(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159434
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 407/00 20060101AFI20241031BHJP
C07C 409/30 20060101ALI20241031BHJP
C07C 409/24 20060101ALI20241031BHJP
C07C 409/28 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C07C407/00
C07C409/30
C07C409/24
C07C409/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023192801
(22)【出願日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2023074241
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】597139170
【氏名又は名称】学校法人静岡理工科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100191400
【弁理士】
【氏名又は名称】絹川 将史
(72)【発明者】
【氏名】桐原 正之
(72)【発明者】
【氏名】高村 侑矢
(72)【発明者】
【氏名】川合 巧真
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 忍
(72)【発明者】
【氏名】モハメド・サレム・へフニ・サレム・モハメド
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC46
4H006BA95
4H006BB17
4H006BC40
4H006BE30
(57)【要約】
【課題】多種類の試薬を用いて、煩雑な多段階の操作を必要とせず、危険を伴う操作を必要としない、簡易かつ安価、そして安全に製造することができる芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】少なくとも1個のホルミル基が結合する芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物を、エステル類に溶解して、酸素ガスの存在下で光照射をすることを含む、芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法を提供する。さらに光照射は、340~502nmの波長の光を用いることを特徴とする。さらにエステル類は、酢酸エステル類であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個のホルミル基が結合する下記一般式(A)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物を、
【化1】
(式中、Rは芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基であり、置換基を有していてもよい。)
エステル類を溶媒として、酸素ガスの存在下で光照射をすることを含む、下記一般式(B)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法。
【化2】
(式中、Rは芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基であり、置換基を有していてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(A)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物の芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、アルデヒド基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、シアノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択される置換基でさらに置換されていてもよい芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基であって、
前記一般式(B)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、アルデヒド基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、シアノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択される置換基でさらに置換されていてもよい芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(A)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物が、前記一般式(B)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物と相応することを特徴とする請求項2に記載の芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項4】
前記光照射は、340~502nmの波長の光を用いることを特徴とする請求項3に記載の芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項5】
前記光照射は、380~500nmの波長の光を用いることを特徴とする請求項4に記載の芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項6】
前記酸素ガスは、酸素濃度が20~100%であることを特徴とする請求項5に記載の芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項7】
前記エステル類は、酢酸エステル類であることを特徴とする請求項6に記載の芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項8】
前記酢酸エステル類は、酢酸イソプロピル又は酢酸エチルであることを特徴とする請求項7に記載の芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項9】
少なくとも1個のホルミル基が芳香環に結合する下記一般式(1)で表される芳香族アルデヒド化合物を、
【化3】
(式中、Arは芳香環であり、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環及び/又は芳香族複素環を示す。)
エステル類を溶媒として、酸素ガスの存在下で光照射をすることを含む、下記一般式(2)で表されることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の芳香族過カルボン酸化合物の製造方法。
【化4】
(式中、Arは芳香環であり、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環及び/又は芳香族複素環を示す。)
【請求項10】
前記芳香族アルデヒド化合物が、m-クロロベンズアルデヒドであって、前記芳香族過カルボン酸化合物が、m-クロロ過安息香酸であることを特徴とする請求項9に記載の芳香族過カルボン酸化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2023年4月28日に出願された特願2023-74241を先の出願とする国内優先権主張出願である。本発明は、芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物を原料として、酸素ガス存在下における光照射による芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族過カルボン酸化合物は、ベンゼン環の炭素原子に化合した過カルボン酸を有する。過カルボン酸(-C(=O)OOH)は、カルボン酸(-COOH)のヒドロキシ基(-OH)を、ヒドロペルオキシ基(-OOH)に置き換えた過酸の一種である。芳香族過カルボン酸化合物は、一般に酸素原子を1個放出する形式の強い酸化力を示し、有機合成において酸化剤として用いられる。例えば、バイヤー・ビリガー酸化反応、オレフィンのエポキシ化、アミンの酸化といった酸化反応に用いられ、医薬分野や工学分野における様々な製品生産に利用される。
【0003】
殆どの芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物は、不安定であり市販されていないが、m-クロロ過安息香酸(mCPBA)は、過酸の中では安定していて市販されている。よって、芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の中で、m-クロロ過安息香酸は酸化剤として汎用されている。このメタクロロ過安息香酸の製造方法は、m-クロロ安息香酸を塩化チオニルによって、酸塩化物へと変換した後、ジオキサン中で水酸化ナトリウム水溶液及び硫酸マグネシウム存在下で、過酸化水素水を反応させた後に、硫酸で酸性にして、ジクロロメタンで抽出した後に、抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥して、ろ過で乾燥剤を取り除き、ジクロロメタン存在下で減圧濃縮して合成することが開示されている(非特許文献1)。また、m-クロロ安息香酸クロライドを水酸化カリウム水溶液、過酸化水素水、ジクロロメタン、メタノール、硫酸マグネシウムを所定の割合で混合した溶液と反応させた後に、硫酸で酸性にして、ジクロロメタンで抽出した後に、減圧濃縮することが開示されている(特許文献1)。
【0004】
また、芳香族過カルボン酸化合物の製造方法として、芳香族アルデヒド化合物を酸素雰囲気下で、遷移金属の酸化物触媒及び芳香族炭化水素溶媒を混合して、激しく攪拌させて芳香族過カルボン酸化合物を製造する方法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2684385号
【特許文献2】特許第3677793号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Organic Syntheses, Coll. Vol. 6, p.276 (1988); Vol. 50, p.15 (1970).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法は、多種類の試薬を用いて、煩雑な多段階の操作を必要とする場合があった。また、激しく攪拌するといった危険を伴う操作を必要とする場合があった。
【0008】
本発明は、斯かる問題点に鑑みてなされたものであり、上記の問題点を解決する簡易かつ安価、そして安全に行うことができる芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の問題点を解決する方法を鋭意研究した結果、m-クロロベンズアルデヒドをエステル類に溶解して、酸素ガスの存在下で光照射すると、従来よりも効率よくm-クロロ過安息香酸が生産できることを見出した。さらに、芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法への一般化についても検討したところ、様々な置換基を有する種々の芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物もm-クロロベンズアルデヒドと同様に、エステル類に溶解して、酸素ガスの存在下で光照射すると、予想外に効率よく芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物を生成できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
したがって、本発明は、以下に掲げる構成とした。
本発明の芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法は、少なくとも1個のホルミル基が結合する下記一般式(A)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物を、
【化1】
(式中、Rは芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基であり、置換基を有していてもよい。)
エステル類を溶媒として、酸素ガスの存在下で光照射をすることを含む、下記一般式(B)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法である。
【化2】
(式中、Rは芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基であり、置換基を有していてもよい。)
前記一般式(A)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物の芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、アルデヒド基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、シアノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択される置換基でさらに置換されていてもよい芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基であって、前記一般式(B)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、アルデヒド基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、シアノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択される置換基でさらに置換されていてもよい芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基であることを特徴とする。
前記一般式(A)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物が、前記一般式(B)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物と相応することを特徴とする。
前記一般式(A)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物の芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基に結合する置換基の数は、0~2個であることを特徴とする。
前記一般式(B)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基に結合する置換基の数は、0~2個であることを特徴とする。
前記一般式(A)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物の芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基に結合する置換基の数は、0~1個であることを特徴とする。
前記一般式(B)で表される芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基に結合する置換基の数は、0~1個であることを特徴とする。
本発明の芳香族過カルボン酸化合物の製造方法は、少なくとも1個のホルミル基が芳香環に結合する下記一般式(1)で表される芳香族アルデヒド化合物を、
【化3】
(式中、Arは芳香環であり、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環及び/又は芳香族複素環を示す。)
エステル類を溶媒として、酸素ガスの存在下で光照射をすることを含む、下記一般式(2)で表される芳香族過カルボン酸化合物の製造方法である。
【化4】
(式中、Arは芳香環であり、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環及び/又は芳香族複素環を示す。)
前記一般式(1)で表される芳香族アルデヒド化合物の芳香環は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、アルデヒド基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、シアノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択される置換基でさらに置換されていてもよい芳香環であって、前記一般式(2)で表される芳香族過カルボン酸化合物の芳香環は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、アルデヒド基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、シアノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択される置換基でさらに置換されていてもよい芳香環であることを特徴とする。
前記一般式(1)で表される芳香族アルデヒド化合物が、前記一般式(2)で表される芳香族過カルボン酸化合物と相応することを特徴とする。
前記一般式(1)で表される芳香族アルデヒド化合物の芳香環に結合する置換基の数は、0~2個であることを特徴とする。
前記一般式(2)で表される芳香族過カルボン酸化合物の芳香環に結合する置換基の数は、0~2個であることを特徴とする。
前記一般式(1)で表される芳香族アルデヒド化合物の芳香環に結合する置換基の数は、0~1個であることを特徴とする。
前記一般式(2)で表される芳香族過カルボン酸化合物の芳香環に結合する置換基の数は、0~1個であることを特徴とする。
前記光照射は、200~860nmの波長の光を用いることを特徴とする。
前記光照射は、340~502nmの波長の光を用いることを特徴とする。
前記光照射は、360~500nmの波長の光を用いることを特徴とする。
前記光照射は、430~500nmの波長の光を用いることを特徴とする。
前記酸素ガスは、酸素濃度が20~100%であることを特徴とする。
前記酸素ガスは、酸素濃度が50~100%であることを特徴とする。
前記酸素ガスは、酸素濃度が80~100%であることを特徴とする。
前記エステル類は、酢酸エステル類であることを特徴とする。
前記酢酸エステル類は、酢酸イソプロピル又は酢酸エチルであることを特徴とする。
前記一般式(1)で表される芳香族アルデヒド化合物が、m-クロロベンズアルデヒドであって、前記一般式(2)で表される芳香族過カルボン酸化合物が、m-クロロ過安息香酸であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、簡易かつ安価に芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造を行うことができる。特に、従来法であれば多段階の操作を必要としていたが、本発明では一段階の操作で足るため、手間も時間も少なく製造ができる。また、従来法で用いられる塩化チオニルは腐食性があって使いにくい側面もあり、中間生成物である酸塩化物も不安定であり取扱いに注意が必要であるが、本発明の製造方法では、このような取扱いに注意が必要な物質を用いることがない。さらに、従来法で用いられる激しく攪拌する操作のような危険な工程を伴うことなく、安全な操作で、芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造ができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】過カルボン酸化合物の製造について、様々な波長の影響を調べた図である。
【
図2】過カルボン酸化合物の製造について、様々な溶媒の影響を調べた図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変更して実施できる。また、本明細書で挙げた化合物は、その例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能であることは言うまでもない。
【0014】
本発明は、原料となる芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物を、エステル類を溶媒として、酸素ガスの存在下で光照射することを含む、芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法である。
【0015】
本発明において、原料となる芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物は、芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基とそれに結合するホルミル基(アルデヒド基)から構成される。
【0016】
芳香族は、環状不飽和有機化合物の一群を指し、炭化水素のみで構成された芳香族炭化水素や環構造に炭素以外の元素を含めて構成された複素芳香族化合物を含む。
【0017】
脂肪族は、炭素原子が直鎖又は分枝を形成している有機化合物の一群を指し、結合は飽和結合でも不飽和結合のどちらでもよい。炭化水素のみで構成された脂肪族炭化水素や酸素や窒素、硫黄、塩素等のヘテロ原子が炭素鎖に結合する脂肪族化合物を含む。
【0018】
脂環式化合物は、非芳香環の環状構造を形成している有機化合物の一群を指し、結合は飽和結合でも不飽和結合のどちらでもよい。炭化水素のみで構成された脂環式炭化水素や環構造に炭素以外の元素を含めて構成された複素脂環式化合物を含む。
【0019】
芳香環は、単環式又は多環式の芳香族炭化水素環、単環式又は多環式の芳香族複素環、単環式又は多環式の芳香族炭化水素環と芳香族複素環の組合せのいずれであってもよい。例えば単環式又は多環式の芳香環として、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環、トロピリウム環、シクロプロペニウム環が挙げられる。また、単環式又は多環式の複素環には、チオフェン環、フラン環、ピリジン環が挙げられる。また、多環式の複素環には、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、インドール環が挙げられる。芳香族化合物が有する芳香環があることにより、光照射した際にラジカルが出やすくなり、過酸の生成に対して有利であると考えられる。本発明の芳香環に結合するホルミル基(-CHO)は、少なくとも1個あり、1個又は複数であってもよい。芳香環には、1個又は複数のホルミル基が結合しているため、その他の結合する位置には、水素原子又は任意の置換基が結合する。
【0020】
炭化水素基は、直鎖、分岐、環状であって、好ましくは炭素数1~30個、より好ましくは炭素数が1~10個、さらに好ましくは炭素数が1~5個である。炭化水素基は、脂肪族炭化水素、単環式又は多環式の脂環式炭化水素、単環式又は多環式の複素脂環式炭化水素、これらの組合せのいずれであってもよい。また、芳香環と炭化水素基の組合せのいずれであってもよい。直鎖、分岐、環状の炭化水素基は、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基が挙げられる。アルキル基の例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基が挙げられる。アルケニル基の例として、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチルアリル基、2-ブテニル基が挙げられる。アルキニル基の例として、エチニル基、2-プロピニル基、2-ブチニル基が挙げられる。シクロアルキル基の例として、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。シクロアルケニル基の例として、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、2-シクロペンテン-1-イル基、2-シクロヘキセン-1-イル基、3-シクロヘキセン-1-イル基が挙げられる。炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、アルデヒド基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、シアノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択される置換基でさらに置換されていてもよい。
【0021】
本発明の芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物は、例えば下記一般式(A)で示される。
【化5】
【0022】
一般式(A)中、Rは芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基であり、置換基を有していてもよい。芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、アルデヒド基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、シアノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択される置換基でさらに置換されていてもよい。
【0023】
アルキル基やアルケニル基等の置換基が1個以上の炭素原子を含む有機基であれば、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれでもよく、さらに置換基を有していてもよい。有機基は、好ましくは炭素数が1~30個、より好ましくは炭素数が1~10個、さらに好ましくは炭素数が1~5個である。
【0024】
以下に本発明において一般式(A)で表される芳香族、脂肪族、脂環式アルデヒド化合物の例を示す。
芳香族アルデヒド化合物は、芳香環に結合するホルミル基が1個であれば、例えばベンズアルデヒド、m-クロロベンズアルデヒド、2-カルボキシベンズアルデヒド、2-ナフトアルデヒド、10-クロロ-9-アントラアルデヒド等が挙げられる。また、芳香環に結合するホルミル基が複数であれば、例えばベンゼン-1,4-ジカルボアルデヒド、2,5-ジブロモテレフタルアルデヒド、ベンゼン-1,3,5-トリカルボアルデヒド、ベンゼン-1,2,3,4,5,6-ヘキサカルボアルデヒド、2,3-ナフタレンジアルデヒド等が挙げられる。
【0025】
脂肪族アルデヒド化合物は、直鎖又は分岐の炭化水素基に結合するホルミル基が1個であれば、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、6-ヒドロキシヘキサナール、2-ブロモヘプタナール、アクロレイン、2-メチルイソブタナール、ノネナール等が挙げられる。また、直鎖又は分岐の炭化水素基に結合するホルミル基が複数であれば、例えばドデカンジアール、2-メチル-1,8-オクタンジアール等が挙げられる。
【0026】
脂環式アルデヒド化合物は、環状の炭化水素基に結合するホルミル基が1個であれば、シクロヘキサンカルボキシアルデヒド、3-シクロヘキセン-1-カルボキシアルデヒド、4-(4-メチル-3-ペンテニル)-3-シクロヘキセン-1-カルボアルデヒド、2,4,6-トリメチル-3-シクロヘキセン-1-カルボアルデヒド、2-ニトロ-1-シクロヘキセン-1-カルボアルデヒド等が挙げられる。また、環状の炭化水素基に結合するホルミル基が複数であれば、シクロペンタン-1,3-ジカルボアルデヒド、シクロヘキサン-1,4-ジカルボアルデヒド等が挙げられる。
【0027】
また、3-(4-イソプロピルフェニル)イソブチルアルデヒド、1-フェニルシクロペンタンカルボアルデヒド等の芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基のいずれが組み合わされた化合物であっても、本発明の芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物に含まれる。
【0028】
本発明の芳香族アルデヒド化合物は、例えば下記一般式(1)で示される。
【化6】
【0029】
一般式(1)中、Arは芳香環であり、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環及び/又は芳香族複素環を示す。芳香環は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、アルデヒド基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、シアノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択される置換基でさらに置換されていてもよい。
【0030】
アルキル基やアルケニル基等の置換基が1個以上の炭素原子を含む有機基であれば、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれでもよく、さらに置換基を有していてもよい。有機基は、好ましくは炭素数が1~30個、より好ましくは炭素数が1~10個、さらに好ましくは炭素数が1~5個である。
【0031】
以下に本発明において一般式(1)で表される芳香族アルデヒド化合物の例を示す。芳香環が置換基を有さない場合は、ベンズアルデヒドや2-ナフトアルデヒドがある。置換基にメチル基(アルキル基)があれば、p-メチルベンズアルデヒド、3,4-ジメチルベンズアルデヒド、2,4,6-トリメチルベンズアルデヒドがある。置換基にイソプロピル基(アルキル基)があれば、p-イソプロピルベンズアルデヒドがある。置換基にtert-ブチル基(アルキル基)があれば、4-tert-ブチルベンズアルデヒドがある。置換基にエチニル基(アルケニル基)があれば、4-エチニルベンズアルデヒドがある。置換基にメトキシ基があれば、p-メトキシベンズアルデヒドがある。置換基にヒドロキシ基やニトロ基があれば、3-エトキシ-4-ヒドロキシ-5-ニトロベンズアルデヒドがある。置換基にフェノキシ基があれば、3-フェノキシベンズアルデヒドがある。置換基にシアノ基があれば、p-シアノベンズアルデヒドがある。置換基にヒドロキシ基やメトキシ基があれば、2-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒドがある。置換基にホルミル基があれば、ベンゼン-1,3,5-トリカルボキシアルデヒドがある。置換基にカルボキシ基があれば、2-カルボキシベンズアルデヒドがある。置換基にフルオロ基があれば、ペンタタフルオロベンズアルデヒドがある。置換基にクロロ基があれば、m-クロロベンズアルデヒドがある。置換基にブロモ基やヨード基があれば、2-ブロモ-4-ヨードベンズアルデヒドがある。また、一般に-CHO基(ホルミル基)を有するアルデヒドは、「アルデヒド」を用いる他、-carbaldehyde(カルバルデヒド)を記載する場合がある。
【0032】
また、例えば芳香環に1個の置換基が結合しているm-クロロベンズアルデヒドであれば、o-クロロベンズアルデヒド、p-クロロベンズアルデヒドのように、1個の置換基がオルト(o)、メタ(m)、パラ(p)のいずれの位置に結合している化合物も同様に本発明の芳香族アルデヒド化合物に含まれる。また、例えば芳香環に複数の置換基が結合している3,4-ジメチルベンズアルデヒドや2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンズアルデヒドのように、複数の置換基がいずれの位置に結合している化合物も同様に含まれる。芳香環に結合する置換基の数は、好ましくはいずれか0~2個が水素原子以外である。より好ましくは、いずれか0~1個が水素原子以外である。
【0033】
本発明の反応により生成する芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物は、例えば下記一般式(B)で示される。
【化7】
【0034】
一般式(B)中、Rは芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基であり、置換基を有していてもよい。芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、アルデヒド基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、シアノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択される置換基でさらに置換されていてもよい。
【0035】
アルキル基やアルケニル基等の置換基が1個以上の炭素原子を含む有機基であれば、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれでもよく、さらに置換基を有していてもよい。有機基は、好ましくは炭素数が1~30個、より好ましくは炭素数が1~10個、さらに好ましくは炭素数が1~5個である。
【0036】
以下に本発明において一般式(B)で表される芳香族、脂肪族、脂環式過カルボン酸化合物の例を示す。
芳香族過カルボン酸化合物は、芳香環に結合する-C(=O)OOH基が1個であれば、例えば過安息香酸、m-クロロ過安息香酸、2-カルボキシ過安息香酸、2-Naphthalenecarboperoxoic acid、10-クロロ-9-アントラセン過カルボン酸等が挙げられる。また、芳香環に結合する-C(=O)OOH基が複数であれば、例えばベンゼン-1,4-ジペルオキシカルボン酸、2,5-ジブロモジペルオキシフタル酸、ベンゼン-1,3,5-トリペルオキシカルボン酸、ベンゼン-1,2,3,4,5,6-ヘキサペルオキシカルボン酸、2,3-ナフタレンジペルオキシカルボン酸等が挙げられる。
【0037】
脂肪族過カルボン酸化合物は、直鎖又は分岐の炭化水素基に結合する-C(=O)OOH基が1個であれば、例えば過酢酸、過プロピオン酸、過酪酸、ペルオキシペンタン酸、ペルオキシヘキサン酸、ペルオキシヘプタン酸、ペルオキシオクタン酸、ペルオキシノナン酸、ペルオキシデカン酸、6-ヒドロキシペルオキシヘキサン酸、2-ブロモペルオキシヘプタン酸、2-Propeneperoxoic acid、2-メチルペルオキシイソ酪酸、ペルオキシノネン酸等が挙げられる。また、直鎖又は分岐の炭化水素基に結合する-C(=O)OOH基が複数であれば、例えばペルオキシデカン-1,10-ジカルボン酸、ジペルオキシデカン-1,10-ジカルボン酸、1-メチルペルオキシ-1,6-ヘキサンジカルボン酸、1-メチルジペルオキシ-1,6-ヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
【0038】
脂環式過カルボン酸化合物は、環状の炭化水素基に結合する-C(=O)OOH基が1個であれば、シクロヘキサンペルオキシカルボン酸、3-シクロヘキセン-1-ペルオキソ酸、4-(4-メチル-3-ペンテニル)-3-シクロヘキセン-1-ペルオキソ酸、2,4,6-トリメチル-3-シクロヘキセン-1-ペルオキソ酸、2-ニトロ-1-シクロヘキセン-1-ペルオキソ酸等が挙げられる。また、環状の炭化水素基に結合する-C(=O)OOH基が複数であれば、ペルオキシシクロペンタン-1,3-ジカルボン酸、ジペルオキシシクロペンタン-1,3-ジカルボン酸、ペルオキシシクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、ジペルオキシシクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸等が挙げられる。
【0039】
また、3-(4-イソプロピルフェニル)-2-メチルペルオキシプロピオン酸、1-フェニルシクロペンタンペルオキソ酸等の芳香環及び/又は炭素数1~30の直鎖、分岐、環状の炭化水素基のいずれが組み合わされた化合物であっても、本発明の芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物に含まれる。
【0040】
本発明の反応により生成する芳香族過カルボン酸化合物は、例えば下記一般式(2)で示される。
【化8】
【0041】
一般式(2)中、Arは芳香環であり、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環及び/又は芳香族複素環を示す。芳香環は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、ホルミル基、アルデヒド基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ニトロ基、シアノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基からなる群から選択される置換基でさらに置換されていてもよい。
【0042】
アルキル基やアルケニル基等の置換基が1個以上の炭素原子を含む有機基であれば、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれでもよく、さらに置換基を有していてもよい。有機基は、好ましくは炭素数が1~30個、より好ましくは炭素数が1~10個、さらに好ましくは炭素数が1~5個である。
【0043】
以下に本発明において一般式(2)で表される芳香族過カルボン酸化合物の例を示す。芳香環が置換基を有さない場合は、過安息香酸や2-Naphthalenecarboperoxoic acidがある。置換基にメチル基(アルキル基)があれば、4-メチル過安息香酸、3,4-ジメチル過安息香酸、2,4,6-トリメチル過安息香酸がある。置換基にイソプロピル基(アルキル基)があれば、p-イソプロピル過安息香酸がある。置換基にtert-ブチル基(アルキル基)があれば、4-tert-ブチル過安息香酸がある。置換基にエチニル基(アルケニル基)があれば、4-エチニル過安息香酸がある。置換基にメトキシ基があれば、4‐メトキシ過安息香酸がある。置換基にヒドロキシ基やニトロ基があれば、3-エトキシ-4-ヒドロキシ-5-ニトロ過安息香酸がある。置換基にフェノキシ基があれば、3-フェノキシ過安息香酸がある。置換基にシアノ基があれば、p-シアノ過安息香酸がある。置換基にヒドロキシ基やメトキシ基があれば、2-ヒドロキシ-3-メトキシ過安息香酸がある。置換基にホルミル基があれば、1,3,5-ベンゼントリ過カルボン酸がある。置換基にカルボキシ基があれば、2-カルボキシ過安息香酸がある。置換基にフルオロ基があれば、ペンタフルオロ過安息香酸がある。置換基にクロロ基があれば、m-クロロ過安息香酸がある。置換基にブロモ基やヨード基があれば、2-ブロモ-4-ヨード過安息香酸がある。
【0044】
また、一般に-C(=O)OOH基を有する過酸は、酸名の前に「過」を記載する他、酸名の前に「peroxy-(ペルオキシ)」を記載する場合や、-carboxylic acidの接尾語をもつカルボン酸の場合は接尾語を-peroxycarboxylic acid(ペルオキシカルボン酸)に変えて記載する場合がある。
【0045】
また、例えば芳香環に1個の置換基が結合しているm-クロロ過安息香酸であれば、o-クロロ過安息香酸、p-クロロ過安息香酸のように、1個の置換基がオルト(o)、メタ(m)、パラ(p)のいずれの位置に結合している化合物も同様に本発明の芳香族過カルボン酸化合物に含まれる。また、例えば芳香環に複数の置換基が結合している3,4-ジメチル過安息香酸や2,3,4,5,6-ペンタフルオロ過安息香酸のように、複数の置換基がいずれの位置に結合している化合物も同様に本発明の芳香族過カルボン酸化合物に含まれる。芳香環に結合する置換基の数は、好ましくはいずれか0~2個が水素原子以外である。より好ましくは、いずれか0~1個が水素原子以外である。
【0046】
本発明では、出発原料となる芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物から芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物が生成できればよく、反応の過程で置換基の位置関係が変更されることも有り得る。好ましくは、出発原料である芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物と、生成した芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の骨格構造が相応する。骨格構造が相応するとは、芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物に結合するホルミル基以外の構造が、生成した芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物と同一である。例えば、出発原料の芳香族アルデヒド化合物がm-クロロベンズアルデヒドであれば、ベンゼン環に結合するホルミル基以外の構造が同一であるm-クロロ過安息香酸が相応する芳香族過カルボン酸化合物である。また例えば、出発原料の芳香族アルデヒド化合物がベンゼン-1,2-ジカルボキシアルデヒドであれば、ベンゼン環に結合する2個のホルミル基以外の構造が同一であるモノペルオキシフタル酸やジペルオキシフタル酸が相応する芳香族過カルボン酸化合物である。
【0047】
m-クロロ過安息香酸の製造に関して、本発明の製造方法で用いる原料であるメタクロロベンズアルデヒドは、25mLあたり2550円(030-02482、富士フィルム和光純薬)であるのに対して、従来の製造方法で用いるm-クロロ安息香酸は25gあたり4600円(030-02482、富士フィルム和光純薬)であるため、両試薬の分子量、比重、純度等を考慮すると、等モルあたりのm-クロロベンズアルデヒドは、m-クロロ安息香酸の半額以下である。このように、一般的に本発明の芳香族過カルボン酸化合物の製造原料である芳香族アルデヒド化合物は、従来技術の製造原料である芳香族カルボン酸化合物と比べて安価であるため、本発明はコストの面からも優れている。
【0048】
本発明の反応時に用いる酸素ガスは、例えば、100%、90%、70%、50%、30%、21%、16%、10%、5%、1%、0.2%といった任意の酸素濃度を用いることができる。光照射する際に酸素ガスが存在すればよい。酸素濃度は、好ましくは20~100%であり、より好ましくは50~100%であり、さらに好ましくは80~100%である。酸素濃度は高いほど過酸の生成反応が早く進み、収率も上がる傾向にある。また、簡便に酸素ガスを含む大気雰囲気を用いることもできる。また、例えば酸素ガスと窒素ガスの混合気体といった、酸素ガスに様々な比率の混合ガスを加えた混合気体を用いることもできる。酸素ガスは、反応時に酸素ガスが存在していればよく、酸素風船や酸素ボンベといった任意の供給源をもちいることができる。反応は様々な圧力の条件で行うことができるが、通常は常圧で行う。
【0049】
本発明における反応や精製時に用いる溶媒は、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、エチレンジクロリド等のハロゲン化炭化水素類、酢酸エチル等のエステル類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルスルホキシド、メチル-tert-ブチルエーテル、ヘキサノール等が挙げられる。反応時は、好ましくはエステル類を用い、より好ましくは酢酸エステル類を用いる。酢酸エステル類は生成した過酸が未反応のアルデヒドと反応してカルボン酸になることを防ぐ効果があると考えられる。酢酸エステル類は、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルが挙げられる。さらに好ましくは酢酸イソプロピルを用いる。
【0050】
本発明の光照射は、芳香族、脂肪族又は脂環式アルデヒド化合物と酸素ガスが反応できて、且つ生成産物である芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物を分解しないことが好ましい。但し、紫外線のように生成した芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸が分解される場合でも、光照射として用いることはできる。一般に光酸素酸化を行う場合、増感剤等の活性化剤や触媒が必要であるが、本発明ではそのような添加剤を必要としない。また有機光化学反応で用いられる光は、エネルギーの大きな紫外線を用いることが多いが、本発明では可視光を用いることができる。このような緩和な条件で過酸が生成できることは、本発明の大きな特徴である。光照射は、200~860nmの波長の光を用いることができる。好ましくは340~502nmの波長を用いる。より好ましくは、360~500nmの波長の可視光を用いる。より好ましくは、380~500nmの波長の青色光を用いる。光照射は、簡便に青色LED、白色LED、白色蛍光灯、紫外線ランプ、ブラックライトといった市販の光源を用いることもできる。より簡便に太陽光を用いることもできる。所望の波長の光は、入射光から光学フィルター等を通して得ることもできる。また、反応時は、光透過する状態が保てればよく、アクリル製やガラス製の反応容器を用いることができる。
【実施例0051】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0052】
実施例1.m-クロロベンズアルデヒドを用いたメタクロロ過安息香酸の製造
下記(3)に示すm-クロロベンズアルデヒド(東京化成工業、C0124)227μL(2mmol)を酢酸イソプロピル(i-PrOAc、ナカライテスク、29106-95)に溶かし、室温、酸素ガス(O2)雰囲気下で、40W、455nmの青色LEDで光照射して反応させた。酸素供給源は酸素風船を用いた。薄層クロマトグラフィーで出発原料のメタクロロベンズアルデヒドの消費を確認した。16時間4分で反応終了とし、323.8mgの化合物が得られた。
【0053】
m-クロロ過安息香酸の生成は、
1H-NMR ratio(積分比)及び
1H-NMR yield(収率)により確認した。NMR yieldは、以下の通り算出した。反応停止後、300mLナス型フラスコに酢酸エチル(EtOAc)で系内の混合液を流し入れた。混合液に内部標準物質としてジメチルスルホン(東京化成工業、M1239)を0.0471g(0.5mmol)加えて留去した。濃縮した化合物をクロロホルムで全量溶かしきり、一部を小瓶に移して留去した。小瓶中の濃縮物を重溶媒で全量溶かしNMRチューブを作成後、NMR測定にてNMR収率を算出した。得られた化合物の内訳は、
1H-NMR ratioで下記(4)に示すメタクロロ安息香酸が31%、下記(5)に示すm-クロロ過安息香酸が69%であった。また、
1H-NMR yieldで下記(4)に示すメタクロロ安息香酸が29%、下記(5)に示すm-クロロ過安息香酸が64%、下記(3)に示す出発原料(m-クロロベンズアルデヒド)が2%であった。このように一段階の簡易な操作で、安全に製造できた。その後、得られた両化合物をジクロロメタンに溶解して、分液ロートを用いて、pH7のリン酸緩衝液を入れて3回分液した。すると、m-クロロ過安息香酸はジクロロメタン層に残り、m-クロロ安息香酸は水層に残った。ここでm-クロロ過安息香酸の単離収率は0.1576g(46%)であった。
【化9】
【0054】
以下に得られたm-クロロ過安息香酸の単離したことによるNMRデータを示す。形状は白色固体であった。
1H NMR (CDCl3) δ : 7.46 (1H, t, J=8.0 Hz), 7.62 (1H, ddd, J=8.0, 2.1, 0.9, Hz), 7.89 (1H, dt, J=8.0, 1.5 Hz), 7.99 (1H, dd, J=2.1, 1.5 Hz), 11.62 (1H, brs)
13C NMR (CDCl3) δ : 126.9, 127.3, 129.3, 130.2, 134.4, 135.1, 166.8
【0055】
実施例2.ベンズアルデヒドを用いた過安息香酸の製造
下記(6)に示すベンズアルデヒド(ナカライテスク、04006-62)203μL(2mmol)を酢酸イソプロピル(i-PrOAc、ナカライテスク、29106-95)に溶かし、室温、酸素ガス(O2)雰囲気下で、40W、455nmの青色LEDで光照射して反応させた。酸素供給源は酸素風船を用いた。薄層クロマトグラフィーで出発原料の消費を確認した。6時間9分で反応終了とし、合計0.3135gの化合物が得られた。
【0056】
過安息香酸の生成は、
1H-NMR ratio(積分比)により確認した。得られた化合物の内訳は、
1H-NMR ratioで下記(7)に示す安息香酸が38%、下記(8)に示す過安息香酸が62%であった。
【化10】
【0057】
以下に得られた過安息香酸のNMRデータを示す。混合物のNMRデータから安息香酸のNMRデータを差し引いたものである。形状は白色~黄色固体であった。下線部は過安息香酸と安息香酸の混合物として検出されたスペクトルである。
1H NMR (CDCl3) δ : 7.47-7.50 (2H, m), 7.59-7.65 (1H, m), 7.99 (2H, d, J=8.0 Hz), 11.56 (1H, brs)
13C NMR (CDCl3) δ : 125.2, 128.8, 129.2, 134.3, 168.0
【0058】
実施例3.p-メチルベンズアルデヒドを用いたp-メチル過安息香酸の製造
下記(9)に示すp-メチルベンズアルデヒド(東京化成工業、T1073)236μL(2mmol)を酢酸イソプロピル(i-PrOAc、ナカライテスク、29106-95)に溶かし、室温、酸素ガス(O2)雰囲気下で、40W、455nmの青色LEDで光照射して反応させた。酸素供給源は酸素風船を用いた。薄層クロマトグラフィーで出発原料の消費を確認した。5時間19分で反応終了とし、合計294.3mgの化合物が得られた。
【0059】
p-メチル過安息香酸の生成は、
1H-NMR ratio(積分比)により確認した。得られた化合物の内訳は、
1H-NMR ratioで下記(10)に示すp-メチル安息香酸が23%、下記(11)に示すp-メチル過安息香酸が77%であった。
【化11】
【0060】
以下に得られたp-メチル過安息香酸のNMRデータを示す。混合物のNMRデータから安息香酸のNMRデータを差し引いたものである。形状は白色固体であった。
1H NMR (CDCl3) δ : 2.35 (3H, s), 7.21 (2H, d, J=8.4 Hz), 7.80 (2H, d, J=8.4 Hz), 11.59 (1H, brs)
13C NMR (CDCl3) δ : 21.7, 122.3, 129.3, 129.5, 145.4, 168.2
【0061】
実施例4.p-ブロモベンズアルデヒドを用いたp-ブロモ過安息香酸の製造
下記(12)に示すp-ブロモベンズアルデヒド(東京化成工業、B0549)0.3714g(2.007mmol)を酢酸イソプロピル(i-PrOAc、ナカライテスク、29106-95)に溶かし、室温、酸素ガス(O2)雰囲気下で、40W、455nmの青色LEDで光照射して反応させた。酸素供給源は酸素風船を用いた。薄層クロマトグラフィーで出発原料の消費を確認した。6時間5分で反応終了とし、合計475.1mgの化合物が得られた。
【0062】
p-ブロモ過安息香酸の生成は、
1H-NMR ratio(積分比)により確認した。得られた化合物の内訳は、
1H-NMR ratioで下記(13)に示すp-ブロモ安息香酸が14%、下記(14)に示すp-ブロモ過安息香酸が85%、下記(12)に示す出発原料(p-ブロモベンズアルデヒド)が1%であった。
【化12】
【0063】
以下に得られたp-ブロモ過安息香酸のNMRデータを示す。混合物のNMRデータから安息香酸のNMRデータを差し引いたものである。形状は白色固体であった。
1H NMR (CD3OD-d4) δ : 7.69 (2H, d, J=8.4 Hz), 7.85 (2H, d, J=8.4 Hz)
13C NMR (CD3OD-d4) δ :127.6, 131.0, 131.7, 132.3, 166.6
【0064】
実施例5.m-メトキシベンズアルデヒドを用いたm-メトキシ過安息香酸の製造
下記(15)に示すm-メトキシベンズアルデヒド(東京化成工業、A0478)243μL(2mmol)を酢酸イソプロピル((i-PrOAc、ナカライテスク、29106-95)に溶かし、室温、酸素ガス(O2)雰囲気下で、40W、455nmの青色LEDで光照射して反応させた。酸素供給源は酸素風船を用いた。薄層クロマトグラフィーで出発原料の消費を確認した。26時間31分で反応終了とし、合計346.7mgの化合物が得られた。
【0065】
m-メトキシ過安息香酸の生成は、
1H-NMR ratio(積分比)により確認した。得られた化合物の内訳は、
1H-NMR ratioで下記(16)に示すm-メトキシ安息香酸が34%、下記(17)に示すm-メトキシ過安息香酸が65%、下記(15)に示す出発原料(m-メトキシベンズアルデヒド)が0.6%であった。
【化13】
【0066】
以下に得られたm-メトキシ過安息香酸のNMRデータを示す。混合物のNMRデータから安息香酸のNMRデータを差し引いたものである。形状は白色~茶色固体であった。
1H NMR (CD3OD-d4) δ : 3.83 (3H, s), 7.19 (1H, dd, J=8.0, 2.7 Hz), 7.40 (1H, t, J=8.0 Hz), 7.44 (1H, dd, J=2.7, 1.3 Hz), 7.51 (1H, dt, J=8.0, 1.3 Hz)
13C NMR (CD3OD-d4) δ : 55.8, 115.4, 120.6, 123.0, 130.4, 130.9, 161.2, 167.3
【0067】
実施例6.p-メトキシベンズアルデヒドを用いたp-メトキシ過安息香酸の製造
下記(18)に示すp-メトキシベンズアルデヒド(ナカライテスク、03007-82)243μL(2mmol)を酢酸イソプロピル(i-PrOAc、ナカライテスク、29106-95)に溶かし、室温、酸素ガス(O2)雰囲気下で、40W、455nmの青色LEDで光照射して反応させた。酸素供給源は酸素風船を用いた。薄層クロマトグラフィーで出発原料の消費を確認した。4時間32分で反応終了とし、合計258mgの化合物が得られた。
【0068】
p-メトキシ過安息香酸の生成は、
1H-NMR ratio(積分比)及び
1H-NMR yield(収率)により確認した。NMR yieldは、実施例1に記載の通り算出した。得られた化合物の内訳は、
1H-NMR ratioで下記(19)に示すp-メトキシ安息香酸が15%、下記(20)に示すp-メトキシ過安息香酸が84%、ぎ酸4-メトキシフェニルが1%であった。また、
1H-NMR yieldで下記(19)に示すp-メトキシ安息香酸が6%、下記(20)に示すp-メトキシ過安息香酸が75%、ぎ酸4-メトキシフェニルが2%、(18)で示す出発原料のp-メトキシベンズアルデヒドが13%であった。
【化14】
【0069】
以下に得られたp-メトキシ過安息香酸のNMRデータを示す。混合物のNMRデータから安息香酸のNMRデータを差し引いたものである。形状は白色~黄色固体であった。
1H NMR (CDCl3) δ : 3.80 (3H, s), 6.89 (2H, d, J=8.8 Hz), 7.88 (2H, d, J=8.8 Hz), 11.58 (1H, brs)
13C NMR (CDCl3) δ : 55.5, 114.2, 121.5, 131.5, 164.4, 167.9
【0070】
実施例7.1-ナフトアルデヒドを用いた1-Naphthalenecarboperoxoic acidの製造
下記(21)に示す1-ナフトアルデヒド(東京化成工業、N0002)272μL(2mmol)を酢酸イソプロピル(i-PrOAc、ナカライテスク、29106-95)に溶かし、室温、酸素ガス(O2)雰囲気下で、40W、455nmの青色LEDで光照射して反応させた。酸素供給源は酸素風船を用いた。薄層クロマトグラフィーで出発原料の1-ナフトアルデヒドの消費を確認した。6時間26分で反応終了とし、合計326.4mgの化合物が得られた。
【0071】
1-Naphthalenecarboperoxoic acidの生成は、
1H-NMR ratio(積分比)及び
1H-NMR yield(収率)により確認した。NMR yieldは、実施例1に記載の通り算出した。得られた化合物の内訳は、
1H-NMR ratioで下記(22)に示す1ナフトエ酸(1-Naphthoic acid)が41%、下記(23)に示す1-Naphthalenecarboperoxoic acidが59%であった。また、
1H-NMR yieldで下記(22)に示す1ナフトエ酸(1-Naphthoic acid)が37%、下記(23)に示す1-Naphthalenecarboperoxoic acidが53%であった。
【化15】
【0072】
以下に得られた1-Naphthalenecarboperoxoic acidのNMRデータを示す。混合物のNMRデータから安息香酸のNMRデータを差し引いたものである。形状は黄色固体であった。
1H NMR (CD3OD-d4) δ : 7.48-7.63 (3H, m), 7.96 (1H, d, J=8.4 Hz), 8.0 (1H, dd, J=7.2, 0.8 Hz), 8.12 (1H, d like, J=8.0 Hz), 8.57 (1H, d like, J=9.2 Hz)
13C NMR (CD3OD-d4) δ : 125.6, 125.8, 126.0, 127.7, 129.0, 129.8, 130.3, 132.0, 134.7, 135.2, 168.6
【0073】
実施例8.m-クロロベンズアルデヒドを用いたm-クロロ過安息香酸の製造時の光照射における波長の比較
実施例1の(3)に示すm-クロロベンズアルデヒド(東京化成工業、C0124)227μL(2mmol)を酢酸イソプロピル(ナカライテスク、29106-95)に溶かし、室温、酸素ガス(O2)雰囲気下で紫外線(実験例1)、青色LED(実験例2-1、2-2、2-3)、白色蛍光灯(実験例4)、白色LED(実験例5)、緑色LED(比較例1-1、1-2)、赤色LED(比較例2)を用いて光照射、又は、空気下で青色LED(実験例3)を用いて光照射して反応させた。酸素供給源は酸素風船を用いた。各実験例及び比較例について、薄層クロマトグラフィーで出発原料(m-クロロベンズアルデヒド)の消費を確認した。m-クロロ過安息香酸の生成は、1H-NMR ratio(積分比)及び1H-NMR yield(収率)により確認した。NMR yieldは、実施例1に記載の通り算出した。
【0074】
結果を表1に示す。m-クロロ過安息香酸の収率は、酸素ガス雰囲気下で、紫外線(ブラックライト)では38%(実験例1)、青色LEDでは64%(実験例2-2)、白色LEDでは36%(実験例5)であった。また、空気を用いた場合(実験例3)や白色蛍光灯を用いた場合(実験例4)でも、同様にm-クロロ過安息香酸の生成が認められた。一方、緑色LEDを用いた場合(比較例1-1、1-2)や赤色LEDを用いた場合(比較例2)では、m-クロロ過安息香酸の生成が認められなかった。これらの結果から、青色LEDの波長430~500nmにおいて、m-クロロ過安息香酸の存在比率が高く、収率も高かった。また、酸素ガス雰囲気下の方が、空気下よりも、m-クロロ過安息香酸の存在比率が高く、効率的に生成されていた。
【0075】
【0076】
実施例9.m-クロロベンズアルデヒドを用いたm-クロロ過安息香酸の製造時の溶媒の比較
実施例1の(3)に示すm-クロロベンズアルデヒド(東京化成工業、C0124)227μL(2mmol)を酢酸イソプロピル(実験例2-1、2-2、2-3、3)、酢酸エチル(実験例6-1、6-2、7)、アセトニトリル(超脱水)(実験例8)、アセトニトリル:水(イオン交換水)=5:1(比較例3)、ベンゾトリフルオリド(比較例4-1、4-2)、tert-ブチルアルコール(比較例5-1、5-2)、ジクロロメタン(比較例6)に溶かし、室温、酸素ガス(O2)雰囲気下又は空気下で、40W、455nmの青色LEDを用いて光照射をして反応させた。酸素供給源は酸素風船を用いた。各実験例及び比較例について、薄層クロマトグラフィーで出発原料の消費を確認した。アセトニトリル:水=5:1(比較例3)は、反応停止後、分液ロートを用いて酢酸エチルとイオン交換水で分液した。その後、食塩水洗浄と硫酸ナトリウムで乾燥を行って抽出液を留去し、0.2702gの化合物を得た。m-クロロ過安息香酸の生成は、1H-NMR ratio(積分比)及び1H-NMR yield(収率)により確認した。NMR yieldは、実施例1に記載の通り算出した。
【0077】
結果を表2に示す。m-クロロ過安息香酸の収率は、酸素ガス雰囲気下で、溶媒が酢酸イソプロピルでは64%(実験例2-2)、酢酸エチルでは54%(実験例7-1)、アセトニトリル(超脱水)では6%(実験例8)であった。一方、溶媒がアセトニトリル:水=5:1(比較例3)、ベンゾトリフルオリド(比較例4-1、4-2)、tert-ブチルアルコール(比較例5-1、5-2)、ジクロロメタン(比較例6)では、m-クロロ過安息香酸の生成が認められなかった。これらの結果から、酢酸イソプロピルや酢酸エチルといったエステル類、特に酢酸エステル類の溶媒において、m-クロロ過安息香酸の存在比率が高く、収率も高かった。
【0078】
【0079】
実施例10.様々な光照射の条件下における過カルボン酸化合物の製造
実施例1のm-クロロベンズアルデヒドを用いたm-クロロ過安息香酸の製造において、様々な光照射の条件を用いて、m-クロロ過安息香酸の生成を確認した。実験例A-1は、m-クロロベンズアルデヒド(0.25mmol)を酢酸イソプロピル(0.2M、1.25ml)に溶かし、室温、酸素ガス(O2)雰囲気下で、395nmのLEDを用いて光照射を行い、攪拌速度150rpmで反応させた。m-クロロ過安息香酸及びm-クロロ安息香酸の生成は1H-NMR yield(収率)により確認した。NMR yieldは、実施例1に記載の通り算出した。光照射について、実験例A-1の395nmのLEDの実験条件に対して、実験例A-2は365nmのLED、実験例A-3は屋外の太陽光、比較例A-1は光照射なし、比較例A-2は521nmのLED、比較例A-3は屋内の人工光にそれぞれ変更して実験を行った。
【0080】
結果を表3に示す。m-クロロ過安息香酸は、実験例A-1の395nmの波長で最も高い79%の生成が確認され、実験例A-2の365nmの波長で28%、実験例A-3の屋外の太陽光で72%の生成が確認されたが、比較例A-1の光照射なし、比較例A-2の521nmの波長、比較例A-3の屋内の人工光では生成が確認されなかった。加えて、
図1は、実験例A-1~A-3、比較例A-1~A-3に関連して、異なる波長を用いたm-クロロ過安息香酸及びm-クロロ安息香酸の生成を示す。340~502nmでm-クロロ過安息香酸の生成が認められ、395nmの79.4%をピークに、385~448nmで生成が多く認められた。また、太陽光でも395nmのピークと同様のm-クロロ過安息香酸の生成が認められた。
【0081】
【0082】
実施例11.様々な雰囲気の条件下における過カルボン酸化合物の製造
実施例1のm-クロロベンズアルデヒドを用いたm-クロロ過安息香酸の製造において、様々な雰囲気の条件を用いて、m-クロロ過安息香酸の生成を確認した。実験例A-1は、実施例10に記載の通り反応させ、H-NMR yield(収率)を確認した。雰囲気について、実験例A-1の酸素ガスの実験条件に対して、実験例B-1は空気、比較例B-1は窒素にそれぞれ変更して実験を行った。
【0083】
結果を表3に示す。m-クロロ過安息香酸は、実験例A-1の酸素ガスで79%の生成が確認され、実験例B-1の空気で54%の生成が確認されたが、比較例B-1の窒素ガスでは生成が確認されなかった。m-クロロ過安息香酸の生成には酸素ガスが必要であった。
【0084】
実施例12.様々な攪拌速度の条件下における過カルボン酸化合物の製造
実施例1のm-クロロベンズアルデヒドを用いたm-クロロ過安息香酸の製造において、様々な攪拌速度の条件を用いて、m-クロロ過安息香酸の生成を確認した。実験例A-1は、実施例10に記載の通り反応させ、H-NMR yield(収率)を確認した。攪拌速度について、実験例A-1の150rpmの実験条件に対して、実験例C-1は400rpmに変更して実験を行った。
【0085】
結果を表3に示す。m-クロロ過安息香酸は、実験例A-1の150rpmの攪拌速度で79%の生成が確認され、実験例C-1の400rpmの攪拌速度で68%の生成が認められた。緩やかな攪拌を行うことで、m-クロロ過安息香酸の収率を高めることができた。
【0086】
実施例13.様々な溶媒の条件下における過カルボン酸化合物の製造
実施例1のm-クロロベンズアルデヒドを用いたm-クロロ過安息香酸の製造において、様々な溶媒の条件を用いて、m-クロロ過安息香酸の生成を確認した。実験例A-1は、実施例10に記載の通り反応させ、H-NMR yield(収率)を確認した。溶媒について、実験例A-1の酢酸イソプロピルの実験条件に対して、実験例D-1はエタノールに変更して実験を行った。
【0087】
結果を表3に示す。m-クロロ過安息香酸は、実験例A-1の酢酸イソプロピルで79%の生成が確認されたが、比較例D-1のエタノールでは生成が認められなかった。加えて
図2は、実験例A-1、比較例D-1に関連して、異なる溶媒を用いたm-クロロ過安息香酸及びm-クロロ安息香酸の生成を示す。
図2(a)は光照射を395nmのLEDで行った場合を示し、酢酸イソプロピル(i-PrOAc)で79.4%、酢酸エチル(EtOAc)で63.6%、アセトニトリル(MeCN)で50.3%の順にm-クロロ過安息香酸の生成が多く認められた。
図2(b)は光照射を太陽光で行った場合を示し、酢酸イソプロピル(i-PrOAc)で72.1%、酢酸エチル(EtOAc)で61.6%、アセトニトリル(MeCN)で50.6%、1,2-ジクロロエタン(DCE)で31.6%、アセトン(Acetone)で30.5%の順にm-クロロ過安息香酸の生成が多く認められ、メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサノール(Hexanol)でも生成が認められた。
【0088】
実施例14.様々な芳香族、脂環式、脂肪族過カルボン酸化合物の製造
式(a)に示す芳香族、脂環式、脂肪族アルデヒド化合物(0.25mmol)を酢酸イソプロピル(0.2M、1.25ml)に溶かし、25~33℃、酸素ガス(O2)雰囲気下で、太陽光、395nmのLED、405nmのLEDで光照射を行い、攪拌速度150rpmで反応させ、式(b)に示す芳香族、脂環式、脂肪族過カルボン酸化合物の生成を確認した。Rは、芳香環及び/又は直鎖、分岐、環状の炭化水素基を示す。具体的に生成した過カルボン酸化合物として、芳香族化合物(b-1~b-15)、脂環式化合物(b-16)、脂肪族化合物(b-17、b-18)を示す。過カルボン酸化合物の生成は、実施例1に記載の通り1H-NMR yield(収率)により確認した。
【0089】
結果を表4に示す。いずれの芳香族、脂環式、脂肪族アルデヒド化合物においても、それぞれ相応する芳香族、脂環式、脂肪族過カルボン酸化合物の生成が確認された。太字で示した光照射の条件は、安全性や高収率の観点から好ましかった。70%以上の高収率が得られた過カルボン酸化合物として、芳香族過カルボン酸化合物がb-1、b-3、b-5、b-6、b-7、b-8、b-9、b-12、b-13、b-14であり、脂環式過カルボン酸化合物がb-16であり、脂肪族過カルボン酸化合物がb-17、b-18であった。このように芳香族、脂環式、脂肪族化合物のいずれが結合したアルデヒド化合物であっても、同様に相応する過カルボン酸化合物が高収率に得られた。よって、任意の芳香族、脂環式、脂肪族アルデヒド化合物を用いて、本発明の過カルボン酸化合物の製造方法の適用が可能であると推察された。
【化16】
【0090】
【0091】
実施例15.m-クロロ過安息香酸のグラムスケール合成
実施例1のm-クロロベンズアルデヒドを用いたm-クロロ過安息香酸の製造において、m-クロロベンズアルデヒド(15mmol)を酢酸イソプロピル(0.2M)に溶かし、30~34℃、酸素ガス(O2)雰囲気下で、太陽光を用いて光照射を行い、攪拌速度300rpmで、7時間反応させた。m-クロロ過安息香酸の生成は1H-NMR yield(収率)により実施例1に記載の通り算出した。m-クロロ過安息香酸は、61%の生成が確認され、1.74g(90%過酸)が得られた。また、m-クロロベンズアルデヒド(12.5mmol)を酢酸イソプロピル(0.2M)に溶かし、室温、酸素ガス(O2)雰囲気下で、405nmのLEDを用いて光照射を行い、攪拌速度300rpmで、3時間反応させた。m-クロロ過安息香酸の生成は1H-NMR yield(収率)により実施例1に記載の通り算出した。m-クロロ過安息香酸は、51%の生成が確認され、1.24g(88%過酸)が得られた。このようにグラムスケールでも、多くの過酸の生成が確認された。
【0092】
なお、2023年4月28日に出願された日本特許出願2023-74241号(発明の名称:芳香族過カルボン酸化合物の製造方法)の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容が引用され、本発明の明細書の開示に含まれる。本願は芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法であって、先の出願と比較すると、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法に関する技術的事項を追加している。加えて、実施例10~15において、芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造方法に関する技術的事項を追加している。
本発明の芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸の製造方法により、従来よりも簡易かつ安価、そして安全に芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物の製造を行うことができる。芳香族、脂肪族又は脂環式過カルボン酸化合物は、酸化剤として、有機合成において様々な化合物の酸化反応に用いられているため、医薬分野や工学分野等における様々な製品生産に利用される。