(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159388
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ウィープホール並びにこれを備えた土留め構造物及び地下構造物
(51)【国際特許分類】
E03B 11/00 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
E03B11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119227
(22)【出願日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2023072530
(32)【優先日】2023-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】丹沢 昭義
(72)【発明者】
【氏名】下坂 賢二
(72)【発明者】
【氏名】松木 聖磨
(57)【要約】
【課題】ウィープホールを通じた空気の流れを遮断することによって、中空管内を減圧又は加圧する機器の稼働効率の低下を抑止するとともに、通水量の低下を抑える。
【解決手段】本発明に係るウィープホール20は、取水口21から吐水口22に向けた水の流れのみを許容し逆方向への水の流れを禁じる主逆止弁23を備えるとともに、その上流側に、通水中はウキ25の浮力により流路を開放し、前記主逆止弁23の閉鎖時には、取水口21から吐水口22に向けた空気の流れが生じないように流路を閉鎖する前記ウキ25が付加された開閉式のウキ付逆止弁24を備える。地下構造物1の内部空間5から地盤への水の流れを許容するため、中空管11の内部空間5側の管壁部分に水の流入孔13が形成されるとともに、中空管11の地盤側の管壁部分に水の流出孔14が形成されており、前記流入孔13及び流出孔14にそれぞれ、前記ウィープホール20が備えられている。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
取水口から吐水口に向けた水の流れのみを許容し逆方向への水の流れを禁じる主逆止弁を備えるとともに、その上流側に、通水中はウキの浮力により流路を開放し、前記主逆止弁の閉鎖時には、取水口から吐水口に向けた空気の流れが生じないように流路を閉鎖する前記ウキが付加された開閉式のウキ付逆止弁を備えることを特徴とするウィープホール。
【請求項2】
前記ウキ付逆止弁の上流側に、前記ウキの浮力により開いた状態の前記ウキ付逆止弁の前記ウキに直接水流が作用しないように流れを調整する整流板が設けられている請求項1記載のウィープホール。
【請求項3】
前記ウキ付逆止弁と前記整流板との間に、前記ウキ付逆止弁が前記ウキの浮力によって浮いた状態で、前記整流板に当接しないような離隔距離が設けられている請求項2記載のウィープホール。
【請求項4】
取水口と吐水口のいずれか一方又は両方にフィルタが設けられている請求項1記載のウィープホール。
【請求項5】
前記主逆止弁は、吐水口側に揺動するスイング式の逆止弁であり、前記ウキ付逆止弁は、取水口側に揺動するスイング式の逆止弁である請求項1記載のウィープホール。
【請求項6】
地盤中に中空管が水平方向に隣接して設置された土留め構造物であって、
前記水平方向に隣接する中空管の間隙部分に止水を図るための固化材が充填され、
前記中空管の管壁部分に、水の流入孔のみを形成するパターン、水の流出孔のみを形成するパターン及び水の流入孔と流出孔とを形成するパターンのいずれかのパターンによって通水孔が形成され、
前記通水孔にそれぞれ、上記請求項1~5いずれかに記載のウィープホールが備えられていることを特徴とする土留め構造物。
【請求項7】
前記中空管内を負圧にする真空ポンプ、前記中空管内を加圧する加圧ポンプのいずれか一方又は両方が備えられている請求項6記載の土留め構造物。
【請求項8】
地盤中に中空管が水平方向に隣接して設置された土留め構造物を平面視で閉合形状で設置することにより側壁が構築され、前記側壁によって囲まれた内部に少なくとも前記下床版を構築することによって面的地下空間が形成された地下構造物であって、
前記水平方向に隣接する中空管の間隙部分に止水を図るための固化材が充填され、
前記中空管の管壁部分に、水の流入孔のみを形成するパターン、水の流出孔のみを形成するパターン及び水の流入孔と流出孔とを形成するパターンのいずれかのパターンによって通水孔が形成され、
前記通水孔にそれぞれ、上記請求項1~5いずれかに記載のウィープホールが備えられていることを特徴とする地下構造物。
【請求項9】
前記中空管内を負圧にする真空ポンプ、前記中空管内を加圧する加圧ポンプのいずれか一方又は両方が備えられている請求項8記載の地下構造物。
【請求項10】
前記側壁の上側に、前記側壁によって囲まれた内部を封鎖する上床版を備える請求項8記載の地下構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定の方向のみの水流を許容し逆方向への水流を禁じた逆流防止機能が備えられたウィープホール並びにこれを備えた土留め構造物及び地下構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の都市化や宅地開発に伴い、雨水が地下に浸透しきれずに流出する問題が増加している。この対策の一環として、地下に雨水を一時的に貯留する大容量の地下構造物を構築し、この地下構造物に貯めた雨水を地盤に涵養する(地下水として戻す)ことが行われている。
【0003】
従来、このような大容量の地下構造物は、上床版、下床版及び側壁をそれぞれ場所打ちコンクリートによって構築するのが一般的であったが、場所打ちコンクリート工法の場合は、工数が余計に掛かるとともに、工期が長期化するなどの問題が発生していた。
【0004】
そのため、近年は工事の省力化を図るために、プレキャストコンクリート又はPC壁体により躯体を構築する工法が多く採用されている。
【0005】
本出願人においても、下記特許文献1、2において、構築方法の省力化及び工費の削減を図るとともに、貯留空間の有効利用を図るための地下構造物を提案した。具体的には、
図16及び
図17に示されるように、地盤に中空円管50を水平方向に隣接して打設することによって形成した側壁51と、上床版52及び下床版53とによって雨水貯留空間54が形成されており、前記雨水貯留空間54に対応する管壁部分に、管内への流入のみを許容するウィープホール56を備えることによって管内へ雨水を流入させる雨水流入孔55が形成され、地盤に対応する管壁部分に、地盤への流出のみを許容するウィープホール58を備えることによって地盤へ雨水を流出させる地盤浸透孔57が形成された地盤浸透用中空円管59とされる地盤浸透機能を備えた地下構造物60を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-235876号公報
【特許文献2】特開2016-132957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、上記特許文献2では、地上からの雨水流入が停止し、雨水貯留空間54の水位が地盤中の地下水位より低くなると、地盤浸透孔57からの排水が止まり、地下水の涵養が行われなくなる問題の対策手段として、
図18に示されるように、中空円管50の管内を負圧にすることによって、雨水貯留空間54内に貯留された雨水を、雨水流入孔55を通して管内に流入させるための真空ポンプ61を設けることを提案した。この真空ポンプ61を稼働して中空円管50内を負圧にすることにより、雨水貯留空間54の雨水を雨水流入孔55からウィープホール56を通過させ管内に強制流入することができるようになる。また、同様にしてブロワ62を設けて中空円管50内を加圧することによって、中空円管50内の雨水を地盤浸透孔57からウィープホール58を通過させ地盤へ強制排出することもできるようになる。
【0008】
ところが、前記中空円管50内を負圧にして、雨水貯留空間54内の雨水を雨水流入孔55からウィープホール56を通過させ中空円管50内に強制流入させる際、
図19(A)に示されるように、雨水貯留空間54内の水位が低下して、この水位より上位置となった雨水流入孔55に備えられたウィープホール56では、雨水が流入せずに空気が取り込まれる問題があった。
【0009】
同様に、前記中空円管50内を加圧して、中空円管50内の雨水を地盤浸透孔57からウィープホール58を通過させ地盤に強制流出させる際、
図19(B)に示されるように、中空円管50内の水位が低下して、この水位より上位置となった地盤浸透孔57に備えられたウィープホール58では、雨水が流出せずに空気が排出される問題があった。
【0010】
上述のようなウィープホール56・58を通じた空気の流入・排出が起こると、中空円管50内を減圧(加圧)する真空ポンプ61(ブロワ62)の効率が低下し、通水量も低下することによって、地下水の涵養機能が低下する問題があった。
【0011】
そこで本発明の主たる課題は、ウィープホールを通じた空気の流れを遮断することによって、中空管内を減圧又は加圧する機器の稼働効率の低下を抑止するとともに、通水量の低下を抑えたウィープホール並びにこれを備えた土留め構造物及び地下構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、取水口から吐水口に向けた水の流れのみを許容し逆方向への水の流れを禁じる主逆止弁を備えるとともに、その上流側に、通水中はウキの浮力により流路を開放し、前記主逆止弁の閉鎖時には、取水口から吐水口に向けた空気の流れが生じないように流路を閉鎖する前記ウキが付加された開閉式のウキ付逆止弁を備えることを特徴とするウィープホールが提供される。
【0013】
上記請求項1記載の発明では、取水口から吐水口に向けた水の流れのみを許容し逆方向への水の流れを禁じる主逆止弁が備えられるとともに、その上流側に通水時以外は取水口から吐水口に向けた空気の流れが生じないように流路を閉鎖するウキが付加された開閉式のウキ付逆止弁が備えられている。前記ウキ付逆止弁は、通水中は付加されたウキの浮力により流路が開放されて通水が可能になる一方で、前記主逆止弁の閉鎖時には、流路を閉鎖して、吐水口から取水口に向けた空気の流れが生じないようにしている。
【0014】
このため、主逆止弁が閉鎖された状態で、吐水口側を真空ポンプによって負圧にして吐水口側に水を強制的に引き込んだり、取水口側を加圧ポンプによって加圧して取水口側から水を強制的に押し出したりする場合でも、水位より上位置となったウィープホールを通じた空気の流れが前記開閉式のウキ付逆止弁によって遮断されるため、吐水口側又は取水口側に設けられた真空ポンプ又は加圧ポンプの稼働効率が維持できるとともに、水位より下位置に設けられたウィープホールの通水量が確保できるようになる。
【0015】
請求項2に係る本発明として、前記ウキ付逆止弁の上流側に、前記ウキの浮力により開いた状態の前記ウキ付逆止弁の前記ウキに直接水流が作用しないように流れを調整する整流板が設けられている請求項1記載のウィープホールが提供される。
【0016】
上記請求項2記載の発明では、ウキの浮力により開いた状態のウキ付逆止弁の前記ウキに取水口側からの水流が直接作用してウキ付逆止弁が閉止し、ウィープホールの通水量が低下することがないように、前記開閉式のウキ付逆止弁の上流側に、浮力により浮いたウキに直接水流が作用しないように流れを調整する整流板が設けられている。
【0017】
請求項3に係る本発明として、前記ウキ付逆止弁と前記整流板との間に、前記ウキ付逆止弁が前記ウキの浮力によって浮いた状態で、前記整流板に当接しないような離隔距離が設けられている請求項2記載のウィープホールが提供される。
【0018】
上記請求項3記載の発明では、ウキ付逆止弁がウキの浮力によって開いた際、その上流側に設けられた整流板に開閉式のウキ付逆止弁が当接して作動に支障をきたさないようにするため、これらの間に適正な離隔距離を設けている。
【0019】
請求項4に係る本発明として、取水口と吐水口のいずれか一方又は両方にフィルタが設けられている請求項1記載のウィープホールが提供される。
【0020】
上記請求項4記載の発明では、水中のゴミや夾雑物を流さないため、取水口と吐水口のいずれか一方又は両方にフィルタを設けている。
【0021】
請求項5に係る本発明として、前記主逆止弁は、吐水口側に揺動するスイング式の逆止弁であり、前記ウキ付逆止弁は、取水口側に揺動するスイング式の逆止弁である請求項1記載のウィープホールが提供される。
【0022】
上記請求項5記載の発明では、前記主逆止弁として、吐水口側に揺動するスイング式の逆止弁を採用し、前記ウキ付逆止弁として、取水口側に揺動するスイング式の逆止弁を採用している。
【0023】
請求項6に係る本発明として、地盤中に中空管が水平方向に隣接して設置された土留め構造物であって、
前記水平方向に隣接する中空管の間隙部分に止水を図るための固化材が充填され、
前記中空管の管壁部分に、水の流入孔のみを形成するパターン、水の流出孔のみを形成するパターン及び水の流入孔と流出孔とを形成するパターンのいずれかのパターンによって通水孔が形成され、
前記通水孔にそれぞれ、上記請求項1~5いずれかに記載のウィープホールが備えられていることを特徴とする土留め構造物が提供される。
【0024】
上記請求項6記載の発明では、地盤中に中空管を水平方向に隣接して設置することにより構築した土留め構造物において、前記中空管の管壁部分に各パターンで設けられた水の流入孔・流出孔にそれぞれ前記ウィープホールを設けている。これによって、ウィープホールを通じた空気の流れを遮断しながら、土留め構造物における水の流通が可能になる。
【0025】
請求項7に係る本発明として、前記中空管内を負圧にする真空ポンプ、前記中空管内を加圧する加圧ポンプのいずれか一方又は両方が備えられている請求項6記載の土留め構造物が提供される。
【0026】
上記請求項7記載の発明では、真空ポンプや加圧ポンプを設けることにより、前記中空管内を負圧又は加圧して、土留め構造物におけるスムーズな水の流通を可能にしている。
【0027】
請求項8に係る本発明として、地盤中に中空管が水平方向に隣接して設置された土留め構造物を平面視で閉合形状で設置することにより側壁が構築され、前記側壁によって囲まれた内部に少なくとも前記下床版を構築することによって面的地下空間が形成された地下構造物であって、
前記水平方向に隣接する中空管の間隙部分に止水を図るための固化材が充填され、
前記中空管の管壁部分に、水の流入孔のみを形成するパターン、水の流出孔のみを形成するパターン及び水の流入孔と流出孔とを形成するパターンのいずれかのパターンによって通水孔が形成され、
前記通水孔にそれぞれ、上記請求項1~5いずれかに記載のウィープホールが備えられていることを特徴とする地下構造物が提供される。
【0028】
上記請求項8記載の発明では、地盤中に中空管が水平方向に隣接して設置された土留め構造物を側壁とし、前記側壁によって囲まれた内部に下床版を構築することによって地下空間が形成された地下構造物において、前記中空管の管壁部分に設けられた水の流入孔・流出孔にそれぞれ前記ウィープホールを設けている。これによって、ウィープホールを通じた空気の流れを遮断しながら、地下構造物の内部空間から地盤への水の流れが可能になる。
【0029】
請求項9に係る本発明として、前記中空管内を負圧にする真空ポンプ、前記中空管内を加圧する加圧ポンプのいずれか一方又は両方が備えられている請求項8記載の地下構造物が提供される。
【0030】
上記請求項9記載の発明では、真空ポンプや加圧ポンプを設けることにより、前記中空管内を負圧又は加圧して、地下構造物の内部空間から地盤へのスムーズな水の流通を可能にしている。
【0031】
請求項10に係る本発明として、前記側壁の上側に、前記側壁によって囲まれた内部を封鎖する上床版を備える請求項8記載の地下構造物が提供される。
【0032】
上記請求項10記載の発明では、前記側壁の上側に、前記側壁によって囲まれた内部を封鎖する上床版を備えることにより、平面視で閉合形状で設置した側壁によって囲まれた内部に下床版及び上床版を構築した面的地下空間の場合は、地下構造物の地上部分を公園、駐車場、道路などとして有効利用でき、両側の側壁間に下床版及び上床版を構築した線状地下空間の場合は、線路又は道路等の線状地下空間をトンネル空間とすることができる。
【発明の効果】
【0033】
以上詳説のとおり本発明によれば、ウィープホールを通じた空気の流れを遮断することによって、減圧又は加圧する機器の稼働効率の低下が抑止でき、ウィープホールを通じた通水量の低下を抑えることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明に係る地下構造物1の縦断面図である。
【
図4】側壁3を構成する土留め構造物2の縦断面図である。
【
図5】
図4のV-V線矢視図(水平横断面図)である。
【
図6】本発明に係るウィープホール20を示す、(A)は縦断面図、(B)は(A)のB-B線矢視図、(C)は(A)のC-C線矢視図、(D)は(A)のD-D線矢視図である。
【
図7】主逆止弁23を示す、(A)は遮断状態図、(B)は通水状態図である。
【
図8】パッキン29を示す、(A)は正面図、(B)は(A)のB-B線矢視図である。
【
図9】ウキ付逆止弁24を示す、(A)は遮断状態図、(B)は通水状態図である。
【
図10】流入孔13に備えられたウィープホール20の(A)は通水状態図、(B)は遮断状態図である。
【
図11】流出孔14に備えられたウィープホール20の(A)は通水状態図、(B)は遮断状態図である。
【
図12】土留め構造物の応用例(第2形態例)を示す横断面図である。
【
図13】土留め構造物の応用例(第3形態例)を示す横断面図である。
【
図14】土留め構造物の応用例(第4形態例)を示す横断面図である。
【
図15】土留め構造物の応用例(第5形態例)を示す横断面図である。
【
図16】従来例に係る地下構造物60の縦断面図である。
【
図18】地下構造物60の通水状態を示す縦断面図である。
【
図19】(A)は中空管内を負圧にした場合、(B)は中空管内を加圧した場合における地下構造物60の通水状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0036】
〔第1形態例〕
図1に示された本発明に係る地下構造物1は、土留め構造物2を平面視で閉合形状で設置することにより側壁3を構築し、前記側壁3によって囲まれた内部に下床版4を構築することによって雨水を貯留するための面的地下空間5(以下、貯留空間5という。)が形成されるとともに、前記側壁3の上側に、前記側壁3によって囲まれた内部を封鎖する上床版6を備えるようにしたものであり、前記側壁3によって囲まれた内部には、貯留空間5内の雨水を揚水して利水に供するための揚水用中空管7、7…が配設されている。
【0037】
前記揚水用中空管7には、
図3に示されるように、該中空管7の下方の管壁部分に、貯留空間5内の雨水を中空管7内に流入する多数の雨水流入孔9、9…が形成されるとともに、各雨水流入孔9に、後段で詳述するウィープホール20が、取水口21を外側、吐水口22を内側に向けて配置されている。また、中空管7内に流入した雨水を、かんがい用水、農業用水、工業用水などに利用するため、貯留空間5内の雨水を中空管7内に引き込むための真空ポンプ10が備えられている。
【0038】
前記土留め構造物2は、
図4及び
図5に示されるように、地盤中に中空管11、11…を水平方向に隣接して設置することにより構築した土留め構造物であって、前記水平方向に隣接する中空管11、11の間隙部分に固化材12を充填して止水を図り、前記中空管11の管壁部分に、水の流入口13、13…と流出孔14、14…とを形成するパターンにより通水孔を形成し、前記流出孔14を形成した中空管11の外面側(地盤側)に、地盤深さ方向に沿って透水層15を形成したものである。
【0039】
前記土留め構造物2を構成する中空管11は、少なくとも所定の根入れ長を確保して地盤に打設することによって、前記側壁3によって囲まれた内部を掘削する際の仮設用土留め壁となるとともに、完成後は本体構造物としての側壁3を構成する。従って、別途仮設土留め壁を構築する必要がなく、工事の省力化及び工期の短縮化を図ることができるようになる。
【0040】
前記中空管11としては、プレストレス導入もしくは外周鋼管を配置するなどした高強度コンクリート杭又はPC中空杭などを用いることができる。前記側壁3を構成する中空管11は、予め地盤を掘削又は緩めた部分に杭を挿入設置するプレボーリング工法が採用される。そして、前記透水層15は、中空管11を設置するためのプレボーリング孔16を中空管11の外径よりも大きく形成し、中空管11の外面とプレボーリング孔16との間の空間に砕石を充填した層によって形成されている。図示されるように、前記中空管11はプレボーリング孔16に対して平面視で偏倚配置、すなわち貯留空間5側に偏倚させて配置することにより前記透水層15は三日月形状の透水層15とされ、透水層15の厚みDが確保されている。透水層15の厚みDとしては、概ね100~300mm、好ましくは150~250mm程度の厚みとするのが望ましい。
【0041】
同
図5に示されるように、前記中空管の外面であって、隣接する中空管11に近接する位置に、部材長手方向に沿って前記固化材12の充填領域を画成するために外方に突出する一対の突条片17a、17bを有するように金具17を設けてある。金具17の取付けは、中空管11の製造時に予めネジ状のインサート金具(図示せず)を埋設しておき、このインサート金具に対して、2つのアングル型材をボルト固定したり、不等辺溝型鋼を取り付けるなどして前記外方に突出する一対の突条片17a、17bを備えるようにすることができる。隣接する中空管11、11の間の間隙部分に、前記突条片17a、17bによって閉塞された前記固化材12の充填領域を画成する。すなわち、前記突条片17a、17bの先端がプレボーリング孔16に達する長さとすることにより前記固化材12の充填領域が画成され、この充填領域にモルタル又はコンクリート等のセメント系固化材を充填することによって、杭列方向に連続した止水壁としての機能が確保されている。
【0042】
前記土留め構造物2を構成する中空管11は、前記突条片17a、17bによって画成された領域内に固化材12を充填して仕切られた部分を境として、貯留空間5側の管壁部分に、管軸方向に所定の間隔を空けて複数の前記水の流入孔13、13…が形成されるとともに、地盤側の管壁部分に、管軸方向に所定の間隔を空けて複数の前記水の流出孔14、14…が形成されている。
【0043】
前記流入孔13、13…と流出孔14、14…にはそれぞれ、取水口から吐水口に向けた一定の方向の水の流れのみを許容し逆方向への水の流れを禁じるウィープホール20(
図6)が備えられている。
【0044】
以上のように構成された地下構造物1においては、貯留空間5に貯留された雨水が、前記土留め構造物2を構成する中空管11の流入孔13に備えられたウィープホール20を通過して中空管11内に流入する。この中空管11に流入した雨水は、その後、流出孔14に備えられたウィープホール20を通過して地盤へ排出するようになっている。本地下構造物1では、前記中空管11の外面側に地盤深さ方向に沿って透水層15を形成しているため、地盤に粘性層N(不透水層)が存在したとしても、前記透水層15を流水路として水を流通させることができるようになり、貯留空間5の水位以下のすべての流出孔14、14…から雨水の排出が行われ、砂層S(透水層)から地盤中に浸透するため、涵養機能を大幅に向上させることが可能となる。
【0045】
ところで、貯留空間5内への雨水流入が停止し、貯留空間5の水位が中空管11の水位より低くなると、流入孔13から中空管11内への流入が止まり、地下水の涵養が行われなくなる。また、中空管11内の水位が地盤中の地下水位より低くなると、流出孔14からの排出が止まり、地下水の涵養が行われなくなる。このような場合の対策手段として、本地下構造物1(土留め構造物2)には、
図1に示されるように、中空管11の管内を負圧にする真空ポンプ40及び/又は中空管11の管内を加圧する加圧ポンプ41が備えられている。
【0046】
貯留空間5内の水位が中空管11内の水位より高い場合は、水頭差により貯留空間5から中空管11内への水の流れが自然と生じるが、貯留空間5内の水位が中空管11の水位と同等又は低い場合でも、前記真空ポンプ40を稼働して中空管11内を負圧にすることにより、貯留空間5の水を流入孔13からウィープホール20を通過して中空管11内に強制的に流入させることができるようになる。また、中空管11内の水位が地盤中の地下水位より高い場合は、水頭差により中空管11内から地盤への水の流れが自然と生じるが、中空管11内の水位が地盤中の地下水位と同等又は低い場合でも、前記加圧ポンプ41を稼働して中空管11内を加圧することにより、中空管11内の雨水を流出孔14からウィープホール20を通過して管外に強制的に排出させることができるようになる。
【0047】
なお、前記中空管11内を減圧又は加圧する真空ポンプ40や加圧ポンプ41、更には揚水用中空管7内を減圧する真空ポンプ10は、
図1に示されるように、地中又は地上に設けられたポンプ管理室45に設置される。
【0048】
(ウィープホール20)
以下、前記ウィープホール20について詳細に説明する。本発明に係るウィープホール20は、
図6に示されるように、取水口21から吐水口22に向けた水の流れのみを許容し逆方向への水の流れを禁じる主逆止弁23を備えるとともに、その上流側(すなわち取水口21側)に、通水中はウキ25の浮力により流路を開放し、前記主逆止弁23の閉鎖時には、取水口21から吐水口22に向けた空気の流れが生じないように流路を閉鎖する前記ウキ25が付加された開閉式のウキ付逆止弁24を備えている。
【0049】
更に詳細に説明すると、前記ウィープホール20は、
図6に示されるように、開口する両端がそれぞれ前記取水口21、吐水口22とされた円管状のケーシング26を備え、その管内に取水口21と吐水口22とを結ぶ直線状の流水路が形成されている。そして、この流水路の中間部には、吐水口22側寄り位置に、水が流通する複数の開孔27a、27a…が形成された仕切板27を備えるとともに、取水口21側寄り位置に、水が流通する複数の開孔28a、28a…が形成された仕切板28を備えている。
【0050】
吐水口22側寄り位置に備えられた前記仕切板27の吐水口22側の面には、パッキン29を介して前記主逆止弁23が固定されている。前記仕切板28に対する主逆止弁23の固定は、
図6(B)に示されるように、逆止弁23の上部が座板30を介して主逆止弁23及びパッキン28を一体的に貫通する固定ネジ31によってネジ止めされることによって成されている。
図6(A)に示される例では、前記仕切板27の下方側を吐水口22側に若干傾斜させることにより、前記主逆止弁23による止水効果を高めるようにしているが、前記仕切板27が流路に対して直交するように配置してもよい。
【0051】
取水口21側寄り位置に備えられた前記仕切板28の取水口21側の面には、同じくパッキン29を介して前記ウキ付逆止弁24が固定されている。前記ウキ付逆止弁24の固定は、
図6(C)に示されるように、逆止弁24の上部に押え部材32が配置されるとともに、座板30を介して押え部材32、逆止弁24及びパッキン29を一体的に貫通する固定ネジ31によってネジ止めされることによって成されている。前記押え部材32は、
図6(A)、(C)に示されるように、開閉式のウキ付逆止弁24が必要以上にめくれ上がらないように、ウキ付逆止弁24の上部を押さえておくためのものであり、ゴムやプラスチック、ステンレスなどからなる略半円形の部材である。
図6(A)に示される例では、前記仕切板28の下方側を取水口21側に若干傾斜させることにより、開閉式の前記ウキ付逆止弁24による気密効果を高めるようにしているが、前記仕切板28が流路に対して直交するように配置してもよい。
【0052】
前記主逆止弁23は、
図6(B)及び
図7に示されるように、上端部が前記仕切板27に固定され、この固定部より下側部分が吐水口22側に揺動するスイング式(開閉式)の逆止弁である。前記主逆止弁23は、ケーシング26の管内流路を塞ぐように円形に形成されたゴムやプラスチックなどからなる非通水性の部材からなり、前記固定ネジ31による固定部の下側に、水平方向に沿うとともに、幅方向に横断する直線状の易屈折部33が設けられている。
【0053】
取水口21側の水圧が高い場合は、
図7(B)に示されるように、この水圧により主逆止弁23が前記易屈折部33を基端として、これより下側の自由端部分が吐水口22側に屈折し、主逆止弁23を越えて取水口21側から吐水口22側に向けて水が流れるようになる。一方、吐水口22側の水圧が高い場合は、
図7(A)に示されるように、この水圧によって主逆止弁23がパッキン29に圧着されることにより、この主逆止弁23より取水口21側へ水が逆流しないようになっている。
【0054】
なお、前記主逆止弁23として、浮子弁式のフロート弁を用いてもよい。
【0055】
前記パッキン29は、
図8に示されるように、前記主逆止弁23の仕切板27対向面の少なくとも外周部と仕切板27との間の水密を確保するためのものであり、ゴムなどからなるシール部材である。前記パッキン29は、下部に仕切板27に形成された開孔群27a、27a…に対応する領域が一体的に開口する開口29aが形成されるとともに、上部に前記固定ネジ31を挿通するための開孔29bが形成されている。
【0056】
前記ウキ付逆止弁24は、
図6(C)及び
図9に示されるように、上端部が仕切板28の取水口21側の面に押え部材32を介して固定され、この固定部より下側部分が取水口21側に揺動するスイング式(開閉式)の逆止弁である。前記ウキ付逆止弁24は、ケーシング26の管内流路を塞ぐように円形に形成されたゴムやプラスチックなどからなる非通気性の素材からなり、付加されたウキ25の浮力によって自然とめくれ上がることができるような可撓性を有している。前記ウキ付逆止弁24をプラスチックシートで形成したときの厚みとしては、0.1~2mm、好ましくは0.3~1mmがよい。
【0057】
前記ウキ25は、前記ウキ付逆止弁24の取水口21側面の下部に接着剤等によって固定された発泡プラスチックなどの水に浮く素材からなる浮体である。前記ウキ25は、ウキ付逆止弁24の取水口21側の面の下部に備えられており、
図6(C)に示されるように、上部に備えられた押え部材32との間に水平方向の全長に亘る離隔部を有するように配置されている。この押え部材32との離隔部においてウキ付逆止弁24が屈曲変形することによって、ウキ付逆止弁24の下側部分がウキ25の浮力によってめくれ上がることができるようになっている。
【0058】
前記ウキ付逆止弁24とケーシング26の仕切板28との間には、水密及び気密を確保するためのパッキン29が備えられている。このパッキン29は、上述の主逆止弁23に備えられたパッキン29と同様のものを用いてもよいし、特に気密性に優れた素材で構成するなど、異なるものを用いてもよい。
【0059】
取水口21側に水が溜まると、
図9(B)に示されるように、押え部材32とウキ25との間の可撓部を可撓軸として、付加されたウキ25の浮力によって開閉式のウキ付逆止弁24がめくれ上がり、取水口21側に溜まった水がウキ付逆止弁24を通過して吐水口22側に流通できるように流路を開放する。一方、取水口21側に水が無くなると、ウキ25の浮力が作用しなくなるため開閉式のウキ付逆止弁24が流路を閉鎖する。これによって、吐水口22側を負圧にするか取水口21側を加圧することにより、ウキ付逆止弁24を境に取水口21側の気圧が吐水口22側の気圧より高くなったとき、ウキ付逆止弁24によって取水口21側から吐水口22側への空気の流れが遮断できるようになる。
【0060】
図6(A)、(D)に示されるように、前記ウキ付逆止弁24の上流側(取水口21側)に、ウキ25の浮力により開き位置に位置するウキ付逆止弁24の前記ウキ25に、直接水流が作用しないように流れを調整する整流板34が設けられている。前記整流板34は、浮力によって浮き上がったウキ25に取水口21側からウィープホール20内に流入した水の水流によって、ウキ付逆止弁24が流路を閉鎖するのを防止するためのものであり、浮力によって浮き上がったウキ25が背面側に隠れるように流路断面のうち上方側の一部を覆い、これより下側部分のみに水路を形成するための板状部材である。取水口21側からの水は、整流板34が設けられた流路上側部分からは流れ込むことができず、整流板34より下側の開放された流路下側部分のみから流れ込むようになっている。
【0061】
図9(B)に示されるように、前記ウキ付逆止弁24と整流板34との間には、開閉式の前記ウキ付逆止弁24がウキ25の浮力によって開き位置に位置した状態で、整流板34に当接しないような離隔距離Lが設けられている。これによって、ウキ付逆止弁24がウキ25の浮力によってスムーズに開くことができるとともに、取水口21側に水が無くなったときにウキ付逆止弁24によって速やかに流路を閉鎖できるようになる。なお、ウキ25は、開閉式のウキ付逆止弁24が押え部材32とウキ25との間の可撓部を可撓軸として揺動する際、整流板34に当接しないように、先端の下部に丸みを持たせた立体形状、好ましくは略四半球形状とするのがよい。
【0062】
ウィープホール20を通じて水中のゴミや夾雑物、土砂などが下流側に流れるのを防止するため、
図6(A)に示されるように、取水口21と吐水口22のいずれか一方又は両方にフィルタ35が設けられている。前記フィルタ35としては、広く使用されている市販のフィルタを用いることができ、図示例のように、目の粗いフィルタと目の細かいフィルタとの組み合わせとすることもできる。なお、図示例では、取水口21と吐水口22の両方にフィルタ35を設けているが、いずれか一方のみに設け、他方には設けないようにしてもよい。
【0063】
(ウィープホール20の作動状況)
次に、
図10及び
図11に基づいて、ウィープホール20の作動状況について説明する。
【0064】
本発明に係る土留め構造物2を備えた地下構造物1では、
図5に示されるように、貯留空間5に貯留された水は、中空管11の貯留空間5側の管壁部分に形成された水の流入孔13に備えられたウィープホール20を通過して中空管11内に流入した後、中空管11の地盤側の管壁部分に形成された水の流出孔14に備えられたウィープホール20を通過して地盤側に排出され、地盤に涵養されるようになっている。
図10は、水の流入孔13に備えられたウィープホール20の作動状況を示すものであり、
図11は、水の流出孔14に備えられたウィープホール20の作動状況を示すものである。
【0065】
従って、水の流入孔13に備えられるウィープホール20は、取水口21を貯留空間5側に向け、吐水口22を中空管11内に向けて配置される。また、水の流出孔14に備えられるウィープホール20は、取水口21を中空管11内に向け、吐水口22を地盤側に向けて配置される。
【0066】
先ずはじめに、水の流入孔13に備えられたウィープホール20の作動状況について、
図10に基づいて説明する。
図10(A)に示されるように、貯留空間5の水位より低い位置にある流入孔13では、この流入孔13に備えられたウィープホール20の取水口21側が貯留空間5内の水で満たされているため、取水口21側の水は、ウキ25の浮力によって開放されたウキ付逆止弁24を通過した後、水圧によって押し開けられた主逆止弁23を通過し、吐水口22から中空管11内に流入する。
【0067】
その後、貯留空間5内の水位が低下し、貯留空間5の水位より高い位置の流入孔13では、
図10(B)に示されるように、この流入孔13に備えられたウィープホール20の取水口21側には水が存在しないため、ウキ25の浮力が作用しなくなったウキ付逆止弁24が流路を閉鎖する。また、主逆止弁23に取水口21側からの水圧が作用しないため、主逆止弁23が流路を閉鎖する。これによって、このウィープホール20を通じた水の流れが遮断される。更に、前記真空ポンプ40の稼働によって中空管11内を負圧にした場合でも、前記ウキ付逆止弁24が流路を閉鎖しているため、貯留空間5内の空気がウィープホール20を通って中空管11内に流入するのが防止され、前記真空ポンプ40の稼働効率が低下するのが防止できる。
【0068】
なお、貯留空間5の水位より下位置の流入孔13では、上述したようにウィープホール20を通じた中空管11内への水の流入が行われている。
【0069】
次に、水の流出孔14に備えられたウィープホール20の作動状況について、
図11に基づいて説明する。
図11(A)に示されるように、中空管11内の水位より低い位置にある流出孔14では、この流出孔14に備えられたウィープホール20の取水口21側が中空管11内の水で満たされているため、取水口21側の水は、ウキ25の浮力によって開放されたウキ付逆止弁24を通過した後、水圧によって押し開けられた主逆止弁23を通過し、吐水口22から地盤側に排出される。
【0070】
その後、中空管11内の水位が低下し、中空管11内の水位より高い位置の流出孔14では、
図11(B)に示されるように、この流出孔14に備えられたウィープホール20の取水口21側には水が存在しないため、ウキ25の浮力が作用しなくなったウキ付逆止弁24が流路を閉鎖する。また、主逆止弁23に取水口21側からの水圧が作用しないため、主逆止弁23が流路を閉鎖する。これによって、このウィープホール20を通じた水の流れが遮断される。更に、前記加圧ポンプ41の稼働によって中空管11内を加圧した場合でも、前記ウキ付逆止弁24が流路を閉鎖しているため、中空管11内の空気がウィープホール20を通って地盤側に漏れるのが防止され、前記加圧ポンプ41の稼働効率が低下するのが防止できる。
【0071】
なお、中空管11内の水位より下位置の流出孔14では、上述したようにウィープホール20を通じた地盤側への水の流出が行われている。
【0072】
〔第2形態例〕
前述した地下構造物1において、前記中空管11によって構築した土留め構造物2(側壁3)は、それ単独で治水機能を備えた土留め構造物として利用可能であるため、第2形態例以降でその利用例について詳述する。
【0073】
図12に示される第2形態例は、前記治水機能を備えた土留め構造物2を平面視で閉合形状で設置することにより側壁3を構築し、前記側壁3によって囲まれた内部に下床版4を備えるとともに、前記側壁3の上側に、前記側壁3によって囲まれた内部を封鎖する上床版6を備えた地下構造物1の地上部分を道路、線路、公園、駐車場などとして利用した例である。
【0074】
このように、地下構造物1の地上部分を道路等として有効利用できると同時に、既存の道路等の地下部分を利用して地下構造物1を構築し、治水や利水を図ることができる。
【0075】
〔第3形態例〕
図13に示される第3形態例は、切土面に土留め構造物を構築したことによって、地下水の流れが堰き止められてしまう場合に、地下水の流れを阻害しないように、土留め構造物を本発明に係る治水機能を備えた土留め構造物とした場合の例である。
【0076】
具体的には、地盤中に中空管11、11…を水平方向に隣接して設置し、これら中空管11、11…の間の間隙部分に固化材12を充填して止水を図り、前記中空管11の管壁部分に、水の流入孔13、13…と流出孔14、14…とを形成するパターンにより通水孔を形成し、これら流入孔13及び流出孔14を形成した中空管11の外面側、すなわち地下水の流れ方向の両面側に、地盤深さ方向に沿って透水層15、15を形成したものである。
【0077】
前記中空管11に地下水の流入孔13と流出孔14とを設け、これら通水孔の地盤面側に透水層15、15を形成してあるため、地盤に粘性層N(不透水層)が存在したとしても、前記透水層15を流水路として水を流通させることができるようになり、流入孔13、流出孔14を通して地下水が流れるため、地下水の流れを土留め構造物2によって遮断することが無くなる。
【0078】
〔第4形態例〕
図14に示される第4形態例は、地滑り防止壁として、土留め構造物を地盤中に構築したことによって地下水の流れが堰き止められてしまう場合に、地下水の流れを阻害しないように、前記土留め構造物を本発明に係る治水機能を備えた土留め構造物2とした場合の例である。
【0079】
この場合も、前記第3形態例と同様に、前記中空管11の管壁部分に、水の流入孔13、13…と流出孔14、14…とを形成するパターンにより通水孔を形成し、これら流入孔13及び流出孔14を形成した中空管11の外面側、すなわち地下水の流れ方向の両面側に、地盤深さ方向に沿って透水層15、15を形成したものである。
【0080】
前記中空管11に地下水の流入孔13と流出孔14とを設け、これら通水孔の地盤面側に透水層15、15を形成してあるため、地盤に粘性層N(不透水層)が存在したとしても、前記透水層15を流水路として水を流通させることができるようになり、流入孔13、流出孔14を通して地下水が流れるため、地下水の流れを土留め構造物2によって遮断することがなくなる。
【0081】
〔第5形態例〕
図15に示される第5形態例は、集水井戸として機能できる土留め構造物2の例である。
【0082】
具体的には、地盤中に中空管11、11…を水平方向に隣接して設置し、隣り合う中空管11、11の間隙部分に固化材12を充填して止水を図り、前記中空管11の管壁部分に、水の流入孔13、13…のみを形成するパターンにより通水孔を形成し、これら流入孔13を形成した中空管11の外面側、すなわち両面側に、地盤深さ方向に沿って透水層15、15を形成したものである。
【0083】
前記中空管11に地下水の流入孔13を設け、これら通水孔の地盤面側に透水層15、15を形成してあるため、地盤に粘性層N(不透水層)が存在したとしても、前記透水層15を流水路として水を流通させることができるようになり、すべての流入孔13から中空管11内に地下水が流れ込むようになるため、効果的に地下水を集水できるようになる。中空管11内に集水した地下水は、フィルタ44を介して揚水ポンプ43により吸い上げられる。
【符号の説明】
【0084】
1…地下構造物、2…土留め構造物、3…側壁、4…下床版、5…貯留空間、6…上床版、7…揚水用中空管、9…雨水流入孔、10…真空ポンプ、11…中空管、12…固化材、13…流入孔、14…流出孔、15…透水層、16…プレボーリング孔、17a・17b…突条片、20…ウィープホール、21…取水口、22…吐水口、23…主逆止弁、24…ウキ付逆止弁、25…ウキ、26…ケーシング、27・28…仕切板、29…パッキン、30…座板、31…固定ネジ、32…押え部材、33…易屈折部、34…整流板、35…フィルタ、40…真空ポンプ、41…加圧ポンプ、42…排水ポンプ、43…揚水ポンプ、44…フィルタ