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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159390
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】金属印刷用インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/08 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
C09D11/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120353
(22)【出願日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2023072392
(32)【優先日】2023-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】加藤 曹太郎
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 康太
(72)【発明者】
【氏名】荒木 隆史
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB08
4J039AE06
4J039BA21
4J039BD02
4J039BE12
4J039FA01
(57)【要約】
【課題】アルキッド樹脂の油長を極端に増加させることなく、印刷時における良好な転移性を得ることのできる金属印刷用インキ組成物を提供すること。
【解決手段】着色顔料、樹脂及び溶剤を含んでなる金属印刷用インキ組成物であって、上記樹脂の少なくとも一部として水酸基価10mgKOH/g以上であるロジン変性樹脂を含み、上記溶剤として下記一般式(1)で表す化合物よりなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とするインキ組成物を用いることにより解決される。下記一般式(1)中、各Aは、それぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素数2~4のアルキレン基であり、Rは、分岐及び/又は環構造を備えてもよい炭素数1~13のアルキル基であり、nは、2~8の整数である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色顔料、樹脂及び溶剤を含んでなる金属印刷用インキ組成物であって、
前記樹脂の少なくとも一部として水酸基価10mgKOH/g以上であるロジン変性樹脂を含み、前記溶剤として下記一般式(1)で表す化合物よりなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする金属印刷用インキ組成物。
【化1】
(上記一般式(1)中、各Aは、それぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素数2~4のアルキレン基であり、Rは、分岐及び/又は環構造を備えてもよい炭素数1~13のアルキル基であり、nは、2~8の整数である。)
【請求項2】
さらに、親水性シリカ粒子を1~8質量%含むことを特徴とする請求項1記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項3】
前記ロジン変性樹脂の酸価が、100mgKOH/g以下である請求項1又は2記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項4】
前記ロジン変性樹脂が、その70gを130℃に加温されたトリプロピレングリコールモノブチルエーテルの30gに60分間撹拌して溶解させたとき、下記手順で測定したn-ヘキサントレランスが50g/5gを超える溶解ワニスを与えることを特徴とする請求項1又は2記載の金属印刷用インキ組成物。
手順:溶解ワニスを室温まで放冷してからビーカーに5g採取し、このビーカー内の液温を25℃に維持した状態にて、ビーカーの内の溶解ワニスにn-ヘキサンを少量ずつ撹拌しながら加え、ビーカー内の液体が白濁を始めるまでに要したn-ヘキサンの質量(g)を求める。こうして求めたn-ヘキサンの質量(g)をn-ヘキサントレランス(g/5g)とする。
【請求項5】
前記ロジン変性樹脂が、ロジンエステル樹脂である請求項1又は2記載の金属印刷用インキ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属印刷用インキ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属素材、例えば亜鉛引き又は錫引き鉄板、アルミニウム板あるいはこれら金属素材からなる金属缶などの金属外面の印刷には、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等のバインダー樹脂と鉱物油又は高級アルコール等の有機溶剤を主たるビヒクル成分とする金属印刷用インキ組成物が使用されている。
【0003】
また、これら印刷表面には、インキ塗膜の密着性、耐折り曲げ性、耐衝撃性、耐摩擦性等を向上させるため、オーバープリントニスによるコーティングが行われるのが一般的である。これらオーバープリントニスとしては、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等のバインダー樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の硬化剤、及び鉱物油やセロソルブ系等の有機溶剤からなる溶剤タイプのものが広く使用されていた。
【0004】
そして、金属外面の印刷に際しては、オフセット印刷機、ドライオフセット印刷機等を用いてインキの印刷を行ってから、コーター等を用いてウエットオンウエットでオーバープリントニスをインキ被膜上に塗布し、その後150~280℃で焼付けが行われていた。
【0005】
ところで、近年では、溶剤による大気汚染の問題、印刷作業環境における衛生面や安全性の面から、金属印刷の分野においても、従来用いてきた溶剤タイプのオーバープリントニスではなく、水性タイプのものを採用するのが一般的となっている。しかし、従来の金属印刷用インキ組成物のインキ塗膜上に、水性オーバープリントニスを塗布した場合、水性オーバープリントニスのはじき、水性オーバープリントニスのインキ膜中へのもぐり込みなどの現象を生じ、その結果、塗膜の光沢又は密着性等の品質が著しい低下をきたすという問題があった。そこで、インキ組成物においても、水性オーバープリントニスに対する優れた適性を有することが要求されてきた。
【0006】
このような水性オーバープリントニスに対する適性を改善する方法として、例えば、特許文献1には、炭素数4~8のアルキレングリコール系溶剤の使用が、特許文献2には、ポリオキシアルキレングリコール系溶剤の使用が、特許文献3には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系有機溶剤の使用が、特許文献4には、ポリオキシアルキレンアルキルエステル系溶剤の使用がそれぞれ提案されている。これらのインキ組成物に用いられる有機溶剤は、インキ組成物の水性オーバープリントニスに対する適性を改善する上では効果があるが、インキ組成物の流動性が不足しがちだったり、印刷中にミスチングを生じがちだったりする等の点で改善の余地があった。
【0007】
金属印刷用インキ組成物の流動性や印刷中のミスチングを改善しようとする場合、例えば特許文献5の実施例に記載されるように、高沸点芳香族炭化水素のような極性の低い溶剤を用いる方法もある。しかしながら、昨今では、更なる環境負荷低減を目的として、溶剤成分を極限まで削減した水性オーバープリントニス製品が流通しており、このようなオーバープリントニスを用いた場合、極性の低い溶剤を用いたインキ組成物ではハジキを生じる問題もある。
【0008】
また、近年では、生産性の改善を目的として金属印刷においても印刷の高速化が図られている。こうした印刷の高速化に対応する観点からは、インキ組成物の転移性が重要になる。そして、インキ組成物の転移性を確保する観点からは、インキ組成物に含まれるアルキッド樹脂の油長を大きくすることが有効とされる。しかしながら、油長の大きなアルキッド樹脂を含むインキ組成物では、上記のような水性オーバープリントニスとの相性が悪くなり、印刷されたインキ組成物表面における水性オーバープリントニスのハジキの問題を生じやすくなる。すなわち、転移性の観点に基づく油長の増加と、水性オーバープリントニスに対する塗布適性とはトレードオフの関係が生じており、技術的な課題の一つとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平5-75031号公報
【特許文献2】特公平5-40791号公報
【特許文献3】特公平5-40792号公報
【特許文献4】特開昭64-60670号公報
【特許文献5】特開2009-249435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、アルキッド樹脂の油長を極端に増加させることなく、印刷時における良好な転移性を得ることのできる金属印刷用インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、インキ組成物に含まれる樹脂の少なくとも一部として水酸基価10mgKOH/g以上であるロジン変性樹脂と、下記一般式(1)で表すポリオキシアルキレンアルキルエーテル系溶剤との両方を含むインキ組成物を用いることにより上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0012】
(1)本発明は、着色顔料、樹脂及び溶剤を含んでなる金属印刷用インキ組成物であって、上記樹脂の少なくとも一部として水酸基価10mgKOH/g以上であるロジン変性樹脂を含み、上記溶剤として下記一般式(1)で表す化合物よりなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする金属印刷用インキ組成物である。
【化1】
(上記一般式(1)中、各Aは、それぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素数2~4のアルキレン基であり、Rは、分岐及び/又は環構造を備えてもよい炭素数1~13のアルキル基であり、nは、2~8の整数である。)
【0013】
(2)また本発明は、さらに、親水性シリカ粒子を1~8質量%含むことを特徴とする(1)項記載の金属印刷用インキ組成物である。
【0014】
(3)また本発明は、上記ロジン変性樹脂の酸価が、100mgKOH/g以下である(1)項又は(2)項記載の金属印刷用インキ組成物である。
【0015】
(4)また本発明は、上記ロジン変性樹脂が、その70gを130℃に加温されたトリプロピレングリコールモノブチルエーテルの30gに60分間撹拌して溶解させたとき、下記手順で測定したn-ヘキサントレランスが50g/5gを超える溶解ワニスを与えることを特徴とする(1)項から(3)項のいずれか1項記載の金属印刷用インキ組成物である。
手順:溶解ワニスを室温まで放冷してからビーカーに5g採取し、このビーカー内の液温を25℃に維持した状態にて、ビーカーの内の溶解ワニスにn-ヘキサンを少量ずつ撹拌しながら加え、ビーカー内の液体が白濁を始めるまでに要したn-ヘキサンの質量(g)を求める。こうして求めたn-ヘキサンの質量(g)をn-ヘキサントレランス(g/5g)とする。
【0016】
(5)また本発明は、上記ロジン変性樹脂が、ロジンエステル樹脂である(1)項から(4)項のいずれか1項記載の金属印刷用インキ組成物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アルキッド樹脂の油長を極端に増加させることなく、印刷時における良好な転移性を得ることのできる金属印刷用インキ組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の金属印刷用インキ組成物の一実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
本発明のインキ組成物は、金属印刷用であり、刷版として凸版を用いるいわゆるドライオフセット印刷方式や、刷版として平版を用いるオフセット印刷方式での印刷に好ましく適用されるが、金属印刷において通常用いられる印刷方式全般に適用が可能である。また、本発明のインキ組成物は、インキ組成物による印刷の直後にウエットオンウエットで水性オーバープリントニス(OPニス)を塗工しても、塗工されたOPニスのハジキを抑制できるので、そのような印刷及び塗工方式が採用される2ピース缶印刷においても好ましく適用可能であるのはもちろん、3ピース缶印刷においても好ましく用いることができる。本発明のインキ組成物によれば、例えば、白色インキ組成物のように顔料の含有量を高く設定しなければならない場合であっても良好な転移性を維持することができる。また、本発明のインキ組成物によれば、アルキッド樹脂の油長を極端に増加させることなく、印刷時における良好な転移性を得ることができるので、溶剤成分の削減された水性OPニスがウエットオンウエットで適用されてもハジキの抑制と、印刷中における良好な転移性とを両立した印刷を行うことができる。
【0020】
本発明のインキ組成物は、着色顔料、樹脂及び溶剤を含んでなる金属印刷用インキ組成物であって、上記樹脂の少なくとも一部として水酸基価10mgKOH/g以上であるロジン変性樹脂を含み、上記溶剤として一般式(1)で表す化合物よりなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする。以下、各成分について説明する。
【0021】
[樹脂]
本発明のインキ組成物は、その少なくとも一部として水酸基価10mgKOH/g以上であるロジン変性樹脂を含む。本発明のインキ組成物は、こうした高水酸基価のロジン変性樹脂を含むことにより、印刷時におけるインキ組成物の転移性が向上するとの知見により完成されたものである。また同時に、本発明のインキ組成物がこのようなロジン変性樹脂を含むことにより組成物自体の極性が高くなると考えられ、同じく極性の高い水性OPニスへの親和性が高くなって、これをウエットオンウエットで塗工してもハジキが抑制されるという効果も奏される。
【0022】
ロジン変性樹脂とは、原料の一つとしてロジンを用いて調製された樹脂である。ロジンには、アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸、レボピマール酸等の樹脂酸が混合物として含まれ、これら樹脂酸は、親水性で化学活性なカルボキシ基を含み、中には共役二重結合を備えるものもある。そのため、多価アルコールや多塩基酸を組み合わせて縮重合させたり、ロジン骨格に含まれるベンゼン環にフェノールの縮合体であるレゾールを付加させたり、ジエノフィルである無水マレイン酸やマレイン酸とディールスアルダー反応をさせてマレイン酸や無水マレイン酸骨格を付加させさせたりすること等により、様々なロジン変性樹脂が調製されている。このようなロジン変性樹脂は、各種のものが市販されており、それを入手して用いることも可能である。
【0023】
ロジン変性樹脂としては、ロジンエステル樹脂、マレイン化ロジン、フマル化ロジン樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フマル酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性アルキッド樹脂、ロジン変性ポリエステル樹脂等が挙げられる。本発明においては、いずれのロジン変性樹脂を用いてもよいが、これらの中でも、ロジンエステル樹脂が好ましく用いられる。
【0024】
ロジン変性樹脂の水酸基価は、10mgKOH/g以上であり、15mgKOH/g以上であることが好ましく、20mgKOH/g以上であることがより好ましい。また、ロジン変性樹脂の水酸基価の上限としては、特に限定されないが、一例として200mgKOH/g程度が挙げられ、150mgKOH/g程度が好ましく挙げられ、100mgKOH/g程度がより好ましく挙げられる。
【0025】
また、特に限定されないが、ロジン変性樹脂の酸価としては、100mgKOH/g以下を好ましく挙げることができる。ロジン変性樹脂の酸価が100mgKOH/g以下であることにより、水性OPニスをウエットオンウエットで塗工したときのハジキの抑制と、ミスチングや壷上がりの抑制といった印刷適性とを両立できるので好ましい。ロジン変性樹脂の酸価としては、80mgKOH/g以下であることをより好ましく挙げることができ、50mgKOH/g以下であることをさらに好ましく挙げることができる。
【0026】
ロジン変性樹脂は、後述する溶剤とともに加熱されることにより溶解又は分散されてワニスとされた状態で使用される。ロジン変性樹脂は、溶剤に溶解又は分散されたままの状態である溶解ワニスとして用いてもよいし、ワニスを調製する際、樹脂を溶解させて得た溶解ワニス中に2価以上の金属アルコキシ化合物をゲル化剤として投入し、ゲル化ワニスとされた状態で用いてもよい。これらの中でも、ロジン変性樹脂から溶解ワニスを調製し、これをインキ組成物の調製に用いることにより、印刷中におけるインキ組成物の転移性を向上できるので好ましい。また、ロジン変性樹脂からゲル化ワニスを調製し、これをインキ組成物の調製に用いることにより、インキ組成物に適度な粘弾性が付与され、流動性の向上とミスチングの低減を図ることができるほか、より強靱な硬化被膜を形成できる。
【0027】
インキ組成物中におけるロジン変性樹脂の含有量としては、組成物全体に対して5~50質量%が好ましく挙げられ、組成物全体に対して5~25質量%がより好ましく挙げられ、組成物全体に対して7~20質量%がさらに好ましく挙げられる。
【0028】
本発明のインキ組成物は、上記ロジン変性樹脂に加えてアルキッド樹脂を含むことが好ましい。アルキッド樹脂は、多価アルコールと多塩基酸との縮重合体であり、ポリエステルの一種だが、これらに加えて動植物油及び/又はそれらの脂肪酸とともに縮重合を行うことでも調製される。このとき、動植物油は、多価アルコールとの間でエステル交換されて脂肪酸となり、アルキッド樹脂の構造中に組み込まれる。アルキッド樹脂中における動植物油の脂肪酸を由来とする割合を油長といい、本発明で用いられるアルキッド樹脂の油長としては、20~50質量%が好ましく挙げられる。なお、動植物油の脂肪酸成分を含まないアルキッド樹脂であるオイルフリーアルキッドを用いてもよい。
【0029】
本発明におけるアルキッド樹脂としては各種のものを用いることができるが、中でもヤシ油変性アルキッド樹脂が好ましく用いられる。アルキッド樹脂としてヤシ油変性アルキッド樹脂を用いることにより、インキ組成物の分散安定性が良好になり、また透明性の高い良好な色相が得られる点で好ましい。
【0030】
このようなアルキッド樹脂として、フタル酸(オルトフタル酸)を多塩基酸として用いて調製され、フタル酸骨格を備えたものを好ましく用いることができる。このようなアルキッド樹脂を用いることにより、インキの転移性が向上し、また、白色インキにおける白色度をより高めることができる。
【0031】
インキ組成物中におけるアルキッド樹脂の含有量としては、組成物全体に対して10~40質量%が好ましく挙げられ、組成物全体に対して10~30質量%がより好ましく挙げられ、15~25質量%がさらに好ましく挙げられる。
【0032】
本発明のインキ組成物には、上記のロジン変性樹脂やアルキッド樹脂に加えて、従来金属印刷用インキ組成物の調製に用いられている樹脂を併用することもできる。すなわち、印刷適性、塗膜物性等の要求性能に応じて、上記のロジン変性樹脂やアルキッド樹脂と相溶する公知の樹脂を単独又は複数混合して用いることができる。このような樹脂としては、ポリエステル樹脂、石油樹脂、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、アミノ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等を挙げることができる。
【0033】
[溶剤]
本発明のインキ組成物は、下記一般式(1)で表す化合物よりなる群から選択される少なくとも1つを溶剤として含む。以下、下記一般式(1)で表す化合物よりなる群から選択される少なくとも1つを溶剤のことを特定溶剤とも呼ぶ。
【0034】
【化2】
【0035】
上記一般式(1)中、各Aは、それぞれ独立に決定され、分岐を有してもよい炭素数2~4のアルキレン基である。このようなアルキレン基としては、エチレン基[-(CH-]、プロピレン基[-CH(CH)-CH-、又は-CHCH(CH)-]、トリメチレン基[-(CH-]、イソプロピリデン基[-C(CH-]等を挙げることができる。
【0036】
上記一般式(1)中、Rは、分岐及び/又は環構造を備えてもよい炭素数1~13のアルキル基である。なお、このアルキル基は、脂肪族基のみならす脂環式基であってもよい。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、デシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0037】
上記一般式(1)中、nは、2~8の整数である。nが2以上であることにより、印刷機上でのインキ組成物の安定性を付与するだけの、特定溶剤の十分な沸点を確保できるので好ましく、nが8以下であることにより、インキ組成物の溶剤として好ましい粘度とすることができる。
【0038】
上記一般式(1)で表す化合物の例としては、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノオクチルエーテル、ジプロピレングリコールトリデシルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノデシルエーテル、テトラプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、ペンタプロピレングリコールモノブチルエーテル、ヘキサプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0039】
本発明のインキ組成物中の特定溶剤の含有量としては、組成物全体に対して5~40質量%が好ましく挙げられ、組成物全体に対して10~30質量%がより好ましく挙げられる。特定溶剤の含有量が組成物全体に対して5質量%以上であることにより、インキ組成物におけるロジン変性樹脂の相溶性を高めることができるとともに、印刷後に水性OPニスをウエットオンウエットで塗工したときのハジキを効果的に抑制できるので好ましい。
【0040】
ここで、上述のロジン変性樹脂は、その70gを130℃に加温されたトリプロピレングリコールモノブチルエーテルの30gに60分間撹拌して溶解させたとき、n-ヘキサントレランスが50g/5gを超える溶解ワニスを与えるものであることが好ましい。なお、n-トレランスの測定は、後述するように特に手間を要するものでもないので、この選択作業は、過剰な試行錯誤を必要とするものでもない。このような条件を満足するロジン変性樹脂を用いることにより、インキ組成物中におけるロジン変性樹脂の相溶性を良好なものにすることができ、印刷中におけるインキ組成物の転移性をより高めることができる。また、上記のトリプロピレングリコールモノブチルエーテルとは、3分子のプロピレンオキシドが重合してなるトリプロピレングリコールとブタノールとのエーテルであり、本発明における特定溶剤の一つである。
【0041】
次に、本発明における、樹脂のn-ヘキサントレランスの測定方法について説明する。まず、測定対象となるロジン変性樹脂70gを用意し、これを130℃に加温された30gのトリプロピレングリコールモノブチルエーテル中で60分間撹拌することで溶解させて、溶解ワニスを調製する。得られた溶解ワニスを室温まで放冷してからビーカーに5g採取し、これをビーカー内の液温を25℃に維持した状態にて、ビーカーの内の溶解ワニスにn-ヘキサンを少量ずつ撹拌しながら加え、ビーカー内の液体が白濁を始めるまでに要したn-ヘキサンの質量(g)を求める。求めたn-ヘキサンの質量(g)がn-ヘキサントレランス(g/5g)となる。なお、この測定は、白濁化を生じる直前の溶液にn-ヘキサンを1滴添加しただけで即座に白濁化を始めるほど鋭敏なものなので、測定者の違いによる白濁化の判断のブレによる測定誤差は特に問題とはならない。
【0042】
[着色顔料]
着色顔料は、インキ組成物に着色力を付与するための成分である。着色顔料としては、従来から印刷インキ組成物に使用される有機及び/又は無機顔料を特に制限無く挙げることができる。
【0043】
このような着色顔料としては、ジスアゾイエロー(ピグメントイエロー12、ピグメントイエロー13、ピグメントイエロー17、ピグメントイエロー1)、ハンザイエロー等のイエロー顔料、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウオッチングレッド等のマゼンタ顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー等のシアン顔料、カーボンブラック等の黒色顔料、酸化チタン等の白色顔料、蛍光顔料等が例示される。また、インキ組成物に金色や銀色等の金属色を付与するための金属粉顔料も本発明では着色顔料として扱う。このような金属粉顔料としては、金粉、ブロンズパウダー、アルミニウムパウダーをペースト状に加工したアルミニウムペースト、雲母パウダー等を挙げることができる。
【0044】
着色顔料の添加量としては、インキ組成物の全体に対して5~50質量%程度が例示されるが、特に限定されない。なお、イエロー顔料を使用してイエローインキ組成物を、マゼンタ顔料を使用してマゼンタインキ組成物を、シアン顔料を使用してシアンインキ組成物を、黒色顔料を使用してブラックインキ組成物をそれぞれ調製する場合には、補色として、他の色の顔料を併用したり、他の色のインキ組成物を添加したりすることも可能である。
【0045】
[その他の成分]
本発明のインキ組成物には、その他の成分として、必要に応じて公知の硬化剤、顔料分散剤、上記特定溶剤以外の溶剤、ワックス、シリカ粒子、安定剤等を添加することができる。
【0046】
硬化剤としては、例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂を用いることができる。
【0047】
上記特定溶剤以外の溶剤としては、例えば、沸点範囲が230~400℃程度の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素、アルキルベンゼン等の芳香族炭化水素、高級アルコール等を挙げることができる。
【0048】
シリカ粒子は、SiOのパウダーとして市販されているものであり、特に表面処理がされていないか親水化処理のされた親水性のものや、疎水化処理された疎水性のもの等を容易に入手することができる。これらのシリカ粒子の中でも、本発明のインキ組成物では、親水性のシリカ粒子が好ましく用いられる。親水性のシリカ粒子を用いることにより、印刷中におけるインキ組成物の転移性をより良好なものにすることができるとともに、インキ組成物の流動性を高めることができるので好ましい。インキ組成物中におけるシリカ粒子の含有量としては、1~8質量%が好ましく挙げられ、2~5質量%がより好ましく挙げられる。
【0049】
本発明のインキ組成物は、着色顔料、樹脂、特定溶剤を含む溶剤等の各成分を混合し、ロールミル、ボールミル、ビーズミル等を用いて常法によって調製できる。インキ組成物の粘度としては、ラレー粘度計による25℃での値が10~70Pa・sであることを例示できるが、特に限定されない。
【0050】
本発明のインキ組成物における金属印刷用の金属としては、特に限定されないが、例えば亜鉛引き又は錫引き鉄板、アルミニウム板、あるいはこれら金属素材からなる金属缶等が挙げられる。
【0051】
また、印刷されたインキ組成物の上に塗工する水性OPニスとしては、通常使用されているものを用いることができ、具体的には、水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性アルキッド樹脂、水性エポキシ樹脂又はこれら2種以上の変性樹脂等をバインダーとし、硬化剤としてのアミノ樹脂を併用したもの等を挙げることができる。
【0052】
インキ組成物及び水性OPニスを用いて金属素材面に印刷する場合は、まず、本発明のインキ組成物を用いてドライオフセット印刷機やオフセット印刷機等により印刷を行い、インキ組成物が乾燥しない状態(ウエットオンウエット)で、水性OPニスをコーター等によりオーバーコーティングし、その後、150~280℃で数秒~数分間焼き付けを行えばよい。
【実施例0053】
以下、実施例を示すことにより本発明のインキ組成物をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
[アルキッド樹脂の合成]
ネオペンチルグリコール5.98質量部、ペンタエリスリトール8.53質量部、ヤシ油脂肪酸10.10質量部、イソフタル酸11.95質量部及びテレフタル酸2.48質量部を、混合物の酸価が7mgKOH/gになるまで窒素雰囲気下にて220℃で反応させて1段階目のエステル化を行い、その後無水トリメリト酸0.70質量部を加えて、窒素雰囲気下にて165℃で30分間加熱して2段階目のエステル化を行った。これらのエステル化反応は、常法に従って行い重量平均分子量15303、数平均分子量1484のアルキッド樹脂を得た。このアルキッド樹脂に、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル(これは上記特定溶剤に該当する。)を21.8質量部、及びトリエタノールアミン2.0質量部を加えてアルキッド樹脂ワニスとした。
【0055】
[ワニス1の調製]
ロジンエステル樹脂(水酸基価40~50mgKOH/g、酸価10~20mgKOH/g、重量平均分子量744、数平均分子量701)61.6質量部及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテル35.9質量部を130℃にて1時間加熱してこれらを溶解させ、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレートを2.5質量部加えて130℃で30分間加熱してワニス1を得た。このワニス1は、ロジンエステル樹脂(水酸基価40~50mgKOH/g)を含むゲル化ワニスである。なお、ワニス1の調製に用いたロジンエステル樹脂について、本願発明所定の手順でn-ヘキサントレランスを求めたところ、50<g/5gだった。
【0056】
[ワニス2の調製]
ロジンエステル樹脂(水酸基価20~30mgKOH/g、酸価<10mgKOH/g、重量平均分子量632、数平均分子量565)63.2質量部及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテル36.8質量部を130℃にて1時間加熱してこれらを溶解させ、ワニス2を得た。このワニス2は、ロジンエステル樹脂(水酸基価20~30mgKOH/g)を含む溶解ワニスである。なお、ワニス2の調製に用いたロジンエステル樹脂について、本願発明所定の手順でn-ヘキサントレランスを求めたところ、50<g/5gだった。
【0057】
[ワニス3の調製]
上記ワニス2の調製で用いたのと同じロジンエステル樹脂(水酸基価20~30mgKOH/g、酸価<10mgKOH/g、重量平均分子量632、数平均分子量565)61.4質量部及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテル35.7質量部を130℃にて1時間加熱してこれらを溶解させた後、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレートを2.9質量部加えて130℃で30分間加熱してワニス3を得た。ワニス3は、上記ワニス2の調製で用いたのと同じロジンエステルを用いて調製されたゲル化ワニスである。
【0058】
[ワニス4の調製]
マレイン化ロジン樹脂(水酸基価≒0mgKOH/g、酸価220≦mgKOH/g、重量平均分子量877、数平均分子量766)61.4質量部及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテル35.5質量部を130℃にて1時間加熱してこれらを溶解させ、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレートを3.1質量部加えて130℃で30分間加熱してワニス4を得た。このワニス4は、マレイン化ロジン樹脂(水酸基価≒0mgKOH/g)を含むゲル化ワニスである。なお、ワニス4の調製に用いたマレイン化ロジン樹脂について、本願発明所定の手順でn-ヘキサントレランスを求めたところ、4.9g/5gだった。
【0059】
[実施例1~6、比較例1]
表1の処方にて各成分を混合し、得られた混合物を三本ロールミルで混練することで実施例1~6及び比較例1の各インキ組成物を調製した。なお、表1において、「白色顔料」は、酸化チタンであり、「疎水性シリカ」は、表面疎水処理シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名アエロジルR972)であり、「親水性シリカ」は、表面未処理シリカ粒子(株式会社トクヤマ製、製品名レオロシールCP102)であり、「クレー」は、有機親和性ベントナイト(BYK社製、製品名CRAYTONE-APA)であり、「特定溶剤」は、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルである。また、表1における各配合量の数値は、質量部を意味する。
【0060】
[流動性評価]
実施例1~6及び比較例1の各インキ組成物のそれぞれについて、JIS K5101-6-1:2004に従って、スプレッドメーターを用いて25℃で測定したスロープを表1の「スロープ」欄にそれぞれ記載した。なお、スロープ値が大きいほど、そのインキ組成物の流動性が高いことを意味する。
【0061】
[転移性]
実施例1~6及び比較例1の各インキ組成物のそれぞれについて、次の手順で転移性を評価した。まず、RIテスター(株式会社明製作所製)4分割ロールを用いてインキ組成物0.15ccをブランケット(株式会社金陽社製、エアータックFS)上に展色し、10分間又は20分間放置した後に、展色されたブランケット上に印刷対象であるアルミ板を貼り付け、これを加圧した際に、展色されたインキ組成物がアルミ板に転写されるか、及びその転写の程度を目視で判断することでインキ組成物の転移性を評価した。評価基準は次の通りとし、その結果を表1の「転移性評価」欄に示す。
○ :20分間放置した後も良好に転写された
△~○:20分間放置した場合は転写がやや不足したが、10分間放置では良好に転写された
△ :20分間放置した場合は転写されなかったが、10分間放置では良好に転写された
× :10分間放置した場合でも転写されなかった
【0062】
【表1】
【0063】
実施例1~6のインキ組成物と比較例1のインキ組成物とを対比すると、本発明所定の水酸基価を備えたロジン変性樹脂と特定溶剤とを組み合わせて用いることにより、アルキッド樹脂の油長を変えることなくインキ組成物の転移性を向上できることがわかる。また、実施例1と実施例2とを対比すると、親水性シリカ粒子を用いたインキ組成物は、疎水性シリカ粒子を用いたインキ組成物よりも流動性を高く維持できることがわかる。