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特開2024-159398セルロース成形体の製造方法及びセルロース成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159398
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】セルロース成形体の製造方法及びセルロース成形体
(51)【国際特許分類】
   D01F 2/00 20060101AFI20241031BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
D01F2/00 Z
C08J5/18 CEP
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133084
(22)【出願日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2023072282
(32)【優先日】2023-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(74)【代理人】
【識別番号】100188086
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 五郎
(72)【発明者】
【氏名】岩田 一平
(72)【発明者】
【氏名】山崎 明日香
【テーマコード(参考)】
4F071
4L035
【Fターム(参考)】
4F071AA09
4F071AF30
4F071AG33
4F071AG34
4F071AH04
4F071BA02
4F071BB02
4F071BB06
4F071BB13
4F071BC01
4L035AA04
4L035BB01
4L035BB03
4L035BB11
4L035CC20
(57)【要約】
【課題】セルロース材料の構成糖中のキシロース濃度によらずに成形条件の調整によって低結晶のセルロース成形体を得ることができるセルロース成形体の製造方法及びセルロース成形体を提供する。
【解決手段】セルロース溶剤にセルロース材料を溶解させてセルロース溶液を得るセルロース溶解工程と、前記セルロース溶剤を20~50%含む10~70℃の成形用水溶液中に前記セルロース溶液を吐出させて湿潤成形体を作製する成形工程と、前記湿潤成形体を洗浄後、乾燥させてセルロース成形体を得る乾燥工程とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース溶剤にセルロース材料を溶解させてセルロース溶液を得るセルロース溶解工程と、
前記セルロース溶剤を20~50%含む10~70℃の成形用水溶液中に前記セルロース溶液を吐出させて湿潤成形体を作製する成形工程と、
前記湿潤成形体を洗浄後、乾燥させてセルロース成形体を得る乾燥工程
とを有することを特徴とするセルロース成形体の製造方法。
【請求項2】
前記セルロース材料がセルロースを主成分としたパルプであって、構成糖としてキシロースを0.1~20重量%含む請求項1に記載のセルロース成形体の製造方法。
【請求項3】
前記セルロース溶剤が下記式(Fi)で表されるテトラアルキルアンモニウムアセテート及び非プロトン性極性溶媒を含有し、該非プロトン性極性溶媒の含有割合が55重量%以上である請求項1又は2に記載のセルロース成形体の製造方法。
【化1】
式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数3~6のアルキル基を表す。
【請求項4】
前記セルロース溶剤のKamlet-Taftパラメータの水素結合受容能(β値)が0.8~1.3である請求項3に記載のセルロース成形体の製造方法。
【請求項5】
前記テトラアルキルアンモニウムアセテートがテトラブチルアンモニウムアセテートである請求項3記載のセルロース成形体の製造方法。
【請求項6】
前記非プロトン性極性溶媒のドナー数が20~50である請求項3に記載のセルロース成形体の製造方法。
【請求項7】
前記非プロトン性極性溶媒が、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、及びピリジン系溶媒から選択される少なくとも1種である請求項3に記載のセルロース成形体の製造方法。
【請求項8】
前記非プロトン性極性溶媒がN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、ピリジン及び4-メチルピリジン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項3に記載のセルロース成形体の製造方法。
【請求項9】
前記セルロース成形体が繊維状、フィルム状、球状のいずれかの形態である請求項1に記載のセルロース成形体の製造方法。
【請求項10】
前記セルロース成形体が繊維状、フィルム状、球状のいずれかの形態である請求項3に記載のセルロース成形体の製造方法。
【請求項11】
前記セルロース成形体が繊維状、フィルム状、球状のいずれかの形態である請求項8に記載のセルロース成形体の製造方法。
【請求項12】
セルロース溶剤にセルロース材料を溶解させてセルロース溶液を得るセルロース溶解工程と、
前記セルロース溶剤を20~50%含む10~70℃の成形用水溶液中に前記セルロース溶液を吐出させて湿潤成形体を作製する成形工程と、
前記湿潤成形体を洗浄後、乾燥させる乾燥工程とを経て得たセルロース成形体であって、
前記セルロース成形体の下記式(i)で表される結晶化度が60%以下であることを特徴とするセルロース成形体。
【数1】
Ic:セルロースII型の結晶格子面((1-10)面、2θ=13°付近のピーク値)の回折強度
Ia1:2θ=8°及び15°の回折強度を結ぶ直線と13°から垂直に下した直線との交わる点の回折強度
Ia2:アモルファス部(2θ=15°)の回折強度
【請求項13】
前記セルロース成形体が構成糖としてキシロースを0.1~20重量%含む請求項12に記載のセルロース成形体。
【請求項14】
前記セルロース溶剤が上記式(Fi)で表されるテトラアルキルアンモニウムアセテート及び非プロトン性極性溶媒を含有し、該非プロトン性極性溶媒の含有割合が55重量%以上である請求項12又は13に記載のセルロース成形体。
【請求項15】
前記セルロース溶剤のKamlet-Taftパラメータの水素結合受容能(β値)が0.8~1.3である請求項14に記載のセルロース成形体。
【請求項16】
前記非プロトン性極性溶媒がN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、ピリジン及び4-メチルピリジン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項14に記載のセルロース成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース成形体の製造方法及びセルロース成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、セルロースは、パルプ等のセルロース材料を水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液に浸漬させてアルカリセルロースとし、二硫化炭素で硫化、さらにアルカリ溶解によりビスコースを生成し、ビスコースを硫酸等の酸溶液により凝固させるビスコース法により製造される。このように製造されるセルロースは、凝固時の形状等により繊維状、フィルム状、球状等の適宜の成形体として成形され、紙製品、衣料品、衛生用品等の各種製品に加工される。
【0003】
ビスコース法は、セルロース材料からビスコースを調製するまでの工程が多く、設備や作業時間が膨大となることに加え、アルカリ溶液や酸溶液、硫化水素等の使用による排ガス処理や廃液処理等、作業効率の向上や環境負荷低減等が課題となっている。また、硫化工程や洗浄や脱硫等の工程等により、硫化ガスが存在する作業環境であることから、作業者は防護服を着用する等の安全対策を行うことが不可欠であった。
【0004】
そこで、セルロース材料からビスコースを生成する工程を経ることなく、セルロース材料を直接溶解させてセルロースフィルムを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この製造方法では、イミダゾリウム塩等のイオン液体と非プロトン性極性溶媒を含む混合溶媒によりセルロース材料を溶解させてセルロース溶液とした後、該セルロース溶液を凝固させてセルロースフィルムが得られる。そのため、工程数を減らして設備負担の軽減や作業効率の向上が図られるとともに、硫化ガスが存在する作業環境等をなくして安全対策の改善や環境負荷低減も図られる。
【0005】
また、セルロース材料を直接溶解させる際に、イオン液体の代わりにテトラブチルアンモニウムアセテートとジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒との混合溶媒を用いた製造方法が提案されている(例えば、特許文献2,3,4参照)。この製造方法に使用される混合溶媒は、テトラブチルアンモニウムアセテートがイオン液体と比較して高い溶解効率を有しかつ安価であることから、生産性の向上を図ることができる。
【0006】
しかるに、上記のセルロース材料を直接溶解させてセルロース成形体を製造する方法は、いずれもセルロースフィルムの製造方法である。しかしながら、セルロース成形体は、フィルム以外に繊維状や球状等、適宜の形態で得ることができる。得られる成形体のうち、フィルムは主に包材用途、繊維は主に化粧品やテキスタイル用途、球状物(ビーズ)は主に化粧品用途等に用いられる。
【0007】
一般に、化粧品用途のセルロース成形体には透明性や柔軟性等、テキスタイル用途のセルロース成形体には染色性、包材用途のセルロース成形体には透明性等、用途に応じた適宜の特性が求められる。これらのセルロース成形体では、セルロースの結晶部と非結晶部とで光の屈折率が異なることから、結晶化度が高くなるほど光が乱反射して透明性が低下し、結晶化度が低くなるほど透明性や柔軟性が良好となる。また、非結晶部は染料や薬品等の含浸が進みやすいことから、染色性や後加工の際の化学反応性が良好となる。
【0008】
結晶性が低く染色性の良いセルロース繊維を得る手法としては、セルロース原料としてキシロース等を構成糖とするヘミセルロースを高濃度に含むパルプを使用する製造方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、上記の製造方法では、低結晶のセルロース繊維を得るために、原料自体の構成糖中のキシロース濃度を調整する必要があり、結晶化度を任意に調整することが困難である。
【0009】
また、上記製造方法で得られるセルロース繊維にはキシロースが構成糖として高濃度で含まれるため、例えば不織布ガーゼ等の衛生用品に使用する場合、衛生材料の安全性基準を満たさない可能性がある。JIS L 1912(1997)の医療用不織布試験方法等に準拠した医用不織布ガーゼ基準では、化学的要求事項の1つである蒸留残留物について、不織布を水中で煮沸して得られた溶液を蒸発させた際、蒸留せずに残った物質の重量が、不織布2gあたり20.0mg以下であることが定められている。上記製造方法で得られるセルロース繊維のようにキシロースが構成糖として高濃度で含まれる繊維では、キシロースが熱水中に溶出しやすいことから、蒸留残留物の基準を超過するおそれがある。
【0010】
そこで発明者らは、原料の構成糖中のキシロース濃度によらずにセルロースの結晶性を制御可能なセルロース成形体の製造方法を鋭意検討した。その結果、溶解させたセルロース材料を凝固させる際に、使用する溶液の種類、濃度、温度の条件の調整によって、原料の構成糖中のキシロース濃度によらずに低結晶のセルロース成形体を得ることができる方法を発明するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011-184541号公報
【特許文献2】特開2015-074704号公報
【特許文献3】特開2015-093876号公報
【特許文献4】特開2016-196526号公報
【特許文献5】特表2021-517214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、セルロース材料の構成糖中のキシロース濃度によらずに成形条件の調整によって低結晶のセルロース成形体を得ることができるセルロース成形体の製造方法及びセルロース成形体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、第1の発明は、セルロース溶剤にセルロース材料を溶解させてセルロース溶液を得るセルロース溶解工程と、前記セルロース溶剤を20~50%含む10~70℃の成形用水溶液中に前記セルロース溶液を吐出させて湿潤成形体を作製する成形工程と、前記湿潤成形体を洗浄後、乾燥させてセルロース成形体を得る乾燥工程とを有することを特徴とするセルロース成形体の製造方法に係る。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、前記セルロース材料がセルロースを主成分としたパルプであって、構成糖としてキシロースを0.1~20重量%含むセルロース成形体の製造方法に係る。
【0015】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記セルロース溶剤が下記式(Fi)で表されるテトラアルキルアンモニウムアセテート及び非プロトン性極性溶媒を含有し、該非プロトン性極性溶媒の含有割合が55重量%以上であるセルロース成形体の製造方法に係る。
【0016】
【化1】
式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数3~6のアルキル基を表す。
【0017】
第4の発明は、第3の発明において、前記セルロース溶剤のKamlet-Taftパラメータの水素結合受容能(β値)が0.8~1.3であるセルロース成形体の製造方法に係る。
【0018】
第5の発明は、第3の発明において、前記テトラアルキルアンモニウムアセテートがテトラブチルアンモニウムアセテートであるセルロース成形体の製造方法に係る。
【0019】
第6の発明は、第3の発明において、前記非プロトン性極性溶媒のドナー数が20~50であるセルロース成形体の製造方法に係る。
【0020】
第7の発明は、第3の発明において、前記非プロトン性極性溶媒が、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、及びピリジン系溶媒から選択される少なくとも1種であるセルロース成形体の製造方法に係る。
【0021】
第8の発明は、第3の発明において、前記非プロトン性極性溶媒がN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、ピリジン及び4-メチルピリジン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であるセルロース成形体の製造方法に係る。
【0022】
第9の発明は、第1の発明において、前記セルロース成形体が繊維状、フィルム状、球状のいずれかの形態であるセルロース成形体の製造方法に係る。
【0023】
第10の発明は、第3の発明において、前記セルロース成形体が繊維状、フィルム状、球状のいずれかの形態であるセルロース成形体の製造方法に係る。
【0024】
第11の発明は、第8の発明において、前記セルロース成形体が繊維状、フィルム状、球状のいずれかの形態であるセルロース成形体の製造方法に係る。
【0025】
第12の発明は、セルロース溶剤にセルロース材料を溶解させてセルロース溶液を得るセルロース溶解工程と、前記セルロース溶剤を20~50%含む10~70℃の成形用水溶液中に前記セルロース溶液を吐出させて湿潤成形体を作製する成形工程と、前記湿潤成形体を洗浄後、乾燥させる乾燥工程とを経て得たセルロース成形体であって、前記セルロース成形体の下記式(i)で表される結晶化度が60%以下であることを特徴とするセルロース成形体に係る。
【0026】
【数1】
Ic:セルロースII型の結晶格子面((1-10)面、2θ=13°付近のピーク値)の回折強度
Ia1:2θ=8°及び15°の回折強度を結ぶ直線と13°から垂直に下した直線との交わる点の回折強度
Ia2:アモルファス部(2θ=15°)の回折強度
【0027】
第13の発明は、第12の発明において、前記セルロース成形体が構成糖としてキシロースを0.1~20重量%含むセルロース成形体に係る。
【0028】
第14の発明は、第12又は13の発明において、前記セルロース溶剤が上記式(Fi)で表されるテトラアルキルアンモニウムアセテート及び非プロトン性極性溶媒を含有し、該非プロトン性極性溶媒の含有割合が55重量%以上であるセルロース成形体に係る。
【0029】
第15の発明は、第14の発明において、前記セルロース溶剤のKamlet-Taftパラメータの水素結合受容能(β値)が0.8~1.3であるセルロース成形体に係る。
【0030】
第16の発明は、第14の発明において、前記非プロトン性極性溶媒がN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、ピリジン及び4-メチルピリジン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であるセルロース成形体に係る。
【発明の効果】
【0031】
第1の発明に係るセルロース成形体の製造方法によると、セルロース溶剤にセルロース材料を溶解させてセルロース溶液を得るセルロース溶解工程と、前記セルロース溶剤を20~50%含む10~70℃の成形用水溶液中に前記セルロース溶液を吐出させて湿潤成形体を作製する成形工程と、前記湿潤成形体を洗浄後、乾燥させてセルロース成形体を得る乾燥工程とを有するため、セルロース材料の構成糖中のキシロース濃度によらずに成形条件の調整によって低結晶のセルロース成形体を提供することができる。
【0032】
第2の発明に係るセルロース成形体の製造方法によると、第1の発明において、前記セルロース材料がセルロースを主成分としたパルプであって、構成糖としてキシロースを0.1~20重量%含むため、従来低結晶のセルロース成形体の原料として使用されなかったセルロース純度の高い原料の使用が可能となり、使用原料の選択の幅が広がることで、得られる成形体の使用用途の拡大を図ることができる。
【0033】
第3の発明に係るセルロース成形体の製造方法によると、第1又は2の発明において、前記セルロース溶剤がテトラアルキルアンモニウムアセテート及び非プロトン性極性溶媒を含有し、該非プロトン性極性溶媒の含有割合が55重量%以上であるため、セルロース材料の結晶形態に依存することなく、前処理工程を行わずに短時間で均一にセルロース材料を溶解することができるとともに、セルロース材料を溶解して得られるセルロース溶液の流動性を高めることができる。
【0034】
第4の発明に係るセルロース成形体の製造方法によると、第3の発明において、前記セルロース溶剤のKamlet-Taftパラメータの水素結合受容能(β値)が0.8~1.3であることから、セルロース材料の結晶形態に依存することなく、前処理工程を行わずに短時間で均一にセルロース材料を溶解することができるとともに、セルロース材料を溶解して得られるセルロース溶液の流動性を高めることができる。
【0035】
第5の発明に係るセルロース成形体の製造方法によると、第3の発明において、前記テトラアルキルアンモニウムアセテートがテトラブチルアンモニウムアセテートであるため、セルロース材料の溶解効率に優れる。
【0036】
第6の発明に係るセルロース成形体の製造方法によると、第3の発明において、前記非プロトン性極性溶媒のドナー数が20~50であるため、テトラアルキルアンモニウムアセテートとの相溶性がよく、セルロース材料の溶解性が良好となる。
【0037】
第7の発明に係るセルロース成形体の製造方法によると、第3の発明において、前記非プロトン性極性溶媒が、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、及びピリジン系溶媒から選択される少なくとも1種であるため、セルロース材料の溶解性が良好である。
【0038】
第8の発明に係るセルロース成形体の製造方法によると、第3の発明において、前記非プロトン性極性溶媒がN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、ピリジン及び4-メチルピリジン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であるため、安価で容易に調達することができ、経済的、量産化等の面で有利である。
【0039】
第9の発明に係るセルロース成形体の製造方法によると、第1の発明において、前記セルロース成形体が繊維状、フィルム状、球状のいずれかの形態であるため、成形体の製造や製品加工が容易である。
【0040】
第10の発明に係るセルロース成形体の製造方法によると、第3の発明において、前記セルロース成形体が繊維状、フィルム状、球状のいずれかの形態であるため、成形体の製造や製品加工が容易である。
【0041】
第11の発明に係るセルロース成形体の製造方法によると、第7の発明において、前記セルロース成形体が繊維状、フィルム状、球状のいずれかの形態であるため、成形体の製造や製品加工が容易である。
【0042】
第12の発明に係るセルロース成形体によると、セルロース溶剤にセルロース材料を溶解させてセルロース溶液を得るセルロース溶解工程と、前記セルロース溶剤を20~50%含む10~70℃の成形用水溶液中に前記セルロース溶液を吐出させて湿潤成形体を作製する成形工程と、前記湿潤成形体を洗浄後、乾燥させる乾燥工程とを経て得たセルロース成形体であって、前記セルロース成形体の結晶化度が60%以下であるため、湿潤時の透明性、柔軟性、染色性、後加工での化学反応性等の各種性能が良好であるとともに、形態に応じた多種多様なセルロース製品の成形材料として好適に用いることができる。
【0043】
第13の発明に係るセルロース成形体によると、第12の発明において、前記セルロース成形体が構成糖としてキシロースを0.1~20重量%含むため、セルロース純度の低いセルロース成形体に加えて、セルロース純度が高く各種安全性基準に適合するセルロース成形体も提供することができる。
【0044】
第14の発明に係るセルロース成形体によると、第12又は13の発明において、前記セルロース溶剤がテトラアルキルアンモニウムアセテート及び非プロトン性極性溶媒を含有し、該非プロトン性極性溶媒の含有割合が55重量%以上であるため、セルロース材料の結晶形態に依存することなく、前処理工程を行わずに短時間で均一にセルロース材料を溶解することができ、セルロース材料を溶解して得られるセルロース溶液の流動性が高められて、成形体の加工性が向上する。
【0045】
第15の発明に係るセルロース成形体の製造方法によると、第14の発明において、前記セルロース溶剤のKamlet-Taftパラメータの水素結合受容能(β値)が0.8~1.3であることから、セルロース材料の結晶形態に依存することなく、前処理工程を行わずに短時間で均一にセルロース材料を溶解することができるとともに、セルロース材料を溶解して得られるセルロース溶液の流動性を高めることができて成形体の加工性が良好となる。
【0046】
第16の発明に係るセルロース成形体によると、第14の発明において、前記非プロトン性極性溶媒がN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、ピリジン及び4-メチルピリジン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であるため、安価で容易に調達することができ、経済的、量産化等の面で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本発明の一実施形態に係るセルロース成形体の製造方法の概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1に示す本発明の一実施形態に係るセルロース成形体の製造方法は、セルロース材料の構成糖中のキシロース濃度によらずに低結晶のセルロース成形体を得るための方法であって、セルロース溶解工程と、成形工程と、乾燥工程とを有する。
【0049】
本発明の製造方法により得られるセルロース成形体は、適宜の形状に成形可能であるが、製造や製品加工の容易性等の観点から、繊維状、フィルム状、球状のいずれかの形態に成形することが好ましい。また特に、繊維状のセルロース成形体は、いわゆるセルロース繊維であって、不織布等の加工品の材料として広範に利用可能である。なお、以下の説明において、セルロース成形体は、特に説明がない限りセルロース繊維(繊維状セルロース)として説明する。
【0050】
セルロース溶解工程は、セルロース溶剤にセルロース材料を溶解させてセルロース溶液を得る工程である。セルロース材料は、セルロース成分を含む材料であって、パルプや綿等の天然材料や、紙製品等の加工材料を含む。天然材料では、パルプが容易に入手可能でセルロース材料として好ましく利用される。加工材料の場合、製品加工された材料のうち、廃棄された紙製品等を再利用することが環境負荷低減の観点から好ましい。
【0051】
パルプは、主に木材を粉砕し不純物を除去して得られる繊維状の材料である。一般に、低結晶のセルロース成形体の原料として使用されるパルプとしては、リグニン等の不純物を除去して得られた、セルロースや構成糖としてのキシロースを高濃度で含むパルプが多く使用される。本発明のセルロース成形体の製造方法では、構成糖としてキシロースを0.1~20重量%含むパルプを、低結晶のセルロース成形体の原料として使用することができる。すなわち、低結晶のセルロース成形体の製造に際し、通常使用されるセルロース純度の低いパルプに加え、セルロース純度の高いパルプの使用も可能となる。そのため、使用原料の選択の幅が広がるだけでなく、得られる成形体の使用用途の拡大を図ることができる。
【0052】
また、構成糖としてのキシロースは、後述するセルロース溶液中に含まれると、セルロース溶液が凝固する際にセルロースの結晶化を阻害するため、セルロースの結晶性を任意にコントロールするために添加することもできる。結晶化度が高いセルロース成形体は剛性が増して透明性が低下し、逆に低ければ柔軟となり透明性が向上するため、所望するセルロース成形体に要求される物性により適宜含有量が調整されることも考えられる。以下の説明では、セルロース材料をパルプとして説明する。
【0053】
セルロース溶剤は、パルプ等のセルロース材料を溶解するための溶媒であって、特に、パルプの結晶形態に依存することなく、前処理工程を行わずに短時間で均一に溶解可能な溶剤が用いられる。このセルロース溶剤では、環境負荷低減の観点から、陰イオンとして、ハロゲンを含まないことが好ましい。セルロース溶剤としては、下記式(Fi)で表されるテトラアルキルアンモニウムアセテート及び非プロトン性極性溶媒を含有する溶媒が好ましく使用される。
【0054】
【化2】
【0055】
式(Fi)において、R、R、R及びRは、炭素数3~6のアルキル基である。R~Rは、同一のアルキル基であっても、異なるアルキル基であっても構わない。アルキル基の炭素数が2以下、又は7以上の場合、パルプに対する溶媒の溶解性が低下するおそれがある。
【0056】
セルロース溶剤の溶媒特性の評価指標として、Kamlet-Taftパラメータが挙げられる。Kamlet-Taftパラメータには、水素結合酸性度(α)、水素結合塩基性度(β)、双極性/分極性(π)の3つのパラメータがあり、水素結合塩基性度(β)がセルロース溶解能と関連する。本発明において求められるセルロース溶解能は、Kamlet-Taftパラメータの水素結合受容能(β値)が0.8~1.3とされるのがよい。セルロース溶剤のKamlet-Taftパラメータの水素結合受容能(β値)が0.8~1.3とされることにより、セルロース材料の結晶形態に依存することなく、前処理工程を行わずに短時間で均一にセルロース材料を溶解することができるとともに、セルロース材料を溶解して得られるセルロース溶液の流動性を高めることができる。
【0057】
テトラアルキルアンモニウムアセテートは、パルプ等のセルロース材料を効率よく溶解するための材料である。このテトラアルキルアンモニウムアセテートは、テトラブチルアンモニウムアセテート、テトラプロピルアンモニウムアセテート、テトラペンチルアンモニウムアセテート、テトラへキシルアンモニウムアセテートのうち、いずれか1つ又は複数を組み合わせて用いられる。
【0058】
上記テトラアルキルアンモニウムアセテートのうち、テトラブチルアンモニウムアセテートは、多糖類の溶解効率に優れるため好ましく選択される。テトラブチルアンモニウムアセテートは、炭素数4のアルキル基を備えるイオン性のアンモニウム酢酸塩であり、水素結合との親和性と、有機物としての疎水性とをバランスよく備える。この性質により、パルプ中の結晶性セルロース間に浸透して分子間や分子内の水素結合を切断するとともに、分子中の疎水性基の作用により再凝集が抑制されると考えられる。そのため、パルプの主成分であるセルロースの結晶の溶解を効率よく行うことができる。
【0059】
非プロトン性極性溶媒は、常温で固体となるテトラブチルアンモニウムアセテート等のテトラアルキルアンモニウムアセテートを溶解するための溶媒である。また、非プロトン性極性溶媒は、テトラアルキルアンモニウムアセテートによる均質な溶解を短時間で可能とするとともに、パルプを溶解して得られる後述のセルロース溶液の粘度を下げて流動性を適度に調整することができる。
【0060】
また、セルロース溶剤を構成するテトラアルキルアンモニウムアセテートは強い電荷を有することから、分子内に大量の水酸基を持つパルプと水素結合等で静電気的に容易に結合する。そこで、仮にプロトン性溶媒を用いると、テトラアルキルアンモニウムアセテートとの相互作用(水素結合)が生じて、テトラアルキルアンモニウムアセテートによるセルロースの水素結合の切断が阻害されるため、非プロトン性触媒が好ましい。さらに、非極性(無極性)溶媒を使用すると、テトラアルキルアンモニウムアセテートを溶解することが困難であることから、極性溶媒が好適である。従って、セルロース溶剤に使用する溶媒は、非プロトン性極性溶媒が好ましく使用される。
【0061】
テトラアルキルアンモニウムアセテートの配合割合は、パルプに対する溶解性や溶解速度等の観点から、1重量%~45重量%、好ましくは5重量%~40重量%、より好ましくは10重量%~35重量%である。テトラアルキルアンモニウムアセテートの配合割合が少なすぎるとパルプを十分に溶解できなくなるおそれがあり、配合割合が多すぎるとパルプの溶解性や溶解速度が低下するおそれがある。
【0062】
非プロトン性極性溶媒は、強い水素結合アクセプター性及びテトラアルキルアンモニウムアセテートと類似する溶解度パラメータを有することが好ましい。そこで、非プロトン性極性溶媒は、ドナー数が20~50であることが好ましく、より好ましくは25~40、さらには25~35であることが好ましい。ドナー数は、溶媒の塩基性を示す指標の1つであって、1,2-ジクロロエタン溶液中で、溶媒分子と3~10mol/Lのルイス酸(SbCl)とが反応する際の反応熱(エンタルピー)を-ΔH(kcal/mol)で表した値である。ドナー数が小さすぎると非プロトン性極性溶媒の水素結合アクセプター性が低下してパルプの溶解性が低下するおそれがあり、大きすぎると非プロトン性極性溶媒とテトラアルキルアンモニウムアセテートとの相溶性が低下するおそれがある。
【0063】
また、非プロトン性極性溶媒では、テトラアルキルアンモニウムアセテートやパルプの溶解性等の観点から、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、及びピリジン系溶媒から選択される少なくとも1種が好ましく使用される。具体的には、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(N,N’-ジメチルエチレン尿素)、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、ピリジン及び4-メチルピリジン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である。これらは、比較的安価で調達容易であるため、経済的、量産化等の観点から好ましい。
【0064】
上記列挙の非プロトン性極性溶媒に関し、Gutmann法により測定したドナー数は、N,N-ジメチルホルムアミドが26.6、N,N-ジエチルホルムアミドが30.9、N,N-ジメチルアセトアミドが27.8、N,N-ジエチルアセトアミドが32.2、ジメチルスルホキシドが29.8、N-メチル-2-ピロリドンが27.3、N,N’-ジメチルプロピレン尿素が29.3、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが27.8、テトラメチル尿素が31.0、テトラエチル尿素が28.0、ピリジンが33.1、4-メチルピリジンが31.5である。
【0065】
これらの非プロトン性極性溶媒は、単独又は2種以上で用いることが可能であるが、例えば、2種以上を組み合わせて用いる場合、少なくとも1種をドナー数が20~50の非プロトン性極性溶媒とすればよく、他の組み合わせる非プロトン性極性溶媒をこの範囲外の非プロトン性極性溶媒としてもよい。
【0066】
非プロトン性極性溶媒の含有割合は、セルロース溶剤中のテトラアルキルアンモニウムアセテートの含有割合を低減させてパルプを溶解したセルロース溶液において高い流動性を得る観点から、55重量%以上であることが好ましい。セルロース溶液の流動性が高まると、成形体の加工性が向上する。非プロトン性極性溶媒の含有割合の上限は、テトラアルキルアンモニウムアセテートが微量でも配合されていればよく、100重量%でなければ特に限定されない。非プロトン性極性溶媒の含有割合の上限は、例えば、90~99重量%である。非プロトン性極性溶媒の含有割合が少なすぎると、セルロース溶剤がスラリー状となって流動性が低下し、パルプを溶解させたセルロース溶液の流動性や均質性を悪化させるおそれがある。また、含有割合が多すぎるとパルプの溶解性が低下するおそれがある。
【0067】
セルロース溶剤では、使用するテトラアルキルアンモニウムアセテートと非プロトン性極性溶媒の種類の組み合わせ等に応じて、パルプの溶解性や溶解速度、セルロース溶液の粘度等を調整することができる。
【0068】
ここで、セルロース溶剤によるパルプ(セルロース)の溶解メカニズムについて説明する。セルロース溶剤では、非プロトン性極性溶媒(この例ではジメチルスルホキシド:DMSO)により、テトラアルキルアンモニウムアセテートが式(Fi)に示す陽イオン(テトラアルキルアンモニウムイオン:TAA)と陰イオン(酢酸イオン:CHCOO)とに分解され、ジメチルスルホキシド(DMSO)の酸素とテトラアルキルアンモニウムイオン(TAA)とが相互作用してマクロカチオン([DMSO+TAA])が形成される。
【0069】
セルロース溶剤中のパルプ(セルロース)は、酢酸イオン(CHCOO)によりセルロースの水素結合が切断されて、酢酸イオン(CHCOO)と水素結合される。また、セルロース中の酸素とマクロカチオン([DMSO+TAA])との間に弱い相互作用が形成される。その結果、セルロースは溶剤中で下記式(Fii)に示す形態となって存在すると考えられる。そのため、セルロースの結晶形態に依存することなく、前処理工程を行わずに短時間で均一に溶解可能となると考えられる。
【0070】
【化3】
【0071】
セルロース溶液は、上記セルロース溶剤に所定量のパルプが溶解されて得られた溶液である。セルロース溶剤に溶解されるパルプは、重合度や結晶度等に応じて設定されるが、セルロース溶液を低負担で容易に調整できて凝固しやすい等の生産効率上の観点から、添加量がセルロース溶剤の重量に対し3~15重量%程度の濃度であることが好ましい。パルプの濃度が希薄すぎると、後述する成形工程での凝固に要する時間が増加し、加工や処理の取り扱いが困難となるおそれがある。高濃度すぎると、セルロース溶液の粘度が高まってパルプの溶解に長時間を要し、テトラアルキルアンモニウムアセテートの含有量が多く必要となって、経済的、効率的に不利となるおそれがある。
【0072】
パルプをセルロース溶剤に溶解させる場合には、溶解温度を比較的温和な温度条件とすることが好ましい。溶解温度の下限値は、セルロース溶剤の流動性やパルプとテトラアルキルアンモニウムアセテートとの反応性を確保する観点から、使用する非プロトン性極性溶媒の凝固温度以上とされ、例えば20℃程度である。一方、溶解温度の上限値は、パルプとテトラアルキルアンモニウムアセテートとの過剰な反応を抑制して反応を制御することや、加熱に要する設備の軽減等の観点から、例えば50℃程度とされる。パルプをセルロース溶剤に溶解させる温度が温和な温度域であることにより、常温下での作業が可能、あるいは加熱する場合でも簡便な加熱装置等で十分となるため、特段の加熱設備が不要で生産に要する設備経費の軽減を図ることができる。また、セルロース溶剤の成分の蒸発を抑制することができ、作業環境の安全性も良好となる。なお、溶解温度を高くすることで反応時間を短縮することが可能であるが、セルロース溶剤の分解や副反応による着色物質生成等の理由から、必要以上に溶解温度を高くすることは好ましくない。
【0073】
また、セルロース溶液では、パルプをセルロース溶剤に溶解させる際に、必要に応じて抗酸化剤、可塑剤、充填剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、他の高分子材料等の添加剤を添加してもよい。添加剤の添加量は、添加剤の種類や用途等に応じて適宜設定される。
【0074】
セルロース溶液は、所定の配合割合でパルプとセルロース溶剤と必要により添加剤等の各材料が投入され、適宜撹拌されて調整される。材料の撹拌は、例えば、パルプの含有量が比較的少なくてセルロース溶液の流動性が高い場合に機械撹拌や超音波振動等が好適であり、パルプの含有量が比較的多くてセルロース溶液の粘性が高い場合には二軸混練押出機やニーダー等が好適である。撹拌時間は、溶液の流動性等によるが、例えば10~90分程度が好ましい。撹拌時間は、短すぎるとパルプを十分に溶解させることが困難である。また、撹拌時間は、必要以上に長くしても物性の向上がみられないため、適度な時間で終了される。材料の撹拌により、パルプの溶解が促進されるとともに、溶液の均一性を向上させることができる。なお、パルプの溶解は、不活性ガス中で行ってもよい。これにより、パルプ中のセルロースの重合度の低下が抑制される。
【0075】
成形工程は、セルロース溶解工程で得られたセルロース溶液を湿潤成形体(繊維状湿潤成形体)に成形する工程であり、10~70℃の成形用水溶液中にセルロース溶液を吐出させて湿潤成形体を作製する。湿潤成形体(繊維状湿潤成形体)は、最終的に得られるセルロース成形体(セルロース繊維)の中間生成物である。
【0076】
セルロース溶液の吐出は、所望する成形体の形態に対応した公知の吐出装置が適宜用いられる。例えば、セルロース繊維を成形する場合にはスパンボンドダイやメルトブローダイ等が使用される。また、セルロースフィルムを成形する場合は、Tダイやインフレーションダイ等が使用される。さらに、セルロースビーズを成形する場合は、アトマイザーやスプレードライヤー等が使用される。
【0077】
成形用水溶液は、セルロース溶解工程で使用したセルロース溶剤と同一のセルロース溶剤を20~50%含む水溶液であり、セルロース溶液が接触することによって凝固される。成形用水溶液を構成する材料は、セルロース溶剤の他、イオン交換水である。セルロース溶剤の含有量が少なすぎる場合は、吐出されたセルロース溶液の凝固速度が速くセルロースの結晶化が進みやすいため、結晶化度が高くなりすぎるおそれがある。また、含有量が多すぎる場合は、セルロース溶液の凝固が不十分となり、成形が困難になるおそれがある。
【0078】
セルロース溶液と成形用水溶液との反応条件としては、温度条件が10~70℃程度、好ましくは10~40℃である。成形用水溶液の温度が高すぎる場合は、急速に凝固するため、セルロース成形体の密度が低下し、強度が低下するおそれがある。また、成形用水溶液の温度を維持するためのエネルギーコストが大きくなる。
【0079】
成形用水溶液中にセルロース溶液が吐出されると、成形用水溶液によりセルロース溶液が凝固され、セルロース成分と残留するセルロース溶剤からなる透明な湿潤成形体(繊維状湿潤成形体)が得られる。一方、セルロースから分離して成形用水溶液中へ溶出されたセルロース溶剤の成分(テトラアルキルアンモニウムアセテート、非プロトン性極性溶媒)は、分留等により回収される。回収後、ろ過や精製等の処理が行われて、セルロース溶剤として再利用可能となる。
【0080】
乾燥工程は、成形工程により得られた湿潤成形体(繊維状湿潤成形体)を洗浄後、乾燥させてセルロース成形体(繊維状セルロース)を得る工程である。湿潤成形体の洗浄は、20~30℃程度の常温環境下で湿潤成形体に水等の洗浄液を接触させることにより、湿潤成形体中のセルロース溶剤を洗浄水と置換させて分離させる。洗浄水としては、セルロースとの親和性が高く溶解性を有していない溶媒が好ましく、容易に入手可能な水が特に好ましい。この洗浄は、湿潤成形体からセルロース以外の成分をより確実に除去する観点から、複数回(2回程度)行うことが好ましい。
【0081】
洗浄後の湿潤成形体を適宜乾燥させることにより、セルロース成形体(繊維状セルロース)が得られる。乾燥方法は、洗浄後の湿潤成形体が乾燥可能であれば特に限定されるものではなく、例えば、常温での自然乾燥、加熱ロールや温風等の乾燥手段による乾燥等、適宜である。なお、この乾燥工程では、排ガスが発生しないため、ビスコース法で行われる硫化ガス等の排ガス処理が不要となる。
【0082】
本発明のセルロース成形体の製造方法においては、セルロース材料を直接溶解するために使用されたセルロース溶剤が、前記のように成形工程にてセルロース成分から分離されることから、処理工程中の成形用水溶液の分留等により、水とセルロース溶剤とに分離させて回収することができ、回収したセルロース溶剤は再度セルロース材料の溶解に利用することが可能となる。そのため、連続してセルロース成形体を製造する場合、セルロース溶剤の使用量は不可避な消耗分を補充するだけでよく、使用量を軽減することができるため、経済的であるとともに環境負荷低減を図ることができる。
【0083】
本発明のセルロース成形体の製造方法では、セルロース材料を溶解させたセルロース溶液を、セルロース溶剤の濃度と水溶液温度が調整された成形用水溶液に接触させることによって、容易に低結晶のセルロース成形体を成形することが可能である。そこで、成形工程において、成形用水溶液に対して繊維状、フィルム状、球状等の所望する形態に対応する吐出方法でセルロース溶液を吐出させることにより、任意の形態のセルロース成形体が得られる。
【0084】
本発明の低結晶のセルロース成形体は、湿潤時の透明性、柔軟性、染色性、後加工での化学反応性等の各種性能が良好である。このセルロース成形体と結晶化度としては、60%以下であることが好ましい。結晶化度は、セルロース成形体中の結晶成分の割合を示し、透明性や強度等の物性に影響を及ぼす。なお、成形体中の結晶の形態は一定とならないことから、結晶の形態によってはセルロース成形体の透明性に若干のばらつきが生じるが、おおむね結晶化度が低くなるほどセルロース成形体の透明性が向上する傾向がある。
【0085】
本発明の製造方法で得られるセルロース成形体は、セルロースII型結晶構造を有する。一般に、パルプ等の天然のセルロース材料はセルロースI型結晶構造を有する。一方、天然のセルロース材料をマーセル化したり、セルロース溶剤に溶解させて再生させる過程を経たりすると、結晶構造はセルロースII型に変化する。そこで、結晶化度は、X線回折測定により、下記式(i)を用いて算出することができる。式(i)において、IcはセルロースII型の結晶格子面((1-10)面、2θ=13°付近のピーク値)の回折強度、Ia1は2θ=8°及び15°の回折強度を結ぶ直線と13°から垂直に下した直線との交わる点の回折強度、Ia2はアモルファス部(2θ=15°)の回折強度である。
【0086】
【数2】
【0087】
本発明のセルロース成形体は、結晶化度が60%以下であることにより、湿潤時の透明性、柔軟性、染色性、後加工での化学反応性等の各種性能がより良好となる。セルロース成形体の透明性は、外観性に寄与する。透明性が高いセルロース成形体では、意匠性や美観性が良好であり、製品加工により清潔感のある製品を得ることができる。このように、本発明のセルロース成形体は、任意の形態において透明性に優れた高品質な材料として成形される。そのため、セルロース成形体の形態に応じた多種多様なセルロース製品の成形材料として好適に用いることができる。
【0088】
また、本発明の低結晶のセルロース成形体では、使用されたセルロース材料の構成糖中のキシロース濃度に対応して、構成糖としてキシロースが0.1~20重量%含まれる。これは、通常のセルロース純度の低い原料から得られる低結晶のセルロース成形体だけでなく、セルロース純度の高い原料から得られる低結晶のセルロース成形体も含む。高純度のセルロースで成形されたセルロース成形体は、成形体中の構成糖としてのキシロースが少量であるため、蒸留残留物の基準等の安全性基準に適合した製品とすることができる。
【0089】
このように、本発明のセルロース成形体は、低結晶による優れた透明性から意匠性や美観性等の外観性が良好となるとともに、高純度のセルロースで成形されたことから安全性にも優れる。そのため、製品加工により清潔感のある製品が得られ、フェイスマスク等の化粧品類や医療用マスク等の医療用品等の広範な製品の成形材料として有用である。
【実施例0090】
[セルロース成形体の作製]
試作例1~11のセルロース成形体の作製に際し、後述するセルロース溶剤1410gを2Lのセパラブルフラスコに投入し、後述するセルロース材料90gをセルロース溶剤に加えて、撹拌機(株式会社神鋼環境ソリューション製;「ログボーン」)で撹拌しながら55℃の湯浴中で溶解させてセルロース溶液を得た。
【0091】
次に、セルロース材料の溶解に使用したセルロース溶剤と同一に調整されたセルロース溶剤を使用して、配合割合と水溶液温度とを異ならせた成形用水溶液を調整し、ギアポンプ(Barmag社製;「Oerlikon」)を使用してセルロース溶液をノズルから成形用水溶液に吐出させて凝固させ、繊維状の湿潤成形体を得た。得られた湿潤成形体を流水洗浄した後、風乾して、試作例1~11の繊維状セルロース成形体を得た。
【0092】
[セルロース溶剤]
テトラアルキルアンモニウムアセテートとしてテトラブチルアンモニウムアセテート(東京化成工業株式会社製)を28重量%、非プロトン性極性溶媒としてジメチルスルホキシド(キシダ化学株式会社製)を72重量%とを混合してセルロース溶剤を得た。
【0093】
得られたセルロース溶剤のKamlet-Taftパラメータの水素結合受容能(β値)は1.1であった。なお、Kamlet-Taftパラメータの水素結合受容能(β値)は、「Lauri K.J.Hauru et al., Biomacromolecules 2012,13,2896-2905」を参考に測定した。
【0094】
[セルロース材料]
・パルプ1:溶解パルプ(王子製紙株式会社製;「LDKP」)、構成糖中のキシロース濃度1.9%
・パルプ2:溶解パルプ(日本製紙株式会社製;「LBKP」)、構成糖中のキシロース濃度17.1%
・パルプ3:コットンリンターパルプ(バッカイ社製)、構成糖中のキシロース濃度0.3%
【0095】
[試作例1]
試作例1は、パルプ1(構成糖中のキシロース濃度1.9%)のセルロース溶液を、濃度20%かつ水溶液温度10℃の成形用水溶液で凝固させて得られた繊維状セルロース成形体である。
【0096】
[試作例2]
試作例2は、パルプ2(構成糖中のキシロース濃度17.1%)のセルロース溶液を、濃度20%かつ水溶液温度20℃の成形用水溶液で凝固させて得られた繊維状セルロース成形体である。
【0097】
[試作例3]
試作例3は、パルプ1(構成糖中のキシロース濃度1.9%)のセルロース溶液を、濃度20%かつ水溶液温度70℃の成形用水溶液で凝固させて得られた繊維状セルロース成形体である。
【0098】
[試作例4]
試作例4は、パルプ3(構成糖中のキシロース濃度0.3%)のセルロース溶液を、濃度20%かつ水溶液温度70℃の成形用水溶液で凝固させて得られた繊維状セルロース成形体である。
【0099】
[試作例5]
試作例5は、パルプ2(構成糖中のキシロース濃度17.1%)のセルロース溶液を、濃度50%かつ水溶液温度20℃の成形用水溶液で凝固させて得られた繊維状セルロース成形体である。
【0100】
[試作例6]
試作例6は、パルプ1(構成糖中のキシロース濃度1.9%)のセルロース溶液を、濃度50%かつ水溶液温度70℃の成形用水溶液で凝固させて得られた繊維状セルロース成形体である。
【0101】
[試作例7]
試作例7は、パルプ1(構成糖中のキシロース濃度1.9%)のセルロース溶液を、濃度10%かつ水溶液温度10℃の成形用水溶液で凝固させて得られた繊維状セルロース成形体である。
【0102】
[試作例8]
試作例8は、パルプ1(構成糖中のキシロース濃度1.9%)のセルロース溶液を、濃度20%かつ水溶液温度5℃の成形用水溶液で凝固させて得られた繊維状セルロース成形体である。
【0103】
[試作例9]
試作例9は、パルプ1(構成糖中のキシロース濃度1.9%)のセルロース溶液を、濃度0%(セルロース溶剤を含まない)かつ水溶液温度5℃の成形用水溶液で凝固させて得られた繊維状セルロース成形体である。
【0104】
[試作例10]
試作例10は、パルプ1(構成糖中のキシロース濃度1.9%)のセルロース溶液を、濃度0%(セルロース溶剤を含まない)かつ水溶液温度10℃の成形用水溶液で凝固させて得られた繊維状セルロース成形体である。
【0105】
[試作例11]
試作例11は、パルプ1(構成糖中のキシロース濃度1.9%)のセルロース溶液を、濃度0%(セルロース溶剤を含まない)かつ水溶液温度20℃の成形用水溶液で凝固させて得られた繊維状セルロース成形体である。
【0106】
試作例1~11の繊維状セルロース成形体について、構成糖中のキシロース濃度、結晶化度、湿潤時の透明性の試験を行い、良否を判定した。なお、試作例1~11のセルロース成形体に関し、セルロース材料の構成糖中のキシロース濃度、成形用水溶液のセルロース溶剤の濃度及び水溶液温度とともに、成形体の構成糖中のキシロース濃度、結晶化度、透明性の試験結果を、それぞれ後述の表1に示す。
【0107】
[構成糖中のキシロース濃度の測定]
試作例1~11の繊維状セルロース成形体を30℃の湯浴中で72重量%の硫酸に溶解させた。水を加えて硫酸を4.5重量%に希釈し、120℃のオイルバスで15分間処理して、セルロース成形体中の糖成分を単糖にまで加水分解した。加水分解液中のキシロース濃度(%)を、高速液体クロマトグラフ(HPLC)(株式会社島津製作所製;「Prominence」)を用いて測定した。糖の分離には配位子交換クロマトグラフィー用カラム(昭光サイエンス株式会社製;「SUGAR SP0810」)を用いた。
【0108】
[結晶化度の測定]
セルロースの結晶化度(%)は、全自動多目的X線回折装置(株式会社リガク製;「SmartLab」)を用いて広角X線回折(WAXD)測定により、前記式(i)を用いて算出した。条件は測定角2θ=5~40°、電圧40kV、電流30mAとした。
【0109】
[湿潤時の透明性の試験]
試作例1~11の繊維状セルロース成形体について、50mm長にカットした繊維を水に分散させてスラリー状物とし、吸引ろ過によって短繊維円筒シート状の試験体を作製した。各試験体の作製に際し、目付は55g/mとなるように調整した。得られた短繊維円筒シート状の試験体に対してイオン交換水を滴下して全体を均一に湿らせ、黒い文字が印字されたシート上に湿らせた試験体を載せて、文字の視認性(透け具合)を目視にて判定した。透明性の判定において、文字の視認性が高い(文字がよく見える)場合を「○(可)」、視認性が低い(文字がよく見えない)場合を「×(不可)」とした。
【0110】
【表1】
【0111】
[結果と考察]
セルロース材料及び成形用水溶液のセルロース溶剤濃度が同一の試作例1,3,8(材料:パルプ1、濃度:20%)を比較すると、成形用水溶液の温度が高いほどセルロース成形体の結晶化度が低くなる傾向がみられた。これは、セルロース溶剤を含む高温の水溶液中でセルロース溶液を凝固させると、セルロース溶液から固体が析出する速度が速く、セルロースが結晶格子を作る前に析出し、非結晶部が増加して結晶化度が低下すると考えられる。また、成形用水溶液の温度が5℃の試作例8では、試験体を載せた文字の視認性が低く、透明性が不十分であった。
【0112】
セルロース材料及び成形用水溶液の温度が同一の試作例1,7,10(材料:パルプ1、温度:10℃)、試作例2,5(材料:パルプ2、温度:20℃)、試作例3,6(材料:パルプ1、温度:70℃)、試作例8,9(材料:パルプ1、温度:5℃)をそれぞれ比較すると、成形用水溶液中のセルロース溶剤濃度が高いほど、結晶化度が低くなる傾向が示された。これは、セルロース溶剤を高濃度で含む水溶液中でセルロース溶液を凝固させると、セルロース溶液からセルロース溶剤が抜ける速度が遅く、セルロース溶剤がセルロースの結晶化を阻害して、結晶化度が低下すると考えられる。なお、成形用水溶液にセルロース溶剤が含まれない試作例9,10,11では、成形用水溶液の温度によらず、いずれも試験体を載せた文字の視認性が低く、透明性が不十分であり、セルロース溶剤の濃度が10%の試作例7においても透明性が不十分であった。
【0113】
成形用水溶液のセルロース溶剤濃度及び成形用水溶液の温度が同一の試作例3,4(濃度:20%、温度:70℃)を比較すると、セルロース材料の構成糖中のキシロース濃度が高いほど、結晶化度が低くなる傾向が見られた。これは、セルロース溶液が凝固する際に、構成糖として含まれるキシロースがセルロースの結晶化を阻害するため、結晶化度が低下すると考えられる。本発明の製造方法では、通常使用される低純度のセルロース材料だけでなく、高純度のセルロース材料も使用可能であることがわかった。また、試作例1~11の繊維状セルロース成形体の構成糖中のキシロース濃度は、いずれも0.1~20重量%であり、原料パルプの構成糖中のキシロース濃度と比較的近い濃度で含有されていた。このように、原料の構成糖中のキシロースは溶解、成形、乾燥の過程でほとんどロスすることなく成形体に含有されるため、成形体の構成糖中のキシロース濃度は原料の構成糖中のキシロース濃度に依存することがわかった。
【0114】
試作例1~11のセルロース成形体では、試作例1~6が透明性に優れており、セルロース製品の材料として適切に使用することができる。また、試作例1~6は結晶化度が60%以下であるため、柔軟性、染色性、後加工での化学反応性等の性能も良好である。
【0115】
試作例1~11のセルロース成形体の比較から総合的に判断すると、本発明のセルロース成形体の製造方法の条件は、成形用水溶液の温度を10℃以上、成形用水溶液中のセルロース溶剤の濃度を20%以上とすることが好ましく、温度維持のコストやセルロース溶液の凝固しやすさ等を勘案すると、成形用水溶液の温度は10~70℃程度、セルロース溶剤の濃度は20~50%程度が好ましいと考えられる。また、本発明の製造方法で使用可能なセルロース材料は、前記の通り低純度のセルロース材料から高純度のセルロース材料まで幅広く選択可能であり、具体的には構成糖中のキシロース濃度が0.1~20重量%程度のセルロース材料を選択することができる。
【0116】
以上の通り、本発明の製造方法によれば、成形用水溶液中のセルロース溶剤濃度及び温度を前記の範囲内で適宜調整することで、幅広い純度の原料から透明性に優れた低結晶のセルロース成形体を製造することができる。また、セルロース成形体のセルロース純度は原料のセルロース純度に依存するため、従来の技術では高純度かつ低結晶性の成形体を得ることは困難であったが、本発明の製造方法を用いることにより、高純度かつ低結晶性の成形体を成形して安全性と各種性能を両立させたセルロース成形体を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明のセルロース成形体の製造方法では、従来のセルロース純度の低い低結晶セルロース成形体に加えてセルロース純度の高い低結晶セルロース成形体も得ることが可能であり、特に高純度の低結晶セルロース成形体により各種安全性試験に適合する製品材料を提供することができる。また、得られた低結晶セルロース成形体は透明性が高く、柔軟性や染色性に優れるため、化粧品やテキスタイル、包材等、幅広く用いることができる。また、成形体がフィルムの場合には、ラミネートや表面コート剤等の反応化剤との親和性が良くなり、フィルムとしての性能が向上する。成形体がビーズの場合には、ファンデーション等へ配合される際に必要な疎水性コート剤との反応性が良くなり、ビーズとしての性能が向上する。さらに、得られたセルロース成形体は、化学反応性に優れた工業原料としても好適に用いることができる。
図1