(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015936
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】電子機器の液浸冷却方法および液浸冷却装置
(51)【国際特許分類】
H05K 7/20 20060101AFI20240130BHJP
【FI】
H05K7/20 Q
H05K7/20 N
H05K7/20 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022127448
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】519006506
【氏名又は名称】Solution Creators株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川端 康晴
【テーマコード(参考)】
5E322
【Fターム(参考)】
5E322AA01
5E322AA09
5E322DB01
5E322DB06
5E322DB08
5E322FA01
(57)【要約】
【課題】 外気や再生可能エネルギー熱を利用して、簡易かつ効率よく電子機器を液浸冷却する方法と、本技術を適用した電子機器等の液浸冷却装置を提供する。
【解決手段】 天面および底面に開口部を有し、電子機器を冷却する液体冷媒を貯留させた断熱性の液体冷媒貯留槽を、前記の液体冷媒の温度が前記貯留槽の底面部において最も低くなるように、外気か水中または地中に放熱冷却させながら液体冷媒を流下させた上で電子機器に直接還流供給させる放熱冷却流路を形成させ、電子機器の発熱による液体冷媒の温度上昇と、外気放熱や再生可能エネルギー熱を利用した液体冷媒の温度低下による自然対流を促進させた循環冷却によって、電子機器を液浸冷却する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天面および底面の一部または全部に開口部を有し、電子機器を内装するとともに、前記の電子機器を冷却する液体冷媒を貯留させた断熱性の液体冷媒貯留槽を、前記貯留槽の外周部の少なくとも一部において、前記の液体冷媒が前記貯留槽の底面にむけて流下する際に、前記の液体冷媒の温度が前記貯留槽の底面部において最も低くなるように放熱冷却させる放熱冷却手段を具備させた、液体冷媒の放熱冷却流路を形成させる液体冷媒外槽内に収納することで、電子機器の発熱によって昇温した液体冷媒が、前記の放熱冷却流路を流下しながら降温し、前記外槽の底面部から前記貯留槽の底面開口部から流入させることで、液体冷媒の自然対流による循環によって電子機器の液浸冷却を促進させることを特徴とする、電子機器の液浸冷却方法
【請求項2】
請求項1に記載の放熱冷却手段が、前記液体冷媒の放熱冷却流路が形成される外槽の外側壁面に具備された放熱板であることを特徴とする、電子機器の液浸冷却方法
【請求項3】
請求項1に記載の放熱冷却手段が、前記液体冷媒の放熱冷却流路内で液体冷媒から吸熱し、外気、水中または地中のいずれか一つ以上において吸熱した熱を放熱するヒートパイプであることを特徴とする、電子機器の液浸冷却方法
【請求項4】
請求項1に記載の放熱冷却手段に加え、さらに前記液体冷媒の放熱冷却流路が形成される外槽の天面外側壁面に放熱板を具備させて、前記液体冷媒の放熱冷却または凝縮液化を促進させることを特徴とする、電子機器の液浸冷却方法
【請求項5】
請求項1に記載の放熱冷却手段に加え、さらに前記液体冷媒の放熱冷却流路が形成される外槽の天面外側空間内に、前記液体冷媒の放熱冷却流路内で液体冷媒から吸熱し、外気、水中または地中のいずれか一つ以上において吸熱した熱を放熱するヒートパイプを具備させて、前記液体冷媒の放熱冷却または凝縮液化を促進させることを特徴とする、電子機器の液浸冷却方法
【請求項6】
請求項2~請求項5に記載された放熱板またはヒートパイプの放熱部の少なくとも一部が、前記外槽の周囲雰囲気中に露出されているか、水中に露出されているか、または地中に埋設されていることを特徴とする、電子機器の液浸冷却方法
【請求項7】
請求項2~請求項5に記載された放熱板またはヒートパイプの放熱部の少なくとも一部が、再生可能エネルギーによって得られた電力または冷熱によって吸熱冷却されることを特徴とする、電子機器の液浸冷却方法
【請求項8】
請求項2~請求項5に記載された放熱板またはヒートパイプの放熱部の一部または全部と、請求項1に記載された液体冷媒貯留槽の一部または全部を、太陽光発電パネルか太陽熱集熱器または貯水槽の下部か水中または地中に配置させて、液体冷媒貯留槽への直射日光照射による液体冷媒の温度上昇を抑制させることを特徴とする、電子機器の液浸冷却方法
【請求項9】
請求項1~請求項8に記載されたいずれか一つの方法によって、液体冷媒を用いて電子機器の液浸冷却を行うことを特徴とする、電子機器の液浸冷却装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器を筐体内に収容して稼働させるデータセンターやエッジ・サーバの冷却方法のうち、空気などの気体よりも熱伝達性能が優れた、合成油やフッ化炭素系冷媒に代表される液体冷媒を用いて電子機器を冷却する液浸冷却の方法と、本方法を適用した液浸冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
社会のデジタル化が進展するなか、様々な分野の情報がデジタル化されて演算処理され、これに伴って世界各地でデータセンターが整備・運用されて普及拡大が続いている。一方、データセンターは常時多量のデータ処理を行う際に、サーバの稼働と冷却に多量の電力を消費し、この電力消費に伴って多量の二酸化炭素が排出されることから、データセンターの冷房エネルギー削減や、再生可能エネルギーの利用によるグリーン化が求められている。
【0003】
また、5G通信網等の普及に伴い、データが多量発生する場所や近隣で発生データを高速演算処理し、処理データや出力データを高速返信することでデータの地産地消を実現する、エッジ・コンピューティングの普及が期待されており、各地に再生可能エネルギーの電力や熱を活用して稼働するエッジ・サーバを分散設置させることで、再生可能エネルギーの地産地消によってデータの地産地消を可能とする、グリーン・エッジ・コンピューティングの普及拡大を実現できる。
【0004】
このようなグリーン・エッジ・コンピューティングの具体例としては、風の強い海岸地域や洋上に風力発電所を設置し、その近傍にサーバと情報通信設備を併設させる形態や、中山間地の急流河川に流れ込み式の水力発電所を設置してサーバと情報通信設備を併設させる形態のほか、地熱地帯や温泉地域に地熱発電設備や温泉熱バイナリー発電設備と、温泉熱駆動によって冷熱変換供給を行う吸収式または吸着式冷凍機を併設し、これらから得られるグリーン電力とグリーン冷熱でサーバと情報通信設備を稼働させる形態等が考えられる。
【0005】
ただし、前記形態のオンサイト型データセンターやエッジ・サーバの冷却を考える場合、設置場所の周囲環境や季節によって、サーバを構成する電子機器の性能低下や故障を誘発し、耐久性を低下させて劣化を加速させるリスクがある。
【0006】
すなわち、海岸や洋上で外気を取り込んでサーバや情報通信機器の冷却を行う場合には、外気中の塩分や過度な水分がサーバや通信機器の構成部品を劣化させる恐れがあり、河川近傍で外気を取り込む場合には外気中の水分による結露ショートのリスクがあるほか、地熱地帯や温泉地域で外気を取り込む場合には、硫化水素に代表される地熱由来のガス成分が、サーバや通信機器の構成部品を劣化させるリスクがある。
【0007】
また、いずれの設置場所においても、春季や秋季の日中や夏季といった、外気温が高い時間帯では、外気を利用して電子機器を充分に冷却することが難しく、多大なエネルギーを消費する大規模な換気設備や冷房設備を稼働させて、電子機器を常時安定的に冷却できなければ、電子機器が高温により性能低下や故障を発生し、劣化するリスクがある。
【0008】
こうした課題に対し、空気などの気体よりも熱伝達性能が優れる合成油やフッ化炭素系冷媒に代表される液体冷媒を用いて電子機器を冷却する、液浸冷却の技術が開発されつつあり、この技術はデータセンターやエッジ・サーバの周囲外気を取り込んで電子機器を冷却せず、液体の冷媒を介して吸熱や冷却を行うことから、外気に含まれる化学物質や粉塵、過大な水分等の影響を受けることなく、効率よく電子機器を冷却することが可能となる。
【0009】
この液浸冷却技術については、高密度に実装された液浸冷却対応型の電子機器を効率よく冷却する技術(特許文献1)をはじめ、液浸冷却装置に用いられる冷媒の量を削減する技術(特許文献2)のほか、低沸点のフッ素系絶縁冷媒と、この冷媒を用いて沸騰冷却によって効率よく電子機器を冷却する技術(特許文献3)や、沸騰冷却装置において凝縮部内のよどみを解消して凝縮性能を向上させる技術(特許文献4)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第6644908号公報
【特許文献2】特開2020-136335号公報
【特許文献3】特願2022-30744号公報
【特許文献4】特願2010-16049号公報
【0011】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記の特許文献に示された従来技術によれば、発熱量の多い高性能電子機器が高密度に実装された、スーパーコンピュータのようなデータ処理サーバであっても、合成油等を利用した単相式の液浸冷却か、低沸点冷媒を利用した沸騰冷却式の二相冷却のいずれかの液浸冷却技術によって、効率よく電子機器を冷却することが可能となるが、これら技術には以下に示す5つの課題がある。
【0013】
まず特許文献1~3に示された従来技術では、いずれも電子機器からの発熱を吸熱冷却して高温化した冷媒を冷却して還流させる際に、冷却水など別の冷媒をポンプで循環冷却させる外部冷却装置や、ドライクーラなど外気への強制放熱を行うファンを具備した冷媒冷却のための附帯装置が必要となっており、こうした附帯装置によってシステム全体が大型化して初期投資コストが嵩むほか、運用時にポンプやファンを稼働させるための電力消費により運用コストが嵩むとともに、稼働のための供給電力が火力発電である場合には、電力消費に伴って二酸化炭素の排出量が増加するという課題がある。
【0014】
また、ポンプやファンの稼働電力を電力系統から受電する場合には、自然災害等によって電力系統が長期停電し、非常用発電による電力供給が燃料供給の途絶等によって継続不能となる場合や、エッジ・サーバに併設された蓄電設備の放電限界によって電力供給が断絶する場合には、液浸冷却装置を稼働させて電子機器を冷却できないことから、長期停電時には稼働を継続できなくなるという課題がある。
【0015】
さらに、液浸冷却用の冷媒と冷却水等を熱交換器を介して冷却する際に、この熱交換器がスケール付着して熱交換性能が低下した場合には、前記附帯設備の消費電力が増加することになるほか、腐食劣化等によって貫通した場合には、異種冷媒が混合して液浸冷却システム全体に不具合が発生するリスクがあり、さらに液浸冷却冷媒と冷却水等の冷媒冷却用媒体を循環させるポンプやファンの何れかが故障した場合には、冷却システム全体が故障停止し、電子機器の稼働を継続できなくなるという課題がある。
【0016】
また、特許文献4に示された従来技術のうち、冷却水等による冷媒凝縮冷却を行わず、液体冷媒収容部の外側の壁面に複数のフィンを有する熱交換器を設置して冷媒の凝縮液化を行う方法では、前記の外部冷却水循環供給に係わる課題が解決されるものの、発熱体周囲に配置された沸騰蒸気の誘導パイプが断熱材で構成されておらず、凝縮液化した低温冷媒が、液体冷媒収容部の液面近傍に流下した後に、液体冷媒槽の中で徐々に発熱体底面側の誘導パイプ流入口に到達する構成となっていることから、外側壁面の熱交換器を介して低温化された冷媒が、直接発熱体近傍の誘導パイプ流入口に供給されていないために、液体冷媒の対流による循環冷却が促進されておらず、冷却効率が低下するという課題がある。
【0017】
さらに本技術が、落雷リスクのある屋外設置型のデータセンターやエッジ・サーバに適用されることを考えた場合、落雷時の高圧電流が液体冷媒収容部の外側壁面に突出設置されている熱交換フィンを直撃することが想定されるが、この場合に熱交換器や液体冷媒収容部にアース接地がなされていないため、落雷時の高圧電流が液体冷媒収容部内に伝播して液体冷媒を絶縁破壊し、冷媒中の電子機器を破損するリスクが高まるというも課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、外気や再生可能エネルギーを利用して、落雷時の電子機器破損リスクを低減させながら、簡易かつ効率よく電子機器を液浸冷却する方法と、本技術を適用した電子機器等の液浸冷却装置を提供することである。
【0019】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
天面および底面の一部または全部に開口部を有し、電子機器を内装するとともに、前記の電子機器を冷却する液体冷媒を貯留させた断熱性の液体冷媒貯留槽を、前記貯留槽の外周部の少なくとも一部において、前記の液体冷媒が前記貯留槽の底面にむけて流下する際に、前記の液体冷媒の温度が前記貯留槽の底面部において最も低くなるように放熱冷却させる放熱冷却手段を具備させた、液体冷媒の放熱冷却流路を形成させる液体冷媒外槽内に収納することで、電子機器の発熱によって昇温した液体冷媒が、前記の放熱冷却流路を流下しながら降温し、前記外槽の底面部から前記貯留槽の底面開口部から流入させることで、液体冷媒の自然対流による循環によって電子機器の液浸冷却を促進させることを特徴とする。
【0020】
請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の放熱冷却手段が、前記液体冷媒の放熱冷却流路が形成される外槽の外側壁面に具備された放熱板であることを特徴とする。
【0021】
請求項3に記載の発明は、
請求項1に記載の放熱冷却手段が、前記液体冷媒の放熱冷却流路内で液体冷媒から吸熱し、外気、水中または地中のいずれか一つ以上において吸熱した熱を放熱するヒートパイプであることを特徴とする。
【0022】
請求項4に記載の発明は、
請求項1に記載の放熱冷却手段に加え、さらに前記液体冷媒の放熱冷却流路が形成される外槽の天面外側壁面に放熱板を具備させて、前記液体冷媒の放熱冷却または凝縮液化を促進させることを特徴とする。
【0023】
請求項5に記載の発明は、
請求項1に記載の放熱冷却手段に加え、さらに前記液体冷媒の放熱冷却流路が形成される外槽の天面外側空間内に、前記液体冷媒の放熱冷却流路内で液体冷媒から吸熱し、外気、水中または地中のいずれか一つ以上において吸熱した熱を放熱するヒートパイプを具備させて、前記液体冷媒の放熱冷却または凝縮液化を促進させることを特徴とする。
【0024】
請求項6に記載の発明は、
請求項2~請求項5に記載された放熱板またはヒートパイプの放熱部の少なくとも一部が、前記外槽の周囲雰囲気中に露出されているか、水中に露出されているか、または地中に埋設されていることを特徴とする。
【0025】
請求項7に記載の発明は、
請求項2~請求項5に記載された放熱板またはヒートパイプの放熱部の少なくとも一部が、再生可能エネルギーによって得られた電力または冷熱によって吸熱冷却されることを特徴とする。
【0026】
請求項8に記載の発明は、
請求項2~請求項5に記載された放熱板またはヒートパイプの放熱部の一部または全部と、請求項1に記載された液体冷媒貯留槽の一部または全部を、太陽光発電パネルか太陽熱集熱器または貯水槽の下部か水中または地中に配置させて、液体冷媒貯留槽への直射日光照射による液体冷媒の温度上昇を抑制させることを特徴とする。
【0027】
請求項9に記載の発明は、
請求項1~請求項8に記載されたいずれか一つの方法によって、液体冷媒を用いて電子機器の液浸冷却を行う、電子機器の液浸冷却装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、電子機器を効率よく冷却できる液浸冷却において、液体冷媒を冷却するための冷媒冷却装置を不要化または小型・簡素化して初期投資コストを低減できるほか、液体冷媒の冷却に係わるポンプやファンの稼働電力を大幅に削減し、この電力消費に伴うコストや二酸化炭素の排出量を削減することが可能となる。
【0029】
また、外気や再生可能エネルギー熱を利用した液体冷媒の冷却による、自然対流型の冷媒循環冷却によって、ポンプやファンの減少または小型化や、これら機器の稼働時間を大幅に削減することができることから、電力系統の停電が長期継続しても、再生可能エネルギーを利用した自立的な液体冷媒の循環冷却によって、液浸冷却の長期稼働が可能となり、電力の余力を電子機器の稼働に充当することで、電子機器システムの稼働長期化も可能となる。
【0030】
さらに、液浸冷却冷媒と冷却水等の冷媒冷却用媒体を循環させるポンプやファンの何れか一方が故障した場合に、冷却システム全体が故障停止して電子機器を稼働継続できなくなるリスクと、液浸冷却冷媒と冷却水等の異種冷媒が混合して液浸冷却システム全体に不具合が発生するリスクの両方を低減させることが可能となる。
【0031】
また、電子機器の液浸冷却において、外気や再生可能エネルギー熱の利用によって低温化された液体冷媒を、電子機器が収納された液体冷媒貯留槽の底面部から効率よく供給して、液体冷媒の自然対流を促進させた循環冷却を実現することで、冷却効率の高い液浸冷却が可能となるほか、落雷時における電子機器の破損リスクを低減することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に係る第1実施形態である、沸騰冷却用の低沸点冷媒を用いた液浸冷却装置の断面図である。
【
図2】本発明に係る第2実施形態である、単相液浸冷却用の合成油冷媒を用いた液浸冷却装置の断面図である。
【
図3】本発明に係る第3実施形態である、沸騰冷却用の低沸点冷媒を用いた液浸冷却装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、本発明の範囲は特許請求の範囲記載のものであって、本実施形態に限定されるものではない。
【0034】
(第1実施形態)
【0035】
まず本発明の第1実施形態に係る、沸騰冷却用の低沸点冷媒を用いた液浸冷却装置について、
図1に基づいて説明する。
【0036】
図1に示すように、この液浸冷却装置1は、通電時に発熱する各種電子機器を沸騰冷却によって効率よく冷却できる、低沸点の絶縁性液浸冷却用の液体冷媒2が貯留された断熱性の液体冷媒貯留内槽3と、この液体冷媒貯留内槽の断熱壁の外側に沿って、凝縮液化した液体冷媒が前記の貯留内槽内の電子機器の発熱や、貯留槽内で高温気化した冷媒から受熱されることなく外気に放熱を行い、冷却されながら流下する液体冷媒の放熱冷却流路4を形成しつつ、流下した液体冷媒を密封貯留させながら、液体冷媒貯留内槽3の底面開口部5から流入させる、液体冷媒貯留外槽6から構成されている。
【0037】
ここで、前記の液体冷媒貯留外槽6の放熱冷却流路4の外側壁には、これらの流路の鉛直下向き中央付近から液体冷媒貯留外槽6の底部にむかって、複数の高熱伝導性放熱フィン7が、前記外槽の底部にむけて放熱面積が拡大していくよう固定されており、凝縮液化した液体冷媒が放熱冷却流路4を流下する過程で外気に放熱させて温度を低下させ、密度を上昇させて流下を促進させながら、さらに外気へ放熱して冷却し、前記外槽の底部で最も温度が低下して密度も最大となった状態で、底面開口部5から冷却を必要とする電子機器が内装された、液体冷媒貯留内槽3に流入されるように構成されている。
【0038】
また、前記外槽6の天面には、その天面を覆って密封固定しながら蒸発した液体冷媒の凝縮液化を行うための複数の高熱伝導性の放熱フィン8が固定された密封固定蓋9が前記外槽6の外壁と密封固定され、この固定蓋9の天面には、電子機器に電力供給を行うための電源ケーブルの接続口10と、データ通信を行うアンテナ11も密封固定されている。
【0039】
なお、前記の固定蓋9は、蓋の内面壁が前記の放熱冷却流路4の外側壁の面と一致するように封止固定されるとともに、蓋の内部には断熱性の凝縮冷媒流下板12が固定されており、この冷媒流下板の蓋底面側の冷媒流下面が、放熱冷却流路4の内側壁と同一面を形成して接続されるようになっている一方、蓋の天面側には開口部が構成されており、液体冷媒貯留内槽3から発生した冷媒蒸気が開口部から固定蓋の内壁に沿って流入し、凝縮液化されて流下する際に、凝縮冷媒流下板12の下部に充満している冷媒蒸気から受熱して昇温されることなく、液体で放熱冷却流路4に流下する、凝縮冷却流路13を構成している。
【0040】
このような構成とすることで、液体冷媒貯留内槽3に内装された電子機器が稼働し、貯留槽内槽の液体冷媒が沸騰気化して冷媒蒸気となって上昇した際に、固定蓋内に形成された凝縮冷却流路13を通過する過程で、放熱フィン8を介して冷媒蒸気が放熱冷却されて凝縮液化し、凝縮冷却流路13内を流下して放熱冷却流路4に流れ、放熱冷却流路4を流下する過程で、放熱フィン7を介してさらに液体冷媒が放熱冷却されて低温化し、密度上昇に伴って冷媒貯留外槽6の底部にむかって流下し、最も放熱冷却されて低温となった状態で、冷媒貯留内槽の底面開口部5から貯留内槽3に流入する、液体冷媒の循環流が形成される。
【0041】
すなわち、この液体冷媒の循環流は、電子機器の稼働に伴う発熱と、液浸冷却装置1の周囲外気との温度差を駆動源として、液体冷媒を沸騰冷却過程で蒸発気化させることで上昇流を生じさせた後に、冷媒蒸気を外気放熱によって凝縮液化させ、さらに凝縮液化された液体冷媒を外気放熱によって低温高密度化させる下降流を生じさせた後に還流させる、自然対流を利用した自立循環流としており、これによって液体冷媒単体で、ポンプなどの冷媒循環動力を不要化しながら冷媒循環を促進させることで、効率の良い液浸冷却を可能としているものである。
【0042】
なお、前記の放熱フィン7は、底面部で延伸されて地中に埋設されているが、これは液体貯留槽外槽6の底部における液体冷媒の放熱冷却を最大化させるよう、地中にも伝熱放熱させていることに加え、液浸冷却装置1に漏電発生や落雷を受けた際に、電流を速やかに装置外に放電させるアースの機能も兼ね備えるよう構成させている。このようにすることで、装置を用いて外気への放熱を促進できる屋外に設置する場合に発生する、落雷破損のリスクを大幅に軽減することが可能となる。
【0043】
また本実施形態では、放熱冷却流路4を流下する液体冷媒の別の冷却方法として、太陽光発電システム14によって得られる再生可能エネルギー電力を、蓄電システム15を介して冷水チラー循環装置16と、冷水循環ポンプ17に供給できるようにすることで、春季や秋季の日中や夏季など、外気温が高く放熱フィン7での放熱冷却だけでは液体冷媒を充分に冷却できない際に、再生可能エネルギー電力による冷水の循環供給による熱交換を通じて液体冷媒を強制冷却することで、外気の高温時も含めて自立的に稼働継続できる構成としている。
【0044】
なお、前記の太陽光発電システムを構成する太陽光発電パネルは、蓄電システムや冷水チラー循環装置と液浸冷却装置1の全体が直射日光を受けて温度上昇しないよう、これらの装置が太陽光発電パネルの背面に配置させることが望ましい。
【0045】
以上のような構成とすることにより、液浸冷却において液体冷媒を循環冷却させるための附帯設備を含む液浸冷却装置を小型簡素化できるほか、附帯設備の稼働に係わる電力消費を削減し、さらに附帯設備構成機器の故障による装置の停止リスクと、停電の発生や長期継続および落雷に伴う装置の停止リスクを大幅に低減することが可能となる。
(第2実施形態)
【0046】
次に、本発明の第2実施形態に係る、単相液浸冷却用の合成油冷媒を用いた液浸冷却装置について、
図2に基づいて説明する。
【0047】
図2に示すように、第2実施形態の装置では、液浸冷却を行う絶縁性合成油の液体冷媒18が、電子機器の冷却時に温度上昇して密度が低下し、液体冷媒貯留内槽3の内部で上昇した際に、内槽3を構成する一部の壁面19が液面より下側に切り欠き加工され、温度上昇した液体冷媒を放熱冷却流路4に流下させるとともに、流路内を流下した液体冷媒の吸熱冷却を促進するヒートパイプ20が、放熱冷却流路4に内装されている点が異なっている。
【0048】
ここで前記のヒートパイプ20は、液体冷媒の温度が最も低くなるよう、吸熱冷却部21が、液体冷媒の放熱冷却流路4の下部に配置されるとともに、液体冷媒から吸熱した熱を放熱させる放熱部22が、液浸冷却装置1の上部に設置された雨水タンク23の貯留雨水内に配置され、これらの間は断熱性の減圧ヒートパイプ管24で接続されているとともに、前記雨水タンクの壁面にアース棒25が接地接続されている点も異なっている。
【0049】
このような構成とすることで、液体冷媒が沸騰しない単相冷却型の液体冷媒を利用した液浸冷却であっても、温度上昇した液体冷媒の熱を、放熱が容易となる熱伝達率の高い水中に放熱させながら、液体冷媒の循環流による液浸冷却を行うことが可能となる。
(第3実施形態)
【0050】
次に、本発明の第3実施形態に係る、沸騰冷却用の低沸点冷媒を用いた液浸冷却装置について、
図3に基づいて説明する。
【0051】
図3に示すように、第3実施形態の装置では、液浸冷却を行う低沸点液体冷媒2の蒸気を凝縮冷却させる際に、液体冷媒貯留槽の天面を覆い、密封固定しながら蒸発した液体冷媒の凝縮液化を行うための複数の冷媒蒸気凝縮液化ヒートパイプ26が配置されるとともに、前記ヒートパイプの吸熱冷却部27の下方に、凝縮液化した液体冷媒が放熱冷却流路4に流入するよう、断熱性の凝縮冷媒流下板28が固定されている点が異なっている。
【0052】
また第3実施形態の装置では、装置が用水路29の底面に据付られ、装置の下部を用水路内で浸水させることで、液体冷媒が放熱冷却流路4を流下する過程で放熱冷却を行う際に、流路外側壁から外気への放熱に加えて、用水路内を流れる低温水による浸水冷却によって液体冷媒を冷却させているとともに、落雷時も高圧電流が装置の金属筐体表面を介して速やかに用水路内に伝播させることで、装置内の電子機器が保護される点が異なっている。
【0053】
このような構成とすることで、液体冷媒の凝縮液化や冷却が困難な温暖地域や夏季の高温外気温が継続するような時期であっても、液体冷媒を効率よく冷却しながら液浸冷却を行うことが可能となるほか、落雷時も装置内の電子機器を保護することが可能となる。
【0054】
なお、本装置は他の実施例と同様に、液体冷媒貯留槽の天面を密封固定する密封固定蓋によって装置全体の気密を保つとともに、密封固定蓋を介して気密を維持しながら電力供給とアンテナ露出を維持することで、豪雨や台風等によって用水路や装置設置場所が浸水し、浸水時の水面が密封固定蓋の天面よりも上方となって装置全体が完全水没した場合でも、電子機器の液浸冷却を維持しながら電子機器を継続稼働させることで、デジタルデータの演算処理と送受信を継続して実施できるように構成することが望ましい。
【0055】
以上のような構成とすることで、外気を利用した電子機器のガス冷却よりも冷却効率の高い液浸冷却において、冷媒液体を冷却するための冷却水供給や循環冷却水による冷媒冷却装置といった附帯設備を小型・簡素化することで、狭小地であっても効率の高い液浸冷却式の高性能サーバを高密度実装させたデータセンターやエッジ・サーバを分散設置して稼働させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
なお本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、例えば図示した実施形態は、データセンターやエッジ・サーバの冷却用途に限らず、発熱物の恒温保管における温度管理等の用途に適用しても良い。
【0057】
また、本発明における放熱フィンやヒートパイプを介した液体冷媒の放熱や吸熱または冷却に利用する冷媒としては、装置周囲の外気に限定せず、装置筐体への降雨や降雪、貯留雨水や雪蔵保管された雪氷の供給利用をはじめ、地下水や河川・湖沼の淡水や海水のほか、地下10m以深では季節によらず10~20℃に維持されている地中熱や、太陽熱や地熱・温泉熱およびバイオマス燃焼熱によって駆動される、吸収式または吸着式冷凍機から冷熱変換によって得られる冷却水を利用しても良い。
【0058】
このように前記の実施形態は例示であり、本発明の特許請求範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0059】
1・・・・液浸冷却装置
2・・・・液浸冷却用の液体冷媒
3・・・・液体冷媒貯留内槽
4・・・・液体冷媒の放熱冷却流路
5・・・・液体冷媒貯留内槽の底面開口部
6・・・・液体冷媒貯留外槽
7・・・・液体冷媒の冷却用放熱フィン
8・・・・液体冷媒蒸気の凝縮液化用放熱フィン
9・・・・密封固定蓋
10・・・電子機器給電用電源ケーブル
11・・・データ通信用アンテナ
12・・・凝縮冷媒流下板
13・・・凝縮冷媒液の流下流路
14・・・太陽光発電システム
15・・・蓄電システム
16・・・冷水チラー循環装置
17・・・冷水循環ポンプ
18・・・液浸冷却用の絶縁性合成油冷媒
19・・・液体冷媒貯留内槽の切り欠き加工面
20・・・ヒートパイプ
21・・・ヒートパイプの吸熱冷却部
22・・・ヒートパイプの放熱部
23・・・雨水タンク
24・・・ヒートパイプ管
25・・・アース棒
26・・・冷媒蒸気凝縮液化促進用ヒートパイプ
27・・・冷媒蒸気凝縮液化促進用ヒートパイプの吸熱冷却部
28・・・凝縮冷媒流下板
29・・・用水路