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特開2024-159534真空ポンプおよび真空ポンプの排気性能変更方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159534
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】真空ポンプおよび真空ポンプの排気性能変更方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
F04D19/04 A
F04D19/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024055697
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023074435
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004244
【氏名又は名称】弁理士法人仲野・川井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芝田 康寛
(72)【発明者】
【氏名】谷田部 航
(72)【発明者】
【氏名】坂口 祐幸
(72)【発明者】
【氏名】三輪田 透
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131AA08
3H131BA03
3H131BA12
3H131BA14
3H131CA04
3H131CA13
(57)【要約】
【課題】シグバーン排気機構を備えた真空ポンプの回転数を変更することなく、所望の能力に排気性能を調整可能とした真空ポンプおよび真空ポンプの排気性能を変更する方法を提供すること。
【解決手段】シグバーン排気機構を備えた真空ポンプは、シグバーン排気機構の排気流路の入り口に位置する第1回転円板と第1固定円板との軸方向または径方向のギャップを調整することで、定格運転中における排気性能を変更可能とする。このギャップの調整方法としては、(A)回転円板の浮上位置をオフセットさせて、固定円板と回転円板のギャップを調整する方法、(B)真空ポンプ内の所定位置にスペーサ(追加シート)を入れ固定円板と回転円板のギャップを調整する方法がある。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシングの内部で回転自在に支持された回転軸と、
前記回転軸を磁気浮上させて非接触で保持する磁気軸受装置と、
前記回転軸とともに回転する複数の回転円板と、
前記複数の回転円板の間に、前記回転軸の軸方向で多段に配置される複数の固定円板と、
前記複数の回転円板と前記複数の固定円板が対面する段において、どちらか一方に渦巻き状溝が設けられたシグバーン排気機構と、
を備え、
前記シグバーン排気機構における前記複数の回転円板と前記複数の固定円板との相互作用により、吸気口から排気口へガスを排気する真空ポンプであって、
前記複数の回転円板のうち対象とする第1回転円板または前記複数の固定円板のうち前記第1回転円板と前記軸方向で隣り合い前記シグバーン排気機構を構成する第1固定円板の位置情報を取得する位置情報取得部を備え、
前記位置情報取得部で取得した前記位置情報に基づき、前記第1回転円板と前記第1固定円板との前記軸方向または径方向の距離を調整する距離調整機構を有し、
前記距離調整機構により、前記軸方向または前記径方向の前記距離を調整することで、定格運転中における排気性能を変更可能としたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記位置情報取得部が取得した前記位置情報に基づき、前記軸方向または前記径方向の前記距離を検出する距離検出部を備え、
前記距離調整機構は、前記回転軸を前記軸方向または前記径方向に支持する、前記磁気軸受装置の磁気軸受で構成され、
前記距離検出部からの信号に基づいて、前記第1回転円板を前記軸方向または前記径方向に移動可能とすることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記距離調整機構は、前記第1回転円板または前記第1固定円板の前記軸方向または前記径方向の位置を変更するスペーサ部品で構成され、
前記複数の回転円板と前記複数の固定円板との前記軸方向または前記径方向の前記距離を調整することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記距離調整機構は、前記軸方向に前記回転軸を浮上させるアキシャル磁気軸受と前記径方向に前記回転軸の位置制御を行うラジアル磁気軸受を備えた前記磁気軸受装置であり、アキシャル電磁石またはラジアル電磁石による前記回転軸の浮上位置を調整することで、前記第1回転円板と前記第1固定円板との前記軸方向または前記径方向の前記距離を調整することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記吸気口の圧力を計測する吸気口圧力計測部と、前記排気口の圧力を計測する排気口圧力計測部の少なくとも何れか一方を備え、
前記吸気口圧力計測部または前記排気口圧力計測部の計測値に基づき、前記位置情報取得部が前記第1回転円板または前記第1固定円板の前記位置情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記真空ポンプに適用される前記第1回転円板と前記第1固定円板との前記軸方向または前記径方向の基準距離を取得する基準距離取得部を備え、
前記距離調整機構は、前記基準距離取得部で取得した前記基準距離に合致するように、前記第1回転円板と前記第1固定円板との前記軸方向または前記径方向の前記距離を調整することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
ケーシングと、
前記ケーシングの内部で回転自在に支持された回転軸と、
前記回転軸を磁気浮上させて非接触で保持する磁気軸受装置と、
前記回転軸とともに回転する複数の回転円板と、
前記複数の回転円板の間に、前記回転軸の軸方向で多段に配置される複数の固定円板と、
前記複数の回転円板と前記複数の固定円板が対面する段において、どちらか一方に渦巻き状溝が設けられたシグバーン排気機構と、
を備え、
前記シグバーン排気機構における前記複数の回転円板と前記複数の固定円板との相互作用により、吸気口から排気口へガスを排気する真空ポンプにおいて、
前記複数の回転円板のうち対象とする第1回転円板または前記複数の固定円板のうち前記第1回転円板と前記軸方向で隣り合い前記シグバーン排気機構を構成する第1固定円板の位置情報を取得する位置情報取得ステップと、
前記位置情報取得ステップで取得した前記位置情報に基づき、前記第1回転円板と前記第1固定円板との前記軸方向または径方向の距離を調整する距離調整ステップを有し、
前記距離調整ステップにより、前記軸方向または前記径方向の前記距離を調整することで、定格運転中における排気性能を変更可能としたことを特徴とする前記真空ポンプの排気性能変更方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプおよび真空ポンプの排気性能変更方法に関する。詳しくは、シグバーン排気機構を備えた真空ポンプにおいて、所望の能力に排気性能を調整可能とすること、また、排気性能を変更する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空ポンプは、吸気口および排気口を備えた外装体を形成するケーシングを備え、このケーシングの内部に、当該真空ポンプに排気機能を発揮させる構造物が収納されている。この排気機能を発揮させる構造物は、大きく分けて、高速回転する回転軸に固定された回転部(ロータ部)とケーシングに対して固定された固定部(ステータ部)から構成されている。
また、回転軸を高速回転させるためのモータが設けられており、このモータの働きにより回転軸が高速回転すると、回転軸に固定されたロータ翼(回転円板)が回転軸とともに回転し、ステータ翼(固定円板)との相互作用により気体が吸気口から吸引され、排気口から排出されるようになっている。
真空ポンプのうち、シグバーン型の構成を有するシグバーン型真空ポンプは、回転円板(回転円盤)と、当該回転円板と軸方向に隙間(クリアランス)をもって設置された固定円板と、を備え、当該回転円板もしくは固定円板の少なくともいずれか一方の隙間対向表面にスパイラル状溝(らせん溝または渦巻き状溝ともいう)流路が刻設されている。そして、らせん溝流路内に拡散して入ってきた気体分子に、回転円板によって回転円板接線方向(即ち、回転円板の回転方向の接線方向)の運動量を与えることで、スパイラル状溝により吸気口から排気口に向けて優位な方向性を与えて排気を行う真空ポンプである。
【0003】
図17は、従来のシグバーン型真空ポンプ1000を説明するための図であり、従来のシグバーン型真空ポンプ1000の概略構成例を示した図である。矢印は、気体分子の流れを示している。
図18は、従来のシグバーン型真空ポンプ1000に配設される固定円板5000を説明するための図であり、吸気口4側から見た場合の固定円板5000の断面図である。
固定円板5000内の矢印は気体分子の流れを示し、固定円板5000外の矢印は、図示していない回転円板の回転方向を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6353195号
【0005】
特許文献1には、シーグバーン(シグバーン)型真空ポンプ部の段数を増やすことなく、排気効率を向上させるために連通孔を備える固定円板を備える真空ポンプが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、真空ポンプは、設置されている現場(例えば、半導体製造工場)で、所望の排気性能を発揮することが要望されている。例えば、経年変化により真空ポンプの排気性能が変化した場合、できれば部品の交換などを行わず一定の排気性能を維持することが求められている。
また、複数の真空ポンプを並行して稼働させる場合、各真空ポンプの排気性能を可能な限り統一することを要求されることがある。
そこで、本発明の目的は、シグバーン排気機構を備えた真空ポンプの回転数を変更することなく、所望の能力に排気性能を調整可能とした真空ポンプおよび真空ポンプの排気性能を変更する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明では、ケーシングと、前記ケーシングの内部で回転自在に支持された回転軸と、前記回転軸を磁気浮上させて非接触で保持する磁気軸受装置と、前記回転軸とともに回転する複数の回転円板と、前記複数の回転円板の間に、前記回転軸の軸方向で多段に配置される複数の固定円板と、前記複数の回転円板と前記複数の固定円板が対面する段において、どちらか一方に渦巻き状溝が設けられたシグバーン排気機構と、を備え、前記シグバーン排気機構における前記複数の回転円板と前記複数の固定円板との相互作用により、吸気口から排気口へガスを排気する真空ポンプであって、前記複数の回転円板のうち対象とする第1回転円板または前記複数の固定円板のうち前記第1回転円板と前記軸方向で隣り合い前記シグバーン排気機構を構成する第1固定円板の位置情報を取得する位置情報取得部を備え、前記位置情報取得部で取得した前記位置情報に基づき、前記第1回転円板と前記第1固定円板との前記軸方向または径方向の距離を調整する距離調整機構を有し、前記距離調整機構により、前記軸方向または前記径方向の前記距離を調整することで、定格運転中における排気性能を変更可能としたことを特徴とする真空ポンプを提供する。
請求項2記載の発明では、前記位置情報取得部が取得した前記位置情報に基づき、前記軸方向または前記径方向の前記距離を検出する距離検出部を備え、前記距離調整機構は、前記回転軸を前記軸方向または前記径方向に支持する、前記磁気軸受装置の磁気軸受で構成され、前記距離検出部からの信号に基づいて、前記第1回転円板を前記軸方向または前記径方向に移動可能とすることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプを提供する。
請求項3記載の発明では、前記距離調整機構は、前記第1回転円板または前記第1固定円板の前記軸方向または前記径方向の位置を変更するスペーサ部品で構成され、前記複数の回転円板と前記複数の固定円板との前記軸方向または前記径方向の前記距離を調整することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプを提供する。
請求項4記載の発明では、前記距離調整機構は、前記軸方向に前記回転軸を浮上させるアキシャル磁気軸受と前記径方向に前記回転軸の位置制御を行うラジアル磁気軸受を備えた前記磁気軸受装置であり、アキシャル電磁石またはラジアル電磁石による前記回転軸の浮上位置を調整することで、前記第1回転円板と前記第1固定円板との前記軸方向または前記径方向の前記距離を調整することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプを提供する。
請求項5記載の発明では、前記吸気口の圧力を計測する吸気口圧力計測部と、前記排気口の圧力を計測する排気口圧力計測部の少なくとも何れか一方を備え、前記吸気口圧力計測部または前記排気口圧力計測部の計測値に基づき、前記位置情報取得部が前記第1回転円板または前記第1固定円板の前記位置情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプを提供する。
請求項6記載の発明では、前記真空ポンプに適用される前記第1回転円板と前記第1固定円板との前記軸方向または前記径方向の基準距離を取得する基準距離取得部を備え、前記距離調整機構は、前記基準距離取得部で取得した前記基準距離に合致するように、前記第1回転円板と前記第1固定円板との前記軸方向または前記径方向の前記距離を調整することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプを提供する。
請求項7記載の発明では、ケーシングと、前記ケーシングの内部で回転自在に支持された回転軸と、前記回転軸を磁気浮上させて非接触で保持する磁気軸受装置と、前記回転軸とともに回転する複数の回転円板と、前記複数の回転円板の間に、前記回転軸の軸方向で多段に配置される複数の固定円板と、前記複数の回転円板と前記複数の固定円板が対面する段において、どちらか一方に渦巻き状溝が設けられたシグバーン排気機構と、を備え、前記シグバーン排気機構における前記複数の回転円板と前記複数の固定円板との相互作用により、吸気口から排気口へガスを排気する真空ポンプにおいて、前記複数の回転円板のうち対象とする第1回転円板または前記複数の固定円板のうち前記第1回転円板と前記軸方向で隣り合い前記シグバーン排気機構を構成する第1固定円板の位置情報を取得する位置情報取得ステップと、前記位置情報取得ステップで取得した前記位置情報に基づき、前記第1回転円板と前記第1固定円板との前記軸方向または径方向の距離を調整する距離調整ステップを有し、前記距離調整ステップにより、前記軸方向または前記径方向の前記距離を調整することで、定格運転中における排気性能を変更可能としたことを特徴とする前記真空ポンプの排気性能変更方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シグバーン排気機構を備えた真空ポンプにおいて、例えば真空ポンプの回転数を変えることなく、所望の排気性能に近づけることができる。そのため、複数の真空ポンプを並行して稼働する場合、各々の排気性能を揃えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るターボ分子ポンプの概略構成を示した図である。
図2】本発明の実施形態で用いるアンプ回路の回路図を示した図である。
図3】本発明の実施形態における検出値が電流指令値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
図4】本発明の実施形態における検出値が電流指令値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
図5】本発明の実施形態に係るシグバーン型真空ポンプの概略構成例を示した図である。
図6】本発明の実施形態に係る吸気口側から見た場合の固定円板の断面図である。
図7】本発明の実施形態に係る回転円板のオフセットを説明するための図である。
図8】本発明の実施形態に係るシグバーン型真空ポンプにおける内蔵センサの設置を説明するための図である。
図9】本発明の実施形態における流入口のギャップの広狭による吸気口圧力と排気口圧力の関係(背圧特性)を示したグラフを記載した図である。
図10】本発明の実施形態における流入口の広狭による吸気口圧力と排気口圧力の関係を示した図である。
図11】本発明の実施形態に係るシグバーンスペーサと固定円板の間に追加スペーサを入れてギャップを調整した例を説明するための図である。
図12】本発明の実施形態に係るアキシャル電磁石と上側の電装品の間に追加スペーサを入れてギャップを調整した例を説明するための図である。
図13】本発明の実施形態に係るベアリング押さえの下に追加スペーサを入れてギャップを調整した例を説明するための図である。
図14】本発明の実施形態に係る上部ベアリングホルダーに追加スペーサを入れて径方向のギャップを調整した例を説明するための図である。
図15】本発明の実施形態に係る下部ベアリングホルダーに追加スペーサを入れて径方向のギャップを調整した例を説明するための図である。
図16】本発明の実施形態に係るベアリングホルダーに追加スペーサを入れて径方向のギャップを調整した例を説明するための図である。
図17】従来技術を説明するための図であり、シグバーン型真空ポンプの概略構成例を示した図である。
図18】従来技術を説明するための図であり、吸気口側から見た場合の固定円板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(i)実施形態の概要
本発明の実施形態のシグバーン排気機構を備えた真空ポンプは、シグバーン排気機構の排気流路の入り口に位置する第1回転円板と第1固定円板との軸方向または径方向のギャップを調整することで、定格運転中における排気性能を変更可能としたことを特徴とする。
このギャップの調整方法としては、(A)回転円板の浮上位置をオフセットさせて、固定円板と回転円板のギャップを調整する方法、(B)真空ポンプ内の所定位置にスペーサ(追加シート)を入れ固定円板と回転円板のギャップを調整する方法がある。
ここで、シグバーン排気機構とは、複数の回転円板と複数の固定円板が対面する段において、どちらか一方に渦巻き状溝が設けられ、複数の回転円板と複数の固定円板との相互作用により、吸気口から排気口へガスを排気する排気機構をいう。
【0011】
(ii)実施形態の詳細
以下、本発明の好適な実施形態について、図1から図16を参照して詳細に説明する。
本実施形態では、本発明が適用される真空ポンプは、シグバーン型真空ポンプである。 まず、一般的な真空ポンプであるターボ分子ポンプの構成について説明し、次に、このシグバーン型真空ポンプについて説明する。
なお、本実施形態では、回転円板の直径方向と垂直な方向を軸方向、水平方向を径方向とする。
また、以下、1つ(1段)の固定円板の、吸気口側をシグバーン型真空ポンプ上流領域、排気口側をシグバーン型真空ポンプ下流領域と称して説明する。
【0012】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を図1に示す。図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0013】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0014】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0015】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0016】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0017】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0018】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0019】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0020】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0021】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0022】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0023】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0024】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0025】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0026】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0027】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0028】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0029】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0030】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0031】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0032】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0033】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0034】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0035】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を図2に示す。
【0036】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0037】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0038】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0039】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0040】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0041】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0042】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0043】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0044】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0045】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0046】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0047】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0048】
次に、シグバーン型真空ポンプ上流領域の気体を外径側から内径側へ排気し、そして、シグバーン型真空ポンプ下流領域の気体を内径側から外径側へ排気する、という折り返して排気するシグバーン型の構成について説明する。
【0049】
(ii-1)構成
図5は、本発明の実施形態に係るシグバーン型真空ポンプ1の概略構成例を示した図である。
なお、図5は、シグバーン型真空ポンプ1の軸線方向の断面図を示している。
シグバーン型真空ポンプ1の外装体を形成するケーシング2は、略円筒状の形状をしており、ケーシング2の下部(排気口6側)に設けられたベース3と共にシグバーン型真空ポンプ1の筐体を構成している。そして、この筐体の内部には、シグバーン型真空ポンプ1に排気機能を発揮させる構造物である気体移送機構が収納されている。
この気体移送機構は、大きく分けて、回転自在に保持された回転部と筐体に対して固定された固定部から構成されている。
【0050】
ケーシング2の端部には、当該シグバーン型真空ポンプ1へ気体を導入するための吸気口4が形成されている。また、ケーシング2の吸気口4側の端面には、外周側へ張り出したフランジ部5が形成されている。
また、ベース3には、当該シグバーン型真空ポンプ1から気体を排気するための排気口6が形成されている。
【0051】
回転部(ロータ部)は、回転軸であるシャフト7、このシャフト7に配設されたロータ8、ロータ8に設けられた複数枚の回転円板9、並びに回転円筒10などから構成されている。なお、シャフト7およびロータ8によってロータ部が構成されている。
各回転円板9は、シャフト7の軸線に対し垂直に放射状に伸びた円板形状をした円板部材からなる。
また、回転円筒10は、ロータ8の回転軸線と同心の円筒形状をした円筒部材からなる。
【0052】
シャフト7の軸線方向中程には、シャフト7を高速回転させるためのモータ部20が設けられている。
さらに、シャフト7のモータ部20に対して吸気口4側、および排気口6側には、シャフト7をラジアル方向(径方向)に非接触で支持(軸支)するための径方向磁気軸受装置30、31、シャフト7の下端には、シャフト7を軸線方向(アキシャル方向)に非接触で支持するための軸方向磁気軸受装置40が設けられている。
【0053】
筐体の内周側には、固定部(ステータ部)が形成されている。この固定部は、吸気口4側に設けられた複数枚の固定円板50などから構成され、当該固定円板50には固定円板谷部51および固定円板山部52で構成されるスパイラル状溝が刻設されている。
なお、本実施形態では、固定円板50にスパイラル状溝を刻設する構成としたが、これに限られることはなく、上述した回転円板9もしくは当該固定円板50の少なくともいずれか一方の隙間対向表面にスパイラル状溝流路が刻設されていればよい。
各固定円板50は、シャフト7の軸線に対し垂直に放射状に伸びた円板形状をした円板部材から構成されている。
各段の固定円板50は、円筒形状をしたスペーサ60(ステータ部)により互いに隔てられて固定されている。スペーサ60の軸方向の高さは、シグバーン型真空ポンプ1の軸方向に沿って低くなるように形成され、それにより、流路の容積がシグバーン型真空ポンプ1の排気口6へ向けて徐々に減少して、気体移送機構内を通過する気体(ガス)を圧縮するようになる。図5の矢印は、気体の流れを示している。
シグバーン型真空ポンプ1では、回転円板9と固定円板50とが互い違いに配置され、軸線方向に複数段形成されているが、真空ポンプに要求される排出性能を満たすために、必要に応じて任意の数のロータ部品およびステータ部品を設けることができる。
このように構成されたシグバーン型真空ポンプ1により、シグバーン型真空ポンプ1に配設される真空室(図示しない)内の真空排気処理を行うようになっている。
【0054】
図6は、図5におけるA-A’方向を吸気口4側から見た固定円板50の断面図であり、同図には、排気口6側から見た場合のスパイラル状溝が破線で示されている。
なお、図6における固定円板50外の矢印は、図示していない回転円板9の回転方向を示し、また、固定円板50内の矢印は、スパイラル状溝の固定円板谷部51を通過する気体分子の流れの一部を示している。
【0055】
(ii-2)実施形態A(回転円板の浮上位置をオフセットさせて、固定円板と回転円板のギャップを調整する方法)
図7から図10を参照して、回転円板9(シグバーンブレード)とシグバーンスペーサ53(固定円板)の位置関係をオフセット(変更)させて、両者のギャップを調整し、真空ポンプの排気性能を調整する実施形態Aを説明する。
【0056】
位置関係のオフセットは、回転円板9の浮上位置を磁気軸受のアキシャル電磁石800の吸引力を調整することで実現する。
アキシャル電磁石800の吸引力を調整方法として、調整位置のフィードバック方法(A-1)とシーケンスシステムを用いる方法(A-2)がある。
【0057】
図7は、回転円板9(第1回転円板に相当)の浮上位置を変更することで、固定円板50(第1固定円板に相当)とのギャップをオフセット(変更)したことを説明する図である。なお、第1回転円板および第1固定円板は、ギャップ変更の対象のものを示している。
このように、回転円板9の位置を下方に下げることで、固定円板50とのギャップを狭めている。また、回転円板9の位置を上方に上げることで、固定円板50とのギャップを広めるように制御することもできる。
【0058】
まず、図9のグラフは、回転円板9の浮上位置を調整して、流入口のギャップを狭く(流出口を広く)した場合と、流入口のギャップを広く(流出口を狭く)した場合の吸気口圧力と排気口圧力の関係を示している。
また、図10は、流入口(流出口)のギャップの広狭と吸気口圧力と排気口圧力の上昇、下降の関係を示した図である。
図9図10から明らかなように、流入口のギャップを狭くすると、低い圧力領域においては流出口の圧力が低下する傾向にあるが、高い圧力領域においては流出口の圧力が上昇する傾向となる。また逆に、流入口のギャップを広くすると、低い圧力領域においては流出口の圧力が上昇する傾向にあるが、高い圧力領域においては流出口の圧力が低下する傾向となる。
この実施形態Aでは、このような関係性を考慮に入れて、回転円板9の浮上位置の制御を行う。
【0059】
(A-1)調整位置のフィードバック方法
回転円板9の浮上位置について、下記の条件で判定する。
(1)吸気口および排気口に外付測定器(圧力計または圧力センサ)を取り付ける。
この外付測定器の測定結果に基づき、回転円板9の浮上位置を調整する。この外付測定器を用いる方法であると、既存の既に稼働している真空ポンプにも適用することができる。
(2)図8図5Gの拡大図)に示すように、シグバーン型真空ポンプ1の内部に1対の内蔵センサ600a、600b(圧力センサ)を設置する。この1対の内蔵センサの設置位置は、シグバーン排気経路の入り口(600a)と出口(600b)に該当する。この圧力センサの測定結果に基づき、回転円板9の浮上位置を調整する。
(3)シグバーン型真空ポンプ1の内部に1対の内蔵センサ600a、600b(位置センサ)を設置する。この位置センサの測定に基づき、シグバーンからの位置をモニターして高さ(浮上位置)を調整する。
この場合、シグバーンの位置と排気口圧力との関係のデータを収集し、予めデータをデータベースとして保有しておき、このデータベースからデータを取得して、取得したデータに基づき浮上位置を調整するようにしてもよい。
このデータは、テーブルとして真空ポンプ内部に予め保持しておいてもよいし、都度外部から取得するようにしてもよい。
また、上記の調整位置のフィードバック方法をAI(人工知能)を用いて調整するようにしてもよい。例えば、(3)の場合、学習データとして、「シグバーンの位置」と「該シグバーンの位置に対応した排気口圧力」を取得し、蓄積する。そして、蓄積したデータを順次AIに機械学習させ、将来予測、すなわち、適切な浮上位置の制御を行う。
【0060】
(A-2)シーケンスシステムを用いる方法
シグバーン型真空ポンプ1は、通常、設置場所の工場で複数台設置され、稼働している。この場合、各シグバーン型真空ポンプ1の排気性能のばらつきを防止したり、所定の値に統一したいとする要請に対応する必要がある。
具体的には、シグバーン型真空ポンプ1の定格運転中に、内蔵センサ600(圧力センサ)(外付測定器でもよい)により、上死点および下死点の吸気口圧力および排気口圧力を読み取り、回転円板9の浮上位置における圧力値を認識する。
この圧力値を認識することで、稼働中のシグバーン型真空ポンプ1を所望の排気口圧力に調整したり、複数台同時に稼働している場合は、各シグバーン型真空ポンプ1の吸気口圧力あるいは排気口圧力を揃えることができる。
これにより、プロセス圧や個体差のばらつきを抑制することが可能となる。
【0061】
(ii-3)実施形態B(回転円板(シグバーンブレード)と固定円板(シグバーンスペーサ)の位置関係をオフセットさせて、シグバーン排気機構による排気性能(背圧特性)を変化させる)
図11から図13を参照して、高さだしスペーサ部品(追加スペーサ700)で回転円板と固定円板の位置関係をオフセット(変更)させて、両者のギャップを調整し、真空ポンプの排気性能を調整する実施形態Bを説明する。
なお、オフセットされる量は、追加スペーサ700の厚さの1/2である。追加スペーサ700の厚さは、適宜決定される。例えば200ミクロン、150ミクロン、100ミクロン、50ミクロンである。
【0062】
(B-1)シグバーンスペーサ53と固定円板50の間に追加スペーサ(クリアランスシート)700を配置
まず、追加スペーサ700を用意し、これをシグバーンスペーサ53と固定円板50の間に設置する。
図11(a)(b)は、図5のEで示された箇所の拡大図である。図11(a)は、追加スペーサ700の配置前、(b)は、配置後の状態を示している。図11(b)から明らかなように、追加スペーサ700の厚み分、軸方向に固定円板50がオフセットされている。
結果として、回転円板9と固定円板50のギャップがオフセットされている。
【0063】
(B-2)アキシャル電磁石800と上側の電装品820との間に追加スペーサ(クリアランスシート)700を配置
B-1と同様に、追加スペーサ700を用意し、これをアキシャル電磁石800と上側の電装品820の間に設置する。
図12(a)(b)は、図5のFで示された箇所の拡大図である。図12(a)は、追加スペーサ700の配置前、(b)は、配置後の状態を示している。図12(b)から明らかなように、追加スペーサ700の厚み分、軸方向にアキシャルディスク300(アーマチャディスク)がオフセットされている(浮上位置がオフセットされている)。結果として、回転円板9と固定円板50のギャップがオフセットされている。
【0064】
(B-3)ベアリング押さえ850の下に追加スペーサ(クリアランスシート)700を配置
B-1、B-2と同様に、追加スペーサ700を用意し、これをベアリング押さえ850の下に設置する。
図13(a)(b)は、図5のFで示された箇所の拡大図である。図13(a)は、追加スペーサ700の配置前、(b)は、配置後の状態を示している。図13(b)から明らかなように、追加スペーサ700の厚み分、軸方向にアキシャルディスク300(アーマチャディスク)がオフセットされている(浮上位置がオフセットされている)。結果として、回転円板9と固定円板50のギャップがオフセットされている。
【0065】
(B-4)ベアリングホルダーに追加スペーサ(クリアランスシート)700を配置
図14から図16を参照して、追加スペーサをベアリングホルダーに配置することで、径方向のオフセットを実現するB-4を説明する。
図14は、上部ベアリングホルダー900に追加スペーサ700を配置した場合のD-Dの断面図である。追加スペーサ700を配置することで、シャフト7の径方向のオフセット(浮上時の中心位置がずれることによる変更)を実現している。
通常、径方向磁気軸受装置30、31におけるシャフト7の浮上中心位置は、シャフト7とベアリングにおけるギャップが円周上の点すべてにおいて均一となるようにベアリングの内周面の中心(幾何学的中心)に浮上させている。上述の追加スペーサ700を配置したことで、ベアリングの位置が径方向にオフセットすることで、シャフト7の浮上中心位置もオフセットされている。最終的な結果として、固定円板50と回転円板9の径方向の位置がオフセットされている。
図15は、下部ベアリングホルダー950に追加スペーサ700を配置した場合のC-Cの断面図である。例えば、上部ベアリングホルダー900と下部ベアリングホルダー950と同じ追加スペーサ700を配置することで、シャフト7に対し、上部ベアリングホルダー900と下部ベアリングホルダー950の位置で径方向に同じ量のオフセットを実現している。
ここで用いる追加スペーサ700は、シート状のものであってもよいし、突起状のものであってもよい。
【0066】
また、オフセット量を考慮して、上部ベアリングホルダー900と下部ベアリングホルダー950の両方に追加スペーサ700を配置してもよいし、どちらか一方のみに配置してもよい。
さらに、上記(B-1からB-3)の高さだし(軸方向)の追加スペーサ700を配置する実施形態と径方向の追加スペーサ700を併せて用いて、オフセット量を調整してもよい。
【0067】
図16は、上部ベアリングホルダー900に追加スペーサ700を配置して径方向のオフセットを実現した際の固定円板50と回転円板9の関係を示した図である。
回転円板9の中心位置が固定円板50の中心に対してオフセットされており、これにより、排気性能の調整が行われる。
【0068】
この実施形態(A-1、A-2)および(B-1からB-4)によれば、シグバーン型真空ポンプ1の排気性能を適宜調整することができる。
よって、例えば、複数台のシグバーン型真空ポンプ1を同一場所で、同時に稼働させるような場合、各真空ポンプの排気性能を同一の能力に揃えることができる。
特に、各ジグバーン型真空ポンプに不可避的に生じる公差の集積による排気性能の差を同一の排気性能に統一することができる。
また、この実施形態は、単体で使用しているシグバーン型真空ポンプ1にも適用することができる。例えば、1台のシグバーン型真空ポンプ1を長期間稼働させることにより生じる経年変化(各部品の寸法の変化、シグバーン型真空ポンプ1内の堆積物)により、回転円板9と固定円板50のギャップに変化が生じてしまうことがある。このとき、回転円板9の浮上位置をコントロールすることで、排気性能を調整することができる。
さらに、シグバーン型真空ポンプ1の設置者の要求で排気性能の変更があった場合に、シグバーン型真空ポンプ1の回転数の変更や他のポンプを用意することなく排気性能の変更が可能となる。
【0069】
なお、本発明の実施形態および各変形例は、必要に応じて各々を組み合わせる構成にしてもよい。
【0070】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができる。そして、本発明が当該改変されたものに及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0071】
1 シグバーン型真空ポンプ
2 ケーシング
3 ベース
4 吸気口
5 フランジ部
6 排気口
7 シャフト
8 ロータ
9 回転円板
10 回転円筒
20 モータ部
30 径方向磁気軸受装置
31 径方向磁気軸受装置
40 軸方向磁気軸受装置
50 固定円板
51 固定円板谷部
52 固定円板山部
53 シグバーンスペーサ
60 スペーサ
100 ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
101 吸気口
102 回転翼
102d 円筒部
103 回転体
113 ロータ軸
122 ステータコラム
123 固定翼
125 固定翼スペーサ
127 外筒
129 ベース部
131 ネジ付スペーサ
131a ネジ溝
133 排気口
200 制御装置
300 アキシャルディスク(アーマチャディスク)
600 内蔵センサ
700 追加スペーサ
800 アキシャル電磁石
820 電装品
850 ベアリング押さえ
900 上部ベアリングホルダー
950 下部ベアリングホルダー
1000 シグバーン型真空ポンプ(従来)
5000 固定円板(従来)
図1
図2
図3
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