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特開2024-159322破骨細胞分化抑制抽出物の製造方法および破骨細胞分化抑制抽出物の分離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159322
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】破骨細胞分化抑制抽出物の製造方法および破骨細胞分化抑制抽出物の分離方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/60 20060101AFI20241031BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20241031BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20241031BHJP
   A23L 17/20 20160101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K35/60
A61P19/00
A61P19/10
A23L33/10
A23L17/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075245
(22)【出願日】2023-04-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年7月22日、第35回日本動物細胞工学会2022年度大会のウェブサイト(http://www.jaact.org/jaact2022/)、において公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年7月26日、第35回日本動物細胞工学会2022年度大会、において公開
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(71)【出願人】
【識別番号】590006398
【氏名又は名称】マルトモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127579
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 泰弘
(74)【代理人】
【識別番号】100203301
【弁理士】
【氏名又は名称】都築 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】菅原 卓也
(72)【発明者】
【氏名】西 甲介
(72)【発明者】
【氏名】石田 萌子
(72)【発明者】
【氏名】松本 淳一
(72)【発明者】
【氏名】土居 幹治
【テーマコード(参考)】
4B018
4B042
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD74
4B018ME05
4B018ME14
4B018MF01
4B042AC04
4B042AD39
4B042AE08
4B042AG27
4B042AH01
4B042AK20
4B042AP07
4B042AP15
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB29
4C087CA06
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA96
4C087ZA97
4C087ZC52
(57)【要約】
【課題】日常的に摂取する食品を用いて、安全で簡便な破骨細胞分化抑制抽出物の製造方法を提供する。
【解決手段】破骨細胞分化抑制抽出物の製造方法として、煮干しを液状の水により抽出する工程と、抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程とを含む。抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程は、透析工程および限外ろ過工程の少なくとも一方により実施される。分子量10kDaを超える成分が抽出水から除去されることが好ましい。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
煮干しを液状の水により抽出する工程と、抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程と、
を含むことを特長とする、破骨細胞分化抑制抽出物の製造方法。
【請求項2】
煮干しを液状の水により抽出する工程と、煮干しと液状の水との懸濁液から抽出水を分離する工程と、前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程と、を含み、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、透析工程であり、前記分離膜が、透析膜であり、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、分子量14kDaを超える成分を抽出水から除去する工程を含む、請求項1に記載の破骨細胞分化抑制抽出物の製造方法。
【請求項3】
煮干しを液状の水により抽出する工程と、煮干しと液状の水との懸濁液から抽出水を分離する工程と、前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程と、を含み、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、限外ろ過工程であり、前記分離膜が、限外ろ過膜であり、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、分子量10kDaを超える成分を抽出水から除去する工程を含む、請求項1に記載の破骨細胞分化抑制抽出物の製造方法。
【請求項4】
煮干しを液状の水により抽出する工程と、抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程と、
を含むことを特長とする、破骨細胞分化抑制抽出物の分離方法。
【請求項5】
煮干しを液状の水により抽出する工程と、煮干しと液状の水との懸濁液から抽出水を分離する工程と、前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程と、を含み、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、透析工程であり、前記分離膜が、透析膜であり、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、分子量14kDaを超える成分を抽出水から除去する工程を含む、請求項4に記載の破骨細胞分化抑制抽出物の分離方法。
【請求項6】
煮干しを液状の水により抽出する工程と、煮干しと液状の水との懸濁液から抽出水を分離する工程と、前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程と、を含み、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、限外ろ過工程であり、前記分離膜が、限外ろ過膜であり、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、分子量10kDaを超える成分を抽出水から除去する工程を含む、請求項4に記載の破骨細胞分化抑制抽出物の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、破骨細胞分化抑制抽出物の製造方法および破骨細胞分化抑制抽出物の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間や動物の骨は単なる無機物の造形物ではなく、細胞に誘導されて古い骨の成分が新しい骨の成分と置き換わる新陳代謝が起きて、日々変化していく。
具体的には、骨の古い部分が破骨細胞に吸収されて消滅する一方、消滅した部分に骨芽細胞が新たな骨を形成する。この様な骨の吸収と再生を細胞誘導により常時行うことにより、骨の新陳代謝が可能になる。この様な骨の新陳代謝は、通常、骨リモデリングと呼ばれる。
【0003】
また破骨細胞の機能発現メカニズムについての研究も進んでいて、破骨前駆細胞に対して、RANKL(Receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand の略称。タンパク質の一種)が分化誘導因子として機能することが知られている。
破骨前駆細胞とRANKLが融合することにより、破骨細胞の分化が促進される。
【0004】
上記の破骨前駆細胞の分化促進を背景に、例えば、高齢者の加齢による体調の変化等により、骨に対する破骨細胞と骨芽細胞との活動の連携関係が乱れる場合がある。
具体的には、破骨細胞の活動はそのままでも、骨芽細胞の活動が低下すると、時間と共に骨の成分が破骨細胞により吸収されるため、骨密度の低下につながる。骨密度が低下する骨粗鬆症になれば、骨が折れやすくなる等、日常生活に影響が生じる。
仮に破骨細胞の分化を抑制する新薬が開発されたとしても、生体内反応は複雑に関連しあっているため、他の生体内反応に不具合が生じ、副作用が現れることも懸念される。
【0005】
この様な骨密度低下の問題に対応する先行技術が存在する。
例えば、先行技術として、4-O-α-D-グルコピラノシル-D-グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸、その塩類およびそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上を含み、かつカルシウム成分を含む骨強化促進用抽出物の製造方法が提案されている(特許文献1)。
この先行技術によれば、カルシウム成分として、煮干しが一例として取り上げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-117752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の先行技術では、カルシウム成分として煮干し以外にも多数の食品が列挙されていて、どれを摂取すれば、骨の強化がより促進されるのかが分かりにくい。
また上記の先行技術では、煮干しについては骨の強化としてカルシウム成分の供給に着眼点があり、煮干しについてカルシウム成分の供給元以外について何も開示されていない。
【0008】
本発明の目的は、日常的に摂取する食品を用いて、安全で簡便な破骨細胞分化抑制抽出物の製造方法および破骨細胞分化抑制抽出物の分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討した結果、煮干しを液状の水により抽出する工程と、抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程を含む、破骨細胞分化抑制抽出物の製造方法が、本発明の目的に適うことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、
[1]煮干しを液状の水により抽出する工程と、抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程と、
を含むことを特長とする、破骨細胞分化抑制抽出物の製造方法を提供するものである。
【0011】
また本発明の一つは、
[2]煮干しを液状の水により抽出する工程と、煮干しと液状の水との懸濁液から抽出水を分離する工程と、抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程と、を含み、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、透析工程であり、前記分離膜が、透析膜であり、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、分子量14kDaを超える成分を抽出水から除去する工程を含む、上記[1]に記載の破骨細胞分化抑制抽出物の製造方法を提供するものである。
【0012】
また本発明の一つは、
[3]煮干しを液状の水により抽出する工程と、煮干しと液状の水との懸濁液から抽出水を分離する工程と、前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程と、を含み、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、限外ろ過工程であり、前記分離膜が、限外ろ過膜であり、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、分子量10kDaを超える成分を抽出水から除去する工程を含む、上記[1]に記載の破骨細胞分化抑制抽出物の製造方法を提供するものである。
【0013】
また本発明は、
[4]煮干しを液状の水により抽出する工程と、抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程と、
を含むことを特長とする、破骨細胞分化抑制抽出物の分離方法を提供するものである。
【0014】
また本発明の一つは、
[5]煮干しを液状の水により抽出する工程と、煮干しと液状の水との懸濁液から抽出水を分離する工程と、抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程と、を含み、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、透析工程であり、前記分離膜が、透析膜であり、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、分子量14kDaを超える成分を抽出水から除去する工程を含む、上記[4]に記載の破骨細胞分化抑制抽出物の分離方法を提供するものである。
【0015】
[6]煮干しを液状の水により抽出する工程と、煮干しと液状の水との懸濁液から抽出水を分離する工程と、前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程と、を含み、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、限外ろ過工程であり、前記分離膜が、限外ろ過膜であり、
前記抽出された水に含まれる成分を分離膜により分離する工程が、分子量10kDaを超える成分を抽出水から除去する工程を含む、上記[5]に記載の破骨細胞分化抑制抽出物の分離方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の破骨細胞分化抑制抽出物の製造方法によれば、日常的に摂取する食品を用いて、安全で簡便な破骨細胞分化抑制抽出物および破骨細胞分化抑制抽出物の分離方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、サンプル1を用いた細胞毒性評価試験結果のグラフである。
図2図2は、破骨細胞マーカー酵素である酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRAP)の発現を指標とした破骨細胞分化抑制効果を示すグラフである。
図3図3は、煮干し乾燥粉末を沸騰水と冷水によりそれぞれ抽出した場合の破骨細胞分化抑制効果を示すグラフである。
図4図4は、分化誘導前のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図5図5は、分化誘導剤の刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図6図6は、8℃の水で煮干し粉末を抽出した後に、分化誘導剤の刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図7図7は、100℃の沸騰水で10分間煮干し粉末を抽出した後に、分化誘導剤の刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図8図8は、分画分子量14kDaの透析膜を使用した場合の破骨細胞分化抑制効果を示すグラフである。
図9図9は、分化誘導前のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図10図10は、分化誘導剤の刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図11図11は、実施例1の場合で、透析を実施せず、分化誘導剤の刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図12図12は、実施例1の場合で透析を実施して、分化誘導剤の刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図13図13は、平均分画分子量10kDaの限外ろ過膜を使用した場合の破骨細胞分化抑制効果を示すグラフである。
図14図14は、分化誘導前のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図15図15は、分化誘導剤の刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図16図16は、実施例2の場合で、限外ろ過を実施せず、分化誘導剤の刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図17図17は、実施例2の場合で限外ろ過で濃縮した成分を用い、分化誘導剤の刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図18図18は、実施例2の場合で限外ろ過を実施し、高分子量成分を除去した成分について、分化誘導剤の刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図19図19は、煮干し水抽出物を用いた添加時期と効果の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
最初に本発明に使用する煮干しについて説明する。
本発明に使用する煮干しの原料に特に限定はないが、例えば、カタクチイワシ、マイワシ、ウルメイワシ、キビナゴ、アジ、サバ、アゴ等の一種もしくは二種以上の原料魚が挙げられる。
前記原料魚を用いて煮干しを製造する方法も、公知の方法を用いることができる。例えば、原料魚をそのまま、または、頭部の切断除去、内蔵の分離除去等の工程を経て得られた加工魚を乾燥させる。
そのままの原料魚または加工魚を乾燥させる前に、加熱することもできる。
加熱の方法は、温水で加熱する方法、加熱オーブン内で加熱する方法、マイクロ波・赤外線等の非接触手段を用いて加熱する方法、蒸気で加熱する方法等の一種もしくは二種以上を挙げることができる。
【0019】
そのままの原料魚または加工魚を乾燥させる方法に限定はないが、例えば、天日干しにする方法、加熱オーブン内で温風を循環させる方法、加熱オーブン内で加熱しながら減圧する方法、マイクロ波・赤外線等の非接触手段により加熱する方法、マイクロ波・赤外線等の非接触手段により加熱しながら内部空気を循環させるする方法等の一種もしくは二種以上を挙げることができる。
なお、煮干しの製品劣化を防止する目的で、煮干しの製造工程においては、空気以外の、窒素、二酸化炭素等の気体を使用することもできる。
【0020】
また煮干しの製造の際には、塩、旨味調味料等の添加成分を適宜選択して添加することもできる。
【0021】
本発明に使用する煮干しは、市販品を適宜選択して使用することができるが、例えば、原料魚として、カタクチイワシ、マイワシ、ウルメイワシ等のイワシ類を用いることが好ましく、カタクチイワシであればより好ましい。
【0022】
また本発明に使用する煮干しは、50g当たりのエネルギーが100~200kcalの範囲であれば好ましい。またタンパク質が20~40gの範囲であればより好ましい。
【0023】
本発明に使用する煮干しは、抽出効率を上げるため、使用前に粉砕しておくことが好ましい。
【0024】
次に本発明で採用される煮干しを液状の水により抽出する工程について説明する。
前記煮干しを液状の水により抽出する工程で「液状の水」との表現を採用したのは、抽出に使用する水の温度の上限が常圧下の100℃に限定されず、加圧下に100℃を超える温度も使用できる趣旨である。
煮干しを液状の水により抽出する温度は、5~125℃の範囲であれば好ましい。
また抽出時間が、5分~30分の範囲であれば好ましい。
【0025】
本発明に使用する水は、純水に限定されず、例えば、上水、工業用水、海水等の一種もしくは二種以上を使用できる。また必要に応じて、例えばエタノール等の水以外の液体、塩、調味料等の添加剤を併用することもできる。
【0026】
煮干しを液状の水により抽出する際には、水と煮干しとを接触させた後、両者を撹拌することが好ましい。撹拌方法としては、例えば、撹拌翼により回転させる方法、容器自体を回転させる方法、容器内部に水蒸気を吹き込む方法等の一種もしくは二種以上を採用できる。
【0027】
次に、煮干しと液状の水との懸濁液から抽出水を分離する工程について説明する。
煮干しと液状の水との懸濁液から抽出水を分離する方法としては、例えば、前記懸濁液を静置して、上澄み液を分離する方法、前記懸濁液を回転させて遠心分離により分離する方法、ろ布、ろ紙等のろ過部材を用いてろ過する方法等の一種もしくは二種以上を採用できる。
上記の方法により、抽出水を分離することができる。
【0028】
次に、前記抽出水に含まれる成分を分離膜により分離する工程について説明する。
前記抽出水に含まれる成分を分離膜により分離する工程としては、例えば、具体的には、透析工程、限外ろ過工程等の少なくとも一方を挙げることができる。
また本発明に使用する分離膜としては、例えば、透析膜および限外ろ過膜の少なくとも一方を使用することができる。
例えば、前記抽出水を、分離膜を介して水と接触させればよい。
前記抽出液と水とを接触させる方法としては、例えば、分離膜で前記抽出液を包んだ状態で水に浸漬させる方法、分離膜で水を包んだ状態で前記抽出液に浸漬させる方法、分離膜で区画された容器内部の一方に前記抽出液を入れ、他方に水を入れて両者を分離膜を介して接触させる方法、分離膜を筒状に成形し、内部に前記抽出液を移動させつつ、外部を水に浸漬する方法等を挙げることができる。これらの方法は一種もしくは二種以上を適宜選択して採用することができる。
【0029】
透析工程については、例えば、透析しようとする分離膜の内の液量に対し、500~2000倍量の外液(水)に対して、3~5時間透析する。
加えて、同量の外液を交換してさらに6~24時間、好ましくは8~14時間透析する。
透析工程は、4~6℃の冷蔵庫内で行うことが好ましい。
透析工程を常圧で行う場合には、分離膜は、透析膜を使用することが好ましい。
【0030】
前記抽出水に含まれる成分を分離膜により分離する工程は、例えば、上記の透析工程の場合で、必要に応じて前記抽出液に対して圧力を加えることができる。加える圧力は分離膜の耐圧や分離効率を顧慮して適宜設定される。
圧力を加えてを実施する工程は、通常、限外ろ過工程と呼ばれる。
限外ろ過を実施する際の圧力は、使用する装置やサンプルの量により適宜設定されるが、例えば、0.1~1MPaの範囲である。
限外ろ過に使用する分離膜は、例えば、市販品の限外ろ過膜を適宜選択して使用することができる。
【0031】
本発明では、前記抽出水に含まれる成分を分離膜により分離する工程は、分子量14kDaを超える成分を抽出水から除去する工程を含むことが好ましい。
本発明に使用する分離膜の素材としては、分子量14kDaを超える成分を抽出水から除去するものであれば好ましく、市販されているものを適宜選択して使用することができる。
また、本発明に使用する分離膜は分子量14kDaを超える成分を抽出水から除去する能力をもてばよく、すべての分子量14kDaを超える成分を抽出水から除去できなくてもよい。
本発明に使用する分離膜は分子量14kDaを超える成分を50%以上除去できるものが好ましく、80%以上除去できるものであればより好ましい。
【0032】
また本発明では、前記抽出水に含まれる成分を分離膜により分離する工程は、分子量10kDaを超える成分を抽出水から除去する工程を含むことが好ましい。
本発明に使用する分離膜の素材としては、分子量10kDaを超える成分を抽出水から除去するものであれば好ましく、市販されているものを適宜選択して使用することができる。また、本発明に使用する分離膜は分子量10kDaを超える成分を抽出水から除去する能力をもてばよく、すべての分子量10kDaを超える成分を抽出水から除去できなくてもよい。
本発明に使用する分離膜は分子量10kDaを超える成分を50%以上除去できるものがより好ましく、80%以上除去できるものであればさらに好ましい。
【0033】
本発明では、分子量10kDaを超える成分を抽出水から除去する工程は、圧力を加えることが好ましい。
分子量10kDaを超える成分を抽出水から除去する工程は、限外ろ過工程であれば、より好ましい。
限外ろ過工程に使用する分離膜は、限外ろ過膜であれば好ましい。
【0034】
次に、分離後の抽出水から水分を蒸発させる工程について説明する。
抽出水に含まれる成分を分離膜により分離する工程後に、水分を蒸発させる方法としては、例えば、分離後の抽出水を加温または沸騰させ、水分を蒸発させる方法、分離後の抽出水を減圧下に加熱する方法、分離後の抽出水を容器に入れ、加熱オーブンで内部空気を循環させながら加熱する方法、分離後の抽出水を容器に入れて天日干しにする方法、分離後の抽出水を凍結乾燥する方法等を挙 げることができる。これらの方法は一種もしくは二種以上を適宜選択して採用することができる。
分離後の抽出水から水分を蒸発させる方法は、凍結乾燥を含むことが好ましい。凍結乾燥の際には、分離後の抽出水を凍らせた後に、凍った状態の分離後の抽出水を装置に入れ、装置内部を減圧する。
凍結乾燥を実施する際の温度はマイナス196℃~0℃の範囲であることが好ましい。
また圧力は5Torr~700Torrの範囲であることがこのましい。また凍結乾燥の時間は30分間~24時間の範囲であることが好ましい。
【0035】
上記の工程により、破骨細胞分化抑制抽出物を製造でき、破骨細胞分化抑制抽出物を煮干しから分離できる。
【0036】
次に実施例により、本発明を説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定されるものではない。
【0037】
[予備実験1]
市販の煮干し乾燥粉末(マルトモ社製)2.0gを用いて、全体で0.1g/mLとなるように蒸留水に懸濁させた。次に温度を8℃に保ち、24時間撹拌抽出した。次に遠心分離により上清を回収した。この上清の温度を-80℃に下げて凍結し、48時間凍結乾燥を実施し、灰色の粉末状の乾燥抽出物1を得た。
次に、この乾燥抽出物をα-MEM培地(シグマ社製)に、25mg/mLになるように溶解し、フィルター滅菌したものをサンプル1とした。フィルターは、ザルトリウス社製(ミニザルト0.22 μm)を使用した。
【0038】
次に破骨前駆細胞として、マウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞(American Type Culture Collectionの米国生物資源バンクより入手)を用い、10%ウシ胎児血清FBS(シグマ社製)添加したα-MEM培地(シグマ社製)で、温度37℃、湿度100%で2日間前培養した後、破骨細胞への分化を誘導するためRANKL(Receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand:富士フイルム和光社製)を添加した10%FBS-α-MEM培地で、温度37℃、湿度100%で5日間培養した。これをサンプル2とした。
【0039】
次に生細胞数を測定し、細胞増殖の誘導または阻害を研究するための比色アッセイキットとして、WST-8(ナカライテスク社製)を使用し、細胞毒性を測定した。
マウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞は、分化誘導剤としてのRANKLの刺激を受けて破骨細胞へと分化誘導されると、破骨細胞マーカー酵素である酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRAP)を高発現する。この特性を利用しTRAPの発現を指標として、破骨細胞分化抑制効果を測定した。
【0040】
サンプル1を96穴培養プレート(ベクトンデッキンソン社製)の各穴に50 μLずつ添加した。ブランンクとコントロールにα-MEM培地を50μL加えた。その後、20% FBS‐α‐MEM培地を用いてサンプル2の細胞を1.4×10cells/mLに調整したものをブランンクの穴に50μLずつ加えた。残りのサンプル2の細胞懸濁液にRANKLを終濃度150 ng/mLになるように加え良く混和した後、残りの穴に50μLずつ播種した。5日間培養した後、96穴プレート内の培地を除去し、TRAP staining reagentを50μLずつ各穴に添加し、37℃で4時間インキュベートした。
【0041】
4時間後、上清を除去し、100 μLの蒸留水で洗浄した。各穴に200 μLずつ蒸留水を添加して染色を終了し、細胞の観察および写真撮影を行った。その後、各穴に100 μLのDMSO(シグマ社製)を加え、15分振とうして色素を溶出させた。15分後、iMARKマイクロプレートリーダー(バイオラド社製)を用いて540nmの吸光度を測定した。
【0042】
なお、実験に使用したTRAP staining reagentは次の通りである。
4mLのTRAP bufferに20Lの2% naphthol AS-MX phosphate溶液(シグマ社製)と40 μLの6% Fast Red Violet LB salt溶液(シグマ社製)を加えたものである。以下の場合も同様である。
【0043】
サンプル1の培地への添加濃度は、培地中終濃度で3.1mg/mL、1.6mg/mL、0.8mg/mLになるようにそれぞれ調製した。
実験にはリアルタイムRT-PCR実験法(アプライドバイオシステムズ社製、SteoOnePlus)を採用した。結果を下記の図1および図2に示す。
【0044】
図1は、サンプル1を用いた細胞毒性評価試験結果のグラフである。
細胞毒性評価試験には、市販の細胞毒性アッセイキット(Cell Counting Kit-8、同仁化学研究所社)を使用した。
図1のグラフでは、縦軸が、細胞の相対的な生存率(%)を示し、横軸が、サンプル1の濃度(mg/mL)を示す。
図1の参照符号1は、サンプル1の培地への添加濃度であり、培地中終濃度を基準に0.8mg/mLであることを示す。同様に、参照符号2は1.6mg/mL、参照符号3は3.1mg/mLを示す。
参照符号4は、比較参照のためのサンプル1を培地に添加しない場合を示す。
図1に示される様に、サンプル1の濃度が3.1mg/mL以下の濃度では毒性を示さないことが確認された。
【0045】
図2は、破骨細胞マーカー酵素である酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRAP)の発現を指標とした破骨細胞分化抑制効果を示すグラフである。
図2のグラフでは、縦軸が、破骨前駆細胞の相対的な分化率(%)を示し、横軸が、サンプル1の濃度(mg/mL)を示す。
図2における参照符号1~4は、図1の場合と同様である。図2の参照符号5は、比較参照用のためのサンプル1を使用しなかった場合の分化誘導前のRAW264細胞の場合を示す。
図2に示される様に、サンプル1は分化を有意に阻害することが確認された。
【0046】
[予備実験2]
上記の予備実験1の場合で、市販の煮干し乾燥粉末を用いた液体の水による抽出工程について、水の温度を常圧沸騰の100℃とし、100℃の温度に達してから10分間抽出操作を行った。
結果を図3に示す。
【0047】
図3は、煮干し乾燥粉末を沸騰水(100℃)と冷水(8℃)により抽出した場合の破骨細胞マーカー酵素である酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRAP)の発現を指標とした破骨細胞分化抑制効果を示すグラフである。
図3の参照符号6は、煮干し乾燥粉末を冷水で抽出した場合で、サンプル1の培地への添加濃度が、培地中終濃度で0.8mg/mLの場合を示す。
図3の参照符号7は、煮干し乾燥粉末を冷水で抽出した場合で、サンプル1の培地への添加濃度が、培地中終濃度で1.6mg/mLの場合を示す。
図3の参照符号8は、煮干し乾燥粉末を沸騰水で抽出した場合で、サンプル1の培地への添加濃度が、培地中終濃度で0.8mg/mLの場合を示す。
図3の参照符号9は、煮干し乾燥粉末を沸騰水で抽出した場合で、サンプル1の培地への添加濃度が、培地中終濃度で1.6mg/mLの場合を示す。
図3の参照符号10は、サンプル1を添加しなかった場合を示す。
図3の参照符号11は、比較参照用のためのサンプル1を使用しなかった場合の分化誘導前のRAW264細胞の場合を示す。
【0048】
図4は、分化誘導前のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。また図5は、分化誘導剤としてのRANKLの刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
分化が進むと、色の濃い領域が顕微鏡写真に現れる。
【0049】
図4図5も、比較参照のためのものであり、煮干しに由来する成分は添加されていない。
また図6は、予備実験1に従い、8℃の水で煮干し粉末を抽出した後に、分化誘導剤としてのRANKLの刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
また図7は、予備実験2に従い、100℃の沸騰水で10分間煮干し粉末を抽出した後に、分化誘導剤としてのRANKLの刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図6および図7から明らかな様に、煮干し乾燥粉末に含まれる活性物質は、熱に安定であることが示された。
【実施例0050】
2.0gの煮干し乾燥粉末(マルトモ社製)を0.1g/mLとなるように蒸留水に懸濁し、8℃で24時間攪拌抽出した。抽出液を回転数20,000rpm、4℃で10分間遠心し、上清を回収した。得られた上清を分画分子量14kDaの透析膜(富士フイルム和光社製)に内包し、温度4℃、20時間の条件で蒸留水5Lに浸漬し、低分子量成分を除去した。
次に、この透析液の温度を‐80℃に下げて凍結させ、48時間凍結乾燥を実施し、灰色の粉末状の乾燥抽出物2を得た。
【0051】
次に、この乾燥抽出物2をα-MEM培地(シグマ社製)に、25mg/mLになるように溶解し、フィルター滅菌したものをサンプル3とした。フィルターは、ザルトリウス社製(ミニザルト0.22 μm)を使用した。
【0052】
マウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞は、分化誘導剤としてのRANKLの刺激を受けて破骨細胞へと分化誘導されると、破骨細胞マーカー酵素である酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRAP)を高発現する。この特性を利用しTRAPの発現を指標として、破骨細胞分化抑制効果を測定した。
【0053】
サンプル3を96穴培養プレート(ベクトンデッキンソン社製)の各穴に50 μLずつ添加した。ブランンクとコントロールにα-MEM培地を50 μL加えた。その後、20% FBS-MEM-αを用いて細胞を1.4×10cells/mLに調整したものをブランンクの穴に50 μLずつ加えた。残りの細胞懸濁液にRANKLを終濃度150 ng/mLになるように加え良く混和した後、残りの穴に50 μLずつ播種した。5日間培養した後、96穴プレート内の培地を除去し、TRAP staining reagentを50 μLずつ各穴に添加し、37℃で4時間インキュベートした。後、上清を除去し、100 μLの蒸留水で洗浄した。各穴に200 μLずつ蒸留水を添加して染色を終了し、細胞の観察および写真撮影を行った。その後、各穴に100 μLのDMSO(シグマ社製)を加え、15分振とうして色素を溶出させた。15分後、iMARKマイクロプレートリーダー(バイオラド社製)を用いて540nmの吸光度を測定した。
サンプル3の培地への添加濃度は、培地中終濃度で1.6mg/mL、0.8mg/mLになるように調製した。
【0054】
図8は、分画分子量14kDaの透析膜を使用した場合の破骨細胞マーカー酵素である酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRAP)の発現を指標とした破骨細胞分化抑制効果を示すグラフである。
図8の参照符号12は、透析を実施した場合で、サンプル3の培地への添加濃度が、培地中終濃度で0.8mg/mLの場合を示す。
図8の参照符号13は、透析を実施した場合で、サンプル3の培地への添加濃度が、培地中終濃度で1.6mg/mLの場合を示す。
図8の参照符号14は、透析を実施しない場合で、サンプル3の培地への添加濃度が、培地中終濃度で0.8mg/mLの場合を示す。
図8の参照符号15は、透析を実施しない場合で、サンプル3の培地への添加濃度が、培地中終濃度で1.6mg/mLの場合を示す。
図8の参照符号16は、サンプル3を添加しなかった場合を示す。
図8の参照符号17は、比較参照用のためのサンプル3を使用しなかった場合の分化誘導前のRAW264細胞の場合を示す。
【0055】
図9は、分化誘導前のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。また図10は、分化誘導剤としてのRANKLの刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図9図10も、比較参照のためのものであり、煮干しに由来する成分は添加されていない。
また図11は、実施例1の場合で、透析を実施せず、分化誘導剤としてのRANKLの刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
また図12は、実施例1の場合で透析を実施して、分化誘導剤としてのRANKLの刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図11および12では、乾燥抽出物2を、培地中の終濃度が1.6mg/mLになるように調製したものを使用した。
【0056】
図8に示される通り、分画分子量14kDaの透析膜を使用して、分画分子量14kDaを通過しない乾燥抽出物2を使用した場合、乾燥抽出物2の水溶液が1mg/mL以上の範囲で破骨細胞の分化抑制のあることが確認できた。
乾燥抽出物2の水溶液の濃度は、1.0~3.0 mg/mLの範囲であれば好ましい。
【実施例0057】
2.0gの煮干し乾燥粉末を0.1 g/mLとなるように蒸留水に懸濁し、8℃で24時間攪拌抽出した。抽出液を20,000rpm、4℃で10分間遠心し、上清を回収した。得られた上清を画分子量10kDaの限外ろ過膜(メルクミリポア社製)を用いて、室温で5時間限外ろ過し、高分子量成分を除去した。
【0058】
次に、この透析液の温度を-80℃に下げて凍結させ、48時間凍結乾燥を実施し、灰色の粉末状の乾燥抽出物3を得た。
【0059】
次に、この乾燥抽出物3をα-MEM培地(シグマ社製)に、25mg/mLになるように溶解し、フィルター滅菌したものをサンプル4とした。フィルターは、ザルトリウス社製(ミニザルト0.22 μm)を使用した。
【0060】
マウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞は、分化誘導剤としてのRANKLの刺激を受けて破骨細胞へと分化誘導されると、破骨細胞マーカー酵素である酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRAP)を高発現する。この特性を利用しTRAPの発現を指標として、破骨細胞分化抑制効果を測定した。
【0061】
サンプル4を96穴培養プレート(ベクトンデッキンソン社製)の各穴に50μLずつ添加した。ブランンクとコントロールにα-MEM培地を50μL加えた。その後、20% FBS-MEM-αを用いて細胞を1.4×10cells/mLに調整したものをブランンクの穴に50μLずつ加えた。残りの細胞懸濁液にRANKLを終濃度150 ng/mLになるように加え良く混和した後、残りの穴に50μLずつ播種した。5日間培養した後、96穴プレート内の培地を除去し、TRAP staining reagentを50 Lずつ各穴に添加し、37℃で4時間インキュベートした。後、上清を除去し、100μLの蒸留水で洗浄した。各穴に200μLずつ蒸留水を添加して染色を終了し、細胞の観察および写真撮影を行った。その後、各穴に100 μLのDMSO(シグマ社製)を加え、15分振とうして色素を溶出させた。15分後、iMARKマイクロプレートリーダー(バイオラド社製)を用いて540nmの吸光度を測定した。
サンプル4の培地への添加濃度は、培地中終濃度で1.6mg/mL、0.8mg/mLになるように調製した。
【0062】
図13は、平均分画分子量10kDaの限外ろ過膜を使用した場合の破骨細胞マーカー酵素である酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRAP)の発現を指標とした破骨細胞分化抑制効果を示すグラフである。
図13の参照符号18は、限外ろ過を実施した場合の限外ろ過膜を通過しない成分で、サンプル4の培地への添加濃度が、培地中終濃度で0.8mg/mLの場合を示す。
図13の参照符号19は、限外ろ過を実施した場合の限外ろ過膜を通過しない成分で、サンプル4の培地への添加濃度が、培地中終濃度で1.6mg/mLの場合を示す。
図13の参照符号20は、限外ろ過を実施しない場合で、サンプル4の培地への添加濃度が、培地中終濃度で0.8mg/mLの場合を示す。
図13の参照符号21は、限外ろ過を実施しない場合で、サンプル4の培地への添加濃度が、培地中終濃度で1.6mg/mLの場合を示す。
図13の参照符号22は、限外ろ過を実施した場合の限外ろ過膜を通過した場合で、サンプル4の培地への添加濃度が、培地中終濃度で0.8mg/mLの場合を示す。
図13の参照符号23は、限外ろ過を実施した場合の限外ろ過膜を通過した場合で、サンプル4の培地への添加濃度が、培地中終濃度で1.6mg/mLの場合を示す。
図13の参照符号24は、サンプル4を添加しなかった場合を示す。
図13の参照符号25は、比較参照用のためのサンプル4を使用しなかった場合の分化誘導前のRAW264細胞の場合を示す。
【0063】
図14は、分化誘導前のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。また図15は、分化誘導剤としてのRANKLの刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図14図15も、比較参照のためのものであり、煮干しに由来する成分は添加されていない。
また図16は、実施例2の場合で、限外ろ過を実施せず、分化誘導剤としてのRANKLの刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
また図17は、実施例2の場合で限外ろ過で濃縮した成分を用い、分化誘導剤としてのRANKLの刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
また図18は、実施例2の場合で限外ろ過を実施し、高分子量成分を除去した成分について、分化誘導剤としてのRANKLの刺激を5日間受けた後のマウスマクロファージ様細胞株RAW264細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
図16~18では、乾燥抽出物3を、培地中の終濃度が1.6mg/mLになるように調製したものを使用した。
【0064】
図13に示される通り、平均分画分子量10kDaの限外ろ過膜を使用して、平均分画分子量10kDaを通過した乾燥抽出物3を使用した場合、乾燥抽出物3の水溶液が1mg/mL以上の範囲で破骨細胞の分化抑制のあることが確認できた。
乾燥抽出物3の水溶液の濃度は、1.0~3.0mg/mLの範囲であれば好ましい。
【0065】
実施例1と実施例2との結果から、分離操作より、高分子成分と低分子量成分の双方に破骨細胞の分化抑制のあることがあることから、二種以上の因子が破骨細胞の分化抑制に関与していることが示唆された。
中でも、低分子量成分が高分子成分と比較して、より破骨細胞の分化抑制のあることを明らかにすることができた。
【0066】
[参考例1]
破骨細胞への分化誘導において、どの段階で煮干し水抽出物が破骨細胞に対する分化抑制効果を示すのかを明らかにするために、乾燥抽出物1を、培地中の終濃度が1.6mg/mLになるように調製したもの用いて、サンプル添加のタイミングの違いによる破骨細胞分化抑制効果を評価した。
実験は、実施例1の場合と同様に行った。
図19は、煮干し水抽出物を用いた添加時期と効果の関係を示すグラフである。
図19の参照符号26は分化誘導開始後0日目を示す。図19の参照符号27は分化誘導開始後1日目を示す。図19の参照符号28は分化誘導開始後2日目を示す。図19の参照符号29は分化誘導開始後3日目を示す。図19の参照符号30は分化誘導開始後4日目を示す。また、図19の参照符号31は、乾燥抽出物1を使用しなかった場合を示す。
【0067】
図19に示される様に、分化誘導と開始と同時に作用させた場合は分化抑制効果が認められるものの、分化誘導開始後1日目以降に作用させても破骨細胞の分化を抑制しないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、安全かつ簡便な操作により、破骨細胞分化抑制抽出物の製造方法および破骨細胞分化抑制抽出物の分離方法が提供できるから、高齢者等、骨密度が低下することを防止できるから、医療介護の現場における活用が期待される。
【符号の説明】
【0069】
1 サンプル1(0.8mg/mL)
2 サンプル1(1.6mg/mL)
3 サンプル1(3.1mg/mL)
4,10,16,24,31 コントロール
5,11,17,25 ブランク
6 サンプル1(冷水、0.8mg/mL)
7 サンプル1(冷水、1.6mg/mL)
8 サンプル1(沸騰水、0.8mg/mL)
9 サンプル1(沸騰水、1.6mg/mL)
12 サンプル3(透析により14kDa以下の物質を取り除いた煮干し抽出物、0.8mg/mL)
13 サンプル3(透析により14kDa以下の物質を取り除いた煮干し抽出物、1.6mg/mL)
14 サンプル3(透析しない煮干し抽出物、0.8mg/mL)
15 サンプル3(透析しない煮干し抽出物、1.6mg/mL)
18 サンプル4(限外ろ過あり限外ろ過膜を通過しない成分、0.8mg/mL)
19 サンプル4(限外ろ過あり限外ろ過膜を通過しない成分、1.6mg/mL)
20 サンプル4(限外ろ過なし、0.8mg/mL)
21 サンプル4(限外ろ過なし、1.6mg/mL)
22 サンプル4(限外ろ過あり高分子量除去側、0.8mg/mL)
23 サンプル4(限外ろ過あり高分子量除去側、1.6mg/mL)
26 分化誘導開始後0日
27 分化誘導開始後1日
28 分化誘導開始後2日
29 分化誘導開始後3日
30 分化誘導開始後4日
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19