(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159301
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】成形体の製造方法及び成形体
(51)【国際特許分類】
A61L 27/12 20060101AFI20241031BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20241031BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61L27/12
A61L27/50
A61L27/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075201
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】峯川 麻里
(72)【発明者】
【氏名】松本 淑京
(72)【発明者】
【氏名】山中 克之
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB04
4C081AB06
4C081BA13
4C081BA16
4C081BB09
4C081BC02
4C081CF011
4C081CF031
4C081DA01
4C081DA11
4C081DC14
(57)【要約】
【課題】炭酸の含有量が制御された炭酸アパタイトを提供すること。
【解決手段】炭酸カルシウムを含有する成形体を、流動するリン酸イオンを含む溶液に浸漬する、成形体の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムを含有する成形体を、流動するリン酸イオンを含む溶液に浸漬する、
成形体の製造方法。
【請求項2】
化学式Ca10(PO4)6(OH)2で表されるハイドロキシアパタイト中の水酸化物イオン(OH-)の少なくとも一部を炭酸イオン(CO3
2-)で置換したA型炭酸アパタイト、前記ハイドロキシアパタイト中のリン酸イオン(PO4
3-)の少なくとも一部を炭酸イオン(CO3
2-)で置換したB型炭酸アパタイト、及び前記A型炭酸アパタイトと前記B型炭酸アパタイトとの混合物の何れか1つが成形された成形体。
【請求項3】
粉末X線回折測定において、結晶化度が85%以下で、かつ2θ=31.9°のネット強度が100以下である、
請求項2に記載の成形体。
【請求項4】
粉末X線回折測定において、結晶化度が85%以下で、かつ2θ=32.1°のネット強度が95以下である、
請求項2に記載の成形体。
【請求項5】
炭酸の含有量が9質量%以下である、
請求項2に記載の成形体。
【請求項6】
炭酸カルシウムを実質的に含有しない、
請求項2に記載の成形体。
【請求項7】
顆粒又はブロックである、
請求項2乃至6の何れか一項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の製造方法及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
医科、歯科等の医療分野において、広範な骨の欠損部又は空隙部を修復する手段として、当該欠損部等への自家骨の移植が第一選択とされている。しかし、自家骨を採取するには、健常部に外科的侵襲を加えなければならず、その採取量にも限度があることから、自家骨の代わりとなる骨補填材の移植が広く行われている。
【0003】
近年、骨補填材として、骨の無機成分に近い組成であり、生体吸収性をもつ炭酸アパタイトの顆粒やブロックが開発されている。炭酸アパタイトは、ハイドロキシアパタイトの一部が炭酸イオンで置換された構造を有する。
【0004】
炭酸アパタイトの製造方法としては、湿式法で合成した炭酸含有アパタイトを静水圧下で圧縮成形し、種々の温度で焼結する方法や、炭酸カルシウム前駆体をリン酸塩溶液に浸漬する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生体吸収性が高い炭酸アパタイトは、炭酸の含有量が多く、骨形成時に体積が減少するおそれがある。
【0007】
本発明の課題は、炭酸の含有量が制御された炭酸アパタイトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、炭酸カルシウムを含有する成形体を、流動するリン酸イオンを含む溶液に浸漬する、成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、炭酸の含有量が制御された炭酸アパタイトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】炭酸アパタイトを製造する装置の一例を示す模式図。
【
図2】炭酸アパタイトを製造する装置の他の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0012】
<成形体の製造方法>
実施形態に係る成形体の製造方法では、炭酸カルシウム(CaCO3)を含有する成形体を、流動するリン酸イオン(PO4
3-)を含む溶液に浸漬する。
【0013】
本明細書において、炭酸カルシウムを含有する成形体は、炭酸カルシウム(CaCO3)を含む成分が成形されたものを示す。炭酸カルシウムを含有する成形体の形態は、特に限定されず、顆粒、ブロック等である。
【0014】
「リン酸イオンを含む溶液に浸漬する」とは、リン酸イオン(PO4
3-)源と接触させることを示す。リン酸イオン(PO4
3-)源としては、特に限定されないが、例えば、リン酸、リン酸塩等の水溶液である。具体的には、リン酸三アンモニウム、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウムアンモニウム、リン酸ナトリウム二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三マグネシウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸三ジアセチル、リン酸ジフェニル、リン酸ジメチル、リン酸セルロース、リン酸第一鉄、リン酸第二鉄、リン酸テトラブチルアンモニウム、リン酸銅、リン酸トリエチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリストリメチルシリル、リン酸トリフェニル、リン酸トリブチル、リン酸トリメチル、リン酸グアニジン、リン酸コバルト等のリン酸またはリン酸塩の溶液が例示される。これらの中でも、リン酸塩の水溶液が好ましく、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)の水溶液がより好ましい。
【0015】
リン酸イオン(PO4
3-)を含む溶液の温度(反応温度)は、特に限定されないが、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。なお、温度の上限は、制限されないが、実施可能な温度の上限は200℃以下であり、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下である。反応温度が30℃以上であると、迅速に反応を完了させることができる。
【0016】
また、リン酸イオン(PO4
3-)を含む溶液に炭酸カルシウムを含有する成形体を浸漬する際に、炭酸カルシウムを含有する成形体とリン酸イオン源のモル比を調整してもよい。炭酸カルシウムに対するリン酸イオン源のモル比としては、例えば、1以上100以下が好ましく、2以上90以下がより好ましく、5以上80以下が更に好ましい。炭酸カルシウムに対するリン酸イオン源のモル比が1以上であると、アパタイト化反応(溶解析出反応)が進行し易くなり、100以下であると、炭酸基が含有されないハイドロキシアパタイトの生成を抑制できる。
【0017】
流動する溶液の態様は、特に限定されないが、例えば、撹拌された溶液、循環する溶液等である。
【0018】
図1は、本実施形態の成形体の製造方法を実施する装置の一例を示す。この例では、反応容器1内に篩3を反応容器1の底面から浮かせた状態で配置し、反応容器1の底面には撹拌子4(例えば、マグネチックスターラー)を回転可能に設置し、篩3には炭酸カルシウムを含有する成形体5の顆粒を入れ、反応容器1にリン酸イオン(PO
4
3-)を含む溶液2を入れる。
図1に示す例では、撹拌子4は、成形体5に接触しないように配置される。
【0019】
炭酸カルシウム(CaCO3)を含有する成形体5は、任意に作製し得るが、例えば、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を、有機バインダを添加した水と混合することでスラリーを調製後、スラリーを硬化させた硬化体を加熱すると、酸化カルシウム(CaO)が生成される。
【0020】
得られた酸化カルシウム(CaO)を所定温度、湿度、濃度のCO2雰囲気で、所定期間放置すると、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)と炭酸カルシウム(CaCO3)の複合体が生成される。これを所定濃度の炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)水溶液に浸漬し、所定温度で所定期間静置すると、多孔質体の炭酸カルシウム(CaCO3)が生成される。
【0021】
本例では、このようにして得られた炭酸カルシウム(CaCO3)の成形体を用いる。
【0022】
リン酸イオン(PO4
3-)を含む溶液2は、特に限定されず、例えば、リン酸(H3PO4)水溶液、リン酸塩水溶液等が挙げられる。中でも、リン酸塩水溶液が好ましく、より好ましくはリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)水溶液である。
【0023】
リン酸イオン(PO4
3-)を含む溶液2の濃度は、特に限定されないが、リン酸イオン(PO4
3-)を含む溶液2がリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)水溶液の場合は、例えば、0.1N以上であり、好ましくは0.3N以上、より好ましくは0.5N以上である。濃度が0.1N以上であることにより、アパタイト化反応(溶解析出反応)が進行し易くなる。また、濃度の上限は制限されないが、調製のし易さから、例えば3N以下であり、好ましくは2N以下、より好ましくは1.5N以下である。
【0024】
撹拌子4の回転数は、特に限定されないが、例えば、10rpm~2000rpmであり、好ましくは100rpm~1000rpm、より好ましくは200rpm~800rpmである。回転数が10rpm以上であると、溶液中のイオンの濃度勾配の発生が抑制され、2000rpm以下であると、成形体が攪拌されて成形体同士が衝突することを抑制できる。
【0025】
図2は、本実施形態の成形体を製造する装置の他の一例を示す模式図である。なお、
図2において
図1と共通する部分は説明を省略する。
図2の例では、反応容器1の底面に逆さまの篩6を配置し、篩6の上方に撹拌子4を設置する。
図2の例でも、撹拌子4は、成形体5に接触しないように配置される。
【0026】
本実施形態では、このような成形体の製造方法を用いることで、炭酸カルシウム(CaCO3)の成形体は、流動するリン酸イオン(PO4
3-)を含む溶液中で、その形状を維持したまま、カルシウムイオン(Ca2+)と炭酸イオン(CO3
2-)に解離する。そして、解離したカルシウムイオン(Ca2+)と炭酸イオン(CO3
2-)の一部、及びリン酸イオン(PO4
3-)又は水に由来する水酸化物イオン(OH-)が反応し析出することで炭酸アパタイトを得ることができる。
【0027】
これにより、炭酸カルシウムを含有する成形体の形状を維持したまま、炭酸カルシウムは、A型炭酸アパタイト、B型炭酸アパタイト、又はA型炭酸アパタイトとB型炭酸アパタイトとの混合物に変換される。
【0028】
ここで、A型炭酸アパタイトは、化学式Ca10(PO4)6(OH)2で表されるハイドロキシアパタイト中の水酸化物イオン(OH-)の少なくとも一部が炭酸イオン(CO3
2-)で置換された炭酸アパタイトである。また、B型炭酸アパタイトは、化学式Ca10(PO4)6(OH)2で表されるハイドロキシアパタイト中のリン酸イオン(PO4
3-)の少なくとも一部が炭酸イオン(CO3
2-)で置換された炭酸アパタイトである。更に、A型炭酸アパタイトとB型炭酸アパタイトとの混合物は、A型炭酸アパタイトとB型炭酸アパタイトがランダムに混合する炭酸アパタイトである。
【0029】
これにより、本実施形態では、得られた成形体は、炭酸カルシウムを含有する成形体の形状を維持したまま、炭酸アパタイト中の炭酸の含有量を抑制することができる。
【0030】
また、本実施形態の成形体の製造方法では、リン酸イオン(PO4
3-)を含む溶液が流動するため、炭酸カルシウムを含有する成形体の表面で解離した炭酸イオン(CO3
2-)の濃度勾配が生じない。そのため、炭酸カルシウムからカルシウムイオン(Ca2+)と炭酸イオン(CO3
2-)の解離が阻害されず、炭酸カルシウムから炭酸アパタイトへの変換が十分に行われるため、炭酸カルシウムが残存し難い。
【0031】
また、炭酸カルシウムを含有する成形体を、流動するリン酸イオン(PO4
3-)を含む溶液に浸漬することで、炭酸カルシウムを含有する成形体の表面における解離した炭酸イオン(CO3
2-)濃度が低下するため、リン酸イオン(PO4
3-)を含む溶液が流動しない場合(静置した場合)と比較して、炭酸含有量の少ない炭酸アパタイトが得られる。これにより、本実施形態の成形体の製造方法によれば、生体吸収性を維持しつつその効果を遅延させることで、骨形成時に体積が減少し難い炭酸アパタイトを得ることができる。
【0032】
<成形体>
本実施形態の成形体は、A型炭酸アパタイト、B型炭酸アパタイト、及びA型炭酸アパタイトとB型炭酸アパタイトとの混合物の何れか1つが成形された炭酸アパタイト成形体である。このような成形体は、上述した本実施形態に係る成形体の製造方法により製造することができる。
【0033】
A型炭酸アパタイトは、化学式Ca10(PO4)6(OH)2で表されるハイドロキシアパタイト中の水酸基又は水酸化物イオン(OH-)の少なくとも一部を炭酸基又は炭酸イオン(CO3
2-)で置換した炭酸アパタイトである。また、B型炭酸アパタイトは、化学式Ca10(PO4)6(OH)2で表されるハイドロキシアパタイト中のリン酸基又はリン酸イオン(PO4
3-)の少なくとも一部が炭酸基又は炭酸イオン(CO3
2-)で置換された炭酸アパタイトである。更に、A型炭酸アパタイトとB型炭酸アパタイトとの混合物は、A型炭酸アパタイトとB型炭酸アパタイトがランダムに混合する炭酸アパタイトである。
【0034】
なお、A型炭酸アパタイトは、水酸化物イオン(OH-)の少なくとも一部が炭酸イオン(CO3
2-)で置換されたものであれば、リン酸イオン(PO4
3-)の一部が炭酸イオン(CO3
2-)で置換されていてもよい。さらに、A型炭酸アパタイトは、炭酸イオン(CO3
2-)を含むものであれば、カルシウムイオン(Ca2+)、リン酸イオン(PO4
3-)、又は水酸化物イオン(OH-)の各一部がその他のイオンで置換されていてもよい。
【0035】
また、B型炭酸アパタイトは、リン酸イオン(PO4
3-)の少なくとも一部が炭酸イオン(CO3
2-)で置換されたものであれば、水酸化物イオン(OH-)の一部が炭酸イオン(CO3
2-)で置換されていてもよい。さらに、B型炭酸アパタイトは、炭酸イオン(CO3
2-)を含むものであれば、カルシウムイオン(Ca2+)、リン酸イオン(PO4
3-)、又は水酸化物イオン(OH-)の各一部がその他のイオンで置換されていてもよい。
【0036】
本実施形態の成形体は、このようにA型炭酸アパタイト、B型炭酸アパタイト、及びA型炭酸アパタイトとB型炭酸アパタイトとの混合物の何れか1つが成形されたものであることで、低結晶性で、炭酸の含有量の少ないものとなる。そのため、本実施形態の成形体は、低結晶性であることで生体吸収性を維持しながら、炭酸の含有量が低いことで生体吸収性の効果を遅延させるため、骨形成時に体積が減少し難いものとなる。
【0037】
また、本実施形態の成形体は、粉末X線回折測定による結晶化度が85%以下であり、好ましくは50%以上85%以下、より好ましくは78%以上84%以下である。炭酸アパタイト成形体は、結晶化度が低いほど、生体吸収性が高く、好ましいと考えられている。特に、結晶化度が85%以下であると、格子配列が不規則的になり、細胞が材料を分解・吸収し易くなる(生体吸収性が高くなる)。
【0038】
本明細書において、粉末X線回折測定は、粉末試料にX線を照射し、試料中の電子を強制振動させることにより生じる干渉性散乱X線による回折強度を、各回折角について測定する方法である。
【0039】
粉末X線回折測定による結晶化度は、「プロファイルフィッティング法(もしくはプロフィルフィッティング法)」を用いて算出した。具体的には、粉末X線回折パターンにおいて試料中の結晶領域からの回折結果から下記の式(1)より結晶化度を算出する。
【0040】
【数1】
A:全ピーク面積
B:領域Aの下部の全面積
C:バックグラウンドの面積
【0041】
更に、本実施形態の成形体は、粉末X線回折測定による2θ=31.9°のネット強度が100以下であり、好ましくは85以下、より好ましくは70以下である。また、粉末X線回折測定による2θ=32.1°のネット強度が95以下であり、好ましくは85以下、より好ましくは75以下である。
【0042】
本明細書において、粉末X線回折測定によるネット強度は、試料中に金属元素が存在することを示すピーク角度におけるX線強度よりバックグラウンド強度を差し引いたX線強度である。
【0043】
本実施形態の成形体では、上述のように、粉末X線回折測定において、結晶化度が85%以下であることで、格子配列が不規則的になり、細胞が材料を分解・吸収し易くなる(生体吸収性が高くなる)。その上で、2θ=31.9°のネット強度が100以下の炭酸アパタイト成形体は、炭酸の含有量が少なく、生体吸収速度を遅延させることで、骨形成時に体積が減少し難いものとなる。また、2θ=32.1°のネット強度が95以下である炭酸アパタイト成形体も、炭酸の含有量が少なく、生体吸収速度を遅延させることで、骨形成時に体積が減少し難いものとなる。
【0044】
本実施形態の成形体において、炭酸アパタイト成形体に含まれる炭酸の含有量は、特に限定されないが、好ましくは9質量%以下であり、好ましくは7質量%以下、5質量%以下である。なお、炭酸の含有量の下限は、制限されないが、実施可能な炭酸の含有量の下限は、0.1質量%以上であり、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上である。
【0045】
本実施形態の成形体では、炭酸の含有量が9質量%以下であることで、炭酸アパタイト中の炭酸の含有量が少ないものとなり、骨形成時に体積が減少し難い。
【0046】
本実施形態の成形体は、炭酸カルシウムを実質的に含有しないことが好ましい。炭酸カルシウムを実質的に含有しないとは、炭酸カルシウムが積極的に含まれていないことを意味し、炭酸アパタイト成形体中の許容される炭酸カルシウムの含有量は、1質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
【0047】
なお、上述のように、本実施形態の成形体の製造方法により製造された場合、炭酸アパタイト成形体の原料として炭酸カルシウムを含有する成形体が用いられるため、得られた炭酸アパタイト成形体に炭酸カルシウムが残存するおそれがある。
【0048】
しかしながら、上述の成形体の製造方法では、リン酸イオン(PO4
3-)を含む溶液が流動するため、炭酸カルシウムを含有する成形体の表面でリン酸イオン(PO4
3-)の濃度勾配が生じない。そのため、炭酸カルシウムからカルシウムイオン(Ca2+)と炭酸イオン(CO3
2-)の解離が阻害されず、炭酸カルシウムから炭酸アパタイトへの変換が十分に行われるため、炭酸カルシウムが残存し難い。
【0049】
なお、上述のように、炭酸カルシウム(CaCO3)を含有する成形体が多孔質体であると、炭酸カルシウム(CaCO3)を含有する成形体の内部でも、炭酸カルシウムがカルシウムイオン(Ca2+)と炭酸イオン(CO3
2-)に解離し、リン酸イオン(PO4
3-)が接触することができる。このような観点から、炭酸カルシウム(CaCO3)を含有する成形体が多孔質体であると、炭酸カルシウムから炭酸アパタイトへの変換が十分に行われる。
【0050】
このように、本実施形態の成形体では、炭酸カルシウムを含有しないため、炭酸カルシウムが残存することによる、結晶性の増加を抑制することができる。また、炭酸アパタイト成形体中の炭酸の含有量が抑制され、炭酸アパタイト成形体中の炭酸の含有量が少ないものとなる。そのため、本実施形態の成形体は、高い生体吸収性を維持しながら、その効果を遅延させることで、骨形成時に体積が減少し難いものとなる。
【0051】
本実施形態の成形体では、成形体の形態は、特に限定されないが、顆粒又はブロックであることが好ましい。炭酸アパタイト成形体の形態が顆粒又はブロックであると、骨補填剤として適用が容易である。
【実施例0052】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0053】
<炭酸カルシウム成形体(原料)の作製>
水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を、有機バインダを添加した水と混合することでスラリーを調製後、スラリーを硬化させた硬化体を昇温速度367℃/hで上昇した温度1100℃で3時間加熱した後、自然放冷して、酸化カルシウム(CaO)の成形体を得た。この酸化カルシウム(CaO)の成形体を、10%CO2雰囲気で28℃、湿度95%RHで2日間放置して、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)と炭酸カルシウム(CaCO3)を含有する成形体(ブロック)を得た。この成形体(ブロック)を、0.5Nの炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)水溶液に浸漬し、60℃で7日間静置して、炭酸カルシウム(CaCO3)のブロックを得た。得られた炭酸カルシウム(CaCO3)のブロックは多孔質体であった。これを顆粒(1gあたり20mLの顆粒)に加工した。
【0054】
<炭酸アパタイト成形体(試験体)の作製>
試験体として、以下に示す実施例1~3、及び比較例1、2、比較例1の各条件で炭酸アパタイトの成形体(ブロック)を作製した。
図1に示すように、得られた炭酸カルシウム(CaCO
3)のブロックの顆粒(成形体5)を入れた篩3を、リン酸水素二ナトリウム(Na
2HPO
4)の水溶液(溶液2)を入れた反応容器1内に、反応容器1の底面から浮かせた状態で配置し、反応容器1の底面に、マグネチックスターラー(撹拌子4)を成形体5に接触しないように回転可能に設置した。
【0055】
[実施例1]
反応容器1内のリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)の水溶液(溶液2)の濃度を、カルシウムイオン(Ca2+)とリン酸イオン(PO4
3-)とがモル比で1:20となるように調整した。反応容器1内のリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)の水溶液(溶液2)を、マグネチックスターラーの回転数500rpmで撹拌しながら、反応温度60℃で、2時間保ち、多孔質体の炭酸アパタイト成形体を得た。条件を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
反応容器1内のリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)の水溶液(溶液2)の濃度を、カルシウムイオン(Ca2+)とリン酸イオン(PO4
3-)とがモル比で1:30となるように調整した以外は、実施例1と同様に、多孔質体の炭酸アパタイト成形体を得た。条件を表1に示す。
【0057】
[実施例3]
反応容器1内のリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)の水溶液(溶液2)の濃度を、カルシウムイオン(Ca2+)とリン酸イオン(PO4
3-)とがモル比で1:60となるように調整した以外は、実施例1と同様に、多孔質体の炭酸アパタイト成形体を得た。条件を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
反応容器1内のリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)の水溶液(溶液2)の濃度を、カルシウムイオン(Ca2+)とリン酸イオン(PO4
3-)とがモル比で1:1となるように調整し、反応容器1内のリン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)の水溶液(溶液2)を撹拌せずに静置し、その後、得られた成形体を550℃で10時間焼成した以外は、実施例1と同様に、多孔質体の炭酸アパタイト成形体を得た。条件を表1に示す。
【0059】
[比較例2]
成形体を焼成しなかった以外は、比較例1と同様に、多孔質体の炭酸アパタイト成形体を得た。条件を表1に示す。
【0060】
[粉末X線回折測定]
実施例1~3及び比較例1、2で得られた各試験体を粉末にした試料について、測定器(Empyrean社製、オールインワンXRD装置)にて粉末X線回折測定により、結晶化度とネット強度を算出した。測定条件は、Tension:45kV、Current:40mA、測定範囲:2θ=10.0°~60.0°とした。
【0061】
[結晶化度]
「プロファイルフィッティング法(もしくはプロフィルフィッティング法)」を用いて、上記粉末X線回折パターンにおいて試料中の結晶領域からの回折結果から上記の式(1)より結晶化度を算出した。実施例1~3の結果を表2に示し、比較例1、2の結果を表4に示す。
【0062】
[ネット強度]
試料中に金属元素が存在することを示すピーク角度におけるX線強度よりバックグラウンド強度を差し引いたX線強度をネット強度として算出した。実施例1~3の結果を表2に示し、比較例1、2の結果を表4に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
表1、表2より、実施例1~3では、粉末X線回折測定において、結晶化度が85%以下で、2θ=31.9°のネット強度が100以下、2θ=32.1°のネット強度が95以下であった。
【0068】
一方、表3、表4より、比較例1、2では、粉末X線回折測定において、2θ=31.9°のネット強度が100を超え、更に比較例1では、2θ=32.1°のネット強度が95を超えた。
【0069】
以上より、炭酸カルシウムを含有する成形体を、流動するリン酸イオンを含む溶液に浸漬する、リン酸イオン(PO4
3-)を含む溶液が流動しない場合(静置した場合)と比較して、低い結晶性を維持しながら、炭酸含有量の少ない炭酸アパタイトが得られることが判った(実施例1~3)。
【0070】
以上に開示された実施形態は、例えば、以下の態様を含む。
【0071】
(付記1)
炭酸カルシウムを含有する成形体を、流動するリン酸イオンを含む溶液に浸漬する、
成形体の製造方法。
【0072】
(付記2)
化学式Ca10(PO4)6(OH)2で表されるハイドロキシアパタイト中の水酸化物イオン(OH-)の少なくとも一部を炭酸イオン(CO3
2-)で置換したA型炭酸アパタイト、前記ハイドロキシアパタイト中のリン酸イオン(PO4
3-)の少なくとも一部を炭酸イオン(CO3
2-)で置換したB型炭酸アパタイト、及び前記A型炭酸アパタイトと前記B型炭酸アパタイトとの混合物の何れか1つが成形された成形体。
【0073】
(付記3)
粉末X線回折測定において、結晶化度が85%以下で、かつ2θ=31.9°のネット強度が100以下である、
付記2に記載の成形体。
【0074】
(付記4)
粉末X線回折測定において、結晶化度が85%以下で、かつ2θ=32.1°のネット強度が95以下である、
付記2又は3に記載の成形体。
【0075】
(付記5)
炭酸の含有量が9質量%以下である、
付記2乃至4の何れか一つに記載の成形体。
【0076】
(付記6)
炭酸カルシウムを実質的に含有しない、
付記2乃至5の何れか一つに記載の成形体。
【0077】
(付記7)
顆粒又はブロックである、
付記2乃至6の何れか一つに記載の成形体。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。