IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

特開2024-159498R-T-B系永久磁石およびその製造方法
<>
  • 特開-R-T-B系永久磁石およびその製造方法 図1
  • 特開-R-T-B系永久磁石およびその製造方法 図2
  • 特開-R-T-B系永久磁石およびその製造方法 図3
  • 特開-R-T-B系永久磁石およびその製造方法 図4
  • 特開-R-T-B系永久磁石およびその製造方法 図5
  • 特開-R-T-B系永久磁石およびその製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159498
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】R-T-B系永久磁石およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20241031BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20241031BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241031BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241031BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20241031BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
H01F1/057
H01F1/057 170
H01F41/02 G
C22C38/00 303D
C22C38/00 304
B22F1/00 Y
B22F3/00 F
C21D6/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024025671
(22)【出願日】2024-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2023073518
(32)【優先日】2023-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】河村 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】工藤 光
(72)【発明者】
【氏名】納見 元久
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB04
4K018BC12
4K018CA02
4K018CA04
4K018DA22
4K018DA29
4K018DA31
4K018DA32
4K018FA06
4K018FA08
4K018FA11
4K018FA24
4K018FA25
4K018FA27
4K018KA45
5E040AA04
5E040AA19
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB03
5E040HB15
5E040NN01
5E040NN06
5E040NN17
5E062CD04
5E062CG02
(57)【要約】
【課題】残留磁束密度Br、保磁力HcJおよび角形比Hk/HcJを向上させたR-T-B系永久磁石を得る。
【解決手段】 Cと、Zrと、を含むR-T-B系永久磁石である。R-T-B系永久磁石が主相粒子および粒界を含む。R-T-B系永久磁石の断面において、主相粒子内のZr濃度の分布が特定の範囲内の分布である。粒界に含まれるZrB2の合計面積をS(B)、粒界に含まれるZrCの合計面積をS(C)として、S(C)/(S(B)+S(C))が98.0%以上である。R-T-B系永久磁石を100質量%として、Zrの含有量が0.60質量%以上1.60質量%以下、Bの含有量が0質量%を上回り0.85質量%以下、Cの含有量が0質量%を上回り0.260質量%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cと、Zrと、を含むR-T-B系永久磁石であって、
前記R-T-B系永久磁石が主相粒子および粒界を含み、
前記R-T-B系永久磁石の断面において、
前記主相粒子の中心部のZr濃度を[Zr1]として、[Zr1]が0以上0.35at%以下であり、
前記粒界に含まれるZrB2の合計面積をS(B)、前記粒界に含まれるZrCの合計面積をS(C)として、S(C)/(S(B)+S(C))が98.0%以上であり、
前記R-T-B系永久磁石を100質量%として、
Zrの含有量が0.60質量%以上1.60質量%以下、
Bの含有量が0質量%を上回り0.85質量%以下、
Cの含有量が0質量%を上回り0.260質量%以下であるR-T-B系永久磁石。
【請求項2】
Cと、Zrと、を含むR-T-B系永久磁石であって、
前記R-T-B系永久磁石が主相粒子および粒界を含み、
前記R-T-B系永久磁石の断面において、
前記主相粒子の中心部のZr濃度を[Zr1]、前記主相粒子の外縁部のZr濃度[Zr2]として、[Zr1]/[Zr2]が原子数比で0.70以上1.20以下であり、
前記粒界に含まれるZrB2の合計面積をS(B)、前記粒界に含まれるZrCの合計面積をS(C)として、S(C)/(S(B)+S(C))が98.0%以上であり、
前記R-T-B系永久磁石を100質量%として、
Zrの含有量が0.60質量%以上1.60質量%以下、
Bの含有量が0質量%を上回り0.85質量%以下、
Cの含有量が0質量%を上回り0.260質量%以下であるR-T-B系永久磁石。
【請求項3】
前記R-T-B系永久磁石におけるZrB2の合計面積割合が0%以上0.01%未満である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項4】
ZrB2の粒径が最大で1.0μm以下であり、かつ、ZrCの粒径が最大で1.0μm以下である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項5】
重希土類元素の含有量が0質量%以上0.80質量%以下である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項6】
さらにGaを含み、
Gaの含有量が0.40質量%以上1.00質量%以下である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項7】
さらにAlを含み、
Alの含有量が0質量%を上回り0.07質量%以下である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項8】
希土類元素の含有量が29.00質量%以上34.00質量%以下である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項9】
希土類元素の含有量が30.00質量%以上33.00質量%以下、Bの含有量が0.70質量%以上0.85質量%以下である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項10】
主相合金と粒界相合金とを準備する工程と、
前記主相合金と前記粒界相合金とを混合する工程と、を含み、
前記主相合金におけるCの含有量が0.070質量%以上0.180質量%以下であり、
前記粒界相合金におけるZrの含有量が3.00質量%以上7.00質量%以下であり、
前記主相合金と前記粒界相合金との混合比率が質量比で85:15~92:8であるR-T-B系永久磁石の製造方法
【請求項11】
前記主相合金において、
希土類元素の含有量が30.00質量%以上32.50質量%以下、
Alの含有量が0質量%以上0.10質量%以下、
Gaの含有量が0.40質量%以上1.20質量%以下、
Cuの含有量が0.10質量%以上1.00質量%以下、
Coの含有量が0.50質量%以上3.00質量%以下、
Zrの含有量が0.10質量%以上0.80質量%以下、
Bの含有量が0.70質量%以上1.00質量%以下であり、
前記粒界相合金において、
希土類元素の含有量が30.00質量%以上45.00質量%以下、
Alの含有量が0質量%以上1.00質量%以下、
Gaの含有量が0質量%以上8.00質量%以下、
Cuの含有量が0質量%以上5.00質量%以下、
Coの含有量が0質量%以上10.00質量%以下である請求項10に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項12】
前記主相合金の断面における6-13-1相の面積割合が0%以上2.0%未満である請求項10または11に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項13】
成形体を焼結する工程をさらに含み、焼結時間が2時間以上8時間以下である請求項10または11に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【請求項14】
前記R-T-B系永久磁石において、
希土類元素の含有量が30.00質量%以上33.00質量%以下、
Bの含有量が0.70質量%以上0.88質量%以下、
Alの含有量が0質量%より大きく0.07質量%以下、
Gaの含有量が0.40質量%以上1.00質量%以下、
Zrの含有量が0.10質量%より大きく1.60質量%以下である請求項10または11に記載のR-T-B系永久磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、R-T-B系永久磁石およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはR-T-B系希土類永久磁石等に関する発明が記載されている。特許文献1に記載されたR-T-B系希土類永久磁石の製造方法では、R214B相を主体とする低R合金と、低R合金よりRを多く含む高R合金とを用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2004/029997号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、残留磁束密度Br、保磁力HcJおよび角形比Hk/HcJを向上させたR-T-B系永久磁石を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の観点に係るR-T-B系永久磁石は、Cと、Zrと、を含むR-T-B系永久磁石であって、
前記R-T-B系永久磁石が主相粒子および粒界を含み、
前記R-T-B系永久磁石の断面において、
前記主相粒子の中心部のZr濃度を[Zr1]として、[Zr1]が0以上0.35at%以下であり、
前記粒界に含まれるZrB2の合計面積をS(B)、前記粒界に含まれるZrCの合計面積をS(C)として、S(C)/(S(B)+S(C))が98.0%以上であり、
前記R-T-B系永久磁石を100質量%として、
Zrの含有量が0.60質量%以上1.60質量%以下、
Bの含有量が0質量%を上回り0.85質量%以下、
Cの含有量が0質量%を上回り0.260質量%以下である。
【0006】
本開示の第2の観点に係るR-T-B系永久磁石は、Cと、Zrと、を含むR-T-B系永久磁石であって、
前記R-T-B系永久磁石が主相粒子および粒界を含み、
前記R-T-B系永久磁石の断面において、
前記主相粒子の中心部のZr濃度を[Zr1]、前記主相粒子の外縁部のZr濃度[Zr2]として、[Zr1]/[Zr2]が原子数比で0.70以上1.20以下であり、
前記粒界に含まれるZrB2の合計面積をS(B)、前記粒界に含まれるZrCの合計面積をS(C)として、S(C)/(S(B)+S(C))が98.0%以上であり、
前記R-T-B系永久磁石を100質量%として、
Zrの含有量が0.60質量%以上1.60質量%以下、
Bの含有量が0質量%を上回り0.85質量%以下、
Cの含有量が0質量%を上回り0.260質量%以下である。
【0007】
以下の記載は第1の観点と第2の観点とで共通する記載である。
【0008】
前記R-T-B系永久磁石におけるZrB2の合計面積割合が0%以上0.01%未満であってもよい。
【0009】
ZrB2の粒径が最大で1.0μm以下であってもよく、かつ、ZrCの粒径が最大で1.0μm以下であってもよい。
【0010】
重希土類元素の含有量が0質量%以上0.80質量%以下であってもよい。
【0011】
さらにGaを含んでもよく、
Gaの含有量が0.40質量%以上1.00質量%以下であってもよい。
【0012】
さらにAlを含んでもよく、
Alの含有量が0質量%を上回り0.07質量%以下であってもよい。
【0013】
希土類元素の含有量が29.00質量%以上34.00質量%以下であってもよい。
【0014】
希土類元素の含有量が30.00質量%以上33.00質量%以下であってもよく、Bの含有量が0.70質量%以上0.85質量%以下であってもよい。
【0015】
本開示の第3の観点に係るR-T-B系永久磁石の製造方法は、
主相合金と粒界相合金とを準備する工程と、
前記主相合金と前記粒界相合金とを混合する工程と、を含み、
前記主相合金におけるCの含有量が0.07質量%以上0.180質量%以下であり、
前記粒界相合金におけるZrの含有量が3.00質量%以上7.00質量%以下であり、
前記主相合金と前記粒界相合金との混合比率が質量比で85:15~92:8である。
【0016】
前記主相合金において、
希土類元素の含有量が30.00質量%以上32.50質量%以下、
Alの含有量が0質量%以上0.10質量%以下、
Gaの含有量が0.40質量%以上1.20質量%以下、
Cuの含有量が0.10質量%以上1.00質量%以下、
Coの含有量が0.50質量%以上3.00質量%以下、
Zrの含有量が0.10質量%以上0.80質量%以下、
Bの含有量が0.70質量%以上1.00質量%以下であってもよく、
前記粒界相合金において、
希土類元素の含有量が30.00質量%以上45.00質量%以下、
Alの含有量が0質量%以上1.00質量%以下、
Gaの含有量が0質量%以上8.00質量%以下、
Cuの含有量が0質量%以上5.00質量%以下、
Coの含有量が0質量%以上10.00質量%以下であってもよい。
【0017】
前記主相合金の断面における6-13-1相の面積割合が0%以上2.0%未満であってもよい。
【0018】
成形体を焼結する工程をさらに含んでもよく、焼結時間が2時間以上8時間以下であってもよい。
【0019】
前記R-T-B系永久磁石において、
希土類元素の含有量が30.00質量%以上33.00質量%以下、
Bの含有量が0.70質量%以上0.88質量%以下、
Alの含有量が0質量%より大きく0.07質量%以下、
Gaの含有量が0.40質量%以上1.00質量%以下、
Zrの含有量が0.10質量%より大きく1.60質量%以下であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】試料No.3の元素マッピング画像である。
図2】試料No.10の元素マッピング画像である。
図3図1の要部拡大図である。
図4図2の要部拡大図である。
図5】試料No.3のSEM画像である。
図6】試料No.3のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示を、実施形態に基づき説明する。
【0022】
(第1実施形態)
R-T-B系永久磁石は、R214B型結晶構造を有する結晶粒子を含む主相粒子を有する。さらに、隣り合う2つ以上の主相粒子によって形成される粒界を有する。
【0023】
R-T-B系永久磁石およびR214B型結晶構造において、Rは希土類元素、Tは遷移金属元素、Bはホウ素を表す。
【0024】
R-T-B系永久磁石およびR214B型結晶構造にRとして含まれる希土類元素はSc、Yおよびランタノイドであってもよい。Tとして含まれる遷移金属元素には希土類元素が含まれない。Tとして含まれる遷移金属元素が鉄族元素であってもよい。Tとして含まれる鉄族元素がFe単独であってもよく、Tとして含まれるFeの一部がCoに置換されていてもよい。Bとして含まれるホウ素の一部が炭素に置換されていてもよい。
【0025】
本実施形態では、希土類元素は重希土類元素と軽希土類元素とに分類される。重希土類元素とは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのことをいう。軽希土類元素とは、重希土類元素以外の希土類元素のことをいう。鉄族元素とは、Fe、Co、Niのことをいう。
【0026】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、炭素(C)と、ジルコニウム(Zr)と、を含む。そして、以下に示す微細構造および組成を有する。
【0027】
(微細構造)
R-T-B系永久磁石が主相粒子および粒界を含み、
R-T-B系永久磁石の断面において、
主相粒子の中心部のZr濃度を[Zr1]として、[Zr1]が0以上0.35at%以下であり、
粒界に含まれるZrB2の合計面積をS(B)、粒界に含まれるZrCの合計面積をS(C)として、S(C)/(S(B)+S(C))が98.0%以上である。
【0028】
R-T-B系永久磁石において、主相粒子の中心部のZr濃度が低く、かつ、粒界に含まれるZr化合物において、ZrB2およびZrCの合計含有量に対するZrCの含有割合が多いことにより、R-T-B系永久磁石のBr、HcJおよびHk/HcJが全て好適となる。特に、重希土類元素の含有量が比較的小さい場合、Bの含有量が比較的小さい場合、および/または、焼結時間が比較的短い場合であっても、Br、HcJおよびHk/HcJが全て好適なR-T-B系永久磁石が得られる。
【0029】
[Zr1]が大きすぎる場合にはHcJおよびHk/HcJが低下する。S(C)/(S(B)+S(C))が小さすぎる場合には、BrおよびHk/HcJが低下する。さらに、HcJも低下しやすくなる。
【0030】
主相粒子の外縁部のZr濃度を[Zr2]として、[Zr2]が0以上0.72at%以下であってもよい。
【0031】
R-T-B系永久磁石の断面におけるZrB2の合計面積割合が0%以上0.01%未満であってもよい。ZrB2の合計面積割合が上記の範囲内であることによりHk/HcJが良好になりやすくなる。
【0032】
R-T-B系永久磁石の断面に含まれるZr化合物のうち、個数割合で99%以上のZr化合物の粒径が1.0μm以下であってもよい。ZrB2とZrCとの合計個数に対する粒径が1.0μm以下であるZrB2と粒径が1.0μm以下であるZrCとの合計個数が99%以上であってもよい。また、Zr化合物の粒径が最大で1.0μm以下であってもよい。ZrB2の粒径が最大で1.0μm以下であり、かつ、ZrCの粒径が最大で1.0μm以下であってもよい。
【0033】
以下、R-T-B系永久磁石に含まれる主相粒子の[Zr1]および[Zr2]の測定方法について説明する。
【0034】
まず、R-T-B系永久磁石の断面について元素マッピングを行う。元素マッピングを行う装置については特に制限はなく適切に元素マッピングが行える装置であればよい。例えばEPMA、EDSが挙げられる。また、倍率は[Zr1]および[Zr2]が適切に測定できる倍率であればよい。例えば1500倍以上10000倍以下であってもよい。元素マッピングにより、例えば図1に示す画像が得られる。
【0035】
図1に示すR-T-B系永久磁石1は、後述する実施例、試料No.3である。R-T-B系永久磁石1は、主相粒子11と、粒界13と、を含む。粒界13は、R含有部13aと、Zr含有部13bと、を含む。
【0036】
R含有部13aは、粒界13において、特にRリッチ相および/または6-13-1相を多く含む部分である。Rリッチ相は少なくともRを多く含み、さらに、Co、Cuおよび/またはGaを主相粒子11よりも多く含む相である。6-13-1相はR、Fe、Co、CuおよびGaを多く含む相である。
【0037】
Zr含有部13bは、粒界13において、特にZr化合物を多く含む部分である。
【0038】
また、粒界13には、R、Co、Cu、Gaおよび/またはGaと、Zrと、の両方を多く含むために、R含有部13aであるのかZr含有部13bであるのか、特定困難な部分が含まれていてもよい。
【0039】
そして、得られた元素マッピング画像に含まれる主相粒子11の位置および形状を特定する。この際に、適宜、元素マッピング画像を拡大してもよい。例えば、図1の部分Aを拡大した画像が図3である。次に、元素マッピング画像に全体が含まれる主相粒子11の中心部を特定する。具体的には、元素マッピング画像における主相粒子11の表面からの距離が、その主相粒子の円相当径の40%以上の部分を主相粒子11の中心部とする。言いかえれば、主相粒子11と粒界13との境界からの距離が、その主相粒子の円相当径の40%以上の部分に中心部がある。そして、主相粒子11の中心部におけるZr濃度を測定し、[Zr1]とする。なお、[Zr1]、[Zr2]の測定対象は中心部の定義を満たす領域および後述する外縁部の定義を満たす領域を有する主相粒子11とする。
【0040】
R-T-B系永久磁石1における[Zr1]を算出する場合には、全体が含まれ、かつ、中心部が存在する主相粒子11の数が少なくとも3個以上になるように元素マッピング画像を観察する。全体が含まれ、かつ、中心部が存在する主相粒子11の数が5個以上であってもよい。そして、元素マッピング画像に全体が含まれる各主相粒子11の[Zr1]を測定し、平均することで、R-T-B系永久磁石1における[Zr1]を算出してもよい。
【0041】
[Zr2]の測定方法は、Zr濃度の測定箇所を主相粒子11の中心部から主相粒子11の外縁部に変更する点以外は[Zr1]の測定方法と同一である。主相粒子11の外縁部は、具体的には、元素マッピング画像における主相粒子11の表面からの距離が、その主相粒子の円相当径の30%以下の部分である。言いかえれば、主相粒子11と粒界13との境界からの距離が、その主相粒子の円相当径の30%以下である位置に外縁部がある。[Zr2]の測定に際して粒界成分を検出しないようにするために、主相粒子11の表面からの距離が、その主相粒子の円相当径の15%以上30%以下の部分を測定してもよい。
【0042】
図2に示すR-T-B系永久磁石2は、後述する比較例、試料No.10である。また、図2の部分Bを拡大した画像が図4である。図2図4より、図2に示すR-T-B系永久磁石2は図1に示すR-T-B系永久磁石1と比較して主相粒子11におけるZr濃度が高い。特に、主相粒子11の中心部におけるZr濃度が高く、Zr濃度の分布からは主相粒子11がZr濃度の低いシェルとZr濃度の高いコアとを含むコアシェル粒子であるように見える。すなわち、R-T-B系永久磁石2は[Zr1]が大きすぎるためにHcJおよびHk/HcJが低い。
【0043】
以下、Zr化合物の観察方法およびZrB2とZrCとの区別方法について説明する。併せて、S(C)/(S(B)+S(C))の測定方法およびZr化合物の粒径の測定方法について説明する。
【0044】
まず、R-T-B系永久磁石の断面について組成像を観察する。組成像の観察に用いる装置には特に制限はなく適切に組成像を観察できる装置であればよい。例えば、SEMが挙げられる。また、倍率はZr化合物が適切に観察できる倍率であればよい。例えば2500倍以上20000倍以下であってもよい。
【0045】
図5は、R-T-B系永久磁石1の断面について、SEMを用いて10000倍で観察して得られたSEM画像である。図6は、R-T-B系永久磁石1の断面のうち、図5とは異なる箇所について、SEMを用いて20000倍で観察して得られたSEM画像である。また、図5には、比較対象として一辺の長さが1μmである正方形を記載している。図6には、比較対象として一辺の長さ1μmである正方形、および、一辺の長さが0.5μmである正方形を記載している。
【0046】
図5および図6では、主相粒子11とともに、Zr化合物を多く含む粒界であるZr含有部13bを主に表示している。Zr含有部13bには多数のZr化合物15が含まれる。Zr含有部13bにおいてZr化合物15とそれ以外の部分とはコントラストの違いにより区別できる。
【0047】
Zr化合物15がZrB2であるかZrCであるかはR-T-B系永久磁石1の断面のSEM画像におけるZr化合物15の形状により区別できる。具体的には、Zr化合物15のアスペクト比(長軸/短軸)で区別できる。アスペクト比が5より大きいZr化合物をZrB2とし、アスペクト比が5以下のZr化合物をZrCであると判断できる。なお、図5および図6で表示されているZr化合物15は全てZrCである。
【0048】
アスペクト比が5より大きいZrC、および/または、アスペクト比が5以下であるZrB2がSEM画像に含まれる可能性は完全には否定できない。しかし、R-T-B系永久磁石におけるZrB2の合計面積割合、および、S(C)/(S(B)+S(C))の算出においては、上記の可能性を無視できる。
【0049】
ZrB2はAlB2系の六方晶の結晶構造を有する。SEM画像では、針状の形状を有する。そのため、細長い略長方形に見える。ZrCは面心立方構造を有する。SEM画像では、粒状の形状を有する。そのため、略長方形に見える。
【0050】
SEMによる観察範囲の大きさを、最低でも5個以上のZr化合物15が含まれる大きさとする。SEMによる観察範囲の大きさは、10個以上のZr化合物15が含まれる大きさとしてもよい。そして、ZrB2の合計面積S(B)およびZrCの合計面積S(C)を測定し、S(C)/(S(B)+S(C))を算出する。また、各Zr化合物の粒径は各Zr化合物の円相当径とする。
【0051】
(組成)
上記の通り、R-T-B系永久磁石は、炭素(C)と、ジルコニウム(Zr)と、を含む。
【0052】
R-T-B系永久磁石を100質量%として、Zrの含有量は0.60質量%以上1.60質量%以下である。0.80質量%以上1.20質量%以下であってもよい。Zrの含有量が少ないほど主相粒子の異常粒成長が生じやすくなり、異常粒成長が生じるとHcJおよびHk/HcJが低下しやすくなる。Zrの含有量が多いほどR-T-B系永久磁石の作製時にZrB2化合物が生成しやすくなり、S(C)/(S(B)+S(C))が低下しやすくなる。そして、HcJおよびHk/HcJが低下しやすくなる。
【0053】
R-T-B系永久磁石を100質量%として、Cの含有量は0質量%を上回り0.260質量%以下である。Cの含有量は0.150質量%以上であってもよく、0.160質量%以上であってもよく、0.167質量%以上であってもよく、0.175質量%以上であってもよく、0.200質量%以上であってもよく、0.226質量%以上であってもよい。また、Cの含有量は0.248質量%以下であってもよい。Cの含有量が少ないほどR-T-B系永久磁石の作製時にZrC化合物が生成しにくくなりZrB2化合物が生成しやすくなる。そして、S(C)/(S(B)+S(C))が低下しやすくなる。そして、Br、HcJおよびHk/HcJが低下しやすくなる。Cの含有量が多いほどHcJが低下しやすくなる。
【0054】
R-T-B系永久磁石を100質量%として、Bの含有量は0.85質量%以下である。Bの含有量は0.70質量%以上0.83質量%以下であってもよい。Bの含有量が少ないほど焼結が不十分になりやすくなる。その結果、BrおよびHcJが低下しやすくなる。Bの含有量が多いほどHcJが低下しやすくなる。
【0055】
希土類元素の含有量(以下、TREと記載する場合がある)には特に制限はない。例えば29.00質量%以上34.00質量%以下であってもよく、30.00質量%以上33.00質量%以下であってもよい。TREが少ないほどHcJが低下しやすくなる。TREが大きいほど異常粒成長が発生しやすくなり、Brが低下しやすくなる。
【0056】
R-T-B系永久磁石が希土類元素として実質的にNd、Pr、DyおよびTbから選択される1種以上のみを含んでもよく、実質的にNdおよびPrから選択される1種以上のみを含んでもよい。なお、R-T-B系永久磁石が希土類元素として実質的にNd、Pr、DyおよびTbから選択される1種以上のみを含むとは、Nd、Pr、DyおよびTb以外の希土類元素の含有量が合計で0.01質量%以下であるという意味である。R-T-B系永久磁石が希土類元素として実質的にNdおよびPrから選択される1種以上のみを含むとは、NdおよびPr以外の希土類元素の含有量が合計で0.01質量%以下であるという意味である。
【0057】
重希土類元素の含有量には特に制限はない。例えば0質量%以上0.80質量%以下であってもよく、0質量%以上0.50質量%以下であってもよく、0質量%以上0.30質量%以下であってもよい。重希土類元素の含有量が多いほどBrが低下しやすくなり、かつ、原料コストが高くなりやすくなる。
【0058】
鉄族元素の含有量には特に制限はなく、Coの含有量には特に制限はない。磁気特性および耐食性を向上させる観点から、Coの含有量0.50質量%以上3.00質量%以下であってもよく、0.80質量%以上3.00質量%以下であってもよい。Niは実質的に含有しなくてもよい。具体的にはNiの含有量が0質量%以上0.01質量%未満であってもよい。
【0059】
R-T-B系永久磁石がさらにGa、Alおよび/またはCuを含んでいてもよい。
【0060】
Gaの含有量には特に制限はない。例えば0.40質量%以上1.00質量%以下であってもよい。Gaの含有量が少ないほどHcJが低下しやすくなる。Gaの含有量が多いほどBrが低下しやすくなる。
【0061】
Alの含有量には特に制限はない。例えば0質量%を上回り0.07質量%以下であってもよく、0.02質量%以上0.07質量%以下であってもよい。Alの含有量が少ないほどHcJが低下しやすくなる。Alの含有量が多いほどBrが低下しやすくなる。
【0062】
Cuの含有量には特に制限はない。例えば0質量%以上1.00質量%以下であってもよく、0.15質量%以上1.00質量%以下であってもよい。Cuの含有量が少ないほどBrが低下しやすくなる。Cuの含有量が多いほどHcJが低下しやすくなる。
【0063】
R-T-B系永久磁石を100質量%とするとは、全ての元素の含有量の合計を100質量%とするという意味である。そして、R-T-B系永久磁石におけるFeの含有量は、R-T-B系永久磁石における実質的な残部であってもよい。具体的には、上述した元素以外の元素、すなわち、希土類元素、Fe、Co、Ni、B、Al、Ga、Zr、CuおよびC以外の元素の含有量がそれぞれ 0.20質量%以下、合計で1.00質量%以下であってもよい。
【0064】
<R-T-B系永久磁石の製造方法>
以下、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石を製造する方法の一例について説明する。本実施形態に係るR-T-B系永久磁石を製造する方法は、以下の工程を含んでもよい。
【0065】
(a)主相合金と粒界相合金とを準備する合金準備工程
(b)主相合金と粒界相合金とを粉砕する粉砕工程
(c)主相合金と粒界相合金とを混合する混合工程
(d)得られた合金粉末を成形する成形工程
(e)成形体を焼結し、R-T-B系永久磁石を得る焼結工程
(f)R-T-B系永久磁石を時効処理する時効処理工程
(g)R-T-B系永久磁石を冷却する冷却工程
(h)R-T-B系永久磁石を加工する加工工程
(i)R-T-B系永久磁石に表面処理する表面処理工程
【0066】
最終的に得られるR-T-B系永久磁石の種類等により上記の工程の一部を適宜、省略してもよい。例えば、R-T-B系永久磁石がR-T-B系焼結磁石である場合には(e)の焼結工程を含むが、R-T-B系永久磁石がボンド磁石である場合には(e)の焼結工程等の工程を含まない。焼結の代わりに熱間成型および熱間加工を行ってもよい。また、上記の工程以外の工程を適宜、追加してもよい。
【0067】
しかし、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の製造方法は、少なくとも(a)の合金準備工程と(c)の混合工程とを必ず含む。
【0068】
[合金準備工程]
まず、主相合金と粒界相合金とを準備する(合金準備工程)。上記の構成を有するR-T-B系永久磁石は主相合金と粒界相合金とを用いる二合金法により得られる。主相合金と粒界相合金とでは、製造方法には特に違いはない。以下、主相合金の合金準備方法の一例としてストリップキャスティング法について説明するが、合金準備方法はストリップキャスティング法に限定されない。粒界相合金の合金準備方法に関しては、以下の記載における主相合金を粒界相合金に読み替える。
【0069】
まず、主相合金の組成に対応する原料金属を準備し、真空またはArガスなどの不活性ガス雰囲気中で準備した原料金属を溶解する。その後、溶解した原料金属を鋳造することによって主相合金を作製する。
【0070】
原料金属の種類には特に制限はない。例えば、希土類金属あるいは希土類合金、純鉄、純コバルト、フェロボロン、さらにはこれらの合金や化合物等を使用することができる。原料金属を鋳造する鋳造方法には特に制限はない。例えばインゴット鋳造法やストリップキャスト法やブックモールド法や遠心鋳造法などが挙げられる。得られた主相合金は、凝固偏析がある場合は必要に応じて均質化処理(溶体化処理)を行ってもよい。
【0071】
合金準備方法をアトマイズ法で行ってもよい。この場合には後述する粉砕工程を省略してもよい。
【0072】
[粉砕工程]
以下、主相合金の粉砕方法を説明する。粒界相合金の粉砕方法に関しては、以下の記載における主相合金を粒界相合金に読み替える。
【0073】
主相合金を作製した後、主相合金を粉砕する(粉砕工程)。粉砕工程は、粒径が数百μm~数mm程度になるまで粉砕する粗粉砕工程と、粒径が数μm程度になるまで微粉砕する微粉砕工程との2段階で行ってもよいが、微粉砕工程のみの1段階で行ってもよい。
【0074】
(粗粉砕工程)
主相合金を粒径が数百μm~数mm程度になるまで粗粉砕する(粗粉砕工程)。これにより、主相合金の粗粉砕粉末を得る。粗粉砕は、例えば水素吸蔵粉砕により行ってもよい。水素吸蔵粉砕は、主相合金に水素を吸蔵させた後に異なる相間の水素吸蔵量の相違に基づいて水素を放出させることで自己崩壊的な粉砕を生じさせることによって行うことができる。異なる相間の水素吸蔵量の相違に基づいて水素を放出させることを脱水素と呼ぶ。脱水素の条件には特に制限はないが、例えば300~650℃、アルゴンフロー中または真空中で脱水素を行う。
【0075】
なお、粗粉砕の方法は、上記の水素吸蔵粉砕に限定されない。例えば、不活性ガス雰囲気中にて、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等の粗粉砕機を用いて粗粉砕を行ってもよい。
【0076】
また、高い磁気特性を有するR-T-B系永久磁石を得るために、粗粉砕工程から後述する焼結工程までの各工程の雰囲気は、低酸素濃度の雰囲気としてもよい。酸素濃度は、各製造工程における雰囲気の制御等により調節される。各製造工程の酸素濃度が高いと主相合金を粉砕して得られる合金粉末中の希土類元素が酸化して希土類元素の酸化物が生成されてしまう。希土類元素の酸化物は、焼結中に還元されず、希土類元素の酸化物の形でそのまま粒界に析出する。粒界とは、2個以上の主相粒子の間に存在する部分のことである。その結果、得られるR-T-B系永久磁石のBrが低下する。そのため、例えば、各工程(微粉砕工程、成形工程)は酸素濃度を100ppm以下の雰囲気で実施してもよい。
【0077】
(微粉砕工程)
主相合金を粗粉砕した後、得られた主相合金の粗粉砕粉末を平均粒子径が数μm程度になるまで微粉砕する(微粉砕工程)。これにより、主相合金の微粉砕粉末を得る。粗粉砕した粉末を更に微粉砕することで、微粉砕粉末を得ることができる。微粉砕粉末に含まれる粒子のD50には特に制限はない。例えば、D50が2.0μm以上4.5μm以下であってもよく、2.5μm以上3.5μm以下であってもよい。D50が小さいほど本実施形態に係るR-T-B系永久磁石のHcJが向上しやすくなる。しかし、焼結工程で異常粒成長が発生しやすくなり、焼結温度幅の上限が低くなる。D50が大きいほど焼結工程で異常粒成長が発生しにくくなり、焼結温度幅の上限が高くなる。しかし、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石のHcJが低下しやすくなる。
【0078】
微粉砕は、粉砕時間等の条件を適宜調整しながら、例えばジェットミル、ボールミル、振動ミル、湿式アトライター等の微粉砕機を用いて粗粉砕した粉末の更なる粉砕を行なうことで実施される。以下、ジェットミルについて説明する。ジェットミルは、高圧の不活性ガス(たとえば、Heガス、N2ガス、Arガス)を狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により主相合金の粗粉砕粉末を加速して主相合金の粗粉砕粉末同士の衝突やターゲットまたは容器壁との衝突を発生させて粉砕する微粉砕機である。
【0079】
主相合金の粗粉砕粉末を微粉砕する際には粉砕助剤を添加してもよい。粉砕助剤の種類には特に制限はない。例えば、有機物潤滑剤や固体潤滑剤を用いてもよい。有機物潤滑剤としては、例えばオレイン酸アミド、ラウリン酸アミド、ステアリン酸亜鉛などが挙げられる。固体潤滑剤としては、例えばグラファイトなどが挙げられる。粉砕助剤を添加することで、成形工程において磁場を印加した際に配向が生じやすい微粉砕粉末を得ることができる。有機物潤滑剤および固体潤滑剤は、いずれか一方のみを使用してもよいが、両方を混合して使用してもよい。特に固体潤滑剤のみを使用する場合には、配向度が低下する場合があるためである。
【0080】
[混合工程]
次に、主相合金と粒界相合金とを混合して成形用合金粉末を得る(混合工程)。混合方法には特に制限はない。
【0081】
[成形工程]
成形用合金粉末を目的の形状に成形する(成形工程)。成形工程では、成形用合金粉末を、電磁石中に配置された金型内に充填して加圧することによって、成形用合金粉末を成形し、成形体を得る。このとき、磁場を印加しながら成形することで、成形用合金粉末の結晶軸を特定の方向に配向させた状態で成形することができる。得られる成形体は、特定方向に配向するので、より磁性の強い異方性を有するR-T-B系永久磁石が得られる。また、成形助剤を添加してもよい。成形助剤の種類には特に制限はない。粉砕助剤と同一の潤滑剤を用いてもよい。また、粉砕助剤が成形助剤を兼ねてもよい。
【0082】
加圧時の圧力は、例えば30MPa以上300MPa以下としてもよい。印加する磁場は、例えば1000kA/m以上1600kA/m以下としてもよい。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス状磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場とを併用することもできる。
【0083】
なお、成形方法としては、上記のように成形用合金粉末をそのまま成形する乾式成形のほか、成形用合金粉末を油等の溶媒に分散させたスラリーを成形する湿式成形を適用することもできる。
【0084】
成形用合金粉末を成形して得られる成形体の形状は特に限定されるものではなく、例えば直方体、平板状、柱状、リング状等、所望とするR-T-B系永久磁石の形状に応じた形状とすることができる。
【0085】
[焼結工程]
磁場中で成形し、目的の形状に成形して得られた成形体を真空または不活性ガス雰囲気中で焼結し、R-T-B系永久磁石を得る(焼結工程)。焼結時の保持温度(焼結温度)および保持時間(焼結時間)は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要がある。焼結温度には特に制限はないが、1040℃以上1100℃以下としてもよい。焼結時間には特に制限はないが、1時間以上10時間以下としてもよく、2時間以上8時間以下としてもよく、3時間以上6時間以下としてもよい。焼結時間が短いほど生産効率が向上する。しかし、[Zr1]および[Zr2]が大きくなりやすくなり、磁気特性、特にHk/HcJが低下しやすくなる。焼結時間が長いほど、磁気特性は向上させやすくなる。しかし、生産効率が低下する。
【0086】
焼結時の雰囲気には特に制限はない。例えば、不活性ガス雰囲気としてもよく、100Pa未満の真空雰囲気としてもよく、10Pa未満の真空雰囲気としてもよい。焼結温度までの加熱速度には特に制限はない。焼結により、合金粉末が液相焼結を生じ、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石が得られる。成形体を焼結して焼結体を得た後の冷却速度には特に制限はないが、生産効率を向上させるために焼結体を急冷してもよい。30℃/分以上の速度で急冷してもよい。
【0087】
[時効処理工程]
成形体を焼結した後、R-T-B系永久磁石を時効処理する(時効処理工程)。焼結後、得られたR-T-B系永久磁石を焼結時よりも低い温度で保持することなどによって、R-T-B系永久磁石に時効処理を施す。以下、時効処理を第1時効処理と第2時効処理との2段階に分ける場合について説明するが、いずれか一つの時効処理のみを行ってもよく、3段階以上の時効処理を行ってもよい。
【0088】
各時効処理における保持温度および保持時間には特に制限はない。例えば、第1時効処理は、800℃以上900℃以下の保持温度で30分以上4時間以下、行ってもよい。保持温度までの昇温速度は5℃/分以上50℃/分以下としてもよい。第1時効処理時の雰囲気は大気圧以上の圧力の不活性ガス雰囲気(例えば、Heガス、Arガス)としてもよい。第2時効処理は、保持温度を450℃以上550℃以下としてもよい点以外は第1時効処理と同条件で実施してもよい。時効処理によって、R-T-B系永久磁石の磁気特性を向上させることができる。また、時効処理工程は後述する加工工程の後に行ってもよい。
【0089】
[冷却工程]
R-T-B系永久磁石に時効処理(第1時効処理または第2時効処理)を施した後、R-T-B系永久磁石は不活性ガス雰囲気中で急冷を行う(冷却工程)。これにより、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石を得ることができる。冷却速度は、特に限定されるものではない。30℃/分以上としてもよい。
【0090】
[加工工程]
得られたR-T-B系永久磁石は、必要に応じて所望の形状に加工してもよい(加工工程)。加工方法は、例えば切断、研削などの形状加工や、バレル研磨などの面取り加工などが挙げられる。
【0091】
[粒界拡散工程]
加工されたR-T-B系永久磁石の粒界に対して、さらに重希土類元素を拡散させてもよい(粒界拡散工程)。粒界拡散の方法には特に制限はない。例えば、塗布または蒸着等により重希土類元素を含む化合物をR-T-B系永久磁石の表面に付着させた後に熱処理を行うことで実施してもよい。また、重希土類元素の蒸気を含む雰囲気中でR-T-B系永久磁石に対して熱処理を行うことで実施してもよい。粒界拡散により、R-T-B系永久磁石のHcJをさらに向上させることができる。
【0092】
[表面処理工程]
以上の工程により得られたR-T-B系永久磁石は、めっきや樹脂被膜や酸化処理、化成処理などの表面処理を施してもよい(表面処理工程)。これにより、耐食性をさらに向上させることができる。
【0093】
上記のR-T-B系永久磁石の製造方法においては、主相合金の組成、主相合金の微細構造、粒界相合金の組成、および、主相合金と粒界相合金との混合比率を適宜、制御することが重要である。主相合金は最終的に主に主相粒子11となる合金であり、粒界相合金は最終的に主に粒界13となる合金である。
【0094】
(主相合金の組成)
主相合金を100質量%として、少なくともCの含有量が0.070質量%以上0.180質量%以下である。Cの含有量が0.080質量%以上であってもよく、0.090質量%以上であってもよく、0.100質量%以上であってもよく、0.120質量%以上であってもよい。Cの含有量が0.160質量%以下であってもよい。主相合金のCの含有量が少ないほど、R-T-B系永久磁石の作製時にZrC化合物が生成しにくくなりZrB2化合物が生成しやすくなる。そして、得られるR-T-B系永久磁石のS(C)/(S(B)+S(C))が低下しやすくなる。そして、得られるR-T-B系永久磁石のBr、HcJおよびHk/HcJが低下しやすくなる。さらに、後述する6-13-1相が主相合金に含まれやすくなり、得られるR-T-B系永久磁石にα-Feが含まれやすくなる。主相合金のCの含有量が多いほど、得られるR-T-B永久磁石のHcJが低下しやすくなる。
【0095】
主相合金におけるその他の成分の含有量には特に制限はない。例えば、主相合金を100質量%として、
希土類元素の含有量が30.00質量%以上32.50質量%以下、
Alの含有量が0質量%以上0.10質量%以下、
Gaの含有量が0.40質量%以上1.20質量%以下、
Cuの含有量が0.10質量%以上1.00質量%以下、
Coの含有量が0.50質量%以上3.00質量%以下、
Zrの含有量が0.10質量%以上0.80質量%以下、
Bの含有量が0.70質量%以上1.00質量%以下であってもよい。
【0096】
主相合金を100質量%とするとは、全ての元素の含有量の合計を100質量%とするという意味である。そして、主相合金におけるFeの含有量は、主相合金における実質的な残部であってもよい。具体的には、希土類元素、Fe、Co、B、Al、Ga、Zr、CuおよびC以外の元素の含有量がそれぞれ0.20質量%以下、合計で1.00質量%以下であってもよい。
【0097】
(主相合金の微細構造)
主相合金は、6-13-1相の含有割合が小さくてもよい。具体的には、主相合金の断面において、La6Co11Ga3型の結晶構造を有する化合物であるR613M化合物が含まれる相の含有割合が0%以上2.0%未満であってよく、0%以上1.0%以下であってもよい。一般的には、Mの種類には特に制限はない。例えば、Ga、Al、Cu、Zn、In、P、Sb、Si、Ge、Sn、Bi等が挙げられる。
【0098】
一般的に、Gaを含有する主相合金を作製する場合には、6-13-1相が主相合金に生成しやすい。しかし、Gaに加えてCを0.070質量%以上含有する主相合金を作製する場合には、R613M化合物の生成が抑制される。
【0099】
Gaを含有するがCを0.070質量%以上含有しない主相合金を作製する場合には、主相合金中に6-13-1相が生成する。すなわち、主相合金中にR613M化合物が析出する。主相合金中にR613M化合物が析出している場合には、R-T-B系永久磁石のいずれかの製造工程において特定の温度域に主相合金を加熱する場合に主相合金に含まれるR613M化合物が分解してα-Feが生じる。その結果、最終的に得られるR-T-B系永久磁石におけるHk/HcJ等の磁気特性が低下しやすくなる。
【0100】
以下、6-13-1相の観察方法について説明する。併せて、6-13-1相の面積割合の測定方法について説明する。
【0101】
まず、主相合金の断面について組成像を観察する。組成像の観察に用いる装置には特に制限はなく適切に組成像を観察できる装置であればよい。例えば、SEMが挙げられる。また、倍率は6-13-1相が適切に観察できる倍率であればよい。例えば1000倍以上5000倍以下であってもよい。SEMにより得られる組成像では、主相が濃い灰色の部分であり、Rリッチ相が薄い灰色の部分である。6-13-1相はRリッチ相の中に含まれるが、Rリッチ相のその他の部分と比較して濃い灰色の部分である。
【0102】
(粒界相合金の組成)
粒界相合金を100質量%として、少なくともZrの含有量が3.00質量%以上7.00質量%以下である。粒界相合金のZr量が少ないほど、主相粒子の異常粒成長が生じやすくなり、異常粒成長が生じるとHcJおよびHk/HcJが低下しやすくなる。粒界相合金のZrの含有量が多いほどR-T-B系永久磁石の作製時にZrB2化合物が生成しやすくなり、S(C)/(S(B)+S(C))が低下しやすくなる。そして、HcJおよびHk/HcJが低下しやすくなる。R-T-B系永久磁石の作製時にZrC化合物が生成しにくくなりZrB2化合物が生成しやすくなる。
【0103】
粒界相合金におけるその他の成分の含有量には特に制限はない。例えば、粒界相合金を100質量%として、
希土類元素の含有量が30.00質量%以上45.00質量%以下、
Alの含有量が0質量%以上1.00質量%以下、
Gaの含有量が0質量%以上8.00質量%以下、
Cuの含有量が0質量%以上5.00質量%以下、
Coの含有量が0質量%以上10.00質量%以下であってもよい。
【0104】
粒界相合金におけるCの含有量に特に制限はない。例えば、粒界相合金を100質量%として、0.100質量%以下であってよく、0.090質量%以下であってもよく、0.050質量%以下であってもよい。粒界相合金においてCの含有量が多すぎるとR-T-B系永久磁石におけるCの含有量が増加し、HcJが低くなりやすい。
【0105】
粒界相合金を100質量%とするとは、全ての元素の含有量の合計を100質量%とするという意味である。そして、粒界相合金におけるFeの含有量は、粒界相合金における実質的な残部であってもよい。具体的には、希土類元素、Fe、Co、Al、Ga、Zr、CuおよびC以外の元素の含有量がそれぞれ0.20質量%以下、合計で1.00質量%以下であってもよい。
【0106】
(主相合金と粒界相合金との比較)
主相合金と粒界相合金とを比較する場合において、Gaの含有量は主相合金の方が多くてもよい。Cuの含有量は主相合金の方が多くてもよい。Coの含有量は粒界相合金の方が多くてもよい。Zrの含有量は粒界相合金の方が多くてもよい。Bの含有量は主相合金の方が多くてもよい。Cの含有量は主相合金の方が多くてもよい。
【0107】
(主相合金と粒界相合金との混合比率)
主相合金と粒界相合金との混合比率は質量比で85:15~92:8とする。最終的に得られるR-T-B系永久磁石の組成が近い場合において、主相合金が少なすぎる場合には最終的に得られるR-T-B系永久磁石のHk/HcJが低下しやすくなる。最終的に得られるR-T-B系永久磁石の組成が近い場合において、主相合金が多すぎる場合には、磁気特性、特にHk/HcJが低下しやすくなる。
【0108】
以上のようにして得られるR-T-B系永久磁石は、良好な磁気特性を有する。すなわち、比較的小さい重希土類元素の使用量、比較的小さいBの含有量、および、比較的短い焼結時間で、高い磁気特性を有するR-T-B系永久磁石が得られる。
【0109】
なお、本開示は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【0110】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明するが、特に記載のない事項は第1実施形態と同様である。
【0111】
第2実施形態では、R-T-B系永久磁石の微細構造が第1実施形態とは異なる。
【0112】
R-T-B系永久磁石が主相粒子および粒界を含み、
R-T-B系永久磁石の断面において、
主相粒子の中心部のZr濃度を[Zr1]とし、主相粒子の外縁部のZr濃度を[Zr2]として、[Zr1]/[Zr2]が原子数比で0.70以上1.20以下であり、
粒界に含まれるZrB2の合計面積をS(B)、粒界に含まれるZrCの合計面積をS(C)として、S(C)/(S(B)+S(C))が98.0%以上である。
【0113】
R-T-B系永久磁石において、主相粒子の中心部のZr濃度と主相粒子の外縁部のZr濃度との差が小さい。すなわち、主相粒子におけるZr濃度が概ね均一である。さらに、粒界に含まれるZr化合物において、ZrB2およびZrCの合計含有量に対するZrCの含有割合が多いことにより、R-T-B系永久磁石のBr、HcJおよびHk/HcJが全て好適となる。特に、重希土類元素の含有量が比較的小さい場合、Bの含有量が比較的小さい場合、および/または、焼結時間が比較的短い場合であっても、Br、HcJおよびHk/HcJが全て好適なR-T-B系永久磁石が得られる。
【0114】
[Zr1]/[Zr2]が大きすぎる場合にはHcJおよびHk/HcJが低下する。S(C)/(S(B)+S(C))が小さすぎる場合には、BrおよびHk/HcJが低下する。さらに、HcJも低下しやすくなる。
【0115】
[Zr1]が0以上0.50at%以下であってもよく、[Zr2]が0以上0.72at%以下であってもよい。
【0116】
以下、R-T-B系永久磁石に含まれる主相粒子の[Zr1]および[Zr2]の測定方法について説明する。
【0117】
まず、R-T-B系永久磁石の断面について元素マッピングを行う。元素マッピングを行う装置については特に制限はなく適切に元素マッピングが行える装置であればよい。例えばEPMA、EDSが挙げられる。また、倍率は[Zr1]および[Zr2]が適切に測定できる倍率であればよい。例えば1500倍以上10000倍以下であってもよい。元素マッピングにより、例えば図1に示す画像が得られる。
【0118】
図1に示すR-T-B系永久磁石1は、後述する実施例、試料No.3である。R-T-B系永久磁石1は、主相粒子11と、粒界13と、を含む。粒界13は、R含有部13aと、Zr含有部13bと、を含む。
【0119】
R含有部13aは、粒界13において、特にRリッチ相および/または6-13-1相を多く含む部分である。Rリッチ相は少なくともRを多く含み、さらに、Co、Cuおよび/またはGaを主相粒子11よりも多く含む相である。6-13-1相はR、Fe、Co、CuおよびGaを多く含む相である。
【0120】
Zr含有部13bは、粒界13において、特にZr化合物を多く含む部分である。
【0121】
また、粒界13には、R、Co、Cu、Gaおよび/またはGaと、Zrと、の両方を多く含むために、R含有部13aであるのかZr含有部13bであるのか、特定困難な部分が含まれていてもよい。
【0122】
そして、得られた元素マッピング画像に含まれる主相粒子11の位置および形状を特定する。この際に、適宜、元素マッピング画像を拡大してもよい。例えば、図1の部分Aを拡大した画像が図3である。次に、元素マッピング画像に全体が含まれる主相粒子11の中心部を特定する。具体的には、元素マッピング画像における主相粒子11の表面からの距離が、その主相粒子の円相当径の40%以上の部分を主相粒子11の中心部とする。言いかえれば、主相粒子11と粒界13との境界からの距離が、その主相粒子の円相当径の40$以上の部分に中心部がある。そして、主相粒子11の中心部におけるZr濃度を測定し、[Zr1]とする。なお、[Zr1]、[Zr2]の測定対象は中心部の定義を満たす領域および後述する外縁部の定義を満たす領域を有する主相粒子11とする。
【0123】
R-T-B系永久磁石1における[Zr1]を算出する場合には、全体が含まれ、かつ、中心部が存在する主相粒子11の数が少なくとも3個以上になるように元素マッピング画像を観察する。全体が含まれ、かつ、中心部が存在する主相粒子11の数が5個以上であってもよい。そして、元素マッピング画像に全体が含まれる各主相粒子11の[Zr1]を測定し、平均することで、R-T-B系永久磁石1における[Zr1]を算出してもよい。
【0124】
[Zr2]の測定方法は、Zr濃度の測定箇所を主相粒子11の中心部から主相粒子11の外縁部に変更する点以外は[Zr1]の測定方法と同一である。主相粒子11の外縁部は、具体的には、元素マッピング画像における主相粒子11の表面からの距離が、その主相粒子の円相当径の30%以下の部分である。言いかえれば、主相粒子11と粒界13との境界からの距離が、その主相粒子の円相当径の30%以下である位置に外縁部がある。[Zr2]の測定に際して粒界成分を検出しないようにするため、主相粒子11の表面からの距離が、その主相粒子の円相当径の15%以上30%以下の部分を測定してもよい。
【0125】
個々の主相粒子11の[Zr1]/[Zr2]を算出する場合には、個々の主相粒子11の[Zr1]および[Zr2]を測定して算出する。R-T-B系永久磁石1における[Zr1]/[Zr2]を算出する場合には、上記の方法で算出したR-T-B系永久磁石1における[Zr1]を、上記の方法で算出したR-T-B系永久磁石1における[Zr2]で割ることにより算出する。
【0126】
図2に示すR-T-B系永久磁石2は、後述する比較例、試料No.10である。また、図2の部分Bを拡大した画像が図4である。図2図4より、図2に示すR-T-B系永久磁石2は図1に示すR-T-B系永久磁石1と比較して主相粒子11におけるZr濃度が高い。特に、主相粒子11の中心部におけるZr濃度が高く、Zr濃度の分布からは主相粒子11がZr濃度の低いシェルとZr濃度の高いコアとを含むコアシェル粒子であるように見える。すなわち、R-T-B系永久磁石2は[Zr1]/[Zr2]が大きすぎるためにHcJおよびHk/HcJが低い。
【実施例0127】
以下、実施例により発明をより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0128】
(実験例1)
(合金準備工程)
合金準備工程では、最終的に表1~表3に示す組成を有する主相合金、粒界相合金および一合金法用合金を準備した。TREは、希土類元素の含有量を意味する。表1~表3に記載されていない元素であってFe以外の元素の含有量は全て0.01質量%未満である。すなわち、表1~表3に示す各実施例および各比較例では、Feが実質的な残部である。
【0129】
なお、実験例1で最終的に得られるR-T-B系永久磁石の組成は、Zrの含有量およびCの含有量以外は実質的に同一である。
【0130】
まず、所定の元素を有する原料金属を準備した。原料金属としては、例えば、表1~表3に記載した元素の単体、表1~表3に記載した元素を含む合金、および/または、表1~表3に記載した元素を含む化合物などを適宜選択して準備した。
【0131】
次に、これらの原料金属を秤量し、ストリップキャスティング法により主相合金、粒界相合金および一合金法用合金を準備した。なお、各合金における炭素の含有量は原料金属に用いる銑鉄の割合等を変化させることで制御した。
【0132】
(粉砕工程)
粉砕工程では調製工程により得られた各合金を粉砕し、合金粉末を得た。粗粉砕と微粉砕との2段階で粉砕を行った。粗粉砕は、水素吸蔵粉砕により行った。各合金に対して水素を吸蔵させた後、アルゴンフロー中または真空中、300~600℃で脱水素を行った。粗粉砕により、数百μm~数mm程度の粒径の合金粉末を得た。
【0133】
微粉砕は、粗粉砕で得られた合金粉末に対して粉砕助剤としてオレイン酸アミドを添加し、混合した後にジェットミルを用いて行った。粉砕助剤の添加量は、最終的に得られる磁石の組成が表4に示される組成となる量とした。ジェットミルでは窒素ガスを用いた。微粉砕は、合金粉末のD50が3.0μm程度となるまで行った。
【0134】
(混合工程)
試料番号10以外の各試料では、表4に示される種類の主相合金を粉砕して得られた合金粉末と、表4に示される種類の粒界相合金を粉砕して得られた合金粉末と、を表4に示す混合比率で混合して成形用合金粉末を得た。試料番号10では、表4に示すように微粉砕後の合金αを成形用合金粉末とした。
【0135】
(成形工程)
成形工程では粉砕工程および混合工程により得られた成形用合金粉末を磁場中で成形して成形体を得た。合金粉末を電磁石中に配置された金型内に充填した後に、電磁石により磁場を印加しながら加圧して成形した。印加する磁場の大きさは1200kA/mとした。成形時の圧力は40MPaとした。
【0136】
(焼結工程)
焼結工程では、得られた成形体を焼結して焼結体を得た。焼結時の保持温度(焼結温度)は1080℃とした。焼結時の保持時間(焼結時間)は表4に示す時間とした。保持温度まで昇温させるときの昇温速度は8.0℃/分、保持温度から室温まで冷却させるときの冷却速度は50℃/分とした。焼結時の雰囲気は真空雰囲気または不活性ガス雰囲気化とした。
【0137】
(時効工程)
時効工程では、得られた焼結体に時効処理を行いR-T-B系永久磁石を得た。第1時効処理と第2時効処理との2段階で時効処理を行った。
【0138】
第1時効処理では、保持温度まで昇温させるときの昇温速度は8.0℃/分、保持温度は900℃、保持時間は1.0時間、保持温度から室温まで冷却させるときの冷却速度は50℃/分とした。第1時効処理時の雰囲気はAr雰囲気とした。
【0139】
第2時効処理では、保持温度まで昇温させるときの昇温速度は8.0℃/分、保持温度は500℃、保持時間は1.5時間、保持温度から室温まで冷却させるときの冷却速度は50℃/分とした。第2時効処理時の雰囲気はAr雰囲気とした。
【0140】
各実施例および比較例において最終的に得られたR-T-B系永久磁石の組成が表4に示す組成となっていることは、蛍光X線分析法、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP法)、およびガス分析により組成分析することで確認した。特に、Cの含有量は、酸素気流中燃焼-赤外線吸収法により測定した。また、Bの含有量は、ICP法により測定した。
【0141】
(評価)
(主相合金の6-13-1相面積割合)
表1に示す各主相合金の断面について、SEM(日立ハイテック製SU5000)を用いて、加速電圧3.0kVの条件で、主相、Rリッチ相および6-13-1相を区別できるようにコントラストと明るさを調整し、倍率2000倍で観察した。そして、各相の面積を解析し、6-13-1相の面積を観察断面の面積で割ることで、6-13-1相の面積割合を算出した。結果を表1に示す。なお、実験例1では、合金A以外の主相合金において6-13-1相が観察されなかった。
【0142】
([Zr1]、[Zr2])
表4に示す各磁石の断面について、EPMA(日本電子製JXA-8500F)を用いて加速電圧15kV、照射電流100nA、解析ステップ0.20nm/stepの条件で、51.2μm×51.2μmの範囲で元素マッピングを行った。得られた元素マッピング画像に含まれる主相粒子の位置および形状を特定した。元素マッピング画像に全体が含まれ、中心部の定義を満たす領域および外縁部の定義を満たす領域が含まれる主相粒子の個数が50個以上であることを確認した。そして、元素マッピング画像に全体が含まれ、中心部の定義を満たす領域および外縁部の定義を満たす領域が含まれる各主相粒子について、各主相粒子の表面からの距離がその主相粒子の円相当径の40%以上である部分に測定箇所を設定しZr濃度を測定した。各測定箇所におけるZr濃度を平均することで各磁石における[Zr1]を算出した。なお、各磁石における[Zr1]の算出に関して、Zr濃度の測定箇所は1個の主相粒子につき1箇所とした。
【0143】
また、元素マッピング画像に全体が含まれ、中心部の定義を満たす領域および外縁部の定義を満たす領域が含まれる各主相粒子について、各主相粒子の表面からの距離がその主相粒子の円相当径の30%以下である部分に測定箇所を設定しZr濃度を測定した。各測定箇所におけるZr濃度を平均することで各磁石における[Zr2]を算出した。さらに、各磁石における[Zr1]/[Zr2]を算出した。結果を表5に示す。なお、各磁石における[Zr2]の算出に関して、Zr濃度の測定箇所は1個の主相粒子につき1箇所とした。
【0144】
(S(C)/(S(B)+S(C)))
表4に示す各磁石の断面について、SEMを用いて倍率1500倍で3箇所、観察した。得られた全てのSEM画像について、粒界相に含まれるZrB2および/またはZrCを特定した。そして、ZrB2の合計面積をS(B)とした。ZrCの合計面積をS(C)とした。そして、S(C)/(S(B)+S(C))を算出した。結果を表5に示す。なお、試料No.1、9以外の各試料ではZrB2の存在が確認されなかった。
【0145】
Zr化合物の最大粒径は、上記のSEM画像に含まれるZr化合物のうち、最も大きなZr化合物の円相当径とした。結果を表5に示す。なお、全ての実施例および比較例において、ZrB2およびZrC以外のZr化合物が観測されなかった。
【0146】
(磁気特性)
各実施例および比較例のR-T-B系永久磁石の磁気特性をB-Hトレーサーを用いて測定した。具体的には、Br、HcJおよびHk/HcJを測定した。結果を表5に示す。
【0147】
実験例1~3では、Brが1330mT以上である場合にBrが良好であるとした。HcJが1850kA/m以上である場合にHcJが良好であるとした。Hk/HcJが95.0%以上である場合にHk/HcJが良好であるとした。
【0148】
【表1】
【0149】
【表2】
【0150】
【表3】
【0151】
【表4】
【0152】
【表5】
【0153】
各実施例のR-T-B系永久磁石はBr、HcJおよびHk/HcJが良好であった。
【0154】
試料No.1は主相合金の炭素量が少なすぎた。その結果、S(C)/(S(B)+S(C))が小さくなりすぎた。そして、Br、HcJおよびHk/HcJが低下した。
【0155】
試料No.5は主相合金の炭素量が多すぎた。その結果、最終的に得られるR-T-B系永久磁石の炭素量が多くなりすぎた。そして、HcJが低下した。
【0156】
試料No.6は粒界相合金のZr量が少なすぎた。その結果、HcJおよびHk/HcJが低下した。HcJおよびH/HcJが低下したのは主相粒子の異常粒成長が生じたためであると考えられる。
【0157】
試料No.9は粒界相合金のZr量が多すぎた。その結果、S(C)/(S(B)+S(C))が小さくなりすぎた。そして、BrおよびHk/HcJが低下した。
【0158】
組成は試料No.3と同一であるが、一合金法で作製した試料No.10は[Zr1]が大きすぎ、[Zr1]/[Zr2]が大きすぎた。その結果、HcJおよびHk/HcJが低下した。
【0159】
(実験例2)
焼結時間を変化させた点以外は試料No.3と同条件で実施した。結果を表6に示す。
【0160】
【表6】
【0161】
焼結時間を変化させても、[Zr1]、[Zr1]/[Zr2]、および、S(C)/(S(B)+S(C))が所定の範囲内である各実施例はBr、HcJおよびHk/HcJが良好であった。
【0162】
(実験例3)
試料No.3から主相合金と粒界相合金との混合比率を変化させ、かつ、最終的に得られるR-T-B系永久磁石の組成が試料No.3とほぼ同一になるように主相合金の組成および粒界相合金の組成を変化させた試料No.16、17を作製した。結果を表7~表10に示す。
【0163】
【表7】
【0164】
【表8】
【0165】
【表9】
【0166】
【表10】
【0167】
混合比率を変化させても、[Zr1]、[Zr1]/[Zr2]、および、S(C)/(S(B)+S(C))が所定の範囲内である各実施例はBr、HcJおよびHk/HcJが良好であった。
【0168】
(実験例4)
以下、実験例4について説明するが、各試料の作製方法に関して特に記載のない事項については実験例1と同様である。
【0169】
(合金準備工程)
合金準備工程では、最終的に表11~表13に示す組成を有する主相合金、粒界相合金および一合金法用合金を準備した。TREは、希土類元素の含有量を意味する。表11~表13に記載されていない元素であってFe以外の元素の含有量は全て0.01質量%未満である。すなわち、表11~表13に示す各実施例および各比較例では、Feが実質的な残部である。
【0170】
なお、実験例4で最終的に得られるR-T-B系永久磁石の組成は、Zrの含有量およびCの含有量以外は実質的に同一である。
【0171】
まず、所定の元素を有する原料金属を準備した。原料金属としては、例えば、表11~表13に記載した元素の単体、表11~表13に記載した元素を含む合金、および/または、表11~表13に記載した元素を含む化合物などを適宜選択して準備した。
【0172】
(混合工程)
試料番号28以外の各試料では、表14に示される種類の主相合金を粉砕して得られた合金粉末と、表14に示される種類の粒界相合金を粉砕して得られた合金粉末と、を表14に示す混合比率で混合して成形用合金粉末を得た。試料番号28では、表14に示すように微粉砕後の合金βを成形用合金粉末とした。
【0173】
(評価)
(主相合金の6-13-1相面積割合)
表11に示す各主相合金の断面について、SEMを用いて倍率10000倍で観察した。そして、SEM画像を目視により観察し、各部分が主相、6-13-1相以外の粒界相、および、6-13-1相のいずれであるのかを特定した。そして、6-13-1相の面積割合を算出した。結果を表11に示す。なお、実験例4では、合金J以外の主相合金において6-13-1相が観察されなかった。
【0174】
([Zr1]、[Zr2])
表14に示す各磁石の断面について、EPMAを用いて51.2μm×51.2μmの範囲で元素マッピングを行った。得られた元素マッピング画像に含まれる主相粒子の位置および形状を特定した。元素マッピング画像に全体が含まれ、円相当径が2.5μmより大きい主相粒子の個数が50個以上であることを確認した。そして、元素マッピング画像に全体が含まれる各主相粒子の表面からの深さが1.0μmより大きい部分におけるZr濃度を測定した。各主相粒子の表面からの深さが1.0μmより大きい部分におけるZr濃度を平均することで各磁石における[Zr1]を算出した。なお、各磁石における[Zr1]の算出に関して、Zr濃度の測定箇所は1個の主相粒子につき1箇所とした。
【0175】
また、元素マッピング画像に全体が含まれ、円相当径が2.5μmより大きい主相粒子について表面からの深さが0.3μmである部分に測定箇所を設定し、Zr濃度を測定した。各測定箇所におけZr濃度を平均することで各磁石における[Zr2]を算出した。さらに、各磁石における[Zr1]/[Zr2]を算出した。結果を表15に示す。なお、各磁石における[Zr2]の算出に関して、Zr濃度の測定箇所は1個の主相粒子につき1箇所とした。
【0176】
(S(C)/(S(B)+S(C)))
表14に示す各磁石の断面について、SEMを用いて倍率1500倍で3箇所、観察した。得られた全てのSEM画像について、粒界相に含まれるZrB2および/またはZrCを特定した。そして、ZrB2の合計面積をS(B)とした。ZrCの合計面積をS(C)とした。そして、S(C)/(S(B)+S(C))を算出した。結果を表5に示す。なお、試料No.19、27以外の各試料ではZrB2の存在が確認されなかった。
【0177】
Zr化合物の最大粒径は、上記のSEM画像に含まれるZr化合物のうち、最も大きなZr化合物の円相当径とした。結果を表15に示す。
【0178】
(磁気特性)
各実施例および比較例のR-T-B系永久磁石の磁気特性をB-Hトレーサーを用いて測定した。具体的には、Br、HcJおよびHk/HcJを測定した。結果を表15に示す。
【0179】
実験例4~6では、Brが1350mT以上である場合にBrが良好であるとした。HcJが1730kA/m以上である場合にHcJが良好であるとした。Hk/HcJが95.0%以上である場合にHk/HcJが良好であるとした。
【0180】
【表11】
【0181】
【表12】
【0182】
【表13】
【0183】
【表14】
【0184】
【表15】
【0185】
各実施例のR-T-B系永久磁石はBr、HcJおよびHk/HcJが良好であった。
【0186】
試料No.19は主相合金の炭素量が少なすぎた。その結果、S(C)/(S(B)+S(C))が小さくなりすぎた。そして、Br、HcJおよびHk/HcJが低下した。
【0187】
試料No.23は主相合金の炭素量が多すぎた。その結果、最終的に得られるR-T-B系永久磁石の炭素量が多くなりすぎた。そして、HcJが低下した。
【0188】
試料No.24は粒界相合金のZr量が少なすぎた。その結果、HcJおよびHk/HcJが低下した。HcJおよびH/HcJが低下したのは主相粒子の異常粒成長が生じたためであると考えられる。
【0189】
試料No.27は粒界相合金のZr量が多すぎた。その結果、S(C)/(S(B)+S(C))が小さくなりすぎた。そして、BrおよびHk/HcJが低下した。
【0190】
組成は試料No.21と同一であるが、一合金法で作製した試料No.28は[Zr1]が大きすぎ、[Zr1]/[Zr2]が大きすぎた。その結果、HcJおよびHk/HcJが低下した。
【0191】
(実験例5)
焼結時間を変化させた点以外は試料No.21と同条件で実施した。結果を表16に示す。
【0192】
【表16】
【0193】
焼結時間を変化させても、[Zr1]、[Zr1]/[Zr2]、および、S(C)/(S(B)+S(C))が所定の範囲内である各実施例はBr、HcJおよびHk/HcJが良好であった。
【0194】
(実験例6)
試料No.21から主相合金と粒界相合金との混合比率を変化させ、かつ、最終的に得られるR-T-B系永久磁石の組成が試料No.21とほぼ同一になるように主相合金の組成および粒界相合金の組成を変化させた試料No.34、35を作製した。結果を表17~表20に示す。
【0195】
【表17】
【0196】
【表18】
【0197】
【表19】
【0198】
【表20】
【0199】
混合比率を変化させても、[Zr1]、[Zr1]/[Zr2]、および、S(C)/(S(B)+S(C))が所定の範囲内である各実施例はBr、HcJおよびHk/HcJが良好であった。
【符号の説明】
【0200】
1、2・・・R-T-B系永久磁石
11・・・主相粒子
13・・・粒界
13a・・・R含有部
13b・・・Zr含有部
15・・・Zr化合物
図1
図2
図3
図4
図5
図6