(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159349
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】果実回し具
(51)【国際特許分類】
A01G 17/00 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
A01G17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075300
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000142034
【氏名又は名称】株式会社共和
(74)【代理人】
【識別番号】100147647
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】杉本 恵大
(72)【発明者】
【氏名】尾植 秀和
(72)【発明者】
【氏名】村松 佑紀
(57)【要約】
【課題】 果実を果梗周りに回転させる実回し作業を、安全に、少ない肉体的負担で、更には効率良く行うことを可能にする果実回し具を提供する。
【解決手段】 本発明の果実回し具1は、果梗Kを介して樹木Tに実った果実Fを、果梗Kの周りに回転させる果実回し具1であって、棒状に形成され、作業者が把持する把持部2と、当該把持部2の先端部に設けられ、前記果実Fに回転力を作用させる果実作用部3と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
果梗を介して樹木に実った果実を、前記果梗周りに回転させる果実回し具であって、
棒状に形成され、作業者が把持する把持部と、
前記把持部の先端部に設けられ、前記果実に回転力を作用させる果実作用部と、
を備えることを特徴とする果実回し具。
【請求項2】
前記果実作用部が、エラストマーからなることを特徴とする請求項1に記載の果実回し具。
【請求項3】
前記エラストマーが、シリコーンゴムであることを特徴とする請求項2に記載の果実回し具。
【請求項4】
前記果実作用部は、デュロメータ硬さ(JIS K6253に規定されるタイプAデュロメータで測定)が29以下であって、且つ、静摩擦係数(JIS K7125に規定される試験方法で測定)が、1.37以上であることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の果実回し具。
【請求項5】
前記果実作用部は、前記デュロメータ硬さが29であって、且つ、前記静摩擦係数が、1.37であることを特徴とする請求項4に記載の果実回し具。
【請求項6】
前記果実作用部は、前記デュロメータ硬さが25であって、且つ、前記静摩擦係数が、4.62であることを特徴とする請求項4に記載の果実回し具。
【請求項7】
前記果実作用部が、卵形、円形、円弧形、長円形、楕円形、又はひょうたん形の縦断面形状を有することを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の果実回し具。
【請求項8】
前記果実が、りんごであることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の果実回し具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹木に実った果実を果梗周りに回転させる果実回し具に関する。
【背景技術】
【0002】
りんご等の果実は、収穫前の一時期に日光に当たる時間が長いほど、その表面の色付きが良くなることが知られている。そこで、このような果物の栽培においては、果実全体が満遍なく日光に当たってムラなく色付くよう、実回し(玉回し、つる回しとも呼ばれる)と呼ばれる作業を定期的に行う必要がある。この実回しは、果梗(柄の部分)を介して樹木に実った果実を、その果梗周りに回転させることにより行われる。従来、実回しを行う作業者は、脚立に上り、手の届く範囲内の果実を手作業で回転させた後、脚立を移動させて、次の場所において同様の作業を繰り返すことを行っていた。
【0003】
なお、果物の収穫時に使用される装置として、果実を果梗から切り離す器具は従来種々提案されているが(例えば、特許文献1を参照)、果実を果梗周りに回転させる器具は特に提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の実回し作業は、作業者が脚立を上り下りする作業や脚立を移動させる作業を含んでいるため、安全面に問題があり、作業者の肉体的な負担が大きく、更には作業効率も悪いという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、果実を果梗周りに回転させる実回し作業を、安全に、少ない肉体的負担で、更には効率良く行うことを可能にする果実回し具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様に係る果実回し具は、果梗を介して樹木に実った果実を、前記果梗周りに回転させる果実回し具であって、棒状に形成され、作業者が把持する把持部と、前記把持部の先端部に設けられ、前記果実に回転力を作用させる果実作用部と、を備える。
【0008】
なお、本発明の一の態様に係る果実回し具においては、前記果実作用部が、エラストマーからなるものでもよい。
【0009】
また、本発明の一の態様に係る果実回し具においては、前記エラストマーが、シリコーンゴムであってもよい。
【0010】
また、本発明の一の態様に係る果実回し具においては、前記果実作用部は、デュロメータ硬さ(JIS K6253に規定されるタイプAデュロメータで測定)が29以下であって、且つ、静摩擦係数(JIS K7125に規定される試験方法で測定)が、1.37以上であってもよい。
【0011】
また、本発明の一の態様に係る果実回し具においては、前記果実作用部は、前記デュロメータ硬さが29であって、且つ、前記静摩擦係数が、1.37であってもよい。
【0012】
また、本発明の一の態様に係る果実回し具においては、前記果実作用部は、前記デュロメータ硬さが25であって、且つ、前記静摩擦係数が、4.62であってもよい。
【0013】
また、本発明の一の態様に係る果実回し具においては、前記果実作用部が、卵形、円形、円弧形、長円形、楕円形、又はひょうたん形の縦断面形状を有してもよい。
【0014】
また、本発明の一の態様に係る果実回し具においては、前記果実が、りんごであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一の態様に係る果実回し具によれば、果実を果梗周りに回転させる実回し作業を、安全に、少ない肉体的負担で、更には効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る果実回し具1の構成を示す概略正面図である。
【
図3】果実作用部3を示す、中心線を含んだ概略縦断面図である。
【
図5】果実回し具1の使用状態を示す説明図である。
【
図6】果実回し具1を用いた実回しの手順を示す概略平面図である。
【
図7】果実作用部3の変形例を示す概略正面図である。
【
図8】果実作用部3の変形例を示す概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る果実回し具について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態では、りんごの果実の実回しに用いられる果実回し具を例に説明する。
【0018】
(果実回し具の構成)
まず、本発明の実施形態に係る果実回し具の構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る果実回し具1の構成を示す概略正面図である。果実回し具1は、把持部2と、果実作用部3と、を備えている。なお、
図1では、把持部2の図示を一部省略している。
【0019】
把持部2は、作業者によって把持される部位としての役割と、果実作用部3を高所に保持する役割とを果たす。この把持部2は、樹脂や木材等からなる棒状の部材であって、その横断面形状は略円形である。また、把持部2の長さは、樹木に実ったりんごの果実に対し、果実作用部3を接近させることができる程度に設定されている。なお、把持部2の材質や横断面形状は、本実施形態に限定されず、適宜設計変更が可能である。また、把持部2の長さは、果実の実る高さ位置や、作業者の身長等を考慮して、適宜設計変更が可能である。更に、図に詳細は示さないが、把持部2の所定位置に公知の長さ調節機構を設けることにより、把持部2を長さ調節可能に構成することも可能である。
【0020】
果実作用部3は、果実に果梗周りの回転力を作用させる役割を果たす。この果実作用部3の材質は、エラストマー(弾力のある高分子材料)であって、本実施形態では、熱硬化性エラストマーの一種であるシリコーンゴムを採用している。また、果実作用部3は、そのデュロメータ硬さ(JIS K6253に規定されるタイプAデュロメータで測定)が29以下であって、且つ、静摩擦係数(JIS K7125に規定される試験方法で測定、但し相手材としてSUS304からなる試験用金属板を使用)が1.37以上に設定されている。これは、果実作用部3は、デュロメータ硬さが低いほど、また静摩擦係数が高いほど、果実に対して回転力を作用させやすい特性を有するためである。ここで、表1は、デュロメータ硬さと静摩擦係数を変化させた果実作用部3の複数のサンプルについて、果実を回転させることができるか否かの試験を行った試験結果を示している。これによれば、サンプルAとサンプルBについては、果実に回転力を作用させることができなかったが、サンプルCとサンプルDについては、果実に回転力を作用させることが可能であった。
【0021】
【0022】
ここで、
図2から
図4は、果実作用部3を示す図であり、
図2は概略正面図、
図3は中心線を含んだ概略縦断面図、
図4は概略底面図である。果実作用部3は、卵形の外形を有し、その底面には、横断面円形の取付用穴4が、所定深さに亘って形成されている。このように構成される果実作用部3は、その取付用穴4に把持部2を挿入して固定することにより、把持部2の先端部に取り付けられている。
【0023】
なお、取付用穴4の横断面形状、深さ、及び形成位置等は、本実施形態に限定されず、把持部2の形状等に応じて適宜設計変更が可能である。また、取付用穴4は本発明に必須の構成ではない。すなわち、果実作用部3を把持部2の先端部に設ける態様は、本実施形態のように取付用穴4に把持部2を挿入する態様に限定されず、果実作用部3を把持部2の先端部に直接固定する態様や、不図示の固定用部材を介して果実作用部3を把持部2の先端部に固定する態様や、果実作用部3と把持部2とを一体的に形成する態様等であってもよい。
【0024】
(果実回し具の使用方法及びその作用効果)
次に、本発明の実施形態に係る果実回し具1の使用方法及びその作用効果について説明する。
図5及び
図6は、果実回し具1の使用方法を示す図であり、
図5は果実回し具1の使用状態を示す説明図、
図6は果実回し具1を用いた実回しの手順を示す概略平面図である。ここでは、りんごの樹木Tに果梗Kを介して実った果実Fを例に、果実回し具1を用いて実回しを行う場合について説明する。実回しを行う作業者は、果実回し具1の把持部2の所定箇所を把持し、
図5及び
図6(a)に示すように、果実Fの表面における所定位置Pに対して果実作用部3を接触させる。そして、把持部2を操作することにより、果実作用部3で果実Fの表面を擦るようにして、果実Fに対して果梗K周りの回転力を作用させる。これにより、
図6(b)及び
図6(c)に示すように、果実Fの表面における所定位置Pは、果梗K周りに90°程度回転する。このような動作を繰り返すことにより、果実Fを果梗K周りに所望の角度だけ回転させることができる。
【0025】
ここで、前述のように果実作用部3は、そのデュロメータ硬さが29以下であって、且つ、静摩擦係数が、1.37以上に設定されており、適度な弾性を有している。従って、果実Fと接触した際に果実作用部3が若干凹むように弾性変形することにより、果実Fとの接触面積を広く確保することができる。これにより、果実作用部3から果実Fに対し、より確実に回転力を作用させることができる。
【0026】
また、果実Fの表面で日当たりが悪く色付きが良くない領域を、日当たりの良い位置へと移動させることにより、果実Fの全体を満遍なく日光に当ててムラなく色付かせることができる。なお、果実Fを果梗K周りに回転させる角度は、本実施形態に限定されず、果実Fの色付き具合いや、周囲の環境や、果実Fの種類等に応じて適宜変更が可能である。また、果実作用部3を自転させる、すなわち把持部2の周りに回転させることにより、果実Fに回転力を作用させてもよい。
【0027】
また、作業者は、高所に実った果実Fの実回しを果実回し具1だけで行うことができ、脚立を上り下りする作業や脚立を移動させる作業が不要であるため、安全に、少ない肉体的負担で、更には効率良く、実回しを行うことができる。
【0028】
(変形例)
なお、本発明の技術範囲は上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって規定される本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。例えば、本発明の実施形態としては、以下に示すような変形例が考えられる。
【0029】
本実施形態では、
図1に示すように、果実作用部3が卵形の外形を有している。しかし、果実作用部3の外形は、本実施形態に限定されず適宜設計変更が可能である。
図7及び
図8は、果実作用部3の変形例を示す概略正面図である。
図7(a)に示す円形の果実作用部5や、
図7(b)に示す円弧形の果実作用部6や、
図7(c)に示す長円形の果実作用部7や、
図8(a)に示す楕円形の果実作用部8や、
図8(b)に示すひょうたん形の果実作用部9を用いて、果実回し具1を構成することも可能である。なお、円形の果実作用部5及び円弧形の果実作用部6によれば、果実作用部3を容易且つ安価に製作できる利点がある。また、長円形の果実作用部7及び楕円形の果実作用部8によれば、果実Fとの接触面積が円形や円弧形と比較して広くなる分、より確実に果実Fに回転力を作用させることができる利点がある。また、ひょうたん形の果実作用部9によれば、上下2点で果実Fと接触することにより、1点で果実Fと接触する場合と比較して、より確実に果実Fに回転力を作用させることができる利点がある。
【0030】
本実施形態では、果実作用部3をシリコーンゴムで形成している。しかし、果実作用部3の材質は、本実施形態に限定されず、シリコーンゴム以外のエラストマーであってもよい。また、ある程度の弾性を有し、果実Fとの接触時に接触面積を広く確保しやすい材質であれば、エラストマー以外の素材であってもよい。
【0031】
本実施形態では、果実作用部3は、そのデュロメータ硬さが29以下であって、且つ、静摩擦係数が1.37以上に設定されている。果実作用部3は、デュロメータ硬さが29に、且つ、静摩擦係数が1.37にそれぞれ設定された時、果実Fを確実に回転させることができるので好適である。また、果実作用部3は、デュロメータ硬さが25に、且つ、静摩擦係数が4.62にそれぞれ設定された時も、果実Fを確実に回転させることができるので好適である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る果実回し具は、りんご以外の果物の果実や、果実的野菜と呼ばれるスイカ、メロン、苺等の果実や、トマト、ナス等の野菜の果実の実回しに用いることが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 果実回し具
2 把持部
3,5,6,7,8,9 果実作用部
4 取付用穴
F 果実
K 果梗
P 所定位置
T 樹木