(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159353
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】プレポリマー、及び該プレポリマーを用いて製造される高分子量水溶性ポリマー
(51)【国際特許分類】
C08F 2/38 20060101AFI20241031BHJP
C08F 2/46 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08F2/38
C08F2/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075328
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】神戸 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】河合 道弘
【テーマコード(参考)】
4J011
【Fターム(参考)】
4J011AA07
4J011NA26
4J011NB04
4J011NB05
4J011NC01
4J011QA02
4J011QA03
4J011QA06
4J011QA38
4J011QC07
4J011SA79
4J011TA08
4J011UA01
4J011VA02
4J011WA10
(57)【要約】
【課題】 従来の高分子量水溶性ポリマーと比較して優れた特性を有する高分子量水溶性ポリマー、及び当該高分子量水溶性ポリマーを製造するための中間原料として用いられるプレポリマーを提供する。
【解決手段】 交換連鎖移動機構型制御剤の存在下、単量体成分をラジカル重合させて得られるプレポリマーであり、その末端に前記交換連鎖移動機構型制御剤に由来する構造を有することを特徴とするプレポリマーを用いて高分子量水溶性ポリマーを製造する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子量水溶性ポリマーの製造用のプレポリマーであって、
交換連鎖移動機構型制御剤の存在下、単量体成分をラジカル重合させて得られるプレポリマーであり、
その末端に前記交換連鎖移動機構型制御剤に由来する構造を有することを特徴とするプレポリマー。
【請求項2】
前記交換連鎖移動機構型制御剤は、可逆的付加開裂連鎖移動剤(RAFT剤)である、請求項1に記載のプレポリマー。
【請求項3】
前記可逆的付加開裂連鎖移動剤(RAFT剤)が、下記式(1):
【化1】
(但し、式(1)中、R
3及びR
4は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を示す。)
で表されるトリチオカルボネート化合物を含む、請求項2に記載のプレポリマー。
【請求項4】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量(Mw)が、1,000~300,000である、請求項1に記載のプレポリマー。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のプレポリマーの存在下、単量体成分をラジカル重合させて得られることを特徴とする高分子量水溶性ポリマー。
【請求項6】
前記高分子量水溶性ポリマーが、活性エネルギー線の照射により重合させてなるポリマーである、請求項5に記載の高分子量水溶性ポリマー。
【請求項7】
前記高分子量水溶性ポリマーが高分子凝集剤である、請求項5に記載の高分子量水溶性ポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子量水溶性ポリマー製造用の中間原料となるプレポリマー、及び該プレポリマーを用いて製造される高分子量水溶性ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
世界的にカーボンニュートラルの動きが強く、下水処理や各産業での廃水処理もその例外ではない。下水処理関係のB-DASHプロジェクトでは,下水消化の高濃度化や低動力化脱水機の開発が注目されている。消化汚泥は有機分や繊維分が少なく、難脱水汚泥に分類される。消化反応の高濃度化が実現した場合、残渣として出てくる消化汚泥も高濃度化となり、更に難脱水汚泥になる可能性が高い。また、低動力化脱水機の開発の場合、駆動部自体の低動力化が考えられ、このような事から高分子凝集剤等の薬剤による脱水汚泥の含水率低減化が必要になる。
【0003】
カチオン性高分子凝集剤は、有機系の汚泥や廃水に対して効果を発揮し、凝集沈殿や脱水操作に必ず使用されている。また、難脱水汚泥である消化汚泥の脱水にもカチオン性高分子凝集剤が使用されている。従来のカチオン性高分子凝集剤は、分子間の相互作用が強く、分子の絡まりが強いために粘性が高い。ポリマー分子の絡まり合いが、ポリマー分子と汚泥との相互作用よりも強固な場合があるので、リニアポリマーは汚泥添加の際に添加量幅が狭い傾向があり、適切な添加量でないと汚泥の脱水ケーキの含水率が下がらない場合がある。
高分子凝集剤として、架橋ポリマーが使用される場合もあり、エマルションタイプの架橋ポリマーは分子の立体構造が保持されており、分子間の相互作用が弱く粘性も低い。そのため、汚泥との反応が速やかに進行し、強固なフロックを形成して、脱水ケーキの含水率の低減が期待できる(特許文献1)。しかし、従来のカチオン性高分子凝集剤よりも分子量が低いため、添加量が多くなり、従来のカチオン性高分子凝集剤よりも薬剤費用が高くなる傾向がある。
従来のカチオン性高分子凝集剤と架橋ポリマーとを併用する場合もあるが、溶解装置が異なるため、処理場によっては操作が煩雑になる。
また、粉末ポリマーを疎水変性する目的で、比較的疎水性のモノマーを共重合する方法もあるが、重合不良による不溶解分が多く、疎水変性が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、従来の高分子量水溶性ポリマーと比較して優れた特性を付与し得る高分子量水溶性ポリマーを提供すること、及び当該高分子量水溶性ポリマーを製造するための中間原料として用いられるプレポリマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、交換連鎖移動機構型制御剤の存在下、単量体成分をラジカル重合させて得られるプレポリマーであって、末端に交換連鎖移動機構型制御剤由来の構造を有するプレポリマーを中間原料(マクロ連鎖移動剤)として用いて、リビングラジカル重合によって高分子量水溶性ポリマーを製造することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
上記課題を解決する本発明は以下に記載するものである。
【0008】
〔1〕 高分子量水溶性ポリマーの製造用のプレポリマーであって、
交換連鎖移動機構型制御剤の存在下、単量体成分をラジカル重合させて得られるプレポリマーであり、
その末端に前記交換連鎖移動機構型制御剤に由来する構造を有することを特徴とするプレポリマー。
【0009】
〔2〕 前記交換連鎖移動機構型制御剤は、可逆的付加開裂連鎖移動剤(RAFT剤)である、〔1〕に記載のプレポリマー。
【0010】
〔3〕 前記可逆的付加開裂連鎖移動剤(RAFT剤)が、下記式(1):
【化1】
(式中、R
3及びR
4は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を示す。)
で表されるトリチオカルボネート化合物を含む、〔2〕に記載のプレポリマー。
【0011】
〔4〕 ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量(Mw)が、1,000~300,000である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のプレポリマー。
【0012】
上記〔1〕~〔4〕に記載の発明は、高分子量水溶性ポリマーを製造するための中間原料となるプレポリマーである。このプレポリマーは、交換連鎖移動機構型制御剤の存在下で、単量体成分をラジカル重合させて製造されることにより、該単量体成分を重合して得られる高分子鎖の末端に、交換連鎖移動機構型制御剤に由来する構造が結合していることを特徴とする。このプレポリマーは、高分子量水溶性ポリマーの製造時にマクロ連鎖移動剤として用いることができる。
【0013】
〔5〕 〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のプレポリマーの存在下、単量体成分をラジカル重合させて得られることを特徴とする高分子量水溶性ポリマー。
【0014】
〔6〕 前記高分子量水溶性ポリマーが、活性エネルギー線の照射により重合させてなるポリマーである、〔5〕に記載の高分子量水溶性ポリマー。
【0015】
〔7〕 前記高分子量水溶性ポリマーが高分子凝集剤である、〔5〕又は〔6〕に記載の高分子量水溶性ポリマー。
【0016】
上記〔5〕~〔7〕に記載の発明は、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のプレポリマーをマクロ連鎖移動剤として用いて製造される高分子量水溶性ポリマーである。この高分子量水溶性ポリマーは、プレポリマーの存在下、〔1〕の単量体成分とは異なる単量体成分をラジカル重合させて製造されることにより、プレポリマーに由来する高分子鎖と、単量体成分を重合して得られる高分子鎖と、のブロック共重合体となる。
【発明の効果】
【0017】
高分子量水溶性ポリマーの製造に際し、本発明のプレポリマーを中間原料(マクロ連鎖移動剤)として用いることにより、高分子量水溶性ポリマーの鎖長や構造、特性を制御し易くなるため、従来の高分子量水溶性ポリマーと比較して様々な特性を高分子量水溶性ポリマーに付与できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明のプレポリマー、高分子量水溶性ポリマー、及び高分子凝集剤について説明する。
なお、本発明のプレポリマーや高分子量水溶性ポリマー、高分子凝集剤は、その構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情があり、組成物を得るためのプロセス(製法)によって初めて明確に特定することが可能である場合がある。
以下の説明において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
各種物性値は、特に示した場合を除き、25℃、常圧の物性値である。
【0019】
(1) プレポリマー
本発明のプレポリマーは、交換連鎖移動機構型制御剤の存在下、単量体成分をラジカル重合させて得られるプレポリマーであって、その末端には交換連鎖移動機構型制御剤に由来する構造が結合している。即ち、単量体成分を重合して得られる重合体ブロック(以下、重合体ブロック(A)ともいう)の末端に、交換連鎖移動機構型制御剤に由来する構造が結合して成るプレポリマーである。
【0020】
交換連鎖移動機構型制御剤としては、RAFT法における可逆的付加開裂連鎖移動剤(以下、「RAFT剤」ともいう)、ヨウ素移動重合法における制御剤、TERP法における制御剤、SBRP法における制御剤、BIRP法における制御剤等が挙げられる。これらのうち、実施の簡便さの観点から、RAFT剤を特に好ましく使用できる。
【0021】
RAFT剤としては、ジチオエステル化合物、ザンテート化合物、トリチオカーボネート化合物、及びジチオカーバメート化合物等、公知の各種RAFT剤を使用することができる。これらのうち、(メタ)アクリル系単量体(特に、(メタ)アクリル酸エステル化合物)の重合制御性に優れる点において、下記式(1)
【0022】
【0023】
で表されるトリチオカーボネート化合物を好ましく使用できる。但し、式(1)中、R3及びR4は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を示す。
【0024】
トリチオカーボネート化合物の具体例としては、S,S-ジベンジルトリチオカーボネート、ビス[4-(2,3-ジヒドロキシプロポキシカルボニル)ベンジル]トリチオカーボネート、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンジル]トリチオカーボネート、1,4-ビス(n-ドデシルスルファニルチオカルボニルスルファニルメチル)ベンゼン、2-{[(2-カルボキシエチル)スルファニルチオカルボニル]スルファニル}プロパン酸、及び4-{[(2-カルボキシエチル)スルファニルチオカルボニル]スルファニル}-4-シアノペンタン酸等が挙げられる。
【0025】
交換連鎖移動機構型制御剤の使用量は、用いる単量体及び交換連鎖移動機構型制御剤の種類等に応じて適宜調整され得る。一般的には、単量体成分の合計量に対して0.01~20モル%であり、0.02~10モル%が好ましく、0.05~5モル%がより好ましい。
【0026】
本発明のプレポリマーは、末端に交換連鎖移動機構型制御剤に由来する構造が結合して成る。本発明において、交換連鎖移動機構型制御剤に由来する構造は、交換連鎖移動機構型制御剤に由来し、交換連鎖移動機構型制御剤の少なくとも一部を含む。RAFT剤の場合、ジチオエステル構造、ザンテート構造、トリチオカーボネート構造(以下、「トリチオ構造」とする)、ジチオカーバメート化合物(これらをまとめてS含有構造という)、及び/又は、S含有構造に結合する有機基を意味する。例えば、交換連鎖移動機構型制御剤が上記化学式(1)の場合、プレポリマーの末端は、式(1)中、トリチオ構造に結合する有機基(すなわちR3又はR4部分の構造)、トリチオ構造、又は、トリチオ構造に結合する有機基とトリチオ構造との複合基が結合していることを意味する。
プレポリマーは、少なくとも一方の末端に、S含有構造、及び/又は、当該S含有構造に結合する有機基とS含有構造との複合基を有している。また、プレポリマーは、もう一方の末端に、S含有構造に結合する有機基、S含有構造、及び、S含有構造に結合する有機基とトリチオ構造との複合基から選択される少なくとも1種を有していればよく、これらの混合物であってもよい。プレポリマーは、好ましくは、一方の末端が、S含有構造に結合する有機基とS含有構造との複合基であり、もう一方の末端がS含有構造に結合する有機基であることが好ましい。
【0027】
交換連鎖移動機構型制御剤の存在下でラジカル重合する単量体成分は、当該交換連鎖移動機構型制御剤との適合性や最終的に得る高分子量水溶性ポリマーに付与する特性に応じて選択すれば良い。交換連鎖移動機構型制御剤との適合性は、モノマー転化率等を考慮して選択することができる。具体例としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステル化合物、(メタ)アクリル酸の芳香族エステル化合物、下記式(2):
CH2=CR1-C(=O)O-(R2O)n-R3 ・・・化(2)
(但し、式(2)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は炭素数2~6の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し、R3は水素原子、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基を表す。nは1~100の整数を表す)
で表される化合物、スチレン系化合物、マレイミド化合物、アミド基含有ビニル化合物、及び架橋性官能基を有するビニル系単量体等が挙げられる。
【0028】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル及び(メタ)アクリル酸イコシル等が挙げられる。
【0029】
(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル及び(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等が挙げられる。
【0030】
(メタ)アクリル酸の芳香族エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシメチル、(メタ)アクリル酸2-フェノキシエチル及び(メタ)アクリル酸3-フェノキシプロピル等が挙げられる。
【0031】
上記式(2)中のnが1である化合物としては、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル化合物及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル化合物等が挙げられる。
【0032】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル化合物は、オキシアルキレン構造(例えば、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖及びオキシブチレン鎖等)を有する。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸エトキシブチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシブチル及び(メタ)アクリル酸n-ブトキシブチル等が挙げられる。
【0033】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。
【0034】
上記式(2)中のnが2以上である場合、上記式(2)で表される化合物は、ポリオキシアルキレン構造(例えば、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖及びポリオキシブチレン鎖等)を有する。なお、nが2以上である場合、上記式(2)中の2個以上のR2は、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。したがって、上記式(2)中のnが2以上である化合物は、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンからなるブロック構造のように、1分子中に異なる種類のポリオキシアルキレン構造を有していてもよい。
【0035】
上記式(2)中のnが2以上である化合物の具体例としては、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシブチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、及びフェノキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0036】
スチレン系化合物の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ビニルキシレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-イソブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、o-ヒドロキシスチレン、p-イソプロペニルフェノール、m-イソプロペニルフェノール、o-イソプロペニルフェノール、o-ビニル安息香酸、m-ビニル安息香酸、p-ビニル安息香酸、ジビニルベンゼン及びビニルナフタレン等が挙げられる。
【0037】
マレイミド化合物の具体例としては、マレイミド及びN-置換マレイミド化合物が挙げられる。N-置換マレイミド化合物としては、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-イソブチルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミド、N-ペンチルマレイミド、N-ヘキシルマレイミド、N-ヘプチルマレイミド、N-オクチルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、及びN-ステアリルマレイミド等のN-アルキル置換マレイミド化合物;N-シクロペンチルマレイミド、及びN-シクロヘキシルマレイミド等のN-シクロアルキル置換マレイミド化合物;N-フェニルマレイミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド、N-(4-アセチルフェニル)マレイミド、N-(4-メトキシフェニル)マレイミド、N-(4-エトキシフェニル)マレイミド、N-(4-クロロフェニル)マレイミド、N-(4-ブロモフェニル)マレイミド、及びN-ベンジルマレイミド等のN-アリール置換マレイミド化合物等が挙げられる。
【0038】
アミド基含有ビニル化合物の具体例としては、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、及びN-ビニルアミド系単量体等が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリルアミド誘導体の具体例としては、tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。N-ビニルアミド系単量体の具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド及びN-ビニルイソブチルアミド等が挙げられる。
【0039】
架橋性官能基を有するビニル系単量体について、架橋性官能基としては、例えば、架橋性シリル基、シラノール基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、エポキシ基、オキサゾリン基、イソシアネート基、及び重合性不飽和基等が挙げられる。架橋性シリル基としては、例えば、アルコキシシリル基、ハロゲノシリル基等が挙げられる。これらのうち、反応性を制御しやすい点で、アルコキシシリル基が好ましく、例えば、トリメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、ジメチルメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、ジメチルエトキシシリル基等が挙げられる。
【0040】
架橋性官能基を有するビニル系単量体の具体例としては、例えば、架橋性シリル基含有ビニル化合物、不飽和カルボン酸、不飽和酸無水物、ヒドロキシ基含有ビニル化合物、エポキシ基含有ビニル化合物、1級又は2級アミノ基含有ビニル化合物、オキサゾリン基含有ビニル化合物、及びイソシアネート基含有ビニル化合物等が挙げられる。
【0041】
架橋性シリル基含有ビニル化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシランン等のビニルシラン類;(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸ジメチルメトキシシリルプロピル等のアルコキシシリル基含有(メタ)アクリル酸エステル類;トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル等のアルコキシシリル基含有ビニルエーテル類;トリメトキシシリルウンデカン酸ビニル等のアルコキシシリル基含有ビニルエステル類等を挙げることができる。架橋性シリル基含有ビニル化合物は、架橋性シリル基同士の脱水縮合により架橋構造を形成するため、重合体を製造する際の重合反応、及びその後の架橋反応を効率的に行うことができる点において好適である。
【0042】
不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、桂皮酸、さらには、不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル(マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等のモノアルキルエステル)等が挙げられる。不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。
【0043】
ヒドロキシ基含有ビニル化合物としては、上述した(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル化合物、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)の(メタ)アクリル酸エステル;o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン及びp-ヒドロキシスチレン等のスチレン系化合物;N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド等のマレイミド化合物等が挙げられる。
【0044】
エポキシ基含有ビニル化合物としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、重合体(PA)を構成するビニル系単量体は、上記のうちの1種でもよく2種以上でもよい。
【0045】
本発明のプレポリマーを中間原料として高分子量水溶性ポリマーを製造することにより、高分子量水溶性ポリマーを変性することができる。例えば、本発明のプレポリマーを高分子凝集剤の製造用の中間原料として用いる場合、プレポリマーにおいて生長させる単量体成分により高分子凝集剤を変性し、高分子凝集剤の水や汚泥への親和性を調整することができる。
【0046】
本発明のプレポリマーは、後工程で製造される高分子量水溶性ポリマーを水溶性とし易く、且つその製造工程で使用し易いため、水溶性であることが好ましい。したがって、本発明のプレポリマーは、水溶性単量体単位を含んで構成されていることが好ましい。このような水溶性単量体としては、上記化学式(2)で示す化合物や、アミド基含有ビニル化合物が好ましい。また、水・汚泥への親和性の調整のしやすさの観点から非イオン性の水溶性単量体単位を含んで構成されていることが好ましい。さらに、長期保管において加水分解等の劣化が起こり難いという観点からは、エステル骨格を含まない単量体が好ましい。このような単量体としては、加水分解し難い水溶性のアミド基含有ビニル化合物が好ましく、中でも重合制御の容易性の観点から、アクリルアミド、N-置換アクリルアミド、N,N-二置換アクリルアミドが好ましい。このような化合物の具体例としては、アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド等が挙げられる。
本発明のプレポリマーは、疎水性単量体と、親水性単量体と、の共重合体であることが好ましく、中でも、疎水性単量体から成る疎水ブロックと、親水性単量体から成る親水ブロックと、から成るブロック共重合体であることが好ましい。このようなプレポリマーを用いて最終的に製造される高分子量水溶性ポリマーは、汚泥との親和性と、水溶性と、を高度に両立できる傾向にある。さらに本発明のプレポリマーは、親水ブロックの末端に交換連鎖移動機構型制御剤に由来するラジカル重合の成長末端構造が結合して成ることが好ましい。このようなプレポリマーを用いて製造される高分子量水溶性ポリマーは、その片末端に疎水ブロックが存在し、汚泥との親和性が高くなるとともに、ポリマー間相互作用による凝集・ゲル化性能が特に高まる傾向にある。
【0047】
本発明のプレポリマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量(Mw)が、1,000~300,000であることが好ましく、1,000~100,000であることがより好ましく、1,200~100,000であることが特に好ましい。1,000未満である場合、プレポリマーの製造時に使用した単量体成分を生長して成る重合鎖の特性が、最終的に得られる高分子量水溶性ポリマーに反映され難い。即ち、変性の効果が小さくなる。300,000を超える場合、プレポリマーとして高純度のものを作製することが困難になる。また、高分子量水溶性ポリマーの製造に用いた時に分離が起き易くなる。
【0048】
本発明のプレポリマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が、1,000~300,000であることが好ましく、1,000~100,000であることがより好ましく、1,200~100,000であることが特に好ましい。
【0049】
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、特に制限されないが、例えば、1.00~3.00であり、1.05~2.50であることが好ましく、1.10~1.50であることが特に好ましい。この範囲内であれば、このプレポリマーを用いて製造する高分子量水溶性ポリマーの品質を安定させ易い。
【0050】
(2) プレポリマーの製造方法
本発明のプレポリマーは、公知の重合溶媒を用い、上記の交換連鎖移動機構型制御剤及び重合開始剤の存在下、溶媒中で上記の単量体成分を重合することにより製造することができる。
【0051】
使用する重合溶媒としては、例えば単量体を溶解可能な溶媒を用いることができる。重合溶媒としては、有機溶媒や水が例示される。有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン及びアニソール等の芳香族化合物;酢酸メチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン化合物、メタノールやエタノール等のアルコールが挙げられる。後工程の高分子量水溶性ポリマーの製造において、水溶液重合での使用を考慮すると、重合溶媒は水であることが最も好ましい。有機溶媒を用いる場合は、ラジカル重合の連鎖移動反応が起こり難く、かつ沸点が100℃未満で後工程での水置換が容易な、メタノール、酢酸エチル、及びアセトニトリルが好ましい。なお、重合溶媒は、単独で使用してもよく、2種以上を併用しても良い。
【0052】
重合溶媒の使用量は、反応に使用する単量体の合計量100質量部に対して、5~200質量部となる量が好ましく、10~100質量部となる量がより好ましい。重合溶媒の使用量を200質量部以下とすると、短時間で高い重合率とすることができる点で好ましい。
【0053】
重合反応の際に用いられるラジカル重合開始剤は特に制限されない。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾ系開始剤、レドックス系開始剤及び光重合開始剤等を適宜利用できる。これらの中でも、取り扱い易く、ラジカル重合時の副反応が起こり難い点でアゾ系開始剤が好ましい。
これらのラジカル重合開始剤は単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0054】
アゾ系開始剤の具体例としては、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシルエチル]-プロピオンアミド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]が例示される。
【0055】
重合開始剤の添加量は特に制限されず、重合開始剤の種類、単量体組成に応じて、適宜調整すればよい。分子量分布がより狭いプレポリマーを得る観点から、交換連鎖移動機構型制御剤1molに対して、0.5mol以下とすることが好ましく、0.4mol以下とすることがより好ましい。また、重合反応を安定に行う観点から、交換連鎖移動機構型制御剤1molに対して、0.01mol以上とすることが好ましく、0.03mol以上とすることがより好ましい。交換連鎖移動機構型制御剤1molに対する重合開始剤の使用量は、0.01~0.5molが好ましく、0.03~0.4molがより好ましい。
【0056】
なお、重合反応は、必要に応じて、連鎖移動剤(例えば、炭素数2~20のアルキルチオール化合物等)の存在下で実施してもよい。
【0057】
重合時の反応温度は、特に制限されないが、重合時の副反応を抑制して分子量分布の狭いプレポリマーを得る観点、ロット間の物性のバラツキが少ないプレポリマーを得る観点、及び使用できる重合開始剤や溶媒に関する制限を緩和する観点から、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。また、重合反応を円滑に進行させる観点から、反応温度は、40℃以上が好ましく、45℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。重合反応における反応時間は、使用する単量体等に応じて適宜設定され得るが、1時間以上48時間以下であることが好ましく、2時間以上24時間以下であることがより好ましく、2時間以上12時間以下であることが更に好ましい。
【0058】
(3) 高分子量水溶性ポリマー
本発明の高分子量水溶性ポリマーは、上述の本発明のプレポリマーの存在下、任意の単量体成分をラジカル重合させて得られる高分子量水溶性ポリマーであることを特徴とする。即ち、本発明の高分子量水溶性ポリマーは、上述の本発明のプレポリマーの製造に使用した単量体成分を重合して形成された重合体ブロック(A)と、任意の単量体成分を重合して形成される重合体ブロック(以下、重合体ブロック(B)ともいう)と、のブロック共重合体である。その末端には、本発明のプレポリマーの末端構造、即ち交換連鎖移動機構型制御剤に由来する構造を有していてもよい。
【0059】
本発明の高分子量水溶性ポリマーの「高分子量」とは、25℃における0.5質量%(重合体換算)塩粘度が、3.0mPa・s以上であるものとして定義することができる。25℃における0.5質量%(重合体換算)塩粘度は、3.0~200mPa・sであることが好ましく、5.0~90mPa・sであることがより好ましく、10~85mPa・sであることが特に好ましい。200mPa・sを超える場合、水溶性ポリマーの水溶性が低下する場合がある。なお、0.5質量%(重合体換算)塩粘度とは、4質量%濃度の塩化ナトリウム水溶液に、高分子凝集剤を0.5質量%濃度に溶解した塩水溶液の25℃における塩粘度を意味する。
25℃における0.5質量%(重合体換算)塩粘度が、3.0mPa・s以上である高分子量水溶性ポリマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量(Mw)が、概ね100万以上であると判断することができる。
【0060】
本発明の高分子量水溶性ポリマーの「水溶性」とは、少なくとも0.5質量%(重合体換算)塩粘度を測定するための試料水溶液を調整できる程度の溶解性を有していることを意味する。より好ましい「水溶性」としては、本発明の高分子量水溶性ポリマーの0.1質量%濃度水溶液における不溶解分が、5.0質量%以下であり、さらに好ましくは4.0質量%以下である。
【0061】
重合体ブロック(B)を形成するための単量体成分としては、高分子量水溶性ポリマーに付与する特性やその用途に応じて適宜選択することができる。上記重合体ブロック(A)において説明した単量体の他、各種の単量体成分を使用できる。なお、重合体ブロック(A)を構成する単量体成分と、重合体ブロック(B)を構成する単量体成分と、は、通常異なる(完全に同一ではない)単量体成分である。
【0062】
(3-1) 高分子凝集剤
本発明の高分子量水溶性ポリマーを高分子凝集剤として用いる場合には、以下に説明するカチオン性単量体、ノニオン性単量体、及びアニオン性単量体等を好ましく用いることができる。
【0063】
カチオン性単量体としては、下記式(3):
CH2=CR1-CO-X-Q-N+R2aR2bR2c・Z- ・・・化(3)
(但し、化学式(3)において、R1は水素原子又はメチル基、R2a及びR2bはそれぞれ独立に炭素数1~3のアルキル基又はベンジル基、R2cは水素原子、炭素数1~3のアルキル基又はベンジル基であり、同種でも異種でもよい。Xは酸素原子又はNH、Qは炭素数1~4のアルキレン基又は炭素数2~4のヒドロキシアルキレン基、Z-は対アニオンをそれぞれ表す。)
で表される(メタ)アクリレート単量体であることが好ましい。
【0064】
上記化学式(3)で表される(メタ)アクリレート単量体の具体例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの塩酸塩及び硫酸塩が例示される。また、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートやジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの塩化メチル等のハロゲン化アルキル付加物、塩化ベンジル等のハロゲン化ベンジル付加物、硫酸ジメチル等の硫酸ジアルキル付加物等である第4級塩が例示される。これらの(メタ)アクリレート単量体は単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
これらの好ましい(メタ)アクリレート単量体の中でも、特に高分子凝集剤としての性能に優れ、アクリレート単量体の品質及び貯蔵安定性にも優れることから、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル第4級塩(DAC)を用いることが最も好ましい。
【0065】
重合体ブロック(B)は、カチオン性単量体単位を50~100mol%で含むことが好ましく、55~95mol%で含むことがより好ましく、60~90mol%で含むことが特に好ましい。カチオン性単量体のモル分率が上記範囲外であると凝集性が低下する場合がある。
【0066】
本発明において製造される高分子量水溶性ポリマー(高分子凝集剤)は、上記のカチオン性単量体とノニオン性単量体との共重合体であってもよい。ノニオン性単量体は特に限定されないが、例えば下記化学式(4)で表される(メタ)アクリルアミド系化合物の他、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルキル、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニルを挙げることができる。これらのノニオン性単量体の中でも、カチオン性単量体との共重合性に優れており、高分子凝集剤として必要な高分子量化が容易であり、高分子凝集剤としての性能が優れることから、下記化学式(4):
CH2=CR1-CO-NR2R3 ・・・化(4)
(但し、上記化学式(4)において、R1は水素原子又はメチル基であり、R2及びR3はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。)
で表される(メタ)アクリルアミド系化合物が好ましい。
【0067】
これらの(メタ)アクリルアミド系化合物の中でも、水溶性であり、高分子凝集剤としての性能が特に優れることから、アクリルアミド(AM)が最も好ましい。
これらのノニオン性単量体は単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0068】
重合体ブロック(B)は、ノニオン性単量体単位を0~50mol%で含むことが好ましく、5~45mol%で含むことがより好ましく、10~40mol%で含むことが特に好ましい。ノニオン性単量体のモル分率が上記範囲外である場合、幅広い性状の汚泥に対して効果を発揮し難い。
【0069】
アニオン性単量体としては、下記化学式(5)で表される(メタ)アクリル酸及びこれらの塩類の他、ビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、マレイン酸等及びこれらの塩類を挙げることができる。これらのアニオン性単量体の中でも、カチオン性単量体との共重合性に優れて、高分子凝集剤として必要な高分子量化が容易であり、高分子凝集剤としての性能が優れることから、下記化学式(5):
CH2=CR1-CO-OM ・・・化(5)
(但し、化学式(5)において、R1は水素原子又はメチル基であり、Mは水素原子、アンモニウム基又はアルカリ金属原子を表す。)
で表される(メタ)アクリル酸及びそれらの塩類が好ましい。塩類としては、アンモニウム塩並びにナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。
【0070】
これらの(メタ)アクリル酸及びそれらの塩類の中でも、高分子凝集剤としての性能が特に優れることから、アクリル酸(AA)及びそのアンモニウム塩が最も好ましい。これらのアニオン性単量体は単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0071】
重合体ブロック(B)は、アニオン性単量体単位を0~50mol%で含むことが好ましく、0~40mol%で含むことがより好ましく、0~30mol%で含むことが特に好ましい。
【0072】
本発明の高分子凝集剤の25℃における0.5質量%(重合体換算)塩粘度は、3.0~200mPa・sであることが好ましく、5.0~90mPa・sであることがより好ましく、10~85mPa・sであることがさらに好ましい。3.0mPa・s未満であると、分子量が小さ過ぎるため、汚泥の凝集性が乏しい場合がある。200mPa・sを超える場合、分子量が大き過ぎるため、高分子凝集剤の溶解性が低下したり、汚泥の凝集性が悪化する場合がある。
【0073】
(3-2) 皮膚貼付剤用基剤
上記のようにして製造された高分子量水溶性ポリマーは、高分子凝集剤として用いることもできるが、皮膚貼付剤用基剤として用いることもできる。以下、高分子量水溶性ポリマーを皮膚貼付剤用基剤として用いる場合について説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施態様としての一例であり、これらの内容に限定されるものではない。
【0074】
本発明の高分子量水溶性ポリマーは、パップ剤等の皮膚貼付剤用の基剤として優れたものであり、当該基剤に対して、水、架橋剤としての多価金属化合物、さらには保水剤としての多価アルコールを配合し、混合してゲル状の膏体とすることができる。
なお、上記膏体には、上記成分以外にも、無機粉末等の添加物や、薬効成分を混合することが可能で、各成分が所定の配合比率となるように一括若しくは逐次添加・混合した後、混練して得られる。
【0075】
膏体を調製する際の配合比率としては、通常、膏体全量に対して、本発明の高分子量水溶性ポリマー(皮膚貼付剤用基剤)5~20質量%、グリセリン等の保水剤1~50質量%、水酸化アルミニウム等の多価金属化合物0.001~2質量%、カオリン等の無機添加物1~10質量%、薬効成分0.01~10質量%、水分30~80質量%である。
【0076】
本発明の高分子量水溶性ポリマー(皮膚貼付剤用基剤)が、膏体全量に対して5質量%未満では、粘着性、増粘性、賦形性が低下し、20質量%を超えると増粘し過ぎるため混練が難しくなり、均一な混練ができなくなる。したがって、通常、5~20質量%、好ましくは7~12質量%である。
【0077】
膏体の調製の際に用いられる多価金属化合物は、架橋剤として機能するものであり、具体的には、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム・マグネシウム、アルミニウムグリシネート等に代表されるアルミニウム化合物、塩化カルシウム、硫酸第二鉄等の、2価以上の価数を有する金属を含む化合物(多価金属化合物)等であれば特段の制限はないが、上記した多価金属の中では、アルミニウム化合物が好ましい。
これらの多価金属は、単独で用いても複数を組み合わせて用いてもよく、水溶性であっても疎水性であっても用いることが可能である。
【0078】
また、多価金属化合物の配合量は、共重合体の重合度及び配合量、多価金属化合物の種類や他の配合物等の影響によって異なるが、通常は、膏体全量に対して0.001~2質量%が好ましく、さらに好ましくは0.01~1質量%である。
【0079】
本発明の皮膚貼付剤用基剤や膏体を用いてパップ剤を調製する際、上記成分の他に外用剤に一般に用いられる添加物、すなわち、製造時の適性や使用時の品質をより改善させることを目的として、ゼラチン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム等の水溶性高分子を、増粘剤や粘着付与剤として配合してもよい。
【0080】
また、保水剤として、例えばグリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、ブチレングルコール等の多価アルコールを用いることができる。
さらに、カオリン、酸化チタン、無水ケイ酸等を粉末無機充填剤、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等を酸化防止剤、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル等を防腐剤等として用いることができ、必要により1種又は2種以上を膏体に配合することができる。
【0081】
皮膚貼付剤に配合される、その他の薬効成分の具体例としては、例えば、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、メントール、カンフル、チモール、ハッカ油、ボルオネール、グリチルリチン酸等の抗ヒスタミン剤、インドメタシン、フルルビプロフェン等の消炎鎮痛剤、塩酸ジブカイン、リドカイン等の局所麻酔薬等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、経皮吸収薬として臨床用又は研究用として用いることができる薬効成分を有する天然物や合成化学物質等であれば、特段の制限はない。
これらは必要により1種又は2種以上用いることができ、このような薬効成分の配合量は、通常、膏体全量に対して0.1~10質量%が好ましい。
【0082】
皮膚貼付剤は、以上のように調製したゲル状の膏体を、不織布等の支持体面に塗布延展した後、この塗布面を剥離性のフィルムで覆って保護したものを裁断、包装して完成される。
【0083】
(4) 高分子量水溶性ポリマーの製造方法
本発明の高分子量水溶性ポリマーは、上述の本発明のプレポリマーの存在下、重合体ブロック(B)を形成するための単量体を溶液中でラジカル重合することにより製造される。即ち、上述の本発明のプレポリマーをマクロ連鎖移動剤として用いて、重合体ブロック(B)を形成するための単量体成分をラジカル重合することにより製造される。
重合方法としては、活性エネルギー線の照射によって重合する方法、特に光重合であることが好ましい。
重合条件は従来公知の条件を採用すればよい。
以下、本発明の高分子量水溶性ポリマーの製造方法について具体的に説明する。
【0084】
本発明の高分子量水溶性ポリマーは、上述の本発明のプレポリマーの存在下、カチオン性単量体、アニオン性単量体、ノニオン性単量体及びその他の単量体を含む重合体ブロック(B)を形成するための単量体混合物をラジカル重合することにより製造される。
【0085】
先ず、カチオン性単量体、アニオン性単量体、ノニオン性単量体及びその他の単量体を含む単量体混合物の水溶液を調製する。
水溶液中における単量体の濃度は、20~70質量%であり、30~60質量%が好ましい。単量体の濃度が20質量%未満である場合は、重合の進行が遅くなり、結果的に製品中の残存モノマーが増加する。単量体の濃度が70質量%を超える場合は、重合が急速に進行するとともに、水の蒸発により発泡し、設備トラブルを引き起こす場合がある。
次に、本発明のプレポリマーを単量体水溶液に添加する。プレポリマーの添加量は、単量体水溶液中の単量体の合計質量に対して、10~100,000ppmであることが好ましく、100~10,000ppmであることがより好ましい。
【0086】
その後、窒素ガス等を用いて単量体水溶液中の溶存酸素を除去後、重合反応を開始させる。重合反応の開始は、上記方法で調製した単量体水溶液に重合開始剤を添加することにより行う。重合開始温度、即ち重合開始時における単量体水溶液の温度は-5~30℃が好ましい。単量体濃度が高い場合には重合開始温度は低めにし、単量体濃度が低い場合には重合開始温度は高めに設定する。重合開始剤としては、レドックス重合開始剤や光重合開始剤が好ましい。
【0087】
レドックス開始剤は、公知の酸化剤と還元剤とを組み合わせることにより調製できる。酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイドが例示される。還元剤としては、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミンが例示される。レドックス開始剤の添加量は、酸化剤、還元剤ともに単量体水溶液の質量に対して1~200ppmが好ましい。酸化剤、還元剤の各水溶液を重合開始の直前に単量体水溶液に加えることにより重合を開始させることができる。
【0088】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、アンスラキノン、アシルホスフィンオキサイド化合物、アゾ化合物が例示される。光重合開始剤の添加量は、単量体水溶液の質量に対して200~5000ppmが好ましい。光重合開始剤を単量体水溶液に加え、光重合開始剤の最大吸収波長の光を含む光を照射することにより重合を開始させることができる。光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯等が挙げられる。光照射重合に用いられる光の波長、照射強度、照射時間等の光照射条件は特に制限されない。使用する光重合開始剤の種類及び添加量並びに重合体の物性及び性能に応じて、適宜調整すればよい。光重合開始剤として、前記水溶性アゾ系開始剤を使用する場合、波長365nm付近の光が好ましく、照射強度は365nm用のUV照度計による0.1~10.0mW/cm2が好ましい。照射時間は、通常0.1~3時間が好ましい。
【0089】
単量体水溶液には、重合反応後半の高温時における重合を促進させる目的でアゾ系重合開始剤を添加しておいても良い。
【0090】
アゾ系重合開始剤としては、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシルエチル]-プロピオンアミド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]が例示される。これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0091】
アゾ系重合開始剤の添加量は、単量体水溶液の質量に対して合計で100ppm以上が好ましく、200~10000ppmが特に好ましい。アゾ系重合開始剤が水溶性である場合は、アゾ系重合開始剤を単量体水溶液に直接添加してもよいし、アゾ系重合開始剤を水溶液としてから添加してもよい。アゾ系重合開始剤が非水溶性である場合には、アゾ系重合開始剤を単量体水溶液に直接添加しても重合が開始し難い場合がある。この場合には、連鎖移動性が比較的小さく、かつ水に混合されやすいメタノール等の極性有機溶剤にアゾ系重合開始剤を溶解してから単量体水溶液に添加すればよい。
単量体水溶液には、前述の単量体、重合開始剤の他、必要に応じて連鎖移動剤、pH調整剤等を加えてもよい。
【0092】
重合反応は重合開始後30分~5時間で50~100℃の最高温度に達し、ほぼ完結する。重合反応によって得られる重合体を含む水溶液は、常温でゲル状である(以下、これを「重合体ゲル」ともいう)。
【0093】
重合反応は、適当な反応容器中で回分的に行うこともできるし、ベルトコンベア等のベルトの上に単量体水溶液を連続的に流し込み、連続的に重合反応を行うこともできる。
【0094】
上記重合反応によって得られる重合体ゲルは、残留しているアクリルアミド等の単量体の含有量の低減を目的として、熱処理を行ってもよい。熱処理は、反応容器内やベルトコンベア上で重合体ゲルを加熱することにより行う。又は、重合体ゲルを適当な大きさに切断してビニル袋等に密閉包装後、湯浴等の加熱浴中で加熱することにより行う。熱処理条件は70~100℃で、1~5時間が好ましい。
熱処理後の重合体ゲルを、公知の方法で乾燥及び粉砕することにより、粉末状の本高分子量水溶性ポリマーを得ることができる。
【実施例0095】
(プレポリマーの製造例)
以下、プレポリマーの製造例を具体的に説明する。本発明はこれらの製造例に限定されるものではない。各種の分析及び評価は以下の方法により実施した。
【0096】
〔重合体の分子量測定〕
得られた重合体について、以下に記載の条件にてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行い、ポリスチレン換算による数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を得た。また、得られた値から分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
(GPC測定条件)
カラム:東ソー(株)製 TSKgelSuperMultiporeHZ-M×4本
溶離液:THF
カラム温度:40℃
検出器:RI
流速:1.0mL/min
分子量算出法:pSt標準物質を用いて作成した検量線に基づき、pSt換算分子量を算出
【0097】
〔モノマー転化率〕
各製造例で上記GPC測定を開始剤添加前と反応停止後とで行い、単量体成分のピーク強度の比から、モノマー転化率を算出した。製造工程中で乾燥を行う場合は、その前段階でGPC測定を行い、モノマー転化率(%)を算出した。
【0098】
〔水溶液外観〕
各製造例で得られたプレポリマーについて、濃度10%、20%、50%の水溶液を作成し、目視で外観を確認し、以下の基準に従って評価した。
均一: いずれの濃度でも濁りを生じない。
濁り: いずれかの濃度で濁りを生じる。
【0099】
(製造例1)
攪拌機・温度計を備えた500mLフラスコに、交換連鎖移動機構型制御剤として2-{[(2-カルボキシエチル)スルファニルチオカルボニル]スルファニル}プロパン酸(Boron Molecular製「BM1429」)0.254g、単量体成分としてメトキシポリエチレングリコール(n≒9)モノアクリレート(日油製「ブレンマーAME-400」)100g、重合媒体としてイオン交換水65gを仕込み、窒素バブリングで十分脱気後に70℃に昇温した。ここで開始剤として4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸) (大塚化学製「ACVA」)0.014gを加え、重合を開始した。70℃を保ったまま5時間後に室温まで冷却し、反応を停止しプレポリマーPP1を得た。
得られたプレポリマーPP1は、Mn=63,500、 Mw=94,500、 Mw/Mn=1.49であった。また、モノマー転化率は95%であった。
【0100】
(製造例2~6、8、9)
交換連鎖移動機構型制御剤、及び単量体成分の種類・量を表1に記載するとおり変更した以外は、製造例1と同様にして各プレポリマーPP2~6、8、9を得た。
得られたプレポリマーのMn、Mw、Mw/Mn、及びモノマー転化率は表1に示した。
【0101】
(製造例7)
交換連鎖移動機構型制御剤、単量体成分、及び重合媒体の種類・量を表1に記載するとおり変更した以外は、製造例1と同様にしてプレポリマーのアセトニトリル溶液を得た。これに80℃の真空乾燥を3時間かけてアセトニトリルを除去した後、イオン交換水65gを加えて溶解し、プレポリマーPP7を得た。
【0102】
(製造例10)
攪拌機・温度計を備えた500mLフラスコに、交換連鎖移動機構型制御剤として2-{[(2-カルボキシエチル)スルファニルチオカルボニル]スルファニル}プロパン酸(Boron Molecular製「BM1429」)1.27g、単量体成分の1stモノマーとしてメトキシポリエチレングリコール(n≒9)モノアクリレート(日油製「ブレンマーAME-400」)80g、重合媒体としてイオン交換水65gを仕込み、窒素バブリングで十分脱気後に70℃に昇温した。ここで、開始剤として4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸) (大塚化学製「ACVA」)0.014gを加え、重合を開始した。70℃を保ったまま3時間後に、少量をサンプリングしてGPCを測定し、モノマー転化率が95%であることを確認した。
ここで、単量体成分の2ndモノマーとしてN-イソプロピルアクリルアミド20gを加え、そのままさらに3時間反応させた後、室温まで冷却して反応を停止しプレポリマーPP10を得た。
得られたプレポリマーPP10(ブロックポリマー)は、Mn=18,000、Mw=21,000、Mw/Mn=1.17であった。また、1stモノマーの転化率は98%、2ndモノマーの転化率は95%であった。
【0103】
(製造例11、12)
交換連鎖移動機構型制御剤、単量体成分、及び重合媒体の種類・量を表1に記載するとおり変更した以外は、製造例10と同様にして各プレポリマーのアセトニトリル溶液を得た。これに80℃の真空乾燥を3時間かけてアセトニトリルを除去した後、イオン交換水65gを加えて溶解し、各プレポリマーPP11、12(ブロックポリマー)を得た。
【0104】
(比較製造例1)
攪拌機・温度計を備えた500mLフラスコに、重合媒体としてアセトニトリル65gを仕込み、窒素バブリングで十分脱気後に70℃に昇温した。ここに単量体成分としてメトキシポリエチレングリコール(n≒9)モノアクリレート(日油製「ブレンマーAME-400」)100gと、重合制御剤として3-メルカプトプロピオン酸1.8gを、それぞれ2時間かけて滴下した。滴下開始後すぐに開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルバレロニトリル)(富士フィルム和光純薬製「V-65」)0.2gを加え、70℃を保ったまま6時間反応を継続した。ここで、少量をサンプリングしてGPCと酸価を測定した。その結果、Mn=5,600、Mw=10,200、Mw/Mn=1.82、モノマー転化率96%、酸価5.9mgKOH/g(有姿)であった。
その後、温度を75℃に上げ、禁止剤として4-メトキシフェノール0.01g、触媒としてテトラブチルアンモニウムブロミド1.0g、反応剤としてグリシジルメタクリレート(日油製「ブレンマーGH」)2.41gを加え、75℃を保ったまま8時間反応を継続した。ここで、少量をサンプリングして酸価を測定したところ、0.1mgKOH/g(有姿)であり、反応率は98%以上と判断して、室温まで冷却し、反応を停止した。
得られたプレポリマーのアセトニトリル溶液を80℃真空乾燥3時間でアセトニトリルを除去した後、イオン交換水65gを加えて溶解し、プレポリマーPP13(マクロモノマー)を得た。得られたプレポリマーPP13は、Mn=5,800、Mw=10,500、Mw/Mn=1.81であった。
【0105】
【0106】
(高分子量水溶性ポリマーの実施例A)
(1) 高分子量水溶性ポリマーの製造(カチオン系凝集剤)
以下、上記製造例で製造したプレポリマーを用いて製造する高分子量水溶性ポリマー(カチオン性凝集剤)についての実施例を具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各種の分析及び評価は以下の方法により実施した。
【0107】
〔泡立ち〕
後述の単量体調製用液に対して窒素バブリングを行う工程において、泡立ち具合を目視で観察し、以下の基準に基づいて判定した。
○: 泡立ちをほぼ生じない(バブリングの泡は速やかに消失する)。
△: やや泡が消えにくく、長時間のバブリング継続は困難。
×: 泡立ちが激しく、バブリングが困難(窒素シールに切り替えて工程を継続)。
【0108】
〔ゲル外観〕
重合後の含水ゲルの様子を目視で観察し、以下の基準に基づいて判定した。
○: 透明均一なゲルができている。
△: やや白濁したゲルができている。
×: ゲルが2層分離状態になっている(その後の評価継続できず)。
【0109】
〔0.5%塩粘度〕
500mLコニカルビーカーに純水500gを入れ、正確に秤量した試薬一級塩化ナトリウム粉末を20.8g投入して溶解し、マグネティックスターラーで攪拌しながら、溶解後の濃度が固形分換算で0.5質量%になる量を正確に秤量したカチオン性共重合体の粉末サンプルを加えて、200rpmで4時間攪拌後、十分に静置して溶解させて0.5質量%溶液を調製し、(株)東京計器製のBM型粘度計を用いて25℃、60rpm、5分後の条件で粘度を測定した。なお、目視で不溶解分が確認できるものについては正確な測定ができないため、×と評価した。
【0110】
〔0.1%不溶解分〕
500mLコニカルビーカーに純水400gを入れ、マグネティックスターラーで攪拌しながら、正確に秤量した各粉末サンプル0.4gを投入し、1時間攪拌後、十分に静置して溶解させて0.1%濃度のポリマー溶液を調製し、これを83メッシュの濾布で吸引濾過した後、濾布上の残分の質量を測定し、当該水溶液全量に対する当該残分の割合(質量%)を不溶解分の含有量として算出した。なお、溶解時点で目視で不溶解分が確認できるものについては、×と評価した。
【0111】
〔0.5%粘度安定性〕
前記の0.5%塩粘度の試料において、4%塩化ナトリウム水溶液を純水に変えた他は、同様にして0.5%水溶液を調製した。これを、500mLのガラス瓶に入れて密封し、80℃の恒温槽に入れて30日加熱・静置した。(株)東京計器製のBM型粘度計を用いて、加熱・静置前後における20℃、30rpmの粘度を測定し、以下の基準に基づいて粘度安定性を判断した。
○: 加熱・静置後の粘度が加熱・静置前の0.5%粘度の90%超である。
△: 加熱・静置後の粘度が加熱・静置前の0.5%粘度の80~90%の範囲にある。
×: 加熱・静置後の粘度が加熱・静置前の0.5%粘度の80%未満である。
【0112】
〔汚泥脱水試験〕
実施例の各粉末サンプルを用いて、汚泥の脱水試験を実施した。汚泥は、S下水処理場での有機汚泥を用いた。汚泥の物性値は、pH=5.40、TS=34,100(mg/L)、粗浮遊物(対SS当たり)=38.2%である。
【0113】
300mLビーカーに汚泥200mLを採取し、0.2質量%に溶解した各粉末サンプルを粉末として140ppmとなるように添加してジャーテスターにて30秒攪拌して凝集反応を実施した。
内径75mm、深さ100mm、目開き80meshのステンレス製篩に、凝集した汚泥を一気にそそぎ込み、重力ろ過し、メスシリンダーで5秒、10秒、20秒、30秒経過後のろ液の容量を計測して、10秒後ろ液量(mL)を比較評価した。
脱水ケーキの含水率は、脱水ケーキをラボ用の遠心分離機1000rpmで10分間かけて脱水し、110℃の乾燥機内で一昼夜乾燥後、含水率を測定した。なお、粉末サンプルの溶解時点で目視で不溶解分が確認できるものについては、試験を取りやめた。
【0114】
(実施例A1)
内面をテフロン(登録商標)でコーティングしたステンレスバットを反応容器に用いて、単量体成分として78質量%ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル水溶液、及び50質量%アクリルアミド水溶液を加え、さらにイオン交換水を加えて単量体濃度が58質量%、全量を1.0kgにして均一に混合した。ここに、プレポリマーPP1を単量体成分の合計量に対して5000ppmとなるように加え、さらに塩酸を用いて溶液をpH=4に調整し、これを単量体調製用液とした。これを温度5℃に保持しながら、窒素バブリングにて溶存酸素を除去した。
その後、窒素気流下で、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(富士フィルム和光純薬製「V-50」)を単量体成分の合計量に対して200ppm投入し、重合溶液とした。
次に光透過性材料として厚さ5mmのホウ珪酸ガラス(コーニング社製、商品名:パイレックス(登録商標))を介して、ピーク波長352nmである300~450nmを放射する(株)東芝製ブラックライト蛍光ランプを使用して、ウシオ電機(株)製UVメーター UIT-150(UVD-S365)で0.40mW/cm2となるように設置し、上記重合溶液に露光による重合を開始した。
露光開始後、15分間光照射した後、0.65mW/cm2となるようにランプ条件を切り替えて、15分間光照射を継続し、次いで2.0mW/cm2となるようにランプ条件を切り替えて、30分間光照射を継続して含水ゲル状物を得た。
含水ゲル状物を細断した後、乾燥、粉砕し、高分子量水溶性ポリマーの粉末サンプルA1を得た。
粉末サンプルA1の物性について、前記分析・評価方法に則って評価した。結果は表2に示した。
【0115】
(実施例A2~A14、比較例AC1~AC6)
プレポリマーの種類・量、その他成分の種類・量を表2に記載の通りに変更した以外は、実施例A1と同様にして高分子量水溶性ポリマーの各粉末サンプルA2~A14、AC1~AC6を製造し、評価を行った。結果は表2に示した。
【0116】
【0117】
【0118】
比較例AC1~AC5は、プレポリマーを使用しなかったため、水への溶解性が著しく劣るか、0.5%塩粘度が高くなった。比較例AC6は、プレポリマーを使用したものの、末端に交換連鎖移動機構型制御剤由来の構造を有していないプレポリマーであったため、水への溶解性が著しく劣った。これに対して、実施例A1~A14は、末端に交換連鎖移動機構型制御剤由来の構造を有しているプレポリマーをマクロ連鎖移動剤として使用して高分子量水溶性ポリマーを製造したため、高分子凝集剤として優れた特性を示した。
【0119】
(高分子量水溶性ポリマーの実施例B)
(2) 高分子量水溶性ポリマーの製造(アニオン系ゲル化剤)
以下、上記製造例で製造したプレポリマーを用いて製造する高分子量水溶性ポリマー(アニオン系ゲル化剤)についての実施例を具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各種の分析及び評価は以下の方法により実施した。
【0120】
〔泡立ち〕
後述の単量体調製用液に対して窒素バブリングを行う工程において、泡立ち具合を目視で観察し、以下の基準に基づいて判定した。
○: 泡立ちをほぼ生じない(バブリングの泡は速やかに消失する)。
△: やや泡が消えにくく、長時間のバブリング継続は困難。
×: 泡立ちが激しく、バブリングが困難(窒素シールに切り替えて工程を継続)。
【0121】
〔ゲル外観〕
重合後の含水ゲルの様子を目視で観察し、以下の基準に基づいて判定した。
○: 透明均一なゲルができている。
△: やや白濁したゲルができている。
×: ゲルが2層分離状態になっている(その後の評価継続できず)。
【0122】
〔0.2%粘度〕
500mLコニカルビーカーに純水400gを入れ、マグネティックスターラーで攪拌しながら、正確に秤量した各粉末サンプル0.8gを投入し、1時間攪拌後、十分に静置して溶解させて0.2%濃度のポリマー水溶液を調製し、(株)東京計器製のBM型粘度計を用いて20℃、30rpmの条件で粘度を測定した。
【0123】
〔0.2%不溶解分〕
前記の0.2%粘度の測定と同様に調製した0.2%濃度のポリマー水溶液を、140メッシュの濾布で吸引濾過した後、濾布上の残分の質量を測定し、当該水溶液全量に対する当該残分の割合(質量%)を不溶解分の含有量として算出した。
【0124】
〔0.2%粘度安定性〕
前記の0.2%粘度の測定と同様に0.2%の水溶液を調製した。これを、500mLのガラス瓶に入れて密封し、80℃の恒温槽に入れて30日加熱・静置した。(株)東京計器製のBM型粘度計を用いて、加熱・静置前後における20℃、30rpmの粘度を測定し、以下の基準に基づいて粘度安定性を判断した。
○: 加熱・静置後の粘度が加熱・静置前の0.2%粘度の90%超である。
△: 加熱・静置後の粘度が加熱・静置前の0.2%粘度の80~90%の範囲にある。
×: 加熱・静置後の粘度が加熱・静置前の0.2%粘度の80%未満である。
【0125】
(実施例B1)
内面をテフロン(登録商標)でコーティングしたステンレスバットを反応容器に用いて、単量体濃度が36質量%、全量が1160g、アクリル酸とアクリル酸ナトリウムとの組成がそれぞれ51モル%、49モル%となるように、アクリル酸水溶液、アクリル酸ナトリウム水溶液及びイオン交換水を仕込んだ。ここに、プレポリマーPP2を単量体成分の合計量に対して5000ppmとなるように加えて、単量体調製用液とした。これを温度8℃に保持しながら、窒素バブリングにて溶存酸素を除去した。
その後、窒素気流下で、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(富士フィルム和光純薬製「V-50」)を単量体成分の合計量に対して1000ppm投入し、重合溶液とした。
次に光透過性材料として厚さ5mmのホウ珪酸ガラス(コーニング社製、商品名:パイレックス(登録商標))を介して、ピーク波長352nmである300~450nmを放射する(株)東芝製ブラックライト蛍光ランプを使用して、ウシオ電機(株)製UVメーター UIT-150(UVD-S365)で0.40mW/cm2となるように設置し、上記重合溶液に露光による重合を開始した。
露光開始後、15分間光照射した後、0.65mW/cm2となるようにランプ条件を切り替えて、15分間光照射を継続し、次いで2.0mW/cm2となるようにランプ条件を切り替えて、30分間光照射を継続して含水ゲル状物を得た。
含水ゲル状物を細断した後、乾燥、粉砕し、目的の高分子量水溶性ポリマーの粉末サンプルB1を得た。
製造の各工程、粉末サンプルB1の物性について、前記分析・評価方法に則って評価した。結果は表3に示した。
【0126】
(実施例B2~B9、比較例BC1~BC4)
プレポリマーの種類、その他成分の種類・量を実施例Bの表3に記載する通りに変更した以外は、実施例B1と同様にして高分子量水溶性ポリマーの粉末サンプルB2~B9、BC1~BC4を製造し、評価を行った。結果は表3に示した。
【0127】
【0128】
比較例BC1~BC3は、プレポリマーを使用しなかったため、水への溶解性が著しく劣るか、0.2%粘度が高く、且つ粘度安定性も低くなった。比較例BC4は、プレポリマーを使用したものの、末端に交換連鎖移動機構型制御剤由来の構造を有していないプレポリマーであったため、水への溶解性が著しく劣った。これに対して、実施例B1~B9は、末端に交換連鎖移動機構型制御剤由来の構造を有しているプレポリマーをマクロ連鎖移動剤として使用して高分子量水溶性ポリマーを製造したため、高分子凝集剤として優れた特性を示した。
本発明のプレポリマーを中間原料として用いることにより、従来製造されていた高分子量水溶性ポリマーに任意の特性を付与することが可能となる。そのため、高分子凝集剤のみならず、接着剤、塗料、工業用ゴム、コーティング剤等の幅広い用途において利用することができる。