(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024159545
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】中空樹脂粒子
(51)【国際特許分類】
C08F 283/08 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
C08F283/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024062450
(22)【出願日】2024-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2023073307
(32)【優先日】2023-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 亮平
【テーマコード(参考)】
4J026
【Fターム(参考)】
4J026AB22
4J026BA07
4J026BB01
4J026CA03
4J026CA05
4J026DB04
4J026DB08
4J026DB12
4J026DB32
4J026EA04
4J026EA05
4J026FA02
4J026GA06
4J026GA08
(57)【要約】
【課題】耐熱性、誘電特性、乾燥後の再分散性に優れた中空樹脂粒子を提供する。
【解決手段】シェル部と該シェル部により囲われた中空部分を有する中空樹脂粒子であって、該シェル部が酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂とビニル系樹脂とからなり、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂が、スルホ基、カルボキシ基、カルボン酸無水物基、リン酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基で酸変性されていることを特徴とする中空樹脂粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェル部と該シェル部により囲われた中空部分を有する中空樹脂粒子であって、
該シェル部が酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂とビニル系樹脂とからなり、
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂が、スルホ基、カルボキシ基、カルボン酸無水物基、リン酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基で酸変性されていることを特徴とする中空樹脂粒子。
【請求項2】
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂の酸価が0.5~80mgKOH/gであることを特徴とする請求項1に記載の中空樹脂粒子。
【請求項3】
体積平均粒子径が0.1~50μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の中空樹脂粒子。
【請求項4】
ビニル系樹脂が、共重合成分としての架橋性モノマーを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の中空樹脂粒子。
【請求項5】
共重合成分としての架橋性モノマーが、ジビニルナフタレン、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載の中空樹脂粒子。
【請求項6】
請求項1または2に記載の中空樹脂粒子と、媒体とを含むことを特徴とする中空樹脂粒子分散体。
【請求項7】
請求項1に記載の中空樹脂粒子を製造するための方法であって、以下の工程(I)および(II)を含むことを特徴とする中空樹脂粒子の製造方法。
(I)酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂からなる粒子が媒体中に分散した分散液の存在下に、ビニル系モノマーを分散重合または乳化重合する工程。
(II)上記(I)で得られた分散液を乾燥する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空樹脂粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信業界の高速回線化に対応するため、伝送損失の低い樹脂材料、すなわち誘電率(Dk)および誘電正接(Df)の低い樹脂材料の開発が行われている。樹脂材料を低誘電化(低誘電率化および低誘電正接化)する方法には、Dkが1である空気を利用して、樹脂材料を多孔質化したり、樹脂材料に中空粒子を添加するなどの様々な方法が知られている。
【0003】
上述の方法に用いられる中空粒子には、例えば、無機成分からなるシェル部により囲われた中空粒子が用いられることがある。しかし、無機成分が硬質であることに由来し、得られる樹脂材料が柔軟性に劣るという問題があった。
【0004】
このような背景から、近年では、有機高分子からなる中空粒子の検討がなされている。例えば、特許文献1には、ジビニルベンゼンの重合体(架橋ポリスチレン)からなる中空樹脂粒子が開示され、また、特許文献2には、多官能アクリレートと単官能メタクリレートの共重合体からなる中空樹脂粒子が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載の中空樹脂粒子は、比誘電率、誘電正接の低い素材(架橋ポリスチレン)からなるため、樹脂材料の低誘電化を図る目的で添加するには、有効な粒子と言える。しかし、その製造に使用されている高沸点の飽和炭化水素類(具体的には、ヘキサデカン)は、蒸留等によって中空部分から除去することが難しく、中空部分を完全に空気に置換するためには、製造コストがかかる。さらに、特許文献1に記載の中空樹脂粒子は、スチレン系素材であるため、耐熱性が不十分である。
【0006】
特許文献2に記載の中空樹脂粒子は、架橋アクリル樹脂からなる。一般に、アクリル樹脂は、誘電率、誘電正接の数値が高いこと、耐熱性が不十分なこと、吸水率が高いことが知られている。このことから、特許文献2に記載の中空樹脂粒子は、樹脂材料の低誘電化、低誘電正接化を図る目的で添加するには不向きなものである。
【0007】
以上の課題を鑑み、特許文献3において、ラジカル重合性官能基を有するポリフェニレンエーテル系オリゴマーとジビニルベンゼンの共重合体からなる中空樹脂粒子が開示されている。しかしながら、特許文献3に記載の中空粒子は、中空粒子の乾燥工程において一部の粒子が凝集体を形成し、樹脂材料に添加しても再分散性に劣る傾向があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-080503号公報
【特許文献2】特開2020-33503号公報
【特許文献3】国際公開第2022/131127号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の中空樹脂粒子と比較して、耐熱性、誘電特性、乾燥後の再分散性に優れた中空樹脂粒子を提供することを目的とする。
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、シェル部が、特定の官能基で酸変性されたポリフェニレンエーテル樹脂とビニル系樹脂とからなる中空樹脂粒子が、上記課題を解決する
ことを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、次のとおりである。
【0011】
(1)シェル部と該シェル部により囲われた中空部分を有する中空樹脂粒子であって、該シェル部が酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂とビニル系樹脂とからなり、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂が、スルホ基、カルボキシ基、カルボン酸無水物基、リン酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基で酸変性されていることを特徴とする中空樹脂粒子。
(2)酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂の酸価が0.5~80mgKOH/gであることを特徴とする(1)に記載の中空樹脂粒子。
(3)体積平均粒子径が0.1~50μmであることを特徴とする(1)または(2)に記載の中空樹脂粒子。
(4)ビニル系樹脂が、共重合成分としての架橋性モノマーを含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の中空樹脂粒子。
(5)共重合成分としての架橋性モノマーが、ジビニルナフタレン、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(4)に記載の中空樹脂粒子。
(6)上記(1)または(2)に記載の中空樹脂粒子と、媒体とを含むことを特徴とする中空樹脂粒子分散体。
(7)上記(1)に記載の中空樹脂粒子を製造するための方法であって、以下の工程(I)および(II)を含むことを特徴とする中空樹脂粒子製造方法。
(I)酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂からなる粒子が媒体中に分散した分散液の存在下に、ビニル系モノマーを分散重合または乳化重合する工程。
(II)上記(I)で得られた分散液を乾燥する工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐熱性、誘電特性、乾燥後の再分散性に優れた中空樹脂粒子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の中空樹脂粒子は、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂とビニル系樹脂とからなるシェル部と、シェル部により囲われた中空部分を有するものである。
【0014】
本発明の中空樹脂粒子において、中空とは、内部が樹脂以外の物質、例えば、気体や液体等で満たされている状態を意味し、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは、気体で満たされている状態を意味する。
【0015】
シェル部と該シェル部により囲われた中空部分は、1つの中空領域からなるものであってもよいし、複数の中空領域からなるものであってもよい。
また中空部分は、多孔質構造からなるものであってもよい。このように中空部分が多孔質構造である場合、中空部分が1つの中空領域(連続孔)からなる場合と複数の中空領域(独立孔)からなる場合とこれらの混合形態からなる場合があり得る。
【0016】
<酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂>
本発明の中空樹脂粒子のシェル部を構成する酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、スルホ基、カルボキシ基、カルボン酸無水物基、リン酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基で酸変性されていることが必要である。シェル部を構成する酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂がこれらの官能基を有していることにより、中空樹脂粒子は、乾燥後の再分散性に優れるものとなる。中空樹脂粒子の再分散性の観点から、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、カルボキシ基、カルボン酸無水物基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有していることが好ましい。
【0017】
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂を製造する方法は特に限定されず、例えば、ラジカル発生剤存在下、ポリフェニレンエーテル樹脂と上記の官能基を有するビニル化合物とを、ポリフェニレンエーテル樹脂の融点以上に加熱溶融して反応させる方法、または、ポリフェニレンエーテル樹脂と上記の官能基を有するビニル化合物とを有機溶剤に溶解させた後、ラジカル発生剤の存在下で加熱、攪拌して反応させる方法が挙げられる。これらの方法により、上記の官能基を有するビニル化合物をポリフェニレンエーテル樹脂にグラフト共重合することができる。
また、スルホ基で酸変性されたポリフェニレンエーテル樹脂を製造する方法において、スルホン化剤によりポリフェニレンエーテル樹脂を処理する方法も採用することができる。スルホン化剤としては、濃硫酸、発煙硫酸およびクロロスルホン酸等が挙げられる。
【0018】
スルホ基を有するビニル化合物として、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、および、これら化合物の塩等を用いることができる。
【0019】
カルボキシ基を有するビニル化合物として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、オレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アコニット酸、ケイ皮酸、マレイン酸モノアルキルエステル類、フマル酸モノアルキルエステル類、および、これら化合物の塩等を用いることができる。
【0020】
カルボン酸無水物基を有するビニル化合物として、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水アコニット酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸等を用いることができる。
【0021】
リン酸基を有するビニル化合物として、例えば、ビニルホスホン酸、アリルホスホン酸、リン酸メタクリル酸2-ヒドロキシエチルエステル、および、これら化合物の塩等を用いることができる。
【0022】
ラジカル発生剤としては、例えば、ジ-tert-ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、tert-ブチルヒドロパーオキシド、tert-ブチルクミルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジラウリルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、メチルエチルケトンパーオキシド、ジ-tert-ブチルジパーフタレート等の有機過酸化物類、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物類が挙げられる。なお、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、2,3-ジエチル-2,3-ジフェニルブタン、2,3-ジエチル-2,3-ジフェニルヘキサン、2,3-ジエチル-2,3-ジ(p-メチルフェニル)ブタン等の化合物も、ラジカル発生剤として使用することができる。これらは反応温度によって、適宜選択して使用すればよい。
【0023】
本発明において、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂の酸価は、0.5~80mgKOH/gであることが好ましく、1.5~50mgKOH/gであることがより好ましく、3~45mgKOH/gであることがさらに好ましく、5~25mgKOH/gであることが特に好ましい。酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、酸価が0.5mgKOH/g未満であると、後述する方法において、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂の分散体を得ることが困難になり、また、得られる中空樹脂粒子は、乾燥後の再分散性が劣るものとなる。また、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂の酸価が80mgKOH/gを超えると、得られる中空樹脂粒子は、誘電特性が劣る傾向がある。
【0024】
ポリフェニレンエーテル樹脂の数平均分子量は、2,000~100,000であることが好ましく、5,000~90,000であることがより好ましく、8,000~80,000であることがさらに好ましく、8,000~55,000であることが特に好ましい。ポリフェニレンエーテル樹脂の数平均分子量が2,000未満であると、得られる中空樹脂粒子は、シェル強度が劣ることがある。また、ポリフェニレンエーテル樹脂は、数平均分子量が100,000を超えると、上記方法において酸変性する際に、溶融粘度または溶液粘度が高くなり、操業性が低下する傾向がある。
【0025】
<ビニル系樹脂>
本発明において、ビニル系樹脂は、ビニル系モノマーを重合することで得られる樹脂である。
【0026】
(ビニル系モノマー)
ビニル系モノマーとしては、公知のものを用いることができ、例えば、スチレン系モノマー、(メタ)アクリル酸系モノマー、ジエン系モノマー、(メタ)アクリルアミド系モノマーなどが挙げられる。
【0027】
スチレン系モノマーとしては、特に制限はないが、具体例としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、エチルビニルベンゼン、ビニルトルエン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、p-スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0028】
(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、特に制限はないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸アリル、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリラート、(メタ)アクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、(メタ)アクリル酸3-(トリエトキシシリル)プロピル、(メタ)アクリル酸2,2,2-トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸2-(パーフルオロブチル)エチル、(メタ)アクリル酸グリシジル等が挙げられる。
【0029】
ジエン系モノマーとしては、特に制限はないが、例えば、ブタジエン、イソプレン、ファルネセン、ミルセン等が挙げられる。
【0030】
(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、特に制限はないが、例えば、(メタ)クリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0031】
また、上記のビニル系モノマー以外にも、重合性を示すビニル系化合物であれば、特に制限なく用いることができ、例えば、ビニルピロリドン、(メタ)アクリロイルモルホリン、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル、1-ビニルイミダゾール、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アコニット酸、ケイ皮酸、マレイン酸アルキルエステル類、フマル酸アルキルエステル類、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水アコニット酸などを用いることができる。
【0032】
(架橋性モノマー)
本発明において、ビニル系樹脂は、共重合成分としての架橋性モノマーを含有することが好ましい。架橋性モノマーとは、重合性を示すビニル基を、1分子に2つ以上有するモノマーのことを指す。ビニル系樹脂を構成する全モノマー質量に占める架橋性モノマーの量は、10質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。ビニル系樹脂が、架橋性モノマーを10質量%以上含有することにより、得られる中空樹脂粒子は、耐熱性が向上する傾向がある。
【0033】
架橋性モノマーとしては、特に制限はないが、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリル酸系モノマー;N,N′-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N′-エチレンビス(メタ)アクリルアミド等の多官能(メタ)アクリルアミド系モノマー;ジアリルアミン、テトラアリロキシエタン等の多官能アリル系モノマー;ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジアリルフタレート等のスチレン系架橋性モノマー;が挙げられる。本発明の効果をより発現し得る点で、架橋性モノマーとしては、スチレン系架橋性モノマーが好ましく、ジビニルベンゼンがより好ましい。架橋性モノマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0034】
本発明において、ビニル系樹脂は、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂と共有結合を形成していてもよい。
【0035】
本発明の中空樹脂粒子のシェル部において、質量比(酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂/ビニル系樹脂)は、97/3~3/97であることが好ましく、85/15~15/85であることがより好ましく、75/25~30/70であることがさらに好ましく、70/30~35/65であることが特に好ましい。中空樹脂粒子は、シェル部における質量比がこの範囲内にあることで、誘電特性と再分散性が共に優れるものとなる。
【0036】
本発明の中空樹脂粒子の体積平均粒子径は0.1~50μmであることが好ましく、0.1~20μmであることがより好ましく、0.1~5μmであることがさらに好ましく、0.1~2μmであることが特に好ましい。中空樹脂粒子は、体積平均粒子径が0.1μm未満になると、シェル部の厚みが相対的に薄くなるため、十分な強度を有しないおそれがあるだけでなく、中空樹脂粒子を樹脂や樹脂溶液中に分散させた際の再分散性が低下するおそれがある。また、体積平均粒子径が50μmを超える中空樹脂粒子は、樹脂材料に添加する用途において、樹脂材料を薄膜化することが困難となることがある。
【0037】
<中空樹脂粒子の製造方法>
本発明の中空樹脂粒子を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、(I)酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂からなる粒子が媒体中に分散した分散液(以下、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂分散液)の存在下に、ビニル系モノマーを分散重合または乳化重合する工程と、(II)上記(I)で得られた中空樹脂粒子の分散液を乾燥する工程を含む方法などが挙げられる。
【0038】
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂分散液を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、特開2022-019608号に記載の方法を用いることができる。
【0039】
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂からなる粒子の体積平均粒子径は0.005~20μmであることが好ましく、0.01~5μmであることがより好ましく、0.02~3μmであることがさらに好ましく、0.05~1μmであることが特に好ましい。酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂からなる粒子の体積平均粒子径がこの範囲内にあることにより、体積平均粒子径が好ましい範囲内にある中空樹脂粒子が得られ易い。
【0040】
(分散重合)
本発明において、分散重合とは、媒体にビニル系モノマーを溶解させ、重合開始剤を添加して重合させる方法である。
分散重合における媒体は、原料のビニル系モノマーを溶解し、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂、および、重合により生成するビニル系樹脂を溶解しないものであることが必要である。
分散重合に用いられる媒体としては、特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-sec-ブチル、酢酸-3-メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体;N,N-ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピリジン等のアミン類;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等の飽和炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン等の芳香族炭化水素類;その他、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシブタノール、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等が挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂分散液の存在下に、ビニル系モノマーの分散重合を行う場合、後述の界面活性剤および/または分散安定剤を用いることもできる。
【0042】
(乳化重合)
本発明において、乳化重合とは、媒体にビニル系モノマーを混合し、重合開始剤を添加して重合させる方法である。
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂分散液の存在下に、ビニル系モノマーを乳化重合して中空樹脂粒子の分散液を得る工程においては、媒体として、ビニル系モノマーを溶解し難いものを用いることが必要である。
【0043】
乳化重合に用いられる媒体としては、特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-sec-ブチル、酢酸-3-メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体;N,N-ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピリジン等のアミン類;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等の飽和炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン等の芳香族炭化水素類;その他、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシブタノール、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等が挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂分散液の存在下に、ビニル系モノマーの乳化重合を行う場合、後述の界面活性剤および/または分散安定剤を用いることもできる。
【0045】
(重合開始剤)
本発明において、ビニル系モノマーを重合する目的で使用する重合開始剤は、特に限定されず、公知のアゾ系化合物や過酸化物が使用可能である。
例えば、アゾ系化合物としては、2,2′-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2′-アゾビス(2,3-ジメチルブチロニトリル)、2,2′-アゾビス-(2-メチルブチロニトリル)、2,2′-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2′-アゾビス(2,3,3-トリメチルブチロニトリル)、2,2′-アゾビス(2-イソプロピルブチロニトリル)、2,2′-アゾビス[N-(2-ヒドロキシエチル)-2-メチルプロパンアミド]、2,2′-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]四水和物、4,4′-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2′-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩等が挙げられる。
過酸化物としては、ジ-tert-ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、tert-ブチルヒドロパーオキシド、tert-ブチルクミルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジラウリルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、メチルエチルケトンパーオキシド、ジ-tert-ブチルジパーフタレート、シクロヘキサノンパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキシド、過酢酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
また、過酸化物は還元剤との組み合わせで、レドックス系重合開始剤として使用することができる。この還元剤としては、特に限定されないが、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩;L-アスコルビン酸、酒石酸などのカルボン酸類;ジメチルアニリン等のアミン類;二酸化チオ尿素等が挙げられる。これらの還元剤は単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。還元剤の使用量は、過酸化物100質量部に対して1~1000質量部であることが好ましい。
【0046】
ビニル系モノマーの重合において、ビニル系モノマーおよび重合開始剤を添加する方法は、特に限定されず、一括添加してもよく、複数回に分けて分割添加してもよく、滴下してもよい。
ビニル系モノマーの重合雰囲気は、特に限定されないが、酸素による重合阻害を抑制する観点から、窒素等の不活性ガス雰囲気が好ましい。
ビニル系モノマーの重合温度は、0~160℃が好ましく、25~130℃がより好ましい。重合温度が0℃を下回ると、重合速度が低下することがあり、生産性の観点から好ましくない。また、重合温度が160℃を超えると、得られるビニル系樹脂は、分子量が小さくなる傾向があり、これに起因して、得られる中空樹脂粒子のシェル部の強度が低下する傾向がある。
【0047】
(界面活性剤、分散安定剤)
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂分散液および中空樹脂粒子の分散液の製造において、界面活性剤および/または分散安定剤を用いることもできる。
界面活性剤および/または分散安定剤を用いる方法としては、媒体中に含ませる方法や、また、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂および/またはビニル系樹脂と化学的に結合させる方法が挙げられる。
界面活性剤と、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂および/またはビニル系樹脂との結合の態様は、特に限定されないが、例えば、分子中にラジカル重合可能なビニル基をもつ、いわゆる反応性界面活性剤を、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂および/またはビニル系樹脂に、ラジカル重合により共重合させた態様等が挙げられる。
また、分散安定剤と、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂および/またはビニル系樹脂との結合の態様も、特に限定されないが、例えば、分散安定剤を、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂および/またはビニル系樹脂にグラフト共重合させた態様等が挙げられる。
【0048】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルピリジニウムブロミド、イミダゾリニウムラウレートなどの四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0049】
反応性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩系(例えば、第一工業製薬社製アクアロンKH-05、KH-10、KH-20、ADEKA社製アデカリアソープSR-10N、SR-20N、花王社製ラテムルPD-104など)、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩系(第一工業製薬社製アクアロンAR-10、AR-20など)、スルフォコハク酸エステル系(例えば、花王社製ラテムルS-120、S-120A、S-180P、S-180A、三洋化成工業社製エレミノールJS-2など)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩系もしくはポリオキシエチレンアルキルフェニルエステル硫酸塩系(例えば、第一工業製薬社製アクアロンHS-10、HS-20、HS-30、BC-10、BC-20、ADEKA社製アデカリアソープSDX-222、SDX-223、SDX-232、SDX-233、SDX-259、SE-10N、SE-20N、など)、(メタ)アクリレート硫酸エステル系(例えば、日本乳化剤社製アントックスMS-60、MS-2N、三洋化成工業社製エレミノールRS-30など)、リン酸エステル系(例えば、第一工業製薬社製H-3330PL、ADEKA社製アデカリアソープPP-70など)等のアニオン系反応性界面活性剤が挙げられ、また、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系(例えば、ADEKA社製アデカリアソープER-10、ER-20、ER-30、ER-40、花王社製ラテムルPD-420、PD-430、PD-450等)、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル系(第一工業製薬社製アクアロンAN-10、AN-20等)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(例えば、第一工業製薬社製アクアロンRN-10、RN-20、RN-30、RN-50、ADEKA社製アデカリアソープNE-10、NE-20、NE-30、NE-40等)、(メタ)アクリレート硫酸エステル系(例えば、日本乳化剤社製RMA-564、RMA-568、RMA-1114)等のノニオン系反応性界面活性剤等が挙げられる。
【0050】
分散安定剤としては、特に限定されるものではないが、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(ビニルピロリドン-酢酸ビニル)共重合体、ポリアクリル酸、デンプン、アラビアゴム、トラガントゴム、カゼイン、ゼラチン、デキストリン、カルボキシル化デンプン、カチオン化デンプン、デキストリン、エチルセルロース、カルボキシル化メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化セルロース等が挙げられる。
【0051】
上記の界面活性剤および分散安定剤は単独で、または2種類以上混合して用いることができる。
【実施例0052】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
(1)(酸変性)ポリフェニレンエーテル樹脂の数平均分子量
数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用い、標準ポリスチレン換算で測定した。カラムにShodex LF-804×2(レゾナック社製)、溶離液に50℃のクロロホルム、検出器にRI(屈折率計)を用いてGPC測定を行い、同条件で測定した標準ポリスチレン試料の分子量と溶出時間との関係式から、数平均分子量を算出した。
【0053】
(2)酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂の酸価
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂0.15gをテトラヒドロフラン(THF)20mL中で還流し、樹脂が完全に溶解したのを確認後、溶液を撹拌しながら温度を60℃に維持した。この酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂のTHF溶液にクレゾールレッド指示薬を数滴添加し、濃度0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定した。この滴定量からポリフェニレンエーテル樹脂の酸価を算出した。
【0054】
(3)酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂からなる粒子と中空樹脂粒子の体積平均粒子径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用い、体積平均粒子径を求めた。体積粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
【0055】
(4)再分散性
ポリアリレート樹脂(ユニチカ社製 ユニファイナー M-2000H)を、15質量%の濃度となるように、シクロヘキサノンに溶解させた。このポリアリレート樹脂のシクロヘキサノン溶液15gに、実施例および比較例にて得られた各中空樹脂粒子0.6gを加え、自転・公転ミキサー(THINKY社製 ARE-250)を用いて脱泡攪拌し、塗剤を調製した。
調製した塗剤を、厚さ5mmのガラス板上に、アプリケーターを用いてウエット厚120μmとなるように塗工した後、160℃にて40分間加熱し、シクロヘキサノンを除去した。室温まで冷却後、得られた乾燥塗膜を目視で観察し、塗膜100cm2あたりの凸状のブツの数を計測した。ブツの数に基づき、下記の基準にて、樹脂材料に添加した中空樹脂粒子の再分散性を評価した。
◎:3個以下(再分散性最も良好)
○:4~6個以下(再分散性より良好)
△:7~9個(再分散性良好)
×:10個以上(再分散性不良)
【0056】
(5)比誘電率
上記(4)で調製した塗剤を、厚さ5mmのガラス板上に、アプリケーターを用いてウエット厚250μmとなるように塗工した後、160℃にて40分間加熱し、シクロヘキサノンを除去した。室温まで冷却後、得られたフィルムの比誘電率を空洞共振法(測定周波数:5GHz)にて測定した。なお、中空樹脂粒子を含まないフィルムの比誘電率を測定したところ、2.6であった。
【0057】
(6)耐熱性
示差熱熱重量同時測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 TG/DTA6200、AST-2)を用い、5%熱重量減少温度を測定することにより、耐熱性を評価した。サンプリング方法と温度条件は、以下のとおりとした。
白金製測定容器の底に、中空樹脂粒子10.5±0.5mgを隙間のないように充填し、測定用のサンプルとした。窒素ガス流量230mL/分のもと、アルミナを基準物質として、5%熱重量減少温度を測定した。TG/DTA曲線は、昇温速度10℃/分で30℃から500℃までサンプルを昇温させて得た。この得られた曲線から装置付属の解析ソフトを用いて、5%重量減少時の温度を算出し、耐熱性を評価した。
【0058】
合成例1:酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-1)
ポリフェニレンエーテル樹脂(A)(数平均分子量33,000)50gと、無水マレイン酸10gと、キシレン318gとを、攪拌機および還流冷却管を備えたセパラブルフラスコ内に仕込み、系内を窒素置換した後、140℃オイルバス中で加熱撹拌を開始した。ポリフェニレンエーテル樹脂および無水マレイン酸の溶解を確認した後、ジクミルパーオキシドのキシレン溶液(20質量%、事前に窒素置換したもの)40gを、30分間かけてセパラブルフラスコ内に滴下した。滴下完了後、還流状態を保持しながら、窒素雰囲気にて5時間、撹拌を継続して反応を行った。反応終了後、得られた溶液を多量のメタノール中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸と、ジクミルパーオキシドの分解物を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥することにより、カルボン酸無水物基で変性されたポリフェニレンエーテル樹脂(P-1)を得た。得られた酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-1)の酸価は18.5mg/KOHであり、数平均分子量は29,000であった。
【0059】
合成例2:酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-2)
ポリフェニレンエーテル樹脂(A)(数平均分子量33,000)50gと、フマル酸10gと、キシレン334gとを、攪拌機および還流冷却管を備えたセパラブルフラスコ内に仕込み、系内を窒素置換した後、140℃オイルバス中で加熱撹拌を開始した。ポリフェニレンエーテル樹脂およびフマル酸の溶解を確認した後、ジクミルパーオキシドのキシレン溶液(20質量%、事前に窒素置換したもの)40gを、30分間かけてセパラブルフラスコ内に滴下した。滴下完了後、還流状態を保持しながら、窒素雰囲気にて5時間、撹拌を継続して反応を行った。反応終了後、得られた溶液を多量のメタノール中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をアセトンで数回洗浄し、未反応のフマル酸と、ジクミルパーオキシドの分解物を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥することにより、カルボキシ基で変性されたポリフェニレンエーテル樹脂(P-2)を得た。得られた酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂の酸価は17.2mg/KOHであり、数平均分子量は28,000であった。
【0060】
合成例3:酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-3)
フマル酸の量を10gから0.8gに変更したこと以外は、合成例2と同様の方法でカルボキシ基で変性されたポリフェニレンエーテル樹脂(P-3)を得た。得られた酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂の酸価は0.4mg/KOHであり、数平均分子量は27,000であった。
【0061】
合成例4:酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-4)
ポリフェニレンエーテル樹脂(B)(数平均分子量18,000)50gと、オルトジクロロベンゼン1000gとを、攪拌機を備えたセパラブルフラスコ内に仕込み、90℃オイルバス中で加熱撹拌を開始した。ポリフェニレンエーテル樹脂の溶解を確認した後、系の温度を40℃まで冷却し、クロロスルホン酸15gとスルホラン23gとの混合溶液を、30分間かけてセパラブルフラスコ内に滴下した。滴下完了後、系内を40℃に保持しながら、4.5時間、撹拌を継続して反応を行った。反応終了後、得られた溶液を多量のメタノール中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂を水で数回洗浄した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥することにより、スルホ基で変性されたポリフェニレンエーテル樹脂(P-4)を得た。得られた酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂の酸価は30.5mg/KOHであり、数平均分子量は16,000であった。
【0062】
調製例1:酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-1)の分散液(E-1)
ヒーターおよび圧力計付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、30gの酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-1)、108gのテトラヒドロフラン、3gのトリエチルアミンおよび159gの純水を、上記のガラス容器内に仕込み、系内を密閉状態とした。そして、撹拌翼の回転速度を350rpmとして撹拌し、ヒーターの電源を入れ加熱した。系内温度が120℃に達したことを確認し、120℃に保ったまま60分間撹拌した。この時、圧力計は0.41MPaを指し示していた。その後、空冷にて、回転速度350rpmのまま撹拌しつつ50℃まで降温し、200gの純水を追加した。この分散液を室温まで冷却し、ガラス容器内の液状成分をステンレス製フィルター(78メッシュ平織)で濾過し、乳白色の酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-1)の分散液(E-1)を得た。
この分散液における酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-1)の体積平均粒子径は0.14μmであった。
【0063】
調製例2A:酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-2)の分散液(E-2A)
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-2)を用いたこと以外は、調製例1と同様の方法で酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-2)の分散液(E-2A)を得た。
この分散液における酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-2)の体積平均粒子径は0.15μmであった。
【0064】
調製例2B:酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-2)の分散液(E-2B)
トリエチルアミンの量を3gから1.2gに変更し、純水の量を159gから160.8gに変更した以外は、調製例2Aと同様の方法で酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-2)の分散液(E-2B)を得た。
この分散液における酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-2)の体積平均粒子径は0.25μmであった。
【0065】
調製例3:酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-3)の分散液(E-3)
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-3)を用いたこと以外は、調製例1と同様の方法で酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-3)の分散液(E-3)を得た。
この分散液における酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-3)の体積平均粒子径は0.58μmであった。
【0066】
調製例4A:酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-4)の分散液(E-4A)
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-4)を用いたこと以外は、調製例1と同様の方法で酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-4)の分散液(E-4A)を得た。
この分散液における酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-4)の体積平均粒子径は0.11μmであった。
【0067】
調製例4B:酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-4)の分散液(E-4B)
トリエチルアミンの量を3gから6gに、純水の量を159gから156gに変更したこと以外は、調製例4Aと同様の方法で酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-4)の分散液(E-4B)を得た。
この分散液における酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-4)の体積平均粒子径は0.07μmであった。
【0068】
調製例5:ポリフェニレンエーテル樹脂の分散液(E-5)
ポリフェニレンエーテル樹脂(B)(数平均分子量18,000)3gをトルエン27gに加熱溶解し、油相を作製した。次いで、ドデシル硫酸ナトリウム0.15gと純水200gを混合し、水相を作製した。水相に油相を加え、超音波ホモジナイザー(Hielscher社製)にて5分間処理し、分散液を調製した。この分散液に純水150gを加え、全量をナスフラスコに移し、湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、トルエンを留去すると同時に、分散液を濃縮した。得られた分散液を室温まで冷却し、ナスフラスコ内の液状成分をステンレス製フィルター(78メッシュ平織)で濾過し、乳白色のポリフェニレンエーテル樹脂(B)の分散液(E-5)を得た。
この分散液におけるポリフェニレンエーテル樹脂(B)の体積平均粒子径は、0.23μmであった。
【0069】
実施例1
スターラーバーを入れたシュレンクフラスコに、酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-1)の分散液(E-1)20.83gと、ジビニルベンゼン(日鉄ケミカル&マテリアル社製 DVB-810、純度81%)0.75gと、ドデシル硫酸ナトリウム0.1gと、純水3.67gとを仕込み、系内を窒素置換した。このシュレンクフラスコを、セプタムラバーで密閉状態とした後、70℃オイルバス中で加熱しながら、マグネチックスターラーにて撹拌を60分間継続した。続いて、過硫酸アンモニウム水溶液(4質量%、事前に窒素置換したもの)0.52gをシュレンクフラスコ内に一括添加し、系内を70℃に保ったまま撹拌することで、24時間、乳化重合を行った。その後、シュレンクフラスコ内の液状成分を常温まで冷却し、純水にて希釈した後、遠心分離により固形物を回収し、得られた固形物を純水に再分散させた。この、遠心分離と、得られた固形物の純水への再分散とからなる一連の工程を、計3回繰り返すことにより、中空樹脂粒子(H-1)の分散液を得た。この分散液における中空樹脂粒子(H-1)の体積平均粒子径は0.19μmであった。
得られた分散液を80℃で乾燥することで、中空樹脂粒子(H-1)を得た。
【0070】
実施例2
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-2)の分散液(E-2A)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で中空樹脂粒子(H-2A)の分散液を得た。この分散液における中空樹脂粒子(H-2A)の体積平均粒子径は0.21μmであった。
得られた分散液を80℃で乾燥することで、中空樹脂粒子(H-2A)を得た。
【0071】
実施例3
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-2)の分散液(E-2B)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で中空樹脂粒子(H-2B)の分散液を得た。この分散液における中空樹脂粒子(H-2B)の体積平均粒子径は0.37μmであった。
得られた分散液を80℃で乾燥することで、中空樹脂粒子(H-2B)を得た。
【0072】
実施例4
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-3)の分散液(E-3)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で中空樹脂粒子(H-3)の分散液を得た。この分散液における中空樹脂粒子(H-3)の体積平均粒子径は0.78μmであった。
得られた分散液を80℃で乾燥することで、中空樹脂粒子(H-3)を得た。
【0073】
実施例5
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-4)の分散液(E-4A)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で中空樹脂粒子(H-4A)の分散液を得た。この分散液における中空樹脂粒子(H-4A)の体積平均粒子径は0.15μmであった。
得られた分散液を80℃で乾燥することで、中空樹脂粒子(H-4A)を得た。
【0074】
実施例6
酸変性ポリフェニレンエーテル樹脂(P-4)の分散液(E-4B)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で中空樹脂粒子(H-4B)の分散液を得た。この分散液における中空樹脂粒子(H-4B)の体積平均粒子径は0.09μmであった。
得られた分散液を80℃で乾燥することで、中空樹脂粒子(H-4B)を得た。
【0075】
比較例1
スターラーバーを入れたシュレンクフラスコに、ポリフェニレンエーテル樹脂(B)の分散液(E-5)20.83gと、ジビニルベンゼン(日鉄ケミカル&マテリアル社製 DVB-810、純度81%)0.75gと、純水3.67gとを仕込んだ以外は、実施例1と同様の方法で、樹脂粒子(H-5)の分散液を得た。この分散液における樹脂粒子(H-5)の体積平均粒子径は0.28μmであった。
得られた分散液を80℃で乾燥することで、樹脂粒子(H-5)を得た。
【0076】
比較例2
二官能ポリフェニレンエーテルオリゴマー(商品名「OPE-2St 1200」、三菱瓦斯化学社製)1.5g、純度81%のジビニルベンゼン(DVB-810、日鉄ケミカル&マテリアル社製)1.5g、n-ヘプタン3.0g、重合開始剤としてのパーロイルL(日油社製)0.09gを混合し、油相を作製した。
次いで、イオン交換水34gとラピゾールA-80(日油社製)0.0128gを混合し、水相を作製した。水相に油相を加え、超音波ホモジナイザー(BRANSON社製、「SONIFIER450」、条件:DutyCycle=50%、OutputControl=5、処理時間3分)を用いて懸濁液を作製した。得られた懸濁液を70℃で4時間加熱することで反応を行った。反応後、懸濁液を常温まで冷却し、中空樹脂粒子の分散液を得た。この分散液を用い、体積平均粒子径を測定したところ、0.27μmであった。
得られた分散液を80℃で乾燥することで、中空樹脂粒子(H-6)を得た。
【0077】
実施例の中空樹脂粒子のシェル部の構成と特性、および比較例の樹脂粒子の構成と特性を表1に示す。
実施例、比較例で得られた粒子について、イオンミリングにより断面出しを行った後、白金蒸着し、電解放射型走査電子顕微鏡(SEM-8020、日立テクノロジーズ社製)を用いて観察したところ、実施例と比較例2で得られた粒子は、いずれも中空領域を有するものであった。一方、比較例1で得られた粒子は、中空領域を有しないものであった。
【0078】
【0079】
実施例の中空樹脂粒子は、シェル部を構成するポリフェニレンエーテル樹脂が酸変性されているため、再分散性に優れていた。一方、比較例の樹脂粒子は、粒子を構成するポリフェニレンエーテル樹脂が、特定の官能基で酸変性されたものではなく、再分散性に劣り、比較例1の樹脂粒子は、中空部を有していないものであった。