(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159392
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20241031BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20241031BHJP
C08L 57/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L53/02
C08L57/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123978
(22)【出願日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2023073398
(32)【優先日】2023-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】落合 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 定之
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BA013
4J002BP01X
4J002CL01W
4J002GK01
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】容易に成形することができ、高温剛性と制振性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を提供すること。
【解決手段】
示差走査熱量測定(DSC)による融点が200℃以上かつアミノ末端基量が3.0×10-5mol/g以上であるポリアミド樹脂(A)、反応性官能基を0.1重量%以上有する芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックとイソブチレンを主体とする重合体ブロックを含むブロック共重合体(B)、および水素化石油樹脂(C)を配合してなる熱可塑性エラストマー組成物であって、ポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の組成比(重量比)が(A):(B)=40:60~90:10であり、前記ポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の合計100重量部に対し、水素化石油樹脂(C)を0.01~20重量部配合してなる熱可塑性エラストマー組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量測定(DSC)による融点が200℃以上かつアミノ末端基量が3.0×10-5mol/g以上であるポリアミド樹脂(A)、反応性官能基を0.1重量%以上有する芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックとイソブチレンを主体とする重合体ブロックを含むブロック共重合体(B)、および水素化石油樹脂(C)を配合してなる熱可塑性エラストマー組成物であって、ポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の組成比(重量比)が(A):(B)=40:60~90:10であり、前記ポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の合計100重量部に対し、水素化石油樹脂(C)を0.01~20重量部配合してなる熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマー組成物の周波数100Hz、温度23℃における損失正接が0.10以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形品。
【請求項4】
請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる繊維。
【請求項5】
請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなるシート。
【請求項6】
請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる発泡成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂(A)、反応性官能基を有する芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックとイソブチレンを主体とする重合体ブロックを含むブロック共重合体(B)および水素化石油樹脂(C)からなる熱可塑性エラストマー組成物、ならびにそれを用いた成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、柔軟性を有する高分子材料としては、天然ゴムまたは合成ゴム等のゴム類に架橋剤や補強剤などを配合して高温高圧下で架橋したものが汎用的に用いられている。しかしながら、このようなゴム類は、高温高圧下で長期にわたって架橋及び成形を行う工程が必要であり、加工性に劣るといった課題があった。また、架橋したゴムは熱可塑性を示さないため、熱可塑性樹脂のようにリサイクル成形が一般的に不可能である。そのため、通常の熱可塑性樹脂と同じように射出成形、熱プレス成形、および押出成形等の汎用の溶融成形技術を利用して成形品を容易に製造することのできる熱可塑性エラストマーが近年種々開発されている。
【0003】
特許文献1には、耐衝撃性、ガスバリア―性、制振性に優れる熱可塑性樹脂組成物として、極性を有する熱可塑性樹脂と、イソブチレンを主成分とする重合体ブロックとイソブチレンを主成分としない単量体成分からなる重合体ブロックとから構成されるイソブチレン系ブロック共重合体に、酸無水物基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基およびエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を少なくとも一方の重合体ブロックに有する変性ブロック重合体、を含有する樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1において具体的に開示された、反応性官能基を有するイソブチレン系ブロック共重合体とポリアミド6からなる樹脂組成物は、イソブチレン系ブロック共重合体とポリアミド6との反応性が低く、23℃における樹脂組成物の損失正接が低く、優れた高温剛性と制振性を得ることができなかった。
【0006】
本発明は、容易に成形することができ、高温剛性と制振性が向上した熱可塑性エラストマー組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有するものである。
(1)示差走査熱量測定(DSC)による融点が200℃以上かつアミノ末端基量が3.0×10-5mol/g以上であるポリアミド樹脂(A)、反応性官能基を0.1重量%以上有する芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックとイソブチレンを主体とする重合体ブロックを含むブロック共重合体(B)、および水素化石油樹脂(C)を配合してなる熱可塑性エラストマー組成物であって、ポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の組成比(重量比)が(A):(B)=40:60~90:10であり、前記ポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の合計100重量部に対し、水素化石油樹脂(C)を0.01~20重量部配合してなる熱可塑性エラストマー組成物。
(2)前記熱可塑性エラストマー組成物の周波数100Hz、温度23℃における損失正接が0.10以上であることを特徴とする(1)に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(3)(1)または(2)に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形品。
(4)(1)または(2)に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる繊維。
(5)(1)または(2)に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなるシート。
(6)(1)または(2)のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる発泡成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、汎用の溶融成形技術を利用して容易に成形することができる。また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は制振性、高温剛性、さらには耐ブロッキング性、および紡糸性に優れ、例えば、自動車用途、電気・電子用途、繊維用途、フィルム用途等に展開することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明は示差走査熱量測定(DSC)による融点が200℃以上かつアミノ末端基量が3.0×10-5mol/g以上であるポリアミド樹脂(A)(以下、ポリアミド樹脂(A)と略記することがある)、反応性官能基を0.1重量%以上有する芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックとイソブチレンを主体とする重合体ブロックを含むブロック共重合体(B)(以下、共重合体(B)と略記することがある)、および水素化石油樹脂(C)を配合してなる熱可塑性エラストマー組成物である。
【0011】
高温剛性および成形加工性に優れる特性を有するポリアミド樹脂(A)に、反応性官能基を0.1重量%以上有する共重合体(B)を特定の比率で配合することにより、ポリアミド樹脂(A)と共重合体(B)が適度に反応し、ポリアミドの柔軟性が向上する。さらに、水素化石油樹脂(C)を特定量配合することで、柔軟化した熱可塑性エラストマー組成物の損失正接のピーク温度を任意の温度まで移動させることで熱可塑性エラストマー組成物に制振性を付与することができる。
【0012】
本発明に用いられるポリアミド樹脂(A)は、DSCによる融点が200℃以上のポリアミド樹脂である。
【0013】
ここで、本発明におけるポリアミド樹脂(A)のDSCによる融点は、次の方法により求めることができる。まず、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC-7)を用い、2点公正(インジウム、鉛)、ベースライン補正を行う。ポリアミド樹脂のサンプルを8~10mg秤量し、サンプルを昇温速度20℃/分の条件で昇温し、昇温過程において観察される融解吸熱ピークを融点とする。
【0014】
ポリアミド樹脂(A)の融点が200℃より低いと、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の高温剛性が低下する。ポリアミド樹脂(A)の融点は205℃以上が好ましく、210℃以上が好ましい。
【0015】
一方、ポリアミド樹脂(A)の融点の上限は、特に制限はないが、350℃以下であることが共重合体(B)の機械特性を低下させない傾向にあるので好ましく、より好ましくは320℃以下、さらに好ましくは300℃以下である。
【0016】
ポリアミド樹脂(A)の融点を上記範囲にする手段としては、例えば、融点の異なるポリアミド樹脂から所望の融点を有するものを選択する方法や、ポリアミド樹脂の重合度や共重合比などを調整する方法が挙げられる。
【0017】
ポリアミド樹脂(A)は、融点が上記の条件を満たすポリアミド樹脂であれば、特に制限はないが、一般的に、アミノ酸、ラクタムまたはジアミンとジカルボン酸を主たる原料として得ることができる。その原料の代表例としては、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸;ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム;テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;メタキシレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン;アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が挙げられる。本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを用いることができる。かかるポリアミド樹脂を2種以上使用してもよい。
【0018】
本発明において好ましく用いられるポリアミド樹脂(A)の具体的な例としては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/M5T)、ポリキシリレンアジパミド(ポリアミドXD6)およびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられる。とりわけ好ましいものとしては、ポリアミド6、ポリアミド610、ポリアミド66が挙げられ、より好ましいものとしては、ポリアミド6が挙げられる。
【0019】
ポリアミド樹脂(A)のアミノ末端基量は、3.0×10-5mol/g以上である。アミノ末端基量が、3.0×10-5mol/g以上であれば、共重合体(B)との反応性を高めることができる。ポリアミド樹脂(A)のアミノ末端基量は3.5×10-5mol/g以上がより好ましく、4.0×10-5mol/g以上がさらに好ましい。アミノ末端基量の上限は、共重合体(B)との反応性から12.0×10-5mol/g以下であり、11.5×10-5mol/gが好ましく、11.0×10-5mol/gがより好ましく、10.8×10-5mol/gがさらに好ましい。ここで、ポリアミド樹脂(A)のアミノ末端基量は、ポリアミド樹脂(A)をフェノール・エタノール混合溶媒(83.5:16.5(体積比))に溶解し、0.02N塩酸水溶液を用いて滴定することにより求めることができる。アミノ末端基量は、重合時のジアミンならびにジカルボン酸の比率を調整する方法や、末端カルボン酸をジアミンで反応させる方法が挙げられる。
【0020】
ポリアミド樹脂(A)の重合度には特に制限がないが、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度が、1.5~7.0の範囲であることが好ましい。相対粘度が1.5以上であれば、成形時の熱可塑性エラストマー組成物の溶融粘度が適度に高くなり、成形時の空気の巻き込みを抑制し、成形性をより向上させることができる。一方、相対粘度が7.0以下であれば、成形時の熱可塑性エラストマー組成物の溶融粘度が適度に低くなり、成形性をより向上させることができる。ポリアミド樹脂(A)の相対粘度を7.0以下とすることでアミノ末端基量を3.0×10-5mol/g以上とすることができる。
【0021】
本発明に用いられる共重合体(B)は、反応性官能基を0.1重量%以上有する芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックとイソブチレンを主体とする重合体ブロックを含むブロック共重合体である。
【0022】
共重合体(B)における反応性官能基とは、特に制限されないが、例えば、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩、水酸基、酸無水物基、エポキシ基、イソシアネート基、メルカプト基、オキサゾリン基、スルホン酸基などから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。この中でもアミノ基、カルボキシル基、カルボキシル金属塩、エポキシ基、酸無水物基、オキサゾリン基は反応性が高く、しかも分解、架橋などの副反応が少ないため好ましく用いられる。
【0023】
上記記載の酸無水物基を構成する酸無水物とは、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水エンディック酸、無水シトラコン酸、1-ブテン-3,4-ジカルボン酸無水物などを挙げることができる。これらは2種類以上同時に併用しても差し支えない。このうち、無水マレイン酸、無水イタコン酸が好適に用いられる。
【0024】
芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックは、芳香族ビニル系化合物に由来するユニットが60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上から構成される重合体ブロックである。
【0025】
芳香族ビニル系化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,6-ジメチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチル-o-メチルスチレン、α-メチル-m-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、β-メチル-o-メチルスチレン、β-メチル-m-メチルスチレン、β-メチル-p-メチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、α-メチル-2,6-ジメチルスチレン、α-メチル-2,4-ジメチルスチレン、β-メチル-2,6-ジメチルスチレン、β-メチル-2,4-ジメチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,6-ジクロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、α-クロロ-o-クロロスチレン、α-クロロ-m-クロロスチレン、α-クロロ-p-クロロスチレン、β-クロロ-o-クロロスチレン、β-クロロ-m-クロロスチレン、β-クロロ-p-クロロスチレン、2,4,6-トリクロロスチレン、α-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、α-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、o-ブロモメチルスチレン、m-ブロモメチルスチレン、p-ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの中でも、工業的な入手性やガラス転移温度の点から、スチレン、α-メチルスチレン、およびこれらの混合物が好ましい。
【0026】
イソブチレンを主体とする重合体ブロックは、イソブチレンに由来するユニットが60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは、80重量%以上から構成される重合体ブロックである。
【0027】
芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロック、イソブチレンを主体とする重合体ブロックのいずれの重合体ブロックも、共重合成分として、相互の単量体を使用することができるほか、その他のカチオン重合可能な単量体成分を使用することができる。このような単量体成分としては、ジエン類、脂肪族オレフィン類、シラン類、ビニルエーテル類、ビニルカルバゾール、β-ピネン、アセナフチレンなどの単量体が例示できる。これらはそれぞれ単独でまたは2個以上を組合せて使用することができる。
【0028】
ジエン系単量体としては、ブタジエン、イソブチレン、ヘキサジエン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、ジビニルベンゼン、エチリデンノルボルネンなどが挙げられる。
【0029】
脂肪族オレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、ペンテン、ヘキセン、シクロヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、ビニルシクロヘキサン、オクテン、ノルボルネンなどが挙げられる。
【0030】
シラン化合物としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ジビニルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジメチルシラン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、トリビニルメチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0031】
ビニルエーテル系単量体としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、(n-、イソ)プロピルビニルエーテル、(n-、sec-、tert-、イソ)ブチルビニルエーテル、メチルプロペニルエーテル、エチルプロペニルエーテルなどが挙げられる。
【0032】
芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックとイソブチレンを主体とする重合体ブロックの割合に関しては、特に制限はないが、損失正接の点から、共重合体(B)における芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックの含有量が10~50重量%であることが好ましく、10~40重量%であることがより好ましい。芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックの含有量が、10重量%以上であると、十分な機械的物性が発現され、50重量%以下とすることで、制振性を得ることができる。
【0033】
共重合体(B)の分子量には特に制限はないが、成形加工性、流動性、ゴム弾性などの面から、GPC測定による重量平均分子量で5,000~400,000であることが好ましく、10,000~200,000であることがより好ましい。重量平均分子量が5,000以上であると、十分な機械的物性が発現され、一方、400,000以下とすることで成形品の加工性および流動性に優れる。
【0034】
前記共重合体(B)の反応性官能基は、共重合体(B)を100重量%としたときに、0.1重量%以上である。好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.15重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上である。反応性官能基量の上限は特にないが好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは18重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0035】
反応性官能基の導入量が0.1重量%未満の場合、ポリアミド樹脂(A)との反応性が不足する。一方、反応性官能基の量が20重量%より多くなるとポリアミド樹脂(A)と共重合体(B)の反応が過剰に進み、熱可塑性エラストマー組成物の耐ブロッキング性が低下する。
【0036】
本発明におけるポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の配合量は、ポリアミド樹脂(A)と共重合体(B)との割合(重量比)(A):(B)が40:60~90:10である。(A):(B)が40:60よりも共重合体(B)が多くなると、ポリアミド樹脂(A)と共重合体(B)の反応が過剰に進み、ポリアミド樹脂の高温剛性が発現しない。一方、(A):(B)が90:10よりも共重合体(B)が少なくなると、熱可塑性エラストマー組成物の損失正接が低く、制振性を付与することができない。(A):(B)は40:60~90:10であり、45:55~90:10が好ましく、45:55~85:15がより好ましく、50:50~85:15がさらに好ましい。
【0037】
本発明はポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の合計100重量部に対し、水素化石油樹脂(C)を0.01~20重量部配合してなる。
【0038】
水素化石油樹脂(C)とは、石油ナフサを熱分解して必要な留分を採取した残りの留分のうち、主としてC5留分やC9留分から不飽和炭化水素を単離することなく、酸性触媒により固化した石油樹脂、を水素化した樹脂である。
【0039】
前記水素化石油樹脂としては、例えば、石油ナフサの熱分解で生成するペンテン、イソプレン、ピペリン、1,3-ペンタジエン等のC5留分を共重合して得られるC5系石油樹脂の水添化樹脂である、水添ジシクロペンタジエン系樹脂及び部分水添芳香族変性ジシクロペンタジエン系樹脂や、石油ナフサの熱分解で生成するインデン、ビニルトルエン、α-またはβ-メチルスチレン等のC9留分を共重合して得られるC9系水素化石油樹脂、前記C5留分と前記C9留分の共重合水素化石油樹脂が挙げられる。
【0040】
前記水添ジシクロペンタジエン系樹脂の市販品としては、例えば、ドーネックス(株)製エスコレッツ(登録商標)5300,5400シリーズ;イーストマンケミカルジャパン(株)製Eastotac(登録商標)Hシリーズが挙げられる。
【0041】
前記部分水添芳香族変性ジシクロペンタジエン系樹脂の市販品としては、例えば、トーネックス(株)製エスコレッツ(登録商標)5600シリーズが挙げられる。
【0042】
前記C9系水素化石油樹脂の市販品としては、例えば、荒川化学工業(株)製アルコン(登録商標)P及びMシリーズ;イーストマンケミカル社製Polystolynが挙げられる。
【0043】
C5留分とC9留分の共重合水素化石油樹脂としては、例えば、出光興産(株)製アイマーブ(登録商標)シリーズが挙げられる。
【0044】
共重合体(B)との相溶性の観点からC9系水素化石油樹脂が好ましい。
【0045】
本発明における水素化石油樹脂(C)の配合量は、ポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の合計100重量部に対して、0.01~20重量部である。配合量が0.01重量部未満の場合は、共重合体(B)ガラス転移温度を高温側にシフトさせることができず、熱可塑性エラストマー組成物の周波数100Hz、温度23℃における損失正接が0.10以上にならないため、制振性に劣る。一方で20重量部を超えると、ブリードアウトによる表面タックが発生するため好ましくない。水素化石油樹脂の配合量は、0.01~15重量部が好ましく、0.1~15重量部がより好ましく、1.5~15重量部がさらに好ましい。
【0046】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の周波数100Hz、温度23℃における損失正接は0.10以上が好ましい。周波数100Hz、温度23℃における損失正接を0.10以上とすることで、熱可塑性エラストマー組成物からなる成形品に制振性を付与することができる。
【0047】
周波数100Hz、温度23℃の時の損失正接は以下の手法で求めることができる。粘弾性測定装置(セイコーインスツルメンツ製、DMS6100)を使用して、窒素雰囲気下、昇温速度2℃/分、周波数100Hzの条件で測定し、貯蔵弾性率と損失弾性率を求める。温度23℃の時の損失弾性率を貯蔵弾性率で除することで、温度23℃の時の損失正接を求める。
【0048】
周波数100Hz、温度23℃における損失正接を0.10以上にするためには、ポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の配合比をポリアミド樹脂(A)と共重合体(B)との割合(重量比)(A):(B)が40:60~90:10とし、かつ水素化石油樹脂(C)をポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の合計100重量部に対し、0.01~20重量部配合することで達成できる。
【0049】
周波数100Hz、温度23℃における損失正接は0.10以上が好ましく、好ましくは0.13以上、より好ましくは0.15以上である。
【0050】
周波数100Hz、温度23℃における損失正接は特に上限はないが、成形品の形状保持の観点から、5.0以下が好ましい。
【0051】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は耐ブロッキング性に優れる。ここでの耐ブロッキング性はペレットの固着性を示す。耐ブロッキング性が良いほど、ペレットのハンドリング性が良いことを意味する。
【0052】
耐ブロッキング性は以下の手法で確認することができる。熱可塑性エラストマー組成物からなるペレットを80℃で15時間真空乾燥させる。その際のペレット同士の固着(ブロッキング)を確認する。
【0053】
耐ブロッキング性はポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の配合比をポリアミド樹脂(A)と共重合体(B)との割合(重量比)(A):(B)が40:60~90:10とし、かつ水素化石油樹脂(C)をポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の合計100重量部に対し、0.01~20重量部配合することで達成できる。
【0054】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は紡糸性に優れる。
【0055】
紡糸性は以下の手法で確認することができる。熱可塑性エラストマー組成物ペレットを80℃で15時間真空乾燥させる。真空乾燥したペレットを東洋精機製作所製キャピログラフ1C(シリンダー径9.55mm、オリフィスの長さ10.0mm、内径1.0mm)を用い、試験温度を280℃に設定したシリンダー中に熱可塑性エラストマー組成物を充填し、圧密して30分間保持することによって溶融させた後、せん断速度24.3sec-1の条件で吐出し、引き取り速度200m/minで引き取り、紡糸性を確認する。
【0056】
優れた紡糸性を有するためには、ポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の配合比をポリアミド樹脂(A)と共重合体(B)との割合(重量比)(A):(B)が40:60~90:10とし、かつ水素化石油樹脂(C)をポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の合計100重量部に対し、0.01~20重量部配合することが好ましい。
【0057】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物はシート成形性に優れる。
【0058】
シート成形性は以下の手法で確認することができる。熱可塑性エラストマー組成物ペレットを80℃で15時間真空乾燥させる。真空乾燥したペレットを押出機により溶融・混錬し、金型より一定方向に樹脂を押し出し、ロールに定着させることでシート状に成形する。
【0059】
優れたシート成形性を有するためには、ポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の配合比をポリアミド樹脂(A)と共重合体(B)との割合(重量比)(A):(B)が40:60~90:10とし、かつ水素化石油樹脂(C)をポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の合計100重量部に対し、0.01~20重量部配合することが好ましい。
【0060】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、前記成分(A)、成分(B)および成分(C)以外のその他の成分を配合しても構わない。その他の成分としては、例えば、充填剤、銅化合物、カリウム化合物、前記成分(A)以外の熱可塑性樹脂類、前記成分(B)以外のゴム質重合体、各種添加剤類を挙げることができる。
【0061】
例えば、充填剤を配合することにより、成形品の強度および寸法安定性を向上させることができる。充填剤の形状は、繊維状であっても、非繊維状であってもよく、繊維状充填剤と非繊維状充填剤を組み合わせて用いてもよい。繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ガラスミドルファイバー、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硝酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石こう繊維、金属繊維などが挙げられる。非繊維状充填剤としては、例えば、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩;アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの金属炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属硫酸塩;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物;ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素および炭化珪素などが挙げられる。これらは中空であってもよい。また、これら繊維状および/または非繊維状充填剤をカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械物性を得る観点において好ましい。カップリング剤としては、例えば、イソシアネート系化合物、有機シラン化合物、有機チタネート化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物が挙げられる。
【0062】
銅化合物としては例えば、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、酢酸銅、銅アセチルアセトナート、炭酸銅、ほうフッ化銅、クエン酸銅、水酸化銅、硝酸銅、硫酸銅、シュウ酸銅等が挙げられる。銅化合物として、これらを2種以上含有してもよい。これら銅化合物のなかでも、工業的に入手できるものが好ましく、ハロゲン化銅が好適である。ハロゲン化銅としては、例えば、ヨウ化銅、臭化第一銅、臭化第二銅、塩化第一銅などが挙げられる。銅化合物として、より好ましくはヨウ化銅である。
【0063】
カリウム化合物としては、例えば、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、フッ化カリウム、酢酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、硝酸カリウムなどが挙げられる。カリウム化合物として、これらを2種以上含有してもよい。これらカリウム化合物の中でも、ヨウ化カリウムが好ましい。カリウム化合物を含むことにより、成形品の表面外観、耐候性および耐金型腐食性を向上させることができる。
【0064】
カリウム化合物は、銅の遊離や析出を抑制するため、銅化合物とカリウム化合物を併用することによって、銅化合物とポリアミド樹脂(A)との反応を促進する効果があると考えられている。
【0065】
熱可塑性樹脂類としては、例えば、前記成分(A)以外のポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリスチレン樹脂やABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリアルキレンオキサイド樹脂等が挙げられる。かかる熱可塑性樹脂を2種以上配合することも可能である。なお、前記ポリアミド樹脂(A)以外のポリアミド樹脂を配合する場合、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、5重量部以下が好ましい。
【0066】
前記成分(B)のゴム質重合体としては、例えば、スチレン系ゴム、オレフィン系樹脂、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、フッ素系ゴム、ニトリル系ゴム、ビニル系ゴム、ウレタン系ゴム、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、アイオノマーなどが挙げられる。これらは反応性官能基を有していてもよく、さらにこれらを2種以上配合してもよい。
【0067】
ゴム質重合体の構造は特に限定されず、例えば、ゴムからなる少なくとも1つの層と、それとは異種の重合体からなる1つ以上の層からなる、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造体であってもよい。多層構造体を構成する層の数は、2層以上であればよく、3層以上または4層以上であってもよいが、内部に1層以上のゴム層(コア層)を有することが好ましい。多層構造体のゴム層を構成するゴムの種類は、特に限定されるものではなく、例えば、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分、エチレン成分、プロピレン成分、イソブテン成分などを重合させて得られるゴムが挙げられる。多層構造体のゴム層以外の層を構成する異種の重合体の種類は、熱可塑性を有する重合体であれば特に限定されるものではないが、ゴム層よりもガラス転移温度が高い重合体が好ましい。熱可塑性を有する重合体としては、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和グリシジル基含有単位、不飽和ジカルボン酸無水物単位、脂肪族ビニル単位、芳香族ビニル単位、シアン化ビニル単位、マレイミド単位、不飽和ジカルボン酸単位およびその他のビニル単位などを含有する重合体が挙げられる。
【0068】
各種添加剤類としては、例えば、着色防止剤、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミンなどの酸化防止剤、エチレンビスステアリルアミドや高級脂肪酸エステルなどの離型剤、可塑剤、熱安定剤、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などが挙げられる。
【0069】
本発明における熱可塑性エラストマー組成物は高温剛性に優れる。ここで高温剛性の指標として、熱可塑性エラストマー組成物の融点を用いる。熱可塑性エラストマー組成物の融点が高いほど高温剛性に優れると判断する。
【0070】
熱可塑性エラストマー組成物の融点が200℃以上であることで、成形品の形状保持の観点から好ましい。熱可塑性エラストマーの融点は200℃以上が好ましく、205℃以上がより好ましく、210℃以上がさらに好ましい。
【0071】
一方、熱可塑性エラストマー組成物の融点の上限は特にないが、生産性の観点から350℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。
【0072】
熱可塑性エラストマー組成物の融点を前記の範囲にするためには、たとえば、DSC測定による融点が200℃以上のポリアミド樹脂(A)を用いることで達成できる。
【0073】
次に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法について説明する。本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、例えば、ポリアミド樹脂(A)、共重合体(B)、水素化石油樹脂(C)および必要に応じてその他の成分を一括混練する方法などが挙げられる。混練装置としては、例えば、バンバリーミキサー、ロール、押出機などの公知の混練装置を採用することができる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物に各種添加剤類などのその他の成分を配合する場合、これらを任意の段階で配合することができる。例えば、二軸押出機により本発明の熱可塑性エラストマー組成物を製造する場合、ポリアミド樹脂(A)、共重合体(B)、水素化石油樹脂(C)を配合する際にその他の成分を同時に配合する方法や、ポリアミド樹脂(A)、共重合体(B)、水素化石油樹脂(C)を溶融混練中にサイドフィードなどの手法によりその他の成分を配合する方法や、あらかじめポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)にその他の成分を配合して溶融混練後、水素化石油樹脂(C)を配合する方法などが挙げられる。
【0074】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、任意の方法により成形して成形品を得ることが可能であり、成形形状は、任意の形状が可能である。成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形、中空成形、カレンダ成形、圧縮成形、真空成形、発泡成形、ブロー成形、回転成形等が挙げられる。成形形状としては、例えば、ペレット形状、板状、繊維状、ストランド状、フィルムまたはシート状、パイプ状、中空状、箱状などの形状が挙げられる。
【0075】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、発泡成形することが可能である。発泡成形の方法として、例えば、熱可塑性エラストマー組成物を溶融混練する際に熱可塑性エラストマーを発泡させる発泡剤を添加し、溶融混練後成形する方法や、熱可塑性エラストマー組成物を発泡させる発泡剤を成形前に本発明の熱可塑性エラストマー組成物とドライブレンドし、成形する方法である化学発泡や、熱可塑性エラストマー組成物中に超臨界ガスを含浸させて成形する方法や、オートクレーブ内で成形した熱可塑性エラストマー組成物に超臨界ガスを含浸させて発泡させる方法や、熱可塑性エラストマー組成物を溶融混練する際に超臨界ガスを含浸させて発泡させる方法である物理発泡が挙げられる。生産性および品質の観点から物理発泡が好ましい。
【0076】
物理発泡の際に用いる超臨界ガスとしては、熱可塑性エラストマー組成物に溶け込むことができ、かつ不活性であればよく、特に制限はないが、安全性、コスト面から、二酸化炭素、窒素が好ましい。超臨界ガスは、熱可塑性エラストマー組成物100重量部に対して、0.01~20重量部用いることが好ましく、0.05~10重量部がより好ましい。
【0077】
本発明の成形品は制振性性、高温剛性、耐ブロッキング性、紡糸性に優れることから、例えば、自動車用途、電気・電子用途、繊維用途、フィルム用途等に展開することができる。
【実施例0078】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。各実施例及び比較例における評価は次の方法で行った。
【0079】
(1)ポリアミド樹脂の融点
各実施例および比較例で使用するポリアミド樹脂の融点をDSCにより求めた。まず、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC-7)を用い、2点校正(インジウム、鉛)、ベースライン補正を行った。ポリアミド系樹脂を8~10mg秤量し、昇温速度20℃/分の条件で昇温させ、昇温工程において観察される融解吸熱ピーク温度を融点とした。
【0080】
(2)高温剛性:融点
各実施例および比較例により得られた熱可塑性エラストマー組成物ペレットの融点をDSC測定により求めた。まず、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC-7)を用い、2点校正(インジウム、鉛)、ベースライン補正を行った。熱可塑性エラストマー組成物を8~10mg秤量し、昇温速度20℃/分の条件で昇温させ、昇温工程において観察される融解吸熱ピーク温度を融点とした。
【0081】
(3)制振性:損失正接(tanδ)
各実施例および比較例により得られた熱可塑性エラストマー組成物を用いて、作成した80mm×80mm×1mmt平板から40mm×8mm×1mmtの短冊を切り出した。切り出した短冊を用いて粘弾性測定装置(セイコーインスツルメンツ製、DMS6100)を使用して、窒素雰囲気下、昇温速度2℃/分、周波数100Hzの条件で貯蔵弾性率と損失弾性率を求めた。温度23℃の時の損失弾性率を貯蔵弾性率で除することで、温度23℃の時の損失正接(tanδ)を求めた。
【0082】
(4)生産性:ブロッキング
各実施例および比較例により得られた熱可塑性エラストマー組成物ペレットを80℃で15時間真空乾燥させた。その際のペレット同士の固着(ブロッキング)を確認した。
【0083】
(5)紡糸性:高速引き取り性
各実施例および比較例により得られた熱可塑性エラストマー組成物ペレットを80℃で15時間真空乾燥させた。真空乾燥したペレットを東洋精機製作所製キャピログラフ1C(シリンダー径9.55mm、オリフィスの長さ10.0mm、内径1.0mm)を用い、試験温度を280℃に設定したシリンダー中に熱可塑性エラストマー組成物を充填し、圧密して30分間保持することによって溶融させた後、せん断速度24.3sec-1の条件で吐出し、引き取り速度200m/minで引き取り、引き取れたものを〇(紡糸性が良好)、引き取れなかったものを×(紡糸性が良好でない)にした。
【0084】
(6)シート成形性
各実施例および比較例により得られた熱可塑性エラストマー組成物ペレットを80℃で15時間真空乾燥させた。真空乾燥したペレットを押出機により溶融・混錬し、金型より一定方向に樹脂を押し出し、ロールに定着させることでシート状に成形した。シート成形できたものを〇(シート成形性が良好)、できなかったものを×(シート成形性が良好でない)にした。
【0085】
各実施例および比較例に用いた原料と略号を以下に示す。
【0086】
[SIBS-g-MAH-1]
SIBS(SIBSTAR102T)、無水マレイン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)、パーヘキサ25B(日油株式会社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、有機過酸化物)及びIrganox1010(BASFジャパン製、酸化防止剤)を、SIBS:無水マレイン酸:有機過酸化物:酸化防止剤の重量比が100:1.0:0.5:0.5となる割合で、ヘンシェルミキサーによって予備混合した。この予備混合物を二軸押出機(シリンダー温度:200℃)に供給し、溶融条件下にグラフト変性を行うことによって、SIBS-g-MAH-1を得た。その時のSIBS-g-MAH-1に結合している無水マレイン酸量は0.65重量%であった。
【0087】
[SIBS-g-MAH-2]
SIBS(SIBSTAR102T)、無水マレイン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)、パーヘキサ25B(日油株式会社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、有機過酸化物)及びIrganox1010(BASFジャパン製、酸化防止剤)を、SIBS:無水マレイン酸:有機過酸化物:酸化防止剤の重量比が100:0.1:0.05:0.5となる割合で、ヘンシェルミキサーによって予備混合した。この予備混合物を二軸押出機(シリンダー温度:220℃ )に供給し、溶融条件下にグラフト変性を行うことによって、SIBS-g-MAH-2を得た。その時のSIBS-g-MAH-2に結合している無水マレイン酸量は0.04重量%であった。
PA6:ポリアミド6樹脂「東レ(株)製“アミラン”(登録商標)」(融点224℃、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中25℃における相対粘度2.70、アミノ末端基量7.0×10-5mol/g)(ポリアミド樹脂(A)に該当する。)
PA12:ポリアミド12樹脂「ダイセル エボニック(株)“DAIAMID”(登録商標)」(融点178℃、アミノ末端基量1.0×10-5mol/g)
SIBS-g-MAH-1:[SIBS-g-MAH-1]に記載の方法で製造した無水マレイン酸変性スチレン-イソブチレン-スチレン共重合体(スチレン含量15重量%、無水マレイン酸量0.65重量%、共重合体(B)に該当する。)
SIBS-g-MAH-2:[SIBS-g-MAH-1]に記載の方法で製造した無水マレイン酸変性スチレン-イソブチレン-スチレン共重合体(スチレン含量15重量%、無水マレイン酸量0.04重量%)
水素化石油樹脂:C9系水素化石油樹脂「“アルコン”P-140」(荒川化学工業(株))(水素化石油樹脂(C)に該当する。)。
【0088】
[実施例1~5、比較例1~7]
表1に記載の原料を、シリンダー温度を250℃に設定し、ニーディングゾーンを2つ設けたスクリューアレンジとし、スクリュー回転数を250rpmとした2軸スクリュー押出機(JSW社製TEX30XSSST)(L/D=45.5(ここでのLは原料供給口から吐出口までの長さ、Dはスクリューの直径である。)に供給して溶融混練し、ダイから吐出後のガットを10℃に温調した水を満たした冷却バス中に15秒間かけて通過させることで急冷し構造を固定化した後、ストランドカッターでペレタイズしペレットを得た。得られたペレットを、住友重機械工業(株)製射出成形機(SE-75DUZ-C250)を用いて、金型温度80℃、射出速度40mm/秒、冷却時間60秒の成形条件で、80mm×80mm×1mmtの平板を成形した。なお、射出成形機の温度は、ホッパ下から先端に向かって、240℃-245℃-250℃-250℃に設定した。得られたペレットまたは成形品を用いて前記方法により評価した結果を表1に示した。
【0089】
【0090】
以上の結果から、示差走査熱量測定(DSC)による融点が200℃以上かつアミノ末端基量が3.0×10-5mol/g以上であるポリアミド樹脂(A)、反応性官能基を0.1重量%以上有する芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックとイソブチレンを主体とする重合体ブロックを含むブロック共重合体(B)、および水素化石油樹脂(C)を配合してなる熱可塑性エラストマー組成物であって、ポリアミド樹脂(A)および共重合体(B)の組成比(重量比)が(A):(B)=40:60~90:10であり、前記ポリアミド樹脂(A)、共重合体(B)の合計100重量部に対し、水素化石油樹脂(C)を0.01~20重量部配合してなる熱可塑性エラストマー組成物が得られた。これらの熱可塑性エラストマー組成物は、周波数100Hz、温度23℃における損失正接が0.10以上であり、制振性、高温剛性、耐ブロッキング性、および紡糸性に優れることがわかった。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなる成形品は、制振性、高温剛性、耐ブロッキング性、および紡糸性に優れ、さらに容易に製造可能である。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、これらの特性を活かして種々の成形品に広く用いることができ、特に、自動車用途や電気電子用途、民生用途などに好適に用いることができる。