(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159509
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】カシューナッツを検出するためのプライマーセット及びそれを用いたカシューナッツの検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6895 20180101AFI20241031BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20241031BHJP
C12N 15/29 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
C12Q1/6895 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12N15/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024035327
(22)【出願日】2024-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2023074463
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 真治
(72)【発明者】
【氏名】久保田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 聡
(72)【発明者】
【氏名】恵 千晶
(72)【発明者】
【氏名】田口 大夢
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ04
4B063QQ09
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS32
4B063QX02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】カシューナッツを検出するための新たな手段を提供する。
【解決手段】カシューナッツを検出するためのプライマーセットは、塩基配列A1或いはその相同配列又は部分配列を含むプライマーA、並びに、塩基配列B1或いはその相同配列又は部分配列を含むプライマーBを含み、塩基配列A1及びB1が、特定のアミノ酸配列の組み合わせである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カシューナッツを検出するためのプライマーセットであって、
(A1)塩基配列A1、
(A2)前記塩基配列A1と80%以上100%未満の同一性を有し、且つ、3’末端塩基から連続した塩基数NA(NAは1以上の整数)の部分塩基配列が、前記塩基配列A1のうち3’末端塩基から連続した塩基数NAの部分塩基配列と同一である塩基配列A2、及び
(A3)前記塩基配列A1又はA2のうち3’末端塩基から連続した8塩基以上の部分塩基配列である塩基配列A3
から選択される塩基配列Aを3’末端に含むオリゴヌクレオチドを含むプライマーA、並びに、
(B1)塩基配列B1、
(B2)前記塩基配列B1と80%以上100%未満の同一性を有し、且つ、3’末端塩基から連続した塩基数NB(NBは1以上の整数)の部分塩基配列が、前記塩基配列B1のうち3’末端塩基から連続した塩基数NBの部分塩基配列と同一である塩基配列B2、及び
(B3)前記塩基配列B1又はB2のうち3’末端塩基から連続した8塩基以上の部分塩基配列である塩基配列B3
から選択される塩基配列Bを3’末端に含むオリゴヌクレオチドを含むプライマーB
を含み、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が、下記の組み合わせ:
(S13)前記塩基配列A1が配列番号3に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号8に示す塩基配列である、
(S14)前記塩基配列A1が配列番号3に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号9に示す塩基配列である、
(S25)前記塩基配列A1が配列番号5に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号9に示す塩基配列である、
(S26)前記塩基配列A1が配列番号5に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号10に示す塩基配列である、
(S27)前記塩基配列A1が配列番号5に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号11に示す塩基配列である、
(S29)前記塩基配列A1が配列番号5に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号13に示す塩基配列である、
(S30)前記塩基配列A1が配列番号6に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号9に示す塩基配列である、
(S31)前記塩基配列A1が配列番号6に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号10に示す塩基配列である、
(S32)前記塩基配列A1が配列番号6に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号11に示す塩基配列である、
(S35)前記塩基配列A1が配列番号7に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号11に示す塩基配列である、
(S36)前記塩基配列A1が配列番号7に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号12に示す塩基配列である、
(S37)前記塩基配列A1が配列番号7に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号13に示す塩基配列である、
のいずれかである、
プライマーセット。
【請求項2】
前記塩基配列A1と前記塩基配列B1とが、前記組み合わせ(S25)、(S26)、(S27)、(S29)、(S31)、(S32)、(S35)、(S36)又は(S37)である、請求項1に記載のプライマーセット。
【請求項3】
前記塩基配列A1と前記塩基配列B1とが、前記組み合わせ(S35)又は(S36)である、請求項2に記載のプライマーセット。
【請求項4】
(C1)塩基配列C1、
(C2)前記塩基配列C1と80%以上100%未満の同一性を有し、且つ、連続した塩基数NC(NCは3以上の整数)の部分塩基配列が、前記塩基配列C1のうち連続した塩基数NCの部分塩基配列と同一である塩基配列C2、
(C3)前記塩基配列C1又はC2のうち連続した8塩基以上の部分塩基配列である塩基配列C3、及び、
(C4)前記塩基配列C1、C2又はC3と相補的な塩基配列C4
から選択される塩基配列Cを含むオリゴヌクレオチドを含むプローブCを更に含み、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S25)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号14に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S26)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号14又は15に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S27)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号14、15又は16に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S29)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号14、15、16又は17に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S31)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号15に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S32)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号15又は16に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S35)、(S36)又は(S37)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号16又は17に示す塩基配列である、
請求項2に記載のプライマーセット。
【請求項5】
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S35)、(S36)又は(S37)であり、前記塩基配列C1が配列番号16又は17に示す塩基配列である、請求項4に記載のプライマーセット。
【請求項6】
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S35)又は(S36)であり、前記塩基配列C1が配列番号17に示す塩基配列である、請求項5に記載のプライマーセット。
【請求項7】
試料中のカシューナッツを検出する方法であって、
前記試料に由来するDNAを鋳型とし、請求項1に記載のプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行うこと、および、
前記核酸増幅反応による増幅産物を検出すること
を含む方法。
【請求項8】
試料中のカシューナッツを検出する方法であって、
前記試料に由来するDNAを鋳型とし、請求項4に記載のプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行うこと、および、
前記核酸増幅反応による増幅産物と前記プローブCとの結合を検出すること
を含む方法。
【請求項9】
前記試料が飲食品試料である、請求項7又は8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品中の食物アレルゲンであるカシューナッツを検出するために利用することができるプライマーセット及びそれを用いたカシューナッツの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カシューナッツ(Anacardium occidentale)(カシュー、カシューナットノキとも称される)は、ウルシ科(Anacardiaceae)カシューナッツ属(Anacardium)(アナカルディウム属、カシューナットノキ属とも称される)に属する植物であり、その仁の部分が「カシューナッツ」として木の実として食用される。以下、本明細書において「カシューナッツ」は、木の実として食用される仁の部分を指し、「カシューナッツ植物」は、Anacardium occidentaleを指す。
【0003】
カシューナッツはアレルギーを引き起こす食物アレルゲンの1つであり、患者によっては重篤なアナフィキラシーショック症状を引き起こす場合がある。
【0004】
カシューナッツは現在日本においてアレルゲン表示が推奨されている20品目の食物アレルゲンの1つである。カシューナッツによるアレルギー発症数は増加傾向にある。木の実類としては、アレルゲン表示の義務があるクルミに次いで、カシューナッツによる重篤症例の報告が多い。このため将来的にはカシューナッツのアレルゲン表示が義務化される可能性がある。
【0005】
非特許文献1では、リアルタイムPCR法によりカシューナッツを検出するためのプライマー・プローブセットが記載されている。非特許文献1に記載のプライマーセットはカシューのDNAのInternal Transcribed Spacer(ITS)領域を増幅する。非特許文献1には、1kgの小麦粉及びカシューナッツ混合物中に含まれる0.1mgのカシューナッツを検出できたこと、並びに、48種の植物及び4種の動物を検出しなかったことが記載されている。
【0006】
特許文献1では、PCR法によりカシューナッツを検出するためのプライマーセットが記載されている。特許文献1には、前記プライマーセットによる検出感度の下限は、PCR反応中のカシューナッツDNAの濃度として1pg/μLであったこと、並びに、前記プライマーセットは、カシューナッツ植物の近縁種であるピスタチオ、マンゴー及びピンクペッパーのDNAを増幅しなかったことが記載されている。
【0007】
一方、特許文献2には、飲食品中に含まれるアレルゲンである小麦、そば、落花生を共通のPCR条件でのリアルタイムPCR法により検出することができるプライマーセットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-187329号公報
【特許文献2】特開2016-101142号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Lopez-Calleja,I.M., et al,Food Science and Technology 62(2015)233-241
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の一以上の実施形態は、新たな、カシューナッツを検出するためのプライマーセット及びそれを用いたカシューナッツの検出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書は本発明の以下の一以上の実施形態を開示する。
(1)カシューナッツを検出するためのプライマーセットであって、
(A1)塩基配列A1、
(A2)前記塩基配列A1と80%以上100%未満の同一性を有し、且つ、3’末端塩基から連続した塩基数NA(NAは1以上の整数)の部分塩基配列が、前記塩基配列A1のうち3’末端塩基から連続した塩基数NAの部分塩基配列と同一である塩基配列A2、及び
(A3)前記塩基配列A1又はA2のうち3’末端塩基から連続した8塩基以上の部分塩基配列である塩基配列A3
から選択される塩基配列Aを3’末端に含むオリゴヌクレオチドを含むプライマーA、並びに、
(B1)塩基配列B1、
(B2)前記塩基配列B1と80%以上100%未満の同一性を有し、且つ、3’末端塩基から連続した塩基数NB(NBは1以上の整数)の部分塩基配列が、前記塩基配列B1のうち3’末端塩基から連続した塩基数NBの部分塩基配列と同一である塩基配列B2、及び
(B3)前記塩基配列B1又はB2のうち3’末端塩基から連続した8塩基以上の部分塩基配列である塩基配列B3
から選択される塩基配列Bを3’末端に含むオリゴヌクレオチドを含むプライマーB
を含み、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が、下記の組み合わせ:
(S13)前記塩基配列A1が配列番号3に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号8に示す塩基配列である、
(S14)前記塩基配列A1が配列番号3に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号9に示す塩基配列である、
(S25)前記塩基配列A1が配列番号5に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号9に示す塩基配列である、
(S26)前記塩基配列A1が配列番号5に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号10に示す塩基配列である、
(S27)前記塩基配列A1が配列番号5に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号11に示す塩基配列である、
(S29)前記塩基配列A1が配列番号5に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号13に示す塩基配列である、
(S30)前記塩基配列A1が配列番号6に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号9に示す塩基配列である、
(S31)前記塩基配列A1が配列番号6に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号10に示す塩基配列である、
(S32)前記塩基配列A1が配列番号6に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号11に示す塩基配列である、
(S35)前記塩基配列A1が配列番号7に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号11に示す塩基配列である、
(S36)前記塩基配列A1が配列番号7に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号12に示す塩基配列である、
(S37)前記塩基配列A1が配列番号7に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号13に示す塩基配列である、
のいずれかである、
プライマーセット。
(2)前記塩基配列A1と前記塩基配列B1とが、前記組み合わせ(S25)、(S26)、(S27)、(S29)、(S31)、(S32)、(S35)、(S36)又は(S37)である、(1)に記載のプライマーセット。
(3)前記塩基配列A1と前記塩基配列B1とが、前記組み合わせ(S35)又は(S36)である、(2)に記載のプライマーセット。
(4)(C1)塩基配列C1、
(C2)前記塩基配列C1と80%以上100%未満の同一性を有し、且つ、連続した塩基数NC(NCは3以上の整数)の部分塩基配列が、前記塩基配列C1のうち連続した塩基数NCの部分塩基配列と同一である塩基配列C2、
(C3)前記塩基配列C1又はC2のうち連続した8塩基以上の部分塩基配列である塩基配列C3、及び、
(C4)前記塩基配列C1、C2又はC3と相補的な塩基配列C4
から選択される塩基配列Cを含むオリゴヌクレオチドを含むプローブCを更に含み、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S25)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号14に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S26)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号14又は15に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S27)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号14、15又は16に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S29)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号14、15、16又は17に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S31)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号15に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S32)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号15又は16に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S35)、(S36)又は(S37)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号16又は17に示す塩基配列である、
(2)に記載のプライマーセット。
(5)前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S35)、(S36)又は(S37)であり、前記塩基配列C1が配列番号16又は17に示す塩基配列である、(4)に記載のプライマーセット。
(6)前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S35)又は(S36)であり、前記塩基配列C1が配列番号17に示す塩基配列である、(5)に記載のプライマーセット。
(7)試料中のカシューナッツを検出する方法であって、
前記試料に由来するDNAを鋳型とし、(1)に記載のプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行うこと、および、
前記核酸増幅反応による増幅産物を検出すること
を含む方法。
(8)試料中のカシューナッツを検出する方法であって、
前記試料に由来するDNAを鋳型とし、(4)に記載のプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行うこと、および、
前記核酸増幅反応による増幅産物と前記プローブCとの結合を検出すること
を含む方法。
(9)前記試料が飲食品試料である、(7)又は(8)に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一以上の実施形態によれば、新たな、カシューナッツを検出するためのプライマーセット及びそれを用いたカシューナッツの検出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、選抜4及び5でのPCR増幅産物の分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1.目的>
本発明の一以上の実施形態に係るプライマーセット及びそれを用いた検出方法は、以下の要求を満たすことが望ましい。
【0015】
(検出対象)
カシューナッツ植物以外のウルシ科(Anacardiaceae)に属する食用植物としては、マンゴー(Mangifera indica)、ピンクペッパー(Schinus molle)、ピスタチオ(Pistacia vera)及びスマック(Rhus coriaria)が一般に認識されている。
【0016】
そこで本発明の一以上の実施形態は、マンゴー、ピンクペッパー、ピスタチオ及びスマックのDNAを増幅することなく、カシューナッツのDNAを増幅することができるプライマーセット及びそれを用いたカシューナッツの検出方法を提供することを目的とする。カシューナッツの産地としては、原産国であるブラジルのほか、インド、ナイジェリアが挙げられる。
【0017】
(感度)
アレルゲンの検出のためには、1μgカシューナッツタンパク質/g試料(=1ppm)相当濃度の検出を可能にすることが望ましい。カシューナッツの仁のタンパク質含有量は19.8g/100g(食品成分データベース)であるから、1μgカシューナッツタンパク質/g試料は、5.1μgカシューナッツ/g試料に相当する。試料及びカシューナッツから同じ収率でDNAが回収できると仮定した場合、5.1μgカシューナッツ/g試料は、250fgカシューナッツDNA/50ng試料DNAに相当する。
【0018】
そこで本発明の一以上の実施形態に係るプライマーセット及び検出方法は、250fgカシューナッツDNA/50ng試料DNAの濃度で存在するカシューナッツDNAを増幅できるものであることが望ましい。
【0019】
(頑健性)
飲食品中に含まれる原料由来のDNAは、加工の過程で断片化される可能性がある。このため、核酸増幅反応によりカシューナッツDNAを増幅し、増幅産物の有無を検出する場合、増幅される標的DNA断片長は短いほど、加工の影響を受けず安定した検出が可能である。
【0020】
そこで本発明の一以上の実施形態に係るプライマーセット及び検出方法は、カシューナッツDNAに含まれる150bp以下の断片長の標的配列を増幅できるものであることが好ましい。
【0021】
(従来技術との比較)
非特許文献1及び特許文献1には、カシューナッツに特有のDNAの塩基配列を、所定のプライマーセットを用いた核酸増幅反応により増幅し、増幅産物の有無を検出する方法が記載されている。しかし、上記の要求を満たす方法は開示されていない。例えば、非特許文献1に記載の方法は、ピスタチオ以外の近縁種に対する検出の有無を確認していないため、カシューナッツの特異的な検出が可能であるか不明である。
【0022】
(PCR条件)
特許文献2では、小麦、そば及び落花生のDNAを、共通のPCR条件(具体的には実施例に示す条件1)によるリアルタイムPCR法により検出することが記載されている。特許文献2に記載の小麦、そば及び落花生のDNAを増幅するための共通のPCR条件は、サイクル数が比較的短い。カシューナッツDNAを、特許文献2に記載の前記PCR条件により増幅することができれば、ユーザーにとって簡便な操作で、カシューナッツ、小麦、そば及び落花生のDNAの有無を検出することが可能になる。
【0023】
そこで本発明の一以上の実施形態に係るプライマーセット及び検出方法は、カシューナッツのDNAを、特許文献2に記載の小麦、そば及び落花生のDNAを増幅するための共通のPCR条件により増幅できるものであることが更に望ましい。
【0024】
<2.カシューナッツを検出するためのプライマーセット>
本発明の一以上の実施形態に係る、カシューナッツを検出するためのプライマーセットは、
(A1)塩基配列A1、
(A2)前記塩基配列A1と80%以上100%未満の同一性を有し、且つ、3’末端塩基から連続した塩基数NA(NAは1以上の整数)の部分塩基配列が、前記塩基配列A1のうち3’末端塩基から連続した塩基数NAの部分塩基配列と同一である塩基配列A2、及び
(A3)前記塩基配列A1又はA2のうち3’末端塩基から連続した8塩基以上の部分塩基配列である塩基配列A3
から選択される塩基配列Aを3’末端に含むオリゴヌクレオチドを含むプライマーA、並びに、
(B1)塩基配列B1、
(B2)前記塩基配列B1と80%以上100%未満の同一性を有し、且つ、3’末端塩基から連続した塩基数NB(NBは1以上の整数)の部分塩基配列が、前記塩基配列B1のうち3’末端塩基から連続した塩基数NBの部分塩基配列と同一である塩基配列B2、及び
(B3)前記塩基配列B1又はB2のうち3’末端塩基から連続した8塩基以上の部分塩基配列である塩基配列B3
から選択される塩基配列Bを3’末端に含むオリゴヌクレオチドを含むプライマーB
を含み、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が、下記の組み合わせ:
(S13)前記塩基配列A1が配列番号3に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号8に示す塩基配列である、
(S14)前記塩基配列A1が配列番号3に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号9に示す塩基配列である、
(S25)前記塩基配列A1が配列番号5に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号9に示す塩基配列である、
(S26)前記塩基配列A1が配列番号5に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号10に示す塩基配列である、
(S27)前記塩基配列A1が配列番号5に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号11に示す塩基配列である、
(S29)前記塩基配列A1が配列番号5に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号13に示す塩基配列である、
(S30)前記塩基配列A1が配列番号6に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号9に示す塩基配列である、
(S31)前記塩基配列A1が配列番号6に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号10に示す塩基配列である、
(S32)前記塩基配列A1が配列番号6に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号11に示す塩基配列である、
(S35)前記塩基配列A1が配列番号7に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号11に示す塩基配列である、
(S36)前記塩基配列A1が配列番号7に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号12に示す塩基配列である、
(S37)前記塩基配列A1が配列番号7に示す塩基配列であり、且つ、前記塩基配列B1が配列番号13に示す塩基配列である、
のいずれかであることを特徴とする。
【0025】
本実施形態に係るプライマーセットは、カシューナッツに由来するDNA、より詳細にはリボゾームRNA遺伝子のITS(Internal Transcribed Spacer)-1領域にある一部の領域を増幅することができるように設計されている。なお、カシューナッツ植物のリボゾームRNA遺伝子のITS-1及びITS-2を含むDNAの塩基配列は、GenBank Accession番号:AB071690.1(配列番号18)及びKF664192.1(配列番号19)として公開されている。
【0026】
前記塩基配列A1と前記塩基配列B1との組み合わせが前記(S13)である本実施形態に係るプライマーセットを用い、カシューナッツ由来DNAの核酸増幅反応を行うと、ITS-1領域の90bpの領域を含むDNA断片が増幅産物として生成する。
【0027】
前記塩基配列A1と前記塩基配列B1との組み合わせが前記(S14)である本実施形態に係るプライマーセットを用い、カシューナッツ由来DNAの核酸増幅反応を行うと、ITS-1領域の131bpの領域を含むDNA断片が増幅産物として生成する。
【0028】
前記塩基配列A1と前記塩基配列B1との組み合わせが前記(S25)である本実施形態に係るプライマーセットを用い、カシューナッツ由来DNAの核酸増幅反応を行うと、ITS-1領域の67bpの領域を含むDNA断片が増幅産物として生成する。
【0029】
前記塩基配列A1と前記塩基配列B1との組み合わせが前記(S26)である本実施形態に係るプライマーセットを用い、カシューナッツ由来DNAの核酸増幅反応を行うと、ITS-1領域の91bpの領域を含むDNA断片が増幅産物として生成する。
【0030】
前記塩基配列A1と前記塩基配列B1との組み合わせが前記(S27)である本実施形態に係るプライマーセットを用い、カシューナッツ由来DNAの核酸増幅反応を行うと、ITS-1領域の119bpの領域を含むDNA断片が増幅産物として生成する。
【0031】
前記塩基配列A1と前記塩基配列B1との組み合わせが前記(S29)である本実施形態に係るプライマーセットを用い、カシューナッツ由来DNAの核酸増幅反応を行うと、ITS-1領域の145bpの領域を含むDNA断片が増幅産物として生成する。
【0032】
前記塩基配列A1と前記塩基配列B1との組み合わせが前記(S30)である本実施形態に係るプライマーセットを用い、カシューナッツ由来DNAの核酸増幅反応を行うと、ITS-1領域の54bpの領域を含むDNA断片が増幅産物として生成する。
【0033】
前記塩基配列A1と前記塩基配列B1との組み合わせが前記(S31)である本実施形態に係るプライマーセットを用い、カシューナッツ由来DNAの核酸増幅反応を行うと、ITS-1領域の78bpの領域を含むDNA断片が増幅産物として生成する。
【0034】
前記塩基配列A1と前記塩基配列B1との組み合わせが前記(S32)である本実施形態に係るプライマーセットを用い、カシューナッツ由来DNAの核酸増幅反応を行うと、ITS-1領域の106bpの領域を含むDNA断片が増幅産物として生成する。
【0035】
前記塩基配列A1と前記塩基配列B1との組み合わせが前記(S35)である本実施形態に係るプライマーセットを用い、カシューナッツ由来DNAの核酸増幅反応を行うと、ITS-1領域の58bpの領域を含むDNA断片が増幅産物として生成する。
【0036】
前記塩基配列A1と前記塩基配列B1との組み合わせが前記(S36)である本実施形態に係るプライマーセットを用い、カシューナッツ由来DNAの核酸増幅反応を行うと、ITS-1領域の76bpの領域を含むDNA断片が増幅産物として生成する。
【0037】
前記塩基配列A1と前記塩基配列B1との組み合わせが前記(S37)である本実施形態に係るプライマーセットを用い、カシューナッツ由来DNAの核酸増幅反応を行うと、ITS-1領域の84bpの領域を含むDNA断片が増幅産物として生成する。
【0038】
いずれも増幅産物の断片長が150bpよりも顕著に短いため、飲食品の加工の影響を受けにくい頑健性の高い検出が可能である。
【0039】
本実施形態に係るプライマーセットによれば、カシューナッツを特異的に高感度で検出することができる。
【0040】
前記(A2)及び(B2)並びに後述する(C2)において、同一性の値は、複数の塩基配列間の同一性を演算するソフトウェア(例えばBLAST)を用いてデフォルトの設定で算出した値を示す。塩基配列の同一性の値は、一致度が最大となるように一対の塩基配列をアライメントした際に一致する塩基の数を算出し、当該一致する塩基の数の、比較した塩基配列の全塩基数に対する割合として算出される。ここで、ギャップがある場合、上記の全塩基数は、1つのギャップを1つの塩基として数えた塩基数である。同一性の決定方法の詳細については、例えばAltschul et al, J. Mol. Biol. 215, 403-410, 1990を参照されたい。
【0041】
前記(A2)及び(B2)において、同一性は、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性である。
【0042】
続いて、プライマーA及びプライマーBのより好ましい実施形態について説明する。
【0043】
プライマーAにおけるオリゴヌクレオチドは、塩基配列A1、塩基配列A2及び塩基配列A3から選択される塩基配列Aを3’末端に含むものであればよく、塩基配列Aの5’末端側に付加された他の塩基配列を更に含んでいてもよいし、塩基配列Aのみからなるものであってもよい。プライマーAにおけるオリゴヌクレオチドの長さ(塩基数)は特に限定されないが、通常は30塩基以下、好ましくは25塩基以下、より好ましくは20塩基以下、より好ましくは18塩基以下である。塩基配列Aの5’末端側に付加された他の塩基配列の塩基数は、例えば10以下、好ましくは5以下、より好ましくは3以下である。
【0044】
プライマーAは、前記オリゴヌクレオチドのみからなるものであってもよいし、前記オリゴヌクレオチドに標識物質、タグ等の他の要素が連結されたものであってもよい。前記他の要素は前記オリゴヌクレオチドのどの位置に連結されていてもよいが、前記オリゴヌクレオチドの5’末端に連結されていることが特に好ましい。
【0045】
塩基配列A1は、配列番号3に示す塩基配列、配列番号5に示す塩基配列、配列番号6に示す塩基配列又は配列番号7に示す塩基配列のいずれかである。
【0046】
塩基配列A2は、塩基配列A1と、80%以上100%未満の同一性を有する。同一性のより好ましい範囲は記述の通りである。塩基配列A2は、塩基配列A1に、好ましくは1、2又は3塩基、より好ましくは1又は2塩基、特に好ましくは1塩基の、置換、欠失又は付加された塩基配列である。更に、塩基配列A2は、3’末端塩基から連続した塩基数NA(NAは1以上の整数)の部分塩基配列が、前記塩基配列A1のうち3’末端塩基から連続した塩基数NAの部分塩基配列と同一である。ここでNAは1以上であればよいが、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、より好ましくは5以上、より好ましくは8以上、より好ましくは10以上、より好ましくは12以上、より好ましくは13以上である。NAはさらに、塩基配列A1の塩基数をMAとしたとき、好ましくはMA-1以下、より好ましくはMA-2以下、より好ましくはMA-3以下、より好ましくはMA-5以下、より好ましくはMA-8以下であることができる。
【0047】
塩基配列A3は、塩基配列A1又はA2のうち3’末端塩基から連続した8塩基以上、好ましくは10塩基以上、より好ましくは12塩基以上、より好ましくは13塩基以上、より好ましくは14塩基以上の部分塩基配列である。塩基配列A3は、塩基配列A1又はA2の部分塩基配列であるため、塩基配列A3の塩基数は、塩基配列A1又はA2の塩基数よりも1塩基以上小さい。
【0048】
塩基配列Aは、より好ましくは、塩基配列A1及び塩基配列A2から選択される。
【0049】
プライマーBにおけるオリゴヌクレオチドは、塩基配列B1、塩基配列B2及び塩基配列B3から選択される塩基配列Bを3’末端に含むものであればよく、塩基配列Bの5’末端側に付加された他の塩基配列を更に含んでいてもよいし、塩基配列Bのみからなるものであってもよい。プライマーBにおけるオリゴヌクレオチドの長さ(塩基数)は特に限定されないが、通常は35塩基以下、好ましくは30塩基以下、より好ましくは27塩基以下である。塩基配列Bの5’末端側に付加された他の塩基配列の塩基数は、例えば10以下、好ましくは5以下、より好ましくは3以下である。
【0050】
プライマーBは、前記オリゴヌクレオチドのみからなるものであってもよいし、前記オリゴヌクレオチドに標識物質、タグ等の他の要素が連結されたものであってもよい。前記他の要素は前記オリゴヌクレオチドのどの位置に連結されていてもよいが、前記オリゴヌクレオチドの5’末端に連結されていることが特に好ましい。
【0051】
塩基配列B1は、配列番号8に示す塩基配列、配列番号9に示す塩基配列、配列番号10に示す塩基配列、配列番号11に示す塩基配列、配列番号12に示す塩基配列及び配列番号13に示す塩基配列から、塩基配列A1との組み合わせが、前記の組み合わせ(S13)、(S14)、(S25)、(S26)、(S27)、(S29)、(S30)、(S31)、(S32)、(S35)、(S36)又は(S37)のいずれかであるように選択される。
【0052】
塩基配列B2は、塩基配列B1と、80%以上100%未満の同一性を有する。同一性のより好ましい範囲は記述の通りである。塩基配列B2は、塩基配列B1に、好ましくは1、2又は3塩基、より好ましくは1又は2塩基、特に好ましくは1塩基の、置換、欠失又は付加された塩基配列である。更に、塩基配列B2は、3’末端塩基から連続した塩基数NB(NBは1以上の整数)の部分塩基配列が、前記塩基配列B1のうち3’末端塩基から連続した塩基数NBの部分塩基配列と同一である。ここでNBは1以上であればよいが、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、より好ましくは5以上、より好ましくは8以上、より好ましくは10以上、より好ましくは12以上、より好ましくは13以上である。NBはさらに、塩基配列B1の塩基数をMBとしたとき、好ましくはMB-1以下、より好ましくはMB-2以下、より好ましくはMB-3以下、より好ましくはMB-5以下、より好ましくはMB-8以下であることができる。
【0053】
塩基配列B1が配列番号8に示す塩基配列又は配列番号10に示す塩基配列である場合、塩基配列B3は、塩基配列B1又はB2のうち3’末端塩基から連続した8塩基以上、好ましくは10塩基以上、より好ましくは12塩基以上、より好ましくは14塩基以上の部分塩基配列である。塩基配列B1が配列番号9に示す塩基配列である場合、塩基配列B3は、塩基配列B1又はB2のうち3’末端塩基から連続した8塩基以上、好ましくは10塩基以上、より好ましくは12塩基以上、より好ましくは14塩基以上、より好ましくは16塩基以上、より好ましくは18塩基以上の部分塩基配列である。塩基配列B1が配列番号11に示す塩基配列、配列番号12に示す塩基配列又は配列番号13に示す塩基配列である場合、塩基配列B3は、塩基配列B1又はB2のうち3’末端塩基から連続した8塩基以上、好ましくは10塩基以上、より好ましくは12塩基以上、より好ましくは14塩基以上、より好ましくは16塩基以上、より好ましくは18塩基以上、より好ましくは20塩基以上、より好ましくは22塩基以上の部分塩基配列である。塩基配列B3は、塩基配列B1又はB2の部分塩基配列であるため、塩基配列B3の塩基数は、塩基配列B1又はB2の塩基数よりも1塩基以上小さい。
【0054】
塩基配列Bは、より好ましくは、塩基配列B1及び塩基配列B2から選択される。
【0055】
上記のプライマーA及びプライマーBを含むカシューナッツを検出するためのプライマーセットには、更にプローブを含めることができる。プローブはプライマーA及びプライマーBを用いた核酸増幅反応により増幅された増幅産物中の標的配列の少なくとも一部の領域にストリンジェントな条件下で結合する(ハイブリダイズする)ことができるオリゴヌクレオチドを含むものであればよい。
【0056】
プローブは、オリゴヌクレオチドのみからなるものであってもよいし、オリゴヌクレオチドに蛍光物質(例えば、FAMTM、TETTM、VICTM、HEXTM、NEDTM、PET等)及び/又は消光物質(クエンチャー)(例えば、TAMRATM、ROXTM、MGB、BHQ(Black Hole Quencher)TM、BBQ(Blackberry Quencher)TM等)で標識されていてもよい。このように標識されたプローブはTaqManTMプローブとも称される。好ましくは、オリゴヌクレオチドの一方の端に蛍光物質が連結され他方の端に消光物質が連結される。
【0057】
本実施形態に係るプライマーセットは、より好ましくは、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が、前記組み合わせ(S25)、(S26)、(S27)、(S29)、(S31)、(S32)、(S35)、(S36)又は(S37)であり、
プローブとして、(C1)塩基配列C1、
(C2)前記塩基配列C1と80%以上100%未満の同一性を有し、且つ、連続した塩基数NC(NCは3以上の整数)の部分塩基配列が、前記塩基配列C1のうち連続した塩基数NCの部分塩基配列と同一である塩基配列C2、
(C3)前記塩基配列C1又はC2のうち連続した8塩基以上の部分塩基配列である塩基配列C3、及び、
(C4)前記塩基配列C1、C2又はC3と相補的な塩基配列C4
から選択される塩基配列Cを含むオリゴヌクレオチドを含むプローブCを更に含み、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S25)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号14に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S26)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号14又は15に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S27)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号14、15又は16に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S29)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号14、15、16又は17に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S31)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号15に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S32)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号15又は16に示す塩基配列であり、
前記塩基配列A1及び前記塩基配列B1が前記組み合わせ(S35)、(S36)又は(S37)である場合に、前記塩基配列C1が配列番号16又は17に示す塩基配列である。
【0058】
プローブCにおけるオリゴヌクレオチドは、塩基配列C1、塩基配列C2、塩基配列C3及び塩基配列C4から選択される塩基配列Cを少なくとも一部に含むものであればよく、塩基配列Cの3’末端側及び/又は5’末端側(好ましくは5’末端側のみ)に付加された他の塩基配列を更に含んでいてもよいし、塩基配列Cのみからなるものであってもよい。プローブCにおけるオリゴヌクレオチドの長さ(塩基数)は特に限定されないが、通常は35塩基以下、好ましくは30塩基以下、より好ましくは25塩基以下であり、より好ましくは20塩基以下である。塩基配列Cの3’末端側及び/又は5’末端側に付加された他の塩基配列の塩基数は、合計で、例えば10以下、好ましくは5以下、より好ましくは3以下である。プローブCは、前記オリゴヌクレオチドのみからなるものであってもよいが、好ましくは、前記オリゴヌクレオチドに、前記蛍光物質及び/又は前記消光物質が連結されたものである。
【0059】
塩基配列C2は、塩基配列C1と、80%以上100%未満の同一性を有する。同一性のより好ましい範囲は記述の通りである。塩基配列C2は、塩基配列C1に、好ましくは1、2又は3塩基、より好ましくは1又は2塩基、特に好ましくは1塩基の、置換、欠失又は付加された塩基配列である。更に、塩基配列C2は、連続した塩基数NC(NCは3以上の整数)の部分塩基配列が、前記塩基配列C1のうち連続した塩基数NCの部分塩基配列と同一である。ここでNCは3以上であればよいが、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、より好ましくは8以上、より好ましくは10以上、より好ましくは12以上、より好ましくは13以上である。NCはさらに、塩基配列C1の塩基数をMCとしたとき、好ましくはMC-1以下、より好ましくはMC-2以下、より好ましくはMC-3以下、より好ましくはMC-5以下、より好ましくはMC-8以下であることができる。
【0060】
塩基配列C1が配列番号14に示す塩基配列である場合、塩基配列C3は、塩基配列C1又はC2のうち連続した8塩基以上、好ましくは10塩基以上、より好ましくは12塩基以上、より好ましくは14塩基以上、より好ましくは15塩基以上の部分塩基配列である。塩基配列C1が配列番号15に示す塩基配列である場合、塩基配列C3は、塩基配列C1又はC2のうち連続した8塩基以上、好ましくは10塩基以上、より好ましくは12塩基以上、より好ましくは14塩基以上、より好ましくは16塩基以上、より好ましくは17塩基以上の部分塩基配列である。塩基配列C1が配列番号16又は17に示す塩基配列である場合、塩基配列C3は、塩基配列C1又はC2のうち連続した8塩基以上、好ましくは10塩基以上、より好ましくは12塩基以上、より好ましくは14塩基以上の部分塩基配列である。塩基配列C3は、塩基配列C1又はC2の部分塩基配列であるため、塩基配列C3の塩基数は、塩基配列C1又はC2の塩基数よりも1塩基以上小さい。
【0061】
塩基配列C4は、塩基配列C1、C2又はC3と相補的な塩基配列である。
【0062】
塩基配列Cは、より好ましくは、塩基配列C1、塩基配列C2及び塩基配列C3から選択され、特に好ましくは、塩基配列C1及び塩基配列C2から選択される。
【0063】
上記のプライマーA、プライマーB及び/又はプローブに含まれるオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの合成法として当技術分野で公知の方法、例えば、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法等により、通常用いられるDNA自動合成装置を利用して合成することができる。
【0064】
本発明の一以上の実施形態に係るプライマーセットは上記の各要素が、それぞれ別個の容器に収容されていてもよいし、また一回の使用及び使用量ごとに容器に収容されていてもよい。あるいは、複数回分の量が一つの容器に収容されていてもよい(使用者は一回の使用に必要な量を取り出して用いることができる)。上記の各要素は乾燥形態で容器に収容されていてもよいし、適当な溶媒中に溶解した形態で容器に収容されていてもよい。
【0065】
本発明の一以上の実施形態に係るプライマーセットは、dNTPミックス、DNAポリメラーゼ、SYBR(登録商標)Green I、塩化マグネシウム、及び使用説明書より選択される一以上の要素を更に含むことができる。
【0066】
本発明の一以上の実施形態に係るプライマーセットは、食物アレルゲンを検出するための一以上の別のプライマーセットと組み合わせて、食物アレルゲン検出用キットとしてもよい。
【0067】
前記食物アレルゲンを検出するための一以上の別のプライマーセットとしては、小麦、そば、落花生、クルミ等の食物アレルゲンを検出するための一以上のプライマーセットが挙げられる。小麦を検出するためのプライマーセット、そばを検出するためのプライマーセット、及び/又は落花生を検出するためのプライマーセットとしては、特許文献2(特開2016-101142号公報)に記載のプライマーセットが好ましい。クルミを検出するためのプライマーセットとしては特開2021-185820号公報に記載のプライマーセットが好ましい。本発明の一以上の実施形態に係るプライマーセットは、小麦、そば、落花生及びクルミを検出するための共通の条件でのPCR法によりカシューナッツDNAの増幅と検出が可能である。このため、本発明の一以上の実施形態に係るプライマーセットを用いることによって、小麦及、そば、落花生及び/又はクルミ検出用のPCR条件下にて、カシューナッツの検出を行うことが可能である。このため、小麦、そば、落花生、クルミ及びカシューナッツの検出を、同一条件下にて同時に進めることができ、分析の手間を少なくすることができる。
【0068】
<3.試料中のカシューナッツを検出する方法>
本発明の一以上の実施形態に係る、試料中のカシューナッツを検出する方法は、
前記試料に由来するDNAを鋳型とし、カシューナッツを検出するための前記プライマーセットを用いて核酸増幅反応を行うこと、及び
前記核酸増幅反応による増幅産物を検出すること
を含むことを特徴とする。
【0069】
前記試料は、好ましくは飲食品試料である。飲食品試料とは、飲食品組成物、飲食品組成物の原料、加工途中の飲食品原料、或いは、これらの処理物(例えば抽出物、粉砕物、溶解物)等を含む試料であってよい。このカシューナッツの検出方法で得られた結果は、アレルギー表示の正しさの確認や、アレルギー表示をするべきか否かの判断材料に用いることができる。
【0070】
試料からのDNAの抽出は、核酸抽出法として当業者に公知のいかなる方法を用いてもよく、例えば、フェノール/クロロホルム法、界面活性剤による細胞溶解やプロテアーゼ酵素による細胞溶解、ガラスビーズによる物理的破壊方法、凍結溶融を繰り返す処理方法、及びそれらの組合せを用いて行うことができる。また、市販のDNeasy Plant mini KitやGenomic-tip 20/G、DNeasy mericon Food Kit(いずれもQIAGEN)、GM quicker 4(ニッポンジーン)等の各種DNA抽出キットを用いてもよい。
【0071】
抽出されたDNAの濃度および精製度は、分光光度計を用いて波長230、260、及び280nmにおける吸光度を測定することにより評価することができる。
例えば抽出されたDNAの濃度は、下記式を用いて算出することができる。
DNA濃度(ng/μL)=波長260nmにおける吸光度×50
【0072】
DNAの精製度は、核酸増幅反応が良好に行われるべく260/230nmの吸光度比が2.0以上、260/280nmの吸光度比が1.8~2.0であることが好ましい。
【0073】
さらに、抽出されたDNAについて、植物又は動物が共通に持つ内在性遺伝子に対するプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行い、増幅産物が得られることを確認してもよい。
【0074】
試料から抽出されたDNAは、消費者庁が情報提供する「アレルギー物質を含む食品の検査方法について」に記載されるDNAの調製方法に基づいて適宜濃度を調整することができる。濃度調整したDNAは、適宜鋳型DNAとして利用することができる。好ましくは5~500ngとなる量にて、より好ましくは50ngとなる量にて鋳型DNAとして利用する(この量は、消費者庁が情報提供する「アレルギー物質を含む食品の検査方法について」にて特定される量である)。
【0075】
核酸増幅反応は、耐熱性ポリメラーゼを用いる核酸増幅反応であってもよいし、鎖置換型ポリメラーゼを用いる核酸増幅反応であってもよい。ポリメラーゼは好ましくはDNAポリメラーゼである。
【0076】
DNAポリメラーゼを用いる核酸増幅反応としてはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)が挙げられる。
【0077】
PCR法は、例えばSaiki RK,et al.,Science,230:1350-1354(1985)や植物細胞工学別冊、植物のPCR実験プロトコル、島本功・佐々木卓治監修(1995年)等に記載されている通常の方法に基づいて行うことができる。PCR条件(変性、アニーリング、伸長の各ステップの温度及び時間、ならびにサイクル数等)、PCR反応液の組成(緩衝液の種類、プライマー濃度、DNAポリメラーゼの種類や濃度、dNTP濃度、塩化マグネシウム濃度等)は、前記プライマーセットを用いたPCRにおいて高感度でPCR増幅産物が得られるような条件を予備実験等により当業者であれば適切に選択及び設定することができる。DNAポリメラーゼ、dNTP濃度、塩化マグネシウム濃度等がほぼ最適化されたPCR用マスターミックス等が市販されており、これらを利用してもよい。
【0078】
前記PCR法として、定性PCR法を利用することができる。定性PCR法においては、試料から抽出されたDNA中に含まれるカシューナッツDNAを、プライマーA及びプライマーBを含む前記プライマーセットを利用するPCRにより増幅し、それを電気泳動により分離、染色することで検出することができる。
【0079】
プライマーA及びプライマーBを含む前記プライマーセットを用いた場合には、増幅産物の有無を指標として、カシューナッツの混入を検出することができる。所定の増幅産物が検出されれば、試料にカシューナッツが混入していると判定することができ、前記増幅産物が検出されなければ、試料にカシューナッツが混入していないと判定することができる。
【0080】
前記プライマーセットを用いることにより高感度でのカシューナッツの検出が可能である。
【0081】
前記プライマーセットは、好ましくは、プローブを更に含み、より好ましくは前記プローブCを含む。増幅産物の検出を、増幅産物とプローブとの結合を検出することにより行うことができる。プローブを用いる検出方法としては、後述するTaqManTM法によるリアルタイムPCR法が挙げられる。
【0082】
前記PCR法として、リアルタイムPCR法を利用することができる。
【0083】
リアルタイムPCR法は、インターカレーター法及びTaqManTM法のいずれも用いることができるが、好ましくはTaqManTM法を利用する。
【0084】
インターカレーター法では、蛍光を発する化合物(例えば、SYBR(登録商標)Green I等)をPCR反応液に含むことにより、これが増幅されたDNAに結合する。これに励起光を照射することにより蛍光を発し、この蛍光強度を測定することにより、増幅産物の生成量を測定することができる。
【0085】
一方、TaqManTM法では、蛍光物質で標識されたプローブ(TaqManTMプローブ)をPCR反応液に含むことにより、これがアニーリングステップで増幅されたDNA中の標的配列に結合(ハイブリダイズ)する。その後の伸長反応ステップで、Taq DNAポリメラーゼのもつ5’→3’エキソヌクレアーゼ活性により、DNAに結合(ハイブリダイズ)したプローブが分解され、その際、蛍光物質がプローブから遊離し蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、増幅産物の生成量を測定することができる。リアルタイムPCRを行う装置は特に限定されず、ABI PRISM 7900HT(ライフテクノロジーズ)、LightCycler(登録商標)96(Roche Diagnostics)等、リアルタイムPCRを可能とする様々な機種を用いることができ、特に限定はされない。
【0086】
リアルタイムPCR法においては、試料から抽出されたDNA中に含まれるカシューナッツDNAを、前記プライマーセットを利用するPCRにより増幅し、上記のとおり、蛍光強度を測定することによりPCR増幅産物の生成量を測定し、増幅曲線を得る。次に、蛍光シグナルが有意に増加したサイクル数(Cq値)を指標とするか、または蛍光シグナルがサイクル数に対して指数関係にある領域で、蛍光量増加(ΔRn)の適当な閾値(Threshold)を設定し、適当なサイクル数条件下にて、増幅曲線と閾値(Threshold)が交わるサイクル数(Ct値(Threshold Cycle))を指標とすることで、カシューナッツの混入有無を検出することができる。すなわち、適当なサイクル数条件下にて、蛍光シグナルの有意な増加が見られるか、または増幅曲線と閾値が交わる場合には、試料中にカシューナッツが混入していることを示し、一方、蛍光シグナルの有意な増加が見られないか、または増幅曲線と閾値が交わらない場合には、試料中にカシューナッツが混入していないことを示す。
【0087】
前記プライマーセットを使用する定性PCR法又はリアルタイムPCR法と、特許文献2に記載の小麦検出用プライマーセット、そば検出用プライマーセット、落花生検出用プライマーセット、及び/又は、特開2021-185820号公報に記載のクルミ検出用プライマーセットを使用する定性PCR法又はリアルタイムPCR法とは、同一の条件下でも、いずれも目的とする感度を維持しつつ、目的とする配列でのみ標的増幅産物が得られる。このため、本発明のカシューナッツの検出方法は、特許文献2記載の小麦の検出方法、そばの検出方法、落花生の検出方法、及び/又は、特開2021-185820号公報に記載のクルミ検出方法と、同一の条件下にて同時に行うことができ、試料中の食物アレルゲンを、迅速かつ効率的に検出することができる。
【0088】
以下、実施例に基づいて本発明の具体的な実施形態を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0089】
本発明の好ましい実施形態を実験結果に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0090】
<プライマー設計>
カシューナッツ植物(Anacardium occidentale)に由来するリボゾームRNA遺伝子のITS-1及びITS-2を含むDNAである、GenBank Accession番号:AB071690.1(配列番号18)及びKF664192.1(配列番号19)に共通する、ITS-1の塩基配列上に、5’側の塩基を起点に増幅するフォワードプライマーを7つ、3’側を起点に増幅するリバースプライマーを6つ設計した(表1)。
【0091】
各プライマーは、表2に示す基準に従い設計した。
【0092】
【0093】
【0094】
表1に記したフォワードプライマーとリバースプライマーの中で、プライミング可能な組み合わせは表3に示すセット番号S1~S37の37組であった。
【0095】
【0096】
表3のプライマーセットに対して、下記の選抜1~選抜5の評価を行い、カシューナッツの検出に適したプライマーセットを選抜した。
【0097】
選抜1:ソフトウェアによるプライマーセットの選抜
ソフトウェアを用いて高評価のプライマーセットを選抜した。具体的には、前記37組のプライマーセット及びカシューナッツDNAの配列情報(GenBank Accession番号:AB071690.1(配列番号18)及びKF664192.1(配列番号19))をPrimer3(https://bioinfo.ut.ee/primer3-0.4.0/)にインプットし、下記表に示す基準により評価した。
【0098】
【0099】
表4の基準を満たしたプライマーセットは、下記表に示す21組であった。
【0100】
【0101】
選抜2:アニーリング温度64℃のPCRによる選抜
表5に示す21組のプライマーセットがカシューナッツDNAと実際にプライミングするかを確認するため、PCRを行った。その際、鋳型DNAとプライミングしやすくなるよう、アニーリング温度を目標とする68℃よりも低い64℃に設定した。
【0102】
<PCR条件1>
PCR反応液は、1× QuantiTect(登録商標) Probe PCR Master mix(QIAGEN)、0.2μMフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに、鋳型DNAとして50ngのカシューナッツ抽出DNAを含み、全量25μLとなるように作製し、以下の表6に示す温度条件によるPCRに供した。なお、カシューナッツ抽出DNAは、カシューナッツを粉砕し、GM quicker4(ニッポンジーン)を用いて抽出し、TEバッファーで溶出して得た。得られたカシューナッツ抽出液の濃度を分光光度計で測定し、TEバッファーで20ng/μLになるよう調製した。
【0103】
【0104】
<PCR条件1>のPCRで得られたPCR産物をマイクロチップ電気泳動装置MultiNA(登録商標)(島津製作所)を用いて解析した。目的とする断片長の増幅産物の濃度が10ng/μL以上であることの基準を満たすプライマーセットは下記表に示す17組であった。
【0105】
【0106】
選抜3:アニーリング温度68℃のPCRによる選抜
これまでに出願人が開発し公定法に採用された、アレルゲン(小麦、そば、落花生)を検出する特許文献2に記載のリアルタイムPCR法ではいずれもアニーリング温度が68℃である。
【0107】
そこで表7で示す17組のプライマーセットが、それらと同じアニーリング温度でカシューナッツDNAと実際にプライミングするかを確認するため、アニーリング温度を68℃に設定してPCRを行った。
【0108】
<PCR条件2>
PCR反応液は、PCR条件1と同様に、1× QuantiTect(登録商標) Probe PCR Master mix(QIAGEN)、0.2μMフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに、PCRの鋳型として50ngのカシューナッツ抽出DNAを含み、全量25μLとなるように作製し、以下の表8に示す温度条件によるPCRに供した。
【0109】
【0110】
<PCR条件2>で増幅したPCR産物をマイクロチップ電気泳動装置MultiNA(登録商標)(島津製作所)で解析し、バンドを確認した。目的とする断片長の増幅産物の濃度が10ng/μL以上であることの基準を満たすプライマーセットは下記表に示す15組であった。
【0111】
【0112】
選抜4:カシューナッツ植物の近縁種DNAを用いたPCRによる選抜
表9に示す15組のプライマーセットの中で、カシューナッツ植物の近縁種DNAと誤ってプライミングしないものを選抜するために、<PCR条件2>を用いて、近縁種DNAを鋳型とするPCRを行った。カシューナッツ植物の近縁種としては、カシューナッツ植物と同じウルシ科の食品であるマンゴー、ピスタチオ、ピンクペッパー、スマックが知られている。本実験では、それらのうちマンゴー、ピスタチオ、ピンクペッパーの抽出DNA 50ngをPCRの鋳型とした。抽出方法は<PCR条件1>でのPCRに用いたカシューナッツ抽出DNAの抽出方法と同様である。<PCR条件2>で増幅したPCR産物をマイクロチップ電気泳動装置MultiNA(登録商標)(島津製作所)で解析した。前記15組のプライマーセットのうち、近縁種DNAを鋳型とした場合には目的とする断片長の増幅産物が検出されないことの基準を満たすプライマーセットは下記表に示す12組であった(
図1のレーン3、4及び5参照)。
【0113】
【0114】
選抜5:カシューナッツDNA量5pgにおけるPCRによる選抜
表10に示す12組のプライマーセットの中で、カシューナッツDNA量が微量でも検出できるものを選抜するため、5pg、500pgのカシューナッツ抽出DNAをPCRの鋳型に用いて、<PCR条件2>でPCRを行った。カシューナッツ抽出DNA量が5pg、500pgのどちらでも目的とする断片長に増幅産物を確認できるという基準を、表10に示すすべてのプライマーセットが満たした(
図1のレーン1及び2参照)。
【0115】
以上の5段階のプライマーの選抜のまとめを下記表に示す。
【0116】
【0117】
<プローブの設計>
上記の選抜1~5により選抜された12組のプライマーセットに対して、一般的にプローブを設計するときに用いられる下記表に示す基準に従いプローブを設計した。
【0118】
【0119】
上記の基準を満たすプローブのうち、前記12組のプライマーセットと組み合わせたプローブを下記表に示す。プライマーセットS13、S14及びS30については基準を満たすプローブを設計することができなかった。下記表には示していないが、プライマーセットS26とプローブP2(配列番号15)との組み合わせ、プライマーセットS27とプローブP2(配列番号15)又はP3(配列番号16)との組み合わせ、プライマーセットS29とプローブP2(配列番号15)、P3(配列番号16)又はP4(配列番号17)との組み合わせ、プライマーセットS32とプローブP3(配列番号16)との組み合わせ、並びに、プライマーセットS35、S36又はS37とプローブP3(配列番号16)との組み合わせも、リアルタイムPCRに使用可能である。
【0120】
【0121】
リアルタイムPCRにおける増幅効率および近縁種DNAを用いた特異性の評価
上記のプライマーセット及びプローブの組み合わせを用いてリアルタイムPCRを以下の条件で行った。装置はLightCycler(登録商標)96(Roche Diagnostics)を用いた。増幅効率を求めるため、反応液中のカシューナッツ抽出DNA量を50pg,5pg,500fg,50fgに設定した。増幅効率の計算式は、下記(1)であり、増幅効率が2の場合にPCRが最適に行われると考えられる。Slopeの定義は後述する。
【0122】
【0123】
<PCR条件3>
PCR反応液は、1× QuantiTect(登録商標) Probe PCR Master mix(QIAGEN)、0.2μMフォワードプライマー及びリバースプライマー、0.1μMプローブ、並びに、PCRの鋳型として50pg,5pg,500fg又は50fgのカシューナッツ抽出DNAまたは50ngのスマック抽出DNAを含み、全量25μLとなるように作製し、以下の表14に示す温度条件によるPCRに供した。スマック抽出DNAは、カシューナッツ抽出DNAと同様の方法で抽出した。
【0124】
【0125】
上記のプライマーセットとプローブとの組み合わせを用いたリアルタイムPCRで測定されたCq値、及び、Cq値とDNA量から計算した増幅効率を下記表に示す。slopeは、各サンプルのDNA量(fg)の常用対数を横軸、Cq値を縦軸としてプロットしたときの、近似直線の傾きを指す。
【0126】
【0127】
プライマーセットとプローブとの組み合わせとしてS25(F5-R2)/P1、S26(F5-R3)/P1を用いたリアルタイムPCRでは、鋳型となるカシューナッツDNA量が500fg以上の場合にCq値が検出された。プライマーセットとプローブの他の組み合わせを用いた場合にはカシューナッツDNA量が50fgの場合でもCq値が検出された。なかでも、S35(F7-R4)/P4、S36(F7-R5)/P4、又は、S37(F7-R6)/P4を用いたリアルタイムPCRはCq値が小さいためより好ましく、特に、S35(F7-R4)/P4、又は、S36(F7-R5)/P4を用いた場合に増幅効率が2により近いため更に好ましいことが確認された。
【0128】
更に、どのプライマーセットとプローブとの組合せを用いた場合でも、50ngのスマック抽出DNAを含む反応液中では、目的とする断片長の増幅産物が得られなかった。