(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159340
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】水素製造用鉄基粉末および水素製造剤
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20241031BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20241031BHJP
C01B 3/08 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B22F1/00 S
B22F1/05
C01B3/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075277
(22)【出願日】2023-04-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.2022年7月29日付で、JFEスチール株式会社が、東京都市大学理工学部宛てにサンプルを送付することにより公開。 2.2023年1月31日付で、八木 駿が、電気・化学専攻 応用化学領域 2022年度 修士学位論文抄録において公開。 3.2023年2月6日付で、八木 駿が、東京都市大学 大学院総合理工学研究科 電気・化学専攻 応用化学領域 2022年度 修士論文公聴会において公開。 4.2023年3月3日付で、八木 駿が、電気・科学専攻 応用化学領域 2022年度 修士学位論文において公開。
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【弁理士】
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚貴
(72)【発明者】
【氏名】芦塚 康佑
(72)【発明者】
【氏名】宇波 繁
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018BA13
4K018BB04
4K018BD10
(57)【要約】
【課題】より高効率に水素を発生させることができる鉄基粉末を提供する。
【解決手段】粒子の内部に外部とつながる細孔を有する水素製造用鉄基粉末であって、金属鉄含有量が60質量%以上100質量%以下であり、前記細孔のうち直径3nm~500μmの細孔の、単位質量あたりの容積が0.05cm3/g以上である、水素製造用鉄基粉末。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子の内部に外部とつながる細孔を有する水素製造用鉄基粉末であって、
金属鉄含有量が60質量%以上100質量%以下であり、
前記細孔のうち直径3nm~500μmの細孔の、単位質量あたりの容積が0.05cm3/g以上である、水素製造用鉄基粉末。
【請求項2】
体積基準の粒度分布から計算される粒径の中央値D50が1.00μm以上500.00μm以下であり、
前記細孔のうち直径3nm~500μmの細孔の平均径が0.10μm以上100.00μm以下である、請求項1に記載の水素製造用鉄基粉末。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水素製造用鉄基粉末を用いてなる水素製造剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造用鉄基粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業用に、高効率かつ簡易に水素を製造する方法の開発が検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、ケイ素やアルミニウムなどの無機物質と溶媒を、遊星ボールミルにより粉砕、混合して水素を製造する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ケイ素粉末にあらかじめ残留応力を付与し、水と反応させることで水素を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-47789号公報
【特許文献2】特開2021-134107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1で提案されている方法は、メカノケミカル反応を利用した水素の製造方法である。しかし、この方法では、遊星ボールミルによって金属材料に機械的エネルギーを付与する必要があるため、装置が複雑化する。
【0007】
上記特許文献2で提案されている方法でも、ケイ素粉末に残留応力を付与するために、あらかじめ遊星ボールミルを用いてケイ素粉末を処理する必要があり、プロセス及び装置が複雑化する。
【0008】
そこで、より簡便に水素を製造する方法として、鉄基粉末を用いる方法が知られている。この方法は、鉄の腐食反応を利用して、鉄と水の反応により水素を発生させるものであり、前処理や複雑な装置を必要とすることなく、水素製造が可能となる。しかし、依然として水素発生効率が十分とは言えず、さらなる効率の向上が求められていた。
【0009】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、より高効率に水素を発生させることができる鉄基粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するために、鉄基粉末の金属鉄含有量と単位質量あたりの細孔容積に着目し、それぞれの条件範囲を設定することで高効率の水素発生を実現する鉄基粉末を提供することが可能であることを見出した。本発明は前記知見に立脚するものであり、その要旨構成は次のとおりである。
【0011】
[1] 粒子の内部に外部とつながる細孔を有する水素製造用鉄基粉末であって、金属鉄含有量が60質量%以上100質量%以下であり、前記細孔のうち直径3nm~500μmの細孔の、単位質量あたりの容積が0.05cm3/g以上である、水素製造用鉄基粉末。
【0012】
[2] 体積基準の粒度分布から計算される粒径の中央値D50が1.00μm以上500.00μm以下であり、前記細孔のうち直径3nm~500μmの細孔の平均径が0.10μm以上100.00μm以下である、前記[1]に記載の水素製造用鉄基粉末。
【0013】
[3] 前記[1]または[2]に記載の水素製造用鉄基粉末を用いてなる水素製造剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より高効率に水素を発生させることができる鉄基粉末を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、以下の説明においては、とくに断らない限り「%」は「質量%」を指すものとする。また、「鉄基粉末」とは、50%以上のFeを含む粉末を指すものとする。
【0016】
[鉄基粉末]
本発明に係る鉄基粉末は、粒子の内部に外部とつながる細孔を有する。このような細孔を有する鉄基粉末と水を反応させることにより、鉄の腐食反応が進行し、その結果として水素が発生する。以下、その機構について説明する。
【0017】
まず、鉄の腐食反応には、下記(1)式で表される酸素消費型腐食と、下記(2)式で表される水素発生型腐食の2種がある。
(1)
Fe→Fe2++2e-
H2O+1/2O2+2e-→2OH-
(2)
Fe→Fe2++2e-
2H++2e-→H2
【0018】
一般的な中性条件の腐食環境下では、上記(1)の酸素消費型腐食が進行する。この場合、酸素が還元されて生じた水酸化物イオンと、鉄が酸化されて生じた鉄イオンとが反応して水酸化鉄、すなわち錆が発生し、水素は発生しない。
【0019】
一方、水中に水素イオンが十分に存在している場合、上記(2)の水素発生型腐食が進行する。
【0020】
したがって、水素を製造するためには、鉄基粉末において、上記(2)の水素発生型腐食を生じさせる必要がある。
【0021】
ここで、一般的な鉄鋼製品において上記(2)の水素発生型腐食が生じる典型的なケースとして、隙間腐食が挙げられる。鉄鋼製品に隙間があり、かつその隙間に水分が存在する場合、前記隙間の内部では、最初、上記(1)の酸素消費型腐食が進行し、溶存酸素が消費される。一方、前記隙間の外部は大気と接触しているため、溶存酸素濃度が高いままとなる。その結果、隙間の内部と外部で酸素濃度差が形成される。
【0022】
さらに、前記隙間の内部では、腐食によって生じた鉄イオンが加水分解し、水素イオンが蓄積する。
【0023】
このように、隙間の内部では酸素濃度の低下と水素イオン濃度の上昇が起こり、その結果、上記(1)の酸素消費型腐食に代わって上記(2)の水素発生型腐食が生じることとなる。
【0024】
このようなメカニズムによる水素発生が、鉄基粉末の細孔においても生じると考えられる。すなわち、細孔内に水分が侵入すると、細孔の外部と内部の間に酸素濃度差が形成される。さらに、細孔の内部では、上記(1)の酸素消費型腐食により鉄イオンが生じ、その加水分解により水素イオンが蓄積する。その結果、細孔部分では水素発生型腐食が生じることとなる。つまり、鉄基粉末が粒子の内部に外部とつながる細孔を有することで、水素発生反応を進行させることができる。
【0025】
[金属鉄含有量]
本発明に係る鉄基粉末は、金属鉄含有量を60%以上100%以下とし、好ましくは70%以上100%以下とする。金属鉄含有量が60%未満の場合、鉄イオンの溶出が少ないため、腐食反応が十分に進行せず、効率よく水素を発生させることができない。
【0026】
なお、上記金属鉄含有量は、JIS A 5011-2に規定された「金属鉄定量方法」に準じて測定する。
【0027】
本発明において、前記鉄基粉末の成分組成はとくに限定されず、水素発生に関与する成分である金属鉄の含有量が上記条件を満たしていれば、残部は任意の組成とすることができる。本発明の一実施形態においては、Fe、O及び不可避不純物からなる成分組成を有する鉄基粉末を用いることができる。
【0028】
[単位質量あたりの細孔容積]
鉄基粉末が、粒子の内部に外部とつながる細孔を有する場合、該細孔は、製造条件等によって幅広いサイズを有し得る。しかし、本発明者らの検討の結果、前記細孔の直径が3nm未満である場合および500μm超である場合には、該細孔の水素発生に対する寄与が著しく低くなることが分かった。これは、次のような理由によると考えられる。まず、直径が3nm未満である場合には、細孔内に水分が侵入することが困難であるため、水素発生反応が生じにくい。一方、直径が500μmよりも大きい場合は、細孔の内外における溶存酸素濃度差が十分に形成されないため、やはり水素発生反応が生じにくい。
【0029】
したがって、水素発生効率を高めるためには、水素発生反応に寄与する細孔、すなわち、直径が3nm~500μmである細孔の量を増加させる必要がある。そのため、本発明では、直径3nm~500μmの細孔の、鉄基粉末の単位質量あたりの容積(以下、「細孔容積」という場合がある)を、0.05cm3/g以上、好ましくは0.08cm3/g以上とする。
【0030】
[平均細孔径]
本発明の鉄基粉末における直径3nm~500μmの範囲の細孔の平均径(以下、「平均細孔径」という場合がある)は0.10μm以上100.00μm以下であることが好ましい。平均細孔径が0.10μm以上の場合、水分が細孔に入り込みやすくなるため、水素の発生効率がより高まる。また、平均細孔径が100.00μm以下の場合、細孔内の水分中の溶存酸素濃度差が大きくなり、水素の発生効率がより高まる。
【0031】
なお、前記細孔容積および平均細孔径は水銀圧入法により測定する。具体的には、まず、細孔分布測定装置(島津製作所―マイクロメリティックス社製オートポアV9620)を用いて水銀圧入法により鉄基粉末の細孔分布を測定する。測定の際は試料約1gを5cc粉体用セルに取って測定し、初期圧7kPa、水銀接触角130°、水銀表面張力485dynes/cmの条件を用いる。そして、測定結果から直径3nm~500μmにおける細孔の、単位質量あたりの容積および平均径を算出する。
【0032】
[体積基準の粒度分布から計算される粒径の中央値D50]
本発明に係る鉄基粉末は、体積基準の粒度分布から計算される粒径の中央値D50が1.00μm以上であることが好ましく、1.50μm以上であることがより好ましい。D50が1.00μm未満の場合、過度に細粒となって凝集粉が多量に発生する。そうすると、凝集粉の内部の粒子が水分と接触しづらくなるため、該内部の粒子の細孔に水分が捕捉されにくくなり、水素発生反応の効率がやや劣る。
【0033】
一方、D50は500.00μm以下であることが好ましく、300.00μm以下であることがより好ましい。D50を500.00μm以下とすることで、水分が粒子内部まで浸透するため、粒子の全体が水素の発生に寄与し、水素の発生効率がより高まる。
【0034】
[D10及びD90]
本発明に係る鉄基粉末のD10は0.50μm以上であることが好ましい。D10を0.50μm以上とすることで、凝集粉が発生しにくくなり鉄基粉末における各粒子に水分が捕捉されやすくなる。また、本発明に係る鉄基粉末のD90は800.00μm以下であることが好ましい。D90を800.00μm以下とすることで、水分が各粒子内部まで浸透するため、水素の発生効率がより高まる。
【0035】
なお、D50、D10及びD90は、レーザー回折/散乱法により測定する。具体的には、まず、鉄基粉末の体積基準の粒度分布をレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製 LA-950V2)を用いて測定する。前記測定は、鉄基粉末を溶媒としてのエタノールに投入し、1分間の超音波振動による分散を行った後に実施する。得られた体積基準の粒度分布から、中央値D50、細粒側からの累積10%における値D10及び細粒側からの累積90%における値D90を算出する。
【0036】
[粉末の製造方法]
次に、本発明の一実施形態における上記鉄基粉末の製造方法について説明する。なお、以下の説明は製造方法の一例を示すものであって、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0037】
本発明に係る鉄基粉末は任意の方法で製造することができる。例えば、該鉄基粉末は、アトマイズ法、酸化物還元法又は粉砕法によって製造することができる。アトマイズ法は、金属溶湯に水やガスを吹き付け、粉化して冷却凝固させる方法であり、水アトマイズ法又はガスアトマイズ法のいずれをも利用することができる。酸化物還元法は、例えば、鋼材の熱間圧延時に鋼板表面から発生する酸化鉄又は鉱山から採掘した鉄鉱石粉を粗還元する方法である。粉砕法は、粉砕機を用いて金属小片を粉砕する方法である。さらに、前記アトマイズ法又は酸化物還元法により製造した粉末を仕上還元して、本発明に係る鉄基粉末を製造してもよい。前記仕上還元を行うことにより、金属鉄含有量を増加させることができる。なお、前記粉砕法により鉄基粉末を製造した場合は、金属鉄含有量が十分高いため、通常仕上還元工程を要しない。
【0038】
また、上述の方法により製造した鉄基粉末の粒度を調整してもよい。ここで、前記アトマイズ法、酸化物還元法及び粉砕法により製造した粉末、並びに前記仕上還元後の粉末を粒度調整前の粉末と呼ぶ。前記粒度調整前の粉末をそのまま本発明に係る鉄基粉末として使用してもよく、分級、破砕または混合して本発明に係る鉄基粉末を製造してもよい。
【0039】
以下、具体的な製造条件について説明する。なお、以降の記載において、粗還元と仕上還元とを合わせて還元又は還元工程と呼ぶことがある。
【0040】
本発明に係る鉄基粉末の金属鉄含有量を高くするために、前記還元工程を行うことが好ましい。前記還元工程の原料としては、全鉄含有率の高い粉末を用いることが好ましい。
【0041】
前記還元工程に用いる還元炉としては、例えば、粗還元についてはトンネル炉、仕上還元についてはベルト炉を用いることができる。還元剤としては、例えば、粗還元についてはコークスなどの炭素物質、仕上還元については水素等を使用することができる。
【0042】
前記還元工程における還元温度は、800℃以上とする。これにより、本発明に係る鉄基粉末の直径3nm~500μmの細孔の単位質量あたりの容積を、0.05cm3/g以上とすることができる。
【0043】
前記還元工程における還元時間は1時間以上とすることが好ましい。これにより、本発明に係る鉄基粉末の直径3nm~500μmの細孔の平均径を0.10μm以上とすることができる。
【0044】
次に、分級等の条件について説明する。本発明に係る鉄基粉末のD50を1.00μm以上とするために、前記粒度調整前の粉末を篩い分けて細粒を除去してよい。また、前記粒度調整前の粉末を篩い分けにより分級することで、粒度が異なる2種以上の粉末を得て、それらの粉末を適当な比率で混合してもよい。
【0045】
一方、D50を500.00μm以下とするために、前記粒度調整前の粉末の破砕条件を調整してもよく、前記粒度調整前の粉末を篩い分けて粗粒を除去してもよい。また、前記粒度調整前の粉末を篩い分けにより分級することで、粒度が異なる2種以上の粉末を得て、それらの粉末を適当な比率で混合してもよい。
【0046】
また、本発明に係る鉄基粉末の直径3nm~500μmの細孔の平均径を100.00μm以下とするために、前記粒度調整前の粉末をハンマーミルで衝撃粉砕してもよく、篩分けにより分級してもよい。
【0047】
[水素製造剤]
本発明に係る水素製造剤は、上述の鉄基粉末を用いてなる。前記水素製造剤としては、鉄基粉末自体を用いてもよく、鉄基粉末及びその他の1種又は2種以上の材料を用いてもよい。
【0048】
[鉄基粉末及び水素製造剤の使用方法]
次に、本発明の一実施形態における上記鉄基粉末及び水素製造剤の使用方法について説明する。なお、以下の説明は使用方法の一例を示すものであって、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0049】
本発明に係る鉄基粉末又は水素製造剤の使用方法は特に限定されない。例えば、本発明に係る鉄基粉末又は水素製造剤に水分を反応させることで水素を発生させることができる。上記水分としては任意の水を用いることができるが、蒸留水を用いることが好ましい。
【0050】
また、上記水分に添加剤を加えてもよい。添加剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムなどが挙げられ、これらの一種以上を用いることができる。鉄基粉末の表面には酸化鉄により構成される不働態皮膜が形成されている。しかし、前記添加剤を用いることにより、塩化物イオンによって不働態被膜が破壊され、鉄基粉末内部に酸化が進行する現象(孔食)が発生する。その結果、腐食が進行し、水素発生効率をより向上させることができる。また、前記添加剤として、酸を用いることができる。これにより、溶液のpHを低下させ、低pH条件で起きる水素発生型腐食を促進させて、水素発生効率をより向上させることができる。なお、上記酸としては、例えばクエン酸を用いることができる。
【実施例0051】
次に、実施例に基づいて、本発明についてさらに具体的に説明する。しかし、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲内にて適宜変更することも可能であり、これらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0052】
まず、アトマイズ法または酸化物還元法により粉末を作製した。前記粉末を600~790℃で還元し、分級することにより粒度を調整して、比較例1~13の鉄基粉末を得た。また、前記粉末を800~1300℃で還元し、分級することにより粒度を調整して、発明例14~34の鉄基粉末を得た。比較例1~13及び発明例14~34の鉄基粉末は、いずれもFe、O及び不可避不純物からなる成分組成を有する。これらの鉄基粉末について、上述の方法を用いて金属鉄含有量、細孔容積、平均細孔径、D50、D10及びD90を求めた。
【0053】
上記鉄基粉末の水素発生効率は以下の方法により評価した。
【0054】
内容積150mLのガラスビーカー内に各鉄基粉末1.0g、蒸留水3.0g、塩化ナトリウム0.9gを投入し、ゴム栓を用いて、大気下でガラスビーカーを密閉した。そして、ガラスビーカー自体を60℃に保温し、回転速度1800rpmで撹拌した。保温及び攪拌には振盪恒温器(アズワン株式会社製)を用いた。撹拌開始から480分後、ゴム栓に穴を開けて、シリンジによりガラスビーカー内のガスを1mL採取し、ガスクロマトグラフ(ジーエルサイエンス株式会社製)を使用してガス中の水素濃度の測定を行った。
【0055】
表1に鉄基粉末ごとの製法及び評価結果を示す。水素濃度が高いほど、同じ時間でより多くの水素が発生しており、鉄基粉末の水素発生効率が良い。本発明の条件を満たす鉄基粉末を用いた場合、水素濃度が10体積%以上という高い値を示し、本発明の条件を満たさない鉄基粉末よりも水素発生が効率よく進行した。
【0056】
また、平均細孔径が0.10~100.00μmかつD50が1~500μmである鉄基粉末を用いた発明例26~34は、水素濃度が17体積%以上となっており、他の発明例と比較して、水素発生効率がより高いことがわかる。
【0057】
発明例26と発明例27を比較すると、鉄基粉末のD10が0.50μm以上である発明例27の水素濃度が高く、水素発生効率がより優れている。
【0058】
発明例28と発明例29を比較すると、鉄基粉末のD90が800.00μm以下である発明例29の水素濃度が高く、水素発生効率がより優れている。
【0059】
発明例27と発明例30を比較すると、鉄基粉末のD50が1.5~300μmである発明例30の水素濃度が高く、水素発生効率がより優れている。
【0060】
発明例30と発明例31を比較すると、鉄基粉末の金属鉄含有量が70%以上100%以下である発明例31の水素濃度が高く、水素発生効率がより優れている。
【0061】
発明例30と発明例32を比較すると、鉄基粉末の直径3nm~500μmの細孔の単位質量あたりの容積が0.08cm3/g以上である発明例30の水素濃度が高く、水素発生効率がより優れている。
【0062】