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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159300
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】高周波加熱装置用の加熱コイル
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/36 20060101AFI20241031BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20241031BHJP
   H05B 6/42 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H05B6/36 F
H05B6/10 371
H05B6/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075197
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】522455940
【氏名又は名称】ティーケーエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 英昭
(72)【発明者】
【氏名】阿部 一博
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AA10
3K059AB09
3K059AB24
3K059AD04
3K059CD52
3K059CD72
(57)【要約】
【課題】被加工物に対して短時間で効率的に焼き入れ処理を施すことができる上、被加工物が過度に加熱されてしまう事態を効果的に防止でき、被加工物の焼き入れによる硬化層の深さを容易にコントロールすることが可能な加熱コイルを提供する。
【解決手段】加熱コイル1は、三次元データに基づいて導電性物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法を用いて一体的に形成されており、電極に当着させるための接地部2a,2bと、各接地部2a,2bに対してそれぞれ直交するように配置された支持部3a,3bと、それらの支持部3a,3bの先端同士を繋ぐように設けられた加熱部4とを有している。また、加熱部4が、供給された高周波電流を第一の方向に流す中間加熱部14と、供給された高周波電流を第一の方向とは逆の第二の方向に流す下側加熱部15とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電流による電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための高周波加熱装置に用いる加熱コイルであって、
高周波電流を通電させる電極に当着させるための一対の板状の接地部と、
前記各接地部に対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状の支持部と、
それらの支持部の先端同士を繋ぐように設けられた一連の周状の加熱部とを有しており、
前記加熱部が、前記接地部から供給された高周波電流を第一の方向に流す第一導電部と、前記接地部から供給された高周波電流を前記第一の方向とは逆の第二の方向に流す第二導電部とを備えたものであることを特徴とする高周波加熱装置用の加熱コイル。
【請求項2】
前記第一導電部と前記第二導電部とが、所定の距離を隔てて同心円状に上下に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置用の加熱コイル。
【請求項3】
前記加熱部の一部が、上下方向においてS字状あるいは逆S字状に屈曲していることによって、前記第一導電部および前記第二導電部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置用の加熱コイル。
【請求項4】
三次元データに基づいて電導物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法、あるいは、三次元データに基づいて溶融させた導電性物質を積層する造形方法を用いて一体的に形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置用の加熱コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電流による電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための高周波加熱装置に用いられる加熱コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製の被加工物(ワーク)の表面際の部分の硬さを高めるために、金属の変態点(オーステナイト変態点)以上の温度まで被加工物の表面を加熱した後に急冷する加工(所謂、焼き入れ加工)が行われている。そして、そのような焼き入れ加工を行うための方法として、高周波加熱装置を用いて、高周波電流を流した金属製の部材(加熱コイル)を被加工物の表面に近接させることによって被加工物を加熱する方法が広く採用されている。また、そのような焼き入れ加工に用いる加熱コイルとしては、特許文献1の如く、被加工物に外嵌させるための金属製のパイプからなる環状のコイル部を、高周波電源を供給するための導電板(銅板)に接続させたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-115428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の高周波加熱装置用の加熱コイルは、環状のコイル部の内部を電流が常に一方向に流れるものであるため、コイル部の内部に多くの電流を流した場合には、被加工物が過度に加熱されてしまい、被加工物の焼入組織の結晶粒が粗大化し、靭性が低下することで機械強度が落ちてしまう。反対にコイル部の内部に少しの電流しか流さない場合には、被加工物の硬化層深さが浅くなり焼入れが不十分なものになってしまう。したがって、従来の高周波加熱装置用の加熱コイルでは、被加工物の焼き入れによる硬化層の深さのコントロールが困難であった。
【0005】
本発明の目的は、上記した従来の高周波加熱装置用の加熱コイルの問題点を解消し、被加工物に対して短時間で効率的に焼き入れ処理を施すことができ、かつ、被加工物の形状により過度に加熱されてしまう部分が生じる事態を効果的に抑制でき、被加工物の機械強度の低下を防止できる上、被加工物の焼き入れによる硬化層の深さを容易にコントロールすることが可能で実用的な加熱コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、高周波電流による電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための高周波加熱装置に用いる加熱コイルであって、高周波電流を通電させる電極に当着させるための一対の板状の接地部と、前記各接地部に対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状の支持部と、それらの支持部の先端同士を繋ぐように設けられた一連の周状の加熱部とを有しており、前記加熱部が、前記接地部から供給された高周波電流を第一の方向に流す第一導電部と、前記接地部から供給された高周波電流を前記第一の方向とは逆の第二の方向に流す第二導電部とを備えたものであることを特徴とする。
【0007】
すなわち、請求項1に記載された発明は、“コイルに形成された2つのリング(リング状の部分、すなわち、第一導電部および第二導電部)に流す高周波電流の向きが反対になる(逆になる)と、それらのリング間の磁束の打消しが発生する”という原理を利用し、過加熱になり易い部位を、そのような高周波電流の向きが反対となるリング間に配置することによって、当該部位の昇温を抑制するものである。また、請求項1に記載された発明においては、高周波電流の向きが逆になるリング間の間隔を変えることによって、過加熱になり易い部位の昇温抑制効果を調整することができる。また、高周波電流の向きが逆になるリングの長さを変えることによっても、昇温抑制効果を調整することが可能となる。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記加熱部が、前記第一導電部と前記第二導電部とを上下に配置させたものであることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記加熱部の一部が、上下方向においてS字状あるいは逆S字状に屈曲していることによって、前記第一導電部および前記第二導電部が形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、三次元データに基づいて電導物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法(以下、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法という)、あるいは、三次元データに基づいて溶融させた導電性物質を積層する造形方法(以下、導電性物質の溶融押出積層方法という)を用いて一体的に形成されたものであることを特徴とするものである。
【0011】
上記した導電性物質粉末層の部分溶着積層方法や導電性物質の溶融押出積層方法において造形の原料として用いる導電性物質とは、実質的に磁性を有しておらず、かつ、良好な導電性を有する物質のことを言う。かかる導電性物質としては、銅、黄銅、銀等を挙げることができる。それらの導電性物質の中でも、銅を用いると、材料費等のコストの低減が可能となり、加熱コイルを三次元プリンタによって安価かつ容易に製造することが可能となる上、導電性がきわめて良好なものとなり、電磁誘導による発熱効率が高いものとなるので好ましい。また、導電性物質として銅を用いる場合には、純銅を用いることも可能であるが、銅に、鉄、スズ、ニッケル、チタン、ベリリウム、ジルコニウム、クロム、ケイ素等を銅に比べて少ない割合で含有させた合金(高銅合金)を用いると、レーザの吸収を高めて温度上昇を促進することが可能となるので好ましい。さらに、それらの銅合金の中でも、銅にクロムを含有させた銅クロム合金を用いると、三次元プリンタによる製造効率を高く維持したまま加熱コイルの強度を効果的に高めることが可能となるのでより好ましく、銅に所定の割合でクロムおよびジルコニウムを含有させた合金(たとえば、98.71~99.45質量%の銅と、0.50~1.00質量%のクロムと、0.05~0.25質量%のジルコニウムとを含有するもの(高銅合金)等)を用いると、特に好ましい。
【0012】
また、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法を利用して本発明に係る加熱コイルを造形する場合には、敷設された造形の原料(すなわち、導電性物質からなる粉末)をレーザあるいは電子ビームの照射によって溶融させる必要がある。その際のレーザとしては、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ、YAGレーザ、ファイバレーザ等を好適に用いることができるが、ファイバレーザ(すなわち、Yb等の希土類元素を添加した光ファイバをレーザ媒質として用いるレーザ)を用いると、小型の装置により高い出力で光軸にずれのないレーザ光を得ることが可能となり、寸法精度の高い加熱コイルを非常に効率良く製造することが可能となるので好ましい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の高周波加熱装置用の加熱コイル(以下、単に加熱コイルという)は、電磁誘導により被加工物を加熱する加熱部が、接地部から供給された高周波電流を第一の方向に流す第一導電部と、接地部から供給された高周波電流を第一の方向とは逆の第二の方向に流す第二導電部とを備えているため、第一導電部により発生する磁束と第二導電部により発生する磁束とが打ち消し合うので、加熱部に高周波電流を単一の方向に流す導電部しか存在しない従来の加熱コイルと異なり、被加工物が過度に加熱されてしまう事態を防止することができ、被加工物の焼き入れによる硬化層の深さを容易にコントロールすることができる。
【0014】
請求項2に記載の加熱コイルは、加熱部が第一導電部と第二導電部とを同心円状に上下に配置させたものであり、互いに打ち消し合う磁束の量(すなわち、第一導電部により発生する磁束および第二導電部により発生する磁束の量)を多くすることができるため、被加工物が過度に加熱されてしまう事態をより効果的に防止することができ、被加工物の焼き入れによる硬化層の深さを非常に精度良くコントロールすることができる。
【0015】
請求項3に記載の加熱コイルは、加熱部の一部が、上下方向においてS字状あるいは逆S字状に屈曲していることによって、第一導電部および第二導電部が形成されているので、被加工物の加熱に寄与しない電流の量を低減することができ、被加工物に対して少ない電力で効果的に焼き入れ処理を施すことができる。
【0016】
請求項4に記載の加熱コイルは、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法あるいは導電性物質の溶融押出積層方法によって形成されるものであるため、一連の周状の加熱部が第一導電部および第二導電部を設けた複雑な形状を有しているにも拘わらず、安価かつ非常に容易に製造することができる上、同一形状、同一特性を有する製品を、製造作業者の技量に左右されることなく再現性良く効率的に製造することができる。さらに、請求項4に記載の加熱コイルは、従来の加熱コイルのように銀ロウによる接着部分が存在しないため、連続使用により温度が上昇しても変形したりせず、長期間に亘って規格通りの加熱処理(焼入れ処理)を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】加熱コイル(コイル本体)の斜視図である。
図2】加熱コイル(コイル本体)の正面図である。
図3】加熱コイル(コイル本体)の平面図である。
図4】加熱コイル(コイル本体)の左側面図である。
図5】加熱コイル(コイル本体)の右側面図である。
図6】接地部の鉛直断面図(図3におけるA-A線断面)である。
図7】支持部の鉛直断面図(図3におけるB-B線断面)である。
図8】連結部の鉛直断面図(図3におけるC-C線断面)である。
図9】加熱部の鉛直断面図(図3におけるD-D線断面)である。
図10】加熱コイルを製造する様子を示す説明図である(aは平面図であり、bは鉛直断面図である)。
図11】加熱コイルの作動内容を示す説明図(左側面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る加熱コイルの一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
<加熱コイルの構造>
加熱コイルは、金属製のコイル本体、絶縁性および耐熱性を有する合成樹脂(フッ素樹脂)によってシート状に形成された絶縁板(図示せず)、ボルトおよびナット等のネジ部材(図示せず)によって構成されている。図1図9は、加熱コイルのコイル本体を示したものであり、コイル本体1は、銅合金(高銅合金)によって一体的に形成されており、縦(前後)×横(幅)×高さ=300mm×150mm×100mm(縦、横、高さとも最大部分の長さ)の大きさを有している。
【0019】
コイル本体1は、後述する三次元プリンタを利用した造形方法によって成形されたものであり、高周波電源の電極に当着させるための接地部2a,2b、誘導加熱により被加工物(ワーク)を加熱するための一連の周状の加熱部4、および、各接地部2a,2bから離れた位置で加熱部4を支持するための支持部3a,3bを有している。また、支持部3a,3bと加熱部4(基端の左右に分離した部分)との間が、連結部5a,5bによって連結されている。また、コイル本体1においては、冷却用の媒体(水等)を流下させることによってコイル本体1および被加工物を冷却するための一連の冷却媒体流路が、接地部2a,2b、支持部3a,3b、連結部5a,5bおよび加熱部4の内部を貫通するように設けられている(後述する)。
【0020】
加熱部4は、被加工物を挿入させた状態で加熱するためのものである。かかる加熱部4は、基端を左右に分離させた一連のリング状になっており、略円弧状(中心角が約150°の略円弧状)の左上方加熱部21、略円弧状(中心角が約30°の略円弧状)の中間加熱部14、左上方加熱部21と中間加熱部14とを連結した左上方連結部24、略円弧状(中心角が約180°の略円弧状)の下側加熱部15、中間加熱部14と下側加熱部15とを連結した左下方連結部26、略円弧状(中心角が約60°の略円弧状)の右上方加熱部22、下側加熱部15と右上方加熱部22とを連結した右側連結部25を有している。そして、後述するように、中間加熱部14が、印加された高周波電流を第一の方向に流す第一導電部として機能し、下側加熱部15の一部(中間加熱部14の下側に位置した部分)が、印加された高周波電流を第一の方向とは逆の第二の方向に流す第二導電部として機能するようになっている。
【0021】
また、左上方加熱部21 中間加熱部14、右上方加熱部22は、稜線を面取りした四角柱状体を円弧状に屈曲させた形状を有している。さらに、下側加熱部15の外周面は、上方から下方にかけて次第に小径になるように傾斜したテーパ面を形成した状態になっている。また、加熱部4の左側においては、図4の如く、左上方加熱部21、左上方連結部24、中間加熱部14、左下方連結部26および下側加熱部15が、略逆S字状に配置された状態になっている。
【0022】
加えて、当該逆S字状の部分においては、図9の加熱部4の鉛直断面図(端面図)の如く、第一導電部として機能する中間加熱部14の下部、第二導電部として機能する下側加熱部15の上部は、それぞれ、平行に対峙した平坦面(水平面)を形成した状態になっており、中間加熱部14の下面、下側加熱部15の上面との間に、所定間隔(約2.0mm)の隙間Sが形成された状態になっている。また、中間加熱部14の下面と下側加熱部15の上面とが、所定の幅(約5.0mm、図9におけるγ)で上下に重なり合った状態になっている。さらに、加熱部4の内部には、冷却用の媒体(水等)を流下させることによって加熱部4自体および被加工物を冷却するための冷却媒体流路6が、加熱部4の形状に沿って空洞状に設けられている。
【0023】
また、各支持部3a,3bは、左右一対の扁平な直方体状(板状)に形成されており、片方の板面を向かい合わせた状態で、所定の距離(約2.0mm)を隔てて左右に隣り合うように配置されている。なお、各支持部3a,3bの前方の上部は、円弧状に面取りされた状態になっている。そして、図7の如く、各支持部3a,3bの内部には、それぞれ、加熱部4の内部の冷却媒体流路6と連通するように冷却媒体流路9a,9bが形成されている。
【0024】
一方、各接地部2a,2bは、左右一対の扁平な直方体状(板状)に形成されており、内側の側面を互いに向かい合わせた状態で、所定の距離(約2.0mm)を隔てて左右に隣り合うように配置されている。そして、各接地部2a,2bの内側の端縁際の部分が、左右の支持部3a,3bの基端縁に連なり、各接地部2a,2bの板面が、各支持部3a,3bの板面に対して直交した状態になっている。
【0025】
また、各接地部2a,2bの内部には、冷却用の媒体を流下させることによって接地部2a,2b自体を冷却するための冷却媒体流路11a,11bが、略L字状に屈曲した空洞状に形成されている。さらに、各接地部2a,2bの上面の略中央(左右方向における略中央)には、それぞれ、円筒形の排出口7a,注入口7bが?設されており、それらの排出口7a,注入口7bが、各接地部2a,2bの内部に形成された冷却媒体流路11a,11bと連通した状態になっている。さらに、それらの冷却媒体流路11a,11bは、それぞれ、各支持部3a,3bの内部の冷却媒体流路9a,9bと繋がった(連通した)状態になっている。
【0026】
加えて、加熱コイル1は、上記の如く、加熱部4の内部のみならず、左右の支持部3a,3bの内部および左右の接地部2a,2bの内部にも、それぞれ、冷却用の媒体を流下させるための冷却媒体流路9a,9b,冷却媒体流路11a,11bが形成されている。そして、それらの冷却媒体流路9a,9b、冷却媒体流路11a,11b、および左右の連結部5a,5bの内部の冷却媒体流路10a,10bが、加熱部4の内部の冷却媒体流路6と一連に繋がった(連通した)状態になっている。
【0027】
さらに、図示されていないが、コイル本体1の左右の接地部2a,2bの間、左右の支持部3a,3bの間、加熱部4の左右の基端部分の間には、所定の厚み(約2.0mm)のシート状の絶縁板が挟み込まれており、その状態で、左右の支持部3a,3bおよび絶縁板が、ネジ孔8,8を挿通させたネジ部材(ボルトおよびナット、図示せず)によって螺着されている。なお、それらのネジ部材は、絶縁性・耐熱性を有する合成樹脂(ガラスエポキシ樹脂)製のブッシュを介して支持部3a,3bおよび絶縁板を螺着した状態になっており、当該ボルトを介して支持部3a,3b同士が導通しないようになっている。
【0028】
<加熱コイルの製造方法>
図10は、加熱コイルのコイル本体1を形成する様子を示したものであり、コイル本体1を形成するための三次元プリンタ装置Mは、中央に直方体状の凹状部を形成してなるフレームF、そのフレームFに対して昇降可能に設けられた昇降部材、レーザLを照射するための照射手段S、レーザを反射させるための反射手段R、昇降部材を昇降させるための駆動手段(図示せず)等を有している。そして、昇降部材には、フレームFの凹状部の開口部分と略同一の面積を有するテーブルTが設けられている。
【0029】
三次元プリンタ装置Mによりコイル本体を製造する際には、まず、上昇位置にある昇降部材のテーブルTの表面に、銅合金(高銅合金)の粉末を、所定の厚み(たとえば、30μm)になるように敷設する(テーブルTの表面とフレームFの外枠の表面とのギャップだけ銅粉末を敷き詰める)。そして、その銅合金粉末に対して、所定の出力のレーザ(ファイバレーザ)Lを所定の形状に照射して銅合金粉末の一部を溶融させ、冷却して凝固させることによって、コイル本体1の一部を形成する。
【0030】
上記の如く、コイル本体1の一部を形成した後には、駆動手段により昇降部材のテーブルTを所定の高さ(たとえば、30μm)だけ降下させる。そして、その高さ位置において、“先に形成されたコイル本体1の一部の上側での銅合金粉末の敷設→銅合金粉末に対するレーザLの照射→溶融した銅合金の冷却・固化(凝固による固化)”という一連の動作を繰り返す。そして、上記の如き一連の動作を、所定の回数(たとえば、5,000回)だけ繰り返すことによって、銅合金からなるコイル本体1を一体的に形成することができる。
【0031】
<加熱コイルの使用方法および作動内容>
上記の如く構成された加熱コイル1は、左右の接地部2a,2bを電極に接地させ、一連の周状の加熱部4の内部に、被加工物を挿入させた状態で、電極を介して外部電源(高周波電源)を投入し、電磁誘導現象を利用して、被加工物を加熱する(焼き入れる)ことができる。また、右側の接地部2bの注入口7bから冷却媒体(水)を注入し、冷却媒体流路11b、右側の支持部3bの冷却媒体流路9b、加熱部4の冷却媒体流路6を経由させた後に、左側の支持部3aの冷却媒体流路9a、左側の接地部2aの冷却媒体流路11bを経由させて、左側の接地部2aの排出口7aから排水することで、加熱部4、支持部3a,3bおよび接地部2a,2bを効率的に冷却することによって、絶縁板31の溶融による損傷等を精度良く防止することができる。さらに、そのように加熱部4内に冷却媒体を流下させることによって、被加工物を急冷することができる。そして、そのように加熱された後の被加工物を急冷することによって、被加工物に焼入れ加工が施される。
【0032】
また、上記の如く、被加工物に焼入れ加工を施す際には、接地部から印加された電流(交流電流)が加熱部4の内部および表層際を流れるが、図11の如く、第一導電部として機能する中間加熱部14を流れる電流の方向(第一の方向、図11におけるα方向)と、第二導電部として機能する下側加熱部15を流れる電流の方向(第二の方向、図11におけるβ方向)とが、逆の方向になる(実際には、加熱部4の内部および表層際を交流電流が流れるため、第一導電部を流れる電流と第二導電部を流れる電流とが逆位相になる)。そのため、中間加熱部14により発生する磁束と、下側加熱部15により発生する磁束とが、互いに打ち消し合う。したがって、加熱部4内に多くの電流を流した場合(高い電圧を印加した場合)でも、被加工物の中間加熱部14および下側加熱部15の内側(加熱部4の径方向における内側)に位置した部分は、過度に加熱されることがなく、焼き入れによる硬化層の深さを薄く調整することが可能となる。
【0033】
<加熱コイルの効果>
加熱コイル(コイル本体1)は、上記の如く、高周波電流を通電させる電極に当着させるための一対の板状の接地部2a,2bと、各接地部2a,2bに対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状の支持部3a,3bと、それらの支持部3a,3bの先端同士を繋ぐように設けられた一連の周状の加熱部4とを有しており、加熱部4が、接地部2a,2bから供給された高周波電流を第一の方向(図11におけるα方向)に流す中間加熱部(第一導電部)14と、接地部2a,2bから供給された高周波電流を第一の方向とは逆の第二の方向(図11におけるβ方向)に流す下側加熱部(第二導電部)15とを備えたものである。したがって、当該加熱コイルによれば、第一導電部14により発生する磁束と第二導電部15により発生する磁束とが打ち消し合うので、加熱部4に高周波電流を単一の方向に流す導電部しか存在しない従来の加熱コイルと異なり、被加工物が過度に加熱されてしまう事態を防止することができ、被加工物の焼き入れによる硬化層の深さを容易にコントロールすることができる。
【0034】
また、加熱コイル(コイル本体1)は、中間加熱部(第一導電部)14と下側加熱部(第二導電部)15とが、所定の距離(約2.0mm)を隔てて同心円状に上下に配置されているため、互いに打ち消し合う磁束(すなわち、中間加熱部14により発生する磁束、および、下側加熱部15の中間加熱部14の下側に位置した部分により発生する磁束)の量を多くすることができるため、被加工物が過度に加熱されてしまう事態を効果的に防止することができ、被加工物の焼き入れによる硬化層の深さをより精度良くコントロールすることができる。
【0035】
さらに、加熱コイル(コイル本体1)は、加熱部4の一部が、上下方向において逆S字状に屈曲していることによって、中間加熱部14および下側加熱部15が形成されているため、被加工物の加熱に寄与しない電流の量を低減することができ、被加工物に対して少ない電力で効果的に焼き入れ処理を施すことができる。
【0036】
加えて、加熱コイル(コイル本体1)は、三次元プリンタ装置Mを用いた造形方法(すなわち、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法)によって形成されるものであるため、一連の周状の加熱部4が中間加熱部(第一導電部)14と下側加熱部(第二導電部)15とを備えた複雑な形状を有しているにも拘わらず、非常に容易に製造することができる上、同一形状、同一特性を有する製品を、製造作業者の技量に左右されることなく再現性良く効率的に製造することができる。さらに、加熱コイル(コイル本体1)は、三次元プリンタ装置Mを用いた造形方法によって形成されるものであるので、従来の加熱コイルのように銀ロウによる接着部分が存在しないため、連続使用により温度が上昇しても変形したりせず、長期間に亘って規格通りの加熱処理(焼入れ処理)を実施することができる。
【0037】
さらに、加熱コイル(コイル本体1)は、近接し合った中間加熱部(第一導電部)14の下部および下側加熱部(第二導電部)15の上部が、互いに平行な平坦面(水平面)を形成した状態になっており、中間加熱部(第一導電部)14により発生する磁束と下側加熱部(第二導電部)15により発生する磁束とが長い間隔(図11におけるγ)で交差するため、互いに打ち消し合う磁束の量が多く、被加工物が過度に加熱されてしまう事態を非常に効果的に防止することができ、被加工物の焼き入れによる硬化層の深さをきわめて精度良くコントロールすることができる。
【0038】
<加熱コイルの変更例>
本発明に係る加熱コイルは、上記した実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、材質や大きさ、接地部、支持部、加熱部(第一導電部、第二導電部)、冷却媒体流路の形状、構造等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0039】
たとえば、加熱部は、上記実施形態の如く、平面視が円環状であるものに限定されず、平面視が矩形の周状であるもの等に変更することも可能である。また、加熱部は、上記実施形態の如く、一組の第一導電部と第二導電部とを設けたものに限定されず、二組以上の第一導電部と第二導電部とを設けたものに変更することも可能である。そのように加熱部を、複数組の第一導電部と第二導電部とを形成したものとした場合には、被加工物の焼き入れによる硬化層の深さのコントロールが一層容易なものとなる。
【0040】
加えて、本発明に係る加熱コイルは、上記実施形態の如く、フッ素樹脂(PTFE、PFA、FEP、ETFE、PCTFE、ECTFE、PVDF)からなる絶縁板によって一対の接地部および一対の支持部が絶縁されているものに限定されず、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の絶縁性および耐熱性を有する他の合成樹脂からなる絶縁板によって一対の接地部および一対の支持部が絶縁されているもの等に変更することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る加熱コイルは、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための部材として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
1・・加熱コイル
2a,2b・・接地部
3a,3b・・支持部
4・・加熱部
6・・冷却媒体流路
7a・・排出口
7b・・注入口
9・・冷却媒体流路
10・・冷却媒体流路
11・・冷却媒体流路
14・・中間加熱部(第一導電部)
15・・下側加熱部(第二導電部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11