値以上のピーク値が検出された場合、送信波を反射する物体(反射物体)が存在するものと判断する方法が知られている。
【0066】
このように、一実施形態に係る電子機器1は、送信波Tとして送信される送信信号、及び、反射波Rとして受信される受信信号に基づいて、送信波Tを反射する物体200をターゲットとして検出することができる。一実施形態において、上述のような動作は、例えば、電子機器1の制御部10が行うものとしてよい。
【0067】
距離FFT処理部11は、1つのチャープ信号(例えば図4に示すc1)に基づいて、所定の物体との間の距離を推定することができる。すなわち、電子機器1は、距離FFT処理を行うことにより、図1に示した距離Lを測定(推定)することができる。ビート信号にFFT処理を行うことにより、所定の物体との間の距離を測定(推定)する技術自体は公知のため、より詳細な説明は、適宜、簡略化又は省略する。距離FFT処理部11によって距離FFT処理が行われた結果(例えば距離の情報)は、速度FFT処理部12に供給されてよい。また、距離FFT処理部11によって距離FFT処理が行われた結果は、後段の判定部13、到来角推定部14、及び/又は物体検出部15などにも供給されてもよい。
【0068】
速度FFT処理部12は、距離FFT処理部11によって距離FFT処理が行われたビート信号に基づいて、電子機器1と、物体200との相対速度を推定するための処理を行う。速度FFT処理部12は、例えば高速フーリエ変換を行う処理部を含んでよい。この場合、速度FFT処理部12は、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform(FFT))処理を行う任意の回路又はチップなどで構成してよい。速度FFT処理部12は、高速フーリエ変換以外のフーリエ変換を行うとしてもよい。
【0069】
速度FFT処理部12は、距離FFT処理部11によって距離FFT処理が行われたビート信号に対して、さらにFFT処理を行う(本開示において、適宜「速度FFT処理」と記す)。例えば、速度FFT処理部12は、距離FFT処理部11から供給された複素信号にFFT処理を行ってよい。速度FFT処理部12は、チャープ信号のサブフレーム(例えば図3に示すサブフレーム1)に基づいて、所定の物体との相対速度を推定することができる。速度FFT処理部12において複数のチャープ信号について速度FFT処理を行うことにより、距離FFT処理部11によって得られる距離に対応する複素信号に基づいて、相対速度に対応する複素信号が得られる。
【0070】
上述のようにビート信号に距離FFT処理を行うと、複数のベクトルを生成することができる。これら複数のベクトルに対して速度FFT処理を行った結果におけるピークの位相を求めることにより、所定の物体との相対速度を推定することができる。すなわち、電子機器1は、速度FFT処理を行うことにより、図1に示した電子機器1と所定の物体200との相対速度を測定(推定)することができる。距離FFT処理を行った結果に対して速度FFT処理を行うことにより、所定の物体との相対速度を測定(推定)する技術自体は公知のため、より詳細な説明は、適宜、簡略化又は省略する。速度FFT処理部12によって速度FFT処理が行われた結果(例えば速度の情報)は、判定部13に供給されてよい。また、速度FFT処理部12によって速度FFT処理が行われた結果は、後段の到来角推定部14、及び/又は物体検出部15などにも供給されてもよい。
【0071】
また、速度FFT処理部12が速度FFT処理を行う場合、不連続点が発生しないようにするために、ウインドウ制御をかける場合がある。その場合、速度FFT処理部12は、静止物の相対速度に隣接する相対速度を出力しなくてもよい。
【0072】
判定部13は、距離FFT処理部11によって距離FFT処理が行われた結果、及び/又は、速度FFT処理部12によって速度FFT処理が行われた結果に基づいて、距離及び/又は相対速度についての判定処理を行う。判定部13は、所定の距離及び/又は所定の相対速度において、物体を検出したか否かを判定する。以下、判定部13による判定について、さらに説明する。
【0073】
一般的なFMCWレーダの技術においては、受信信号からビート周波数を抽出したものに高速フーリエ変換処理を行うなどした結果に基づいて、ターゲットが存在するか否かを判定することができる。ここで、受信信号からビート周波数を抽出して高速フーリエ変換処理を行うなどした結果には、クラッタ(不要反射成分)などによる雑音(ノイズ)の成分も含まれる。したがって、受信信号を処理した結果から雑音成分を取り除き、ターゲットの信号のみを抽出するための処理を実行してもよい。
【0074】
ターゲットが存在するか否かを判定する手法として、受信信号の出力に閾値を設定し、反射信号の強度が当該閾値を超える場合にターゲットが存在するとみなす方式がある(threshold detection方式)。この方式を採用すると、クラッタの信号強度が当該閾値を超える場合もターゲットと判定することになり、いわゆる「誤警報」を発することになる。このクラッタの信号強度が閾値を超えるか否かは確率統計的なものである。このクラッタの信号強度が閾値を超える確率は、「誤警報確率」と呼ばれる。この誤警報確率を低く一定に抑制するための手法として、一定誤警報確率(Constant False Alarm Rate)を用いることができる。
【0075】
本開示において、一定誤警報確率(Constant False Alarm Rate)を、単にCFARとも記す。CFARにおいて、雑音の信号強度(振幅)はレイリー(Rayleigh)分布に従うという仮定が用いられる。この仮定に基づくと、ターゲットを検出したか否かを判定するのに用いる閾値を算出するための重みを固定すれば、雑音の振幅にかかわらず、ターゲット検出の誤り率が理論的に一定になる。
【0076】
一般的なレーダの技術におけるCFARとして、Cell Averaging CFAR(本開示において、CA-CFARとも記す)という方式が知られている。CA-CFARにおいては、所定の処理を施した受信信号の信号強度の値(例えば振幅値)が、一定のサンプリング周期ごとに、順次、シフトレジスタに入力されてよい。このシフトレジスタは、中央に検査セル(cell under test)を有し、当該検査セルの両側にそれぞれ複数個の参照セル(reference cell)を有する。信号強度の値がシフトレジスタに入力されるたびに、以前に入力された信号強度の値は、シフトレジスタの一端側(例えば左端側)から他端側(例えば右端側)のセルに、1つずつ移動される。また、入力のタイミングと同期して、参照セルの各値は平均化される。このようにして得られた平均値は、規定の重みを乗じられ、閾値として算出される。このようにして算出された閾値よりも検査セルの値が大きい場合、検査セルの値がそのまま出力される。一方、算出された閾値よりも検査セルの値が大きくない場合、0(ゼロ)値が出力される。このように、CA-CFARにおいては、参照セルの平均値から閾値を算出して、ターゲットが存在するか否かを判定することにより、検出結果を得ることができる。
【0077】
CA-CFARにおいては、例えば複数のターゲットが近接して存在している場合、アルゴリズムの性質上、ターゲットの近傍において算出される閾値が大きくなる。このため、十分な信号強度を有しているにも関わらず、検出されないターゲットもあり得る。同様に、クラッタの段差がある場合、そのクラッタの段差の近傍においても算出される閾値が大きくなる。この場合も、クラッタの段差の近傍にある小さなターゲットが検出されないこともあり得る。
【0078】
上述のCA-CFARに対し、参照セルにおける値のメディアン(中央値)、又は、参照セルにおける値を小さい順に並べ替えたときの規定番目の値から閾値を得る手法として、Order Statistic CFAR(本開示において、OS-CFARとも記す)という手法がある。OS-CFERは、順序統計(ordered statistics)に基づいて閾値を設定し、その閾値を超える場合にターゲットが存在すると判定する手法である。このOS-CFARによれば、上述のようなCA-CFARにおける問題点に対処し得る。OS-CFARは、CA-CFARとは部分的に異なる処理を行うことにより、実現することができる。以下、一実施形態に係る電子機器1においてOS-CFAR処理を実行するものとして説明する。
【0079】
判定部13は、OS-CFARにより物体検出の判定を行ってよい。この場合、判定部13は、静止物体の領域と静止物体でない領域とにおいて、異なる閾値を用いて判定を行ってもよい。また、上述したウインドウ制御を行っている場合、判定部13は、静止物体と隣接する相対速度の領域を検出しないようにしてもよい。判定部13は、OS-CFARで使用する雑音の領域として、同一の相対速度において距離の異なる領域を使用してもよい。一実施形態において、判定部13は、例えば速度FFT処理部12による速度FFT処理の結果がCFERの閾値を超える場合に、物体を検出したと判定してよい。判定部13によって判定された物体検出の結果は、例えば到来角推定部14などに供給されてよい。
【0080】
到来角推定部14は、判定部13による判定の結果に基づいて、所定の物体200から反射波Rが到来する方向(到来角)を推定する。到来角推定部14は、判定部13によって閾値を満たしたと判定された点について、到来角の推定を行ってよい。電子機器1は、複数の受信アンテナ31から反射波Rを受信することで、反射波Rが到来する方向を推定することができる。例えば、複数の受信アンテナ31は、所定の間隔で配置されているものとする。この場合、送信アンテナ25から送信された送信波Tが所定の物体200に反射されて反射波Rとなり、所定の間隔で配置された複数の受信アンテナ31はそれぞれ反射波Rを受信する。そして、到来角推定部14は、複数の受信アンテナ31がそれぞれ受信した反射波Rの位相、及びそれぞれの反射波Rの経路差に基づいて、反射波Rが受信アンテナ31に到来する方向を推定することができる。すなわち、電子機器1は、速度FFT処理が行われた結果に基づいて、図1に示した到来角θを測定(推定)することができる。以下、電子機器1から送信された電波が物体によって反射された反射波が電子機器1に到来する方向を、単に「到来方向」又は「到来角」とも記す。また、電子機器1が検出する物体の電子機器1に対する方向を、単に「到来方向」又は「到来角」と記すことがある。
【0081】
速度FFT処理が行われた結果に基づいて、反射波Rが到来する方向を推定する技術は各種提案されている。例えば、既知の到来方向推定のアルゴリズムとしては、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)、及びESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Technique)などが知られている。したがって、公知の技術についてのより詳細な説明は、適宜、簡略化又は省略する。到来角推定部14によって推定された到来角θの情報(角度情報)は、制御部10において、物体検出部15などに適宜供給されてよい。また、到来角推定部14によって推定された到来角θの情報(角度情報)は、メモリ17などに格納されてよい。一実施形態において、制御部10は、到来角推定部14によって推定された物体の角度情報を、当該物体の検出された距離に関連付けて、メモリ17に記憶してよい。このように、電子機器1が周囲環境に存在する物体を検出した結果得られる情報のうち、検出された物体までの距離と、当該物体の電子機器1に対する方向が関連付けられた情報を、以下、「環境情報」と記す。一実施形態において、到来角推定部14は、環境情報をメモリ17に記憶してよい。
【0082】
物体検出部15は、距離FFT処理部11、速度FFT処理部12、及び到来角推定部14の少なくともいずれかから供給される情報に基づいて、送信波Tが送信された範囲に存在する物体を検出する。物体検出部15は、供給された距離の情報、速度の情報、及び角度情報に基づいて例えばクラスタリング処理を行うことにより、物体検出を行ってもよい。データをクラスタリングする際に用いるアルゴリズムとして、例えばDBSCAN(Density-based spatial clustering of applications with noise)などが知られている。クラスタリング処理においては、例えば検出される物体を構成するポイントの平均電力を算出してもよい。物体検出部15によって検出された物体の情報は、例えば物体追跡部16などに供給されてよい。制御部10において検出された物体の距離の情報、速度の情報、角度情報、及び電力の情報は、例えば他の機器などに供給されてもよい。
【0083】
物体追跡部16は、物体検出部15によってクラスタリング処理された物体の次フレームの物標位置を追跡(予測)する処理を行う。物体追跡部16は、例えばカルマンフィルタを使用することにより、クラスタリング処理された物体の次のフレームにおける位置を予測してもよい。物体追跡部16は、物体の次のフレームにおける予測された位置を、例えばメモリ17に格納してよい。また、物体追跡部16は、次フレームの物標位置として追跡(予測)された位置を、物体の検出結果として出力してもよい。物体追跡部16は、制御部10において処理された各種の情報を出力してもよい。また、物体追跡部16は、制御部10において処理された各種の情報をメモリ17に記憶してもよい。
【0084】
メモリ17は、例えば半導体メモリ又は磁気ディスク等により構成することができるが、これらに限定されず、任意の記憶装置とすることができる。また、例えば、メモリ17は、本実施形態に係る電子機器1に挿入されたメモリカードのような記憶媒体としてもよい。また、メモリ17は、上述のように、制御部10として用いられるCPU又はDSPの内部メモリであってもよい。また、メモリ17は、制御部10において実行されるプログラム、及び、制御部10において実行された処理の結果などを記憶してもよい。また、メモリ17は、制御部10のワークメモリとして機能してもよい。また、一実施形態において、メモリ17は、上述した任意の記憶部(メモリ)としてもよい。
【0085】
上述のように、メモリ17は、電子機器1が周囲環境に存在する物体を検出した結果得られる情報のうち、電子機器1から物体までの距離と、当該物体の電子機器1に対する方向とが関連付けられた環境情報を記憶してよい。ここで、電子機器1は、周囲に存在する静止物及び移動体を含む様々な物体を検出し得る。したがって、電子機器1の制御部10は、環境情報として、所定の速度以上と判定された物体までの電子機器1からの距離を、当該物体の電子機器1に対する方向に関連付けてもよい。例えば、制御部10は、所定以上の速度の物体までの距離と、当該物体の方向とを環境情報として関連付ける動作を、繰り返し、各種の物体について行い、その結果を例えばメモリ17に蓄積してもよい。すなわち、制御部10は、環境情報を異なる時刻において複数回生成して、メモリ17に蓄積してもよい。
【0086】
また、制御部10は、上述のようにしてメモリ17に蓄積された環境情報を平均化する処理を行ってもよい。例えば、制御部10は、電子機器1から同じ距離にある物体の電子機器1に対する方向を平均化してもよい。このような処理により、環境情報として関連付けて蓄積される物体の電子機器1からの距離と、当該物体の方向との精度を高めることが期待できる。また、制御部10は、上述のようにしてメモリ17に蓄積される環境情報を、移動平均に基づいて更新してもよい。このような処理により、環境情報として関連付けて蓄積される物体の電子機器1からの距離と、当該物体の方向との精度をより高めることが期待できる。
【0087】
このように、一実施形態に係る電子機器1は、環境情報を生成する際に、物体の距離に対応する方向の移動平均を算出し、メモリ17に格納してよい。一実施形態に係る電子機器1は、メモリ17に格納された環境情報を、物体の検出時に利用することができる。すなわち、一実施形態に係る電子機器1は、環境情報から読み出した情報に基づいて、検出した物体の電子機器1に対する方向を推定してよい。例えば、一実施形態に係る電子機器1は、検出した物体の電子機器1に対する方向として、環境情報から読み出した情報を出力してよい。例えば、電子機器1は、物体検出時に、検出した物体の距離に環境情報において関連付けられた方向を、検出した物体の電子機器1に対する方向として推定してよい。また、例えば、電子機器1は、上述のようにして推定される方向が、検出した物体の方向と所定の角度差(例えば±5°など)以内である場合に、当該推定される方向を出力してもよい。すなわち、この場合、電子機器1は、上述のようにして推定される方向が、検出した物体の方向と比較的大きく異なる場合、当該推定される方向を出力しなくてもよい。
【0088】
また、電子機器1は、物体検出時に、メモリ17に蓄積される環境情報に基づいて、送信波及び反射波の少なくとも一方のビームフォーミングを行ってもよい。
例えば、制御部10は、環境情報において距離に関連付けられる方向に基づき、送信波のビームフォーミング行うように制御してもよい。
【0089】
次に、一実施形態に係る電子機器1の動作について説明する。
【0090】
一実施形態に係る電子機器1は、物体を検出して当該物体の方向を推定する動作を行う前に、物体の検出に利用するための環境情報を生成、蓄積、及び/又は更新する動作を行ってよい。以下、これらの動作を分けて説明する。
【0091】
図5は、一実施形態に係る電子機器1が環境情報を生成、蓄積、及び/又は更新する動作(以下、「動作A」とも記す)の例を示すフローチャートである。図6は、一実施形態に係る電子機器1が物体を検出して当該物体の方向を推定する動作(以下、「動作B」とも記す)の例を示すフローチャートである。
【0092】
まず、図5を参照して、一実施形態に係る電子機器1が環境情報を生成、蓄積、及び/又は更新する動作(動作A)を説明する。上述のように、動作Aは、動作Bを行う下準備として、例えば電子機器1を路側機又は信号機などに設置してから所定の期間の間行う動作としてよい。ここで、所定の期間とは、妥当な環境情報が生成されるまでの期間として、例えば数時間、数日間、又は数か月間などとしてよい。
【0093】
図5に示す動作が開始すると、制御部10は、電子機器1の複数の送信アンテナ25から送信波を送信するように制御する(ステップS11)。ステップS11において、制御部10は、例えば、図4に示した1フレーム分の送信波を送信するように制御してよい。
【0094】
ステップS11において送信波が送信されると、制御部10は、当該送信波が物体に反射した反射波を、電子機器1の複数の受信アンテナ31から受信するように制御する(ステップS12)。
【0095】
ステップS12において反射波が受信されると、制御部10は、送信波及び反射波に基づいて、電子機器1の周囲に存在する物体を検出する(ステップS13)。ステップS13において、制御部10は、送信波及び反射波に基づく複数のビート信号に、距離FFT処理及び速度FFT処理(2D-FFT処理)を行ってよい。この場合、距離FFT処理部11が距離FFT処理を行い、速度FFT処理部12が速度FFT処理(2D-FFT処理)を行ってよい。
【0096】
ステップS13において2D-FFT処理が行われたら、制御部10は、2D-FFT処理の結果がCFARの閾値以上であるか否か判定する(ステップS14)。この場合、判定部13によって、2D-FFT処理の結果がCFARの閾値以上であるか否か判定してよい。ステップS14においてCFARの閾値以上でない場合、制御部10は、ステップS15乃至ステップS17の動作をスキップして、ステップS18の動作に進んでよい。
【0097】
ステップS14においてCFARの閾値以上である場合、制御部10は、検出された物体の速度(絶対値)が所定の速度以上であるか否か判定する(ステップS15)。この場合、判定部13によって、検出された物体の速度が所定の速度以上であるか否か判定してよい。ステップS15においては、動いている物体の情報を取得するために、検出された物体の速度が所定の速度以上であるか否か判定する。したがって、判定部13は、検出された物体の速度が動いているか否かを判定するために、例えば検出された物体の速度がゼロより大きいか否か判定してもよい。ステップS15において物体の速度が所定の速度以上でない場合、制御部10は、ステップS16及びステップS17の動作をスキップして、ステップS18の動作に進んでよい。
【0098】
ステップS15において物体の速度が所定の速度以上である場合、制御部10は、検出された物体の電子機器1に対する方向(到来方向)を推定する(ステップS16)。この場合、到来角推定部14によって、検出された物体の電子機器1に対する方向を推定してよい。制御部10は、ステップS16において推定された物体の方向を、メモリ17に格納してもよい。この場合、制御部10は、ステップS16において推定された物体の電子機器1からの距離も、メモリ17に格納してよい。
【0099】
ステップS16において物体の方向が推定されたら、制御部10は、環境情報を更新する(ステップS17)。ここで、制御部10は、まず、ステップS16で推定された所定以上の速度の物体の方向を、当該物体の電子機器1からの距離に関連付けた情報を、環境情報として生成し、メモリ17に格納してよい。制御部10は、例えば送信波のフレームごとにステップS17を実行することにより、環境情報を異なる時刻において複数回生成して、メモリ17に蓄積してもよい。また、ステップS17において、制御部10は、メモリ17に蓄積された情報を平均化、例えば、メモリ17に蓄積された環境情報のうち、電子機器1から同一の距離にある物体の電子機器1に対する方向を平均化してもよい。さらに、制御部10は、メモリ17に蓄積される環境情報を、移動平均に基づいて更新してもよい。
【0100】
ステップS17において環境情報を更新したら、制御部10は、ステップS18に示すように、図5に示すステップS11乃至ステップS17の動作を所定のフレーム数だけ繰り返した後、図5に示す動作を終了してよい。ステップS18において所定のフレーム数とは、必要に応じて1フレーム以上の任意のフレーム数としてよい。
【0101】
図5に示す動作は、例えば所定のタイミングで定期的に又は不定期に、繰り返し実行してよい。例えば、図5に示す動作は、送信波の所定数のフレーム単位で、繰り返し実行してもよい。
【0102】
このように、一実施形態に係る電子機器1において、制御部10は、複数の送信アンテナ25から送信波として送信される送信信号、及び送信波が反射した反射波として複数の受信アンテナ31から受信される受信信号に基づいて、送信波を反射する物体を検出する。また、制御部10は、所定の速度以上と判定された物体までの電子機器1からの距離を、当該物体の電子機器1に対する方向に関連付けた環境情報を生成してよい。
【0103】
次に、図6を参照して、一実施形態に係る電子機器1が、物体を検出して当該物体の方向を推定する動作(動作B)を説明する。上述のように、動作Bは、図5に示した動作Aを行った後で実行される動作としてよい。動作Bは、電子機器1によって具体的な目標となる物体(物標)を検出し、その方向を推定する動作としてよい。
【0104】
図6に示す動作が開始すると、制御部10は、メモリ17に記憶された環境情報に基づいて、送信波及び受信波の少なくとも一方のビームフォーミングを行う(ステップS21)。ステップS21において、制御部10は、メモリ17に記憶された環境情報のうち、検出される物体の距離に関連付けて記憶された物体の電子機器1に対する方向に、送信波及び受信波の少なくとも一方のビームフォーミングを行ってよい。この場合、制御部10は、送信波及び受信波の少なくとも一方のビームフォーミングが行われるように、位相制御部23を制御してよい。このように、検出される物体の距離に関連付けて記憶された物体の電子機器1に対する方向にビームフォーミングを行うことにより、検出される物体によって反射される反射波の強度(電力)を高めることができる。
【0105】
次に、制御部10は、送信波を送信し(ステップS11)、反射波を受信し(ステップS12)、複数のビート信号に2D-FFT処理などを行ってよい(ステップS13)。ステップS11乃至ステップS13の処理は、図5において説明したステップS11乃至ステップS13と同様に行ってよい。
【0106】
ステップS13において2D-FFT処理が行われたら、制御部10は、2D-FFT処理の結果がCFARの閾値以上であるか否か判定する(ステップS14)。ステップS14において行う処理は、図5において説明したステップS14と同様に行ってよい。ステップS14においてCFARの閾値以上でない場合、制御部10は、ステップS22乃至ステップS26の動作をスキップして、ステップS18の動作に進んでよい。
【0107】
ステップS14において2D-FFT処理の結果がCFARの閾値以上である場合、制御部10は、検出された物体の電子機器1に対する方向を推定する(ステップS22)。ステップS22において行われる方向の推定は、図5において説明したステップS16と同様に行ってよい。
【0108】
ステップS22において物体の方向が推定されたら、制御部10は、次のステップS23の動作を行う。ステップS23において、まず、制御部10は、メモリ17に記憶された環境情報から、検出された物体の距離に関連付けられた方向を読み出す。そして、制御部10は、読み出した方向が、ステップS22において推定された方向と所定の角度差以内であるか否か判定する。ここで、所定の角度とは、例えば±5°など、比較的小さな任意の角度としてよい。ステップS23において読み出した方向が推定された方向と所定の角度差以内でない場合、制御部10は、ステップS24乃至ステップS26の動作をスキップして、ステップS18の動作に進んでよい。
【0109】
ステップS23において読み出した方向が推定された方向と所定の角度差以内である場合、制御部10は、環境情報から読み出した方向を、推定した方向として出力してよい(ステップS24)。すなわち、ステップS24において、制御部10は、環境情報に基づいて、物体の電子機器1に対する方向を推定してよい。ステップS23の判定を行うことで、何らかの原因によって、環境情報から読み出した方向が推定された方向と大きく異なる場合に、環境情報に基づく物体の方向推定を行わないようにできる。また、簡略化した実施形態として、例えばステップS23における判定処理を省略してもよい。
【0110】
ステップS24において環境情報から読み出した方向が推定した方向として出力されたら、制御部10は、当該方向の情報を加味して、物体を検出してよい(ステップS25)。この場合、物体検出部15によって、物体を検出してよい。ステップS25において、制御部10は、検出された物体の電子機器1からの距離の情報、検出された物体の電子機器1に対する速度の情報、及び/又は、検出された物体の電子機器1に対する方向(角度)の情報を出力してよい。
【0111】
次に、制御部10は、ステップS25において検出された物体の情報に基づいて、当該物体のトラッキング処理などを行ってよい(ステップS26)。この場合、物体追跡部16によって、物体のトラッキング処理などを行ってよい。
【0112】
ステップS26において物体の追跡処理をしたら、制御部10は、ステップS18に示すように、図6に示すステップS21乃至ステップS26の動作を所定のフレーム数だけ繰り返した後、図6に示す動作を終了してよい。ステップS18において所定のフレーム数とは、必要に応じて1フレーム以上の任意のフレーム数としてよい。
【0113】
図7に示す動作は、例えば所定のタイミングで定期的に又は不定期に、繰り返し実行してよい。例えば、図6に示す動作は、送信波の所定数のフレーム単位で、繰り返し実行してもよい。
【0114】
このように、一実施形態に係る電子機器1の制御部10は、所定以上の速度と判定された第1物体までの距離と、第1物体の電子機器1に対する方向とが関連付けられた環境情報に基づいて、送信波を反射する第2物体の電子機器1に対する方向を推定してよい。ここで、第1物体とは、図5において説明した動作Aによって検出された物体としてよい。また、第2物体とは、図6において説明した動作Bによって検出された物体としてよい。典型的には、第2物体は、第1物体と同じ物体に限定されず、第1物体とは異なる物体としてよい。また、一実施形態において、制御部10は、環境情報に基づいて第2物体の電子機器1に対する方向を推定する処理を、所定の場合に限定して行ってもよい。例えば、所定の場合とは、環境情報に基づいて推定される第2物体の電子機器1に対する方向が、第2物体の電子機器1に対する方向として検出される方向と所定の角度差以内である場合としてもよい。また、制御部10は、第2物体の前記電子機器に対する方向に基づいて、送信波及び前記反射波の少なくとも一方のビームフォーミングを行うように制御してもよい。
【0115】
次に、一実施形態に係る電子機器1によって不具合を検出及び通知する動作について説明する。
【0116】
例えば、一実施形態に係る電子機器1において故障又は誤動作などの不具合が生じた場合、それを所定の対象(例えば管理者)又は周囲の人間などに知らせることが望ましい。また、一実施形態に係る電子機器1の周囲環境において通常と異なる状況が生じた場合にも、それを所定の対象(例えば管理者)又は周囲の人間などに知らせることが望ましいことも考えられる。ここで、周囲環境において通常と異なる状況とは、例えば、自然災害又は事故などにより、道路が通行不可能になっていたり、建物又は樹木などが倒壊していたり、比較的大きな障害物により交通が阻害されていたりする状況などとしてよい。
【0117】
図7は、一実施形態に係る電子機器1によって不具合を検出及び通知する動作の例を示すフローチャートである。図7は、例えば図5図6において説明した動作において、例えばステップS18の直前などに実行する動作としてよい。
【0118】
図7に示す動作が開始すると、制御部10は、電子機器1によって物体を検出可能な最大の距離が所定の閾値以上の距離であるか否か判定する(ステップS31)。ここで、所定の閾値とは、電子機器1が正常に動作していれば物体を検出可能な距離に基づいて設定される任意の値(距離)としてよい。
【0119】
ステップS31において最大検出距離が所定の閾値以上である場合、電子機器1は正常に動作していると判定できる。したがって、この場合、制御部10は、タイマをリセットする(ステップS32)。ここで、タイマとは、電子機器1に不具合が生じている時間をカウントする任意のタイマとしてよい。例えば、制御部10は、当該タイマとして時間をカウントする機能を備えてよい。また、タイマをリセットするとは、タイマによってカウントアップする時間をゼロに設定することとしてよい。このタイマは、例えば電子機器1を起動した際にカウントアップを開始してもよい。
【0120】
ステップS31において最大検出距離が所定の閾値以上でない場合、電子機器1は正常に動作していないと判定できる。したがって、この場合、制御部10は、ステップS32の動作をスキップしてよい。これにより、上述したタイマはカウントアップされる。
【0121】
次に、制御部10は、タイマが計測(カウントアップ)する時間が所定の時間を経過したか否か判定する(ステップS33)。ここで、所定の時間とは、電子機器1は正常に動作していないことを通知するタイミングに基づいて設定される任意の時間としてよい。
【0122】
ステップS33において所定の時間が経過した場合、制御部10は、電子機器1の不具合を通知する(ステップS34)。ステップS34において不具合を通知する所定の宛先は、予め設定されていてもよいし、例えば故障を示すインジケータを点灯させるなどしてもよい。ステップS33において所定の時間が経過していない場合、制御部10は、ステップS34の動作をスキップしてよい。
【0123】
このように、一実施形態において、制御部10は、物体を検出し得る最大の距離が所定の距離に満たない時間が所定時間継続する場合、所定の通知を発するように制御してもよい。
【0124】
従来、例えばミリ波レーダのような技術において、距離及び速度のFFT処理(2D-FFT処理)を実行した後、物体からの反射波の到来方向を推定することができる。このような技術によれば、2D-FFT処理によって、物体の速度及び距離については、実用に耐え得る精度で検出することができる。しかしながら、従来技術によると、物体からの反射波の到来方向を推定しても、十分な信号品質が得られなかったり、又はマルチパスの影響により推定誤差が大きくなったりすることがある。上述した実施形態に係る電子機器1によれば、物体からの反射波の到来方向を、複数の物体について検出した平均値として記憶する。したがって、電子機器1によれば、物体からの反射波の到来方向を高精度に推定することができる。また、電子機器1によれば、例えば路側機、街灯、又は信号機などの静止物に設置された後、周囲の物体を検出することにより、自動的なキャリブレーションが可能になる。さらに、電子機器1によれば、周囲環境及び/又は電子機器1の不具合が発生した場合に、それを所定の対象に通知することもできる。
【0125】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各機能部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能である。複数の機能部等は、1つに組み合わせられたり、分割されたりしてよい。上述した本開示に係る各実施形態は、それぞれ説明した各実施形態に忠実に実施することに限定されるものではなく、適宜、各特徴を組み合わせたり、一部を省略したりして実施され得る。つまり、本開示の内容は、当業者であれば本開示に基づき種々の変形および修正を行うことができる。したがって、これらの変形および修正は本開示の範囲に含まれる。例えば、各実施形態において、各機能部、各手段、各ステップなどは論理的に矛盾しないように他の実施形態に追加し、若しくは、他の実施形態の各機能部、各手段、各ステップなどと置き換えることが可能である。また、各実施形態において、複数の各機能部、各手段、各ステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。また、上述した本開示の各実施形態は、それぞれ説明した各実施形態に忠実に実施することに限定されるものではなく、適宜、各特徴を組み合わせたり、一部を省略したりして実施することもできる。
【0126】
上述した実施形態は、電子機器1としての実施のみに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態は、電子機器1のような機器の制御方法として実施してもよい。また、例えば、上述した実施形態は、電子機器1のような機器が実行するプログラムとして実施してもよい。さらに、上述した実施形態は、例えば、電子機器1のような機器が実行するプログラムを記録した記録媒体又は記憶媒体、すなわちコンピュータ読み取り可能な記録媒体又は記憶媒体として実施してもよい。
【符号の説明】
【0127】
1 電子機器
10 制御部
11 距離FFT処理部
12 速度FFT処理部
13 判定部
14 到来角推定部
15 物体検出部
16 物体追跡部
17 メモリ
20 送信部
21 信号生成部
22 シンセサイザ
23 位相制御部
24 増幅器
25 送信アンテナ
30 受信部
31 受信アンテナ
32 LNA
33 ミキサ
34 IF部
35 AD変換部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7