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特開2024-159521成形体、電子機器用シールド筐体及び電子機器用シールドプレート
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  • 特開-成形体、電子機器用シールド筐体及び電子機器用シールドプレート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159521
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】成形体、電子機器用シールド筐体及び電子機器用シールドプレート
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20241031BHJP
   B29C 43/20 20060101ALI20241031BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20241031BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20241031BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20241031BHJP
   B32B 5/00 20060101ALI20241031BHJP
   B32B 3/24 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H05K9/00 W
H05K9/00 C
H05K9/00 F
B29C43/20
B29C43/34
B29C70/68
B32B15/08 Z
B32B5/00 Z
B32B3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024042699
(22)【出願日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2023075167
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 悠汰
(72)【発明者】
【氏名】森 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 俊太
【テーマコード(参考)】
4F100
4F204
4F205
5E321
【Fターム(参考)】
4F100AB01B
4F100AB04B
4F100AB10B
4F100AB17B
4F100AD11A
4F100AK01A
4F100AK48A
4F100BA02
4F100DC16B
4F100DG03A
4F100DG15A
4F100EJ202
4F100EJ422
4F100GB41
4F100JB16A
4F100JD08
4F100JG10
4F100JK04
4F100YY00
4F100YY00A
4F100YY00B
4F204AA29
4F204AC03
4F204AD03
4F204AD16
4F204AG01
4F204AG03
4F204AH33
4F204FA01
4F204FB01
4F204FB11
4F204FB22
4F204FF05
4F204FG09
4F204FN11
4F204FN15
4F205AA29
4F205AC02
4F205AD03
4F205AD16
4F205AG01
4F205AG03
4F205AH33
4F205HA08
4F205HA14
4F205HA25
4F205HA34
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HB11
4F205HF05
4F205HK03
4F205HK04
4F205HT14
4F205HT19
4F205HT26
5E321AA01
5E321AA14
5E321BB21
5E321BB25
5E321BB32
5E321BB33
5E321BB34
5E321BB41
5E321BB44
5E321BB53
5E321BB60
(57)【要約】
【課題】良好な、軽量性、強度、層間接着性及び成形性を有しつつ、電磁波シールド性に優れた、成形体を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するべく、本発明の成形体は、炭素繊維及び熱可塑性樹脂を含む強化不織布と、金属メッシュと、を積層してなり、曲げ強度が400MPa以上であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維及び熱可塑性樹脂を含む強化不織布と、金属メッシュと、を積層してなり、曲げ強度が400MPa以上であることを特徴とする、成形体。
【請求項2】
KEC法による100MHzでの磁界シールド性能が40~80dBであることを特徴とする、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記金属メッシュの線径が、0.02~2mmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項4】
前記金属メッシュのメッシュ数が、4~200であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項5】
前記金属メッシュの材料が、ステンレス、アルミニウム又は銅を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項6】
前記炭素繊維の平均繊維長が、1~100mmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項7】
前記強化不織布中の前記炭素繊維の含有量が、5~50質量%であることを特徴とすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の成形体を用いたことを特徴とする、電子機器用シールド筐体。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の成形体を用いたことを特徴とする、電子機器用シールドプレート。
【請求項10】
炭素繊維及び熱可塑性樹脂を含む強化不織布と、金属メッシュとを積層してなる積層体を、前記熱可塑性樹脂が溶融する条件にてプレス成形することを特徴とする、請求項1に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた電磁波抑制効果を有する、成形体、電子機器用シールド筐体及び電子機器用シールドプレートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、OA機器、AV機器、携帯電話、電話機、ファクシミリ、家電製品、玩具用品、フラットパネルディスプレイ等の電子機器では、誤作動防止や、周辺電子機器への電磁波障害防止のために、電子機器に電磁波遮蔽性能を有することが要求されている。同様に、車載用電子機器の誤作動防止のために、スイッチングによる電磁ノイズ源となりうるECUケース、インバータまたはコンバーター等の車載用電子筐体のみならず、車載用バッテリーケースについても、電磁波遮蔽性能を有することが要求されている。
また、それと同時に電子機器の用途では、薄型化や小型化と軽量化が要求されており、特に車載用電子機器では燃費向上の要求からも、軽量化が重要となっている。
【0003】
ここで、上述した電子機器の電磁波シールド性能を改善するためには、電子機器の筐体等に電磁波シールド材を用いる技術が知られている。
このような電磁波シールド材については、例えば、ステンレスやアルミニウム等の金属板を構成部材として用いたシールド材が知られている。
ただし、金属箔を用いたシールド材については、高い電磁波シールド性能が得られるものの、電子機器の質量が大きくなるため、軽量化の観点からさらなる改善が望まれていた。
【0004】
そのため、電磁波シールド性を得つつ、軽量化が図られた電磁波シールド材として、樹脂材料と金属材料との複合材料を用いる技術が知られている。
また、アルミニウムやステンレス等の金属を用いた技術の他にも、樹脂材料中に炭素繊維を含有させることで、軽量化を図りつつ、電磁波シールド性能を得るという技術も知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、アルミニウム等の金属箔と、炭素繊維含有合成樹脂と、を複合させた電磁波遮蔽用複合材料が開示されている。
また、特許文献2には、炭素繊維及びマトリックス樹脂を含有する繊維強化樹脂成形体部分と金属層部分とが積層された電磁波遮蔽用複合材料について、炭素繊維の含有量及び金属層部分の厚みを特定範囲に制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-206680号公報
【特許文献2】特開2012-109452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、金属層の厚みを薄くしているため、さらに炭素繊維が50μmと短い場合には、十分な電磁波遮蔽特性が得られないという問題があった。また、金属層の厚みが薄いため、電子機器用の筐体としての強度についてもさらなる改善を図る必要があった。
また、特許文献2の技術では、ある程度の電磁波シールド性能が得られるものの、金属層の厚みが薄いため、電子機器用の筐体としての強度については十分でなく、樹脂層と金属層との層間接着性や、成形性(曲げ加工性)等の点でも、さらなる改善が望まれていた。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、良好な、軽量性、強度、層間接着性及び成形性を有しつつ、電磁波シールド性に優れた、成形体を提供することを目的とする。また、本発明は、かかる成形体を用い、良好な、軽量性、強度、層間接着性及び成形性を有しつつ、電磁波シールド性に優れた、電子機器用シールド筐体及び電子機器用シールドプレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、成形体を、炭素繊維及び熱可塑性樹脂を含む強化不織布と、金属メッシュと、から構成することによって、軽量化と電磁波シールド性能とを、高いレベルで両立できることを見出した。また、本発明の成形体では、金属層として金属メッシュを用いているため、曲げ加工性等の強度や、層間接着性についても高いレベルで維持できることも見出した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
(1)炭素繊維及び熱可塑性樹脂を含む強化不織布と、金属メッシュと、を積層してなり、曲げ強度が400MPa以上であることを特徴とする、成形体。
(2)KEC法による100MHzでの磁界シールド性能が40~80dBであることを特徴とする、上記(1)に記載の成形体。
(3)前記金属メッシュの線径が、0.02~2mmであることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の成形体。
(4)前記金属メッシュのメッシュ数が、4~200であることを特徴とする、上記(1)~(3)のいずれかに記載の成形体。
(5)前記金属メッシュの材料が、ステンレス、アルミニウム又は銅を含有することを特徴とする、上記(1)~(4)のいずれかに記載の成形体。
(6)前記炭素繊維の平均繊維長が、1~100mmであることを特徴とする、上記(1)~(5)のいずれかに記載の成形体。
(7)前記強化不織布中の前記炭素繊維の含有量が、5~50質量%であることを特徴とすることを特徴とする、上記(1)~(6)のいずれかに記載の成形体。
(8)上記(1)~(7)のいずれかに記載の成形体を用いたことを特徴とする、電子機器用シールド筐体。
(9)上記(1)~(7)のいずれかに記載の成形体を用いたことを特徴とする、電子機器用シールドプレート。
(10)炭素繊維及び熱可塑性樹脂を含む強化不織布と、金属メッシュとを積層してなる積層体を、前記熱可塑性樹脂が溶融する条件にてプレス成形することを特徴とする、上記(1)に記載の成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な、軽量性、強度、層間接着性及び成形性を有しつつ、電磁波シールド性に優れた、成形体を提供することが可能となる。また、本発明によれば、良好な、軽量性、強度、層間接着性及び成形性を有しつつ、電磁波シールド性に優れた、成形体、電子機器用シールド筐体及び電子機器用シールドプレートを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明で用いる積層体の一実施形態の断面を模式的に示した図である。
図2】電磁波測定の評価に用いたKEC法シールド効果測定装置を用いた測定方法を説明するための図である。
図3】実施例及び比較例で作製した成形前のサンプルの積層状態を模式的に示した図であって、(a)は実施例1~4及び比較例4、(b)は比較例1の状態を示す。
図4】各実施例及び比較例で作製した成形体の形状及び寸法を説明した図であって、(a)は成形体の寸法、(b)は成形体を作製するために積層体を切り出したものの寸法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。
以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は、この本実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0014】
なお、各図面については、説明の便宜のため、各部材の形状やスケールが実際のものとは異なる状態で示されている。各部材の形状やスケールについては、本明細書の中で規定されていること以外は、積層体ごとに適宜変更することが可能である。
【0015】
<成形体>
本実施形態の成形体は、以下で述べる積層体を成形して得られるものである。
これによって、本実施形態の成形体は、軽量性、強度、層間接着性、成形性及び電磁波シールド性を、いずれも高いレベルで両立できる。
【0016】
<積層体>
まず、本実施形態において用いられる積層体について、図面を用いて説明する。図1は、積層体の断面を模式的に示したものである。
積層体100は、図1に示すように、炭素繊維及び熱可塑性樹脂を含む強化不織布10と、金属メッシュ20と、を積層してなる。
【0017】
積層体100を、炭素繊維及び熱可塑性樹脂を含む強化不織布10と、金属メッシュ20と、から構成することによって、電磁波シールド部材として金属板を用いた場合に比べて、軽量性及び層間接着性を高めることができ、薄い金属箔を用いた場合に比べて、電磁波シールド性及び強度を高めることができる。また、金属メッシュ20は、柔軟性に優れるため、電磁波シールド性を有しつつも、良好な成形性を得ることができる。さらに、前記強化不織布10は、炭素繊維及び熱可塑性樹脂を含むため、該樹脂が前記金属メッシュ20の開口部を充填し、電磁波シール性及び層間接着性をより高めることができる。
つまり、積層体100は、上記構成を備えることで、軽量性、強度、層間接着性、成形性及び電磁波シールド性をいずれも高いレベルで両立できる。
【0018】
(強化不織布)
積層体100は、図1に示すように、炭素繊維及び熱可塑性樹脂を含む強化不織布10を備える。
なお、前記強化不織布10は、図1に示すように、前記金属メッシュ20を上下から挟み込むように積層することもできるし、前記金属メッシュ20の上面又は下面のみを覆うように積層することも可能である。
【0019】
前記強化不織布は、構成成分として熱可塑性樹脂を含む。該熱可塑性樹脂は、前記強化不織布の基材となる成分である。
前記強化不織布が熱可塑性樹脂を含むことによって、その後、前記金属メッシュと積層する際、金属メッシュとの層間接着性を高めることができ、また、積層体を成形体とする場合、良好な成形性を得ることができる。
【0020】
前記熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、前記熱可塑性樹脂としては、上述した中でも、強度や成形性、製造コスト等の観点から、ポリアミド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール及びポリエステルのうちの少なくとも一種を用いることが好ましく、ポリアミドを用いることがより好ましい。
【0021】
なお、前記ポリアミドは、ジアミン化合物とジカルボン酸化合物を重縮合したものや、環状ラクタムを開環重合したもののような、アミド結合により重合したポリマーを用いることができる。
前記ジアミン化合物としては、特に限定されないが、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナンジアミン、メチルペンタンジアミン、p-フェニレンジアミンなどが挙げられる。
前記ジカルボン酸化合物としては、特に限定されないが、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などが挙げられる。
前記環状ラクタムとしては、特に限定されないが、ε-カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタムなどが挙げられる。
前記ジアミン化合物、前記ジカルボン酸化合物及び前記環状ラクタム化合物の組み合わせについては、特に限定されず、それぞれの種類についても複数の種類の化合物を併用しても構わない。
【0022】
また、前記ポリアミドとしては、例えば、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ナイロン410)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ナイロン1012)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリウンデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/11)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリキシリレンセバカミド(ナイロンXD10)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ-2-メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド/ポリデカメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン5T/10T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン12T)等が挙げられる。なお、ここでいう「/」とは共重合体を示す。これらポリアミドを1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0023】
これらの中でも、前記ポリアミドとして、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610及びポリアミド612からなる群から選ばれる1種を用いることが好ましく、ポリアミド66を用いることが特に好ましい。ポリアミド66自体は、既に一般的に知られているポリアミド樹脂であり、通常は、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との重縮合により製造する。或いは、ポリアミド66は、ラクタム、アミノカルボン酸、及び他のジアミンとジカルボン酸との組み合わせ、からなる群より選ばれる少なくとも1種以上のモノマー単位を全モノマー単位の総質量に対して30質量%未満含む共重合体であってもよい。
【0024】
また、これらのポリアミドは、市販のものを用いてもよく、公知の方法を用いて製造してもよい。ポリアミドの製造方法として具体的には、特に制限されないが、例えば、ラクタムの開環重合する方法、ω-アミノカルボン酸の自己縮合する方法、ジアミン及びジカルボン酸を縮合する方法等が挙げられる。
【0025】
さらに、前記ポリアミドは、アミノ末端基量をカルボキシ末端基量で除した値[NH]/[COOH]が0.5以上0.9以下であることが好ましい。[NH]/[COOH]が前記範囲内であることで、溶融混錬の際、ガラス繊維の表面とポリアミド末端との相互作用がより十分に大きくなり、得られる組成物の物性が十分に高くなる。アミノ末端基量及びカルボキシ末端基量は、例えばH-NMRを用いて測定することができる。
【0026】
さらにまた、前記ポリアミドは、ポリアミドのみから構成されてもよいし、前記ポリアミドと他の成分とを含んだポリアミド樹脂組成物であってもよい。例えば、前記ポリアミドに、他の樹脂、金属などの不純物が他の成分として混合、付着、塗布していてもよい。
【0027】
なお、前記ポリアミド以外の不純物が含まれる場合、ポリアミドとそれらの不純物を分離する工程を含んでいてよい。分離の方法については特に限定されないが、ポリアミド樹脂組成物を溶解した状態で、不純物が不溶であればろ過、遠心分離、沈降分離などの方法で分離できる。ポリアミドと共に溶媒に溶解してしまう場合には、溶解状態での抽出分離、膜分離、電気透析などによる分離、又は後述の析出工程でポリアミドを析出させた後に洗浄するなどの方法が考えられる。
【0028】
また、前記強化不織布は、構成成分として炭素繊維を含む。該炭素繊維は、前記強化不織布に含まれることで、電磁波シールド性、導電性を付与し、強度を高めるための成分である。
【0029】
前記炭素繊維の種類について特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ピッチ系、PAN系、PBO繊維を黒鉛化したもの、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法(化学気相成長法)、CCVD法(触媒化学気相成長法)等で合成されたものを用いることができる。これらの中でも、高い導電性が得られる点から、PBO繊維を黒鉛化した炭素繊維、ピッチ系炭素繊維がより好ましい。
【0030】
また、前記炭素繊維は、必要に応じて、その一部又は全部を表面処理して用いることができる。前記表面処理としては、例えば、酸化処理、窒化処理、ニトロ化、スルホン化、あるいはこれらの処理によって表面に導入された官能基若しくは炭素繊維の表面に、金属、金属化合物、有機化合物等を付着あるいは結合させる処理等が挙げられる。前記官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ニトロ基、アミノ基等が挙げられる。
【0031】
さらに、前記炭素繊維の平均繊維長(平均長軸長さ)については、特に制限はなく適宜選択することができる。ただし、より確実に高い電磁波シールド性、導電性を得る点から、前記炭素繊維の平均繊維長は、1~100mmの範囲であることが好ましく、3~90mmの範囲であることがより好ましく、5~70mmの範囲であることが特に好ましい。前記炭素繊維の平均繊維長が1mm以上であると、より確実に高い電磁波シールド性、導電性を得ることができ、前記炭素繊維の平均繊維長が100mm以下の場合、前記強化不織布の成形性が低下する、炭素繊維の絡み合いが不十分になるのを抑制することができる。
【0032】
さらにまた、前記炭素繊維の平均繊維径は1~20μmの範囲であることが好ましく、3~10μmの範囲であることがより好ましく、5~8μmの範囲であることが特に好ましい。前記平均繊維径が1μmより小さい場合は取り扱い性に劣る傾向があり、一方20μmを超えると繊維強度が低下し、折れやすくなるおそれがある。
なお、前記炭素繊維の平均繊維長や、平均繊維径は、マイクロスコープ、走査型電子顕微鏡(SEM)等によって測定することができ、複数のサンプルから平均を算出することができる。
【0033】
また、前記強化不織布における前記炭素繊維の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5~50質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましく、10~35質量%であることがさらに好ましい。前記炭素繊維の含有量が5質量%以上であると、より確実に高い電磁波シールド性、導電性を得ることができ、前記炭素繊維の含有量が50質量%以下の場合、前記強化不織布の成形性が低下するのを抑制することができる。
【0034】
なお、前記強化繊維不織布中の前記炭素繊維及び前記熱可塑性樹脂の存在状態については、特に限定はされない。
例えば、前記熱可塑性樹脂を繊維状に加工した後、前記炭素繊維とともに交絡させることで不織布としたり、前記熱可塑性樹脂を溶融させた後、前記炭素繊維と混練し、シート状に溶融プレス成形することで得られる。
【0035】
また、前記強化不織布は、一枚から構成することもできるし、複数枚を合わせて用いることもできる。
さらに、前記強化不織布の目付量は、100g/m~1000g/mであることが好ましく、200g/m~500g/mであることがより好ましい。これらの範囲に収めることによって、製造工程が煩雑にならず、かつ樹脂材料の炭素繊維への含侵性も十分に確保することが可能となるためである。
【0036】
なお、前記強化不織布は、上述した炭素繊維及び熱可塑性樹脂の他にも、要求される性能に応じて、その他の成分を適宜含むことが可能である。
例えば、難燃剤、耐候性改良材、その他酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等の充填材が挙げられる。
【0037】
(金属メッシュ)
積層体100は、図1に示すように、金属メッシュ20を備える。
前記金属メッシュ20は、積層体100の構成成分となることで、優れた電磁波シールド性及び導電性を得ることができる。
また、前記金属メッシュ20は、金属板に比べて柔軟性が高く、成形性(加工性)が良好となり、金属メッシュの開口部分に前記強化不織布10の成分が充填されることで、層間接着性を高める点でも有効である。
【0038】
前記金属メッシュを構成する材料については、金属であれば特に限定はされないが、種々の金属、合金を用いることができる。その中でも、前記金属メッシュは、強度、加工性、コスト等の観点から、ステンレス、アルミニウム、銅等を含有することが好ましい。
【0039】
また、前記金属メッシュの線径については、特に限定はされず、要求される性能や積層体の用途によって適宜選択することができるが、0.02~2mmであることが好ましく、0.04~1.8mmであることがより好ましく、0.1~1.5mmであることが特に好ましい。前記金属メッシュの線径が0.02mm以上であることで、より優れた電磁波シールド性及び強度を得ることができ、前記金属メッシュの線径が2mm以下であることで、より優れた成形性、加工性を得ることができる。
ここで、前記金属メッシュの線径とは、金属メッシュを構成する金属線の径のことである。
【0040】
さらに、前記金属メッシュのメッシュ数については、特に限定はされず、要求される性能や積層体の用途によって適宜選択することができるが、4~200であることが好ましく、5~180であることがより好ましく、10~160であることが特に好ましい。前記金属メッシュのメッシュ数が4以上であることで、より優れた電磁波シールド性及び成形性を得ることができ、前記金属メッシュのメッシュ数が200以下であることで、より優れた強度及び層間接着性を得ることができる。
ここで、前記金属メッシュのメッシュ数とは、1インチ(2.54cm)に何本の金属線(何個の開口)があるかを表したものであり、メッシュ数が多いほど、網目が詰まっていることを示す。
【0041】
なお、前記金属メッシュを、前記強化不織布に接着する方法については特に限定はされない。
例えば、強化不織布とともに溶融プレス成型することで接着することができる。
【0042】
(その他の層)
積層体100は、図1に示すように、前記強化不織布10と前記金属メッシュ20と、を積層してなるが、必要に応じて、さらに他の層を含むことも可能である。
例えば、積層体100の最表面に、反射防止層や保護層のような機能層を設けることができる。また、前記強化不織布10と前記金属メッシュ20との間に接着層を設けることも可能である。
【0043】
<成形体>
本実施形態の成形体は、上述した積層体を成形して得られたものである。
成形の例としては、プレス成形、射出インサート成形、ハイブリッド成形等が挙げられる。成形工程において前記熱可塑性樹脂が溶融することが重要であり、その観点からは積層体をプレス成形することが好ましい。
本実施形態の成形体は所定の大きさに切り出した強化不織布を複数枚重ね、プレス成形により樹脂を溶融、含侵させ、その後冷却することで得られた。
プレス成形の条件としては、金型温度、圧力、などが挙げられ、金型温度に関して溶融時は樹脂の融点+15℃~30℃、冷却時は樹脂のガラス転移点+15℃~30℃、圧力に関しては3ton~5ton、が好ましい。
本実施形態の成形体の厚みは1mm~10mmが好ましく、2mm~5mmがより好ましい。
【0044】
本実施形態の成形体は、曲げ強度が400MPa以上である。
前記成形体の曲げ強度は、DIN EN ISO14125に規定される曲げ特性の試験方法によって測定された試験片が破壊するときの曲げ応力である。
これにより、本実施形態の成形体は、電磁波シールド性能を維持したまま種々の形状へ成形することができる。
曲げ強度としては、400MPa以上であり、450MPa以上であることが好ましい。
上記曲げ強度は、上述の成形工程において熱可塑性樹脂が溶融することにより、炭素繊維および金属メッシュ層に含侵し各層を密着させることで達成される。
【0045】
本実施形態の成形体は、KEC法による100MHzでの磁界シールド性能が40~80dBであることが好ましい。
KECによる100MHzでの磁界シールド性能については、例えば図2に示すような、KEC法シールド効果測定装置を用いて、100MHzでの磁界シールド性能(dB)を測定することができる。なお、詳細な条件及び測定機については、後述する実施例に記載している。
これにより、本実施形態の成形体は、種々の形状へ成形することができるとともに、高い電磁波シールド性を実現できる。
磁界シールド性能としては、45~75dBであることがより好ましく、50~70dBであることがさらに好ましい。
【0046】
そして、本実施形態の成形体は、種々の用途に適用することができる。
例えば、パソコン、OA機器、AV機器、携帯電話、電話機、ファクシミリ、家電製品、玩具用品、フラットパネルディスプレイ等の電子機器のシールド筐体やシールドプレートとして用いることができ、また、車載用電子機器のシールド筐体やシールドプレートとして用いることもできる。
なお、上述したシールド筐体やシールドプレートの製造方法については、特に限定はされず、公知の方法によって製造することができる。
例えば、本実施形態の積層体を材料として用い、プレス成形によって、シールド筐体やシールドプレートを得ることが可能である。
【実施例0047】
次に、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
以下の条件で、平板成形品及び箱型成形品のサンプルを作製した。
(1)強化不織布(ベース材料)の製造
ベース材料として、リサイクル炭素繊維(商品名「ELGSM45R」、ELG社製)を用い、マトリックス熱可塑性樹脂としてポリアミド繊維(商品名「33/26」、旭化成株式会社製)を用いた。強化繊維40質量%とマトリックス樹脂繊維60質量%とを配合した後、乾式の不織布作製装置を用いて目付け250g/mのシート状成形体(強化不織布)とした。得られた強化不織布の炭素繊維の重量平均繊維長さは40mmであった。
(2)成形品の作製
得られた強化不織布を用い、プレス成形によって成形品を作製した。なお、平板成形品は放電精密加工社製プレス成形機「ZENformerMPS575DS」を用い、箱型成形品はニイガタマシンテクノ社製「MDV200TY」を用いた。
(2-1)平板成形品の作製
強化不織布を、シートの長さ方向に長さ150mm、長さ方向と直行する方向に幅150mm(縦150mm、横150mm)の大きさに切り出した。
次に、図3(a)に示すように、同様の大きさに切り出したSUS304製金属メッシュ(メッシュ数14、線径0.5mm)を、厚みが1mmになるように7枚積層した強化不織布で挟み込んだ状態で、80℃に加熱したプレス成形金型にセットした。
プレス成形機を型締めした後に60℃/minでプレス金型温度が280℃になるまで昇温し、マトリックス樹脂が十分に溶融するまで5分間静置した。
その後、プレス金型温度は280℃のまま5分間5tonの圧力を付与した後に、60℃/minで80℃までプレス成形金型を冷却することで成形品のサンプルを得た。
(2-2)箱型成形品の作製
強化不織布を及び金属メッシュを、図4(b)に示した寸法で切り出し、その後、上述した平板成形品の場合と同様の、層構成及び成形条件にて、図4(a)示した寸法の成形品のサンプルを得た。
【0049】
[実施例2]
金属メッシュを、アルミニウム製メッシュ(メッシュ数16/18、線径0.28mm)とした以外は、実施例1と同様の条件で成形品のサンプルを作製した。
【0050】
[実施例3]
金属メッシュを、銅製メッシュ(メッシュ数14、線径0.28mm)とした以外は、実施例1と同様の条件で成形品のサンプルを作製した。
【0051】
[実施例4]
金属メッシュを、SUS製メッシュ(メッシュ数250、線径0.023mm)とした以外は、実施例1と同様の条件で成形品のサンプルを作製した。
【0052】
[比較例1]
図4(b)に示すように、金属メッシュを含まず、全体の厚みが2mmになるように、強化不織布を14枚積層したこと以外は、実施例1と同様の条件で成形品のサンプルを作製した。
【0053】
[比較例2]
金属メッシュを含まず、ベース材料として、炭素繊維が40質量%となるように汎用PA66樹脂(商品名「1300S」、旭化成株式会社製)と配合したペレットを、住友重機械社製射出成形機「SE130D」を用いて平板成形品を射出成形することでサンプルを作製した。
【0054】
[比較例3]
金属メッシュ及び炭素繊維を含まず、ベース材料として、汎用PA66樹脂(商品名「1300S」、旭化成社製)のペレットを用いたこと以外は、比較例2と同様の条件で成形品のサンプルを作製した。
【0055】
[比較例4]
金属メッシュではなく、SUS製箔(厚み0.055mm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で成形品のサンプルを作製した。
【0056】
<評価>
作製した成形体の各サンプルについて、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
(1)電磁波特性
作製した成形体の各サンプルに対して、キーコム社製「KEC法シールド効果測定装置JSE-KEC型」を用いて、KEC法により0.1~1000MHzの範囲において測定した。測定結果に基づくシールド特性評価としては、10、100、1000MHzでの測定結果において、電界特性及び磁界特性の両特性を測定した。
【0057】
(2)体積抵抗率
作製した成形体の各サンプルに対して日東精工アナリテック社製「ロレスタGX MCP-T700」を用いてJIS K 7194に準拠して体積抵抗率を測定した。
【0058】
(3)曲げ強度、層間接着性
作製した成形体の各サンプルから、シートの長さ方向に長さ40mm、長さ方向と直行方向に幅15mm(縦40mm、横15mm)、厚み2mmの試験片形状に切り出した。
切出した試験片について、Instron社製「万能試験機5582型」を用いてDINEN ISO 14125に基づき4点曲げ試験を実施し、強度を測定した。
また、上記曲げ試験後、強化不織布と金属メッシュとの界面での剥離について、目視で確認した。剥離が見られた場合を「剥離」、見られなかった場合は「良」とした。
【0059】
(4)成形性
作製した成形体の各サンプルのコーナー部分(図4(a)参照。)を、GeneralElectric社製 第3世代CT装置 「phoenix nanotom m 」で観察し、インサート金属材料の破れを確認した。
破れの確認では、金属材料にて破れが見られたものを「破れ」、見られなかったものを「良」とした。
【0060】
【表1】
【0061】
表1の結果から、実施例1~4のサンプルは、電磁波特性、導電性、曲げ強度、層間接着性、成形性のいずれも、バランスよく優れることがわかった。
一方、比較例の各サンプルは、少なくとも1つの評価項目で不良となっており、全ての評価項目でバランスよく優れるものはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、良好な、軽量性、強度、層間接着性及び成形性を有しつつ、電磁波シールド性に優れた、成形体を提供することが可能となる。また、本発明によれば、良好な、軽量性、強度、層間接着性及び成形性を有しつつ、電磁波シールド性に優れた、成形体、電子機器用シールド筐体及び電子機器用シールドプレートを提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0063】
100 積層体
10 強化不織布
20 金属メッシュ
図1
図2
図3
図4