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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159458
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】フッ素含有化合物
(51)【国際特許分類】
   C08F 12/34 20060101AFI20241031BHJP
   C07C 43/29 20060101ALI20241031BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20241031BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20241031BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20241031BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08F12/34
C07C43/29 A
C07C43/29 C
C08J5/24 CET
B32B15/082 B
B32B15/20
B32B27/30 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023221746
(22)【出願日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2023073742
(32)【優先日】2023-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江頭 厳
(72)【発明者】
【氏名】東田 恵伍
(72)【発明者】
【氏名】一之瀬 和弥
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4H006
4J100
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB09
4F072AB28
4F072AE02
4F072AF14
4F072AF20
4F072AF23
4F072AF24
4F072AF25
4F072AG03
4F072AG19
4F072AH02
4F072AH24
4F072AL13
4F100AB17B
4F100AB33B
4F100AG00A
4F100AK17A
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA02A
4F100DG01A
4F100DG11A
4F100DH01A
4F100GB43
4F100JA02A
4F100JA05
4F100JB08
4F100JB13A
4F100JG01B
4F100JG05
4F100YY00A
4H006AA01
4H006AB46
4J100AB15P
4J100BA02P
4J100BB07P
4J100BC43P
4J100BC44P
4J100CA23
4J100CA27
4J100DA19
4J100DA39
4J100DA40
4J100EA03
4J100FA19
4J100JA43
(57)【要約】
【課題】次世代高周波に要求される優れた電気特性を有し、加えて、熱膨張率(熱膨張係数)が著しく低減されていると共に、優れた熱硬化性を有する基板を作製可能なフッ素含有化合物を提供する。
【解決手段】下記式(I)の構造(式中、Lは、特定の2価の基であり、RおよびRは、独立的に、水素原子、フッ素原子、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC~C10の飽和または不飽和炭化水素基、あるいは、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC~C10のアリール基であり、Xは、オレフィン性炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合を含む基である)を有するフッ素含有化合物であって、nの値が1~4であることを特徴とする。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)の構造を有することを特徴とするフッ素含有化合物。
【化1】
式中、Lは、下記式(II)又は(III)の構造であり、
【化2】
およびRは、それぞれ独立的に、水素原子、C~C10のアルキル基、C~C10のハロアルキル基、C~C10のアリール基からなる群から選択される基であるか、またはRおよびRが一緒になって置換基を有してもよい環構造を形成する基であり、
およびRは、それぞれ独立的に、水素原子、フッ素原子、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC~C10の飽和または不飽和炭化水素基、および、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC~C10のアリール基からなる群から選択される基であり、
nは1~4の範囲内であり、
Xは、オレフィン性炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合を含む基である。
【請求項2】
硬化物の240℃~290℃における熱膨張係数の値が200ppm/℃以下である請求項1記載のフッ素含有化合物。
【請求項3】
前記nが1である請求項1又は2記載のフッ素含有化合物。
【請求項4】
前記Xが少なくとも1個のフッ素原子を含む請求項1又は2記載のフッ素含有化合物。
【請求項5】
前記Lが、置換基を有してもよいシクロペンチリデン基、置換基を有してもよいシクロヘキシリデン基、および、置換基を有してもよいシクロドデシリデン基からなる群から選択される請求項1又は2記載のフッ素含有化合物。
【請求項6】
硬化物のゲル分率が50%以上である請求項1又は2記載のフッ素含有化合物。
【請求項7】
請求項1記載のフッ素含有化合物と、架橋剤とを含むことを特徴とするフッ素含有組成物。
【請求項8】
請求項1記載のフッ素含有化合物と、繊維質基材とを含むことを特徴とするプリプレグ。
【請求項9】
請求項7記載のフッ素含有組成物と、繊維質基材とを含むことを特徴とするプリプレグ。
【請求項10】
請求項8又は9記載のプリプレグの硬化物と、少なくとも1つの銅層とを含むことを特徴とする銅張積層板。
【請求項11】
請求項8又は9記載のプリプレグの硬化物と、その表面に形成されている導体パターンとを含むことを特徴とする印刷回路板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有化合物に関するものであり、より詳細には、次世代高周波基板にも好適に使用可能なフッ素含有化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレット端末等の情報通信機器等においては、近年では高速且つ大容量伝送が可能な次世代高周波に向けた開発が進んでおり、これに対応するため、使用される基板材料にも伝送損失を低減できる低誘電率、低誘電正接であることが求められている。
従来、高速通信・伝送用の樹脂材料として、エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等の材料が用いられていた(特許文献1)。しかしながら、エポキシ樹脂やポリフェニレンエーテル樹脂では、近年の高速且つ大容量伝送には対応することが困難である。
【0003】
一方、優れた電気特性を有する材料として、フッ素樹脂が知られている。特に、分子鎖中の水素が全てフッ素に置換されたペルフルオロ樹脂は、特に優れた電気特性(低い誘電率および低い誘電損失)を示すことが知られている。しかしながら、フッ素樹脂(ペルフルオロ樹脂)は、応力による変形が発生しやすいこと、および熱膨張係数が大きいことなどの問題点を有し、基板材料として用いることが難しい。
【0004】
電子部品における誘電体材料として、フッ素化ポリ(アリーレンエーテル)および架橋性フッ素化ポリ(アリーレンエーテル)を用いることが提案されている(特許文献2、3)。しかしながら、それら材料の電気特性は、現在の高速通信・伝送の要求を満足できるものではない。また、大量生産および製造コスト低減の観点から、既存の基板製造装置で製造ができるように、架橋処理温度を低下させることが求められている。
【0005】
このような課題を解決するものとして、本発明者等は、下記特許文献4に示すフッ素樹脂を提案した。特許文献4に記載されたフッ素樹脂は、高速通信・伝送のための基板材料として、優れた電気特性(低い誘電率および低い誘電損失)、薄膜成形を容易にするための高い溶剤可溶性、および200℃程度の加熱による製膜を可能とする優れた架橋性を有する樹脂材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-128718号公報
【特許文献2】米国特許第5115082号明細書
【特許文献3】米国特許第5179188号明細書
【特許文献4】特開2022-89150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献4に具体的に開示されているフッ素樹脂は、1GHzにおける電気特性の点では満足するとしても、5GHzを超える次世代高周波に対応し得る基板を作製するために要求される電気特性や寸法安定性(熱膨張率)、或いは基板作製に用いられるプリプレグを確実に成形可能か否か不明であった。
本発明者等は、上記特許文献4では着目されていなかった重合度の低いフッ素含有化合物が、上記特許文献4で具体的に開示されたフッ素樹脂よりも、優れた寸法安定性(熱膨張率)や架橋性を有し、5GHzを超える次世代高周波にも対応し得る基板を作製するためのプリプレグを確実に成形可能であることを見出した。
【0008】
従って本発明の目的は、次世代高周波に要求される優れた電気特性を有し、加えて、熱膨張率(熱膨張係数)が著しく低減されていると共に、優れた熱硬化性を有する基板を作製可能なフッ素含有化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、下記式(I)の構造を有することを特徴とするフッ素含有化合物が提供される。
【0010】
【化1】
式中、Lは、下記式(II)又は(III)の構造であり、
【0011】
【化2】
【0012】
およびRは、それぞれ独立的に、水素原子、C~C10のアルキル基、C~C10のハロアルキル基、C~C10のアリール基からなる群から選択される基であるか、またはRおよびRが一緒になって置換基を有してもよい環構造を形成する基であり、
およびRは、それぞれ独立的に、水素原子、フッ素原子、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC~C10の飽和または不飽和炭化水素基、および、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC~C10のアリール基からなる群から選択される基であり、
nは1~4の範囲内であり、
Xは、オレフィン性炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合を含む基である。
【0013】
本発明のフッ素化合物によれば、
(1)硬化物の240~290℃における熱膨張係数の値が200ppm/℃以下であ
ること、
(2)前記nが1であること、
(3)前記Xが少なくとも1個のフッ素原子を含むこと、
(4)前記Lが、置換基を有してもよいシクロペンチリデン基、置換基を有してもよい
シクロヘキシリデン基、および、置換基を有してもよいシクロドデシリデン基からな
る群から選択されること、
(5)硬化物のゲル分率が50%以上であること、
が好適である。
【0014】
本発明によればまた、前記フッ素含有化合物と、架橋剤とを含むことを特徴とするフッ素含有組成物が提供される。
本発明によれば更に、前記フッ素含有化合物又は前記フッ素含有組成物と、繊維質基材とを含むことを特徴とするプリプレグが提供される。
本発明によれば更にまた、前記プリプレグの硬化物と、少なくとも1つの銅層とを含むことを特徴とする銅張積層板が提供される。
本発明によれば、前記プリプレグの硬化物と、その表面に形成されている導体パターンとを含むことを特徴とする印刷回路板が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフッ素含有化合物においては、優れた電気特性(低い誘電率および低い誘電損失)、充分な耐熱性、適切なガラス転移温度(Tg)、および充分な溶剤可溶性を備えていることはもちろん、前記式(I)におけるnの値が1~4の範囲にあること、特にnの値が1であることにより、200℃・120分の条件で硬化させた硬化物の240℃以上における熱膨張係数の値が200ppm/℃以下と、非常に低い値を示しており、極めて高い寸法安定性を発現することが可能である。また熱硬化性(架橋性)にも優れており、硬化させた硬化物のゲル分率が50%以上と非常に高い値を示している。
本発明のこのような予想外の特有の効果は、後述する実施例の結果からも明らかである。すなわち、前記式(I)におけるnの値が30であるフッ素樹脂(比較例1)では、上記条件で測定した熱膨張係数の値が274ppm/℃であるのに対して、nの値が1であること以外は上記フッ素樹脂と同様の構造を有するフッ素含有化合物(実施例1)では、上記条件で測定した硬化物の熱膨張係数は128ppm/℃と、nの値が30であるフッ素樹脂からは予想外の、顕著に低い値が得られていることが明らかである。
同様に、nの値が30である比較例1のフッ素樹脂では、上記条件で硬化させた硬化物のゲル分率が16%であるのに対して、nの値が1である実施例1のフッ素含有化合物においては上記条件で硬化させた硬化物のゲル分率が100%であり、この点においてもnの値が30であるフッ素樹脂からは予想外の、顕著に高い理想的な値が得られていることが明らかである。
【0016】
また熱硬化性樹脂を用いたプリプレグの成形にはガラス繊維への含浸および半硬化状態への硬化性が要求されるが、本発明のフッ素含有化合物においては、ガラス繊維との複合化が容易であり、5GHzを超える次世代高周波に対応し得る基板を作製するためのプリプレグを効率よく成形することができる。
すなわち、上記ゲル分率(架橋密度)の結果からも明らかなように、本発明のフッ素含有化合物は硬化性に優れていることから、ガラス繊維に含浸させた状態でプレス圧がかけられたり或いは真空引きされた場合でも、フッ素含有化合物はガラス繊維からはみ出すことなく、ガラス繊維との複合化を確実に行うことができるが(実施例1~5)、同様の方法では、nの値が30である比較例1のフッ素樹脂を用いた場合には、ガラス繊維との均一な複合化が困難であった。この点においても本発明ではnの値が30であるフッ素樹脂からは予想外の効果が得られていることが明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(フッ素含有化合物)
本発明のフッ素含有化合物の重要な特徴は、前記式(I)において、nが1~4の範囲にあること、好適には1である点であり、これにより上述した通り、前記式(I)で示すフッ素含有化合物は、充分な耐熱性、適切なガラス転移温度(Tg)、および充分な溶剤可溶性を備えていると共に、nが4より大きい場合に比して、熱膨張率が低減されていると共に、ゲル分率が高く、ガラス繊維との複合化が容易であるという予想外の効果を備え、28GHzという高周波においても優れた電気特性(低い誘電率および低い誘電損失)を達成することができる。
【0018】
前記式(I)において、nは平均重合度を表す。平均重合度は、モノマーの化学量論比から予想できるほか、核磁気共鳴スペクトルなど従来公知の方法で測定することができる。本発明において「nが1である」とは、その化合物の平均重合度が0.5~1.4であることを意味する。
【0019】
前記式(I)で表される本発明のフッ素含有化合物において前記式(II)および式(III)における、RおよびRは、それぞれ独立的に水素原子、C~C10のアルキル基、C~C10のハロアルキル基、C~C10のアリール基からなる群から選択される基であってもよい。C~C10のアルキル基の例は、メチル基、エチル基、プロピル基、2-メチルプロピル基(イソブチル基)、ブチル基、ペンチル基などを含む。C~C10のハロアルキル基の例は、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基などを含む。C~C10のアリール基の例は、フェニル基、ナフチル基(1-異性体および2-異性体を含む)を含む。
【0020】
あるいはまた、RおよびRが一緒になって、置換基を有してもよい環構造を形成する基であってもよい。環構造を形成する基の例は、テトラメチレン基(シクロペンタン環を形成する)、ペンタメチレン基(シクロヘキサン環を形成する)、ウンデカメチレン基(シクロドデカン環を形成する)、2-メチル-ペンタメチレン基(メチルシクロヘキサン環を形成する)、2,2,4-トリメチル-ペンタメチレン基(トリメチルシクロヘキサン環を形成する)、ビフェニル-2,2’-ジイル基(フルオレン環を形成する)などを含む。
【0021】
前記式(I)において、RおよびRは、それぞれ独立的に、水素原子、フッ素原子、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC~C10の飽和または不飽和炭化水素基、または、一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC~C10のアリール基であってもよい。一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC~C10の飽和または不飽和炭化水素基の例は、メチル基、エチル基、プロピル基、2-メチルプロピル基(イソブチル基)、ブチル基、ペンチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基、ビニル基、アリル基、1-メチルビニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基などを含む。一部または全ての水素がハロゲンに置換されていてもよいC~C10のアリール基の例は、フェニル基、ナフチル基(1-異性体および2-異性体を含む)、ペルフルオロフェニル基などを含む。
【0022】
前記式(I)において、Xは、オレフィン性炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合を含む基であり、好適には、少なくとも1個のフッ素原子を含む基である。Xの例は、以下の(X-1)~(X-10)の構造を含む。
【0023】
【化3】
【0024】
式中、pは、0~4の整数であり、いくつかの態様において、pは4である。別の態様において、pは0である。Rは、C~C10のアルキル基、およびC~C10のアリール基からなる群から選択される基を表す。R’は、水素原子またはC~C10のアルキル基を表す。
【0025】
好ましくは、Xは、以下の(X-11)~(X-15)の構造を有する。
【0026】
【化4】
【0027】
本発明において好ましいフッ素含有化合物は、たとえば以下の構造を有する樹脂を含む(式中、「n」は1~4の値であり、「(*)」は結合位置を示す)。
【0028】
【化5】
【0029】
【化6】
【0030】
【化7】
【0031】
本発明において、フッ素含有化合物は溶剤に可溶であることが好ましい。フッ素含有化合物が「溶剤に可溶」であるとは、所与の溶剤から得られる溶液100gあたり、1g以上、好ましくは10g以上のフッ素含有化合物が溶解していることを意味する。本実施形態のフッ素含有化合物は、後述する炭化水素類に可溶であることが好ましい。また、本実施形態のフッ素含有化合物は、コストの観点からトルエンに可溶であることが特に好ましい。
【0032】
本発明のフッ素含有化合物を架橋して得られる硬化物は、上述した通り50%以上のゲル分率(架橋密度)を有することが好適であるが、より好ましくは80%以上であり、更に好ましくは90%以上、最も好ましくは100%である。
ゲル分率(架橋密度)が大きいことで、未反応の架橋部位が存在することによる耐久性の低下の抑制や、架橋密度増加による熱膨張率の低下といった効果が考えられる。
尚、本明細書における硬化物のゲル分率(架橋密度)は、フッ素含有化合物を200℃・120分の硬化条件で熱硬化させた硬化物について測定した値である。ゲル分率の測定方法は後述する。
【0033】
本発明のフッ素含有化合物を架橋して得られる硬化物について、ガラス転移温度は200℃以上であることが好ましい。更に、ガラス転移温度を超えた温度環境での熱膨張係数が200ppm/℃より小さいことが好ましく、180ppm/℃より小さいことがより好ましく、150ppm/℃より小さいことが更に好ましい。ガラス転移温度は200℃以上であることで、通常使用環境下での熱膨張率(熱膨張係数)が低減され、電子基板として用いた際の耐久性が改善する。加えて、高温での熱膨張率(熱膨張係数)が小さいことで、高温環境下での使用や、はんだ付けが容易になるなどの利点がある。
尚、本明細書における硬化物のガラス転移温度および熱膨張係数は、フッ素含有化合物を200℃・120分の硬化条件で熱硬化させた硬化物について測定した値である。ガラス転移温度および熱膨張係数の測定方法は後述する。
【0034】
(フッ素含有化合物の調製)
本発明のフッ素含有化合物は、下記反応式に示す通り、塩基の存在下、ビスフェノール誘導体(A)及びペルフルオロビフェニル(B)、並びに置換基Xの前駆体(C)を同時に、或いはビスフェノール誘導体(A)およびペルフルオロビフェニル(B)の縮合反応を生じさせないタイミングで配合した後、加熱混合することにより製造することができる。
【0035】
【化8】
【0036】
上記反応式における前駆体(C)におけるZは、脱離基であり、好ましくはF、Cl、Br、およびIからなる群から選択され、より好ましくはFである。
【0037】
用いられる塩基は、好ましくは、アルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩、および水酸化物を含む。好ましい塩基の例は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムを含む。ビスフェノール誘導体(A)1モルあたり塩基として2規定以上、好ましくは4~6規定の塩基を用いることが好ましい。
【0038】
上記加熱混合は、非プロトン性極性溶媒中、または非プロトン性極性溶媒を含む混合溶媒中で実施することが好ましい。好ましい非プロトン性極性溶剤は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホランなどを含む。混合溶媒は、フッ素含有化合物の溶解性を低下させることがなく、かつ反応に影響を及ぼさない限りにおいて、低極性溶媒を含んでもよい。用いることができる低極性溶媒は、トルエン、キシレン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ベンゾトリフルオリド((トリフルオロメチル)ベンゼン)、キシレンヘキサフルオリド(1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)などを含む。低極性溶媒の添加により溶剤混合物の極性(誘電率)を変化させて、反応の速度を制御することができる。
【0039】
上記加熱混合は、10~200℃の反応温度および1~80時間の反応時間、好ましくは20~180℃の反応温度および2~60時間の反応時間、より好ましくは50~160℃の反応温度および3~40時間の反応時間の条件で実施することが好ましい。
【0040】
(フッ素含有組成物)
本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態のフッ素含有化合物と、架橋剤とを含むフッ素含有組成物に係る。本発明のフッ素含有化合物は、それ自体優れた架橋性を有することから、架橋剤を含有しない場合においても優れた硬化性を発現可能であるが、架橋剤を含有することにより、更に優れた硬化性を得ることができ、フッ素含有組成物から成る硬化物に充分な硬度を付与することが可能となる。
【0041】
本実施形態において用いられる架橋剤は、分子中に2個以上のオレフィン性炭素-炭素二重結合を有する化合物を含む。本実施形態において用いられる架橋剤の例は、分子中に2個以上のメタクリル基を有する多官能メタクリレート化合物、分子中に2個以上のアクリル基を有する多官能アクリレート化合物、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)などのトリアルケニルイソシアヌレート化合物、ジビニルベンゼンなどを含む。多官能性アクリレート/メタクリレート化合物の例は、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートなどのジシクロペンタジエン型アクリレート化合物、およびトリシクロデカンジメタノールジメタクリレートなどのジシクロペンタジエン型メタクリレート化合物を含む。
【0042】
本実施形態のフッ素含有組成物は、架橋剤を含んでもよい。また、本実施形態のフッ素含有組成物において、フッ素含有化合物:架橋剤の質量比は、好ましくは9.5:0.5~5:5、より好ましくは7.5:2.5~5.5:4.5の範囲内である。この範囲内の質量比を用いることにより、フッ素含有組成物の硬化物に十分な硬度を与えることができる。
【0043】
本実施形態のフッ素含有組成物は、溶剤、反応開始剤、および/または充填材をさらに含んでもよい。また、本実施形態のフッ素含有組成物は、消泡剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、着色剤(染料または顔料)、難燃剤、滑剤、分散剤などの、当該技術において知られている任意の添加剤をさらに含んでもよい。
【0044】
本実施形態のフッ素含有組成物は、溶剤を含むワニス状の組成物であってもよい。本実施形態においては、種々の溶剤を用いることができる。溶剤可溶性の観点から、本発明においては非プロトン性溶剤を用いることが好ましい。本実施形態において用いられる溶剤は:ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ミネラルスピリットなどの炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジイソブチルケトン(DIBK)などのケトン類;シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノンなどの環式ケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトンなどのエステル類;テトラヒドロフラン(THF)、1,3-ジオキソランなどの環状エーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド(DEF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)、N-シクロヘキシルピロリドンなどのアミド類;スルホラン、ジメチルスルホンなどのスルホン類;およびジメチルスルホキシド(DMSO)のようなスルホキシド類を含む。本発明において好ましい溶剤は炭化水素類であり、特に好ましくは芳香族炭化水素類である。
【0045】
本実施形態のフッ素含有組成物は、架橋反応のための反応開始剤を含むことが好ましい。反応開始剤が存在しなくても加熱による架橋・硬化は可能であるが、反応開始剤が存在する場合、より緩和な条件でより効率的な架橋・硬化が可能となる。用いることができる反応開始剤は、たとえば、過酸化ベンゾイル、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ジクミル、クミルヒドロペルオキシド、α,α’-ジ(t-ブチルペルオキシ)-ジイソプロピルベンゼン(日油株式会社製パーブチル(登録商標)P)、ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)ペルオキシド(日油株式会社製パークミル(登録商標)D)、t‐ブチルα,α‐ジメチルベンジルペルオキシド(日油株式会社製パーブチル(登録商標)C)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン、3,3’,5,5’-テトラメチル-1,4-ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、アゾビスイソブチロニトリルなどを含む。
【0046】
本実施形態のフッ素含有組成物は、1種または複数種の充填材をさらに含んでもよい。充填材は、有機充填材であってもよいし、無機充填材であってもよい。用いることができる有機充填材は:ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドなどのエンジニアリングプラスチック;およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(FEP)などの溶剤不溶性フッ素樹脂を含む。用いることができる無機充填材は:金属;酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタンなどの金属酸化物;金属水酸化物;チタン酸金属塩;ホウ酸亜鉛;スズ酸亜鉛;ベーマイト;シリカ;ガラス;酸化ケイ素;炭化ケイ素;窒化ホウ素;フッ化カルシウム;カーボンブラック;マイカ;タルク;硫酸バリウム;二硫化モリブデンなどを含む。溶剤不溶性フッ素樹脂は、フッ素含有組成物の硬化物の電気特性(誘電率、誘電損失など)の改善の点から好ましい。また、シリカは、フッ素含有組成物の硬化物の電気特性(誘電率、誘電損失など)を損なうことなしに、熱膨張率を減少させることができる点で好ましい。
【0047】
本実施形態のフッ素含有組成物は、第1の実施形態のフッ素含有化合物と、架橋剤と、任意選択的成分とを混合させることによって形成することができる。混合時に加熱を行ってもよい。また、混合は、各種の攪拌機、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミルなどの、当該技術において知られている任意の混合装置を用いて実施することができる。
【0048】
(プリプレグ)
本発明の第3の実施形態は、第1の実施形態に記載のフッ素含有化合物の半硬化物と、繊維質基材とを含むプリプレグに係る。本実施形態のプリプレグは、架橋反応のための反応開始剤をさらに含んでもよい。本実施形態で用いることができる反応開始剤は、第2の実施形態と同様である。
【0049】
本実施形態で用いることができる繊維質基材は、ガラス織布、アラミド織布、ポリエステル織布、炭素繊維織布、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、炭素繊維不織布、パルプ紙、リンター紙などを含む。好ましい繊維質基材は、優れた機械強度を実現することができるガラス織布である。繊維質基材は、0.01mm~0.3mmの厚さを有することが望ましい。
【0050】
本実施形態のプリプレグは、繊維質基材に対して、第1の実施形態に記載のフッ素含有化合物および任意選択的な反応開始剤を含浸させ、乾燥させることにより形成することができる。ここで、含浸させるフッ素含有化合物は、溶剤を含むワニス状態であることが望ましい。用いることができる溶剤は、第2の実施形態と同様である。乾燥処理の結果、ワニス中の溶剤が少なくとも部分的に除去され、フッ素含有化合物が半硬化状態(いわゆる「Bステージ」)となる。含浸工程は、浸漬または塗布などの当該技術において知られている任意の方法により実施することができる。フッ素含有化合物および任意選択的な反応開始剤の含浸を複数回にわたって実施することによって、プリプレグ中のフッ素含有化合物の含有量を調整することができる。乾燥工程の条件(温度および時間)は、フッ素含有化合物の種類、ならびに任意選択的な反応開始剤および/または溶剤の種類に依存する。たとえば、1~60分間にわたって80℃~170℃の温度に加熱することにより、乾燥工程を実施することができる。
【0051】
本発明の第4の実施形態は、第2の実施形態に記載のフッ素含有組成物の半硬化物と、繊維質基材とを含むプリプレグに係る。本実施形態で用いることができる繊維質基材は、第3の実施形態と同様である。
【0052】
本実施形態のプリプレグは、繊維質基材に対して、第2の実施形態のフッ素含有組成物を含浸させ、乾燥させることにより形成することができる。ここで、含浸させるフッ素含有組成物は、溶剤を含むワニス状態であることが望ましい。乾燥処理の結果、ワニス中の溶剤が少なくとも部分的に除去され、フッ素含有組成物が半硬化状態(いわゆる「Bステージ」)となる。含浸工程は、浸漬または塗布などの当該技術において知られている任意の方法により実施することができる。フッ素含有組成物の含浸を複数回にわたって実施することによって、プリプレグ中のフッ素含有化合物の含有量を調整することができる。乾燥工程の条件(温度および時間)は、フッ素含有組成物に含まれるフッ素含有化合物、架橋剤、および任意選択的な溶剤の種類に依存する。たとえば、1~60分間にわたって80℃~170℃の温度に加熱することにより、乾燥工程を実施することができる。
【0053】
(銅張積層板)
本発明の第5の実施形態は、第3または第4の実施形態に記載のプリプレグの硬化物と、少なくとも1つの銅層とを含む銅張積層板に係る。
【0054】
本実施形態の銅張積層板は、1つまたは複数のプリプレグを積層し、その一方または両方の表面に銅箔を積層し、得られた積層物を加熱加圧処理して一体化することにより形成することができる。銅張積層板中のフッ素含有化合物又は組成物は、硬化が完了した状態(いわゆる「Cステージ」)にあることが望ましい。加熱加圧処理の条件は、製造する銅張積層板の厚さ、プリプレグ中のフッ素含有化合物又は組成物の組成などに基づいて、適宜設定することができる。たとえば、60~150分間にわたって、170℃~220℃の温度に加熱し、1.0MPa~10MPaの圧力を印加することにより、銅張積層板を製造することができる。
【0055】
(印刷回路板)
本発明の第6の実施形態は、第3または第4の実施形態に記載のプリプレグの硬化物と、硬化物の表面に形成されている導体パターンとを含む印刷回路板に係る。
【0056】
本実施形態の印刷回路板は、第5の実施形態の銅張積層板の銅層をエッチング加工して、導体パターンを形成することによって製造することができる。あるいは、1つまたは複数のプリプレグを積層および加熱加圧処理して積層体を形成し、積層体の表面に導電性材料をパターン状に積層して導体パターンを形成する方法によって、印刷回路板を製造することができる。
【実施例0057】
(実施例1)(フッ素含有化合物の合成、n=1)
ガラス製反応容器に、0.805g(3.0ミリモル)の1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、0.501g(1.5ミリモル)のデカフルオロビフェニルおよび0.912g(6.6ミリモル)の炭酸カリウムを装填した。ガラス製反応容器内を真空に減圧した後に、窒素置換した。次いで、ガラス製反応容器内に10mLのDMAcおよび0.582g(3.0ミリモル)の2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンを添加した。反応混合物を遮光し、攪拌しながら80℃に加熱し、15時間にわたって攪拌した。加熱終了後、反応混合物を室温に冷却した。続いて、反応混合物を、0.5Lの純水に注加した。反応混合物を吸引濾過し、得られた固形物を純水およびメタノールで洗浄した。洗浄後の固形物を減圧乾燥して、1.54gのフッ素含有化合物を得た。
核磁気共鳴スペクトル(オックスフォード・インストゥルメンツ社製核磁気共鳴装置、X-Plus)より算出した平均重合度は1.0であった。
【0058】
(実施例2)(フッ素含有化合物の合成、n=2)
ビスフェノールZ 0.805g(3.0ミリモル)に対しデカフルオロビフェニルを0.668g(2.0ミリモル)、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンを0.388g(2.0ミリモル)としたことを除いて、実施例1の手順を繰り返し、1.50gのフッ素含有化合物を得た。
核磁気共鳴スペクトルによりにより算出した平均重合度は1.9であった。
【0059】
(実施例3)(フッ素含有化合物の合成、n=3)
ビスフェノールZ 0.805g(3.0ミリモル)に対しデカフルオロビフェニルを0.752g(2.3ミリモル)、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンを0.291g(1.5ミリモル)としたことを除いて、実施例1の手順を繰り返し、1.61gのフッ素含有化合物を得た。
核磁気共鳴スペクトルにより算出した平均重合度は2.8であった。
【0060】
(実施例4)(フッ素含有化合物の合成、n=4)
ビスフェノールZ 0.805g(3.0ミリモル)に対しデカフルオロビフェニルを0.802g(2.4ミリモル)、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンを0.233g(1.2ミリモル)としたことを除いて、実施例1の手順を繰り返し、1.58gのフッ素含有化合物を得た。
核磁気共鳴スペクトルにより算出した平均重合度は3.5であった。
【0061】
(実施例5)(フッ素含有化合物の合成、n=1)
0.805g(3.0ミリモル)の1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)に代えて0.889g(3.0ミリモル)の1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンを用いたことを除いて、実施例1の手順を繰り返し、1.68gのフッ素含有化合物を得た。
核磁気共鳴スペクトルにより算出した平均重合度は1.0であった。
【0062】
(比較例1)(フッ素樹脂の合成、n=30)
前記特許文献4(特開2022-89150号公報)に記載の方法に準じ、フッ素樹脂を得た。
すなわち、ガラス製反応容器に、0.805g(3.0ミリモル)の1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)および0.912g(6.6ミリモル)の炭酸カリウムを装填した。ガラス製反応容器内を真空に減圧した後に、窒素置換した。次いで、ガラス製反応容器内に10mLのDMAcを添加した。反応混合物を攪拌しながら150℃に加熱し、3時間にわたって攪拌した。加熱終了後、反応混合物を室温に冷却した。次いで、反応混合物に0.802g(2.4ミリモル)のデカフルオロビフェニルを添加した。反応混合物を攪拌しながら70℃に加熱し、4時間にわたって攪拌した。次いで、反応混合物を遮光し、0.17mL(0.233g、1.2ミリモル)の2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンを添加した。70℃の温度で15時間にわたって攪拌を継続した。攪拌終了後、反応混合物を室温まで冷却した。続いて、反応混合物を、0.5Lの純水に注加した。反応混合物を吸引濾過し、得られた固形物を純水およびメタノールで洗浄した。洗浄後の固形物を減圧乾燥して、1.14gのフッ素樹脂を得た。
核磁気共鳴スペクトルにより平均重合度を求めると30であった。
【0063】
(参考例)ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂
本発明のフッ素含有化合物の性能を示す対照として、現在、高周波伝送用基板材料として一般的に用いられているポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂(SABIC社製NORYL SA9000)についても各種の測定を行った。
【0064】
(評価1:溶剤可溶性、および熱硬化性の評価(ゲル分率))
実施例1~5で得られたフッ素含有化合物、比較例1で得られたフッ素樹脂、および参考例のPPE樹脂について、それぞれ0.5g秤量し、トルエンを加えて80℃に加熱して混合し、50質量%の溶液が得られた場合は、トルエン可溶と判断した。
得られた溶液を全てアルミカップに取り、恒温オーブン(エスペック株式会社製SPHH―102)を用いて200℃で2時間加熱乾燥し、熱硬化物を得た。この熱硬化物をアルミカップから取り、その重量を測定した。9mLのサンプル管に5gのメチルエチルケトン(MEK)と硬化物を入れ、24時間MEK中で硬化物を浸漬した。その後、溶剤を揮発させ、MEKで洗浄後、熱硬化物を乾燥させた。乾燥後の質量を測定し、MEK浸漬後の乾燥硬化物の質量を算出した。
ゲル分率は、MEK浸漬後の乾燥硬化物の質量/MEK浸漬前の硬化物の質量×100(%)として算出した。得られた結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1から明らかなように、本発明のフッ素含有化合物は比較例1のフッ素樹脂と比してゲル分率が顕著に大きく、PPE樹脂と同等あるいはそれ以上に硬化性に優れていると言える。
【0067】
(評価2:熱膨張係数(熱膨張率[CTE]))
実施例1で得られたフッ素含有化合物、比較例1で得られたフッ素樹脂、および参考例のPPE樹脂について、上記と同様にトルエンに溶解させ、50質量%の溶液を得た。
得られた溶液を全てアルミカップに取り、恒温オーブン(エスペック株式会社製SPHH―102)を用いて150℃で1時間加熱することで溶媒を除去し、その後200℃で2時間加熱して、硬化物とした。さらに室温まで冷却し、硬化物を剥離したものを試験片とした。
この試験片について、動的粘弾性測定装置(DMA ARES-G2、TA Instruments社製)を用いて、熱膨張係数の測定を行った。240℃~290℃の熱膨張係数を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2より、本発明のフッ素含有化合物は比較例および参考例と比して熱膨張係数の値が顕著に小さく、240℃~290℃というガラス転移温度以上の高温領域においても膨張しにくいという特異的な特徴を有している。
【0070】
(評価3:電気特性)
[ワニス状組成物の作製]
実施例1~5で得られたフッ素含有化合物、比較例1で得られたフッ素樹脂、および参考例のPPE樹脂について、上記と同様にトルエンに溶解させ、50質量%の溶液を得た。さらに反応開始剤としてパーブチル(登録商標)P(日油株式会社製)をフッ素含有化合物に対して2質量%になるように加え、ワニス状組成物とした。
[プリプレグの作製]
上記の方法で得た各ワニス状組成物を、7cm×7cmのガラスクロス片(旭化成株式会社製L2-1078)に滴下し、均一に含浸させた。その後、該含浸物を110℃で10分間乾燥し、プリプレグを得た。
[銅張積層板の作製]
上記方法で得たプリプレグを、5cm×5cmにカットし、電解銅箔(厚み18μm)(古河電気工業社製、HVLP)とともに真空ホットプレス機(株式会社井元製作所製 手動油圧真空加熱プレス IMC-4900)を用いて、減圧しながら200℃まで昇温し、さらに200℃で120分間・4MPaでプレスすることで、プリプレグと銅箔を接着させた。
実施例1~5で得られたフッ素含有化合物を使用したプリプレグからは、均一に複合化した銅張積層板が得られた。しかし、比較例1で得られたフッ素樹脂を使用した場合、ガラスクロスと均一に複合化できず、綺麗な銅張積層板が得られなかった。
【0071】
プリプレグより作製した銅張積層板の銅箔をピンセットで剥がし、4cm×4cmにカットして得られた試験片について、ベクトルネットワークアナライザ(KEYSIGHT 5247B)を用いて、スプリットシリンダ法、28GHz、25℃条件下にて、電気特性(誘電率及び誘電正接)を測定した。
【0072】
【表3】
【0073】
表3より、本発明のフッ素含有化合物は銅張積層板に加工することが容易であり、更に高周波伝送用基板材料として現在一般的に用いられているPPE樹脂に比べても、28GHzという非常に大きな周波数領域での誘電正接が大きく低減していることがわかる。
【0074】
(評価4:ガラス転移温度)
上記電気特性評価で作成した実施例1、5、比較例1及び参考例の銅張積層板について、ガラスクロスの網目に対して、斜め45度になるように切断し、縦幅25mm×横幅25mmの試験片を作製した。
この試験片について、動的粘弾性測定装置(DMA ARES-G2、TA Instruments社製)にて、周波数1.0Hz、歪量0.1%に設定し、以下の温度プロファイルを実行した。
(1)25℃で60秒にわたって保持し、5℃/分の速度で、25℃から360℃まで加熱する。
(2)60秒にわたって、360℃の温度を維持し、測定を終了する。
算出されたグラフの温度に対する損失係数(tanδ)のピーク位置の温度をガラス転移温度(Tg)とした。結果を表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
表4の結果より、本発明のフッ素含有化合物は比較例と比してガラス転移温度(Tg)が高い。Tgが高いことで、より高温に曝されても熱による変形等の影響を受けにくい。