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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159345
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】冶金用コークスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 57/04 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
C10B57/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075289
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】土肥 勇介
(72)【発明者】
【氏名】井川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】野間 洋人
【テーマコード(参考)】
4H012
【Fターム(参考)】
4H012MA01
(57)【要約】
【課題】粘結性に乏しい石炭を従来よりも多量に使用しながら、高炉の通気性確保に寄与し得る、高強度かつ適切な粒径の冶金用コークスを提供する。
【解決手段】原料Aを機械的な圧密により成型して製造される成型炭と残部である粉状の原料B(粉炭)とを配合してなる配合炭を乾留してコークスとするに際し、前記原料Aを、JIS M 8801に規定される流動性試験方法(ギーセラープラストメータ法)における最高流動度の常用対数値(logMF)で 1.50以下とし、かつ、かかる原料Aを、最大粒子径で300μm以下として、さらに、前記原料Bを、前記最高流動度の常用対数値(logMF)で2.30以上とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料Aを機械的な圧密により成型して製造される成型炭を原料A’とし、原料A’と粉状の原料B(粉炭)とを配合してなる配合炭を乾留してコークスとする冶金用コークスの製造方法において、
前記原料Aを、JIS M 8801に規定される流動性試験方法(ギーセラープラストメータ法)における最高流動度の常用対数値(logMF)で1.50以下とし、
かつ、かかる原料Aを、最大粒子径で300μm以下として、
さらに、前記原料Bを、前記最高流動度の常用対数値(logMF)で2.30以上とする
冶金用コークスの製造方法。
【請求項2】
前記機械的な圧密に、ダブルロール式の成型機を用いる請求項1に記載の冶金用コークスの製造方法。
【請求項3】
前記原料A’の密度を1.00g/cm以上とする請求項1または2に記載の冶金用コークスの製造方法。
【請求項4】
前記原料A’と原料Bの合計質量に占める原料A’の質量割合が0.30以下である請求項1または2に記載の冶金用コークスの製造方法。
【請求項5】
前記原料A’と原料Bの合計質量に占める原料A’の質量割合が0.30以下である請求項3に記載の冶金用コークスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料の一部を機械的に圧密成型することで、粘結性の乏しい原料の使用量を増大させることができる成型炭配合法において、粘結性の乏しい原料の使用量を従来よりも大幅に増大させることを可能にする冶金用コークスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高炉を用いた銑鉄の製造において、石炭を室炉コークス炉で乾留することにより製造したコークスが、鉄鉱石の還元材、および高炉内の通気性を確保する目的で使用されている。
かかる高炉内の通気性を確保することができる高強度の冶金用コークスを製造するためには、乾留時の石炭の流動性が重要であることが知られている。例えば、非特許文献1では、ギーセラープラストメータを用いた流動度測定法において、少なくとも200 ddpm(常用対数値2.30)、望ましくは400 ddpm(常用対数値2.60)以上の流動性を示すことが必要であることが報告されている。
【0003】
ところが、上述するような、高強度のコークスを製造することができる十分な流動性を有する原料炭は、燃料用に使用される一般炭に比べて価格が高い傾向にある。加えて、資源の埋蔵量も限られており、将来的に枯渇することが懸念される。したがって、原料コストを抑え、かつ、多様な原料を活用して高炉を操業し続けるためには、乾留時の流動性に乏しい原料を多く使用することができるコークス製造技術の開発が、切望されている。
【0004】
かかる要求に対応するため、これまでにも、成型炭を活用する技術を用いて、流動性に乏しい石炭の増使用が検討されてきた。
例えば、特許文献1では、成型炭に使用する配合炭の軟化溶融特性を、構成する単味炭の全膨張率の加重平均で整理している。そして、その値が一定以下の場合に、粒径3mm以下の石炭粒子の割合を高くするような粉砕操作を行うことで、劣質炭を成型炭に多く含有させても、十分なコークス強度を有するコークスを得ることができる方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、成型炭に使用する配合炭が全膨張率の小さい劣質炭を多く含む場合に、粘結補填材を添加することで、十分なコークス強度を有するコークスを得る方法が記載されている。
【0006】
ここで、近年の研究では、流動性に乏しい石炭から高炉使用に耐えうる高強度の塊成物を製造する方法として、まず、石炭を106μm以下に微粉砕(通常のコークス製造プロセスでは約3mm以下)する。そして、その後、直径15mm・深さ20mmのモールド中で圧密成型してから乾留することにより、間接引張強度が10MPa(一般的なコークスでは5MPa)を超える高強度の塊成物が製造できることが報告されている(非特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-117279号公報
【特許文献2】特開2016-65111号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】宮津ら、日本鋼管技報、67(1975)、1
【非特許文献2】M. Matoba, et Al., ISIJ international, 59(2019), 1440.
【非特許文献3】K. Uchida, et Al., ISIJ international, 59(2019), 1449.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、劣質炭を配合した成型炭を粉炭とともに乾留してコークスを製造する際、特許文献1に記載の方法で石炭の粒度を調製したり、特許文献2に記載の方法で粘結補填材を添加したりしても、劣質炭、すなわち流動性の低い石炭の割合が高い場合には、依然としてコークス強度が低下して十分な強度が得られない場合があった。
【0010】
さらに、非特許文献2、3では、溶融性の乏しい石炭のみを用いて、粘結補填材を用いずとも、高強度の塊成物が製造できることが報告されている。しかしながら、文献で報告されたようなモールドを用いた成型方法では、一日に数千~数万トンの石炭を使用するコークス製造に適用するには、生産速度の点で不足する。
【0011】
また、高炉におけるコークスの重要な役割の一つは、高炉内のスペーサーとして通気性を確保することであり、一定以上の粒径が必要とされる。非特許文献2,3に記載の方法では、高強度の塊成物を製造することはできるが、高炉の通気性を確保し得る十分な粒径を有するコークスを製造することは極めて困難である。
【0012】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであって、粘結性に乏しい石炭やバイオマス等の原料を従来よりも多量に使用しながら、高炉の通気性確保に寄与し得る、高強度かつ適切な粒径の冶金用コークスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
1.原料Aを機械的な圧密により成型して製造される成型炭を原料A’とし、原料A’と粉状の原料B(粉炭)とを配合してなる配合炭を乾留してコークスとする冶金用コークスの製造方法において、前記原料Aを、JIS M 8801に規定される流動性試験方法(ギーセラープラストメータ法)における最高流動度の常用対数値(logMF)で1.50以下とし、かつ、かかる原料Aを、最大粒子径で300μm以下として、さらに、前記原料Bを、前記最高流動度の常用対数値(logMF)で2.30以上とする冶金用コークスの製造方法。
【0014】
2.前記機械的な圧密に、ダブルロール式の成型機を用いる前記1に記載の冶金用コークスの製造方法。
【0015】
3.前記原料A’の密度を1.00g/cm以上とする前記1または2に記載の冶金用コークスの製造方法。
【0016】
4.前記原料A’と原料Bの合計質量に占める原料A’の質量割合が0.30以下である前記1~3のいずれか1項に記載の冶金用コークスの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、粘結性の乏しい原料を従来よりも多量に使用しながらも、微粉砕した原料を圧密成型することで、上記原料をコークス原料として使用した際に問題となるコークスのドラム強度の著しい低下を抑止することができる。
また、粉炭に一定以上の流動性を有する原料を使用することで、成型炭と粉炭の界面に良好な結合を形成させることができるので、生産性やコークス粒径にかかる課題を有利に解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例に用いた‘アルミナるつぼ’への充填の様子を示す図である。
図2】原料炭1(右)と成型炭6(左)の界面の写真である。
図3】原料炭2(左)と成型炭6(右)の界面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、原料の一部(本発明において原料Aという)を機械的な圧密により成型して製造される成型炭(本発明において原料A’ともいう)と粉状の原料B(本発明において粉炭ともいう)とを配合してなる配合炭を乾留してコークスとする冶金用コークスの製造方法に関するものである。
特に、前記原料Aを、JIS M 8801(以下、「JIS8801」という)に規定される流動性試験方法(ギーセラープラストメータ法)における最高流動度の常用対数値(logMF)で1.50以下とし、かつ、かかる原料Aを、最大粒子径で300μm以下とする。加えて、前記原料Bは、かかる流動性試験方法における最高流動度の常用対数値(logMF)で2.30以上とする。
なお、以下、JIS8801に規定される流動性試験方法(ギーセラープラストメータ法)における最高流動度(MF)を単に最高流動度、もしくは流動性と記載する場合がある。
【0020】
[前記原料Aを、JIS8801に規定される流動性試験方法(ギーセラープラストメータ法)における最高流動度の常用対数値(logMF)で1.50以下]
本発明における原料A(成型炭の原料)は、JIS8801に規定される流動性試験方法(ギーセラープラストメータ法)における最高流動度の常用対数値(logMF)を1.50以下とする。
本発明の趣旨は、通常の製造方法であればコークス強度の大幅な低下を招くような流動性の低い原料をコークス原料として使用する場合に、コークス強度の低下を抑制しながらコークス原料として使用できるようにすることにある。
すなわち、通常のコークス製造で使用できる流動性の高い原料を本発明に倣って微粉砕し、使用することは、微粉砕にコストがかかる一方で、コークス強度の向上は限定的であることから経済的観点で望ましくない。
したがって、最高流動度の常用対数値は、1.50以下である原料Aを使用することが肝要であって、1.30以下であることが好ましい。
【0021】
なお、コークス製造では一般的に、流動性の異なる原料を配合し、原料Aとすることがある。かかる場合、本発明では、原料Aの元原料となる各元原料における最高流動度の常用対数値と各元原料の質量割合とから算出する加重平均値を1.50以下となるように各元原料を配合し、本発明に用いる原料Aとして使用すればよい。
【0022】
ここで、全く流動性を示さない原料、すなわちJIS8801に規定される流動性試験方法(ギーセラープラストメータ法)における最高流動度(MF)が0ddpmの原料については、最高流動度の常用対数値(logMF)を0として計算する。
【0023】
成型炭内部は、従来の液相焼結的な現象によらず、固相焼結的な現象によって粒子間に結合が形成されるため、原料Aの最高流動度の下限は特に限定されない。よって、全く流動性を示さない原料でも、本発明ではコークス原料として使用できる。
従って、かかるlogMFの下限は特に限定されず、0.00であって良い。
【0024】
さらに、本発明において、原料Aとなる炭材は、上記流動性が低く炭素を主とした原料であれば特に限定されないが、石炭に加えて、バイオマスや析出炭素などを用いることができ、これらを熱処理して得られた炭化物、またそれらの混合物をいずれも好適に使用することができる。なお、劣質な石炭やバイオマス等、揮発分が多い原料を多く用いる場合は、事前に熱処理して、かかる揮発分を30mass%以下としておくことが好ましい。これにより、コークスとしての歩留まりを高くでき、ガスの膨張により固相焼結的な現象が阻害されることを防ぐことができる。一方、かかる揮発分が低すぎると、固相焼結的な現象の駆動力である芳香族化、多環化反応が起こりにくくなるため、揮発分は1mass%以上とすることが好ましく、6mass%以上とすることがより好ましい。
また、揮発分の調整は、酸素供給が遮断された雰囲気中で熱処理を行うとよく、例えば空気の流入が阻害され、不活性ガスが通流される空間を形成する容器に原料を収容した状態で行うとよい。原料を収容した容器を加熱し、当該容器からの伝熱によって行ってよい。熱処理温度は、例えば、かかる熱処理は400℃以上とすればよい。
【0025】
[原料Aを、最大粒子径で300μm以下]
本発明における原料Aは、最大粒子径が300μm以下となるように粉砕する。
原料Aに300μmを超える粒子径の粗粒が5%超含まれると、この粗粒が乾留後も成型炭中に残存して強度を低下させる。これは、粒子同士の結合をもたらす固相焼結的な現象は、粒子径が小さいほど促進されるので、粗粒の残存は、粒子同士の結合を阻害し、強度の低下を引き起こすからである。
【0026】
前記原料Aの最大粒子径は、好ましくは100μm以下である。炭材の粒子径が適度に小さいことで、成型炭中の物理的構造が緻密で均質になり、コークス強度上昇に寄与する。なお、炭材の粒子径は、細かければ細かいほど成型炭中の結合強度が向上するため好ましい。このため、原料Aの最大粒子径の下限は限定するものではない。ただし、生産性も考慮すると、原料Aの粒子径を小さくする場合であっても、原料Aの最大粒子径を20μm未満とすることは、微粉砕コストがあがる一方で、コークス強度の向上は限定的である。このため、最大粒子径は20μm以上程度とすることが好ましい。
【0027】
なお、本発明における粒子径は、特に記載のない場合、最大粒子径を意味する。
また、粒度分布測定装置で測定する場合は、次のようにして最大粒子径を測定することができる。
すなわち、本発明において、粒子径及び粒度分布は、市販の粒度分布計測装置を用いて計測した値を用いてよい。具体的には、Malvern Panalytical社製のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器「レーザーマイクロンサイザー LMS-3000」(以下、単に粒度分布計測装置と称する)を使用して計測した粒子径及び粒度分布(体積基準)を用いる。
【0028】
また、本発明では、混合粉中に含まれる粒子を粒度分布計測装置で計測した粒度分布の粒子の小さい方(検出下限の粒径)から積算して95%となる粒子径を最大粒子径(最大値)とする。以下、単に粒子径又は粒度分布などと記載した場合は、上記の粒度分布計測装置で計測した値のことを意味するものとする。
【0029】
本発明において、微粉砕方法および微粉砕装置は特に限定されない。微粉砕方法は常法を用いればよく、また、微粉砕装置としては、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル、ボールミルなどの媒体ミルなどを使用してよい。加えて、微粉砕装置は、微粉砕のみ行う装置に限られず、例えば分級機内蔵型粉砕機を用いてもよい。
【0030】
[原料Bを、前記最高流動度の常用対数値(logMF)で2.30以上]
本発明では、原料B(粉状の原料または粉炭)として、加熱時の流動性が一定以上高い原料を使用することで、乾留中に成型炭と粉炭との界面に強固な接着部が形成され、原料全体が塊成化することにより、高強度かつ高炉使用に適した粒径のコークスを製造することができる。したがって、粉炭の流動性は、通常コークス製造に使用する原料炭と同程度かそれ以上であることが必要である。
具体的に、原料Bは、前述したJIS8801に規定される流動性試験方法(ギーセラープラストメータ法)における最高流動度の常用対数値で2.30以上であることが必要である。また、一層強固なコークスを製造する観点からは2.40以上であることが好ましく、2.60以上であることがより好ましい。
なお、かかる原料Bの流動性が高すぎると、成型炭と粉炭の界面の結合が強固になるものの、原料Bが過剰に膨張してコークスの密度が低下することにより、コークス強度が低下する場合がある。したがって、原料Bの最高流動度の常用対数値(logMF)は3.00以下が望ましい。
【0031】
なお、コークス製造では一般的に、流動性の異なる原料を配合し原料Bとして用いるが、この場合は、原料Bの元原料となる各元原料の最高流動度の常用対数値と各元原料の質量割合とから算出する加重平均値が2.30以上となるように各元原料を配合し、本発明に用いる原料Bとして使用すればよい。
【0032】
[成型炭(原料A’)の製造方法]
コークス強度を確保する観点からは、成型炭の製造方法は特に限定されないが、ダブルロール式成型機を用いることが、成型炭の生産速度を高め、コークスの製造量に適した生産性を達成するために好ましい。
【0033】
一般に成型炭を製造する場合には、成型炭のハンドリング性向上のため、バインダーを使用することがある。本発明においても、前述した、流動性や粒度を満たした原料Aに対して必要に応じてバインダーを添加することができる。かかるバインダーとして、石炭系バインダー(コールタールピッチ、溶剤精製炭、タール、タール滓等)、石油系バインダー(アスファルト、アスファルトピッチ、プロパン脱瀝アスファルト等)および有機バインダー(でんぷん、糖蜜、樹脂等)などを使用してよい。
【0034】
また、バインダーを使用しないで成型炭のハンドリング性を高める方法として、スクリューにより原料Aをダブルロール間に押し込みながら成型する方法を用いることもできる。
原料A中の粒子間距離が近いほど、固相焼結的な現象が促進され乾留中に粒子間に強固な結合が形成される。そのため、成型炭(原料A’)の密度は、1.00g/cm3以上が好ましく、一層強固なコークスを製造する観点から、1.05g/cm3以上であることがより好ましく、1.10g/cm3以上であることがさらに好ましい。なお、成型炭(原料A’)の密度の上限は特に限定されないが、かかる密度を高めるために成型圧を高くしすぎると成型炭に反発割れが生じ、歩留まりが低下することにより生産性が低下するため、成型炭の密度の目標値としては1.30g/cm3以下が好ましい。
【0035】
本発明において、成型炭の大きさについては、制約を設ける必要はなく、例えば、容積として6~120(cc)の成型炭を使用してよい。成型炭の強度を考慮した場合、成型炭の大きさは、6~80(cc)の範囲とすることが好ましく、6~50(cc)の範囲とすることがより好ましい。
【0036】
また、本発明において、生産速度は、処理能力にして、45ton/日以上であることが好ましい。一日に数千~数万トンの石炭を使用するコークス製造に適用するためである。一方、上限は特に限定されないが、工業的には4500ton/日程度である。
【0037】
さらに、本発明において、粉炭の元原料となる種類は特に限定されず、一般的にコークス製造に使用される原料炭を主とした元原料を使用すればよい。粉炭の元原料としては、石炭に加えて、石炭やバイオマスを熱処理して得られた炭化物、またそれらの混合物を使用することができる。また、コークス強度を向上させる目的でコールタールピッチやアスファルトピッチなどのピッチ類を粉炭の元原料として一部使用することができる。
なお、原料A’(成型炭)と原料B(粉炭)に該当しない物質(例えば廃棄物からのガス回収の目的で投入するプラスチックの塊等)であっても、従来公知のコークス製造用配合炭に使用される成分および量であれば、問題なく許容される。
【0038】
粉炭の粒度は特に限定されず、一般的なコークス製造プロセスに倣い、直径:3mm以下の粒子の占有率が70~100mass%となるように、粉砕を行ってよい。
成型炭と粉炭の配合割合としては、成型炭と粉炭とを併せた原料全体に占める成型炭の質量割合が30mass%以下であることが望ましい。本発明において、成型炭内部には固相焼結的な現象による結合が形成される。一方、粉炭と成型炭との界面には、乾留時の石炭の流動性を使用した液相焼結的な現象により結合が形成される。それによって、原料全体が塊成化し、高炉使用に適した粒径の大きいコークスを製造することができる。
【0039】
よって、粉炭の割合が低すぎると、成型炭と粉炭との接着強度が不足し、粒径の大きなコークスを製造することができない。したがって、原料全体に占める成型炭の質量割合は30mass%以下が望ましく、25mass%以下がより好ましい。また、上記接着の観点から、成型炭の質量割合の下限は特に限定されないが、従来使用が難しかった流動性の低い原料を多量に使用する目的に照らすと、成型炭の質量割合は3mass%以上が好ましく、5mass%以上がより好ましい。
【0040】
本発明における原料の事前処理プロセスとしては、粉砕、分級、混合、混錬、乾燥、加水および予熱工程等の一部又は全部を含んでよい。乾留条件は、一般的な室炉式コークス炉により、概ね900(℃)以上の温度により乾留を行ってよい。
【0041】
本発明に従う冶金用コークスの製造方法において、本明細書に記載のない項目は、いずれも常法を用いることができる。
【実施例0042】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
〔実施例1〕
表1に記載されている石炭を原料Aとして使用した。なお、石炭2、4の最高流動度は0ddpmであり、最高流動度の常用対数値をとれないため、「溶融性なし」と記載した。
また、原料Aを成型して製造される成型炭を原料A’とした。
【0043】
表2に記載されている成型炭(原料A’)1~6を、以下の手順で製造した。
表1に記載されている石炭を、それぞれ原料Aとして使用した。
まず、各原料を、3mm以下、106μm以下、74μm以下(以下および表中では「以下」を「-」(マイナス)で表す)の各粒子径に粉砕処理した。なお、-106μm、-74μmへの粉砕には、超遠心粉砕機(メーカー:ヴァーダー・サイエンティフィック社、型式:ZM200)を用いた。
成型炭(原料A’)1~4は、前記粉砕した石炭1または2である原料A:100mass%に対してタール:6mass%、タールピッチ:6mass%(いずれも外枠)をバインダーとして添加し、混錬機で十分に混錬し、混錬物を得た。次いで、モールドを設置したダブルロール式の小型成型機でかかる混錬物を成型した。
また、成型炭(原料A’)5~6は、ロールの前段にスクリューが付随し、モールドを設置したダブルロール式の小型成型機を用いて、スクリューで前記粉砕した石炭3または4を押し込みながらダブルロールで圧密することにより成型した。
【0044】
以下、従来例、比較例および発明例では、表3に示す原料炭を粉炭(原料B)に使用した。
本発明では、従来よりも極端に流動性が低く、また粉砕粒度を細かくして製造した成型炭を粉炭とともに乾留するため、粉炭と成型炭の界面の接着が弱く、コークス強度の低下要因となることが予想される。粉炭の流動性が界面の接着に与える影響を検討するため、次の実験を行った。
表3に記載されている原料炭1、2を-1mm100%に粉砕して、粉炭として使用した。アルミナるつぼに表3に記載の各原料炭と表2に記載の成型炭6を図1に記載のように充填した。このとき、粉炭の密度が750kg-dry/m3となるように充填した。かように粉炭等を充填したアルミナるつぼに蓋をし、電気炉で室温から1000℃まで3℃/minの昇温速度で加熱した。放冷後、得られたコークスサンプルを樹脂に埋め込んだ後に切断し、粉炭と成型炭との界面を顕微鏡で観察した。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
図2、3に観察結果を示す。図2に示すように、粉炭の原料に流動性の低い原料炭1を使用した場合には、成型炭内部、粉炭のそれぞれは一体化している様子が観察されるが、成型炭と粉炭との界面は全く接着しておらず、一様に200μm程度の空隙が生じている様子が観察された。粉炭の流動性が低いため、成型炭と粉炭の界面に良好な接着が形成されず、乾留中の両者の収縮率の差により界面に空隙が生じたと考えられる。
【0049】
一方、図3に示すように、粉炭の原料に流動性の高い原料炭2を使用した場合には、成型炭と粉炭の界面に結合が形成され、成型炭部と粉炭が一体化している様子が観察された。本実験結果から、成型炭と粉炭の界面に結合を形成し、コークス原料全体を一体化させるためには、粉炭の流動性が重要であり、粉炭に一定以上の流動性を有する原料を使用することで、成型炭と粉炭の界面に良好な接着を形成可能であることが確認できた。
【0050】
〔実施例2〕
以下、コークスを製造し、コークス強度を測定した実施例に基づき本発明の効果を説明する。
まず、表4に記載されている配合条件で、粉炭(原料B)と成型炭(原料A’)とを配合した配合炭を用意した。
従来例1および2は、前記表3に記載の原料炭3、4を-3mm100%に粉砕して粉炭として使用し、粉炭のみを配合炭とした。
発明例1および2、並びに比較例1~6は、前記表3に記載の原料炭3、4を-3mm100%に粉砕して粉炭(全体の80mass%)として使用し、前記表1の石炭1~3を未成型(すなわち、原料A)のまま、もしくは前記表2に記載の成型炭(原料A’)として全体の20mass%配合した配合炭とした。
発明例3および比較例7は、前記表3に記載の原料炭4を-3mm100%に粉砕して粉炭(全体の90mass%)として使用し、前記表1に記載の石炭4を未成型(すなわち、原料A)のまま、もしくは前記表2に記載の成型炭(原料A’)として全体の10mass%配合した配合炭とした。
【0051】
上記配合炭を、成型炭を含まない水準(従来例1,2、比較例2、5、6、7)では、原料全体の嵩密度が750(kg-dry/m3)となるように図1に示したSUS製の乾留缶に装入した。
また、上記配合炭を、成型炭を含む水準(比較例1、3、4、発明例1~3)では、粉炭の嵩密度が750(kg-dry/m3)となるように図1に示したSUS製の乾留缶に装入した。
上記配合炭を装入したSUS製の乾留缶を、炉内の温度を1050(℃)とした電気炉において6時間加熱することで、コークスを得た。得られたコークスは、窒素雰囲気下で冷却した後、JIS K2151:2004に規定されているドラム試験の150回転の15mm指数(DI 150/15)でコークス強度を評価した。
【0052】
表4にコークス原料の配合条件とコークスのドラム強度を示し、本発明の効果を説明する。
【0053】
【表4】
【0054】
[従来例1、2]
一般的にコークスの製造に使用される原料炭3,4からコークスを製造した水準である。高炉用コークスには強度が要求され、上記コークスの製造条件においては、DI 150/15は73以上(好ましくは75以上)が求められる。
【0055】
[比較例1~3]
原料炭3に対し、石炭1を異なる形状で配合し、乾留することでコークスを製造している。比較例2は、石炭1(-3mm100%)を未成型で粉炭と混合しているが、従来例1と比べてコークス強度の低下は小さい。比較例1、3では、石炭1を異なる粒度に粉砕して製造した成型炭を粉炭と混合しているが、コークス強度の変化は小さい。
すなわち、最高流動度の常用対数値が2.08程度の流動性を有する石炭であれば、微粉砕して使用する必要はなく、従来の方法によってコークス原料として使用できるため、本発明に従って微粉砕する必要性は低い。
【0056】
[比較例4、5]
原料炭3に対し、石炭2を異なる形状で混合し、乾留することでコークスを製造している。比較例5は、石炭2(-3mm100%)を未成型で粉炭と混合しているが、従来例1と比べてコークス強度が著しく低下している。比較例4は、石炭2を-3mm100%に粉砕して製造した成型炭を粉炭と混合しているが、コークス強度は比較例5と同程度であり従来例1と比べ強度の低下が著しい。
【0057】
[発明例1]
発明例1では、石炭2を-74mm100%に粉砕して製造した成型炭(原料A’)を粉炭と混合しており、コークス強度は従来例1と比べると低いものの、比較例4、5と比べると明らかに高く、好ましい強度(DI 150/15)である75を達成している。
本結果により、溶融性の低い原料を原料Aとして使用する場合に、本発明の方法に従うことで、コークス強度の低下を大幅に軽減できることが確認できた。
【0058】
[比較例6、7]
原料炭4に対し、石炭3、4を異なる形状で混合し、乾留することでコークスを製造している。比較例6、7では、-106μm100%に微粉砕した石炭3、4を未成型で粉炭と混合しているが、従来例2と比べてコークス強度が著しく低下している。特に流動性を全く示さない石炭4を使用した比較例7で強度低下が著しい。
【0059】
[発明例2、3]
発明例2、3では、-106μm100%に微粉砕した石炭3、4から製造した成型炭(原料A’)を粉炭と混合しており、同じ原料Aを未成型のまま使用した比較例6、7に比べてコークス強度が著しく向上している。結果として、発明例2では、コークス強度が従来例2と同程度となり、好ましい強度(DI 150/15)である75を達成した。また、発明例3においても目標強度(DI 150/15)である73を達成した。
本結果から、溶融性の低い原料をコークス原料として使用する場合に、微粉砕することに加えて圧密成型するという本発明の方法に従うことで、コークス強度への悪影響を軽減できることが確認できた。
【0060】
なお、発明例1~3で製造したコークスの粒径は、従来例1、2で製造したコークスと同程度であった。成型炭(原料A’)由来のコークスが、周囲の粉炭由来のコークスと一体化し、従来のコークス製造方法と同程度の粒径のコークスが製造できることが確認できた。
図1
図2
図3