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特開2024-159354伸縮性面ファスナー、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159354
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】伸縮性面ファスナー、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A44B 18/00 20060101AFI20241031BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20241031BHJP
   D03D 27/06 20060101ALI20241031BHJP
   D03D 15/56 20210101ALI20241031BHJP
   D03D 15/587 20210101ALI20241031BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20241031BHJP
【FI】
A44B18/00
D03D1/00 Z
D03D27/06
D03D15/56
D03D15/587
D03D15/283
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075329
(22)【出願日】2023-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】591168932
【氏名又は名称】株式会社SHINDO
(74)【代理人】
【識別番号】110003203
【氏名又は名称】弁理士法人大手門国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正明
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 学
【テーマコード(参考)】
3B100
4L048
【Fターム(参考)】
3B100DA01
3B100DB01
3B100DB05
3B100DB07
3B100DB08
4L048AA20
4L048AA24
4L048AA26
4L048AA34
4L048AA51
4L048AB07
4L048AB11
4L048AB21
4L048AC12
4L048AC18
4L048BA24
4L048CA00
4L048CA01
4L048DA01
4L048DA24
4L048EA00
4L048EB05
(57)【要約】
【課題】本発明は、面ファスナーの繰り返しの脱着でパイル経糸が基布から移動することを抑制して耐久性を改善し、しかも柔軟性と伸縮性を有する面ファスナーを提供することにある。
【解決手段】地経糸の一部に弾性糸を使用すると共に、この弾性糸にパイル経糸がジグザグ状に絡んだ絡み組織で織り込まれた非ループ部と、複数本の緯糸を飛ばして織り込まれた長浮き部によるループを経糸方向に交互に形成して伸縮性面ファスナーを構成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地経糸、パイル経糸、および緯糸から成る面ファスナーにおいて、地経糸の一部に弾性糸が使用されると共に、前記パイル経糸が織り込まれた部位において、前記弾性糸にパイル経糸がジグザグ状に絡んだ絡み組織で織り込まれた非ループ部と、織物表面に、複数本の緯糸を飛ばして織り込まれた長浮き部によるループが経糸方向に交互に形成されている、伸縮性面ファスナー。
【請求項2】
前記非ループ部において、絡み組織による弾性糸とパイル経糸の交差点数が3つ以上連続している、請求項1記載の伸縮性面ファスナー。
【請求項3】
前記パイル経糸が緯糸方向に所定間隔を空けて織り込まれると共に、隣り合うパイル経糸の非ループ部とループ部が経糸方向に位置をズラして配置されている、請求項1または2に記載の伸縮性面ファスナー。
【請求項4】
前記非ループ部と長浮き部のループによるパイル形成領域が所定の織物長さ毎に部分的に設けられている、請求項1または2に記載の伸縮性面ファスナー。
【請求項5】
前記緯糸の少なくとも一部に熱融着糸が添えられ、この熱融着糸が熱溶融して前記パイル経糸と緯糸、および前記弾性糸と緯糸の交点がそれぞれ接着されている、請求項1または2に記載の伸縮性面ファスナー。
【請求項6】
前記弾性糸が熱融着性ポリウレタン繊維糸である、請求項1または2に記載の伸縮性面ファスナー。
【請求項7】
経糸を、複数本の地経糸、パイル経糸および所定倍率で延伸された弾性糸の順で繰り返して所定の織幅に配列する一方、前記地経糸に緯糸を非絡み組織の織組織で織り込むと共に、前記パイル経糸および弾性糸に緯糸を絡み組織で織り込んで形成される非ループ部と、前記パイル経糸を複数本の緯糸を飛ばして織り込んで形成される長浮き部と、を交互に形成し、機卸し後に、前記弾性糸の伸びが復元力によって縮むことで前記パイル経糸の長浮き部がループとなる、伸縮性面ファスナーの製造方法。
【請求項8】
前記非ループ部において、絡み組織による弾性糸とパイル経糸を交差点数が3つ以上連続するように織り込む、請求項7記載の伸縮性面ファスナーの製造方法。
【請求項9】
前記パイル経糸を緯糸方向に所定間隔を空けて織り込むと共に、隣り合うパイル経糸の非ループ部とループ部を経糸方向に位置をズラして配置する、請求項7または8に記載の伸縮性面ファスナーの製造方法。
【請求項10】
前記非ループ部と長浮き部のループによるパイル形成領域を所定の織物長さ毎に設けて製織する、請求項7または8に記載の伸縮性面ファスナーの製造方法。
【請求項11】
前記緯糸の少なくとも一部に熱融着糸を引き揃えて供給し、製織後に熱融着糸に熱照射を行って、前記パイル経糸と緯糸、および前記弾性糸と緯糸の交点をそれぞれ接着する、請求項7または8に記載の伸縮性面ファスナーの製造方法。
【請求項12】
前記弾性糸の経糸に融点が130~200℃の熱融着性ポリウレタン繊維糸を配列し、少なくともパイル経糸との接触部を熱融着させる、請求項7または8に記載の伸縮性面ファスナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基布表面にパイル係合素子を形成した雌型面ファスナーが雄型材との繰り返し受ける脱着で基布からパイル経糸がずれ動くことない耐久性と、伸縮性、柔軟性を兼ね備えた伸縮性面ファスナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、雌型面ファスナーは合成繊維糸の編織物から成る基布表面に複数のループ状パイルを形成させ、フック部を有する雄型材と脱着を繰り返すもので、脱着の繰り返しによりパイル経糸がずれ動いて結合力が弱まるという現象が生じ易いため、例えば、特許文献1では、緯糸に芯鞘の熱融着複合糸を用い、ループ状係合素子が地経糸2~6本および地緯糸2~6本跨いで形成し、ループが斜め向きに形成させることで十分な係合強力を得るという面ファスナーが提案されている。
【0003】
しかしながら、ループ状係合素子のフィラメント糸における非ループ部は地経糸に添って織られ、主に融着性複合糸による表面接着で保持しているだけであり、また、着脱時にループが引っ張られると、接着部には緯糸方向にも応力が働くために着脱の繰り返しにより剥がれて保持力が低下する懸念がある。
【0004】
また、緯糸に芯鞘の熱融着複合糸を用いているために、織物が硬くなり、特に織物裏面に熱溶融したポリマーが多く表れて肌触りが悪くなり、肌に直接接触するような用途に不向きである。
【0005】
また、特許文献2では、経編地をベースにして1/1トリコット編のシンカーループをパイルにした面ファスナー雌材が提案されており、同技術は編物であるから柔軟性に富み、肌に触れても違和感を伴わないので衣服などに容易に採用することが出来る。
【0006】
しかしながら、雄材との繰り返しの着脱によりパイルが引っ張られると、パイルの両起点であるニードルループの変形によりパイル側に編糸が移動してパイル経糸が引き伸ばされるために結合力が低下する問題がある。
【0007】
また、面ファスナーを伸縮バンド等に利用する場合、伸縮バンドの端部に数センチ長さにカットされた面ファスナーを縫いつけるのが一般的であるが、縫製に手間がかかる点と、伸縮バンドの表側に縫い目が表れ、外観を悪化させるのが問題であった。
【0008】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015-062601号公報
【特許文献2】特開2005-118360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来の面ファスナーに上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、雄材との繰り返しの脱着でパイル経糸が基布から移動することを抑制して耐久性を改善し、しかも柔軟性と伸縮性を有する面ファスナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が上記技術的課題を解決するために採用した手段を、添付図面を参照して説明すれば、次のとおりである。
【0012】
即ち、本発明は、地経糸、パイル経糸、および緯糸から成る面ファスナーにおいて、地経糸の一部に弾性糸を使用すると共に、前記パイル経糸が織り込まれた部位において、前記弾性糸にパイル経糸がジグザグ状に絡んだ絡み組織で織り込まれた非ループ部と、複数本の緯糸を飛ばして織り込まれた長浮き部によるループを経糸方向に交互に形成することで伸縮性面ファスナー雌材を完成させた。
【0013】
また上記非ループ部においては、上記パイル経糸の保持力を十分に確保するために絡み組織による弾性糸とパイル経糸の交差点数を3つ以上連続して形成するのが好ましい。
【0014】
また本発明では、雄型ファスナーのフックと係合し易くなるように上記パイル経糸を緯糸方向に所定間隔を空けて織り込むと共に、隣り合うパイル経糸の非ループ部とループ部を経糸方向に位置をズラして配置するのが好ましい。
【0015】
また本発明においては、上記非ループ部と長浮き部のループによるパイル形成領域を所定の織物長さ毎に部分的に設けることもでき、これにより端部にパイル係合素子を有する締め付けバンド等を構成できる。
【0016】
また本発明では、上記伸縮性面ファスナーの耐久性を高めるために、上記緯糸の少なくとも一部に熱融着糸を添え、この熱融着糸を熱溶融させて上記パイル経糸と緯糸、および前記弾性糸と緯糸の交点をそれぞれ接着するのが好ましい。
【0017】
また上記パイル経糸と緯糸、および前記弾性糸と緯糸の交点を接着する弾性糸としては、熱融着性ポリウレタン繊維糸を好適に使用できる。
【0018】
また本発明では、上記伸縮性面ファスナーの効率的な製造方法として、経糸を、複数本の地経糸、パイル経糸および所定倍率で延伸された弾性糸の順で繰り返して所定の織幅に配列する一方、前記地経糸に緯糸を非絡み組織の織組織で織り込むと共に、前記パイル経糸および弾性糸に緯糸を絡み組織で織り込んで形成される非ループ部と、前記パイル経糸を複数本の緯糸を飛ばして織り込んで形成される長浮き部と、を交互に形成し、機卸し後に、前記弾性糸の伸びが復元力によって縮むことで前記パイル経糸の長浮き部がループとなる方法を採用できる。
【0019】
また上記製造方法では、非ループ部において、絡み組織による弾性糸とパイル経糸を交差点数が3つ以上連続するように織り込むのが好ましい。
【0020】
更に上記製造方法では、上記パイル経糸を緯糸方向に所定間隔を空けて織り込むと共に、隣り合うパイル経糸の非ループ部とループ部を経糸方向に位置をズラして配置するのが好ましい。
【0021】
また上記製造方法では、非ループ部と長浮き部のループによるパイル形成領域を所定の織物長さ毎に設けて製織することもできる。
【0022】
更に上記製造方法においては、緯糸の少なくとも一部に熱融着糸を引き揃えて供給し、製織後に熱融着糸に熱照射を行って、前記パイル経糸と緯糸、および前記弾性糸と緯糸の交点をそれぞれ接着するのが好ましい。
【0023】
更にまた、上記製造方法においては、弾性糸の経糸に融点が130~200℃の熱融着性ポリウレタン繊維糸を配列し、少なくともパイル経糸との接触部を熱融着させる方法を好適に採用できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の伸縮性面ファスナー雌材にあっては、パイル経糸は並行する弾性糸に対してジグザグ状に絡んだ絡み組織により強固に基布と一体化されているので、パイル経糸が基布からの引き抜けを抑止され、繰り返しのファスナー脱着に対する高い耐久性を発揮することの出来る。
【0025】
また、上記弾性糸はパイル経糸と絡み組織で織り込まれているので、製品カットしても弾性糸のスリップイン現象を防げ、伸縮性とループ形態を保持することが出来る。
【0026】
また、上記弾性糸は経糸方向に配列して織り込まれ、長さ方向に対する伸縮性に富んでいるため、本発明の伸縮性面ファスナー雌材はリストバンド等のような締め付けバンドとして適し、別途パイル係合素子片を縫い付ける必要がなく、そのまま利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態である伸縮性面ファスナー雌材の織物構造図である。
図2】本発明の実施形態の絡み組織を表す織物構造図である。
図3】絡み組織の変更例を表す織物構造図である。
図4】絡み組織の変更例を表す織物構造図である。
図5】本発明の伸縮性面ファスナー雌材の一例を表わす斜視図である。
図6】本発明の比較例を表わす織物構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するための形態を、図1から図6に基づいて具体的に説明すると、次の通りである。
【0029】
(面ファスナー雌材の基本構成について)
図1(a)(b)は本発明の伸縮性面ファスナー雌材1の織物構造を示し、経糸として並行する2本の地経糸3群の間にパイル経糸5(5a、5b)と弾性糸4(4a、4b)が並行して配列され、パイル経糸5と弾性糸4が絡み組織により緯糸2を介して絡み合った絡み織部10bと、パイル経糸5が織組織を構成しない長浮き部10aとが、パイル経糸5が織り込まれた部位において経糸方向に交互に形成され、隣り合うパイル経糸5と弾性糸4の組における絡み織部10bと長浮き部10aの配置が千鳥配置された本実施形態の織物構造図である。
【0030】
(絡み組織について)
本実施形態の絡み織組織は、弾性糸4を直進化させた図2に示すように緯糸2に対して弾性糸4,とパイル経糸5が絡み合った絡み組織であり、経糸(弾性糸4およびパイル経糸5)と緯糸2が強固に絡み合っているため目ずれし難く、また、経糸(弾性糸4およびパイル経糸5)および緯糸2が互いの交錯部で締め付け合い、目ずれし難い特徴を有する。またこのような絡み織組織は、補強繊維糸を経糸と緯糸に使用して細い繊維糸を絡み糸としたメッシュ布帛が工業基布としても多用されている。
【0031】
上記絡み織組織は、経糸(弾性糸4およびパイル経糸5)と緯糸の剛性と織密度によって交錯点でのそれぞれの糸の屈曲度が異なり、本発明では伸縮性とパイル(ループ)を得るために経糸に弾性糸を用いることが前提であるが、弾性糸単独では剛性が低いために弾性糸の方が大きく屈曲し、剛性の高いパイル経糸が直進化する傾向にあるので、弾性糸としてはベアの弾性糸を芯にしてその上から合成繊維糸を巻き付けたカバーリン加工糸にして剛性をアップし、パイル経糸の経糸も十分に屈曲させることが好ましい。
【0032】
ループの前後にパイル経糸5と弾性糸4の絡み部を1つ設けただけではパイル経糸5を十分に保持するのは難しく、少なくとも絡みを3つ以上連続させることが好ましい。具体的には、絡み組織による弾性糸とパイル経糸の交差点数を3つ以上連続して形成するのが好ましい。一方、交差点数を多くし過ぎると長浮き部によって生じるループの密度が少なくなり、雄型ファスナーのフックとの係合が低下するために絡み部を連続する数としては7つ以下であることが好ましい。
【0033】
(絡み組織の変更例について)
上記絡み組織は本実施形態のものに限定されず、例えば、図3(a)(b)に示すようにパイル経糸5を弾性糸4の上下を通る2本の緯糸2に絡ませながら弾性糸4に絡ませてもよく、また図4(a)(b)に示すようにパイル経糸5を弾性糸4の上または下を通る2本の引き揃えの緯糸2を絡ませながら弾性糸4に絡ませてもよい。
【0034】
(非ループとループの配置について)
また図1(a)に示すように、上記緯糸方向に所定間隔を空けて織り込まれ、並行して配列されたパイル経糸5と弾性糸4の絡み組織によって形成された非ループ(絡み織部10b)と、長浮きによって形成されたループ(長浮き部10a)の配置について、隣り合うパイル経糸5と弾性糸4の組による絡み組織の非ループ(絡み織部10b)と長浮きによるループ(長浮き部10a)の配置を緯糸方向に揃えても問題ないが、それぞれを千鳥配置にした方が、ファスナー面にループが万遍なく配置されて雄型ファスナーのフックと係合し易くなり、また、外観も優れるので千鳥配置であることが好ましい。これにより織物面に対して均一にループが設けることが出来、雄型面ファスナーのフックと確実に係合させることが出来る。また千鳥配置でなくとも隣り合うパイル経糸の非ループ部とループ部を経糸方向に位置をズラして配置すれば同様の効果が得られる。
【0035】
(面ファスナー雌材の伸縮性について)
織物表面にパイル形成させた面ファスナーは、通常、必要長さにカットして対象物に貼り付けて使用されるケースが多いが、本発明の伸縮性面ファスナー雌材1は、弾性糸の伸長回復力を利用してパイルとなるループを形成させ、織物表面にパイル状の係合素子を有し、伸縮性を有した帯状織物であるから、リストバンド等、締め付けバンドにそのまま利用できる。
【0036】
パイル形成原理は、パイル経糸5と所定の倍率で延伸された弾性糸4の経糸を絡み組織の複数個の絡み部を連続して織り込まれた非ループ部(絡み織部10b)と、複数本の緯糸2を飛ばした長浮き部10aを交互に織り込み、織機から機卸後に、弾性糸4の復元力により織物が長さ方向に収縮すると同時に前記長浮き部10aのパイル経糸5が織物表面に浮き上ることによって、パイルとなるループを形成させることが出来る。
【0037】
ループの大きさは、長浮き部10aの長さと、織糸の太さ、織糸の交錯の仕方、製織織密度、そして弾性糸4の供給時の延伸倍率等の製織条件による織物の最大収縮量で決まり、係合性に適したループの大きさを得るために適宜製織条件を決めれば良い。
【0038】
弾性糸4としては、ポリウレタン弾性糸、ポリエーテル・エステル弾性糸、あるいは天然ゴム、合成ゴム、半合成ゴム等を使用することができ、なかでも伸縮性、耐久性に優れるポリウレタン弾性糸が好ましい。
【0039】
また、弾性糸4を経糸に使用し、その回復力で織物が収縮可能な織密度等を織設計することで伸縮性が得られるが、伸縮性面ファスナー、あるいは締め付けバンドとしては伸縮に対する最適な復元力、すなわちパワーが必要で、そのために繊度が40~50,000dteex、より好ましくは200~4,000dtexの弾性糸4が、織物重量対する混率で10~60%、より好ましくは20~40%の範囲で、延伸倍率が2倍以上の状態で製織することが好ましい。
【0040】
本発明の伸縮性面ファスナー雌材1の最大伸びは、織物を機卸した際に収縮する量であり、また、その収縮量はパイル経糸5のループの大きさに比例し、雄型ファスナーのフックと確実に係合させるための必要なループの大きさから、少なくとも伸度は30%程度以上必要で、伸度が150%以上と大きい場合は織物構造がルーズとなり、織物の形態安定性も考慮に入れると、本発明の伸縮性面ファスナー雌材1の伸度は50~100%の範囲が好ましい。
【0041】
(パイル経糸について)
パイル経糸5は、繰り返されるファスナーの脱着時の雄型ファスナーのフックで扱かれるために引っ張り強度や耐摩耗性が要求され、単糸繊度が8~40dtexの太繊度から成る200~400dtexのフィラメント糸が好ましく、更には仮撚り加工糸であると個々の単糸が分散状態でループを形成するので、雄型ファスナーのフックに引っ掛かる確率をアップさせ、確実な係合が出来るので好ましい。
【0042】
また、パイル経糸5の素材としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維など使用することができ、なかでも市場で多く使用され、高強度、耐摩耗性に優れたポリエステル繊維またはナイロン繊維であることが好ましい。
【0043】
(熱融着糸の使用について)
本発明の面ファスナー1は、パイル経糸5を弾性糸4と絡めているので、パイル経糸5は確実に保持され、特に接着剤などで固定しなくても良いが、より耐久性を高めるという点から、緯糸2aの少なくとも一部に熱融着糸を添えて、製織後に熱融着糸を熱溶融させてパイル経糸5と緯糸2、および弾性糸4と緯糸2の交点をそれぞれ接着させることも出来る。
【0044】
熱融着糸としては、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の低融点熱可塑性ポリマーから成り、繊度が30~300dtexのマルチフィラメント糸を使用することが出来、なかでも、世の中で広く使われており、また、十分な接着効果も得られることから融点が90~180℃のナイロン共重合繊維糸を使用することが好ましい。
【0045】
細繊度糸の熱融着糸を緯糸2に引き揃えて使用することで、熱融着糸は織物への熱照射によって熱収縮しながら溶融切断し、織糸交点に丸まった状態で集合して交点を接着させるので織物の柔軟性が保たれ、また、熱照射面は熱融着糸のポリマーが殆ど現れないから肌身が接触しても違和感を受けない。
【0046】
また、高融点ポリマーを芯にし、低融点ポリマーが鞘にした熱融複合糸を緯糸2にした場合、織物自体が硬くなり、伸縮性もやや阻害される可能性もあるが、肌身に直接接触しない用途等に向けられる可能性があり、前記複合糸を全緯糸2に、もしくは部分的に使用することも出来る。
【0047】
近年、弾性糸4として熱融着性ポリウレタン繊維糸が市場に出回っており、同弾性糸を本発明の伸縮性ファスナー1の弾性糸4として使用することが出来、そうすることにより、互いに絡み合った弾性糸4とパイル経糸5が一層強固に接着されるため、伸縮性の確保の点で好ましい。
【0048】
(地経糸および緯糸について)
また地経糸3としては、通常織物等に使用されている素材、すなわちポリエステル繊維糸、ナイロン繊維糸、アクリル繊維糸、ビニロン繊維糸等の合成繊維糸や、綿、麻、絹などの天然繊維糸などが使え、中でも衣料用として広く使用されている糸繊度が50~400dtexのポリエステル繊維糸の仮撚り加工糸であると、柔軟性を有し、高次加工性も優れているので、好ましい繊維糸である。
【0049】
また、使用する緯糸2の糸種については、地経糸3と同様に、通常衣料などに使用されている繊維種が使用出来、そして、繊度としては織物厚さを出来る限り薄くするため、また、弾性糸4の復元力による伸縮可能範囲を確保するために比較的細繊度糸が好ましく、繊度は40~400dtexのポリエステル繊維糸の仮撚り加工糸が好ましい。
【0050】
(その他、織物組織について)
本発明の伸縮性面ファスナー1は、経糸の地経糸3、弾性糸4、パイル経糸5の3者と緯糸2から成り、複数本の地経糸3と、弾性糸4、パイル経糸5の絡み組織の組が交互に配列し、緯糸2と織物組織をなしている。緯糸2と地経糸3の織物組織としては、非絡み組織であれば特に限定されず、平織や綾織、朱子織、変化組織など採用できる。
【0051】
弾性糸4とパイル経糸5を含む経糸の配列密度は、使用する糸の太さに関係するが、本発明の伸縮性面ファスナー1において、経糸が粗密度であると、織幅が縮まり易く、緯糸2aのクリンプが大きくなり、絡み組織の弾性糸4とパイル経糸5が直線化するために弾性糸4とパイル経糸5の絡み度が低下するので、上述した糸繊度範囲内において20~150本/cmの高密度であることが好ましい範囲であり、緯糸2に関しては、経糸密度が比較的高密度であれば粗密度であっても問題ないが、好ましい範囲としては30~70本/cmが好ましい。
【0052】
(パイル部を部分的に設けた形態について)
図5は、非ループ部(絡み織部10b)と長浮き部10aのループによるパイル形成領域10Aが所定の織物長さ毎に設けられている一実施例を示すもので、長尺織物12の長さ方向の一部に非ループ部(絡み織部10b)と長浮き部10aのループによるパイル形成領域Aとパイル形成しない領域Bを交互に設け、端部にパイル形成領域Aが配置されるようにカットすることで、端部にパイル係合素子を有した締め付けバンド等が別途ファスナーを縫いつける手間を掛けることなく、そのまま利用することが出来る。
【0053】
(製造方法について)
上記伸縮性面ファスナー雌材1の製造方法に関しては、テープ織機を用い、経糸として複数本の地経糸3とパイル経糸5および所定の倍率で延伸されて弾性糸4を繰り返して所定の織幅となるように配列し地経糸3は緯糸2と通常の組織で織り込むと同時に、パイル経糸5は弾性糸4の経糸に対して絡み組織でジグザグに絡める絡み組織による非ループ部(絡み織部10b)と、複数本の緯糸を飛ばした長浮き部10aとを交互に織り込み、機卸し後に、前記パイル経糸5の長浮き部が弾性糸4の復元力によって雄ファスナーのフックと係合するループを形成させた伸縮性面ファスナー1を得ることが出来る。これにより伸縮性面ファスナー雌材1を効率的に製造できる。
【0054】
上記製造方法において、前記非ループ部(絡み織部10b)が絡み組織で形成ずる弾性糸4とパイル経糸5が交差点数で3~7つ連続して織り込み、隣り合うパイル経糸の非ループ部(絡み織部10b)を千鳥配置(または非ループ部とループ部を経糸方向に位置をズラして配置)する技術的手段を用いることが出来、また、前記非ループ部(絡み織部10b)と長浮き部10aのループによるパイル形成領域Aを所定長さ毎に設けて製織することにより、締め付けバンド等において、端部に係合素子を有したバンドが縫製取り付け加工など必要とせず簡単に得ることが出来る。
【0055】
また、緯糸2に熱融着糸を引き揃えて緯挿入し、あるいは弾性糸4に熱融着性ポリウレタン弾性糸を用い、製織後に織物加熱ヒータ等で熱照射を行い、熱融着糸による織糸交点の接着、あるいは熱融着性ポリウレタンとパイル経糸5を接着させる工程を含むことで、パイル経糸5と織物基布と一層強固に保持させることが出来る。
【実施例0056】
〔実施例1〕
細幅織機を用い、表1に示す糸使いおよび配列密度で、図1(a)(b)に示す織物組織で、幅25mmの本発明の伸縮性面ファスナー1を製織した。
【表1】
【0057】
得られた伸縮性面ファスナー雌材1は、面ファスナー雄材との繰り返し脱着によるパイル経糸5の引き抜けが無く、パイル経糸は基布と強固に固定されていた。
〔比較例1〕
【0058】
実施例1と同じ糸使い、織物密度で、弾性糸4とパイル経糸5が絡み組織でない図6に示す組織で製織した。
【0059】
得られた伸縮性面ファスナー雌材1は、面ファスナー雄材との繰り返し脱着によりパイル経糸5が容易に引き抜け、ファスナーの耐久性としては不十分であった。
【0060】
(パイル引き抜け強さの評価)
実施例1と比較例1で得られた伸縮性面ファスナー雌材について、JIS L 3416の耐久性試験機により耐久性処理を1000回、2000回施した後のパイル面の外観を評価した結果は表2の通りある。耐久性処理1000回後、2000回後ともに実施例1の伸縮性面ファスナー雌材の方がパイル引き抜けが少なかった。
【表2】
【符号の説明】
【0061】
1:伸縮性面ファスナー雌材
2:緯糸
3:地経糸
4,4a、4b:弾性糸(経糸)
5,5a、5b:パイル経糸(経糸)
10a:長浮き部
10b:絡み織部
11:パイル形成部
12:基布部
図1
図2
図3
図4
図5
図6