(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159415
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】シール付き玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20241031BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20241031BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20241031BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C19/16
F16J15/3204 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023170321
(22)【出願日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2023074809
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山縣 森
【テーマコード(参考)】
3J006
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE15
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE40
3J006AE41
3J006CA01
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB09
3J216AB24
3J216AB29
3J216BA02
3J216BA16
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB12
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC35
3J216CC68
3J216DA01
3J216DA11
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA73
3J701EA02
3J701EA49
3J701FA13
3J701FA38
3J701GA24
3J701GA31
3J701XB01
(57)【要約】
【課題】リップ部の適切な接触面圧分布を確保することにより、優れたシール性を発揮できるシール付き玉軸受を提供する。
【解決手段】シール付き玉軸受において、内輪が、底面と、底面に交差する外側側面とを備えたシール用内輪溝を有し、シール部材は、芯金とシール部とからなり、シール部は、芯金に密着する外側部と、外側部から径方向内方に延在する板状のリップ部とを有し、リップ部は、外側面と、外側面に交差する端面とを有し、端面との交差部を含む外側面が、外側側面に当接する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径面に外輪軌道溝を有する外輪と、
外径面に内輪軌道溝を有する内輪と、
前記内輪軌道溝と前記外輪軌道溝との間に転動自在に配置される複数の玉と、
前記玉の軸方向両側において、前記外輪に取り付けられて前記内輪に向かって延在するシール部材と、
を備えるシール付き玉軸受であって、
前記内輪は、底面と、前記底面に交差する外側側面と、を備えたシール用内輪溝を有し、
前記シール部材は、芯金とシール部とを含み、
前記シール部は、前記芯金に密着する外側部と、前記外側部から径方向内方に延在する板状のリップ部と、を有し、
前記リップ部は、外側面と、前記外側面に交差する端面と、を有し、
前記端面との交差部を含む前記外側面が、前記外側側面に当接する、
ことを特徴とするシール付き玉軸受。
【請求項2】
前記リップ部の外側面と前記シール用内輪溝の外側側面との間に発生する面圧は、前記端面との交差部において最大となる、
ことを特徴とする請求項1に記載のシール付き玉軸受。
【請求項3】
前記リップ部における前記外側側面と前記端面との交差部は、エッジ形状を有する、
ことを特徴とする請求項2に記載のシール付き玉軸受。
【請求項4】
前記シール用内輪溝の前記外側側面は、前記底面から軸方向外方に向かうにつれて拡径するテーパ形状を有し、
前記リップ部の前記外側面は、前記外側部の外側面から軸方向内方に向かうにつれて縮径するテーパ形状を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のシール付き玉軸受。
【請求項5】
前記リップ部の板厚は略均一である、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のシール付き玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール付き玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコンファン、冷却ファン、換気扇、クリーナー、洗濯機などの家電用モータや、汎用モータ、サーボモータ、ステッピングモータなどの産業用モータ、及び工作機械のスピンドルやエンコーダなどの回転軸は、一般的にシール部材を備えたシール付き玉軸受により回転自在に支承されている。
【0003】
特にサーボモータ用軸受においては、このシール部材からグリース及びグリース由来の物質が漏れることにより、エンコーダやブレーキが汚染され不具合が発生する恐れがある。かかる不具合を回避するには、比較的短いサイクルでのメンテナンスが必要になり、それによりランニングコストの増大を招く。
【0004】
特許文献1には、接触シールを備えた転がり軸受が開示されている。この転がり軸受において、シール溝の外側溝壁面が、軸方向外側に向かうに従って外径側に傾斜する傾斜面に形成され、シール部材は、リップの先端部が、シール溝の外側溝壁面に法線方向に当たるR形状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたシール部材のリップにおいて接触面圧分布が不適切であるため、シール効果が不十分であると考えられる。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、リップ部の適切な接触面圧分布を確保することにより、優れたシール性を発揮できるシール付き玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシール付き玉軸受は、
内径面に外輪軌道溝を有する外輪と、
外径面に内輪軌道溝を有する内輪と、
前記内輪軌道溝と前記外輪軌道溝との間に転動自在に配置される複数の玉と、
前記玉の軸方向両側において、前記外輪に取り付けられて前記内輪に向かって延在するシール部材と、
を備えるシール付き玉軸受であって、
前記内輪は、底面と、前記底面に交差する外側側面と、を備えたシール用内輪溝を有し、
前記シール部材は、芯金とシール部とを含み、
前記シール部は、前記芯金に密着する外側部と、前記外側部から径方向内方に延在する板状のリップ部と、を有し、
前記リップ部は、外側面と、前記外側面に交差する端面と、を有し、
前記端面との交差部を含む前記外側面が、前記外側側面に当接する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リップ部の適切な接触面圧分布を確保することにより、優れたシール性を発揮できるシール付き玉軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態にかかるシール付き玉軸受の断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態のシール付き玉軸受におけるリップ部付近を拡大して示す図である。
【
図3】
図3は、リップ部の断面に、各部寸法を示す寸法線と符号を追加したものである。
【
図4】
図4は、比較例にかかるシール付き玉軸受の断面図である。
【
図5】
図5は、比較例のシール付き玉軸受におけるリップ部付近を拡大して示す図である。
【
図6】
図6は、本実施形態のシール付き玉軸受のシール部の面圧分布を示す図である。
【
図7】
図7は、比較例のシール付き玉軸受のシール部の面圧分布を示す図である。
【
図8】
図8は、サーボモータ庫内を再現した試験機の断面図である。
【
図9】
図9は、実施形態及び比較例の円板汚染度に関する試験結果である。
【
図10】
図10は、実施形態及び比較例のグリース漏れ率に関する試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るシール付き玉軸受の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態にかかるシール付き玉軸受10の断面図である。
図2は、本実施形態のシール付き玉軸受10におけるリップ部付近を拡大して示す図である。ここで、「軸方向」とは、シール付き玉軸受10の軸線方向をいうものとし、「軸方向内方」とは、シール部材15を起点として玉13への方向とし、「軸方向外方」とは、玉13を起点としてシール部材15への方向とする。本実施形態の玉軸受は、外輪がハウジング等の固定部材に取り付けられ、内輪が回転軸に取り付けられて内輪回転で使用される。
【0012】
深溝玉軸受であるシール付き玉軸受10は、内径面に外輪軌道溝11aを有する外輪11と、外径面に内輪軌道溝12aを有する内輪12と、外輪軌道溝11aと内輪軌道溝12aとの間に転動自在に配置された複数の玉13と、玉13を円周方向に所定の間隔で保持する樹脂製の保持器14と、外輪11の内径面の軸方向両側に固定されて、軸受内部を密封する一対のシール部材15と、を備える。軸受内には、予めグリースが封入されている。
【0013】
本実施形態では、外輪軌道溝11a及び内輪軌道溝12aは、玉13の軸方向中間位置が、シール付き玉軸受10の軸方向中間位置となるように、外輪11及び内輪12に形成されている。
【0014】
外輪11は、外輪軌道溝11aの両側にシール用外輪溝11bを有し、内輪12は、内輪軌道溝12aの両側にシール用内輪溝12bを有する。
【0015】
シール部材15は、鋼板などの金属板により略円環状に形成された芯金16と、芯金16に固着されたゴムなどの弾性材料からなるシール部17と、を有する。芯金16は、シール付き玉軸受10の軸線に直交する面に沿って配置される本体部16aと、本体部16aの径方向外方端に連設され軸方向内方に屈曲する屈曲部16bと、からなる。
【0016】
各シール部17は、芯金16の本体部16aの軸方向外側面(玉13と反対側の面)に密着してこれを覆う外側部17aと、外側部17aに連設され芯金16の屈曲部16bの外周縁を包み込むように形成された外縁部17bと、外側部17aに連設され芯金16の内周縁から径方向内方に向かって延在するリップ部17cと、リップ部17cの根元近傍に連設され芯金16の内周縁を包み込むようにして軸方向内方に延在する略三角断面形状の補助リップ部17dと、を有する。
図2に示すように、リップ部17cは、その内側面(玉13に近い側の面)と外側面17fとに交差する端面17eを有する。端面17eは円筒面または円錐面であると好ましい。さらに外側面17fと端面17eとの交差部は、エッジ形状を有すると好ましい。また、
図2の断面において、外側面17fと端面17eとは鈍角で交差すると好ましい。
【0017】
外側部17aは、本体部16aとともにシール付き玉軸受10の軸線に直交する面に沿って配置される。これに対し、リップ部17cは、シール付き玉軸受10の軸線に直交する面に対して軸方向内方に傾斜して(リップ部17cの外側面17fは外側部17aの外側面から軸方向内方に向かうにつれて縮径するテーパ状となって)おり、
図2の断面において片持ち形状に延在する。また、補助リップ部17dの内周面は、シール付き玉軸受10の軸線に略平行な円筒面である。
【0018】
各シール部17は、外縁部17bを外輪11のシール用外輪溝11bに係合させて、外輪11に取り付けられる。このとき、各芯金16は玉13側に配置される。補助リップ部17dの内縁は、内輪12の内周からわずかに離間した位置に配置されており、内輪12に対して摺動しないため、補助リップ部17dが摩耗することがない。また、補助リップ部17dは、芯金16の内側を伝わって外輪11から内輪12に向かうグリースを内輪軌道溝12a側に戻す機能と、いわゆるラビリンス構造によりグリースがシール用内輪溝12bに向かうことを抑制する機能とを有する。
【0019】
図2において、シール用内輪溝12bは、円筒面である底面12cと、テーパ面である内側側面12dと、内側側面12dに対して軸方向に対向するテーパ面である外側側面12eと、を含む。内側側面12d及び外側側面12eは、シール付き玉軸受10の軸線に直交する面に対して傾斜している。より具体的には、
図2の断面において、内側側面12dは、底面12cから軸方向内側に傾斜して延在しており、底面12cから軸方向内方に向かうにつれて拡径するテーパ状となっている。また、外側側面12eは、底面12cから軸方向外側に傾斜して延在しており、底面12cから軸方向外方に向かうにつれて拡径するテーパ状となっている。
【0020】
リップ部17cは、補助リップ部17dとの交差部より内径側において、略均一な板厚のテーパ環状板形状を有し、その外側面17fの一部が、弾性変形しつつ外側側面12eに当接することで、接触シールとして機能する。なお、
図2及び
図3においては、リップ部17cが弾性変形していない状態で示されている。
【0021】
図3は、リップ部の断面に、各部寸法を示す寸法線と符号を追加したものである。
図3において、芯金16の板厚をt(mm)とし、芯金16の径方向内縁からリップ部17cの径方向内縁(外側面17fと端面17eとの交差部)までの径方向距離をA(mm)とし、補助リップ部17dの内周からリップ部17cの径方向内縁までの径方向距離をB(mm)とし、シール用内輪溝12bの外側部17aとリップ部17cとの境界(折れ曲がり点)からリップ部17cの内縁までの径方向距離をC(mm)とし、リップ部17cの板厚をD(mm)とすると、以下の関係が成立する。
t>D (1)
A>C>B (2)
【0022】
ここで、(1)式が成立することで、シール部材15の剛性を確保しつつ、リップ部17cに柔軟性を与え、シール効果を高めることができる。また、(2)式が成立することで、リップ部17cの根元の剛性を高めて、相対的にリップ部17cの内縁側(端面17eに近い側)をより撓ませやすくすることができる。
【0023】
また、
図3の断面において、補助リップ部17dの内周とリップ部17cの軸方向内側面とのなす角度をE(°)とし、リップ部17cの外側面17fとシール用内輪溝12bの外側側面12eとのなす角度をG(°)とし、外側側面12eと底面12cとのなす角度をF(°)としたときに、以下の式が成立する。ただし、組み付けによりリップ部17cの外側面17fが外側側面12eと接したとき、リップ部17cが弾性変形して撓みが生じるが、角度G,Eは、自由状態(組付前の状態)のリップ部17cと外側側面12e及び補助リップ部17dとによりそれぞれ形成される角度とし、例えばシール付き玉軸受10の設計値から求めることができる。
E>F (3)
E>G>0 (4)
【0024】
(3)式が成立することで、外側部17aに対してリップ部17cの内縁が軸方向内方に変位するようにリップ部17cが傾斜するため、リップ部17cの端面17eとの交差部から外側面17fを、所定の範囲にわたって外側側面12eに当接させることができ、それにより後述する面圧分布を発生することができる。また、(4)式が成立することで、少なくともリップ部17cの端面17eとの交差部を含む外側面17fを、外側側面12eに当接させることができる。
【0025】
ここで、
図2の断面において、外側側面12eの法線をNとしたときに、法線Nに沿った方向をy方向とし、y方向に直交する方向をx方向とし、y方向をy軸としx方向をx軸とする直交座標系を設定する。また、外側側面12eに当接するリップ部17cの最も底面12cに近い点を、該直交座標系の原点0とする。
【0026】
(比較例)
次に、比較例について説明する。
図4は、比較例にかかるシール付き玉軸受10の断面図である。
図5は、比較例のシール付き玉軸受10におけるリップ部付近を拡大して示す図である。
【0027】
比較例のシール付き玉軸受10は、内径面に外輪軌道溝11aを有する外輪11と、外径面に内輪軌道溝12aを有する内輪12と、外輪軌道溝11aと内輪軌道溝12aとの間に転動自在に配置された複数の玉13と、玉13を円周方向に所定の間隔で保持する樹脂製の保持器14と、外輪11の内径面の軸方向両側に固定されて、軸受内部を密封する一対のシール部材15’と、を備える。シール部材15’以外の構成は、本実施形態のシール付き玉軸受10と同様であるため、重複説明を省略する。
【0028】
シール部材15’は、鋼板などの金属板により略円環状に形成された芯金16と、芯金16に固着されたゴムなどの弾性材料からなるシール部17’とを有する。シール部17’以外の構成は、本実施形態のシール部材15と同様であり、また、シール部17’におけるリップ部17c’以外の構成は、本実施形態のリップ部17cと同様であるため、重複説明を省略する。
【0029】
リップ部17c’は、外側部17aに連設されシール用内輪溝12bに向かって延在するリップ部本体17c1’と、リップ部本体17c1’の内縁に連設されて
図5の断面で軸方向に片持ち状に(筒状に)延在するリップ部先端部17c2’とを有する。
【0030】
リップ部先端部17c2’は、先端側に向かうにつれてその径方向厚さが減少し、これによりリップ部先端部17c2’の断面形状において、その先端がR形状(円弧状)の輪郭を有する。リップ部本体17c1’の板厚は、芯金16の板厚より厚くなっており、それによりリップ部本体17c1’の剛性を確保でき、相対的にリップ部先端部17c2’が変形しやすくしている。
【0031】
組付状態において、リップ部先端部17c2’の先端が、シール用内輪溝12bの外側側面12eに当接し、シール機能を発揮する。このとき、
図5に示すように、リップ部先端部17c2’の先端は、傾斜した外側側面12eに当接することで、底面12c側に押し広げられるように弾性変形する。
【0032】
ここで、
図5の断面において、外側側面12eの法線をNとしたときに、法線Nに沿った方向をy方向とし、y方向に直交する方向をx方向とし、y方向をy軸としx方向をx軸とする直交座標系を設定する。また、外側側面12eに当接するリップ部先端部17c2’の最も底面12cに近い点を、該直交座標系の原点0とする。
【0033】
(面圧分布)
図6は、本実施形態のシール付き玉軸受10のシール部17の面圧分布を示す図であり、
図7は、比較例のシール付き玉軸受10のシール部17’の面圧分布を示す図であり、それぞれ上述の定義に従った直交座標系において、y軸を、外側側面12eからシール部17,17’が受ける面圧とし、x軸を、面圧を受けるシール部17,17’の位置とする。したがって、面圧が0以上の領域が、リップ部17cまたはリップ部先端部17c2’が、外側側面12eに接触する接触範囲である。
【0034】
まず、比較例のシール付き玉軸受10において、リップ部先端部17c2’の先端はR形状を有するため、外側側面12eに当接したときに、ヘルツの接触理論から、
図7に示すように、リップ部先端部17c2’が外側側面12eに接触した接触範囲の中央部(x1の位置)が最も面圧が高くなる。
【0035】
接触範囲の中央部の面圧が最も高くなる場合、原点0付近の面圧は相対的に低くなる。このため、原点0側(底面12cに近い側)からグリースがリップ部先端部17c2’と外側側面12eとの間に侵入しやすく、それによりグリース漏れが生じる恐れがある。これを防ぐために、リップ部17c’の剛性を高めて、リップ部先端部17c2’と外側側面12eの面圧の絶対値を増大させると、引きずりトルクの増大やリップ部先端部17c2’の摩耗等を招く恐れがある。
【0036】
これに対し、本実施形態のシール付き玉軸受10においては、(1)式を満たすことで、リップ部17cを撓みやすくするとともに、(3)式を満たすことで、リップ部17cの端面17eとの交差部から、リップ部17cの外側面17fを外側側面12eに当接させることができる。このため、
図6に示すように、リップ部17cの端面17eとの交差部が外側側面12eに接触した位置(原点0)で最も面圧が高くなる。
【0037】
本実施形態によれば、原点0付近の面圧が最も高くなり、いわゆるエッジ接触となるため、原点0側(底面12cに近い側)からグリースがリップ部17cと外側側面12eとの間に侵入することを抑制できる。このため、リップ部17cの面圧の絶対値を増大させずとも、グリース漏れを有効に抑制できるから、引きずりトルクの増大やリップ部17cの摩耗等を抑えることができる。
【0038】
(円板汚染試験及びグリース漏れ試験)
図8に示す試験機を用いて、サーボモータのエンコーダを模擬した円板の汚染度と、軸受からのグリースの漏れ率と、について試験した。
図8は、サーボモータ庫内を再現した試験機の断面図である。
図9は、実施形態及び比較例の円板汚染度に関する試験結果である。
図10は、実施形態及び比較例のグリース漏れ率に関する試験結果である。
【0039】
図8に示すように、試験機20は、サーボモータ用のエンコーダ装置を模したものであり、ハウジング21と、ハウジング21の内部に配置される回転軸22と、ハウジング21に対して回転軸22を回転可能に支持する一対の玉軸受10,110と、回転軸22の軸方向一端部に取り付けられ、回転軸22と共に回転する円板状のエンコーダ模擬円板25と、を備える。一対のシール付き玉軸受10,110のうち、エンコーダ模擬円板25に近い側の玉軸受が、上述の実施形態(
図1~
図3参照)又は比較例(
図4~
図5参照)のシール付き玉軸受10であり、密封部材24に近い側の玉軸受は、サポート用の一般的な玉軸受である。なお、
図8中、シール付き玉軸受10は概略的に示されており保持器14やシール部材15の図示は省略されている。
【0040】
試験機20において、ハウジング21の軸方向他端部に設けられた密封部材24によって、ハウジング21の内部が密封構造とされている。一対のシール付き玉軸受10,110は、正面組み合わせとされている。ハウジング21は、その外周部が筒状のヒータ27によって覆われている。さらに、ハウジング21及びヒータ27の外周部と軸方向一端部が断熱材26によって覆われている。試験条件に応じてヒータ26による加熱が可能とされている。回転軸22は不図示のモータによって駆動され、その回転速度や回転方向が適宜変更可能である。
【0041】
試験機20のシール付き玉軸受10として、上述の実施形態(
図1~
図3参照)又は比較例(
図4~
図5参照)のシール付き玉軸受10が組み込まれて、試験が行われた。試験機20を動作させると、シール付き玉軸受10内部の基油分が漏れ出し、エンコーダ模擬円板25が汚染される。エンコーダ模擬円板25の汚染度の評価(
図9参照)は、エンコーダ模擬円板25をカメラ等で撮影し、円板全体の面積に対して汚染された部分の面積を算出することで行った。グリース漏れ率の評価(
図10参照)は、試験前後のシール付き玉軸受10の重量差からグリース漏れ率を算出することで行った。
図9及び
図10に示された試験結果は、4回の試験を行った平均値を示すものである。
【0042】
円板汚染試験の結果が示された
図9を参照すると、比較例のシール付き玉軸受10を用いた場合のエンコーダ模擬円板25の汚染度を100%としたとき、実施形態のシール付き玉軸受10を用いた場合のエンコーダ模擬円板25が0.4%に低減していることが分かる。グリース漏れ率の試験結果の結果が示された
図10を参照すると、比較例のシール付き玉軸受10を用いた場合のグリースの漏れ率を100%としたとき、実施形態のシール付き玉軸受10を用いた場合のグリースの漏れ率が34%に低減していることが分かる。このように、本実施形態のシール付き玉軸受10によれば、グリース漏れを有効に抑制できる。
【0043】
本発明は、上述の実施形態に限定されない。本発明の範囲内において、上述の実施形態の任意の構成要素の変形が可能である。また、上述の実施形態において任意の構成要素の追加または省略が可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 シール付き玉軸受
11 外輪
12 内輪
12b シール用内輪溝
12c 底面
12e 外側側面
13 玉
15 シール部材
16 芯金
17 シール部
17a 外側部
17c リップ部
17d 補助リップ部
20 試験機
21 ハウジング
22 回転軸
24 密封部材
25 エンコーダ模擬円板
26 断熱材
27 ヒータ